説明

排ガス浄化装置および排ガス浄化触媒ユニット

【課題】三元触媒を利用した内燃機関の排ガス浄化プロセスにおいて、効果的にHS排出を抑制する排ガス浄化装置ならびに排ガス浄化触媒ユニットを提供すること。
【解決手段】ここで開示される内燃機関の排気系に設けられる排ガス浄化装置1は、三元触媒部20よりも排気管12の下流側に配置されるHSトラップ触媒部30と、該HSトラップ触媒部30に酸素含有ガスを供給する酸素供給手段50とを備え、該HSトラップ触媒部30は、CO昇温脱離測定による触媒1LあたりのCOの脱離量を基準とした触媒1Lあたりの塩基点量が少なくとも0.01mol/Lである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関から排出される排ガスを浄化する技術に関する。詳しくは、内燃機関の排気系に設けられる排ガス浄化装置であって硫化水素(HS)排出の抑制に着目した排ガス浄化装置と該装置に使用される排ガス浄化触媒ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関から排出される炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)などの有害成分を同時にかつ効率的に浄化するための排ガス浄化触媒として、貴金属である白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)を主な活性種(触媒金属)とした三元触媒が広く用いられている。近年、各国で強化されている排ガス規制を満たすため、或いは資源リスクの高い上記貴金属の使用を最小限に抑えるために、上記三元触媒を含む排ガス浄化触媒には一層の性能向上が望まれている。
【0003】
ところで、三元触媒を使用して内燃機関の排ガスを処理する場合に解決すべき課題の一つとして硫黄(S)成分の処理が挙げられる。
排ガス中に含まれるS成分が、排ガス浄化触媒の貴金属(例えばPd)の表面を被覆することにより、触媒の活性点の低減を招き、結果、硫黄被毒と呼ばれる該触媒の浄化性能の低下を招くおそれがある。従来、かかる硫黄被毒を抑制するため、排ガス浄化触媒の構成、材料、および制御など各方面から改良がなされている。
例えば、硫黄被毒から触媒性能を回復させるために、混合気、即ち燃料ガスの空燃比および該燃料ガスの燃焼後の排ガスの温度を制御することにより、触媒に被覆した硫黄成分(典型的には硫黄酸化物:SOx)を還元して硫化水素(HS)として気化させ、触媒から脱離させることが知られている。
【0004】
しかし、上記脱離したHSを排気管からそのまま高濃度で大気中に放出することは、排ガスにHS特有の不快な臭いを生じさせるため、環境衛生上好ましくない。そこで、不快臭の原因となるHSの排出を抑制するための工夫がなされている。
例えば特許文献1には、排気系における三元触媒(第1触媒部)の下流側に、排ガス中の硫黄化合物を吸着可能な第2触媒部を配置した排ガス浄化装置が提案されている(特許文献1)。また、特許文献2には、SOx吸収材を主要な排ガス浄化触媒(例えばNOx吸蔵還元型触媒)よりも排気系の上流側に配置した排ガス浄化装置が開示されている。また、特許文献3には、リーン雰囲気においてSO或いはSOの吸着を抑制し、結果、ストイキ或いはリッチ雰囲気におけるHSの生成および排出を抑制することができる排ガス浄化触媒が開示されている。また、特許文献4にも還元雰囲気(低温ストイキ又はリッチ雰囲気)においてHSの排出を抑制し得る排ガス浄化装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4341196号公報
【特許文献2】特開2006−305524号公報
【特許文献3】特開2008−279319号公報
【特許文献4】特開2009−178625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した各特許文献に記載されている排ガス浄化触媒(排ガス浄化装置)は、HSの排出抑制に関して一定の効果を上げているが、さらなるHS排出抑制を図る上でなお改良の余地がある。
本発明は、かかる課題を解決すべく創出されたものであり、三元触媒を利用した内燃機関の排ガス浄化プロセスにおいて、より効果的にHSの排出を抑制することができる排ガス浄化装置ならびに排ガス浄化触媒ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、様々な角度から検討を加え、上記目的を実現することのできる本発明を創出するに至った。
即ち、ここで開示される排ガス浄化装置は、内燃機関の排気系に設けられる排ガス浄化装置であって、排気管に配置される三元触媒部と、該三元触媒部よりも排気管の下流側に配置されるHSトラップ触媒部と、該HSトラップ触媒部に向けて酸素含有ガスを供給する酸素供給手段と、該酸素供給手段からの酸素含有ガスの供給を制御する制御部とを備えている。
ここで上記HSトラップ触媒部は、基材と、該基材に担持された担体と、該担体に担持された触媒金属であって酸化雰囲気中でHSを酸化可能な触媒金属とを含む。そして、CO昇温脱離測定による触媒1LあたりのCOの脱離量を基準とした触媒1Lあたりの塩基点量が少なくとも0.01mol/Lである。
【0008】
かかる排ガス浄化装置では、内燃機関(例えば自動車エンジン)の排気系において三元触媒部よりも下流側にHSトラップ触媒部を設けるとともに、該HSトラップ触媒部がCO昇温脱離測定(即ちCO−TPD測定)による触媒1LあたりのCOの脱離量を基準とした触媒1Lあたりの塩基点量が少なくとも0.01mol/Lとなるように構成されている。なお、触媒部の塩基点量は、具体的には、酸プローブ分子として二酸化炭素を供試サンプルに吸着させ、昇温とともに脱離する二酸化炭素量及び脱離温度を測定することができる(CO−TPD)。
かかる塩基性の強い(即ち高塩基点量の)HSトラップ触媒部を設けた構成により、ここで開示される排ガス浄化装置によると、三元触媒部を通過してきた排ガス中に含まれるHSを当該三元触媒部よりも下流側に設置したHSトラップ触媒部において効率よく吸着することができる。そして、HSトラップ触媒部において吸着されたHSは、上記酸素供給手段から供給された酸素含有ガス(典型的にはエア)により酸化雰囲気となった当該HSトラップ触媒部において酸化され、SO等の窒素酸化物として排出される。
このため、本構成の排ガス浄化装置によると、排気管から高濃度のHSが放出されることを防止し、HS特有の不快臭の発生を防止することができる。また、HSの大量排出を防止しつつ三元触媒部における硫黄被毒から触媒性能を回復させるための処理(具体的には排ガスの酸素濃度および温度を制御して触媒に被覆した硫黄成分(典型的にはSOx)の還元処理)を行い、三元触媒部の性能維持を図ることができる。
【0009】
また、本発明は、上記目的を実現するべく、内燃機関の排気系に設けられる排ガス浄化触媒ユニットであって、内燃機関の排気系の一部を構成する排気管と、該排気管の上流側に配置される三元触媒部と、該三元触媒部よりも排気管の下流側に配置されるHSトラップ触媒部とを備え、ここで上記HSトラップ触媒部が、基材と、該基材に担持された担体と、該担体に担持された触媒金属であって酸化雰囲気中でHSを酸化可能な触媒金属とを含み、CO昇温脱離測定による触媒1LあたりのCOの脱離量を基準とした触媒1Lあたりの塩基点量が少なくとも0.01mol/Lである排ガス浄化触媒ユニットを提供する。
かかる構成の排ガス浄化触媒ユニットを内燃機関の排気系に設けることにより、上述した効果を奏する排ガス浄化装置を構築することができる。
【0010】
ここで開示される排ガス浄化装置の好ましい一態様では、上記制御部は、内燃機関から三元触媒部に導入される排ガスが空燃比リッチ域である混合気(燃料ガス)の燃焼により生じた排ガス(以下、かかる排ガスを「リッチガス」という場合がある。)である場合に、上記酸素供給手段から酸素含有ガスをHSトラップ触媒部に供給するように構成されている。
このような構成の排ガス浄化装置によると、排ガスが上記リッチガスである場合(例えば空燃比が14.7未満の場合)において三元触媒部から送り出されてきたHSをHSトラップ触媒部において吸着させるとともに、当該吸着されたHSを酸素含有ガスが導入され酸化雰囲気となったHSトラップ触媒部において酸化触媒金属により高効率に酸化処理し得、SO等の窒素酸化物に効率よく変換して外部に排出する(換言すればHSの排出を効果的に抑制する)ことができる。
【0011】
また、ここで開示される排ガス浄化装置ならびに排ガス浄化触媒ユニットの好ましい一態様では、上記HSトラップ触媒部の担体は、セリア・ジルコニア複合酸化物およびアルミナを主体に構成されている。
ここで「主体に構成されている」とは、当該担体がセリア・ジルコニア複合酸化物およびアルミナのみから構成されたもの或いは、担体全体の50質量%(若しくは50vol%)を上回る部分(典型的には70質量%及び/又は70vol%以上)がセリア・ジルコニア複合酸化物およびアルミナで構成されていることを示す用語である。
このような構成の排ガス浄化装置ならびに排ガス浄化触媒ユニットでは、HS触媒の担体がセリア・ジルコニア複合酸化物およびアルミナを主体に構成されているため、これら酸化物の組成や配合比を調整することにより、所望するレベルの塩基点(塩基性)を容易に実現することができる。また、HSトラップ触媒部の担体に十分な機械的強度と酸素吸放出能を付与することができる。セリア・ジルコニア複合酸化物におけるセリアとジルコニアの濃度比(モル比)はジルコニアがリッチであることが好ましい。
【0012】
また、ここで開示される排ガス浄化装置ならびに排ガス浄化触媒ユニットの好ましい一態様では、上記HSトラップ触媒部の担体は、希土類元素、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素のうちから選択される少なくとも1種の元素を含むように構成されている。
この種の元素を構成成分として含むことにより、好ましい塩基点(塩基性)を容易に実現することができる。
例えばHSトラップ触媒部の担体としてセリア・ジルコニア複合酸化物及び/又はアルミナが含まれており、該セリア・ジルコニア複合酸化物及び/又はアルミナが少なくとも1種の希土類元素(例えば、イットリウム(Y)、スカンジウム(Sc)、或いはランタン(La)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)等の軽希土類元素)を含むことが特に好ましい。例えばこれら希土類元素の酸化物がドープされたセリア・ジルコニア複合酸化物及び/又はアルミナが好適に用いられる。
【0013】
また、ここで開示される排ガス浄化装置ならびに排ガス浄化触媒ユニットの好ましい他の一態様では、上記HSトラップ触媒部には、ニッケル(Ni)が実質的に含まれていない。
ここで「実質的に含まれていない」とは、意図的に含ませていないという意味であり、不可避的な極微量の混在を許容する用語である。
本態様の排ガス浄化装置ならびに排ガス浄化ユニットでは、環境負荷をより低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】一実施形態に係る排ガス浄化装置の構成を模式的に示す図である。
【図2】一実施形態に係る排ガス浄化触媒ユニットの三元触媒部およびHSトラップ触媒部を構成するのに用いられるハニカム基材の構成を模式的に示す全体図である。
【図3】一実施形態に係る排ガス浄化触媒ユニットのHSトラップ触媒部の構成を説明するための模式図(断面図)である。
【図4】HSトラップ触媒部を設けない場合のHS排出最大濃度(ppm)を100としたときの各サンプルのHSトラップ触媒部を設けた場合のHS排出最大濃度(ppm)の割合(%)を示すグラフである。
【図5】HSトラップ触媒部における塩基点量とHS排出最大濃度(ppm)との関係を示すグラフである。
【図6】エアインジェクションを作動させるA/F値とHS排出最大濃度(ppm)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0016】
図1に示すように、本実施形態に係る排ガス浄化装置1は、内燃機関、例えば自動車エンジン(例えばガソリンエンジン)2の排気系に設けられる装置1であり、大まかにいって、その主要部を構成する排ガス浄化触媒ユニット10と、制御部40と、酸素供給手段であるエアインジェクション(空気噴射装置)50とを備える。
排ガス浄化触媒ユニット10は、内燃機関である自動車用エンジン2の排気系の一部を構成する排気管12と、該エンジン2からの排ガス流における上流側に配置された三元触媒部20と、該三元触媒部20よりも排気管の下流側に配置されるHSトラップ触媒部30とを備える。
制御部40は、ECU(電子制御ユニット即ちエンジンコントロールユニット)により構成される。即ち制御部(ECU)40は、エンジン2と排ガス浄化装置1との間の制御を行うユニットであり、一般的な制御装置と同様にデジタルコンピュータその他の電子機器を構成要素として含んでいる。典型的には、制御部(ECU)40は、双方向性バスによって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)、RAM(ランダムアクセスメモリ)、CPU(マイクロプロセッサ)、入力ポートおよび出力ポート等を備える。なお、制御部(ECU)40自体の装置構成は本発明を特徴付けるものではなく、従来この種の内燃機関(自動車エンジン)で採用されるものでよく、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0017】
エアインジェクション(AI)50は、三元触媒部20とHSトラップ触媒部30との間の排気管12に設置されている。かかるエアインジェクション50は、上記制御部40と電気的に接続されており、制御部40から出力される制御信号に基づいて作動し、所定のタイミングでエア(即ち酸素含有ガス)を排気管12内からHSトラップ触媒部30に向けて供給し得るように設置されている。即ち、エアインジェクション50から供給されたエアにより、排ガス流の下流側にあるHSトラップ触媒部30に供給されるガスの酸素濃度を向上させることができる。このため、排ガスがリッチガスであるような還元雰囲気であってもHSトラップ触媒部30内を酸化雰囲気に転換することができる。なお、エアインジェクション50の構造自体は、従来の自動車エンジンの排気系に設置される空気噴射装置(例えばエアポンプ式や吸引式)と同様でよく、本発明を特徴付けるものではないため、詳細な装置構成の説明は省略する。
【0018】
また、本実施形態に係る排ガス浄化装置1には、所定の空燃比センサ(A/Fセンサ若しくはOセンサとも呼ばれる。)60がエンジン2と三元触媒部20との間の排気管12に設置されている。かかる空燃比センサ60は上記制御部(ECU)40と電気的に接続されており、制御部40はエンジン2と三元触媒部20との間の排気管12を流れる排ガスの空燃比に関する情報を当該センサ60から入力することができる。なお、空燃比センサ60としては従来のこの種のセンサを用いればよく、本発明の実施にあたって特殊な構造や性能のセンサを使用する必要はない。
なお、制御部(ECU)40は、エンジン2の図示しない燃料噴射装置、三元触媒部20、HSトラップ触媒部30、等にも電気的に接続されており、各触媒部20,30内部の温度のモニタリングや燃料噴射装置の作動制御を行うことができる。
【0019】
次に、本実施形態に係る排ガス浄化装置1の主要部である排ガス浄化触媒ユニット10について詳細に説明する。
本実施形態に係る排ガス浄化触媒ユニット10は、内燃機関である自動車エンジン2の排気管12の上流側に三元触媒部20が配置され、該三元触媒部20よりも下流側にHSトラップ触媒部30が配置されるように形成されている。
三元触媒部20は、自動車エンジンの排気系に装備される従来のものと同様でよく、特に制限されない。
自動車エンジン等の内燃機関の排気系に設けられる場合、典型的には適当な基材を備える。かかる基材としては、従来のこの種の用途に用いられる種々の素材及び形態のものが使用可能である。例えば、高耐熱性を有するコージェライト、炭化ケイ素(SiC)等のセラミックスまたは合金(ステンレス等)のような耐熱性素材から形成されたハニカム構造を備えるハニカム基材などを好適に採用することができる。
一例として図2に示す外形が円筒形状であるハニカム基材70は、ここで開示される排ガス浄化触媒ユニット10の三元触媒部20ならびにHSトラップ触媒部30を構成する基材として好適である。かかるハニカム基材70は、排ガス流に沿う筒軸方向(図中の矢印方向)に排ガス通路として複数の規則的に配列された貫通孔(セル)72が設けられ、各セル72を仕切る隔壁(リブ壁)74に排ガスが接触可能に構成されている。なお、設置する排気系(排気管)の形状に応じて、図示されるハニカム形状の他、フォーム形状、ペレット形状等の基材を使用してもよい。また基材全体の外形については、円筒形に代えて、楕円筒形、多角筒形を採用してもよい。
【0020】
そして、基材(例えば上記ハニカム基材70)上に三元触媒を構成する触媒コート層を形成する。かかる触媒コート層は、例えば、アルミナ(Al)、セリア(CeO)、ジルコニア(ZrO)、シリカ(SiO)、チタニア(TiO)、セリア・ジルコニア(CeO−ZrO)複合酸化物、等の多孔質担体に、触媒作用によって炭化水素(HC)および一酸化炭素(CO)を酸化可能な触媒金属と、窒素酸化物(NOx)を還元可能な触媒金属とが担持されることにより構成される。
この種の触媒金属として白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)等が挙げられ、酸化活性に優れたPtと還元活性に優れたRhとを使用することが好ましい。
多孔質担体および触媒金属を備える触媒コート層は、従来公知の方法により調製することができる。典型的には、ウォッシュコート法により調製できる。例えば、多孔質担体粒子(粉末)を含むスラリーを基材にウォッシュコートし、それに触媒金属粒子を担持してもよいし、或いは予め所定の触媒金属粒子が担持された多孔質担体粒子(粉末)を含むスラリーを基材にウォッシュコートしてもよい。次いで、適当な条件で焼成することにより、目的とする触媒コート層を形成することができる。
触媒金属担持量は、従来の三元触媒部と同様でよく特に限定されない。例えば、多孔質担体1Lあたり0.1g〜10g程度が好ましい。なお、ウォッシュコート法に基づく触媒コート層の形成は従来の排ガス浄化用触媒の作製に採用される方法と同様でよく、本発明を特徴付けるものではない。
【0021】
次に、ここで開示される排ガス浄化触媒ユニット10を特徴付けるHSトラップ触媒部30について詳細に説明する。図3は、HSトラップ触媒部30の構成と作用効果(機能)を模式的に説明する図である。
Sトラップ触媒部30の基本構造は、上述の三元触媒部20と同様でよく、典型的には上述したハニカム構造或いは他の構造の耐熱性素材(コージェライト等)からなる基材32上に、多孔質担体34と該担体34に担持された触媒金属(粒子)38とから成るHSトラップ触媒コート層36を備える。
ここで開示されるHSトラップ触媒コート層36を構成する多孔質担体34は、CO昇温脱離測定による触媒1LあたりのCOの脱離量を基準とした触媒1Lあたりの塩基点量が少なくとも0.01mol/L(例えば0.01〜0.05mol/L)であることを特徴とする。好ましくは、触媒1Lあたりの塩基点量が少なくとも0.012mol/Lである(例えば0.012〜0.05mol/L)。
かかる特性を備え、且つ、この種の用途に適する担体であれば特に材質には限定はないが、比較的塩基性の高い(即ち高塩基点である)セラミックス製の多孔質担体が好ましい。例えば、セリア、ジルコニア、セリア・ジルコニア複合酸化物、アルミナ、各種のゼオライト(例えばA型、フェリライト型、ZSM−5型、モルデナイト型、β型、X型、Y型のゼオライト)が挙げられる。なかでもセリア・ジルコニア複合酸化物およびアルミナを主体に構成されている多孔質担体が好ましい。かかる2種の酸化物の配合比を調整することにより、多孔質担体の塩基点量の増減を行うことができる。また、担体に機械的強度と酸素吸放出能を付与することができる。
また、塩基点量を増大させる観点からは、セリア・ジルコニア複合酸化物におけるセリアとジルコニアの濃度比(モル比)は、ジルコニアがリッチであることが好ましい。例えばモル比でセリア:ジルコニア=1:2〜1:5程度が好ましい。
【0022】
或いは、高塩基性物質の導入により、多孔質担体の塩基点量の調節を行うことができる。そのような物質としてアルカリ土類金属元素、アルカリ金属元素、希土類元素の化合物(例えば酸化物)若しくは塩(例えば炭酸塩、酢酸塩、硫酸塩)が挙げられる。例えば、Y、Sc、或いはLa、Pr、Nd等の軽希土類(酸化物)を含むことが特に好ましい。これら希土類元素の酸化物を含むセリア、ジルコニア、セリア・ジルコニア複合酸化物、アルミナ、各種のゼオライト(特にはセリア・ジルコニア複合酸化物及び/又はアルミナ)の利用が好ましい。
或いはまた、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)等のアルカリ土類金属元素(第2族元素)の酸化物、水酸化物、若しくは炭酸塩、酢酸塩等の塩を含むセリア、ジルコニア、セリア・ジルコニア複合酸化物、アルミナ、各種のゼオライト(特にはセリア・ジルコニア複合酸化物及び/又はアルミナ)の利用が好ましい。
或いはまた、ナトリウム(Na)、カリウム(K)等のアルカリ金属元素の酸化物、水酸化物、若しくは炭酸塩、酢酸塩等の塩を含むセリア、ジルコニア、セリア・ジルコニア複合酸化物、アルミナ、各種のゼオライト(特にはセリア・ジルコニア複合酸化物及び/又はアルミナ)の利用が好ましい。
【0023】
これらの成分は、従来既知の方法により、多孔質担体中に含有させることができる。例えば、希土類元素(例えばY、La、Pr、Nd)を有する原料化合物と、多孔質担体を構成する元素(例えば、Al、Zr,Ce)の原料化合物とを所望のモル比で混合し、焼成することにより、目的の希土類元素の酸化物を含むセラミックスから成る多孔質担体を得ることができる。或いは、アルカリ金属元素若しくはアルカリ土類金属元素のイオンを含む溶液中に所定の組成の多孔質担体を浸漬し、乾燥、焼成することにより、目的のアルカリ金属元素若しくはアルカリ土類金属元素(第2族元素)の化合物や塩を含むセラミックスから成る多孔質担体を得ることができる。
多孔質担体中に含まれるこれら成分(希土類成分、アルカリ金属成分、アルカリ土類金属成分)は、所定の塩基点量が実現されるように配合される限り、その含有率は特に限定されない。例えば、酸化物換算で多孔質担体全体の1〜20質量%程度が希土類元素の酸化物となるように希土類成分を含有させるとよい。
【0024】
なお、特に限定しないが、HSトラップのための多孔質担体は、粉末状(粒子状)のものが好適に用いられる。担体を構成する粒子の平均粒径(レーザ回折・散乱法により測定される平均粒子径、もしくはSEMまたはTEM観察に基づく平均粒子径。)は、1nm以上1000nm以下が適当であり、5nm以上500nm以下が好ましく、20nm以上250nm以下がより好ましい。また、担体を構成する粒子の比表面積(BET法により測定される比表面積。以下同じ。)は50〜700m/gが好ましく、100〜300m/gがより好ましい。上記担体を構成する粒子の平均粒径が1000nmより大きすぎる、または比表面積が50m/gより小さすぎる場合は、該担体に担持された触媒金属の分散性が低下する傾向があり、触媒の浄化性能が低下するため好ましくない。また、上記担体を構成する粒子の粒径が1nmよりも小さすぎる、または比表面積が700m/gより大きすぎる場合は、上記担体自体の耐熱性が低下するため、触媒の耐熱特性が低下し、好ましくない。
【0025】
Sトラップ触媒コート層36に含まれる触媒金属(粒子)38としては、酸化雰囲気中でHSを酸化可能な触媒金属であれば特に制限はない。但し、環境への負荷を考慮してNiを含ませないことが好ましい。好適例としてPt、Pd等の白金族の金属またはそれらの合金の粒子が挙げられる。
上述したような多孔質担体34に触媒金属を担持させる方法は、従来公知の方法でよく、本発明の実施にあたって特別な処理を必要としない。例えば担体にPt粒子又はPd粒子を担持させる方法としては、特に制限されず、例えば含浸法や吸着法を用いることができる。典型的な含浸法では、適当な白金塩やパラジウム塩を含有する水溶液に担体を含浸させ、次いで乾燥、焼成することにより調製することができる。特に限定しないが、焼成温度は300〜700℃程度が適当である。焼成温度が高すぎると担体に担持された貴金属粒子の粒成長が進行する虞があるため好ましくない。また、焼成温度が低すぎると焼成時間が長引く傾向があり好ましくない。触媒金属担持量は特に限定されない。例えば、多孔質担体1Lあたり0.1g〜10g程度が好ましい。
【0026】
なお、このようにして調製された触媒金属粒子38が担持された多孔質担体34を用いて基材32上にHSトラップ触媒コート層36を形成する方法は、上記の三元触媒部20の場合と同様であり、一般的なウォッシュコート法によって基材32の表面にHSトラップ触媒コート層36を形成することができる。即ち、触媒金属粒子38が担持された多孔質担体34を含むスラリーを基材32上にウォッシュコートしてもよいし、先に多孔質担体34を含むスラリーを基材32上にウォッシュコートし、それに触媒金属粒子38を担持してもよい。次いで、適当な条件で焼成する(例えば400〜1000℃程度で6時間以下の焼成を行う。)ことによりHSトラップ触媒コート層36を形成することができる。HSトラップ触媒コート層36の厚さ(平均厚さ)は特に限定されず、例えば10μm〜200μm程度が適当であり、30μm〜100μm程度が好ましい。
【0027】
上述した構成の本実施形態に係る排ガス浄化装置1によると、空燃比センサ60からの情報(例えば酸素濃度に基づくデータ信号)が制御部(ECU)40に送信される。制御部40は、入力した情報に基づいてエンジンに供給された混合気の空燃比を算出する。さらに当該空燃比に基づいて、三元触媒部20に導入された排ガスが空燃比リッチ域である混合気の燃焼により生じた排ガス(リッチガス)であるか或いは空燃比ストイキ若しくはリーン域である混合気の燃焼により生じた排ガス(以下、かかる排ガスを「リーン/ストイキガス」という場合がある。)であるかを判定し、リッチガスである場合(或いは空燃比の値がリッチ域に属する場合)においてエアインジェクション50に作動信号を出力する。
【0028】
例えば、好適な一実施形態として制御部40は、上記空燃比センサ60からのデータに基づいて算出される空燃比がリッチ域、例えばガソリンエンジンの場合、典型的にはA/F値が14.7(ストイキ)未満のときにエアインジェクション50からエア(酸素含有ガス)を排気管12中に噴射し、当該噴射されたエア(酸素含有ガス)はHSトラップ触媒部30に供給される。一方、A/F値が14.7以上のストイキ若しくはリーン域の場合には制御部40はエアインジェクション50からのエア噴出を停止する。このような操作を行うことにより、以下のように排ガス中の硫黄(S)成分を処理することができる。
即ち、エンジン2からの排ガスがリーン/ストイキガスであるときには当該排ガス中の硫黄成分(例えばSO)は三元触媒部20において種々の形態(例えば硫酸塩:SO2−)で担体若しくは金属触媒に吸着・保持される。そして、エンジン2からの排ガスがリッチガスとなり、三元触媒部20が当該リッチガスの導入で還元雰囲気に変化した際、吸着・保持されていたSがHSに還元され、三元触媒部20から放出され、排気管12を通って下流側のHSトラップ触媒部30に導入される。そして、HSトラップ触媒部30における上記HS吸着成分によってHSを可逆的に吸着することができる。
【0029】
このとき、三元触媒部20に導入される排ガスがリッチガスである(換言すれば空燃比センサ60からのデータに基づいて算出される空燃比がリッチ域である)ことを条件として制御部40からの作動信号によってエアインジェクション50からエアが排気管12を通してHSトラップ触媒部30に向けて供給され、HSトラップ触媒部30内がエア(酸素)によって酸化雰囲気に変化する。
而して、図3に模式的に示すように、エア(酸素)が導入されたHSトラップ触媒部30において触媒金属38(酸化触媒)の作用により、HSトラップ触媒部30に導入されたリッチガス中のHSおよび予めトラップされていたHSを酸化し、典型的にはSOおよびHOとして外部に排出する。このため、本実施形態に係る排ガス浄化装置1によると、排気管12から高濃度のHSが放出されることを防止し、HS特有の不快臭の発生を防止することができる。また、HSの大量排出を防止しつつ適当なタイミングで三元触媒部20にリッチガス(還元性ガス)を導入して三元触媒部20における硫黄被毒から触媒性能を回復させるための処理(SOx還元処理)を行い、三元触媒部の性能維持を実現することができる。
【0030】
以下、本発明に関するいくつかの実施例につき説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0031】
<HSトラップ触媒部の製造例1>
セリア・ジルコニア複合酸化物(セリア/ジルコニアのモル比=1/4)の粉末(比表面積:約100m/g)とθ−アルミナの粉末(比表面積:約100m/g)とを用意した。これら粉末と、バインダーとしてのアルミナ水和物(ここでは日産化学工業株式会社製品)とを用いて、HSトラップ触媒部形成用スラリーを調製した。上記2種の酸化物粉末の配合比は、CO−TPD測定による触媒1LあたりのCOの脱離量を基準とした触媒1Lあたりの塩基点量が0.009mol/Lとなるように調整した。
そして、得られたスラリーを、全長105mm、直径103mm、セル構造4.5mil/400cpsi(ここでmilは1/1000インチ、cpsiは平方インチあたりのセル数)であるコージェライト製ハニカム基材に対してウォッシュコートし、500℃で2時間の焼成を行った。触媒コート量は、ハニカム基材1Lあたり約120gとなるようにした。続いて、ジニトロジアンミン白金硝酸塩水溶液を用いて触媒金属粒子としてPt粒子を担持し、250℃で1時間乾燥し、続いて500℃で1時間の焼成を行った。Pt粒子の担持量はハニカム基材1Lあたり約2gであった。
上記のプロセスにより、上記CO−TPD測定基準で触媒1Lあたりの塩基点量が0.009mol/Lである「サンプル1」のHSトラップ触媒部を作製した。
【0032】
<HSトラップ触媒部の製造例2>
上記製造例1で使用したセリア・ジルコニア複合酸化物に代えて、酸化物全体を100として3質量%のLaと7質量%のPrを含むセリア・ジルコニア複合酸化物を使用した以外は、上記製造例1と同様の材料を使用し同様のプロセスにより、上記CO−TPD測定基準の触媒1Lあたりの塩基点量が0.015mol/Lである「サンプル2」のHSトラップ触媒部を作製した。
【0033】
<HSトラップ触媒部の製造例3>
上記製造例1で使用したセリア・ジルコニア複合酸化物に代えて、酸化物全体の5質量%のNdと5質量%のYを含むセリア・ジルコニア複合酸化物を使用した以外は、上記製造例1と同様の材料を使用し同様のプロセスにより、上記CO−TPD測定基準の触媒1Lあたりの塩基点量が0.015mol/Lである「サンプル3」のHSトラップ触媒部を作製した。
【0034】
<HSトラップ触媒部の製造例4>
上記製造例1で使用したアルミナに代えて、酸化物全体の5質量%のLaを含むθ−アルミナを使用した以外は、上記製造例1と同様の材料を使用し同様のプロセスにより、上記CO−TPD測定基準の触媒1Lあたりの塩基点量が0.013mol/Lである「サンプル4」のHSトラップ触媒部を作製した。
【0035】
<HSトラップ触媒部の製造例5>
上記製造例1で作製したサンプル1のHSトラップ触媒部(即ち触媒担持ハニカム基材)に対してアルカリ金属塩処理を施した。具体的には、所定濃度の炭酸ナトリウム水溶液(或いは他のナトリウムイオンを含む水溶液)にサンプル1のHSトラップ触媒部(触媒担持ハニカム基材)を浸漬し、炭酸ナトリウム水溶液を基材に吸水させた。次いで、250℃で乾燥し、500℃で焼成することにより、上記CO−TPD測定基準の触媒1Lあたりの塩基点量が0.012mol/Lである「サンプル5」のHSトラップ触媒部を作製した。
【0036】
<HSトラップ触媒部の製造例6>
上記製造例1で作製したサンプル1のHSトラップ触媒部(即ち触媒担持ハニカム基材)に対してアルカリ土類金属塩処理を施した。具体的には、所定濃度の炭酸バリウム水溶液(或いは他のバリウムイオンを含む水溶液)にサンプル1のHSトラップ触媒部(触媒担持ハニカム基材)を浸漬し、炭酸バリウム水溶液を基材に吸水させた。次いで、250℃で乾燥し、500℃で焼成することにより、上記CO−TPD測定基準の触媒1Lあたりの塩基点量が0.014mol/Lである「サンプル6」のHSトラップ触媒部を作製した。
【0037】
<HS排出量の測定試験1>
上記各製造例において得られたサンプル1〜6のHSトラップ触媒部(触媒担持ハニカム基材)を用いて、以下の試験を行った。
即ち、上述した図1に模式的に示す排ガス浄化触媒ユニット10が構築されるよう、実際の直列4気筒ガソリンエンジン(排気量:約2L)の排気系における三元触媒部20の下流に、サンプル1〜6のうちのいずれかのHSトラップ触媒部30とエアインジェクション50を配置し、S含有ガソリンを使用して実エンジンを運転した。
具体的には、図1に示すような排気系を構築し、排ガス流における上流側にある三元触媒部20においてSが飽和吸着するまでストイキ条件下でエンジンを運転後、WOT(ワイドオープンスロットル)状態に切り替えてエンジンを運転し、三元触媒部20に導入される排ガスをリッチガスに変化させた。このとき、空燃比センサ60からのデータに基づいて算出されるA/F値が14.0以下であることを条件にエアインジェクション50からエアをHSトラップ触媒部30の上流側の排気管12中に噴射し、HSトラップ触媒部30内を酸化雰囲気とした。かかる条件下における排気管12から外部に排出される排ガス中のHS濃度(HS排出量:ppm)を連続的に測定した。
【0038】
比較対照(コントロール区)として、三元触媒部20の下流側にいずれのHSトラップ触媒部も設置しない排気系においても同条件でHS濃度(ppm)を測定した。そして、コントロール区におけるHS排出最大濃度を100として各サンプルのHSトラップ触媒部を設置した排気系におけるHS排出最大濃度の比(%)を算出した。結果を図4に示す。
図4に示すように、HSトラップ触媒部30を構成する触媒の塩基点量が上記CO−TPD測定基準の触媒1Lあたりで0.009mol/Lであるサンプル1においてもHS排出の抑制が認められたが、当該塩基点量が0.01mol/L以上であるサンプル2〜6においてHS排出の著しい抑制が認められた。
【0039】
<HS排出量の測定試験2>
上記製造例1で使用したセリア・ジルコニア複合酸化物粉末とθ−アルミナ粉末との配合比、或いはさらに上記製造例5において実施したアルカリ金属塩処理若しくは上記製造例6において実施したアルカリ土類金属塩処理の程度(塩濃度処理時間、処理回数等)を異ならせて実施し、塩基点量が0、0.005、0.01、0.015、0.02、0.03、0.05、および0.08mol/LであるHSトラップ触媒部を作製した。而して、上記測定試験1と同様の試験を行い、各塩基点量のHSトラップ触媒部を使用した場合のHS濃度(HS排出量:ppm)を連続的に測定した。そして、塩基点量が0mol/Lの触媒部を使用したときのHS排出最大濃度を100として各塩基点量のHSトラップ触媒部を設置した排気系におけるHS排出最大濃度の比(%)を算出した。結果を図5に示す。
図5に示すように、HSトラップ触媒部30を構成する触媒の塩基点量の値が大きくなるほど、HS排出の抑制度合いが高くなることが認められた。特に塩基点量が0.01mol/L以上(より好ましくは0.015mol/L以上、さらには0.02mol/L以上)になることによりHS排出の著しい抑制が認められた。
【0040】
<HS排出量の測定試験3>
上記測定試験2において作製、使用した塩基点量が0.02mol/LであるHSトラップ触媒部を使用するとともに、エアインジェクション(AI)からエアをHSトラップ触媒部の上流側の排気管中に噴射する時期を種々異ならせた。
具体的には、上記測定試験1と同様、図1に示すような排気系を構築し、HSトラップ触媒部30より上流側にある三元触媒部20においてSが飽和吸着するまでストイキ条件下でエンジンを運転後、WOT状態に切り替えてエンジンを運転し、三元触媒部20に導入される排ガスをリッチガスに変化させた。そして、エアインジェクション(AI)50からエアをHSトラップ触媒部30の上流側の排気管12中に噴射する時期(条件)を、空燃比センサ60からのデータに基づいて算出されるA/F値が13以下の場合、13.2以下の場合、13.4以下の場合、13.6以下の場合、13.8以下の場合、14.0以下の場合、14.2以下の場合、14.4以下の場合、および14.6以下の場合の計9通りに異ならせた。
かかる9通りの条件下において、測定試験1と同様、排気管12から外部に排出される排ガス中のHS濃度(HS排出量:ppm)を連続的に測定した。そして、A/F値が13以下の場合に限ってエアが噴射される条件でのHS排出最大濃度を100として他の各条件でのHS排出最大濃度の比(%)を算出した。結果を図6に示す。
図6に示すように、エア噴射開始のA/F値がストイキに近くなるほどHS排出の抑制が認められた。このグラフから明らかなように、三元触媒部20に導入される排ガスがリッチガスである場合、即ち、A/F値がストイキよりもリッチ域にある場合にエア(酸素含有ガス)をHSトラップ触媒部に向けて供給することが好ましいことが確認された。
【符号の説明】
【0041】
1 排ガス浄化装置
2 エンジン
10 排ガス浄化触媒ユニット
12 排気管
20 三元触媒部
30 HSトラップ触媒部
32 基材
34 担体
36 HSトラップ触媒コート層
38 触媒金属(粒子)
40 制御部(ECU)
50 エアインジェクション
60 空燃比センサ
70 ハニカム基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気系に設けられる排ガス浄化装置であって、
排気管に配置される三元触媒部と、
該三元触媒部よりも排気管の下流側に配置されるHSトラップ触媒部と、
該HSトラップ触媒部に向けて酸素含有ガスを供給する酸素供給手段と、
該酸素供給手段からの酸素含有ガスの供給を制御する制御部と、
を備えており、
前記HSトラップ触媒部は、
基材と、該基材に担持された担体と、該担体に担持された触媒金属であって酸化雰囲気中でHSを酸化可能な触媒金属と、を含み、
CO昇温脱離測定による触媒1LあたりのCOの脱離量を基準とした触媒1Lあたりの塩基点量が少なくとも0.01mol/Lである、排ガス浄化装置。
【請求項2】
前記HSトラップ触媒部の担体は、セリア・ジルコニア複合酸化物およびアルミナを主体に構成されている、請求項1に記載の排ガス浄化装置。
【請求項3】
前記HSトラップ触媒部の担体は、希土類元素、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素のうちから選択される少なくとも1種の元素を含むように構成されている、請求項1又は2に記載の排ガス浄化装置。
【請求項4】
前記HSトラップ触媒部には、ニッケル(Ni)が実質的に含まれていない、請求項1〜3のいずれか一項に記載の排ガス浄化装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記内燃機関から前記三元触媒部に導入される排ガスが空燃比リッチ域である混合気の燃焼により生じた排ガスである場合に、前記酸素供給手段から酸素含有ガスを前記HSトラップ触媒部に供給するように構成されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の排ガス浄化装置。
【請求項6】
内燃機関の排気系に設けられる排ガス浄化触媒ユニットであって、
内燃機関の排気系の一部を構成する排気管と、
該排気管の上流側に配置される三元触媒部と、
該三元触媒部よりも排気管の下流側に配置されるHSトラップ触媒部と、
を備えており、
前記HSトラップ触媒部は、
基材と、該基材に担持された担体と、該担体に担持された触媒金属であって酸化雰囲気中でHSを酸化可能な触媒金属と、を含み、
CO昇温脱離測定による触媒1LあたりのCOの脱離量を基準とした触媒1Lあたりの塩基点量が少なくとも0.01mol/Lである、排ガス浄化触媒ユニット。
【請求項7】
前記HSトラップ触媒部の担体は、セリア・ジルコニア複合酸化物およびアルミナを主体に構成されている、請求項6に記載の排ガス浄化触媒ユニット。
【請求項8】
前記HSトラップ触媒部の担体は、希土類元素、アルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素のうちから選択される少なくとも1種の元素を含むように構成されている、請求項6又は7に記載の排ガス浄化触媒ユニット。
【請求項9】
前記HSトラップ触媒部には、ニッケル(Ni)が実質的に含まれていない、請求項6〜8のいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒ユニット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−72334(P2013−72334A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211063(P2011−211063)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】