説明

捺染物の製造方法

【課題】天然染料を含有する捺染糊組成物を用いてセルロース系繊維材料を捺染する場合に、模様表現に十分な染色濃度を有し、白場を汚染することなく、且つ、実用的な染色堅牢度を有する捺染物の製造方法を提供する。
【解決手段】天然染料とO/Wエマルション糊剤とを含有する捺染糊組成物をカチオン化したセルロース系繊維材料に印捺し、印捺後に捺染糊組成物中の天然染料がセルロース系繊維材料に固着するように、当該セルロース系繊維材料を100℃〜130℃の飽和蒸気又は加熱蒸気で蒸熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然染料を含有する捺染糊組成物を用いてセルロース系繊維材料に捺染する捺染物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
天然染料による染色(例えば、草木染め等)は、古来より行われてきたが、綿などのセルロース系繊維材料には、濃色に染まらず、堅牢度も低く、実用的なものとはされてこなかった。
【0003】
そこで、セルロース系繊維材料を天然染料でもって濃色、且つ、堅牢に染色しようとする試みがなされてきた。例えば、下記特許文献1には、セルロース系繊維材料を染色前にカチオン化し、天然染料の染着量を増加させ、また、染色後に金属媒染を行って堅牢に染色する方法が提案されている。
【0004】
更に、下記非特許文献1には、上記方法を応用して、セルロース系繊維材料をカチオン化し、天然染料を含有する捺染糊組成物を用いて捺染する捺染方法が検討されている。
【特許文献1】特開昭62−238885号公報
【非特許文献1】京都市産業技術研究所繊維技術センター、平成17年度研究業務報告書、p.67−71
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1では、セルロース系繊維材料をカチオン化し、天然染料を用いて単一色に染色する無地染色に関するものであり、天然染料を用いてセルロース系繊維材料に模様を染色する捺染に関するものではない。
【0006】
また、上記非特許文献1では、セルロース系繊維材料をカチオン化し、天然染料を含有する捺染糊組成物を用いて捺染すると、柄部分に印捺された天然染料が、水洗工程で脱落し、柄のない白場を汚染するという問題が指摘されている。
【0007】
従って、カチオン化したセルロース系繊維材料に天然染料を含有する捺染糊組成物を用いて捺染することは、これまで困難であるとされてきた。
【0008】
そこで、本発明は、以上のようなことに対処するために、セルロース系繊維材料をカチオン化し、天然染料を含有する捺染糊組成物を用いて捺染する場合に、模様表現に十分な染色濃度を有し、白場を汚染することなく、且つ、実用的な染色堅牢度を有する捺染物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題の解決にあたり、本発明者らは、鋭意研究の結果、天然染料を含有する捺染糊組成物をカチオン化したセルロース系繊維材料に印捺する場合に、所定のエマルション糊剤を含有した捺染糊組成物を使用し、且つ、当該捺染糊組成物が印捺されたセルロース系繊維材料を所定の水蒸気で蒸熱することにより、上記目的を達成できることを見出した。
【0010】
即ち、本発明は、セルロース系繊維材料をカチオン化するカチオン化工程と、
当該カチオン化工程後に、天然染料を含有する捺染糊組成物を上記セルロース系繊維材料に印捺する印捺工程と、
当該印捺工程後に、上記捺染糊組成物中の上記天然染料が上記セルロース系繊維材料に固着するように上記セルロース系繊維材料を蒸熱する蒸熱工程とを含む捺染物の製造方法であって、
上記印捺工程において、所定のエマルション糊剤を印捺時の上記捺染糊組成物の粘度を維持するように上記捺染糊組成物に含有し、
上記蒸熱工程において、上記捺染糊組成物が印捺された上記セルロース系繊維材料を所定の水蒸気で蒸熱することを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、セルロース系繊維材料をカチオン化し、天然染料を含有する捺染糊組成物を用いて捺染する場合に、模様表現に十分な染色濃度を有し、白場を汚染することなく、且つ、実用的な染色堅牢度を有する捺染物の製造方法を提供することができる。
【0012】
本発明において、捺染とは、繊維材料に染料等で模様を染色することをいう。また、捺染によって模様を染色された繊維材料を捺染物という。
【0013】
本発明において、セルロース系繊維材料とは、綿、麻等の天然セルロース繊維、レーヨン、キュプラ、ポリノジック、溶剤紡糸セルロース等の再生セルロース繊維の単一使用又はこれらの複合使用、或いは、これらと他の繊維との複合使用からなる織物、編物又は不織布等をいう。
【0014】
本発明において、カチオン化とは、セルロース系繊維材料にカチオン性を有する物質(以下、「カチオン化剤」という。)を付与して、アニオン性の天然染料の染着量を増やす改質加工をいう。
【0015】
本発明において、天然染料とは、動植物から分離して得た天然色素の中で染料として利用できるものをいう。天然染料には、藍、貝紫のようにバット染料に属するもの、紅、サフランのように直接染料に属するもの、ログウッド、茜、コチニール、没食子のように金属媒染染料に属するもの等がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る捺染物の製造方法の一実施形態について説明する。本実施形態は、天然染料を含有した捺染糊組成物をカチオン化した綿織物又は綿/麻織物に印捺する捺染物の製造方法に関するものである。
【0017】
本実施形態に係る捺染物の製造方法は、カチオン化工程、印捺工程及び蒸熱工程を含む。以下、各工程について説明する。
【0018】
まず、本実施形態におけるカチオン化工程では、カチオン化剤を用いて綿織物又は綿/麻織物をカチオン化する。このカチオン化剤には、カチオン性を有するアミン系のポリマーやモノマー等、種々のものが利用できる。例えば、第4級アンモニウム塩化合物であって、セルロースの水酸基に反応する官能基を1又は2以上有する物質等が好ましい。
【0019】
上記第4級アンモニウム塩化合物としては、例えば、グリシジルトリメチルアンモニウムクロライド、グリシジルプロピルジメチルアンモニウムクロライド、グリシジルドデシルジメチルアンモニウムクロライド、1,6ビス−(グリシジルジメチルアンモニウム)へキサンジクロライド、3−クロロ−2−ヒドロキシトリメチルアンモニウムクロライド、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルジメチルアンモニウムクロライド、3−クロロ−2−ヒドロキシドデシルジメチルアンモニウムクロライド、1,6ビス−(3−クロロ−2−ヒドロキシジメチルアンモニウム)へキサンジクロライド等が挙げられる。
【0020】
綿織物又は綿/麻織物と上記第4級アンモニウム塩化合物からなるカチオン化剤との反応は、セルロースのカチオン化における通常の方法で行えばよく、浸漬反応、パッド・ドライ・キュアによる連続反応、又は、コールドバッチ反応等、いずれの方法で行ってもよい。
【0021】
一般に、浸漬反応の場合には、カチオン化剤を2〜100g/リットルの濃度で含有した処理液に、上記綿織物又は綿/麻織物を浴比1:10〜200で浸漬し、40〜100℃の範囲の温度で10〜100分間反応する。このとき、官能基の種類によりアルカリ等の触媒を併用する。反応後、上記綿織物又は綿/麻織物を中和、洗浄する。
【0022】
上記カチオン化によって、綿織物又は綿/麻織物のセルロース分子が、カチオン性を有するようになる。このカチオン性のセルロース分子に、アニオン性の染料分子がイオン的に吸着されやすくなり、結果として、綿織物又は綿/麻織物に吸着する染料の量が増大し、濃色に染色することができるようになる。特に捺染においては、カチオン性のセルロース分子に対する、アニオン性の染料分子の親和性が大きく、染料の染着作用に大きく寄与するものと思われる。
【0023】
次に、本実施形態における印捺工程では、天然染料を含有する捺染糊組成物を上記カチオン化された綿織物又は綿/麻織物に印捺する。
【0024】
本発明には、種々の天然染料を使用することができるが、中でも、直接染料に属するもの及び金属媒染染料に属するものが好ましく、更に、金属媒染染料に属する植物染料が特に好ましい。
【0025】
上記植物染料としては、例えば、梔子(くちなし)、槐(えんじゅ)、揚梅(やまもも)、石榴(ざくろ)、五倍子(ごばいし)、阿仙薬(あせんやく)、柿渋、ログウッド、茜(あかね)、ラックダイ、ミロバラン、丁子、クスノハガシワ、ビンロウジュ等が挙げられる。これらの中でも、梔子(くちなし)、槐(えんじゅ)、揚梅(やまもも)、クスノハガシワ、ミロバラン、柿渋、ビンロウジュ、茜(あかね)、ラックダイ等が特に好ましい。
【0026】
本実施形態に係る捺染物の製造方法に使用される捺染糊組成物は、天然染料の他に、印捺時の捺染糊組成物の粘度を維持するための糊剤を含有する。また、必要により、pH調節剤としての酸又はアルカリ、そして、ヒドロトロープ剤等の染色助剤を含有してもよい。
【0027】
ここで、天然染料の使用量は、求める捺染柄の色相と染色濃度によって適宜決定される。また、これらの染料は、必要とする色相に合わせるために複数の染料を配合して使用してもよい。
【0028】
本実施形態における印捺工程では、捺染糊組成物に糊剤として所定のエマルション糊剤を含有する。このエマルション糊剤には、石油を原料とするミネラルターペンを乳化剤により水に分散したO/Wエマルション糊剤を使用する。ここで、O/Wとは、「オイル・イン・ウォーター」のことであり、オイルであるミネラルターペンが連続層である水中に乳化分散した状態をいう。
【0029】
上記O/Wエマルション糊剤を使用すると、O/Wエマルション糊剤中の固形分が少ないことにより、続く蒸熱工程において、染料の拡散、固着に対する糊剤の悪影響が少なくなる。また、O/Wエマルション糊剤中のミネラルターペンが、染料の染着作用に大きく寄与するものと思われる。よって、得られる捺染物の堅牢度がより良好となる。
【0030】
上記捺染糊組成物の粘度は、印捺に使用する捺染機の種類に応じて、上記O/Wエマルション糊剤の組成比率と捺染糊組成物中の含有量を変化させて適宜調節される。
【0031】
ここで、印捺工程に使用される捺染機には、フラットスクリーン、ロータリースクリーン等のスクリーン捺染機やローラー捺染機等が挙げられる。
【0032】
また、上記O/Wエマルション糊剤を含有した上記捺染糊組成物中には、乳化剤が3重量%以下の量で含有されていることが好ましい。ここで、上記捺染糊組成物中には、天然染料、ミネラルターペン、水及び乳化剤が含有されている。印捺後の乾燥により、大部分のミネラルターペン及び水は蒸発し、乾燥後の綿織物又は綿/麻織物上には、天然染料と乳化剤が残留している。
【0033】
ここで、捺染糊組成物中に含有される乳化剤が3重量%以下の量であれば、続く蒸熱工程において、O/Wエマルション糊剤の作用に加えて、染料の拡散、固着に対する悪影響を更に少なくし、染料の染着作用に大きく寄与することができる。また、少量の乳化剤であれば、蒸熱工程後に綿織物又は綿/麻織物の洗浄工程を省略しても、堅牢度その他に悪影響が見られないことが確認されている。
【0034】
従って、上記捺染糊組成物中に含有される乳化剤が3重量%以下の量であれば、蒸熱工程後に洗浄工程を省略できるという新たな作用効果を奏することができる。
【0035】
印捺後の綿織物又は綿/麻織物は、乾燥機で乾燥される。この乾燥は、熱風乾燥又は接触乾燥等のいずれの方法でもよいが、一般に、100〜150℃程度の温度による熱風乾燥が行われる。
【0036】
次に、本実施形態における蒸熱工程では、捺染糊組成物中の天然染料が綿織物又は綿/麻織物に固着するように蒸熱する。本実施形態においては、所定の水蒸気による蒸熱処理を行う。この蒸熱処理においては、一般に、100℃の飽和蒸気又は100℃を超え130℃以下の加熱蒸気中で1〜20分間、好ましくは、3〜10分間、上記綿織物又は綿/麻織物を蒸熱する。
【0037】
この蒸熱処理を行うことにより、綿織物又は綿/麻織物表面に印捺されている天然染料が、綿織物又は綿/麻織物のセルロース繊維内部に熱拡散し、堅牢に固着するものと思われる。このとき、セルロースがカチオン化されていることにより、より堅牢に固着するものと思われる。
【0038】
通常、上記蒸熱工程後に上記綿織物又は綿/麻織物を洗浄する。洗浄は、未固着の染料及び乳化剤等を綿織物又は綿/麻織物から除去するために、冷水及び温水で十分に行う。本実施形態においては、上述のように、少量の乳化剤を使用することにより、洗浄工程を省略することができる。
【0039】
また、天然染料の中で金属媒染染料には、各種金属による後処理(金属媒染処理)が行われる。この金属媒染処理により、色相の変化と染色堅牢度の向上が認められる。本実施形態においては、金属媒染処理を省略しても、実用的な堅牢度を達成することができる。
【0040】
以下、本実施形態において、次のような各実施例及び各比較例の製造方法を行い、それぞれの捺染物を評価した。
実施例1:
通常の方法で糊抜き・精練・漂白・シルケット加工した綿織物(経緯40番手綿糸、平織り)を使用した。
(A)カチオン化工程
液流染色機を用いて、カチオン化剤としてカチオテックMRC(洛東化成工業株式会社製、第4級アンモニウム塩化合物)を50g/リットルの濃度で含有した処理液に、上記綿織物を浴比1:20で浸漬し、室温から80℃の温度まで昇温し10分間運転した。その後、上記処理液中に水酸化ナトリウムを20g/リットルの濃度に相当する量だけ混合し、80℃の温度で30分間運転して上記綿織物をカチオン化した。カチオン化後の上記綿織物を水洗、中和、湯洗してから乾燥し、カチオン化した綿織物を得た。
(B)印捺工程
1)捺染糊組成物の作製
O/Wエマルション糊剤は、ST−50A(日華化学株式会社製、乳化剤)を3重量%使用して、ミネラルターペン62重量%を水35重量%に乳化して作製した。
【0041】
天然染料として、槐(えんじゅ)染料(洛東化成工業株式会社製、RKカラー4EN−HPG)を10重量%と上記O/Wエマルション糊剤を90重量%とを混合して捺染糊組成物1を作製した。
2)印捺
ロータリースクリーン捺染機を使用して、100メッシュのスクリーンで上記捺染糊組成物1を上記綿織物に印捺した。印捺後、上記綿織物を100℃の乾燥機で乾燥した。
(C)蒸熱工程
天然染料を綿織物に固着させるために、常圧蒸熱機を使用して、上記捺染糊組成物が印捺された上記綿織物を103℃の過熱蒸気中で7分間蒸熱した。本実施例においては、蒸熱後に洗浄は行わず、黄色の捺染物1を得た。
実施例2:
実施例1と同一のカチオン化した綿織物に対して、実施例1の捺染糊組成物1に替えて、梔子(くちなし)染料(洛東化成工業株式会社製、RKカラー9KU−Blue)を5重量%と上記O/Wエマルション糊剤を95重量%とを混合して作製した捺染糊組成物2を使用したこと以外は、上記実施例1と同様に行い、青色の捺染物2を得た。
実施例3:
実施例1と同一のカチオン化した綿織物に対して、実施例1の捺染糊組成物1に替えて、ビンロウジュ染料(洛東化成工業株式会社製、RKカラー3BN−HPG)を10重量%と上記O/Wエマルション糊剤を90重量%とを混合して作製した捺染糊組成物3を使用したこと以外は、上記実施例1と同様に行い、赤茶色の捺染物3を得た。
実施例4:
通常の方法で糊抜き・精練・漂白・シルケット加工した綿/麻織物(経30番手綿糸、緯30番手麻糸、平織り)を使用した。
【0042】
上記綿/麻織物のカチオン化は実施例1と同一の方法で行った。このカチオン化した綿/麻織物に対して、実施例1の捺染糊組成物1に替えて、ラックダイ染料(洛東化成工業株式会社製、RKカラー7LA−200L)を10重量%と上記O/Wエマルション糊剤を90重量%とを混合して作製した捺染糊組成物4を使用したこと以外は、上記実施例1と同様に行い、紫色の捺染物4を得た。
比較例1:
本比較例1においては、実施例1と同一の綿織物をカチオン化せずに使用し、実施例1と同じ捺染糊組成物1を使用して同様に捺染し、薄黄色の捺染物5を得た。
比較例2:
本比較例1においては、実施例4と同一の綿/麻織物をカチオン化せずに使用し、実施例1と同じ捺染糊組成物4を使用して同様に捺染し、薄紫色の捺染物6を得た。
比較例3:
実施例1と同一のカチオン化した綿織物に対して、実施例1の捺染糊組成物1に替えて、梔子(くちなし)染料(洛東化成工業株式会社製、RKカラー9KU−Blue)を5重量%と糊剤としてのアルギン酸ナトリウム(株式会社キミカ、キミテックスα105)の3重量%水溶液を95重量%とを混合して作製した捺染糊組成物5使用したこと以外は、上記実施例1と同様に捺染した。本比較例3においては、糊剤としてのアルギン酸ナトリウムを除去するために蒸熱後に水洗、湯洗を行った。洗浄後に乾燥して、青色の捺染物7を得た。
評価:
上述のようにして得られた、本実施形態に係る捺染物1〜7について、下記に示す各染色堅牢度評価、染色布の染色濃度評価及びカチオン化白布への汚染評価を行い、その評価結果を表1に示す。
1)耐光堅牢度:JIS L 0841 第3露光法 ブルースケール級判定
2)洗濯堅牢度:JIS L 0844 グレースケール級判定
3)汗堅牢度:JIS L 0848 グレースケール級判定
4)水堅牢度:JIS L 0846 グレースケール級判定
5)摩擦堅牢度:JIS L 0849 グレースケール級判定
6)ドライクリーニング堅牢度:JIS L 0860(石油系)グレースケール級判定
7)染色濃度:捺染物を目視にて相対評価し、濃淡の差異を示す。
8)カチオン化白布汚染:洗濯堅牢度(JIS L 0844)に準拠した方法で試験し、添付白布として捺染前のカチオン化白布を使用した。評価は、目視にてカチオン化白布汚染の大小を判断した。
【0043】
【表1】

表1から明らかなように、実施例1〜4に係る捺染物(捺染物1〜4)は、いずれの堅牢度においても良好であり、また、染色濃度も濃く、且つ、カチオン化された白場への汚染が小さい。
【0044】
一方、比較例1及び2に係る捺染物(捺染物5及び6)は、カチオン化されておらず、十分な捺染濃度と堅牢度を得ることができない。また、カチオン化白布への汚染が大きく、実用的なものではない。
【0045】
更に、比較例3に係る捺染物(捺染物7)は、カチオン化されているが、堅牢度が不十分であり、特に、カチオン化白布への汚染が大きく、実用的なものではない。
【0046】
以上のことにより、本実施形態においては、セルロース系繊維材料をカチオン化し、天然染料を含有する捺染糊組成物を用いて捺染する場合に、模様表現に十分な染色濃度を有し、白場を汚染することなく、且つ、実用的な染色堅牢度を有する捺染物の製造方法を提供することができる。
【0047】
なお、本発明の実施にあたり、上記実施形態に限らず次のような種々の変形例が挙げられる。
(1)本実施形態は、洗浄を行わずに十分な堅牢度を有するものであるが、本発明に係る捺染物の製造方法においては、蒸熱工程後に水洗、湯洗等の洗浄を行ってもよい。
(2)本実施形態は、金属媒染処理を行わずに十分な堅牢度を有するものであるが、本発明に係る捺染物の製造方法においては、通常の金属媒染処理により更に堅牢度を向上させることもできる。
(3)本発明に係る捺染物の製造方法に使用される天然染料は、上記実施形態において使用された植物染料に限定されるものではなく、いずれの天然染料を使用してもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系繊維材料をカチオン化するカチオン化工程と、
当該カチオン化工程後に、天然染料を含有する捺染糊組成物を前記セルロース系繊維材料に印捺する印捺工程と、
当該印捺工程後に、前記捺染糊組成物中の前記天然染料が前記セルロース系繊維材料に固着するように前記セルロース系繊維材料を蒸熱する蒸熱工程とを含む捺染物の製造方法であって、
前記印捺工程において、所定のエマルション糊剤を印捺時の前記捺染糊組成物の粘度を維持するように前記捺染糊組成物に含有し、
前記蒸熱工程において、前記捺染糊組成物が印捺された前記セルロース系繊維材料を所定の水蒸気で蒸熱することを特徴とする捺染物の製造方法。
【請求項2】
前記印捺工程において、前記所定のエマルション糊剤は、石油を原料とするミネラルターペンを乳化剤により水に分散したO/Wエマルション糊剤であって、
前記O/Wエマルション糊剤を含有した前記捺染糊組成物中には、前記乳化剤が3重量%以下の量で含有されていることを特徴とする請求項1に記載の捺染物の製造方法。
【請求項3】
前記蒸熱工程において、前記所定の水蒸気は、100℃の飽和蒸気又は100℃を超え130℃以下の加熱蒸気であることを特徴とする請求項1又は2に記載の捺染物の製造方法。
【請求項4】
前記天然染料は、金属媒染染料に分類される植物染料であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の捺染物の製造方法。

【公開番号】特開2008−127721(P2008−127721A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−315578(P2006−315578)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(000219794)東海染工株式会社 (24)
【Fターム(参考)】