説明

排ガス浄化システム

【課題】酸化触媒の上流側の排ガスに未燃燃料を添加することによりDPFを再生することを前提として、DPF内の温度ムラが起因したDPFのクラックの発生を抑制することができる排ガス浄化システムを提供する。
【解決手段】排ガスに未燃燃料を添加する燃料添加装置13と、燃料添加装置13の下流に配置され、前記排ガスを浄化する酸化触媒15と、酸化触媒15の下流に配置され、粒子状物質を捕獲するDPF17とを備えた排ガス浄化システム1であって、排ガス浄化システム1は、未燃燃料を添加したときの前記排ガス中に含まれるHCが前記酸化触媒をすり抜けるHCすり抜け量に基づいて、前記燃料添加装置の未燃燃料添加を休止することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関等の排ガスを浄化するシステムに係り、特に、排ガスに未燃燃料を添加することにより、DPFで捕獲された粒子状物質を未燃燃料と共に燃焼させて、DPFを好適に再生することができる排ガス浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃費の向上と二酸化炭素排出量の削減の効果を有するために、リーンバーンエンジンが広く普及している。その代表的なものとして、ディーゼルエンジンがある。このようなディーゼルエンジンの排気系には、排ガス浄化システムとして、燃焼室から排出される排ガスを浄化すべく、排ガスの流れ方向に酸化触媒およびDPF(パティキュレートフィルタ)が、順次配列されている。
【0003】
酸化触媒は、排ガス中の少なくとも酸化炭素(CO)と炭化水素(HC)を酸化して無害化する触媒であり、DPFは、ディーゼルエンジンの排ガスに含まれる粒子状物質(PM)を捕獲して、排ガス内のPMを減少させるフィルタである。
【0004】
そして、このような、酸化触媒およびDPFのそれぞれの上流側に、ヒータを備えた排ガス浄化システムが提案されている(例えば特許文献1参照)。これにより、酸化触媒に流入する排ガス温度及びDPFに流入する排ガス温度を個別に制御することができると共に、DPFの温度をある一定の温度以上に維持することができるので、DPFの再生を可能にすると共に、DPFの熱衝撃を緩和してDPFの破損を防止することができる。
【0005】
また、別の浄化システムとして、酸化触媒の上流側の排ガスに未燃燃料を添加し、酸化触媒において、未燃燃料を燃焼させる(酸化する)ことにより酸化触媒内において排ガスを昇温するとともに、昇温された排ガスをDPF内に導入することにより捕獲された粒子状物質を燃焼し、DPFの再生を行う排ガス浄化システムが提案されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−61236号公報
【特許文献2】特開2007−198283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2の如く、酸化触媒の上流側の排ガスに未燃燃料を添加することによりDPFの再生を行った場合には、DPF内の内部発熱により、DPFの表面と内部との温度分布、あるいはDPFの上流側と下流側の温度分布にムラが生じることがある。この温度分布のムラが熱応力となって、DPFに繰り返し作用し、その結果、DPFにクラックが発生することがあった。
【0008】
このような場合、例えば特許文献1の如く、DPFの上流にヒータを設けて、排ガス温度を管理したとしても、DPFの表面と内部との温度ムラを抑制することは難しく、DPFのクラックの発生を回避することができない場合があった。
【0009】
本発明は、このような点を鑑みて、その目的とするところは、酸化触媒の上流側の排ガスに未燃燃料を添加することによりDPFを再生することを前提として、DPF内の温度ムラに起因したDPFのクラックの発生を抑制することができる排ガス浄化システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、発明者らが、鋭意検討を重ねた結果、DPFの表面と内部とに発生する温度分布のムラは、排ガスに添加された未燃燃料の一部が酸化触媒内で燃焼せず(酸化せず)にすり抜けることに起因すると考えた。具体的には、酸化触媒をすり抜けた未燃燃料のHCがDPF内部で酸化され、これによりDPFが発熱することで、DPFの表面と内部とに発生する温度分布のムラが発生するとの新たな知見を得た。
【0011】
本発明は、発明者らの前記新たな知見によるものであり、本発明に係る排ガス浄化システムは、排ガスに未燃燃料を添加する燃料添加装置と、該燃料添加装置の下流に配置され、前記排ガスを浄化する酸化触媒と、該酸化触媒の下流に配置され、粒子状物質を捕獲するDPFとを備え、前記燃料添加装置からの未燃燃料を排ガスに添加することにより、前記酸化触媒内において未燃燃料を燃焼させて、前記排ガスの温度を昇温し、該昇温した排ガスにより前記DPFの内部に捕獲された前記粒子状物質を燃焼させて、前記DPFを再生させる排ガス浄化システムであって、前記排ガス浄化システムは、前記未燃燃料を添加したときの前記排ガス中に含まれるHCが前記酸化触媒をすり抜けるHCすり抜け量に基づいて、前記燃料添加装置の未燃燃料添加を休止することを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、燃料添加装置からの未燃燃料を排ガスに添加することにより、酸化触媒内において未燃燃料を燃焼させる。これにより、酸化触媒内において、排ガスの温度が昇温し、昇温した排ガスによりDPFの内部に捕獲された粒子状物質を燃焼させる。このようにして、DPF内部の粒子状物質により目詰まりからDPFを再生させることができる。
【0013】
ここで、本発明では、燃料添加装置から未燃燃料を添加したときの排ガス中に含まれるHCが酸化触媒をすり抜けるHCすり抜け量に基づいて、燃料添加装置の未燃燃料添加を休止する。すなわち、HCすり抜け量が多い場合には、酸化触媒をすり抜けたHCが起因となって、DPFの内部の発熱量が増大し、DPFの表面と内部に、DPFにクラックが発生する程度の温度ムラが生じるところ、このような場合には、燃料添加装置からの未燃燃料の添加を休止するので、DPFの温度ムラを抑制することができる。
【0014】
このようなHCすり抜け量は、酸化触媒とDPFとの間で直接的に、排ガスに含まれるHCの含有量を測定してもよい。しかしながら、より好ましくは、前記HCすり抜け量を、前記DPFに流入する排ガスの温度と、前記DPFの内部温度との温度差に基づいて推定し、該温度差に基づいて前記未燃燃料添加の休止を行う。
【0015】
本発明によれば、前記DPFに流入する排ガスの温度と、前記DPFの内部温度との温度差に基づいて、クラックの起因となるHCすり抜け量を推定できるので、クラックが発生する温度ムラが発生する前に、未燃燃料添加を休止できる。
【0016】
さらに好ましい態様としては、前記酸化触媒は、前記HCを吸着するためHC吸着材を含む。この態様によれば、酸化触媒をすり抜けるHCを、HC吸着材で吸着することができるので、酸化触媒からのHCのすり抜けを抑制することができる。これにより、燃料添加装置からの未燃燃料添加時間を延長することができる(未燃燃料添加の休止時間を短縮することができる)。このような結果、DPFを目標温度までより速く昇温させ、DPFの再生時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、酸化触媒の上流側の排ガスに未燃燃料を添加することによりDPFを再生することを前提として、DPF内の温度ムラが起因したDPFのクラックの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る本実施形態に係る排ガス浄化システムの模式的概念図。
【図2】図1に示す排ガス浄化システムが行うフローチャートを示した図。
【図3】図1に示す排ガス浄化システムにおいて、DPFの再生を行う際のDPF内部温度(DPF床温)を示したタイミングチャート。
【図4】図1に示す排ガス浄化システムにおいて、DPFの再生を行う際のHC吸着材の有無によるHCすり抜け量を示したタイミングチャート。
【図5】図4に示すHC吸着材の有無によるDPFの再生を行う際のDPF内部温度(DPF床温)を示したタイミングチャート。
【図6】参考例1〜3に係る酸化触媒のHCすり抜け挙動を示したタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下の本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明に係る本実施形態に係る排ガス浄化システムの模式的概念図である。
【0020】
図1に示すように、本実施形態に係る排ガス浄化システム1は、ディーゼルエンジン(図示せず)の排ガスを浄化するためのシステムである。具体的には、排気管11に配置された燃料添加装置13と、燃料添加装置13の下流に配置され、排気管11に接続された金属製の筒体12とを備えており、筒体12の内部には、酸化触媒15と、酸化触媒15の下流に配置されたDPF17とを備えている。また、酸化触媒15とDPF17との間には、上流側温度計16が配置されており、さらにDPF17の下流には下流側温度計19が配置されている。
【0021】
ここで、燃料添加装置13は、排ガスに未燃燃料を添加する装置であり、いわゆる燃料噴射弁と同じ構成である。燃料添加装置13は、未燃燃料ポンプ(図示ぜず)に接続されており、コントローラ20からの制御信号により開弁し、ディーゼルエンジンから排出された排ガスに未燃燃料を噴射する。
【0022】
酸化触媒15は、排ガス中の少なくとも酸化炭素(CO)と炭化水素(HC)を酸化して無害化する触媒であり、本実施形態では、アルミナ(Al)に白金/パラジウムを担持した触媒であり、触媒の表層には、例えば、SiO/Alからなるベータゼオライト(BEA)がコーティングされている。このベータゼオライトは、HCを吸着する吸着材となる。なお、HCを吸着することができるのであれば、ことなる成分のベータゼオライトを二層構造にしてコーティングされていてもよい。
【0023】
さらに、DPF17は、セラミックからなるフィルタであり、ディーゼルエンジンの排ガスに含まれる粒子状物質(PM)を捕獲して、排ガス内のPMを減少させる一般的に知られたフィルタである。
【0024】
このような排ガス浄化システムは、コントローラ20を備えており、コントローラ20は、上述した、上流側温度計16と下流側温度計19の温度信号が入力されるように、これらの温度計16,17に接続され、燃料添加装置13に未燃燃料の添加およびその添加休止がされるように制御信号を出力すべく、燃料添加装置13に接続されている。
【0025】
コントローラ20は、ハードウエアとしてCPUなどの演算装置、RAM、ROM等の記憶装置を基本構成とするものであり、ECUそのものの構成であってもよい。これらのハードウエアの構成により、CPU内で、温度信号およびその内部において、これらの温度信号から、酸化触媒15をすり抜けたHCのすり抜け量を推定し、燃料添加装置13に未燃燃料の添加およびその添加の休止のための制御信号を出力する。
【0026】
コントローラ20は、流入温度推定手段21と、床温推定手段22と、HCすり抜け量推定手段23と、燃料添加判定手段24と、燃料添加実行手段25とを備えており、本発明では、通常の未燃燃料の添加の制御に加え、未燃燃料を添加したときの排ガス中に含まれるHCが酸化触媒をすり抜けるHCすり抜け量に基づいて、前記燃料添加装置の未燃燃料の添加を休止する。
【0027】
流入温度推定手段21は、上流側温度計16からの温度信号に基づいて、DPF17に流れ込む排ガス温度を推定する。床温推定手段22は、上流側温度計16と下流側温度計19の温度信号、DPF17を通過する排ガス流量等に基づいて、DPF17内部(中心)の温度(以下DPF床温度という)を推定する。ここでは、上述した温度信号と排ガス流量等から、一般的に知られた方法でDPF床温を推定しているが、特にこの方法に限定されるものではなく、DPF床温を推定する必要はなく、たとえば、直接的にDPF床温の温度を測定してもよい。
【0028】
HCすり抜け量推定手段23は、流入温度推定手段21により推定されたDPF17に流れ込む排ガス温度と、床温推定手段22により推定されたDPF床温との温度差から、酸化触媒15からすり抜けたHCの量(酸化触媒15の下流の排ガスに含まれるHC濃度)を推定する。すなわち、DPF17には、Ptおよび/またはPdが担持されたアルミナなどの酸化物がコートされており、燃料添加装置13により未燃燃料を添加したときに、酸化触媒15をすり抜けた排ガス中のHCの量に応じて、HCが燃焼(酸化)し、DPF内部で発熱する。したがって、DPF17に流れ込む排ガス温度と、DPF床温とから、HCすり抜け量を推定することができる。なお、本実施形態では、上述した温度差から、HCすり抜け量を推定しているが、直接的に、上流側温度計16の位置において、HC濃度測定センサ等を用いて、HCすり抜け量推定手段23により、HCすり抜け量を測定してもよい。
【0029】
燃料添加判定手段24は、運転条件等が入力され、この運転条件からDPFの再生を判断し、燃料の添加を判定する手段である。また、HCすり抜け量推定手段23によりすり抜けたHCの量に基づいて、燃料添加判定手段24は、未燃燃料を排ガスに添加している燃料添加装置13が未燃燃料の添加を休止すべきか否かも、判定する。
【0030】
具体的には、燃料添加判定手段24は、HCすり抜け量リミットを設定し、推定したHCすり抜け量よりも推定したHCすり抜け量が少ない場合には、その他の運転条件(具体的には、一般的に知られたDPFを再生するための条件)等を加味して、燃料添加装置13による未燃燃料の添加を判定する。一方、未燃燃料の添加時に、推定したHCすり抜け量が多い場合には、未燃燃料添加の休止(禁止)を判断する。
【0031】
燃料添加実行手段25は、燃料添加判定手段24の結果に基づいて、未燃燃料を添加すると判定したときは、燃料添加装置13へ未燃燃料を添加する制御信号(開弁信号)を出力し、未燃燃料の添加を休止すると判定した場合には、燃料添加装置13への未燃燃料を添加する制御信号(開弁信号)を出力しない(出力を停止する)。
【0032】
図2は、図1に示す排ガス浄化システムが行うフローチャートを示した図であり、以下に図1に示す排ガス浄化システム1が実行するフローを説明する。図3は、図1に示す排ガス浄化システムにおいて、DPFの再生を行う際のDPF内部温度(DPF床温)を示したタイミングチャートである。
【0033】
まず、S201において、DPF再生を開始する。具体的には、DPF17の再生は、燃料添加装置13からの未燃燃料を排ガスに添加することにより、酸化触媒15内において未燃燃料を燃焼させて、排ガスの温度を昇温し、昇温した排ガスによりDPF17の内部に捕獲された粒子状物質(PM)を燃焼させる制御である。
【0034】
そして、このDPF17を再生するにあたっては、上述した燃料添加判定手段24で、車両の運転条件などから、一般的に知られた再生条件で、その再生の開始(未燃燃料の添加)を判定するものであり、例えば、DPF17を流れる排ガスの圧損、酸化触媒の上流の温度などを計測することにより、DPF内で捕獲されたPMによる目詰りの状態に応じて行うものである。
【0035】
次に、S202では、燃料添加判定手段24の判定結果により、燃料添加実行手段25が、燃料添加装置13に、排ガスに対して燃料を添加させる制御信号を出力する。これにより、燃料添加装置13は開弁し、排ガスに燃料を添加する。
【0036】
次に、S203で、DPF床温、排ガス温度を測定する。具体的には、上流側温度計16と下流側温度計19の温度信号により、流入温度推定手段21によりDPF17に流れ込む排ガス温度を推定(測定)し、床温推定手段22によりDPF床温を推定(測定)する。
【0037】
ここでは、S202で未燃燃料を添加しており、酸化触媒15を添加した未燃燃料のHCがすり抜けている場合には、DPF床温のほうが、DPF17に流れ込む排ガス温度よりも上昇する。
【0038】
次に、S204に進み、まず、HCすり抜け量推定手段23により、DPF発熱温度(すなわち、(DPF床温)−(DPFを流入する排ガス温度)で求められる温度差)を算出する。すなわち、このDPF発熱温度は、酸化触媒15をすり抜けたHCすり抜け量に応じた温度である。HCすり抜け量が多い場合には、DPF発熱量が高くなり、一方、HCすり抜け量が少ない場合には、DPF発熱量が低くなる。
【0039】
そして、燃料添加判定手段24により、未燃燃料の添加を継続するか、未燃燃料の添加を休止するかを判定する。具体的には、DPF発熱温度が、DPF発熱温度以上である場合、または、DPF床温がDPF床温リミット以上である場合には、未燃燃料の添加を休止すると判定する。DPF床温リミットは、表面と内部の温度差によりDPFにクラックが発生する発熱温度よりもやや低い値である。また、DPF床温リミットは、DPFが熱より破損する温度よりもやや低い値である。
【0040】
なお、ここでは、HCすり抜け量を間接的に発熱温度から推定したが、直接HCすり抜け量を測定する場合には、HCすり抜け量がHCすり抜け量リミット以上であるときに、添加燃料を休止すると判断してもよい。HCすり抜け量リミットは、このHCすり抜け量リミットのHCがDPFに導入されたときに、DPF床温リミットまでDPFが発熱するようなHCすり抜け量である。
【0041】
そして、DPF発熱温度≧DPF発熱温度リミット、または、DPF床温≧DPF床温リミットの条件を満たしたときは、酸化触媒15をすり抜けるHCすり抜け量が多い(内部発熱によりDPFにクラックが発生するおそれのあるHCすり抜け量である)、または、DPFが熱により破損すると判断し、燃料添加判定手段24により未燃燃料を休止すると判断し、これにより、燃料添加実行手段25からの制御信号の出力を禁止(停止)する。
【0042】
次に、S206に進み、S203と同様に、DPFの床温を測定する。このとき、S205で未燃燃料の添加を休止しているので、DPF床温は低下している。次に、S207に進み、燃料添加判定手段24により、DPF床温がDPF目標床温以上であるかを判定する。このDPF目標床温は、DPFが再生可能なDPFの内部温度である。したがって、DPF床温≧DPF目標床温の条件が成立している場合には、S208に進む。
【0043】
S208では、この目標温度到達積算時間を加算する。具体的には、目標温度到達積算時間とは、DPF目標床温以上にDPF床温がなった時間を積算した時間である。そして、S209で、加算した目標温度到達積算時間が、DPF再生要求時間以上であるかを判定する。目標温度到達積算時間≧DPF再生要求時間である場合には、DPFは再生できていると判断し、S210に進み、未燃燃料の添加を休止し、DPF再生を終了する。
【0044】
一方、S207において、DPF床温≧DPF目標床温の条件を満たしていない、または、S209において、目標温度到達時間≧DPF再生要求温度を満たしてない場合には、S211に進む。
【0045】
ステップ211では、DPF発熱温度<DPF発熱温度リミット、および、DPF床温<DPF目標床温の条件を満たしているかを判定する。ここで、この2つの条件を満たしていない場合、すなわち、DPF発熱温度≧DPF発熱温度リミットまたはDPF床温≧DPF目標床温となっている場合、未燃燃料の添加からDPF発熱までの時間ラグが発生した、または、エンジンの運転条件等により未燃燃料を休止した状態で排ガス温度が上昇したと判断し、再度、ステップS205に戻る。
【0046】
一方、DPF発熱温度<DPF発熱温度リミット、および、DPF床温<DPF目標床温の条件を満たしている場合には、S202に戻り、未燃燃料の添加を行う。
【0047】
なお、S204に戻り、HCすり抜け量推定手段23により、DPF発熱温度≧DPF発熱リミット、または、DPF床温≧DPF床温リミットを満たさない場合には、未燃燃料の添加をすべきかを判断すべく、S212〜S214までのステップを行う。
【0048】
すなわち、S212に進み、燃料添加判定手段24により、DPF床温がDPF目標床温以上であるかを判定する。このDPF目標床温は、DPFが再生可能なDPFの内部温度である。したがって、DPF床温≧DPF目標床温の条件が成立している場合には、S213に進む。
【0049】
S213では、この目標温度到達積算時間を加算する。具体的には、目標温度到達積算時間とは、DPF目標床温以上にDPF床温がなった時間を積算した時間である。そして、S214で、加算した目標温度到達積算時間が、DPF再生要求時間以上であるかを判定する。目標温度到達積算時間≧DPF再生要求時間である場合には、DPFは再生できていると判断し、S215に進み、未燃燃料の添加を休止し、DPF再生を終了する。
【0050】
一方、S212において、DPF床温≧DPF目標床温の条件を満たしていない、または、S214において、目標温度到達積算時間≧DPF再生要求温度を満たしてない場合には、DPF17の再生が十分でないと判断し、S202に戻り、未燃時間燃料の添加を行う。
【0051】
このような結果、本実施形態では、図3の実線(1)に示すように、図2のS201〜204までで進み、さらに、S205〜S211まで進み(S207でNoの判定,またはS209でNoの判定となり、さらにS211でYesの判定となったとき)、S202に戻って、再度、未燃燃料を添加し、これらのステップを、DPF床温が、目標床温リミットとなるまで、繰り返す。
【0052】
このようにして、燃料添加装置13からの未燃燃料を排ガスに添加することにより、酸化触媒15内において未燃燃料を燃焼させる。これにより、酸化触媒15内において、排ガスの温度が昇温し、昇温した排ガスによりDPF17の内部に捕獲された粒子状物質を燃焼させる。このようにして、DPF17内部の粒子状物質により目詰まりからDPF17を再生させることができる。
【0053】
そして、S204の判定により、燃料添加装置13から未燃燃料を添加したときの排ガス中に含まれるHCが酸化触媒15をすり抜けるHCすり抜け量(具体的には、DPFに流入する排ガスの温度と、前記DPFの内部温度との温度差(すなわちDPF発熱温度))に基づいて、燃料添加装置13の未燃燃料の添加を休止する。
【0054】
HCすり抜け量が多い場合(DPF発熱温度がDPF発熱温度リミット以上の場合)には、酸化触媒15をすり抜けたHCが起因となって、DPF17の内部の発熱量が増大し、DPFの表面と内部に、DPF17にクラックが発生する程度の温度ムラが生じるところ、このような場合には、燃料添加装置13からの未燃燃料の添加を休止するので、DPF17の温度ムラを抑制することができる。
【0055】
そして、図3の破線(2)の如く、DPF床温が十分高い場合には、S211でNoの判定となり、S205〜S210までの一連のステップを進み、未燃燃料の添加の休止の状態を維持して、DPF17の再生を終了する。
【0056】
一方、S204でNoの判定となり、S212〜S214までを繰り返し、S202に戻り、未燃燃料の添加を繰り返す場合には、DPF17の再生を行う場合には、DPF床温は、図3の一点鎖線(3)のように、DPF17が再生されるまで、DPF目標床温と、DPF床温リミットとの間を上下する。
【0057】
図4は、図1に示す排ガス浄化システムにおいて、DPFの再生を行う際のHC吸着材の有無によるHCすり抜け量を示したタイミングチャートである。図5は、図4に示すHC吸着材の有無による、DPFの再生を行う際のDPF内部温度(DPF床温)を示したタイミングチャートである。
【0058】
図4に示すように、本実施形態の如く酸化触媒15に上述したHC吸着材を設けた場合には、HC吸着材なしのものに比べて、DPF17の再生時において、酸化触媒15のHCすり抜け量が少ない。
【0059】
そのため、本実施形態の場合には、HCすり抜け量は、HCすり抜け量リミットに到達するまで、未燃燃料を添加することができる時間を、HC吸着材なしのものに比べて、より長くすることができる(未燃燃料の添加休止回数を低減できる)。なお、すり抜け量が低下するまでの燃料休止の時間は、HC吸着材の有無にかかわらず一定である。
【0060】
このような結果、図5に示すように、本実施形態の如く酸化触媒15に上述したHC吸着材を設けた場合には、HC吸着材なしのものに比べて、未燃燃料を添加する時間を長くすることができることから、DPF再生時に、DPF目標床温に到達する時間が短くなり、DPFの再生時間を短縮することができる。
【0061】
(参考例)
以下に、酸化触媒にHC吸着材を設けたときのHCすり抜け量を確認した。
<参考例1>
アルミナ(Al)にPt/Pdを担持した、容量1.1Lの触媒を準備して、650℃×50時間、660℃×10時間の簡易耐久を施して、参考例1の酸化触媒を得た。
【0062】
<参考例2>
参考例1と同じように酸化触媒を製作した。参考例1と相違する点は、参考例2の酸化触媒は、その表面に、HC吸着材として、ゼオライトをコーティングした点である。なお、ゼオライトは、SiO/Al=40からなるベータゼオライト(BEA)をコーティングした。
【0063】
<参考例3>
参考例1と同じように酸化触媒を製作した。参考例1と相違する点は、参考例2の酸化触媒は、その表面に、HC吸着材として以下に示すゼオライトをコーティングした点である。なお、ゼオライトは、SiO/Al=28にFeを4質量%添加したベータゼオライト(Fe−ZSM5)をコーティングして下層とし、さらに、参考例2のベータゼオライト(BEA)をコーティングして上層とした。
【0064】
なお、以下の表1には、それぞれの成分とその割合を示しており、その数値の単位はg/Lである。
【0065】
【表1】

【0066】
このような酸化触媒を、実機のディーゼルエンジンの排気管に接続した。そして、エンジン回転数2000rpm、トルク100N・m、吸入空気量52〜53g/秒、EGR開度0%、燃料噴射量32.8mm/st、排気系の燃料添加装置からの燃料添加量168.5mm/回、ターボ直下の温度350℃、触媒前端面より10mm前の位置の入温約340〜350度の条件で、ディーゼルエンジンを駆動し、参考例1〜3にかかるそれぞれの酸化触媒のHCのすり抜け量を測定した。この結果を、図6示す。
【0067】
<結果>
参考例2および3の如く、HC吸着材ありの酸化触媒は、参考例1の如く、HC吸着材なしの酸化触媒に比べて、HCすり抜け量は少なかった。このことから、HC吸着材ありの酸化触媒を用いることにより、DPF再生時の、酸化触媒からの未燃燃料のHCすり抜け量を抑制することができる。これにより、酸化触媒をすり抜けたHCに起因したDPF床温の上昇を低減でき、この結果、DPFの再生時間を短縮することができる。
【0068】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【符号の説明】
【0069】
1:排ガス浄化システム,11:排気管,12:筒体,13:燃料添加装置,15:酸化触媒,16:上流側温度計,17:DPF,19:下流側温度計,20:コントローラ,21:流入温度推定手段,22:床温推定手段,23:HCすり抜け量推定手段,24:燃料添加判定手段,25:燃料添加実行手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガスに未燃燃料を添加する燃料添加装置と、該燃料添加装置の下流に配置され、前記排ガスを浄化する酸化触媒と、該酸化触媒の下流に配置され、粒子状物質を捕獲するDPFとを備え、前記燃料添加装置からの未燃燃料を排ガスに添加することにより、前記酸化触媒内において未燃燃料を燃焼させて、前記排ガスの温度を昇温し、該昇温した排ガスにより該前記DPFの内部に捕獲された前記粒子状物質を燃焼させて、前記DPFを再生させる排ガス浄化システムであって、
前記排ガス浄化システムは、前記未燃燃料を添加したときの前記排ガス中に含まれるHCが前記酸化触媒をすり抜けるHCすり抜け量に基づいて、前記燃料添加装置の未燃燃料添加を休止することを特徴とする排ガス浄化システム。
【請求項2】
前記HCすり抜け量を、前記DPFに流入する排ガスの温度と、前記DPFの内部温度との温度差に基づいて推定し、該温度差に基づいて前記未燃燃料添加の休止を行うことを特徴とする請求項1に記載の排ガス浄化システム。
【請求項3】
前記酸化触媒は、前記HCを吸着するためHC吸着材を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の排ガス浄化システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−87760(P2013−87760A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232073(P2011−232073)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】