説明

捕捉を確認し閾値を決定する装置と方法

ペーシング事象中に記録した誘発反応波形と第1、第2、及び両方のペーシング・パルスによる捕捉を示すテンプレート波形を比較する、第1と第2のペーシング・パルスによる捕捉を確認する装置と方法。誘発反応波形が1つのテンプレート波形と高く相関し、特定の範囲内で他のテンプレート波形との相関値を有する場合、その誘発反応は、テンプレート波形によって示された捕捉のタイプを示すものとして分類される。

【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2001年10月26日に出願の米国出願第10/003,718号の一部継続出願であり、その明細書を参照により本明細書に組み込む。
【技術分野】
【0002】
本発明は心臓ペースメーカに関し、詳細には、装置の性能を確認し、それに応じてペーシング・パラメータを調整するシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
埋込可能心臓ペースメーカは、心臓の選択された腔に電気刺激をペーシング・パルスの形で提供する心調律管理装置の類のものである。(ペースメーカとは、その用語を本明細書で使用するように、任意の追加の機能に関係なく電気除細動/除細動などを行うことができるペーシング機能を有する任意の心調律管理装置である。)ペースメーカは、通常、プログラミングされたモードで、時間間隔の経過と感知した電気活性(すなわち内因性心拍)に応答してペーシング・パルスを出力させるプログラム可能な電子コントローラを有する。大抵のペースメーカは、いわゆるデマンド・モード(別名同期モード)で動作するようにプログラミングされる。その場合、ペーシング・パルスは腔による内因性拍動が検出されない場合にのみ、心周期中に心腔に送られる。補充収縮間隔はペース調整された腔ごとに規定される。それはペースが送出される前に拍動が検出されなければならない最短時間間隔である。したがって、心室補充収縮間隔は、ペースメーカが心臓の拍動を可能にする最低レートを規定するものであり、それは通常、下限レートと呼ばれる。適正に機能する場合、ペースメーカはこの方法で、正しい調律で心臓自体のペースを調整するように心臓の無力を補うものである。
【0004】
ペースメーカが上記の方法で心臓のレートを制御するには、装置によって送出されるペースが「捕捉」を行わなければならない。「捕捉」とは、興奮と収縮を伝播する波(すなわち心拍)の結果生じる心筋の十分な脱分極を生じさせることを指す。したがって、心臓を捕捉しないペーシング・パルスは、無効のパルスである。これはペースメーカの制限されたエネルギ源(電池)からのエネルギを無駄にするばかりでなく、有害な生理的効果をもたらすこともある。なぜなら、捕捉を行わないデマンド・ペースメーカは、最低心拍数を維持する際にその機能を果たさないからである。いくつかの要因によって、所与のペーシング・パルスで捕捉が行われたか否かを決定することができるが、本明細書で関心が持たれる主な要因は、パルスのエネルギであり、これはパルスの振幅と幅の関数である。特定のペーシング・チャネルによって捕捉を行うのに必要とされる最低ペーシング・パルス・エネルギは、捕捉閾値と呼ばれる。プログラム可能なペースメーカによって、ペーシング・パルスの振幅とパルス幅を他のパラメータと共に調整することができる。最初に高エネルギでのペーシングによって捕捉閾値を決定して捕捉を確保し、次いで、心周期のシーケンス中に捕捉が行われなくなるまでペーシング・パルス・エネルギを徐々に低下させるのが一般的な方法である。次いで、捕捉閾値に特定の安全域を足したものと等しくなるように捕捉閾値を設定することによって決定された捕捉閾値に従って、ペーシング・パルス・エネルギを適切な値に調整することができる。
【0005】
所与の心周期中に捕捉が存在したか否かを決定するのに使用される一般の技法は、ペーシング・パルスの直後に続く「誘発反応」を探すことである。誘発反応は、ペーシング・パルスの結果生じる脱分極化の波であり、ペース調整された腔が適切に反応し収縮した証拠である。特定の値を超える(すなわち、それぞれ体表面心電図又は内部電位図における同等のもの上に示された誘発されたP波又は誘発されたR波に一致する)誘発された心房又は心室の脱分極を検出することによって、ペースメーカは、ペーシング・パルス(Aパルス又はVパルス)が心臓の捕捉に有効であったか、すなわちそれぞれ心腔に収縮を生じさせたか否かを検出することができる。捕捉確認は臨床セッティングで行うことができ、その場合、臨床家がペーシング・パラメータを調整して心臓が確実にペース調整されるようにする。しかし、ペースメーカ自体で捕捉を確認することができ、捕捉の損失が生じたときにそれが検出され、次いでペーシング・パラメータが自動的に調整されることを可能にする、自動捕捉として知られた機能が望ましい。(たとえば、参照により本明細書に組み込む、現在Cardiac Pacemakers,Inc.に譲渡されている、KenKnight他に発行された米国特許第6,169,921号を参照されたい。)自動捕捉機能は、ペースメーカに寿命の延期、より良い使い易さ、患者のより大きい安全性をもたらすものである。
【0006】
心調律の概念には、心腔が心周期中に収縮して血液の有効なポンピングをもたらす方法と程度も含まれる。たとえば、腔が協調して収縮する場合に心臓はより効果的にポンピングする。心臓は、心筋中の興奮(すなわち脱分極化)を迅速に伝達することができる、心房と心室の両方の特殊な伝達経路を有する。こうした経路は、両心房や両心室の協調した収縮をもたらす興奮インパルスを伝導する。
【0007】
正常に機能する特殊な伝導経路によってもたらされる同期化がないと、心臓のポンピング効率が大幅に低下する。したがって脚ブロックなど、こうした伝導経路の病理を示す患者は、心拍出量が減少することがある。結果として起こる心拍出量の減少は、心拍出量がすでに減少しているうっ血心不全(CHF)の患者には重大な問題である。心室内及び/又は心室間の伝導の欠陥も患者によってはCHFを引き起こすことがある。こうした問題に対処するため、心臓再同期療法と呼ばれる、心房及び/又は心室の収縮の協調性の向上を試みて、心臓周期中に1つあるいは両方の心房及び/又は心室に電気ペーシング刺激を与えるペースメーカが開発されてきた。一部の心不全の患者の心拍出量を最適化するには、たとえば、左右の心室を所与の時間オフセットで同期的にペース調整する。これは両心室ペーシングと呼ばれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、マルチサイトの同期化ペーシングは、上記の誘発反応検出に基づく従来の捕捉確認方法では問題がある。両心室ペーシングでは、たとえば、左右の心室に同期化ペースを送る時が近接する場合、第1のペースによって生じた誘発反応と第2のペースとの識別が妨げられることがある。さらに、第1のペースからの誘発反応が、第2のペースによって開始される増幅器ブランキング間隔内に生じた場合、第2のペースが誘発反応の感知を妨げることもある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
捕捉を行うペース調整された事象中に記録された体表面心電図(ECG)又は内部電位図など脱分極波形は、捕捉が行われなかったペース調整された事象中に記録されたものとは異なる形態を示す。また、複数のペーシング・パルスが心周期中に心房又は心室に送出される場合、結果として生じる脱分極波形の形態は、ペーシング・パルスの1つでも捕捉が行われなければ、その影響を受ける。本発明によれば、ペーシング・パルスによる心臓の捕捉は、ペース調整された事象中に記録された誘発反応又は試験脱分極波形と、同様に送出されたペーシング・パルスによる心臓の捕捉を示す基準テンプレート波形を比較することによって確認される。この比較は、基準テンプレート波形と試験波形の相互相関によってなされ、2つの波形が相関しないときに捕捉の損失が検出されるようにすることができる。マルチサイト・ペーシング状況では、それぞれ個々のペースによる捕捉と、集合的にすべてのペースによる捕捉を示すテンプレート波形を使用して、どのペースが捕捉を行うことができなかったかを決定し、ペーシング・サイトごとの捕捉閾値の決定を簡単にすることができる。
【0010】
第1と第2のペーシング・パルスが心周期中に心房又は心室に出力される状況では、記録された誘発反応波形が、両方のペーシング・パルスによる捕捉を示すテンプレート波形と高く相関し、さらに、第1のペーシング・パルスだけによる捕捉と第2のペーシング・パルスだけによる捕捉を示すテンプレート波形に特定の範囲で相関する場合は、両方のペーシング・パルスによる捕捉を検出することができる。例示の一実施態様では、誘発反応が両心室捕捉を示すテンプレート波形と高く相関し、両心室捕捉テンプレートの相関と概ね同じ程度に右心室と左心室の捕捉を示すテンプレートと相関する場合に、両心室捕捉が検出される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、心周期中に1つのペースが各対の心房及び/又は心室に送出され、又は複数のペースが単一の腔に送出される、様々なタイプの再同期療法を送出するマルチサイト・ペーシング構成を含む、いくつかの異なるペーシング構成を有するペースメーカに組み込むことができる。しかし例示の目的で、図1で示したように、両心室をペーシングし、又は2つのペースを単一の心室に送出する、2つの心室ペーシング・チャネルを有する二腔ペースメーカ(すなわち心房と心室の両方を感知かつ/又はペース調整するもの)を参照して本発明を説明する。
【0012】
a.ハードウェア・プラットフォーム
ペースメーカは、通常、患者の胸の皮下に埋め込まれ、感知とペーシングに使用される電極に装置を接続するために、静脈内から心臓内に挿入されるリードを有している。プログラム可能な電子コントローラが、時間間隔の経過と感知された電気活性(すなわち、ペーシング・パルスの結果生じたのではない内因性心拍)に応答してペーシング・パルスを出力させる。ペースメーカは、感知すべき腔付近に配置された内部電極によって内因性心臓電気活性を感知する。ペースメーカによって検出される心房又は心室の内因性収縮に関連する脱分極波は、それぞれ心房感知、又は心室感知と呼ばれる。内因性拍動が存在しない場合にこうした収縮を起こすには、捕捉閾値より大きいエネルギでペーシング・パルス(心房ペース又は心室ペース)を腔に送出しなければならない。
【0013】
ペースメーカのコントローラは、メモリ12と通信するマイクロプロセッサ10からなり、メモリ12は、プログラム・ストレージ用ROM(読み出し専用メモリ)やデータ・ストレージ用RAM(ランダムアクセス・メモリ)を備えている。コントローラは、状態マシン・タイプの設計を使用する他のタイプの論理回路(たとえば個別の構成要素又はプログラム可能な論理アレイ)によって実装することもできるが、マイクロプロセッサベースのシステムが好ましい。コントローラは、いくつかのプログラムによるモードでペースメーカを操作することができ、プログラムによるモードは、感知した事象及び時間間隔の終了に応答してペーシング・パルスを出力する方法を決める。テレメトリ・インターフェース80は、外部プログラマ300と通信するために設けられる。外部プログラマは、コントローラ330を有するコンピュータ化された装置であり、コントローラ330は、ペースメーカに問い合わせて格納されたデータを受け取る他に、ペースメーカの動作パラメータを調整することができる。
【0014】
ペースメーカは、リング電極33a、チップ電極33b、センス増幅器31、パルス発生器32、マイクロプロセッサ10のポートと両方向に通信する心房チャネル・インターフェース30を備える心房感知/ペーシング・チャネルを有する。この装置は、リング電極43a、53a、チップ電極43b、53b、センス増幅器41、51、パルス発生器42、52、心室チャネル・インターフェース40、50を同様に備える2つの心室感知/ペーシング・チャネルも有する。電極は、チャネルごとにリードによってペースメーカに接続され、感知とペーシングの両方に使用される。マイクロプロセッサによって制御されるMOSスイッチング・ネットワーク70を使用して、電極をセンス増幅器の入力からパルス発生器の出力に切り替える。ショック・パルス発生器90とショック電極91a、91bを備えるショック・チャネルも設けられる。ショック電極91a、91bは、細動又は他の頻拍性不整脈が検出された場合に、除細動ショックを心臓に送出するためのものである。ペースメーカは、誘発反応チャネル・インターフェース20を有し、さらに、差動入力部がスイッチング・ネットワーク70を介して単極電極23と装置ハウジング又は缶60に接続されたセンス増幅器21を備える誘発反応感知チャネルも有する。誘発反応感知チャネルを使用して、ペーシング・パルスが従来の方法で心臓の捕捉が行われたことを確認することができ、又は以下で説明するように誘発反応感知チャネルを使用して誘発反応電位図を記録することができる。
【0015】
チャネル・インターフェースは、センス増幅器からの感知信号入力をデジタル化するためのアナログ・デジタル変換器、センス増幅器の利得と閾値を調整するために書込むことができるレジスタ、及び、心室と心房チャネル・インターフェースの場合は、ペーシング・パルスの出力を制御し、かつ/又はパルス振幅又はパルス幅を変えることによってペーシング・パルス・エネルギを調整するためのレジスタを備える。マイクロプロセッサ10は、メモリに格納されたプログラムによる命令に従って装置の操作全体を制御する。ペースメーカの感知回路は、電極が感知した電圧が特定の閾値を超えた場合に、心房感知信号と心室感知信号を生成する。次いでコントローラは、感知チャネルからの感知信号を解釈し、プログラムによるペーシング・モードに従ってペースの送出を制御する。図1のペースメーカの任意の感知チャネルからの感知信号をコントローラによってデジタル化し、記録して電位図を構成することができ、それをテレメトリ・リンク80を介して外部プログラマ300に伝送し、又は後で伝送するために格納することができる。したがって、患者の心臓活性を実時間で、又は選択した経過期間にわたって観察することができる。
【0016】
ペーシング・パルスに対する心臓の電気的反応は、誘発反応と呼ばれる。誘発反応が、脱分極を伝達する波がペーシング・パルスの結果生じたことを示す場合、誘発反応はペース調整された腔が適切に反応し収縮した証拠である。したがって、誘発反応を使用して、そのペースにより心臓の捕捉が行われたことを確認することができる。本発明によれば、電位図で1ペースに対する誘発反応を記録し、それを使用して、記録された電位図を、同様に送出されたペースによる心臓の捕捉を示すテンプレート電位図と比較することによって、捕捉が行われたか否かを決定することができる。電位図を記録するための誘発反応感知チャネルは、通常、別の目的で使用される感知チャネルでもよく、又は誘発反応の感知専用の感知チャネルでもよい。電気活性の波が広がるときに両極電極よりも大きい心筋容積が「見られる」単極電極で電位図を記録することが好ましい。図1で示した実施形態では、心房と心室感知ペーシング・チャネルは両極電極を使用しており、専用誘発反応感知チャネルには単極電極が設けられている。代替実施形態では、心房及び/又は感知/ペーシング・チャネルで単極電極を使用することができ、その場合、単極電極による誘発反応の感知を専用チャネルの代りにこうしたチャネルで実施することができる。誘発反応感知チャネルをショック・チャネルで実装することもでき、その場合、通常、除細動ショックの心臓への送出に使用されるショック・リードは、スイッチ・マトリックス70によってセンス増幅器に切り替えられる。
【0017】
b.テンプレートに基づく捕捉確認及び閾値決定
本発明によれば、本明細書で試験脱分極波形とも呼ぶペーシング周期中の誘発反応波形を記録し、記録した波形と少なくとも1つのペーシング・パルスによる心臓の捕捉を示すテンプレート脱分極波形とを比較することによって、心周期中に心房及び/又は心室に送出される複数のペーシング・パルスによる心臓の捕捉を確認することができる。捕捉を確認し、閾値を決定するための本明細書に記載した方法は、任意のマルチサイト・ペーシング構成に適用することができるが、以下の詳細な説明及び特定の実施形態の記載は、両心室ペーシング構成に限定されるものであり、その場合、両方の心室が心周期中にプログラミングされたオフセットによって別々にペース調整される。
【0018】
複数のペースを心周期中に心室に送出することにより、単一の心室ペースの結果として得られるパターンと比較して、得られる脱分極化のパターンが変化する。この差は、体表面ECG、又は脱分極化によってもたらされる時間変化ネット双極子ベクトルを感知する電位図など記録された脱分極波形におけるQRS波の形態の変化として現れる。基準テンプレート波形は、両方のペーシング・パルスで捕捉を行うことが知られている両心室ペーシング周期中の心室ECG又は電位図を記録することによって生成することができる。次いで、所与のペースでの捕捉の存在又は不在を、テンプレート波形とペース中に記録された試験脱分極波形を比較して決定することができる。図2Aは、テンプレートECG波形TMP及び一致する試験ECG波形TSTの例を示しており、図2Bは、ペーシング・パルスの1つにより捕捉を行うことができなかったために形態的に異なる試験波形とテンプレート波形を示す。
【0019】
例示の一実施形態では、試験波形とテンプレート波形の類似度は、波形の間の時間領域相互相関を実施することによって確認される。その場合、心室ペーシング・サイトの1つでの捕捉の損失が試験波形とテンプレート波形の相関の損失によって示される。試験波形とテンプレート波形が一致するか否かの決定に適正に使用すべき正確な相関値は、適正値が個々の患者及び/又はペースメーカによって変化することがあるため、経験的試験に基づいて選択することができる。この方法で実施される捕捉確認を使用して、ペーシング・パルス・エネルギを変化させ、捕捉をもたらす最低エネルギを見つけることによってペーシング・チャネルの捕捉閾値を決定することができる。
【0020】
上述のような捕捉確認及び閾値決定をいくつかの異なる方法で実施することができる。例示の一実施形態では、体表面ECGは、無線テレメトリ・リンクを介して埋め込まれたペースメーカと通信する外部プログラマによってペーシング中に従来のリードで記録される。外部プログラマのプロセッサは、試験ECGとテンプレートECGを相関させて、ペーシング・パルスによって捕捉が行われたか否かを決定する。この実施形態の修正形態では、体表面ECGではなく、ペースメーカの誘発反応感知チャネルによって記録され外部プログラマに伝送された試験電位図とテンプレート電位図を比較して捕捉を確認する。外部プログラマは、テレメトリ・リンクを使用してペーシング・パルス・エネルギを調整し、捕捉閾値を決定し、次いでペーシング・パルス・エネルギを臨床家の指示に従って、又は外部プログラマで稼動するソフトウェアによって、自動的に適正値に設定することができる。
【0021】
他の実施形態では、ペースメーカのコントローラは、試験電位図とテンプレート電位図を比較することによって捕捉を確認し、所与の時刻に自律的に、又はテレメトリ・リンクを介して受信される命令に従って、ペーシング・パルス・エネルギを変えることによって捕捉閾値を決定するようにプログラミングされる。次いでコントローラをさらに、所定の捕捉閾値に従ってペーシング・パルス・エネルギを自動的に設定するようにプログラミングすることができる。捕捉閾値の決定は、定期的に自動的に、又は外部プログラマと通信する臨床家の指示に従って実施することができる。コントローラは、拍動間隔に基づくペーシング・パルスによって捕捉を確認するようにプログラミングすることもできる。捕捉の損失が検出された場合、コントローラは、捕捉閾値の決定を実施し、ペーシング・パルス・エネルギを必要に応じて調整する。捕捉損失事象は、後で外部プログラマに伝送するためにコントローラのメモリにロギングすることもできる。
【0022】
図3Aは、ECG又は電位図波形を使用する両心室ペースメーカでの右心室と左心室のペーシング・チャネル(それぞれRV及びLVと呼ばれる)の閾値電圧を決定する例示の手順を示す。この自動閾値アルゴリズムは、ステップA1とA2で開始され、両心腔をペース調整し、ECG又は電位図を記録して、基準として使用される両心室(Bi−V)テンプレート波形を生成する。両心室についてのペーシング・パルス振幅は、両心室テンプレート波形の獲得中に捕捉を確保するために比較的高い値に設定される。テンプレート波形が得られた後、ステップA3で、システムにより次のペースの前にペーシング振幅の1つ、この場合はRVペーシング振幅が低減させる。RVペースは、捕捉を確認する際に試験波形として使用すべき、ペースに続いて到来するECG又は電位図の記録を開始させる。ステップA4で、テンプレート波形と試験波形の間の相互相関が行われる。波形が良好に相関した場合は、両方の心室ペーシング・チャネルが捕捉を行ったと想定され、ステップA3を繰り返してRVペーシング振幅を低減させる。ステップA4で相関の損失が検出された場合は、RVペーシング振幅が閾値電圧未満に低下したと想定される。次いでステップA5で捕捉閾値が、ステップA3で低減される前のRVペーシング振幅に決定される。次いで、ステップA6で、システムによりRVペーシング・パルス振幅を閾値電圧にある安全要因を加えたものに設定する。次いでステップA7で示したように、ステップA3からA6までをLVペーシング・チャネルについて繰り返して、LV捕捉閾値を見つけ、LVペーシング振幅を設定する。
【0023】
捕捉確認を用いた単一サイトのペーシング・システムでは、捕捉の損失が生じた後、心臓を迅速にペース調整することが望ましい。これは、心臓活性を維持するためにペーシングに依存する患者には特に重要である。外部プログラマECGに関連する遅延、及び外部プログラマとペースメーカの間の通信に使用されるテレメトリ・システムに関連する遅延により即時の安全ペーシングが妨害されることがよくある。しかし、上記で示した両心室自動閾値アルゴリズムには、追加の心室ペーシング・チャネルを有する安全バックアップ・ペースが固有に含まれていることに留意されたい。1つのチャネルが捕捉できなくても、他のチャネルがなお心室の収縮を生じさせ、心室機能が維持される。2つの心室ペーシング・サイトによって安全性がもたらされるため、自動閾値アルゴリズムは、1つの出力を高くして開始し、他方を閾下電圧から高くすることもできる。(これは当然、両心室の捕捉が生じない場合は再同期化療法の利点が失われるため、2〜3周期以上は望ましくない。)たとえば、テンプレートをRVだけのペーシングのために生成することができる。次いで、システムがBi−Vペーシングを検出するまでLVペーシング振幅を閾値電圧から高くする。したがって、この柔軟性により、適正な閾値に一致させる速度を速くするためのさらに効率の良い探索アルゴリズムが使用しやすくなる。
【0024】
図3Bで他の例示の手順を示す。これは、LV及びRV捕捉閾値を同時に決定して自動閾値アルゴリズムにかかる合計時間を短縮するものである。このアルゴリズムでは、先ずステップB1でRVだけの、ステップB2でLVだけの、かつステップB3でBi−Vのペーシング構成でテンプレートを獲得する。テンプレートを生成した後、それぞれステップB4及びB5で示したように、システムによりRV及びLVペーシング振幅をペースごとに同時に低減する。前のアルゴリズムと同様に、RVペースが試験波形の生成を開始させる。次いで、試験波形と3つのテンプレートの間の相互相関を実施する。ステップB6で試験波形とBi−Vテンプレートの間に高い相関が存在した場合、両方のペース振幅がまだ捕捉閾値より上にあると想定され、アルゴリズムはステップB4及びB5に戻る。他の方法では、ステップB7で、試験波形とRVだけのテンプレート、及び試験波形とLVだけのテンプレートの間の相互相関が実施される。LVだけのテンプレートと試験波形の間に高い相関が存在した場合、RVペーシング振幅が捕捉閾値未満に低減され、ステップB10でRV捕捉閾値が見つけられる。同様に、試験波形とRVだけのテンプレートの間の高い相関は、LVペース振幅が閾値電圧未満に低下したことを示し、ステップB8でLV捕捉閾値が見つけられる。ステップB8又はB10でペーシング・チャネルの捕捉閾値が見つけられた場合、次いでステップB9及びB11で、他のペーシング・チャネルについての捕捉閾値が見つけられてステップB13で手順を終了することができるか、又はステップB4あるいはB5に戻るかを試験する。システムが、試験波形と任意のテンプレートの間に相関がないことを示した場合は、両方のペーシング・チャネルが閾値未満に低下させられる。次いで、両方のペーシング・チャネルのための捕捉閾値が見つけられ、ステップB12及びB13で示したように、それに応じてペーシング閾値を調整することができる。
【0025】
図3A及び3Bで示した自動閾値アルゴリズムは、RV及びLVペーシング・チャネルについての捕捉閾値を決定し、それに応じてペーシング振幅を設定することが望まれる場合、ペースメーカのコントローラ又は外部プログラマのプロセッサによって実施することができる。しかし上記で示したように、テンプレートと試験波形の相互相関による捕捉の確認は、ペースメーカのコントローラによる拍動間隔に基づいて実施して、着装携行式自動捕捉機能を提供することもできる。図4A及び4Bは、自動捕捉を実施するための例示のアルゴリズムを示しており、捕捉確認試験がペースごとに行われる。
【0026】
先ず図4Aを参照すると、コントローラはステップC1で自動閾値アルゴリズムを実施する。その際、テンプレートがRVだけ、LVだけ、及びBi−Vのペーシング構成で得られ、捕捉閾値がLV及びRVペーシング・チャネルについて決定されて、ペーシング・パルス振幅をそれに応じて設定することができるようになされている。次いで装置は、ステップC2でアルゴリズムがペース調整された拍動を待つ間、正常に動作する。ステップC3で、到来信号を試験波形として使用し、Bi−Vテンプレートと相互相関して、RVとLVの両方のペーシング・パルスで捕捉が行われたか否かを確認する。Bi−Vテンプレートと試験波形が高く相関した場合は捕捉が確認され、アルゴリズムはステップC2にループ・バックする。試験波形とBi−Vテンプレートの相関の欠如が発見された場合は、ステップC4でアルゴリズムは試験波形とLV及びRVテンプレートを別々に相互相関する。試験波形がRVテンプレートと一致した場合は、LVペーシング・チャネルの捕捉の欠如が想定される。その場合は、ステップC5でLVペーシング・パルス振幅を増加し、アルゴリズムはステップC1に戻り、更新したテンプレートを獲得し、更新した捕捉閾値を決定できるようにする。同様に、試験波形がLVテンプレートを一致した場合は、ステップC6でRVペーシング・パルス振幅を増加し、アルゴリズムはステップC1に戻る。試験波形と2つのテンプレートの相関の欠如で示したように、RVペースもLVペースでも捕捉が行われなかった場合、RVとLVの両方のペーシング振幅をステップC7で増加する。次いでステップC8で自動閾値アルゴリズムが実施され、テンプレート及び捕捉閾値が更新され、それに応じてペーシング・パルス振幅が設定される。ステップC9で装置が更新されたペーシング・パルス振幅で動作するときに、捕捉確認試験が実施される。捕捉が行われた場合、アルゴリズムはステップC2及びC3の捕捉確認ループに戻る。後続のペースでもまだ捕捉が行われない場合、捕捉の欠如は、ペーシング・パルス・エネルギではなく、融合事象(すなわち、内因性収縮と同時に起こるペーシング・パルスによる捕捉)の発生、基準テンプレートの獲得の難しさ、又はペースメーカあるいはリード・システムの機能不良などの要因によると想定することができる。次いで、ステップC10でさらなる介入が必要であるという指示がメモリにロギングされ、それを外部プログラマとの次の通信セッション中に臨床家に通信することができる。
【0027】
図4Aで示した着装携行式自動捕捉アルゴリズムは、心室内に複数の心室ペーシング・サイトを有する固有の安全性に依存するものである。1つの腔が捕捉を行わない場合、もう一方の腔も同時に捕捉を行わない可能性は低い。しかし、ペースメーカが同時に両腔の捕捉を行わない可能性はある。心室の捕捉が生じない場合、バックアップ安全ペースを右心室に提供して、即座にペーシング療法を提供し、患者が目まいを感じ、又は意識を失うのを防ぐことが望ましい。本明細書で記載するテンプレート相互相関アルゴリズムは、特定の実装により、ペーシング活性を正確に確認するのに100msよりも長くかかる。これは通常、安全ペースを送出するには遅すぎる。さらに、融合事象が発生した場合、装置はt波へのペーシングを防止しなければならず、安全なペースを送出すべき場合は再び迅速に反応しなければならない。図4Bは、テンプレート認識の他に伝統的な誘発反応コンパレータを使用する着装携行式自動捕捉アルゴリズムを示す流れ図である。図4BのステップC1からC10は、図4Aを参照して上記に記載したものと同一である。しかし、それぞれペース調整された拍動の後、アルゴリズムはステップC11で、ペースに後続する特定の閾値を超える誘発反応を探す誘発反応コンパレータで捕捉の試験も行う。心室から誘発反応が生じた場合、いくらかの心臓心室活性が発生したと想定され、アルゴリズムはステップC3に進み、テンプレートの相関を行い、1つ又は複数の腔のどれが捕捉されたかを決定する。一方、ペースに後続して誘発反応が生じない場合、アルゴリズムはステップC12で安全ペースを右心室に与え、次いで、ステップC7に進むことによって、どのペーシング・パルスでも捕捉されなかったように前進する。こうすると、患者は著しい遅延なくペーシング療法を受ける。
【0028】
上記の捕捉確認方法では、電位図又はECG信号など試験脱分極波形が記録され、1つ又は複数のテンプレート波形と比較される。いくつかの実装形態では、これには、試験波形のセグメントの試料をメモリに格納し、次いで一致するテンプレート波形の資料と相互相関操作を行うペースメーカのプロセッサ又は外部プログラマが必要である。しかし、試験波形とテンプレートの記録及び相関は、相互相関操作を実行する有限インパルス・フィルタを通して到来する電位図又はECG信号の試料を渡すことによって実装することもできる。その場合、フィルタは、テンプレート波形の時間を逆にしたバージョンに等しい誘発反応を有する整合フィルタでもよい。したがって、試験波形は、整合フィルタのフィルタ係数によって表されるテンプレート波形と相互相関される。こうした整合フィルタを、RVだけ、LVだけ、及びBiVのテンプレート波形ごとに提供することができ、コントローラ、又は1つあるいは複数の専用ハードウェア構成要素によって実行される符号で実装することができる。
【0029】
試験又は誘発反応脱分極波形とテンプレートの比較による捕捉確認を、マルチサイト・ペーシングのコンテキストで上記に説明した。マルチサイト・ペーシングでは、対の心房の1つあるいは両方、又は対の心室の1つあるいは両方が心周期中に複数のペースでペース調整される。また理解されるように、誘発反応感知チャネルからの電位図など試験脱分極波形を単一ペーシング・パルスの送出中に記録し、次いで、ペーシング・パルスによる心臓の単一サイトの捕捉を示すテンプレート波形と比較して、送出されたペーシング・パルスによって捕捉が行われたか否かを決定することができる。
【0030】
c.テンプレートの獲得
上記に記載したように、試験脱分極波形と基準テンプレートの比較により、ペーシング・パルスが捕捉を行ったか否かを確実に決定するには、基準テンプレートが、探求される特定の誘発反応を正確に反映することが必要である。しかし、捕捉を行うのに十分であることが知られているパルス・エネルギを持つ脱分極波形の心周期中の単なる記録では、PVC、融合事象又は外部雑音の可能性のために良好な基準テンプレートが保証されない。SAノードから生じる興奮とは関係なく内因性心室収縮が起こる場合に、PVC又は早期心室収縮が起こる。融合事象は、ペーシング・パルスによる心臓の捕捉と同時に起こる内因性収縮の発生である。外部雑音は、外部プログラマからのテレメトリ伝送など任意の電磁エネルギ源によって生成される。基準テンプレートが記録されている間にこうした事象のいずれかが発生した場合、結果として得られるテンプレートは誤った波形になり、望ましい捕捉事象と相関せず、自動閾値ルーチン中に誤った結果をもたらすであろう。こうした問題を回避し、正確なテンプレートを作成するには、誤った事象の異常な性質をうまく利用するテンプレート獲得アルゴリズムを使用することができる。
【0031】
図5は、例示のテンプレート獲得ルーチンを示す流れ図である。基準テンプレートとしての融合ならびに他の異常事象の記録を回避するため、ルーチンで、連続誘発反応の相関係数(CC)を計算し、そのCCに基づいてどの反応をテンプレートとして保持するかを決定する。最初にステップD0及びD1で、2つの誘発反応を収集し、基準化する。この2つの基準化された誘発反応の相関を計算する。ステップD3で2つの波形が高く相関したことが判明した場合、次いでステップD4でそれらを平均し、その平均を再び基準化する。次いでアルゴリズムはステップD1に戻り、別の誘発反応を獲得する。ステップD2で試験したように、5つの誘発反応を平均するまで、このプロセスを継続する。一方、ステップD3で2つの複体が高く相関しない場合、アルゴリズムはいくつかの拍動だけ待機し、次いでステップD5で第3の誘発反応を収集する。臨床データは、PVC又はテレメトリ・プログラミングが、いくつかの拍動について誘発反応の形態に影響を与える可能性があることを示している。したがって、いくつかの拍動だけ待機することによって、継続前に可能な誘発反応の摂動がすべて終了することができるようにする。ステップD6で、第1と第3の誘発反応が高く相関する場合、第2の誘発反応は雑音又は融合とみなされる。次いでステップD7で、第2の誘発反応を捨て、ステップD4で第1と第3の誘発反応を平均する。ステップD6で、第1と第3の誘発反応が高く相関しない場合は、最初の複体は融合であったと想定される。摂動はPVC又は融合に続いていくつかの拍動だけ継続することができるため、第1の融合事象は、第2の誘発反応に影響を与えた可能性がある。したがって、アルゴリズムはステップD8で第3の誘発反応だけを保持し、ステップD1で再び開始される。
【0032】
d.両心室捕捉と右心室捕捉の識別
図6は、誘発反応感知チャネルとして使用されるショック・チャネルで被験者から得られた、それぞれ長さ400msのBiV、RV、LVペースの誘発反応の例を示す。図で分かるように、LV及びBiVペーシングの場合、誘発反応に大きい差が生じる。ショック電極が心臓の右側に配置されていることを考えると、感知ベクトルは、右心室からの活性の欠如を感知しやすいであろう。このことは当然、感知電極を心臓の右側に有する任意の誘発反応感知チャネルに当てはまる。逆に、BiV及びRV誘発反応は、高い類似度を示しており、この特定の被験者では、95%より高く相関している。RVとBiVの両方のペースは、r波複体で早期に右心室組織を同様に収縮させるため、これは予想されることである。右心室細胞の多くは、RV又はBiVペースから無反応であるように配置されており、左心室ペースからの波先が到達した後に、わずかなさらなる活性を可能にする。さらに、右心室からの信号の大きさは、左側からのどの遠距離電磁界信号も圧倒することができる。
【0033】
この例のBiVとRVテンプレートの高い類似性は、心臓の右側に配置された電極を有するショック・チャネル又は任意の感知チャネルが誘発反応感知チャネルとして使用される場合、標準の相互相関技法が、BiVとRV捕捉を識別するには十分でないことを示唆している。したがって第2の基準を使用して、右側感知ベクトルでBiVとRV誘発反応を完全に識別することができる。2つのこうした誘発反応の最高レベルの差は、s−t移行中に1ペースに続いて約200ms発生することが判明している。幾人かの実験の被験者の右側感知ベクトルでのBiV及びRV捕捉に対する基準化された誘発反応は、この時間間隔中は一貫し相違することが判明した。この形態の相違を使用し、ペースに続く200〜300msのサブウィンドウ間隔中の基準化された誘発反応の合計エネルギを計算して、BiVとRVの捕捉を識別することができる。得られたBiV及びRVテンプレートを最初に使用して、両方のテンプレートのエネルギを計算する。次いで、エネルギの差の半分を取ってエネルギ範囲を決めることができる。
【0034】
【数1】

ただし、Emaxはテンプレート・エネルギの大きい方であり、Eminは小さい方の値であり、Elimitはエネルギ範囲又は限度値である。たとえば、RVテンプレートは、サブウィンドウではBiVテンプレートよりも大きいエネルギを有することができる。限度を超えるエネルギを有する基準化誘発反応は、RV捕捉として分類され、限度未満の合計エネルギを有する基準化誘発反応はBiV捕捉として示される。逆に、RVテンプレートがサブウィンドウでBiVテンプレートよりも小さいエネルギを有する場合、限度よりも大きい合計エネルギを有する誘発反応はBiV捕捉として分類される。理解されるように、誘発反応感知チャネルが心臓の左側に配置された感知リードを有する場合に、同じ方法を使用してBiVとLV捕捉を識別することができる。
【0035】
今述べたBiV/RV捕捉を識別する方法では、右側感知のためにBiVとRVの誘発反応波形が同様であるが、BiVとRVの捕捉は、ペースに続く特定のサブウィンドウ間隔における合計信号エネルギの測定によって識別される。このBiV/RV捕捉識別方法が必要とされるか否かは、特定の患者と誘発反応を感知するのに使用される電極構成の両方に依存する。テンプレートに基づく捕捉確認アルゴリズムを以下で論じる。このアルゴリズムはとりわけBiV/RV捕捉識別方法を用い、この方法を使用すべきときを決定するための追加の相関基準を使用する。
【0036】
e.誘発反応の識別を向上させるアルゴリズム
図3A〜B及び4A〜Bを参照して上記で論じた捕捉確認アルゴリズムでは、誘発反応波形が特定のテンプレート波形と良好に相関した場合、1つ又は両方の心室の捕捉が想定された。しかし理想的には、テンプレートに基づく捕捉確認アルゴリズムは、5つの事象、BiV捕捉、RV捕捉、LV捕捉、融合、又は不全収縮をそれぞれ確実に識別する。また上記で論じたように、誘発反応と左心室、右心室、又は両心室の捕捉を示すテンプレート波形との単純な相関では、両心室の捕捉と誘発反応感知電極が配置された心室の捕捉とを確実に識別することができない。
【0037】
追加の検出基準を用いて可能な誘発反応事象をすべて識別する、テンプレートに基づく捕捉確認アルゴリズムを図7で示す。アルゴリズムに特異性を付加するため、誘発反応波形を、BiV、RV、LV捕捉を示すテンプレート波形と相関させ、次いでそれがBiV、RV、LV捕捉の複数の基準を満たすか否かによって分類する。捕捉の各形態を検出するための複数の基準には、その形態の捕捉を示すテンプレート波形との高度の相関だけでなく、様々なテンプレート波形の間の相関に従って選択された特定の範囲内の他のテンプレート波形との相関値も必要とされる。たとえば、誘発反応波形がBiVテンプレートと高く相関し、RV及びLVテンプレートとはBiVテンプレートと概ね同じ程度に相関する場合、その誘発反応波形はBiV捕捉の基準を満たすものとしてのみ分類される。誘発反応波形がBiVとRVの捕捉の両方の基準を満たす場合は、上記で論じたサブウィンドウ間隔での信号エネルギを使用するBiV/RV識別方法を使用する。捕捉基準がどれも誘発反応波形と一致しない場合、アルゴリズムは、誘発反応波形の合計信号エネルギに従って、不全収縮(すなわち捕捉がない)又は融合拍動を検出する。
【0038】
図7を参照すると、アルゴリズムはステップE0で、テンプレートの獲得を開始する。有効な比較のための十分な信号を確保するため、誘発反応とテンプレート波形の両方をペースに続いて400ミリ秒間記録する。例示のサンプル・レート200Hzでは、80のサンプルのアレイがそれぞれ400ms記録されたテンプレート又は誘発反応波形を構成する。アルゴリズムにより、心臓を適正なペーシング・モードでペーシングし、その結果得られた波形を記録することによって、BiV、RV、LV捕捉事象についてのテンプレートを生成する。テンプレート獲得中、装置を高ペーシング出力電圧にプログラミングして、ペーシング出力からの捕捉を確保する。アルゴリズムにより、図5を参照して上記に記載したテンプレート獲得ルーチンを使用して、テンプレートが様々な捕捉事象を忠実に反映するようにすることができる。
【0039】
ステップE0でのテンプレートの生成に続いて、ステップE1でテンプレート間の相関係数を計算して、3つのテンプレートすべての間の類似度を測定する。相関係数は、以下のように計算される。
【0040】
【数2】

ただし、xは第1のテンプレート、yは第2のテンプレート、かつnはテンプレート内のサンプル数である。分母項はテンプレートごとの基準化係数であることに留意されたい。したがって、3つのテンプレート相関係数、CCBiV&RV.、CCBiV&LV、CCLV&RVがもたらされる。テンプレート間のこうした相関係数を使用して、誘発反応波形を分類する助けをする範囲を確立する。図8は、図6で示した波形のテンプレート相関係数のプロットを示す。予想されるように、BiVとRV波形の類似性は、2つのテンプレートの間の高い相関をもたらす。あるいは、LV波形と、RV波形、BiVの両波形との間の類似性の欠如は低い相関をもたらす。計算された相関係数の両側にある例示の+/−20パーセント点で範囲が確立される。テンプレート相互相関についてのこうした範囲を使用して、誘発反応が1つのテンプレートと高く相関するか否かだけでなく、他の2つのテンプレートと予想された範囲で相関するか否かを決定することによって特定の捕捉事象をより具体的に検出することができる。
【0041】
テンプレートと範囲が適正に確立された後、アルゴリズムはステップE2で後続のペース調整された拍動の捕捉を決定する準備ができている。ペースに続いて、誘発反応信号の400ms部分を収集し基準化する。
【0042】
【数3】

ただし、ERは誘発反応波形、かつnは波形内のサンプル数である。次に、基準化誘発反応波形と各基準化テンプレートの間の相関係数を計算して、ER波形をテンプレートと相互相関させる。
【0043】
【数4】

【0044】
次にステップE3からE5で、3つの可能な捕捉事象、BiV、RV、又はLV捕捉ごとに複数の基準に従って誘発反応を分類する。誘発反応は、1つ又は複数のこうした事象についての基準を満たすことができ、又はどの基準も満たすことができない。特定の捕捉事象についての基準を満たすには、その捕捉事象についての誘発反応波形とテンプレートの相関係数が特定の閾値(この実装形態では0.9)より大きくなければならず、誘発反応波形と他のテンプレートの間の相関係数がステップE1で決めた範囲内になければならない。一例として、ERがBiVテンプレートと高く相関し、ステップE3の第1の基準を満たしていると仮定する。ERと他の2つのテンプレートの相互相関が、ステップE2での前のテンプレート分析によって予想された範囲内にある場合、ERは両心室捕捉として分類される。換言すれば、予想されたようにERがBiVテンプレートの形態と密接に一致し、他のテンプレートとは一致しない場合、その波形は両心室捕捉として分類される。
【0045】
ER波形がステップE3からE5の基準に従って分類された後、後続のステップで最終検出結果が決定される。ER波形が、ステップE6で決定されたようにBiV捕捉とRV捕捉の両方についての基準を満たす場合、ペースに後続するサブウィンドウ200〜300ms内のER波形の合計エネルギは、ステップE7で第2の識別基準として使用される。サブウィンドウ内の合計エネルギが特定の限度を超える、又は限度未満の場合、ステップE11でRV捕捉が検出される。さもなければ、BiV捕捉がステップE9で検出される。ER波形が1つの捕捉事象だけについての基準を満たすものとして分類される場合、アルゴリズムによりステップE8からE13で、BiV、RV、又はLV捕捉が検出される。ER波形がどの捕捉事象基準も満たしていないものとして分類される場合、アルゴリズムにより不全収縮又は融合拍動が検出される。ER波形の合計エネルギが、ステップE14で決定したように、基準化前のBiVテンプレートのエネルギの特定の閾値パーセント(たとえば10%)未満の場合、ステップE15で不全収縮が宣言される。さもなければ、ER波形が捕捉事象基準をどれも満たしていないが、なお心臓活性を示していることが判明したため、ステップE16でそのペースは融合拍動として分類される。
【0046】
本発明を以上の特定の実施形態と併せて説明したが、多くの変更形態、変形形態、及び修正形態が当業者には明らかであろう。こうした変更形態、変形形態、及び修正形態は、特許請求の範囲内にあるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】マルチサイト・ペースメーカを示すブロック図である。
【図2】1ペースの後に記録されたECG及びテンプレートECGを示す図である。
【図3A】捕捉閾値を決定するアルゴリズムの例示の実施形態を示す図である。
【図3B】捕捉閾値を決定するアルゴリズムの例示の実施形態を示す図である。
【図4A】自動捕捉アルゴリズムの例示の実施形態を示す図である。
【図4B】自動捕捉アルゴリズムの例示の実施形態を示す図である。
【図5】例示のテンプレート獲得アルゴリズムを示す図である。
【図6】BiV、RV、LVのペース調整された誘発反応の例を示す図である。
【図7】誘発反応間の識別を向上させるためのアルゴリズムを示す図である。
【図8】図6で示したものなどテンプレート相関係数波形のプロットを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各チャネルが、心腔付近に配置された電極、ペーシング・パルスを出力するためのパルス発生器、前記ペーシング・パルスのエネルギを調整するためのチャネル・インターフェースを備える、第1と第2のペーシング・チャネルと、
プログラムによるペーシング・モードに従って、パルス発生器の動作を制御するコントローラと、
電極及びペーシング・パルスの後に生成される誘発反応を感知するセンス増幅器を備える誘発反応感知チャネルとを含み、
前記コントローラが、
第1と第2のペーシング・パルスを心周期中にそれぞれ前記第1と第2のペーシング・チャネルから対の心房の1つあるいは両方、又は対の心室の1つあるいは両方に送出し、
前記誘発反応感知チャネルからの誘発反応波形を記録し、
両方のペーシング・パルスによる捕捉、第1のペーシング・パルスによる捕捉、第2のペーシング・パルスによる捕捉を示しているテンプレート波形と前記誘発反応波形との相関を調べ、
前記誘発反応波形が1つのテンプレート波形と高く相関し、特定の範囲内で他のテンプレート波形との相関値を有する場合は、前記誘発反応をテンプレート波形によって示される捕捉のタイプを示すものとして分類するようにプログラミングされる、心臓ペースメーカ。
【請求項2】
前記コントローラが、前記誘発反応波形が1つのテンプレート波形と高く相関し、前記誘発反応波形が高く相関する前記テンプレート波形と概ね同じ程度に他のテンプレート波形と相関する場合に、前記誘発反応をテンプレート波形によって示される捕捉のタイプを示すものとして分類するようにプログラミングされる請求項1に記載のペースメーカ。
【請求項3】
前記第1と第2のペーシング・チャネルが右心室と左心室のペーシング・チャネルであり、前記コントローラが、それぞれRV、LV、BiV捕捉を示すRV、LV、BiVテンプレートと前記誘発反応波形とが相関することによって、前記誘発反応が右心室(RV)捕捉、左心室(LV)捕捉、又は両心室(BiV)捕捉を示すものとして分類されるようにプログラミングされる請求項1に記載のペースメーカ。
【請求項4】
前記コントローラが、
前記誘発反応波形が前記BiVテンプレートと高く相関し、前記BiVテンプレートと概ね同じ程度にそれぞれ前記RV及びLVテンプレートと相関する場合に、前記誘発反応をBiV捕捉を示すのもとして分類し、
前記誘発反応波形が前記RVテンプレートと高く相関し、前記RVテンプレートと概ね同じ程度にそれぞれ前記BiV及びLVテンプレートと相関する場合に、前記誘発反応をRV捕捉を示すのもとして分類し、
前記誘発反応波形が前記LVテンプレートと高く相関し、前記LVテンプレートと概ね同じ程度にそれぞれ前記RV及びBiVテンプレートと相関する場合に、前記誘発反応をLV捕捉を示すのもとして分類するようにプログラミングされる請求項3に記載のペースメーカ。
【請求項5】
前記コントローラが、前記誘発反応がそれぞれBiV、RV、又はLV捕捉の1つだけを示すものとして分類される場合に、BiV、RV、又はLV捕捉を検出するようにプログラミングされる請求項4に記載のペースメーカ。
【請求項6】
前記コントローラが、前記誘発反応がRVとBiV捕捉の両方を示すものとして最初に分類された場合に、特定のサブウィンドウの時間間隔内で前記誘発反応の信号エネルギに従ってBiV又はRV捕捉を検出するようにプログラミングされる請求項5に記載のペースメーカ。
【請求項7】
前記コントローラが、前記誘発反応がRVとBiV捕捉の両方を示すものとして最初に分類された場合に、前記誘発反応の信号エネルギが特定のサブウィンドウの時間間隔内でBiVとRVテンプレートの信号エネルギの間の限度エネルギ値よりも大きいか小さいかによってBiV又はRV捕捉を検出するようにプログラミングされる請求項6に記載のペースメーカ。
【請求項8】
前記特定のサブウィンドウ時間間隔が、1ペースに続く約200〜300msである請求項6に記載のペースメーカ。
【請求項9】
前記コントローラが、前記誘発反応波形がBiV、RV、又はLV捕捉として分類されない場合に、前記誘発反応波形の合計信号エネルギに従って不全収縮又は融合拍動を検出するようにプログラミングされる請求項3に記載のペースメーカ。
【請求項10】
前記コントローラが、
捕捉を生じる十分なエネルギを有する1つ又は複数のペーシング・パルスを出力し、
1つ又は複数のペーシング・パルスからの第1の誘発反応を記録し、
後続の1つ又は複数のペーシング・パルスからの第2の誘発反応を記録し、
前記第1と第2の記録された誘発反応が相関し、
前記第1と第2のテンプレート波形が特定の程度に相関する場合にのみ、前記第1と第2の記録された誘発反応を平均してテンプレート波形を形成することによって、
第1、第2、又は両方のペーシング・パルスによる捕捉を示すテンプレート波形を獲得するようにプログラミングされる請求項1に記載のペースメーカ。
【請求項11】
プログラムによるペーシング・モードに従って、第1と第2のペーシング・パルスを心周期中に対の心房の1つあるいは両方、又は対の心室の1つあるいは両方に送出すること、
ペーシング・パルスの後に生じた誘発反応を感知すること、
誘発反応感知チャネルからの誘発反応波形を記録すること、
両方のペーシング・パルスによる捕捉、第1のペーシング・パルスによる捕捉、第2のペーシング・パルスによる捕捉を示すテンプレート波形と前記誘発反応波形とを相関させること、
前記誘発反応波形が1つのテンプレート波形と高く相関し、特定の範囲内で他のテンプレート波形との相関値を有する場合は、前記誘発反応をテンプレート波形によって示される捕捉のタイプを示すものとして分類すること
を含む、心臓ペースメーカを操作する方法。
【請求項12】
前記誘発反応波形が1つのテンプレート波形と高く相関し、前記誘発反応波形が高く相関する前記テンプレート波形と概ね同じ程度に他のテンプレート波形と相関する場合に、前記誘発反応をテンプレート波形によって示される捕捉のタイプを示すものとして分類することをさらに含む請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第1と第2のペーシング・パルスが右心室と左心室に出力され、前記誘発反応波形とそれぞれRV、LV、BiV捕捉を示すRV、LV、BiVテンプレートを相関させることによって、前記誘発反応を右心室(RV)捕捉、左心室(LV)捕捉、又は両心室(BiV)捕捉を示すものとして分類することをさらに含む請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記誘発反応波形が前記BiVテンプレートと高く相関し、前記BiVテンプレートと概ね同じ程度にそれぞれ前記RV及びLVテンプレートと相関する場合に、前記誘発反応をBiV捕捉を示すのもとして分類すること、
前記誘発反応波形が前記RVテンプレートと高く相関し、前記RVテンプレートと概ね同じ程度にそれぞれ前記BiV及びLVテンプレートと相関する場合に、前記誘発反応をRV捕捉を示すのもとして分類すること、
前記誘発反応波形が前記LVテンプレートと高く相関し、前記LVテンプレートと概ね同じ程度にそれぞれ前記RV及びBiVテンプレートと相関する場合に、前記誘発反応をLV捕捉を示すのもとして分類することをさらに含む請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記誘発反応がそれぞれBiV、RV、又はLV捕捉の1つだけを示すものとして分類される場合に、BiV、RV、又はLV捕捉を検出することをさらに含む請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記誘発反応がRVとBiV捕捉の両方を示すものとして最初に分類された場合に、特定のサブウィンドウの時間間隔内で前記誘発反応の信号エネルギに従ってBiV又はRV捕捉を検出することをさらに含む請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記誘発反応がRVとBiV捕捉の両方を示すものとして最初に分類された場合に、特定のサブウィンドウの時間間隔内での前記誘発反応の信号エネルギがBiVとRVテンプレートの信号エネルギの間の限度エネルギ値よりも大きいか小さいかによってBiV又はRV捕捉を検出することをさらに含む請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記特定のサブウィンドウ時間間隔が、1ペースに続く約200〜300msである請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記誘発反応波形がBiV、RV、又はLV捕捉として分類されない場合に、前記誘発反応波形の合計信号エネルギに従って不全収縮又は融合拍動を検出することをさらに含む請求項13に記載の方法。
【請求項20】
第1、第2、又は両方のペーシング・パルスによる捕捉を示すテンプレート波形を獲得する方法であって、
捕捉を生じる十分なエネルギを有する1つ又は複数のペーシング・パルスを出力するステップと、
1つ又は複数のペーシング・パルスからの第1の誘発反応を記録するステップと、
後続の1つ又は複数のペーシング・パルスからの第2の誘発反応を記録するステップと、
前記第1と第2の記録された誘発反応を相関させるステップと、
前記第1と第2のテンプレート波形が特定の程度に相関する場合にのみ、前記第1と第2の記録された誘発反応を平均することによってテンプレート波形を形成するステップと
を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2006−500106(P2006−500106A)
【公表日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−537888(P2004−537888)
【出願日】平成15年9月19日(2003.9.19)
【国際出願番号】PCT/US2003/029181
【国際公開番号】WO2004/026398
【国際公開日】平成16年4月1日(2004.4.1)
【出願人】(505003528)カーディアック・ペースメーカーズ・インコーポレーテッド (466)
【Fターム(参考)】