説明

排ガス浄化触媒用複合酸化物とその製造方法および排ガス浄化触媒用塗料とディーゼル排ガス浄化用フィルタ

【課題】ディーゼルエンジン排ガスのPMを低温で燃焼させることができ、かつPM燃焼時の発熱による劣化の少ない(すなわち高い耐熱性を備えた)酸化触媒を提供する。
【解決手段】Ce、Bi、R、R´および酸素で構成され、Ce、Bi、R、R´のモル比をCe:Bi:R:R´=(1−x−y−z):x:y:zとするとき、0<x≦0.4、0<y<1.0および0<z≦0.5を満たす排ガス浄化触媒用複合酸化物。この複合酸化物は、高温で処理されてもBET値に変化がなく、硫黄被毒による許容量が高いので、被毒による劣化が小さく当該排ガス浄化触媒はPM燃焼触媒として好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等のディーゼルエンジンから排出されるPM(粒子状物質)を燃焼させるのに適した複合酸化物からなる排ガス浄化触媒とその製造方法、およびそれを用いた触媒用塗料とその塗料を基材上に塗布したディーゼル排ガス浄化用フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン排ガスの問題として、窒素酸化物(NOx)とカーボンを主体とする微粒子(以後「PM」とも言う。)が排ガス中に含まれ、環境汚染の原因となる点が挙げられる。なかでもPMを除去する一般的な方法として、排気ガス流路に多孔質体セラミックスからなるディーゼル・パーティキュレート・フィルタ(DPF)を設置してPMを捕集(トラップ)する方法が挙げられる。DPFにはPMが蓄積されてゆくが、捕集されたPMを間欠的または連続的に燃焼処理することでPMを除去することで、DPFをPM捕集前の状態に再生することができる。
【0003】
このDPF再生処理には、電気ヒーターやバーナー等、外部からの強制加熱によりPMを燃焼させる方法、DPFよりもエンジン側に酸化触媒を設置し、排ガス中に含まれるNOを酸化触媒によりNO2にし、NO2の酸化力によりPMを燃焼させる方法などが一般的に用いられている。
【0004】
しかし、電気ヒーターやバーナーを使用するには外部に動力源を設置する必要があり、それらを確保、動作するための機構等が別途必要になるため排ガス浄化システムそのものが複雑化する。また、酸化触媒については触媒活性が十分発揮されるほど排ガス温度が高くないことや、ある一定の運転状況下でなければPM燃焼に必要なNOが排ガス中に含まれないといった種々の問題がある。
【0005】
そこで、DPFのより望ましい再生処理方法として、DPFそのものに触媒を担持させ、その触媒作用によりPMの燃焼開始温度を低下させた上で、PMを燃焼させる方法が検討されている。そして究極的な目標としては排ガス温度にて連続的にPMを燃焼させる方法が最も望ましいとされている。
【0006】
現在ではDPFにトラップされたPMを燃焼除去させるための酸化触媒(PM燃焼触媒)として、高比表面積のアルミナ等に触媒金属のPtを担持させたものが使用されている。しかし、排ガス温度レベルではPtはPMを燃焼させる触媒作用が低いため、排ガスの熱を利用してPMを連続的に燃焼させるのは困難と考えられる。すなわち、外部からの強制加熱手段が必要となる。また、Ptは高価であるためコスト増を招くという問題がある。
【0007】
また、PM燃焼触媒では、PM燃焼時の発熱により触媒温度が急激に上昇することが想定される。このため、高温での熱履歴を受けた場合に触媒性能の低下(熱劣化)ができるだけ少ない触媒物質の開発が待たれている。
【0008】
特許文献1〜3には、Pt等の貴金属元素を含まないセリアの複合酸化物を基材とした酸化触媒として、CeとBiあるいはさらに遷移金属元素を含有する混合物が開示されている。CeとBiのみ、あるいはCeとBiと遷移金属元素からなる複合酸化物では、Bi元素の融点が低いため、800℃程度の高温下に長時間曝されるとBiの遊離が生じ触媒活性が低下する。このため、耐熱性に関してはさらなる改善が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−211525号公報
【特許文献2】特開2003−238159号公報
【特許文献3】特開2006−224032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
CeとBiを含む複合酸化物はPMの燃焼開始温度を低下させる触媒活性に優れてはいる。しかし、PM燃焼時に発生する800℃程度の高温下に長時間曝されると触媒活性が低下するという課題があった。
【0011】
また、排ガス中にわずかに含まれる硫黄酸化物によっても触媒活性が低下するという課題があった。
【0012】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、従来のCeとBiを含む複合酸化物と比較して高比表面積でかつ耐熱性に優れ、またS被毒に対する耐性も高い排ガス浄化触媒用複合酸化物とその製造方法および排ガス浄化触媒用塗料とディーゼル排ガス浄化用フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、かかる目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、Ce、Biに所定元素を加えた複合酸化物で排ガス浄化触媒を構成することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明の排ガス浄化触媒用複合酸化物は、Ce、Bi、R(ただしRはLa、Ceを除くランタノイドの1種以上)およびR´(ただしR´は3族または4族または13族または14族から選ばれた元素)で構成される排ガス浄化触媒用複合酸化物である。
【0015】
また、この排ガス浄化触媒用複合酸化物を含む塗料と、その塗料を多孔質フィルタに塗布したDPFをも提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
Ce、Bi、に上記のRおよびR´の元素を加えた複合酸化物は、高比表面積であり、かつ高温でも粒子間の焼結を回避することができ、高温に曝されてもBETの低下が少ない。すなわち、高温でもBiの遊離を抑制することができるため耐熱性に優れた触媒を得ることができるという効果を奏する。また、高比表面積でかつ変化が少ないということは、より多くのS吸着が可能であり、S被毒による触媒活性の低下も抑制することができるという効果を奏する。
【0017】
このように、耐熱性やS被毒による触媒活性の低下が少ないということは、同じ状態で長時間触媒を使用することが可能であるという排ガス浄化システム自体の利点に繋がる。また、排ガス浄化システムが行う燃焼処理によるPMの除去の回数も少なくて済むという利点も得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の排ガス浄化触媒用複合酸化物を用いたDPFの構造を示す図である。
【図2】TG曲線を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の排ガス浄化触媒用複合酸化物は、Ce、BiにRおよびR´の少なくとも4つの元素を含む複合酸化物である。RはLa、Ceを除くランタノイドの1種以上の元素であり、またR´は3族または4族または13族または14族から選ばれた少なくとも1種以上の元素である。このような構成とすることで、800℃以上の排ガスに長時間曝露されても優れた触媒活性を保持するようになる。また、耐S被毒性能も向上する。
【0020】
また、本発明の複合酸化物を構成する元素の割合は、Ce、Bi、R、R´のモル比をCe:Bi:R:R´=(1−x−y−z):x:y:zとするとき、0<x≦0.4、0<y<1.0、0<z≦0.5とするのが好適である。この範囲を外れると0.4<xの場合、結晶格子にBiが入らず耐熱性が低下する。また、1.0<y、0.5<zの場合、異相が生成されCe原子を主とする複合酸化物に由来する活性が得られなくなってしまうことがある。
【0021】
なお、複合酸化物の中には酸化セリウム構造体のCeを置換していないBi、R、あるいはR´が不純物相として存在する場合があり、本発明の効果が阻害されない限りその不純物相の存在は許容される。許容される量の不純物相が存在する場合は、不純物相中のCe、Bi、R、あるいはR´を含めた複合酸化物全体としてのモル比が上記を満たしていればよい。
【0022】
本発明の複合酸化物は、Ce、Biを基材とする複合酸化物であるので、PMを低温から燃焼させることができる触媒活性の機構は、従来のCe−Bi系複合酸化物において考えられている機構と同様であると考えられる。
【0023】
すなわち、Ce原子を主とする複合酸化物中の陽イオンが見かけ上の価数変化を起こし、また、Bi、R、R´などCeとイオン半径が異なる種類の原子でCeサイトが置換されることによる格子歪に起因して格子中の酸素が格子外に放出され易い状態となることによって、比較的低い温度域から酸化に必要な活性酸素が供給され易くなるものと考えられる。
【0024】
また、置換による格子歪とRの存在は、結晶格子中でのBi原子の存在を安定化させ、Biの遊離を防止する効果をもたらす。R´の存在は合成時に粒子成長抑制剤として働き微細な粒子を生成させる。更には粒子間の焼結を防止するものと考えられ、これによって高温・長時間保持に対する耐熱性が高められていると考えられる。
【0025】
Biは、酸化セリウム構造体をもつ酸化物において、低温域での触媒活性の向上作用、すなわちPMの燃焼開始温度の低減作用を呈する。そのメカニズムは上述のように考えられる。Biの添加量が比較的少量であっても低温域での触媒活性の向上作用が生じる。しかし、あまりBi添加量が高すぎてもその効果は向上せず、むしろ高温に曝されたときに触媒物質が溶融してしまう恐れがある。
【0026】
これは、低融点のBiの添加により複合酸化物の融点が低下するためではないかと考えられる。Bi添加量の適否については、長時間高温に曝した後の試料におけるPMの燃焼開始温度、および結晶構造の変化によって知ることができる。こうした評価により検討したところ、複合酸化物中へのBiの配合割合は、上記のように0<x≦0.4の範囲とすることが好ましい。xが0.4を超えると長時間高温に曝した後の試料のPM燃焼開始温度が上昇する。この場合、Bi原子が蛍石型構造から遊離してBi酸化物、またはBiと添加元素との複合酸化物などの異相が生成し易くなり、本発明の効果を阻害する量の不純物相を含有する複合酸化物となる場合がある。
【0027】
本発明では第3元素としてR(La、Ceを除くランタノイドの1種以上)と、第4元素としてR´(ランタノイドとアクチノイドを除く3族、4族、13族、14族から選ばれた1種以上の元素)を添加した新規な複合酸化物を提供する。RやR´の添加量が比較的少量であっても優れた耐熱性向上効果が得られる。これら第3、第4元素の添加量は多くなっても耐熱性向上効果は概ね維持される。
【0028】
このためRの配合割合は上記のように0<y<1.0の範囲とすればよい。ただし、Rの配合割合が多くなると、PMの燃焼開始温度が上昇する傾向にあるので、0<y≦0.5とすることがより好ましい。
【0029】
Rは前述のとおり、La、Ceを除くランタノイドで構成される。なかでも、酸化物として酸化セリウム(CeO2)と同様の蛍石型構造をとるランタノイドを選択することが望ましい。そのような元素でCe原子の一部を置換することにより蛍石型構造が維持され易くなり、一層耐熱性の向上した排ガス浄化触媒を得ることができる。この種の元素として例えばPr、Tbが挙げられる。PrおよびTbの1種または2種をRとして含有させることが望ましく、Rの全部をPrおよびTbの1種または2種で構成させることがより好ましい。特にPrは、PM燃焼開始温度の低下と、耐熱性の向上をバランス良く両立させる上で好ましい。
【0030】
R´はランタノイドとアクチノイドを除く3族(Sc,Y)、4族(Ti、Zr、Hf、Rf)、13族(B、Al、Ga、In、Tl)、14族(C、Si、Ge、Sn、Pb)から選ばれた1種以上の元素で構成される。なかでも、焼成時に一次粒子の焼結を抑える作用を有し、複合酸化物の比表面積を増大させる上で有効な元素が好ましい。具体的には、Zr、Al、Y、Siなどである。比表面積の増大は触媒活性の向上に繋がり、S被毒に対する許容量を増大させる。粒子表面を覆うのに必要な硫黄量が多くなるからである。
【0031】
したがって、R´の添加により、特にS被毒による触媒活性の劣化抑制効果が得られる。ただし、過剰にR´を添加すると蛍石型構造を維持することができなくなる。このため、R´を添加する場合は、上記のように0<z≦0.5の範囲とすることが好ましく、0<z≦0.2に制限してもよい。
【0032】
このような複合酸化物とともに白金族元素を共存させることも有効である。白金族元素は排気ガス中に含まれる燃料、および、NO、CO等の未燃焼成分の酸化を促進させる作用を有する。また、PM燃焼開始温度をさらに低下させる効果も期待できる。白金族元素(Pt、Rh、Pd、Ir、Ru、Os)のうち1種以上を使用することができ、特にPt、Rh、Pdが触媒効率を高める上で効果が大きい。白金族元素は例えば本発明の複合酸化物に含有させる形で共存させることができる。
【0033】
他方、Al23、TiO2、SiO2などの一般に触媒担体として使用される物質に白金族元素を含有させ、その物質を本発明の複合酸化物とともに混合することによって、本発明の複合酸化物と白金族元素を共存させることもできる。白金族元素の量は、本発明の複合酸化物中、あるいはさらに上記触媒担体物質が混合される場合は本発明の複合酸化物と上記触媒担体物質の混合物中における白金族元素の含有量が例えば0.05〜5質量%となるようにすればよい。
【0034】
PM燃焼触媒が高温・長時間の熱履歴を受けたときの耐熱性を評価する手法として、例えば焼成により合成された複合酸化物を大気中で高温・長時間加熱する処理(以下これを「耐熱処理」という)に供し、焼成された直後と、耐熱処理を受けた後とで、PMに対する触媒活性がどの程度変化するかを見る方法が有効である。
【0035】
PMに対する触媒活性は例えば後述するPM燃焼温度にて評価できる。複合酸化物の合成を800℃で2時間加熱する焼成によって行った場合、上記耐熱処理を受ける前の複合酸化物は800℃で2時間の熱履歴を受けているのみである。
【0036】
そこで、800℃で2時間の熱履歴を受けている試料にさらに800℃で100時間の耐熱処理を施した試料のPM燃焼温度と、前記耐熱処理を施す前の試料のPM燃焼温度の差を、本明細書では耐熱性指標ΔT(℃)とする。
【0037】
PM触媒が硫黄酸化物に曝された場合の耐被毒性を評価する方法としては、合成したPM触媒を微量の硫黄ガスに所定時間曝して、触媒活性の変化を見るのが有効である。触媒活性は同じくPM燃焼温度によって評価する。
【0038】
そして、S被毒速度(SV)として、合成直後の触媒活性(PM燃焼温度である。)と被毒5時間後の触媒活性の時間当たりの変化と、合成直後の触媒活性と被毒10時間後の触媒活性の時間当たりの変化の平均値を求める。S被毒速度が遅いということは、硫黄環境下においても長時間触媒活性が減少しないことを意味する。
【0039】
なお、合成直後の触媒活性をK(℃)とし、5時間被毒処理後の触媒活性をH(℃)とし、10時間被毒処理後の触媒活性をL(℃)とするとS被毒速度SVは以下の(1)式で表される。
【0040】
【数1】

【0041】
また、S劣化率(SRd)として、合成直後の触媒活性(℃)に対するS被毒5時間後の触媒活性(℃)の比率と、合成直後の触媒活性(℃)に対するS被毒10時間後の触媒活性(℃)の比率の平均を求める。S劣化率(SRd)が大きいということは、合成直後の触媒活性に対する被毒による変化率が大きいことを意味する。S劣化率(SRd)は、上記と同様の変数で表すと(2)式で表される。
【0042】
【数2】

【0043】
発明者らはCe、Bi、および第3元素、第4元素を含有する種々の組成の複合酸化物を800℃×2時間で焼成する手法で合成し、耐熱処理後の酸化物構造と、耐熱性指標ΔTやS被毒速度、S劣化率の関係について調べた。その結果、第3元素、第4元素の添加によって合成直後のBET値が高く、かつ耐熱処理後のBET値の変化が少なく、それに伴って耐熱性指標ΔTも小さかった。また、硫黄による被毒劣化についてもS被毒速度が遅く、またS劣化率を小さくすることができることが明らかになった。
【0044】
本発明の対象となる複合酸化物は、湿式法で得られた沈殿生成物質を焼成する方法により好適に合成することができる。例えば、Ceの水溶性塩とBiの水溶性塩とR(例えばPr)の水溶性塩、さらにR´(例えばAl)の水溶性塩を沈殿剤により沈殿させ、空気を吹き込んで酸化させる。その沈殿物を乾燥させることにより「前駆体」とし、その前駆体を熱処理することにより複合酸化物を合成する。
【0045】
具体的には、Ceの水溶性塩(例えば硝酸塩)、Biの水溶性塩(例えば硝酸塩)、Rの水溶性塩(例えば硝酸塩)、さらにR´の水溶性塩を溶解させた水溶液に、沈殿剤としてアルカリを加えて反応させ、空気を吹き込み酸化させ酸化物の混合物を生成させる。得られた沈殿生成物を濾過、洗浄・乾燥することによって前駆体を得る。沈殿を生成させる液中のCe、Bi、R、R´のイオン濃度は、溶解度によって上限が決まる。しかし、あまり液中濃度が濃すぎると、撹拌時に均一に反応が生じず不均一になる可能性があり、また撹拌時に装置の負荷が過大になる場合があるので、好ましくない。
【0046】
沈殿物を得るためには水酸化アルカリ、炭酸アルカリのいずれか一方又は双方を用いることが好ましい。具体的に例示すると、水酸化アルカリとしては水酸化ナトリウム、アンモニア水などで、炭酸アルカリとしては炭酸水、炭酸ガス、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウムなど炭酸を主成分とするものと、アンモニア水もしくはアンモニウムの各水溶性塩を混合して使用すること、あるいはその双方の機能を併せ持つ炭酸アンモニウム化合物、具体的には炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムなどを使用することが好ましい。
【0047】
塩溶液に尿素を含有させておき、この塩溶液を加熱して尿素を分解し、アンモニアを発生させ、それによって塩溶液をアルカリ性にして沈殿物を得ることも可能である。沈殿物を生成させるときの液のpHは6〜11の範囲に制御するのがよい。pHが6未満の領域では、BiとCeとRとR´が共沈しない場合があるので好ましくない。
【0048】
また、Ce化合物、Bi化合物、R化合物、さらにR´化合物として、それぞれ加水分解が可能な化合物を用意し、これらを水に添加して加水分解することによって、混合ゾルを形成し、凝集・沈殿させることもできる。ここでこの加水分解可能化合物としては、例えば各金属元素のアルコキシド、β−ケト酸塩を挙げることができる。
【0049】
得られた沈殿物は必要に応じて濾過、水洗され、真空乾燥や通風乾燥などにより乾燥させ、前駆体とする。この際、乾燥による脱水効果を高めるため、濾過した直後の形態のまま乾燥処理するか、所定の形状に造粒した後に乾燥処理させることができる。その後、前駆体を、粉末形状あるいは造粒した状態のまま、例えば400〜1000℃、好ましくは500〜850℃で熱処理(焼成)することにより、目的とする複合酸化物を合成することができる。焼成時の雰囲気は複合酸化物が生成できるような条件であれば特に制限されず、例えば、空気中、窒素中、アルゴン中およびそれらに水蒸気を組み合わせた雰囲気を使用することができる。
【0050】
白金族元素を本発明の複合酸化物に含有させる場合は、例えば、焼成後の複合酸化物に、目的量の白金族元素を含む塩あるいは錯体を含浸させ、その後、乾燥、焼成させる手法が採用できる。
【0051】
本発明の複合酸化物を排ガス浄化触媒として排ガス浄化触媒用塗料やそれを用いたDPFを構築することができる。排ガス浄化触媒用塗料は、本発明の排ガス浄化触媒用と、溶剤と無機バインダを含む塗料である。場合によって分散剤や粘度調整剤やpH調整剤を含んでいても良い。
【0052】
溶剤としては、極性溶剤や非極性溶剤のどちらを用いても良い。フィルタ上に塗布した後、すばやく乾燥させるためには、沸点の低い溶剤がよいが、取り扱いを考えると水系の溶剤でもよい。具体的には水、イソプロピルアルコール、テルピネオール、2−オクタノール、ブチルカルビトールアセテート等が好適に利用できる。
【0053】
無機バインダとしては、Al23、TiO2、SiO2などの粉体が好適に用いられる。PM触媒は高温に曝されるため、高温でも安定した特性を示す材料が好ましい。
【0054】
本発明の複合酸化物を用いたDPFは、構造は特に限定されない。例えば図1にDPFの一例を示す。DPF1は入り口側10から見た断面がハニカム構造をした筒状の形態をしており、材質は多孔質なセラミックで構成されている。入り口側(「エンジン側」とも言う。)10と出口側(「大気開放側」ともいう。)11は直接的な貫通孔を有しておらず、多孔質セラミックがフィルタとなっている。多孔質セラミックには、具体的にはセラックス、コージェライト、炭化珪素、チタン酸アルミなどが好適に用いられる。また、形状は図1に示した構造のほか、発泡体、メッシュ、板状といった形状でもよい。
【0055】
本発明の複合酸化物はDPFのエンジン側10に配置されるのがよい。PM触媒であるので、PMが蓄積するエンジン側にないとPM燃焼温度を低下させることができないからである。また、白金系の触媒を本発明のPM触媒から大気開放側に配置してもよい。例えば、DPFのエンジン側の壁面12に白金系の触媒の層と本発明のPM触媒の層をそれぞれ別々に塗布した多重層構造とするなどである。
【0056】
また本発明の排ガス浄化触媒用塗料をエンジン側の壁面12に塗布し、大気開放側の壁面14には白金系触媒の塗料を塗ってもよい。この場合は、エンジン側にPM触媒30があり、大気開放側に白金系の触媒40が配置されることとなる。また、白金系の触媒粉を本発明の排ガス浄化触媒用塗料に混ぜて塗布してもよい。なお、白金系の触媒とは、白金族元素を用いた触媒をいう。
【実施例】
【0057】
以下実施例について詳細に説明する。
【0058】
《複合酸化物の作製》
各実施例、比較例の複合酸化物を以下のようにして作製した。
【0059】
〔実施例1〕
Ce源として硝酸セリウム六水和物(Ce(NO33・6H2O)、Bi源として硝酸ビスマス五水和物(Bi(NO33・5H2O)を用意した。一方、R源として希土類酸化物Pr酸化物の粉末を濃硝酸溶液に溶解し、Rの硝酸溶液を用意した。
【0060】
さらにR´源として硝酸アルミニウム九水和物(Al(NO33・9H2O)をCe、Bi、Pr、R´のモル比が0.50:0.09:0.39:0.01となる配合割合で混合し、かつ混合硝酸溶液中のCe、Bi、R、R´の合計が0.2mol/Lとなるように水を加えて原料溶液を得た。沈澱剤としてNaOH水溶液を攪拌しながら上記原料溶液を添加し水酸化物の沈殿を得た。その後、70℃以上の高温中で空気を充分に吹き込み、水酸化物を酸化物にして安定化させた。得られた沈殿物をろ過、水洗し、125℃で約15時間乾燥して、乾燥粉末を得た。得られた粉末を前駆体という。次に、この前駆体を大気雰囲気下800℃で2時間焼成してCeとBiとPrを主成分とする複合酸化物を得た。
【0061】
〔実施例2〕
実施例1と同様にCe源として硝酸セリウム六水和物(Ce(NO33・6H2O)、Bi源として硝酸ビスマス五水和物(Bi(NO33・5H2O)を用意した。一方、R源として希土類酸化物Pr酸化物の粉末を濃硝酸溶液に溶解し、Rの硝酸溶液を用意した。
【0062】
さらにR´源として硝酸イットリウムn水和物(Y(NO3)3・nH2O)をCe、Bi、Pr、R´のモル比が0.49:0.09:0.39:0.03となる配合割合で混合し、かつ混合硝酸溶液中のCe、Bi、R、R´の合計が0.2mol/Lとなるように水を加えて原料溶液を得た。以下、実施例1と同様の工程および条件でCeとBiとPrとR´を主成分とする複合酸化物を得た。
【0063】
〔実施例3〕
実施例1と同様にCe源として硝酸セリウム六水和物(Ce(NO33・6H2O)、Bi源として硝酸ビスマス五水和物(Bi(NO33・5H2O)を用意した。一方、R源として希土類酸化物Pr酸化物の粉末を濃硝酸溶液に溶解し、Rの硝酸溶液を用意した。
【0064】
さらにR´源としてオキシ硝酸ジルコニウム二水和物(ZrO(NO32・2H2O)をCe、Bi、Pr、R´のモル比が0.49:0.09:0.39:0.03となる配合割合で混合し、かつ混合硝酸溶液中のCe、Bi、R、R´の合計が0.2mol/Lとなるように水を加えて原料溶液を得た。以下、実施例1と同様の工程および条件でCeとBiとPrとR´を主成分とする複合酸化物を得た。
【0065】
〔比較例1〕
Ce源として硝酸セリウム六水和物(Ce(NO33・6H2O)、Bi源として硝酸ビスマス五水和物(Bi(NO33・5H2O)を用意した。一方、R源として希土類酸化物Pr酸化物の粉末を濃硝酸溶液に溶解し、Rの硝酸溶液を用意した。
【0066】
上記各硝酸塩とRの硝酸溶液を、Ce、Bi、Rのモル比が0.5:0.1:0.4となる配合割合で混合し、かつ混合硝酸溶液中のCe、Bi、Rの合計が0.2mol/Lとなるように水を加えて原料溶液を得た。この溶液を撹拌しながら沈殿剤として炭酸アンモニウム水溶液を添加した。その後、30分間撹拌を継続することにより、沈殿反応を十分に進行させた。得られた沈殿物をろ過、水洗し、125℃で約15時間乾燥して、乾燥粉末を得た。得られた粉末を前駆体という。次に、この前駆体を大気雰囲気下800℃で2時間焼成してCeとBiとPrを主成分とする複合酸化物を得た。
【0067】
〔比較例2〕
Ce源として硝酸セリウム六水和物(Ce(NO33・6H2O)、Bi源として硝酸ビスマス五水和物(Bi(NO33・5H2O)を用意した。一方、R源として希土類酸化物Pr酸化物の粉末を濃硝酸溶液に溶解し、Rの硝酸溶液を用意した。
上記各硝酸塩とRの硝酸溶液を、Ce、Bi、Rのモル比が0.5:0.1:0.4となる配合割合で混合し、かつ混合硝酸溶液中のCe、Bi、Rの合計が0.2mol/Lとなるように水を加えて原料溶液を得た。この溶液を攪拌しながら沈澱剤として水酸化ナトリウムを添加した。その後、比較例1と同様の工程および条件でCeとBiとPrを主成分とする複合酸化物を得た。
【0068】
《耐熱性評価試料の作製》
得られた複合酸化物の耐熱性を評価するために、各複合酸化物の一部を、電気炉により空気中800℃で100時間にわたって熱処理(耐熱処理)した。
【0069】
《BET比表面積の測定》
各実施例、比較例で得られた耐熱処理前の試料(800℃×2hと表示)、および上記耐熱処理後の試料(800℃×100hと表示)について、メノウ乳鉢で解粒し、粉末とした後、BET法により比表面積を求めた。測定はユアサイオニクス製の4ソーブUSを用いて行った。
【0070】
《PM燃焼温度の評価》
各実施例、比較例で得られた試料、および上記耐熱処理後の試料について、カーボンブラックとの混合粉を作り、その中の一部を規定量分取した上、TG/DTA装置を用いてカーボンブラック燃焼温度を求めることによってPM燃焼開始温度を評価した。具体的には以下のようにした。
【0071】
模擬PMとして市販のカーボンブラック(三菱化学製、平均粒径2.09μm)を用い、複合酸化物試料の粉体とカーボンブラックの質量比が6:1になるように秤量し、自動乳鉢機(石川工場製AGA型)で20分間混合し、カーボンブラックと各試料粉体の混合粉体を得た。この混合粉体20mgをTG/DTA装置(セイコーインスツルメンツ社製、TG/DTA6300型)にセットし、昇温速度10℃/minにて常温から700℃まで大気中で昇温し、重量減少量の測定を行った(カーボンブラックは燃焼により二酸化炭素として系外に排出されるので、初期重量からは減少傾向になる)。
【0072】
図2に、重量変化曲線(TG曲線)と示差熱曲線(DTA曲線)を模式的に示す。DTA曲線において、発熱量が最大となる点をPM燃焼温度とした。図では符号50の温度である。
【0073】
また、耐熱処理後の試料のPM燃焼温度(800℃×2hと表示)と、耐熱処理前の試料のPM燃焼温度(800℃×100hと表示)の差からΔTを算出した。これを「ΔT耐熱」と呼ぶ。
【0074】
《硫黄被毒の評価》
各実施例、比較例で得られた試料について、10Vol%の濃度のSO2ガスで流量500ml/minの環境に5時間と10時間放置させ被毒させた。その後それぞれの試料とカーボンブラックとの混合粉を作り、その中の一部を規定量分取した上、TG/DTA装置を用いてカーボンブラック燃焼温度を求めることによってPM燃焼温度を評価した。5時間被毒させた場合のPM燃焼温度と被毒前のPM燃焼温度との差を「ΔT5H−S処理」と呼び、10時間の場合を「ΔT10H−S処理」と呼ぶ。
【0075】
《S被毒速度の評価》
(1)式に基づいてS被毒速度(SV)を求めた。
【0076】
《S劣化率の評価》
(2)式に基づいてS劣化率(SRd)を求めた。なお、比較例2に関しては5時間被毒処理後の触媒活性のデータがないため、(3)式でS劣化率を求めた。
【0077】
【数3】

【0078】
《測定結果について》
実施例1〜3、比較例1〜3の複合酸化物について、添加元素モル比、比表面積、PM燃焼温度、S被毒速度、S劣化率を表1に示す。
【0079】
表1を参照して、本発明の4元系の触媒の合成直後及び耐熱処理後のBETは、Ce、Bi、Prからなる3元系の触媒(比較例1、2)よりも、大きかった。比較例2は、本発明の触媒と同じ製造方法であって、R´が無いサンプルである。この比較例2と実施例1乃至3を比較すると、BETを高める効果が一番低かった実施例2(R´はYである。)の場合でも、比較例2よりおよそ1m2/g高かった。
【0080】
BETを高める効果が大きかった実施例1(R´はAl)および実施例3(R´はZr)では、耐熱処理後であっても、それぞれ38.4m2/gと32.3m2/gのように30m2/g以上のBETを示した。
【0081】
なお、比較例1および比較例2は同じ組成であって、沈殿剤が炭酸アンモニウム(比較例1)か水酸化ナトリウム(比較例2)かの違いを示しており、BETを高めるには、沈殿剤として水酸化ナトリウムを用いるのが好ましいことを示している。
【0082】
次にS処理の影響を「ΔT5H−S処理」と「ΔT10H−S処理」を参照して示す。なお、比較例2については、5時間後のデータはない。まず、「ΔT5H−S処理」を参照すると、比較例1は67℃であったのに対して実施例1乃至3(19℃乃至29℃)はいずれも67℃より低かった。
【0083】
また、「ΔT10H−S処理」の場合も実施例1乃至3(42℃乃至71℃)は比較例1(115℃)や比較例2(87℃)より低かった。すなわち、BETの大きな実施例1乃至3は、被毒による失活が起こりにくい結果となった。
【0084】
S被毒速度は、時間当たりの触媒活性喪失の程度を燃焼温度という視点で表したものである。従って、上記の結果を受け、実施例1乃至3(4.9℃乃至6.0℃)は、比較例の結果(8.7℃および12.4℃)より低かった。
【0085】
また、同様にS劣化率は初期の触媒活性に対して、活性の劣化分がどの程度の割合になっているかを示す指標である。これも上記の傾向を反映し、実施例1乃至3(10℃乃至13℃)は比較例1,2の結果(28℃と24℃)より低かった。
【0086】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、ディーゼルエンジンの排ガスフィルタ(DPF)に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0088】
1 DPF
10 エンジン側
11 大気開放側
12 エンジン側壁面
14 大気開放側壁面
30 エンジン側壁面に塗布されたPM触媒
40 大気開放側壁面に塗布された白金系触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ce、Bi、R(ただしRはLa、Ceを除くランタノイドの1種以上)およびR´(ただしR´はランタノイドとアクチノイドを除く3族、4族、13族から選ばれた1種以上の元素)で構成される排ガス浄化触媒用複合酸化物。
【請求項2】
前記R´がAl、Zr、Yから選ばれた元素である請求項1に記載された排ガス浄化触媒用複合酸化物。
【請求項3】
前記RはPrである請求項1または2のいずれかの請求項に記載された排ガス浄化触媒用複合酸化物。
【請求項4】
Ceの硝酸溶液と、Biの硝酸溶液と、前記Rの硝酸溶液と、前記R´の硝酸溶液を混合して混合液を得る工程と、
水酸化アルカリ及び/又は炭酸アルカリと前記混合液を合わせて沈殿物を得る工程を含む排ガス浄化触媒用複合酸化物の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れかの請求項に記載された排ガス浄化触媒用複合酸化物を含む排ガス浄化触媒用塗料。
【請求項6】
多孔質フィルタと、
前記多孔質フィルタ上に形成された、
請求項1乃至3の何れかの請求項に記載された排ガス浄化触媒用複合酸化物と、
無機バインダを含む排ガス浄化触媒層を有するディーゼル排ガス浄化用フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−279581(P2009−279581A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104566(P2009−104566)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】