説明

排ガス浄化用触媒およびその製法

【課題】本発明の課題は、排ガス流れに垂直な断面におけるガス流速の分布を考慮した、さらに排ガス浄化効果の高い排ガス浄化触媒を提供することを課題とする。
【解決手段】基材に触媒層をコートしてなる排ガス浄化用触媒であって、排ガス流れに対して垂直方向の断面において、断面中心部にコートした触媒層が断面外周部にコートした触媒層よりも酸素吸放出速度が遅いことを特徴とする、排ガス浄化用触媒、ならびにその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関等からの排ガスを浄化するための排ガス浄化用触媒およびその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の排ガス浄化用触媒としては、一酸化炭素(CO)及び炭化水素(HC)の酸化と窒素酸化物(NOx)の還元とを同時に行う三元触媒が用いられている。このような触媒としては、アルミナ(Al23)等の多孔質酸化物担体に、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)等の貴金属を担持させたものが広く知られている。三元触媒の作用によってCO、HC及びNOxの3成分を同時かつ効率的に浄化するためには、自動車のエンジンに供給される空気/燃料比(空燃比A/F)を理論空燃比(ストイキ)近傍に制御することが重要である。
【0003】
しかしながら、実際の空燃比は、自動車の走行条件等によってストイキを中心にリッチ(燃料過剰雰囲気)側又はリーン(燃料希薄雰囲気)側に変動するため、排ガスの雰囲気も同様にリッチ側又はリーン側に変動する。したがって、三元触媒のみでは必ずしも高い浄化性能を確保することができない。そこで、排ガス中の酸素濃度の変動を吸収して三元触媒の排ガス浄化能力を高めるために、排ガス中の酸素濃度が高いときには酸素を吸蔵し、排ガス中の酸素濃度が低いときには酸素を放出する、いわゆる酸素吸放出能を有する材料が排ガス浄化用触媒において用いられている。
【0004】
このようなOSC材(酸素吸放出材)は、その構造、組成によって酸素吸放出速度や酸素吸放出量が異なる。そこで、雰囲気変動(A/F変動)に応じて酸素を吸蔵・放出できるように、異なる酸素吸放出速度や酸素吸放出量を有するOSC材を排気系統の上流/下流に配置するなどの工夫がなされてきた。
【0005】
例えば、特許文献1は、上流側触媒部および下流側触媒部として異なる触媒を配置し、上流側触媒部に含まれるOSC材として、ZrO/CeO質量比が1以上の複合酸化物(A/F変動に応じて酸素の吸蔵・放出するときの応答性が良好とされる)を用いることを提案している。これにより、上流触媒部でA/F変動が吸収され、上流側触媒部ならびに下流触媒部において、HC、CO及びNOxの浄化が有利に行われると述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−19537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、異なる酸素吸放出速度や酸素吸放出量を有するOSC材を排気系統の上流/下流に配置するなどの工夫がされてきた。しかしながら、さらに排ガス浄化効果の高い排ガス浄化触媒が求められている。
【0008】
本発明者は、従来技術は排ガス流れ方向に関してなされたものであるところ、排ガス流れに垂直な断面におけるガス流速の分布からの検討が十分なされていないことに着目した。本発明の課題は、排ガス流れに垂直な断面におけるガス流速の分布を考慮した、さらに排ガス浄化効果の高い排ガス浄化触媒を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明により以下の形態が提供される。
【0010】
(1)基材に触媒層をコートしてなる排ガス浄化用触媒であって、排ガス流れに対して垂直方向の断面において、断面中心部にコートした触媒層が断面外周部にコートした触媒層よりも酸素吸放出速度が遅いことを特徴とする、排ガス浄化用触媒。
【0011】
(2)前記基材が、隔壁によって仕切られた、排ガス流れ方向に実質的に平行な多数の貫通孔を有するハニカム構造を有することを特徴とする、(1)に記載の排ガス浄化用触媒。
【0012】
前記断面の半径または対角線長をrとし、前記断面中心部の半径または対角線長をr1としたとき、0.10≦r1/r≦0.9であることを特徴とする、(1)または(2)に記載の排ガス浄化用触媒。
【0013】
前記断面中心部にコートした触媒層がセリア−ジルコニアの複合酸化物を含み、前記複合酸化物中にセリウムイオンとジルコニウムイオンとによりパイロクロア相型の規則配列相が形成されており、且つ、
前記パイロクロア相型の規則配列相が、大気中、1100℃の温度条件で5時間加熱後に、加熱前と比較して50%以上残存していることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の排ガス浄化用触媒。
【0014】
前記中心部にコートした触媒層は、所定の条件下で2分間に放出する酸素量の50質量%を放出するのに40秒以上かかることを特徴とする、請求項(1)〜(4)のいずれか1項に記載の排ガス浄化用触媒。
【0015】
前記断面中心部と同形の開口部を有する蓋で前記基材の端面を覆って、前記断面中心部に触媒層をコートする工程、および
前記断面中心部と同形の蓋で前記基材の端面を覆って、前記断面外周部に触媒層をコートする工程、
を含んでなる、(1)〜(5)のいずれか1項に記載の排ガス浄化用触媒を製造する方法。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の排ガス浄化触媒の典型的な形態を示す、概略図である。
【図2】図2は、本発明の排ガス浄化触媒の典型的な断面(排ガス流れに対して垂直方向)を示す、断面図である。
【図3】図3は、実施例および比較例の排ガス浄化触媒のNOx浄化率を示す、グラフである。
【図4】図4は、OSC材からの酸素吸放出速度を示す、グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の原理について説明する。
排ガスが触媒内を流れる場合、一般に、排ガス流れに対して垂直な触媒断面の中心部で排ガス流速が速く、触媒断面の外周部で排ガス流速が遅い。すなわち、ガス流速の速い触媒断面中心部では、ガス流速の遅い触媒断面外周部より、単位面積あたりのガス量が多い。従って、触媒(断面中心部および断面外周部)が均一に酸素吸放出能を有する場合、触媒断面中心部は、触媒断面外周部に比べて短時間で酸素を吸収または放出し、すなわち短時間で酸素吸蔵量が飽和または枯渇する。
そこで、触媒中心部に、酸素吸放出速度の遅い材料を配置することにより(図1参照)、酸素吸放出時間を長期化することができる。相対的に、触媒外周部には、酸素吸放出速度の速い材料を配置することになる。このため、触媒外周部に流れる少ないガス量でも、触媒外周部は短時間で酸素を吸収または放出することができる。
このように、ガス流速分布を考慮して酸素吸放出速度の異なる材料を配置することにより、適用可能なA/F変動の範囲を拡大し、大幅にエミッションを低減することが可能になる。
なお、図1は、触媒中心部に酸素吸放出速度の遅い材料2を配置し、触媒外周部に酸素吸放出速度の速い材料1を配置する態様を示している。
【0018】
本発明の排ガス浄化用触媒は、基材に触媒層をコートしてなる排ガス浄化用触媒であって、排ガス流れに対して垂直方向の断面において、断面中心部にコートした触媒層が断面外周部にコートした触媒層よりも酸素吸放出速度が遅いことを特徴とする。
【0019】
基材は、その上に触媒層がコートされることにより、排ガス浄化用触媒を構成するものである。基材の形状は、特に限定されるものではないが、自動車用三元触媒の場合であればフロースルー型担体を用いる事が好ましい。基材の形状は、ハニカム構造を有していてもよい。ハニカム構造とは、隔壁によって仕切られた、排ガス流れ方向に実質的に平行な多数の貫通孔を有する構造である。
【0020】
基材の材質としては金属、セラミックスがある。金属の場合はステンレス製のものが一般的であるが、その形状はハニカム状をしたものが一般的である。セラミックスの材質は、コージェライト、ムライト、アルミナ、マグネシア、スピネル、炭化ケイ素などがあるが、ハニカムを作製するための成形性が良く、耐熱性や機械的強度にも優れる点からコージェライト製であることが好ましい。
【0021】
触媒層は、三元触媒およびOSC材を含んでなり、排ガス流通時に排ガスと接触するように基材表面上にコートされて、排ガス浄化用触媒を構成するものである。
【0022】
三元触媒は、一酸化炭素(CO)及び炭化水素(HC)の酸化と窒素酸化物(NOx)の還元とを同時に行う。このような触媒としては、多孔質無機酸化物に触媒活性金属を担持したものを使用することができる。多孔質無機酸化物は、担体として働き、触媒活性金属を熱や雰囲気に対して安定な状態に保ち、かつ触媒活性金属の活性も高めることができる。
【0023】
多孔質無機酸化物、すなわち触媒活性金属が担持される担体としては、耐熱性が高く、比表面積の大きな多孔質の無機材料が好ましく、γ−アルミナ、θ−アルミナなどの活性アルミナ、ジルコニア、セリウム−ジルコニウム複合酸化物、セリア、酸化チタン、シリカ、各種ゼオライトなどを用いることができる。このような多孔質無機酸化物には、ランタン、セリウム、バリウム、プラセオジム、ストロンチウム等の希土類や、アルカリ土類金属を添加し、耐熱性を更に向上させたものを用いてもよい。
【0024】
触媒活性金属としては、排気ガスの浄化に対して活性を有するものであれば制限されないが、白金、パラジウム、ロジウムから選ばれる一種以上の触媒活性金属を含有することが望ましい。この他、遷移金属、希土類金属などを含有することができる。
【0025】
OSC材は、排ガス中の酸素濃度の変動を吸収して三元触媒の排ガス浄化能力を高めるために、排ガス中の酸素濃度が高いときには酸素を吸蔵し、排ガス中の酸素濃度が低いときには酸素を放出する、いわゆる酸素吸放出能を有する材料である。
【0026】
本発明では、排ガス流れに対して垂直方向の断面において、断面中心部にコートした触媒層が断面外周部にコートした触媒層よりも酸素吸放出速度が遅いことを特徴とする。したがって、断面中心部にコートした触媒層に含まれるOSC材は、断面外周部にコートした触媒層に含まれるOSC材よりも、酸素吸放出速度が遅いものである。
【0027】
酸素吸放出速度の速いOSC材、すなわち断面外周部にコートした触媒層に含まれるOSC材としては、一般によく知られている従来型のOSC材を用いることができる。より具体的には、そのような酸素吸放出速度の速いOSC材として、酸素の吸蔵および放出能が大きいCeO粉末をベースとしたものを好ましく用いることができる。これまでにCeO−ZrO系など、CeO系粉末における酸素の吸蔵容量、放出特性の向上とそれを助触媒とした排気ガス浄化触媒について多くの研究が行われてきており、排気ガス処理効率を増大させることが明らかにされている。それらを本発明において、酸素吸放出速度の速いOSC材、すなわち断面外周部にコートした触媒層に含まれるOSC材として用いることができる。さらに、CeO−ZrO系OSC材に、随意的付加成分としてセリウム元素材料、ジルコニウム元素材料以外の材料を併せて用いる場合は、本発明により得られるOSC材の特性を損なわない範囲であれば、アルカリ、アルカリ土類、金属成分などを加える事ができる。より具体的には、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ランタン、イットリウム、アンチモン、ハフニウム、タンタル、レニウム、ビスマス、プラセオジム、ネオジウム、サマリウム、ガドリニウム、ホルミウム、ツリウム、イッテルビウム、ゲルマニウム、セレン、カドミウム、インジウム、スカンジウム、チタン、ニオブ、クロム、鉄、銀、ロジウム、白金などがあげられる。また、このような随意的付加成分は、セリウム元素材料、ジルコニウム元素材料中の不純物に由来して含まれていても良い。ただし、このような随意的付加成分が有害性の規制対象である場合は、その量を低減するか、除去する事が望ましい事は言うまでも無い。
【0028】
上記セリウム原料、ジルコニウム原料、および随意的付加成分は、所定の割合で混合し熔融装置に装入される。次に、原料混合物を装置内で熔融するが、熔融方法については、原料混合物の少なくとも一種が熔融する方法であれば特に限定されず、アーク式、高周波熱プラズマ式等が例示される。中でも一般的な電融法、すなわちアーク式電気炉を用いた熔融方法を好ましく利用することができる。熔融終了後、電気炉に炭素蓋をして、20〜30時間徐冷し固溶体を得る。熔融物の冷却方法は、特に限定されないが、通常、熔融装置から取り出して、大気中で100℃以下、好ましくは50℃以下となるように放冷する。これにより、セリウム原料とジルコニウム原料が均一になったセリウム−ジルコニウム系複合酸化物の固溶体を得ることが出来る。
【0029】
次いで、固溶体は粉砕される。固溶体の粉砕については、特に限定されないが、インゴットは、ジョークラッシャーまたはロールクラッシャー等の粉砕機で粗粉砕することができる。上記方法で得られた粗粉末を、さらに微粉砕することができる。微粉砕については、特に限定されないが、遊星ミル、ボールミルまたはジェットミル等の粉砕機で5〜30分間、微粉砕することができる。この微粉砕により、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物の平均粒径をナノメートルオーダーとすることが好ましい。微粉砕されることで複合酸化物の表面積が大きくなり、酸素吸放出速度の速いOSC材を得ることができる。
【0030】
酸素吸放出速度の遅いOSC材、すなわち断面中心部にコートした触媒層に含まれるOSC材としては、特開2009−84061号公報に記載されたセリア−ジルコニア系複合酸化物を用いることができる。このセリア−ジルコニア系複合酸化物は、その酸化物中にセリウムイオンとジルコニウムイオンとによりパイロクロア相型の規則配列相が形成されており、且つ、前記パイロクロア相型の規則配列相が、大気中、1100℃の温度条件で5時間加熱後に、加熱前と比較して50%以上残存しているものである。特開2009−84061号公報によると、このセリア−ジルコニア系複合酸化物は、耐熱性が十分に高く、長時間高温に晒された後においても十分に優れた酸素貯蔵能を発揮することが可能なセリア−ジルコニア系複合酸化物であると記載されている。本発明者は、このセリア−ジルコニア系複合酸化物は、酸素吸放出速度の遅いことを見出し、これを本発明の酸素吸放出速度の遅いOSC材、すなわち断面中心部にコートした触媒層に含まれるOSC材として使用できることを見出した。
【0031】
酸素吸放出速度の遅いOSC材、すなわち断面中心部にコートした触媒層に含まれるOSC材である、セリア−ジルコニア複合酸化物を製造するための方法について説明する。
【0032】
このセリア−ジルコニア系複合酸化物の製造方法は、セリウムイオンとジルコニウムイオンとによりパイロクロア相型の規則配列相が形成されたセリア−ジルコニア系複合酸化物の製造方法であって、
セリアとジルコニアの含有比率がモル比([セリア]:[ジルコニア])で55:45〜43:57の範囲にあるセリア及びジルコニアの複合酸化物粉末を、1500℃以上1900℃以下の温度条件で還元処理して複合酸化物前駆体を得る工程(第一工程)と、前記複合酸化物前駆体を酸化処理して前記セリア−ジルコニア系複合酸化物を得る工程(第二工程)とを含んでなる方法である。
【0033】
上記のセリア及びジルコニアの複合酸化物粉末は、セリアとジルコニアの含有比率がモル比([セリア]:[ジルコニア])で55:45〜43:57の範囲にあるものである。このようなセリアとジルコニアの含有比率が前記範囲外となる場合には、得られるセリア−ジルコニア系複合酸化物において、遊離したセリアあるいはジルコニアがパイロクロア相型の規則配列相以外の別の相として共存し、パイロクロア相の形成のために何ら寄与しない。すなわち、このようなセリアの含有比率が前記下限未満では、ジルコニアの含有比率が高くなり過ぎて、還元処理工程においてジルコニアが遊離し、セリウムイオンとジルコニウムイオンとによりパイロクロア相型の規則配列相を十分に形成させることが困難となり、得られるセリア−ジルコニア系複合酸化物の酸素貯蔵能が低下する。他方、前記セリアの含有比率が前記上限を超えると、遊離したセリアが混在した状態となる。なお、このような遊離したセリアは酸素貯蔵能にはほとんど寄与しない。
【0034】
また、このようなセリア及びジルコニアの複合酸化物粉末としては、セリアとジルコニアとが共存したものであればよく、特に制限されず、セリア−ジルコニア固溶体の粉末であっても、セリア粉末とジルコニア粉末の混合物であってもよい。このようなセリア及びジルコニアの複合酸化物粉末として、セリア粉末とジルコニア粉末の混合物を用いる場合には、パイロクロア相型の規則配列相をより十分に形成させるという観点から、セリア粉末及びジルコニア粉末が十分に微粉砕された微細なものであって且つその微細な各粉末が高度に分散、混合された状態のものを用いることが好ましい。なお、このようなセリア粉末及びジルコニア粉末の混合物を用いる場合には、パイロクロア相型の規則配列相をより十分に形成させるという観点から、各粉末の平均粒子径は100〜1000nm程度であることが好ましい。
【0035】
また、このようなセリア及びジルコニアの複合酸化物粉末としては、パイロクロア相型の規則配列相をより十分に形成させるという観点からは、セリアとジルコニアとが原子レベルで混合された固溶体を用いることがより好ましい。また、このようなセリアとジルコニアの固溶体の粉体としては、平均粒子径が2〜100nm程度であることが好ましい。
【0036】
また、このようなセリア及びジルコニアの複合酸化物粉末を製造する方法は特に制限されず、例えば、いわゆる共沈法を採用して、セリアとジルコニアの含有比率が上記含有比率の範囲内となるようにして前記複合酸化物粉末を製造する方法や、微細なセリア粉末とジルコニア粉末とをセリアとジルコニアの含有比率が上記含有比率の範囲内となるようにして混合して前記複合酸化物粉末を製造する方法等が挙げられる。前記共沈法としては、例えば、セリウムの塩(例えば、硝酸塩)とジルコニウムの塩(例えば、硝酸塩)とを含有する水溶液を用い、アンモニアの存在下で共沈殿物を生成せしめ、得られた共沈殿物を濾過、洗浄した後に乾燥し、更に焼成後、ボールミル等の粉砕機を用いて粉砕して、セリア及びジルコニアの複合酸化物粉末を得る方法等が挙げられる。なお、前記セリウムの塩とジルコニウムの塩とを含有する水溶液は、得られる複合酸化物粉末中のセリアとジルコニアの含有比率が55:45〜43:57となるようにして調製する。また、このような水溶液には、必要に応じて、セリウム以外の希土類元素及びアルカリ土類元素からなる群から選択される少なくとも一種の元素の塩や、界面活性剤(例えば、ノニオン系界面活性剤)等を添加してもよい。
【0037】
次に、各工程について説明する。先ず、前記複合酸化物粉末を還元処理して複合酸化物前駆体を得る(第一工程)。
【0038】
このような還元処理の温度条件は、1500℃以上1900℃以下であり、1600℃以上1850℃以下とすることがより好ましく、1650℃以上1800℃以下とすることが更に好ましく、1700℃以上1800℃以下とすることが特に好ましい。このような還元処理の温度条件が前記下限未満では、パイロクロア相型の規則配列相は形成されるが、結晶子の平均粒子径を十分な大きさとすることができないため、形成される結晶相の構造安定性が低下し、耐熱性が低下する。すなわち、前記温度条件が前記下限未満では、得られるセリア−ジルコニア系複合酸化物を、大気中、1100℃の温度条件で5時間加熱した場合に、前記パイロクロア相型の規則配列相が加熱前と比較して50%以上残存するようなセリア−ジルコニア系複合酸化物を得ることができなくなる。なお、このような加熱処理の際の温度条件は、前記温度範囲内において、より高温にする程、より安定化された結晶構造を持つセリア−ジルコニア系複合酸化物が得られる傾向にある。また、このような還元処理の温度条件が前記上限を超えると、還元ガスのCOとジルコニア(ZrO)が反応してパイロクロア相が分解してしまう傾向にある。
【0039】
また、前記還元処理の方法は、還元性雰囲気下で前記複合酸化物粉末を1500℃以上1900℃以下の温度条件で加熱処理することが可能な方法であればよく、特に制限されず、例えば、真空加熱炉内に前記セリア及びジルコニアの複合酸化物粉末を設置し、真空引きした後に、炉内に還元性ガスを流入させて炉内の雰囲気を還元性雰囲気とし、1500℃以上1900℃以下の温度条件で加熱して還元処理を施す方法や、黒鉛製の炉を用い、炉内に前記セリア及びジルコニアの複合酸化物粉末を設置し、真空引きした後、1500℃以上1900℃以下の温度条件で加熱して、炉体及び加熱燃料等から発生するCOやHC等の還元性ガスにより炉内の雰囲気を還元性雰囲気とし、還元処理を施す方法等が挙げられる。なお、前述の黒鉛炉を用いる場合においても、還元性ガスを炉内に流入させて還元性雰囲気しながら加熱してもよい。
【0040】
また、このような還元性雰囲気を達成させるために用いる還元性ガスとしては、特に制限されず、CO、HC、H、その他の炭化水素ガス等の還元ガスを適宜用いることができる。また、このような還元性ガスの中でも、より高温で還元性処理をした場合に炭化ジルコニウム(ZrC)等の複生成物が生成されることを防止するという観点からは、炭素(C)を含まないものを用いることがより好ましい。このような炭素(C)を含まない還元性ガスを用いた場合には、ジルコニウム等の融点に近いより高い温度条件での還元処理が可能となるため、結晶相の構造安定性をより十分に向上させることが可能となる。
【0041】
また、このような還元処理の際の加熱時間としては特に制限されないが、0.5〜5時間程度であることが好ましい。このような加熱時間が前記下限未満では、前記複合酸化物粉末の結晶子径を十分に大きくすることができなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、十分に粒成長が進み、それ以上の操作が無駄となるため経済性が低下する傾向にある。
【0042】
また、前記還元処理を施す前に、前記セリア及びジルコニアの複合酸化物粉末を100MPa以上(より好ましくは200〜400MPa)の圧力でプレスすることが好ましい。このようにしてプレスした後の前記複合酸化物粉末(プレス成形体)を用いることで、前記複合酸化物粉末の粒度の均一性が向上し、前記還元処理中の加熱によって、より焼結が進み易くなり、表面エネルギーが放出され易くなって結晶構造がより安定化される傾向にある。また、前記プレス圧が前記下限未満では、プレスによる効果を十分に得られない傾向にある。なお、このようなプレスの方法としては特に制限されず、静水圧プレス等の公知のプレス方法を適宜採用できる。
【0043】
次に、第二工程について説明する。すなわち、前記還元処理(第一工程)後に、得られた複合酸化物前駆体に対して、酸化処理を施し、セリア−ジルコニア系複合酸化物を得る(第二工程)。
【0044】
このような酸化処理の方法は特に制限されず、還元処理して得られた複合酸化物前駆体中の金属元素を酸化することが可能な公知の方法を適宜採用することができ、例えば、酸化雰囲気(例えば、空気)中において前記複合酸化物前駆体を加熱処理する方法を好適に採用することができる。また、このような酸化処理の際の加熱温度の条件としては特に制限されないが300〜800℃程度であることが好ましい。さらに、前記酸化処理の際の加熱時間としては特に制限されないが0.5〜5時間であることが好ましい。
【0045】
このようにして得られるセリア−ジルコニア系複合酸化物は、セリウムイオンとジルコニウムイオンとによりパイロクロア相型の規則配列相が十分に形成され、しかも、大気中、1100℃の温度条件で5時間加熱した場合においても、前記パイロクロア相型の規則配列相が加熱前と比較して50%以上残存する。従って、得られるセリア−ジルコニア系複合酸化物は、耐熱性が十分に高く、長時間高温に晒された後においても十分に優れた酸素貯蔵能を発揮することが可能なものとなる。
【0046】
酸素吸放出速度が速いか遅いかについては、以下の手法によって評価することができる。OSC材に酸化性ガスを流通させることにより、OSC材に酸素を十分に吸収させる。次に、還元性ガスをOSC材に流通させることにより、OSC材から酸素が放出されて、還元性ガスが酸化される。酸化されたガスの量を測定することにより、OSC材から放出された酸素量を求めることができる。一定時間内に放出される酸素量を求め、その半分の量の酸素が放出されるまでにかかる時間の長短により、酸素吸放出速度が速いか遅いかを評価する。
【0047】
酸素吸放出速度が速いか遅いかに関する、より具体的な評価方法として、実施例D.酸素吸放出速度の評価において詳述する方法を用いることができる。この方法で評価した場合に、2分間に放出する酸素量の50質量%を放出するのに40秒以上かかるOSC材を、酸素吸放出速度の遅いOSC材としてもよい。
【0048】
本発明の排ガス浄化触媒では、触媒中心部にコートされる触媒層(OSC材)として、酸素吸放出速度の遅い材料を用いる(図1参照)。触媒外周部にコートされる触媒層(OSC材)としては、酸素吸放出速度の速い材料を用いる。
【0049】
図2は、排ガス浄化用触媒の断面図(排ガス流れに対して垂直方向の断面)を示す。図2では、円形の断面を示しているが、排ガス浄化用触媒の断面は矩形であってもよい。この、排ガス浄化用触媒断面の半径または対角線長をrとし、前記断面中心部の半径または対角線長をr1としたとき、0.10≦r1/r≦0.9であることが好ましい。特に好ましくは、0.1<r1/r<0.9である。r1/rがこの範囲にある場合、酸素吸放出速度の遅いOSC材のみを用いた場合(r1/r=1)と比べて、NOx浄化率が明らかに向上する。
【0050】
本発明は、排ガス浄化用触媒を製造する方法にも関する。本発明の排ガス浄化用触媒は、断面中心部に酸素吸放出速度が遅い触媒層をコートし、断面外周部に酸素吸放出速度が速い触媒層をコートすることにより、製造することができる。
【0051】
触媒層をコートするために、スラリーを用いてもよい。すなわち、OSC材、触媒活性金属、および耐熱性無機酸化物を、水系溶媒とともに混合してスラリーとしてから、基材へコートして、乾燥、焼成することにより、本発明の排ガス浄化触媒を得ることができる。ここで、断面中心部にコートするスラリーには、酸素吸放出速度が遅いOSC材を用いる。断面外周部にコートするスラリーには、酸素吸放出速度が速いOSC材を用いる。
【0052】
断面中心部のコートする際に、断面中心部と同形の開口部を有する蓋(例えばドーナツ状の蓋)で基材の端面を覆って、断面中心部に酸素吸放出速度が遅いOSC材を含むスラリーをコートする。断面外周部のコートする際には、断面中心部と同形の蓋で基材の端面を覆って、断面外周部に酸素吸放出速度が速いOSC材を含むスラリーをコートする。蓋の材質は、特に制限されないが、加工性、入手性を考慮して、シリコンゴムシートを用いてもよい。
【0053】
この方法により、断面中心部に酸素吸放出速度が遅い触媒層がコートされ、断面外周部に酸素吸放出速度が速い触媒層をコートされた、本発明の排ガス浄化用触媒を得ることができる。
【実施例】
【0054】
A.触媒の作製
1.酸素吸放出速度の遅い材料を含むコート用スラリー(スラリーA)の調製
(1)酸素吸放出速度の遅い材料(OSC材)の調製
セリアとジルコニアの含有モル比(CeO:ZrO)が50:50のセリアジルコニア固溶体粉末を調製した。すなわち、先ず、CeO換算で28質量%の硝酸セリウム水溶液49.1gと、ZrO換算で18質量%のオキシ硝酸ジルコニウム水溶液54.7gと、ノニオン系界面活性剤(ライオン社製、商品名:レオコン)1.2gとをイオン交換水90ccに溶解し後、NHが25質量%のアンモニア水を陰イオンに対して1.2倍当量添加し、共沈殿を生成し、得られた共沈物を濾過、洗浄した。次に、得られた共沈物を110℃で乾燥した後、1000℃で5時間大気中にて焼成してセリウムとジルコニウムの固溶体を得た。その後、前記固溶体を粉砕機(アズワン社製の商品名「ワンダーブレンダー」)を用いて平均粒子径が1000nmとなるように粉砕して、セリアとジルコニアの含有モル比(CeO:ZrO)が50:50のセリアジルコニア固溶体粉末を得た。
得られたセリアジルコニア固溶体粉末50gを、ポリエチレン製のバッグ(容量0.05L)に詰め、内部を脱気した後、前記バッグの口を加熱してシールした。次に、静水圧プレス装置(日機装社製の商品名「CK4−22−60」)を用いて、前記バッグに対して静水圧プレス(CIP)を300MPaの圧力で1分間行って成形し、セリアジルコニア固溶体粉末の固形状原料を得た。
次に、プレス後のバッグから取り出した前記固形状原料を、黒鉛製の円筒形容器(内容積:直径15cm、高さ20cm)に詰め、黒鉛製の蓋をした。次いで、前記円筒形容器を、炉内が黒鉛性の断熱材及び発熱体からなる炉内(黒鉛炉)に設置した。その後、前記炉内をディフュージョンポンプで0.01Torrまで真空引きした後、アルゴンガスを導入し、アルゴンガス100容量%の還元雰囲気とした。次に、前記炉内の温度を1700℃にして前記固形状試料を5時間加熱して還元処理を施し、複合酸化物前駆体を得た。その後、炉内の温度が50℃となるまで炉冷し、炉から前記複合酸化物前駆体を取り出した。そして、得られた複合酸化物前駆体を、大気中、500℃の温度条件で5時間加熱して酸化し、セリア−ジルコニア複合酸化物を得た。このようにして得られたセリア−ジルコニア複合酸化物を、酸素吸放出速度の遅い材料(OSC材)とした。なお、得られたセリア−ジルコニア複合酸化物は乳鉢で粉砕し、平均粒子径が5μmの粉末とした。
(2)Rh担持粉末Aの調製
第一稀元素化学工業(株)製ジルコニア(ZrO:90wt%、Y:10wt%)に硝酸Rh薬液を含浸担持した。次に、これを120℃で一昼夜乾燥した。次に、これを450℃で2時間焼成して、Rh担持粉末Aを得た。
(3)Pd担持粉末Bの調製
サソール社製γ−アルミナ(Al:96wt%、La:4wt%)に硝酸Pd薬液を含浸担持した。次に、これを120℃で一昼夜乾燥した。次に、これを450℃で2時間焼成して、Pd担持粉末Bを得た。
(4)酸素吸放出速度の遅い材料を含むコート用スラリー(スラリーA)の調製
(1)で得た酸素吸放出速度の遅い材料(OSC材)、(2)で得たRh担持粉末A、および(3)で得たPd担持粉末Bを、3:4:7の質量比で混合した。混合した粉末、およびアルミナバインダー(日産化学製、AS200)、19:1の質量比で混合し、水を加えて、コート用スラリーを得た。これを、スラリーAとした。
【0055】
2.酸素吸放出速度の速い材料を含むコート用スラリー(スラリーB)の調製
(1)Rh担持粉末Aの調製
前記1.(2)と同様の手順により、Rh担持粉末Aを得た。
(2)Pd担持粉末Cの調製
ローディア社製セリア−ジルコニア(CeO:50wt%、ZrO:40wt%、Y:5wt%、La:5wt%)に硝酸Pd薬液を含浸担持した。次に、これを120℃で一昼夜乾燥した。次に、これを450℃で2時間焼成して、Pd担持粉末Cを得た。
(3)γ―アルミナの調製
サソール社製γ−アルミナ(Al:96wt%、La:4wt%)を、γ―アルミナとして用意した。
(4)酸素吸放出速度の速い材料を含むコート用スラリー(スラリーB)の調製
(1)で得たRh担持粉末A、(2)で得たPd担持粉末C、および(3)で得たγ−アルミナを、4:7:2の質量比で混合した。混合した粉末、およびアルミナバインダー(日産化学製、AS200)、19:1の質量比で混合し、水を加えて、コート用スラリーを得た。これを、スラリーBとした。
【0056】
3.実施例触媒1の作製
(1)ハニカム基材の用意
ハニカム基材として、(株)デンソー製セラミックハニカム(セル密度600cell/inch(93.0cell/cm)、壁厚3mil(76.2μm)、φ103×L105)を用意した。
(2)中心部(基材断面中心部)のコート
シリコンゴムシート(厚さ3mm)を内円直径51.5mm、外円直径120mmのドーナツ状に加工した。ドーナツ状シリコンゴムシートの開口部がハニカム端面の中心部に合致するように、ドーナツ状シリコンゴムシートを、前記セラミックハニカムの上端面に取り付けた。
ドーナツ状シリコンゴムシートの開口部から、スラリーAを所定量投入し、セラミックハニカム下端面より吸引を行った。このハニカムを120℃で2分間焼成した。さらに、このハニカムを350℃で30分焼成した。このようにして、中心部(基材断面中心部)を、酸素吸放出速度の遅い材料を含むスラリーAでコートした。
このとき、スラリーAのコート量は、230g(乾燥質量)/Lとなるように、スラリーの投入量を調整した。
(3)外周部(基材断面外周部)のコート
シリコンゴムシート(厚さ3mm)を直径51.5mmの円形状に加工した。円形状シリコンゴムシートがハニカム端面の中心部に合致するように、円形状シリコンゴムシートを、前記セラミックハニカムの上端面に取り付けた。
ハニカムの上端面の外周部(円形状シリコンゴムシートで覆われていない部分)から、スラリーBを所定量投入し、セラミックハニカム下端面より吸引を行った。このハニカムを120℃で2分間焼成した。さらに、このハニカムを350℃で30分焼成した。このようにして、外周部(基材断面外周部)を、酸素吸放出速度の速い材料を含むスラリーBでコートした。
このとき、スラリーBのコート量は、230g(乾燥質量)/Lとなるように、スラリーの投入量を調整した。
このようにして得られた、中心部に酸素吸放出速度の遅い材料をコートし、外周部に酸素吸放出速度の速い材料をコートした触媒を、実施例触媒1とした。
このとき、実施例触媒1では、酸素吸放出速度の遅い材料をコートされた基材断面中心部の半径(r1)が、基材全体の断面の半径(r)に対して、0.5であった。すなわち、実施例1では、r1/r=0.5であった。なお、r1およびrについて、図2を参照されたい。
【0057】
4.実施例触媒2の作製
実施例2では、r1/r=0.1となるように、ドーナツ状シリコンゴムシートおよび円形状シリコンゴムシートの寸法を変更した。その他の手順は、実施例1と同様の手順を採用した。
【0058】
5.実施例触媒3の作製
実施例3では、r1/r=0.3となるように、ドーナツ状シリコンゴムシートおよび円形状シリコンゴムシートの寸法を変更した。その他の手順は、実施例1と同様の手順を採用した。
【0059】
6.実施例触媒4の作製
実施例4では、r1/r=0.8となるように、ドーナツ状シリコンゴムシートおよび円形状シリコンゴムシートの寸法を変更した。その他の手順は、実施例1と同様の手順を採用した。
【0060】
7.実施例触媒5の作製
実施例5では、r1/r=0.9となるように、ドーナツ状シリコンゴムシートおよび円形状シリコンゴムシートの寸法を変更した。その他の手順は、実施例1と同様の手順を採用した。
【0061】
8.比較例触媒1の作製
比較例1では、r1/r=0.05となるように、ドーナツ状シリコンゴムシートおよび円形状シリコンゴムシートの寸法を変更した。その他の手順は、実施例1と同様の手順を採用した。
【0062】
9.比較例触媒2の作製
比較例2では、r1/r=0となるように、シリコンゴムシートで覆うことなく酸素吸放出速度の速い材料を含むスラリーBのみでハニカムをコートした。その他の手順は、実施例1と同様の手順を採用した。
【0063】
10.比較例触媒3の作製
比較例3では、r1/r=1となるように、シリコンゴムシートで覆うことなく酸素吸放出速度の遅い材料を含むスラリーAのみでハニカムをコートした。その他の手順は、実施例1と同様の手順を採用した。
【0064】
B.触媒の耐久試験
前記A.で作製した実施例触媒1〜5および比較例触媒1〜3を自動車触媒として使用した場合、自動車が一定の走行した後でも、これら触媒が触媒活性を維持しているかを試験した。実際に、エンジンとこれらの触媒を連結して、加速劣化試験(耐久試験)を行った。
【0065】
具体的には、A.で作製した実施例触媒1〜5および比較例触媒1〜3のそれぞれを、セラミックマットで巻き、次いで排気管にキャニングした。ハニカムの中央に熱電対を挿入し、ハニカムの中央部の温度を測定できるようにした。次に、この排気管をエンジンに連結した。
【0066】
エンジン回転数/トルク等を調整して、ハニカムの中央部の温度が950±20℃になるようにした。このとき、A/Fが14と15を一定時間ずつ繰り返すサイクル試験とした。耐久時間:50時間とした。サイクル条件は、A/F14を10秒、A/F15を10秒とした。
【0067】
C.触媒の評価
B.で耐久試験を行った実施例触媒1〜5および比較例触媒1〜3を、エンジンに連結した。エンジン回転数/トルク等を調整して、触媒入口より10mm前方の位置で排ガス温度が500℃になるようにした。
A/Fを15で180秒間保持し、その後A/Fを14に切り替えて120秒間保持した。
A/Fを14に切り替えから100秒後に、触媒の前方および後方のNOx濃度を測定した。触媒後方のNOx濃度/触媒前方のNOx濃度を、NOx浄化率とした。表1および図3に、実施例触媒1〜5および比較例触媒1〜3のNOx浄化率を示す。
表1および図3から、本発明の触媒、すなわち、排ガス流れに対して垂直方向の触媒断面において、触媒断面中心部に酸素吸放出速度の遅い材料を配置し、触媒断面外周部に酸素吸放出速度の速い材料を配置した触媒が、高いNOx浄化率を有することが分かった。
【0068】
【表1】

【0069】
D.酸素吸放出速度の評価
複数のOSC材の酸素吸放出速度について、以下の手法を用いて、評価を行った。
1.OSC材の調製
OSC材の酸素吸放出速度を評価するために、以下のOSC材を用意した。
(1)OSC材1:ローディア社製CeO:50wt%、ZrO:40wt%、Y:5wt%、La:5%の複合酸化物粉末。
(2)OSC材2:CeO:40wt%、ZrO:50wt%、Y:5wt%、La:5%複合酸化物粉末。
(3)OSC材3:CeO:30wt%、ZrO:60wt%、Y:5wt%、La:5%複合酸化物粉末。
(4)OSC材4:前記実施例1〜5触媒に含まれる、酸素吸放出速度の遅い材料。すなわち、CeO:50at%、ZrO:50at%の複合酸化物粉末。OSC材4は、前記A.1(1)の調製方法によって、得た。
2.Pd担持触媒の調製
前記OSC材1〜4を担体として、Pdを担持させて、Pd担持触媒とした。
具体的には、硝酸Pd薬液を水で希釈し、そこに前記OSC材1〜4を所定量投入した。これを120℃で一昼夜乾燥させた。次いで、これを500℃で2時間焼成して、粉末状の触媒を得た。得られた粉末状の触媒における、Pdの担持量が0.5wt%(触媒質量を基準として)になるように調製した。
得られた粉末状の触媒を、静水圧プレス装置(日機装社製の商品名「CK4−22−60」)を用いて、静水圧プレス(CIP)を300MPaの圧力で1分間行って成形した。さらに、成形された触媒を、0.5mm程度に粉砕して、ペレット状の触媒とした。
3.酸素吸放出速度の評価方法
前記2.で得られたペレット状の触媒3gを流通式のガス反応管に充填した。電気炉で加熱することによって、充填された触媒の温度が500℃になるようにした。このガス反応管に2%O/98%Nガスを2分間、15L/minで流通させることによって、充填された触媒を酸化させた。
その後、このガス反応管に0.2%CO/99.8%Nガスを2分間、15L/minで流通させた。触媒中では、式(1)の反応が生じていると考えられる。
2CeO+CO → Ce+CO・・・(1)
触媒流通後のガスをCO分析計(ND−IR法)で分析することにより、触媒を流通中に発生したCOを測定した。この測定のためのサンプリング間隔は0.5秒であった。
式(1)において、CeOから放出される酸素量と、生成するCO量は比例関係にある。したがって、CO発生量を、触媒(OSC材)から放出された酸素量と考えた。
この考えに基づいて、OSC材からの酸素放出速度が速いか遅いかを評価した。具体的には、2分間で放出されるCO量を1として、0.5のCO量を放出するのにかかる時間を測定した。0.5のCO量を放出するのにかかる時間が長いほど、酸素放出速度が遅いと評価した。
【0070】
4.酸素吸放出速度の評価結果
上記3.の評価方法により得た、酸素吸放出速度の結果を表2および図4に示す。0.5のCO量を放出するのにかかる時間が、40秒以上のものを遅いと評価した。
【0071】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に触媒層をコートしてなる排ガス浄化用触媒であって、排ガス流れに対して垂直方向の断面において、断面中心部にコートした触媒層が断面外周部にコートした触媒層よりも酸素吸放出速度が遅いことを特徴とする、排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
前記基材が、隔壁によって仕切られた、排ガス流れ方向に実質的に平行な多数の貫通孔を有するハニカム構造を有することを特徴とする、請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記断面の半径または対角線長をrとし、前記断面中心部の半径または対角線長をr1としたとき、0.10≦r1/r≦0.9であることを特徴とする、請求項1または2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
前記断面中心部にコートした触媒層がセリア−ジルコニアの複合酸化物を含み、前記複合酸化物中にセリウムイオンとジルコニウムイオンとによりパイロクロア相型の規則配列相が形成されており、且つ、
前記パイロクロア相型の規則配列相が、大気中、1100℃の温度条件で5時間加熱後に、加熱前と比較して50%以上残存していることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項5】
前記中心部にコートした触媒層は、所定の条件下で2分間に放出する酸素量の50質量%を放出するのに40秒以上かかることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項6】
前記断面中心部と同形の開口部を有する蓋で前記基材の端面を覆って、前記断面中心部に触媒層をコートする工程、および
前記断面中心部と同形の蓋で前記基材の端面を覆って、前記断面外周部に触媒層をコートする工程、
を含んでなる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の排ガス浄化用触媒を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−110859(P2012−110859A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263457(P2010−263457)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】