説明

排ガス浄化用触媒及びその製造方法

【課題】パラジウムのHC被毒が起こりにくく、低温触媒活性がより高められた排ガス浄化用触媒を提供する。
【解決手段】
本発明に係る排ガス浄化用触媒は、多孔質担体40と、該多孔質担体40に担持されたパラジウム50と、を備えた排ガス浄化用触媒である。多孔質担体40は、アルミナからなるアルミナ担体42と、セリア‐ジルコニア複合酸化物からなるCZ担体44とを備えている。アルミナ担体42及びCZ担体44の各々には、バリウムが添加されている。ここで、アルミナ担体42に添加されたバリウムの量が、該バリウムを除くアルミナ担体42の全質量に対して10質量%〜15質量%に相当する量であり、かつ、CZ担体44に添加されたバリウムの量が、該バリウムを除くCZ担体44の全質量に対して5質量%〜10質量%に相当する量である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス浄化用触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の内燃機関より排出される排ガス中に含まれる炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、及び窒素酸化物(NOx)を浄化するために、いわゆる三元触媒が広く用いられている。一般に三元触媒においては空燃比が理論空燃比(ストイキ)近傍である場合にのみ、上記排ガス中の3成分を効率よく酸化・還元により浄化することが可能であり、空燃比がストイキ近傍の範囲から外れると極端に触媒活性が低下する。そこで、セリア(CeO)に代表される酸素吸蔵物質を助触媒として併用することにより、触媒が活性を発現することができる空燃比範囲を拡張することが広く行われている。また、耐熱性の低いセリアに代えて、セリアとジルコニア(ZrO)を複合酸化物としたセリア−ジルコニア複合酸化物を助触媒として用い、触媒の耐熱特性を向上させることも広く行われている。
【0003】
三元触媒に用いられる貴金属触媒としては、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、及びRh(ロジウム)などがある。これらの貴金属のうちPd及びPtは主として一酸化炭素(CO)及び炭化水素(HC)の浄化性能(酸化浄化能)に寄与し、Rhは主としてNOxの浄化性能(還元浄化能)に寄与する。それぞれ特性の異なる貴金属触媒について最良の触媒活性を発現させるために、それぞれの貴金属触媒に最適な多孔質担体を模索する必要がある。従来、貴金属触媒の一つであるPdを担持させる多孔質担体として多く用いられているのは、アルミナ及びセリア−ジルコニア複合酸化物を併用した多孔質担体である(例えば、特許文献1)。上記多孔質担体はアルミナが持つ大きな比表面積及び高い耐久性(特に耐熱性)と、セリア−ジルコニア複合酸化物が持つ酸素吸蔵放出能の特性とを合わせ持つことができるため有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−290065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、自動車等のエンジンを始動させた直後には、排ガスが低温状態にある。そのため、Pdによる排ガス浄化においては、炭化水素(HC)の浄化性能が低下するという課題がある。すなわち、エンジン始動直後の低温時では、炭化水素の一部が浄化されずに残り、残存した炭化水素がパラジウムの表面に吸着し、Pd粒子の表面に被膜を形成することで、活性点が減少する。その結果、触媒の浄化性能が低下してしまう。したがって、Pdによる排ガス浄化においては、HC被毒が発生しにくいものが好ましい。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、パラジウムのHC被毒が起こりにくく、低温触媒活性がより高められた排ガス浄化用触媒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、アルミナ及びセリア−ジルコニア複合酸化物の両方を担体とするPd触媒において、各担体にバリウム(Ba)を添加することによりPdのHC被毒を抑えることに思い至り、さらに各担体でBaの添加量を変えることによって、PdのHC被毒を効果的に抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明によって提供される排ガス浄化用触媒は、多孔質担体と、該多孔質担体に担持されたパラジウムとを備えた排ガス浄化用触媒である。上記多孔質担体は、アルミナからなるアルミナ担体と、セリア‐ジルコニア複合酸化物からなるCZ担体とを備えている。上記アルミナ担体及び上記CZ担体の各々には、バリウム(Ba)が添加されている。そして、上記アルミナ担体に添加されたバリウムの量が、該バリウムを除くアルミナ担体の全質量に対して10質量%〜15質量%に相当する量であり、かつ、上記CZ担体に添加されたバリウムの量が、該バリウムを除くCZ担体の全質量に対して5質量%〜10質量%に相当する量である。
【0009】
このことにより、上記バリウムを含有していない若しくはバリウムの添加量が上記範囲を満たさないような従来の排ガス浄化用触媒と比較して、パラジウムのHC被毒(特にオレフィン被毒)が生じにくくなる。そのため、エンジン始動直後でもパラジウムのHC被毒が有効に抑えられ、高い触媒活性(特に低温活性)を発現することができる。これは、アルミナ担体及びCZ担体に添加されたバリウムと、貴金属触媒であるパラジウムとが相互作用することにより、パラジウムの価数が低く保たれ、パラジウムに吸着されたHCの脱着反応が促進されることが原因であると考えられる。
また、かかる構成の排ガス浄化用触媒では、アルミナ担体及びCZ担体に適量のバリウムが添加されることにより、各担体に対するパラジウムの分散性が向上する。そのため、高温におけるパラジウムの粒成長(シンタリング)がより良く抑えられ、触媒の耐久性を向上させることができる。したがって、本発明によると、従来に比して、パラジウムのHC被毒が抑制され、さらにパラジウムのシンタリングが抑制された、浄化性能の良い排ガス浄化用触媒を提供することができる。
【0010】
上記アルミナ担体に含まれるバリウムの含有量としては、該バリウムを除くアルミナ担体の全質量に対して10質量%〜15質量%(例えば10質量%を上回り15質量%以下)に相当する量である。バリウムの含有量が15質量%より多すぎる、または10質量%より少なすぎる場合は、バリウム添加による触媒性能向上効果が十分に発揮されず、高い浄化性能が得られないことがある。また、上記CZ担体に含まれるバリウムの含有量は、該バリウムを除くCZ担体の全質量に対して5質量%〜10質量%に相当する量である。バリウムの含有量を上記範囲内とすることにより、パラジウムのHC被毒がより良く抑制され、エンジン始動直後でも高い触媒活性を発揮することができる。また、パラジウムのシンタリングがより良く抑制され、パラジウムの耐久性向上が図られる。
【0011】
好ましくは、アルミナ担体に含まれるバリウムの量が、CZ担体に含まれるバリウムの量よりも多い。このようにアルミナ担体及びCZ担体に含まれるバリウムの量を適切に調節することにより、パラジウムのHC被毒及びシンタリングを効果的に抑制することができる。したがって、より良好な触媒性能を確実に発揮することができる。
【0012】
ここに開示される排ガス浄化用触媒の好ましい一態様では、上記アルミナ担体と上記CZ担体との質量混合比(アルミナ担体:CZ担体)が、80:20〜20:80の範囲内にある。かかる構成によると、アルミナ担体とCZ担体との比率が適切なバランスにあるので、アルミナ担体とCZ担体とを併用することによる効果(例えば、アルミナ担体が持つ大きな比表面積及び高い耐久性(特に耐熱性)と、CZ担体が持つ酸素吸蔵放出能を合わせ持つことができる効果)を適切に発揮することができる。CZ担体の混合比率が少なすぎると、担体全体としての酸素吸蔵放出能が低下傾向になる場合があり、一方、アルミナ担体の混合比率が少なすぎると、比表面積が減少して所望の量のパラジウムを担持するのが困難になるため好ましくない。
【0013】
ここに開示される排ガス浄化用触媒の好ましい一態様では、上記アルミナ担体に担持されたパラジウムの担持量は、該アルミナ担体のバリウムを含まない状態での全質量に対して0.1質量%〜3質量%(好ましくは0.1質量%以上1.5質量%以下)に相当する量である。パラジウムの担持率を上記範囲とすると、パラジウムによる十分な触媒効果が得られるとともに、コスト面で過度な負担がないため望ましい。
【0014】
ここに開示される排ガス浄化用触媒の好ましい一態様では、上記CZ担体に担持されたパラジウムの担持量は、該CZ担体のバリウムを含まない状態での全質量に対して0.1質量%〜3質量%(好ましくは0.1質量%以上1.5質量%以下)に相当する量である。パラジウムの担持率を上記範囲とすると、パラジウムによる十分な触媒効果が得られるとともに、コスト面で過度な負担がないため望ましい。
【0015】
また、本発明は、上述したような排ガス浄化用触媒を好適に製造する方法を提供する。即ち、多孔質担体と、該多孔質担体に担持されたパラジウムとを備えた排ガス浄化用触媒を製造する方法である。この方法は、アルミナからなるアルミナ担体と、セリア‐ジルコニア複合酸化物からなるCZ担体と、バリウム及び溶媒を含むバリウム含有溶液とを用意することを包含する。また、上記用意したアルミナ担体及びCZ担体の各々にパラジウムを担持させることを包含する。さらに、上記パラジウムが担持されたアルミナ担体及びCZ担体の各々に上記バリウム含有溶液を添加し焼成することを包含する。ここで、上記アルミナ担体及び上記CZ担体の各々に添加されるバリウム含有溶液は、上記アルミナ担体に添加されるバリウムの量が、該バリウムを除くアルミナ担体の全質量に対して10質量%〜15質量%に相当する量となり、かつ、上記CZ担体に添加されるバリウムの量が、該バリウムを除くCZ担体の全質量に対して5質量%〜10質量%に相当する量となるように設定される。かかる製造方法によると、アルミナ担体及びCZ担体の双方に適量のバリウムが添加された排ガス浄化用触媒を適切に製造することができる。
【0016】
ここに開示される排ガス浄化用触媒製造方法の好ましい一態様では、上記バリウム含有溶液として、水溶性のバリウム塩を水に溶かしたバリウム水溶液を使用する。このように、バリウム塩を水に溶かして溶液状で添加することにより、粒状で添加する場合に比べて、各担体中にバリウムが均一に分散(高分散)する。そのため、バリウム添加による触媒性能向上効果(HC被毒抑制効果及びシンタリング抑制効果)がより良く発揮された、浄化性能の良い排ガス浄化用触媒を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る排ガス浄化用触媒の概略構成説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る排ガス浄化用触媒におけるリブ壁部分の構成を模式的に示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る触媒層の要部を模式的に示す図である。
【図4】Ba含有量とプロピレン50%浄化温度との関係を示すグラフである。
【図5】Ba含有量とプロパン50%浄化温度との関係を示すグラフである。
【図6】Ba含有量とPd分散度との関係を示すグラフである。
【図7】例1及び例11に係る触媒サンプルのプロピレン50%浄化温度を示すグラフである。
【図8】例6及び例12に係る触媒サンプルのプロピレン50%浄化温度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば多孔質担体の組成など)以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば排ガス浄化用触媒の自動車における配置に関するような一般的事項)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0019】
ここで開示される排ガス浄化用触媒は、上記担体と該担体に担持される貴金属(酸化触媒金属)とから構成される粉末状若しくはペレット状の形態を取り得るが、車両のエンジン等の内燃機関の排気系に設けられる場合、典型的には適当な基材を備える。
かかる基材としては、従来のこの種の用途に用いられる種々の素材及び形態のものが使用可能である。例えば、高耐熱性を有するコージェライト、炭化ケイ素(SiC)等のセラミックスまたは合金(ステンレス等)から形成されたハニカム構造を備えるハニカム基材などを好適に採用することができる。一例として外形が円筒形状であるハニカム基材であって、その筒軸方向に排ガス通路としての貫通孔(セル)が設けられ、各セルを仕切る隔壁(リブ壁)に排ガスが接触可能となっているものが挙げられる。基材の形状はハニカム形状の他にフォーム形状、ペレット形状などとすることができる。また基材全体の外形については、円筒形に代えて、楕円筒形、多角筒形を採用してもよい。
【0020】
図1は一実施形態に係る排ガス浄化用触媒の構成を示す模式図である。即ち、図1に示すように、本実施形態に係る排ガス浄化用触媒100は、ハニカム基材10と、複数の規則的に配列されたセル12と、該セル12を構成するリブ壁14を有する。
基材の材質としては、従来のこの種の用途に用いられる種々のものを特に制限なく採用することができる。例えば、コージェライト、炭化ケイ素(SiC)等のセラミックスまたは合金(ステンレス等)から形成されたハニカム構造を備えるハニカム基材などを好適に採用することができる。一例として外形が円筒形状であるハニカム基材であって、その筒軸方向に排ガス流通路としてのセル(貫通孔)が設けられ、各セルを仕切るリブ壁(隔壁)に排ガスが接触可能となっているものが挙げられる。基材の形状はハニカム形状の他にフォーム形状、ペレット形状などとすることができる。また基材全体の外形については、円筒形に代えて、楕円筒形、多角筒形を採用してもよい。
【0021】
図2は、図1のハニカム基材10におけるリブ壁14の表面部分の構成を模式的に示す図である。排ガス浄化用触媒100は、基材20(上記リブ壁14に相当する。)と、該基材20上に形成された触媒層30とを備える。触媒層30は、図2に示すように全体に亘って均質に形成されていてもよく、二層構造、具体的には基材20表面に近い下層部(低層部)と基材20表面から相対的に遠い方の層を上層部(表層部)とからなる二層構造に形成されているものでもよい。以下、単層構造の触媒層30に基づいて、触媒層を構成する物質について詳細に説明する。
【0022】
ここで開示される排ガス浄化用触媒100の触媒層30は、多孔質担体40と、該多孔質担体40に典型的には貴金属の微粒子状に担持されたパラジウム50とから構成されている。多孔質担体40は、アルミナからなるアルミナ担体42と、セリア‐ジルコニア複合酸化物からなるCZ担体44とを包含する。ここに開示される技術では、アルミナ担体42及びCZ担体44には、バリウム(Ba)が添加されている。そして、アルミナ担体42に添加されたバリウムの量が、該バリウムを除くアルミナ担体42の全質量に対して10質量%〜15質量%に相当する量であり、かつ、CZ担体44に添加されたバリウムの量が、該バリウムを除くCZ担体44の全質量に対して5質量%〜10質量%に相当する量である。
【0023】
このことにより、上記バリウムを含有していない若しくはバリウムの添加量が上記範囲を満たさないような従来の排ガス浄化用触媒と比較して、低温でのパラジウムのHC被毒(特にオレフィン被毒)が生じにくくなる。そのため、エンジン始動直後でもパラジウムのHC被毒が有効に抑えられ、高い触媒活性(特に低温活性)を発現することができる。
これは、アルミナ担体42及びCZ担体44に添加されたバリウムと、貴金属触媒であるパラジウム50とが相互作用することにより、低温でのパラジウム50の価数が低く保たれ、パラジウム50に吸着されたHCの脱着反応が促進されることが原因であると考えられる。また、かかる構成の排ガス浄化用触媒では、アルミナ担体42及びCZ担体44に適量のバリウムが添加されることにより、各担体42、44に対するパラジウム50の分散性が向上する。そのため、高温におけるパラジウム50の粒成長(シンタリング)がより良く抑えられ、触媒の耐久性を向上させることができる。したがって、上記構成によると、従来に比して、パラジウム50のHC被毒が抑制され、さらにパラジウム50のシンタリングが抑制された、浄化性能のよい排ガス浄化用触媒を提供することができる。
【0024】
<アルミナ担体>
ここで開示される排ガス浄化用触媒100を構成する多孔質担体40には、アルミナ担体42が含有される。上記アルミナ担体42は、上述したようにアルミナを主体として構成されている。ここで「主体に構成される」とは、当該担体がアルミナのみから構成されたもの或いは、この種の用途の排ガス浄化用触媒の担体として用いられる他の化合物を含む場合でその容積(若しくは質量)の50%を上回る(例えば70〜80%又はそれ以上)部分がアルミナで構成された担体を包含する用語である。
即ち、ここで開示される排ガス浄化用触媒100を構成するアルミナ担体42は、副成分として他の化合物(典型的には無機酸化物)が混在するものであってもよい。そのような化合物としては、ランタン等の希土類元素、カルシウムなどのアルカリ土類元素、遷移金属元素などが用いられ得る。上記の中で、触媒機能を阻害せずに高温における比表面積を向上させる観点から、安定化剤としてはランタン等の希土類元素が好適に用いられる。これら副成分の含有割合(質量比)が担体全体の3%〜30%である(例えばランタンを凡そ4%含有する)アルミナの含有率が高い担体で構成されたアルミナ担体が特に好ましい。
【0025】
上記アルミナ担体42の形状(外形)は特に制限されないが、より大きい比表面積を確保できるという観点から、粉末状(粒子状)のものが好適に用いられる。アルミナ担体42を構成する粒子の平均粒子径(レーザ回折・散乱法により測定される平均粒子径。特に示す場合を除き以下同じ。)は、1nm以上10nm以下が好ましく、1nm以上3nm以下がより好ましい。また、上記担体を構成する粒子の比表面積(BET法により測定される比表面積。以下同じ。)は50m/g以上150m/g以下が好ましく、80m/g以上120m/g以下がより好ましい。上記担体を構成する粒子の平均粒子径が大きすぎる、または比表面積が小さすぎる場合は、該担体に担持された貴金属の分散性が低下する傾向があり、触媒の浄化性能が低下するため好ましくない。また、上記担体を構成する粒子の粒径が小さすぎる、または比表面積が大きすぎる場合は、上記担体自体の耐熱性が低下するため、触媒の耐熱特性が低下し、好ましくない。
【0026】
<バリウム>
上記アルミナ担体42にはバリウムが添加されている。アルミナ担体42にバリウムを添加することにより、アルミナ担体42に担持されたパラジウム52のHC被毒が抑えられ、触媒活性(特に低温活性)の向上が図られる。また、アルミナ担体42に対するパラジウム52の分散性が向上し、高温におけるパラジウム52の粒成長にともなうシンタリングがより良く抑えられることで、触媒の耐久性を向上させることができる。
ここで開示されるアルミナ担体42としては、上記バリウムの添加量が、該バリウムを除くアルミナ担体の全質量に対して10質量%〜15質量%を満足するものが好ましく、12質量%〜15質量%を満足するものが特に好ましい。バリウムの含有量を上記範囲内とすることにより、低温におけるパラジウム52のHC被毒がより良く抑制され、エンジン始動直後でも高い触媒活性を発揮することができる。また、パラジウム52のシンタリングがより良く抑制され、パラジウム52の耐久性向上が図られる。バリウムの含有量が15質量%より多すぎる、または10質量%より少なすぎる場合は、上述したバリウム添加による触媒性能向上効果が十分に発揮されず、高い浄化性能が得られないことがある。
【0027】
上記バリウムが添加されたアルミナ担体42は、例えば以下のようにして調製することができる。まず、水溶性のバリウム塩(例えば酢酸バリウム)を水に溶かしたバリウム水溶液を調製する。このバリウム水溶液をアルミナ担体42に添加して攪拌し、乾燥させる。得られた粉末を高温(例えば400℃〜600℃程度)条件下にて所定時間保つことにより、アルミナ担体42中にバリウムを含有させることができる。このように、バリウムを水に溶かして溶液状で添加することにより、粒状で添加する場合に比べて、アルミナ担体42中にバリウムが均一に分散する。そのため、バリウム添加による触媒性能向上効果(HC被毒抑制効果及びシンタリング抑制効果)がより良く発揮された高い浄化性能を有する排ガス浄化用触媒を得ることができる。かかるバリウムの添加は、アルミナ担体42にパラジウム52を担持させる前に行ってもよく、アルミナ担体42にパラジウム52を担持させた後に行ってもよいが、アルミナ担体42にパラジウム52を担持させた後に行うことがより好ましい。これにより、上述した効果がより確実に発揮され得る。
【0028】
<パラジウム>
ここに開示される排ガス浄化用触媒100に用いられる上記パラジウム52は、上記バリウムが添加されたアルミナ担体42上に担持されている。アルミナ担体42は、CZ担体44に比べて比表面積が小さく、かつ耐久性(特に耐熱性)が高い。そのため、アルミナ担体42にパラジウム52を担持させることにより、担体全体としての熱安定性が向上するとともに、担体全体に適量のパラジウムを担持させることができる。
上記アルミナ担体42に担持されたパラジウム52の担持量は、該アルミナ担体42のバリウムを含まない状態での全質量に対して0.1質量%〜3質量%に相当する量が適当であり、好ましくは0.1質量%〜1.5質量%である。上記パラジウム52の担持量が少なすぎると、パラジウム52により得られる触媒活性が不十分となり、他方、担持量が多すぎると、パラジウム52が粒成長を起こしやすくなると同時にコスト面でも不利である。
上記アルミナ担体42に上記パラジウム52を担持させる方法としては特に制限されず、例えばパラジウム塩(例えば硝酸塩)やパラジウム錯体(例えば、テトラアンミン錯体)を含有する水溶液に上記アルミナ担体42を含浸させた後、乾燥させ、焼成することにより調製することができる。
【0029】
<CZ担体>
ここで開示される排ガス浄化用触媒100を構成する多孔質担体40には、上述したアルミナ担体42に加えて、CZ担体44が含有される。上記CZ担体44は、セリアとジルコニアとの複合酸化物を主体として構成されている。ここで「主体に構成される」とは、当該担体がセリア‐ジルコニア複合酸化物のみから構成されたもの或いは、この種の用途の排ガス浄化用触媒の担体として用いられる他の化合物を含む場合でその容積(若しくは質量)の50%を上回る(例えば70〜80%又はそれ以上)部分がセリア‐ジルコニア複合酸化物で構成された担体を包含する用語である。
即ち、ここで開示される排ガス浄化用触媒100を構成するCZ担体44は、副成分として他の化合物(典型的には無機酸化物)が混在するものであってもよい。そのような化合物としては、ランタン、イットリウム等の希土類元素、カルシウムなどのアルカリ土類元素、遷移金属元素などが用いられ得る。上記の中で、触媒機能を阻害せずに高温における比表面積を向上させる観点から、安定化剤としてはランタン、イットリウム等の希土類元素が好適に用いられる。これら副成分の含有割合(質量比)が担体全体の3%〜30%である(例えば、ランタンおよびイットリウムをそれぞれ5%ずつ含有する)セリア‐ジルコニア複合酸化物の含有率が高い担体で構成されたCZ担体が特に好ましい。
【0030】
上記CZ担体44の形状(外形)は特に制限されないが、より大きい比表面積を確保できるという観点から、粉末状(粒子状)のものが好適に用いられる。CZ担体44を構成する粒子の平均粒子径は、5nm以上20nm以下が好ましく、7nm以上12nm以下がより好ましい。また、上記担体を構成する粒子の比表面積(BET法により測定される比表面積。以下同じ。)は20m/g以上80m/g以下が好ましく、40m/g以上60m/g以下がより好ましい。上記担体を構成する粒子の平均粒子径が大きすぎる、または比表面積が小さすぎる場合は、該担体に担持された貴金属の分散性が低下する傾向があり、触媒の浄化性能が低下するため好ましくない。また、上記担体を構成する粒子の粒径が小さすぎる、または比表面積が大きすぎる場合は、上記担体自体の耐熱性が低下するため、触媒の耐熱特性が低下し、好ましくない。
【0031】
<バリウム>
上記CZ担体42にはバリウムが添加されている。CZ担体44にバリウムを添加することにより、CZ担体44に担持されたパラジウム54のHC被毒が抑えられ、触媒活性(特に低温活性)の向上が図られる。また、CZ担体44に対するパラジウム54の分散性が向上し、高温におけるパラジウム54の粒成長にともなうシンタリングがより良く抑えられることで、触媒の耐久性を向上させることができる。
ここで開示されるCZ担体44としては、上記バリウムの添加量が、該バリウムを除くCZ担体の全質量に対して5質量%〜10質量%を満足するものが好ましく、5質量%〜8質量%を満足するものが特に好ましい。バリウムの含有量を上記範囲内とすることにより、低温におけるパラジウム54のHC被毒がより良く抑制され、エンジン始動直後でも高い触媒活性を発揮することができる。また、パラジウム54のシンタリングがより良く抑制され、パラジウム54の耐久性向上が図られる。バリウムの含有量が10質量%より多すぎる、または5質量%より少なすぎる場合は、上述したバリウム添加による触媒性能向上効果が十分に発揮されず、高い浄化性能が得られないことがある。
【0032】
上記バリウムが添加されたCZ担体44は、例えば以下のようにして調製することができる。まず、水溶性のバリウム塩(例えば酢酸バリウム)を水に溶かしたバリウム水溶液を調製する。このバリウム水溶液をCZ担体44に添加して攪拌し、乾燥させる。得られた粉末を高温(例えば400℃〜600℃程度)条件下にて所定時間保つことにより、CZ担体44中にバリウムを含有させることができる。このように、バリウム塩を水に溶かして溶液状で添加することにより、粒状で添加する場合に比べて、CZ担体44中にバリウムが均一に分散する。そのため、バリウム添加による触媒性能向上効果(HC被毒抑制効果及びシンタリング抑制効果)がより良く発揮された高い浄化性能を有する排ガス浄化用触媒を得ることができる。かかるバリウムの添加は、CZ担体44にパラジウム54を担持させる前に行ってもよく、CZ担体44にパラジウム54を担持させた後に行ってもよいが、CZ担体44にパラジウム54を担持させた後に行うことがより好ましい。これにより、上述した効果がより確実に発揮され得る。
【0033】
<パラジウム>
ここに開示される排ガス浄化用触媒100に用いられる上記パラジウム54は、上記バリウムが添加されたCZ担体44上に担持されている。かかる構成によると、CZ担体44の酸素吸蔵放出能(OSC)により、排ガス浄化用触媒100は排ガスの成分変動に対して安定した浄化性能を示すことができる。すなわち、自動車のエンジンでは、自動車の走行状態によって、排ガス雰囲気はリッチ側またはリーン側に変動する。上記CZ担体44は酸素吸放出能を有する材料であり、このような酸素吸放出材を有する触媒によれば、排ガス中の酸素濃度が高いときには酸素を吸蔵し、排ガス中の酸素濃度が低いときには酸素を放出するので、排ガス中の酸素濃度の変動を吸収して三元触媒の排ガス浄化能力を高めることができる。
上記CZ担体44に担持されたパラジウム54の担持量は、該CZ担体44のバリウムを含まない状態での全質量に対して0.1質量%〜3質量%に相当する量が適当であり、好ましくは0.1質量%〜1.5質量%である。上記パラジウム54の担持量が少なすぎると、パラジウム54により得られる触媒活性が不十分となり、他方、担持量が多すぎると、パラジウム54が粒成長を起こしやすくなると同時にコスト面でも不利である。
上記CZ担体44に上記パラジウム54を担持させる方法としては、前述したアルミナ担体42にパラジウムを担持させる場合と同様にして行うとよい。例えばパラジウム塩(例えば硝酸塩)やパラジウム錯体(例えば、テトラアンミン錯体)を含有する水溶液に上記CZ担体44を含浸させた後、乾燥させ、焼成することにより調製することができる。
【0034】
<アルミナ担体とCZ担体との混合>
ここで開示される排ガス浄化用触媒100に用いられる上記多孔質担体40は、上記パラジウム52が担持されたアルミナ担体42と、上記パラジウム54が担持されたCZ担体44とを単純に混合することにより得られる。かかるアルミナ担体42とCZ担体44との混合は、例えば、自動乳鉢等で物理的に混合することにより行うとよい。ここで、上記アルミナ担体42と上記CZ担体44は、質量混合比(アルミナ担体:CZ担体)が、80:20〜20:80の範囲内で混合することが好ましい。かかる構成によると、パラジウム52が担持されたアルミナ担体42と、パラジウム54が担持されたCZ担体44との比率が適切なバランスにあるので、アルミナ担体42とCZ担体44とを併用することによる効果(例えば、アルミナ担体42が持つ大きな比表面積及び高い耐久性(特に耐熱性)と、CZ担体44が持つ酸素吸蔵放出能を合わせ持つことができる効果)を適切に発揮することができる。CZ担体44の混合比率が少なすぎると、担体全体としての酸素吸蔵放出能が低下傾向になる場合があり、一方、アルミナ担体42の混合比率が少なすぎると、担体全体の熱安定性が低下したり、比表面積が減少して所望の量のパラジウムを担持するのが困難になったりするため好ましくない。
【0035】
なお、アルミナ担体42及びCZ担体44の混合物の合計質量が、多孔質担体40全体に対して50質量%以上である限りにおいて、多孔質担体40にはアルミナ担体42及びCZ担体44以外の他の成分を混合することができる。例えば、機械強度の増加、耐久性(熱安定性)の向上、触媒のシンタリング抑制、又は触媒の被毒防止などを目的として、アルカリ土類金属元素(又は、アルカリ土類金属酸化物)、希土類元素(又は、希土類酸化物)、シリカ、チタニア、セリア、ジルコニアなどから選択される一種又は複数の元素または酸化物を多孔質担体40に混合することができる。
【0036】
ここで開示される技術には、以下の事項が含まれる。すなわち、多孔質担体40と、該多孔質担体40に担持されたパラジウム50と、を備えた排ガス浄化用触媒100を製造する方法であって:
アルミナからなるアルミナ担体42と、セリア‐ジルコニア複合酸化物からなるCZ担体44と、バリウム及び溶媒を含むバリウム含有溶液とを用意すること;
上記用意したアルミナ担体42及びCZ担体44の各々にパラジウム50を担持させること;
上記パラジウム50が担持されたアルミナ担体42及びCZ担体44の各々に上記バリウム含有溶液を添加し焼成すること;
を包含する。
ここで、上記アルミナ担体42及び上記CZ担体44の各々に添加されるバリウム含有溶液は、上記アルミナ担体42に添加されるバリウムの量が、該バリウムを除くアルミナ担体42の全質量に対して10質量%〜15質量%に相当する量となり、かつ、上記CZ担体44に添加されるバリウムの量が、該バリウムを除くCZ担体44の全質量に対して5質量%〜10質量%に相当する量となるように設定される。
かかる製造方法によると、アルミナ担体42及びCZ担体44の双方に適量のバリウムが添加された排ガス浄化用触媒100を適切に製造することができる。好ましい一態様では、上記バリウム含有溶液として、水溶性のバリウム塩(例えば酢酸バリウム)を水に溶かしたバリウム水溶液を使用する。この構成によると、各担体42、44中にバリウムが均一に分散(高分散)する。そのため、バリウム添加による触媒性能向上効果(HC被毒抑制効果及びシンタリング抑制効果)がより良く発揮された、浄化性能の良い排ガス浄化用触媒を製造することができる。
【0037】
以下、試験例について説明する。ただし、本発明は下記の試験例に限定されるものではない。
【0038】
[Ba含有アルミナ担体]
<例1>
アルミナ担体として、96wt%のAlと、4wt%のLaとからなるアルミナ粉末を用いた。アルミナ粉末100質量部に対し、パラジウム(Pd)が0.5質量部となるように硝酸系Pd薬液を含浸させた後、120℃の温度条件下で30分乾燥させ、更に500℃の温度条件下で2時間放置することによって焼成し、Pd/アルミナ粉末を作製した。また、酢酸バリウムを水に溶解してバリウム水溶液を調製した。そして、上記作製したPd/アルミナ粉末100質量部に対し、バリウムが5質量部となるようにバリウム水溶液を添加した後、120℃の温度条件下で30分乾燥させ、更に500℃の温度条件下で2時間焼成した。得られた触媒粉末に冷間等方圧プレス機により約1トンの荷重を加え、約1mmの体積を持つペレットを成形し、例1の触媒サンプルとした。
【0039】
<例2>
Pd/アルミナ粉末100質量部に対し、バリウム(Ba)が10質量部となるようにバリウム水溶液を添加したこと以外は例1と同様にしてペレットを成形し、例2の触媒サンプルとした。
【0040】
<例3>
Pd/アルミナ粉末100質量部に対し、バリウム(Ba)が15質量部となるようにバリウム水溶液を添加したこと以外は例1と同様にしてペレットを成形し、例3の触媒サンプルとした。
【0041】
<例4>
Pd/アルミナ粉末100質量部に対し、バリウム(Ba)が22質量部となるようにバリウム水溶液を添加したこと以外は例1と同様にしてペレットを成形し、例4の触媒サンプルとした。
【0042】
<例5>
例1と同様にして作製したPd/アルミナ粉末(すなわちバリウムを添加していないPd/アルミナ粉末)から、CIPを用いて約1mmの体積を持つペレットを成形し、例5の触媒サンプルとした。
【0043】
[Ba含有CZ担体]
<例6>
CZ担体として、30wt%のCeOと、60wt%のZrOと、5wt%のLaと、5wt%のYとからなるCZ粉末を用いた。CZ粉末100質量部に対し、パラジウム(Pd)が0.5質量部となるように硝酸系Pd薬液を含浸させた後、120℃の温度条件下で30分乾燥させ、更に500℃の温度条件下で2時間放置することによって焼成し、Pd/CZ粉末を作製した。また、酢酸バリウムを水に溶かしてバリウム水溶液を調製した。そして、上記作製したPd/CZ粉末100質量部に対し、バリウムが5質量部となるようにバリウム水溶液を添加した後、120℃の温度条件下で30分乾燥させ、更に500℃の温度条件下で2時間焼成した。得られた触媒粉末に冷間等方圧プレス機により約1トンの荷重を加え、約1mmの体積を持つペレットを成形し、例6の触媒サンプルとした。
【0044】
<例7>
Pd/CZ粉末100質量部に対し、バリウム(Ba)が10質量部となるようにバリウム水溶液を添加したこと以外は例6と同様にしてペレットを成形し、例7の触媒サンプルとした。
【0045】
<例8>
Pd/CZ粉末100質量部に対し、バリウム(Ba)が15質量部となるようにバリウム水溶液を添加したこと以外は例6と同様にしてペレットを成形し、例8の触媒サンプルとした。
【0046】
<例9>
Pd/CZ粉末100質量部に対し、バリウム(Ba)が22質量部となるようにバリウム水溶液を添加したこと以外は例6と同様にしてペレットを成形し、例9の触媒サンプルとした。
【0047】
<例10>
例6と同様にして作製したPd/CZ粉末(すなわちバリウムを添加していないPd/CZ粉末)から、CIPを用いて約1mmの体積を持つペレットを成形し、例10の触媒サンプルとした。
【0048】
[耐久試験]
例1〜10に係る各サンプルについて、環状反応炉を用いて耐久試験を実施した。耐久試験は上記サンプルを1100℃で保持しながら一酸化炭素(CO)2容量%のガス(バランスガスは窒素)と、酸素(O)1容量%のガス(バランスガスは窒素)を5分間サイクルで5時間、交互に繰り返し流すことにより行った。
【0049】
[50%浄化温度測定試験]
上記耐久試験後の例1〜10に係る各サンプルについて、表1のガス条件下で、100℃〜600℃(昇温速度20℃/分)の昇温時におけるHCガスの浄化率を連続的に測定し、50%浄化温度を測定した。ここで50%浄化温度とは、HCガスの浄化率が50%に達した時の触媒入口のガス温度である。ここではオレフィン被毒抑制効果を調べるため、プロピレン(C)とプロパン(C)の2種類のHCガスを使用し、比較した。結果を図4及び図5に示す。図4はプロピレンを使用した場合のバリウム含有量と50%浄化温度との関係を示すグラフであり、図5はプロパンを使用した場合のバリウム含有量と50%浄化温度との関係を示すグラフである。
【0050】
【表1】

【0051】
図4から明らかなように、アルミナ担体中のバリウム含有量を0(ゼロ)とした例5に係る触媒サンプルは、プロピレンの50%浄化温度が490℃を超えていた。これに対し、アルミナ担体にバリウムを添加した例1〜4に係る触媒サンプルは、例5に比べてプロピレンの50%浄化温度が低く、より低温触媒活性に優れるものとなった。特にアルミナ担体中のバリウム含有量を10質量%〜15質量%とすることによって、450℃以下という極めて低い50%浄化温度を達成できた(例2、3)。低温触媒活性向上の観点からは、アルミナ担体中のバリウム含有量を10質量%〜15質量%にすることが望ましい。
【0052】
CZ担体についてもアルミナ担体と同様である。すなわち、CZ担体中のバリウム含有量を0(ゼロ)とした例10に係る触媒サンプルは、プロピレンの50%浄化温度が410℃を超えていた。これに対し、CZ担体にバリウムを添加した例6〜9に係る触媒サンプルは、例10に比べてプロピレンの50%浄化温度が低く、より低温触媒活性に優れるものとなった。特にCZ担体中のバリウム含有量を5質量%〜10質量%とすることによって、400℃以下という極めて低い50%浄化温度を達成できた(例6、7)。低温触媒活性向上の観点からは、CZ担体中のバリウム含有量を5質量%〜10質量%にすることが望ましい。
【0053】
なお、図5に示すように、HCガスとしてプロパンを用いた場合、CZ担体にバリウムを添加した例6〜9に係る触媒サンプルは、例10に比べてプロパンの50%浄化温度が低く、より低温触媒活性に優れるものとなった。これに対し、アルミナ担体にバリウムを添加した例1〜4に係る触媒サンプルは、例5に比べて50%浄化温度が高く、低温触媒活性に欠けるものであった。このことから、アルミナ担体にバリウムを添加することによる低温触媒活性向上効果については、プロピレンなどの低級オレフィンを浄化する場合に特に有効に発揮されることが分かった。
【0054】
[Pd分散度]
さらに、例1〜10の触媒サンプルについて、COパルス法によりCO(一酸化炭素)吸着量を測定し、Pd分散度を算出した。ここでPd分散度とは、触媒中のPd原子数の総数Aに対する、Pd粒子表面に露出しているPd原子数Bの比率であり、Pd分散度(%)=(B/A)×100により算出される。ここで、触媒中のPd原子数の総数Aは、担体上に担持させたPdの総質量に基づいて算出される。また、Pd粒子表面に露出しているPd原子数Bは、Pd粒子表面に露出しているPd原子とCOとが1:1で吸着するという前提に基づき、COパルス法で吸着したCO量から算出される。結果を図6に示す。
【0055】
図6から明らかなように、アルミナ担体中のバリウム含有量を0(ゼロ)とした例5に係る触媒サンプルは、Pd分散度が0.8%以下であった。これに対し、アルミナ担体にバリウムを添加した例1〜4に係る触媒サンプルは、例5に比べてPd分散度が高く、より分散性(延いてはPdのシンタリング耐性)に優れるものとなった。特にアルミナ担体中のバリウム含有量を10質量%〜15質量%とすることによって、1.0%以上という極めて高いPd分散度を達成できた(例2、3)。シンタリング耐性向上の観点からは、アルミナ担体中のバリウム含有量を10質量%〜15質量%にすることが望ましい。
【0056】
CZ担体についてもアルミナ担体と同様である。すなわち、CZ担体中のバリウム含有量を0(ゼロ)とした例10に係る触媒サンプルは、Pd分散度が0.25%以下であった。これに対し、CZ担体にバリウムを添加した例6〜9に係る触媒サンプルは、例10に比べてPd分散度が高く、より分散性(延いてはPdのシンタリング耐性)に優れるものとなった。特にCZ担体中のバリウム含有量を5質量%〜10質量%とすることによって、1.0%以上という極めて高いPd分散度を達成できた(例6、7)。シンタリング耐性向上の観点からは、CZ担体中のバリウム含有量を5質量%〜10質量%にすることが望ましい。
【0057】
続いて、アルミナ担体及びCZ担体に対するバリウムの添加形態の違いが触媒性能に与える影響を確認するため、以下の試験を行った。
【0058】
<例11>
例1と同様にしてPd/アルミナ粉末を作製した。このPd/アルミナ粉末に対し、バリウムを粒状のまま添加した。具体的には、粒状の硫酸バリウムを水中に分散させたバリウム含有溶液を調製した。そして、上記作製したPd/アルミナ粉末100質量部に対し、バリウム(Ba)が5質量部となるようにバリウム含有溶液を添加した後、120℃の温度条件下で30分乾燥させ、更に500℃の温度条件下で2時間焼成した。得られた触媒粉末に冷間等方圧プレス機により約1トンの荷重を加え、約1mmの体積を持つペレットを成形し、例11の触媒サンプルとした。
【0059】
<例12>
例6と同様にしてPd/CZ粉末を作製した。このPd/CZ粉末に対し、バリウムを粒状のまま添加した。具体的には、硫酸バリウムを水中に分散させたバリウム含有溶液を調製した。そして、上記作製したPd/CZ粉末100質量部に対し、バリウム(Ba)が5質量部となるようにバリウム含有溶液を添加した後、120℃の温度条件下で30分乾燥させ、更に500℃の温度条件下で2時間焼成した。得られた触媒粉末に冷間等方圧プレス機により約1トンの荷重を加え、約1mmの体積を持つペレットを成形し、例12の触媒サンプルとした。
【0060】
例11及び例12の触媒サンプルについて、例1〜10と同様にして耐久試験および50%浄化温度測定試験を行い、その性能を評価した。例11の結果を例1の結果とともに図7に示す。例12の結果を例6の結果とともに図8に示す。
【0061】
図7に示すように、アルミナ担体にバリウムを粒状で添加した例11に係る触媒サンプルは、バリウムを水に溶かして溶液状で添加した例1の触媒サンプルに比べて、50%浄化温度が高く、低温触媒活性に欠けるものであった。CZ担体についてもアルミナ担体と同様である。図8に示すように、CZ担体にバリウムを粒状で添加した例12に係る触媒サンプルは、バリウムを水に溶かして溶液状で添加した例6の触媒サンプルに比べて、50%浄化温度が高く、低温触媒活性に欠けるものであった。これは、バリウムを水に溶かして添加した方がBaの分散性が高く、HC被毒抑制効果が効果的に発揮されたためと考えられる。
【0062】
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態及び実施例は例示にすぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0063】
10 ハニカム基材
12 セル
14 リブ壁
20 基材
30 触媒層
40 多孔質担体
42 アルミナ担体
44 CZ担体
50 パラジウム
100 排ガス浄化用触媒



【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質担体と、該多孔質担体に担持されたパラジウムと、を備えた排ガス浄化用触媒であって、
前記多孔質担体は、アルミナからなるアルミナ担体と、セリア‐ジルコニア複合酸化物からなるCZ担体とを備えており、
前記アルミナ担体及び前記CZ担体の各々には、バリウムが添加されており、
ここで、前記アルミナ担体に添加されたバリウムの量が、該バリウムを除くアルミナ担体の全質量に対して10質量%〜15質量%に相当する量であり、かつ、
前記CZ担体に添加されたバリウムの量が、該バリウムを除くCZ担体の全質量に対して5質量%〜10質量%に相当する量である、排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
前記アルミナ担体と前記CZ担体との質量混合比(アルミナ担体:CZ担体)が、80:20〜20:80の範囲内にある、請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記アルミナ担体に担持されたパラジウムの担持量は、該アルミナ担体のバリウムを含まない状態での全質量に対して0.1質量%〜3質量%に相当する量である、請求項1または2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
前記CZ担体に担持されたパラジウムの担持量は、該CZ担体のバリウムを含まない状態での全質量に対して0.1質量%〜3質量%に相当する量である、請求項1〜3の何れか一つに記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項5】
多孔質担体と、該多孔質担体に担持されたパラジウムと、を備えた排ガス浄化用触媒を製造する方法であって:
アルミナからなるアルミナ担体と、セリア‐ジルコニア複合酸化物からなるCZ担体と、バリウム及び溶媒を含むバリウム含有溶液を用意すること;
前記用意したアルミナ担体及びCZ担体の各々にパラジウムを担持させること;及び、
前記パラジウムが担持されたアルミナ担体及びCZ担体の各々に前記バリウム含有溶液を添加し焼成すること;
を包含し、
ここで、前記アルミナ担体及び前記CZ担体の各々に添加されるバリウム含有溶液は、前記アルミナ担体に添加されるバリウムの量が、該バリウムを除くアルミナ担体の全質量に対して10質量%〜15質量%に相当する量となり、かつ、
前記CZ担体に添加されるバリウムの量が、該バリウムを除くCZ担体の全質量に対して5質量%〜10質量%に相当する量となるように設定される、排ガス浄化用触媒の製造方法。
【請求項6】
前記バリウム含有溶液として、水溶性のバリウム塩を水に溶かしたバリウム水溶液を使用する、請求項5に記載の製造方法。










【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−91041(P2013−91041A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235359(P2011−235359)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】