説明

排ガス浄化用触媒

【課題】 Rhの移動を抑制することができ、NOx浄化性能に優れた排ガス浄化用触媒を提供する。
【解決手段】 排ガス浄化用触媒は、排ガスが流通するガス流路を形成する基材1と、基材1の表面に形成された下触媒層2と、下触媒層2の表面に形成された上触媒層3と、をもつ。下触媒層2は、Pt及びPdの少なくとも1種を含む下触媒貴金属と、下触媒貴金属を担持する下担体とを有する。上触媒層3は、Rhを含む上触媒貴金属と、上触媒貴金属を担持する上担体とを有する。上担体は、Ceと、Zrと、Alと、Ce以外の希土類元素及びアルカリ土類元素からなる群から選択される少なくとも1種以上と、Ndとを含む無機混合酸化物からなる。無機混合酸化物は、内部と、内部の表面を被覆する被覆層とからなり、Ndは、被覆層に偏在している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Rh、Pt、Pdなどの触媒貴金属を担持した排ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の排ガスを浄化する排ガス浄化用触媒は、基材の表面に触媒層を形成したものである。触媒層は、Rh、Pt、Pdなどの貴金属触媒と、貴金属触媒を担持する担体とからなる。排ガスが触媒層に流通すると、貴金属触媒によって排ガス成分が浄化される。貴金属触媒の触媒性能を効果的に発揮させるために、従来、触媒層を、上流側と下流側に分けて形成したり、触媒層を基材上に複数積層したりすることが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1の実施例1に開示された触媒は、ガス流路の上流側、下流側に前段触媒層、後段触媒層を設け、後段触媒層を更に、基材表面に形成した下触媒層と、下触媒層の表面に形成した上触媒層とに分けて形成している。特許文献1の実施例1では、前段触媒層はPdを担持し、後段触媒層の中の下触媒層はPd/Ptを担持し、上触媒層はPt/Rhを担持している。
【0004】
しかし、エンジンから排出された高温の排ガスが流通すると、上触媒層に担持されているRhは、下触媒層に移動したり、シンタリングをおこしたりしてしまう。
【0005】
また、触媒層にセリアを添加することが行われている。セリアは、酸化雰囲気下では酸素を貯蔵し、還元雰囲気下では酸素を放出する酸素吸放出能(以下OSC という)をもち、これにより触媒層を流通する排ガスの酸素濃度を安定に保ち、触媒活性が向上する。特に、酸素濃度が低くなりがちな下触媒層には多くのセリアが添加されることが多い。
【0006】
上触媒層中のRhは、塩基性の強いセリアに移動する傾向がある。上触媒層の下に、セリアを添加した下触媒層を配置した場合、上触媒層に担持されているRhが高温雰囲気で下触媒層中のセリアに移動する要因となっている。
【0007】
Rhの移動現象により、ガス接触率の高い上触媒層でRhが欠如してしまう。更に、Rhが下触媒層中のPtと合金化すると、Rhの浄化性能が低下するとともに、Ptの浄化性能も低下する。
【0008】
そこで、特許文献2には、セリウムとネオジムとを酸化ジルコニウム中に固溶させることで、Rhの移動を抑制することが提案されている。
【0009】
また、特許文献3には、Ce・Zr・Nd複合酸化物にRh及びBaを担持することで、Rhのシンタリングを抑制することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2000−510761
【特許文献2】特開平6−63403号公報
【特許文献3】特開2003−170047
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献2のようにセリウムとネオジムとを酸化ジルコニウム中に固溶させた場合でも、上触媒層のRhの下触媒層への移動を十分に抑制することができない。
【0012】
このRh移動現象は、Rhを上触媒層に保持しようとする力と下触媒層に引き付ける力との競合によって生じると考えられる。したがって、Rhを上触媒層に保持しようとする上担体の影響力と下触媒層に引き付ける下担体の影響力とのバランスを最適化することが重要であると考えられる。
【0013】
また、特許文献3のようにCe・Zr・Nd複合酸化物にRh及びBaを担持させた場合にも、Rhのシンタリングを十分に抑えることはできず、HC、CO及びNOxの浄化性能が十分ではない。
【0014】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、Rhの移動を抑制することができ、且つRhのシンタリングを抑制することができる排ガス浄化性能に優れた排ガス浄化用触媒を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の排ガス浄化用触媒は、排ガスが流通するガス流路を形成する基材と、該基材の表面に形成された下触媒層と、前記下触媒層の表面に形成された上触媒層と、をもつ排ガス浄化用触媒であって、前記下触媒層は、Pt及びPdの少なくとも1種を含む下触媒貴金属と、該下触媒貴金属を担持する下担体とを有し、 前記上触媒層は、Rhを含む上触媒貴金属と、該上触媒貴金属を担持する上担体とを有し、該上担体は、Ceと、Zrと、Alと、Ce以外の希土類元素及びアルカリ土類元素からなる群から選択される少なくとも1種以上と、Ndとを含む無機混合酸化物からなり、該無機混合酸化物は、内部と、該内部の表面を被覆する被覆層とからなり、前記Ndは、前記被覆層に偏在していることを特徴とする。
【0016】
上記排ガス浄化用触媒は、Pt(白金)及びPd(パラジウム)の少なくとも1種を含有する下触媒層と、Rh(ロジウム)を含有する上触媒層とを有する。上触媒層は、Rhにより主として排ガス中のNOxの還元浄化が行われる。Rhは、排ガス中のHCから水素改質反応によって水素を発生させる。この水素の還元力によって、排ガス中のNOxが還元浄化される。
【0017】
排ガス成分中のCOは、分子構造が比較的小さく、拡散速度が比較的速い。このため、COは、上触媒層よりも下側に配置された下触媒層に素早く拡散する。ゆえに、下触媒層に担持されているPt及び/又はPdは、主としてCO及びHCを酸化浄化することができる。
【0018】
ここで、Rhを担持している上担体は、Ceと、Zrと、Alと、Ce以外の希土類元素及びアルカリ土類元素からなる群から選択される少なくとも1種以上と、Ndとを含む無機混合酸化物からなる。無機混合酸化物は、内部と表面層とからなる。上担体中のNdは、Rhと強い相互作用を示すため、Rhを引き寄せる力が強い。Ndは無機混合酸化物の表面層に偏在している。ゆえに、NdはRhに近接でき、Rhを引きつける力を効果的に発揮することができる。従って、高温下に晒されても、Rhは、上触媒層に留まり且つ高分散して保持される。Rhは、下触媒層への移動が抑制され、下触媒層に担持されているPtやPdと合金化することを抑制できる。したがって、Rhは、本来のNOx浄化性能を効果的に発揮することができる。また、下触媒層中のPtやPdも、HC及びCOの浄化性能を効果的に発揮することができる。
【0019】
前記上担体の前記無機混合酸化物中のCeO含有量は、10〜20質量%であることが好ましい。CeOをこの範囲で含有させることにより、Rh本来のNOx浄化性能を効果的に発揮しつつ、十分なOSC性能(酸素吸蔵放出能)を発現することができる。
【0020】
前記下担体は、CeOとCeO以外の金属酸化物とを含む複合酸化物粒子からなり、該複合酸化物粒子中のCeO含有量は、20〜30質量%であることが好ましい。この場合には、下担体の複合酸化物粒子中のCeOの含有量が比較的少ないため、下担体の複合酸化物粒子中のCeOは、上触媒層中のRhを引きつける影響力は弱い。このため、Rhの下触媒層への移動をより一層抑えることができる。また、Rhは、下触媒層に含まれているPtやPdと合金化することを抑制でき、触媒の低温浄化性能にも優れる。さらに、CeOのOSC性能(酸素吸蔵放出能)も高い。
【発明の効果】
【0021】
本発明の排ガス浄化用触媒によれば、Rhを、Ndが表面層に偏在している無機混合酸化物に担持しているため、Rhの移動を抑制し、且つ高分散した状態で保持することが可能となり、排ガス浄化性能に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例1の排ガス浄化用触媒の断面図である。
【図2】測定1における実施例1,2及び比較例1の上触媒層でのRh割合を示す説明図である。
【図3】測定1における実施例1,2及び比較例1の触媒のHC、CO及びNOxの50%浄化温度を示す説明図である。
【図4】上担体の無機混合酸化物の調製時に使用されたNd/Zr比と、無機混合酸化物に含まれるNd/Zr比との関係を示す図である。
【図5】上担体の無機混合酸化物中のCeOの含有量を変化させたときの、上触媒層でのRh割合を示す説明図である。
【図6】上担体の無機混合酸化物中のCeOの含有量を変化させたときの触媒のHC50%浄化温度を示す説明図である。
【図7】下担体の複合酸化物粒子中のCeOの含有量を変化させたときの、上触媒層でのRh割合を示す説明図である。
【図8】下担体の複合酸化物粒子中のCeOの含有量を変化させたときの触媒のHC50%浄化温度を示す説明図である。
【図9】下担体の複合酸化物粒子中のCeOの含有量を変化させたときの、触媒のOSC性能を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の排ガス浄化用触媒は、基材と、下触媒層と、上触媒層とを有する。
【0024】
基材は、ガス流路を有する構造をもち、例えば、ハニカム形状、フォーム形状、プレート形状などの形状を有するものを用いる。基材の材質は、特に限定されず、コージェライト、SiCなどのセラミックス製のもの、あるいは金属製のものなど、公知のものを用いることができる。
【0025】
基材の表面には、下触媒層が形成されている。下触媒層は、下触媒貴金属と、下触媒貴金属を担持する下担体とを有する。
【0026】
下触媒貴金属は、Pt及びPdの少なくとも1種を含む。下触媒貴金属は、Pt及びPdのほかに、PtやPdの性能を妨げないように、Rh等の貴金属触媒を含んでいても良い。
【0027】
下触媒層におけるPtとPdとをあわせた担持量は、基材1リットル当たり、0.5〜1.5gであることが好ましい。この場合には、PtやPdによるCO及びHCの酸化浄化性能が向上する。なお、本明細書において「基材1リットル当たり」とは、「基材の純体積に、基材の内部に形成されている空隙の容積も含めた全体の嵩容積1リットル当たり」を意味する。基材の内部が複数のセルに区画されている場合には、基材の純体積に、セルの容積も含めた全体の嵩容積1リットルを意味する。なお、セルはガス流路を形成する空洞部を意味する。
【0028】
下担体は、下触媒貴金属を担持する担体であって、CeO(セリア)と、他の金属酸化物とを含む複合酸化物粒子からなるとよい。CeOは、酸素吸放出材である。下担体の複合酸化物粒子がCeOを含む場合には、OSC性能が発揮されて、排ガスの酸素濃度を安定に維持することができ、触媒の浄化性能を効果的に発揮することができる。
【0029】
更には、下担体の複合酸化物粒子は、CeOとZrOとを含むとよい。CeOとZrOとは、固溶体を形成しているとよい。この場合には、CeOの熱劣化を抑制することができる。
【0030】
下担体の複合酸化物粒子の中のCeOの含有量は、20〜30質量%であることが好ましい。上触媒層に担持されているRhは、塩基性の強いCeOに引き寄せられる傾向にある。このため、下担体の複合酸化物粒子中に含まれるCeOの含有量を従来よりも減少させることにより、上触媒層中のRhを、下触媒層に移動させることを抑えることができる。
【0031】
下担体の複合酸化物粒子の中のCeOの含有量が20質量%未満の場合には、OSC性能が不十分である。下担体の複合酸化物粒子の中のCeOの含有量が30質量%を超える場合には、上触媒層中のRhの下触媒層中への移動が懸念される。
【0032】
下担体の複合酸化物粒子におけるZrOに対するCeOの比率は、質量比で28〜50%であることが好ましい。この場合には、上触媒層中のRhの移動を抑えつつOSC性能を効果的に発揮することができる。
【0033】
下担体の複合酸化物粒子は、希土類元素の酸化物を含んでいても良い。希土類元素としては、Sc、Y、La、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luなどが挙げられる。この中、Y及びLaの少なくとも1種を含んでいると良い。この場合には、下担体の複合酸化物粒子が安定化する。
【0034】
下担体は、La及びYを添加したZrO―CeOからなる複合酸化物粒子を有し、該複合酸化物粒子中のCeO含有量が20〜30質量%であることが好ましい。この場合には、LaやYにより下担体のOSC性能に優れ、またRhの移動を効果的に抑制でき、触媒活性を向上させることができる。
【0035】
下触媒層は、下触媒貴金属及び前記複合酸化物粒子からなる下担体のほかに、Al粒子などの追加担体成分を含んでいても良い。下触媒層にAl粒子を含む場合には、下触媒層の上触媒層に対する付着強度が向上する。
【0036】
下触媒層は、下触媒貴金属及び前記複合酸化物粒子からなる下担体、及びAl粒子などの追加担体成分の他に、Baを含んでいるとよい。
【0037】
下担体及び追加担体成分の中のCeO含有量は20〜30質量%であることが好ましい。また、下触媒層全体の中のCeO含有量が10〜24質量%であることが好ましい。この場合には、下担体のOSC性能に優れ、またRhの移動を効果的に抑制でき、高い触媒活性を発揮させることができる。
【0038】
下触媒層の厚みは、25〜50μmであることが好ましい。この場合には、触媒活性を効果的に発揮させることができる。
【0039】
下触媒層の表面には上触媒層が形成されている。上触媒層は、上触媒貴金属と、上触媒貴金属を担持する上担体とを有する。
【0040】
上触媒貴金属は、少なくともRhを含む。Rhの上担体への担持量は、基材1リットル当たり0.1〜0.3gであることが好ましい。Rhの上担体への担持量が0.1g/L未満の場合には、RhによるNOxの浄化性能が低下するおそれがある。一方、Rhの上担体への担持量が0.3g/Lを越える場合には、Rhの活性が飽和するとともに過剰なRhによりコスト高になる。
【0041】
上触媒貴金属は、Rhの性能を損なわない程度に、Pdなどの他の触媒貴金属が含まれていても良い。上触媒貴金属は、Ptが含まれていないことが良い。PtとRhとの合金化を防ぐためである。
【0042】
上担体は、上触媒貴金属を担持する担体であって、Ceと、Zrと、Alと、Ce以外の希土類元素及びアルカリ土類元素からなる群から選択される少なくとも1種以上と、Ndとを含む無機混合酸化物からなる。上担体の無機混合酸化物のうち、セリウム以外の希土類元素から選択される少なくとも1種以上の元素は、下触媒層に含まれることがある前述の希土類元素と同様のものであってもよい。
【0043】
上担体の無機混合酸化物中のセリウム(Ce)とジルコニウム(Zr)は、互いに固溶して複合酸化物を形成し得る。そして、このような複合酸化物が形成されると、得られる無機混合酸化物は高いOSC性能を発揮する。一方、無機混合酸化物中のアルミニウム(Al)は酸化アルミニウムとして存在し、酸化セリウム、酸化ジルコニウム及び/又はこれらの複合酸化物の一次粒子とは別の一次粒子として存在する。これらの一次粒子が互いに介在しながら凝集して、二次粒子を形成するため、同種の酸化物同士の凝集が抑制される。これらの一次粒子の表面層にNdを偏在させた無機混合酸化物にRhが担持されると、高温酸化雰囲気下においてRhの高分散保持を可能とし、且つRhの移動を抑制することができる。
【0044】
この理由としては、以下の2つが考えられる。第1に、高温酸化雰囲気下で、Rhは、Rh−O−Nd結合によって安定化するため、Rhの移動や粒生長が抑制される。第2に、NdとRhの結晶構造が互いに六方晶であることもRhの移動を抑制することに有意に作用する。
【0045】
上記構成を有する無機混合酸化物を調製する方法の一つとして、例えば、共沈法などを行う。共沈法では、第1粒子を構成するCe、Zrなどの硝酸塩と、第2粒子を構成するAlなどの硝酸塩との混合水溶液を調製し、そこへアンモニア水などを添加することで酸化物前駆体を析出させ、それを焼成することで第1粒子及び第2粒子が混合、凝集した二次粒子を得、次に、硝酸ネオジム水溶液の中に、二次粒子を混合、攪拌させ、焼成する方法がある。これにより、二次粒子中の第1粒子及び第2粒子のそれぞれの表面に、Ndを偏在させることができる。
【0046】
上担体の無機混合酸化物中のNd含有量は、0.50〜6質量%であることが好ましく、更には1〜6質量%であることが望ましい。この場合には、Rhの高分散保持とRhの移動抑制効果を発揮することができる。
【0047】
上担体の無機混合酸化物中のCeOの含有量は、10〜20質量%であることが好ましい。この場合には、OSC性能を発揮させつつ、Rhの高い触媒活性を発揮させることができる。
【0048】
上触媒層には、上担体のほかに、Al粒子などの追加担体成分を含んでいても良い。
【0049】
無機混合酸化物及び追加担体成分の合計質量に対する無機混合酸化物の質量の比率は、50〜80質量%であることが好ましい。上触媒層中の無機混合酸化物の含有量は、50〜80質量%であることが好ましい。この場合には、Rhの移動を効果的に抑制できる。
【0050】
複合酸化物粒子及び追加担体成分の中のCeO含有量は、10〜20質量%であることが好ましい。上触媒層中のCeOの含有量は、5〜16質量%であることが好ましい。この場合には、Rhの移動を効果的に抑制できる。
【0051】
上触媒層は、下触媒層の表面の前段側(上流側)の端部から後段側(下流側)の端部までの全体に形成されてもよいが、下触媒層の表面の一部のみに形成されてもよい。下触媒層の表面の一部のみに上触媒層を形成する場合には、上触媒層は、下触媒層の表面の中間部分から後段側端部までに形成するとよく、また下触媒層の表面の前段側端部から中間部分まではPdを担持したPd触媒層を形成してもよい。
【0052】
基材表面に下触媒層を形成するに当たっては、下担体からなる担体粉をスラリーとなし、このスラリーを基材の表面にウォッシュコートし、それに下触媒貴金属を担持してもよい。また、担体粉末に予め下触媒貴金属を担持した触媒粉末をスラリーとなし、これを基材表面にウォッシュコートしてもよい。
【0053】
下触媒層の表面に上触媒層を形成するに当たっては、上担体からなる担体粉末をスラリーとなし、このスラリーを下触媒層の表面にウォッシュコートし、それに上触媒貴金属を担持してもよい。また、担体粉末に予め上触媒貴金属を担持した触媒粉末をスラリーとなし、これを下触媒層の表面にウォッシュコートしてもよい。
【0054】
本発明の排ガス浄化用触媒は、例えば、三元触媒として用いられる。三元触媒は、車両の排ガス中のHC、COおよびNOxを同時に酸化又は還元して浄化する触媒である。
【実施例】
【0055】
本発明について、実施例及び比較例を用いて具体的に説明する。
【0056】
(実施例1)
本例の排ガス浄化用触媒は、図1に示すように、基材1と、基材1の表面に形成された下触媒層2と、下触媒層2の表面に形成された上触媒層3とからなる。基材1は、容量875ccのモノリス基材であり、コーディエライト製ハニカム構造をもつ。基材1の内部は、隔壁によって多数のセルに区画されている。各セルには、ガス通路が形成されている。セルを区画する隔壁の表面には下触媒層2が形成され、下触媒層2の表面には上触媒層3が形成されている。
【0057】
下触媒層2は、下触媒貴金属と、下担体と、La添加Alと、BaSOと、Alバインダーとからなる。下触媒貴金属は、Ptであり、基材1リットル当たりのPt担持量は0.50gである。下担体は、La及びPrを添加したCeO−ZrOからなる複合酸化物粒子からなる。下担体の複合酸化物粒子の組成比は、質量%で、CeO/ZrO/La/Pr=60/30/3/7である。下担体の複合酸化物粒子中のCeO含有量は60質量%である。複合酸化物粒子及びLa添加Alの中のCeOの含有量は、45質量%である。
【0058】
下触媒層2の各成分の基材表面へのコート量は、複合酸化物粒子については120g/L、La添加Alについては40g/L、BaSOについては10g/L、Alバインダーについては3g/Lである。
【0059】
上触媒層3は、上触媒貴金属と、上担体と、La添加Alと、Alバインダーとからなる。上触媒貴金属はRhであり、基材1リットル当たりのRh担持量は0.15gである。上担体は、Nd・Al・Ce・Zr・Laの酸化物からなる無機混合酸化物からなる。上担体の無機混合酸化物の組成比は、質量%で、Nd/Al/CeO/ZrO/La=2/51/20/25/2である。
【0060】
上触媒層3の各成分のコート量は、無機混合酸化物については60g/L、La添加Alについては25g/L、Alバインダーについては3g/Lである。
上担体の無機混合酸化物及びLa添加Alをあわせた合計質量に対する無機混合酸化物の質量の比率は、70.6質量%である。上触媒層の中の無機混合酸化物の含有量は、68.2質量%である。
【0061】
上担体の無機混合酸化物中のCeO含有量は、20質量%である。無機混合酸化物及びLa添加Alの中のCeO含有量は、14.1質量%である。上触媒層3の中のCeO含有量は、13.6質量%である。
【0062】
排ガス浄化用触媒を製造するに当たっては、まず、下担体の複合酸化物粒子を以下のように調製した。出発原料として硝酸セリウム、オキシ硝酸ジルコニウム、硝酸ランタン、硝酸プラセオジウムを純水に溶解し、0.3Mの前駆体溶液を得た。次に、純水で薄めたアンモニア水に前駆体溶液を滴下し、ホモジナイザーで攪拌し、遠心分離機で水分を除去して沈殿物のみを回収した。これらの沈殿物を、150℃×7時間で乾燥した後、400℃×5時間で仮焼成し、700℃×5時間で焼成することにより結晶化させた。その後、ブレンダーで粉砕して粉末状とした。これにより、La及びPrを添加したCeO−ZrOからなる粉末状の複合酸化物粒子を得た。
【0063】
次に、複合酸化物粒子を硝酸白金水溶液に浸漬し、焼成して、複合酸化物粒子に白金を担持させた。白金を担持させた複合酸化物粒子に、BaSOとLa添加AlとAlバインダーとを混合してスラリー(A)を作製し、基材1表面にコートした。コートされたスラリー(A)を乾燥、焼成して、下触媒層2を形成した。
【0064】
次に、上担体を調製するにあたっては、まず、出発原料として硝酸アルミニウム、硝酸セリウム、オキシ硝酸ジルコニウム、硝酸ランタンを純水に溶解し、0.3Mの前駆体溶液を得た。次に、純水で薄めたアンモニア水に前駆体溶液を滴下し、ホモジナイザーで攪拌し、遠心分離機で水分を除去して沈殿物のみを回収した。これらの沈殿物を、150℃×7時間で乾燥した後、400℃×5時間で仮焼成し、900℃×5時間で焼成することにより結晶化させた。その後、ブレンダーで粉砕して粉末とした。この粉末は、La添加CeO−ZrOからなる第1粒子とLa添加Alからなる第2粒子が混合、凝集した二次粒子よりなる。
【0065】
硝酸ネオジムを水溶化し、この粉末を混合、攪拌させた。攪拌後、120℃×40時間で乾燥させ、900℃×5時間で焼成した。これにより、第1粒子及び第2粒子の表面層にNdが偏析されて、粉末状の無機混合酸化物が得られる。
【0066】
この無機混合酸化物を硝酸ロジウム水溶液に浸漬し、焼成して、無機混合酸化物にロジウムを担持させた。ロジウムを担持させた無機混合酸化物に、La添加AlとAlバインダーとを混合してスラリー(B)を調製し、下触媒層2の表面にコートした。コートされたスラリー(B)を乾燥、焼成して、上触媒層3を形成した。
【0067】
(実施例2)
本例の排ガス浄化用触媒においては、下担体の複合酸化物粒子の組成比が、質量比で、CeO/ZrO/La/Y=30/60/5/5である点で、実施例1と相違する。本例の下担体の複合酸化物粒子の組成比が実施例1と異なるが、その他は実施例1と同様に製造した。
【0068】
(比較例1)
比較例1の排ガス浄化用触媒においては、上担体としてY添加Nd−ZrO−CeOを用いている点が、実施例1と相違する。この上担体は、質量比が、CeO/ZrO/Nd/Y=20/59/12/9であり、各酸化物成分が互いに固溶して、均一に分布した複合酸化物粒子である。その他の構成は、実施例1と同様である。
【0069】
比較例1の排ガス浄化用触媒の製造方法について説明する。まず、基材1表面に、実施例1のスラリー(A)をコートして、実施例1の下触媒層と同様の下触媒層を形成した。
【0070】
次に、上担体の複合酸化物粒子を調製した。まず、出発原料として硝酸セリウム、オキシ硝酸ジルコニウム、硝酸ネオジム、硝酸イットリウムを純水に溶解し、0.3Mの前駆体溶液を得た。次に、純水で薄めたアンモニア水に前駆体溶液を滴下し、ホモジナイザーで攪拌し、遠心分離機で水分を除去して沈殿物のみを回収した。これらの沈殿物を、150℃×7時間で乾燥した後、400℃×5時間で仮焼成し、700℃×5時間で焼成することにより結晶化させた。その後、ブレンダーで粉砕して粉末状とした。これにより、Ce、Zr、Nd、Yからなる粉末状の複合酸化物粒子を得た。
【0071】
この複合酸化物粒子を硝酸ロジウム水溶液に浸漬し、焼成して、複合酸化物粒子にロジウムを担持させた。ロジウムを担持させた複合酸化物粒子に、La添加AlとAlバインダーとを混合してスラリー(C)を作製した。
【0072】
次に、下触媒層の表面にスラリー(C)をコートした。コートされたスラリー(C)を乾燥、焼成して、下触媒層を形成した。
【0073】
上記実施例1、2及び比較例1の上担体及び下担体の組成を表1にまとめて示した。
【0074】
【表1】

<測定1>
実施例1,2及び比較例1の触媒を、V型8気筒エンジン(3UZ−FE)が排出する排ガス流通下に晒し、床温1000℃×50時間の耐久試験を実施した。
【0075】
耐久後の触媒断面をEPMA(電子線マイクロアナライザ)で撮影した。撮影された触媒断面の画像を分析して、上触媒層と下触媒層におけるRhの分布を算出した。その結果を図2に示した。
【0076】
同図より知られるように、上触媒層でのRhの分布については、実施例1,2の触媒の方が比較例の触媒よりも多かった。これは、上担体の無機混合酸化物の表面層にNdを偏在させたため、NdがRhを引き寄せ、下触媒層2へのRhの移動が抑制されたためであると考えられる。
【0077】
また、実施例1よりも実施例2の方が、上触媒層でのRhの分布が多かった。これは、下触媒層に含まれる下担体中のCeOの含有量を減少させたため、上触媒層に含まれるRhが下担体中のCeOに引き寄せられにくく、Rhを上触媒層に留めたためであると考えられる。つまり、上触媒層に含まれるRhの移動抑制効果は、上担体の無機混合酸化物と下担体の複合酸化物粒子との併用により最も効果的に実現される。
【0078】
<測定2>
実施例1,2及び比較例1の触媒の50%浄化温度を測定した。直列4気筒の2.4Lエンジンを搭載した車両の床下に、上記測定1の耐久試験後の各触媒をそれぞれ搭載し、理論空燃比でエンジンの燃焼状態を制御した。エンジンから排出される排ガスを、熱交換器を介して、200℃から450℃まで10℃/分の速度で昇温させながら、各触媒に排ガスを流通させた。昇温中の各触媒の入ガスと出ガスとのガス成分を分析して、HC、CO、NOxの浄化率を測定した。その結果から、HC、CO、NOxの各成分を50%浄化できる温度をそれぞれ算出した。算出された温度を「50%浄化温度」として、図3に示した。
【0079】
同図より、実施例1,2の触媒は、比較例1の触媒に比べて、HC、CO、NOxのいずれも50%浄化温度が低かった。実施例2の触媒のHC、CO、NOxの50%浄化温度は、実施例1の触媒に比べて、さらに低かった。測定1,2の結果を照らし合わせると、Rhの移動が少ないほど、触媒の50%浄化温度が低くなることがわかる。Rhの移動抑制効果及び触媒の50%浄化性能については、無機混合酸化物の表面層にNdを偏在させた上担体を用いる場合(実施例1,2)の方が、複合酸化物粒子中に均一にNdを分散させた場合(比較例1)よりも良好な結果が得られた。これは、Ndが無機混合酸化物の表面層に偏在しているため、Ndが粒子全体に均一に分散している場合に比べて、Rhと効率よく相互作用して、Rhの移動を効果的に抑制でき、またRhのシンタリングも抑制できたためであると考えられる。
【0080】
また、下担体の複合酸化物中のCeO含有量を低く抑えることにより(実施例2)、さらに良好な結果が得られた。これは、下担体の複合酸化物粒子中のCeO含有量が、実施例1の場合よりも少ないため,上触媒層中のRhに与える影響力が弱くなり、Rhが下触媒層に引き寄せられにくくなったためであると考えられる。
【0081】
上記実施例1,2及び比較例では下触媒層の下触媒貴金属としてPtを用いたが、下触媒貴金属としてPtに代えて又はPtとともにPdを用いた場合にも、上記測定1,2,3について、同様の結果が得られた。
【0082】
<上担体の無機混合酸化物の表面層中のNd/Zr比>
上担体である無機混合酸化物を、組成比を変えて5種類合成し、XPS測定を実施して、無機混合酸化物の表面層の組成を調査した。図4に、XPSで測定されたNd/Zr比をY軸上に、上担体調製時に使用した硝酸ネオジムと硝酸ジルコニウムの使用量から算出されたNd/Zrの原子比をX軸上にプロットした。
【0083】
図4において、点線は、上担体調製時の使用量から算出したNd/ZrとXPSによるNd/Zrとが同じ場合である。点線付近に座標が存在する場合には、仕込み組成と表面組成が同じであることを意味し、Ndが粉末中に均一に分散していることを示す。しかし、調製された5種類の無機混合酸化物の座標は、点線よりも上側に存在している。このことから、Ndが無機混合酸化物の表面層に偏在していることがわかる。
【0084】
<上触媒層中のCeO含有量の検討>
上触媒層中に含まれる上担体の組成比を変え、それ以外は実施例1と同様に触媒を製造した。表2に示すように、上担体の無機混合酸化物中のCeO含有量が0質量%、10質量%、20質量%の場合について、順に比較例2、実施例3,実施例4とした。上担体の無機混合酸化物中のCeOとZrOとの含有量を変更し、それ以外の成分の含有量は一定とした。
【0085】
【表2】

この上担体を用いて触媒を製造した。製造された触媒の上触媒層中のRh割合及びHC50%浄化温度を上記測定1、2と同様に測定した。比較例2、実施例3,実施例4を用いて製造された各触媒の上触媒層中のRh割合は、図5に示し、HC50%浄化温度は図6に示した。なお、CO、NOxの50%浄化温度は、HC50%浄化温度と同様の結果を示した。
【0086】
図5及び図6より明らかなように、上担体の無機混合酸化物中のCeO含有量が10〜20質量%である実施例3及び実施例4の場合には、比較例2に比べて、上触媒層中のRh割合が多く、且つHC50%浄化温度が低くなり、優れた触媒活性を示すことが明らかであると考えられる。
【0087】
CeO含有量が20質量%を越える場合については、上触媒層中のRh割合及びHC50%浄化温度を測定していない。しかし、CeO含有量が20質量%を越える場合には、Rhの状態が酸化物寄りにシフトするため、Rh活性が低下するおそれがある。
【0088】
<下触媒層中のCeO含有量の検討>
下触媒層中に含まれる下担体の組成比を変え、それ以外は実施例1と同様に触媒を製造した。表3に示すように、下担体の複合酸化物粒子中のCeO含有量が10質量%、20質量%、30質量%、40質量%の場合について、順に試料1,2,3,4とした。下担体の複合酸化物粒子中のCeOとZrOとの含有量を変更し、それ以外の成分の含有量は一定とした。
【0089】
【表3】

この下担体を用いて触媒を製造した。製造された触媒の上触媒層中のRh割合及びHC50%浄化温度を上記測定1、2と同様に測定した。試料1〜4を用いて製造された各触媒の上触媒層中のRh割合は、図7に示し、HC50%浄化温度は図8に示した。
【0090】
また、触媒の酸素吸蔵量(OSC性能)を測定した。各触媒について測定1と同様の耐久試験を実施した。耐久試験後の各触媒を 2.4Lエンジンの排気系にそれぞれ配置した。触媒床温 780℃にて、空燃比( A/F)が 14〜15の間における出ガス中の酸素濃度を連続的に測定した。空燃比が高い時から低い時の間に放出する酸素量を、酸素吸蔵量として、図9に示した。
【0091】
図7に示すように、下担体の複合酸化物粒子中のCeO含有量が40質量%である試料4では、著しく上触媒層のRh割合が減少した。
【0092】
それに伴い図8に示すように、下担体の複合酸化物粒子中のCeO含有量が40質量%である試料4では、著しくHC50%浄化温度が高くなった。これは、下担体の複合酸化物粒子中のCeO含有量が多いと上触媒層中のRhが下触媒層に移動して、上触媒層のRhの触媒活性が低下したためであると考えられる。
【0093】
図9に示すように、触媒のOSC性能は、下担体の複合酸化物粒子中のCeO含有量が10質量%である試料1では、量的に不十分であった。
【0094】
図7〜図9に示される結果より、下担体の複合酸化物粒子中のCeO含有量が20〜30質量%である試料2,3の場合に、触媒活性とOSC性能を両立する優れた結果が得られることがわかる。
【符号の説明】
【0095】
1:基材、2:下触媒層、3:上触媒層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガスが流通するガス流路を形成する基材と、該基材の表面に形成された下触媒層と、前記下触媒層の表面に形成された上触媒層と、をもつ排ガス浄化用触媒であって、
前記下触媒層は、Pt及びPdの少なくとも1種を含む下触媒貴金属と、該下触媒貴金属を担持する下担体とを有し、
前記上触媒層は、Rhを含む上触媒貴金属と、該上触媒貴金属を担持する上担体とを有し、
該上担体は、Ceと、Zrと、Alと、Ce以外の希土類元素及びアルカリ土類元素からなる群から選択される少なくとも1種以上と、Ndとを含む無機混合酸化物からなり、
該無機混合酸化物は、内部と、該内部の表面を被覆する被覆層とからなり、前記Ndは、前記被覆層に偏在していることを特徴とする排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
前記上担体の前記無機混合酸化物中のCeO含有量は、10〜20質量%である請求項2記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記下担体は、CeOとCeO以外の金属酸化物とを含む複合酸化物粒子からなり、該複合酸化物粒子中のCeO含有量は、20〜30質量%である請求項1又は請求項2に記載の排ガス浄化用触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−136319(P2011−136319A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−165(P2010−165)
【出願日】平成22年1月4日(2010.1.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000104607)株式会社キャタラー (161)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】