説明

排ガス中のガス状水銀除去方法及び除去装置

【課題】 取り扱いが容易でコストの上昇が抑えられ、排ガス中の水銀を良好に除去できる排ガスの処理方法を提供する。
【解決手段】 金属酸化物からなる固体触媒と排ガスとを接触させ、排ガス中の非水溶性の水銀を水溶性の水銀に変換した後、この水溶性の水銀を湿式吸収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭焚き排ガスや重質油焚き排ガス等の排ガス中のガス状水銀除去方法及び除去装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石炭焚き排ガス中や重質油焚き排ガス中、あるいはゴミ発電の排ガス中には水銀が存在しており、大気へ排出する前にこの水銀を除去することが重要である。排ガス中の水銀を除去する従来技術としては、煙突の前段に活性炭等の固体吸収剤を設置し、大気へ排出する前の段階で水銀を前記固体吸収剤で吸収する方法や、ボイラから煙突まで排ガスが流れる流路の途中に湿式脱硫装置を設け、湿式脱硫装置の上流側に水銀酸化剤を設けておき、排ガス中に含まれる非水溶性の水銀を水溶性の塩化水銀等に変換した後、湿式脱流装置で吸収する方法がある。また、湿式脱流吸収液に酸化剤を添加し、脱硫吸収液中で水銀を酸化して水溶性の水銀に変換する方法もある。
【0003】
また、下記特許文献1には、脱硝装置及び湿式脱硫装置を備えた排ガス処理装置において、脱硝装置の上流側にHCl等を送り込み、脱硝装置で水銀を酸化する技術が開示されている。また、下記特許文献2には、湿式脱硫装置の上流で排ガスと金属塩化物等とを接触させて非水溶性の水銀を水溶性の塩化水銀に変換し、湿式脱硫装置で吸収する技術が開示されている。また、下記特許文献3には、湿式脱硫装置の上流で、排ガスと触媒を担持した担体とを接触させて、非水溶性の水銀を水溶性の塩化水銀に変換し、湿式脱硫装置で吸収する技術が開示されている。
【特許文献1】特開平10−230137号公報
【特許文献2】特開2000−197811号公報
【特許文献3】特開2003−053142号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来技術には以下に述べる問題が存在する。
煙突の前段に固体吸収剤を設置する技術においては、例えば使用済みの固体吸収剤の処理に関して有効な手段が確立されておらず、環境に影響を与えるおそれがある。また、湿式脱硫装置の上流側に水銀酸化剤を設ける構成や湿式脱硫吸収液に酸化剤を添加する構成は、排ガスや排水に酸化剤等が直接投入される構成であるため、環境に影響を与える可能性がある。そして、環境に与える影響を低減するための別の処理を行う必要が生じた場合には処理の負担が増える。また、酸化剤等を投入する構成ではその酸化剤を投入するための設備が必要があり設備コストがかかる。
【0005】
また、上記特許文献1に開示されている技術においても、排ガス中にHCl等の化学物質を積極的に投入する構成なので、環境に与える影響を低減するための別の処理を排ガスや排水に対して行う必要性が生じる可能性がある。そして、その場合には処理の負担が増える。また、上記特許文献2に開示されている技術においては、腐食性や毒性等を有する取り扱いの難しい金属塩化物を扱わなければならない不都合がある。また、上記特許文献3に開示されている技術においては、担体を必要とする触媒を製造する構成であるため、触媒を製造するための製造コストがかかる。更には水銀酸化装置を新たに設ける構成であるため設備コストもかかる。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、取り扱いが容易でコストの上昇が抑えられ、排ガス中の水銀を良好に除去できる排ガス中のガス状水銀除去方法及び除去装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、排ガス中のガス状水銀除去方法は、金属酸化物からなる固体触媒と排ガスとを接触させ、前記排ガス中の非水溶性の水銀を水溶性の水銀に変換した後、この水溶性の水銀を湿式吸収することを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、取り扱いの容易な金属酸化物を使って排ガス中に含まれる非水溶性の水銀を水溶性の水銀に変換することができる。そして、水溶性の水銀を湿式吸収することで、排ガス中の水銀を除去できる。
【0009】
本発明において、前記排ガスが流れる流路に配置された部材のうち該排ガスと接触する接触面に前記固体触媒を塗布し、前記排ガスと前記接触面に塗布された前記固体触媒とを接触させて、非水溶性の水銀を水溶性の水銀に変換することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、排ガスが流れる流路(煙道)に配置された部材の排ガスとの接触面に金属酸化物からなる固体触媒を塗布しておくことで、流路を流れる排ガスは接触面に塗布されている固体触媒と接触することができる。したがって、排ガス中の非水溶性の水銀は、水溶性の水銀に変換された後、良好に湿式吸収されて除去される。そして、固体触媒は部材上に塗布される構成であるため、既存の機器や部材の表面に固体触媒を塗布するだけでよく、新たな設備を必要としないため、設備コストを抑えることができる。更に、固体触媒としての金属酸化物を部材上に直接塗布する構成であり、担体に担持させる構成ではないため、触媒を製造するための製造工程を低減できる。したがって、触媒の製造コストを抑えることができる。
【0011】
本発明において、前記流路の途中に前記水溶性の水銀を湿式吸収する吸収装置が設けられており、前記固体触媒は前記吸収装置よりも上流にある部材の前記接触面に塗布されており、前記水溶性の水銀は前記吸収装置で湿式吸収されることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、吸収装置の上流側で非水溶性の水銀を水溶性の水銀に変換することができ、その変換後の水溶性の水銀を吸収装置で良好に吸収することができる。
【0013】
本発明において、前記固体触媒は、Fe、CuO、MnO、Al、Vのうち少なくともいずれか1つであることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、取り扱いの容易なこれら金属酸化物を使って非水溶性の水銀を水溶性の水銀に良好に変換できる。
【0015】
本発明の排ガス中のガス状水銀除去装置は、非水溶性の水銀を含む排ガスが流れる流路の途中に設けられ、前記排ガス中の所定物質を湿式吸収する吸収装置を備え、前記吸収装置よりも上流にある部材のうち前記排ガスと接触する接触面には金属酸化物からなる固体触媒が塗布されており、前記排ガスと前記固体触媒とを接触させて、該排ガス中の非水溶性の水銀を水溶性の水銀に変換し、この水溶性の水銀を前記吸収装置で湿式吸収することを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、取り扱いの容易な金属酸化物を使って、排ガス中に含まれる非水溶性の水銀を水溶性の水銀に変換することができる。そして、排ガスが流れる流路(煙道)に配置された部材の排ガスとの接触面に金属酸化物からなる固体触媒を塗布しておくことで、流路を流れる排ガスは接触面に塗布されている固体触媒と接触することができる。したがって、排ガス中の非水溶性の水銀は、水溶性の水銀に変換された後、吸収装置によって良好に湿式吸収されて除去される。そして、固体触媒は部材上に塗布されている構成であるため、既存の機器や部材の表面に固体触媒を塗布するだけでよく、新たな設備を必要としないため、設備コストを抑えることができる。更に、固体触媒としての金属酸化物を部材上に直接塗布する構成であり、担体に担持させる構成ではないため、触媒を製造するための製造工程を低減できる。したがって、触媒の製造コストを抑えることができる。
【0017】
本発明において、前記吸収装置は、前記排ガス中の硫黄酸化物を湿式吸収する湿式脱硫装置を含むことを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、湿式脱硫装置によって、排ガス中の硫黄酸化物と水溶性の水銀との双方を効率良く吸収し、除去することができる。
【0019】
本発明において、前記吸収装置のうち、前記排ガスと接触する接触面にも、前記固体触媒が塗布されていることを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、水銀を湿式吸収する直前において非水溶性の水銀を固体触媒に接触させて水溶性の水銀に変換することができ、水銀をより確実に湿式吸収することができる。
【0021】
本発明において、前記接触面は、前記吸収装置に対する前記排ガスの入口部に設けられた補強部材の表面を含み、該補強部材の表面にも前記固体触媒が塗布されている構成を採用することができる。
【0022】
本発明において、燃料を燃焼して排ガスを発生するボイラと前記吸収装置との間に配置され、前記排ガスに対して所定の処理を行う複数の機器を備え、前記複数の機器のうち少なくとも1つの機器の前記排ガスとの接触面に前記固体触媒が塗布されていることを特徴とする。
【0023】
本発明によれば、排ガス中のガス状水銀除去装置を構成する各種機器、例えば熱回収器や通風機、あるいは電気集塵器等の排ガスとの接触面に固体触媒を塗布しておくことで、ボイラから発生した排ガス中に含まれる非水溶性の水銀は、これら機器を通過する間に水溶性の水銀に変換され、吸収装置に達して良好に吸収されて除去される。
【0024】
本発明において、前記機器は、排ガス中の窒素酸化物を除去する脱硝装置を含み、前記固体触媒は、前記脱硝装置のうち前記排ガスと接触する接触面に塗布されている構成を採用することができる。
また前記脱硝装置は前記排ガスの流れを整える整流板を備え、前記固体触媒は、前記整流板の表面にも塗布されている構成を採用することができる。
また前記脱硝装置は触媒層を充填したバスケットを有し、前記固体触媒は、前記整流板の表面にも塗布されている構成を採用することができる。
また、前記機器は、排ガスの熱を利用してボイラ燃焼用空気を予熱する空気予熱器を含み、前記固体触媒は、前記空気予熱器のうち前記排ガスと接触する接触面に塗布されている構成を採用することができる。
また、前記機器は、排ガスの熱を回収する熱回収器を含み、前記固体触媒は、前記熱回収器のうち前記排ガスと接触する接触面に塗布されている構成を採用することができる。
また、前記機器は、排ガス中の煤塵を回収する集塵器を含み、前記固体触媒は、前記集塵器のうち前記排ガスと接触する接触面に塗布されている構成を採用することができる。
また前記集塵器は前記排ガスの流れを整える整流板を備え、前記固体触媒は、前記整流板の表面にも塗布されている構成を採用することができる。
また、前記機器は、排ガスの流れを生成する通風機を含み、前記固体触媒は、前記通風機のうち前記排ガスと接触する接触面に塗布されている構成を採用することができる。
また、前記機器どうしを接続する管路の内壁面、内部補強部材、及び整流板にも前記固体触媒が塗布されている構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、取り扱いが容易でコストの上昇が抑えられ、排ガス中の水銀を良好に除去できる排ガス中のガス状水銀除去方法及び除去装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は本発明の排ガス中のガス状水銀除去装置の一実施形態を示す概略構成図である。
【0027】
図1において、除去装置Sは、燃料を燃焼することによりボイラ1から発生した排ガスを処理するものであって、ボイラ1の下流に設けられ、窒素酸化物(NOx)を除去する脱硝装置2と、脱硝装置2の下流に設けられ、ボイラ燃焼用空気を加熱する空気予熱器3と、空気予熱器3の下流側に設けられ、熱を回収する熱回収器4と、熱回収器4の下流に設けられ、排ガス中の煤塵(粒子)を除去する電気集塵器5と、電気集塵器5の下流に設けられた誘引通風機(ファン)6と、排ガス中の所定物質を湿式吸収する吸収装置としての湿式脱硫装置7と、湿式脱硫装置7の下流に設けられ、排ガスを再加熱する再加熱器8と、再加熱器8の下流に設けられた脱硫通風機9とを備えている。除去装置Sで処理された排ガスは煙突10より大気中に放出される。ボイラ1と煙突10との間に配置され、排ガスに対して各種所定の処理を行う前記各機器2、3、4、5、6、7、8、9は、管路11を介して接続されており、ボイラ1から発生した排ガスは、管路11を介して、複数の機器2、3、4、5、6、7、8、9を順次流れ、煙突10より排出される。
【0028】
ボイラ1は、燃料を燃焼して排ガスを発生する。ボイラ1より発生した排ガス中には、窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)、非水溶性のガス状水銀(0価水銀:Hg)、及びハロゲン化水素(HCl等)などが含まれている。排ガス中の窒素酸化物は脱硝装置2で除去される。本実施形態における脱硝装置2は、乾式脱硝装置であって、アンモニア等の還元剤を排ガスに注入して触媒のもとで窒素酸化物を還元分解する。
【0029】
図2は脱硝装置2を模式的に示す図である。脱硝装置2は、ハウジング21と、ハウジング21の内側に設けられた触媒層23とを備えている。ハウジング21の内部空間に対する入口部は管路11Aを介してボイラ1に接続しており、出口部は管路11Bを介して空気予熱器3に接続されている。触媒層23は、卑金属系酸化物を例えばハニカム状に成形・焼成したものであり、鋼板製の複数のバスケットのそれぞれに充填され、ハウジング21内に整列配置されている。また、ハウジング21内には、ボイラ1からの排ガスの流れを整える整流板24を設けることができる。なお、触媒層23はハニカム状に限られず、例えば板状など任意の形状を採用できる。
【0030】
空気予熱器3は、排ガスの排熱を利用してボイラ燃焼用空気を予熱する装置であって、管形空気予熱器、板形空気予熱器、及び再生式空気予熱器等の公知の空気予熱器を用いることができる。例えば再生式空気予熱器は、多数の金属板からなる伝熱・蓄熱体を交互に排ガスと空気とに接触させることによって空気を加熱する方式である。
【0031】
熱回収器4は、排ガスの熱を回収し、その排ガスを冷却するものである。回収された熱エネルギーは再加熱器8に供給される。図3は熱回収器4と再加熱器8との関係を示す模式図である。図3に示すように、熱回収器4は、ハウジング41と、そのハウジング41の内部に設けられ、排ガスに接触することで熱を回収する伝熱部材43とを備えている。ハウジング41には、そのハウジング41の内部空間に対する入口部及び出口部が設けられており、入口部は管路11Cを介して空気予熱器3に接続され、出口部は管路11Dを介して電気集塵器5に接続されている。再加熱器8は、ハウジング81と、そのハウジング81の内部に設けられ、排ガスと接触することで排ガスを加熱する伝熱部材83とを備えている。ハウジング81には、そのハウジング81の内部空間に対する入口部及び出口部が設けられており、入口部は管路11Eを介して湿式脱硫装置7に接続され、出口部は管路11Fを介して脱硫通風機9に接続されている。伝熱部材43、83のそれぞれは、熱媒が流れる内部流路を有しており、伝熱部材43(熱回収器4)と伝熱部材83(再加熱器8)とは熱媒が流れる流路12を介して接続されている。流路12の途中には、熱回収器4と再加熱器8との間で熱媒を循環させるポンプ13が設けられており、熱回収器4と再加熱器8とは熱媒を媒体として熱エネルギーを交換する。本実施形態においては、熱回収器4及び再加熱器8は、互いに直接熱交換するガスガスヒータで構成されている。
【0032】
電気集塵器5は、排ガス中の粒子(煤塵)等の固形分を除去するものである。図4(a)は電気集塵器5を模式的に示した図、図4(b)は放電極と集塵極との関係を示した図である。図4において、電気集塵器5は、ハウジング51と、そのハウジング51の内部に配置された放電極53及び集塵極54と、整流板56とを備えている。ハウジング51の内部空間に対する入口部は管路11Gを介して熱回収器4に接続されており、出口部は管路11Hを介して誘引通風機6に接続されている。また、ハウジング51の下部にはホッパ55が設けられている。電気集塵器5は、放電極53と集塵極54との間に形成された電場へ排ガスを導き、排ガス中の粒子を電気力により集塵極54に引きつけて集塵する。集塵極54に付着した粒子は、不図示の槌打ハンマーの衝撃力によって集塵極54表面から剥離し、ホッパ55へと落下し、捕集される。なお、電気集塵器は、排ガスを湿式脱硫装置7に導入する前に粗集塵できるものであればよく、特に限定されるものではない。
【0033】
誘引通風機6は、排ガスを下流側(湿式脱流装置7側)に導くものであって、図5に示すように、ケーシング61と、そのケーシング61の内部に配置された動翼63とを備えている。ケーシング61の一端部に設けられた入口部からケーシング61内に流入した排ガスは、動翼63の駆動により、ケーシング61の内部を通過した後、出口部より出て湿式脱流装置7に送られる。
【0034】
湿式脱硫装置7は、排ガス中の硫黄酸化物等の所定物質を液体に吸収することで除去するものである。図6は湿式脱硫装置7を模式的に示す図である。湿式脱流装置7は、石灰石を含むアルカリ性の吸収液からなる液滴(スプレー状液滴)により脱流・脱塵するものであって、ハウジング71と、ハウジング71内の上部に設けられ、吸収液を液滴状(スプレー状)にして供給するスプレーノズル73とを備えている。ハウジング71の内部空間に対する入口部は管路11Jを介して誘引通風機6に接続され、出口部は管路11Kを介して再加熱器8に接続されている。本実施形態において、入口部はハウジング71の下部に設けられ、出口部はハウジング71の上部に設けられている。管路11Jを介して湿式脱流装置7のハウジング71内部に流入した排ガスは、出口部から出るまでの間に、スプレーノズル73から供給された液滴(吸収液)と接触する。これにより、排ガス中のSOxを含む所定物質が液滴に吸収される。更に、排ガス中の微粒子(塵)も液滴に捕集される。落下した吸収液はハウジング71の下部に溜まり、循環系74を構成する循環ポンプ75によりスプレー配管73Aを介してスプレーノズル73に戻され、循環利用される。ここで、本実施形態においては、ハウジング71の入口部には、図7に示すような、補強部材76が設けられている。また、出口部には、ミストエリミネータ77が設けられている。なお、湿式脱硫装置7は一般に排煙処理で用いられている湿式脱硫装置や吸収塔の前段に冷却塔を設置した脱硫装置等でよく、特に限定されるものではない。また、ここではスプレー塔について説明したが、充填塔、液柱塔など他の形態であってもよい。また本実施形態においては、入口部はハウジング71の下部に設けられ、出口部はハウジング71の上部に設けられているが、入口部がハウジングの上部に設けられ、出口部がハウジングの下部に設けられている構成を採用することも可能である。
【0035】
上述したように、再加熱器8は、熱回収器4で回収した熱エネルギーによって、温度低下した排ガスを加熱する。温度低下した排ガスをそのまま煙突10から放出すると、水蒸気による白煙が発生する等の不都合が生じるが、再加熱器8で排ガスを加熱することで、上記不都合を防止できる。そして、再加熱器8で加熱された排ガスは、脱硫通風機9の駆動により、煙突10から大気中に放出される。
【0036】
そして、ボイラ1と煙突10との間の流路(煙道)のうち、ボイラ1と湿式脱硫装置7との間に配置された各機器、すなわち湿式脱硫装置7よりも上流側に配置されている脱硝装置2、空気予熱器3、熱回収器4、電気集塵器5、誘引通風機6、及びこれらを接続する管路11には、排ガス中の非水溶性の水銀(0価水銀:Hg)を水溶性の水銀(2価水銀:Hg2+)に変換する金属酸化物からなる固体触媒が設けられている。更には、湿式脱硫装置7の一部にも固体触媒が設けられている。具体的には、前記機器2〜6、11、湿式脱硫装置7の一部を構成する各種部材のうち、排ガスが流れる流路(煙道)に配置された部材の排ガスと接触する接触面に、金属酸化物からなる固体触媒が塗布されている。本実施形態においては、管路11の内壁面、脱硝装置2のハウジング21の入口部及び出口部近傍を含む内壁面22、触媒層23の表面、この触媒層23を支持するバスケット表面、整流板24表面等に、金属酸化物からなる固体触媒が塗布されている。また、空気予熱器3が再生式空気予熱器の場合、空気予熱器3を構成するハウジングの内壁面、金属板からなる伝熱・蓄熱体の表面等にも、金属酸化物からなる固体触媒が塗布されている。
【0037】
また、熱回収器4のハウジング41の入口部及び出口部近傍を含む内壁面42、排ガスに接触する伝熱部材43の表面等にも、金属酸化物からなる固体触媒が塗布されている。更には、電気集塵器5のハウジング51の入口部及び出口部近傍を含む内壁面52、放電極53の表面、集塵極54の表面、ホッパ55の内壁面、整流板56の表面等にも、金属酸化物からなる固体触媒が塗布されている。また、誘引通風機6のケーシング61の入口部及び出口部近傍を含む内壁面62や動翼63の表面等にも金属酸化物からなる固体触媒が塗布されている。
【0038】
また、湿式脱硫装置7のハウジング71の入口部近傍を含む内壁面72、スプレーノズル73の表面やスプレー配管等にも、金属酸化物からなる固体触媒が塗布されている。また、補強部材76の表面にも金属酸化物からなる固体触媒が塗布されている。なお、ハウジング71の出口部近傍を含む内壁面72にも金属酸化物からなる固体触媒を塗布してもよい。あるいは、循環系74を構成する管路の内壁面等に金属酸化物からなる固体触媒を塗布してもよい。更には、ミストエリミネータ77の表面に金属酸化物からなる固体触媒を塗布してもよい。
【0039】
塗布される固体触媒としては、Fe、CuO、MnO、Al、V等の複数の材料を挙げることができる。この場合、上記複数の材料のうちの1種を塗布する構成でもよいし、選択された複数種の材料を塗布する構成であってもよい。
【0040】
前記各部材に金属酸化物からなる固体触媒を塗布する際には、例えば前記金属酸化物を溶媒に分散又は溶解し、金属酸化物を含む溶液を製造した後、この溶液を前記部材に塗布し、乾燥することで、金属酸化物からなる固体触媒を各部材上に設けることができる。
【0041】
次に、本実施形態の排ガスの除去装置Sの作用について説明する。
上述したように、ボイラ1より発生した排ガス中には、窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)、非水溶性のガス状水銀(0価水銀:Hg)、及びハロゲン化水素(HCl等)などが含まれている。窒素酸化物は主に脱硝装置2で除去され、硫黄酸化物は主に湿式脱硫装置7で除去される。ボイラ1から発生した排ガスの冷却に伴って、排ガス中に含まれるガス状の0価水銀Hgの一部は、水溶性のガス状の2価水銀Hg2+と、粒子状(固体状)の水銀Hgとに変換される。粒子状水銀Hgは電気集塵器5によって回収される。また、電気集塵器5が全ての粒子状水銀Hgを回収しきれなかったとしても、湿式脱硫装置7が電気集塵器5で回収しきれずに残った粒子状水銀Hgを回収することができる。更に湿式脱硫装置7は排ガス中の微粒子(塵)を回収することもできる。また、水溶性の2価水銀Hg2+は湿式脱硫装置7で湿式吸収される。
【0042】
ところで、ガスの冷却に伴って、ボイラ1から発生した排ガス中のガス状の0価水銀Hgの全てが粒子状水銀Hgや2価水銀Hg2+に変換されるわけではない。そこで、本実施形態においては、ボイラ1から発生した排ガスに含まれる0価水銀Hgのうち、粒子状水銀Hgや2価水銀Hg2+に変換されなかった残りの0価水銀Hgを金属酸化物からなる固体触媒に接触させることにより、この非水溶性の0価水銀Hgを、水溶性の2価水銀Hg2+に変換した後、湿式脱硫装置7で湿式吸収する。湿式脱硫装置7は、SOx及び水銀を含有する排ガスをアルカリ吸収液によって湿式脱硫する。
【0043】
こうして、ボイラ1から排出され、脱硝装置2でNOxを除去され、湿式脱硫装置7においてSOxやHgが除去された排ガスは、再加熱器8に導入され、熱回収器4で回収された熱エネルギーによって加熱され、煙突10から排出される。
【0044】
本実施形態においては、取り扱いの容易な金属酸化物を使って排ガス中に含まれる非水溶性の0価水銀Hgを水溶性の2価水銀Hg2+に変換することができる。そして、水溶性の2価水銀Hg2+を湿式吸収することで、排ガス中の水銀を除去できる。
【0045】
そして、排ガスが流れる流路(煙道)に配置された部材の排ガスとの接触面に金属酸化物からなる固体触媒を塗布しておくことで、流路を流れる排ガスは接触面に塗布されている固体触媒と接触することができる。したがって、排ガス中の非水溶性の0価水銀Hgは、水溶性の2価水銀Hg2+に変換された後、良好に湿式吸収されて除去される。そして、固体触媒は部材上に塗布されている構成であるため、既存の機器や部材の表面に固体触媒を塗布するだけでよく、新たな設備を必要としないため、設備コストを抑えることができる。更に、固体触媒としての金属酸化物を部材上に直接塗布する構成であり、担体に担持させる構成ではないため、触媒を製造するための製造工程を低減できる。したがって、触媒の製造コストを抑えることができる。
【0046】
そして、湿式脱硫装置7は流路(煙道)の途中に設けられており、固体触媒は湿式脱硫装置7の一部及び湿式脱硫装置7よりも上流にある部材の排ガスとの接触面に塗布されているので、湿式脱硫装置7の上流側で非水溶性の0価水銀Hgを水溶性の2価水銀Hg2+に変換することができる。そして、ボイラ1から発生した排ガス中に含まれる非水溶性の0価水銀Hgは、ボイラ1と湿式脱流装置7との間に配置された各機器2〜6、11、湿式脱硫装置7の一部を通過する間に水溶性の2価水銀Hg2+に変換され、湿式脱硫装置7に達して良好に吸収されて除去される。
【0047】
図8は、本実施形態に係る金属酸化物であるFeを使って、非水溶性の0価水銀Hgを水溶性の2価水銀Hg2+に変換した実験結果を示す図である。図8に示すように、Feを排ガスに接触させることにより、排ガス中の0価水銀Hgが水溶性の2価水銀Hg2+に変換されることが分かる。そして、CuO、MnO、Al、Vについても同様の実験を行い、排ガス中の0価水銀Hgを水溶性の2価水銀Hg2+に変換できることを確認した。
【0048】
なお、本実施形態においては、水溶性の水銀を吸収するための吸収装置として、湿式脱硫装置を例にして説明したが、水溶性の2価水銀Hg2+を吸収・除去可能であれば、湿式脱硫装置に限られず、任意の装置を採用可能である。
【0049】
なお、本実施形態においては、粒子状水銀Hgを含む粒子(煤塵)を電気集塵器5で回収しているが、バグフィルタ等の濾過集塵器を採用してもよい。この場合においても、バグフィルタのうち排ガスが透過するフィルタ内に、金属酸化物からなる固体触媒を塗布あるいは含浸しておくことにより、非水溶性の0価水銀Hgを水溶性の2価水銀Hg2+に変換することができる。
【0050】
なお、上述した実施形態においては、通風機として、図5の模式図に示すような軸流式の通風機を例にして説明したが、これに限定されず、例えば遠心式の通風機にも適用可能である。遠心式の通風機においては、固体触媒は例えば羽根車(インペラ)の表面に塗布される。
【0051】
なお、上述した実施形態においては、補強部材として、ハウジング71の入口部に設けられた補強部材76を例にして説明したが、排ガスが流れる流路の内部に設ける内部補強部材としては、ハウジング71の入口部に設けられた補強部材76に限られず、例えば、ハウジング71の出口部に補強部材を設け、この補強部材の表面に固体触媒を塗布してもよい。更には、各機器2、3、4、5、6、7、8、9のハウジング(ケーシング)の内部の所定位置や、管路11の内部の所定位置に補強部材を設け、この補強部材の表面に固体触媒を塗布してもよい。
【0052】
なお、上述した実施形態においては、電気集塵器5は、熱回収器4と通風機6との間に設けられているが、その電気集塵器5の設置位置は、図1に示したものに限定されるものではない。例えば図9に示すように、ボイラ1から下流側に向かって、電気集塵器5、脱硝装置2、空気予熱器3、通風機6、熱回収器4、吸収装置7、再加熱器8、煙突10の順に配置してもよく、このような構成を有する除去装置Sの排ガスとの接触面に固体触媒を塗布することができる。
【0053】
また、上述した実施形態における除去装置Sは、熱回収器4と再加熱器8とは流路12を流れる熱媒によって熱交換しているが、除去装置Sとしては、図10に示すように、ボイラ1から下流側に向かって、空気予熱器3、電気集塵器5、通風機6、ガスガスヒータ4’、吸収装置7、通風機9の順に配置され、通風機9を出たガスがガスガスヒータ4’に戻される再生回転式の構成のものもある。ここで、ガスガスヒータ4’は、排ガスの熱を回収する熱回収器としての機能と煙突10より放出するガスを再加熱する再加熱器としての機能とを兼ね備えており、熱回収器と再加熱器とが一体となっている構成である。このような構成においても、例えばガスガスヒータ4’の排ガスとの接触面に固体触媒を塗布することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の除去装置の一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】脱硝装置を示す模式図である。
【図3】熱回収器及び再加熱器を示す模式図である。
【図4】集塵器を示す模式図である。
【図5】通風機を示す模式図である。
【図6】湿式脱硫装置を示す模式図である。
【図7】湿式脱硫装置に取り付けられる補強部材を示す模式図である。
【図8】本発明の方法の効果を確認するための実験結果を示す図である。
【図9】除去装置の別の実施形態を示す図である。
【図10】除去装置の別の実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1…ボイラ、2…脱硝装置、3…空気予熱器、4…熱回収器、5…電気集塵器、6…誘引通風機、7…湿式脱硫装置、8…再加熱器、9…脱硫通風機、10…煙突、S…除去装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物からなる固体触媒と排ガスとを接触させ、前記排ガス中の非水溶性の水銀を水溶性の水銀に変換した後、この水溶性の水銀を湿式吸収する排ガス中のガス状水銀除去方法。
【請求項2】
前記排ガスが流れる流路に配置された部材のうち該排ガスと接触する接触面に前記固体触媒を塗布し、前記排ガスと前記接触面に塗布された前記固体触媒とを接触させて、非水溶性の水銀を水溶性の水銀に変換する請求項1記載の除去方法。
【請求項3】
前記流路の途中に前記水溶性の水銀を湿式吸収する吸収装置が設けられており、前記固体触媒は前記吸収装置よりも上流にある部材の前記接触面に塗布されており、前記水溶性の水銀は前記吸収装置で湿式吸収される請求項2記載の除去方法。
【請求項4】
前記固体触媒は、Fe、CuO、MnO、Al、Vのうち少なくともいずれか1つである請求項1〜3のいずれか一項記載の除去方法。
【請求項5】
非水溶性の水銀を含む排ガスが流れる流路の途中に設けられ、前記排ガス中の所定物質を湿式吸収する吸収装置を備え、
前記吸収装置よりも上流にある部材のうち前記排ガスと接触する接触面には金属酸化物からなる固体触媒が塗布されており、
前記排ガスと前記固体触媒とを接触させて、該排ガス中の非水溶性の水銀を水溶性の水銀に変換し、この水溶性の水銀を前記吸収装置で湿式吸収する排ガス中のガス状水銀除去装置。
【請求項6】
前記吸収装置は、前記排ガス中の硫黄酸化物を湿式吸収する湿式脱硫装置を含む請求項5記載の除去装置。
【請求項7】
前記吸収装置のうち、前記排ガスと接触する接触面にも、前記固体触媒が塗布されている請求項5又は6記載の除去装置。
【請求項8】
前記接触面は、前記吸収装置に対する前記排ガスの入口部に設けられた補強部材の表面を含み、該補強部材の表面にも前記固体触媒が塗布されている請求項7記載の除去装置。
【請求項9】
燃料を燃焼して排ガスを発生するボイラと前記吸収装置との間に配置され、前記排ガスに対して所定の処理を行う複数の機器を備え、
前記複数の機器のうち少なくとも1つの機器の前記排ガスとの接触面に前記固体触媒が塗布されている請求項5〜8のいずれか一項記載の除去装置。
【請求項10】
前記機器は、排ガス中の窒素酸化物を除去する脱硝装置を含み、前記固体触媒は、前記脱硝装置のうち前記排ガスと接触する接触面に塗布されている請求項9記載の除去装置。
【請求項11】
前記脱硝装置は前記排ガスの流れを整える整流板を備え、前記固体触媒は、前記整流板の表面にも塗布されている請求項10記載の除去装置。
【請求項12】
前記脱硝装置は触媒層を充填したバスケットを有し、前記固体触媒は、前記整流板の表面にも塗布されている請求項10又は11記載の除去装置。
【請求項13】
前記機器は、排ガスの熱を利用してボイラ燃焼用空気を予熱する空気予熱器を含み、前記固体触媒は、前記空気予熱器のうち前記排ガスと接触する接触面に塗布されている請求項9〜12のいずれか一項記載の除去装置。
【請求項14】
前記機器は、熱回収器を含み、前記固体触媒は、前記熱回収器のうち前記排ガスと接触する接触面に塗布されている請求項9〜13のいずれか一項記載の除去装置。
【請求項15】
前記機器は、排ガス中の煤塵を回収する集塵器を含み、前記固体触媒は、前記集塵器のうち前記排ガスと接触する接触面に塗布されている請求項9〜14のいずれか一項記載の除去装置。
【請求項16】
前記集塵器は前記排ガスの流れを整える整流板を備え、前記固体触媒は、前記整流板の表面にも塗布されている請求項15記載の除去装置。
【請求項17】
前記機器は、排ガスの流れを生成する通風機を含み、前記固体触媒は、前記通風機のうち前記排ガスと接触する接触面に塗布されている請求項9〜16のいずれか一項記載の除去装置。
【請求項18】
前記機器どうしを接続する管路の内壁面、内部補強部材、及び整流板にも前記固体触媒が塗布されている請求項9〜17のいずれか一項記載の除去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−29673(P2006−29673A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−208567(P2004−208567)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】