説明

捺染処理装置

【課題】 乾式転写捺染法における各工程を連続的に処理する捺染処理装置であって、基材を剥離する際の転写不良を回避することのできる捺染処理装置を提供する。
【解決手段】 基材Bと染料および糊剤を含む転写層とを有する転写紙rを布帛Rに積重して加熱処理または加圧・加熱処理し、転写紙rの転写層を布帛Rに転写する転写部2と、転写部2の下流側に設けられ、蒸気加熱処理によって、転写層の染料を布帛Rに定着させる定着部3と、布帛Rと転写紙rの積層体Lにおける転写紙rの基材Bを、剥離して回収する基材回収部7とを含み、基材回収部7は、定着部3の下流側に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺の布帛に、染料を含む転写層を有する転写紙を積重して加熱処理または加圧・加熱処理することによって、転写紙の転写層を布帛に転写して布帛を捺染する捺染処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、布帛に図柄を堅牢・精細に描く方法として、コンピュータを用いて電子データで前記図柄を作成し、インクジェットプリント方式で染料を布帛に付与する無製版プリント法が注目されている。
【0003】
無製版プリント法は、インクジェットプリンタを用いて布帛へ図柄を直接描画する直描式の捺染法(たとえば、特許文献1参照)と、染料を受容するための糊剤などを含む染料受容層を基材上に積層して形成された転写用紙に対して、インクジェットプリンタを用いて染料を導出して図柄を描画することによって、染料受容層と染料とから成る転写層を有する転写紙を先ず作製し、この転写紙の転写層を布帛に転写して布帛を捺染する転写捺染法とに大別される。転写捺染法としては、水で湿らせた布帛に転写紙を積重して加圧・圧着処理することによって転写層を転写する湿式転写捺染法と、布帛に転写紙を積重して加熱処理または加圧・加熱処理することによって転写層を転写する乾式転写捺染法(たとえば、特許文献2参照)とが知られている。
【0004】
直描式の捺染法は、
・インクジェットプリンタから導出される染料が布帛に滲むことを防止するために、布帛には予め糊剤などの滲み防止剤を塗布しておく必要があるが、布帛は伸縮性を有するため、搬送ローラによって搬送される際に、塗布された滲み防止剤にひび割れが生じてしまい、高精度で描画することができない、
・布帛がたとえばレース地などのような空隙が大きい組織である場合、インクジェットプリンタによる描画は実際上困難である、
・グラデーションを綺麗に描画することができない、
・インクジェットプリンタを用いて布帛に対して直接描画されるので、適正に描画できなかった場合には廃棄しなければならず、布帛の損失が大きい、
などといった短所がある。また湿式転写捺染法は、図柄の繊細性と再現性に劣るといった短所がある。
【0005】
これに対し、乾式転写捺染法は、
・布帛に対して高画質・高精細に図柄を転写することができる、
・インクジェットプリンタを用いた描画は、染料を受容するための受容層を有する転写用紙に対して行われるため、適正に描画できなかった場合であっても、布帛を廃棄する必要がない、
などといった長所がある。
【0006】
この乾式転写捺染法では、大きく分類すると、布帛に転写紙を積重して加熱処理または加圧・加熱処理することによって、転写紙の転写層を布帛に転写する転写工程、転写層が転写された布帛を蒸気などで加熱処理することによって、転写層の染料を布帛に定着させる定着工程、定着工程後の布帛を洗浄液で洗浄することによって、染料受容層に含まれていた糊剤などを取り除く洗浄工程、および、洗浄工程後の布帛を乾燥させる乾燥工程が順次処理される。従来の乾式転写捺染では、前記の各工程は、1つの工程の処理だけを行う機能のみを備えた専用の各処理装置によって、工程ごとに個別に処理されている。
【0007】
前記のように工程ごとに専用の処理装置が用いられる場合、一の工程から次の工程へ移行する際に、一の工程における処理済の布帛を処理装置から取り外し、次の工程の処理装置まで搬送して該処理装置へセッティングするといった準備工程が必要となる。このような準備工程を容易かつ円滑に行うとともに、布帛に折り目や皺が生じることを回避するために、各工程における処理済の布帛は、ロール状に巻回された状態で管理されている。
【0008】
それ故、工程ごとに個別の処理装置を用いる従来の乾式転写捺染では、転写工程における処理済の布帛のロールにおいて、転写工程の処理開始側の端部(始端部)がロール中心部に配置され、転写工程の処理終了側の端部(終端部)がロール外周部に配置されることとなり、このような布帛のロールが定着工程の処理装置にセッティングされるので、転写工程における終端部が定着工程における始端部となり、転写工程における始端部が定着工程における終端部となってしまう。
【0009】
したがって、工程ごとに個別の処理装置を用いる従来の乾式転写捺染では、転写のための加熱処理または加圧・加熱処理が行われてから定着のための加熱処理が行われるまでの未定着期間が、布帛の長手方向の位置によって異なっている。このような未定着期間の差に起因して、従来の乾式転写捺染処理後の布帛には、布帛の長手方向に沿って色むらが生じているという問題がある。また、各工程間には準備工程が必要であり、転写工程が開始されてから乾燥工程が完了するまでの所要期間が長くなっているという問題もある。これらの問題を解決するためにも、乾式転写捺染法における各工程を連続的に処理可能な処理装置の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−311782号公報
【特許文献2】WO2007/111302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、転写捺染処理においては、転写紙と布帛を積重して加熱処理または加圧・加熱処理をした後、布帛と転写紙の積層体から不要な基材を剥離して回収する処理が必要であり、基材を剥離する際には、転写層の一部が布帛へ転写されずに基材上に残存してしまうという不具合(以下、「転写不良」と記す)を生ずることなく処理を行うことが必須である。そのため、従来の転写捺染処理に用いられる転写紙には、転写層と基材との間に離型層が設けられている。
【0012】
最近では、離型層を有しない転写紙、たとえば基材上に転写層を積層して作製される転写紙を使用したいという要望もある。しかしながら、このように離型層を有しない転写紙を用いて転写捺染処理を行うと、基材を剥離する際に、転写不良が生じてしまうという問題がある。
【0013】
本発明の目的は、乾式転写捺染法における各工程を連続的に処理する捺染処理装置であって、基材を剥離する際の転写不良を回避することのできる捺染処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、基材と染料および糊剤を含む転写層とを有する転写紙を布帛に積重して加熱処理または加圧・加熱処理し、転写紙の転写層を布帛に転写する転写部と、
前記転写部の下流側に設けられ、蒸気加熱処理によって、転写層の染料を布帛に定着させる定着部と、
布帛と転写紙の積層体における転写紙の基材を、剥離して回収する基材回収部とを含み、
前記基材回収部は、前記定着部の下流側に配置されることを特徴とする捺染処理装置である。
【0015】
また本発明は、前記定着部の下流側に設けられ、洗浄液を用いて布帛を洗浄処理する洗浄部をさらに含み、
前記基材回収部は、前記定着部と前記洗浄部との間に配置され、
前記基材回収部と定着部との間には、転写層に含まれる糊剤を湿潤させる湿潤手段が設けられることを特徴とする。
【0016】
また本発明は、前記定着部の下流側に設けられ、洗浄液を用いて布帛を洗浄処理する洗浄部と、
前記洗浄部の下流側に設けられ、布帛に対して乾燥処理する乾燥部とをさらに含み、
前記基材回収部は、前記洗浄部と前記乾燥部との間に配置されることを特徴とする。
【0017】
また本発明は、前記定着部の下流側に設けられ、洗浄液を用いて布帛を洗浄処理する洗浄部と、
前記洗浄部の下流側に設けられ、布帛に対して乾燥処理する乾燥部とをさらに含み、
前記基材回収は、前記乾燥部の下流側に配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、捺染処理装置は、基材と染料および糊剤を含む転写層とを有する転写紙を布帛に積重して加熱処理または加圧・加熱処理し、転写紙の転写層を布帛に転写する転写部と、蒸気による加熱処理によって、布帛に染料を定着させる定着部とが順次連設され、転写のための加熱処理または加圧・加熱処理後において、布帛と転写紙の積層体における転写紙の基材を、剥離して回収する基材回収部を有する。この基材回収部は、布帛の搬送経路において、定着部よりも搬送方向下流側に配置される。
【0019】
すなわち、定着部へは積層体の状態で搬送され、定着部において染料を定着させるための蒸気加熱処理の後に、転写紙の基材が剥離されて回収される。これにより、基材を剥離する前に染料を定着させることができるので、基材を剥離する際に生じていた転写不良を回避することができる。したがって、離型層を有しない転写紙を用いる場合であっても、転写捺染処理後の布帛の品質を低下させることなく実施することができる。
【0020】
また本発明によれば、前記転写部と、前記定着部と、転写紙から布帛へ転写された転写層に含まれる、糊剤などの不要な成分を洗浄液によって洗い流すための洗浄部とが順次連設され、基材回収部は、定着部と洗浄部との間に配置される。さらに基材回収部と定着部との間には、転写層に含まれる糊剤を湿潤させる湿潤手段が設けられる。
【0021】
蒸気加熱処理後の積層体は、定着部から搬送されると急速に乾燥し、転写層に含まれる糊剤が硬化してパリパリの状態となっている。このため、蒸気加熱処理後の積層体は、基材を剥離しにくい状態にあるが、基材を剥離して回収する直前に、転写層に含まれる糊剤を湿潤させることができ、これにより、転写紙の基材と転写層との付着力を低下させることができる。したがって、定着部の下流側に基材回収部を設けた場合であっても、基材回収部によって転写紙の基材を容易に剥離することができる。
【0022】
また本発明によれば、前記転写部と、前記定着部と、転写紙から布帛へ転写された転写層に含まれる、糊剤などの不要な成分を洗浄液によって洗い流すための洗浄部と、洗浄部において洗浄液に浸漬された布帛を乾燥させるための乾燥部とが順次連設され、基材回収部は、洗浄部と乾燥部との間に配置される。これにより、転写層に含まれる糊剤が除去された後で基材を剥離することができるので、糊剤による付着力を取り除くことができ、基材回収部によって転写紙の基材を容易に剥離することができる。
【0023】
また本発明によれば、前記転写部と、前記定着部と、転写紙から布帛へ転写された転写層に含まれる、糊剤などの不要な成分を洗浄液によって洗い流すための洗浄部と、洗浄部において洗浄液に浸漬された布帛を乾燥させるための乾燥部とが順次連設され、基材回収部は、乾燥部の下流側に配置される。転写層に含まれる糊剤が除去され、さらに布帛に吸収されている洗浄液の水分も除去された後で基材を剥離することができるので、糊剤による付着力および水分による吸着力を取り除くことができ、基材回収部によって転写紙の基材を容易に剥離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係る捺染処理装置100の概略的な構成を示す系統図であり、捺染処理装置100の稼動時の状態を示す図である。
【図2】捺染処理装置100の定着部3およびその近傍を示す斜視図であり、搬送方向X1上流側から見たときの図である。
【図3】本発明の他の実施形態に係る捺染処理装置100Aの一部の概略的な構成を拡大して示す図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る捺染処理装置100Bの一部の概略的な構成を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明の実施形態に係る捺染処理装置100の概略的な構成を示す系統図であり、捺染処理装置100の稼動時の状態を示す図である。捺染処理装置100は、乾式転写捺染法によって布帛Rを捺染する装置であって、基材Bと染料および糊剤を含む転写層を有する転写紙rを布帛Rに積重して、転写紙rと布帛Rの積層体Lを加圧・加熱処理し、転写紙rの転写層を布帛Rに転写する転写部2と、転写層が転写された後の積層体(以下、「転写後積層体」と称する)L1を蒸気によって加熱処理し、転写層に含まれる染料を布帛Rに定着させる定着部3と、定着処理が施された後の積層体(以下、「定着後積層体」と称する)L2から転写紙rの基材Bを剥離して回収する基材回収部7と、基材Bを剥離した後の布帛(以下、「剥離後布帛」と称する)R1を洗浄液42を用いて洗浄処理する洗浄部4と、洗浄処理が施された後の布帛(以下、「洗浄後布帛」と称する)R2を乾燥処理する乾燥部5とを含み、各処理部2〜5を、前記に記載した順番で一直線上に連設することによって構成されている。つまり、捺染処理装置100は、転写工程、定着工程、洗浄工程および乾燥工程を、連続的に処理するように構成された装置である。
【0026】
まず、捺染処理装置100による処理対象の布帛Rおよび転写紙rについて説明する。
布帛Rは、天然繊維材料または/および合成繊維材料から成り、より詳細には、セルロース系繊維材料、蛋白質系繊維材料および合成繊維材料選択された一種、またはこれらから選択された二種以上の繊維材料からなる織物、編物、または不織布である。ここで、セルロース系繊維材料としては、綿、麻、リヨセルおよびレーヨン(たとえば、ポリノジックレーヨン、ビスコースレーヨン、キュプラレーヨンなど)などを挙げることができ、蛋白質系繊維材料としては、絹、羊毛および獣毛などを挙げることができ、合成繊維材料としては、ナイロン、ビニロン、ポリエステル(たとえば、ポリエチレンテレフタレート、ポリアルキレンテレフタレート、乳酸ポリエステルなど)、トリアセテート、ジアセテート、ポリアミド、ポリアクリルなどを挙げることができる。
【0027】
転写紙rは、基材B上に染料受容層を積層して形成された転写用紙に対して、インクジェットプリンタを用いて染料を導出して図柄を描画することによって作製される。ここで、前記転写層とは、基材B上に形成された層、すなわち染料受容層および染料から成る層のことである。すなわち、転写紙rは、基材Bと転写層とから構成される。
【0028】
基材Bは、用紙またはフィルムによって構成される。用紙としては、クラフトパルプおよびグラインドパルプなどのパルプまたはリサイクル紙を原料として抄紙されたパルプ紙、再生紙を用いることができ、フィルムとしては、耐熱性の合成樹脂フィルム、たとえばポリエステルフィルムなどが用いることができる。
【0029】
染料受容層は、親水性合成樹脂と親水性糊剤とを主体として含み、さらに各種助剤が含まれてもよい。親水性合成樹脂は、加熱によって軟化または溶融する樹脂であり、たとえば水溶性ポリエステル樹脂、水溶性ウレタン樹脂、水溶性ウレタン変性エーテル樹脂および水溶性ポリエチレンオキサイド樹脂から選択された一種、またはこれらから選択された二種以上の混合物である。また親水性糊剤は、天然素材、半合成素材または水溶性合成高分子からなる糊剤であり、たとえば海藻類、繊維素誘導糊、加工デンプン糊、水溶性合成高分子および天然ガム類から選択された一種、またはこれらから選択された二種以上の混合物である。また各種助剤は、たとえば酸性物質もしくはアルカリ剤、表面張力低下剤、増粘剤、箔転写バインダー糊、鉱物および保湿剤から選択された一種、またはこれらから選択された二種以上の薬剤である。
【0030】
また布帛Rを捺染するための染料は、繊維材料との組み合わせなどを考慮して、反応染料、分散染料、酸性染料、金属錯塩型染料および直接染料の中から適宜選択される。
【0031】
以下、捺染処理装置100について詳細に説明する。捺染処理装置100は、平坦かつ水平または略水平な床面8に設置されているものとし、転写部2から乾燥部5へ向かう、床面8に平行な方向X1を、以下では搬送方向と称する。また、床面8に垂直な方向Zを上下方向と称し、搬送方向X1および上下方向Zのいずれにも直交する方向Yを幅方向と称する。
【0032】
捺染処理装置100には、転写工程、定着工程、洗浄工程および乾燥工程を、連続的に処理するために、前記各処理部2〜5ごとに、布帛Rを搬送するための一または複数の搬送用ローラが備えられている。本実施形態では、各搬送用ローラは、その軸線方向と前記幅方向Yとが一致するように、軸線まわりに回転可能に支持されており、捺染処理装置100において、布帛Rは、前記幅方向Yと布帛Rの幅方向とが一致した状態で、搬送方向X1に沿って搬送される。また捺染処理装置100は、装置全体を制御する図示しない制御装置を備え、前記各搬送用ローラは、制御装置によって、布帛Rを所定の送り速度vで搬送するように駆動される。所定の送り速度については後述する。なお、本明細書では、布帛Rが上下方向Zに複数回方向転換しながら搬送されているときの搬送経路の状態を蛇行と称し、布帛Rが幅方向Yに所定の位置から位置ずれしている状態を斜行と称する。
【0033】
処理対象の布帛Rは、転写部2の搬送方向X1上流側(以下、単に「上流側」と記す)に設けられる布帛設置部1に設置される。布帛設置部1は、布帛R0が装着される回転軸部11と、回転軸部11を所定の回転方向(図1では、反時計回り)に回転駆動する図示しない電動機とを備える。本実施形態では、該回転軸部11に対して、ロール状に巻回された状態の布帛(以下、「原反ロール」と称する)R0が、回転軸部11の軸線と原反ロールR0の軸線とが一致するように装着される。このとき、原反ロールR0は、原反ロールR0と回転軸部11とが一体となって回転するように取り付けられる。すなわち、布帛Rは、電動機が駆動されることにより、回転軸部11の回転に伴って原反ロールR0から巻き出される。
【0034】
なお、回転軸部11に装着された原反ロールR0は、原反ロールR0から巻き出された布帛Rの量が増加するにつれて、その巻径が減少していく。したがって、変化する巻径に対して原反ロールR0から布帛Rを一定の速度および一定のテンション(張力)で巻き出していくためにも、電動機としては、印加電圧を変更することによってトルク特性を変化させることが可能なトルクモータが好適に用いられる。すなわち、このトルクモータは、制御装置によって、前記所定の送り速度vで搬送される布帛Rを一定のテンションで巻き出し続けるように制御される。
【0035】
転写部2は、転写紙r0が設置される転写紙設置部21と、転写紙rと布帛Rの積層体Lに対して加圧・加熱処理を施す加圧・加熱ローラ22と、布帛R(転写後積層体L1)を搬送するための搬送用ローラ24とを備える。転写部2における装置稼動時の布帛Rの搬送経路は、加圧・加熱ローラ22および搬送用ローラ24によって、床面8に平行または略平行となるように規定されている。
【0036】
転写紙設置部21は、布帛設置部1よりも上方に設けられ、転写紙r0が装着される回転軸部211と、回転軸部211を所定の回転方向(図1では、時計回り)に回転駆動する図示しない電動機と、ローラ212とを備える。本実施形態では、該回転軸部211に対して、ロール状に巻回された状態の転写紙(以下、「紙ロール」と称する)r0が、回転軸部211の軸線と紙ロールr0の軸線とが一致するように装着される。
【0037】
このとき、紙ロールr0は、紙ロールr0と回転軸部211とが一体となって回転するように回転軸部211に取り付けられ、さらに、電動機を駆動することによって紙ロールr0から転写紙rが下方へ巻き出されたとき、転写紙rの転写層が下方に臨むように取り付けられる。なお、回転軸部211を駆動する電動機としては、布帛設置部1と同様にトルクモータが好適に用いられ、制御手段によって、布帛Rの送り速度vに一致する送り速度で搬送される転写紙rを、一定のテンションで巻き出し続けるように制御される。
【0038】
ローラ212は、加圧・加熱ローラ22の上流側に設けられており、その軸線方向と幅方向Yとが一致するように、軸線まわりに回転可能に支持されている。またローラ212は、装置稼動時に配置される搬送経路形成位置(図1に示す位置)と非稼動時に配置される退避位置とに亘って上下方向Zに沿って変位可能に設けられ、図示しない変位駆動手段によって変位駆動される。なお、ローラ212の搬送経路形成位置とは、転写部2における装置稼動時の布帛Rの搬送経路に上方から隣接する位置である。またローラ212の退避位置は、搬送経路形成位置よりも上方の所定の位置である。
【0039】
紙ロールr0から下方に巻き出された転写紙rは、搬送経路形成位置に配置されたローラ212によって、布帛Rの搬送経路に沿うように送り方向が転換される。すなわち、ローラ212は、ローラ212の下流側において転写紙rが布帛Rに積重されるように、転写紙rの送り方向を転換する。これにより、ローラ212の下流側に設けられる加圧・加熱ローラ22へは、転写紙rと布帛Rの積層体Lが搬送される。
【0040】
加圧・加熱ローラ22は、内部に熱源を有する加熱ローラ221と、加熱ローラ221表面に対して圧接される加圧ローラ222と、加圧ローラ222を支持する2本の支持ローラ223とを備える。
【0041】
加熱ローラ221は、ローラ状部材であって、その軸線方向と幅方向Yとが一致するように、軸線まわりに回転可能に支持されており、図示しない回転駆動手段によって、所定の回転方向(図1では、時計回り)に所定の回転速度で回転駆動される。また加熱ローラ221は、装置稼動時に配置される搬送経路形成位置と非稼動時に配置される退避位置とに亘って上下方向Zに沿って変位可能に設けられ、図示しない変位駆動手段によって変位駆動される。なお、加熱ローラ221の搬送経路形成位置とは、転写部2における装置稼動時の布帛Rの搬送経路に上方から隣接する位置である。また加熱ローラ221の退避位置は、搬送経路形成位置よりも上方の所定の位置である。
【0042】
加熱ローラ221は、たとえばアルミなどの金属性中空芯金の表面に弾性層を設けることによって形成され、この芯金の内部に、熱源として、たとえばハロゲンランプが設置される。加熱ローラ221の温度は、制御手段によって制御され、たとえば加熱ローラ221表面の温度を検出する温度センサから出力される信号に基づいて、ハロゲンランプのオン/オフを切り換えることによって制御される。
【0043】
加圧ローラ222は、ローラ状部材であって、その軸線方向と幅方向Yとが一致するように、軸線まわりに回転可能に支持されている。また加圧ローラ222は、搬送経路形成位置に配置された加熱ローラ221表面に対して下方から所定の圧力で圧接できるように、上下方向Zに沿って変位可能に設けられ、圧接時には、加熱ローラ221の回転に従動して回転する。
【0044】
加圧ローラ222は、芯金上に、被覆層としてたとえばシリコーンゴムなどの耐熱性弾性層を設けることによって形成されている。したがって、圧接時には、加圧ローラ222を加熱ローラ221表面に対して圧接することにより生ずる、加圧ローラ222の弾性層の弾性変形によって、加熱ローラ221と加圧ローラ222との間にニップ部と呼ばれる圧接領域が形成されている。
【0045】
ローラ212から搬送されてきた積層体Lは、このニップ部を通過する際に加圧・加熱処理が施され、これにより、転写紙rの転写層が布帛Rへ転写される。このとき、転写紙rの転写層を布帛Rに対して確実に転写するためには、加熱ローラ221の回転速度および温度ならびにニップ部における圧力などの各条件が適切に設定される必要がある。
【0046】
前記各条件は、布帛Rを構成する繊維材料の種類、布帛Rの厚さおよび織り方または編み方、ならびに染料受容層の成分などに従って決定される。すなわち、加熱ローラ221の最適な回転速度は、転写捺染処理に用いる布帛Rおよび転写紙rを決定することにより決定される。捺染処理装置100では、この加熱ローラ221の最適な回転速度に合致するように、布帛Rの送り速度vが決定される。
【0047】
搬送用ローラ24は、転写部2における最も下流側に設けられ、駆動側ローラ241と、従動側ローラ242とを備える。駆動側ローラ241は、ローラ状部材であって、転写部2における装置稼動時の転写後積層体L1の搬送経路に下方から隣接する位置に設けられ、その軸線方向と幅方向Yとが一致するように、軸線まわりに回転可能に支持される。また駆動側ローラ241は、図示しない回転駆動手段によって、所定の回転方向(図1では、反時計回り)に所定の回転速度で回転駆動される。この回転駆動手段は、制御装置によって制御され、転写後積層体L1を送り速度vで搬送するように、所定の回転速度で駆動側ローラ241を回転駆動する。
【0048】
従動側ローラ242は、ローラ状部材であって、駆動側ローラ241の上方に設けられ、その軸線方向と幅方向Yとが一致するように、軸線まわりに回転可能に支持される。従動側ローラ242は、装置稼動時に配置される搬送経路形成位置と非稼動時に配置される退避位置とに亘って上下方向Zに沿って変位可能に設けられ、図示しない変位駆動手段によって変位駆動される。従動側ローラ242は、搬送経路形成位置に配置されたとき、駆動側ローラ241の回転に従動して回転する。なお、従動側ローラ242の搬送経路形成位置とは、転写部2における装置稼動時の転写後積層体L1の搬送経路に上方から隣接する位置である。また従動側ローラ242の退避位置は、搬送経路形成位置よりも上方の所定の位置である。
【0049】
したがって、装置稼動時には、駆動側ローラ241および従動側ローラ242は、それぞれ転写部2における転写後積層体L1の搬送経路を挟むように配置される。前記のように、搬送用ローラ24は、転写後積層体L1を所定の送り速度vで搬送するように駆動される。
【0050】
定着部3は、前記転写部2の下流側に隣接して設けられ、転写部2から所定の送り速度vで搬送されてくる転写後積層体L1を水蒸気によって加熱処理し、転写層に含まれる染料を布帛Rに定着させる。
【0051】
定着部3は、加熱用の水蒸気が充満されるチャンバ31と、水蒸気を発生し、チャンバ31内の空間Sに水蒸気を噴出する蒸気発生手段32と、転写部2から搬送されてくる転写後積層体L1を、チャンバ31内の空間Sへ搬入するための搬入口33と、チャンバ31内に設けられ、所定の送り速度vに応じて、チャンバ31内、より詳細には、チャンバ31内の有効定着温度領域S1における転写後積層体L1の搬送経路の経路長を調整する調整手段34と、チャンバ31内の空間Sから転写後積層体L1を搬出するための搬出口35とを備える。ここで、有効定着温度領域S1とは、チャンバ31内の空間Sにおける一部の領域であり、転写層の染料を布帛Rに定着させるために必要な所定の温度以上に設定される領域のことである。
【0052】
チャンバ31は、中空の構造体であり、互いに連なる側壁部および頂部によって、チャンバ31の内部には空間Sが形成されている。頂部には、ファン311が設置され、さらに、水蒸気を排出するための蒸気排出口がファン311に隣接して形成されている。この蒸気排出口には、蒸気排出口から排出された水蒸気が導入される図示しない排気ダクトが連設されている。
【0053】
蒸気発生手段32は、水蒸気を発生する蒸気発生部321と、蒸気発生部321を包囲する構造体322と、上方に向かって開口するように構造体322に穿設された蒸気噴出口323とを備える。蒸気発生手段32は、蒸気噴出口323がチャンバ31の内部空間Sに配置されるように、定着部3に設置される。したがって、蒸気発生部321で発生した水蒸気は、上方に立上り、蒸気噴出口323を介して構造体322の内部から外部に向かって噴出される。このとき、蒸気噴出口323が、チャンバ31の内部空間Sに配置されているので、発生した蒸気は、チャンバ31内の空間Sへ噴出される。また、チャンバ31内の空間Sに充満する水蒸気を適量に維持するために、蒸気噴出口323からの水蒸気の噴出に伴って蒸気排出口から水蒸気が適宜排出される。本実施形態では、蒸気発生手段32は、転写部2における布帛Rの搬送経路よりも下方の位置に設けられている。
【0054】
またチャンバ31の内壁には、チャンバ31の内部空間Sに充満した水蒸気のうち、蒸気噴出口323の上方に設定される有効定着温度領域S1における水蒸気が前記所定の温度以上を維持するように、内部空間Sを加熱するための図示しない加熱手段が設置されている。チャンバ31の内部にはさらに温度センサが備えられ、加熱手段は、温度センサから出力される信号に基づいて、制御装置によって制御される。このようにして、蒸気噴出口323の上方の有効定着温度領域S1が所定の温度以上となるように制御される。
【0055】
なお、この所定の温度は、布帛Rを構成する繊維材料の種類、布帛Rの厚さおよび織り方または編み方、ならびに染料の種類などに応じて決定されるものである。すなわち、前記所定の温度は、転写捺染処理に用いる布帛Rおよび転写紙rを決定することにより決定される。
【0056】
図2は、捺染処理装置100の定着部3およびその近傍を示す斜視図であり、搬送方向X1上流側から見たときの図である。搬入口33は、転写部2に臨むチャンバ31の側壁部に設けられ、具体的には、該側壁部に穿設された開口312と、チャンバ31の内部であって該開口312に隣接して設けられる可動式のシャッタ部材331とによって形成される。
【0057】
開口312は、矩形状に形成され、幅方向Yには、処理対象の布帛Rの幅よりも大きく、上下方向Zには、転写部2における布帛Rの搬送経路よりも上方の位置から該搬送経路よりも下方の位置に亘って開放するように形成されている。
【0058】
シャッタ部材331は、前記開口312の全領域を開放可能な退避位置P1と、退避位置P1よりも下方の位置であり、前記開口312の一部の領域を開放する搬送経路形成位置P2とに亘って、上下方向Zに変位可能に設けられ、たとえばエアシリンダなどの変位駆動手段332によって変位駆動される。搬入口33は、シャッタ部材331を搬送経路形成位置P2に配置したときに開放している領域に相当する。本実施形態に係る捺染処理装置100は、この搬入口33が、蒸気噴出口323よりも下方、すなわちチャンバ31内における有効定着温度領域S1よりも下方に設けられるように構成されている。
【0059】
調整手段34は、チャンバ31内の空間Sに設けられ、搬入口33から搬入された転写後積層体L1が巻き掛けられる複数(本実施形態では2)の搬送用ローラ341と、各搬送用ローラ341間の間隔を変化させるように、各搬送用ローラ341を少なくとも上下方向Zに沿って、好ましくは、上下方向Zおよび搬送方向X1に沿う方向に沿って、変位駆動する図示しない間隔調整手段とを備える。
【0060】
搬送用ローラ341は、ローラ状部材であって、その軸線方向と幅方向Yとが一致するように、軸線まわりに回転可能に支持されており、図示しない回転駆動手段によって、所定の回転方向(図1では、反時計回り)に所定の回転速度で回転駆動される。この回転駆動手段は、制御装置によって制御され、転写後積層体L1を送り速度vで搬送するように、所定の回転速度で搬送用ローラ341を回転駆動する。
【0061】
また搬送用ローラ341は、装置稼動時に配置される搬送経路形成位置と非稼動時に配置される退避位置とに亘って上下方向Zに沿って変位可能に設けられ、図示しない間隔調整手段によって上下方向Zに変位駆動される。なお、搬送用ローラ341の搬送経路形成位置とは、有効定着温度領域S1における所定の位置であり、搬送用ローラ341の退避位置は、転写部2における布帛Rの搬送経路よりも下方の所定の位置である。
【0062】
図1に示すように、装置稼動時には、転写部2の搬送用ローラ24を通過した転写後積層体L1は、搬送用ローラ24よりも下方に設けられる搬入口33に向かって垂下し、ループ状の搬送経路に沿って搬入口33からチャンバ31の内部へ搬入された後、搬入口33よりも上方に設定される有効定着温度領域S1に向けて搬送される。そして、有効定着温度領域S1内に侵入した転写後積層体L1は、間隔調整手段によって搬送経路形成位置に配置された各搬送用ローラ341に巻き掛けられながら、上下方向Zに蛇行した搬送経路に沿って有効定着温度領域S1内を搬送される。そして、有効定着温度領域S1内を通過した転写後積層体L1は、搬送用ローラ24よりも下方に設けられる搬出口35に向かって垂下し、ループ状の搬送経路に沿って搬出口35から搬出される。
【0063】
このとき、間隔調整手段は、所定の送り速度vで搬送される転写後積層体L1が、染料を定着させるために必要な所定の時間だけ有効定着温度領域S1内に滞留するように、有効定着温度領域S1における転写後積層体L1の搬送経路の経路長を調整することができる。具体的には、各搬送用ローラ341の上下方向Zの位置および搬送方向X1に沿う方向の位置を調整することによって、有効定着温度領域S1における転写後積層体L1の搬送経路の経路長が調整される。
【0064】
搬出口35は、洗浄部4に臨むチャンバ31の側壁部に設けられ、具体的には、該側壁部に穿設された開口313と、チャンバ31の内部であって該開口313に隣接して設けられる可動式のシャッタ部材351とによって形成される。
【0065】
開口313は、前記開口312と同一の大きさで、該開口312に対向する位置に形成される。シャッタ部材331は、該開口313の全領域を開放可能な退避位置Q1と、退避位置Q1よりも下方の位置であり、該開口313の一部の領域を開放する搬送経路形成位置Q2とに亘って、上下方向Zに変位可能に設けられ、たとえばエアシリンダなどの変位駆動手段352(図2参照)によって変位駆動される。搬出口35は、シャッタ部材351を搬送経路形成位置Q2に配置したときに開放している領域に相当する。本実施形態に係る捺染処理装置100は、この搬出口35が、蒸気噴出口323よりも下方、すなわちチャンバ31内における有効定着温度領域S1よりも下方に設けられるように構成されている。
【0066】
なお、本実施形態に係る捺染処理装置100には、搬入口33および搬出口35付近において、搬入口33および搬出口35を通過するときに形成される転写後積層体L1のループを検出するためのループ検出手段36,37が設けられている。
【0067】
基材回収部7は、前記定着部3の下流側に隣接して設けられ、定着部3から所定の送り速度vで搬送されてくる定着後積層体L2から転写紙rの基材Bを剥離し、剥離した基材Bを、回転軸部71まわりに巻き取りながら回収するように構成されている。
【0068】
洗浄部4は、前記基材回収部7の下流側に隣接して設けられ、基材回収部7から所定の送り速度vで搬送されてくる剥離後布帛R1を、洗浄液42によって洗浄処理することにより、剥離後布帛R1における糊剤および未定着の染料などの不要な物質を除去する。
【0069】
洗浄部4は、複数(本実施形態では5)の洗浄槽が設けられたタンク41と、剥離後布帛R1を洗浄するために洗浄槽に注入される洗浄液42と、剥離後布帛R1を搬送するための複数の搬送用ローラ43と、洗浄液42に浸漬されることにより洗浄液42を吸収している状態の剥離後布帛R1から、洗浄液42を搾り出すための複数(本実施形態では2)のスクイズローラ44とを備える。
【0070】
タンク41は、上方に向かって開放した5つの洗浄槽を列設して構成され、搬送方向X1に沿って5つの洗浄槽が並ぶように、さらに、転写部2における布帛Rの搬送経路よりも下方の位置に設けられる。本実施形態では、5つの洗浄槽のうち4つの洗浄槽に対して、剥離後布帛R1を洗浄するための洗浄液42が注入されている。洗浄液42としては、水または水にソーピング液を追加したものが用いられる。
【0071】
搬送用ローラ43は、複数(本実施形態では5)のローラ対431と、洗浄槽ごとに設けられる複数(本実施形態では5)のローラ432とを含む。ローラ対431は、装置稼動時において、転写部2における布帛Rの搬送経路を含む仮想平面を挟むように配置される駆動側ローラ431aと従動側ローラ431bとによって構成される。
【0072】
駆動側ローラ431aは、ローラ状部材であって、洗浄部4における剥離後布帛R1の搬送経路に下方から隣接する位置に設けられ、その軸線方向と幅方向Yとが一致するように、軸線まわりに回転可能に支持される。また駆動側ローラ431aは、図示しない回転駆動手段によって、所定の回転方向(図1では、反時計回り)に所定の回転速度で回転駆動される。この回転駆動手段は、制御装置によって制御され、剥離後布帛R1を送り速度vで搬送するように、所定の回転速度で駆動側ローラ431aを回転駆動する。
【0073】
従動側ローラ431bは、ローラ状部材であって、駆動側ローラ431aの上方に設けられ、その軸線方向と幅方向Yとが一致するように、軸線まわりに回転可能に支持される。従動側ローラ431bは、装置稼動時に配置される搬送経路形成位置と非稼動時に配置される退避位置とに亘って上下方向Zに沿って変位可能に設けられ、図示しない変位駆動手段によって変位駆動される。従動側ローラ431bは、搬送経路形成位置に配置されたとき、駆動側ローラ431aの回転に従動して回転する。なお、従動側ローラ431bの搬送経路形成位置とは、洗浄部4における剥離後布帛R1の搬送経路に上方から隣接する位置であり、従動側ローラ431bの退避位置は、搬送経路形成位置よりも上方の所定の位置である。
【0074】
ローラ432は、ローラ状部材であって、その軸線方向と幅方向Yとが一致するように、軸線まわりに回転可能に支持されており、図示しない回転駆動手段によって、所定の回転方向(図1では、時計回り)に所定の回転速度で回転駆動される。この回転駆動手段は、制御装置によって制御され、剥離後布帛R1を送り速度vで搬送するように、所定の回転速度でローラ432を回転駆動する。
【0075】
またローラ432は、装置稼動時に配置される搬送経路形成位置と非稼動時に配置される退避位置とに亘って上下方向Zに沿って変位可能に設けられ、図示しない変位駆動手段によって上下方向Zに変位駆動される。なお、ローラ432の搬送経路形成位置とは、洗浄槽内における所定の位置であり、搬送用ローラ341の退避位置は、転写部2における布帛Rの搬送経路よりも上方の所定の位置である。すなわち、ローラ432は、洗浄槽に注入された洗浄液42に浸漬可能に設けられている。
【0076】
スクイズローラ44は、洗浄部4における最も下流側に設けられ、装置稼動時において、転写部2における布帛Rの搬送経路を含む仮想平面を挟むように配置される駆動側ローラ441と従動側ローラ442とによって構成される。
【0077】
駆動側ローラ441は、ローラ状部材であって、洗浄部4における剥離後布帛R1の搬送経路に下方から隣接する位置に設けられ、その軸線方向と幅方向Yとが一致するように、軸線まわりに回転可能に支持される。また駆動側ローラ441は、図示しない回転駆動手段によって、所定の回転方向(図1では、反時計回り)に所定の回転速度で回転駆動される。この回転駆動手段は、制御装置によって制御され、剥離後布帛R1を送り速度vで搬送するように、所定の回転速度で駆動側ローラ441を回転駆動する。
【0078】
従動側ローラ442は、ローラ状部材であって、駆動側ローラ441の上方に設けられ、その軸線方向と幅方向Yとが一致するように、軸線まわりに回転可能に支持される。従動側ローラ442は、装置稼動時に配置される搬送経路形成位置と非稼動時に配置される退避位置とに亘って上下方向Zに沿って変位可能に設けられ、図示しない変位駆動手段によって変位駆動される。従動側ローラ442は、搬送経路形成位置に配置されたとき、駆動側ローラ441の回転に従動して回転する。なお、従動側ローラ442の搬送経路形成位置とは、洗浄部4における剥離後布帛R1の搬送経路に上方から隣接する位置であり、洗浄液42を搾り出すために駆動側ローラ441に圧接された位置である。また従動側ローラ442の退避位置は、搬送経路形成位置よりも上方の所定の位置である。
【0079】
乾燥部5は、前記洗浄部4の下流側に隣接して設けられ、洗浄部4から所定の送り速度vで搬送されてくる洗浄後布帛R2に対して、たとえば風、好ましくは温風を吹き当てることによって乾燥処理を施す。
【0080】
乾燥部5は、風または温風を送風する複数(本実施形態では2)の乾燥手段51と、洗浄後布帛R2を搬送するための複数(本実施形態では5)の搬送用ローラ52とを備える。2つの乾燥手段51は、搬送方向X1に沿って互いに対向するように、さらに、転写部2における布帛Rの搬送経路よりも下方の位置に設けられる。各乾燥手段51は、対向する乾燥手段51に向かって送風するように設けられている。
【0081】
搬送用ローラ52は、複数(本実施形態では3)の第1ローラ対521と、複数(本実施形態では2)の第2ローラ対522とを含む。第1ローラ対521は、装置稼動時において、転写部2における布帛Rの搬送経路を含む仮想平面を挟むように配置される駆動側ローラ521aと従動側ローラ521bとによって構成される。なお、第1ローラ対521は、搬送方向X1における設置位置が異なる以外は、洗浄部4の前記ローラ対431と同様に構成される。したがって、重複する説明を省略する。
【0082】
第2ローラ対522は、対向する2つの乾燥手段51の中央部に設けられ、装置稼動時において、乾燥手段51よりも下方の位置で洗浄後布帛R2を挟むように配置される駆動側ローラ522aと従動側ローラ522bとによって構成される。
【0083】
駆動側ローラ522aは、ローラ状部材であって、乾燥部5における洗浄後布帛R2の搬送経路に上方から隣接する位置に設けられ、その軸線方向と幅方向Yとが一致するように、軸線まわりに回転可能に支持される。また駆動側ローラ522aは、図示しない回転駆動手段によって、所定の回転方向(図1では、反時計回り)に所定の回転速度で回転駆動される。この回転駆動手段は、制御装置によって制御され、洗浄後布帛R2を送り速度vで搬送するように、所定の回転速度で駆動側ローラ522aを回転駆動する。
【0084】
また駆動側ローラ522aは、装置稼動時に配置される搬送経路形成位置と非稼動時に配置される退避位置とに亘って上下方向Zに沿って変位可能に設けられ、図示しない変位駆動手段によって変位駆動される。なお、駆動側ローラ522aの搬送経路形成位置とは、従動側ローラ522bに上方から隣接する位置であり、駆動側ローラ522aの退避位置は、転写部2における布帛Rの搬送経路よりも上方の所定の位置である。
【0085】
従動側ローラ522bは、ローラ状部材であって、駆動側ローラ522aの下方に設けられ、その軸線方向と幅方向Yとが一致するように、軸線まわりに回転可能に支持される。従動側ローラ442は、搬送経路形成位置に配置された駆動側ローラ441の回転に従動して回転する。
【0086】
各処理部2〜5において所定の処理が施された布帛R3は、乾燥部5の下流側に設けられる布帛回収部6において、回転軸部61まわりに巻き取られながら回収される。
【0087】
以上のように、本実施形態に係る捺染処理装置100は、転写工程に最適な送り速度vで布帛Rを搬送した場合であっても、定着処理に必要な所定の時間だけ転写後積層体L1に対して蒸気加熱処理を施すことができるように構成されているので、蒸気加熱処理時間の不足による定着不良を生じさせずに、転写工程と定着工程とを連続的に処理することができる。布帛Rの種類や染料の種類などの諸条件に従って、転写工程における最適な送り速度と蒸気加熱処理に要する時間の組合せは異なるが、本実施形態に係る捺染処理装置100では、転写工程における最適な送り速度に応じて、定着処理に必要な所定の時間だけ転写後積層体L1に対して蒸気加熱処理を施すことができる。
【0088】
このように、転写工程と定着工程とを連続的に処理することができるので、転写工程後の布帛の巻き取りによって生じていた、布帛の長手方向位置による未定着期間の差異をなくし、転写捺染処理後の布帛における色むらの発生を防止することができる。また、転写工程と定着工程との間で作業者によって行われていた準備工程が不要となるので、作業者の負担を軽減できるとともに、転写工程の開始から定着工程の完了までの所要期間を短縮することができる。
【0089】
また、転写工程と定着工程とを連続的に処理することができるので、転写層を布帛Rに対して転写した後、基材Bを剥離することなく、転写後積層体L1として蒸気加熱処理を行うことができ、これにより、染料を定着させてから基材Bを剥離することができるので、基材Bを剥離する際に生じていた転写不良を回避することができる。したがって、離型層を有しない転写紙を用いる場合であっても、転写捺染処理後の布帛の品質が低下させることなく実施することができる。
【0090】
また、転写後積層体L1が巻き掛けられる複数の搬送用ローラ341と、各搬送用ローラ341を上下方向Zに沿って変位駆動させる間隔調整手段という単純な構成によって調整手段34を実現することができるので、捺染処理装置100の構成が複雑化することを回避できる。
【0091】
また、転写部2から搬送された転写後積層体L1をチャンバ31内の空間Sに搬入するための搬入口33が、有効定着温度領域S1よりも下方に設けられているので、チャンバ31内に充満した水蒸気が、搬入口33を介して転写部2が設けられる側へ漏出してしまうことを可及的に防止することができる。これにより、転写部2と定着部3との連設によって生じ得る、定着部3からの水蒸気漏れによる転写部2内の温度および湿度への影響を軽減し、転写紙rの転写層が布帛Rへ適正に転写されなくなることを阻止することができる。
【0092】
図3は、本発明の他の実施形態に係る捺染処理装置100Aの一部の概略的な構成を拡大して示す図である。捺染処理装置100Aは、搬出口35から搬出された定着後積層体L2の転写層に含まれる糊剤を湿潤させるための湿潤手段を備え、具体的には、搬出口35を含む周囲の領域を冷却する冷却手段324を備えている。この冷却手段324は、定着部3と基材回収部7との間に設けられる。捺染処理装置100Aは、この冷却手段324を備えている点を除き、前記捺染処理装置100と同様に構成される。したがって、同一の構成については、捺染処理装置100における参照符と同様の参照符を付し、重複する説明については省略する。
【0093】
定着部3における蒸気加熱処理後の定着後積層体L2は、定着部3から搬出された後、急速に乾燥してしまう。したがって、搬出口35から搬出直後の定着後積層体L2は、転写層に含まれる糊剤が硬化してパリパリの状態となっており、基材Bが剥離しにくい状態となっている。
【0094】
これに対し、捺染処理装置100Aは、冷却手段324によって、搬出口35を含む周囲の領域を冷却するように構成されている。チャンバ31内には、前述するように染料を布帛Rに定着させるための水蒸気が充満しており、搬出口35周辺の領域にもある程度の水蒸気は導かれている。したがって、冷却手段324により搬出口35周辺を冷却することによって、搬出口35周辺に導かれた水蒸気を定着後積層体L2の表面に結露させることができる。そして、この結露した液滴により、転写層に含まれる糊剤を湿潤させることができる。
【0095】
このように本実施形態によれば、基材回収部7によって基材Bを剥離する直前に、転写層に含まれる糊剤を湿潤させることができ、硬化してパリパリの状態にある糊剤と基材Bとの付着力を低下させることができる。したがって、定着部3の下流側に基材回収部7を設けた場合であっても、定着後積層体L2における基材Bを、基材回収部7によって容易に剥離可能な状態にすることができる。また、定着処理のための水蒸気を利用することができるので非常に効率的であるとともに、湿潤させるための特別な装置を設ける必要がなく、装置構成が複雑化することを回避することができる。
【0096】
図4は、本発明の他の実施形態に係る捺染処理装置100Bの一部の概略的な構成を拡大して示す図である。捺染処理装置100Bは、搬出口35から搬出された定着後積層体L2の転写層に含まれる糊剤を湿潤させるための湿潤手段を備え、具体的には、蒸気発生手段32によって発生した水蒸気の一部を導き、搬出口35から搬出された定着後積層体L2に向けて導出する導出手段325を備えている。この導出手段325は、定着部3と基材回収部7との間に設けられる。捺染処理装置100Bは、この導出手段325を備えている点を除き、前記捺染処理装置100と同様に構成される。したがって、同一の構成については、捺染処理装置100における参照符と同様の参照符を付し、重複する説明については省略する。
【0097】
導出手段325は、一方の端部326aが、蒸気発生部321から発生した水蒸気が充満される構造体322に連通し、他方の端部326bが、搬出口35から搬出された定着後積層体L2の布帛R側の表面に向かって開放するダクト326によって構成される。したがって、蒸気発生手段32によって発生した水蒸気の一部を導いて、搬出口35から搬出された定着後積層体L2に向けて導出することができる。チャンバ31の外部において水蒸気を導出するように構成されているので、導出した水蒸気を、定着後積層体L2の表面に結露させることができる。そして、この結露した液滴により、転写層に含まれる糊剤を湿潤させることができる。
【0098】
このように本実施形態によれば、基材回収部7によって基材Bを剥離する直前に、転写層に含まれる糊剤を湿潤させることができ、硬化してパリパリの状態にある糊剤と基材Bとの付着力を低下させることができる。したがって、定着部3の下流側に基材回収部7を設けた場合であっても、定着後積層体L2における基材Bを、基材回収部7によって容易に剥離可能な状態にすることができる。また、定着処理のための水蒸気を利用することができるので非常に効率的であるとともに、湿潤させるための特別な装置を設ける必要がなく、装置構成が複雑化することを回避することができる。
【0099】
前述する各実施形態は、基材回収部7が、定着部3と洗浄部4の間に配置される場合に対応している。しかしながら、他の実施形態では、基材回収部7が、洗浄部4と乾燥部5の間に配置されてもよい。これにより、転写層に含まれる糊剤が除去された後で基材Bを剥離することができるので、糊剤による付着力を取り除くことができ、基材回収部7によって基材Bを容易に剥離することができる。
【0100】
また他の実施形態では、基材回収部7が、乾燥部5の下流側に配置されてもよい。これにより、転写層に含まれる糊剤が除去され、さらに布帛に吸収されている洗浄液の水分も除去された後で基材Bを剥離することができるので、糊剤による付着力および水分による吸着力を取り除くことができ、基材回収部7によって基材Bを容易に剥離することができる。
【0101】
以上では、乾式転写捺染法によって布帛Rを捺染する装置、すなわち染料を含む転写層を有する転写紙を該布帛に積重して加圧・加熱処理することによって転写捺染する装置100について説明したが、これに限らず、乾式昇華転写捺染法によって布帛Rを捺染する装置、すなわち染料を含む転写層を有する転写紙を該布帛に積重して加熱処理することによって転写捺染する装置において実現されてもよい。
【符号の説明】
【0102】
1 布帛設置部
2 転写部
3 定着部
4 洗浄部
5 乾燥部
6 布帛回収部
7 基材回収部
100 捺染処理装置
R 布帛
r 転写紙
L 積層体
B 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と染料および糊剤を含む転写層とを有する転写紙を布帛に積重して加熱処理または加圧・加熱処理し、転写紙の転写層を布帛に転写する転写部と、
前記転写部の下流側に設けられ、蒸気加熱処理によって、転写層の染料を布帛に定着させる定着部と、
布帛と転写紙の積層体における転写紙の基材を、剥離して回収する基材回収部とを含み、
前記基材回収部は、前記定着部の下流側に配置されることを特徴とする捺染処理装置。
【請求項2】
前記定着部の下流側に設けられ、洗浄液を用いて布帛を洗浄処理する洗浄部をさらに含み、
前記基材回収部は、前記定着部と前記洗浄部との間に配置され、
前記基材回収部と定着部との間には、転写層に含まれる糊剤を湿潤させる湿潤手段が設けられることを特徴とする請求項1記載の捺染処理装置。
【請求項3】
前記定着部の下流側に設けられ、洗浄液を用いて布帛を洗浄処理する洗浄部と、
前記洗浄部の下流側に設けられ、布帛に対して乾燥処理する乾燥部とをさらに含み、
前記基材回収部は、前記洗浄部と前記乾燥部との間に配置されることを特徴とする請求項1記載の捺染処理装置。
【請求項4】
前記定着部の下流側に設けられ、洗浄液を用いて布帛を洗浄処理する洗浄部と、
前記洗浄部の下流側に設けられ、布帛に対して乾燥処理する乾燥部とをさらに含み、
前記基材回収部は、前記乾燥部の下流側に配置されることを特徴とする請求項1記載の捺染処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−162918(P2011−162918A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28245(P2010−28245)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(311001347)NKワークス株式会社 (96)
【Fターム(参考)】