説明

捲回電極およびその製造方法、並びにそれを用いた電池

【課題】多孔性絶縁層の割れの恐れが緩和され、より信頼性の高い捲回電極およびそれを用いた電池を提供する。
【解決手段】1対の帯状の多孔性絶縁層2a,2bと、多孔性絶縁層2a,2b間に配置され負極活物質層3a,3bを含む帯状の負極3と、1対の多孔性絶縁層2a,2bのうちの一方の多孔性絶縁層2a側に積層され正極活物質層4a,4bを含む帯状の正極4とを含んだ積層体が、捲回された捲回電極1であって、1対の多孔性絶縁層2a,2bと少なくとも負極3とが一体化されており、捲回電極1の最内周は、正極4の捲き始め部分4dからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捲回電極およびその製造方法、並びにそれを用いた電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、PDA、ノートパソコン等のモバイル機器の重要性が高まるとともにそれに搭載される電池の重要性もますます増している。特に、環境への配慮から、繰り返し充電できる2次電池の重要性が増大している。2次電池は、自動車、電動自転車、家庭用電力貯蔵システム、または業務用電力貯蔵システム等への適用が検討されている。
【0003】
電池を構成する1対の帯状の電極(正極、負極)は、通常、金属箔の両面に、活物質とバインダーとを含む活物質層が形成された構造をしている。正極と負極との間、および負極の正極側の反対側にはそれぞれ、セパレータと呼ばれる、例えば、帯状のポリエチレン製微多孔膜が配置されており、正極と負極と2枚のセパレータを含む積層体は、例えば、円筒状、または扁平状に捲回され、電解液と伴に容器内に収められている。上記セパレータは、正極と負極とを絶縁している。携帯電話等に通常用いられている角型のLiイオン電池では、缶の内部の体積を有効に利用するために、積層体が扁平状に捲回された捲回電極が用いられている。
【0004】
ところで、積層体を捲回する際に、電極とセパレータとがずれないように、捲回前に、電極とセパレータとを一体化することが提案されている。例えば、上記ポリエチレン製微多孔膜のような独立したフィルムに代えて、負極の活物質層に絶縁性樹脂を塗布することにより形成された多孔性絶縁層をセパレータとして用いることが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0005】
図7に、従来の捲回電極11の一例を示している。図7において、41は正極であり、正極41は、1対の正極活物質層41a,41bと、正極活物質層41a,41bの間に配置された正極集電体41cとを含む。31は負極であり、負極31は、1対の負極活物質層31a,31bと、負極活物質層31a,31bの間に配置された負極集電体31cとを含む。21a,21bは多孔性絶縁層であり、それぞれ、負極活物質層41a,41bに接合されている。捲回電極11の最内周は負極31の捲き始め部分からなり、捲回電極11では、最内周側から最外周側に向って、負極31、多孔性絶縁層21b、正極41、多孔性絶縁層21a・・・・がこの順で配置されている。また、正極41および負極31の長手方向の長さはほぼ等しい(例えば、特許文献4参照)。
【特許文献1】特開平11−288741号公報
【特許文献2】特開平11−86844号公報
【特許文献3】特開2003−264005号公報
【特許文献4】第3557240号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、曲率が最も大きい部分を含む捲回電極の最内周が負極31からなると、負極活性層31aに接合された多孔性絶縁層21bに割れが生じ易い。多孔性絶縁層21bに割れが生じると正極および負極間に短絡が生じる恐れがある。そのため、上記曲率が大きい部分において、短絡が生じることが懸念されるという問題があった。多孔性絶縁層21bの割れは、特に、捲回電極が扁平状である場合により一層起こり易い。
【0007】
本発明は、多孔性絶縁層の割れの恐れが緩和され、より信頼性の高い捲回電極およびそれを用いた電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の捲回電極は、1対の帯状の多孔性絶縁層と、前記1対の多孔性絶縁層の間に配置され負極活物質層を含む帯状の負極と、前記1対の多孔性絶縁層のうちの一方の多孔性絶縁層側に積層され正極活物質層を含む帯状の正極とを含む積層体が、捲回された捲回電極であって、前記1対の多孔性絶縁層と少なくとも前記負極とが一体化されており、前記捲回電極の最内周が、前記正極の捲き始め部分からなることを特徴とする。
【0009】
本発明の電池は、本発明の捲回電極が、容器内に収められていることを特徴とする。
【0010】
本発明の捲回電極の製造方法は、1対の負極活物質層と、前記1対の負極活物質層の間に配置された負極集電体とを含む帯状の負極の各負極活物質層上に、絶縁性樹脂を含む塗料を塗布して1対の多孔性絶縁層を形成した後、1対の正極活物質層と、前記1対の正極活物質層の間に配置された正極集電体とを含む帯状の正極と前記負極とを重ねて、前記1対の多孔性絶縁層のうちの一方の多孔性絶縁層と前記正極とが非接合状態で接した積層体を形成し、前記積層体を捲回する捲回工程を含み、前記捲回工程において、前記正極の捲き始め側端面と前記負極の捲き始め側端面とが揃うように、または前記正極の捲き始め側端部が前記負極の捲き始め側端部から突き出るように、前記正極と前記負極とを重ね、前記積層体の正極側が内側となるように前記積層体を捲回することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、捲回電極のうちの最も曲率が大きい部分を含む捲回電極の最内周が、正極の捲き始め部分からなるので、1対の多孔性絶縁層が一体化された負極は、上記最内周の外側に配置されることとなる。そのため、捲回電極の製造過程において、積層体を捲回する際に、負極に一体化された多孔性絶縁層の割れの恐れが緩和され、その結果として、信頼性の高い捲回電極およびそれを用いた電池を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0013】
本実施形態では、Liイオン電池を構成する捲回電極およびその製造方法、並びに上記捲回電極を用いたLiイオン電池を例に挙げて説明する。
【0014】
図1には、本実施形態の捲回電極の一例を、図2には、図1に示した捲回電極を構成する積層体の捲き始め側を、図3には、上記積層体の捲き終り側を示している。
【0015】
図1〜図3に示すように、本実施形態の捲回電極1は、1対の帯状の多孔性絶縁層2a,2bと、多孔性絶縁層2a,2b間に配置された帯状の負極3と、帯状の正極4とを含む積層体が、偏平状に捲回された構造をしている。図1〜図3に示した例では、正極4は、1対の多孔性絶縁層2a,2bのうちの一方の多孔性絶縁層2a側に積層されている。
【0016】
負極3は、2層の負極活物質層3a,3bと、2層の負極活物質層3a,3bの間に配置された負極集電体3cとを含み、正極4は、2層の正極活物質層4a,4bと、2層の正極活物質層4a,4bの間に配置された正極集電体4cとを含んでいる。正極活物質層4a,4bは、リチウムイオンを放出可能な正極活物質を含んでいる。負極活物質層3a,3bは、正極活物質から放出されるリチウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質を含んでいる。
【0017】
積層体が捲回される前後において、多孔性絶縁層2aは負極活物質層3aに、多孔性絶縁層2bは負極活物質層3bに接合されており、1対の多孔性絶縁層2a,2bと負極3は一体化されている。尚、正極4の正極活物質層4aと多孔性絶縁層2a、正極活物質層4bと多孔性絶縁層2bは、積層体が捲回される前においては、接合されていないが、積層体が捲回された後においては、接合されていてもよいし、接合されていなくてもよい。
【0018】
捲回電極1では、捲回電極1のうちの最も曲率が大きい部分を含む最内周が、正極4の捲き始め部分4dからなるので、1対の多孔性絶縁層2a,2bと一体化された負極3は、上記最内周の外側に配置されることとなる。そのため、捲回電極1の製造過程において、積層体を捲回する際に、負極活物質層3aに一体化された多孔性絶縁層2aの割れの恐れが緩和されている。よって、本実施形態の捲回電極およびこれを用いた電池は、信頼性が高い。
【0019】
図4に示すように、負極3は、正極4よりも幅広であり、負極3の幅方向の両縁部3fが正極4からはみでていると好ましい。リチウムイオン電池では、電池の使用に伴って負極3の周縁部に析出するリチウムデンドライトが、多孔性絶縁層2a、2bを突き破って正極4に接触し、短絡を引き起こして電池を短寿命化してしまうという問題がある。負極3の幅を、正極4のそれよりも大きくし、負極3の幅方向の両縁部3fが正極4からはみでるように、正極と負極とを配置すれば、負極の両縁部3fにおけるリチウムデンドライトの析出を抑制でき、その結果、短絡を抑制できる。
【0020】
負極3の幅が正極4のそれよりも大きい場合、1対の多孔性絶縁層2a、2bの幅についても、正極4のそれより大きいと好ましい。負極3と正極4との絶縁を確実に行えるからである。
【0021】
2層の正極活物質層4a,4bのうちの、相対的に内側に捲回された正極活物質層4bは、正極集電体4cの捲き始め部分4d'を避けて形成されていると好ましい。正極4の捲き始め部分4dにおいて、正極集電体4cの内側の面に正極活物質層4bの一部が存在しても、その正極活物質層4bの一部に対向する負極活物質層が存在しないので、その正極活物質層の一部は充放電に寄与しない。そのため、コスト低減の観点から、正極活物質層4bは、正極集電体4cの捲き始め部分4d'を避けて形成されていると好ましい。
【0022】
尚、相対的に内側に捲回された正極活物質層4bとは、捲回電極1を構成する正極4の所定の箇所において、1対の正極活物質層4a,4bを観察した場合に、内側に配置された正極活物質層4bのことを意味する。また、本実施形態の捲回電極では、正極集電体4cの捲き始め部分4d'は、正極4の捲き始め部分4dでもある。
【0023】
正極活物質層4a,4bに含まれる正極活物質としては、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O、LiFePo4等の無機酸化物を用いることができる。
【0024】
正極活物質層4a,4bは、正極活物質の他に、必要に応じて、導電性材料を含んでいてもよい。導電性材料としては、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、黒鉛、非晶質炭素等の炭素材料が挙げられる。これらの導電性材料は、単独または混合して用いることができる。
【0025】
正極活物質層4a,4bは、例えば、上記正極活物質と、上記導電性材料と、バインダーとを混合したスラリーを、正極集電体4cに塗布した後、正極集電体4cに塗布されたスラリーを乾燥し、次いで、厚み方向にプレスすることで形成できる。バインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系材料、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム系材料等が挙げられる。これらのバインダーは、単独又は混合して用いることができる。
【0026】
負極活物質層3a,3bに含まれる負極活物質としては、例えば、Sn、Si等のLiと合金化可能な金属、金属リチウム、LiAl合金、非晶質炭素、人造黒鉛、天然黒鉛、フラーレン、ナノチューブ等のリチウムを吸蔵放出可能な炭素系材料、Li4Ti512、Li2Ti37等のリチウムを吸蔵放出可能なチタン酸リチウム等を用いることができる。
【0027】
負極活物質層3a,3bは、上記負極活物質の他に、必要に応じて導電性材料を含んでいてもよい。導電性材料としては、AB、KB、非晶質炭素等の炭素材料が挙げられる。これらの導電性材料は、単独または混合して用いてもよい。
【0028】
負極活物質層3a,3bは、例えば、上記負極活物質と、上記導電性材料と、バインダーとを混合したスラリーを、負極集電体3cに塗布した後、負極集電体3cに塗布されたスラリーを乾燥し、次いで、厚み方向にプレスすることで形成できる。バインダーとしては、PVDF、PTFE、SBR、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。これらのバインダーは、単独又は混合して用いてもよい。
【0029】
正極集電体4cには、例えば、Al箔等が用いられ、負極集電体3cには、例えば、Cu箔等が用いられる。
【0030】
多孔性絶縁層2a,2bとしては、正極4と負極3との絶縁を実現でき、かつリチウムイオンが移動可能な細孔を有していれば、その材料、形態等について特に制限はない。多孔性絶縁層2a,2bは、例えば、有機微粒子とバインダーとを含む塗料、無機粒子とバインダーとを含む塗料、または有機微粒子と無機微粒子とバインダーとを含む塗料を、負極活物質層3a,3bに塗布することにより形成できる。塗布は、ドクターブレード法、またはスプレー塗布等の方法で行える。多孔性絶縁層2a,2bは、いわゆるシャットダウン機能を有していると好ましい。シャットダウン機能とは、電池内部の温度が上昇しすぎた際に、多孔性絶縁層2a,2bの細孔を塞いで、多孔性絶縁層のイオン伝導性を消失させる機能のことをいう。
【0031】
有機微粒子の材料としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)、ポリ乳酸等の熱可塑性樹脂が挙げられる。無機微粒子の材料としては、例えば、アルミナやシリカ等の無機酸化物が挙げられる。塗料は、上記熱可塑性樹脂と無機酸化物とを含む複合材からなる微粒子を含んでいてもよい。
【0032】
塗料に含まれるバインダーとしては、例えば、PVDF、PTFE、SBR等を用いることができる。尚、有機微粒子自体が接着性を有する場合、例えば、有機微粒子の材料がEVA等である場合、バインダーは必ずしも必要ではない。
【0033】
多孔性絶縁層2a,2bは、下記の方法で形成することもできる。(1)樹脂が溶媒(良溶媒)に溶解された樹脂溶液を、負極活物質層3a,3bに塗布した後、塗布された樹脂溶液を乾燥させる前に貧溶媒中に浸漬して、微多孔構造の樹脂塗膜を凝集析出させる。
【0034】
(2)上記樹脂溶液に貧溶媒または無機塩等をさらに混合し、得られた塗料を負極活物質層3a,3bに塗布する。次に、負極活物質層3a,3bに塗布された塗料から良溶媒を乾燥除去し、次いで、乾燥または抽出等の方法により貧溶媒または無機塩を除去して、多孔性絶縁層を得る。
【0035】
樹脂溶液中の樹脂としては、例えば、PVDF、ポリサルフォン、塩素化PP等を、良溶媒としては、例えば、トルエン、N−メチルピロリドン(NMP)等を、貧溶媒としては、例えば、水、アルコール等を、無機塩としては、例えば、LiBr、LiI等を用いることができる。
【0036】
(3)エンジニアリングプラスチック、ホットメルト接着剤、粘着性付与剤、無機フィラーからなる微多孔質膜(例えば、特開2004−2658号公報参照)を、熱プレス等により、負極の両面に一体化して、多孔性絶縁層2a、2bとしてもよい。また、上記微多孔質膜は、負極上に直接形成してもよい。
【0037】
本実施形態の捲回電極においても、従来の捲回電極と同様に、正極は、電池の正極端子と正極集電体4cとを電気接続する正極集電タブ7(図2参照)を、負極は、電池の負極端子と負極集電体3cとを電気接続する負極集電タブ8(図3参照)を含んでいる。
【0038】
図2に示すように、正極集電体4cは、2層の正極活物質層4a,4bが形成されていない正極活物質層欠如部4c'を、その捲き始め側に含み、正極活物質層欠如部4c'に正極集電タブ7が接合されていると好ましい。正極集電体4cの正極集電タブ7が接合される面の反対面に正極活物質層が存在すると、正極集電体4cと正極集電タブ7との接合後に、この正極活物質層が剥がれ落ちる等して、電池特性に悪影響を及ぼす可能性がある。正極集電体4cが2層の正極活物質層4a,4bが形成されていない正極活物質層欠如部4c'を含み、正極活物質層欠如部4c'に正極集電タブ7が接合される場合、上記した正極活物質層の剥がれ落ちによる電池への悪影響は生じない。同様の理由により、図3に示すように、負極集電体3cについても、2層の負極活物質層3a,3bが形成されていない負極活物質層欠如部3c'を、その捲き終り側に含み、負極活物質層欠如部3c'に負極集電タブ8が接合されていると好ましい。
【0039】
正極集電タブ7および正極集電タブ8の形状について特に制限はないが、例えば、短冊状である。正極集電タブ7の材料としては、例えば、Al、Ni等が用いられ、負極集電タブ8の材料としては、例えば、Cu、Ni等が用いられる。
【0040】
図1〜図3に示した例では、多孔性絶縁層2a,2bは、それぞれ負極活物質層3a,3b上にのみ形成されているが、多孔性絶縁層2a,2bの形態はこれに制限されない。負極集電体3cの両面のうちの少なくとも一方について、負極活物質層が形成されていない箇所の全部または一部が、多孔性絶縁層で覆われていてもよい。負極集電体3cの両面のうちの少なくとも一方について、負極活物質層が形成されていない箇所の全部または一部をも覆うように、多孔性絶縁層が形成されていていると、負極集電体3cのうちの負極活物質層が形成されていない箇所について、正極4および負極3間の絶縁性を高めることができる。負極集電体3cのうちの負極活物質層が形成されていない箇所における正極4と負極3との絶縁は、電解液中で安定な樹脂、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等の樹脂を含む絶縁性フィルムを用いて行っても良い。
【0041】
本実施形態の捲回電極1では、負極3よりも正極4の方が長手方向の長さが長く、捲回電極の最外周が正極4の捲き終り部分4f(図3参照)からなると好ましい。本実施形態の捲回電極1を用いる電池の容器が、例えば、Al缶である場合、その電池では、Al缶と捲回電極1の正極とが電気接続されることとなる。捲回電極1の最外周が正極4の捲き終り部分4fからなると、捲回電極1の負極およびAl缶(捲回電極1の正極4と同電位である)間の短絡を確実に防止でき、電池の信頼性を高めることができる。
【0042】
次に、本実施形態の捲回電極の製造方法の一例について説明する。
【0043】
まず、図5Aに示すように、1対の正極活物質層4a,4bと、この1対の正極活物質層4a,4bの間に配置された正極集電体4cとを含む帯状の正極4を用意する。一方で、1対の負極活物質層3a,3bと、この1対の負極活物質層3a,3bの間に配置された負極集電体3cとを含む帯状の負極3を用意する。尚、図5Aにおいて、7は正極集電タブであり、8は負極集電タブである。正極集電タブ7は正極集電体4cに、負極集電タブ8は負極集電体3cに、それぞれ導電性接着剤(例えば、銀ペースト)等を用いて接合する。
【0044】
次に、図5Bに示すように、負極活物質層3a,3b上にそれぞれ、絶縁性樹脂を含む塗料を塗布して1対の多孔性絶縁層2a,2bを形成する。このように、塗料を塗布する方法により多孔性絶縁層2a,2bを形成すれば、例えば、独立したフィルムを多孔性絶縁層として用いる場合よりも、薄い多孔性絶縁層を形成できる。そのため、捲回電極のうちの1対の多孔性絶縁層2a,2bが占める体積を減らして正極活物質および負極活物質の充填量を多くすることが可能となり、電池の高容量化が可能となる。
【0045】
絶縁性樹脂としては、例えば、下記のものが用いられる。
【0046】
絶縁性樹脂を含む塗料が、上述した、有機微粒子と必要に応じてバインダーとを含む塗料、無機粒子とバインダーとを含む塗料である場合、上記絶縁性樹脂は、有機微粒子またバインダーであり、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)、ポリ乳酸等の熱可塑性樹脂、PVDF、PTFE、SBR等である。
【0047】
絶縁性樹脂を含む塗料が、上述した、樹脂が溶媒(良溶媒)に溶解された樹脂溶液(貧溶媒または無機塩等が添加されたものも含む)である場合、絶縁性樹脂は、樹脂溶液中の樹脂であり、例えば、PVDF、ポリサルフォン、塩素化PP等である。
【0048】
次に、図5Cに示すように、正極4と負極3との間に1対の多孔性絶縁層2a,2bのうちの一方の多孔性絶縁層2aが配置されるように、正極4と負極3とを重ねて積層体を形成する。この際、積層体を捲回して得られる捲回電極の最内周が、正極4の捲き始め部分4dからなるように、正極4と負極3とを重ねる。図5Cに示した例では、正極4の捲き始め側端部4gが負極3の捲き始め側端部3gよりも突き出るように、正極4と負極3とを重ねているが、正極4の捲き始め側端面4hと負極3の捲き始め側端面3hとが揃うように、正極4と負極3とを重ねてもよい。尚、積層体では、1対の多孔性絶縁層2a,2bのうちの一方の多孔性絶縁層2aと正極4は、非接合状態で接している。
【0049】
尚、「正極4の捲き始め側端面4hと負極3の捲き始め側端面3hとが揃う」とは、正極4の捲き始め側端面4hと負極3の捲き始め側端面3hとが実質的に揃っていることを意味し、例えば、製造上の誤差で僅かにずれている場合も含む。
【0050】
次に、積層体を、負極3よりも正極4が内側となるように例えば偏平状に捲回して捲回電極とする。正極4の捲き始め側端部4gが負極3の捲き始め側端部3gよりも突き出るように、正極4と負極3とを重ねて得た積層体を、正極3が内側となるように捲回するので、捲回電極の最内周は、正極4の捲き始め部分4d(図5C参照)からなる。
【0051】
このように、本実施形態の捲回電極の製造方法によれば、1対の多孔性絶縁層2a,2bが一体化された負極3は、捲回電極の最内周の外側に配置されることとなる。そのため、塗料を塗布することにより薄い多孔性絶縁層を形成しても、積層体を捲回する際に、負極3に一体化された多孔性絶縁層の割れの恐れを緩和できる。その結果、本実施形態の捲回電極の製造方法では、信頼性の高い捲回電極およびそれを用いた電池を提供できる。
【0052】
本実施形態の捲回電極の製造方法では、積層体を捲回して得た捲回体を、加圧しながら加熱して、1対の多孔性絶縁層2a,2bと正極4とを接合する、一体化工程をさらに含んでいると好ましい。多孔性絶縁層2a,2bと正極4とが接合されると、捲回電極(捲回体)の取り扱い性が容易となり、捲回電極の容器内への収納が容易となる。
【0053】
一体化工程において、圧力は、例えば、50Pa〜500Paが適当である。加熱温度は、例えば、多孔性絶縁層2a,2bに含まれる絶縁性樹脂の軟化点以上が適当である。加熱温度の上限について特に制限はないが、通常、200℃以下であると好ましい。加熱温度が高すぎると、正極活物質層4a,4bおよび負極活物質層3a,3bに含まれるバインダーが劣化し、正極集電体4cから正極活物質層4a,4bが、負極集電体3cから負極活物質層3a,3bが剥離するという問題が生じ、電極特性を劣化させてしまう恐れがあるからである。
【0054】
本実施形態の捲回電極の製造方法では、積層体を捲回して得られる捲回体の最外周が正極4の捲き終り部分4fからなるように、長手方向の長さが負極3のそれよりも長い正極4を用意することが好ましい。このようにすれば、捲回電極の最外周が、正極4の捲き終り部分4fからなる捲回電極を作製できる。
【0055】
次に、本実施形態の電池の一例について説明する。
【0056】
図6に、図1〜図3に示した捲回電極が、電解液とともに容器内に収められた本実施形態の電池の一例(断面図)を示している。尚、図6において、捲回電極1は、図示の都合上簡略して記載しておりハッチングも省略している。図6において、4は正極、3は負極である。
【0057】
図6に示すように、本実施形態の電池では、蓋体9aを含む容器9が、アルミニウム(Al)等の金属で形成されている。容器9の底部にはPTFEシート等の合成樹脂からなる絶縁体5が配置されている。蓋体9aには、PP等の合成樹脂製の絶縁パッキング10を介してステンレス鋼等の金属端子11が取り付けられ、この端子11には絶縁体12を介してステンレス鋼等の金属製のリード板13が取り付けられている。
【0058】
尚、図6に示した例では、正極集電タブ7が蓋体9aに直接溶接されることによって、容器が正極端子として機能している。また、負極集電気タブ8がリード板13に溶接され、リード板13を介して負極集電気タブ8と端子11とが導通されている。端子11は負極端子として機能している。尚、容器の材質によっては、端子の正負が逆になる場合もある。容器は、例えば、ステンレス(SUS)製であってもよい。
【0059】
本実施形態の電池は、図6に示した形態に限定されず、容器が、袋状に加工された樹脂フィルムを含んでいてもよい。上記樹脂フィルムは、捲回電極1を容器の内部に収めた後、熱溶着等により容器の開口部を封じることができる材料、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを含んでいると好ましい。上記樹脂フィルムは、金属箔を含むラミネート構造をしていてもよい。
【0060】
電解液としては、特に制限はないが、電池がLiイオン電池である場合、例えば、Li塩が有機溶媒に溶解されたものが用いられる。Li塩としては、有機溶媒中で解離してLi+イオンを生成可能であり、電解液を構成要素とする電池の電圧範囲で分解等の副反応を起こさないものであれば特に制限されない。
【0061】
Li塩には、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4等の無機化合物、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252、LiN(SO2CF3)(SO249)、LiC(SO2CF23、LiC(SO2253、LiPF6-n(C25n(nは1から6までの整数)、LiSO3CF3、LiSO325、LiSO348等の有機化合物等を用いることができる。
【0062】
有機溶媒としては、Li塩を溶解でき、電池の電圧範囲で分解等の副反応を起こさないものであれば制限されない。有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート、γ−ブチロラクトン等の環状エステル、ジメトキシエタン、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等の鎖状エーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル、アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリル、エトキシプロピオニトリル等のニトリル類等が挙げられる。これらの有機溶媒は、単独又は混合して用いることができる。
【0063】
なかでも、有機溶媒としては、エチレンカーボネートと鎖状カーボネートとの混合溶媒が好ましい。上記混合溶媒を用いれば、高い導電率が得られ、良好な電池特性を実現できる。
【0064】
電解液には、安全性、サイクル性、高温貯蔵性等の特性を向上する目的で、適宜、ビニレンカーボネート類、1,3−プロパンサルトン、ジフェニルジスルフィド、シクロヘキサン、ビフェニル、フルオロベンゼン、t−ブチルベンゼン等の添加剤が含まれていてもよい。
【0065】
また、電解液は、有機溶媒に代えて、エチル−メチルイミダゾリウムトリフルオロメチルスルホニウムイミド、へプチル−トリメチルアンモニウムトリフルオロメチルスルホニウムイミド、ピリジニウムトリフルオロメチルスルホニウムイミド、グアジニウムトリフルオロメチルスルホニウムイミド等の常温溶融塩を含んでいてもよい。
【0066】
また、電解液は、下記のホストポリマーを含み、ホストポリマーによりゲル化されていてもよい。ホストホリマーとしては、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、エチレンオキシド−プロピレンオキシド共重合体、主鎖または側鎖にエチレンオキシド鎖を含む架橋ポリマー、光及び熱により架橋可能であり側鎖にオキセタン化合物や脂環式エポキシ化合物を有する(メタ)アクリレート共重合体等が挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明では、多孔性絶縁層の割れの恐れを緩和でき、正極および負極間の短絡を抑制できるので、より信頼性の高い捲回電極およびそれを用いた電池を提供できる。したがって、本発明の捲回電極およびその製造方法、並びにそれを用いた電池は、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の捲回電極の一例を示した断面図
【図2】図1に示した捲回電極を構成する積層体の捲き始め側を示した断面図
【図3】図1に示した捲回電極を構成する積層体の捲き終り側を示した断面図
【図4】図1に示した捲回電極を構成する積層体の平面図
【図5A】本発明の捲回電極の製造方法の一例を説明する一工程断面図
【図5B】本発明の捲回電極の製造方法の一例を説明する一工程断面図
【図5C】本発明の捲回電極の製造方法の一例を説明する一工程断面図
【図6】本発明の電池の一例を示した断面図
【図7】従来の捲回電極の一例を示した断面図
【符号の説明】
【0069】
1 捲回電極
2a,2b 多孔性絶縁層
3 負極
3a,3b 負極活物質層
3c 負極集電体
3f 両縁部
3g 捲き始め側端部
3h 捲き始め側端面
4 正極
4a,4b 正極活物質層
4c 正極集電体
4d 捲き始め部分
4f 捲き終り部分
4g 捲き始め側端部
4h 捲き始め側端面
7 正極集電タブ
8 負極集電タブ
9 容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1対の帯状の多孔性絶縁層と、前記1対の多孔性絶縁層の間に配置され負極活物質層を含む帯状の負極と、前記1対の多孔性絶縁層のうちの一方の多孔性絶縁層側に積層され正極活物質層を含む帯状の正極とを含んだ積層体が、捲回された捲回電極であって、
前記1対の多孔性絶縁層と少なくとも前記負極とが一体化されており、
前記捲回電極の最内周が、前記正極の捲き始め部分からなることを特徴とする捲回電極。
【請求項2】
前記積層体が偏平状に捲回された請求項1に記載の捲回電極。
【請求項3】
前記正極活物質層は、リチウムイオンを放出可能な正極活物質を含み、
前記負極活物質層は、前記正極活物質から放出されるリチウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質を含み、
前記負極は、前記正極よりも幅広であり、前記負極の幅方向の両縁部が前記正極からはみでている請求項1に記載の捲回電極。
【請求項4】
前記負極よりも前記正極の方が長手方向の長さが長く、前記捲回電極の最外周が、前記正極の捲き終り部分からなる請求項1に記載の捲回電極。
【請求項5】
前記正極は、2層の前記正極活物質層と、前記2層の正極活物質層の間に配置された正極集電体とを含み、
前記2層の正極活物質層のうち、相対的に内側に捲回された正極活物質層は、前記正極集電体の捲き始め部分を避けて形成されている請求項1〜4のいずれかの項に記載の捲回電極。
【請求項6】
前記正極集電体は、前記2層の正極活物質層が形成されていない正極活物質層欠如部をその捲き始め側に含み、
前記正極は、前記正極活物質層欠如部に接合された正極集電タブを含む請求項5に記載の捲回電極。
【請求項7】
前記負極は、2層の前記負極活物質層と、前記2層の負極活物質層の間に配置された負極集電体と、前記負極集電体に接合された負極集電タブとを含み、
前記負極集電体は、前記2層の負極活物質層が形成されていない負極活物質層欠如部をその捲き終わり側に含み、
前記負極集電タブは、前記負極活物質層欠如部に接合されている請求項1に記載の捲回電極。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかの項に記載の捲回電極が、容器内に収められていることを特徴とする電池。
【請求項9】
前記容器は、Alまたはステンレスからなる請求項8に記載の電池。
【請求項10】
前記容器は、袋状に加工された樹脂フィルムを含む請求項8に記載の電池。
【請求項11】
1対の負極活物質層と、前記1対の負極活物質層の間に配置された負極集電体とを含む帯状の負極の各負極活物質層上に、絶縁性樹脂を含む塗料を塗布して1対の多孔性絶縁層を形成した後、1対の正極活物質層と、前記1対の正極活物質層の間に配置された正極集電体とを含む帯状の正極と前記負極とを重ねて、前記1対の多孔性絶縁層のうちの一方の多孔性絶縁層と前記正極とが非接合状態で接した積層体を形成し、前記積層体を捲回する捲回工程を含み、
前記捲回工程において、前記正極の捲き始め側端面と前記負極の捲き始め側端面とが揃うように、または前記正極の捲き始め側端部が前記負極の捲き始め側端部から突き出るように、前記正極と前記負極とを重ね、前記積層体の正極側が内側となるように前記積層体を捲回することを特徴とする捲回電極の製造方法。
【請求項12】
前記捲回工程において、前記積層体を偏平状に捲回する請求項11に記載の捲回電極の製造方法。
【請求項13】
前記捲回工程の後に、前記捲回体を加圧しながら加熱して、前記1対の多孔性絶縁層と前記正極とを接合する一体化工程をさらに含む請求項12に記載の捲回電極の製造方法。
【請求項14】
前記積層体を捲回して得られる捲回体の最外周が前記正極の捲き終り部分からなるように、前記捲回工程において、長手方向の長さが前記負極のそれよりも長い前記正極を用意する請求項11に記載の捲回電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−147185(P2006−147185A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−332128(P2004−332128)
【出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】