説明

排ガス処理装置及び排ガス処理方法

【課題】設備や工程の複雑化及び大幅な動力の増加を伴うことなく、排ガスに含まれる環境汚染物質等の特定成分を高い除去率で除去する排ガス処理装置及び排ガス処理方法を提供する。
【解決手段】排ガス処理装置は、吸収液20を収容する処理槽10と、吸収液20中に排ガスを噴出させ、排ガスが噴出する深さ位置から上方の部分に、排ガスの気泡と吸収液20とが気液接触するフロス層25を形成する排ガス分散管30と、処理槽10内のフロス層25よりも下方の部分に処理槽10の外部から吸収液を補給する吸収液補給管40と、フロス層25よりも下方に位置する吸収液20を撹拌して、フロス層25へ向かう吸収液の流れを発生させる攪拌機32と、フロス層25内の上部に吸収液を直接供給する吸収液供給部50と、を備える。フロス層25において吸収液と排ガスとが気液接触し、排ガスから亜硫酸ガスが除去される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収剤を含有する吸収液に排ガスを気液接触させ、排ガスに含まれる特定成分を、吸収剤と反応させることによって排ガスから除去する排ガス処理装置及び排ガス処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排ガスから有害物質を除去する方法は種々知られているが、それらの中でも、吸収剤を含有する吸収液に排ガスを気液接触させ、有害物質と吸収剤とを反応させることによって固定化し、排ガスから除去する湿式法が多用されている。例えば、火力発電設備等から排出される燃焼排ガスから亜硫酸ガス(すなわち二酸化硫黄(SO2 ))等の環境汚染物質を除去する場合は、亜硫酸ガスと吸収剤とを反応させることによって亜硫酸ガスを硫酸塩として固定化し、排ガスから除去する。吸収液としては、亜硫酸ガスと反応して硫酸塩を生成する吸収剤、例えば石灰石(炭酸カルシウム(CaCO3 )を主成分とする)を、水に溶解させた水溶液又は水に懸濁させたスラリーが使用される。
【0003】
このような湿式法の中でも、吸収液中に排ガスを噴射し、排ガスの気泡と吸収液とを気液接触させるジェットバブリング法は、有害物質の除去率が高く且つ経済的にも優れた方法であるため広く採用されており、湿式排煙脱硫装置等に使用されている。例えば、特許文献1には、湿式排煙脱硫装置に使用されているジェットバブリング反応槽が開示されている。
【0004】
特許文献1に開示のジェットバブリング反応槽は、亜硫酸ガスを固定する吸収液を槽内下部に収容し、亜硫酸ガスを含む排ガスを吸収液中に噴射して、排ガスの気泡と吸収液とが気液接触する気液接触層(以下「フロス層」と記すこともある)を形成しつつ吸収剤(石灰石)と反応させて亜硫酸ガスを硫酸塩として固定する気液接触式の反応槽である。吸収剤(石灰石)は、水に懸濁されたスラリーとして、ジェットバブリング反応槽の槽内下部へ供給される。
【0005】
特許文献1に開示のジェットバブリング反応槽について、図7を参照しながらさらに説明する。ジェットバブリング反応槽100の下部空間には、亜硫酸ガスと反応して石膏に固定化する石灰石粉末を水に懸濁させたスラリーが吸収液120として収容されている。排ガスは、入口ダクト126から排ガス入口室114を経由して排ガス分散管130の開口より吸収液120の液面下に導入され、ジェット状に噴出してバブリングしながら上昇する。これにより、いわゆるフロス層125が吸収液120の上部に形成される。
【0006】
亜硫酸ガスは、吸収液120に溶け込んだ後、酸素、石灰石と反応して石膏となり固定化される。生じた石膏は、結晶として吸収液120中に析出し、吸収液120は多量の石膏粒子を浮遊させるスラリー(以下、「石膏スラリー」と記すこともある)となる。亜硫酸ガスを除去された排ガスは、連通管128及び排ガス出口室112を経て出口ダクト124により系外に排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平3−70532号公報
【特許文献2】特開平8−24568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このようなジェットバブリング反応槽100の脱硫率は、最大で99%程度まで可能であるが、近年においては、地球環境保全の観点等から、さらに高い脱硫率で排ガスを処理することが要望されている。例をあげると、硫黄含有率の高い劣悪燃料を燃焼させた場合に発生する、濃度3000ppmを超える高SO2 の排ガスを、例えば脱硫率99.5%以上で処理することが要求される場合があるし、また、今後注目される二酸化炭素回収貯蔵(CCS:Carbon Capture and Storage)等では、処理後の排ガスの亜硫酸ガス濃度を例えば10ppm以下とすることが要求される。
【0009】
しかしながら、前記のような従来のジェットバブリング反応槽100で、このような高い脱硫率を達成するには、吸収液120の液面を上げてフロス層125の高さ(厚さ)を大きくすること、又は、吸収液120のpHをかなり高く制御して運転することが必要となるので、排ガス処理のための動力の増加や吸収剤(石灰石)の利用率の面で問題があった。
【0010】
また、フロス層125で脱硫された排ガスに対して二次脱硫を行うなどの追加工程が必要であった。二次脱硫法としては、フロス層で脱硫された排ガスに対して吸収液をスプレーして気液接触させる方法等が知られているが、二次脱硫のための大がかりな追加設備が必要となるため、ジェットバブリング反応槽全体の設備が複雑化するという問題点や、排ガス処理のための動力が増加するという問題点があった。
そこで、本発明は、上記のような従来技術が有する問題点を解決し、設備や工程の複雑化及び大幅な動力の増加を伴うことなく、排ガスに含まれる環境汚染物質等の特定成分を従来よりも高い除去率で除去する排ガス処理装置及び排ガス処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明の態様は、一例として、次のような構成からなる。すなわち、本発明の一態様に係る排ガス処理装置は、吸収剤を含有する吸収液に排ガスを気液接触させ、前記排ガスに含まれる特定成分を前記吸収剤と反応させることによって前記排ガスから除去する排ガス処理装置であって、第一吸収液を収容する処理槽と、前記第一吸収液中に前記排ガスを噴出させ、前記排ガスが噴出する深さ位置から上方の部分に、前記排ガスの気泡と前記第一吸収液とが気液接触する気液接触層を形成する排ガス導入部と、前記処理槽内の前記気液接触層よりも下方の部分に前記処理槽の外部から第一吸収液を補給する第一吸収液補給部と、前記気液接触層よりも下方に位置する第一吸収液を撹拌して、前記気液接触層へ向かう第一吸収液の流れを発生させる攪拌機と、前記気液接触層内の上部に第二吸収液を直接供給する第二吸収液供給部と、を備える。
【0012】
このような排ガス処理装置においては、前記第二吸収液供給部を、前記気液接触層よりも下方に位置する第一吸収液の一部を前記第二吸収液として前記気液接触層内の上部に供給する構成とすることができる。
また、前記第二吸収液供給部を、前記気液接触層の上面よりも上方から前記第二吸収液を前記気液接触層に向かって散布する構成とすることができる。
さらに、前記第二吸収液供給部は、前記気液接触層内に配された配管と、該配管から上方に延びるノズルと、を備え、前記気液接触層の上面よりも上方に位置する前記ノズルの吐出口から前記第二吸収液を吐出する構成とすることが好ましい。
【0013】
さらに、前記気液接触層内の上部に供給される前記第二吸収液に含有されている吸収剤と、前記第一吸収液の流れによって前記気液接触層内の下部に供給される前記第一吸収液に含有されている吸収剤との合計に対する、前記気液接触層内の上部に供給される前記第二吸収液に含有されている吸収剤のモル比(%)を、5%以上70%以下の範囲内とすることが好ましい。
さらに、前記特定成分を二酸化硫黄とし、前記第一吸収液及び前記第二吸収液に含有される吸収剤を炭酸カルシウムとすることができる。
【0014】
さらに、本発明の他の態様に係る排ガス処理方法は、吸収剤を含有する吸収液に排ガスを気液接触させ、前記排ガスに含まれる特定成分を前記吸収剤と反応させることによって前記排ガスから除去する方法であって、処理槽に収容された第一吸収液中に前記排ガスを噴出して、前記排ガスが噴出する深さ位置から上方の部分に、前記排ガスの気泡と前記第一吸収液とが気液接触する気液接触層を形成し、前記処理槽内の前記気液接触層よりも下方の部分に前記処理槽の外部から第一吸収液を補給し、前記気液接触層よりも下方に位置する第一吸収液を撹拌して、前記気液接触層へ向かう第一吸収液の流れを発生させ、この流れによって前記気液接触層内の下部に前記第一吸収液を供給し、前記気液接触層内の上部に第二吸収液を直接供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る排ガス処理装置及び排ガス処理方法は、気液接触層内の上部及び下部に吸収液を供給しながら排ガスの処理を行うので、設備や工程の複雑化及び大幅な動力の増加を伴うことなく、排ガスに含まれる環境汚染物質等の特定成分を高い除去率で除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る排ガス処理装置の一実施形態の構造を説明する模式的断面図である。
【図2】図1の排ガス処理装置の吸収液供給部を説明する拡大図である。
【図3】吸収液供給部の変形例を説明する拡大図である。
【図4】吸収液供給部が固定されるグリッド用ビーム及びグリッドを示す平面図である。
【図5】図4の破線で囲まれた部分を拡大して示した図である。
【図6】吸収液のpH分布を示すグラフである。
【図7】従来のジェットバブリング反応槽の構造を説明する模式的断面図である。
【図8】従来のジェットバブリング反応槽における吸収液のpH分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る排ガス処理装置及び排ガス処理方法の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本実施形態の排ガス処理装置の構造を説明する模式的断面図であり、図2は、図1の排ガス処理装置の吸収液供給部を説明する拡大図である。
図1の排ガス処理装置は、火力発電設備等から排出される燃焼排ガスから環境汚染物質等の特定成分を除去する処理装置であるが、特定成分が亜硫酸ガスである場合を例にして以下に説明する。このような排ガス処理装置は、湿式排煙脱硫装置に好適に使用可能である。
【0018】
図1に示すように、排ガス処理装置は、ほぼ密閉された処理槽10を備えており、この処理槽10は3つの空間に区画されている。すなわち、上から順に、排ガス出口室12と、槽体内を横断するように設けられた排ガス入口室14と、亜硫酸ガスの吸収液20(本発明の構成要件である第一吸収液に相当する)を収容する吸収液収容室15と、に区画されている。
【0019】
さらに、詳述すると、排ガス出口室12と排ガス入口室14とは、槽体内を横断して水平に延びる第一隔板16によって仕切られ、排ガス入口室14と吸収液収容室15とは、第一隔板16に平行に延びる第二隔板18によって仕切られている。第二隔板18は、吸収液20の液面よりも上方に位置し、第二隔板18と液面との間には排ガス流出用の空間部22が形成される。なお、吸収液20は、吸収剤である石灰石の粉末を水に懸濁させたスラリーを含む。石灰石濃度(石灰石の粉末と水との合計量に対する石灰石の粉末の比率)は特に限定されるものではないが、通常は20〜25質量%であってよい。
【0020】
排ガス出口室12は出口ダクト24に接続し、その下の排ガス入口室14は入口ダクト26に接続している。また、処理された排ガスを空間部22から排ガス出口室12に流入させるガスライザーとして、複数本(図1の例では2本だが、これに限定されない。)のパイプ状の連通管28が排ガス入口室14を上下に貫通して、空間部22と排ガス出口室12とを連通している。
【0021】
排ガス分散管30(本発明の構成要件である排ガス導入部に相当する)は、上端部が排ガス入口室14に連通し、下端部が吸収液20に浸漬するように、排ガス入口室14の第二隔板18から下方に延びている。排ガス分散管30の下端部には複数の小さな開口30aが設けられていて、排ガスはそれら開口30aから吸収液20中に噴射される。噴射された排ガスは吸収液20中で細かい気泡となり、排ガスの気泡と吸収液20とで構成され両者が気液接触するフロス層25が形成される。
【0022】
また、処理槽10には、吸収剤の消費に応じて吸収液を処理槽10の外部から吸収液収容室15(フロス層25よりも下方の部分)に補給する吸収液補給管40(本発明の構成要件である第一吸収液補給部に相当する)と、吸収液収容室15に収容された吸収液20を攪拌する攪拌機32と、フロス層25内の上部に吸収液を直接供給する吸収液供給部50(本発明の構成要件である第二吸収液供給部に相当する)と、亜硫酸ガスの石膏固定化に必要な酸素を供給するための酸素含有ガス(例えば空気、酸素)を噴出する噴出ノズル34aを備えた空気供給管34と、反応により生じた石膏スラリーを吸収液収容室15から外部に排出する排出管42と、が備えられている。
【0023】
攪拌機32の回転軸36が、槽上の駆動装置38から連通管28内を通って下方に延びている。そして、回転軸36の下端に取り付けられた撹拌翼39が、フロス層25よりも下方に位置する吸収液20を撹拌して、フロス層25へ向かう吸収液20の流れ(上昇流)を発生させるようになっている。図1においては、この吸収液20の流れを吸収液収容室15内の矢印で示してある。
【0024】
処理槽10の外部(別の槽)で別途調製された吸収液が、吸収液補給管40を介して吸収液収容室15(フロス層25よりも下方の部分)に補給されるが、吸収液補給管40の開口端部が撹拌翼39の上方近傍に配されているので、吸収液補給管40の開口端部から導入された新たな吸収液は、前記流れによってフロス層25内の下部に供給されることとなる。
【0025】
また、噴出ノズル34aは処理槽10の下部に配されていて、噴出ノズル34aから酸素含有ガスが吸収液収容室15内の吸収液20中に噴出される。噴出された酸素含有ガスは気泡となって吸収液20中を上昇しながら吸収液20中に溶け込み、亜硫酸ガスと吸収剤である石灰石との反応に消費される。
また、吸収液供給部50の構成は、フロス層25内の上部に吸収液(本発明の構成要件である第二吸収液に相当する)を供給することが可能であれば特に限定されるものではない。例えば、図2に拡大して示すように、吸収液供給部50は、フロス層25内に配された配管51と、この配管51から上方に延びる複数のノズル52と、を備える構成であってもよい。
【0026】
図2に示すように、ノズル52の吐出口がフロス層25の上面よりも上方に位置するように設置すれば、ノズル52の吐出口から吐出された吸収液はフロス層25の上面に上方から散布されることとなる。また、ノズル52の吐出口がフロス層25内に位置するように設置すれば、ノズル52の吐出口から吐出された吸収液はフロス層25の内部に供給されることとなる。ただし、吸収液は、フロス層25内の上部、すなわちフロス層25の上下方向中央よりも上側部分に供給する必要があり、フロス層25の上面よりも上方からフロス層25の上面に向けて吸収液を散布することが好ましい。
【0027】
配管51は、排ガス分散管30を支持する格子状のグリッド53を固定するグリッド用ビーム54等に、図示しない固定部材を用いるなどして固定すればよい。すなわち、図2,4,5に示すように、処理槽10内には、槽体を横断して水平に延びる格子状のグリッド53が設けられている。そして、グリッド53の格子内に排ガス分散管30が挿通されることにより、排ガス分散管30はグリッド53に支持されている。このグリッド53は、グリッド用ビーム54の上に載置され固定されている。このグリッド用ビーム54に配管51を固定すれば、複数のノズル52がグリッド用ビーム54に沿って配置される。
【0028】
また、吸収液供給部50は、図3に拡大して示すように、フロス層25の上方の空間部22に配された配管55と、この配管55から下方に延びる複数のノズル56と、を備える構成であってもよい。これらノズル56の吐出口から吸収液を吐出すると、下方のフロス層25の上面に向けて吸収液が散布される。
配管55は、例えば処理槽10の下部デッキ57を支持する下部デッキ支持用ビーム58等に、固定部材59を用いるなどして固定すればよい。
【0029】
なお、ノズル52,56のうち一方のみを吸収液供給部50として設けてもよいが、ノズル52,56の両方を吸収液供給部50として設けて、両ノズル52,56からフロス層25内の上部に吸収液を供給してもよい。
これらのノズル52,56から放出する吸収液の量やノズル52,56の設置数は、排ガス中の亜硫酸ガスの濃度や求められる脱硫率などに応じて適宜設定すればよいが、前者は1つのノズル当たり5〜30m3 /hrとすることが好ましく、10〜20m3 /hrとすることがより好ましい。また、後者はフロス層25の水平面積1〜5m2 当たりノズル1個とすることが好ましく、水平面積2〜3m2 当たりノズル1個とすることがより好ましい。
【0030】
このような吸収液供給部50は、フロス層25の上面全面に対して均一に吸収液を供給するようになっていることが好ましい。吸収液が十分に供給されない部分があると、その部分において亜硫酸ガスの除去率が低くなるおそれがある。
吸収液供給部50からフロス層25内の上部に供給する吸収液は、特に限定されるものではなく、吸収液収容室15に収容されている吸収液20と同様の石灰石スラリーを用いることができる。この石灰石スラリーは、処理槽10の外部(別の槽)で別途調製してもよいし、吸収液補給管40から吸収液収容室15に補給するための吸収液を用いてもよい。すなわち、吸収液補給管40から吸収液収容室15に補給するための吸収液の貯槽に、吸収液補給管40とは別系統の配管を連結して、この配管を吸収液供給部50に接続してもよいし、あるいは、吸収液補給管40の上流にある主配管から別配管を分岐して吸収液供給部50に接続してもよい。
【0031】
また、吸収液収容室15から抜き取った石膏スラリー(フロス層25よりも下方に位置する吸収液のことであり、吸収剤である石灰石を含む)を、吸収液供給部50からフロス層25内の上部に供給してもよい。この場合は、排出管42を介して石膏スラリーを抜き取り、図示しない石膏分離機に送る途中で配管を分岐させて吸収液供給部50に送ってもよいし、吸収液収容室15から石膏スラリーを抜き取って吸収液供給部50に送るための専用の配管を、処理槽10に別途設けてもよい。
【0032】
さらに、亜硫酸ガスと効率良く反応するものであれば、石灰石とは別種の吸収剤を含有する吸収液を処理槽10の外部で調製して、吸収液供給部50からフロス層25内の上部に供給してもよい。
以下に、排ガス処理装置の運転について説明する。図1において、処理槽10の下部の吸収液収容室15には、亜硫酸ガスと反応して石膏に固定化する石灰石の粉末を水に懸濁させたスラリーが吸収液20として収容されている。
【0033】
亜硫酸ガスを含む排ガスは、入口ダクト26から排ガス入口室14を経由して排ガス分散管30に至り、排ガス分散管30の開口30aから吸収液20の液面下(例えば、液面下100〜300mmの位置から)にジェット状に噴射され、例えば直径2〜3mmの細かい気泡となって上昇する。これにより、吸収液収容室15内に収容された吸収液20のうち、排ガスが噴射される深さ位置(すなわち、開口30aが位置する深さ位置のことであり、以下「浸液深」と記すこともある)から上方の部分に、排ガスの気泡と吸収液20とで構成され両者が気液接触するフロス層25が形成される。
【0034】
排ガスが気泡として吸収液20中を上昇する間に、排ガス中の亜硫酸ガスは吸収液20に溶け込み、下記の化学式のように溶存酸素、石灰石と反応して石膏(CaSO4 ・2H2 O)となり固定化される。生じた石膏は、結晶として吸収液20中に析出し、吸収液20は多量の石膏粒子を浮遊させる石膏スラリーとなる。
SO2 (ガス)+H2 O → H2 SO3 (吸収)
H2 SO3 +1/2O2 → H2 SO4 (酸化)
H2 SO4 +CaCO3 → CaSO4 +H2 O+CO2 ↑(中和)
CaSO4 +2H2 O → CaSO4 ・2H2 O↓(晶析)
【0035】
亜硫酸ガスの除去率は、吸収液20のpH及び浸液深で制御することができる。吸収液20のpHは、例えば4.5〜5.5の弱酸性が好ましく、浸液深は100〜300mm(この時、形成されるフロス層25の高さ(厚さ)は0.3〜1m程度である)が好ましい。
亜硫酸ガスを除去された排ガスは、連通管28及び排ガス出口室12を経て出口ダクト24により系外に排出される。一方、晶析した石膏を濃厚に含有する石膏スラリーは、排出管42より排出される。また、排出管42より抜き出された石膏スラリーに見合う量の石灰石スラリー(新たな吸収液)が、吸収液補給管40から連続的にフロス層25よりも下方に補給される。
【0036】
このようにして、フロス層25において排ガスから亜硫酸ガスが除去されるが、亜硫酸ガスが除去されるにしたがってフロス層25中の吸収液20から吸収剤が消費されていくので、吸収剤を豊富に含有する吸収液をフロス層25に供給する必要がある。従来のジェットバブリング反応槽100においては、フロス層へ向かう吸収液の流れを攪拌機を用いて生じさせ、これによりフロス層内の下部に吸収液を供給していたが、この方法では、フロス層内の下部には、吸収剤を豊富に含有する吸収液が十分に供給されるものの、フロス層内の上部には、吸収剤を豊富に含有する吸収液が十分に供給されにくかった。よって、フロス層内の上部と下部で、吸収液中の吸収剤の濃度に差異が生じることが多かった。すなわち、フロス層内では下方から上方に向かうにしたがってpHが低下することになり、処理後の排ガスの最終的な出口となるフロス層の最上部ではpHが最も低く、吸収液中の亜硫酸の平衡分圧が高くなる。
【0037】
その結果、フロス層内の上部においては、フロス層内の下部に比べて亜硫酸ガスの除去性能が若干低下するため、脱硫率99%程度までは可能であるものの、さらに高い脱硫率で排ガスを処理することは困難であった。例をあげると、硫黄含有率の高い劣悪燃料を燃焼させた場合に発生する、濃度3000ppmを超える高SO2 の排ガスを例えば脱硫率99.5%以上で処理することや、二酸化炭素回収貯蔵(CCS)等で要求される、処理後の排ガスの亜硫酸ガス濃度例えば10ppm以下を実現することは困難であった。
【0038】
ここで、フロス層内の下部のみに吸収液を供給する従来の方法により排ガスを処理した時の、フロス層の内部及びフロス層よりも下方の吸収液層のpH分布を測定した結果を、図8のグラフに示す。なお、処理前の排ガスの亜硫酸ガス濃度は1000ppm(dry)である。また、フロス層よりもやや下方の吸収液のpHは4.4に制御した。さらに、グラフの縦軸の高さ比とは、吸収液が収容されている処理槽の底面から排ガス分散管の開口(フロス層と吸収液層との境界)までの距離に対する比である。
【0039】
図8のグラフから分かるように、フロス層内の上部と下部でpHに大きな差があった。また、処理後の排ガスの亜硫酸ガス濃度は15ppm(dry)で、脱硫率は98.7%であった。このことから、処理後の排ガスの最終的な出口となるフロス層の最上部は、吸収剤の濃度が低いためにpHがさらに低くなっていると考えられる。
これに対して本実施形態の排ガス処理装置は、吸収剤を豊富に含有する吸収液をフロス層25内の下部に供給する攪拌機32と、吸収剤を豊富に含有する吸収液をフロス層25内の上部に供給する吸収液供給部50との両方を備えている。そのため、フロス層25内の上部と下部の両方に十分な吸収液が供給されるので、フロス層25内の上部と下部で吸収剤の濃度に差異は生じにくく、フロス層25内の上部と下部はいずれも高い除去性能を有している。
【0040】
よって、例えば、硫黄含有率の高い劣悪燃料を燃焼させた場合に発生する、濃度3000ppmを超える高SO2 の排ガスを処理する場合であっても、脱硫率99.5%以上で処理することが可能であるし、また、二酸化炭素回収貯蔵(CCS)等で要求される、処理後の排ガスの亜硫酸ガス濃度10ppm以下を実現することが可能である。
【0041】
より高い脱硫率で排ガスから亜硫酸ガスを除去するためには、フロス層25内の上部に供給される吸収液に含有されている吸収剤と、前記流れによってフロス層25内の下部に供給される吸収液に含有されている吸収剤との合計に対する、フロス層25内の上部に供給される吸収液に含有されている吸収剤のモル比(%)を、5%以上70%以下の範囲内とすることが好ましく、10%以上50%以下の範囲内とすることがより好ましく、20%以上40%以下の範囲内とすることがさらに好ましい。
【0042】
上記モル比が5%未満であると、フロス層25内の上部に吸収液を供給する効果が十分に得られないおそれがある。一方、上記モル比を70%超過とするためには、吸収液をフロス層25内の上部に供給する配管の数を多くしたり径を大きくしたりする必要性が生じるので、装置構造に問題が発生するおそれがあるとともに、コストが上昇するおそれがある。
【0043】
ここで、フロス層内の上部及び下部の両方に吸収液を供給する本発明の方法により排ガスを処理した時の、フロス層の内部及びフロス層よりも下方の吸収液層のpH分布を測定した結果を、図6のグラフに示す。なお、処理前の排ガスの亜硫酸ガス濃度は1000ppm(dry)である。また、フロス層よりもやや下方の吸収液のpHは4.4に制御した。さらに、グラフの縦軸の高さ比とは、吸収液が収容されている処理槽の底面から排ガス分散管の開口(フロス層と吸収液層との境界)までの距離に対する比である。
【0044】
図6のグラフから分かるように、フロス層内の上部と下部でpHに大きな差はなかった。また、処理後の排ガスの亜硫酸ガス濃度は10ppm(dry)で、脱硫率は99.1%であった。
このように、本実施形態の排ガス処理装置で処理すれば、排ガスから高い脱硫率で亜硫酸ガスを除去することができる。しかも、本実施形態の排ガス処理装置は、吸収液供給部50を追加するのみでよく、前述した従来の二次脱硫法のように大がかりな追加設備は不要であるため、排ガス処理装置全体の設備や排ガス処理工程が複雑化したり、排ガス処理のコストや動力が大幅に増加したりする問題はほとんどない。
【0045】
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態においては特に述べなかったが、連通管28及び排ガス入口室14の一方又は両方に、吸収液を噴霧するスプレー装置を設けてもよい。排ガス入口室14にスプレー装置を設ければ、処理前の排ガスに予備的な脱硫を行うことができるし、排ガスの除塵とともに排ガスの冷却及び増湿を行うことができる。一方、連通管28にスプレー装置を設ければ、フロス層25で脱硫された排ガスに対して二次脱硫を行うことができる。
【0046】
また、本実施形態においては、排ガスから除去する特定成分として亜硫酸ガスを例示して説明したが、本実施形態の排ガス処理装置を用いて他種の環境汚染物質を除去することもできる。亜硫酸ガス(SO2 )以外では、例えば、SO3 、NO、N2 O3 、NO2 、N2 O4 、N2 O5 、CO2 、HCl、HF等の酸性物質や、アンモニア等のアルカリ性物質を除去することができる。
【0047】
さらに、吸収剤(第一吸収液、第二吸収液ともに)については石灰石(炭酸カルシウムを主成分とする)を例示して説明したが、他種の吸収剤を用いることも可能である。特定成分が前記のような酸性物質である場合には、吸収剤としてはアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物が好ましく、炭酸カルシウム、水酸化カルシウムが特に好ましい。また、特定成分が前記のようなアルカリ性物質である場合には、吸収剤としては塩化水素等の酸性物質が好ましい。
さらに、本発明においては、水等の溶媒に吸収剤を溶解させた溶液や水等の溶媒に吸収剤を懸濁させたスラリーを、吸収液として用いることができる。
さらに、第一吸収液と第二吸収液は、同種のものを用いてもよいが、異種のものを用いてもよい。
【符号の説明】
【0048】
10 処理槽
12 排ガス出口室
14 排ガス入口室
15 吸収液収容室
16 第一隔板
18 第二隔板
20 吸収液
22 空間部
24 出口ダクト
25 フロス層
26 入口ダクト
28 連通管
30 排ガス分散管
30a 開口
32 攪拌機
34 空気供給管
34a 噴出ノズル
40 吸収液補給管
42 排出管
50 吸収液供給部
51 配管
52 ノズル
55 配管
56 ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸収剤を含有する吸収液に排ガスを気液接触させ、前記排ガスに含まれる特定成分を前記吸収剤と反応させることによって前記排ガスから除去する排ガス処理装置であって、
第一吸収液を収容する処理槽と、
前記第一吸収液中に前記排ガスを噴出させ、前記排ガスが噴出する深さ位置から上方の部分に、前記排ガスの気泡と前記第一吸収液とが気液接触する気液接触層を形成する排ガス導入部と、
前記処理槽内の前記気液接触層よりも下方の部分に前記処理槽の外部から第一吸収液を補給する第一吸収液補給部と、
前記気液接触層よりも下方に位置する第一吸収液を撹拌して、前記気液接触層へ向かう第一吸収液の流れを発生させる攪拌機と、
前記気液接触層内の上部に第二吸収液を直接供給する第二吸収液供給部と、
を備えることを特徴とする排ガス処理装置。
【請求項2】
前記第二吸収液供給部は、前記気液接触層よりも下方に位置する第一吸収液の一部を、前記第二吸収液として前記気液接触層内の上部に供給することを特徴とする請求項1に記載の排ガス処理装置。
【請求項3】
前記第二吸収液供給部は、前記気液接触層の上面よりも上方から前記第二吸収液を前記気液接触層に向かって散布することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の排ガス処理装置。
【請求項4】
前記第二吸収液供給部は、前記気液接触層内に配された配管と、該配管から上方に延びるノズルと、を備え、前記気液接触層の上面よりも上方に位置する前記ノズルの吐出口から前記第二吸収液を吐出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の排ガス処理装置。
【請求項5】
前記気液接触層内の上部に供給される前記第二吸収液に含有されている吸収剤と、前記第一吸収液の流れによって前記気液接触層内の下部に供給される前記第一吸収液に含有されている吸収剤との合計に対する、前記気液接触層内の上部に供給される前記第二吸収液に含有されている吸収剤のモル比(%)が、5%以上70%以下の範囲内であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の排ガス処理装置。
【請求項6】
前記特定成分が二酸化硫黄であり、前記第一吸収液及び前記第二吸収液に含有される吸収剤が炭酸カルシウムであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の排ガス処理装置。
【請求項7】
吸収剤を含有する吸収液に排ガスを気液接触させ、前記排ガスに含まれる特定成分を前記吸収剤と反応させることによって前記排ガスから除去する方法であって、
処理槽に収容された第一吸収液中に前記排ガスを噴出して、前記排ガスが噴出する深さ位置から上方の部分に、前記排ガスの気泡と前記第一吸収液とが気液接触する気液接触層を形成し、
前記処理槽内の前記気液接触層よりも下方の部分に前記処理槽の外部から第一吸収液を補給し、
前記気液接触層よりも下方に位置する第一吸収液を撹拌して、前記気液接触層へ向かう第一吸収液の流れを発生させ、この流れによって前記気液接触層内の下部に前記第一吸収液を供給し、
前記気液接触層内の上部に第二吸収液を直接供給することを特徴とする排ガス処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−722(P2013−722A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137466(P2011−137466)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000003285)千代田化工建設株式会社 (162)
【Fターム(参考)】