説明

排ガス浄化触媒

【課題】触媒の早期活性化を実現し、優れた排ガス浄化性能を発揮し得る排ガス浄化触媒を提供する。
【解決手段】排ガス浄化触媒は、ガス流路を備える担体と、担体のガス流路側に形成された、触媒成分を含有する触媒を含む触媒層と、担体と触媒層との間に形成された、基材を含む下地層とを具備する。担体の表面側内部及び下地層の内部のいずれか一方又は双方は、空隙を含む断熱部位を有する。下地層は、ガス流路側に開気孔を有しており、下地層内部の断熱部位の空隙は、下地層と開気孔の少なくとも一部が残るように配置された触媒とで形成されている。担体は、ガス流路側に開気孔を有しており、担体の表面側内部の断熱部位の空隙は、担体と開気孔の少なくとも一部が残るように配置された基材とで形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化触媒に関する。更に詳細には、本発明は、触媒の早期活性化を実現し、優れた排ガス浄化性能を発揮し得る排ガス浄化触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧損を抑制し、触媒性能を向上させた、低圧損・高浄化性能のセラミック触媒体が提案されている。このセラミック触媒体は、基材セラミック表面に触媒成分を直接担持可能なセラミック担体に、主触媒成分及び助触媒成分を担持してなる排ガス浄化用のセラミック触媒体である(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4079717号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載のセラミック触媒体にあっては、本発明者らの検討において、触媒成分がセラミック担体と直に接している部分が極めて多いため、触媒の早期活性化が阻害され、優れた排ガス浄化性能が得られていないという問題点があった。
【0005】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明の目的とするところは、触媒の早期活性化を実現し、優れた排ガス浄化性能を発揮し得る排ガス浄化触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた。
その結果、ガス流路を備える担体と、該担体のガス流路側に形成された触媒層と、該担体と該触媒層との間に形成された下地層とを具備し、該担体の表面側内部及び該下地層の内部の少なくとも一方に空隙を含む断熱部位を有する構成とすることにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の排ガス浄化触媒は、ガス流路を備える担体と、該担体のガス流路側に形成された、触媒成分を含有する触媒を含む触媒層と、該担体と該触媒層との間に形成された、基材を含む下地層とを具備する。
また、本発明の排ガス浄化触媒においては、上記担体の表面側内部及び上記下地層の内部のいずれか一方又は双方に、空隙を含む断熱部位を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ガス流路を備える担体と、担体のガス流路側に形成された、触媒成分を含有する触媒を含む触媒層と、担体と触媒層との間に形成された、基材を含む下地層とを具備し、担体の表面側内部及び下地層の内部の少なくとも一方に空隙を含む断熱部位を有する構成とした。
そのため、触媒の早期活性化を実現し、優れた排ガス浄化性能を発揮し得る排ガス浄化触媒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る排ガス浄化触媒の概略を示す斜視図である。
【図2】図1に示した排ガス浄化触媒のII−II線に沿った模式的な断面図である。
【図3】図2に示した排ガス浄化触媒のIII線で囲った模式的な拡大断面図である。
【図4】第1の実施形態に係る排ガス浄化触媒の構成を模式的に示す断面図である。
【図5】第2の実施形態に係る排ガス浄化触媒の構成を模式的に示す断面図である。
【図6】従来の形態に係る排ガス浄化触媒の構成を模式的に示す断面図である。
【図7】各例における触媒入口ガス温度とNOx転化率との関係を示すグラフである。
【図8】実施例1の排ガス浄化触媒の断面の走査型電子顕微鏡写真(倍率:200倍)(a)及び走査型電子顕微鏡写真(倍率:2000倍)(b)である。
【図9】比較例1の排ガス浄化触媒の断面の走査型電子顕微鏡写真(倍率:200倍)(a)及び走査型電子顕微鏡写真(倍率:2000倍)(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態に係る排ガス浄化触媒について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の実施形態で引用する図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係る排ガス浄化触媒の概略を示す斜視図である。また、図2は、図1に示した排ガス浄化触媒のII−II線に沿った模式的な断面図である。更に、図3は、図2に示した排ガス浄化触媒のIII線で囲った模式的な拡大断面図である。
【0012】
図1や図2に示すように、本実施形態の排ガス浄化触媒1は、ハニカム構造を有する担体2が、ガス流れ方向に沿ったガス流路2aを備える。なお、図1中の矢印Xはガス流れ方向を示す。
【0013】
また、図3に示すように、本実施形態の排ガス浄化触媒1は、ハニカム構造を有する担体2のガス流路2a側に形成された、触媒層6と、担体2と触媒層6との間に形成された、下地層4とを具備するものである。
【0014】
なお、詳しくは後述するが、本実施形態の排ガス浄化触媒は、担体の表面側内部及び下地層内部のいずれか一方又は双方に、図示しない空隙を含む断熱部位を有するものである。また、触媒層は、図示しない触媒成分を含有する触媒を含むものである。更に、下地層は、図示しない基材を含む。
【0015】
また、本発明において、「担体の表面側内部」とは、例えば、ガス流路に挟まれた(担体(セル壁)の厚みを1とした場合、ガス流路に対峙する表面側から深さ1/4までの範囲をいう。
【0016】
このような構成とすることにより、触媒成分での触媒反応により生じる熱が担体全体へ熱拡散することを抑制(遅延化)し、触媒成分の早期活性化をより促進することが可能となり、優れた排ガス浄化性能を発揮し得る排ガス浄化触媒となる。
【0017】
また、本実施形態の排ガス浄化触媒においては、例えば、下地層が、ガス流路側に開気孔を有しており、下地層内部の断熱部位の空隙が、下地層と開気孔の少なくとも一部が残るように配置された触媒とで形成されていることが好ましい。
【0018】
このような構成とすることにより、触媒成分での触媒反応により生じる熱が担体全体へ熱拡散することを抑制(遅延化)する断熱部位の形成に際して、他の材料を用いることを必須としないものとなる。そのため、触媒成分の早期活性化をより確実に促進することが可能となり、優れた排ガス浄化性能を発揮し得る排ガス浄化触媒となる。
【0019】
更に、本実施形態の排ガス浄化触媒においては、例えば、担体が、ガス流路側に開気孔を有しており、担体の表面側内部の断熱部位の空隙が、担体と開気孔の少なくとも一部が残るように配置された基材とで形成されていることが好ましい。
【0020】
このような構成とすることによっても、触媒成分での触媒反応により生じる熱が担体全体へ熱拡散することを抑制(遅延化)する断熱部位の形成に際して、他の材料を用いることを必須としないものとなる。そのため、触媒成分の早期活性化をより確実に促進することが可能となり、優れた排ガス浄化性能を発揮し得る排ガス浄化触媒となる。
【0021】
また、本実施形態の排ガス浄化触媒においては、例えば、下地層の熱伝導率と担体の構成成分の熱伝導率との関係が、下記式(1)の関係を満足することが好ましく、下地層の熱伝導率が担体の構成成分の熱伝導率より小さいことがより好ましい。
λPC≦λCC…(1)
(式(1)中、λPCは下地層の熱伝導率、λCCは担体の構成成分の熱伝導率を示す。)
【0022】
このような構成とすることにより、触媒成分での触媒反応により生じる熱が担体全体へ熱拡散することをより確実に抑制(遅延化)することができる。そして、触媒成分の早期活性化をより確実に促進することが可能となり、優れた排ガス浄化性能を発揮し得る排ガス浄化触媒となる。
また、このような構成を実現する方法としては、例えば、下地層の構成材料として担体の構成成分より熱伝導率が小さいものを適用することや、空隙率を多くするように調製することが挙げられる。
【0023】
更に、本実施形態の排ガス浄化触媒においては、例えば、担体の表面側内部の断熱部位の空隙が、担体と開気孔のほぼ全部が残るように配置された基材とで形成されていることが好ましい。
【0024】
このような構成とすることによっても、触媒成分での触媒反応により生じる熱が担体全体へ熱拡散することをより確実に抑制(遅延化)することができる。そして、触媒成分の早期活性化をより確実に促進することが可能となり、より優れた排ガス浄化性能を発揮し得る排ガス浄化触媒となる。
【0025】
上記各構成について更に詳細に説明する。
【0026】
[担体]
担体2としては、例えば、自動車用排ガス浄化触媒であれば、図1に示すようにハニカム形状に成形したものが好適に用いられるがこれに限定されるものではない。すなわち、ガス流路を形成し得るものであれば、ペレット状、粉体、フォーム体、繊維状、中空繊維状などの形状のものを用いて適宜成形(集合)させたものを用いることもできる。なお、図1に示すハニカム形状に成形した担体の断面におけるガス流路形状は四角形であるが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、排ガス浄化触媒における担体の断面におけるガス流路形状については、三角形や六角形など従来公知の形状のものを適用することができる。
【0027】
また、担体としては、例えば、コーディエライトを主成分とするものが、高い耐熱性が要求される自動車用などの排ガス浄化触媒に好適に用いられるがこれに限定されるものではない。すなわち、アルミナ、スピネル、ムライト、チタン酸アルミニウム、リン酸ジルコニウム、炭化珪素、ゼオライト、ペロブスカイト、シリカアルミナなどのセラミックス材料を用いた担体を適用することもできる。
【0028】
更に、担体としては、例えば、その表面に、多数の開気孔を有する担体を用いることができる。開気孔は、具体的には、セラミック結晶格子中の欠陥(酸素欠陥または格子欠陥)、セラミック表面の微細なクラック、セラミックを構成する元素の欠損のうち、少なくとも1種類からなり、複数種類を組み合わせて形成することもできる。コーディエライトの表面に形成される開気孔は、その直径や幅について特に限定されるものではないが、(1)担体の強度を確保する、(2)断熱部位を確実に形成する、という観点からは、開気孔の直径又は幅が4μm以下で、できるだけ小さい方が好ましい。好ましくは、0.1nm〜100μmである。また、開気孔の深さについても特に限定されるものではないが、上記同様の観点から、開気孔の深さが0.05nm以上であることが好ましい。好ましくは、0.05nm〜4μmである。
【0029】
セラミックス担体の表面に形成される開気孔のうち、結晶格子の欠陥には、酸素欠陥と格子欠陥(金属空格子点と格子歪)がある。酸素欠陥は、結晶格子を構成するための酸素が不足することにより生ずる欠陥である。また、格子欠陥は、セラミック結晶格子を構成するために必要な量以上の酸素を取り込むことにより生じる格子欠陥で、結晶格子の歪みや金属空格子点によって形成される。
これらの開気孔を有する担体を適用すると、触媒が担体に直接担持されてしまう可能性が高まるが、詳しくは後述する構成とすることにより、これを回避することができる。また、後述する構成とすることにより、担体の表面側内部に断熱部位を形成することができるという利点がある。
なお、本発明においては、開気孔を有さない担体を用いることもできる。
【0030】
開気孔を有する担体は、例えば、以下に記載される方法によって形成することができる。
【0031】
結晶格子に酸素欠陥を形成するには、ケイ素(Si)源、アルミニウム(Al)源、マグネシウム(Mg)源を含むコーディエライトの原料を成形、脱脂した後、焼成する工程において、(1)焼成雰囲気を減圧又は還元雰囲気とする、(2)原料の少なくとも一部に酸素を含まない化合物を用い、低酸素濃度雰囲気で焼成することにより、焼成雰囲気又は出発原料中の酸素を不足させるか、(3)酸素以外のセラミックの構成元素の少なくとも1種類について、その一部を該元素より価数の小さな元素で置換する方法が採用できる。コーディエライトの場合、構成元素は、Si(4+)、Al(3+)、Mg(2+)と正の電荷を有するので、これらを価数の小さな元素で置換すると、置換した元素との価数の差と置換量に相当する正の電荷が不足し、結晶格子としての電気的中性を維持するため、負の電荷を有するO(2−)を放出し、酸素欠陥が形成される。
【0032】
また、格子欠陥については、(4)酸素以外のセラミック構成元素の一部を該元素より価数の大きな元素で置換することにより形成できる。コーディエライトの構成元素であるケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)の少なくとも一部を、その元素より価数の大きい元素で置換すると、置換した元素との価数の差と置換量に相当する正の電荷が過剰となり、結晶格子としての電気的中性を維持するため、負の電荷を有するO(2−)を必要量取り込む。取り込まれた酸素が障害となって、コーディエライト結晶格子が整然と並ぶことができなくなり、格子歪が形成される。この場合の焼成雰囲気は、大気雰囲気として、酸素が十分に供給されるようにする。また、電気的中性を維持するために、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)の一部を放出し、空孔が形成される。なお、これら欠陥の大きさは数オングストーム以下と考えられるため、窒素分子を用いたBET法のような通常の比表面積の測定方法では、比表面積として測定できない。
【0033】
[下地層]
下地層4としては、例えば、自動車用排ガス浄化触媒であれば、図1に示すように担体の表面に触媒層が形成し易いように基材を塗布して形成されたものが好適に用いられるがこれに限定されるものではない。
【0034】
また、下地層に含まれる基材としては、例えば、アルミナ、シリカ、ジルコニア、シリカアルミナ、ジルコニアアルミナ、チタニアアルミナ、ジルコニアチタニアアルミナ、マグネシアアルミナ、炭化珪素、ゼオライト、ペロブスカイトなどのセラミックの高比表面積基材を適用することができる。
【0035】
更に、下地層としては、例えば、その表面に、多数の開気孔を有する基材を用いることができる。開気孔は、具体的には、セラミック結晶格子中の欠陥(酸素欠陥または格子欠陥)、セラミック表面の微細なクラック、セラミックを構成する元素の欠損のうち、少なくとも1種類からなり、複数種類を組み合わせて形成することもできる。アルミナの表面に形成される開気孔は、その直径や幅について特に限定されるものではないが、断熱部位を確実に形成するという観点からは、開気孔の直径又は幅が100nm以下で、できるだけ小さい方が好ましい。好ましくは、0.1〜100nmである。また、開気孔の深さについても特に限定されるものではないが、上記同様の観点から、開気孔の深さが0.05nm以上であることが好ましい。好ましくは、0.05〜100nmである。
【0036】
セラミックスの基材の表面に形成される開気孔のうち、結晶格子の欠陥には、酸素欠陥と格子欠陥(金属空格子点と格子歪)がある。酸素欠陥は、結晶格子を構成するための酸素が不足することにより生ずる欠陥である。また、格子欠陥は、セラミック結晶格子を構成するために必要な量以上の酸素を取り込むことにより生じる格子欠陥で、結晶格子の歪みや金属空格子点によって形成される。
これらの開気孔を有する基材を適用すると、触媒成分が担体に直接担持されてしまう可能性が高まるが、詳しくは後述する構成とすることにより、これを回避することができる。また、後述する構成とすることにより、下地層の内部に断熱部位を形成することができるという利点がある。
なお、本発明においては、開気孔を有さない基材を用いることもできる。
【0037】
[触媒層]
触媒層6としては、触媒成分を含有する触媒を含むものであれば特に限定されるものではない。すなわち、触媒としては、例えば、触媒成分と、これを担持する高比表面積基材とを含むものを挙げることができる。
また、本発明において、「触媒成分を含む触媒」とは、触媒成分のみからなる粒子を含む意味に解釈しなければならない。
更に、触媒成分としては、例えば、主触媒成分や助触媒成分がある。
【0038】
主触媒成分である触媒貴金属としては、例えば、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)などが好適に用いられ、その中の少なくとも1種類を必要に応じて使用することができる。また、助触媒成分を更に用いる場合には、助触媒成分の必要量を従来に比べて少なくすることができる。例えば、担体の外表面における助触媒成分の量を少なくすることができる。
助触媒成分としては、目的に応じて種々の成分を用いることができる。例えば、自動車用NOx吸着浄化触媒では、周囲の酸素濃度や温度の変動に応じてNOを吸着、脱離するNOx吸着成分が好適に用いられる。このような作用を有するNOx吸着成分の具体例としては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)等のアルカリ土類金属元素やナトリウム(Na)等のアルカリ金属元素などを挙げることができる。また、例えば、自動車用三元触媒では、周囲の酸素濃度の変動に応じて酸素を吸放出する酸素吸蔵能成分が好適に用いられる。このような作用を有する酸素吸蔵能成分の具体例としては、セリウム(Ce)、イットリウム(Y)、プラセオジム(Pr)、ランタン(La)、ネオジム(Nd)などの希土類元素の酸化物、これらの任意の組み合わせに係る酸化物(固溶体)などを挙げることができる。
なお、主触媒成分として、貴金属以外の金属元素等を用いることができることは言うまでもない。
【0039】
担体の開気孔は、焼成時にバインダ成分や造孔材が燃焼したり原料に含まれる成分が溶けた後に形成されるものである。また、基材の開気孔についても、製造工程や生成条件に起因するものである。
従って、このような触媒や基材の平均粒径を、基材や担体それぞれの開気孔の細孔径より大きくすることで、触媒と担体とが直接接触しない構成とすることができ、触媒成分での触媒反応により生じる熱が担体全体へ熱拡散することをより確実に抑制(遅延化)することができる。そして、触媒成分の早期活性化をより確実に促進することが可能となり、より優れた排ガス浄化性能を発揮し得る排ガス浄化触媒となる。
【0040】
(第1の実施形態)
図4は、本発明の第1の実施形態に係る排ガス浄化触媒の構造を模式的に示す拡大断面図である。なお、図4中の矢印Xはガス流れ方向を示す。また、図4中の担体は、ガス流路に挟まれた担体(セル壁)の厚みの1/2の部分を示しており、担体の表面側内部は、ガス流路に対峙する表面側から深さ1/2までの範囲ということになる。
【0041】
図4に示すように、本実施形態の排ガス浄化触媒1は、担体2と、担体2のガス流路側に形成された、触媒成分(図示せず。)を含有する触媒6aを含む触媒層6と、担体2と触媒層6との間に形成された、基材4aを含む下地層4とを具備する。
そして、本実施形態においては、担体2の表面側内部及び下地層の内部の双方に、空隙(v、v)を含む断熱部位(I、I)を有する。
【0042】
また、本実施形態においては、図4に示すように、下地層4を構成する基材4aとして開気孔を有するものを使用しており、下地層4の内部の断熱部位Iの空隙vが、下地層4を構成する基材4aと開気孔の少なくとも一部が残るように配置された触媒6とで形成されている。
このような構造を形成し得る触媒としては、例えば、下地層や基材が有する開気孔の細孔径より粒径を粗大とした触媒成分自体や、下地層や基材が有する開気孔の細孔径より粒径を粗大にした高比表面積基材に触媒成分を担持したものを挙げることができる。
【0043】
更に、本実施形態においては、図4に示すように、担体2としてガス流路側に開気孔を有するものを使用しており、担体2の表面側内部の断熱部位Iの空隙vが、担体2と開気孔のほぼ全部が残るように配置された基材4aとで形成されている。
このような構造を形成し得る基材としては、例えば、担体が有する開気孔に侵入しないようにアスペクト比が調整された基材を挙げることができる。
具体的には、板状、鱗片状などの形状をした基材であり、短辺の長さ(大きさ)を開気孔の最大細孔径より大きくしたものを挙げることができる。
【0044】
このような構成とすることにより、触媒成分での触媒反応により生じる熱が担体全体へ熱拡散することをより確実に抑制(遅延化)することができる。そして、触媒成分の早期活性化をより確実に促進することが可能となり、より優れた排ガス浄化性能を発揮し得る排ガス浄化触媒となる。
【0045】
(第2の実施形態)
図5は、本発明の第2の実施形態に係る排ガス浄化触媒の構造を模式的に示す拡大断面図である。なお、上記実施形態において説明したものと同等のものについては、それらと同一の符号を付して説明を省略する。
【0046】
図5に示すように、本実施形態の排ガス浄化触媒1は、下地層4を構成する基材4aとして、担体2が有する開気孔を塞ぐことができる粗大なものが適用されているという相違点を有している。つまり、担体2の表面側内部の断熱部位Iの空隙vが、担体2と開気孔の一部が残るように配置された基材4aとで形成されているという相違点を有している。
【0047】
このような構成とすることによっても、触媒成分での触媒反応により生じる熱が担体全体へ熱拡散することをより確実に抑制(遅延化)することができる。そして、触媒成分の早期活性化をより確実に促進することが可能となり、優れた排ガス浄化性能を発揮し得る排ガス浄化触媒となる。
【0048】
(従来の形態)
図6は、従来の形態に係る排ガス浄化触媒の構成を模式的に示す断面図である。なお、上記実施形態において説明したものと同等のものについては、それらと同一の符号を付して説明を省略する。
【0049】
図6に示すように、従来の形態の排ガス浄化触媒1は、下地層を有しておらず、更に担体2の表面側内部に、空隙を含む有意な断熱部位を有していないという相違点を有するものである。
このような構成であるため、触媒成分での触媒反応により生じる熱が担体全体へ熱拡散してしまい、触媒成分の早期活性化を実現することが困難となる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
まず、担体を作製した。コーディエライト原料として、タルク、カオリン、アルミナ、水酸化アルミニウムを使用し、Si源の5%をW、同じくSi源の5%をCoに置換して、コーディエライトの理論組成点付近となるように調製した。次いで、この原料に、バインダ、潤滑剤、保湿剤及び水分を適量添加し、混練して、セル壁100μm、セル密度400cpsi(1平方インチ当たりのセル個数)、直径50mmのハニカム形状に成形した。しかる後、得られたハニカム成形体を、大気雰囲気、1260℃で焼成して、ガス流路側に細孔径4μmの開気孔を有するコーディエライトハニカム構造体よりなるセラミックス担体を得た。
【0052】
次に、セラミックス担体に、コーディエライトより熱伝導率が低い下地層を形成した。基材として、比表面積が200m/gであり、短辺の大きさが5μmの板状のアルミナ粉末を使用した。この粉末に、バインダと、水分とを適量添加し、混合して、下地層スラリを作成した。次いで、担体に下地層スラリを塗布し、余分なスラリを取り除いた後、乾燥させ、大気雰囲気、600℃で焼成して、下地層を形成した。
【0053】
次に、下地層を形成したセラミックス担体に、触媒層を形成した。触媒として白金担持アルミナ(平均粒径:3μm)を使用した。この触媒に、バインダと、水分とを適量添加し、混合して、触媒層(中層)スラリを作成した。次いで、担体に触媒層(中層)スラリを塗布し、余分なスラリを取り除いた後、乾燥させ、大気雰囲気、600℃で焼成して、触媒層(中層)を形成した。更に、触媒として白金・ロジウム担持アルミナ(平均粒径:2μm)を使用した。この触媒に、バインダと、水分とを適量添加し、混合して、触媒層(表層)スラリを作成した。次いで、担体に触媒層(表層)スラリを塗布し、余分なスラリを取り除いた後、乾燥させ、大気雰囲気、600℃で焼成して、触媒層(表層)を形成して、図4に示すような、本例の排ガス浄化触媒を得た。
【0054】
(実施例2)
まず、担体を作製した。コーディエライト原料として、タルク、カオリン、アルミナ、水酸化アルミニウムを使用し、Si源の5%をW、同じくSi源の5%をCoに置換して、コーディエライトの理論組成点付近となるように調製した。次いで、この原料に、バインダ、潤滑剤、保湿剤及び水分を適量添加し、混練して、セル壁100μm、セル密度400cpsi(1平方インチ当たりのセル個数)、直径50mmのハニカム形状に成形した。しかる後、得られたハニカム成形体を、大気雰囲気、1260℃で焼成して、ガス流路側に細孔径4μmの開気孔を有するコーディエライトハニカム構造体よりなるセラミックス担体を得た。
【0055】
次に、セラミックス担体に、コーディエライトより熱伝導率が低い下地層を形成した。基材として、比表面積が200m/gであり、平均粒径が3μmの粒状のアルミナ粉末を使用した。この粉末に、造孔材としての活性炭(平均粒径:2μm)と、バインダと、水分とを適量添加し、混合して、下地層スラリを作成した。次いで、担体に下地層スラリを塗布し、余分なスラリを取り除いた後、乾燥させ、大気雰囲気、600℃で焼成して、下地層を形成した。
なお、本例の下地層の開気孔の細孔径は2μmであった。
【0056】
次に、下地層を形成したセラミックス担体に、触媒層を形成した。触媒として白金担持アルミナ(平均粒径:3μm)を使用した。この触媒に、バインダと、水分とを適量添加し、混合して、触媒層(中層)スラリを作成した。次いで、担体に触媒層(中層)スラリを塗布し、余分なスラリを取り除いた後、乾燥させ、大気雰囲気、600℃で焼成して、触媒層(中層)を形成した。更に、触媒として白金・ロジウム担持アルミナ(平均粒径:3μm)を使用した。この触媒に、バインダと、水分とを適量添加し、混合して、触媒層(表層)スラリを作成した。次いで、担体に触媒層(表層)スラリを塗布し、余分なスラリを取り除いた後、乾燥させ、大気雰囲気、600℃で焼成して、触媒層(表層)を形成して、図5に示すような、本例の排ガス浄化触媒を得た。
【0057】
(実施例3)
まず、担体を作製した。コーディエライト原料として、タルク、カオリン、アルミナ、水酸化アルミニウムを使用し、Si源の5%をW、同じくSi源の5%をCoに置換して、コーディエライトの理論組成点付近となるように調製した。次いで、この原料に、バインダ、潤滑剤、保湿剤及び水分を適量添加し、混練して、セル壁100μm、セル密度400cpsi(1平方インチ当たりのセル個数)、直径50mmのハニカム形状に成形した。しかる後、得られたハニカム成形体を、大気雰囲気、1260℃で焼成して、コーディエライトハニカム構造体よりなるセラミックス担体を得た。
【0058】
次に、セラミックス担体に、コーディエライトより熱伝導率が低い下地層を形成した。基材として、比表面積が200m/gであり、平均粒径が5μmの粒状のアルミナ粉末を使用した。この粉末に、バインダと、水分とを適量添加し、混合して、下地層スラリを作成した。次いで、担体に下地層スラリを塗布し、余分なスラリを取り除いた後、乾燥させ、大気雰囲気、600℃で焼成して、下地層を形成した。
なお、本例の下地層の開気孔の細孔径は2μmであった。
【0059】
次に、下地層を形成したセラミックス担体に、触媒層を形成した。触媒として白金担持アルミナ(平均粒径:3μm)を使用した。この触媒に、バインダと、水分とを適量添加し、混合して、触媒層(中層)スラリを作成した。次いで、担体に触媒層(中層)スラリを塗布し、余分なスラリを取り除いた後、乾燥させ、大気雰囲気、600℃で焼成して、触媒層(中層)を形成した。更に、触媒として白金・ロジウム担持アルミナ(平均粒径:3μm)を使用した。この触媒に、バインダと、水分とを適量添加し、混合して、触媒層(表層)スラリを作成した。次いで、担体に触媒層(表層)スラリを塗布し、余分なスラリを取り除いた後、乾燥させ、大気雰囲気、600℃で焼成して、触媒層(表層)を形成して、本例の排ガス浄化触媒を得た。
【0060】
(比較例1)
実施例1で得たセラミックス担体に、触媒層を形成した。触媒として白金及びロジウムを使用した。具体的には、上記実施例と同濃度となるように、塩化白金酸のエタノール溶液に浸漬し、余分な溶液を取り除いた後、乾燥させ、大気雰囲気、600℃で焼き付けて金属化させ、次いで、塩化白金酸及び塩化ロジウムのエタノ−ル溶液に浸漬し、余分な溶液を取り除いた後、乾燥させ、大気雰囲気、600℃で焼き付けて金属化させて、図6に示すような、本例の排ガス浄化触媒を得た。
【0061】
[性能評価]
上記各例の排ガス浄化触媒について、下記条件下、各触媒入口ガス温度におけるNOx転化率を測定した。得られた結果のうち実施例1及び比較例1の結果を図7に示す。また、実施例1及び比較例1の排ガス浄化触媒の断面の走査型電子顕微鏡写真(倍率:200倍)(a)及び走査型電子顕微鏡写真(倍率:2000倍)(b)を図8及び図9に示す。
【0062】
(評価条件)
・触媒容量:150g/L
・流速 :GHSV=70000hr−1
・触媒温度:300〜450℃
・ガス組成:ガソリン排ガス組成(=理論空燃比燃焼時排ガス組成)
【0063】
図7より、本発明の範囲に属する実施例1は、断熱部位として機能する空隙(空気溜まり)を下地層や担体の表面側内部に有するため、特に担体の表面側内部に大きな空気溜まりからなる断熱部位を有するため、断熱部位を有さない本発明外の比較例1と比較して、早期活性化が促進されていることが分かる。
これは、図8及び図9の走査型電子顕微鏡写真の観察結果からも明らかである。
また、下地層の熱伝導率を担体の構成成分の熱伝導率より小さくしたためとも考えられる(これは実施例2や実施例3についても同様です。)。
なお、図示しないが、実施例2及び実施例3は、実施例1よりは早期活性化が促進され難いが、比較例1よりは明らかに早期活性化が促進されていることが分かった。これは、実施例2が、断熱部位として機能する空隙(空気溜まり)を下地層や担体の表面側内部に有する一方、実施例3が、断熱部位として機能する空隙(空気溜まり)を担体の表面側内部に有さないためと考えられる。
【0064】
以上、本発明を若干の実施形態及び実施例によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【0065】
例えば、上述した各実施形態及び各実施例に記載した構成は、各実施形態毎に限定されるものではなく、例えば空隙やそれを構成する開気孔や基材、触媒の細部を変更したり、各実施形態の構成を上述した各実施形態以外の組み合わせにしたりすることができる。
【符号の説明】
【0066】
1 排ガス浄化触媒
2 担体
2a ガス流路
4 下地層
4a 基材
6 触媒層
6a 触媒
,I 断熱部位
,V 空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス流路を備える担体と、
上記担体のガス流路側に形成された、触媒成分を含有する触媒を含む触媒層と、
上記担体と上記触媒層との間に形成された、基材を含む下地層と
を具備し、
上記担体の表面側内部及び上記下地層の内部の少なくとも一方に、空隙を含む断熱部位を有する
ことを特徴とする排ガス浄化触媒。
【請求項2】
上記下地層が、ガス流路側に開気孔を有しており、
上記下地層内部の断熱部位の空隙が、上記下地層と上記開気孔の少なくとも一部が残るように配置された触媒とで形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項3】
上記担体が、ガス流路側に開気孔を有しており、
上記担体の表面側内部の断熱部位の空隙が、上記担体と上記開気孔の少なくとも一部が残るように配置された基材とで形成されている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項4】
上記下地層の熱伝導率と上記担体の構成成分の熱伝導率との関係が、下記式(1)の関係を満足することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の排ガス浄化触媒。
λPC≦λCC…(1)
(式(1)中、λPCは下地層の熱伝導率、λCCは担体の構成成分の熱伝導率を示す。)
【請求項5】
上記担体の表面側内部の断熱部位の空隙が、上記担体と上記開気孔のほぼ全部が残るように配置された基材とで形成されていることを特徴とする請求項3又は4に記載の排ガス浄化触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−81883(P2013−81883A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222442(P2011−222442)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】