説明

排ガス浄化触媒と排ガス浄化触媒用塗料およびディーゼル排ガス浄化用フィルタ

【課題】ディーゼルエンジン排ガスのPMを低温で燃焼させ、有害ガス成分を酸化させる触媒であって、高価な貴金属元素の含有量を少なく出来る触媒を提供する。
【解決手段】ペロブスカイト構造を有する複合酸化物と貴金属を酸化物に担持させた酸化物担持貴金属触媒を所定の割合で物理的に混合した排ガス浄化触媒である。前記複合酸化物はLaBa1−xFeO(0.6≦x≦0.9)である。前記酸化物担持貴金属触媒はPt/Alである。前記複合酸化物と前記酸化物担持貴金属触媒の混合比は9:1乃至8:2である。前記排ガス浄化触媒と、溶剤と、無機バインダーを含む排ガス浄化触媒用塗料である。多孔質フィルタと、前記多孔質フィルタの表面上に形成された、前記排ガス浄化触媒と、無機バインダーを含む排ガス浄化触媒層を有するディーゼル排ガス浄化用フィルタである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等のディーゼルエンジンから排出されるPM(粒子状物質)を燃焼させるのに適した複合酸化物からなる排ガス浄化触媒、およびそれを用いた触媒用塗料とその塗料を基材上に塗布したディーゼル排ガス浄化用フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン排ガスの問題として、炭化水素系化合物(HC)、一酸化炭素(CO)窒素酸化物(NO)といったガス有害成分とカーボンを主体とする微粒子(以後「PM」とも言う。)が排ガス中に含まれ、環境汚染の原因となる点が挙げられる。
【0003】
ガス有害成分の除去にはアルミナ(Al)などの金属酸化物担体に白金(Pt)やパラジウム(Pd)やロジウム(Rh)などの触媒活性を有する貴金属粒子を担持した排ガス浄化触媒が利用されている。
【0004】
一方、PMを除去する一般的な方法としては、排気ガス流路に多孔質体セラミックスからなるディーゼル・パーティキュレート・フィルタ(DPF)を設置してPMを捕集(トラップ)する方法が挙げられる。DPFにはPMが蓄積されてゆくが、捕集されたPMを間欠的または連続的に燃焼処理してPMを除去することで、DPFをPM捕集前の状態に再生することができる。
【0005】
このDPF再生処理には、電気ヒーターやバーナー等、外部からの強制加熱によりPMを燃焼させる方法、DPFよりもエンジン側に酸化触媒を設置し、排ガス中に含まれるNOを酸化触媒によりNOにし、NOの酸化力によりPMを燃焼させる方法などが一般的に用いられている。
【0006】
しかし、電気ヒーターやバーナーを使用するには外部に動力源を設置する必要があり、それらを確保、動作するための機構等が別途必要になるため排ガス浄化システムそのものが複雑化する。また、酸化触媒については触媒活性が十分発揮されるほど排ガス温度が高くないことや、ある一定の運転状況下でなければPM燃焼に必要なNOが排ガス中に含まれないといった種々の問題がある。
【0007】
そこで、DPFのより望ましい再生処理方法として、DPFそのものに触媒を担持させ、その触媒作用によりPMの燃焼開始温度を低下させた上で、PMを燃焼させる方法が検討されている。そして究極的な目標としては排ガス温度にて連続的に燃焼させる方法が最も望ましいとされている。
【0008】
現在ではPMの燃焼開始温度を低下させる種々の触媒が提案されている。特許文献1には酸化セリウムを主体としたPM燃焼用の触媒が開示されている。さらに特許文献2乃至4には、Pt等の貴金属元素を含まないセリアの複合酸化物を基材とした酸化触媒として、CeとBiあるいはさらに遷移金属元素を含有する混合物が開示されている。また、特許文献5にはペブロスカイト構造を有するPM燃焼用触媒が開示されている。
【0009】
さて、ディーゼルエンジンの排ガスシステムでは、排気管の途中に排ガス浄化部を設けてガス有害成分やPMを除去する。しかし、ガス有害成分とPMは除去の方法が異なるため、触媒の配置には工夫が必要となる。
【0010】
PMは基本的にフィルタで除去し、フィルタに蓄積したPMを触媒を使い低温で燃焼させるため、PM燃焼用触媒はフィルタのエンジン側の壁面に配置させておくのがよい。この部分にPMは蓄積されるからである。
【0011】
一方、ガス有害成分は、フィルタを通過するために、ガス有害成分燃焼用触媒は、フィルタより大気開放側に配置する。これはフィルタよりエンジン側であって、PM燃焼用触媒より大気開放側にあってもよい。すなわち、フィルタのエンジン側壁面にガス有害成分燃焼用触媒とPM燃焼用触媒をこの順で積層する構造にしても構わない。
【0012】
【特許文献1】特開2007−245054号公報
【特許文献2】特開平6−211525号公報
【特許文献3】特開2003−238159号公報
【特許文献4】特開2006−224032号公報
【特許文献5】特開2007−237012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ガス有害成分燃焼用触媒は、貴金属を用いているため高価になる点が問題である。しかし、上記で説明したように、ガス有害成分とPMは除去する仕組みが異なるため、ガス有害成分燃焼用触媒は、ガス有害成分の除去に必要な貴金属を含有する必要があった。すなわち、PMとガス有害成分を除去する排ガス浄化システムにおいて、貴金属の使用を低減できないという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、かかる目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、ペブロスカイト構造を有する複合酸化物に貴金属含有触媒を物理的に混合することで、貴金属元素の量が少なくてもガス有害成分の除去に優れた排ガス除去触媒を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明の排ガス浄化触媒は、ペロブスカイト構造の複合酸化物と、貴金属を酸化物に担持させた酸化物担持貴金属触媒を混合した排ガス浄化触媒である。
【0016】
また、この排ガス浄化触媒を含む塗料と、その塗料を多孔質フィルタに塗布したDPFをも提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の排ガス浄化触媒は、ペロブスカイト構造の複合酸化物と、貴金属を酸化物に担持させた酸化物担持貴金属触媒を混合したことで、同じ貴金属含有触媒を用いた場合でも、ガス有害成分の除去能力が向上する。すなわち、有害成分の除去能力が同じであれば貴金属の使用量を低減できるという効果を奏する。また、本発明の排ガス浄化触媒は、PM用およびガス有害成分用の触媒が混合された状態にあるため、これを塗料にすれば、多孔質のフィルタ基材に1度の塗布で触媒付DPFを作製することができるという効果も奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の排ガス浄化触媒は、ペロブスカイト構造を有する複合酸化物と、貴金属を酸化物に担持させた酸化物担持貴金属触媒との物理的な混合物である。ペロブスカイトは通常組成式AMOで表される。ここで、Aサイトは1種以上の希土類元素と1種以上のアルカリ土類金属、Mサイトは1種以上の遷移金属元素である。
【0019】
例えば、AサイトにはLa、Y、Dy、Nd等の1種以上と、Sr、Ba、Mg等の1種以上の元素が入り、MサイトにはMn、Fe、Co等の1種以上が入る。より具体的には、LaSr1−xFeO(xは0.35乃至0.9)、LaBa1−xFeO(xは0.35乃至0.9)などが挙げられる。
【0020】
本発明で利用する貴金属とはAu、Ag、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Osから選ぶことが出来るが、Pt、PdおよびRhから選ばれる少なくとも1種の金属であることが好ましい。これらの金属は貴金属の中でもガス有害成分に対する触媒活性が高いからである。
【0021】
貴金属を担持する酸化物はSiOやAlやZrOといった材料が特に望ましい。これらの材料は排ガス浄化触媒として、酸化・還元雰囲気の変動に対する耐性が高く、高い表面積を維持でき、耐熱性にも優れるからである。なかでも、貴金属元素のPtをAlに担持させたアルミナ担持白金触媒は好ましい。
【0022】
貴金属を酸化物に担持させた酸化物担持貴金属触媒とペブロスカイト構造の複合酸化物との物理的な混合(単に「混合」ともいう。)とは、機械的に混ぜ合わせることをいう。本発明の排ガス浄化触媒は、複合酸化物と酸化物担持貴金属触媒との化学的な結合は必要としないからである。従って、混合はそれぞれの粉体同士を乳鉢や粉砕機で細かく砕きながら混合することができる。また、溶剤やバインダーといった媒体と共に分散して混合してもよい。
【0023】
本発明の酸化物担持貴金属触媒は、貴金属塩の水溶液中に担体となる酸化物を浸漬し、乾燥させ焼成する含浸法によって調製できる。また、慣用のincipient wetness法によって調製してもよい。この方法は、担体となる酸化物に貴金属の溶液を滴下して貴金属と酸化物の酸化物担持貴金属触媒を得る。
【0024】
本発明の排ガス浄化触媒は、溶剤やバインダーとともに、塗料にしてもよい。
溶剤としては、極性溶剤や非極性溶剤のどちらを用いても良い。フィルタ上に塗布した後、すばやく乾燥させるためには、沸点の低い溶剤がよいが、取り扱いの容易性を考慮すると水系の溶剤でもよい。具体的にはイソプロピルアルコール、テルピネオール、2−オクタノール、ブチルカルビトールアセテート等が好適に利用できる。
【0025】
無機バインダとしては、Al、TiO、SiOなどの粉体が好適に用いられる。PM燃焼用触媒は高温に曝されるため、高温でも安定した特性を示す材料が好ましいからである。これらの材料は、塗布若しくはスプレーで扱いやすい粘度に調整してDPFとなる多孔質フィルタの表面に塗布する。
【0026】
本発明の複合酸化物を用いたDPFは、構造は特に限定されない。例えば図8にDPFの構造の一例を示す。DPF1は入り口側10から見た断面がハニカム構造をした筒状の形態をしており、材質は多孔質なセラミックで構成されている。入り口側10と出口側11は直接的な貫通孔を有しておらず、多孔質セラミックがフィルタとなっている。多孔質セラミックには、具体的にはセラックス、コージェライト、炭化珪素、チタン酸アルミなどが好適に用いられる。また、形状は図8に示した構造のほか、発泡体、メッシュ、板状といった形状でもよい。
【0027】
本発明の排ガス浄化触媒はDPFのエンジン側壁面12に形成される(30)のがよい。PM(燃焼用)触媒を含んでいるので、PMが蓄積するエンジン側にないとPM燃焼温度を低下させることができないからである。なお、本発明の排ガス浄化触媒は、炭化水素や一酸化炭素といったガスを酸化する触媒となる貴金属を含むため、大気開放側の壁面14に形成して(40)もよい。また、大気開放側の壁面14には、本発明の排ガス浄化触媒以外のガス有害成分に対する触媒層を形成してもよい。
【実施例】
【0028】
以下実施例について詳細に説明する。
《複合酸化物の作製》
各実施例、比較例の複合酸化物を以下のようにして作製した。
硝酸ランタンと硝酸バリウムと硝酸鉄を、ランタン元素とバリウム元素と鉄元素のモル比がx:1−x:1(ただし、x=0.6、0.8、0.9)となるように混合した。この混合物を、ランタン元素とバリウム元素と鉄元素の液中モル濃度の合計が0.2mol/Lとなるように水を添加して原料溶液(以下「原料1」と称する)を得た。
【0029】
<La0.6Ba0.4FeO
原料1(x=0.6)を攪拌しながら溶液の温度を15℃に調整し、温度が15℃に到達した段階で、沈殿剤として炭酸アンモニウム溶液を添加しながらpH=7〜8に調製した。その後反応温度を15℃に保ちながら攪拌を1時間継続することにより、沈殿の生成を十分進行させた。得られた沈殿を濾過して回収した後、水洗し、145℃で一晩乾燥した。得られた粉末を大気雰囲気下800℃で2時間焼成し、解砕機(サンプルミル)で解粒した後、振動篩(200メッシュ)を用いて凝集物を除去した。
【0030】
<La0.8Ba0.2FeO
原料1(x=0.8)を攪拌しながら溶液の温度を30℃に調整し、温度が30℃に到達した段階で、沈殿剤としてアンモニウム溶液を添加し、その後、さらに二酸化炭素を吹き込んで沈殿の生成を促した。その後反応温度を30℃に保ちながら攪拌を0.5時間継続することにより、沈殿の生成を十分進行させた。得られた沈殿を濾過して回収した後、水洗し、250℃で1.5時間乾燥した。得られた粉末を大気雰囲気下800℃で2時間焼成し、解粒した後、湿式粉砕により所定の粒度に調整した。
【0031】
<La0.9Ba0.1FeO
原料1(x=0.9)を攪拌しながら溶液の温度を15℃に調整し、温度が15℃に到達した段階で、沈殿剤としてアンモニウム溶液を添加し、その後、さらに二酸化炭素を吹き込んで沈殿の生成を促した。その後反応温度を15℃に保ちながら攪拌を0.5時間継続することにより、沈殿の生成を十分進行させた。得られた沈殿を濾過して回収した後、水洗し、125℃で一晩乾燥した。得られた粉末を大気雰囲気下800℃で2時間焼成し、解砕機(サンプルミル)で解粒した後、振動篩(200メッシュ)を用いて凝集物を除去した。
【0032】
表1に得られたサンプルのLa、Ba、Fe元素の質量%とモル比を示す。質量%の合計は100%にならないが、残りは酸素である。なお、以後は、それぞれのペロブスカイトのサンプルをLaとそのモル比で呼ぶ。例えば、La0.6Ba0.4FeOはLa0.6と呼ぶ。
【表1】

【0033】
《酸化物担持貴金属触媒の作製》
次に酸化物担持貴金属触媒としてPt/Alを作製した。Pt(NH(NO溶液3.57g(Pt濃度8.486%)に純水を180ml加えて金属塩溶液を製造した。この溶液をマグネティックスターラーで攪拌しながら、そこにAl30gを投入した後、1時間攪拌した。得られた溶液をエバポレーターに移し、温度80℃、回転速度25rpmで溶媒を除去して粉末を得た。この粉末を130℃で一晩乾燥させた後、空気中で500℃で2時間焼成(昇温速度5℃/min)することでPt(1%)/Al粉末を得た。
【0034】
《サンプルの作製》
以下のようにして、本発明の排ガス浄化触媒である実施例1乃至5と比較例1乃至5(但し比較例2は欠番)を作製した。
(実施例1)
La0.8と酸化物担持貴金属触媒(Pt/Al)を、それぞれ9:1の質量比で秤量し、自動乳鉢で30分間混合し、実施例1の排ガス浄化触媒を得た。ガス酸化活性を測定する場合は、反応管中に配置した試料ステージに1.84gのサンプルを充填して測定した。具体的には1.656gのLa0.8と0.184gのPt/Alの混合物である。
【0035】
(実施例2)
La0.8と酸化物担持貴金属触媒(Pt/Al)を、それぞれ8:2の質量比で秤量し、自動乳鉢で30分間混合し、実施例2の排ガス浄化触媒を得た。ガス酸化活性を測定する場合は、反応管中に配置した試料ステージに1.84gのサンプルを充填して測定した。具体的には1.472gのLa0.8と0.368gのPt/Alの混合物である。
【0036】
(実施例3)
La0.8と酸化物担持貴金属触媒(Pt/Al)を、それぞれ5:5の質量比で秤量し、自動乳鉢で30分間混合し、実施例3の排ガス浄化触媒を得た。ガス酸化活性を測定する場合は、反応管中に配置した試料ステージに1.84gのサンプルを充填して測定した。具体的には0.92gのLa0.8と0.92gのPt/Alの混合物である。
【0037】
(実施例4)
La0.9と酸化物担持貴金属触媒(Pt/Al)を、それぞれ9:1の質量比で秤量し、自動乳鉢で30分間混合し、実施例4の排ガス浄化触媒を得た。ガス酸化活性を測定する場合は、反応管中に配置した試料ステージに1.84gのサンプルを充填して測定した。具体的には1.656gのLa0.9と0.184gのPt/Alの混合物である。
【0038】
(実施例5)
La0.6と酸化物担持貴金属触媒(Pt/Al)を、それぞれ9:1の質量比で秤量し、自動乳鉢で30分間混合し、実施例5の排ガス浄化触媒を得た。ガス酸化活性を測定する場合は、反応管中に配置した試料ステージに1.84gのサンプルを充填して測定した。具体的には1.656gのLa0.6と0.184gのPt/Alの混合物である。
【0039】
(比較例1)
比較例1は実施例1と同じペロブスカイトとPt/Alを積層構造にしたものである。具体的には、反応管中に配置した試料ステージに、1.656gのLa0.8を下流側、0.184gのPt/Alが上流側となるように堆積した。なお、ここで上流、下流とは検査ガスを流す際に、より流出源に近い方を上流と呼ぶ。
【0040】
(比較例3)
比較例3は実施例3と同じペロブスカイトとPt/Alを積層構造にしたものである。具体的には、反応管中に配置した試料ステージに、0.92gのLa0.8を下流側、0.92gのPt/Alが上流側となるように堆積した。
【0041】
(比較例4)
比較例4は実施例4と同じペロブスカイトとPt/Alを積層構造にしたものである。具体的には、反応管中に配置した試料ステージに、1.656gのLa0.9を下流側、0.184gのPt/Alが上流側となるように堆積した。
【0042】
(比較例5)
比較例5は実施例5と同じペロブスカイトとPt/Alを積層構造にしたものである。具体的には、反応管中に配置した試料ステージに、1.656gのLa0.6を下流側、0.184gのPt/Alが上流側となるように堆積した。
【0043】
以上のように比較例1は、実施例1と同一組成で層構造を有するサンプルである。また同様に比較例3、4、5は実施例3、4、5に対応するサンプルである。なお、実施例2と同一組成の層構造サンプルは用意しなかったので、比較例2は欠番とした。
【0044】
《CB燃焼温度の測定》
CB燃焼温度の被測定試料を準備した。また、市販のCB(カーボンブラック:三菱化学株式会社製)若しくはこの材料の同等品を準備した。
【0045】
そして、被測定試料とカーボンブラックの重量比が6:1になるように秤量し、自動乳鉢機(石川工場製AGA型)若しくはこの装置の同等品で20分混合し、被測定試料とカーボンブラックとの混合粉体を得た。
【0046】
この混合粉体20mgを、熱重量、示差熱測定(TG/DTA)装置に設置し、昇温速度10℃/分にて50℃から700℃まで大気中で昇温し、重量測定を行った。尚、熱重量、示差熱測定(TG/DTA)装置は、セイコーインスツルメンツ株式会社製、TG/DTA(6300型)若しくはこの装置の同等品を用い、DTAのピーク強度が最大になる点をもって、カーボンブラックの燃焼温度とした。カーボンブラックの燃焼温度は、低ければPM燃焼用触媒として有用であると判断できる指針である。
【0047】
La0.6、La0.8、La0.9、Pt/Alおよび実施例1乃至3のCB燃焼温度を表2に示す。また、図7には、La0.8、実施例1乃至3とPt/AlについてCB燃焼温度をPt/Alの混合量との関係で表したグラフを示す。
【表2】

【0048】
《粒度分布の測定》
粒度分布は、レーザー回折法による粒度分布測定によるD50径(または単にD50)を測定した。D50とは、粒子径の小さい方から順に並べたときに、全粒子数の中間の粒子の粒子径(μm)である。なお、La0.6、La0.8、La0.9のD50を表2に示す。
【0049】
《BET比表面積の測定》
被測定試料をメノウ乳鉢で解粒し、粉末とした後、BET法により比表面積(SBET:m/g)を求めた。測定はユアサイオニクス製の4ソーブUSを用いて行った。なお、La0.6、La0.8、La0.9、Pt/AlのSBETを表2に示す。
【0050】
《ガス酸化活性度の測定》
COおよびCの酸化活性は以下のようにして測定した。
実施例1、3、4、5の本発明の排ガス浄化触媒は、固定床流通系反応器に1〜2mmのペレット状にしたサンプルを1.84g充填した。
【0051】
また、比較例1、3、4、5は、同上の試料ステージ上にペロブスカイトを充填し、その上にPt/Alを充填した積層構造とした。ペロブスカイトとPt/Alは上記の比率の質量を用いた。どの比較例も触媒は合計で1.84gを充填した。測定用のガスはPt/Alが上流側、ペロブスカイトが下流側になるように流した。
【0052】
次に、表3に示す組成のディーゼル排ガスの模擬混合ガスを室温において全ガス流量8L/分で流通させた。固定床流通系反応器の出口側では、CO濃度を赤外分析計(堀場製作所製のVIA−510)で、またC濃度を水素イオン化法分析計(堀場製作所製のFIA−510)によってそれぞれモニタリングした。触媒充填層の温度を室温から500℃まで昇温し、測定温度におけるCO濃度とC濃度からCO転化率(%)とC転化率(%)を以下の(1)式および(2)式により求めた。なお、(1)式と(2)式中で、入口CO濃度および入口C濃度は表3の値を用いた。

CO転化率(%)=(入口CO濃度−出口CO濃度)×100/入口CO濃度
・・・・(1)
転化率(%)=(入口C濃度−出口C濃度)×100/入口C濃度
・・・・(2)

【表3】

【0053】
図1および図2を参照して実施例1と実施例3のCOに対する酸化活性を説明する。図1および図2とも、縦軸はCO転化率(%)を示し、横軸は触媒温度(℃)を示す。図1を参照して、La0.8とPt/Alを混合した実施例1は、それぞれを独立にして積層構造にした比較例1と比べて、酸化活性特性の立ち上がりが早かった。すなわち、例えば200℃までの任意の温度において実施例1の方が比較例1よりCO転化率が高くなっていた。これは温度が同じであれば、COをより多く酸化させることができることを意味する。言い換えるとCOの排出量を減らすことができる。
【0054】
このようにLa0.8とPt/Alを混合した実施例1が積層構造である比較例1より酸化活性が高くなる理由は明確ではない。しかし、La0.8とPt/Alを混合したためにLa0.8の酸素吸蔵放出能とPt/Alの酸化作用が相乗的に働いたものであると推定される。
【0055】
また、実施例1では、La0.8とPt/Alは質量比で9:1であり、Ptの総質量を考えると、比較例1よりはるかに少ないPtで、ガス酸化活性を得られていることになる。
【0056】
一方、図2を参照して、La0.8と同質量のPt/Alを混合した実施例3とそれぞれを積層した比較例3では、わずかにLa0.8の方が酸化活性は高いものの、混合による構造と積層構造は、ほぼ同じ特性を示した。これは、Ptが多くなるにつれ、混合も積層もあまり酸化活性には差がなくなることを示している。
【0057】
言い換えると、La0.8と少量のPt/Alを混合すると、それぞれを独立の形成層として用いる場合より、酸化活性が向上する。
【0058】
図7には、La0.8自体と、実施例1乃至3およびPt/Al単独のCB燃焼温度の測定結果を示す。縦軸はCB燃焼温度(℃)であり、横軸はPt/Alの混合量(質量%)である。La0.8のペロブスカイトは、CB燃焼活性がある触媒であるので、La0.8単独(横軸がゼロに対応)の場合はCB燃焼温度が367℃と低かった。ついで、Pt/Alの混合量が増加するにつれ、CB燃焼温度は高くなった。
【0059】
ここで、Pt/Alの混合量が20質量%の実施例2(符号71)は、CB燃焼温度が411℃であった。これは、PM燃焼用触媒として、十分実用に耐える温度である。すなわち、Pt/Alの混合量が20質量%以下であれば、PM燃焼用触媒として実用に耐える。また、先の図1および2の結果を考慮すると、少なくともPt/Alの混合量が10質量%以上20質量%以下の範囲であれば、PM燃焼用触媒としても、ガス酸化活性触媒としても優れた特性を示したと言える。
【0060】
図3は、実施例4と比較例4のCO酸化活性と触媒温度の関係を示し、図4は実施例4と比較例4のCの酸化活性を示す。それぞれのグラフにおいて、縦軸は酸化活性を示し、横軸は触媒温度を示す。いずれの場合も混合をした場合の方が、積層にした場合より高い酸化活性を示した。すなわち、同じ酸化活性を得るためのPtの総量は少なくてよいという効果を得る。
【0061】
図5および図6は実施例5と比較例5のCOおよびCに対するガス酸化活性を示す。横軸と縦軸は図3および図4の場合と同じである。ここでも、混合の方が積層よりも酸化活性は高かった。すなわち、実施例4の場合同様、同じ酸化活性を得るためのPtの総量は少なくてよいという効果を得る。
【0062】
実施例4および実施例5は、Laが0.9と0.6の場合である。表2を参照して、La0.6とLa0.9のCB燃焼温度はそれぞれ365℃と392℃であった。La0.8のCB燃焼温度が367℃であったので、Laの含有量が多くなると、CB燃焼温度は高くなる。
【0063】
図7を再度参照して、ペロブスカイトとPt/Alの混合においては、CB燃焼温度は、Pt/Alの混合量にほぼ比例して増加した。そこで、La0.9をグラフ上にプロットする(符号72)と、ライン70がLa0.9の場合のPt/Alの混合量依存性を示す。Pt/Alが20質量%と想定される点は符号73である。この符号73の点でのCB燃焼温度はおよそ447℃である。
【0064】
この想定されたPt/Alの混合量依存性においても、Pt/Alの含有量が10質量%から20質量%においては、450℃以下のCB燃焼温度が期待できる。すなわち、ペロブスカイトにおけるLaの含有量が0.6乃至0.9の範囲で、本発明の複合酸化物と酸化物担持貴金属触媒の混合触媒は、PM燃焼用触媒とガス酸化活性触媒として良好な特性を有する。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、ディーゼルエンジンの排ガスフィルタ(DPF)に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施例1と比較例1のCO酸化活性を示すグラフである。
【図2】実施例3と比較例3のCO酸化活性を示すグラフである。
【図3】実施例4と比較例4のCO酸化活性を示すグラフである。
【図4】実施例4と比較例4のC酸化活性を示すグラフである。
【図5】実施例5と比較例5のCO酸化活性を示すグラフである。
【図6】実施例5と比較例5のC酸化活性を示すグラフである。
【図7】ペロブスカイトとPt/Alの混合比とCB燃焼温度の関係を示すグラフである。
【図8】本発明の排ガス浄化触媒を用いたDPFの構成を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト構造の複合酸化物と、貴金属を酸化物に担持させた酸化物担持貴金属触媒を混合した排ガス浄化触媒。
【請求項2】
前記ペブロスカイト構造の複合酸化物はLaBa1−xFeO(0.6≦x≦0.9)である請求項1に記載された排ガス浄化触媒。
【請求項3】
前記酸化物担持貴金属触媒はPt/Alである請求項1または2のいずれかの請求項に記載された排ガス浄化触媒。
【請求項4】
前記複合酸化物と前記酸化物担持貴金属触媒の混合比は9:1乃至8:2である請求項1乃至3のいずれか1の請求項に記載された排ガス浄化触媒。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかの請求項に記載された排ガス浄化触媒と、
溶剤と
無機バインダーを含む排ガス浄化触媒用塗料。
【請求項6】
多孔質フィルタと、
前記多孔質フィルタの表面上に形成された、
請求項1乃至4の何れかの請求項に記載された排ガス浄化触媒と、
無機バインダーを含む排ガス浄化触媒層を有するディーゼル排ガス浄化用フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−291753(P2009−291753A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−150015(P2008−150015)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】