挿管訓練用モデル
【課題】咽頭食道に気道確保器具を挿入した気道確保の訓練を効果的に行うことができる挿管訓練用モデルを提供する。
【解決手段】気道確保器具を用いて気道確保の訓練をするために、人体の咽頭食道を含む気道咽頭食道領域を模した気道咽頭食道領域部が形成された挿管訓練用モデルであって、前記気道咽頭食道領域部の中途であって、気管入口部に形成された前庭ヒダ部と声帯ヒダ部との間に、環状の凹部を形成する。
【解決手段】気道確保器具を用いて気道確保の訓練をするために、人体の咽頭食道を含む気道咽頭食道領域を模した気道咽頭食道領域部が形成された挿管訓練用モデルであって、前記気道咽頭食道領域部の中途であって、気管入口部に形成された前庭ヒダ部と声帯ヒダ部との間に、環状の凹部を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、挿管訓練用モデルに関する。
【背景技術】
【0002】
患者の呼吸が停止すると舌の付け根が落ち込む等により酸素の通り道である気道を塞いでしまうことがある。このとき、呼吸に必要な酸素の通り道である気道の通りを確保して当該患者の呼吸管理を行う気道確保という手技がある。
【0003】
気道確保のための気道確保器具として、気管挿管チューブが従来から広く用いられており、口または鼻から喉頭を経由して気管に気管挿管チューブを挿入することで気道を確保する。
【0004】
この気道確保は、上述のとおり、患者の呼吸が停止したような緊急時に行われることが多いため、失敗が許されず、日頃の訓練が必要とされる手技の一つである。
【0005】
そこで、気管挿管チューブを用いた気道確保の訓練を行うためのモデルとして、気道を模した気管構造物を有するシミュレーションモデルが提供されている(例えば、特許文献1〜3参照)。そして、医者や救命救急士等の患者に対し気道確保を行う者(以下、「術者」という。)は、このシミュレーションモデル内に形成された気管入口を見つけ出し、この見つけ出した気管入口に対して気管挿管チューブを挿入することで気道確保の訓練を行うようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−227372号公報
【特許文献2】実開昭59−30582号公報
【特許文献3】実開平7−33350号のCD−ROM
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、人体の喉頭には、気管入口の下方には喉頭室が存在する(図5及び図6参照)が、上方からはこの喉頭室を視認することが困難である。また、気管挿管に用いられる気管挿管チューブの先端はテーパ状に形成されている。従って、臨床時に、喉頭室に気管挿管チューブが引っ掛る場合がある。
【0008】
気管挿管チューブの先端が喉頭室に引っ掛った場合(図14参照)、術者からは喉頭室を視認することが困難であるため、術者は、気管挿管チューブの先端が喉頭室に引っ掛った状態を知ることができず、若しくは、気管挿管チューブの先端が喉頭室に引っ掛ったことを知っていてもそれに対する処理(例えば、気管挿管チューブを反時計回りに回転させる処理)を上手く行うことができないことがあった。
【0009】
ところが、特許文献1〜3に記載のシミュレーションモデルでは、当該シミュレーションモデルの気管構造物が平坦に形成されているため、気道確保の訓練時には喉頭室に相当する箇所で気管挿管チューブが引っ掛ることはない。すなわち、従来のシミュレーションモデルでは、当該シミュレーションモデルの上方から気管入口部を見つけ出し、この見つけ出した気管入口部に向けて気管挿管チューブを挿入する訓練はできるものの、喉頭室を想定した気道確保の訓練を行うことができない。
【0010】
従って、術者は、訓練時においては気道確保のシミュレーションを円滑に行うことができたとしても、実際の臨床時においては必ずしも上手く喉頭室を回避することができない場合があり、また、気管挿管チューブが喉頭室に引っ掛った場合、この喉頭室から気管挿管チューブを外すことに慣れていないため、緊張や焦りにより気道確保を円滑に行えないおそれがある。
【0011】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、気管挿管チューブを使った円滑な気道確保の訓練を行うことができる挿管訓練用モデルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、気道確保器具を用いて気道確保の訓練をするために、人体の咽頭食道を含む気道咽頭食道領域を模した気道咽頭食道領域部が形成された挿管訓練用モデルであって、前記気道咽頭食道領域部の中途であって、気管入口部に形成された前庭ヒダ部と声帯ヒダ部との間に、環状の凹部を形成したことを特徴とする挿管訓練用モデルとした。
【0013】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に係る挿管訓練用モデルにおいて、前記環状の凹部が正面視前後方向よりも正面視左右方向に深く形成することとした。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明によれば、気道確保器具を用いて気道確保の訓練をするために、人体の咽頭食道を含む気道咽頭食道領域を模した気道咽頭食道領域部が形成された挿管訓練用モデルであって、前記気道咽頭食道領域部の中途であって、気管入口部に形成された前庭ヒダ部と声帯ヒダ部との間に、環状の凹部を形成するようにしたので、気管挿管チューブを用いた気道確保の訓練を行う場合、視認できない凹部を回避するための感覚的な訓練を行うことができ、臨床時と同様の環境で気管挿管チューブを用いた気道確保の訓練を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】気道確保の挿管訓練用モデルの概略構成を示す図である。
【図2】気道咽頭食道領域部の断面図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】被験体の通常時の咽頭食道を示す図である。
【図5】気道咽頭食道領域の3次元構造の型を示す正面図である。
【図6】図5の側面図である。
【図7】被験体の咽頭食道を膨張させる様子を示す図である。
【図8】ラリンゲルマスクを示す図である。
【図9】ラリンゲルマスクを装着した状態を示す図である。
【図10】気管挿管チューブを示す図である。
【図11】喉頭鏡を示す図である。
【図12】喉頭鏡を挿入した図である。
【図13】挿管訓練用モデルの上方から気管を覗いた図である。
【図14】気管挿管を失敗した例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」とする)を説明する。なお、実施形態を説明するにあたり、ここでは以下の順序で説明する。
【0017】
1.挿管訓練用モデル1の構成
2.挿管訓練用モデル1の製造方法
3.挿管訓練用モデル1を用いた訓練方法
【0018】
[1.挿管訓練用モデル1]
本実施形態に係る挿管訓練用モデル1は、例えば、それぞれ後述するラリンゲルマスク20(図8参照)や、気管挿管チューブ50(図10参照)を用いた気道確保の訓練を行う際に好適に用いることができるように構成されている。
【0019】
すなわち、挿管訓練用モデル1は、図1に示すように、人体の胸部から頭部にかけて模された構成を有し、気道確保器具を用いて気道確保の訓練をするために、人体の咽頭、気管及び食道を含む気道咽頭食道領域を模した気道咽頭食道領域部2(図2,3参照)が形成されている。図1中、符号10は口腔部を、符号11は口唇部を示す。
【0020】
本実施形態に係る挿管訓練用モデル1の特徴的な構成は、気道咽頭食道領域部2の一部を構成する気管部3には環状の凹部7が形成されている点にある。また、気道咽頭食道領域部2の一部を構成する咽頭食道部15が、咀嚼物を飲み込む状態以外の人体の咽頭食道よりも膨張した状態に形成されている。すなわち、咽頭食道部15を構成する咽頭部14、食道入口部13及び食道部4が、膨張した状態に形成されている。以下、気道咽頭食道領域部2について、部位ごとに説明する。
【0021】
(咽頭食道部15)
咽頭食道部15は人体の咽頭食道を模したものであり、咽頭食道は、咽頭と食道を含むものである。すなわち、咽頭食道部15は、図2に示すように、食道入口部13を有する咽頭部14と、食道部4とを備えた構成となっている。
【0022】
人体の咽頭は声帯から口腔、鼻腔にいたる通路であり、嚥下の際にのみ食塊の通路となる器官である。この咽頭は終端部において食道と接合しており、この接合部分に食道入口がある。また、人体の食道は、嚥下された食物を胃へ送り込むための器官であり、気管の背部に位置するとともに、その始端部において咽頭と食道入口を介して接合している。この食道入口には、狭窄部(生理的狭窄部)があり、通常は略閉状態にあるが、嚥下時には食道入口が舌部により押圧されて膨張し、十分に開口した状態となって食物が押し込まれるようになる。
【0023】
そこで、挿管訓練用モデル1の食道部4は、人が食物を咀嚼して嚥下する時の咽頭に掛る圧力と同様の膨張用圧力(例えば、5kPa〜20kPa)を加え、図2に示すように、予め膨張させた状態の咽頭食道の形態と同様の形態に形成している。すなわち、本実施形態に係る挿管訓練用モデル1の咽頭食道部15は、食物を嚥下する時、つまり、人が物を飲み込むときと同様に、咽頭食道部15が十分に開いた状態を模した構造としている。なお、食道部4を含む咽頭食道部15(挿管訓練用モデル1)は、シリコンゴム等の樹脂材により形成されており、適度な可撓性を有している。
【0024】
かかる構成を有する気道咽頭食道領域部2は、咽頭食道部15が開口状態にあるため、これまでのような平坦に潰れた状態の咽頭食道構造物を有する挿管訓練用モデルではできなかったラリンゲルマスク20を咽頭食道部15に挿入して気道確保する訓練を行うことができる。すなわち、本実施形態の挿管訓練用モデル1は、患者に対し気道確保を行う医者や救命救急士等(以下、「術者」という。)が、咽頭食道部15に適度な圧力を加えることで後述するラリンゲルマスク20を当該咽頭食道部15に挿入できるようになっており、術者は、実際に患者に対して気道確保を行うとき(以下、「臨床時」という。)と同様の環境で、ラリンゲルマスク20を咽頭食道部15の所定位置に係合させることができ、かつ、咽頭食道部15を損傷させないような圧力でラリンゲルマスク20を挿入して行う気道確保の訓練を行うことができるようになっているのである。
【0025】
(喉頭蓋部5)
また、喉頭蓋部5は、人体の一部を構成する喉頭蓋を模したものである。この喉頭蓋は、人が物を飲み込むとき(嚥下時)に、この飲み込んだ物が気管に入らないように気管に蓋をするように動作するものである。従って、喉頭蓋部5についても、気管入口部6を覆うことができるように十分な可撓性を有している。
【0026】
例えば、気道確保の訓練を行う際には、図12に示すように、喉頭鏡60のブレード62の先端部を、一点鎖線のような姿勢の喉頭蓋部5の付け根部分に押し当てると、この喉頭蓋部5が持ち上がり、実線で示すような姿勢をとるようになっている。なお、喉頭蓋部5が持ち上がると気管入口部6を視認することもできる。
【0027】
(気管部3)
気管部3は、人体の気道の一部を構成する気管を模したものである。人体の気管は喉から肺に続く空気の通路となるもので、空気が連続して出入りし続ける管であるため、食物を摂取するときだけ物体が通過する食道と異なり、常態的に内腔が確保されている。
【0028】
かかる気管部3について、本実施形態では、図3に示すように、気道咽頭食道領域部2の中途に、当該気管部3よりも大きい環状(正面視左右側それぞれ)の凹部7,7を形成している。
【0029】
(凹部7)
凹部7は、気道咽頭食道領域部2の中途(気管部3の始端近傍)に形成されており、環状の中空構造を有している。この凹部7は、正面視(図3参照)前後方向よりも正面視左右方向に深く形成されている。この凹部が、正面視左右方向に深く、正面視前後方向には浅く形成されているというのは、当該凹部は、平面視において、食道の左右方向に長軸を、食道の上下方向に短軸をとる長円環状に形成された袋構造からなることを示している。また、凹部7,7の直上には前庭ヒダ部8,8が形成されているため、図13に示すように、挿管訓練用モデル1の上方から覗いても凹部7,7は直接視認できないような構造になっている。また、凹部7の直下には、声帯ヒダ部9,9が形成されている。すなわち、凹部7は、前庭ヒダ部8と声帯ヒダ部9との間であって、気管入口部6から、すなわち術者からは視認できない位置に形成された空洞から構成されており、人体の気管の喉頭室に相当する。
【0030】
このように、本実施形態に係る挿管訓練用モデル1は、人体の咽頭部14を含む気道咽頭食道領域を模した中空構造の気道咽頭食道領域部2を有し、その一部を構成する咽頭食道部15(特に、食道入口部13)を十分に開いた状態に形成するとともに、気道咽頭食道領域部2の中途で、気管部3の始端近傍には、正面視前後方向よりも正面視左右方向に深く形成された環状の空洞からなる凹部7が設けられているのである。
【0031】
上述の構成を有する凹部7,7が設けられているため、本実施形態に係る挿管訓練用モデル1は、気管挿管チューブ50を用いた気道確保の訓練時に好適に使用することができる。
【0032】
すなわち、詳しくは後述するが、図14に示すように気管挿管チューブ50の先端部は斜めに切欠した形状に形成されている。従って、気管挿管チューブ50を実際の臨床時に気管に挿入するときは、この気管挿管チューブ50の先端部が人体の喉頭室に引っ掛りやすく気管挿管チューブ50を使った円滑な気道確保が行えない場合があった。
【0033】
そこで、本実施形態に係る挿管訓練用モデル1では、実際の喉頭室と同様に、前庭ヒダと声帯ヒダとの間に凹部7,7を作り込むことにより、術者は臨床時と同様の環境で気管挿管チューブ50を用いた気道確保の訓練を行うことができる。
【0034】
以上説明したように、本実施形態に係る挿管訓練用モデル1を用いることで、ラリンゲルマスク20を咽喉へ挿入して行う気道確保の訓練、または気管挿管チューブ50を挿入して行う気道確保の訓練を行うことができる。これは、咽頭食道部15が、人が物を飲み込むときと同様の状態(食道入口部13が開いた状態)となるように形成されているためであり、人が物を飲み込むときと同様の状態とするには、例えば、当該食道に5kPa〜20kPaの膨張用圧力を加えるとよい。
【0035】
また、本挿管訓練用モデル1には、術者から視認できない喉頭室に相当する凹部7,7が形成されているため、気管挿管チューブ50を用いた気道確保の訓練を行う場合、術者は視認できない喉頭室を回避するための感覚的な訓練を行うことができる。例えば、気管挿管チューブ50が凹部7に引っ掛った場合には、気管挿管チューブ50を反時計回りに回転させると、当該気管挿管チューブ50の先端を凹部7の深い部分から浅い部分へ移動して、凹部7から外すことができることなどが感覚的に分かってくる。そのために、挿管訓練用モデル1を用いて気道確保の訓練を行った術者は、臨床時においても、気管挿管チューブ50が喉頭室に引っ掛った場合も適切に対処することができるようになり、患者の気管を損傷させることなく、迅速に気道を確保することができるようになる。
【0036】
[2.挿管訓練用モデル1の製造方法]
以下、本実施形態の要部ともなる挿管訓練用モデル1の製造方法について説明する。まず、人体からなる被験体Mを準備する。このとき、被験体Mの喉頭においては、図4に示すように、食道が萎んだ状態となっている。被験体Mが生体の場合麻酔により咽頭食道の筋肉が弛緩した状態が好ましい。被験体Mが遺体の場合は、例えば、死後24時間から96時間が経過した状態であることが好ましい。死後24時間から96時間という時間は、遺体の死後硬直が解け始め、かつ、当該遺体の腐敗が始まる前の時間である。従って、咽頭食道(特に、食道入口の狭窄部)を膨張させるのが容易であり、後述する咽頭食道膨張工程に好適である。
【0037】
被験体Mの準備がなされると、第1のステップとして、被験体Mの気道咽頭食道領域へ膨張用圧力を加え、少なくとも咽頭食道を膨張させる。例えば、被験体Mの口部及び鼻部を何らかの閉塞部材、あるいは手で閉塞し、被験体Mの気道咽頭食道領域内を密封する。そして、口部から空気を導入し、人が食物を咀嚼して嚥下する時の咽頭に掛る圧力と略同等の圧力である5kPa〜20kPaの膨張用圧力で咽頭食道を膨張させる。
【0038】
次に、第2のステップとして、当該気道咽頭食道領域の3次元構造をX線CT装置を用いて撮像する。具体的には、3次元X線断層撮像装置を用いている。すなわち、被験体Mの気道咽頭食道領域を所定圧力に維持した状態で、3D−CT(コンピューター断層撮像法)を用いて、当該被験体Mの気道咽頭食道領域の3次元構造を撮像するのである。これにより、被験体Mの気道咽頭食道領域の3次元構造のデータが得られる。この気道咽頭食道領域の3次元構造のデータでは、気管部41により被験体Mの気管が再現されており、同様に、咽頭部42、食道入口部43及び食道部44を含む咽頭食道部45により被験体Mの咽頭、食道及び食道入口が、喉頭室部46により被験体Mの喉頭室が再現されている。また、咽頭食道部45は膨張した状態で再現されることになる。
【0039】
次に、第3のステップでは、第2のステップにおいて得た気道咽頭食道領域の3次元構造のデータに基づいて、図5及び図6に示す挿管訓練用モデル1の型40を形成する。例えば、第2のステップにおいて得た気道咽頭食道領域の3次元構造のデータに基づいて、気道咽頭食道領域の3次元構造を水平方向にスライスした断面形状を有する複数の石膏片を形成し、これらの石膏片を順次積層して3次元構造の気道咽頭食道領域の形状を有する型40を形成する。このようにして、喉頭室部46を有し、かつ、咽頭食道部45が膨張した状態の3次元構造を有する挿管訓練用モデルの型40を形成することができる。
【0040】
そして、第3のステップにおいて形成された型40を用いて図1に示すような挿管訓練用モデル1を形成するのである。例えば、型40を内型として用いることで挿管訓練用モデル1を形成する。具体的には、外型の中に型40を設置し、外型と型40との間に形成される空間へ溶融したシリコンゴム等の樹脂材料を注入・放冷し、その後、脱型して型40の表面と同様の中空構造を有する挿管訓練用モデル1を製造する。
【0041】
なお、上述の第1のステップにおいて、咽頭食道を膨張させる他の方法として、図7に示すように、例えば、先端部にバルーン31が設けられたバルーン付きカテーテル30を用いて被験体Mの咽頭食道を膨張させることもできる。
【0042】
このバルーン付きカテーテル30は後述する気管挿管チューブ50と同様の構成を有しており、当該カテーテル30の先端部に設けられたバルーン31を膨らませることで、被験体M内の所定位置で当該カテーテル30を固定できるようになっている。なお、当然ではあるが、バルーン付きカテーテル30のバルーン31は萎んだ状態で被験体M内に挿入される。
【0043】
そして、バルーン付きカテーテル30が被験体Mの咽頭食道の所定位置(例えば、食道入口)に到達させてバルーン31を膨らませる。例えば、図示しない加圧ポンプ等の加圧手段により咽頭食道を膨張させる。このとき、例えば、バルーン付きカテーテル30に設けられた図示しない圧力計により咽頭食道に掛かる膨張用圧力を監視し、この咽頭食道に加わる膨張用圧力が5kPa〜20kPaとなるようにする。
【0044】
また、型40を形成する他の方法として、例えば、光硬化性樹脂を用いて型40を形成する方法がある。具体的には、容器に入れた液状光硬化性樹脂の液面に所望のパターンが得られるようにコンピューターで制御された紫外線レーザーを選択的に照射して所定厚みを硬化させ、ついで当該硬化層の上に1層分の液状樹脂を供給し、同様に紫外線レーザーで上記と同様に照射硬化させ、連続した硬化層を得る積層操作を繰り返すことにより最終的に3次元構造の気道咽頭食道領域の形状を有する型40を形成するのである。
【0045】
以上説明したように、本実施形態の挿管訓練用モデル1の製造方法では、人体からなる被験体が有する気道咽頭食道領域へ膨張用圧力を加え、少なくとも咽頭食道を膨張させる第1のステップと、膨張した咽頭食道を含む気道咽頭食道領域をX線CT装置で撮像し、当該気道咽頭食道領域の3次元構造を取得する第2のステップと、撮像された気道咽頭食道領域の3次元構造を用いて気道咽頭食道領域部を製造する第3のステップとを有するようにしたので、本製造方法により得られた挿管訓練用モデル1を用いれば、喉頭を覆うように咽頭食道に挿入するラリンゲルマスク20を用いた気道確保の訓練を行えるようになる。
【0046】
また、3次元X線断層撮像装置を用いて、膨張させた気道咽頭食道領域の3次元構造を取得するようにしたので、高精度に当該気道咽頭食道領域の3次元構造を取得することができる。
【0047】
また、被験体Mとして遺体を用い、かつ、死後24時間〜96時間の間に上述した第1〜第3のステップを行うようにしたので、当該遺体は死後硬直が解け始め、かつ、腐敗が始まる前の状態となっており、咽頭食道を容易に膨張させることができる。
【0048】
また、挿管訓練用モデル1における気道咽頭食道領域の3次元構造には凹部7がリアルに形成されるため、臨床時に即した状態で気道確保の訓練を行うことができる。
【0049】
すなわち、喉頭室に相当する凹部7を設けるという技術思想は、従来の気管挿管モデルには存在せず、これまでの挿管訓練用モデルでは無視されていた。そのため、臨床時に近い状態で気管挿管チューブ50を用いた気道確保の訓練を行うことが困難であったが、本実施形態に係る挿管訓練用モデルの製造方法によれば、ラリンゲルマスク20を用いた気道確保の訓練を極めて効果的に行うことができる。
【0050】
このように、本実施形態に係る挿管訓練用モデルの製造方法によれば、ラリンゲルマスク20を用いた気道確保の訓練についても、気管挿管チューブ50を用いた気管挿管による気道確保の訓練についても効果的に行うことができる挿管訓練用モデル1を得ることができ、救急医療などに大きく寄与することができる。
【0051】
なお、上述した挿管訓練用モデルの製造方法において、咽頭食道を膨張させる際に導入させる流体を空気として説明したが、他の気体でもよいし、さらには液体やゲル状の流体を用いても構わない。
【0052】
[3.モデルを用いた訓練方法]
[3.1.ラリンゲルマスク20を用いた気道確保の訓練方法]
上述した構成を有する挿管訓練用モデル1を用いた気道確保の訓練の方法について、より具体的に説明する。
【0053】
まず、ラリンゲルマスク20について簡単に説明し、このラリンゲルマスク20を用いた気道確保の訓練方法について説明する。
【0054】
ラリンゲルマスク20は、図8に示すように、可撓性を有するエアウェイチューブ21と、エアウェイチューブ21の先端に取付けられたリング体24を有するカフ部23とを備えている。カフ部23は、エアウェイチューブ21側から漸次拡開する開口部22を有しており、この開口部22を囲むリング体24は膨縮自在に構成されている。すなわち、リング体24は膨らませたり、萎ませたりすることができる。また、カフ部23にはインフレーティングチューブ25の先端が連繋されており、このインフレーティングチューブ25の基端部には空気等の流体を注入するための膨らまし弁26が設けられている。
【0055】
上述した構成の挿管訓練用モデル1を用いることにより、上記構成のラリンゲルマスク20を使用した気道確保の訓練を好適に行うことができる。
【0056】
すなわち、図9に示すように、挿管訓練用モデル1の口唇部11から、カフ部23のリング体24を萎んだ状態としたラリンゲルマスク20を挿入し、さらに、挿管訓練用モデル1の口腔部10を介して咽頭食道部15の所定位置(例えば、食道入口部13)にラリンゲルマスク20を係合させる。このとき、挿管訓練用モデル1の咽頭食道部15は、上述したように、人が物を飲み込むときと同様に膨らんだ状態で形成されているため、術者はこれまでの挿管訓練用モデルでは得ることができなかった実際の患者に対してラリンゲルマスク20を挿入する感覚が得られ、臨床時にはラリンゲルマスクが咽頭食道の所定位置に適切に係合して位置ずれを防止し、上記係合部分から空気が漏れだすことなく気道を確保することができる。
【0057】
なお、ラリンゲルマスク20を挿入する際には、ラリンゲルマスク20のリング体24の上側部分が喉頭蓋部5に係止された状態となるようにすると、下側部分は咽頭部14と食道部4との接合部(食道入口部13)を閉塞する状態で挿入され、カフ部23の開口部22は、挿管訓練用モデル1の気管部3の入口と対向した状態となる。
【0058】
次に、ラリンゲルマスク20の膨らまし弁26から、例えば、空気を注入してカフ部23のリング体24を膨らませ、ラリンゲルマスク20を咽頭食道部15の所定位置に固定させる。挿管訓練用モデル1の咽頭食道部15は膨らんだ状態で形成されているため、このときも、術者は実際の患者に対してカフ部23を膨らませる感覚が得られる。これにより、術者はカフ部23に注入する適度な空気量を感覚的に得ることができるため、臨床時においてカフ部23に対して過度の空気量を注入することが抑制され、患者の咽頭食道等を損傷することが回避される。
【0059】
上述の作業を行うことで、挿管訓練用モデル1の気管部3は、ラリンゲルマスク20の開口部22及びエアウェイチューブ21を介して挿管訓練用モデル1の外部と連通する。これにより、患者の気道確保のシミュレーションがなされることになる。また、咽頭食道部15が膨張した構造を有する挿管訓練用モデル1を用いて気道確保の訓練を行うことで、ラリンゲルマスク20を用いた気道確保の訓練が行える。
【0060】
以上説明したように、本実施形態の挿管訓練用モデル1によれば、食道部4を、人が物を飲み込むときと同様に膨張した状態で形成しているので、ラリンゲルマスク20を咽頭部14に支障なく挿入することができる。これにより、術者は、ラリンゲルマスク20を用いた気道確保の訓練をいつでも自由に行うことができる。特に、人が物を飲み込むときと同様の状態で咽頭食道部15を膨らませて形成しているため、臨床時と同様の環境でラリンゲルマスク20を挿入して行う気道確保の訓練を行うことができるため、術者は、臨床時において、自信をもって、かつ円滑に気道確保を行うことができる。
【0061】
[3.2.気管挿管チューブ50を用いた気道確保の訓練方法]
次に、気管挿管による気道確保の訓練の方法について説明する。気管挿管とは、気管に口または鼻から喉頭を経由して気管挿管チューブ50を挿入して行う気道確保方法である。まず、当該訓練の方法に用いられる気管挿管チューブ50について簡単に説明する。
【0062】
気管挿管チューブ50は、図10に示すように、空気が通るエアウェイチューブ51の最先端側を斜めに切欠してテーパ状の開口部52を形成し、当該開口部52よりもやや後側には当該エアウェイチューブ51を囲繞するようにカフ部53を形成している。カフ部53には、上述したラリンゲルマスク20のカフ部23と同様に膨縮自在に形成されるとともに、インフレーティングチューブ54の先端が連繋されている。そして、このインフレーティングチューブ54の基端部には空気等の流体を注入するための膨らまし弁55が設けられている。
【0063】
喉頭鏡60は、図11に示すように、把持可能な柱状のハンドル61と、ハンドル61に接続されるブレード62とにより構成されており、ハンドル61は、略円柱形状を有している。また、ハンドル61の上端部には、図示しないハンドルの接合凹部を介してブレード62が接続されている。
【0064】
ブレード62は、患者の口から喉頭に挿入される部分であり、側面視で根元部63から先端部64になるに従って上方に凸になるように緩やかに湾曲した略円弧形状を有している。ブレード62の先端部64は、患者の口に最初に挿入される部分である。ブレード62の先端部64は、患者の口に挿入し易いように正面視で上下方向に細く左右方向に所定長延在する細長い形状を有し、かつ、患者の喉頭を傷つけないように先端が若干丸みを帯びた形状を有している。
【0065】
上述した構成の挿管訓練用モデル1を用いることにより、上記構成の気管挿管チューブ50を使用する気道確保の訓練を行うことができる。
【0066】
すなわち、図12に示すように、喉頭鏡60のブレード62の先端部64を挿管訓練用モデル1の口唇部11から挿入して舌部12に沿わせた状態で、ブレード62を持ち上げて舌部12を上方に持ち上げた後、口唇部11から気管挿管チューブ50を挿入し、この気管挿管チューブ50の開口部52を気管部3まで挿入するのである。
【0067】
ところで、人体の喉頭には、図5及び図6の型40に示す喉頭室部46のように、気管入口の下方には喉頭室が存在するが、図13からも分かるように、上方からはこの喉頭室を視認することが困難である。また、気管挿管に用いられる気管挿管チューブ50の先端はテーパ状に形成されている。従って、臨床時に、喉頭室に気管挿管チューブ50が引っ掛る場合がある。
【0068】
気管挿管チューブ50の先端が喉頭室に引っ掛った場合(図14参照)、術者からは喉頭室を視認することが困難であるため、術者は、気管挿管チューブ50の先端が喉頭室に引っ掛った状態を知ることができず、若しくは、気管挿管チューブ50の先端が喉頭室に引っ掛ったことを知っていてもそれに対する処理(例えば、気管挿管チューブ50を反時計回りに回転させる処理)を上手く行うことができないことがあった。そのような実際の臨床に備えるために、本実施形態に係る挿管訓練用モデル1による訓練が有効となる。
【0069】
本実施形態における気管挿管チューブ50を使用した気道確保の訓練では、術者は、喉頭鏡60を用いて挿管訓練用モデル1の口唇部11を大きく開いて、口腔部10から気管入口部6(図13参照)を見ながら、当該気管入口部6を目標にして気管挿管チューブ50を挿入する。このとき、挿管訓練用モデル1の気管部3には、外部から視認することができない凹部7が形成されているため、気管挿管チューブ50を挿管する角度等によっては、図14に示すように、気管挿管チューブ50が凹部7に引っ掛る場合がある。その場合には、術者は、気管挿管チューブ50を反時計回りに回転させることで、気管挿管チューブ50の先端を凹部7の深い部分から浅い部分へと移動させれば、当該気管挿管チューブ50は凹部7から外れて挿管されていくことを体感することができる。従って、この挿管訓練用モデル1を用いて訓練すれば、凹部7を回避して気管挿管チューブ50を挿管する技術を自然に身に付けることができるようになり、術者の挿管技術が上達するのである。
【0070】
すなわち、この凹部7の直上には前庭ヒダ部8が形成されており、図13に示すように、挿管訓練用モデル1の上方からは凹部7を直接視認できないようになっている。これにより、術者は感覚的に凹部7を回避して、もしくは、凹部7に引っ掛った気管挿管チューブ50を外して気道を確保する訓練を行うことができる。このように、本実施形態に係る挿管訓練用モデル1によれば、気道咽頭食道領域部2の中途に環状の凹部7を形成することにより、臨床時と同様の環境で気道確保の訓練を行うことができる。
【0071】
気管挿管チューブ50を挿管した後は、膨らまし弁55から、空気を注入してカフ部53を膨らませ、気管挿管チューブ50を気管部3の所定位置に固定させる。
【0072】
上述の作業を行うことで、挿管訓練用モデル1の気管部3は、気管挿管チューブ50の開口部52及びエアウェイチューブ51を介して挿管訓練用モデル1の外部と連通する。これにより、患者の気道確保のシミュレーションがなされることになる。
【0073】
以上、説明してきたように、従来のシミュレーションモデルでは(特許文献1を参照)、当該シミュレーションモデルの気管構造物が平坦に形成されているため、気道確保の訓練時には喉頭室に相当する箇所で気管挿管チューブ50が引っ掛ることはない。すなわち、従来のシミュレーションモデルでは、当該シミュレーションモデルの上方から気管入口部を見つけ出し、この見つけ出した気管入口部に向けて気管挿管チューブ50を挿入する訓練はできるものの、喉頭室を想定した気道確保の訓練を行うことができない。
【0074】
従って、術者は、訓練時においては気道確保のシミュレーションを円滑に行うことができたとしても、実際の臨床時においては必ずしも上手く喉頭室を回避することができない場合があり、また、気管挿管チューブ50が喉頭室に引っ掛った場合、この喉頭室から気管挿管チューブ50を外すことに慣れていないため、緊張や焦りにより気道確保を円滑に行えないおそれがあるが、本実施形態に係る挿管訓練用モデル1を用いて訓練をしておけば、気管挿管チューブ50が喉頭室に引っ掛っても適切な対処が可能となる。
【0075】
以上、本実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されず、様々な変形が可能である。例えば、咽頭食道を膨張させる際に導入させる流体を空気として説明したが、他の気体でもよいし、さらには液体やゲル状の流体を用いても構わない。
【符号の説明】
【0076】
1 挿管訓練用モデル
2 気道咽頭食道領域部
3,41 気管部
4,44 食道部
14,42 咽頭部
5 喉頭蓋部
6 気管入口部
7 凹部
8 前庭ヒダ部
9 声帯ヒダ部
10 口腔部
11 口唇部
12 舌部
13,43 食道入口部
15,45 咽頭食道部
20 ラリンゲルマスク
21,51 エアウェイチューブ
22,52 エアウェイチューブの開口部
23,53 カフ部
24 リング体
25,54 インフレーティングチューブ
26,55 膨らまし弁
30 バルーン付きカテーテル
31 バルーン
40 型
46 喉頭室部
50 気管挿管チューブ
60 喉頭鏡
61 ハンドル
62 ブレード
63 ブレードの根元部
64 ブレードの先端部
M 被験体
【技術分野】
【0001】
本発明は、挿管訓練用モデルに関する。
【背景技術】
【0002】
患者の呼吸が停止すると舌の付け根が落ち込む等により酸素の通り道である気道を塞いでしまうことがある。このとき、呼吸に必要な酸素の通り道である気道の通りを確保して当該患者の呼吸管理を行う気道確保という手技がある。
【0003】
気道確保のための気道確保器具として、気管挿管チューブが従来から広く用いられており、口または鼻から喉頭を経由して気管に気管挿管チューブを挿入することで気道を確保する。
【0004】
この気道確保は、上述のとおり、患者の呼吸が停止したような緊急時に行われることが多いため、失敗が許されず、日頃の訓練が必要とされる手技の一つである。
【0005】
そこで、気管挿管チューブを用いた気道確保の訓練を行うためのモデルとして、気道を模した気管構造物を有するシミュレーションモデルが提供されている(例えば、特許文献1〜3参照)。そして、医者や救命救急士等の患者に対し気道確保を行う者(以下、「術者」という。)は、このシミュレーションモデル内に形成された気管入口を見つけ出し、この見つけ出した気管入口に対して気管挿管チューブを挿入することで気道確保の訓練を行うようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−227372号公報
【特許文献2】実開昭59−30582号公報
【特許文献3】実開平7−33350号のCD−ROM
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、人体の喉頭には、気管入口の下方には喉頭室が存在する(図5及び図6参照)が、上方からはこの喉頭室を視認することが困難である。また、気管挿管に用いられる気管挿管チューブの先端はテーパ状に形成されている。従って、臨床時に、喉頭室に気管挿管チューブが引っ掛る場合がある。
【0008】
気管挿管チューブの先端が喉頭室に引っ掛った場合(図14参照)、術者からは喉頭室を視認することが困難であるため、術者は、気管挿管チューブの先端が喉頭室に引っ掛った状態を知ることができず、若しくは、気管挿管チューブの先端が喉頭室に引っ掛ったことを知っていてもそれに対する処理(例えば、気管挿管チューブを反時計回りに回転させる処理)を上手く行うことができないことがあった。
【0009】
ところが、特許文献1〜3に記載のシミュレーションモデルでは、当該シミュレーションモデルの気管構造物が平坦に形成されているため、気道確保の訓練時には喉頭室に相当する箇所で気管挿管チューブが引っ掛ることはない。すなわち、従来のシミュレーションモデルでは、当該シミュレーションモデルの上方から気管入口部を見つけ出し、この見つけ出した気管入口部に向けて気管挿管チューブを挿入する訓練はできるものの、喉頭室を想定した気道確保の訓練を行うことができない。
【0010】
従って、術者は、訓練時においては気道確保のシミュレーションを円滑に行うことができたとしても、実際の臨床時においては必ずしも上手く喉頭室を回避することができない場合があり、また、気管挿管チューブが喉頭室に引っ掛った場合、この喉頭室から気管挿管チューブを外すことに慣れていないため、緊張や焦りにより気道確保を円滑に行えないおそれがある。
【0011】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、気管挿管チューブを使った円滑な気道確保の訓練を行うことができる挿管訓練用モデルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、気道確保器具を用いて気道確保の訓練をするために、人体の咽頭食道を含む気道咽頭食道領域を模した気道咽頭食道領域部が形成された挿管訓練用モデルであって、前記気道咽頭食道領域部の中途であって、気管入口部に形成された前庭ヒダ部と声帯ヒダ部との間に、環状の凹部を形成したことを特徴とする挿管訓練用モデルとした。
【0013】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に係る挿管訓練用モデルにおいて、前記環状の凹部が正面視前後方向よりも正面視左右方向に深く形成することとした。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明によれば、気道確保器具を用いて気道確保の訓練をするために、人体の咽頭食道を含む気道咽頭食道領域を模した気道咽頭食道領域部が形成された挿管訓練用モデルであって、前記気道咽頭食道領域部の中途であって、気管入口部に形成された前庭ヒダ部と声帯ヒダ部との間に、環状の凹部を形成するようにしたので、気管挿管チューブを用いた気道確保の訓練を行う場合、視認できない凹部を回避するための感覚的な訓練を行うことができ、臨床時と同様の環境で気管挿管チューブを用いた気道確保の訓練を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】気道確保の挿管訓練用モデルの概略構成を示す図である。
【図2】気道咽頭食道領域部の断面図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】被験体の通常時の咽頭食道を示す図である。
【図5】気道咽頭食道領域の3次元構造の型を示す正面図である。
【図6】図5の側面図である。
【図7】被験体の咽頭食道を膨張させる様子を示す図である。
【図8】ラリンゲルマスクを示す図である。
【図9】ラリンゲルマスクを装着した状態を示す図である。
【図10】気管挿管チューブを示す図である。
【図11】喉頭鏡を示す図である。
【図12】喉頭鏡を挿入した図である。
【図13】挿管訓練用モデルの上方から気管を覗いた図である。
【図14】気管挿管を失敗した例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」とする)を説明する。なお、実施形態を説明するにあたり、ここでは以下の順序で説明する。
【0017】
1.挿管訓練用モデル1の構成
2.挿管訓練用モデル1の製造方法
3.挿管訓練用モデル1を用いた訓練方法
【0018】
[1.挿管訓練用モデル1]
本実施形態に係る挿管訓練用モデル1は、例えば、それぞれ後述するラリンゲルマスク20(図8参照)や、気管挿管チューブ50(図10参照)を用いた気道確保の訓練を行う際に好適に用いることができるように構成されている。
【0019】
すなわち、挿管訓練用モデル1は、図1に示すように、人体の胸部から頭部にかけて模された構成を有し、気道確保器具を用いて気道確保の訓練をするために、人体の咽頭、気管及び食道を含む気道咽頭食道領域を模した気道咽頭食道領域部2(図2,3参照)が形成されている。図1中、符号10は口腔部を、符号11は口唇部を示す。
【0020】
本実施形態に係る挿管訓練用モデル1の特徴的な構成は、気道咽頭食道領域部2の一部を構成する気管部3には環状の凹部7が形成されている点にある。また、気道咽頭食道領域部2の一部を構成する咽頭食道部15が、咀嚼物を飲み込む状態以外の人体の咽頭食道よりも膨張した状態に形成されている。すなわち、咽頭食道部15を構成する咽頭部14、食道入口部13及び食道部4が、膨張した状態に形成されている。以下、気道咽頭食道領域部2について、部位ごとに説明する。
【0021】
(咽頭食道部15)
咽頭食道部15は人体の咽頭食道を模したものであり、咽頭食道は、咽頭と食道を含むものである。すなわち、咽頭食道部15は、図2に示すように、食道入口部13を有する咽頭部14と、食道部4とを備えた構成となっている。
【0022】
人体の咽頭は声帯から口腔、鼻腔にいたる通路であり、嚥下の際にのみ食塊の通路となる器官である。この咽頭は終端部において食道と接合しており、この接合部分に食道入口がある。また、人体の食道は、嚥下された食物を胃へ送り込むための器官であり、気管の背部に位置するとともに、その始端部において咽頭と食道入口を介して接合している。この食道入口には、狭窄部(生理的狭窄部)があり、通常は略閉状態にあるが、嚥下時には食道入口が舌部により押圧されて膨張し、十分に開口した状態となって食物が押し込まれるようになる。
【0023】
そこで、挿管訓練用モデル1の食道部4は、人が食物を咀嚼して嚥下する時の咽頭に掛る圧力と同様の膨張用圧力(例えば、5kPa〜20kPa)を加え、図2に示すように、予め膨張させた状態の咽頭食道の形態と同様の形態に形成している。すなわち、本実施形態に係る挿管訓練用モデル1の咽頭食道部15は、食物を嚥下する時、つまり、人が物を飲み込むときと同様に、咽頭食道部15が十分に開いた状態を模した構造としている。なお、食道部4を含む咽頭食道部15(挿管訓練用モデル1)は、シリコンゴム等の樹脂材により形成されており、適度な可撓性を有している。
【0024】
かかる構成を有する気道咽頭食道領域部2は、咽頭食道部15が開口状態にあるため、これまでのような平坦に潰れた状態の咽頭食道構造物を有する挿管訓練用モデルではできなかったラリンゲルマスク20を咽頭食道部15に挿入して気道確保する訓練を行うことができる。すなわち、本実施形態の挿管訓練用モデル1は、患者に対し気道確保を行う医者や救命救急士等(以下、「術者」という。)が、咽頭食道部15に適度な圧力を加えることで後述するラリンゲルマスク20を当該咽頭食道部15に挿入できるようになっており、術者は、実際に患者に対して気道確保を行うとき(以下、「臨床時」という。)と同様の環境で、ラリンゲルマスク20を咽頭食道部15の所定位置に係合させることができ、かつ、咽頭食道部15を損傷させないような圧力でラリンゲルマスク20を挿入して行う気道確保の訓練を行うことができるようになっているのである。
【0025】
(喉頭蓋部5)
また、喉頭蓋部5は、人体の一部を構成する喉頭蓋を模したものである。この喉頭蓋は、人が物を飲み込むとき(嚥下時)に、この飲み込んだ物が気管に入らないように気管に蓋をするように動作するものである。従って、喉頭蓋部5についても、気管入口部6を覆うことができるように十分な可撓性を有している。
【0026】
例えば、気道確保の訓練を行う際には、図12に示すように、喉頭鏡60のブレード62の先端部を、一点鎖線のような姿勢の喉頭蓋部5の付け根部分に押し当てると、この喉頭蓋部5が持ち上がり、実線で示すような姿勢をとるようになっている。なお、喉頭蓋部5が持ち上がると気管入口部6を視認することもできる。
【0027】
(気管部3)
気管部3は、人体の気道の一部を構成する気管を模したものである。人体の気管は喉から肺に続く空気の通路となるもので、空気が連続して出入りし続ける管であるため、食物を摂取するときだけ物体が通過する食道と異なり、常態的に内腔が確保されている。
【0028】
かかる気管部3について、本実施形態では、図3に示すように、気道咽頭食道領域部2の中途に、当該気管部3よりも大きい環状(正面視左右側それぞれ)の凹部7,7を形成している。
【0029】
(凹部7)
凹部7は、気道咽頭食道領域部2の中途(気管部3の始端近傍)に形成されており、環状の中空構造を有している。この凹部7は、正面視(図3参照)前後方向よりも正面視左右方向に深く形成されている。この凹部が、正面視左右方向に深く、正面視前後方向には浅く形成されているというのは、当該凹部は、平面視において、食道の左右方向に長軸を、食道の上下方向に短軸をとる長円環状に形成された袋構造からなることを示している。また、凹部7,7の直上には前庭ヒダ部8,8が形成されているため、図13に示すように、挿管訓練用モデル1の上方から覗いても凹部7,7は直接視認できないような構造になっている。また、凹部7の直下には、声帯ヒダ部9,9が形成されている。すなわち、凹部7は、前庭ヒダ部8と声帯ヒダ部9との間であって、気管入口部6から、すなわち術者からは視認できない位置に形成された空洞から構成されており、人体の気管の喉頭室に相当する。
【0030】
このように、本実施形態に係る挿管訓練用モデル1は、人体の咽頭部14を含む気道咽頭食道領域を模した中空構造の気道咽頭食道領域部2を有し、その一部を構成する咽頭食道部15(特に、食道入口部13)を十分に開いた状態に形成するとともに、気道咽頭食道領域部2の中途で、気管部3の始端近傍には、正面視前後方向よりも正面視左右方向に深く形成された環状の空洞からなる凹部7が設けられているのである。
【0031】
上述の構成を有する凹部7,7が設けられているため、本実施形態に係る挿管訓練用モデル1は、気管挿管チューブ50を用いた気道確保の訓練時に好適に使用することができる。
【0032】
すなわち、詳しくは後述するが、図14に示すように気管挿管チューブ50の先端部は斜めに切欠した形状に形成されている。従って、気管挿管チューブ50を実際の臨床時に気管に挿入するときは、この気管挿管チューブ50の先端部が人体の喉頭室に引っ掛りやすく気管挿管チューブ50を使った円滑な気道確保が行えない場合があった。
【0033】
そこで、本実施形態に係る挿管訓練用モデル1では、実際の喉頭室と同様に、前庭ヒダと声帯ヒダとの間に凹部7,7を作り込むことにより、術者は臨床時と同様の環境で気管挿管チューブ50を用いた気道確保の訓練を行うことができる。
【0034】
以上説明したように、本実施形態に係る挿管訓練用モデル1を用いることで、ラリンゲルマスク20を咽喉へ挿入して行う気道確保の訓練、または気管挿管チューブ50を挿入して行う気道確保の訓練を行うことができる。これは、咽頭食道部15が、人が物を飲み込むときと同様の状態(食道入口部13が開いた状態)となるように形成されているためであり、人が物を飲み込むときと同様の状態とするには、例えば、当該食道に5kPa〜20kPaの膨張用圧力を加えるとよい。
【0035】
また、本挿管訓練用モデル1には、術者から視認できない喉頭室に相当する凹部7,7が形成されているため、気管挿管チューブ50を用いた気道確保の訓練を行う場合、術者は視認できない喉頭室を回避するための感覚的な訓練を行うことができる。例えば、気管挿管チューブ50が凹部7に引っ掛った場合には、気管挿管チューブ50を反時計回りに回転させると、当該気管挿管チューブ50の先端を凹部7の深い部分から浅い部分へ移動して、凹部7から外すことができることなどが感覚的に分かってくる。そのために、挿管訓練用モデル1を用いて気道確保の訓練を行った術者は、臨床時においても、気管挿管チューブ50が喉頭室に引っ掛った場合も適切に対処することができるようになり、患者の気管を損傷させることなく、迅速に気道を確保することができるようになる。
【0036】
[2.挿管訓練用モデル1の製造方法]
以下、本実施形態の要部ともなる挿管訓練用モデル1の製造方法について説明する。まず、人体からなる被験体Mを準備する。このとき、被験体Mの喉頭においては、図4に示すように、食道が萎んだ状態となっている。被験体Mが生体の場合麻酔により咽頭食道の筋肉が弛緩した状態が好ましい。被験体Mが遺体の場合は、例えば、死後24時間から96時間が経過した状態であることが好ましい。死後24時間から96時間という時間は、遺体の死後硬直が解け始め、かつ、当該遺体の腐敗が始まる前の時間である。従って、咽頭食道(特に、食道入口の狭窄部)を膨張させるのが容易であり、後述する咽頭食道膨張工程に好適である。
【0037】
被験体Mの準備がなされると、第1のステップとして、被験体Mの気道咽頭食道領域へ膨張用圧力を加え、少なくとも咽頭食道を膨張させる。例えば、被験体Mの口部及び鼻部を何らかの閉塞部材、あるいは手で閉塞し、被験体Mの気道咽頭食道領域内を密封する。そして、口部から空気を導入し、人が食物を咀嚼して嚥下する時の咽頭に掛る圧力と略同等の圧力である5kPa〜20kPaの膨張用圧力で咽頭食道を膨張させる。
【0038】
次に、第2のステップとして、当該気道咽頭食道領域の3次元構造をX線CT装置を用いて撮像する。具体的には、3次元X線断層撮像装置を用いている。すなわち、被験体Mの気道咽頭食道領域を所定圧力に維持した状態で、3D−CT(コンピューター断層撮像法)を用いて、当該被験体Mの気道咽頭食道領域の3次元構造を撮像するのである。これにより、被験体Mの気道咽頭食道領域の3次元構造のデータが得られる。この気道咽頭食道領域の3次元構造のデータでは、気管部41により被験体Mの気管が再現されており、同様に、咽頭部42、食道入口部43及び食道部44を含む咽頭食道部45により被験体Mの咽頭、食道及び食道入口が、喉頭室部46により被験体Mの喉頭室が再現されている。また、咽頭食道部45は膨張した状態で再現されることになる。
【0039】
次に、第3のステップでは、第2のステップにおいて得た気道咽頭食道領域の3次元構造のデータに基づいて、図5及び図6に示す挿管訓練用モデル1の型40を形成する。例えば、第2のステップにおいて得た気道咽頭食道領域の3次元構造のデータに基づいて、気道咽頭食道領域の3次元構造を水平方向にスライスした断面形状を有する複数の石膏片を形成し、これらの石膏片を順次積層して3次元構造の気道咽頭食道領域の形状を有する型40を形成する。このようにして、喉頭室部46を有し、かつ、咽頭食道部45が膨張した状態の3次元構造を有する挿管訓練用モデルの型40を形成することができる。
【0040】
そして、第3のステップにおいて形成された型40を用いて図1に示すような挿管訓練用モデル1を形成するのである。例えば、型40を内型として用いることで挿管訓練用モデル1を形成する。具体的には、外型の中に型40を設置し、外型と型40との間に形成される空間へ溶融したシリコンゴム等の樹脂材料を注入・放冷し、その後、脱型して型40の表面と同様の中空構造を有する挿管訓練用モデル1を製造する。
【0041】
なお、上述の第1のステップにおいて、咽頭食道を膨張させる他の方法として、図7に示すように、例えば、先端部にバルーン31が設けられたバルーン付きカテーテル30を用いて被験体Mの咽頭食道を膨張させることもできる。
【0042】
このバルーン付きカテーテル30は後述する気管挿管チューブ50と同様の構成を有しており、当該カテーテル30の先端部に設けられたバルーン31を膨らませることで、被験体M内の所定位置で当該カテーテル30を固定できるようになっている。なお、当然ではあるが、バルーン付きカテーテル30のバルーン31は萎んだ状態で被験体M内に挿入される。
【0043】
そして、バルーン付きカテーテル30が被験体Mの咽頭食道の所定位置(例えば、食道入口)に到達させてバルーン31を膨らませる。例えば、図示しない加圧ポンプ等の加圧手段により咽頭食道を膨張させる。このとき、例えば、バルーン付きカテーテル30に設けられた図示しない圧力計により咽頭食道に掛かる膨張用圧力を監視し、この咽頭食道に加わる膨張用圧力が5kPa〜20kPaとなるようにする。
【0044】
また、型40を形成する他の方法として、例えば、光硬化性樹脂を用いて型40を形成する方法がある。具体的には、容器に入れた液状光硬化性樹脂の液面に所望のパターンが得られるようにコンピューターで制御された紫外線レーザーを選択的に照射して所定厚みを硬化させ、ついで当該硬化層の上に1層分の液状樹脂を供給し、同様に紫外線レーザーで上記と同様に照射硬化させ、連続した硬化層を得る積層操作を繰り返すことにより最終的に3次元構造の気道咽頭食道領域の形状を有する型40を形成するのである。
【0045】
以上説明したように、本実施形態の挿管訓練用モデル1の製造方法では、人体からなる被験体が有する気道咽頭食道領域へ膨張用圧力を加え、少なくとも咽頭食道を膨張させる第1のステップと、膨張した咽頭食道を含む気道咽頭食道領域をX線CT装置で撮像し、当該気道咽頭食道領域の3次元構造を取得する第2のステップと、撮像された気道咽頭食道領域の3次元構造を用いて気道咽頭食道領域部を製造する第3のステップとを有するようにしたので、本製造方法により得られた挿管訓練用モデル1を用いれば、喉頭を覆うように咽頭食道に挿入するラリンゲルマスク20を用いた気道確保の訓練を行えるようになる。
【0046】
また、3次元X線断層撮像装置を用いて、膨張させた気道咽頭食道領域の3次元構造を取得するようにしたので、高精度に当該気道咽頭食道領域の3次元構造を取得することができる。
【0047】
また、被験体Mとして遺体を用い、かつ、死後24時間〜96時間の間に上述した第1〜第3のステップを行うようにしたので、当該遺体は死後硬直が解け始め、かつ、腐敗が始まる前の状態となっており、咽頭食道を容易に膨張させることができる。
【0048】
また、挿管訓練用モデル1における気道咽頭食道領域の3次元構造には凹部7がリアルに形成されるため、臨床時に即した状態で気道確保の訓練を行うことができる。
【0049】
すなわち、喉頭室に相当する凹部7を設けるという技術思想は、従来の気管挿管モデルには存在せず、これまでの挿管訓練用モデルでは無視されていた。そのため、臨床時に近い状態で気管挿管チューブ50を用いた気道確保の訓練を行うことが困難であったが、本実施形態に係る挿管訓練用モデルの製造方法によれば、ラリンゲルマスク20を用いた気道確保の訓練を極めて効果的に行うことができる。
【0050】
このように、本実施形態に係る挿管訓練用モデルの製造方法によれば、ラリンゲルマスク20を用いた気道確保の訓練についても、気管挿管チューブ50を用いた気管挿管による気道確保の訓練についても効果的に行うことができる挿管訓練用モデル1を得ることができ、救急医療などに大きく寄与することができる。
【0051】
なお、上述した挿管訓練用モデルの製造方法において、咽頭食道を膨張させる際に導入させる流体を空気として説明したが、他の気体でもよいし、さらには液体やゲル状の流体を用いても構わない。
【0052】
[3.モデルを用いた訓練方法]
[3.1.ラリンゲルマスク20を用いた気道確保の訓練方法]
上述した構成を有する挿管訓練用モデル1を用いた気道確保の訓練の方法について、より具体的に説明する。
【0053】
まず、ラリンゲルマスク20について簡単に説明し、このラリンゲルマスク20を用いた気道確保の訓練方法について説明する。
【0054】
ラリンゲルマスク20は、図8に示すように、可撓性を有するエアウェイチューブ21と、エアウェイチューブ21の先端に取付けられたリング体24を有するカフ部23とを備えている。カフ部23は、エアウェイチューブ21側から漸次拡開する開口部22を有しており、この開口部22を囲むリング体24は膨縮自在に構成されている。すなわち、リング体24は膨らませたり、萎ませたりすることができる。また、カフ部23にはインフレーティングチューブ25の先端が連繋されており、このインフレーティングチューブ25の基端部には空気等の流体を注入するための膨らまし弁26が設けられている。
【0055】
上述した構成の挿管訓練用モデル1を用いることにより、上記構成のラリンゲルマスク20を使用した気道確保の訓練を好適に行うことができる。
【0056】
すなわち、図9に示すように、挿管訓練用モデル1の口唇部11から、カフ部23のリング体24を萎んだ状態としたラリンゲルマスク20を挿入し、さらに、挿管訓練用モデル1の口腔部10を介して咽頭食道部15の所定位置(例えば、食道入口部13)にラリンゲルマスク20を係合させる。このとき、挿管訓練用モデル1の咽頭食道部15は、上述したように、人が物を飲み込むときと同様に膨らんだ状態で形成されているため、術者はこれまでの挿管訓練用モデルでは得ることができなかった実際の患者に対してラリンゲルマスク20を挿入する感覚が得られ、臨床時にはラリンゲルマスクが咽頭食道の所定位置に適切に係合して位置ずれを防止し、上記係合部分から空気が漏れだすことなく気道を確保することができる。
【0057】
なお、ラリンゲルマスク20を挿入する際には、ラリンゲルマスク20のリング体24の上側部分が喉頭蓋部5に係止された状態となるようにすると、下側部分は咽頭部14と食道部4との接合部(食道入口部13)を閉塞する状態で挿入され、カフ部23の開口部22は、挿管訓練用モデル1の気管部3の入口と対向した状態となる。
【0058】
次に、ラリンゲルマスク20の膨らまし弁26から、例えば、空気を注入してカフ部23のリング体24を膨らませ、ラリンゲルマスク20を咽頭食道部15の所定位置に固定させる。挿管訓練用モデル1の咽頭食道部15は膨らんだ状態で形成されているため、このときも、術者は実際の患者に対してカフ部23を膨らませる感覚が得られる。これにより、術者はカフ部23に注入する適度な空気量を感覚的に得ることができるため、臨床時においてカフ部23に対して過度の空気量を注入することが抑制され、患者の咽頭食道等を損傷することが回避される。
【0059】
上述の作業を行うことで、挿管訓練用モデル1の気管部3は、ラリンゲルマスク20の開口部22及びエアウェイチューブ21を介して挿管訓練用モデル1の外部と連通する。これにより、患者の気道確保のシミュレーションがなされることになる。また、咽頭食道部15が膨張した構造を有する挿管訓練用モデル1を用いて気道確保の訓練を行うことで、ラリンゲルマスク20を用いた気道確保の訓練が行える。
【0060】
以上説明したように、本実施形態の挿管訓練用モデル1によれば、食道部4を、人が物を飲み込むときと同様に膨張した状態で形成しているので、ラリンゲルマスク20を咽頭部14に支障なく挿入することができる。これにより、術者は、ラリンゲルマスク20を用いた気道確保の訓練をいつでも自由に行うことができる。特に、人が物を飲み込むときと同様の状態で咽頭食道部15を膨らませて形成しているため、臨床時と同様の環境でラリンゲルマスク20を挿入して行う気道確保の訓練を行うことができるため、術者は、臨床時において、自信をもって、かつ円滑に気道確保を行うことができる。
【0061】
[3.2.気管挿管チューブ50を用いた気道確保の訓練方法]
次に、気管挿管による気道確保の訓練の方法について説明する。気管挿管とは、気管に口または鼻から喉頭を経由して気管挿管チューブ50を挿入して行う気道確保方法である。まず、当該訓練の方法に用いられる気管挿管チューブ50について簡単に説明する。
【0062】
気管挿管チューブ50は、図10に示すように、空気が通るエアウェイチューブ51の最先端側を斜めに切欠してテーパ状の開口部52を形成し、当該開口部52よりもやや後側には当該エアウェイチューブ51を囲繞するようにカフ部53を形成している。カフ部53には、上述したラリンゲルマスク20のカフ部23と同様に膨縮自在に形成されるとともに、インフレーティングチューブ54の先端が連繋されている。そして、このインフレーティングチューブ54の基端部には空気等の流体を注入するための膨らまし弁55が設けられている。
【0063】
喉頭鏡60は、図11に示すように、把持可能な柱状のハンドル61と、ハンドル61に接続されるブレード62とにより構成されており、ハンドル61は、略円柱形状を有している。また、ハンドル61の上端部には、図示しないハンドルの接合凹部を介してブレード62が接続されている。
【0064】
ブレード62は、患者の口から喉頭に挿入される部分であり、側面視で根元部63から先端部64になるに従って上方に凸になるように緩やかに湾曲した略円弧形状を有している。ブレード62の先端部64は、患者の口に最初に挿入される部分である。ブレード62の先端部64は、患者の口に挿入し易いように正面視で上下方向に細く左右方向に所定長延在する細長い形状を有し、かつ、患者の喉頭を傷つけないように先端が若干丸みを帯びた形状を有している。
【0065】
上述した構成の挿管訓練用モデル1を用いることにより、上記構成の気管挿管チューブ50を使用する気道確保の訓練を行うことができる。
【0066】
すなわち、図12に示すように、喉頭鏡60のブレード62の先端部64を挿管訓練用モデル1の口唇部11から挿入して舌部12に沿わせた状態で、ブレード62を持ち上げて舌部12を上方に持ち上げた後、口唇部11から気管挿管チューブ50を挿入し、この気管挿管チューブ50の開口部52を気管部3まで挿入するのである。
【0067】
ところで、人体の喉頭には、図5及び図6の型40に示す喉頭室部46のように、気管入口の下方には喉頭室が存在するが、図13からも分かるように、上方からはこの喉頭室を視認することが困難である。また、気管挿管に用いられる気管挿管チューブ50の先端はテーパ状に形成されている。従って、臨床時に、喉頭室に気管挿管チューブ50が引っ掛る場合がある。
【0068】
気管挿管チューブ50の先端が喉頭室に引っ掛った場合(図14参照)、術者からは喉頭室を視認することが困難であるため、術者は、気管挿管チューブ50の先端が喉頭室に引っ掛った状態を知ることができず、若しくは、気管挿管チューブ50の先端が喉頭室に引っ掛ったことを知っていてもそれに対する処理(例えば、気管挿管チューブ50を反時計回りに回転させる処理)を上手く行うことができないことがあった。そのような実際の臨床に備えるために、本実施形態に係る挿管訓練用モデル1による訓練が有効となる。
【0069】
本実施形態における気管挿管チューブ50を使用した気道確保の訓練では、術者は、喉頭鏡60を用いて挿管訓練用モデル1の口唇部11を大きく開いて、口腔部10から気管入口部6(図13参照)を見ながら、当該気管入口部6を目標にして気管挿管チューブ50を挿入する。このとき、挿管訓練用モデル1の気管部3には、外部から視認することができない凹部7が形成されているため、気管挿管チューブ50を挿管する角度等によっては、図14に示すように、気管挿管チューブ50が凹部7に引っ掛る場合がある。その場合には、術者は、気管挿管チューブ50を反時計回りに回転させることで、気管挿管チューブ50の先端を凹部7の深い部分から浅い部分へと移動させれば、当該気管挿管チューブ50は凹部7から外れて挿管されていくことを体感することができる。従って、この挿管訓練用モデル1を用いて訓練すれば、凹部7を回避して気管挿管チューブ50を挿管する技術を自然に身に付けることができるようになり、術者の挿管技術が上達するのである。
【0070】
すなわち、この凹部7の直上には前庭ヒダ部8が形成されており、図13に示すように、挿管訓練用モデル1の上方からは凹部7を直接視認できないようになっている。これにより、術者は感覚的に凹部7を回避して、もしくは、凹部7に引っ掛った気管挿管チューブ50を外して気道を確保する訓練を行うことができる。このように、本実施形態に係る挿管訓練用モデル1によれば、気道咽頭食道領域部2の中途に環状の凹部7を形成することにより、臨床時と同様の環境で気道確保の訓練を行うことができる。
【0071】
気管挿管チューブ50を挿管した後は、膨らまし弁55から、空気を注入してカフ部53を膨らませ、気管挿管チューブ50を気管部3の所定位置に固定させる。
【0072】
上述の作業を行うことで、挿管訓練用モデル1の気管部3は、気管挿管チューブ50の開口部52及びエアウェイチューブ51を介して挿管訓練用モデル1の外部と連通する。これにより、患者の気道確保のシミュレーションがなされることになる。
【0073】
以上、説明してきたように、従来のシミュレーションモデルでは(特許文献1を参照)、当該シミュレーションモデルの気管構造物が平坦に形成されているため、気道確保の訓練時には喉頭室に相当する箇所で気管挿管チューブ50が引っ掛ることはない。すなわち、従来のシミュレーションモデルでは、当該シミュレーションモデルの上方から気管入口部を見つけ出し、この見つけ出した気管入口部に向けて気管挿管チューブ50を挿入する訓練はできるものの、喉頭室を想定した気道確保の訓練を行うことができない。
【0074】
従って、術者は、訓練時においては気道確保のシミュレーションを円滑に行うことができたとしても、実際の臨床時においては必ずしも上手く喉頭室を回避することができない場合があり、また、気管挿管チューブ50が喉頭室に引っ掛った場合、この喉頭室から気管挿管チューブ50を外すことに慣れていないため、緊張や焦りにより気道確保を円滑に行えないおそれがあるが、本実施形態に係る挿管訓練用モデル1を用いて訓練をしておけば、気管挿管チューブ50が喉頭室に引っ掛っても適切な対処が可能となる。
【0075】
以上、本実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されず、様々な変形が可能である。例えば、咽頭食道を膨張させる際に導入させる流体を空気として説明したが、他の気体でもよいし、さらには液体やゲル状の流体を用いても構わない。
【符号の説明】
【0076】
1 挿管訓練用モデル
2 気道咽頭食道領域部
3,41 気管部
4,44 食道部
14,42 咽頭部
5 喉頭蓋部
6 気管入口部
7 凹部
8 前庭ヒダ部
9 声帯ヒダ部
10 口腔部
11 口唇部
12 舌部
13,43 食道入口部
15,45 咽頭食道部
20 ラリンゲルマスク
21,51 エアウェイチューブ
22,52 エアウェイチューブの開口部
23,53 カフ部
24 リング体
25,54 インフレーティングチューブ
26,55 膨らまし弁
30 バルーン付きカテーテル
31 バルーン
40 型
46 喉頭室部
50 気管挿管チューブ
60 喉頭鏡
61 ハンドル
62 ブレード
63 ブレードの根元部
64 ブレードの先端部
M 被験体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気道確保器具を用いて気道確保の訓練をするために、人体の咽頭食道を含む気道咽頭食道領域を模した気道咽頭食道領域部が形成された挿管訓練用モデルであって、前記気道咽頭食道領域部の中途であって、気管入口部に形成された前庭ヒダ部と声帯ヒダ部との間に、環状の凹部を形成したことを特徴とする挿管訓練用モデル。
【請求項2】
前記環状の凹部が正面視前後方向よりも正面視左右方向に深く形成されることを特徴とする請求項1に記載の挿管訓練用モデル。
【請求項1】
気道確保器具を用いて気道確保の訓練をするために、人体の咽頭食道を含む気道咽頭食道領域を模した気道咽頭食道領域部が形成された挿管訓練用モデルであって、前記気道咽頭食道領域部の中途であって、気管入口部に形成された前庭ヒダ部と声帯ヒダ部との間に、環状の凹部を形成したことを特徴とする挿管訓練用モデル。
【請求項2】
前記環状の凹部が正面視前後方向よりも正面視左右方向に深く形成されることを特徴とする請求項1に記載の挿管訓練用モデル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−282170(P2010−282170A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−244391(P2009−244391)
【出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【分割の表示】特願2009−133825(P2009−133825)の分割
【原出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【特許番号】特許第4465437号(P4465437)
【特許公報発行日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、消防庁 消防防災科学技術研究推進制度「脳指向型蘇生システムを備えた救急車の開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【分割の表示】特願2009−133825(P2009−133825)の分割
【原出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【特許番号】特許第4465437号(P4465437)
【特許公報発行日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、消防庁 消防防災科学技術研究推進制度「脳指向型蘇生システムを備えた救急車の開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】
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