説明

捺染処理装置

【課題】 転写層を構成する転写剤の一部が基材に残着しないように、加熱処理または加圧・加熱処理後の積層体における転写層から基材だけを確実に剥離する。
【解決手段】 捺染処理装置100は、基材Bの表面に染料および糊剤を含む転写剤から成る転写層Cが形成された転写紙Tを、搬送方向X1に沿って搬送される布帛Rに対して前記転写層Cが対向するように積重し、加熱処理または加圧・加熱処理して、転写紙Tの転写層Cを布帛Rに転写する転写部3と、転写部3の搬送方向X1下流側に設けられ、布帛Rに転写された転写層Cから基材Bを剥離する剥離部4とを含み、剥離部4は、基材Bを剥離するときの布帛Rに対する基材Bの剥離角度αを調節するための剥離角度調節機構46を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面に染料と糊剤とを含む転写剤から成る転写層が形成された転写紙を、布帛に積重して加熱処理または加圧・加熱処理することによって、転写紙の転写層を布帛に転写して布帛を捺染する捺染処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、布帛に図柄を堅牢・精細に描く方法として、コンピュータを用いて電子データで前記図柄を作成し、インクジェットプリント方式で染料を布帛に付着させて描画する無製版プリント法が注目されている。
【0003】
無製版プリント法は、インクジェットプリンタを用いて布帛へ図柄を直接描画し、図柄が描画された布帛を加熱して染料を布帛に定着させる直描式の捺染法と、染料を受容するための糊剤などを含む染料受容層が基材上に形成された転写用紙に対して、インクジェットプリンタを用いて染料を噴射して図柄を描画することによって、染料受容層と染料とから成る転写層を有する転写紙を先ず作製し、この転写紙を転写層が対向するように布帛上に積重して、転写紙の転写層を布帛に転写し、この転写層が転写された布帛を蒸気加熱して染料を布帛に定着させる転写捺染法(たとえば、特許文献1および2参照)とに大別される。
【0004】
転写捺染法は、直描式の捺染法に比べ、布帛に対して高画質・高精細に図柄を捺染することができるため、転写捺染法を用いた捺染処理装置の開発が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−287870号公報
【特許文献2】国際公開第2007/111302号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
転写捺染法では、転写層が対向するように転写紙を布帛に積重して構成される積層体に対して、加熱処理または加圧・加熱処理することにより転写層と布帛とを接着させることで、転写紙の転写層を布帛に転写した後、不要な基材を、布帛に接着した転写層から剥離する処理が行われている。したがって、基材に対して接着しているだけでなく、布帛に対しても接着している転写層から、基材を剥離しなければならない。
【0007】
それ故、転写層から基材を剥離する際には、転写剤の一部が、転写紙から布帛へ転写されずに、基材に残着してしまうおそれがある。転写剤の一部が基材に残着してしまうと、捺染後の布帛において、対応する部分における図柄が欠落してしまうこととなる。したがって、図柄の欠落を防止するためにも、布帛に接着した転写層から基材を剥離する際には、転写層の一部が残着しないように、積層体から基材だけを確実に剥離する必要がある。
【0008】
特許文献1に記載の転写捺染法では、吸水性シート上に水溶性樹脂から成る転写樹脂層および染料を有する印刷インキ層が順次積層された転写紙を、印刷インキ層が対向するように布帛に積重して圧着し、転写紙の吸水性シート側から水をスプレーすることで水溶性樹脂を湿潤させてから吸水性シートを剥離することによって、転写樹脂層と印刷インキ層とを布帛へ転写している。
【0009】
しかしながら、この方法では、水溶性樹脂を確実に湿潤させる必要があり、水溶性樹脂において湿潤されない部分が存在すれば、転写樹脂層および印刷インキ層が吸水性シートに残着してしまうおそれがある。したがって、水溶性樹脂に対して確実かつ均一に湿潤させることが可能な装置を別途に設置する必要がある。また、この方法を実施するためには、転写紙の基材として吸水性シートを利用しなければならないだけでなく、水を大量に使用しなければならないので、生産コストが増大してしまう。
【0010】
本発明の目的は、転写層を構成する転写剤の一部が基材に残着しないように、加熱処理または加圧・加熱処理後の積層体における転写層から基材だけを確実に剥離することができる捺染処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の捺染処理装置は、基材の表面に染料および糊剤を含む転写剤から成る転写層が形成された転写紙を、予め定める搬送方向に搬送される布帛に対して前記転写層が対向するように積重し、加熱処理または加圧・加熱処理して、転写紙の転写層を布帛に転写する転写部と、前記転写部の前記搬送方向の下流側に設けられ、布帛に転写された転写層から基材を剥離する剥離部とを含み、前記剥離部は、基材を剥離するときの布帛に対する基材の剥離角度を調節するための剥離角度調節手段を備えることを特徴とする。
【0012】
この構成によると、装置を稼動させる前の装置設定工程において、基材を剥離するときの布帛に対する基材の剥離角度を調節することができる。これにより、布帛を構成する繊維材料の種類、転写層に含まれる染料および糊剤の種類、ならびに、装置稼動時における温度および湿度などの環境条件に応じて、転写層を構成する転写剤の一部が基材に残着しないような適切な角度に調節してから、装置を稼動させることができる。
【0013】
本発明の捺染処理装置は、基材の表面に染料および糊剤を含む転写剤から成る転写層が形成された転写紙を、予め定める搬送方向に所定の送り速度で搬送される布帛に対して前記転写層が対向するように積重し、加熱処理または加圧・加熱処理して、転写紙の転写層を布帛に転写する転写部と、前記転写部の前記搬送方向の下流側に設けられ、前記所定の送り速度より大きな剥離速度で、布帛に転写された転写層から基材を剥離する剥離部とを含み、前記剥離部は、転写後の布帛と転写紙の積層体を滞留させるための積層体滞留部と、転写層から基材を剥離する剥離手段と、前記剥離手段を駆動する駆動機構と、前記剥離速度で間欠的に基材が剥離されるように、前記駆動機構を制御する制御手段とを備えることを特徴とする。
【0014】
この構成によると、所定の送り速度で搬送される転写後の転写紙と布帛の積層体に対して、前記所定の送り速度よりも大きな剥離速度で基材を剥離することができる。これにより、布帛の送り速度に依存せずに基材を剥離することができるので、剥離速度の不足に起因して発生する転写剤の基材への一部残着を防止することができる。
【0015】
また本発明の捺染処理装置では、前記制御手段は、前記剥離速度が予め定める速度以上となるように、前記駆動機構を制御することを特徴とする。
【0016】
この構成によると、布帛を構成する繊維材料の種類、ならびに転写層に含まれる染料および糊剤の種類などに応じて適宜に設定される布帛の送り速度に対して、残着のおそれのない予め定める速度以上の剥離速度で基材を剥離することができる。
【0017】
本発明の捺染処理装置は、基材の表面に染料および糊剤を含む転写剤から成る転写層が形成された転写紙を、予め定める搬送方向に搬送される布帛に対して前記転写層が対向するように積重し、加熱処理または加圧・加熱処理して、転写紙の転写層を布帛に転写する転写部と、前記転写部の前記搬送方向の下流側に設けられ、布帛に転写された転写層から基材を剥離する剥離部とを含み、前記剥離部は、基材の布帛に対する剥離開始位置に隣接して設けられ、基材を剥離するときの布帛に対する基材の剥離角度が150度以上となるように、基材を折り返して剥離するための折返し部材を備えることを特徴とする。
【0018】
この構成によると、基材が布帛に対して剥離角度が150度以上となるように折り返されることにより、剥離開始位置における基材と転写層との間に、大きなせん断応力を生じさせることができる。このせん断応力により、基材と転写層との接合力を弱めることができるので、基材へ転写剤の一部が残着することを効果的に防止することができる。
【0019】
本発明の捺染処理装置は、基材の表面に染料および糊剤を含む転写剤から成る転写層が形成された転写紙を、予め定める搬送方向に搬送される布帛に対して前記転写層が対向するように積重し、加熱処理または加圧・加熱処理して、転写紙の転写層を布帛に転写する転写部と、前記転写部の前記搬送方向の下流側に設けられ、布帛に転写された転写層から基材を剥離する剥離部とを含み、前記剥離部には、転写後の布帛と転写紙の積層体を、所定の温度以下に冷却するための冷却部が設けられることを特徴とする。
【0020】
この構成によると、転写部において加熱処理または加圧・加熱処理が行われることにより高温状態にある転写後の布帛と転写紙の積層体を、所定の温度以下に冷却することができる。これにより、転写後の積層体において軟化状態または溶融状態にある糊剤を、布帛へ固定することができる。したがって、布帛に転写された転写層から基材を剥離する際に、基材へ転写剤の一部が残着することを防止することができる。
【0021】
本発明の捺染処理装置は、基材の表面に染料および糊剤を含む転写剤から成る転写層が形成された転写紙を、予め定める搬送方向に搬送される布帛に対して前記転写層が対向するように積重し、加熱処理または加圧・加熱処理して、転写紙の転写層を布帛に転写する転写部と、前記転写部の前記搬送方向の下流側に設けられ、布帛に転写された転写層から基材を剥離する剥離部とを含み、前記剥離部は、基材の布帛に対する剥離開始位置に近接して配置される剥離ローラと、前記剥離ローラを微振動させる振動付与手段とを備えることを特徴とする。
【0022】
この構成によると、基材の布帛に対する剥離開始位置に隣接して配置される剥離ローラに微振動を付与することができる。この微振動により、基材と転写層との接合力を弱めることができるので、基材へ転写剤の一部が残着することを効果的に防止することができる。
【0023】
また本発明の捺染処理装置は、前記剥離部の前記搬送方向の下流側に設けられ、前記搬送方向に搬送される布帛を蒸気加熱処理して、転写層の染料を布帛に定着させる定着部をさらに備えることを特徴とする。
【0024】
この構成によると、基材が剥離された後の布帛、すなわち転写紙の転写層が転写された布帛に対して、染料を定着させるための蒸気加熱処理が行われる。このように、転写工程と定着工程とを連続的に行う装置とすることにより、リードタイムの短縮および装置を設置するためのスペースの低減が可能になるだけでなく、転写工程後に布帛を巻取って回収する必要がなくなる。従来、転写工程後の布帛の巻取りにより、布帛と転写層とが擦れることによる転写剤の一部欠落、および布帛の長手方向における位置に依って転写が行われてから定着が開始されるまでの期間に差が生じることによる転写むらが発生していたが、巻取りを不要にすることによって、転写層の一部欠落および転写むらの発生を防止し、品質の高い捺染布帛を生産することができる。
【0025】
また本発明の捺染処理装置は、前記定着部の前記搬送方向の下流側に設けられ、前記搬送方向に搬送される布帛を洗浄液を用いて洗浄処理する洗浄部をさらに備えることを特徴とする。
【0026】
この構成によると、染料定着後の布帛に対して、水などの洗浄液を使用して、転写層に含まれる染料以外の物質および未定着の染料を洗い落とすことができる。このように、転写・定着・洗浄の各工程を連続的に行う装置とすることにより、リードタイムの短縮および装置を設置するためのスペースの低減が可能になるだけでなく、染料以外の物質によって及ぼされる布帛への悪影響、および未定着の染料に起因する布帛の汚染の発生を排除することができる。
【0027】
また本発明の捺染処理装置は、前記洗浄部の前記搬送方向の下流側に設けられ、前記搬送方向に搬送される布帛を乾燥処理する乾燥部をさらに備えることを特徴とする。
【0028】
この構成によると、水などの洗浄液を使用した洗浄処理により水分を保持した状態の布帛を乾燥させることができる。このように、転写・定着・洗浄・乾燥の各工程を連続的に行う装置とすることにより、リードタイムの短縮および装置を設置するためのスペースの低減が可能になるだけでなく、捺染処理装置による処理後の捺染布帛を、搬送および保管し易い状態にすることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、前記のように、捺染処理装置において、基材へ転写剤の一部が残着することを防止して、布帛に転写された転写層から基材だけを確実に剥離することができる。これにより、捺染後の布帛において、図柄の一部が欠落してしまうことを防止することができ、捺染布帛の品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態に係る捺染処理装置100の概略的な構成を示す系統図である。
【図2】捺染処理装置100の制御装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図3】転写紙Tの構成の一例を示す一部の拡大断面図である。
【図4】剥離角度調節機構46の構成を示す斜視図である。
【図5】転写部3および剥離部4の概略的な構成を示す系統図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係る捺染処理装置200の構成の一部を概略的に示す系統図である。
【図7】本発明の他の実施形態に係る捺染処理装置300の構成の一部を概略的に示す断面図である。
【図8】本発明の他の実施形態に係る捺染処理装置400の構成の一部を概略的に示す系統図である。
【図9】本発明の他の実施形態に係る捺染処理装置500の構成の一部を概略的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1は、本発明の実施形態に係る捺染処理装置100の概略的な構成を示す系統図である。図2は、捺染処理装置100の制御装置の電気的構成を示すブロック図である。捺染処理装置100は、転写紙Tに描画された図柄を布帛Rへ転写することにより、布帛Rを捺染する装置である。
【0032】
まず、捺染処理装置100によって図柄が捺染される布帛R、および転写すべき図柄が形成される転写紙Tについて説明する。
【0033】
布帛Rは、天然繊維材料または/および合成繊維材料から成り、より詳細には、セルロース系繊維材料、蛋白質系繊維材料および合成繊維材料から選択された一種、またはこれらから選択された二種以上の繊維材料からなる織物、編物、または不織布である。ここで、セルロース系繊維材料としては、綿、麻、リヨセルおよびレーヨン(たとえば、ポリノジックレーヨン、ビスコースレーヨン、キュプラレーヨンなど)などを挙げることができ、蛋白質系繊維材料としては、絹、羊毛および獣毛などを挙げることができ、合成繊維材料としては、ナイロン、ビニロン、ポリエステル(たとえば、ポリエチレンテレフタレート、ポリアルキレンテレフタレート、乳酸ポリエステルなど)、トリアセテート、ジアセテート、ポリアミド、ポリアクリルなどを挙げることができる。
【0034】
図3は、転写紙Tの構成の一例を示す一部の拡大断面図である。転写紙Tは、基材B上に染料受容層c1を形成した転写用紙t上に、インクジェットプリンタを用いて、染料で図柄が描画された染料層c2を積層することによって作製される。ここで、転写層Cは、基材B上に形成された層、すなわち染料受容層c1と染料層c2から成る層のことである。すなわち、本実施形態において転写紙Tは、基材Bと転写層Cとによって構成される。
【0035】
基材Bは、図3に示すように、用紙またはフィルムから成る台紙b1上に、離型剤層b2を積層して形成されてもよく、また、台紙b1だけで構成されてもよい。用紙としては、クラフトパルプおよびグラインドパルプなどのパルプまたはリサイクル紙を原料として抄紙されたパルプ紙、再生紙を用いることができ、フィルムとしては、耐熱性の合成樹脂フィルム、たとえばポリエステルフィルムなどが用いることができる。また、離型剤層b2は、有機溶剤可溶性の合成樹脂層であることが、その形成が容易になるので好ましく、有機溶剤可溶性の合成樹脂としては、有機溶剤可溶性のシリコン樹脂、フッ素樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂、ステアリン酸樹脂およびポリエステル樹脂から選択された一種、またはこれらから選択された二種以上の混合物などを挙げることができる。
【0036】
染料受容層c1は、親水性合成樹脂と親水性糊剤との混合物を主体とし、さらに各種助剤を含有していてもよい。親水性合成樹脂は、加熱によって軟化または溶融する樹脂であり、たとえば水溶性ポリエステル樹脂、水溶性ウレタン樹脂、水溶性ウレタン変性エーテル樹脂および水溶性ポリエチレンオキサイド樹脂から選択された一種、またはこれらから選択された二種以上の混合物である。また親水性糊剤は、天然素材、半合成素材または水溶性合成高分子からなる糊剤であり、たとえば海藻類、繊維素誘導糊、加工デンプン糊、水溶性合成高分子および天然ガム類から選択された一種、またはこれらから選択された二種以上の混合物である。また各種助剤は、たとえば酸性物質、アルカリ剤、表面張力低下剤、増粘剤、箔転写バインダー糊、鉱物および保湿剤から選択された一種、またはこれらから選択された二種以上の薬剤である。
【0037】
また布帛Rを捺染するための染料は、布帛Rを構成する繊維材料との組み合わせなどを考慮して、反応染料、分散染料、酸性染料、金属錯塩型染料および直接染料の中から適宜選択される。
【0038】
以下、捺染処理装置100について詳細に説明する。捺染処理装置100は、平坦かつ水平または略水平な床面Fに設置されているものとし、転写部3から乾燥部7へ向かう、床面Fに平行な方向X1を、以下では搬送方向と称する。また、床面Fに垂直な方向Zを上下方向と称し、搬送方向X1および上下方向Zのいずれにも直交する方向Yを横方向と称する。
【0039】
捺染処理装置100は、所定の幅寸法を有する長尺の布帛Rをロール状に巻回して構成される布帛ロールR0が設置される布帛設置部1と、所定の幅寸法を有する長尺の転写紙Tをロール状に巻回して構成される転写紙ロールT0が設置される転写紙設置部2とを有している。
【0040】
布帛設置部1は、巻出し軸部材11と、布帛巻出し軸回転機構12とを備え、布帛巻出し制御部1Aによって制御される。巻出し軸部材11は、円筒形の外周面を有し、その中心軸線が横方向Yと平行になるように配設され、該中心軸線まわりに回転自在に軸支されている。布帛ロールR0は、この巻出し軸部材11に外挿されることによって、布帛設置部1に設置される。なお、外挿状態において、巻出し軸部材11と布帛ロールR0とは、一体的に回転するように結合されている。
【0041】
布帛巻出し軸回転機構12は、巻出し軸部材11を回転させるための駆動源であるモータと、巻出し軸部材11に所定値以上の回転トルクが作用した場合に、巻出し軸部材11とモータとの間の回転トルクの伝達を遮断するためのトルクリミッタとを含んで構成される。布帛巻出し軸回転機構12は、布帛巻出し制御部1Aによって、布帛ロールR0から巻き出された布帛Rが一定の送り速度および張力で転写部3へ供給されるように制御される。
【0042】
転写紙設置部2は、巻出し軸部材21と、転写紙巻出し軸回転機構22とを備え、転写紙巻出し制御部2Aによって制御される。巻出し軸部材21は、円筒形の外周面を有し、その中心軸線が横方向Yと平行になるように配設され、該中心軸線まわりに回転自在に軸支されている。転写紙ロールT0は、この巻出し軸部材21に外挿されることによって、転写紙設置部2に設置される。本実施形態では、転写紙設置部2は、布帛設置部1よりも上方に設けられているので、転写紙ロールT0の転写紙Tは、布帛ロールR0側の下端部から搬送方向X1に向かって巻き出されたときに、転写層Cが下方を臨むように設置される。なお、外挿状態において、巻出し軸部材21と転写紙ロールT0とは、一体的に回転するように結合される。
【0043】
転写紙巻出し軸回転機構22は、巻出し軸部材21を回転させるための駆動源であるモータと、巻出し軸部材21に所定値以上の回転トルクが作用した場合に、巻出し軸部材21とモータとの間の回転トルクの伝達を遮断するためのトルクリミッタとを含んで構成される。転写紙巻出し軸回転機構22は、転写紙巻出し制御部2Aによって、転写紙ロールT0から巻き出された転写紙Tが、一定の送り速度および張力で転写部3へ供給されるように制御される。
【0044】
なお、転写部3へ供給される転写紙Tの送り速度と、転写部3へ供給される布帛Rの送り速度とは、互いに等しい速度であり、後述する転写ローラ31,32の周速度に基づいて規定される速度である。
【0045】
捺染処理装置100は、布帛設置部1および転写紙設置部2の搬送方向X1の下流側(以下、単に「下流側」と記す)に、転写部3を有している。転写部3は、基材Bの表面に転写層Cが形成された転写紙Tを、布帛設置部1から一定の送り速度で連続的に搬送される布帛Rに対して転写層Cが対向するように積重し、布帛Rと転写紙Tとの積層体Lに対して、所定の圧力および温度で、所定の処理時間だけ加圧・加熱処理するように構成されている。
【0046】
転写部3は、具体的には、加熱ローラ31と、加熱ローラ31の上方に近接または接触して平行に設けられる加圧ローラ32と、加圧ローラ32を加熱ローラ31に対して所定の圧力で圧接させるための圧力付与機構34と、加熱ローラ31に関して加圧ローラ32とは反対側に加熱ローラ31に隣接して設けられ、加熱ローラ31を支持する2本の支持ローラ35と、ガイドローラ36と、加熱ローラ31および加圧ローラ32をそれぞれ回転駆動する転写ローラ回転機構37とを備え、これらは転写制御部3Aによって制御される。以下、加熱ローラと加圧ローラとを総称する場合には、「転写ローラ」と記載する。
【0047】
ガイドローラ36は、転写ローラ31,32の搬送方向X1の上流側(以下、単に「上流側」と記す)に、その中心軸線が横方向Yと平行になるように配設され、該中心軸線まわりに回転自在に軸支されている。詳細には、布帛ロールR0から巻き出された布帛Rの搬送経路に隣接する位置に設けられ、転写紙ロールT0から巻き出された転写紙Tが巻き掛けられる。これにより、転写紙Tは、ガイドローラ36の下流側では、布帛Rの搬送経路に沿って搬送される。本実施形態では、ガイドローラ36の下流側では、布帛R上に転写紙Tを積重することによって積層体Lが形成され、この積層体Lが、転写ローラ31,32へ搬送される。
【0048】
加熱ローラ31は、アルミニウム合金などの軽量で熱伝導性の高い金属によって形成された円筒状の芯金の外周面を、シリコーンゴムなどで薄くコーティングして耐熱性弾性層を形成したローラ状部材と、芯金の内部に設けられ、ローラ状部材の外周面の温度を所定の温度に加熱するためのローラ加熱装置33とを含んで構成される。ローラ加熱装置33は、たとえば加熱ローラ31の外周面の温度を検出する温度センサから出力される信号に基づいて、転写制御部3Aによって、後述するニップ部の温度が所定の温度となるように制御される。ローラ加熱装置33としては、発熱抵抗線に電力を供給してジュール熱を発生させる構成であってもよく、ハロゲンランプを用いて構成されてもよく、IH(
Induction Heating)方式を用いて構成されてもよい。
【0049】
加圧ローラ32は、アルミニウム合金などの軽量で熱伝導性の高い金属によって形成された円筒状または円柱状の芯金の外周面を、シリコーンゴムなどで厚くコーティングして耐熱性弾性層を形成することによって構成される。
【0050】
加熱ローラ31および加圧ローラ32はそれぞれ、各中心軸線が横方向Yと平行になるように配設され、該中心軸線まわりに回転自在に軸支されている。加熱ローラ31は、捺染処理装置100の機体の所定の位置に固定的に軸支され、加圧ローラ32は、加熱ローラ31に対して近接・離間する方向へ変位可能に軸支されている。
【0051】
圧力付与機構34は、加圧ローラ32を加熱ローラ31に近接する方向に押圧力を付与して付勢するように構成されている。圧力付与機構34は、転写制御部3Aによって、所定の圧力(以下、「ニップ圧」と記す)で、加圧ローラ32が加熱ローラ31に対して圧接するように制御される。圧力付与機構34によって圧接された状態では、加圧ローラ32の弾性層が弾性変形することによって、加熱ローラ31と加圧ローラ32との間にニップ部と呼ばれる圧接領域が形成される。
【0052】
転写ローラ回転機構37は、加熱ローラ31および加圧ローラ32を、同一の周速度で互いに逆方向に回転駆動するように構成されている。転写ローラ回転機構37は、転写制御部3Aによって、所定の周速度で、加熱ローラ31および加圧ローラ32が回転するように制御される。この周速度は、積層体Lに対して最適な加圧・加熱処理の処理時間に基づいて決定される。本実施形態に係る捺染処理装置100は、この転写ローラ31,32の周速度に等しい送り速度で、布帛Rが転写部3から乾燥部7まで搬送されるように構成されている。
【0053】
転写ローラ31,32へ搬送されてきた積層体Lは、転写ローラ31,32間に形成されるニップ部を通過して、下流側の剥離部4へ搬送される。積層体Lは、このニップ部を通過する際に、所定のニップ圧および温度で、所定の処理時間だけ、加圧・加熱処理が施される。これにより、転写紙Tの転写層Cが、布帛Rへ転写される。
【0054】
前述する各処理条件、すなわちニップ部におけるニップ圧、ニップ部の温度、および加圧・加熱処理の処理時間は、布帛Rを構成する繊維材料の種類、布帛Rの厚さ、布帛Rの織り方または編み方、および転写紙Tにおける染料受容層c1の成分などに基づいて決定され、予め捺染処理装置100の装置制御部100Aに設定される。
【0055】
捺染処理装置100は、転写部3の下流側に剥離部4を有している。剥離部4は、転写ローラ31,32によって加圧・加熱処理された後の積層体Lにおける転写層Cから基材Bを剥離するように構成されている。
【0056】
剥離部4は、具体的には、転写層Cから基材Bを剥離する剥離ローラ41と、転写層Cから剥離された基材Bを巻き取って回収する基材巻取り部42と、ガイドローラ45と、剥離角度調節機構46とを備え、剥離制御部4Aによって制御される。剥離ローラ41は、その中心軸線が横方向Yと平行になるように、かつ積層体Lにおける基材Bに上方から当接するように配設され、該中心軸線まわりに回転自在に軸支されている。
【0057】
基材巻取り部42は、巻取り軸部材43と、基材巻取り軸回転機構44とを備えている。巻取り軸部材43は、円筒形の外周面を有し、その中心軸線が横方向Yと平行になるように配設され、該中心軸線まわりに回転自在に軸支されている。
【0058】
基材巻取り軸回転機構44は、巻取り軸部材43を回転させるための駆動源であるモータ、減速機および減速機によって減速された回転動力を巻取り軸部材43に伝達する回転動力伝達手段を含んで構成される。前記回転動力伝達手段は、たとえば巻取り軸部材43に固定されたプーリと減速機の出力軸に固定されたプーリと、各プーリに巻き掛けられるベルトによって構成されてもよい。基材巻取り軸回転機構44は、剥離制御部4Aによって、基材Bが、一定の張力および基材剥離後の布帛Rの送り速度に一致する速度で、巻取り軸部材43のまわりに巻き取られるように制御される。
【0059】
ガイドローラ45は、その中心軸線が横方向Yと平行になるように配設され、該中心軸線まわりに回転自在に軸支されている。ガイドローラ45は、剥離ローラ41よりも下流側の所定の位置に固定的に設けられ、転写層Cから剥離された基材Bが巻き掛けられる。
【0060】
図4は、剥離角度調節機構46の構成を示す斜視図である。図5は、転写部3および剥離部4の概略的な構成を示す系統図である。剥離角度調節機構46は、布帛Rに転写された転写層Cから基材Bを剥離するときの布帛Rに対する基材Bの剥離角度αを調節するための機構である。
【0061】
剥離角度調節機構46は、剥離ローラ41を搬送方向X1に平行な前後方向Xに移動させるように構成され、具体的には、剥離ローラ41をその中心軸線まわりに回転自在に軸支する一対の軸受部461と、前後方向Xに延びる一対の案内レール462と、各軸受部461がそれぞれ固定され、各案内レール462上を走行する一対の走行部材463と、各走行部材463を同期して同一方向に走行させるための駆動源である一対のギアドモータ464と、各ギアドモータ464の動力を伝達するための動力伝達機構であるラック・ピニオン機構465とを含んで構成されている。また各案内レール462はそれぞれ、基台466に取り付けられ、基台466は、捺染処理装置100の前記機体の一部を構成するフレーム部材467に固定されている。
【0062】
前述するように、剥離ローラ41によって剥離された基材Bは、剥離ローラ41よりも下流側の所定の位置に固定的に設けられているガイドローラ45に巻き掛けられて、基材巻取り部42へ搬送される。したがって、剥離角度調節機構46によって剥離ローラ41を移動させることによって、剥離角度αを調節することができる。
【0063】
剥離角度調節機構46は、剥離制御部4Aによって、剥離角度αが所定の角度となるように制御される。たとえば布帛Rを構成する繊維材料の種類が綿またはシルクである場合には、剥離角度αを18〜22度(好適には20度)に設定するのが好ましい。また布帛Rを構成する繊維材料の種類がポリエステルである場合には、剥離角度αを13〜22度(好適には15度)に設定するのが好ましい。また布帛Rを構成する繊維材料の種類がナイロンである場合には、剥離角度αを8〜12度(好適には10度)に設定するのが好ましい。
【0064】
これにより、布帛Rを構成する繊維材料の種類、転写層Cに含まれる染料および糊剤の種類、ならびに、装置稼動時における温度および湿度などの環境条件に応じて、転写層Cを構成する転写剤の一部が基材Bに残着しないような適切な角度に調節してから、捺染処理装置100を稼動させることができるので、加圧・加熱処理後の積層体Lにおける転写層Cから基材Bだけを確実に剥離することができる。したがって、捺染後の布帛において、図柄の一部が欠落してしまうことを防止することができ、捺染布帛の品質を向上させることができる。
【0065】
本実施形態では、動力伝達機構としてラック・ピニオン機構465が用いられているが、これに限らず、たとえばウォームとウォームホイールとによる機構、空気圧シリンダ、電磁ソレノイドなど公知のアクチュエータを用いることができる。
【0066】
また本実施形態では、剥離角度調節機構46は、剥離ローラ41を移動させるように構成されているが、これに限らず、剥離ローラ41を固定的に設け、ガイドローラ45を移動させるように構成されてもよい。
【0067】
剥離部4の下流側には、基材剥離後の布帛Rを搬送するための搬送ローラ対91が設けられる。搬送ローラ対91は、駆動ローラと従動ローラとから成り、搬送制御部9Aによって制御される。各ローラはそれぞれ、各中心軸線が横方向Yと平行になるように配設されるとともに、該中心軸線まわりに回転自在に軸支されている。
【0068】
駆動ローラは、搬送ローラ回転機構92によって回転駆動されるように構成されている。搬送ローラ回転機構92は、搬送制御部9Aによって、転写ローラ31,32の周速度に等しい周速度で、駆動ローラが回転するように回転動作が制御される。
【0069】
捺染処理装置100は、剥離部4の下流側に定着部5を有している。定着部5は、転写層Cが転写された布帛Rに対して、所定の蒸気量の高温常圧または高温高圧の蒸気によって、チャンバ51内をたとえば100〜180℃の範囲で最適な蒸気雰囲気とし、所定の処理時間だけ蒸気加熱処理するように構成されている。
【0070】
定着部5は、具体的には、内部に空間Sが形成されるチャンバ51と、空間Sへ蒸気を供給する蒸気供給部52と、空間Sへ布帛Rを搬入するための搬入口53と、空間Sから布帛Rを搬出するための搬出口54と、チャンバ51内に設けられる複数の搬送ローラ55と、搬送ローラ55を変位させるための搬送ローラ変位機構56と、搬送ローラ回転機構57と、チャンバ51内に充満される蒸気の量を調節するための蒸気量調節機構58と、チャンバ51内に充満される蒸気の雰囲気温度を調節するための蒸気温度調節機構59とを備え、これらの各動作は蒸気加熱制御部5Aによって制御される。前記蒸気としては、水蒸気が使用される。
【0071】
チャンバ51は、ファン51aと、このファン51aに隣接して形成され、蒸気を空間Sから排出するための図示しない蒸気排出口と、この蒸気排出口に連設される図示しない排気ダクトと、蒸気排出口から排出される蒸気の量を調節するための図示しない排出量調節手段とを備えている。
【0072】
蒸気温度調節機構59は、チャンバ51内に設置されている。この蒸気温度調節機構59は、チャンバ51内に充満される蒸気の雰囲気温度を検出する温度センサから出力される信号に基づいて、蒸気加熱制御部5Aによって、空間Sに充満される蒸気の雰囲気温度が所定の温度となるように制御される。
【0073】
蒸気供給部52は、蒸気を生成する蒸気生成部52aと、蒸気生成部52aを収容するチャンバ下部構造体52bと、空間Sに向かって開口するようにチャンバ下部構造体52bの上部に設けられた蒸気噴出ノズル52cとを備えている。蒸気供給部52は、蒸気生成部52aによって生成される蒸気の量を調節するための生成量調節手段、および蒸気噴出ノズル52cから空間Sへ噴出される蒸気の噴射量を調節するための噴出量調節手段をさらに備えてもよい。
【0074】
蒸気量調節機構58は、本実施形態では排出量調節手段によって構成されるが、前記の排出量調節手段、生成量調節手段および噴出量調節手段のうちのいずれか1つ、または複数を組み合わせて構成されてもよい。この蒸気量調節機構58は、たとえばチャンバ51内の湿度を検出する湿度検出センサから出力される信号に基づいて、蒸気加熱制御部5Aによって、空間S内が所定の湿度となるように制御される。
【0075】
搬入口53は、転写部3に臨むチャンバ51の側壁部に穿設された開口53aと、開口53aを開閉可能な可動式のシャッタ部材53bとによって、蒸気噴出ノズル52cよりも下方に形成されている。同様に、搬出口54は、洗浄部6に臨むチャンバ51の側壁部に穿設された開口54aと、開口54aを開閉可能な可動式のシャッタ部材54bとによって、蒸気噴出ノズル52cよりも下方に形成されている。
【0076】
各シャッタ部材53b,54bは、開口53a,54aの全領域を開放可能な退避位置P1と、退避位置P1よりも下方の位置であり、開口53a,54aの一部の領域を開放する稼動時位置P2とに亘って、上下方向Zに変位可能に設けられている。各シャッタ部材53b,54bは、たとえばエアシリンダなどによって構成される開閉機構53c、54cによって開閉される。開閉機構53c、54cは、蒸気加熱制御部5Aによって制御される。
【0077】
また搬入口53および搬出口54の近傍には、搬入口53および搬出口54を通過する布帛Rのループ状の搬送経路の下端位置を検出するためのループ検出手段53d,54dが設けられている。
【0078】
搬送ローラ55は、本実施形態では2つ設けられ、各中心軸線が横方向Yと平行になるように配設されるとともに、該中心軸線まわりに回転自在に軸支されている。搬送ローラ55は、搬送ローラ回転機構57によって回転駆動されるように構成されている。搬送ローラ回転機構57は、蒸気加熱制御部5Aによって、転写ローラ31,32の周速度に等しい周速度で、搬送ローラ55が回転するように制御される。
【0079】
また、搬送ローラ55は、上下方向Zおよび搬送方向X1に沿う方向に沿って、変位可能に設けられている。搬入口53を介して空間Sへ搬入された布帛Rは、各搬送ローラ55に順次巻き掛けられて、上下方向Zに蛇行した搬送経路に沿って搬送された後、空間Sから搬出口54を介して搬出される。したがって、搬送ローラ55を上下方向Zおよび搬送方向X1に沿う方向に変位させることによって、空間Sにおける布帛Rの搬送経路の経路長を調節することができる。
【0080】
搬送ローラ変位機構56は、各搬送ローラ55をそれぞれ個別に、上下方向Zおよび搬送方向X1に沿う方向に変位させるように構成されている。搬送ローラ変位機構56は、蒸気加熱制御部5Aによって、所定の位置に各搬送ローラ55を配置するように制御される。この所定の位置は、布帛Rに対して行うべき蒸気加熱処理の処理時間に基づいて決定される。具体的には、チャンバ51内を搬送される布帛Rの送り速度に基づいて、空間S内における布帛Rの搬送経路の経路長が、所定の処理時間だけ蒸気加熱処理が施されるような長さとなるように決定される。
【0081】
定着部5へ搬送されてきた布帛Rは、チャンバ51内の空間Sを通過して、下流側の洗浄部6へ搬送される。布帛Rは、この空間Sを通過する際に、所定の温度および蒸気量の蒸気雰囲気下で、所定の処理時間だけ、蒸気加熱処理が施される。これにより、転写層Cに含まれる染料を布帛Rに定着させる。
【0082】
前述する各処理条件、すなわちチャンバ51内に充満される蒸気の雰囲気温度および蒸気量、ならびに蒸気加熱処理の処理時間は、布帛Rを構成する繊維材料の種類、および染料の種類などに基づいて決定され、予め捺染処理装置100の装置制御部100Aに設定される。
【0083】
ここで、布帛Rおよび染料の組合せに対する、蒸気加熱処理に必要な処理時間、および、布帛Rが送り速度vで搬送される場合に蒸気加熱処理に必要な経路長を表1に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
表1に示すように、染料の種類が反応染料であり、布帛Rを構成する繊維材料の種類が綿またはシルクである場合、蒸気加熱処理に必要な処理時間は10分である。この場合、蒸気加熱制御部5Aは、チャンバ51内を搬送される布帛Rの送り速度vが40[m/h]であれば、経路長が6667[mm]となるような位置に各搬送ローラ55を配置させ、チャンバ51内を搬送される布帛Rの送り速度vが10[m/h]であれば、経路長が1667[mm]となるような位置に各搬送ローラ55を配置させる。
【0086】
捺染処理装置100は、定着部5の下流側に、搬送ローラ対91を介して、洗浄部6を有している。洗浄部6は、定着部5において染料を定着させた後の布帛Rに対して、所定の温度に調節された洗浄液62を用いて、所定の量だけ洗浄処理するように構成されている。
【0087】
洗浄部6は、具体的には、複数(本実施形態では5)の洗浄槽61a〜61eを備えるタンク61と、布帛Rを洗浄するための洗浄液62と、洗浄槽61a〜61eと同数の搬送ローラ63と、布帛Rが保持する水分を搾り出すための複数(本実施形態では2)のスクイズローラ対64と、5つの洗浄槽61a〜61eのうち使用する洗浄槽を設定するための槽調節機構65と、水温調節機構66と、搬送ローラ変位機構67と、スクイズローラ回転機構68とを備え、洗浄制御部6Aによって制御される。また、洗浄槽と洗浄槽との間には、布帛Rを搬送するための搬送ローラ対91が設けられている。
【0088】
タンク61は、上方に向かって開放している5つの洗浄槽61a〜61eを列設して構成され、搬送方向X1に沿って5つの洗浄槽61a〜61eが並ぶように配設される。洗浄液62は、染料定着後の布帛Rに付着している染料以外の物質および未定着の染料を洗い落とすことができる液体であり、水道水であってもよく、水道水にソーピング液を混入したものであってもよい。
【0089】
槽調節機構65は、各洗浄槽61a〜61e間の隔壁の高さを調節するための隔壁高さ調節機構、洗浄液62を所定の洗浄槽に注入するための洗浄液注入機構、および洗浄液62を排出するための洗浄液排出機構などを含んで構成される。この槽調節機構65は、洗浄制御部6Aによって、所定の洗浄槽が使用されるように制御される。
【0090】
水温調節機構66は、タンク61に設置されている。この水温調節機構66は、タンク61内に流入している洗浄液62の温度を検出する温度センサから出力される信号に基づいて、洗浄制御部6Aによって、洗浄液62の温度が所定の温度となるように制御される。
【0091】
搬送ローラ63は、洗浄槽61a〜61eごとに設けられ、各中心軸線が横方向Yと平行になるように配設されるとともに、該中心軸線まわりに回転自在に軸支されている。また各搬送ローラ63は、洗浄槽61a〜61e内に配置できるように、上下方向Zに沿って変位可能に設けられている。したがって、搬送ローラ63を上下方向Zに変位させることによって、布帛Rを洗浄液62に浸漬させるときの搬送経路の経路長を調節することができる。
【0092】
搬送ローラ変位機構67は、各搬送ローラ63をそれぞれ個別に、上下方向Zに変位させるように構成されている。搬送ローラ変位機構67は、洗浄制御部6Aによって、所定の位置に各搬送ローラ63を配置するように制御される。この所定の位置は、使用すべき洗浄槽の数、および布帛Rに対して行うべき洗浄処理の処理時間に基づいて決定される。図1では、4つの洗浄槽61a〜61c,61e、すなわち第4の洗浄槽61dを除く残余の洗浄槽61a〜61c,61eを使用するために、4つの洗浄槽61a〜61c,61eに対応する各搬送ローラ63を、洗浄槽内の所定の上下方向Z位置に配置し、不使用の洗浄槽61dに対応する搬送ローラ63は、搬送経路外の待機位置に配置している。
【0093】
洗浄部6へ搬送されてきた布帛Rは、洗浄槽内の洗浄液62に浸漬されて、下流側の乾燥部7へ搬送される。布帛Rは、この洗浄部6において、所定の温度に調節された洗浄液62を用いて、所定の処理時間だけ、洗浄処理が施される。これにより、布帛Rから染料以外の物質および未定着の染料が洗い落とされる。
【0094】
前述する各処理条件、すなわち洗浄液62の温度、使用する洗浄槽の槽数および布帛Rの搬送経路の経路長は、布帛Rを構成する繊維材料の種類、および転写紙Tにおける染料受容層c1の成分などに基づいて決定され、予め捺染処理装置100の装置制御部100Aに設定される。
【0095】
スクイズローラ対64は、タンク61の下流側に2組設けられ、一対のスクイズローラによって構成されている。各スクイズローラはそれぞれ、各中心軸線が横方向Yと平行になるように配設されるとともに、該中心軸線まわりに回転自在に軸支されている。また各スクイズローラは、互いに圧接するように配設されている。
【0096】
スクイズローラ回転機構68は、各スクイズローラを、同一の周速度で回転駆動するように構成されている。スクイズローラ回転機構68は、洗浄制御部6Aによって、転写ローラ31,32の周速度に等しい周速度で、各スクイズローラが回転するように制御される。
【0097】
タンク61からスクイズローラ対64へ搬送されてきた布帛Rは、このスクイズローラ対64を通過することによって、保持していた水分が外部へ搾り出される。
【0098】
捺染処理装置100は、洗浄部6の下流側に、乾燥部7を有している。乾燥部7は、洗浄部6において洗浄された後の布帛Rに対して、所定の温度に調節された温風を送風して、所定の処理時間だけ乾燥処理するように構成されている。
【0099】
乾燥部7は、具体的には、2基の温風噴射装置71と、2基の温風噴射装置71間に設けられる搬送ローラ72と、搬送ローラ変位機構75とを備え、乾燥制御部7Aによって制御される。また、搬送ローラ72の上流側および下流側には、布帛Rを搬送するための搬送ローラ対91が設けられている。
【0100】
2基の温風噴射装置71は、搬送ローラ対91よりも下方に、搬送方向X1に沿って互いに対向するように配置され、対向する温風噴射装置71に向かって温風を噴射するように設置されている。各温風噴射装置71は、加熱装置73と、送風機構74とを備えている。加熱装置73および送風機構74は、乾燥制御部7Aによって、所定の温度の温風が送風されるように制御される。
【0101】
搬送ローラ72は、本実施形態では2つ設けられ、各中心軸線が横方向Yと平行になるように配設されるとともに、該中心軸線まわりに回転自在に軸支されている。また各搬送ローラ72は、各温風噴射装置71間に配置できるように、上下方向Zに沿って変位可能に設けられている。したがって、搬送ローラ72を上下方向Zに変位させることによって、布帛Rを乾燥させるときの搬送経路の経路長を調節することができる。
【0102】
搬送ローラ変位機構75は、各搬送ローラ72をそれぞれ個別に、上下方向Zに変位させるように構成されている。搬送ローラ変位機構75は、乾燥制御部7Aによって、所定の位置に各搬送ローラ72を配置するように制御される。この所定の位置は、布帛Rに対して行うべき乾燥処理の処理時間に基づいて決定される。
【0103】
乾燥部7へ搬送されてきた布帛Rは、2基の温風噴射装置71間を通過して、下流側の布帛巻取り部8へ搬送される。布帛Rは、この2基の温風噴射装置71間を通過する際に、所定の温度に調節された温風が吹き当てられることにより、所定の処理時間だけ加熱されて水分の蒸発が促進され、乾燥処理が行われる。これにより、洗浄処理により水分を保持した湿潤状態の布帛Rから水分が除去される。
【0104】
前述する各処理条件、すなわち温風の温度および乾燥処理の処理時間は、布帛Rを構成する繊維材料の種類などに基づいて決定され、予め捺染処理装置100の装置制御部100Aに設定される。
【0105】
布帛巻取り部8は、巻取り軸部材81と、布帛巻取り軸回転機構82とを備え、布帛巻取り制御部8Aによって制御される。巻取り軸部材81は、円筒形の外周面を有し、その中心軸線が横方向Yと平行になるように配設され、該中心軸線まわりに回転自在に軸支されている。
【0106】
布帛巻取り軸回転機構82は、巻取り軸部材81を回転させるための駆動源であるモータを含んで構成される。布帛巻取り軸回転機構82は、布帛巻取り制御部8Aによって、乾燥処理後の布帛Rが、一定の張力および布帛Rの送り速度に一致する速度で、巻取り軸部材81のまわりに巻き取られるように制御される。
【0107】
捺染処理装置100には、図2に示すように、装置全体を制御する装置制御部100Aが設けられている。この装置制御部100Aは、CPU101、RAM102、ROM103などを備え、布帛巻出し制御部1A、転写紙巻出し制御部2A、転写制御部3A、剥離制御部4A、蒸気加熱制御部5A、洗浄制御部6A、乾燥制御部7A、布帛巻取り制御部8A、搬送制御部9Aなどとバス110を介して接続され、これらの各制御部を制御して、所定の処理条件で布帛Rに対して捺染処理を行う。
【0108】
また捺染処理装置100には、入力部120が設けられている。この入力部120は、ユーザによって、布帛Rを構成する繊維材料の種類および転写紙Tにおける転写層Cの成分など布帛Rおよび転写紙Tを特定するためのパラメータを入力するために備えられている。布帛Rおよび転写紙Tを特定するためのパラメータがユーザによって入力されると、装置制御部100Aは、入力されたパラメータに対応付けられている各処理条件の設定値をROM103から取得し、その設定値に従って、各制御部1A〜9Aを制御して、捺染処理装置100を動作させる。なお、ROM103には、布帛Rおよび転写紙Tを特定するためのパラメータに対応させて、各処理条件の最適な設定値が予め設定されて記憶されている。
【0109】
図6は、本発明の他の実施形態に係る捺染処理装置200の構成の一部を概略的に示す系統図である。捺染処理装置200は、剥離部140を除く残余の構成については、前記の捺染処理装置100と同様に構成される。したがって、捺染処理装置100と同一の構成については同一の参照符を付し、重複する説明を省略する場合がある。
【0110】
本実施形態では、剥離部140は、転写ローラ31,32によって所定の送り速度で連続的に搬送されながら加圧・加熱処理が行われる積層体Lに対して、前記所定の送り速度よりも速い剥離速度で、転写層Cから基材Bを剥離することができるように構成されている。
【0111】
剥離部140は、具体的には、転写後の積層体Lを滞留させるための積層体滞留部146と、互いに協働して転写層Cから基材Bを剥離するように動作する、剥離手段である剥離ローラ対141および巻取り軸部材43と、剥離ローラ対141および巻取り軸部材43を回転駆動する剥離手段駆動機構と、転写層Cから剥離された基材Bが巻き掛けられるガイドローラ45とを備え、剥離制御部4Aによって制御される。
【0112】
剥離ローラ対141は、互いに圧接されている一対の剥離ローラによって構成されている。各剥離ローラはそれぞれ、各中心軸線が横方向Yと平行になるように配設されるとともに、該中心軸線まわりに回転自在に軸支されている。剥離ローラ対141は、剥離ローラの周速度に等しい送り速度で積層体Lを通過させる。
【0113】
巻取り軸部材43は、剥離ローラ対141を通過するときの積層体Lの送り速度に等しい巻取り速度で基材Bを巻き取るように、剥離手段駆動機構によって回転駆動される。剥離ローラ対141の下流側では、基材Bは、布帛の搬送経路から離反する方向へ搬送されるので、剥離ローラ対141と巻取り軸部材43とが協働することによって、剥離ローラ対141を通過するときの積層体Lの送り速度に等しい剥離速度で、転写層Cから基材Bを剥離することができる。
【0114】
積層体滞留部146は、搬送方向X1に沿って離間して設けられる一対のループ形成用ローラ147を備えている。各ループ形成用ローラはそれぞれ、各中心軸線が横方向Yと平行になるように配設されるとともに、該中心軸線まわりに回転自在に軸支されている。
【0115】
剥離制御部4Aは、所定の剥離速度で間欠的に転写層Cから基材Bを剥離するように、剥離手段駆動機構を制御する。剥離手段駆動機構の動作が停止している状態では、剥離ローラ対141による積層体Lの搬送が停止しているので、転写ローラ31,32の周速度に等しい送り速度で搬送される転写後の積層体Lは、転写ローラ31,32の下流側に設けられるループ形成用ローラ147間に垂れ下がってループを形成する。すなわち、転写ローラ31,32から搬送される転写後の積層体Lは、積層体滞留部146において滞留される。
【0116】
剥離手段駆動機構が、動作停止状態から動作状態へ移行すると、剥離ローラ対141が、剥離ローラの周速度に等しい送り速度で、積層体滞留部146に滞留している積層体Lを順次通過させるとともに、剥離ローラ対141および巻取り軸部材43が、剥離ローラの周速度に等しい剥離速度で、積層体Lの転写層Cから基材Bを剥離する。
【0117】
このように、転写後の積層体Lを一旦滞留させるように構成されているので、転写ローラ31,32の周速度よりも大きな周速度で剥離ローラを回転駆動して、転写ローラ31,32による布帛Rの送り速度よりも大きな剥離速度で転写層Cから基材Bを剥離することができる。
【0118】
剥離制御部4Aは、布帛Rを構成する繊維材料の種類、転写層Cに含まれる糊剤の種類、離型剤の種類などに基づいて、転写剤の基材Bへの残着のおそれのない予め定める速度以上の剥離速度で転写層Cから基材Bを剥離するように、剥離手段駆動機構を制御するのが好ましい。
【0119】
たとえば、転写ローラ31,32によって布帛Rが送り速度10mm/秒で連続的に搬送されている場合であれば、剥離制御部4Aは、2秒間停止した後、剥離速度を30mm/秒に設定して1秒間動作するように、剥離手段駆動機構を制御することによって実現できる。
【0120】
本実施形態によれば、布帛Rの送り速度に依存することなく転写層Cから基材Bを剥離することができるので、剥離速度の不足に起因して発生する転写剤の基材Bへの一部残着を防止して、転写層Cから基材Bだけを確実に剥離することができる。したがって、捺染後の布帛において、図柄の一部が欠落してしまうことを防止することができ、捺染布帛の品質を向上させることができる。
【0121】
図7は、本発明の他の実施形態に係る捺染処理装置300の構成の一部を概略的に示す断面図である。捺染処理装置300は、剥離部240を除く残余の構成については、前記の捺染処理装置100と同様に構成される。したがって、捺染処理装置100と同一の構成については同一の参照符を付し、重複する説明を省略する場合がある。
【0122】
本実施形態では、剥離部240は、基材Bを剥離するときの布帛Rに対する基材Bの剥離角度αが150度以上となるように、基材Bを折り返して剥離するように構成されている。
【0123】
剥離部240は、具体的には、基材Bの布帛Rに対する剥離開始位置246に隣接して設けられ、基材Bを折り返して剥離するための折返し部材であるブレード241と、巻取り軸部材43および基材巻取り軸回転機構44を備え、転写層Cから剥離された基材Bを巻き取って回収する基材巻取り部42と、ガイドローラ45とを備え、剥離制御部4Aによって制御される。
【0124】
ブレード241は、たとえば金属によって形成される板状体の部材であり、平坦な一表面241aが、転写ローラ31,32から搬送される積層体Lの基材Bに当接するように、かつ搬送方向X1の下流側の端部241bが、横方向Yと平行に延びるように配設される。端部241bは、角を取り除く処理をされていることが好ましい。ブレード241は、捺染処理装置300のフレームなどに対して固定して取り付けられる。
【0125】
ガイドローラ45は、ブレード241よりも上流側であって、ブレード241の端部241bによって折り返された基材Bの剥離角度αが150度以上となるような位置に配置される。
【0126】
本実施形態によれば、基材Bが布帛Rに対して剥離角度αが150度以上となるように折り返されるので、剥離開始位置246における基材Bと転写層Cとの間に、大きなせん断応力を生じさせることができる。このせん断応力により、基材Bと転写層Cとの接合力を弱めることができるので、基材Bへ転写剤の一部が残着することを効果的に防止して、転写層Cから基材Bだけを確実に剥離することができる。したがって、捺染後の布帛において、図柄の一部が欠落してしまうことを防止することができ、捺染布帛の品質を向上させることができる。
【0127】
図8は、本発明の他の実施形態に係る捺染処理装置400の構成の一部を概略的に示す系統図である。捺染処理装置400は、剥離部340を除く残余の構成については、前記の捺染処理装置100と同様に構成される。したがって、捺染処理装置100と同一の構成については同一の参照符を付し、重複する説明を省略する場合がある。
【0128】
本実施形態では、剥離部340は、転写ローラ31,32によって加圧・加熱処理された後の積層体Lを、所定の温度以下に冷却してから、基材Bを剥離するように構成されている。
【0129】
剥離部340は、具体的には、転写層Cから基材Bを剥離する剥離ローラ41と、巻取り軸部材43および基材巻取り軸回転機構44を備え、転写層Cから剥離された基材Bを巻き取って回収する基材巻取り部42と、ガイドローラ45と、転写ローラ31,32と剥離ローラ41との間に設けられる冷却部346とを備え、剥離制御部4Aによって制御される。
【0130】
本実施形態では、冷却部346は、加圧・加熱処理後の積層体Lの剥離ローラ41までの搬送経路Dを、加圧・加熱処理後の積層体Lの温度を所定の温度以下まで自然冷却させるために必要な経路長にすることによって構成されている。このような搬送経路Dは、図8に示すように、搬送方向X1に沿って直線的に形成されてもよく、一対のループ形成用ローラを用いてループを形成することによって形成されてもよい。搬送経路Dとしては、加圧・加熱処理後の積層体Lが、少なくとも3秒以上搬送されるような経路長にしておくことが好ましい。
【0131】
また、他の実施形態では、冷却部346として、積層体Lを強制的に冷却するための冷却装置を、転写ローラ31,32と剥離ローラ41との間に設けてもよい。
【0132】
このように、転写部3において加圧・加熱処理が行われることにより高温状態にある転写後の積層体Lを、所定の温度以下に冷却することができるので、転写後の積層体Lにおいて軟化状態または溶融状態にある糊剤を、布帛Rへ固定することができる。したがって、布帛Rに転写された転写層Cから基材Bを剥離する際に、基材Bへ転写剤の一部が残着することを防止して、転写層Cから基材Bだけを確実に剥離することができる。したがって、捺染後の布帛において、図柄の一部が欠落してしまうことを防止することができ、捺染布帛の品質を向上させることができる。
【0133】
図9は、本発明の他の実施形態に係る捺染処理装置500の構成の一部を概略的に示す斜視図である。捺染処理装置500は、剥離部440を除く残余の構成については、前記の捺染処理装置100と同様に構成される。したがって、捺染処理装置100と同一の構成については同一の参照符を付し、重複する説明を省略する場合がある。
【0134】
本実施形態では、剥離部440は、基材Bの布帛Rに対する剥離開始位置446に微振動を付与して基材Bを剥離するように構成されている。
【0135】
剥離部440は、具体的には、基材Bの布帛Rに対する剥離開始位置446に近接して配置され、転写層Cから基材Bを剥離する剥離ローラ41と、巻取り軸部材43および基材巻取り軸回転機構44を備え、転写層Cから剥離された基材Bを巻き取って回収する基材巻取り部42と、ガイドローラ45と、剥離ローラ41を微振動させる振動付与手段447とを備え、剥離制御部4Aによって制御される。
【0136】
振動付与手段447は、微振動を発生する振動発生装置448と、剥離ローラ41をその中心軸線まわりに回転自在に軸支する一対の軸受部449aと、各軸受部449aがそれぞれ固定される基材449bとによって構成される。振動発生装置448は、上下方向Zに振動するように、基材449bに取り付けられる。
【0137】
したがって、振動発生装置448によって発生された微振動は、基材449bおよび一対の軸受部449aを介して、剥離ローラ41へ伝達される。これにより、剥離開始位置446に微振動が付与される。
【0138】
このように、基材Bの布帛Rに対する剥離開始位置446に隣接して配置される剥離ローラ41に微振動を付与することができるので、この微振動により、基材Bと転写層Cとの接合力を弱めることができる。これにより、布帛Rに転写された転写層Cから基材Bを剥離する際に、基材Bへ転写剤の一部が残着することを防止して、転写層Cから基材Bだけを確実に剥離することができる。したがって、捺染後の布帛において、図柄の一部が欠落してしまうことを防止することができ、捺染布帛の品質を向上させることができる。
【0139】
以上では、乾式転写捺染法によって布帛Rを捺染する装置、すなわち染料を含む転写層Cを有する転写紙Tを該布帛Rに積重して加圧・加熱処理することによって転写捺染する捺染処理装置について説明したが、これに限らず、乾式昇華転写捺染法によって布帛Rを捺染する装置、すなわち染料を含む転写層Cを有する転写紙Tを該布帛Rに積重して加熱処理することによって転写捺染する捺染処理装置において実現されてもよい。
【符号の説明】
【0140】
1 布帛設置部
2 転写紙設置部
3 転写部
4 剥離部
5 定着部
6 洗浄部
7 乾燥部
8 布帛巻取り部
46 剥離角度調節機構
100,200,300,400,500 捺染処理装置
B 基材
C 転写層
R 布帛

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に染料および糊剤を含む転写剤から成る転写層が形成された転写紙を、予め定める搬送方向に搬送される布帛に対して前記転写層が対向するように積重し、加熱処理または加圧・加熱処理して、転写紙の転写層を布帛に転写する転写部と、
前記転写部の前記搬送方向の下流側に設けられ、布帛に転写された転写層から基材を剥離する剥離部とを含み、
前記剥離部は、基材を剥離するときの布帛に対する基材の剥離角度を調節するための剥離角度調節手段を備えることを特徴とする捺染処理装置。
【請求項2】
基材の表面に染料および糊剤を含む転写剤から成る転写層が形成された転写紙を、予め定める搬送方向に所定の送り速度で搬送される布帛に対して前記転写層が対向するように積重し、加熱処理または加圧・加熱処理して、転写紙の転写層を布帛に転写する転写部と、
前記転写部の前記搬送方向の下流側に設けられ、前記所定の送り速度より大きな剥離速度で、布帛に転写された転写層から基材を剥離する剥離部とを含み、
前記剥離部は、
転写後の布帛と転写紙の積層体を滞留させるための積層体滞留部と、
転写層から基材を剥離する剥離手段と、
前記剥離手段を駆動する駆動機構と、
前記剥離速度で間欠的に基材が剥離されるように、前記駆動機構を制御する制御手段とを備えることを特徴とする捺染処理装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記剥離速度が予め定める速度以上となるように、前記駆動機構を制御することを特徴とする請求項2記載の捺染処理装置。
【請求項4】
基材の表面に染料および糊剤を含む転写剤から成る転写層が形成された転写紙を、予め定める搬送方向に搬送される布帛に対して前記転写層が対向するように積重し、加熱処理または加圧・加熱処理して、転写紙の転写層を布帛に転写する転写部と、
前記転写部の前記搬送方向の下流側に設けられ、布帛に転写された転写層から基材を剥離する剥離部とを含み、
前記剥離部は、基材の布帛に対する剥離開始位置に隣接して設けられ、基材を剥離するときの布帛に対する基材の剥離角度が150度以上となるように、基材を折り返して剥離するための折返し部材を備えることを特徴とする捺染処理装置。
【請求項5】
基材の表面に染料および糊剤を含む転写剤から成る転写層が形成された転写紙を、予め定める搬送方向に搬送される布帛に対して前記転写層が対向するように積重し、加熱処理または加圧・加熱処理して、転写紙の転写層を布帛に転写する転写部と、
前記転写部の前記搬送方向の下流側に設けられ、布帛に転写された転写層から基材を剥離する剥離部とを含み、
前記剥離部には、転写後の布帛と転写紙の積層体を、所定の温度以下に冷却するための冷却部が設けられることを特徴とする捺染処理装置。
【請求項6】
基材の表面に染料および糊剤を含む転写剤から成る転写層が形成された転写紙を、予め定める搬送方向に搬送される布帛に対して前記転写層が対向するように積重し、加熱処理または加圧・加熱処理して、転写紙の転写層を布帛に転写する転写部と、
前記転写部の前記搬送方向の下流側に設けられ、布帛に転写された転写層から基材を剥離する剥離部とを含み、
前記剥離部は、
基材の布帛に対する剥離開始位置に近接して配置される剥離ローラと、
前記剥離ローラを微振動させる振動付与手段とを備えることを特徴とする捺染処理装置。
【請求項7】
前記剥離部の前記搬送方向の下流側に設けられ、前記搬送方向に搬送される布帛を蒸気加熱処理して、転写層の染料を布帛に定着させる定着部をさらに備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の捺染処理装置。
【請求項8】
前記定着部の前記搬送方向の下流側に設けられ、前記搬送方向に搬送される布帛を洗浄液を用いて洗浄処理する洗浄部をさらに備えることを特徴とする請求項7記載の捺染処理装置。
【請求項9】
前記洗浄部の前記搬送方向の下流側に設けられ、前記搬送方向に搬送される布帛を乾燥処理する乾燥部をさらに備えることを特徴とする請求項8記載の捺染処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−195985(P2011−195985A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63355(P2010−63355)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(311001347)NKワークス株式会社 (96)
【Fターム(参考)】