説明

排ガス浄化触媒用複合酸化物とその製造方法および排ガス浄化触媒用塗料とディーゼル排ガス浄化用フィルタ

【課題】ディーゼルエンジン排ガスのPMを低温で燃焼させることができ、かつS脱離性の優れた排ガス浄化触媒用複合酸化物を提供する。
【解決手段】Ce、Bi、Pr、Rおよび酸素で構成され、Ce、Bi、Pr、Rのモル比をCe:Bi:Pr:R=(1−x−y−z):x:y:zとするとき、0<x+y+z≦0.5であり、好ましくは0<x≦0.1、0<y≦0.25および0<z≦0.3を満たす排ガス浄化触媒用複合酸化物。特にRをZrとしたときのこの複合酸化物は、600℃程度の温度でS脱離性に優れており、触媒活性を低い温度で復活させることができるので、当該排ガス浄化触媒はPM燃焼触媒として好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等のディーゼルエンジンから排出されるPM(粒子状物質)を燃焼させるのに適した複合酸化物からなる排ガス浄化触媒とその製造方法、およびそれを用いた触媒用塗料とその塗料を基材上に塗布したディーゼル排ガス浄化用フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンのもつ問題として、窒素酸化物(NOx)とカーボンを主体とする微粒子(以後「PM」とも言う。)が排ガス中に含まれ、環境汚染の原因となる点が挙げられる。これらの問題の一つであるPMを除去する一般的な方法として、排気ガス流路に多孔質体セラミックスからなるディーゼル・パーティキュレート・フィルタ(DPF)を設置してPMを捕集(トラップ)する方法がある。DPFにはPMが蓄積されてゆくが、捕集されたPMを間欠的または連続的に燃焼処理することでPMを除去し、DPFをPM捕集前の状態に再生させることが通常行われている。
【0003】
このDPF再生処理には、電気ヒーターやバーナー等、外部からの強制加熱によりPMを燃焼させる方法、DPFよりもエンジン側に酸化触媒を設置し、排ガス中に含まれるNOを酸化触媒によりNO2とし、NO2の酸化力によりPMを燃焼させる方法などが一般的に用いられている。
【0004】
しかし、電気ヒーターやバーナーを使用するには外部に動力源を設置する必要がある。さらに、DPFの再生が必要なタイミングで電気ヒーター等を動作させるための機構等が別途必要になる。そのため排ガス浄化システムそのものが複雑化する。また、酸化触媒を使用する場合は、触媒活性が十分発揮されるほど排ガス温度が高くないことや、ある一定の運転状況下でなければPM燃焼に必要なNOが不足するといった理由から、PMの燃焼が不十分となる可能性も考えられる。
【0005】
そこで、DPFのより望ましい再生処理方法として、DPFそのものに触媒を担持させ、その触媒作用によりPMの燃焼開始温度を低下させ、PMを燃焼させる方法が検討されている。そして究極的な目標としては排ガス温度にて連続的にPMを燃焼させる方法が最も望ましいとされている。
【0006】
現在ではDPFにトラップされたPMを燃焼除去させるための酸化触媒(PM燃焼触媒)として、高比表面積のアルミナ等に触媒金属のPtを担持させたものが使用されている。しかし、エンジンからの排ガス温度レベルではPtはPMを燃焼させる触媒作用が低い。そのため、排ガスの熱を利用してPMを連続的に燃焼させるのは困難と考えられる。従って、外部からの強制加熱手段との併用が必要であった。また、Ptは需給バランスによりその価格が変動するため、大幅なコスト変動を招くという問題がある。
【0007】
また、PM燃焼触媒は、PM燃焼時の発熱により触媒温度が急激に上昇することが想定される。このため、PM燃焼触媒は、高温での熱履歴を受けた後も触媒性能の低下(熱劣化)ができるだけ少ない特性を有する必要がある。
【0008】
特許文献1〜3には、Pt等の貴金属元素を含まないセリアの複合酸化物を基材とした酸化触媒として、CeとBiあるいはさらに遷移金属元素を含有する混合物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−211525号公報
【特許文献2】特開2003−238159号公報
【特許文献3】特開2006−224032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
CeとBiを含む複合酸化物はPMの燃焼開始温度を低下させる使用当初の触媒活性に優れている。しかし、排ガス中にわずかに含まれる硫黄酸化物に起因して、継続使用した際に触媒活性が低下する可能性があるという懸念があった。例えば、Ce、Bi,Prからなる三元系の複合酸化物は、PMの燃焼開始温度を低減させるという効果を有するが、燃料中に含まれる硫黄に鋭敏に反応し、活性を低下させてしまい、排ガス雰囲気で回復しないという問題を抱えていた。本発明者らによれば、かかる複合酸化物に更にもう一元素を添加することで、こうした触媒活性の回復がより低温の加熱でも生じることを見出した。
【0011】
本発明は、このような従来技術の有する課題及び新たな知見に鑑みてなされたものである。そして本発明の目的は、従来のCeとBiを含む複合酸化物と比較して硫黄の脱離性の高い複合酸化物を提供し、硫黄被毒時の活性低下が少なく、また被毒してもより低温で触媒活性を回復できる排ガス浄化触媒用複合酸化物とその製造方法および排ガス浄化触媒用塗料とディーゼル排ガス浄化用フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、かかる目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、Ce、Bi、Prに所定元素を加えた複合酸化物であれば、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明の排ガス浄化触媒用複合酸化物は、Ce、Bi、PrおよびR(ただしRはランタノイドとアクチノイドを除く2族、3族、4族、8族、13族、14族から選ばれた1種以上の元素)で構成され、次の(1)式
Ce1-x-y-zBixPryz ・・・(1)
(式中のx、y、zはx+y+z≦0.5を満たす)
で表される排ガス浄化触媒用複合酸化物である。また、この排ガス浄化触媒用複合酸化物を含む塗料と、その塗料を多孔質フィルタに塗布したDPFをも提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、Ce、Bi、Prに所定元素を加えたことにより、従来のCeとBiを含む複合酸化物と比較して硫黄の脱離性の高い複合酸化物を提供し、被毒されても容易に触媒活性を回復させることのできる排ガス浄化触媒用複合酸化物とその製造方法および排ガス浄化触媒用塗料とディーゼル排ガス浄化用フィルタを提供することができる。
【0015】
このように、硫黄被毒による触媒活性の低下を比較的低温で回復することができるということは、触媒活性の回復のために大規模な装置を搭載する必要が無いという排ガス浄化システム自体の利点に繋がる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の排ガス浄化触媒用複合酸化物を用いたDPFの構造を示す図である。
【図2】TG曲線を説明する図である。
【図3】実施例1、3、比較例1におけるPM燃焼温度を比較したグラフである。
【図4】実施例1、3、比較例1における吸着S量を比較したグラフである。
【図5】実施例6と比較例1のPM燃焼温度をまとめたグラフである。
【図6】単位比表面積BET当りの吸着S量で比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の排ガス浄化触媒用複合酸化物は、Ce、BiにPrおよびRの少なくとも4つの元素を含む複合酸化物である。Rは2族または3族または4族または8族または13族または14族から選ばれた少なくとも1種以上の元素である。このような構成とすることで、排ガスの雰囲気下における比較的低温下においても、複合酸化物に吸着している硫黄分を脱離させることができるので、もとの触媒活性を回復することができる。
【0018】
また、本発明の複合酸化物を構成する元素の割合は、Ce、Bi、Pr、Rのモル比をCe:Bi:Pr:R=(1−x−y−z):x:y:zとするとき、0<x+y+z≦0.5を満たす。
【0019】
またさらに0<x≦0.1、0<y≦0.25、0<z≦0.3とするのが好ましい。特に好ましくは、0<z≦0.1であることがよい。この範囲内であれば、初期活性、耐熱後のPM燃焼活性は悪化しにくい。この範囲を外れると初期活性が悪化するとともに、硫黄の脱離性が低下するため、回復することができたとしても高温での熱処理を必要とする。
【0020】
なお、複合酸化物の中には酸化セリウム構造体のCeを置換していないBi、PrあるいはRが不純物相として存在する場合があり、本発明の効果が阻害されない限りその不純物相の存在は許容される。許容される量の不純物相が存在する場合は、不純物相中のCe、Bi、PrあるいはRを含めた複合酸化物全体としてのモル比が上記を満たしていればよい。
【0021】
本発明の複合酸化物は、Ce、Biを基材とする複合酸化物である。従って、PMを低温から燃焼させることができる触媒活性の機構は、従来のCe−Bi系複合酸化物において考えられている機構と同様であると考えられる。
【0022】
すなわち、Ce原子を主とする複合酸化物中の陽イオンが見かけ上の価数変化を起こし、また、Bi、Pr、RなどCeとイオン半径が異なる種類の原子でCeサイトが置換されることによる格子歪に起因し、格子中の酸素が格子外に放出され易い状態となることによって、比較的低い温度域から酸化に必要な活性酸素が供給され易くなるものと考えられる。
【0023】
また、置換による格子歪とPrの存在は、結晶格子中でのBi原子の存在を安定化させ、Biの遊離を防止する効果をもたらす。Rの存在は合成時に粒子成長抑制剤として働き微細な粒子を生成させる。更には粒子間の焼結を防止するものと考えられ、これによって高温・長時間保持に対する耐熱性が高められていると考えられる。
【0024】
Biは、酸化セリウム構造体をもつ酸化物において、低温域での触媒活性の向上作用、すなわちPMの燃焼開始温度の低減作用を呈する。そのメカニズムは上述のように考えられる。Biの添加量が比較的少量であっても低温域での触媒活性の向上作用が生じる。しかし、あまりBi添加量が多すぎてもその効果は向上せず、むしろ高温に曝されたときに触媒物質が溶融してしまう恐れがある。
【0025】
これは、低融点のBiの添加により複合酸化物の融点が低下するためと考えられる。Bi添加量の適否については、長時間高温に曝した後の試料におけるPMの燃焼開始温度、および結晶構造の変化によって知ることができる。こうした評価により検討したところ、複合酸化物中へのBiの配合割合は、上記のように0<x≦0.1の範囲とすることが好ましい。xが0.1を超えると長時間高温に曝した後の試料のPM燃焼開始温度が上昇しやすい。この場合、Bi原子が蛍石型構造から遊離してBi酸化物、またはBiと添加元素との複合酸化物などの異相が生成し易くなり、本発明の効果を阻害する量の不純物相を含有する複合酸化物となる場合がある。
【0026】
本発明では第3元素としてPrと、第4元素としてR(ランタノイドとアクチノイドを除く2族、3族、4族、8族、13族、14族から選ばれた1種以上の元素)を添加した新規な複合酸化物を提供する。PrやRの添加量が比較的少量であっても優れた耐熱性向上効果が得られる。これら第3、第4元素の添加量は多くなっても耐熱性向上効果は概ね維持される。
【0027】
このためPrの配合割合は上記のように0<y≦0.25の範囲とすればよい。Prの配合割合が0.25を超えると、硫黄被毒後の吸着S量が増加し、結果としてPMの燃焼開始温度が上昇する事象が見られることがある。
【0028】
Prは酸化物として酸化セリウム(CeO2)と同様の蛍石型構造をとる。PrでCe原子の一部を置換することにより蛍石型構造が維持され易くなり、一層耐熱性の向上した排ガス浄化触媒を得ることができる。
【0029】
Rはランタノイドとアクチノイドを除く2族、3族、4族(Ti、Zr、Hf、Rf)、8族(Fe、Ru、Os、Hs)、13族、14族から選ばれた1種以上の元素で構成される。なかでも、焼成時に一次粒子の焼結を抑える作用を有し、複合酸化物の比表面積を増大させる上で有効な元素が好ましい。具体的には、Zr、Feなどである。比表面積の増大は触媒活性の向上に繋がり、硫黄被毒に対する許容量を増大させる。これは、粒子表面を覆うのに必要な硫黄量が多くなることに起因する。
【0030】
したがって、Rの添加を行うことによって、特に硫黄被毒による触媒活性の劣化抑制効果が得られるようになる。ただし、Rを過剰に添加すると蛍石型構造を維持することができなくなる。このため、Rを添加する場合は、上記のように0<z≦0.3の範囲とすることが好ましい。より好ましくは0<z≦0.1に制限してもよい。
【0031】
このような複合酸化物とともに白金族元素を共存させることも有効である。白金族元素は排気ガス中に含まれる燃料、および、NO、CO等の未燃焼成分の酸化を促進させる作用を有する。また、白金族元素は、PM燃焼開始温度をさらに低下させる効果も期待できる。複合酸化物と共存させる白金族元素は、白金族元素(Pt、Rh、Pd、Ir、Ru、Os)のうち1種以上を使用することができ、特にPt、Rh、Pdが触媒効率を高める上で効果が大きい。白金族元素は例えば本発明の複合酸化物に含有させる形で共存させることができる。
【0032】
他方、Al23、TiO2、SiO2などの一般に触媒担体として使用される物質に白金族元素を含有させ、その物質を本発明の複合酸化物とともに混合することによって、本発明の複合酸化物と白金族元素を共存させることもできる。白金族元素の量は、本発明の複合酸化物中、あるいはさらに上記触媒担体物質が混合される場合は本発明の複合酸化物と上記触媒担体物質の混合物中における白金族元素の含有量が例えば0.05〜5質量%となるようにすればよい。
【0033】
PM燃焼触媒が高温・長時間の熱履歴を受けたときの耐熱性を評価する手法としては、例えば焼成により合成された複合酸化物を大気中で高温・長時間加熱する処理(以下これを「耐熱処理」という)に供し、焼成された直後と、耐熱処理を受けた後とで、PMに対する触媒活性がどの程度変化するかを見る方法が有効である。
【0034】
PMに対する触媒活性は、例えば後述するPM燃焼温度にて評価できる。複合酸化物の合成を800℃で2時間加熱する焼成によって行った場合、上記耐熱処理を受ける前の複合酸化物は800℃で2時間の熱履歴を受けているのみである。
【0035】
PM燃焼触媒が硫黄酸化物に曝された場合の耐被毒性を評価する方法としては、合成したPM燃焼触媒を微量の硫黄含有ガスに所定時間曝して、触媒活性の変化を見るのが有効である。触媒活性は同じくPM燃焼温度によって評価する。
【0036】
PM燃焼触媒の硫黄脱離性を評価する手法としては、次のような方法が有効である。まず、最初にPM燃焼温度を測定しておき、硫黄含有ガスに触媒を所定時間接触させる。次に短時間の間所定温度に曝す硫黄脱離処理を行う。その後再度PM燃焼温度を測定し、最初のPM燃焼温度と比較するという方法である。以下この方法をSパージ処理と呼び、硫黄脱離性をSパージ性と呼ぶ。
【0037】
また、本発明の触媒は、硫黄脱離性に優れるため、繰り返し硫黄脱離を行った場合の性能についても評価する必要がある。この評価は、試料を硫黄含有ガスで被毒させ、次に昇温しSパージ処理を行う。このサイクルを所定回数行った後に触媒活性を測定する。
【0038】
本発明者らはCe、Bi、および第3元素、第4元素を含有する種々の組成の複合酸化物を800℃で2時間焼成する手法で合成し、耐熱処理後の酸化物構造と、硫黄被毒速度、硫黄劣化率の関係について調べた。その結果、第3元素、第4元素の添加によって合成直後のBET値が高く、かつ耐熱処理後のBET値の変化が小さかった。また、硫黄による被毒劣化についても硫黄被毒速度が遅く、また硫黄劣化率を小さくすることができることが明らかになった。
【0039】
なお本発明による複合酸化物の粉体特性としては、BET法による比表面積が10〜100m2/gであることが好ましい。比表面積が10m2/g未満であると触媒活性が低くなりやすく、100m2/gを超えると再生時の温度上昇により第3元素、第4元素の効果以上に熱劣化し触媒活性が低下しやすい。また、粒度分布は、レーザー回折法による粒度分布測定によるD50径が0.01〜10μmであることが好ましい。D50径が0.01μm未満であるとDPFの内部まで浸透し、DPF表面上で触媒活性を発現する量を確保するためには大量の粉体が必要となりコスト上好ましくない。10μmを超えるとDPFの細孔を塞いでしまい圧損が大きくなるため好ましくない。
【0040】
本発明の対象となる複合酸化物は、湿式法で得られた沈殿生成物質を焼成する方法により好適に合成することができる。例えば、Ceの水溶性塩とBiの水溶性塩とPrの水溶性塩、さらにR(例えばZr)の水溶性塩を沈殿剤により沈殿させ、空気を吹き込んで酸化させる。その沈殿物を乾燥させることにより複合酸化物の「前駆体」とし、その前駆体を熱処理することにより複合酸化物を合成する。
【0041】
具体的には、Ceの水溶性塩(例えば硝酸塩)、Biの水溶性塩(例えば硝酸塩)、Prの水溶性塩(例えば硝酸塩)、さらにRの水溶性塩を溶解させた水溶液に、沈殿剤としてアルカリを加えて反応させ、空気を吹き込み酸化させ酸化物の混合物を生成させる。得られた沈殿生成物を濾過、洗浄・乾燥することによって前駆体を得る。沈殿を生成させる液中のCe、Bi、Pr、Rのイオン濃度は、溶解度によって上限が決まる。しかし、あまり液中濃度が濃すぎると、撹拌時に均一に反応が生じず不均一になる可能性があり、また撹拌時に装置の負荷が過大になる場合があるので、好ましくない。
【0042】
沈殿物を得るためには水酸化アルカリ、炭酸アルカリのいずれか一方又は双方を用いることが好ましい。具体的に例示すると、水酸化アルカリとしては水酸化ナトリウム、アンモニア水などで、炭酸アルカリとしては炭酸水、炭酸ガス、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウムなど炭酸を主成分とするものと、アンモニア水もしくはアンモニウムの各水溶性塩を混合して使用すること、あるいはその双方の機能を併せ持つ炭酸アンモニウム化合物、具体的には炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムなどを使用することが好ましい。
【0043】
塩溶液に尿素を含有させておき、この塩溶液を加熱して尿素を分解し、アンモニアを発生させ、それによって塩溶液をアルカリ性にして沈殿物を得ることも可能である。沈殿物を生成させるときの液のpHは6〜11の範囲に制御するのがよい。pHが6未満の領域では、BiとCeとPrとRが共沈しない場合があるので好ましくない。
【0044】
また、Ce化合物、Bi化合物、Pr化合物、さらにR化合物として、それぞれ加水分解が可能な化合物を用意し、これらを水に添加して加水分解することによって、混合ゾルを形成し、凝集・沈殿させることもできる。ここでこの加水分解可能化合物としては、例えば各金属元素のアルコキシド、β−ケト酸塩を挙げることができる。
【0045】
得られた沈殿物は必要に応じて濾過、水洗され、真空乾燥や通風乾燥などにより乾燥させ、前駆体とする。この際、乾燥による脱水効果を高めるため、濾過した直後の形態のまま乾燥処理するか、所定の形状に造粒した後に乾燥処理させることができる。その後、前駆体を、粉末形状あるいは造粒した状態のまま、例えば400〜1000℃、好ましくは500〜850℃で熱処理(焼成)することにより、目的とする複合酸化物を合成することができる。焼成時の雰囲気は複合酸化物が生成できるような条件であれば特に制限されず、例えば、空気中、窒素中、アルゴン中およびそれらに水蒸気を組み合わせた雰囲気を使用することができる。
【0046】
白金族元素を本発明の複合酸化物に含有させる場合は、例えば、焼成後の複合酸化物に、目的量の白金族元素を含む塩あるいは錯体を含浸させ、その後、乾燥、焼成させる手法が採用できる。
【0047】
本発明の複合酸化物を排ガス浄化触媒として排ガス浄化触媒用塗料やそれを用いたDPFを構築することができる。排ガス浄化触媒用塗料は、本発明の排ガス浄化触媒用と、溶剤と無機バインダを含む塗料である。場合によって分散剤や粘度調整剤やpH調整剤を含んでいても良い。
【0048】
溶剤としては、極性溶剤や非極性溶剤のどちらを用いても良い。フィルタ上に塗布した後、すばやく乾燥させるためには、沸点の低い溶剤がよいが、取り扱いの容易さを考えると水系の溶剤でもよい。具体的には水、イソプロピルアルコール、テルピネオール、2−オクタノール、ブチルカルビトールアセテート等が好適に利用できる。
【0049】
無機バインダとしては、Al23、TiO2、SiO2などの粉体が好適に用いられる。PM触媒は高温に曝されるため、高温でも安定した特性を示す材料が好ましい。
【0050】
本発明の複合酸化物を用いたDPFは、構造は特に限定されない。例えば図1にDPFの一例を示す。DPF1は入り口側10から見た断面がハニカム構造をした筒状の形態をしており、材質は多孔質なセラミックで構成されている。入り口側(「エンジン側」とも言う。)10と出口側(「大気開放側」ともいう。)11は直接的な貫通孔を有しておらず、多孔質セラミックがフィルタとなっている。多孔質セラミックには、具体的にはセラックス、コージェライト、炭化珪素、チタン酸アルミなどが好適に用いられる。また、形状は図1に示した構造のほか、発泡体、メッシュ、板状といった形状でもよい。
【0051】
本発明の複合酸化物はDPFのエンジン側10に配置されるのがよい。PM触媒であるので、PMが蓄積するエンジン側にないとPM燃焼温度を低下させることができないからである。また、白金系の触媒を本発明のPM触媒から大気開放側に配置してもよい。例えば、DPFのエンジン側の壁面12に白金系の触媒の層と本発明のPM触媒の層をそれぞれ別々に塗布した多重層構造とするなどである。
【0052】
また本発明の排ガス浄化触媒用塗料をエンジン側の壁面12に塗布し、大気開放側の壁面14には白金系触媒の塗料を塗ってもよい。この場合は、エンジン側にPM触媒30があり、大気開放側に白金系の触媒40が配置されることとなる。また、白金系の触媒粉を本発明の排ガス浄化触媒用塗料に混ぜて塗布してもよい。なお、白金系の触媒とは、白金族元素を用いた触媒をいう。
【実施例】
【0053】
以下実施例について詳細に説明する。
【0054】
《複合酸化物の作製》
各実施例、比較例の複合酸化物を以下のようにして作製した。
【0055】
〔実施例1〕
Ce源として硝酸セリウム六水和物(Ce(NO33・6H2O)、Bi源として硝酸ビスマス五水和物(Bi(NO33・5H2O)を用意した。また、希土類酸化物として酸化プラセオジムの粉末を濃硝酸溶液に溶解し、Prの硝酸溶液を用意した。
【0056】
さらにR源として硝酸第二鉄・9水和物(Fe(NO33・9H2O)をCe、Bi、Pr、Feのモル比が0.7:0.1:0.1:0.1となる配合割合で混合し、かつ混合硝酸溶液中のCe、Bi、Pr、Rの合計が0.2mol/Lとなるように水を加えて原料溶液を得た。沈澱剤としてNaOH水溶液を攪拌しながら上記原料溶液を添加し水酸化物の沈殿を得た。
【0057】
その後、50℃以上の高温中で空気を充分に吹き込み、水酸化物を酸化物にして安定化させた。得られた沈殿物をろ過、水洗し、125℃で約15時間乾燥して、乾燥粉末(以下「前駆体」という。)を得た。次に、この前駆体を大気雰囲気下800℃で2時間焼成してCeとBiとPrとFeを主成分とする複合酸化物を得た。
【0058】
〔比較例1〕
Ce源として硝酸セリウム六水和物(Ce(NO33・6H2O)、Bi源として硝酸ビスマス五水和物(Bi(NO33・5H2O)を用意した。また、希土類酸化物として酸化プラセオジムの粉末を濃硝酸溶液に溶解し、Prの硝酸溶液を用意した。
【0059】
上記各硝酸塩とPrの硝酸溶液を、Ce、Bi、Prのモル比が0.8:0.1:0.1となる配合割合で混合し、かつ混合硝酸溶液中のCe、Bi、Prの合計が0.2mol/Lとなるように水を加えて原料溶液を得た。この溶液を撹拌しながら沈殿剤として炭酸アンモニウム水溶液を添加した。その後、30分間撹拌を継続することにより、沈殿反応を十分に進行させた。得られた沈殿物をろ過、水洗し、125℃で約15時間乾燥して、乾燥粉末を得た。得られた粉末を前駆体という。次に、この前駆体を大気雰囲気下800℃で2時間焼成してCeとBiとPrを主成分とする複合酸化物を得た。
【0060】
《耐熱性評価試料の作製》
得られた複合酸化物の耐熱性を評価するために、各複合酸化物の一部を、電気炉により空気中800℃で100時間にわたって熱処理(耐熱処理)した。
【0061】
《BET比表面積の測定》
実施例1及び比較例1で得られた耐熱処理前の試料(800℃×2hと表示)、および上記耐熱処理後の試料(800℃×100hと表示)について、メノウ乳鉢で解粒し、粉末とした後、BET法により比表面積を求めた。測定はユアサイオニクス製の4ソーブUSを用いて行った。
【0062】
《PM燃焼温度の評価》
実施例1及び比較例1で得られた試料、および上記耐熱処理後の試料について、カーボンブラックとの混合粉を作り、その中の一部を規定量分取した上、TG/DTA装置を用いてカーボンブラック燃焼温度を求めることによってPM燃焼開始温度を評価した。具体的には以下のようにした。
【0063】
模擬PMとして市販のカーボンブラック(三菱化学製、平均粒径2.09μm)を用い、複合酸化物試料の粉体とカーボンブラックの質量比が6:1になるように秤量し、自動乳鉢機(石川工場製AGA型)で20分間混合し、カーボンブラックと各試料粉体の混合粉体を得た。この混合粉体20mgをTG/DTA装置(セイコーインスツルメンツ社製、TG/DTA6300型)にセットし、昇温速度10℃/minにて常温から700℃まで大気中で昇温し、重量減少量の測定を行った(カーボンブラックは燃焼により二酸化炭素として系外に排出されるので、初期重量からは減少傾向になる)。
【0064】
図2に、重量変化曲線(TG曲線)と示差熱曲線(DTA曲線)を模式的に示す。DTA曲線において、発熱量が最大となる点をPM燃焼温度とした。図では符号50の温度である。
【0065】
《硫黄被毒の評価》
実施例1及び比較例1で得られた試料について、200ppmの濃度のSO2ガスと10vol%の酸素及び10vol%の水蒸気で流量500ml/minの環境に10時間放置させ被毒させた。その後それぞれの試料とカーボンブラックとの混合粉を作り、その中の一部を規定量分取した上、TG/DTA装置を用いてカーボンブラック燃焼温度を求めることによってPM燃焼温度を評価した。
【0066】
《Sパージ性の評価》
実施例1及び比較例1で得られた試料について、200ppmの濃度のSO2ガスと10vol%の酸素及び10vol%の水蒸気で流量500ml/minの環境に10時間放置し被毒させた。その後580ppmの濃度のNOガスと20000ppmの濃度のCOガスと16%のCO2ガスと6200ppmのプロピレンガスと1.95vol%の酸素と10vol%の水蒸気で流量3L/minの環境で650℃、600℃の温度に10分間曝し、Sパージ処理を行った。その後PM燃焼温度を測定した。
【0067】
《吸着S量の評価》
実施例1及び比較例1で得られた試料について、3gを秤量する。このサンプルを200ppmの濃度のSO2ガスで流量500ml/minの環境に10時間放置し被毒させた。被毒後のサンプルの重さを秤量し、吸着したSの比率(質量%)を求めた。次に580ppmの濃度のNOガスと20000ppmの濃度のCOガスと16%のCO2ガスと6200ppmのプロピレンガスと1.95vol%の酸素と10vol%の水蒸気で流量3L/minの環境で650℃、600℃の温度に10分間曝し、パージ処理を行った。その後試料の重さを測定した。
【0068】
《測定結果について》
実施例1及び比較例1の複合酸化物について、添加元素モル比、PM燃焼温度、吸着S量および比表面積の結果を表1に示す。比較例1は、本発明の触媒と同じ製造方法であって、Rが無いサンプルである。
【0069】
本発明の複合酸化物の初期燃焼温度特性は、比較例1とほぼ同じ若しくは高かった。RがZrの場合が高かった。しかし、この特性は耐硫黄性には引き継がれず、硫黄含有ガスに10時間曝されたのちは、実施例1および比較例1はともに同じ程度のPM燃焼温度であった。
【0070】
次に10時間硫黄含有ガスで被毒された状態からのSパージ性では、650℃10分のパージ処理で実施例1と比較例1はほとんど差がなかった。一方、600℃10分のパージ処理では、実施例1が379℃であったのに対して、比較例1は403℃であった。これは、Ce、Bi、Prの三元系の触媒に第4元素としてFeを入れることで、より低いパージ温度で、しかもより効果的に触媒活性を復活させることができることを示している。
【0071】
耐熱特性については、いずれの実施例も比較例より高くなった。しかし実用上は問題のないレベルである。
【0072】
表1を参照して、吸着S量については、実施例1および比較例1はほとんど同じであった。特に10時間被毒させ、600℃で再生させた場合は、残存している吸着S量は比較例1と比べて小さかった。このことは600℃でのSパージ性に優れている点をよく反映している。
【0073】
〔実施例2〕
R源としてオキシ硝酸ジルコニウム二水和物(ZrO(NO32・2H2O)をCe、Bi、Pr、Zrのモル比が0.75:0.1:0.1:0.05となる配合割合で混合した以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して、本例の複合酸化物を得た。
【0074】
〔実施例3〕
R源としてオキシ硝酸ジルコニウム二水和物(ZrO(NO32・2H2O)をCe、Bi、Pr、Zrのモル比が0.7:0.1:0.1:0.1となる配合割合で混合した以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して、本例の複合酸化物を得た。
【0075】
〔実施例4〕
R源としてオキシ硝酸ジルコニウム二水和物(ZrO(NO32・2H2O)をCe、Bi、Pr、Zrのモル比が0.65:0.1:0.1:0.15となる配合割合で混合した以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して、本例の複合酸化物を得た。
【0076】
〔実施例5〕
R源としてオキシ硝酸ジルコニウム二水和物(ZrO(NO32・2H2O)をCe、Bi、Pr、Zrのモル比が0.6:0.1:0.1:0.2となる配合割合で混合した以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して、本例の複合酸化物を得た。
【0077】
《耐熱性評価試料の作製》
得られた複合酸化物の耐熱性を評価するために、各複合酸化物の一部を、電気炉により空気中800℃で100時間にわたって熱処理(耐熱処理)した。
【0078】
《BET比表面積の測定》
実施例1と同様の操作を行い、実施例2〜5についてBET法により比表面積を求めた。
【0079】
《PM燃焼温度の評価》
実施例1と同様の操作を行い、実施例2〜5についてPM燃焼開始温度を評価した。
【0080】
《硫黄被毒の評価》
実施例1と同様の操作を行い、実施例2〜5についてPM燃焼温度を評価した。
【0081】
《Sパージ性の評価》
各実施例で得られた試料について、実施例1の場合同様に、処理を行った。すなわち、初めに200ppmの濃度のSO2ガスと10vol%の酸素及び10vol%の水蒸気で流量500ml/minの環境に10時間放置し被毒させた。その後580ppmの濃度のNOガスと20000ppmの濃度のCOガスと16%のCO2ガスと6200ppmのプロピレンガスと1.95vol%の酸素と10vol%の水蒸気で流量3L/minの環境で600℃の温度に10分間曝し、パージ処理を行った。その後PM燃焼温度を測定した。なお、実施例3では実施例1と同様に曝露温度650℃でのSパージ処理を行った。
【0082】
《吸着S量の評価》
各実施例で得られた試料について、実施例1の場合同様に、処理を行った。すなわち、初めに3gを秤量し、サンプルを200ppmの濃度のSO2ガスで流量500ml/minの環境に10時間放置し被毒させた。被毒後のサンプルの重さを秤量し、吸着したSの比率(質量%)を求めた。次に580ppmの濃度のNOガスと20000ppmの濃度のCOガスと16%のCO2ガスと6200ppmのプロピレンガスと1.95vol%の酸素と10vol%の水蒸気で流量3L/minの環境で600℃の温度に10分間曝し、パージ処理を行った。その後試料の重さを測定した。
【0083】
《測定結果について》
実施例1〜5及び比較例1の複合酸化物について、添加元素モル比、PM燃焼温度、吸着S量および比表面積の結果を表1に示す。また、PM燃焼温度および吸着S量については、実施例1、3および比較例1について、さらに図3および図4にもグラフを示す。なお、表1中で括弧は処理時間を表わす。
【0084】
【表1】

本発明の複合酸化物の初期燃焼温度特性は、比較例1とほぼ同じ若しくは高かった。RがZrの場合が高かった。しかし、この特性は耐硫黄性には引き継がれず、硫黄含有ガスに10時間曝された後は、実施例1〜5は比較例1より若干低いPM燃焼温度であった。
【0085】
次に10時間硫黄含有ガスで被毒された状態からのSパージ性では、600℃で10分間のパージ処理では、実施例1が357℃、実施例3が379℃であったのに対して、比較例1は403℃であった。これは、Ce、Bi、Prの三元系の触媒に第4元素としてFeやZrを入れることで、より低いパージ温度で、しかもより効果的に触媒活性を復活させることができることを示している。また650℃で10分間のパージ処理でも同様の結果が得られた。
【0086】
耐熱特性については、いずれの実施例も比較例より高くなった。しかし実用上は問題のないレベルである。
【0087】
吸着S量については、実施例1及び比較例1はほとんど同じであった。特に10時間被毒させ、600℃で再生させた場合は、残存している吸着S量は比較例1と比べて小さかった。このことは600℃でのSパージ性に優れている点をよく反映している。
【0088】
以上のように本発明の排ガス浄化触媒用複合酸化物は、硫黄被毒によって低下した触媒活性を低温で、しかもより効果的に復活させることができる。
【0089】
〔実施例6〕
R源としてオキシ硝酸ジルコニウム二水和物(ZrO(NO32・2H2O)をCe、Bi、Pr、Zrのモル比が0.749:0.001:0.20:0.05となる配合割合で混合した以外は、実施例1と同様の操作を繰り返して、本例の複合酸化物を得た。
【0090】
《BET比表面積の測定》
実施例1と同様の操作を行い、実施例6についてBET法により比表面積を求めた。
【0091】
《PM燃焼温度の評価》
比較例1で得られた試料、及び実施例6についてPM燃焼温度を評価した。具体的には以下のようにした。
【0092】
模擬PMとして市販のカーボンブラック(三菱化学製、平均粒径2.09μm)を用い、複合酸化物試料の粉体とカーボンブラックの質量比が30:1になるように秤量し、容積1.5mlのミクロチューブに入れ、試験管ミキサーTRIO(アズワン製TM−1型)で3min混合し、カーボンブラックと各試料粉体の混合粉体を得た。この混合粉体10mgをTG/DTA装置(セイコーインスツルメンツ社製、TG/DTA6300型)にセットし、昇温速度10℃/minにて常温から800℃まで大気中で昇温し、重量減少量の測定を行った。
【0093】
《硫黄被毒の評価》
比較例1で得られた試料、及び実施例6についてPM燃焼温度を評価した。具体的には以下のようにした。
【0094】
500ppmの濃度のSO2ガスと10vol%の酸素及び10vol%の水蒸気で流量100ml/minの環境に5時間放置させ被毒させた。その後それぞれの試料とカーボンブラックとの混合粉を作り、その中の一部を規定量分取した上、TG/DTA装置を用いてカーボンブラック燃焼温度を求めることによってPM燃焼温度を評価した。
【0095】
《Sパージ性の評価》
実施例6で得られた試料について、比較例1の場合同様に、処理を行った。すなわち、初めに500ppmの濃度のSO2ガスと10vol%の酸素及び10vol%の水蒸気で流量100ml/minの環境に5時間放置し被毒させた。その後580ppmの濃度のNOガスと20000ppmの濃度のCOガスと16%のCO2ガスと6200ppmのプロピレンガスと1.95vol%の酸素と10vol%の水蒸気で流量3L/minの環境で600℃の温度に10分間曝し、パージ処理を行った。その後PM燃焼温度を測定した。
【0096】
《吸着S量の評価》
実施例6で得られた試料について、比較例1の場合同様に、処理を行った。すなわち、初めに1.8gを秤量し、サンプルを500ppmの濃度のSO2ガスで流量100ml/minの環境に5時間放置し被毒させた。被毒後のサンプルの重さを秤量し、吸着したSの比率(質量%)を求めた。次に580ppmの濃度のNOガスと20000ppmの濃度のCOガスと16%のCO2ガスと6200ppmのプロピレンガスと1.95vol%の酸素と10vol%の水蒸気で流量3L/minの環境で600℃の温度に10分間曝し、パージ処理を行った。その後試料の重さを測定した。
【0097】
《BET当りの吸着S量の評価》
求めた吸着S量を複合酸化物試料の比表面積で割り返し、単位比表面積当りに吸着したS量を算出し評価した。
【0098】
《測定結果について》
実施例6及び比較例1の複合酸化物について、添加元素モル比、PM燃焼温度、吸着S量、BET当りの吸着S量および比表面積の結果を表2に示す。なお、表2中で括弧は処理時間を表わす。
【0099】
【表2】

図5に実施例6と比較例1のPM燃焼温度をまとめたグラフを示す。縦軸はPM燃焼温度(℃)であり、横軸は比較例1と実施例6のそれぞれ初期、S被毒後、Sパージ後を示す。
【0100】
実施例6の複合酸化物では、初期燃焼温度は、比較例1よりも若干高いが、硫黄被毒後(5時間)のPM燃焼温度は比較例1よりも大幅に低かった。これはCe、Bi、Pr、Zrの四元系の触媒でBiの量を減少させても、より耐硫黄性が向上することを示している。また、硫黄被毒後、600℃で再生処理を行った場合は、実施例6の複合酸化物は比較例1よりも低いPM燃焼温度まで触媒活性が回復した。
【0101】
なお、吸着S量については、実施例6及び比較例1の複合酸化物は、比表面積BETが異なるため、図6のグラフに示すように、単位比表面積BET当りの吸着S量で比較した。縦軸は単位比表面積BET当たりの吸着S量(質量%/(m2/g))であり、横軸は比較例1と実施例6のS被毒後とSパージ後を示す。
【0102】
このグラフより、硫黄含有ガスに5時間被毒させた直後は比較例1と実施例6はほぼ同じ吸着S量であることがわかる。また、600℃の再生処理後の吸着S量は実施例6の方が比較例1より小さいことがわかる。このことから本発明の一実施例である実施例6の複合酸化物は、600℃でのSパージ性に優れていることが明らかである。
【0103】
以上のように本発明の排ガス浄化用複合酸化物は、硫黄被毒によって低下した触媒活性を復活させることができる。特にBiがより少なければ硫黄被毒しても触媒活性を低下させにくくすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、ディーゼルエンジンの排ガスフィルタ(DPF)に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0105】
1 DPF
10 エンジン側
11 大気開放側
12 エンジン側壁面
14 大気開放側壁面
30 エンジン側壁面に塗布されたPM触媒
40 大気開放側壁面に塗布された白金系触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ce、Bi、PrおよびR(ただしRはランタノイドとアクチノイドを除く2族、3族、4族、8族、13族、14族から選ばれた1種以上の元素)で構成され、次の(1)式
Ce1-x-y-zBixPryz ・・・(1)
(式中のx、y、zはx+y+z≦0.5を満たす)
で表される、排ガス浄化触媒用複合酸化物。
【請求項2】
前記RがZr又はFeである請求項1に記載の排ガス浄化触媒用複合酸化物。
【請求項3】
前記式(1)において、0<x≦0.1、0<y≦0.25、0<z≦0.3を満たす、請求項1又は2に記載の排ガス浄化触媒用複合酸化物。
【請求項4】
Ceの硝酸溶液と、Biの硝酸溶液と、Prの硝酸溶液と、R(ただしRはZr又はFe)の硝酸溶液を混合して混合液を得る工程と、
水酸化アルカリ及び/又は炭酸アルカリと前記混合液を合わせて沈殿物を得る工程を含む排ガス浄化触媒用複合酸化物の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れかの請求項に記載された排ガス浄化触媒用複合酸化物を含む排ガス浄化触媒用塗料。
【請求項6】
多孔質フィルタと、
前記多孔質フィルタ上に形成された、
請求項1乃至3の何れかの請求項に記載された排ガス浄化触媒用複合酸化物と、
無機バインダを含む排ガス浄化触媒層を有するディーゼル排ガス浄化用フィルタ。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−104981(P2010−104981A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216042(P2009−216042)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】