排ガス処理装置
【課題】
半導体や液晶製造工場から排出されるフッ素化合物を含む排ガスの処理装置の耐久性の向上,メンテナンスの簡便化を図る。
【解決手段】
被処理ガス中のミスト形成ガスとミスト付着ガスとを分離するガス分離手段と、前記ガス分離手段を通過した被処理ガスに含まれる酸性ガスまたはケイ素化合物の少なくともいずれかを除去する湿式除去装置と、湿式除去装置を通過した被処理ガスに含まれるフッ素化合物を分解する触媒を備えたフッ素化合物分解装置とを有することを特徴とする排ガス処理装置にある。上記装置により、触媒反応層前段の前処理工程において、SO3とSiF4を分離し、SiF4は乾式除去装置後段に設置した湿式除去装置で除去する。排ガス中に含まれるSO3とSiF4を分離し、フッ素化合物分解触媒の寿命延命化を図ることができる。
半導体や液晶製造工場から排出されるフッ素化合物を含む排ガスの処理装置の耐久性の向上,メンテナンスの簡便化を図る。
【解決手段】
被処理ガス中のミスト形成ガスとミスト付着ガスとを分離するガス分離手段と、前記ガス分離手段を通過した被処理ガスに含まれる酸性ガスまたはケイ素化合物の少なくともいずれかを除去する湿式除去装置と、湿式除去装置を通過した被処理ガスに含まれるフッ素化合物を分解する触媒を備えたフッ素化合物分解装置とを有することを特徴とする排ガス処理装置にある。上記装置により、触媒反応層前段の前処理工程において、SO3とSiF4を分離し、SiF4は乾式除去装置後段に設置した湿式除去装置で除去する。排ガス中に含まれるSO3とSiF4を分離し、フッ素化合物分解触媒の寿命延命化を図ることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス処理装置に関し、詳しくは、半導体,液晶製造工場等から排出されるパーフルオロコンパウンド等のフッ素化合物を含む排ガスを処理するための処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体或いは液晶の製造プロセスでは、エッチング或いはクリーニングを行うにあたり、通常、フッ素化合物ガス、特にパーフルオロコンパウンド(Perfluorocoupound、以下PFCという)を用いる。PFCの一例を示すと、CF4,C2F6,C3F8,CHF3,C4F8,SF6、及びNF3等がある。PFCは二酸化炭素(CO2)の数千倍から数万倍の赤外線吸収度を持つ地球温暖化ガスであり、2005年2月に発行された京都議定書で全世界的に排出が制限された。エッチング或いはクリーニング工程では、導入したPFCの一部しか使用されず、大部分は排ガスとして排出される。このようなPFCを含む排ガスは、PFCを排ガスから除去或いは分解した後に、大気に排出することが必要である。
【0003】
排ガス中のPFCを除去,分解する方法としては、触媒法,燃焼法,プラズマ法,薬剤法等が知られている。現在は簡便なメンテナンス,低ランニングコスト,高PFC分解率の観点から、触媒法を用いたPFC分解方法が普及しつつある。
【0004】
エッチングプロセスでは、半導体や液晶の基板であるシリコンウエハーを掘削するため、まず、供給されたPFCガスにプラズマを照射させ、フッ素ラジカルを形成し、生成したフッ素ラジカルによりシリコンウエハーを掘削する。その際、副生成物としてSiF4やHFが生成する。生成したSiF4はエッチングガスとして未使用PFCと共にフッ素化合物除去装置に供給される。
【0005】
特開2000−140576(特許文献1),特開平11−70322(特許文献2)には、フッ素化合物を含有するガスの処理方法として、SiF4,HF等のガスを除去した後、PFCなどのフッ素化合物を分解することが掲載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2000−140576号公報
【特許文献2】特開平11−70322号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような処理のフッ素化合物を含有する排ガスの処理装置を長期間使用すると、触媒の性能の低下によりPFCの分解率が低下した。触媒の性能が早期に低下すると、頻繁に触媒の交換等のメンテナンスが必要となる。そこで本願発明の目的は、触媒性能の低下を抑制し、長期間のメンテナンスを不要とするフッ素化合物を含有する排ガスの処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する排ガス処理装置は、PFCガス,SO3、及びSiF4を含む被処理ガス中の水溶性ガスを除去する湿式除去装置と、湿式除去装置後段に前記PFCガスを分解するガス分解装置を備えたフッ素化合物を含有する排ガス処理装置であり、ガス分解装置前段でSiF4を除去する。
【0009】
更に、本発明の特徴は、湿式除去装置の前段に、SO3のようなミスト形成ガスとSiF4のようなミスト付着ガスを分離する手段として乾式除去装置等のガス及び/又はミスト分離装置を設けたことにある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フッ素化合物処理装置の触媒の延命化が可能である。また、メンテナンス頻度が低下し、ランニングコストも削減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
上述のように、従来のフッ素化合物を含有する排ガスの処理装置では、SiF4,HF等の酸性ガスやエッチング工程で生成した固形物を湿式除去装置で除去し、その後PFCをフッ素化合物の分解触媒により除去する。しかし、発明者らは、種々の検討により、ある特定の条件下ではPFC分解触媒の性能の劣化が生じていることを突き止めた。その要因は、湿式除去装置でのSiF4除去性能の低下で、上記プロセスに則って排ガスが処理されず、分解触媒が被毒されることにあった。
【0012】
従来、エッチング排ガスに含まれるSiF4以外の酸性ガスとして、HF,HCl,HBr,WF6,SO2,SOF2,SO2F2,SF4,COF2等が知られている。これらのガスが共存する条件ではSiF4も湿式除去装置内で十分に除去することができる。しかし、発明者らは触媒被毒の原因を追求する中で、上記以外のガスがエッチング排ガス内に含まれる可能性を検討し、SO3ガスがエッチング排ガスに含まれることで湿式除去装置内においてSiF4が除去されないことを発見した。SO3は分析により同定が困難なガスであった。例えば、エッチング工程でSF6ガスを用いると、SF6ガス分解によりSO3ガスが生成する。湿式除去装置内でSO3によりSiF4が除去できない原因としては、SO3ガスが湿式除去装置内で硫酸ミストになり、その硫酸ミスト中のH原子とSiF4中のF原子が水素結合により付着して、湿式除去装置で除去されず通過し、SiF4が分解触媒に流入していると推測される(図13参照)。
【0013】
従って、触媒によりPFCを分解する排ガスの処理装置では、被処理ガス中にミスト形成ガスであるSO3ガスが共存していると、湿式除去装置のみによる従来の前処理では触媒被毒物質であるSiF4を完全に除去できない。その結果、SiF4により触媒が被毒・劣化するので触媒寿命が短命化する。本願ではSO3のようなミスト形成ガスの存在下でも、フッ素化合物の分解触媒の前段の前処理工程でケイ素化合物を効率良く除去し、触媒を劣化させない手段を検討した。
【0014】
発明者らは、前処理工程でのSiF4、及びSO3の反応機構を種々検討した結果、以下の発明に至った。
【0015】
図1は本発明の処理方法の一例を示したシステムフローである。本システムはガス分離工程,湿式除去工程,フッ素化合物分解工程,排ガス冷却工程,酸性ガス除去工程から構成される。半導体或いは液晶の製造プロセス等から排出されたPFC,SiF4,SO3を含む被処理ガスは、まず、ガス分離工程に送られ、ミスト形成ガスであるSO3とミスト付着ガスであるSiF4が分離される。その後、ガス分離工程から排出されたガスは湿式除去工程に送られ、ガス中に含まれる酸性ガス等が除去される。酸性ガスが除去されたガスはPFC分解工程に送られてPFCが分解除去される。PFC分解後の排ガスは排ガス冷却工程で冷却される。最後に、PFC分解によって生成した酸性ガスは酸性ガス除去工程で除去され、無害化された後、大気に排出される。
【0016】
ガス分離工程では、SO3とSiF4を分離することを目的とする。ガス分離工程では、いずれかのガス又は両ガス共を捕捉除去しても良い。少なくともいずれかのガスが存在していなければ、SiF4ガス,SO3ガスは湿式除去装置を通過しない。
【0017】
また、ガス分離工程でSO3とSiF4ガスを機械的、又は化学的に分離した場合、いずれかのガスを湿式除去工程に流入させず、湿式除去工程の後段から再度系内に供給しても良い。その場合、SiF4のようなミスト付着ガスではなく、SO3のようなミスト形成ガスを後段から供給することが望ましい。
【実施例1】
【0018】
以下、実施例により詳細に説明する。図2は本発明の処理装置の一例を示す図である。本処理装置は、酸性ガスの除去材入りの乾式除去装置100,湿式除去装置110,触媒式反応槽120,ガス冷却装置130,酸性ガス除去装置140、及び排気設備150から構成される。PFC,SiF4、及びSO3を含有する処理対象ガスは、乾式除去装置100に送られ、SO3が分離除去される。その後、SiF4、およびPFC含有ガスは湿式除去装置110に送られ、水との接触によりSiF4が除去される。湿式除去装置110から排出されたガスは触媒式反応槽120に送られ、被処理ガス中のPFCが分解除去される。その際、反応助剤として反応水21,空気11を供給する。PFCを分解すると、酸性ガスのHF,SOx及びNOxが生成する。これらの酸性ガスはガス冷却装置130で冷却された後、酸性ガス除去装置140で除去される。処理対象ガスは、このように無害化された後、大気中に排出される。
【0019】
本実施例ではSO3とSiF4を分離する方法として酸性ガス吸収薬剤入り乾式除去装置100を例示した。図2で乾式除去装置100は固定層型を例示したが、移動層,流動層型乾式除去装置でも良い。また、バグフィルター方式もよい。酸性ガス除去剤としては、アルカリ金属,アルカリ土類金属の塩基性塩,炭酸塩、例えば水酸化カルシウム,水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,水酸化マグネシウム,炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウム,炭酸カルシウム,酸化カルシウムが使用できる。ハンドリング,価格等を勘案し、炭酸マグネシウム,炭酸カルシウム等が良い。
【0020】
乾式除去装置100に充填される上記薬剤に、SiF4やSO3を含有する排ガスを流通させると、SiF4やSO3は酸塩基反応によって吸収除去される。炭酸カルシウムとSiF4,SO3との反応式は下式のようになる。式右側に併せてギブスエネルギーΔGを示す。
【0021】
2CaCO3+SiF4→CaF2+SiO2+2CO2
ΔG=−149.6kJ/mol(300K) (1)
CaCO3+SO3→CaSO4+CO2
ΔG=−216.3kJ/mol(300K) (2)
ギブスエネルギーΔGは、値が負の方に大きいほど反応が進行し易いことを示している。上記の各式を比較すると、炭酸カルシウムとSO3の反応の方が炭酸カルシウムとSiF4の反応よりもギブスエネルギーが小さく、反応がし易いことが判る。したがって、SiF4とSO3が同時に炭酸カルシウムと接触すると、SO3の方が優先的に反応すると推測される。
【0022】
乾式除去装置が、SiF4とSO3がいずれも充分に除去できる程度の大きさを有していない場合には、SO3が優先的に反応し、SiF4が除去されずに破過する可能性がある。そのような場合には、本実施例のように乾式除去装置100の後段に湿式除去装置110を付設する。
【0023】
湿式除去装置は、気液の接触が十分であることが望ましい。本実施例では湿式除去装置として充填塔型除去装置を例示している。充填塔型以外の湿式処理装置としては、スプレー型,棚段型気液接触装置,スクラバなどがある。湿式除去装置の内径が小さいと、装置内のガス線速度が大きくなり、ガスに同伴するミスト量も多くなる。したがって、湿式除去装置内のガス流速が10m/min以上18m/min以下となるように設計することが望ましい。湿式処理装置への流入水としては、水道水或いは装置内の循環水を使用することができる。ただし、循環水には被処理ガスに含まれる固形物や酸性成分が溶解しているため、ミストとしてこれらの固形物や酸性成分が湿式処理装置から排出される可能性がある。従って、充填塔やスプレー塔に循環水を用いる場合には、最後段(最上段)のノズルからは水道水を流入させ、ミストとして排出される酸性成分、及び固形物の濃度を低くすることができる。また、棚段,スクラバの場合には、水道水も流入させ、流入水中に溶解する酸性成分、固形物の濃度を低くすることが望ましい。また、流入水としては、水道水,循環水以外に、アルカリ水溶液等を用いてもよい。
【0024】
本実施例の触媒式反応槽では、被処理ガスに含まれるPFCは、フッ素化合物分解触媒上で加水分解される。下記に代表的なPFCガスの加水分解反応を示す。
【0025】
CF4+2H2O→CO2+4HF (3)
C2F6+3H2O→CO+CO2+6HF (4)
C4F8+4H2O→4CO+8HF (5)
CHF3+H2O→CO+3HF (6)
SF6+3H2O→SO3+6HF (7)
2NF3+3H2O→NO+NO2+6HF (8)
式(4),(5),(6)の反応ではCOが生成するが、反応助剤として空気を供給することでCO2となる。
【0026】
PFCの分解に使用される触媒としては、加水分解用あるいは酸化分解用の触媒がある。例えばAlとZn,Ni,Ti,Fe,Sn,Co,Zr,Ce,Si,W,Pt,Pdから選ばれた少なくとも1種を含む触媒である。触媒成分は酸化物,金属,複合酸化物などの形で含まれる。特にAlとNi,Zn,Ti,W,Co,Pdから選ばれた少なくとも1種との触媒が高いPFC分解性能を持つので好ましい。
【0027】
PFCの加水分解に際して触媒式反応槽に添加される水蒸気の量は、加水分解に必要とされる理論水蒸気量の2〜50倍、通常は3〜30倍が好ましい。
【0028】
PFCの加水分解温度は500〜850℃が好ましい。PFC濃度が高い場合には反応温度を高めにし、PFC濃度が1%以下の場合には反応温度を低めにするのがよい。反応温度が850℃よりも高くなると触媒が劣化しやすくなり、反応塔材料も腐食しやすくなる。反対に反応温度が500℃よりも低くなるとPFCの分解率が低下する。
【0029】
実施例1では触媒式反応槽120の下流にガス冷却装置130を設置している。本実施例のガス冷却装置130ではノズル131により水を噴霧してガス温度を所定温度に下げる。この方法の他、水冷方式あるいはガス冷却方式の一般的な熱交換器を使用してもよい。また、ガス中に圧縮空気などを導入して所定温度に制御してもよい。
【0030】
酸性ガス除去装置としては一般的な湿式及び乾式除去装置を使用することができる。湿式の例としてはスプレー塔のほか、充填塔,スクラバ,棚段型気液接触装置がある。また、乾式の例として、酸性ガス除去剤による固定層,移動層,流動層型乾式除去装置がある。また、バグフィルター方式もよい。酸性ガス除去剤としては、アルカリ金属,アルカリ土類金属の塩基性塩、例えば水酸化カルシウム,水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,水酸化マグネシウム,炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウム,炭酸カルシウム,酸化カルシウムが使用できる。
【0031】
多流量のPFCを処理する際はできるだけ線速度を大きくすることが望ましい。本実施例の酸性ガス除去装置の後段には排気設備150を設置した。線速度を大きくする為にガス流量を増やすことも可能であるが、装置内の圧力損失が大きくなる。排気設備としては一般的なエジェクタ、及びブロアが使用できるが、これ以外でも装置系内を負圧に保てるものであればどのような方法でもよい。
【0032】
触媒層を通過させるガスの線速度は2−15m/minとすることが望ましい。更に望ましくは2−10m/minとすることがよい。多流量のPFCを処理するとき、触媒層を通過するガスの線速度を2m/min以上に設定すると高い耐久性能を有する。なお、線速度を上げすぎるとレイノルズ数が大きくなり、偏流が生じる可能性がある。また、線速度を上げる為にガス量を増加させると装置系内の圧力損失が上昇するので、ガス量は維持するほうが安全な運転が容易である。
【実施例2】
【0033】
図3は本発明の他の処理装置の一例を示した図である。本処理装置は、ガス分離装置200,湿式除去装置210,触媒式反応槽220,ガス冷却装置230,酸性ガス除去装置240、及び排気設備250から構成される。PFC,SiF4、及びSO3を含有する処理対象ガスは、ガス分離装置200に送られ、処理対象ガス中のSO3が分離される。その後、SiF4及びPFCを含有する処理対象ガスは湿式除去装置210に送られ、SiF4が除去される。湿式除去装置210から排出されたPFCを含有する処理対象ガスと、ガス分離手段により分離されたSO3は、湿式除去装置の後段で混合される。その後処理対象ガスは触媒式反応槽220に送られ、被処理ガス中のPFCが分解除去される。その際、反応助剤として反応水21,空気11を供給する。PFCを分解すると、酸性ガスであるHF,SOx及びNOxが生成する。これらの成分を含む処理対象ガスはガス冷却装置230で冷却された後、酸性ガス除去装置240で酸性ガスが除去され、無害化された後に排出される。
【0034】
ガス分離手段は物理的、或いは化学的に二種以上のガスを分離できる装置であれば何でもよい。たとえば圧力変化を利用したガス分離装置である吸着型(PSA:Pressure Swing Adsorption)方式や多孔質材料を利用した分子篩い方法などが使える。その他、活性炭,ゼオライト,メソポーラスシリカのような吸着材を備えたガス吸着装置も使える。
【0035】
本実施例ではSO3,SiF4を含有するガス中からSO3を分離して湿式除去装置の後段から流入させるという例を示した。SO3を湿式除去装置の後段から流入させると湿式除去装置から同伴したガス中に含まれる水分と反応して硫酸ミストを形成し、配管、或いは後段の反応器の腐食を引き起こす可能性がある。その場合は必要に応じサイクロン,電気集塵機等のミスト除去装置を設置することが望ましい。また、本実施例では湿式除去装置の後段、触媒式反応槽の前段にSO3を流入させたが、触媒式反応槽の後段、酸性ガス除去装置の前段に流入させても良い。そうすれば酸性ガス除去装置によってSO3も除去される。
【0036】
(試験例1)
上記実施例1,2の構成は、SO3とSiF4とが結合してケイ素の流出が生じるという本願発明者らの知見に基づく。本試験例では湿式除去装置であるスプレー塔にSO3とSiF4を流通させ、スプレー塔でのSiF4除去性能を評価した結果を説明する。
【0037】
試験装置の概略図を図4に示す。本試験装置はガス(SO3,SiF4,N2)供給ライン,スプレー塔1,スプレーノズル2、及びデミスタ3から構成される。ガス供給ラインからN2100L/min,SO3100ppm,SiF42000ppmとなるように調整したガスをスプレー塔に供給する。スプレーノズル2からは水を総量6L/minで供給し、供給ガス中のSiF4、及びSO3を除去する。スプレー塔上部にはデミスタを設置し、径の大きいミスト及びスプレー塔内で生成した固形物を除去して塔外にガスを排出する。スプレー塔から排出されたガスは気体用FT−IR装置4に送られ、スプレー塔から流出したSiF4を定量した。定量分析の結果、スプレー塔から排出したSiF4濃度は140ppmとなり、スプレー塔でSiF4が完全に除去されずに流出していることが分かった。SO3ミストは径が0.4〜1.0μmと非常に微細なため、ミスト除去構造のスプレー塔でも除去できずに排出されたと考えられる。SiF4はSO3ミスト中のH2Oだけでなく、スプレー噴霧により発生するH2Oミストにも付着すると考えられるが、スプレーノズルからのH2Oミスト径は40〜1000μmであり、SO3ミストよりも十分に大きいため、スプレー塔及び後段のデミスタ槽で十分に除去できたと推測される。
【0038】
(試験例2)
試験例2では試験例1との比較として、スプレー塔におけるSiF4除去工程でSO3が共存しない場合の結果を示す。試験装置図、及び試験条件は試験例1と同様とする。スプレー塔におけるSiF4除去反応においてSO3を供給しなかった場合は、スプレー塔出口におけるSiF4濃度は0ppmであり、完全に除去できることが分かった。
【0039】
(試験例3)
試験例3では試験例1との比較として、スプレー塔におけるSiF4除去工程で、SO3ではなく、同じSOxガスであるSO2を共存させた場合の結果を示す。SO3はミスト形成ガスであるが、SO2は水と接触してもミストを形成しない。ミスト共存の有無によるSiF4除去性能を比較した。試験装置図、及び試験条件は試験例1と同様とする。結果、SO2とSiF4を同時にスプレー塔に供給しても、出口排ガス中のSiF4濃度は0ppmであり、同じSOxガスでもミスト未形成ガスであるSO2はSiF4除去性能に影響を与えないことが分かった。
【0040】
(試験例4)
本試験例4ではSiF4,SO3共存ガスをアルカリ薬剤に通気させ、いずれか、又は両ガスがアルカリ薬剤によって除去できるかどうかを評価した結果である。試験方法としては、固定層式反応管に薬剤を充填し、SiF4,SO3ガスを薬剤層に通気し、出口ガス中のSiF4ガス濃度を測定した。供給ガス組成は、N210L/min,SiF41000ppm,SO3100ppmとした。試験はまず、SiF4のみを薬剤に供給し、その後SO3も供給して、SiF4のみの場合と、SiF4+SO3の場合での除去性能の違いを評価した。アルカリ薬剤としてはCa(OH)2を用いた。
【0041】
図5に本試験例4の試験結果を示す。Ca(OH)2にSiF4のみを供給した場合は、薬剤通過ガス中のSiF4濃度は1ppm以下であったが、SO3を供給すると20〜60ppmのSiF4が検出された。これは、式(1),(2)のCaCO3の反応におけるギブスエネルギーと同様にCa(OH)2でもSiF4との反応よりもSO3との反応の方がギブスエネルギーが小さいため、SO3との反応が優先的に進行するため、SiF4が反応せずに薬剤を通過したものと推測される。本試験例4の結果から、薬剤設置のみの乾式除去方式ではSiF4とSO3が同時に存在下の場合、SiF4の除去性能が低下することが考えられる、したがって、SO3とSiF4がガス中に共存する場合は、乾式除去工程の後段に湿式除去工程を設置する等の複合策が必須となる。
【0042】
(試験例5)
本試験例ではCa化合物による乾式除去とスプレー塔による湿式除去を組み合わせた系で、SiF4,SO3共存状態におけるSiF4除去性能を評価した結果である。試験装置の構成を図6に示す。装置の概要、及び試験条件は試験例1と同様で、スプレー塔前段に固定層式乾式除去装置5を設置した。乾式除去装置5に充填する薬剤としてはCa(OH)2,CaCO3,CaOを選定した。各薬剤はいずれも2〜4mmの粒径に整粒したものを使用した。
【0043】
図7に本実施例の試験結果を示す。スプレー塔前段にCa化合物を設置しない場合は平均約140ppmのSiF4がスプレー塔出口ガスから検出された。Ca化合物を設置するといずれのCa化合物を設置した条件でも薬剤設置無しの条件よりもスプレー塔出口ガス中のSiF4検出濃度は低下していた。中でもCa(OH)2を設置した場合はSiF4検出濃度は1ppm以下となり、もっとも高い性能を示すことが分かった。
【0044】
本試験例では乾式除去装置にCa化合物を充填した場合の例であるが、他のアルカリ系化合物でも良い。アルカリ化合物を乾式除去装置に充填すると、SiF4,SO3を始めとするエッチング排ガス中の酸性ガスと反応し、中和熱を発する。そこで、本試験例のようなシステムを適用する際は、乾式除去装置にチラー等の熱交換器を備え付けるシステムにすることが望ましい。
【0045】
(試験例6)
本試験例は試験例5との比較として、湿式除去装置であるスプレー塔の後段に乾式除去装置を備えて、SiF4,SO3共存状態におけるSiF4除去性能を評価した結果である。試験装置の構成を図8に示す。装置の概要、及び試験条件は試験例1と同様で、スプレー塔後段に固定層式乾式除去装置5を設置した。乾式除去装置5に充填する薬剤としては試験例5で効果のあったCa(OH)2を選定した。
【0046】
図9に本試験例の試験結果を示す。スプレー塔前段にCa(OH)2を設置した場合(試験例5)ではスプレー塔出口におけるSiF4検出量は1ppm以下であったのに対し、スプレー塔後段に設置した場合には、薬剤充填なしの条件と同等のSiF4が検出された。したがって、ミストに付着した状態でCa(OH)2に接触してもSiF4の吸収は起こらないことが判った。ミストに付着する前、つまり湿式除去装置の前段でSO3とSiF4を分離する必要がある。
【0047】
(試験例7)
本試験例では、湿式除去装置であるスプレー塔の上部にミスト除去装置として電気集塵式ミスト除去装置6を設置してスプレー塔内で生成したSiF4付着SO3ミストの除去効果を評価した結果である。試験装置図を図10に示す。装置の概要、及び試験条件は試験例1と同様である。電気集塵式ミスト除去装置6の後段で気体用FT−IRによりガス中のSiF4濃度を測定した結果、SiF4濃度は1ppm以下となり、SiF4除去率99.9%が得られることを確認した。
【実施例3】
【0048】
本実施例はミスト除去装置を備えたシステム構成の一例である。システム構成図を図11に示す。本システムはスプレー式湿式除去装置310,フィルター式ミスト除去装置320,触媒式反応槽330,ガス冷却装置340,スプレー式酸性ガス除去装置350、及び排ガス吸引装置360から構成される。PFC含有ガス10,SiF4、及びSO3が湿式除去装置310に流入するとSO3ミストが生成し、SiF4がミストに付着して湿式除去装置310から排出する。SiF4が付着したSO3ミストはフィルター式ミスト除去装置320に送られてミストがフィルターに吸着除去される。SO3ミストがフィルターで吸着除去されたガスは触媒式反応槽330に送られて被処理ガス中のPFCが分解除去される。その際、反応助剤として反応水21,空気11を供給する。PFCを分解すると、酸性ガスのHF,SOx及びNOxが生成する。これらのガスはガス冷却装置340で冷却された後、酸性ガスが酸性ガス除去装置350で除去され、無害化された後排出される。
【0049】
フィルター式ミスト除去装置は二段以上で設置することが望ましい。通常使用時は一段のみ使用し、経時に伴い、フィルターの目穴が閉塞し、系内差圧が上昇してきたら他方の装置にバルブ30によって切り替える。
【0050】
フィルター式ミスト除去装置はヒーター機能が搭載されたものが望ましい。フィルターの目穴に詰まったミストを、熱をかけることによって除去しやすくするためである。また、その際、圧縮空気等で通気させながらミストを除去することが望ましい。図11に記載のようにバルブ31によって圧縮空気を送り込む装置を変えられるようにしておき、ミスト除去装置の後段にもバルブ32を設置し、系内とバイパスとを切り替えられるようにしておくことが望ましい。
【0051】
ミスト除去装置後段のバルブ32はバイパスラインと繋いでも良いが、酸性ガス除去装置350に流入するようなシステムにすることが更に好ましい。そうすれば、フィルターに付着したSiF4やSO3等の酸性ガスが系外に漏れることなく除去できるからである。
【0052】
(試験例8)
湿式除去装置内にSO3とSiF4が流入し、SiF4がSO3ミストに付着した場合、SO3ミストに熱等のエネルギーを加えることにより、容易にSiF4はSO3ミストから脱着すると考えられる。SiF4はSO3ミスト中のH2Oに結合力の弱い水素結合で付着しているためである。本試験例では図4に示すスプレー式湿式除去装置でノズルから供給する水の温度を90℃に設定して、SiF4の除去性能を評価した。結果、ノズルからの供給水温度が常温(20℃)の場合に比べてSiF4除去性能は60%となり、温水噴霧の効果が確認された。
【0053】
(試験例9)
本試験例では、触媒反応槽前段において前処理工程で除去できなかったSiF4を除去するためにケイ素化合物捕捉材を設置した例である。SiF4をPFC分解触媒を充填した反応管に流入させ、ケイ素化合物捕捉剤をPFC分解触媒の上部に設置し、共存ガス中のPFCの分解率を測定した。試験装置の構成を図12に示す。
【0054】
N2,Air,SiF4及びPFCとしてCF4をマスフローコントローラーで調節して反応管40に供給した。供給量は、CF4を約0.48vol%とし、AirはO2濃度が約2.12vol%となるようにした。SiF4はSi濃度として2000mg/m3となるように調節して供給した。また、純水を反応管40の上部へマイクロチューブポンプ51を用いてCF4加水分解反応当量比の25倍となるように供給した。この反応ガスをPFC分解触媒44と空間速度1230毎時で接触させた。反応管40は電気炉41により捕捉材45,PFC分解触媒44が約700℃となるように加熱した。反応管40は内径32mmのインコネル製である。Si捕捉剤45としては粒径1.0−3.0mmの粒状活性アルミナを用いた。また、充填量はPFC分解触媒充填量の25%とした。PFC分解触媒によって分解されたガス中にはフッ化水素が含まれるため、水800mlを入れた排ガス洗浄槽60によってフッ化水素を除去したのち、ミストキャッチャ70を通過させてミスト分を除去した。ミストキャッチャ70の後段にガス採取口80を設け、排ガスの一部を採取し、排ガス中のCF4量を測定した。CF4の分解率はTCDガスクロマトグラフにより次式で求めた。
【0055】
分解率(%)=1−(出口のCF4量/供給したCF4量))×100
5時間連続通気した後のCF4分解率は90.75%であった。また、試験後の珪素化合物捕捉材に含有するSi量を分析したところ、捕捉材に流入Si量の約70%が付着しており、Si捕捉材の設置効果が確認された。
【0056】
Si捕捉材としては、高比表面積を有し、高加水分解性能を有するものがよい。高比表面積を有する材料としてはアルミナ,シリカ,カーボンなどがある。アルミナのうち、活性アルミナであるγ形態のものは、高比表面積を有し、他成分との混合により、高加水分解性能を持つ為、極めて好適な材料である。活性アルミナに混合する他成分としては、捕捉材の固体酸性質を向上させるものがよく、例えばジルコニウム,コバルト,鉄,チタン,ニッケル,セリウム,スズ,銅,マグネシウム,タングステンなどがある。これらのうち、少なくとも1種をアルミナと混合したものを捕捉材として推奨する。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明により、半導体や液晶工場でのエッチング排ガス中のミスト形成ガスとミスト付着ガスを効率良く除去することができ、触媒の被毒を抑制し、触媒の延命化を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の処理方法の一例を示すシステムフロー図である。
【図2】本発明の処理装置の一例を示すシステム構成図である。
【図3】本発明の処理装置の一例を示すシステム構成図である。
【図4】(試験例1)に使用した試験装置図である。
【図5】(試験例4)の試験結果である。
【図6】(試験例5)に使用した試験装置図である。
【図7】(試験例5)の試験結果である。
【図8】(試験例6)に使用した試験装置図である。
【図9】(試験例6)の試験結果である。
【図10】(試験例7)に使用した試験装置図である。
【図11】本発明の処理装置の一例を示すシステム構成図である。
【図12】(試験例8)に使用した試験装置図である。
【図13】SiF4が付着した硫酸ミストの図である。
【符号の説明】
【0059】
1 スプレー塔
2,111 スプレーノズル
3 デミスタ
4 気体用FT−IR
100 乾式除去装置
110 湿式除去装置
121,321 電気炉
123 PFC分解触媒
140 酸性ガス除去装置
150 排気設備
240 バグフィルター式酸性ガス除去装置
320 フィルター式ミスト除去装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス処理装置に関し、詳しくは、半導体,液晶製造工場等から排出されるパーフルオロコンパウンド等のフッ素化合物を含む排ガスを処理するための処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体或いは液晶の製造プロセスでは、エッチング或いはクリーニングを行うにあたり、通常、フッ素化合物ガス、特にパーフルオロコンパウンド(Perfluorocoupound、以下PFCという)を用いる。PFCの一例を示すと、CF4,C2F6,C3F8,CHF3,C4F8,SF6、及びNF3等がある。PFCは二酸化炭素(CO2)の数千倍から数万倍の赤外線吸収度を持つ地球温暖化ガスであり、2005年2月に発行された京都議定書で全世界的に排出が制限された。エッチング或いはクリーニング工程では、導入したPFCの一部しか使用されず、大部分は排ガスとして排出される。このようなPFCを含む排ガスは、PFCを排ガスから除去或いは分解した後に、大気に排出することが必要である。
【0003】
排ガス中のPFCを除去,分解する方法としては、触媒法,燃焼法,プラズマ法,薬剤法等が知られている。現在は簡便なメンテナンス,低ランニングコスト,高PFC分解率の観点から、触媒法を用いたPFC分解方法が普及しつつある。
【0004】
エッチングプロセスでは、半導体や液晶の基板であるシリコンウエハーを掘削するため、まず、供給されたPFCガスにプラズマを照射させ、フッ素ラジカルを形成し、生成したフッ素ラジカルによりシリコンウエハーを掘削する。その際、副生成物としてSiF4やHFが生成する。生成したSiF4はエッチングガスとして未使用PFCと共にフッ素化合物除去装置に供給される。
【0005】
特開2000−140576(特許文献1),特開平11−70322(特許文献2)には、フッ素化合物を含有するガスの処理方法として、SiF4,HF等のガスを除去した後、PFCなどのフッ素化合物を分解することが掲載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2000−140576号公報
【特許文献2】特開平11−70322号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような処理のフッ素化合物を含有する排ガスの処理装置を長期間使用すると、触媒の性能の低下によりPFCの分解率が低下した。触媒の性能が早期に低下すると、頻繁に触媒の交換等のメンテナンスが必要となる。そこで本願発明の目的は、触媒性能の低下を抑制し、長期間のメンテナンスを不要とするフッ素化合物を含有する排ガスの処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する排ガス処理装置は、PFCガス,SO3、及びSiF4を含む被処理ガス中の水溶性ガスを除去する湿式除去装置と、湿式除去装置後段に前記PFCガスを分解するガス分解装置を備えたフッ素化合物を含有する排ガス処理装置であり、ガス分解装置前段でSiF4を除去する。
【0009】
更に、本発明の特徴は、湿式除去装置の前段に、SO3のようなミスト形成ガスとSiF4のようなミスト付着ガスを分離する手段として乾式除去装置等のガス及び/又はミスト分離装置を設けたことにある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フッ素化合物処理装置の触媒の延命化が可能である。また、メンテナンス頻度が低下し、ランニングコストも削減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
上述のように、従来のフッ素化合物を含有する排ガスの処理装置では、SiF4,HF等の酸性ガスやエッチング工程で生成した固形物を湿式除去装置で除去し、その後PFCをフッ素化合物の分解触媒により除去する。しかし、発明者らは、種々の検討により、ある特定の条件下ではPFC分解触媒の性能の劣化が生じていることを突き止めた。その要因は、湿式除去装置でのSiF4除去性能の低下で、上記プロセスに則って排ガスが処理されず、分解触媒が被毒されることにあった。
【0012】
従来、エッチング排ガスに含まれるSiF4以外の酸性ガスとして、HF,HCl,HBr,WF6,SO2,SOF2,SO2F2,SF4,COF2等が知られている。これらのガスが共存する条件ではSiF4も湿式除去装置内で十分に除去することができる。しかし、発明者らは触媒被毒の原因を追求する中で、上記以外のガスがエッチング排ガス内に含まれる可能性を検討し、SO3ガスがエッチング排ガスに含まれることで湿式除去装置内においてSiF4が除去されないことを発見した。SO3は分析により同定が困難なガスであった。例えば、エッチング工程でSF6ガスを用いると、SF6ガス分解によりSO3ガスが生成する。湿式除去装置内でSO3によりSiF4が除去できない原因としては、SO3ガスが湿式除去装置内で硫酸ミストになり、その硫酸ミスト中のH原子とSiF4中のF原子が水素結合により付着して、湿式除去装置で除去されず通過し、SiF4が分解触媒に流入していると推測される(図13参照)。
【0013】
従って、触媒によりPFCを分解する排ガスの処理装置では、被処理ガス中にミスト形成ガスであるSO3ガスが共存していると、湿式除去装置のみによる従来の前処理では触媒被毒物質であるSiF4を完全に除去できない。その結果、SiF4により触媒が被毒・劣化するので触媒寿命が短命化する。本願ではSO3のようなミスト形成ガスの存在下でも、フッ素化合物の分解触媒の前段の前処理工程でケイ素化合物を効率良く除去し、触媒を劣化させない手段を検討した。
【0014】
発明者らは、前処理工程でのSiF4、及びSO3の反応機構を種々検討した結果、以下の発明に至った。
【0015】
図1は本発明の処理方法の一例を示したシステムフローである。本システムはガス分離工程,湿式除去工程,フッ素化合物分解工程,排ガス冷却工程,酸性ガス除去工程から構成される。半導体或いは液晶の製造プロセス等から排出されたPFC,SiF4,SO3を含む被処理ガスは、まず、ガス分離工程に送られ、ミスト形成ガスであるSO3とミスト付着ガスであるSiF4が分離される。その後、ガス分離工程から排出されたガスは湿式除去工程に送られ、ガス中に含まれる酸性ガス等が除去される。酸性ガスが除去されたガスはPFC分解工程に送られてPFCが分解除去される。PFC分解後の排ガスは排ガス冷却工程で冷却される。最後に、PFC分解によって生成した酸性ガスは酸性ガス除去工程で除去され、無害化された後、大気に排出される。
【0016】
ガス分離工程では、SO3とSiF4を分離することを目的とする。ガス分離工程では、いずれかのガス又は両ガス共を捕捉除去しても良い。少なくともいずれかのガスが存在していなければ、SiF4ガス,SO3ガスは湿式除去装置を通過しない。
【0017】
また、ガス分離工程でSO3とSiF4ガスを機械的、又は化学的に分離した場合、いずれかのガスを湿式除去工程に流入させず、湿式除去工程の後段から再度系内に供給しても良い。その場合、SiF4のようなミスト付着ガスではなく、SO3のようなミスト形成ガスを後段から供給することが望ましい。
【実施例1】
【0018】
以下、実施例により詳細に説明する。図2は本発明の処理装置の一例を示す図である。本処理装置は、酸性ガスの除去材入りの乾式除去装置100,湿式除去装置110,触媒式反応槽120,ガス冷却装置130,酸性ガス除去装置140、及び排気設備150から構成される。PFC,SiF4、及びSO3を含有する処理対象ガスは、乾式除去装置100に送られ、SO3が分離除去される。その後、SiF4、およびPFC含有ガスは湿式除去装置110に送られ、水との接触によりSiF4が除去される。湿式除去装置110から排出されたガスは触媒式反応槽120に送られ、被処理ガス中のPFCが分解除去される。その際、反応助剤として反応水21,空気11を供給する。PFCを分解すると、酸性ガスのHF,SOx及びNOxが生成する。これらの酸性ガスはガス冷却装置130で冷却された後、酸性ガス除去装置140で除去される。処理対象ガスは、このように無害化された後、大気中に排出される。
【0019】
本実施例ではSO3とSiF4を分離する方法として酸性ガス吸収薬剤入り乾式除去装置100を例示した。図2で乾式除去装置100は固定層型を例示したが、移動層,流動層型乾式除去装置でも良い。また、バグフィルター方式もよい。酸性ガス除去剤としては、アルカリ金属,アルカリ土類金属の塩基性塩,炭酸塩、例えば水酸化カルシウム,水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,水酸化マグネシウム,炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウム,炭酸カルシウム,酸化カルシウムが使用できる。ハンドリング,価格等を勘案し、炭酸マグネシウム,炭酸カルシウム等が良い。
【0020】
乾式除去装置100に充填される上記薬剤に、SiF4やSO3を含有する排ガスを流通させると、SiF4やSO3は酸塩基反応によって吸収除去される。炭酸カルシウムとSiF4,SO3との反応式は下式のようになる。式右側に併せてギブスエネルギーΔGを示す。
【0021】
2CaCO3+SiF4→CaF2+SiO2+2CO2
ΔG=−149.6kJ/mol(300K) (1)
CaCO3+SO3→CaSO4+CO2
ΔG=−216.3kJ/mol(300K) (2)
ギブスエネルギーΔGは、値が負の方に大きいほど反応が進行し易いことを示している。上記の各式を比較すると、炭酸カルシウムとSO3の反応の方が炭酸カルシウムとSiF4の反応よりもギブスエネルギーが小さく、反応がし易いことが判る。したがって、SiF4とSO3が同時に炭酸カルシウムと接触すると、SO3の方が優先的に反応すると推測される。
【0022】
乾式除去装置が、SiF4とSO3がいずれも充分に除去できる程度の大きさを有していない場合には、SO3が優先的に反応し、SiF4が除去されずに破過する可能性がある。そのような場合には、本実施例のように乾式除去装置100の後段に湿式除去装置110を付設する。
【0023】
湿式除去装置は、気液の接触が十分であることが望ましい。本実施例では湿式除去装置として充填塔型除去装置を例示している。充填塔型以外の湿式処理装置としては、スプレー型,棚段型気液接触装置,スクラバなどがある。湿式除去装置の内径が小さいと、装置内のガス線速度が大きくなり、ガスに同伴するミスト量も多くなる。したがって、湿式除去装置内のガス流速が10m/min以上18m/min以下となるように設計することが望ましい。湿式処理装置への流入水としては、水道水或いは装置内の循環水を使用することができる。ただし、循環水には被処理ガスに含まれる固形物や酸性成分が溶解しているため、ミストとしてこれらの固形物や酸性成分が湿式処理装置から排出される可能性がある。従って、充填塔やスプレー塔に循環水を用いる場合には、最後段(最上段)のノズルからは水道水を流入させ、ミストとして排出される酸性成分、及び固形物の濃度を低くすることができる。また、棚段,スクラバの場合には、水道水も流入させ、流入水中に溶解する酸性成分、固形物の濃度を低くすることが望ましい。また、流入水としては、水道水,循環水以外に、アルカリ水溶液等を用いてもよい。
【0024】
本実施例の触媒式反応槽では、被処理ガスに含まれるPFCは、フッ素化合物分解触媒上で加水分解される。下記に代表的なPFCガスの加水分解反応を示す。
【0025】
CF4+2H2O→CO2+4HF (3)
C2F6+3H2O→CO+CO2+6HF (4)
C4F8+4H2O→4CO+8HF (5)
CHF3+H2O→CO+3HF (6)
SF6+3H2O→SO3+6HF (7)
2NF3+3H2O→NO+NO2+6HF (8)
式(4),(5),(6)の反応ではCOが生成するが、反応助剤として空気を供給することでCO2となる。
【0026】
PFCの分解に使用される触媒としては、加水分解用あるいは酸化分解用の触媒がある。例えばAlとZn,Ni,Ti,Fe,Sn,Co,Zr,Ce,Si,W,Pt,Pdから選ばれた少なくとも1種を含む触媒である。触媒成分は酸化物,金属,複合酸化物などの形で含まれる。特にAlとNi,Zn,Ti,W,Co,Pdから選ばれた少なくとも1種との触媒が高いPFC分解性能を持つので好ましい。
【0027】
PFCの加水分解に際して触媒式反応槽に添加される水蒸気の量は、加水分解に必要とされる理論水蒸気量の2〜50倍、通常は3〜30倍が好ましい。
【0028】
PFCの加水分解温度は500〜850℃が好ましい。PFC濃度が高い場合には反応温度を高めにし、PFC濃度が1%以下の場合には反応温度を低めにするのがよい。反応温度が850℃よりも高くなると触媒が劣化しやすくなり、反応塔材料も腐食しやすくなる。反対に反応温度が500℃よりも低くなるとPFCの分解率が低下する。
【0029】
実施例1では触媒式反応槽120の下流にガス冷却装置130を設置している。本実施例のガス冷却装置130ではノズル131により水を噴霧してガス温度を所定温度に下げる。この方法の他、水冷方式あるいはガス冷却方式の一般的な熱交換器を使用してもよい。また、ガス中に圧縮空気などを導入して所定温度に制御してもよい。
【0030】
酸性ガス除去装置としては一般的な湿式及び乾式除去装置を使用することができる。湿式の例としてはスプレー塔のほか、充填塔,スクラバ,棚段型気液接触装置がある。また、乾式の例として、酸性ガス除去剤による固定層,移動層,流動層型乾式除去装置がある。また、バグフィルター方式もよい。酸性ガス除去剤としては、アルカリ金属,アルカリ土類金属の塩基性塩、例えば水酸化カルシウム,水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,水酸化マグネシウム,炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウム,炭酸カルシウム,酸化カルシウムが使用できる。
【0031】
多流量のPFCを処理する際はできるだけ線速度を大きくすることが望ましい。本実施例の酸性ガス除去装置の後段には排気設備150を設置した。線速度を大きくする為にガス流量を増やすことも可能であるが、装置内の圧力損失が大きくなる。排気設備としては一般的なエジェクタ、及びブロアが使用できるが、これ以外でも装置系内を負圧に保てるものであればどのような方法でもよい。
【0032】
触媒層を通過させるガスの線速度は2−15m/minとすることが望ましい。更に望ましくは2−10m/minとすることがよい。多流量のPFCを処理するとき、触媒層を通過するガスの線速度を2m/min以上に設定すると高い耐久性能を有する。なお、線速度を上げすぎるとレイノルズ数が大きくなり、偏流が生じる可能性がある。また、線速度を上げる為にガス量を増加させると装置系内の圧力損失が上昇するので、ガス量は維持するほうが安全な運転が容易である。
【実施例2】
【0033】
図3は本発明の他の処理装置の一例を示した図である。本処理装置は、ガス分離装置200,湿式除去装置210,触媒式反応槽220,ガス冷却装置230,酸性ガス除去装置240、及び排気設備250から構成される。PFC,SiF4、及びSO3を含有する処理対象ガスは、ガス分離装置200に送られ、処理対象ガス中のSO3が分離される。その後、SiF4及びPFCを含有する処理対象ガスは湿式除去装置210に送られ、SiF4が除去される。湿式除去装置210から排出されたPFCを含有する処理対象ガスと、ガス分離手段により分離されたSO3は、湿式除去装置の後段で混合される。その後処理対象ガスは触媒式反応槽220に送られ、被処理ガス中のPFCが分解除去される。その際、反応助剤として反応水21,空気11を供給する。PFCを分解すると、酸性ガスであるHF,SOx及びNOxが生成する。これらの成分を含む処理対象ガスはガス冷却装置230で冷却された後、酸性ガス除去装置240で酸性ガスが除去され、無害化された後に排出される。
【0034】
ガス分離手段は物理的、或いは化学的に二種以上のガスを分離できる装置であれば何でもよい。たとえば圧力変化を利用したガス分離装置である吸着型(PSA:Pressure Swing Adsorption)方式や多孔質材料を利用した分子篩い方法などが使える。その他、活性炭,ゼオライト,メソポーラスシリカのような吸着材を備えたガス吸着装置も使える。
【0035】
本実施例ではSO3,SiF4を含有するガス中からSO3を分離して湿式除去装置の後段から流入させるという例を示した。SO3を湿式除去装置の後段から流入させると湿式除去装置から同伴したガス中に含まれる水分と反応して硫酸ミストを形成し、配管、或いは後段の反応器の腐食を引き起こす可能性がある。その場合は必要に応じサイクロン,電気集塵機等のミスト除去装置を設置することが望ましい。また、本実施例では湿式除去装置の後段、触媒式反応槽の前段にSO3を流入させたが、触媒式反応槽の後段、酸性ガス除去装置の前段に流入させても良い。そうすれば酸性ガス除去装置によってSO3も除去される。
【0036】
(試験例1)
上記実施例1,2の構成は、SO3とSiF4とが結合してケイ素の流出が生じるという本願発明者らの知見に基づく。本試験例では湿式除去装置であるスプレー塔にSO3とSiF4を流通させ、スプレー塔でのSiF4除去性能を評価した結果を説明する。
【0037】
試験装置の概略図を図4に示す。本試験装置はガス(SO3,SiF4,N2)供給ライン,スプレー塔1,スプレーノズル2、及びデミスタ3から構成される。ガス供給ラインからN2100L/min,SO3100ppm,SiF42000ppmとなるように調整したガスをスプレー塔に供給する。スプレーノズル2からは水を総量6L/minで供給し、供給ガス中のSiF4、及びSO3を除去する。スプレー塔上部にはデミスタを設置し、径の大きいミスト及びスプレー塔内で生成した固形物を除去して塔外にガスを排出する。スプレー塔から排出されたガスは気体用FT−IR装置4に送られ、スプレー塔から流出したSiF4を定量した。定量分析の結果、スプレー塔から排出したSiF4濃度は140ppmとなり、スプレー塔でSiF4が完全に除去されずに流出していることが分かった。SO3ミストは径が0.4〜1.0μmと非常に微細なため、ミスト除去構造のスプレー塔でも除去できずに排出されたと考えられる。SiF4はSO3ミスト中のH2Oだけでなく、スプレー噴霧により発生するH2Oミストにも付着すると考えられるが、スプレーノズルからのH2Oミスト径は40〜1000μmであり、SO3ミストよりも十分に大きいため、スプレー塔及び後段のデミスタ槽で十分に除去できたと推測される。
【0038】
(試験例2)
試験例2では試験例1との比較として、スプレー塔におけるSiF4除去工程でSO3が共存しない場合の結果を示す。試験装置図、及び試験条件は試験例1と同様とする。スプレー塔におけるSiF4除去反応においてSO3を供給しなかった場合は、スプレー塔出口におけるSiF4濃度は0ppmであり、完全に除去できることが分かった。
【0039】
(試験例3)
試験例3では試験例1との比較として、スプレー塔におけるSiF4除去工程で、SO3ではなく、同じSOxガスであるSO2を共存させた場合の結果を示す。SO3はミスト形成ガスであるが、SO2は水と接触してもミストを形成しない。ミスト共存の有無によるSiF4除去性能を比較した。試験装置図、及び試験条件は試験例1と同様とする。結果、SO2とSiF4を同時にスプレー塔に供給しても、出口排ガス中のSiF4濃度は0ppmであり、同じSOxガスでもミスト未形成ガスであるSO2はSiF4除去性能に影響を与えないことが分かった。
【0040】
(試験例4)
本試験例4ではSiF4,SO3共存ガスをアルカリ薬剤に通気させ、いずれか、又は両ガスがアルカリ薬剤によって除去できるかどうかを評価した結果である。試験方法としては、固定層式反応管に薬剤を充填し、SiF4,SO3ガスを薬剤層に通気し、出口ガス中のSiF4ガス濃度を測定した。供給ガス組成は、N210L/min,SiF41000ppm,SO3100ppmとした。試験はまず、SiF4のみを薬剤に供給し、その後SO3も供給して、SiF4のみの場合と、SiF4+SO3の場合での除去性能の違いを評価した。アルカリ薬剤としてはCa(OH)2を用いた。
【0041】
図5に本試験例4の試験結果を示す。Ca(OH)2にSiF4のみを供給した場合は、薬剤通過ガス中のSiF4濃度は1ppm以下であったが、SO3を供給すると20〜60ppmのSiF4が検出された。これは、式(1),(2)のCaCO3の反応におけるギブスエネルギーと同様にCa(OH)2でもSiF4との反応よりもSO3との反応の方がギブスエネルギーが小さいため、SO3との反応が優先的に進行するため、SiF4が反応せずに薬剤を通過したものと推測される。本試験例4の結果から、薬剤設置のみの乾式除去方式ではSiF4とSO3が同時に存在下の場合、SiF4の除去性能が低下することが考えられる、したがって、SO3とSiF4がガス中に共存する場合は、乾式除去工程の後段に湿式除去工程を設置する等の複合策が必須となる。
【0042】
(試験例5)
本試験例ではCa化合物による乾式除去とスプレー塔による湿式除去を組み合わせた系で、SiF4,SO3共存状態におけるSiF4除去性能を評価した結果である。試験装置の構成を図6に示す。装置の概要、及び試験条件は試験例1と同様で、スプレー塔前段に固定層式乾式除去装置5を設置した。乾式除去装置5に充填する薬剤としてはCa(OH)2,CaCO3,CaOを選定した。各薬剤はいずれも2〜4mmの粒径に整粒したものを使用した。
【0043】
図7に本実施例の試験結果を示す。スプレー塔前段にCa化合物を設置しない場合は平均約140ppmのSiF4がスプレー塔出口ガスから検出された。Ca化合物を設置するといずれのCa化合物を設置した条件でも薬剤設置無しの条件よりもスプレー塔出口ガス中のSiF4検出濃度は低下していた。中でもCa(OH)2を設置した場合はSiF4検出濃度は1ppm以下となり、もっとも高い性能を示すことが分かった。
【0044】
本試験例では乾式除去装置にCa化合物を充填した場合の例であるが、他のアルカリ系化合物でも良い。アルカリ化合物を乾式除去装置に充填すると、SiF4,SO3を始めとするエッチング排ガス中の酸性ガスと反応し、中和熱を発する。そこで、本試験例のようなシステムを適用する際は、乾式除去装置にチラー等の熱交換器を備え付けるシステムにすることが望ましい。
【0045】
(試験例6)
本試験例は試験例5との比較として、湿式除去装置であるスプレー塔の後段に乾式除去装置を備えて、SiF4,SO3共存状態におけるSiF4除去性能を評価した結果である。試験装置の構成を図8に示す。装置の概要、及び試験条件は試験例1と同様で、スプレー塔後段に固定層式乾式除去装置5を設置した。乾式除去装置5に充填する薬剤としては試験例5で効果のあったCa(OH)2を選定した。
【0046】
図9に本試験例の試験結果を示す。スプレー塔前段にCa(OH)2を設置した場合(試験例5)ではスプレー塔出口におけるSiF4検出量は1ppm以下であったのに対し、スプレー塔後段に設置した場合には、薬剤充填なしの条件と同等のSiF4が検出された。したがって、ミストに付着した状態でCa(OH)2に接触してもSiF4の吸収は起こらないことが判った。ミストに付着する前、つまり湿式除去装置の前段でSO3とSiF4を分離する必要がある。
【0047】
(試験例7)
本試験例では、湿式除去装置であるスプレー塔の上部にミスト除去装置として電気集塵式ミスト除去装置6を設置してスプレー塔内で生成したSiF4付着SO3ミストの除去効果を評価した結果である。試験装置図を図10に示す。装置の概要、及び試験条件は試験例1と同様である。電気集塵式ミスト除去装置6の後段で気体用FT−IRによりガス中のSiF4濃度を測定した結果、SiF4濃度は1ppm以下となり、SiF4除去率99.9%が得られることを確認した。
【実施例3】
【0048】
本実施例はミスト除去装置を備えたシステム構成の一例である。システム構成図を図11に示す。本システムはスプレー式湿式除去装置310,フィルター式ミスト除去装置320,触媒式反応槽330,ガス冷却装置340,スプレー式酸性ガス除去装置350、及び排ガス吸引装置360から構成される。PFC含有ガス10,SiF4、及びSO3が湿式除去装置310に流入するとSO3ミストが生成し、SiF4がミストに付着して湿式除去装置310から排出する。SiF4が付着したSO3ミストはフィルター式ミスト除去装置320に送られてミストがフィルターに吸着除去される。SO3ミストがフィルターで吸着除去されたガスは触媒式反応槽330に送られて被処理ガス中のPFCが分解除去される。その際、反応助剤として反応水21,空気11を供給する。PFCを分解すると、酸性ガスのHF,SOx及びNOxが生成する。これらのガスはガス冷却装置340で冷却された後、酸性ガスが酸性ガス除去装置350で除去され、無害化された後排出される。
【0049】
フィルター式ミスト除去装置は二段以上で設置することが望ましい。通常使用時は一段のみ使用し、経時に伴い、フィルターの目穴が閉塞し、系内差圧が上昇してきたら他方の装置にバルブ30によって切り替える。
【0050】
フィルター式ミスト除去装置はヒーター機能が搭載されたものが望ましい。フィルターの目穴に詰まったミストを、熱をかけることによって除去しやすくするためである。また、その際、圧縮空気等で通気させながらミストを除去することが望ましい。図11に記載のようにバルブ31によって圧縮空気を送り込む装置を変えられるようにしておき、ミスト除去装置の後段にもバルブ32を設置し、系内とバイパスとを切り替えられるようにしておくことが望ましい。
【0051】
ミスト除去装置後段のバルブ32はバイパスラインと繋いでも良いが、酸性ガス除去装置350に流入するようなシステムにすることが更に好ましい。そうすれば、フィルターに付着したSiF4やSO3等の酸性ガスが系外に漏れることなく除去できるからである。
【0052】
(試験例8)
湿式除去装置内にSO3とSiF4が流入し、SiF4がSO3ミストに付着した場合、SO3ミストに熱等のエネルギーを加えることにより、容易にSiF4はSO3ミストから脱着すると考えられる。SiF4はSO3ミスト中のH2Oに結合力の弱い水素結合で付着しているためである。本試験例では図4に示すスプレー式湿式除去装置でノズルから供給する水の温度を90℃に設定して、SiF4の除去性能を評価した。結果、ノズルからの供給水温度が常温(20℃)の場合に比べてSiF4除去性能は60%となり、温水噴霧の効果が確認された。
【0053】
(試験例9)
本試験例では、触媒反応槽前段において前処理工程で除去できなかったSiF4を除去するためにケイ素化合物捕捉材を設置した例である。SiF4をPFC分解触媒を充填した反応管に流入させ、ケイ素化合物捕捉剤をPFC分解触媒の上部に設置し、共存ガス中のPFCの分解率を測定した。試験装置の構成を図12に示す。
【0054】
N2,Air,SiF4及びPFCとしてCF4をマスフローコントローラーで調節して反応管40に供給した。供給量は、CF4を約0.48vol%とし、AirはO2濃度が約2.12vol%となるようにした。SiF4はSi濃度として2000mg/m3となるように調節して供給した。また、純水を反応管40の上部へマイクロチューブポンプ51を用いてCF4加水分解反応当量比の25倍となるように供給した。この反応ガスをPFC分解触媒44と空間速度1230毎時で接触させた。反応管40は電気炉41により捕捉材45,PFC分解触媒44が約700℃となるように加熱した。反応管40は内径32mmのインコネル製である。Si捕捉剤45としては粒径1.0−3.0mmの粒状活性アルミナを用いた。また、充填量はPFC分解触媒充填量の25%とした。PFC分解触媒によって分解されたガス中にはフッ化水素が含まれるため、水800mlを入れた排ガス洗浄槽60によってフッ化水素を除去したのち、ミストキャッチャ70を通過させてミスト分を除去した。ミストキャッチャ70の後段にガス採取口80を設け、排ガスの一部を採取し、排ガス中のCF4量を測定した。CF4の分解率はTCDガスクロマトグラフにより次式で求めた。
【0055】
分解率(%)=1−(出口のCF4量/供給したCF4量))×100
5時間連続通気した後のCF4分解率は90.75%であった。また、試験後の珪素化合物捕捉材に含有するSi量を分析したところ、捕捉材に流入Si量の約70%が付着しており、Si捕捉材の設置効果が確認された。
【0056】
Si捕捉材としては、高比表面積を有し、高加水分解性能を有するものがよい。高比表面積を有する材料としてはアルミナ,シリカ,カーボンなどがある。アルミナのうち、活性アルミナであるγ形態のものは、高比表面積を有し、他成分との混合により、高加水分解性能を持つ為、極めて好適な材料である。活性アルミナに混合する他成分としては、捕捉材の固体酸性質を向上させるものがよく、例えばジルコニウム,コバルト,鉄,チタン,ニッケル,セリウム,スズ,銅,マグネシウム,タングステンなどがある。これらのうち、少なくとも1種をアルミナと混合したものを捕捉材として推奨する。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明により、半導体や液晶工場でのエッチング排ガス中のミスト形成ガスとミスト付着ガスを効率良く除去することができ、触媒の被毒を抑制し、触媒の延命化を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の処理方法の一例を示すシステムフロー図である。
【図2】本発明の処理装置の一例を示すシステム構成図である。
【図3】本発明の処理装置の一例を示すシステム構成図である。
【図4】(試験例1)に使用した試験装置図である。
【図5】(試験例4)の試験結果である。
【図6】(試験例5)に使用した試験装置図である。
【図7】(試験例5)の試験結果である。
【図8】(試験例6)に使用した試験装置図である。
【図9】(試験例6)の試験結果である。
【図10】(試験例7)に使用した試験装置図である。
【図11】本発明の処理装置の一例を示すシステム構成図である。
【図12】(試験例8)に使用した試験装置図である。
【図13】SiF4が付着した硫酸ミストの図である。
【符号の説明】
【0059】
1 スプレー塔
2,111 スプレーノズル
3 デミスタ
4 気体用FT−IR
100 乾式除去装置
110 湿式除去装置
121,321 電気炉
123 PFC分解触媒
140 酸性ガス除去装置
150 排気設備
240 バグフィルター式酸性ガス除去装置
320 フィルター式ミスト除去装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素化合物を含有する排ガスを処理する排ガス処理装置であって、
被処理ガス中のミスト形成ガスとミスト付着ガスとを分離するガス分離手段と、前記ガス分離手段を通過した被処理ガスに含まれる酸性ガスまたはケイ素化合物の少なくともいずれかを除去する湿式除去装置と、湿式除去装置を通過した被処理ガスに含まれるフッ素化合物を分解する触媒を備えたフッ素化合物分解装置とを有することを特徴とする排ガス処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載された排ガス処理装置であって、前記ガス分離手段は、酸性ガスの除去材を備えた乾式除去装置であることを特徴とする排ガス処理装置。
【請求項3】
請求項2記載の排ガス処理装置であって、
前記乾式除去装置は、アルカリ金属,アルカリ土類金属を含有する化合物,活性炭,ゼオライト,メソポーラスシリカのいずれかを有することを特徴とする排ガス処理装置。
【請求項4】
請求項1に記載された排ガス処理装置であって、前記ガス分離手段で分離されたガスを湿式除去装置の後段で前記被処理ガスに混入させることを特徴とする排ガス処理装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載された排ガス処理装置であって、
前記フッ素化合物分解装置を通過した被処理ガスを冷却する冷却装置と、前記冷却された被処理ガスより、被処理ガス中の酸性ガスを除去する酸性ガス除去装置を有することを特徴とする排ガス処理装置。
【請求項6】
請求項5に記載された排ガス処理装置であって、前記ガス分離手段で分離されたガスは、前記湿式除去装置の後段で前記フッ素化合物分解装置の前段、または、前記フッ素化合物分解装置の後段で前記酸性ガス除去装置の前段で前記被処理ガスに混入させることを特徴とする排ガス処理装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載された排ガス処理装置であって、
前記ガス分離手段は、SO3又はSiF4のいずれかを被処理ガスより分離する手段であることを特徴とする排ガス処理装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載された排ガス処理装置であって、
前記フッ素化合物分解装置の前段には、ケイ素化合物捕捉材を設けたことを特徴とする排ガス処理装置。
【請求項9】
フッ素化合物を含有する排ガスを処理する排ガス処理装置であって、
被処理ガスに含まれる酸性ガスまたはケイ素化合物の少なくともいずれかを除去する湿式除去装置と、前記湿式除去装置を通過した被処理ガスに含まれるミストを除去するミスト除去装置と、前記ミスト除去装置を通過した被処理ガスに含まれるフッ素化合物を分解する触媒を備えたフッ素化合物分解装置とを有することを特徴とする排ガス処理装置。
【請求項10】
フッ素化合物を含有する排ガスを処理する排ガス処理装置であって、
被処理ガスに含まれる酸性ガスまたはケイ素化合物の少なくともいずれかを除去する湿式除去装置と、前記湿式除去装置を通過した被処理ガスに含まれるミストを除去するミスト除去装置と、前記ミスト除去装置を通過した被処理ガスに含まれるフッ素化合物を分解する触媒を備えたフッ素化合物分解装置とを有し、前記湿式除去装置はSiF4とSO3との結合を解離させる手段を備えたことを特徴とする排ガス処理装置。
【請求項11】
請求項10に記載された排ガス処理装置であって、前記解離させる手段は温水を供給する手段であることを特徴とする排ガス処理装置。
【請求項12】
少なくともSiF4とSO3とフッ素化合物とを含有する排ガスの処理方法であって、SiF4とSO3とのいずれかを被処理ガスより分離するガス分離工程と、前記ガスが分離された被処理ガスと水とを接触させる湿式除去工程と、被処理ガスに含まれるフッ素化合物を触媒により分解するフッ素化合物分解工程とを有することを特徴とする排ガスの処理方法。
【請求項13】
請求項14に記載された排ガスの処理方法であって、前記湿式除去工程の後に、前記分離されたSiF4とSO3とのいずれかのガスを被処理ガスに混合する工程を有することを特徴とする排ガスの処理方法。
【請求項14】
請求項12または13に記載された排ガスの処理方法であって、
前記フッ素化合物分解工程の後段に、被処理ガスを冷却する冷却工程と、被処理ガス中の酸性ガスを除去する酸性ガス除去工程とを有することを特徴とする排ガスの処理方法。
【請求項1】
フッ素化合物を含有する排ガスを処理する排ガス処理装置であって、
被処理ガス中のミスト形成ガスとミスト付着ガスとを分離するガス分離手段と、前記ガス分離手段を通過した被処理ガスに含まれる酸性ガスまたはケイ素化合物の少なくともいずれかを除去する湿式除去装置と、湿式除去装置を通過した被処理ガスに含まれるフッ素化合物を分解する触媒を備えたフッ素化合物分解装置とを有することを特徴とする排ガス処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載された排ガス処理装置であって、前記ガス分離手段は、酸性ガスの除去材を備えた乾式除去装置であることを特徴とする排ガス処理装置。
【請求項3】
請求項2記載の排ガス処理装置であって、
前記乾式除去装置は、アルカリ金属,アルカリ土類金属を含有する化合物,活性炭,ゼオライト,メソポーラスシリカのいずれかを有することを特徴とする排ガス処理装置。
【請求項4】
請求項1に記載された排ガス処理装置であって、前記ガス分離手段で分離されたガスを湿式除去装置の後段で前記被処理ガスに混入させることを特徴とする排ガス処理装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載された排ガス処理装置であって、
前記フッ素化合物分解装置を通過した被処理ガスを冷却する冷却装置と、前記冷却された被処理ガスより、被処理ガス中の酸性ガスを除去する酸性ガス除去装置を有することを特徴とする排ガス処理装置。
【請求項6】
請求項5に記載された排ガス処理装置であって、前記ガス分離手段で分離されたガスは、前記湿式除去装置の後段で前記フッ素化合物分解装置の前段、または、前記フッ素化合物分解装置の後段で前記酸性ガス除去装置の前段で前記被処理ガスに混入させることを特徴とする排ガス処理装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載された排ガス処理装置であって、
前記ガス分離手段は、SO3又はSiF4のいずれかを被処理ガスより分離する手段であることを特徴とする排ガス処理装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載された排ガス処理装置であって、
前記フッ素化合物分解装置の前段には、ケイ素化合物捕捉材を設けたことを特徴とする排ガス処理装置。
【請求項9】
フッ素化合物を含有する排ガスを処理する排ガス処理装置であって、
被処理ガスに含まれる酸性ガスまたはケイ素化合物の少なくともいずれかを除去する湿式除去装置と、前記湿式除去装置を通過した被処理ガスに含まれるミストを除去するミスト除去装置と、前記ミスト除去装置を通過した被処理ガスに含まれるフッ素化合物を分解する触媒を備えたフッ素化合物分解装置とを有することを特徴とする排ガス処理装置。
【請求項10】
フッ素化合物を含有する排ガスを処理する排ガス処理装置であって、
被処理ガスに含まれる酸性ガスまたはケイ素化合物の少なくともいずれかを除去する湿式除去装置と、前記湿式除去装置を通過した被処理ガスに含まれるミストを除去するミスト除去装置と、前記ミスト除去装置を通過した被処理ガスに含まれるフッ素化合物を分解する触媒を備えたフッ素化合物分解装置とを有し、前記湿式除去装置はSiF4とSO3との結合を解離させる手段を備えたことを特徴とする排ガス処理装置。
【請求項11】
請求項10に記載された排ガス処理装置であって、前記解離させる手段は温水を供給する手段であることを特徴とする排ガス処理装置。
【請求項12】
少なくともSiF4とSO3とフッ素化合物とを含有する排ガスの処理方法であって、SiF4とSO3とのいずれかを被処理ガスより分離するガス分離工程と、前記ガスが分離された被処理ガスと水とを接触させる湿式除去工程と、被処理ガスに含まれるフッ素化合物を触媒により分解するフッ素化合物分解工程とを有することを特徴とする排ガスの処理方法。
【請求項13】
請求項14に記載された排ガスの処理方法であって、前記湿式除去工程の後に、前記分離されたSiF4とSO3とのいずれかのガスを被処理ガスに混合する工程を有することを特徴とする排ガスの処理方法。
【請求項14】
請求項12または13に記載された排ガスの処理方法であって、
前記フッ素化合物分解工程の後段に、被処理ガスを冷却する冷却工程と、被処理ガス中の酸性ガスを除去する酸性ガス除去工程とを有することを特徴とする排ガスの処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−136815(P2009−136815A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−317829(P2007−317829)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】
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