説明

捲縮糸及びインテリア製品

【課題】 環境問題に配慮しつつも汎用性合成繊維からなる糸条と同等の強度、耐久性などを有する捲縮糸、並びにこの捲縮糸を用いて、強度、耐摩耗性に優れると共に圧縮にも強い各種インテリア製品を提供する。
【解決手段】 芯部がバイオマスポリマー、鞘部が石油系ポリマーで構成される芯鞘型複合繊維を用いてなり、捲縮率が5.0〜25.0%であり、表面にループ及び/又はタルミを有する捲縮糸及びこの捲縮糸を用いてなるインテリア製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスポリマーを用いてなる、嵩高性に富む捲縮糸及びそれを用いてなる各種インテリア製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまでに、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維などの汎用合成繊維からなる糸条を、加熱流体を使って嵩高加工し、捲縮を付与した嵩高性の捲縮糸がカーマットやカーペットなどのインテリア製品に幅広く利用されている。
【0003】
しかしながら、これらの捲縮糸を使用したインテリア製品は、自然環境下でほとんど分解しないため、環境保護、ゴミ問題の観点から生分解性材料への代替えが求められている。
【0004】
そこで、ループやタルミを有すると共に特定の捲縮率を有する、生分解性繊維からなる糸条が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
この糸条においては、繊維を構成するポリマーとしてPLAなどの生分解性ポリマーを採用している。そのため、この糸条は、廃棄した後、自然環境下で微生物などの作用によって水や二酸化炭素にまで分解されるので、環境問題がクローズアップされている昨今の要望に応えることができる。また、この糸条は、従来公知の汎用性合成繊維からなる糸条と同等の嵩高性能を有しているため、インテリア製品への適用も可能となる。
【特許文献1】特開2002−105752号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、生分解性ポリマーを採用してなる糸条の場合、一般に強度、耐久性の点で、汎用性合成繊維からなる糸条より劣る他、染色などの湿熱処理により繊維を構成するポリマーの重合度が低下するという問題もある。このため、このような糸条からなるインテリア製品は、強度、耐摩耗性、耐圧縮性に難点があり、使用するにつれ、ヘタリ、毛羽立ち、繊維の脱落・脆化といったトラブルが発生するという問題がある。
【0007】
本発明は、上記のような従来技術の欠点を解消するものであり、環境問題に配慮しつつも汎用性合成繊維からなる糸条と同等の強度、耐久性などを有する捲縮糸、並びにこの捲縮糸を用いて、強度、耐摩耗性に優れると共に圧縮にも強い各種インテリア製品を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、芯部がバイオマスポリマー、鞘部が石油系ポリマーで構成される芯鞘型複合繊維を用いれば、環境問題に配慮しつつ所望の機械的物性を満足する捲縮糸及び各種インテリア製品が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
(1)芯部がバイオマスポリマー、鞘部が石油系ポリマーで構成される芯鞘型複合繊維を用いてなり、捲縮率が5.0〜25.0%であり、表面にループ及び/又はタルミを有することを特徴とする捲縮糸。
(2)上記(1)記載の捲縮糸を用いてなるインテリア製品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の捲縮糸は、環境問題に配慮しながら汎用性合成繊維からなる糸条と同等の強度、耐久性などを有するため、各種インテリア製品に好適に使用しうる。また、得られる各種インテリア製品は、強度、耐摩耗性に優れると共に圧縮にも強いため、ヘタリ、毛羽立ち、繊維の脱落・脆化といったトラブルが発生し難い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の捲縮糸は、芯部がバイオマスポリマー、鞘部が石油系ポリマーで構成される芯鞘型複合繊維を用いてなるものである。
【0013】
本発明に使用しうるバイオマスポリマーとしては、溶融紡糸が可能なものであれば特に限定されるものでない。具体的には、ポリ乳酸(PLA)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)やポリブチレンサクシネート(PBS)などバイオマス由来モノマーを化学的に重合してなるポリマー類、ポリヒドロキシ酪酸などのポリヒドロキシアルカノエート(PHA)などの微生物産生系ポリマーなどがあげられる。中でも安定した耐熱性を有し、比較的量産化が進んでいるPLAが好ましい。PLAとしては、ホモポリマー、共重合ポリマー(以下、このポリマーを共重合PLAということがある)のいずれも使用可能である。このうちホモポリマーとしては、ポリD−乳酸、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との混合物(ステレオコンプレックス)などがあげられる。一方、共重合PLAとしては、ポリD−乳酸とポリL−乳酸とを共重合させたポリDL−乳酸、D−乳酸及び/又はL−乳酸とヒドロキシカルボン酸とを共重合させた共重合PLA、D−乳酸及び/又はL−乳酸と脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを共重合させた共重合PLA、あるいはこれらのブレンド体などがあげられる。
【0014】
本発明におけるPLAとして、D−乳酸及び/又はL−乳酸とヒドロキシカルボン酸と共重合させた共重合PLAを採用する場合、ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸などがあげられる。中でもコストの点でグリコール酸、ヒドロキシカプロン酸が好ましい。
【0015】
また、本発明におけるPLAとして、D−乳酸及び/又はL−乳酸と脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを共重合させた共重合PLAを採用する場合、脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとしては、セバシン酸、アジピン酸、ドデカン二酸、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどがあげられる。
【0016】
上記PLAの物性としては、融点が120℃以上、融解熱が10J/g以上であることが好ましい。この点につき、ホモポリマーの場合、ポリL−乳酸やポリD−乳酸の融点は、約180℃であり、ステレオコンプレックスの場合、融点は200〜230℃となる。PLAの融点が高くなるにつれ、織編物にした後の工程通過性が良好となり、高温染色やアイロン処理なども可能となる傾向にある。
【0017】
これに対し、共重合PLAの場合、基本的に、含まれる乳酸モノマー(D−乳酸、L−乳酸)の量が80モル%未満になると、共重合PLAの結晶性が低くなり、所望の融点及び融解熱を具備し難い傾向にある。また、ポリDL−乳酸の場合、いずれかの成分の割合が10モル%程度になると、融点はおよそ130℃程度となる。さらに、いずれかの成分の割合を18モル%以上にすると、融点は120℃未満、融解熱は10J/g未満となり、その結果、ほぼ完全に非晶性の状態となる。そうなると、熱延伸し難くなり、耐熱性や耐摩耗性などに影響を及ぼし、高強度の繊維を得る上で不利に作用する。したがって、L−乳酸とD−乳酸との比率(ラクチドを原料として重合する際のL−乳酸、D−乳酸間のモル比)たるL/D又はD/Lとしては、82/18以上が好ましく、90/10以上がより好ましく、95/5以上が特に好ましい。
【0018】
また、本発明におけるPLAの分子量の指標(メルトフローレート)としては、1〜100g/10分が好ましく、5〜50g/10分がより好ましい。メルトフローレートをこの範囲に設定することにより、PLAの強度、湿熱分解性及び耐摩耗性を向上させることができる。メルトフローレートとしては、分子量の指標として用いられるASTM D−1238法に準じ、温度210℃、荷重2160gの条件で測定した値を採用する。
【0019】
この他、PLAの耐久性を高める目的で、PLA中に脂肪族アルコール、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物又はエポキシ化合物などの末端封鎖剤を添加してもよい。
【0020】
一方、本発明における石油系ポリマーとしては、溶融紡糸が可能なものであれば特に限定されるものでない。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリエステル、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン11、ナイロン12などのポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどの塩素系ポリマー、ポリ4フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系ポリマー、あるいはこれらのブレンド体などがあげられる。中でもコストの点でポリエステルやポリアミドが好ましい。本発明においてはバイオマスポリマーとしてPLAが好ましいが、PLAを採用する際は、相溶性を考慮し石油系ポリマーとしてポリエステルが好ましく、特にPETを採用することが好ましい。
【0021】
上記のポリエステルとしては、ホモポリマー、共重合ポリマー(以下、このポリマーを共重合ポリエステルということがある)のいずれも使用可能である。ポリエステルとして共重合ポリエステルを採用する場合、共重合成分の種類、使用量を適宜設定することにより、PLAとの相溶性や熱的特性、又は粘度などを容易に変更することができる。
【0022】
用いうる共重合成分としては、エステル形成能を有するものであればどのようなものでもよい。具体的には、イソフタル酸、5−スルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、コハク酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族ジオール、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸などのヒドロキシカルボン酸、ε−カプロラクトンなどの脂肪族ラクトンなどがあげられる。中でもイソフタル酸(IPA)、シクロヘキサンジメタノール(CHDM)、シクロヘキサンジカルボン酸(CHDA)が好ましい。
【0023】
共重合ポリエステルを用いる場合には、上記共重合成分を好ましくは5〜20モル%、より好ましくは5〜10モル%共重合させた共重合ポリエステルを用いることが好ましい。
【0024】
そして、共重合ポリエステルを用いると、重縮合反応時の反応温度を下げることができる場合がある。そうすると、紡糸温度を下げることができる。このことは、特に繊維の芯部に配されるバイオマスポリマーの融点が石油系ポリマーより低い場合において、紡糸時に生じやすい芯部バイオマスポリマーの熱分解を抑制することができるので有利である。さらに、共重合ポリエステルを採用することにより、50℃×95%RHのような高湿度環境における強力低下も抑制することができる場合がある。
【0025】
また、共重合ポリエステルとして、溶融重合したポリエステル(プレポリマー)のチップを減圧下又は不活性ガス流通下にポリエステルの融点以下の温度で加熱し、固相重合して得た高重合度の共重合ポリエステルを採用すると、高強度の繊維が得られる場合もある。
【0026】
さらに、本発明の目的を損なわない範囲において、上記石油系ポリマー及び/又はバイオマスポリマーに、充填剤、増粘剤、結晶核剤などの添加剤を含有させてもよい。添加剤としては、カーボンブラック、炭酸カルシウム、酸化ケイ素、ケイ酸塩、亜鉛華、ハイサイトクレー、カオリン、塩基性炭酸マグネシウム、マイカ、タルク、石英粉、ケイ藻土、ドロマイト粉、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、アルミナ、ケイ酸カルシウム、窒化ホウ素の他、ベヘン酸アミドなどの脂肪族アミド系化合物、脂肪族尿素系化合物、ベンジリデンソルビトール系化合物、架橋高分子ポリスチレン、ロジン系金属塩や、ガラス繊維、ウィスカーなどがあげられる。中でも価格、物性を考慮し、無機系の充填剤が好ましい。
【0027】
上記ポリマーにおける添加剤の含有態様としては、添加剤がそのままの形状で含有している態様、ナノコンポジットとして含有している態様などがあげられる。
【0028】
また、本発明の目的を損なわない範囲において、上記バイオマスポリマー及び/又は石油系ポリマーに、可塑剤を含有させてもよい。ポリマー中に可塑剤を含有させることで、加熱加工時の溶融粘度を低下させると共に剪断発熱などによる分子量の低下を抑制することができ、ひいては、結晶化速度の向上も期待できる。可塑剤としては、エーテル系可塑剤、エステル系可塑剤、フタル酸系可塑剤、リン系可塑剤などがあげられ、中でもポリエステルとの相溶性を考慮し、エーテル系可塑剤、エステル系可塑剤が好ましい。ここで、エーテル系可塑剤としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコールなどがあげられる。一方、エステル系可塑剤としては、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族アルコールとのエステル類などがあげられる。脂肪族ジカルボン酸としては、シュウ酸、コハク酸、セバシン酸、アジピン酸などがあげられる。脂肪族アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ヘキサノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、n−ドデカノール、ステアリルアルコールなどの1価アルコール、エチレングリコール、1、2−プロピレングリコール、1、3−プロピレングリコール、1、3−ブタンジオール、1、5−ペンタンジオール、1、6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコールなどの2価アルコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリストールなどの多価アルコールなどがあげられる。この他、可塑剤として、上記ポリオキシアルキレングリコールとポリエステルとからなる共重合体や、その化学構造としてジ−コポリマー、トリ−コポリマー、テトラ−コポリマーといった構造を呈するもの、あるいはこれらのブレンド体も使用しうる。また、本発明における可塑剤として、上記化合物がエステル化されたヒドロキシカルボン酸系化合物、あるいはその誘導体も使用しうる。本発明における可塑剤としては、上記化合物を単独で、又は複数同時に使用する。
【0029】
さらに、本発明の目的を損なわない範囲において、上記バイオマスポリマー及び/又は石油系ポリマーに、顔料、染料などの着色剤、活性炭、ゼオライトなどの臭気吸収剤、バニリン、デキストリンなどの香料、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの安定剤、滑剤、離型剤、撥水剤、抗菌剤その他の副次的添加剤を含有させてもよい。
【0030】
また、本発明の目的を損なわない範囲において、上記バイオマスポリマー及び/又は石油系ポリマーに、芯部と鞘部との複合界面における相溶性を向上させる目的で相溶化剤を含有させてもよい。
【0031】
相溶化剤としては、バイオマスポリマー及び石油系ポリマーに相溶性のある物質を用いることができる。例えば、界面活性剤コポリマーやブロックコポリマーなどがあげられる。さらに、両ポリマーと反応する架橋剤を用いることもできる。例えば、両末端にエポキシ基を有するエポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物やそれらのコポリマー、カルボジイミド化合物やそれらのコポリマーなどがあげられる。
【0032】
本発明における芯鞘型複合繊維は、芯部がバイオマスポリマー、鞘部が石油系ポリマーよりなるものであり、その芯鞘比率(質量比率)として、芯/鞘=40/60〜90/10であることが好ましい。芯鞘比率が40/60未満になると、バイオマスポリマーの比率が少なくなり二酸化炭素の低減効果などが低減する傾向にあり、好ましくない。一方、芯鞘比率が90/10を超えると、捲縮糸の耐摩耗性が低減する傾向にあり、好ましくない。
【0033】
さらに、芯鞘型複合繊維の繊維断面形状としては、任意の形状でよく、丸断面の他、楕円断面、三角断面、凹凸断面、中空断面などの異型断面が採用できる。
【0034】
芯鞘型複合繊維の形態としては、特に限定されるものでなく、ステープル、ショートカットファイバー、フィラメントのいずれでもよく、フィラメントについてはモノフィラメントでもマルチフィラメントでもよい。
【0035】
本発明の捲縮糸は、上記の芯鞘型複合繊維を用いてなるものである。これは、芯鞘型複合繊維以外の繊維の使用を排除するものでなく、芯鞘型複合繊維のみからなる糸条と、芯鞘型複合繊維と他の繊維とからなる糸条とを包含する概念であることはいうまでもないが、実用的には前者が好ましい。
【0036】
なお、芯鞘型複合繊維以外の繊維を使用する場合、他の繊維としては、ビスコースレーヨン、溶剤紡糸セルロース繊維、キュプラ、ポリノジックなどの再生繊維、綿、麻、絹、ウール、竹などの天然繊維、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド、PET、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリエステル、又はポリアクリロニトリル、ポリウレタンなどの合成繊維があげられる。
【0037】
他の繊維の形態としては、特に限定されるものでなく、必要に応じてステープル、ショートカットファイバー、フィラメントのいずれかを選択すればよい。
【0038】
本発明の捲縮糸の用途としては、特に限定されるものでないが、特にインテリア製品に適している。この点を考慮し、本発明では所定の捲縮率と糸条形態とを満足することが必要であると共に、所定のトータル繊度及びフィラメント数も満足することが好ましい。
【0039】
まず、捲縮糸の捲縮率としては、5.0〜25.0%であることが必要である。捲縮率が5.0%未満になると、捲縮糸をインテリア製品へ適用したとき、十分な嵩高性を発揮することができない。一方、捲縮率が25.0%を超えると、インテリア製品へ適用した際、製品の品位、商品価値などを高めることができない。
【0040】
ここで、捲縮率とは、顕在捲縮と潜在捲縮との和であり、具体的には、下記(1)式に準じ算出する。
【0041】
【数1】

【0042】
また、捲縮糸の糸条形態として、表面にループ及び/又はタルミを有することが必要である。この形態は、具体的には、捲縮糸を構成する各繊維がランダム方向に屈曲又は2本以上の繊維が互いに絡み合っている状態を指し、本発明の捲縮糸が優れた嵩高性を有するところ、このような形態を呈することが重要となる。
【0043】
そして、捲縮糸のトータル繊度としては、500〜2500dtexが好ましく、フィラメント数としては、20〜150本が好ましい。
【0044】
以上のような構成を有する本発明の捲縮糸は、前述のようにインテリア製品へ好ましく適用できる。適用しうるインテリア製品としては、例えば、カーマット、カーペット、カーテン、ワイピングクロス、足拭き、パーテーション、テーブルクロス、タペストリー、壁装材、椅子生地、床材、クッション、のれんなどがあげられ、本発明の捲縮糸を用いることにより、かかるインテリア製品において、ヘタリ、毛羽立ち、繊維の脱落・脆化といったトラブルの発生を抑制することができる。
【0045】
次に、本発明の捲縮糸の製造方法について説明する。
【0046】
まず、エクストルーダーでバイオマスポリマー及び石油系ポリマーをそれぞれ所定の温度で混練・溶融する。このときの温度としては、前者では融点より40〜60℃高くかつ280℃より低い温度が、後者では240〜300℃がそれぞれ好ましい。両者とも前記範囲を下回ると、ポリマー内に未溶融物が発生し、糸切れなどの問題が生じ易い傾向にあり、好ましくない。一方、前記範囲を上回ると、ポリマーの熱分解や熱劣化などによって、溶融したポリマーの粘度が低下し、糸質に支障が生じ易い傾向にあり、好ましくない。
【0047】
両ポリマーを混練・溶融した後は、同心芯鞘型複合溶融紡糸装置に供給し、溶融紡糸する。すなわち、バイオマスポリマーを芯部へ石油系ポリマーを鞘部へ配しつつ、所定の孔径を有する紡糸口金で両ポリマーを合流させ、同時に溶融紡糸する。
【0048】
その後、紡糸された糸条を冷風で冷却固化する。冷風の温度としては、特に限定するものではない。この際、紡糸油剤を公知のローラ法又はスリットノズル法で付与する。紡糸油剤とは、繊維に平滑性や帯電防止性を付与するものであり、鉱物油、有機酸、エーテル類などを含む油剤があげられる。紡糸油剤の付与量は特に限定するものではないが、糸条質量に対し0.5〜1.0質量%とするのが好ましい。
【0049】
冷却固化されると共に油剤を付与された糸条は、その後、ワインダーにより未延伸糸として捲き取られる。このときの捲取速度としては、特に限定するものではないが、一般に500〜1500m/分が好ましい。
【0050】
得られた未延伸糸の糸質については、配向度として、最大延伸倍率(温度110℃)が2.50〜5.00であることが好ましく、3.00〜4.50であることがより好ましい。最大延伸倍率(温度110℃)とは、直径10mmの加熱ローラ(温度110℃)と直径10mmの延伸ローラ(常温)との2個のローラ間で、未延伸糸を速度50m/分にて延伸したとき、当該未延伸糸を切断するための倍率をいう。最大延伸倍率が5.00を超えると、バイオマスポリマーの配向度が低く、強度が弱くなるため、わずかな張力変動でも糸切れが発生し易い傾向にあり、好ましくない。一方、最大延伸倍率が2.50未満であると、次工程たる延伸工程で糸切れが発生し易い傾向にあり、その結果、2.50〜5.00倍という好ましい延伸倍率に設定し難い傾向にあり、好ましくない。
【0051】
未延伸糸を得た後は、この糸を延伸し、嵩高加工する。延伸は、一般的には、まず、未延伸糸を予熱ローラに供給し、予熱ローラと加熱ローラとの間で行う。このとき、予熱ローラの温度としては、好ましくは70℃以上、より好ましくは75℃以上であって、バイオマスポリマーの融点より20℃以上低い温度を採用する。予熱ローラの温度が70℃未満になると、糸切れが発生し易い傾向にあり、一方、温度がバイオマスポリマーの融点より20℃を超えて高くなると、ローラ上での糸揺れが激しくなり、操業上の問題が発生し易くなる傾向にあり、いずれも好ましくない。また、加熱ローラの温度としては、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上であって、バイオマスポリマーの融点より低い温度が好ましい。温度がこの範囲を外れると、糸切れし易くなる傾向にあり、好ましくない。
【0052】
未延伸糸を延伸した後は、嵩高加工する。嵩高加工の手段としては、最終的に得られる捲縮糸に十分な嵩高性が付与されれば、どのような手段でも採用しうるが、本発明の捲縮糸が、インテリア製品に好ましく適用できる点を考慮し、カーペット用捲縮糸として公知の所謂BCF(Bulked Continuous Filament)を得る際に採用する嵩高加工を準用することが、好ましい。
【0053】
具体的には、未延伸糸を延伸後、加熱流体噴射処理ノズルへ供給し、続いて、放射状に配列した羽根板によって取り囲まれた圧縮室に、温度130〜280℃の加熱流体と共にオーバーフィード状態で糸条を押し込み、各構成繊維をランダム方向に屈曲、あるいは互いに絡み合わせることで、糸条表面にループやタルミを形成すると共に捲縮を発現させる。
【0054】
ここで、加熱流体とは、高温に加熱された圧縮空気をいい、加熱流体の温度としては130〜280℃が好ましく、140〜270℃がより好ましい。加熱流体の温度が280℃を超えると、糸切れや融着が発生する傾向にあり、好ましくない。一方、130℃未満になると、糸条に十分な嵩高性を付与できない傾向にあり、好ましくない。また、加熱流体の圧力としては、加熱流体の温度を考慮して適宜決定すればよく、例えば、加熱流体の温度が130〜280℃の場合なら、圧力としては0.50〜0.80MPaが好ましい。
【0055】
さらに、糸条を圧縮室に押し込む際のオーバーフィード率としては、目標とする嵩高性の程度や加熱流体の温度、圧力を考慮して適宜決定すればよいが、一般には、15〜35%が好ましく、20〜30%がより好ましい。オーバーフィード率が35%を超えると、糸条が後述の冷却ドラム上に巻き付くといった、操業上の問題が発生し易くなる傾向にあり、好ましくない。一方、15%未満になると、糸条に十分な嵩高性を付与できないばかりか、糸切れが発生し易い傾向にあり、好ましくない。
【0056】
糸条に捲縮を付与した後は、連接する冷却ドラムのドラム上に設置された、通気性を有する衝突壁に糸条を衝突させることで冷却し、その後、引張ローラを通過させ、ワインダーを用いて、本発明の捲縮糸としてパッケージに捲き取る。
【実施例】
【0057】
次に、本発明を実施例によってさらに具体的に説明する。なお、実施例、比較例における各種の性能評価は下記に準じた。
【0058】
(1)ポリマーの相対粘度
フェノールとテトラクロロエタンとの等量混合溶媒にポリマーを溶解し、ウベローデ粘度管を使用して、濃度0.5g/dL、温度20℃で測定した。
【0059】
(2)捲縮糸の耐久性
温度60℃、湿度90%環境下に10日間曝した後の捲縮糸の強度保持率に基づき、捲縮糸の耐久性を評価した。すなわち、試験前後に、JIS L1013 8.5.1に準じてそれぞれの引張強さを測定し、下記(2)式に基づいて算出された強度保持率に基づき、捲縮糸の耐久性を下記4段階で評価した。
【0060】
【数2】

【0061】
(捲縮糸の耐久性の評価基準)
◎・・強度保持率が90%以上
○・・強度保持率が60〜90%未満
△・・強度保持率が40〜60%未満
×・・強度保持率が40%未満
【0062】
(3)カーペットの耐摩耗性
JIS L1023 9に準拠し、試験台の回転回数を5000回に設定して行う試験の前後に質量を測定し、質量の減少率からカーペットの耐摩耗性を下記3段階で評価した。
○・・減少率が0.3%未満
△・・減少率が0.3〜0.5%
×・・減少率が0.5%超過
【0063】
(4)カーペットの圧縮率、圧縮弾性率
JIS L1022参考 2に記載されている圧縮率及び圧縮弾性率に準拠して測定、算出した。
【0064】
(実施例1)
芯鞘型複合繊維の芯部を構成するバイオマスポリマーとして、相対粘度2.07、L体比率98.8のPLAを用いた。一方、鞘部を構成する石油系ポリマーとして、IPAを15モル%共重合させた、相対粘度1.37、融点217℃の共重合ポリエステルを用いた。
【0065】
そして、両ポリマーを混練・溶融した後、同心芯鞘型複合溶融紡糸装置に供給し、所定の孔径を有する紡糸口金で両ポリマーを合流させ、同時に溶融紡糸した。つまり、前者については、水分率0.01質量%に調整した後、エクストルーダー型溶融押出機(同心芯鞘型複合溶融紡糸装置の一態様)に供給し、235℃で溶融し、スリット幅0.25mm、1辺の長さ0.6mmのY字型断面形状の紡糸孔を15個有する紡糸口金の芯側に配しつつ、吐出量37.4g/分で吐出した。一方、後者については、溶融温度を250℃にすること、並びにポリマーを鞘側に配すること以外は前者と同様にして吐出した。
【0066】
溶融紡糸後は、得られた糸条を、冷風発生装置により冷却固化させ、オイリングロールにより油剤を付与した後、速度900m/分で捲き取り、トータル繊度1600dtex15fのY字型断面形状の未延伸糸を得た。なお、得られた未延伸糸の最大延伸倍率(110℃)は、3.78であった。
【0067】
次いで、得られた未延伸糸を4本引き揃え、温度90℃の予熱ローラと温度110℃の加熱ローラとの間で、速度1200m/分で3.70倍に延伸した。そして、得られた延伸糸を加熱流体噴射処理ノズルへ供給し、続いて、温度190℃、圧力0.65MPaの加熱流体と共に放射状に配列した18枚の羽根板によって取り囲まれた圧縮室にオーバーフィード率24%で押し込んだ。その後、この延伸糸を連接する冷却ドラム上の通気性を有する衝突壁に衝突させて冷却した後、ワインダーで捲き取り、引張強さ2.0cN/dtex、トータル繊度1100dtex60fの本発明の捲縮糸を得た。なお、得られた捲縮糸を構成する芯鞘型複合繊維の芯鞘比率は、50/50であった。
【0068】
次に、この捲縮糸を2本用いて、フォルクマン社製ダイレクトケブラー撚糸機により、上下撚共に200T/Mの撚りを有する諸撚糸を作製し、続いて、スペルバ社製スチームセット機により、120℃で1分間撚り止めセットした。
【0069】
撚り止めセット後、諸撚糸をチーズ染色機により分散染料を用いて染色した。
【0070】
そして、得られた染色糸を用いて、1/8Gのタフティング機により、市販のスパンボンド不織布を基布として、パイル長10mm、パイル目付1200g/mの規格でタフトした後、裏面(不織布側)をゴム張り仕上げし、本発明のインテリア製品の一態様たるカットパイルカーペットを得た。
【0071】
(比較例1)
実施例1におけるバイオマスポリマーのみを用いて、紡糸口金全体から吐出量74.8g/分でポリマーを吐出する以外は、同例と同様の手順にて、最大延伸倍率(110℃)3.92、トータル繊度1600dtex15fのY字型断面形状の未延伸糸を得た。すなわち、バイオマスポリマーを235℃で溶融して、エクストルーダー型溶融押出機で溶融紡糸し、冷却固化すると共に油剤付与して、かかる未延伸糸を得た。
【0072】
そして、加熱ローラの温度を90℃に設定すること、並びに加熱流体の温度を145℃に設定すること以外は、実施例1と同様にして、引張強さ1.8cN/dtex、トータル繊度1100dtex60fの捲縮糸を得た。
【0073】
以降、撚り止めセットの温度を110℃に変更する以外は、実施例1と同様にしてカットパイルカーペットを得た。
【0074】
(比較例2)
バイオマスポリマーに代えて石油系ポリマーの一態様である融点256℃のPETを用いること、並びに溶融温度を280℃に変更する以外は、比較例1と同様の手順にて最大延伸倍率(110℃)3.95、トータル繊度1600dtex15fのY字型断面形状の未延伸糸を得た。
【0075】
そして、加熱ローラの温度を140℃に設定すること、並びに加熱流体の温度を245℃に設定すること以外は、実施例1と同様にして、引張強さ2.4cN/dtex、トータル繊度1100dtex60fの捲縮糸を得た。
【0076】
以降、撚り止めセットの温度を135℃に変更する以外は、実施例1と同様にしてカットパイルカーペットを得た。
【0077】
ここで、上記実施例、比較例にかかる捲縮糸及びカーペットの性能評価を下記表1にまとめた。
【0078】
【表1】

【0079】
表1から明らかなように実施例1においては、捲縮糸が、優れた嵩高性を有すると共に、環境問題に配慮しながら汎用性合成繊維からなる糸条と同等の強度、耐久性を有していた。また、カットパイルカーペットは、強度、耐摩耗性、耐圧縮性に優れるものであった。したがって、該カットパイルカーペットにあっては、ヘタリ、毛羽立ち、繊維の脱落・脆化といったトラブルの抑制が期待できる結果となった。
【0080】
これに対し、比較例1における捲縮糸は、構成繊維中に占めるバイオマスポリマーの比率が高すぎるため、耐摩耗性に劣るものとなり、比較例1における捲縮糸は、構成繊維中に占める石油系ポリマーの比率が高すぎるため、環境問題に適応し難いものとなった。したがって、比較例1、2におけるカットパイルカーペットは、環境問題及び所望の機械的物性を同時に満足する本発明のものとは異なり、両者のうちいずれか一方のみを満足させるに止まった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部がバイオマスポリマー、鞘部が石油系ポリマーで構成される芯鞘型複合繊維を用いてなり、捲縮率が5.0〜25.0%であり、表面にループ及び/又はタルミを有することを特徴とする捲縮糸。
【請求項2】
請求項1記載の捲縮糸を用いてなるインテリア製品。


【公開番号】特開2008−297680(P2008−297680A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−147260(P2007−147260)
【出願日】平成19年6月1日(2007.6.1)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】