説明

排ガス浄化触媒性能評価装置

【課題】排ガス浄化触媒の直前の模擬排ガスを高速で温度昇降させることができるようにする。
【解決手段】ガス導入管1と、ガスセル2と、赤外線加熱部4と、ガスセル側からガス導入管側に一定の長さにわたってのびる領域を冷却する冷却部6a、6bと、冷却領域の下流側にのびる遮光板12を備える。排ガス浄化触媒3は、ガスセル内の冷却領域の下流側の、赤外線が遮られた領域に収容される。温度センサー13が、ガスセル内の赤外線が遮られた領域における排ガス浄化触媒の直前に配置される。制御部14は、温度センサーの位置の模擬排ガス温度設定値に従って冷却部を制御し、かつ温度センサーからの検出信号に基づいて赤外線加熱部を制御する。冷却部による冷却が常時行われ、冷却部の冷却出力と赤外線加熱部の加熱出力が、排ガス浄化触媒直前の模擬排ガスの温度が模擬排ガス温度設定値に一致するように制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の内燃機関の排気系に備えられる排ガス浄化触媒の性能を評価する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の排出ガスによる大気汚染を軽減するため、日米欧を中心に排出ガス規制が行われており、この排出ガス規制は段階的に強化される傾向にある。自動車排出ガス規制は、自動車の内燃機関から排出される、窒素酸化物(NO)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、非メタン炭化水素(NMHC)、粒子状物質(PM)等の大気汚染物質の上限量を定めた規制であり、この規制をクリアしなければ、新車登録が拒絶される等の措置がとられるようになっている。
【0003】
自動車排出ガス規制においては、試験モードが定められており、例えば、日本のJC08CモードおよびJC08Hモードや、米国のLA4モード等の試験モードが良く知られている。
そして、排出ガスの測定試験は、車両をシャシ・ダイナモメータ上にセットして、規定の試験モードで走行させ、その試験期間中の排出ガス中の大気汚染物質の量を定められた測定法に基づいて測定することによって実行される。
【0004】
また、自動車の内燃機関の排気系には排ガス浄化触媒を備えた排ガス浄化装置が搭載されており、年々強化される排出ガス規制をクリアするためには、排ガス浄化触媒の性能の向上が不可欠であり、そのため、排ガス浄化触媒の研究・開発が盛んに行われている。
【0005】
排ガス浄化触媒の研究・開発には、排ガス浄化触媒性能評価装置が用いられる。排ガス浄化触媒性能評価装置においては、通常、内燃機関からの排出ガスと同様の成分を含む模擬排ガスが使用される。模擬排ガスは、例えば、NO、CO、HC、HO等の、内燃機関の排出ガスに含まれる各種の成分を排出ガスにおける濃度と同様の濃度になるように窒素ガスと混合したものである。
【0006】
そして、模擬排ガスが、試験モードで走行する間の車両の排ガス浄化装置内の触媒の直前における排出ガスと同様の温度状態にされて、触媒の収容されたガスセル内に導入されるとともに、触媒前後のガス濃度が計測されることによって触媒の性能が評価されるようになっている。
【0007】
この場合、性能評価の精度を上げるためには、ガスセル内における触媒の直前の模擬排ガスの温度を、試験モードで走行中の車両の排ガス浄化装置内の触媒の直前における排出ガスの温度変化ができるだけ正確に再現されるように、変化させることが重要であり、そのためには、ガスセル内における触媒の直前の模擬排ガスを高速で温度昇降させることが必要であり、言い換えれば、触媒の直前での模擬排ガスの温度昇降時の温度勾配を大きくしなければならない。
【0008】
これを達成する従来の触媒性能評価装置として、例えば、模擬排ガス供給路から供給される模擬排ガスが流れるガスセルに沿って第1加熱部および第2加熱部を順次設け、第1加熱部によって模擬排ガスを加熱し、第2加熱部によってガスセル内に配置された触媒を加熱するようにし、模擬排ガス供給路に分岐流路を接続し、分岐流路の下流端を第1加熱部と第2加熱部との間においてガスセルに接続するとともに、模擬排ガス供給路および分岐流路のそれぞれに模擬排ガスの流量を調節する流量調節弁を設け、触媒入口近傍の温度を検出し、検出値に基づいて流量調節弁の開度を調節し、触媒入口近傍の温度が所定の温度になるように制御する触媒性能評価装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
この装置においては、第1および第2加熱部はそれぞれ、常時オン動作して、所定の熱量を発生するように制御される。また、室温程度の模擬排ガスが模擬排ガス供給路に供給され、分岐点において、ホットライン(分岐点以降の模擬排ガス供給路)とクールライン(分岐流路)とに分流される。そして、ホットラインを流れる模擬排ガスはガスセルの上流端からガスセル内に供給され、第1加熱部を通過して加熱され、触媒の直前ではかなり高温になっている。一方、クールラインを流れる模擬排ガスは、第1加熱部を通過せずに直接触媒の直前に供給されるので、触媒の直前では室温程度である。
【0010】
こうして、ホットラインを流れる模擬排ガスの流量Qと、クールラインを流れる模擬排ガスの流量Qが、昇温過程では流量比Q/Qが大きくなるように、降温過程では流量比Q/Qが小さくなるように制御され、それによって、触媒の直前の模擬排ガスの温度昇降が制御されるようになっている。
【0011】
しかし、この装置では、高温の模擬排ガスと室温程度の模擬排ガスとの混合の割合を制御することによって、触媒の直前の模擬排ガスの温度昇降を制御するので、温度昇降の制御がせいぜい分単位でしかできず、そのため、試験モードで走行中の車両の排ガス浄化装置内の触媒の直前における排出ガスの温度変化を正確に再現することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第3927399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明の課題は、排ガス浄化触媒の直前の模擬排ガスを高速で温度昇降させることができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明によれば、排ガス浄化触媒の性能を評価する装置であって、一端側から模擬排ガスが導入されるガス導入管と、前記ガス導入管の他端に接続され、内部に前記排ガス浄化触媒が収容されるガスセルと、前記ガス導入管および前記ガスセルの外側に間隔をあけて配置された赤外線加熱部と、前記ガス導入管の前記他端から上流側の一定の長さ、または前記ガスセル側から前記ガス導入管側に至る一定の長さにわたってのびる領域を冷却する冷却部と、前記ガスセルおよび前記赤外線加熱部間のスペース内に配置されるとともに、前記冷却部によって冷却される前記領域の下流側の端の近傍から下流側にのびる遮光板と、を備え、前記排ガス浄化触媒は、前記ガスセル内の前記冷却部によって冷却される前記領域より下流側であって、前記遮光板によって赤外線が遮られた領域に収容され、前記装置は、さらに、前記ガスセル内の前記赤外線が遮られた領域に、前記排ガス浄化触媒から上流側に間隔をあけて配置された温度センサーと、予め決定された前記温度センサーの位置の模擬排ガス温度設定値に従って前記冷却部を制御し、かつ、前記温度センサーからの検出信号に基づいて前記赤外線加熱部を制御する制御部と、を備えており、前記冷却部による冷却が常時行われるとともに、前記冷却部の冷却出力と前記赤外線加熱部の加熱出力が前記制御部によって制御され、それによって、前記排ガス浄化触媒の直前の前記模擬排ガスの温度が前記模擬排ガス温度設定値に一致するように制御されるものであることを特徴とする装置が提供される。
【0015】
本発明の好ましい実施例によれば、前記冷却部は、前記一定の長さにわたり、前記ガス導入管、または前記ガスセルおよび前記ガス導入管に固定され、前記ガス導入管の外側空間、または前記ガスセルおよび前記ガス導入管の外側空間を密閉状態に取り囲む冷媒溜を備え、前記冷媒溜には、少なくとも1つの冷媒入口および冷媒出口が形成されており、前記冷却部は、さらに、冷媒供給源と、一端が前記冷媒供給源に接続され、他端が前記冷媒溜の冷媒入口に接続された冷媒供給管路と、前記冷媒溜の冷媒出口に接続された冷媒排出管路と、前記冷媒供給管路の途中に配置され、冷媒の流量を制御する流量制御ユニットと、を備え、前記冷却部の冷却出力は前記冷媒供給源から前記冷媒供給管路に供給される冷媒の流量によって決定され、冷媒が、常時、前記冷媒溜の冷媒入口から前記ガス導入管、または前記ガス導入管および前記ガスセルに向けて噴射され、前記ガス導入管の外周面、または前記ガス導入管および前記ガスセルの外周面を伝って流れた後、前記冷媒溜の冷媒出口から排出されるとともに、前記模擬排ガス温度設定値に従って前記冷媒の流量が前記制御部によって制御され、同時に、前記温度センサーの検出値に基づいて前記赤外線加熱部の加熱出力が前記制御部によって制御される。
【0016】
本発明の別の好ましい実施例によれば、前記制御部による前記冷媒の流量の制御は、前記模擬排ガス温度設定値が取り得る範囲を複数の温度帯に区分し、前記温度帯毎に冷却に必要な前記冷媒の流量を予め設定しておき、前記模擬排ガス温度設定値がどの前記温度帯に属するのかをその都度判定して、当該温度帯に対応する流量の冷媒を前記冷媒供給源から前記冷媒供給管路に供給することによってなされる。
【0017】
本発明のさらに別の好ましい実施例によれば、前記赤外線加熱部は、前記制御部によって、前記加熱出力が、前記装置の起動時を除いては前記赤外線加熱部のソフトスタートを不要とすべく予め設定された最低値以下にならないよう制御される。
本発明のさらに別の好ましい実施例によれば、前記赤外線加熱部の前記加熱出力が前記最低値以下にならないようにする制御は、予め決定された前記温度センサーの検出値の範囲を複数の温度帯に区分し、前記温度帯毎に前記加熱出力の前記最低値を予め設定しておき、前記温度センサーの検出値がどの前記温度帯に属するのかをその都度判定して、前記赤外線加熱部の加熱出力が当該温度帯に対応する前記最低値以下にならないようにすることからなっている。
【0018】
本発明のさらに別の好ましい実施例によれば、前記冷媒溜は、前記ガス導入管の前記他端の外周、または前記ガスセルの外周にシールされた状態で固定された第1の環状フランジと、前記第1の環状フランジから上流側に前記一定の長さ離れた位置において、前記ガス導入管の外周にシールされた状態で固定された第2の環状フランジと、前記第1および第2の環状フランジの間にのび、前記第1および第2の環状フランジの外周縁同士を接続する筒状の側壁と、を備えている。
【0019】
本発明のさらに別の好ましい実施例によれば、前記冷媒は、液体状冷媒または気体状冷媒またはそれらの混合物からなっている。
本発明のさらに別の好ましい実施例によれば、前記冷媒は、純水に空気または窒素を混合したものからなっている。
【0020】
本発明のさらに別の好ましい実施例によれば、前記流量制御ユニットは、前記冷媒供給管路の途中に配置された流量調節弁からなっている。
本発明のさらに別の好ましい実施例によれば、前記流量制御ユニットは、前記冷媒供給源に接続され、冷媒を循環させる主管路と、前記主管路の途中に配置され、前記主管路から前記冷媒供給管路を分岐させる少なくとも1つの分流弁または分岐弁と、からなっている。
【0021】
本発明のさらに別の好ましい実施例によれば、前記冷媒排出管路は熱交換器を介して前記冷媒供給源に接続されており、前記冷媒溜から排出された冷媒が前記熱交換器によって所定の温度まで冷却された後、前記冷媒供給源に戻されるようになっている。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ガス導入管およびガスセルを赤外線加熱部によって加熱するとともに、ガスセルの模擬排ガス入口の近傍を冷却部によって常時冷却するようにし、予め決定された温度センサーの位置の模擬排ガス温度設定値に従って冷却部の冷却出力を制御し、かつ、排ガス浄化触媒の直前に配置した温度センサーの検出値に基づいて、赤外線加熱部の加熱出力を制御するので、赤外線加熱部を常時高出力で作動させたままで、模擬排ガス温度設定値が低温領域にあるときは、冷却部の冷却出力を高出力にし、高温領域にあるときは冷却部の冷却出力を低出力にすることによって、模擬排ガスの温度を昇降させることができ、その結果、排ガス浄化触媒の直前の模擬排ガスの温度を、低温領域から高温領域に至る全ての温度領域において高速で昇降させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の1実施例による排ガス浄化触媒性能評価装置の縦断面図である。
【図2】図1の装置の流量制御ユニットの分流弁の1例の概略構成を示す縦断面図である。
【図3】本発明の1実施例による排ガス浄化触媒性能評価装置において、模擬排ガス温度設定値の昇降を繰り返した場合の排ガス浄化触媒の直前の模擬排ガスの温度変化の一例を示したグラフである。
【図4】図3のグラフのデータを取得したのと同じ装置を使用して、LA4コールドスタート試験モードで走行中の車両(排気量2400ccのガソリンエンジン車)の排ガス浄化装置内の触媒の直前における排出ガスの温度変化をどの程度まで再現できるかを実験した場合の実験データをプロットしたグラフである。
【図5】図3のグラフのデータを取得したのと同じ装置を使用して、模擬排ガス温度設定値を、300〜600℃の範囲において、一定の周期で昇降させた場合(昇温時の温度勾配=60℃/sec、降温時の温度勾配=25℃/sec)の、排ガス浄化触媒の直前の模擬排ガスの温度変化を示したグラフである。
【図6】図3のグラフのデータを取得したのと同じ装置を使用して、模擬排ガス温度設定値を、30℃、50℃、80℃のそれぞれにおいて、一定時間維持した場合の、排ガス浄化触媒の直前の模擬排ガスの温度変化を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照して本発明の好ましい実施例を説明する。図1は、本発明の1実施例による排ガス浄化触媒性能評価装置の構成を示す縦断面図である。
図1を参照して、本発明による排ガス浄化触媒性能評価装置は、一端1a側から模擬排ガスが導入されるガス導入管1と、ガス導入管1の他端1bに接続され、内部に排ガス浄化触媒3が収容されるガスセル2と、ガス導入管1およびガスセル2の外側に間隔をあけて配置された赤外線加熱部4を備えている。
【0025】
この実施例では、ガスセル2は、ガス導入管1よりも大きい径を有する触媒収容管2aと、ガス導入管1と触媒収容管2aを接続するテーパ管2bとから構成され、また、赤外線加熱部4は、ガス導入管1およびガスセル2を取り囲む円筒状の赤外線炉からなっているが、ガスセル2および赤外線加熱部4の構成は、これに限定されるものではない。
【0026】
本発明による排ガス浄化触媒性能評価装置は、また、ガスセル2側からガス導入管1側に至る一定の長さにわたってのびる領域を冷却する冷却部6a、6bを備えている。この場合、冷却部6a、6bは、ガス導入管1の他端1bから上流側の前記一定の長さにわたってのびる領域を冷却するようになっていてもよい。
【0027】
冷却部6a、6bは、この実施例では、前記一定の長さにわたり、ガスセル2およびガス導入管1の外側に固定され、ガスセル2およびガス導入管1の外側空間を密閉状態に取り囲む冷媒溜7を備えている。
冷媒溜7は、ガスセル2の外周にシールされた状態で固定された第1の環状フランジ7aと、第1の環状フランジ7aから上流側に前記一定の長さ離れた位置に、ガス導入管1の外周にシールされた状態で固定された第2の環状フランジ7bと、第1および第2の環状フランジ7a、7bの間にのび、第1および第2の環状フランジ7a、7bの外周縁同士を接続する筒状の側壁7cと、を備えている。冷媒溜7には、少なくとも1つの冷媒入口7dおよび冷媒出口7eが形成される。
【0028】
冷却部6a、6bは、さらに、冷媒供給源8と、一端が冷媒供給源8に接続され、他端が冷媒溜7の冷媒入口7dに接続された冷媒供給管路9と、冷媒溜7の冷媒出口7eに接続された冷媒排出管路10と、冷媒供給管路9の途中に配置され、冷媒の流量を制御する流量制御ユニット11を備えている。
この場合、冷媒排出管路10を、熱交換器を介して冷媒供給源8に接続し、冷媒溜7から排出された冷媒を熱交換器によって所定の温度まで冷却した後、冷媒供給源8に戻すようにしてもよい。
【0029】
この実施例では、冷媒は、純水に空気を混合したものからなっており、冷媒供給源8は、水タンク8aと、ポンプ8bと、冷媒供給管路8の途中に分岐接続された空気供給管路15からなっている。この場合、純水に、空気の代わりに窒素を混合したものを冷媒として使用してもよい。
また、流量制御ユニット11は、水タンク8aおよびポンプ8bを接続し、純水を循環させる主管路11aと、主管路11aの途中に配置され、主管路11aから冷媒供給管路9を分岐させる少なくとも1つの分流弁(または分岐弁)11bとからなっている。
【0030】
図2は、分流弁の一例の概略構成を示す縦断面図である。図2を参照して、分流弁11bは、基台28と、基台28上に固定され、内部に円柱状のキャビティ21を備えた、両端開口が閉じられた円筒状のハウジング20とを有している。ハウジング20の側壁の中央部には、一端がキャビティ21に開口し、他端が主管路11aに接続される入口管路22が設けられ、ハウジング20の側壁の一方の端部には、一端がキャビティ21に開口し、他端が主管路11aに接続される第1出口管路23が設けられ、ハウジング20の側壁の他方の端部には、一端がキャビティ21に開口し、他端が冷媒供給管路9に接続される第2出口管路24が設けられる。
【0031】
また、キャビティ21内には、円形断面を有し、両端から中央に向けて次第に先細り状に形成された弁体25が配置され、第1出口管路23側の第1弁座20aと、第2出口管路24側の第2弁座20bとの間において、軸方向に往復運動可能に配置される。弁体25の両端面には、それぞれ軸方向にのびるロッド26が突設される。各ロッド26は、ハウジハウジング20の端面を貫通して外部に突出するとともに、ハウジング20に備えられた軸受にシールされた状態で支持され、軸方向に往復運動可能になっている。さらに、基台28上には、リニアアクチュエータ27が取付けられ、一方のロッド26の先端に連結されている。
【0032】
そして、リニアアクチュエータ27によって、弁体25が第1弁座20aおよび第2弁座20bの間において軸方向に往復運動し、弁体25の各弁座20a、20bに対する位置に応じて、冷媒供給管路9側の弁開度および主管路11a側の弁開度が変化する(弁座20a、20bの位置に弁体25の端が位置するとき、開度が最小となり、弁座20a、20bの位置に弁体25の中央が位置するとき、開度が最大になる)。
【0033】
流量制御ユニット11の構成はこの実施例に限定されず、流量制御ユニット11を、例えば、冷媒供給管路9の途中に配置された、マスフローコントローラ等のような流量調節弁から構成してもよい。
また、冷媒の構成もこの実施例に限定されず、公知の適当な液体状冷媒または気体状冷媒またはそれらの混合物を冷媒として使用することができる。
また、冷却部6a、6bの構成もこの実施例に限定されず、冷却出力を適当に制御することができ、ガスセル2の入口付近の冷却に適したものであれば、どのような構成を有していてもよい。
【0034】
スペース5内には、また、赤外線加熱部4からの赤外線を遮光する遮光板12が配置され、冷却部6a、6bによって冷却される領域の下流側の端(この実施例では、冷媒溜7の下流側の端)の近傍から下流側にのびている。この実施例では、遮光板12は、ガスセル2の外側を、これから間隔をあけて取り囲む円筒形状を有している。
排ガス浄化触媒3は、ガスセル2内の冷却部6a、6bによって冷却される領域より下流側であって、遮光板12によって赤外線が遮られた領域に収容される。
【0035】
本発明による排ガス浄化触媒性能評価装置は、さらに、ガスセル2内の赤外線が遮られた領域において、排ガス浄化触媒3から上流側に間隔をあけて配置された温度センサー13と、予め決定された温度センサー13の位置の模擬排ガス温度設定値に従って冷却部6a、6bを制御するとともに、温度センサー13からの検出信号に基づいて赤外線加熱部4を制御する制御部14を備えている。
【0036】
この実施例では、冷却部6a、6bの冷却出力が、冷媒供給源8から冷媒供給管路9に供給される冷媒の流量よって決定され、冷媒の流量は、分流弁11bの開度(分流弁11bにおける冷媒供給管路9側の開度)を調節することによって制御される。
そして、冷媒が、常時、冷媒溜7の冷媒入口7dからガス導入管1およびガスセル2に向けて噴射され、ガス導入管1およびガスセル2の外周面を伝って流れた後、冷媒溜7の冷媒出口7eから排出されるとともに、模擬排ガス温度設定値に従って冷媒の流量が制御部14によって制御され、同時に、温度センサー13の検出値に基づいて赤外線加熱部4の加熱出力が制御部14によって制御され、それによって、排ガス浄化触媒3の直前の模擬排ガスの温度が模擬排ガス温度設定値に一致するように制御される。
【0037】
こうして、本発明の排ガス浄化触媒性能評価装置によれば、ガス導入管1およびガスセル2を赤外線加熱部4によって加熱するとともに、ガスセル2の模擬排ガス入口の近傍を冷却部6a、6bによって常時冷却し、予め決定された温度センサー13の位置の模擬排ガス温度設定値に従って冷却部6a、6bの冷却出力を制御し、同時に、温度センサー13の検出値に基づいて赤外線加熱部の加熱出力を制御するので、赤外線加熱部4を常時高出力で作動させたままで、模擬排ガス温度設定値が低温領域にあるときは、冷却部6a、6bの冷却出力を高出力にし、高温領域にあるときは冷却部6a、6bの冷却出力を低出力にすることによって、模擬排ガスの温度を昇降させることができ、その結果、排ガス浄化触媒3の直前の模擬排ガスの温度を、低温領域から高温領域に至る全ての温度領域において高速で昇降させることができる。
【0038】
この実施例では、制御部14による冷媒の流量の制御は、模擬排ガス温度設定値が取り得る範囲を複数の温度帯に区分し、温度帯毎に冷却に必要な冷媒の流量(分流弁11bの開度)を予め設定しておき、模擬排ガス温度設定値がどの温度帯に属するのかをその都度判定して、分流弁11bの開度を、当該温度帯に対応する値に調節し、冷媒供給源8から冷媒供給管路9に対応する量の冷媒を供給することからなっている。
【0039】
また、赤外線加熱部4は、制御部14によって、加熱出力が、排ガス浄化触媒性能評価装置の起動時を除いては赤外線加熱部4のソフトスタートを不要とすべく予め設定された最低値以下にならないよう制御される。
この制御は、好ましくは、予め決定された温度センサー13の検出値の範囲を複数の温度帯に区分し、温度帯毎に加熱出力の前記最低値を予め設定しておき、温度センサー13の検出値がどの温度帯に属するのかをその都度判定して、赤外線加熱部4の加熱出力が当該温度帯に対応する最低値以下にならないようにすることからなっている。
【0040】
この制御部14による制御は次のように実行される。
まず、模擬排ガス温度設定値の取り得る範囲が0〜1000℃と、予め設定される。そして、冷媒の流量の制御に関しては、この温度設定値の範囲が、表1に示すように、0〜200℃(温度帯No.1)、201〜300℃(温度帯No.2)、301〜350℃(温度帯No.3)、351〜400℃(温度帯No.4)、401〜450℃(温度帯No.5)、451〜500℃(温度帯No.6)、501〜550℃(温度帯No.7)、551〜600℃(温度帯No.8)、601〜700℃(温度帯No.9)、701〜1000℃(温度帯No.10)の10の温度帯に区分される。そして、温度帯毎に、分流弁11bの開度(分流弁11bにおける冷媒供給管路9側の開度)が、95%(温度帯No.1)、85%(温度帯No.2)、75%(温度帯No.3)、65%(温度帯No.4)、55%(温度帯No.5)、45%(温度帯No.6)、35%(温度帯No.7)、25%(温度帯No.8)、15%(温度帯No.9)、5%(温度帯No.10)のように予め設定される。
【0041】
【表1】

【0042】
また、赤外線加熱部4の加熱出力については、予め決定された温度センサー13の検出値の範囲0〜1000℃が、表2に示すように、0〜35℃未満(温度帯No.1)、35℃以上〜100℃未満(温度帯No.2)、100℃以上〜150℃未満(温度値No.3)、150℃以上〜200℃未満(温度帯No.4)、200℃以上〜1000℃(温度帯No.5)の5つの温度帯に区分される。そして、温度帯毎に、加熱出力の最低値が、最大加熱出力値の0%(温度帯No.1)、最大加熱出力値の5%(温度帯No.2)、最大加熱出力値の10%(温度帯No.3)、最大加熱出力値の15%(温度帯No.4)、最大加熱出力値の20%(温度帯No.5)のように予め設定される。
この場合、加熱出力の最低値が最大加熱出力の0%の温度帯No.1(本発明の排ガス浄化触媒性能評価装置の起動時に相当する。)においては、赤外線加熱部4がソフトスタートされなければならない。
【0043】
【表2】

【0044】
図3は、この具体例において、排ガス浄化触媒の直前の模擬排ガスの温度の昇降を繰り返した場合の温度変化の一例を示したグラフである。図3のグラフ中、縦軸は温度(℃)を、横軸は経過時間(sec)をそれぞれ表し、曲線Cは温度変化を表している。また、グラフの右側に、各温度帯の分流弁11bの開度を示した。
【0045】
図3を参照して、まず、本発明の排ガス浄化触媒性能評価装置の起動後、模擬排ガス温度設定値が300℃付近まで上昇せしめられる(0〜40秒)。この昇温過程において、装置の起動後(起動時の温度は室温程度)、模擬排ガス温度設定値が35℃に達するまでは、赤外線加熱部4はソフトスタートせしめられ、その間、分流弁11bの開度は95%に設定される。次いで、模擬排ガス温度設定値が35℃以上〜300℃の範囲では、赤外線加熱部4が高出力(最低加熱出力以上)で作動せしめられる一方、分流弁11bの開度が、模擬排ガス温度設定値が200℃までは95%に設定され、模擬排ガス温度設定値が201〜300℃の範囲では85%に設定される。
【0046】
その後、模擬排ガス温度設定値が300℃付近から250℃付近まで降下せしめられる(40〜50秒)。この降温過程において、赤外線加熱部4の加熱出力が最低加熱出力(最高加熱出力の20%)に維持され、分流弁11bの開度が85%に設定される。
次に、模擬排ガス温度設定値が250℃付近から350℃付近まで上昇せしめられる(50〜55秒)。この昇温過程において、赤外線加熱部4は、再び高出力(最低加熱出力以上)で作動せしめられ、一方、分流弁11bの開度は、模擬排ガス温度設定値が250〜300℃の範囲では85%、301〜350℃の範囲では75%に設定される。このとき、赤外線加熱部4は、ソフトスタートする必要がなく、よって高速での昇温が可能である。
【0047】
このように冷媒の流量(冷却部6a、6bの冷却出力)と赤外線加熱部4の加熱出力が制御されることによって、排ガス浄化触媒の直前の模擬排ガスの温度が高速度で昇降される。
【0048】
図4は、図3のグラフのデータを取得したのと同じ装置を使用して、LA4コールドスタート試験モードで走行中の車両(排気量2400ccのガソリンエンジン車)の排ガス浄化装置内の触媒の直前における排出ガスの温度変化をどの程度まで再現できるかを実験した場合の実験データをプロットしたグラフである。
図4のグラフ中、縦軸は温度(℃)と車速(km/h)を、横軸は時間経過(sec)をそれぞれ表している。また、実線で描いた曲線C1は、本発明の装置における模擬排ガスの温度変化を表し、破線で描いた曲線C2は、実車の排出ガスの温度変化を表し、曲線C3は、実車の速度変化を表している。
図4のグラフから、本発明の排ガス浄化触媒性能評価装置によれば、試験モードで走行中の車両の排ガス浄化装置内の触媒の直前における排出ガスの温度変化を正確に再現することができることがわかる。
【0049】
図5は、図3のグラフのデータを取得したのと同じ装置を使用して、模擬排ガス温度設定値を、300〜600℃の範囲において、一定の周期で昇降させた場合(昇温時の温度勾配=60℃/sec、降温時の温度勾配=25℃/sec)の、排ガス浄化触媒の直前の模擬排ガスの温度変化を示したグラフである。図5のグラフから、本発明の排ガス浄化触媒性能評価装置によれば、排ガス浄化触媒の直前の模擬排ガスの温度を、1秒単位で昇降させることができることがわかる。
【0050】
図6は、図3のグラフのデータを取得したのと同じ装置を使用して、模擬排ガス温度設定値を、30℃、50℃、80℃のそれぞれにおいて、一定時間維持した場合の、排ガス浄化触媒の直前の模擬排ガスの温度変化を示したグラフである。図6のグラフから、本発明の排ガス浄化触媒性能評価装置によれば、100℃以下の低温領域においても、模擬排ガスの温度を安定して昇降させ得ることがわかる。
【符号の説明】
【0051】
1 ガス導入管
1a 一端
1b 他端
2 ガスセル
2a 触媒収容管
2b テーパ管
3 排ガス浄化触媒
4 赤外線加熱部
5 スペース
6a、6b 冷却部
7 冷媒溜
7a 第1の環状フランジ
7b 第2の環状フランジ
7c 側壁
7d 冷媒入口
7e 冷媒出口
8 冷媒供給源
8a 水タンク
8b ポンプ
9 冷媒供給管路
10 冷媒排出管路
11 流量制御ユニット
11a 主管路
11b 分流弁
12 遮光板
13 温度センサー
14 制御部
15 空気供給管路
20 ハウジング
20a 第1弁座
20b 第2弁座
21 キャビティ
22 入口管路
23 第1出口管路
24 第2出口管路
25 弁体
26 ロッド
27 リニアアクチュエータ
28 基台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガス浄化触媒の性能を評価する装置であって、
一端側から模擬排ガスが導入されるガス導入管と、
前記ガス導入管の他端に接続され、内部に前記排ガス浄化触媒が収容されるガスセルと、
前記ガス導入管および前記ガスセルの外側に間隔をあけて配置された赤外線加熱部と、
前記ガス導入管の前記他端から上流側の一定の長さ、または前記ガスセル側から前記ガス導入管側に至る一定の長さにわたってのびる領域を冷却する冷却部と、
前記ガスセルおよび前記赤外線加熱部間のスペース内に配置されるとともに、前記冷却部によって冷却される前記領域の下流側の端の近傍から下流側にのびる遮光板と、を備え、前記排ガス浄化触媒は、前記ガスセル内の前記冷却部によって冷却される前記領域より下流側であって、前記遮光板によって赤外線が遮られた領域に収容され、
前記装置は、さらに、
前記ガスセル内の前記赤外線が遮られた領域に、前記排ガス浄化触媒から上流側に間隔をあけて配置された温度センサーと、
予め決定された前記温度センサーの位置の模擬排ガス温度設定値に従って前記冷却部を制御し、かつ、前記温度センサーからの検出信号に基づいて前記赤外線加熱部を制御する制御部と、を備えており、前記冷却部による冷却が常時行われるとともに、前記冷却部の冷却出力と前記赤外線加熱部の加熱出力が前記制御部によって制御され、それによって、前記排ガス浄化触媒の直前の前記模擬排ガスの温度が前記模擬排ガス温度設定値に一致するように制御されるものであることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記冷却部は、
前記一定の長さにわたり、前記ガス導入管、または前記ガスセルおよび前記ガス導入管に固定され、前記ガス導入管の外側空間、または前記ガスセルおよび前記ガス導入管の外側空間を密閉状態に取り囲む冷媒溜を備え、前記冷媒溜には、少なくとも1つの冷媒入口および冷媒出口が形成されており、
前記冷却部は、さらに、
冷媒供給源と、
一端が前記冷媒供給源に接続され、他端が前記冷媒溜の冷媒入口に接続された冷媒供給管路と、
前記冷媒溜の冷媒出口に接続された冷媒排出管路と、
前記冷媒供給管路の途中に配置され、冷媒の流量を制御する流量制御ユニットと、を備え、
前記冷却部の冷却出力は前記冷媒供給源から前記冷媒供給管路に供給される冷媒の流量によって決定され、冷媒が、常時、前記冷媒溜の冷媒入口から前記ガス導入管、または前記ガス導入管および前記ガスセルに向けて噴射され、前記ガス導入管の外周面、または前記ガス導入管および前記ガスセルの外周面を伝って流れた後、前記冷媒溜の冷媒出口から排出されるとともに、前記模擬排ガス温度設定値に従って前記冷媒の流量が前記制御部によって制御され、同時に、前記温度センサーの検出値に基づいて前記赤外線加熱部の加熱出力が前記制御部によって制御されることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記制御部による前記冷媒の流量の制御は、前記模擬排ガス温度設定値が取り得る範囲を複数の温度帯に区分し、前記温度帯毎に冷却に必要な前記冷媒の流量を予め設定しておき、前記模擬排ガス温度設定値がどの前記温度帯に属するのかをその都度判定して、当該温度帯に対応する流量の冷媒を前記冷媒供給源から前記冷媒供給管路に供給することからなっていることを特徴とする請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記赤外線加熱部は、前記制御部によって、前記加熱出力が、前記装置の起動時を除いては前記赤外線加熱部のソフトスタートを不要とすべく予め設定された最低値以下にならないよう制御されることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
前記赤外線加熱部の前記加熱出力が前記最低値以下にならないようにする制御は、予め決定された前記温度センサーの検出値の範囲を複数の温度帯に区分し、前記温度帯毎に前記加熱出力の前記最低値を予め設定しておき、前記温度センサーの検出値がどの前記温度帯に属するのかをその都度判定して、前記赤外線加熱部の加熱出力が当該温度帯に対応する前記最低値以下にならないようにすることからなっていることを特徴とする請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記冷媒溜は、
前記ガス導入管の前記他端の外周、または前記ガスセルの外周にシールされた状態で固定された第1の環状フランジと、
前記第1の環状フランジから上流側に前記一定の長さ離れた位置において、前記ガス導入管の外周にシールされた状態で固定された第2の環状フランジと、
前記第1および第2の環状フランジの間にのび、前記第1および第2の環状フランジの外周縁同士を接続する筒状の側壁と、を備えていることを特徴とする請求項2〜請求項5のいずれかに記載の装置。
【請求項7】
前記冷媒は、液体状冷媒または気体状冷媒またはそれらの混合物からなっていることを特徴とする請求項2〜請求項6のいずれかに記載の装置。
【請求項8】
前記冷媒は、純水に空気または空気を混合したものからなっていることを特徴とする請求項2〜請求項6のいずれかに記載の装置。
【請求項9】
前記流量制御ユニットは、前記冷媒供給管路の途中に配置された流量調節弁からなっていることを特徴とする請求項2〜請求項8のいずれかに記載の装置。
【請求項10】
前記流量制御ユニットは、
前記冷媒供給源に接続され、冷媒を循環させる主管路と、
前記主管路の途中に配置され、前記主管路から前記冷媒供給管路を分岐させる少なくとも1つの分流弁または分岐弁と、からなっていることを特徴とする請求項2〜請求項8のいずれかに記載の装置。
【請求項11】
前記冷媒排出管路は熱交換器を介して前記冷媒供給源に接続されており、前記冷媒溜から排出された冷媒が前記熱交換器によって所定の温度まで冷却された後、前記冷媒供給源に戻されるようになっていることを特徴とする請求項2〜請求項10のいずれかに記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−11238(P2013−11238A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145091(P2011−145091)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【特許番号】特許第4813626号(P4813626)
【特許公報発行日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(594207610)株式会社ベスト測器 (13)
【Fターム(参考)】