説明

排ガス浄化触媒用複合酸化物およびフィルター

【課題】ディーゼルエンジン排ガスのPMを低温で燃焼させることができ、かつPM燃焼時の発熱による劣化の少ない(すなわち高い耐熱性を備えた)酸化触媒を提供する。
【解決手段】Ce、Bi、Rおよび酸素で構成され、Ce、Bi、Rのモル比をCe:Bi:R=(1−x−y):x:yとするとき、0<x≦0.4、および0<y<1.0を満たす排ガス浄化触媒用複合酸化物。この複合酸化物は、蛍石型構造に対応するX線回折ピークを有する。また、前記RとしてPr、Tbの1種または2種を含有する複合酸化物が挙げられる。当該排ガス浄化触媒はPM燃焼触媒として好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等のディーゼルエンジンから排出されるPM(粒子状物質)を燃焼させるのに適した複合酸化物(複数種類の元素と酸素で構成される酸化物)、およびそれを用いた排ガス浄化触媒、並びにディーゼル排ガス浄化用フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン排ガスの問題として、窒素酸化物(NOx)とPMが挙げられる。なかでもPMはカーボンを主体とする微粒子であり、それを除去する一般的な方法として、排気ガス流路に多孔質体セラミックスからなるディーゼル・パーティキュレート・フィルター(DPF)を設置してPMを捕集(トラップ)する方法が挙げられる。捕集されたPMは間欠的または連続的に燃焼処理され、当該DPFはPM捕集前の状態に再生される。
【0003】
このDPF再生処理には、電気ヒーターやバーナー等、外部からの強制加熱によりPMを燃焼させる方法、DPFよりもエンジン側に酸化触媒を設置し、排ガス中に含まれるNOを酸化触媒によりNO2にし、NO2の酸化力によりPMを燃焼させる方法などが一般的に用いられている。しかし、電気ヒーターやバーナーを使用するには外部に動力源を設置する必要があり、それらを確保、動作するための機構等が別途必要になるためシステムそのものが複雑化する。また、酸化触媒については触媒活性が十分発揮されるほど排ガス温度が高くないことや、ある一定の運転状況下でなければPM燃焼に必要なNOが排ガス中に含まれてこないなど、解決すべき種々の問題がある。そこで、DPFのより望ましい再生処理方法として、DPFそのものに触媒を担持させ、その触媒作用によりPMの燃焼開始温度を低下させた上で、PMを燃焼させる方法が検討されている。そして究極的な目標としては排ガス温度にて連続的に燃焼させる方法が最も望ましいとされている。
【0004】
現在ではDPFにトラップされたPMを燃焼除去させるための酸化触媒(PM燃焼触媒)として、高比表面積のアルミナ等に触媒金属のPtを担持させたものが使用されている。しかし、排ガス温度レベルではPtはPMを燃焼させる触媒作用が低いため、排ガスの熱を利用してPMを連続的に燃焼させるのは困難と考えられる。また、Ptは高価であるためコスト増を招くという問題がある。
【0005】
また、PM燃焼触媒では、PM燃焼時の発熱により触媒温度が急激に上昇することが想定される。このため、高温での熱履歴を受けた場合に触媒性能の低下(熱劣化)ができるだけ少ない触媒物質の開発が待たれている。特許文献1〜3には、Pt等の貴金属元素を含まないセリアの複合酸化物を基材とした酸化触媒として、CeとBiあるいはさらに遷移金属元素を含有する混合物が開示されている。CeとBiのみ、あるいはCeとBiと遷移金属元素からなる酸化物固溶体では、Bi元素の融点が低いため、800℃程度の高温下に長時間曝されるとBiの遊離が生じ触媒活性が低下する。このため、耐熱性に関してはさらなる改善が望まれる。
【0006】
【特許文献1】特開平6−211525号公報
【特許文献2】特開2003−238159号公報
【特許文献3】特開2006−224032号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような現状に鑑み、ディーゼルエンジン排ガスのPMを低温で燃焼させることができ、かつPM燃焼時の発熱による劣化の少ない(すなわち高い耐熱性を備えた)酸化触媒物質を提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは鋭意研究の結果、上記目的は、Ce、Bi、R、あるいはさらにZrと、酸素で構成される複合酸化物によって達成されることを見出した。ここでRは、La、Ceを除くランタノイドの1種以上である(以下において単にRと表示する場合も同様)。La、Ceを除くランタノイドは、原子番号59から71の元素である。
【0009】
具体的には、Ce、Bi、Rおよび酸素で構成され、Ce、Bi、Rのモル比をCe:Bi:R=(1−x−y):x:yとするとき、0<x≦0.4、および0<y<1.0を満たす排ガス浄化触媒用複合酸化物が提供される。また、Zrを含むものとして、Ce、Bi、R、Zrおよび酸素で構成され、Ce、Bi、R、Zrのモル比をCe:Bi:R:Zr=(1−x−y−z):x:y:zとするとき、0<x≦0.4、0<y<1.0、および0<z≦0.5を満たす排ガス浄化触媒用複合酸化物が提供される。前記RとしてPr、Tbの1種または2種を含有する触媒が挙げられる。前記複合酸化物は、蛍石型構造に対応するX線回折ピークを有する。このような本発明の複合酸化物として、白金族元素を含有するものを採用することもできる。白金族元素はPt、Rh、Pd、Ir、Ru、およびOsであり、これらの1種以上を使用することができる。白金族元素の含有形態としては、当該複合酸化物の粒子表面に白金族元素が付着して存在する場合や、当該複合酸化物の結晶構造の中に白金族元素が固溶される形で存在する場合がある。本発明の複合酸化物を用いた排ガス浄化触媒はPM燃焼触媒として好適である。
【0010】
本発明の複合酸化物を含む排ガス浄化触媒としては、本発明の複合酸化物を触媒物質として単独で使用してもよいが、本発明の複合酸化物と、Al23、TiO2、SiO2などの物質とを混合することによって排ガス浄化触媒を構成してもよい。
【0011】
また本発明では、ディーゼルエンジン排ガス中のPMをトラップする多孔体フィルターであって、その多孔体中の、トラップされたPMと接触する部位に、前記複合酸化物を存在させたディーゼル排ガス浄化用フィルターが提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の排ガス浄化触媒用複合酸化物は従来のCe系複合酸化物に比べPMの自己発火開始温度が低減されているので、PMの燃焼温度を低下させることができる。このため、DPFに加える熱を抑制することができ、これは各種排ガス系部材に対する負荷の軽減に繋がる。熱エネルギーの付加装置についても、コンパクト化が可能になる。
【0013】
また、本発明の排ガス浄化触媒用複合酸化物はPM燃焼時の発火によって酸化触媒が高温の熱履歴を長時間受けた場合でも、従来のCe系複合酸化物に比べ熱劣化が少ない。このため、優れた触媒活性が長期間にわたり維持される。
また、高価な貴金属元素を使用しなくても高い触媒活性が得られ、この場合にはDPFの材料コストが低減される。他方、白金属元素を共存させた場合には触媒活性の一層の向上が期待される。
したがって本発明は、DPFを用いた排ガス浄化機構の長寿命化およびトータルコストの削減に寄与するものである
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明ではCe、Bi、R(ただしRはLa、Ceを除くランタノイドの1種以上)、あるいはさらにZrを主成分とする複合酸化物を触媒物質として提供する。本発明者らの研究によると、本発明の対象となる複合酸化物は、蛍石型構造を持つ酸化セリウム構造体のCeの一部をBi、R、あるいはZrで置換した構造の酸化物相を有する。すなわち、この複合酸化物は蛍石型構造に対応するX線回折ピークを有する。
【0015】
複合酸化物を構成する金属元素のモル比については、下記[a]または[b]を満たすものが好適な対象となる。[a]は金属元素がCe、Bi、Rの場合、[b]は金属元素がCe、Bi、R、Zrの場合である。
[a]Ce、Bi、Rのモル比をCe:Bi:R=(1−x−y):x:yとするとき、0<x≦0.4、0<y<1.0
[b]Ce、Bi、R、Zrのモル比をCe:Bi:R:Zr=(1−x−y−z):x:y:zとするとき、0<x≦0.4、0<y<1.0、0<z≦0.5
なお、複合酸化物の中には酸化セリウム構造体のCeを置換していないBi、R、あるいはZrが不純物相として存在する場合があり、本発明の効果が阻害されない限りその不純物相の存在は許容される。許容される量の不純物相が存在する場合は、不純物相中のCe、Bi、R、あるいはZrを含めた複合酸化物全体としてのモル比が上記[a]または[b]を満たしていればよい。
【0016】
発明者らの研究によると、Rを含有するCe−Bi−R系あるいはCe−Bi−R−Zr系複合酸化物においては、金属元素がCeとBiのみのCe−Bi系複合酸化物に比べ、より低温域から触媒活性が発揮されるものを得ることが可能であり、特に高温・長時間の加熱に対して優れた耐熱性を有するものが得られる。その理由については現時点で十分に解明されていないが、基本的な触媒活性の機構は、従来のCe−Bi系複合酸化物において考えられている機構と同様であると思われる。すなわち、Ce原子を主とする複合酸化物中の陽イオンが見かけ上の価数変化を起こし、また、Bi、RなどCeとイオン半径が異なる種類の原子でCeサイトが置換されることによる格子歪に起因して格子中の酸素が格子外に放出され易い状態となることによって、比較的低い温度域から酸化に必要な活性酸素が供給され易くなるものと考えられる。また、置換による格子歪は、結晶格子中でのBi原子の存在を安定化させ、Biの遊離を防止する効果をもたらすものと考えられ、これによって高温・長時間保持に対する耐熱性が高められていると推察される。Rを添加した本発明対象の複合酸化物では、CeとBiのみの複合酸化物よりも、上記の置換による効果が助長されるために、触媒活性および耐熱性が一層向上するのではないかと推測される。
【0017】
Biは、酸化セリウム構造体をもつ酸化物において、低温域での触媒活性の向上作用、すなわちPMの燃焼開始温度の低減作用を呈する。そのメカニズムは上述のように考えられる。Biの添加量が比較的少量であっても低温域での触媒活性の向上作用が生じる。しかし、あまりBi添加量が高すぎてもその効果は向上せず、むしろ高温に曝されたときに触媒物質が溶融してしまう恐れがあることがわかった。これは、低融点のBiの添加により複合酸化物の融点が低下するためではないかと考えられる。Bi添加量の適否については、長時間高温に曝した後の試料におけるPMの燃焼開始温度、および結晶構造の変化によって知ることができる。こうした評価により検討したところ、複合酸化物中へのBiの配合割合は、前記[a]または[b]のように0<x≦0.4の範囲とすることが好ましい。xが0.4を超えると長時間高温に曝した後の試料のPM燃焼開始温度が上昇する。この場合、Bi原子が蛍石型構造から遊離してBi酸化物、またはBiと添加元素との複合酸化物などの異相が生成し易くなり、本発明の効果を阻害する量の不純物相を含有する複合酸化物となる場合がある。
【0018】
本発明では第3元素としてR(La、Ceを除くランタノイドの1種以上)を添加した新規な複合酸化物を採用することが重要である。Rの添加量が比較的少量であっても優れた耐熱性向上効果が得られる。添加量が多くなっても耐熱性向上効果は概ね維持される。このためRの配合割合は前記[a]または[b]のように0<y<1.0の範囲とすればよい。ただし、Rの配合割合が多くなると、PMの燃焼開始温度が上昇する傾向にあるので、0<y≦0.5とすることがより好ましい。
【0019】
Rは前述のとおり、La、Ceを除くランタノイドで構成される。なかでも、酸化物として酸化セリウム(CeO2)と同様の蛍石型構造をとるランタノイドを選択することが望ましい。そのような元素でCe原子の一部を置換することにより蛍石型構造が維持され易くなり、一層耐熱性の向上した排ガス浄化触媒を得ることができる。この種の元素として例えばPr、Tbが挙げられる。PrおよびTbの1種または2種をRとして含有させることが望ましく、Rの全部をPrおよびTbの1種または2種で構成させることがより好ましい。特にPrは、PM燃焼開始温度の低下と、耐熱性の向上をバランス良く両立させる上で好ましい。
【0020】
Zrは、焼成時に一次粒子の焼結を抑える作用を有し、複合酸化物の比表面積を増大させる上で有効な元素である。比表面積の増大は触媒活性の向上に繋がる。したがって、Zrの添加により、特に高温・長時間加熱後のPM燃焼開始温度を一層低下させる効果が得られる。ただし、過剰にZrを添加すると蛍石型構造を維持することができなくなる。このため、Zrを添加する場合は、前記[b]のように0<z≦0.5の範囲とすることが好ましく、0<z≦0.3に制限してもよい。
【0021】
このような複合酸化物とともに白金族元素を共存させることも有効である。白金族元素は排気ガス中に含まれる燃料、および、NO、CO等の未燃焼成分の酸化を促進させる作用を有する。また、PM燃焼開始温度をさらに低下させる効果も期待できる。白金族元素(Pt、Rh、Pd、Ir、Ru、Os)のうち1種以上を使用することができ、特にPt、Rh、Pdが触媒効率を高める上で効果が大きい。白金族元素は例えば本発明の複合酸化物に含有させる形で共存させることができる。他方、Al23、TiO2、SiO2などの一般に触媒担体として使用される物質に白金族元素を含有させ、その物質を本発明の複合酸化物とともに混合することによって、本発明の複合酸化物と白金族元素を共存させることもできる。白金族元素の量は、本発明の複合酸化物中、あるいはさらに上記触媒担体物質が混合される場合は本発明の複合酸化物と上記触媒担体物質の混合物中における白金族元素の含有量が例えば0.05〜5質量%となるようにすればよい。
【0022】
PM燃焼触媒が高温・長時間の熱履歴を受けたときの耐熱性を評価する手法として、例えば焼成により合成された複合酸化物を大気中で高温・長時間加熱する処理(以下これを「耐熱処理」という)に供し、焼成された直後と、耐熱処理を受けた後とで、PMに対する触媒活性がどの程度変化するかを見る方法が有効である。PMに対する触媒活性は例えば後述するPM燃焼開始温度にて評価できる。複合酸化物の合成を800℃で2時間加熱する焼成によって行った場合、上記耐熱処理を受ける前の複合酸化物は800℃で2時間の熱履歴を受けているのみである。そこで、800℃で2時間の熱履歴を受けている試料にさらに800℃で100時間の耐熱処理を施した試料のPM燃焼開始温度と、前記耐熱処理を施す前の試料のPM燃焼開始温度の差を、本明細書では耐熱性指標ΔT(℃)として採用する。PM燃焼触媒の場合、ΔTは12℃以下であることが実用的見地から望ましく、ΔTが10℃以下であることが一層好ましい。
【0023】
発明者らはCe、Bi、および第3元素を含有する種々の組成の複合酸化物を800℃×2時間で焼成する手法で合成し、耐熱処理後の酸化物構造と、耐熱性指標ΔTの関係について調査した。その結果、焼成された直後の状態でBiや第3元素に起因する異相(不純物相)が検出されなくても、800℃×100時間の上記耐熱処理を施した後に新たに異相が確認される場合があった。そのような場合は、良好な耐熱性を示さないことが多かった。詳細な検討の結果、CeとBiと第3元素を主成分とする複合酸化物において、耐熱性を改善するには、第3元素として前記Rを添加することが極めて効果的であることが明らかになった。
【0024】
本発明の対象となる複合酸化物は、湿式法で得られた沈殿生成物質を焼成する方法により好適に合成することができる。例えば、Ceの水溶性塩とBiの水溶性塩とR(例えばPr)の水溶性塩、あるいはさらにZrの水溶性塩を沈殿剤により沈殿させ、その沈殿物を乾燥させることにより「前駆体」とし、その前駆体を熱処理することにより複合酸化物を合成する。
【0025】
具体的には、Ceの水溶性塩(例えば硝酸塩)、Biの水溶性塩(例えば硝酸塩)、Rの水溶性塩(例えば硝酸塩)、あるいはさらにZrの水溶性塩を溶解させた水溶液に、沈殿剤としてアルカリを加えて反応させ、沈殿生成物を濾過、洗浄・乾燥することによって前駆体を得る。沈殿を生成させる液中のCe、BiおよびRのイオン濃度は、溶解度によって上限が決まる。しかし、あまり液中濃度が濃すぎると、撹拌時に均一に反応が生じず不均一になる可能性があり、また撹拌時に装置の負荷が過大になる場合があるので、現実的ではない。
【0026】
沈殿物を得るためには炭酸アルカリを用いることが推奨される。具体的に例示すると、炭酸水、炭酸ガス、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウムなど炭酸を主成分とするものと、アンモニア水もしくはアンモニウムの各水溶性塩を混合して使用すること、あるいはその双方の機能を併せ持つ炭酸アンモニウム化合物、具体的には炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムなどを使用することが好ましい。塩溶液に尿素を含有させておき、この塩溶液を加熱して尿素を分解し、アンモニアを発生させ、それによって塩溶液をアルカリ性にして沈殿物を得ることも可能である。沈殿物を生成させるときの液のpHは6〜11の範囲に制御するのがよい。pHが6未満の領域では、BiとCeとR、あるいはBiとCeとRとZrが共沈しない場合があるので好ましくない。
【0027】
また、Ce化合物、Bi化合物、R化合物、あるいはさらにZr化合物として、それぞれ加水分解が可能な化合物を用意し、これらを水に添加して加水分解することによって、混合ゾルを形成し、凝集・沈殿させることもできる。ここでこの加水分解可能化合物としては、例えば各金属元素のアルコキシド、β−ケト酸塩を挙げることができる。
【0028】
得られた沈殿物は必要に応じて濾過、水洗され、真空乾燥や通風乾燥などにより乾燥させ、前駆体とする。この際、乾燥による脱水効果を高めるため、濾過した直後の形態のまま乾燥処理するか、所定の形状に造粒した後に乾燥処理させることができる。その後、前駆体を、粉末形状あるいは造粒した状態のまま、例えば400〜1000℃、好ましくは500〜850℃で熱処理(焼成)することにより、目的とする複合酸化物を合成することができる。焼成時の雰囲気は複合酸化物が生成できるような条件であれば特に制限されず、例えば、空気中、窒素中、アルゴン中およびそれらに水蒸気を組み合わせた雰囲気を使用することができる。
【0029】
白金族元素を本発明の複合酸化物に含有させる場合は、例えば、焼成後の複合酸化物に、目的量の白金族元素を含む塩あるいは錯体を含浸させ、その後、乾燥、焼成させる手法が採用できる。
【0030】
本発明の複合酸化物を排ガス浄化触媒に用いて、従来と同様の手法によりディーゼル排ガス浄化用フィルターを構築することができる。本発明の複合酸化物をAl23、TiO2、SiO2などの粉体と混合して排ガス浄化触媒を構成し、これを用いてディーゼル排ガス浄化用フィルターを構築することもできる。いずれにしても、多孔体中の、トラップされたPMと接触する部位に本発明の複合酸化物が存在するようにする。
【実施例】
【0031】
《複合酸化物の作製》
各実施例、比較例の複合酸化物を以下のようにして作製した。
〔実施例1、2〕
Ce源として硝酸セリウム六水和物(Ce(NO33・6H2O)、Bi源として硝酸ビスマス五水和物(Bi(NO33・5H2O)を用意した。一方、R源として希土類酸化物(実施例1:Pr酸化物、実施例2:Tb酸化物)の粉末を濃硝酸溶液に溶解し、Rの硝酸溶液を用意した。
【0032】
上記各硝酸塩とRの硝酸溶液を、Ce、Bi、Rのモル比が0.6:0.3:0.1となる配合割合で混合し、かつ混合硝酸溶液中のCe、Bi、Rの合計が0.2mol/Lとなるように水を加えて原料溶液を得た。この溶液を撹拌しながら沈殿剤として炭酸アンモニウム水溶液を添加した。その後、30分間撹拌を継続することにより、沈殿反応を十分に進行させた。得られた沈殿物をろ過、水洗し、125℃で約15時間乾燥して、乾燥粉末を得た。得られた粉末を前駆体という。次に、この前駆体を大気雰囲気下800℃で2時間焼成してCeとBiとR(Rは実施例1ではPr、実施例2ではTb)を主成分とする複合酸化物を得た。
【0033】
〔実施例3〕
Ce源、Bi源、R源は実施例1と同じものを用意し、さらにZr源としてオキシ硝酸ジルコニウム二水和物(ZrO(NO32・2H2O)を用意した。これらを、Ce、Bi、Pr、Zrのモル比が0.7:0.1:0.1:0.1となる配合割合で混合し、かつ混合硝酸溶液中のCe、Bi、R、Zrの合計が0.2mol/Lとなるように水を加えて原料溶液を得た。以下、実施例1と同様の工程および条件でCeとBiとPrとZrを主成分とする複合酸化物を得た。
【0034】
〔実施例4〜9〕
Ce、Bi、Prのモル比を表2に示すように変更したこと以外、実施例1と同じ条件でCeとBiとPrを主成分とする複合酸化物を得た。
【0035】
〔比較例1〕
硝酸セリウム六水和物(Ce(NO33・6H2O)、硝酸ビスマス五水和物(Bi(NO33・5H2O)を、CeとBiのモル比が0.7:0.3になるように秤量し、これを硝酸溶液中に溶解させ、混合硝酸溶液中のCe、Biの合計が0.2mol/Lとなるように水を加えて原料溶液を得た。以下、実施例1と同様の工程および条件でCeとBiを主成分とする複合酸化物を得た。
【0036】
〔比較例2〕
硝酸セリウム六水和物(Ce(NO33・6H2O)、硝酸ビスマス五水和物(Bi(NO33・5H2O)、および硝酸鉄九水和物(Fe(NO33・9H2O)を、Ce、Bi、Feのモル比が0.6:0.3:0.1になるように秤量し、これを硝酸溶液中に溶解させ、混合硝酸溶液中のCe、Bi、Fe合計が0.2mol/Lとなるように水を加えて原料溶液を得た。以下、実施例1と同様の工程および条件でCeとBiとFeを主成分とする複合酸化物を得た。
【0037】
〔比較例3〕
硝酸セリウム六水和物(Ce(NO33・6H2O)、硝酸ビスマス五水和物(Bi(NO33・5H2O)、およびオキシ硝酸ジルコニウム二水和物(ZrO(NO32・2H2O)を、Ce、Bi、Zrのモル比が0.6:0.3:0.1になるように秤量し、これを硝酸溶液中に溶解させ、混合硝酸溶液中のCe、Bi、Zr合計が0.2mol/Lとなるように水を加えて原料溶液を得た。以下、実施例1と同様の工程および条件でCeとBiとZrを主成分とする複合酸化物を得た。
【0038】
《耐熱性評価試料の作製》
得られた複合酸化物の耐熱性を評価するために、各複合酸化物の一部を、電気炉により空気中800℃で100時間にわたって熱処理(耐熱処理)した。
【0039】
《BET比表面積の測定》
各実施例、比較例で得られた耐熱処理前の試料(800℃×2hと表示)、および上記耐熱処理後の試料(800℃×100hと表示)について、メノウ乳鉢で解粒し、粉末とした後、BET法により比表面積を求めた。測定はユアサイオニクス製の4ソーブUSを用いて行った。
【0040】
《PM燃焼開始温度の評価》
各実施例、比較例で得られた試料、および上記耐熱処理後の試料について、カーボンブラックとの混合粉を作り、その中の一部を規定量分取した上、TG/DTA装置を用いてカーボンブラック燃焼開始温度を求めることによってPM燃焼開始温度を評価した。具体的には以下のようにした。
【0041】
模擬PMとして市販のカーボンブラック(三菱化学製、平均粒径2.09μm)を用い、複合酸化物試料の粉体とカーボンブラックの質量比が6:1になるように秤量し、自動乳鉢機(石川工場製AGA型)で20分間混合し、カーボンブラックと各試料粉体の混合粉体を得た。この混合粉体20mgをTG/DTA装置(セイコーインスツルメンツ社製、TG/DTA6300型)にセットし、昇温速度10℃/minにて常温から700℃まで大気中で昇温し、重量減少量の測定を行った(カーボンブラックは燃焼により二酸化炭素として系外に排出されるので、初期重量からは減少傾向になる)。図1に、重量変化曲線(TG曲線)を模式的に示す。TG曲線において、重量減少が始まる前の接線と、重量減少率(傾き)が最大となる点での接線とが交わる点の温度をPM燃焼開始温度とした。
【0042】
また、耐熱処理後の試料のPM燃焼開始温度(800℃×2hと表示)と、耐熱処理前の試料のPM燃焼開始温度(800℃×100hと表示)の差からΔTを算出した。
【0043】
《X線回折パターンの測定》
各例で得られた耐熱処理前の試料および耐熱処理後の試料について、下記の条件でX線回折パターンを測定した。
・X線回折装置: 株式会社リガク製、RINT−2100
・測定範囲: 2θ=20〜70°
・スキャンスピード: 2.0°/min
・サンプリング幅: 0.02°
・管球: Co管球(Co−Kα線使用)
・管電圧: 40kV
・管電流: 30mA
【0044】
《測定結果について》
実施例1〜3、比較例1〜3の複合酸化物について、添加元素モル比、比表面積、PM燃焼開始温度を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
表1からわかるように、各実施例1、2のCe−Bi−R系複合酸化物、あるいは実施例3のCe−Bi−R−Zr系複合酸化物を触媒に使用すると、Rを添加していない比較例1のCe−Bi系複合酸化物、比較例2のCe−Bi−Fe系複合酸化物、比較例3のCe−Bi−Zr系複合酸化物と比べ、耐熱処理前および耐熱処理後のPM燃焼開始温度が大幅に低減した。したがって、Ce−Bi−R系、およびCe−Bi−R−Zr系の複合酸化物はPM燃焼温度の低減に大きく寄与する排ガス浄化触媒として機能しうる。また、実施例1(Zr無添加)と実施例3(Zr添加)の対比から、Zrは比表面積を増大させる作用を有し、特に耐熱処理後のPM燃焼開始温度の低下およびΔTの低下に有効であることがわかる。
【0047】
前掲の実施例1、および実施例4〜9の複合酸化物についての、添加元素モル比、比表面積、PM燃焼開始温度を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
表2からわかるように、前記[a]で規定される組成を有する実施例1、4〜9のCe−Bi−Pr系複合酸化物は、表1の比較例1(R無添加)のものと比べ、耐熱処理後のPM燃焼温度が低く、かつΔTも10℃以下と優れることが確認された。Pr濃度については、Ce原子と同等以上をPrで置換しても触媒特性としては特に問題ない。
【0050】
図2に、実施例1と比較例2の耐熱処理後の試料(大気雰囲気下800℃×2時間焼成後に800℃×100時間加熱したもの)について上記条件で測定したX線回折パターンを例示する。実施例1の複合酸化物は耐熱処理の前および後において蛍石型構造に対応するX線回折ピークを有するパターンを呈し、この測定条件では不純物相の存在は観測されなかった。他のいずれの実施例でも同様であった。これに対し、比較例2の複合酸化物は耐熱処理前においては不純物相の存在は観測されなかったが、耐熱処理によって図2に示されるように不純物相(FeとBiの複合酸化物相)が生成した。この不純物相の生成が触媒活性を低下させる要因になっているものと考えられる。なお、耐熱処理によって不純物相は全く生成しないことが望ましいが、触媒活性に悪影響を及ぼさない程度の極めて僅かな不純物相の生成は許容される。
【0051】
〔実施例10、11〕
次に、前掲の実施例1の複合酸化物に白金族元素を担持させた。担持方法として、実施例10ではPt濃度8.49質量%のジニトロジアンミン白金硝酸溶液2.35gを、また実施例11ではPd濃度5.27質量%の硝酸パラジウム溶液3.8gを、それぞれ実施例1で得た複合酸化物20gに添加し、蒸発乾固させ、600℃で1時間焼成させる手法を用いた。このようにして得られた白金族元素担持複合酸化物について、実施例1と同様の手法で比表面積、耐熱処理前後のPM燃焼開始温度を調べた。結果を表3に示す。表3中には実施例1の結果を併記する。なお、実施例10および11の複合酸化物をICPで分析したところ、実施例10のPt含有量は1.0質量%、実施例10のPd含有量は1.0質量%であった。
【0052】
【表3】

【0053】
表3からわかるように、白金族元素を担持させた実施例10、11の複合酸化物は、耐熱処理前後のPM燃焼温度が実施例1のものと同様に低く、かつΔTも十分に小さい値であった。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】TG曲線を模式的に示した図。
【図2】実施例1と比較例2で得られた耐熱処理後の複合酸化物試料についてのX線回折パターン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ce、Bi、R(ただしRはLa、Ceを除くランタノイドの1種以上)および酸素で構成される排ガス浄化触媒用複合酸化物。
【請求項2】
Ce、Bi、R(ただしRはLa、Ceを除くランタノイドの1種以上)、Zrおよび酸素で構成される排ガス浄化触媒用複合酸化物。
【請求項3】
Ce、Bi、R(ただしRはLa、Ceを除くランタノイドの1種以上)および酸素で構成され、Ce、Bi、Rのモル比をCe:Bi:R=(1−x−y):x:yとするとき、0<x≦0.4、および0<y<1.0を満たす排ガス浄化触媒用複合酸化物。
【請求項4】
Ce、Bi、R(ただしRはLa、Ceを除くランタノイドの1種以上)、Zrおよび酸素で構成され、Ce、Bi、R、Zrのモル比をCe:Bi:R:Zr=(1−x−y−z):x:y:zとするとき、0<x≦0.4、0<y<1.0、および0<z≦0.5を満たす排ガス浄化触媒用複合酸化物。
【請求項5】
前記RとしてPr、Tbの1種または2種を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の排ガス浄化触媒用複合酸化物。
【請求項6】
当該複合酸化物は、蛍石型構造に対応するX線回折ピークを有するものである請求項1〜5のいずれかに記載の排ガス浄化触媒用複合酸化物。
【請求項7】
白金族元素を含有する請求項1〜6のいずれかに記載の排ガス浄化触媒用複合酸化物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の複合酸化物を含む排ガス浄化触媒。
【請求項9】
当該排ガス浄化触媒はPM燃焼触媒である請求項8に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項10】
ディーゼルエンジン排ガス中のPMをトラップする多孔体フィルターであって、その多孔体中の、トラップされたPMと接触する部位に、請求項1〜7のいずれかに記載の複合酸化物を存在させたディーゼル排ガス浄化用フィルター。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−105871(P2008−105871A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−288242(P2006−288242)
【出願日】平成18年10月24日(2006.10.24)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】