説明

挿入部位封止体を備える挿入体

【課題】挿入体と生体組織との間に生じる隙間内を挿入部位封止体(薬剤組成物)で確実に塞ぎ、感染症や炎症の発生リスクを大幅に軽減することができる挿入部位封止体を備える挿入体を提供する。
【解決手段】生体に挿入される外針13の外周面に、生体組織に対し粘着性を有しかつ抗菌性のある薬剤組成物Yを塗布し、外針13を生体に挿入するとき、外針13と生体組織との間の隙間を薬剤組成物Yにより封止するようにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体に挿入留置される挿入体と生体組織との間の隙間を薬剤組成物からなる封止体にて封止し、外部から隙間内に細菌や汚れなどの異物の入り込みを防止する挿入部位封止体を備える挿入体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、生体に挿入体を挿入し留置するときには、挿入体と生体組織(例えば、体表面)との間にわずかに隙間が生じることがあり、この隙間に細菌(例えば、皮膚に常在する細菌)や汚れなどの異物が入り込むと、感染症や炎症を引き起こすおそれがある。
【0003】
このような感染症や炎症を防止するため、従来から生体に挿入した挿入体あるいはその周辺部を上から覆うように粘着性フィルムドレッシングを貼付する処置(下記特許文献1参照)、抗菌性繊維から形成されたパッド(下記特許文献2参照)、あるいは抗菌剤放出用の重合体を含む弾性パッドにより挿入体あるいはその周辺部を覆うように貼付する処置(下記特許文献3参照)などが取られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−94299号
【特許文献2】特開2008−220633号
【特許文献3】特許第3046623号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなドレッシング剤やパッドを挿入体あるいはその周辺部に貼付する処置は、感染症や炎症の予防に対して一定の効果を得ることができる。
【0006】
ところが、このようなドレッシング剤やパッドにより挿入体あるいはその周辺部を覆う処置は、挿入体と生体組織との間の隙間を単に上方から覆うのみであるため、隙間内に入り込んだ細菌や汚れなどの異物に対しては対処できず、確実に感染症や炎症を防止することは難しい。
【0007】
また、パッドを貼着する場合、挿入体の外径をパッドに開設された開口の内径よりも小さくしなければならず、挿入体あるいはパッド開口のサイズ選定が困難になることもあり、場合によっては、挿入体の全周あるいは全方位を確実に封止することができないという不具合もある。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたもので、挿入体と生体組織との間に生じる隙間を挿入部位封止体で確実に封止し、外部から隙間内への細菌や汚れなどの異物の入り込みを防止し、感染症や炎症を発生させるリスクを大幅に軽減することができる挿入部位封止体を備える挿入体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明の挿入部位封止体を備える挿入体は、生体に挿入される挿入体と生体組織との間の隙間に薬剤組成物を塗布する薬剤塗布デバイスであって、前記挿入体に、前記生体組織に対し粘着性を有しかつ抗菌性のある前記薬剤組成物を塗布したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、生体組織に対し粘着性を有しかつ抗菌性のある挿入部位封止体(薬剤組成物)を挿入体に設けたので、挿入体を生体に挿入したときに、挿入体と生体組織との間に生じるわずかな隙間を挿入部位封止体で封止することができ、しかも挿入部位の周辺部分までも挿入部位封止体で覆うことができる。したがって、手技者は、挿入体を生体に挿入する手技を行うのみで、挿入体と生体組織とのわずかな隙間および挿入部位の周辺部分の汚染を挿入部位封止体により防止乃至軽減でき、感染症や炎症を発生させるリスクを大幅に軽減することができる。さらに、従来のように挿入体の外径あるいはパッド開口などのサイズ選定作業は全く不要となり、手技数やデバイス数の増加を最小限に抑えて、手技の迅速化を図ることができ、手技の利便性も大幅に向上する。
【0011】
請求項2の発明では、生体に挿入される挿入部材と、当該挿入部材の近位端側に設けられた大径部とから挿入体を構成し、前記大径部から前記挿入部材の遠位端に向かって延在するように前記挿入部位封止体を設けたので、生体に対する挿入部材の挿入完了時に挿入部位封止体が生体組織と前記挿入部材との隙間を封止するように設けられ、生体に挿入体を挿入する際の手技の利便性が向上する。
【0012】
請求項3の発明では、大径部から、当該大径部より突出された前記挿入部材の遠位端に向かって、均等な厚さとなるように挿入部位封止体を設けたので、挿入部位封止体により生体組織と挿入体との隙間を偏りなく均等に封止することができ、しかも挿入部の周辺部分をも均等な幅で覆うことができ、感染症や炎症の発生リスクを大幅に軽減することができる。
【0013】
請求項4の発明は、大径部から、当該大径部より突出された前記挿入部材の遠位端に向かって挿入部位封止体の形状を増大させ、外形が末広がりとなるように挿入部位封止体を設けたので、まず、挿入部位封止体の末広がり面で挿入部の周辺部分を幅広く覆うことができ、さらに挿入部材を基端部まで押し込むと、その挿入圧力によって挿入部位封止体の形状が変形して挿入体と生体組織との隙間内へと入り込んで塞ぎ、感染症や炎症が発生するリスクを大幅に軽減することができる。
【0014】
請求項5の発明は、前記挿入部位封止体が、前記大径部から、当該大径部より突出された前記挿入部材の遠位端に向かって先細り状を呈するように塗布量を漸減して塗布したので、生体に外針を挿入する際に当該外針と生体組織との隙間へ挿入部位封止体が入り込みやすく、また当該隙間が開口側へ向けて拡がっている場合にも、挿入部位封止体で確実に封止することができ、細菌や汚れなどの異物の外部から内方側への侵入を防止して、感染症や炎症が発生するリスクを大幅に軽減することができる。
【0015】
請求項6の発明は、外形が蛇腹状を呈するように挿入部位封止体を設けているので、生体の挿入部材に挿入体を挿入する際に挿入部位封止体の接触抵抗を増大させて挿入部材と生体組織との隙間に確実に付着させることができ、細菌などの外部から内方側への侵入を防止して、感染症や炎症の発生リスクを大幅に軽減することができる。
【0016】
請求項7の発明は、挿入部位封止体が前記末広がり状を呈する部分又は前記蛇腹状を呈する部分の先端部分に前記先細り状を呈する部分を形成したので、先細り効果と、蛇腹状効果あるいは末広がり効果が相乗的効果を発揮し、より細菌や汚れなどの異物の侵入防止効果が増大する。
【0017】
請求項8の発明は、前記挿入部材の遠位端から近位端に向かってカール状に挿入部位封止体がめくれるので、生体に挿入部材を挿入するにつれて挿入部位封止体がめくれて、当該挿入部材の大径部の基端側へ向けて挿入部位封止体が次第にリング状に巻き込まれ、挿入部位封止体が幅広となって挿入部材と生体組織との隙間を確実に塞ぐことができ、細菌などの外部から内方側への侵入を防止して、感染症や炎症の発生リスクを大幅に軽減することができる。
【0018】
請求項9の発明は、挿入部位封止体を特定の色で着色するので、挿入手技を行う場合に、挿入部位封止体自体が一種の目安となり、目視により穿刺部を確認でき、手技を円滑にかつ確実に行うことができる。
【0019】
請求項10の発明は、前記挿入体を、内部にルーメンが形成された外針と、当該外針の基端に設けられた外針ハブと、を有する外針部により構成し、先端に生体を穿刺可能な針先を有する内針部材と、当該内針部材の基端に設けられた内針ハブとを有する内針部の前記内針部材を前記ルーメンに挿脱可能に設けて留置針を構成し、前記挿入部位封止体を前記外針部に設けたので、生体に前記外針を挿入する際に前記外針と生体組織との隙間へ挿入部位封止体が入り込みやすく、また当該隙間が開口側へ向けて拡がっている場合にも、挿入部位封止体で確実に塞ぐことができ、細菌などの外部から内方側への侵入を防止して、感染症や炎症の発生リスクを大幅に軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態を示す概略正面図である。
【図2】本発明の第2実施形態を示す要部概略斜視図である。
【図3】本発明の第3実施形態を示す要部概略斜視図である。
【図4】本発明の第4実施形態を示す要部概略斜視図である。
【図5】本発明の第5実施形態を示す要部概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0022】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態を示す概略正面図である。本発明に係る挿入体の対象とされるものは、後に例示するように種々のものがあるが、本実施形態では、留置針について説明する。
【0023】
本実施形態の留置針10は、図1に示すように、外針部11と、内針部15とを有し、例えば、輸液などの動静脈留置用あるいは人工透析に用いる透析装置の動静脈瘻留置用として使用される。外針部(通常、カテーテルと称される)11は、外針ハブ(カテーテルハブ)12と、外針ハブ12の近位端に設けられた外針13とから構成されている。外針ハブ12の構成材料としては、透明(無色透明)、着色透明または半透明の硬質樹脂で構成され、内部の視認性が確保されているものが好ましく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル等の各種樹脂材料が挙げられる。外針13の材質としては、例えば樹脂材料、特に、軟質樹脂材料が好適であり、その具体例としては、例えば、PTFE、ETFE、PFA等のフッ素系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂またはこれらの混合物、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテルナイロン樹脂、前記オレフィン系樹脂とエチレン−酢酸ビニル共重合体との混合物等が挙げられる。このような外針13は、その全部または一部が内部の視認性を有するもの、すなわち、透明(無色透明)、着色透明または半透明の樹脂で構成されているのが好ましい。これにより、外針13が血管を確保した際、血液が、後述する内針17を通って外針ハブ12に流入する現象(フラッシュバック)を目視で確認することができる。また、外針13の構成材料中には、例えば硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸ビスマス、タングステン酸のようなX線造影剤を配合したり、カドリニウム塩のようなMRI視認剤を配合し、造影機能を持たせることもできる。
【0024】
内針部15は、中央部分に設けられた内針ハブ16と、内針ハブ16の近位端側に設けられた内針17と、内針ハブ16の遠位端側に設けられたフィルター18と、フィルターキャップ19と、から構成されている。内針ハブ16の材質としては、外針ハブ12と同質の材料を使用することが出来る。内針17の材質としては、例えばステンレス鋼、アルミニウムまたはアルミニウム合金、チタンまたはチタン合金のような金属材料が挙げられる。
【0025】
なお、留置針10は、外針13内に内針17を挿入した状態で、密閉ケース(不図示)内に収納され、保存されている。
【0026】
留置針10を使用するに当たっては、次のように行う。まず、外針13に内針17が挿入された状態の留置針10を生体に穿刺する。そして、内針17のみを抜去することで、外針13を生体内に留置させ、その後、例えば、輸液を行う場合には、外針ハブ12に輸液チューブを連結することになる。
【0027】
生体に留置された外針13は、生体と外針13との間に隙間が生じる。本実施形態の留置針10では、図1に示すように、挿入体である外針部11における外針(挿入部材)13の外周面の基端側に、前記隙間を塞ぐための挿入部位封止体である薬剤組成物Yが予め塗布されている。具体的には、薬剤組成物Yは、外針13の外周面において、外針ハブ12から外針13の遠位端に向かって延在するように塗布されている。つまり、外針ハブ12は、外針13よりも大径であるため、外針ハブ12から外針13にかけて薬剤組成物Yを設けると、外針13を生体に挿入すると、大径の外針ハブ12が薬剤組成物Yを後退不能に保持し、外針13の外周面の大径部近傍に塗布された薬剤組成物Yも外針13と共に生体内に入り込み、生体と外針13との間の隙間を塞ぐことになる。挿入部材である外針13の周辺部分も薬剤組成物Yで覆うことができる。したがって、手技者は、挿入体を生体に挿入する手技を行うのみで、挿入体と生体組織との隙間及び挿入部の周辺部分の汚染を薬剤組成物Yにより防止できる。
【0028】
なお、図1に示す外針部11は、外針13の基端から外針ハブ12の先端にかけてなだらかに繋がる構造であるが、このような形状の外針ハブ12であっても薬剤組成物Yをある程度後退不能に保持することができるが、この外針ハブ12の先端を図2に示すように外方に膨出させると、薬剤組成物Yを後退不能に保持することからは好ましいものとなることから、本明細書では、外針ハブ12及び膨出させた部分を「大径部14」と称することがある。
【0029】
薬剤組成物Yとしては、生体内に外針13と共に入り込むことができ、外針13と生体組織との間の隙間を塞ぐものであれば、どのようなものであってもよいが、本実施形態では、外針13と共に生体内に入り込みやすく、外針13と生体組織との隙間を閉塞可能な適度な粘着性を有するもので構成されている。また、この薬剤組成物Yは、感染症などを防止するために、抗菌性を有する薬剤も含有している。
【0030】
薬剤組成物Yは、生体内吸収分解性の素材により構成してもよい。このような素材であれば、外針13を生体に留置する場合、留置期間の調整が不要になるか、若しくは調整が容易になる。
【0031】
薬剤組成物Yの具体例としては、例えば、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルエチルエーテル、変性コラーゲン、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、ヒドロキシエチルメタクリレートなどのハイドロゲルや、例えば、ポリウレタン、ポリエーテルウレタンウレア、シリコーンエラストマー、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレングリコールおよびそのエステル体などのエラストマーを挙げることができる。これに加える抗菌性を有する薬剤としては、例えば、ペニシリン系、セフェム系、モノバクタム系、カルバペネム系、アミノグリコシド系、ニューキノロン系、マクロライド系、クリンダマイシン、テトラサイクリン系、メトロニダゾール、ST合剤、グリコペプチド系、ストレプトグラミン系、オキサゾリジノン系、リポペプチド系、グリシルサイクリン系、グリコペプチド系、クロラムフェニコール系、ケトライド系などの抗菌剤や、核酸系のたんぱく質合成阻害薬、ピリドンカルボン酸系の合成抗菌剤、葉酸代謝阻害剤、例えばクロルヘキシジン、ポビドンヨード、ヨードチンキ、エタノール、イソプロパノール、イソプロピルアルコール、オキシドールなどの消毒薬や、例えば銀、銅、亜鉛などの金属イオンが挙げられる。
【0032】
薬剤組成物Yを外針13の外周面に塗布する方法は、公知に属するため詳述は避けるが、例えば、浸漬方式や外針13を回転させつつ塗布するまたは塗布装置を回転させつつ塗布する回し塗り方式、重ね塗り方式などが挙げられ、いずれの方式を使用するかは、外針13である挿入部材の大きさなどにより適宜選択すればよい。
【0033】
本実施形態の留置針10の外針部11では、薬剤組成物Yは、外針ハブ12の先端部分から外針13の遠位端に向かって、均等な厚さとなるように塗布されている。このように外針13の外周面の基端部側に均等な厚さで塗布すると、生体組織と外針13との間の隙間に偏りなく薬剤組成物Yを塗布でき、しかも挿入部の周辺部分も均等な幅乃至半径を有する円形状の領域を覆うことができ、細菌などの外部から内方側への侵入を防止して、感染症や炎症の発生リスクを軽減できる。ただし、薬剤組成物Yの外針13に対する塗布範囲は、必ずしも外針13の基部から先端まで全体に渡って塗布することはなく、少なくとも外針13の外周面において外針ハブ12の近傍に塗布されていればよい。留置針10においては、基本的に外針13を基部まで生体内に挿入することから、少なくとも外針ハブ12の近傍に薬剤組成物Yが塗布されていると、生体組織と外針13との間の隙間における生体組織の表面と、その近傍を塞ぐことができ、細菌などの侵入防止効果を有することになる。
【0034】
また、薬剤組成物Yは、薬剤組成物を特定の色で着色してもよい。着色剤として、例えば、L−アスコルビン酸(ビタミンC)、L−アスコルビン酸カルシウム、ステアリン酸エステルなどのビタミン系着色剤、アマランス、エリスロシン、アルラレッドAC、ニューコクシン、フロキシン、アシッドレッド、タートラジン、サンセットイエローFCF、ファストグリーン、カルミン酸などの食用着色剤が挙げられる。薬剤組成物Yが着色されると、外針13を挿入する場合に、薬剤組成物自体が一種の目安となり、目視により外針13の穿刺部分を確認でき、手技を円滑にかつ確実に行うことができる。
【0035】
前述した留置針10を密閉ケース(不図示)内に収納するに当たり、密閉ケースの内部に乾燥剤あるいは脱酸素剤若しくはこれらと共にチェッカーを収納してもよい。このようにすれば、薬剤組成物Yの変質を防止でき、長期にわたり保存できる。また、使用時においてもチェッカーを目視することにより使用の可否を判断でき、利便性が向上する。
【0036】
(第2実施形態)
図2は本発明の第2実施形態を示す概略斜視図である。本実施形態では、図2に示すように、大径部14の先端側から外針13の遠位端に向かって薬剤組成物Yの塗布量を増大させ、外形が末広がり(テーパ形状)となるように塗布されている。
【0037】
このように大径部14の先端側から外針13の先端側へ向けて次第に拡径した円錘状の外形を有するように薬剤組成物Yを塗布すれば、外針13を生体内へ挿入するとき、まず、末広がり部分の先端平面Yaの薬剤組成物Yが、挿入部の周辺部分に接触し、幅広く覆うことになる。さらに外針13を挿入していくと、その挿入圧力によって薬剤組成物Yが押し潰されつつ、外針13と生体組織との隙間内に押し込まれて、これを塞ぎ、細菌などの外部から内方側への侵入を確実に防止することができる。
【0038】
なお、本実施形態のような円錘状薬剤組成物Yに成形するには、例えば、回し塗り方式と重ね塗り方式を併用して行うことができる。
【0039】
本実施形態では、円錘状外形の薬剤組成物Yにおける先端平面Yaの中心部分から、後述する第3実施形態のように、先細り状に突出する部分を形成してもよい。このようにすれば、後述の先細り効果と蛇腹状効果が相乗的効果を発揮し、より細菌などの侵入防止効果が増大する。
【0040】
(第3実施形態)
図3は本発明の第3実施形態を示す概略斜視図である。本実施形態は、図3に示すように、大径部14の先端側から外針13の遠位端に向かって、薬剤組成物Yの量が漸減するように塗布されたもので、先細り円錐状に成形されている。
【0041】
このように大径部14の先端側から外針13の先端側へ向けて次第に縮径された外形となるように薬剤組成物Yを塗布すると、外針13を生体に挿入するときに、薬剤組成物Yが生体と外針13との間に入り込みやすいことになる。しかも、一旦入り込んだ薬剤組成物Yは、外針13の挿入圧力により後続の薬剤組成物Yにより押されてより深い部分まで押し込まれやすくなる。また、外針13と生体組織との隙間が入口側開口に向って拡がっている場合には、薬剤組成物Yの外形が隙間の閉塞に有効に働き、隙間の閉塞領域が長くなり、細菌などの侵入防止効果が高まることになる。
【0042】
(第4実施形態)
図4は本発明の第4実施形態を示す概略斜視図である。本実施形態は、図4に示すように、大径部14の先端側から外針13の遠位端に向けて、外形が蛇腹状を呈するように薬剤組成物Yが塗布され、薬剤組成物Yの外形断面が凹凸状に波打っている。
【0043】
薬剤組成物Yの外形を蛇腹状に形成すれば、外針13を生体に挿入するときに、薬剤組成物Yの外表面の接触抵抗を増大させ、薬剤組成物Yを外針13と生体組織との隙間の内周面側に付着させやすくなる。さらに、蛇腹状外形により外針13と生体組織との隙間を多段に塞ぐことも可能となるので、細菌などの外部から内方側への侵入を確実に防止することができる。
【0044】
本実施形態では、蛇腹状外形の薬剤組成物Yにおける先端部分の中心部分から、第3実施形態に示されているように、先細り状に突出する部分を形成してもよい。このようにすれば、先細り効果と蛇腹状効果が相乗的効果を発揮し、より細菌などの侵入防止効果が増大する。
【0045】
加えて、薬剤組成物Yを外針13の外周面に蛇腹状に塗布する場合に、外針13の外周面に沿って、例えば螺旋状に塗布すれば、回し塗り方式により薬剤組成物Yを連続的に塗布でき、塗布作業が容易になり、留置針10の製造面、コスト面でも有利となる。
【0046】
(第5実施形態)
図5は本発明の第5実施形態を示す概略斜視図である。本実施形態は、図5に示すように、外針13の遠位端から近位端に向かってカール状に薬剤組成物Yの先端側が順次めくれるように薬剤組成物Yが塗布されている。すなわち、薬剤組成物Yは全体として筒体状を呈しているが、先端部分はめくれやすいように径方向外方から基端側へと反り返っている。
【0047】
このようにすれば、外針13を生体に挿入するにつれて薬剤組成物Yが先端側から順次めくられ、外針13の大径部先端側14の基端側へ向けて薬剤組成物Yが次第にリング状に巻き込まれるので、薬剤組成物Yの周囲は幅広となって外針13と生体組織との隙間を確実に塞ぐことができ、細菌などの外部から内方側への侵入を防止することができる。さらに、挿入部の周辺部分も巻き込まれた薬剤組成物Yによって幅広く覆われるので、感染症や炎症を確実に防止することができる。
【0048】
本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、前述した実施形態は、挿入体として留置針の外針部11について説明したが、本発明は、これのみでなく、挿入体の対象となり得るものとしては、例えば、血管カテーテル、導尿カテーテル及び硬膜外カテーテル等の各種カテーテル、又は、留置針、ヒューバー針の挿入部、留置ドレーン、腹膜透析チューブ、あるいは生体埋め込み型医療機器のケーブル、さらには気管切開カニューレなどがある。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、生体に挿入留置される挿入体と生体組織との間の隙間内および挿入部の周辺部分に薬剤組成物が塗布されている挿入部位封止体を備える挿入体として利用可能である。
【符号の説明】
【0050】
10…留置針、
11…外針部(挿入体)、
12…外針ハブ、
13…外針(挿入部材)、
14…大径部、
15…内針部、
16…内針ハブ、
17…内針(内針部材)、
Y…挿入部位封止体(薬剤組成物)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体に挿入される挿入体であって、
断面が円環状の外針と、
前記外針の外周面に、粘着性を有しかつ抗菌性を有する薬剤を含有する挿入部位封止体と、を有し、
前記挿入部位封止体が前記生体表面に固定されることを特徴とする挿入部位封止体を備える挿入体。
【請求項2】
前記挿入体は、生体に挿入される挿入部材と、当該挿入部材の近位端側に設けられた大径部とを有し、当該挿入部材の近位端から前記挿入部材の遠位端に向かって延在するように前記挿入部位封止体が塗布されてなることを特徴とする請求項1に記載の挿入部位封止体を備える挿入体。
【請求項3】
前記挿入部位封止体は、前記大径部から、当該大径部より突出された前記挿入部材の遠位端に向かって、均等な厚さで塗布されてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の挿入部位封止体を備える挿入体。
【請求項4】
前記挿入部位封止体は、前記大径部から、当該大径部より突出し前記挿入部材の遠位端に向かって塗布量が増大し、前記挿入部材の外形が末広がりとなるように塗布されてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の挿入部位封止体を備える挿入体。
【請求項5】
前記挿入部位封止体は、前記大径部から、当該大径部より突出された前記挿入部材の遠位端に向かって塗布量が漸減し、先細り状を呈するように塗布されてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の挿入部位封止体を備える挿入体。
【請求項6】
前記挿入部位封止体は、前記大径部から、当該大径部より突出された前記挿入部材の遠位端に向けて、外形が蛇腹状を呈するように塗布されてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の挿入部位封止体を備える挿入体。
【請求項7】
前記挿入部位封止体は、前記末広がり状を呈する部分又は前記蛇腹状を呈する部分の先端部分に前記先細り状を呈する部分を有することを特徴とする請求項4又は6に記載の挿入部位封止体を備える挿入体。
【請求項8】
前記挿入部位封止体は、前記挿入部材の遠位端から近位端に向かってカール状にめくれることを特徴とする請求項1又は2に記載の挿入部位封止体を備える挿入体。
【請求項9】
前記挿入部位封止体は、特定の色で着色したことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の挿入部位封止体を備える挿入体。
【請求項10】
前記挿入体を、内部にルーメンが形成された外針と、当該外針の基端に設けられた外針ハブと、を有する外針部により構成し、先端に生体を穿刺可能な針先を有する内針部材と、当該内針部材の基端に設けられた内針ハブとを有する内針部の前記内針部材を前記ルーメンに挿脱可能に設けて留置針を構成し、前記挿入部位封止体を前記外針部に設けたことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の挿入部位封止体を備える挿入体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−205696(P2012−205696A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72793(P2011−72793)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】