説明

排ガス中のガス成分計測装置を備えたエンジンシステム

【課題】排ガス中のガス成分計測装置を備えたエンジンシステムを提供する。
【解決手段】排ガス中のガス成分計測装置を備えたエンジンシステム200Aは、ディーゼルエンジン100と、前記ディーゼルエンジン100からの排ガス201を排出する排気管202と、前記排気管202中の排ガス201の粒子状物質(粒子状物質(PM)等)の濃度を計測するガス成分計測装置10A(10B)とを具備し、ディーゼルエンジン運転中において、排ガス性状を計測することで、例えば燃料噴射圧、噴射タイミングの制御を的確に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばディーゼルエンジンやガスエンジン等からの排ガス性状をオンラインで計測することができる排ガス中のガス成分計測装置を備えたエンジンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料ガス中のダスト(粒子状物質)成分の濃度をレーザ照射によるミー散乱光により計測することが知られている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−24249号公報
【特許文献2】特開2005−24250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来のレーザ装置で粒子状物質濃度を求めるには、ミー散乱光を計測するという独自の操作が必要であり、レーザラマン散乱分析とは別の計測装置が必要であった。
しかしながら、独立の装置構成は大掛かりとなり、コンパクトなガス成分分析と、粒子状物質濃度分析とを同時にできる分析手法の確立が要望されている。
特に、単一の検知手段のみを使用することにより、複数の分析(ガス組成、粒子状物質濃度、炭化水素濃度)を実現することができれば、装置内部品点数を減少でき、コンパクトな分析装置が提供できることとなる。すなわち、複数の分析装置を用いる場合には、各々の装置のメンテナンスが必要となり、コストと手間がかかるという問題もある。
【0005】
特に、航行中の船舶のディーゼルエンジンの不完全燃焼等に由来する排ガス中の炭素由来の粒子状物質(PM(Particulate Matter))に起因するようなトラブルが発生した場合においては、航行中に分析することができず、その分析結果が出るまでに長期間を要し、その対策実施までの期間、多くの損失を招いているのが現状であるので、粒子状物質の検出と炭化水素濃度の簡易迅速な計測装置の出現が求められている。
【0006】
特に、近年はディーゼルエンジンのランニングコストの低減のために、粗悪質の燃料が使用される一方、排ガス規制は年々厳しくなってきており、粒子状物質の排出の抑制のみならず、ガス状物質、特に多環芳香族炭化水素(PAH:polycyclic aromatic hydrocarbons)の低減のための簡易な分析手法の確立が切望されている。
【0007】
本発明は、前記問題に鑑み、ガス中の粒子状物質や炭化水素を計測することが可能な排ガス中のガス成分計測装置を備えたエンジンシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、エンジンと、前記エンジンからの排ガスを排出する排気管と、前記排気管中の排ガスにレーザ光を照射するレーザ装置とを具備してなり、前記レーザ装置が、レーザ照射装置から発振された基本レーザ光を第1のレーザ光に波長変換する第1の波長変換部と、前記基本レーザ光を波長変換し、第2のレーザ光とする第2の波長変換部と、第1及び第2のレーザ光を導入して、被測定ガス中のガス成分に照射するするガス測定部と、照射される第1のレーザ光及び第2のレーザ光により高い準位に励起された励起分子が低い準位に電子的に緩和する際、その準位が下がるときに発生する自然放射増幅光(Amplified Spontaneous Emission:ASE)を計測する光検出器と、前記被測定ガス中に存在する油分由来のハイドロカーボンが発生する蛍光を計測する蛍光検出部とを具備することを特徴とする排ガス中のガス成分計測装置を備えたエンジンシステムにある。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、被測定ガスのガス成分が発する蛍光の相対強度より、被測定ガスのガス温度を計測することを特徴とする排ガス中のガス成分計測装置を備えたエンジンシステムにある。
【0010】
第3の発明は、第1又は2の発明において、第1のレーザ光又は第2のレーザ光のいずれかを用いて、被測定ガス中に存在する煤塵が発するミー散乱光を計測する煤塵検出部を具備することを特徴とする排ガス中のガス成分計測装置を備えたエンジンシステムにある。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、例えばディーゼルエンジンやガスエンジン等からの排ガス性状を一台の装置で計測することで、エンジン運転状況を迅速に把握することができ、エンジン運転状況を良好に保つための、適切な予防策を講じることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、ディーゼルエンジンを模式的に示す説明図である。
【図2】図2は、1つの気筒を模式的に示す説明図である。
【図3−1】図3−1は、本発明に係る排ガス中のガス成分計測装置を備えたエンジンシステムの概略図である。
【図3−2】図3−2は、本発明に係る排ガス中のガス成分計測装置を備えたエンジンシステムの概略図である。
【図3−3】図3−3は、本発明に係る排ガス中のガス成分計測装置を備えたエンジンシステムの概略図である。
【図4】図4は、実施例1に係るガス成分計測装置の概略図である。
【図5】図5は、NOのエネルギー準位の模式図である。
【図6】図6は、COのエネルギー準位の模式図である。
【図7】図7は、実施例2に係るガス成分計測装置の概略図である。
【図8】図8は、NOガスの蛍光の信号強度と、回転量子数(J)との関係図である。
【図9】図9は、温度300Kと1250Kにおける「A2Σ+←X2Π(0,0)」遷移におけるP12枝におけるポンプ光のエネルギーのLIF励起スペクトル強度図である。
【図10】図10は、実施例3に係るガス成分計測装置の概略図である。
【図11】図11は、実施例3に係る他のガス成分計測装置の概略図である。
【図12】図12は、排ガス中の性状を計測してその対策を実施するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例1】
【0014】
図1は、ディーゼルエンジンを模式的に示す説明図である。図2は、1つの気筒を模式的に示す説明図である。
図1に示すように、本実施例のディーゼルエンジン100は、1つ以上(本実施例では9つ)の気筒120と、過給機111と、空気冷却器112と、排気集合管113とを含む。まずは図2を用いて1つの気筒120の基本的な構成を説明する。なお、以下では、気筒120の一例としてレシプロ型のものを説明するが、気筒120はロータリー型のものでもよい。図2に示すように、気筒120は、シリンダ121と、ピストン122と、クランク軸123と、クランク室123aと、コネクティングロッド124と、シリンダヘッド125と、燃焼室125aと、吸気ポート126aと、吸気バルブ126と、排気ポート127aと、排気バルブ127と、インジェクター128と、オイルパン129とを含む。
【0015】
シリンダ121は、筒状の部材である。ピストン122は、シリンダ121の中空部に設けられる。ピストン122は、シリンダ121の中心軸方向に移動できるように設けられる。クランク軸123は、回転できるようにクランク室123aに設けられる。クランク室123aは、シリンダ121の中心軸方向の一方側に設けられる。クランク軸123は、ピストン122の往復運動を回転運動に変換する。コネクティングロッド124は、ピストン122とクランク軸123とを連結する。
【0016】
シリンダヘッド125は、シリンダ121の中心軸方向の他方側(クランク室123aとは反対側)に設けられる。燃焼室125aは、ピストン122と、シリンダヘッド125とで囲まれる空間である。
【0017】
吸気ポート126a及び排気ポート127aは、気筒120の外部と燃焼室125aとを連通する。吸気バルブ126は、吸気ポート126aに設けられる。吸気バルブ126は、吸気ポート126aを介して気筒120の外部と燃焼室125aとの間での空気の流動を調節する。排気バルブ127は、排気ポート127aに設けられる。排気バルブ127は、排気ポート127aを介して気筒120の外部と燃焼室125aとの間での空気の流動を調節する。
【0018】
インジェクター128は、図1に示す燃料噴射ポンプ128aと接続される。燃料噴射ポンプ128aは、燃料供給装置130からのエマルジョン燃料を加圧し、インジェクター128にエマルジョン燃料を導く。インジェクター128は、例えば燃焼室125aに噴出口が突出して設けられる。インジェクター128は、燃焼噴射ポンプ128aから導かれたエマルジョン燃料を燃焼室125aに導く。エマルジョン燃料は、軽油や重油などの燃料に水が混合したものである。なお、インジェクター128は、吸気ポート126aに噴出口が突出して設けられてもよい。オイルパン129は、クランク室123aに設けられる。オイルパン129は、潤滑油131を溜める。
【0019】
上記構成の気筒120は、吸気、圧縮、膨張、排気の1サイクルを繰り返し行う。これにより、気筒120は、ピストン122が往復運動し、クランク軸123が回転する。なお、気筒120は、4ストロークで1サイクルを行うものでもよいし、2ストロークで1サイクルを行うものでもよい。
【0020】
ディーゼルエンジン100についての説明に戻る。
過給機111は、空気を加圧する。過給機111は、図2に示す排気ポート127aから排出された排気ガスのエネルギーを得て空気を加圧する、いわゆるターボチャージャーである。なお、過給機111は、クランク軸123の回転力を得て空気を加圧する、いわゆるスーパーチャージャーでもよい。空気冷却器112は、過給機111から導かれた空気を冷却する。排気集合管113は、各気筒120の排気ポート127aと連通する。本実施例では、各気筒120の排気ポート127aから排出された排気ガスは排気集合管113を介して過給機111に導かれる。
【0021】
ここで、図1に示すクランク軸123は、各気筒120で共通の部材である。上記構成により、各気筒120が稼動することにより、ディーゼルエンジン100はクランク軸123を回転させる。なお、本実施例では、ディーゼルエンジン100が過給機111を含むものとして説明したが、ディーゼルエンジン100は、過給機111を含まなくてもよい。すなわち、ディーゼルエンジン100は、自然吸気型の内燃機関でもよい。この場合、ディーゼルエンジン100は、空気冷却器112を含まなくてもよい。
【0022】
次に、排ガス中のガス成分計測装置を備えたエンジンシステムについて詳細に説明する。
【0023】
図3−1〜図3−3は、本発明に係る排ガス中のガス成分計測装置を備えたエンジンシステムの概略図を示す。
図3−1〜図3−3に示すように、排ガス中のガス成分計測装置を備えたディーゼルエンジンシステム200A〜200Cは、ディーゼルエンジン100と、前記ディーゼルエンジン100からの排ガス201を排出する排気管202と、前記排気管202中の排ガス201の性状を計測するガス成分計測装置10A(10B)とを具備するものである。
【0024】
先ず、図3−1に示すディーゼルエンジンシステム200Aにおけるディーゼルエンジン100には、吸入空気を過給するための過給機111を備えており、該過給機111は、排気管202に介装されたタービン111aと、吸気管203に介装された圧縮器111bとを有している。なお、符号220は電磁式高圧噴射システムのコモンレール式燃料噴射システム(CRS)、221はスロットルバルブを図示する。
【0025】
図3−2に示すディーゼルエンジンシステム200Bにおけるディーゼルエンジン100には、さらに、上記タービン111aより上流側の排気管202と上記圧縮器111bより下流側の吸気管203とを連絡する排気ガス環流装置(以下「EGR」という)のEGR通路210を具備している。EGR通路210にはEGRバルブ211が介装されている。このEGRバルブ211の開度を制御することで、EGR率を調整している。なお、符号212はEGRクーラーを図示する。
【0026】
図3−3に示すディーゼルエンジンシステム200Cにおけるエンジン100には、さらに、排気管202には、ディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、「DPF」という。)230が介装されており、通常はこのDPF230を迂回して排ガス201が外部に排気されている。
【0027】
図4は、本実施例に係るガス成分計測装置10Aの概略図である。図4に示すように、本実施例に係るガス成分計測装置10Aは、煙道15中の被測定ガス11に対して照射される基本レーザ光(なお、実線は光軸を示す)22により高い準位に励起された励起分子が低い準位に電子的に緩和する際、準位が下がるときに発生する自然放射増幅光(Amplified Spontaneous Emission:ASE)から被測定ガス11中のガス成分を計測するものである。
【0028】
具体的な装置構成としては、図4に示すように、本実施例に係るガス成分計測装置10Aは、レーザ装置21から発振された基本レーザ光(1064nm)22を第1のレーザ光(波長:226nm)22−1に波長変換する第1の波長変換部23と、発振された基本レーザ光22を波長変換し、第2のレーザ光(波長:600nm)22−2とする第2の波長変換部24と、第1のレーザ光22−1及び第2のレーザ光22−2の合波レーザ光22−3を導入して、被測定ガス11中のガス成分に照射するガス測定部25と、照射される合波レーザ光22−3(第1のレーザ光22−1及び第2のレーザ光22−2)により、高い準位(E準位)に励起された励起分子が低い準位(C準位)に電子的に緩和する際、その準位が下がるときに発生する自然放射増幅光(Amplified Spontaneous Emission:以下「ASE」という)14を計測する光検出器(例えばフォトダイオード、MCTディテクタ等)26と、被測定ガス11中の成分が発する蛍光50を計測する蛍光検出部51とを具備するものである。
図4中、符号15a、15bはレーザ光の透過する石英窓、29は分光器、31は集光レンズ、33は光フィルタ、34a〜34dはミラーを各々図示する。
【0029】
本発明のガス成分計測装置は、ASEの発光する原理を用いており、従来のような吸収分析と異なるので、被測定ガス11のガス吸収光強度低下の影響がなくなるものとなる。
【0030】
次に、図5に示すNOのエネルギー準位の模式図を参照してASEの発光原理を説明する。
被測定ガス中の例えば一酸化窒素(NO)にレーザ光を照射して、電子的に励起させると、図5に示すように、基底状態(X)から、励起状態に励起(X準位→A準位→E準位)する。
【0031】
具体的には第1のレーザ光(226nm)22−1の励起波長ではX準位からA準位に励起され、次いで第2のレーザ光(600nm)22−2の励起波長ではA準位からE準位に励起される。
このとき、E準位の分子の数がC準位の分子の数よりも多い場合に、反転分布状態となり、E準位からC準位に自然放出され、これがきっかけとなり、E準位からC準位の誘導放出である1170〜1184nmの自然放射増幅光(ASE)が発生する。
【0032】
被測定ガス中の計測対象のガス成分としては、一酸化窒素(NO)以外に、例えば
一酸化炭素(CO)、水(H2O)、二酸化窒素(NO2)、メタン(CH4)、アンモニア、ベンゼン等を例示することができる。
【0033】
図6は一酸化炭素(CO)のエネルギー準位の模式図である。
図6に示すように、一酸化炭素(CO)では、基底状態から215nmの2光励起により、X準位からE準位に励起される。
【0034】
このとき、E準位の分子の数がB準位の分子の数よりも多い場合に、反転分布状態となり、E準位からB準位に自然放出がされ、これがきっかけとなり、E準位からB準位の誘導放出である1.7μmの自然放射増幅光(ASE)が発生する。
【0035】
また、ASEは、赤外領域(例えばNOの場合には、1170〜1184nm)の波長であるので、可視領域や紫外領域と異なり、光フィルタ33での分離が容易であり、計測精度が向上する。
【0036】
蛍光やラマン等の発光分析は等方発光であるので四方八方に光が拡がり、指向性が無いのに対し、ASEは指向性(基本レーザ光22の入射方向と出射方向との二方向のみASE14が発光する)があり、高感度での分離が可能となる。
よって、本実施例では、前記ガス測定部25に対してレーザ光が導入する光導入ラインと、発生したASE14を放出するレーザ光の進行方向と同方向の光放出ラインとを具備している。
【0037】
この結果、産業設備における計測対象の配管長が長い場合や、ガス吸収量が大きい場合においても、ガス成分の濃度分析がオンラインで可能となる。
また、ASEは指向性のある光として発振するので、ASE発光成分を集光し易く、計測感度が高いものとなる。
さらに、ASEは赤外領域の光であるので、入射レーザ光(可視光線、紫外光)との分離が容易となり、シグナルノイズ比の高い検出が可能となる。
【0038】
また、本実施例においては、ガス中に存在する油分由来のハイドロカーボン(HC)が発生する蛍光50を蛍光検出部51で計測している。
ここで、前記ハイドロカーボンの検出には蛍光検出部51において、波長300〜450nm(より好適には350〜400nm)以外の波長を除外する分光器を備え、ハイドロカーボン検出を良好としている。
これにより、ASE14の計測によるガス成分の計測と同時に、ガス中に存在するハイドロカーボン(HC)の分析も可能となる。
【0039】
この結果、ガスプラント由来のガス成分以外の他の成分であるハイドロカーボン(HC)についても同時に計測することで、一度の計測で多面的な分析が可能となる。
【0040】
この結果、排ガス中に含まれるハイドロカーボン量が多いような場合には、排ガス中の油分(特にタール成分)が多いと判断され、燃焼条件の見直しを行う制御を図示しない制御装置で行うようにしている。
【0041】
このような、図4に示すガス成分計測装置10Aを用い、例えばディーゼルエンジンやガスエンジン等からの排ガス中の性状を一台の装置で計測することで、エンジン運転状況を迅速に把握することができ、エンジン運転状況を良好に保つための、適切な予防策を講じることができる。
【0042】
次に、制御手段による粒子状物質の濃度計測及びその排出抑制対策の一例の制御について説明する。
図12は、排ガス中の性状を計測してその対策を実施するフローチャートである。
【0043】
まず、制御手段は、ガス成分計測装置10Aからの排ガス成分(HC、NO、CO等)濃度を取得する(ステップST1)。
【0044】
次に、取得した排ガス性状の濃度が所定の許容値(閾値)を超えていないかを判断する(ステップST2)。
【0045】
計測した濃度が許容値を超えていないと判断した場合(ステップST2:Yes)、本制御を終了し、引き続き、排ガス性状の計測を継続する。
【0046】
これに対し、上記許容値を超えていると判断した場合(ステップST2:No)、エンジンの燃料噴射圧力、噴射タイミングの調整等を制御装置より指示する(ステップST3)。
【0047】
このように、エンジン運転中において、排ガス性状をガス成分計測装置10Aにより成分濃度を計測することで、例えば電子制御燃料噴射系の噴射圧力、噴射タイミングの制御を適切に行うことができ、常に安定した燃料を行うことができる。
また、ASE分析では、蛍光の影響がないので、蛍光をNOで計測する際、HCの濃度が高い場合には、その影響が懸念されるが、ASEによりNOを分析することで、その影響がなく、的確な計測を実施することができる。すなわち、図5に示すように、NOのエネルギー準位を高めるために、226nmの紫外線で励起し、次いで600nmの可視光線で励起し、近赤外領域での自然放射増幅光(ASE)の発生であるので、蛍光の影響がないものとなる。
さらに、エンジン設備にスペースの制約があり、光学機器を全て設置できない場合には、指向性を有するASEの光検出器26については、計測箇所から離れた場所に設置することが可能となる。
【実施例2】
【0048】
次に、実施例2において、本発明の他のガス成分計測装置について、図面を参照して説明する。
図7は、実施例2に係るガス成分計測装置の概略図である。図7に示すように、本実施例に係るガス成分計測装置10Aは、前記蛍光検出部51において、ガス成分中のNO由来の蛍光(NO)50Aを計測し、予め測定しておいた温度曲線に照らして、ガス中の温度計測を行うようにしている。
ここで、前記NO由来の蛍光(NO)50Aの検出には蛍光検出部51において、波長300nm以下の波長の光を透過するフィルタ(好適には250nm以下、例えば227nmのフィルタ等)を有する分光器を備え、NO由来の蛍光(NO)50Aの検出を良好としている。
これにより、ASE14の計測によるガス成分の計測と同時に、ガス中の温度を計測することが可能となる。
【0049】
図8はNOガスの蛍光の信号強度と、回転量子数(J)との関係図である。図8中、黒丸印は300Kにおける測定値であり、四角印は1250Kにおける測定値である。これらのプロットを結ぶ線は下記式(1)を用いたフィッテイングである。
このチャートは電子状態における基底状態から第一励起状態の電子励起振動回転スペクトルである。
【0050】
また、図9は温度300Kと1250Kにおける「A2Σ+←X2Π(0,0)」遷移におけるP12枝におけるポンプ光のエネルギーのLIF励起スペクトル強度(ポンプ光波長44060cm-1)の図である(波長226nm付近で挿引している)。
【0051】
このスペクトル線の回転量子数(J)に対応する相対強度を測定し、その測定結果から、下記式(1)を温度の関数としてあてはめることにより、測定場の温度を算出することができる。
j/Nj=0=(2J+1)exp(−[(kcBJ)・(J+1)]/(kT))…(1)
ここで、
j:回転量子数Jにおける分子数(数密度)
j=0:全分子数
J:回転量子数
k:ボルツマン定数
c:光速度
B:回転定数
T:温度(回転温度)
である。
【0052】
よって、NO由来の蛍光(NO)50Aにより信号強度を求め、比較することで、排ガスの温度を予測することができる。この結果、従来においては、例えば熱電対等における配管内部の温度計測は、スポット的な温度計測であったものが、計測場全体(レーザ光の光路長全体)の平均温度を非接触で求めることができる。
また、ハイドロカーボン(HC)由来の蛍光との分離には、HC由来の蛍光は350〜400nmの範囲で計測するので、300nm以下となるように、分光器を用いて分光する。これにより、NO由来の蛍光(NO)50AとHC由来の蛍光(HC)50Bの両方の蛍光が測定できる。
【0053】
よって、通常の温度センサ以外に、排ガス温度をオンラインで計測が可能となる。
【実施例3】
【0054】
次に、実施例3において、本発明の他のガス成分計測装置について、図面を参照して説明する。
図10は、実施例3に係るガス成分計測装置の概略図である。図10に示すように、本実施例に係るガス成分計測装置10Bは、図7に示した蛍光検出部51以外に、さらに、第1のレーザ光22−1又は第2のレーザ光22−2のいずれかを用いて、ガス中に存在する煤塵が発するミー散乱光60を計測する煤塵検出部61を具備するものである。これにより、煤塵が発するミー散乱光60を煤塵検出部61で検出信号の強度を計測することで、煤塵濃度を求めることができる。なお、前記煤塵検出部61としては、例えばファトダイオード(Si半導体型等)を例示することができるが、これに限定されるものではない。
【0055】
ここで、波長の短い第1のレーザ光(波長:226nm)22−1を用いる場合には、小さい粒径の煤塵濃度を計測することができる。
一方、波長の長い第2のレーザ光(波長:600nm)22−2を用いる場合には、大きい粒径の煤塵濃度を計測することができる。
よって、求める粒径に応じて、第1のレーザ光か第2のレーザ光かを選択し、どちらかのラインを遮断するチョッパ62−1、62−2を設けるようにしている。
【0056】
蛍光の分析と併用する場合には、実施例1で説明したように、先ず蛍光分析を行ってASEを計測した後、第1のレーザ光22−1又は第2のレーザ光22−2を用いて、煤塵濃度を計測するようにすればよい。
【0057】
また、本実施例の変形例を示す図11に示すように、例えば30cm/1ns程度の時間遅れとなるディレイライン63−1、63−2を設け、第1のレーザ光22−1及び第2のレーザ光22−2を用いて先ず、蛍光によるNOのASEを計測し、その後、タイミングをずらして煤塵濃度を計測するようにすればよい。なお、ディレイライン63−1、63−2には、前記チョッパ62−1、62−2をそれぞれ有するようにしている。
【0058】
このような、図10に示すガス成分計測装置10Bを用いて、粒子状物質濃度を計測した結果、計測時の真の粒子状物質濃度が所定の閾値を超えている場合には、図示しない制御装置により、粒子状物質濃度が低減させるような種々のエンジン制御を行うようにしている。
【0059】
ここで、粒子状物質濃度を低減させるようなエンジン制御としては、以下の制御方法を例示することができる。
図3―1に示すディーゼルエンジンシステム200Aにおいては、第1のエンジン制御として、電磁式高圧噴射システム(例えばCRS(コモンレール式燃料噴射システム))220の燃料噴射タイミングを進め、粒子状物質濃度を低減させるようにしている。
【0060】
また、第2のエンジン制御としては、電磁式高圧噴射システム(例えばCRS(コモンレール式燃料噴射システム))220の燃料噴射圧を高め、粒子状物質濃度を低減させるようにしている。
【0061】
また、第3のエンジン制御としては、過給機111の過給圧を高め、粒子状物質濃度を低減させるようにしている。
【0062】
図3―2に示すディーゼルエンジンシステム200Bにおいては、前述した第1乃至3のエンジン制御に加えて、さらに、第4のエンジン制御として、排ガス再循環(EGR)装置のEGRバルブ211の開度を絞り、粒子状物質濃度を低減させるようにしている。
【0063】
また、第1乃至第4のエンジン制御を実施しても、粒子状物質濃度の低減効果が発揮されない場合に、排ガス201中の粒子状物質を除去するDPF230に排ガス201を通過させる制御を行い、外部への排出を防止するようにしている。
【0064】
さらに、粒子状物質濃度が所定の閾値を超えた場合には、図示しない制御装置からアラームを発して、機関停止を実行するようにしてもよい。
【0065】
ここで、制御手段は、マイコン等で構成されている。制御手段は、RAMやROM等から構成されてプログラムやデータが格納される記憶部(図示せず)が設けられている。記憶部に格納されるデータは、エンジンからの排ガス中の粒子状物質の濃度を確認して、所定の閾値を超えているか否かを判断し、粒子状物質の排出を抑制するよう制御を行う。
【0066】
このように、エンジン運転中において、排ガスの性状(NO、CO、HC等)以外にさらに正確な粒子状物質の濃度を計測することで、燃料噴射圧、過給圧の状況に応じて、実際にどれくらいの粒子状物質(PM)が排出されたかどうかの確認をオンラインで行うことができる。
【0067】
以上、本発明によれば、エンジンからの排ガス中の性状を計測する成分計測装置を備えたエンジンシステムを用いることにより、例えば舶用ディーゼルエンジンの運転中において、オンラインで排ガス中の性状(NO、CO、HC等)、粒子状物質の濃度計測ができ、エンジンの不完全燃焼に対しての適切な予防対策(点火タイミングの変更、燃料混合比率の変更、フィルタ等の切替え等)を講じることができる。
【0068】
本実施例では、エンジンとして舶用ディーゼルエンジンを用いたが、本発明はこれに限定されるものではなく、各種陸用ディーゼルエンジンや、その他燃料ガスを燃焼するガスエンジンの排ガス性状の計測に適用することもできる。
【符号の説明】
【0069】
10A〜10B ガス成分計測装置
11 被測定ガス
14 ASE
21 レーザ装置
22 基本レーザ光
22−1 第1のレーザ光
22−2 第2のレーザ光
23 第1の波長変換部
24 第2の波長変換部
25 ガス測定部
26 光検出器
50 蛍光
50A 蛍光(NO)
50B 蛍光(HC)
51 蛍光検出部
60 ミー散乱光
61 煤塵検出部
100 ディーゼルエンジン
120 気筒
200A〜200C ガス成分計測装置を備えたエンジンシステム
201 排ガス
202 排気管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンからの排ガスを排出する排気管と、
前記排気管中の排ガスにレーザ光を照射するレーザ装置とを具備してなり、
前記レーザ装置が、
レーザ照射装置から発振された基本レーザ光を第1のレーザ光に波長変換する第1の波長変換部と、
前記基本レーザ光を波長変換し、第2のレーザ光とする第2の波長変換部と、
第1及び第2のレーザ光を導入して、被測定ガス中のガス成分に照射するするガス測定部と、
照射される第1のレーザ光及び第2のレーザ光により高い準位に励起された励起分子が低い準位に電子的に緩和する際、その準位が下がるときに発生する自然放射増幅光(Amplified Spontaneous Emission:ASE)を計測する光検出器と、
前記被測定ガス中に存在する油分由来のハイドロカーボンが発生する蛍光を計測する蛍光検出部とを具備することを特徴とする排ガス中のガス成分計測装置を備えたエンジンシステム。
【請求項2】
請求項1において、
被測定ガスのガス成分が発する蛍光の相対強度より、被測定ガスのガス温度を計測することを特徴とする排ガス中のガス成分計測装置を備えたエンジンシステム。
【請求項3】
請求項1又は2において、
第1のレーザ光又は第2のレーザ光のいずれかを用いて、被測定ガス中に存在する煤塵が発するミー散乱光を計測する煤塵検出部を具備することを特徴とする排ガス中のガス成分計測装置を備えたエンジンシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−168132(P2012−168132A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31453(P2011−31453)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】