説明

排ガス測定装置および排ガス測定方法

【課題】 排ガス中に含まれるダスト成分、酸性ミストなどの影響を受けずに、高温溶融炉等であっても長期安定性の高い連続測定が可能な排ガス測定装置および排ガス測定方法を提供すること。
【解決手段】 排ガスを導入する試料導入部(試料採取部1と加熱導管2を含む)と、排ガス中のダスト成分が凝集される冷却部(ウェットフィルタWF1を含む)と、ダスト成分を捕集する高分子素材からなるフィルタエレメントが充填されたフィルタカラム3と、フィルタカラム3の下流に設けられ、排ガス中の酸性ミストを除去する吸着剤が充填されたミストスクラバ5と、これらによって清浄処理された処理ガスを導入し、排ガス中の特定成分を測定する分析計7と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライアッシュなどのダスト成分を含む排ガス測定装置および排ガス測定方法に関し、例えば、ディーゼル発電ボイラやガラス溶融炉などのダスト成分や酸性ミスト,ハロゲン成分などを含む排ガスを対象とする排ガス測定装置および排ガス測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発生源用測定装置や環境大気用測定装置あるいは自動車排ガス測定装置などの大気汚染測定装置においては、図8に示すように、試料採取点から分析計までの間に試料流体中の除湿や除塵あるいは定流量化などを目的として、フィルタ、切換弁、導管、除湿器、吸引ポンプ、絞り弁、流量計などが設けられるとともに、各部材を配管で接続し試料流路を形成している(例えば非特許文献1参照)。
【0003】
また、図9に示すように、排ガス中のばいじんなどの固体成分と硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)などの気体成分を同時に採取することで、ばい煙濃度の測定時間を短縮できる排ガスサンプリング装置101が提案されている。気体成分測定用サンプリングプローブ102と、ばいじん測定用サンプリングプローブ103とが、これらを挿通可能な開口を有する栓体104によって互いに近接して並列されてなり、サンプリングプローブ102,103の少なくとも一方は、煙道内への挿入長さを調整可能である。気体成分測定用サンプリングプローブ102にはろ過器(不図示)を、またばいじん測定用サンプリングプローブ103にはダスト捕集器131を内蔵させ、または連結できることを特徴とする(例えば特許公報1参照)。
【0004】
【非特許文献1】日本工業規格「JIS B7982−2002」
【特許文献1】特開2006−226866号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従前の測定装置においては、いくつかの課題があった。つまり、ガラス溶融炉やディーゼル発電ボイラあるいは金属精錬焼却炉、ごみ焼却炉、鉄鋼溶融炉(以下「高温溶融炉等」ということがある)などの排ガスには、SOミストなどの腐食性物質である酸ミストを含んでいる。従って、上記の測定装置を用いて、こうした排ガスの測定を行った場合には、試料処理部に無機の多孔質物質や不揮発性酸を含浸した粒状活性炭を充填したカラムを用いて酸性ミストの除去を図ってきたが、長期安定性に欠けており、その原因は明らかにされていなかった。
【0006】
そこで、この発明の目的は、こうした課題に対応し、排ガス中に含まれるダスト成分や酸性ミストの影響を受けずに、高温溶融炉等であっても長期安定性の高い連続測定が可能な排ガス測定装置および排ガス測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、以下に示す排ガス測定装置および排ガス測定方法によって、次の事項を見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、高温溶融炉等の排ガス中には、2μm以下のいわゆる微細ダストまたはフライアッシュなどのダスト成分が含まれ、通常使用される試料採取点の設けられる1次フィルタでは除去されず、試料処理部に持ち込まれる。このとき、こうしたダスト成分は、酸性ミストと結合して流路の汚染や腐蝕などの原因となるとともに、上記ミスト除去用カラムにおける除去能力の低下を招く。つまり、本発明の検証過程において、こうした排ガス中に含まれるダスト成分や酸性ミストは、複合的に作用して排ガス測定装置の試料処理に対して大きな影響を与えることを見出した。
【0009】
この新規な知見に基づいた本発明は、フライアッシュなどのダスト成分とSOミストなどの酸性ミストを含む排ガスを測定対象試料とし、該排ガスを導入する試料導入部と、ダスト成分が凝集される冷却部と、該冷却部で凝集されるダスト成分を捕集するダスト捕集部と、該ダスト捕集部の下流に設けられ、前記排ガス中の酸性ミストを除去する吸着剤が充填されたミスト捕集部と、これらによって清浄処理された処理ガスを導入し、排ガス中の特定成分を測定する分析計と、を有することを特徴とする。
【0010】
つまり、ガラス溶融炉などからの排ガスのように、さらに微細ダストやフライアッシュなどのようなダスト成分が含まれる場合には、試料処理部に冷却部を設けることにより、ガス状の水分を液体状にして、これとダスト成分を凝集させることによってダスト捕集部(フィルタ)で捕集することができるとともに、冷却部で凝集した水分がフィルタ表面に付着し、フィルタ表面が加湿状態になることで、別途精密フィルタ等を設けることなく微細ダストなどの微粒子物質(例えば2μm以下)を捕集することができることを見出した。また、排ガス中に含まれるダスト成分と酸性ミストは、複合的に流路の汚染のみならず、当該カラムの汚染による酸性ミスト除去能力の低下を招くことが判った。本発明は、こうしたダスト成分を如何に効果的に除去することができるかを検証した結果、試料導入部からの水分を含んだ状態の排ガスを、高分子素材からなるフィルタエレメントが充填されたダスト捕集部を通過させることによって、排ガス中のダスト成分を非常に収率高く捕集することができることが判った。つまり、従前多用されてきたガラスウールやセラミックスなどからなる無機系フィルタでは、1μm以下の微細ダストを完全に捕集することは難しく、後述するように、ポリエステルやポリプロピレンなどの高分子素材からなる繊維状体あるいは不織布などフィルタ表面が加湿状態を保持できる素材表面を有するエレメントが、その捕集能力が高いことを見出した。これによって、ダスト成分の除去のみならず、その後段に配設される酸性ミスト除去手段の劣化を防止することが可能となった。
【0011】
また、酸性ミスト除去手段としては、こうしたダスト成分を十分に除去した状態においては、従前のパーライトなどの無機系の吸着剤を主成分として充填されたカラムで十分機能するが、高濃度の酸性ミストを含む排ガスを対象とする本発明においては、さらに不揮発性酸含浸処理された吸着剤、例えばリン酸を含浸させた粒子状活性炭などを使用することによって、酸性ミストの除去をより効率的かつ長期の使用を可能とすることができる。従って、排ガス中に含まれるダスト成分や酸性ミストなどの影響を受けずに、長期安定性の高い連続測定が可能な排ガス測定装置を提供することが可能となった。なお、不揮発性酸含浸処理によって、吸着剤の安定性を確保するとともに、排ガス中の測定成分であるSOやNOxなどの吸着による損失を防止し、合せて加熱条件下での活性炭などの燃焼による損失を防止することができる。
【0012】
ここで「ダスト成分」とは、高温条件化で気化した状態を含む金属酸化物や金属塩類などのダストとなりうるダスト起因成分や、2μm以下の微細ダストや燃焼灰分などを主成分としサブミクロンのフライアッシュなどあるいはこれらの混合体を含む成分をいう。また「酸性ミスト」とは、ガス状のSOや霧状のSOミストあるいは硝酸ミストあるいは水分や上記ダスト成分との結合体やこれらの混合体を含む成分をいう。さらに「冷却部」とは、試料ガスの冷却機能を有しダスト成分が凝集されるものであれば、後述するウェットフィルタ等の個別の部材に限定されるものではない。例えば、これらの機能を有する試料導入部の一部やダスト捕集部をも含む広い概念とする。
【0013】
また、上記排ガス測定装置において、ダスト成分の透過状態のモニタとして機能する前記ダスト捕集部と、前記ミスト捕集部の下流に吸着剤が充填されたミストモニタを有することが好ましい。
【0014】
つまり、長期の連続運転が多い排ガス測定装置においては、ダスト成分や酸性ミストに対する試料処理部の汚染等の状況をモニタすることが好ましい。ここで、ガラス溶融炉などからの排ガス中には、有色のダスト成分が多く含まれることから、本発明では、こうしたダスト捕集部の着色状態を、その汚染状況のモニタとして利用することとした。ダスト捕集部が有するダスト捕集機能とダストモニタとしての機能を利用するもので、具体的には、例えばダスト成分除去手段を直列に配設し、上流の着色状態をモニタすると同時に、下流の着色開始時を目処にカラム交換を行うことによって、さらに下流側への影響を与えずに、その機能の万全を図ることが可能となる。また、ダスト成分自体が有色でない場合であっても、これに含まれる特定成分との反応によって変色する成分をダスト捕集部に充填あるいは表面処理することによって、同様にダストモニタとしての機能を確保することができる。さらに、無色のダストについては、現場においてダスト捕集部に捕集されたダストに水滴や酸性ミストなどが付着し、異物の発生が確認され、こうした異物の発生状態を監視することによって、ダストモニタとしての機能を確保することができる。また、酸性ミストについては、従前のパーライトなどの無機系の吸着剤に吸着した酸性ミストは、徐々に共存する水分と結合して水滴状となり、吸着剤の表面あるいはこれを充填するカラムの内表面に付着することが知られている。本発明は、こうしたカラム内の水滴状体の付着状態を、ミスト捕集部の汚染状況のモニタとして利用することとしたもので、モニタの役割と同時に、ミストモニタ自体の酸性ミストの除去能力によって、さらに下流側への影響を与えずに、その機能の万全を図ることが可能となる。
【0015】
本発明は、上記排ガス測定装置であって、前記排ガス中に、フッ化水素などのハロゲンあるいはハロゲン化合物を含む場合にあっては、前記ミスト捕集部またはミストモニタの下流に、該ハロゲンあるいはハロゲン化合物を除去する金属素材からなり、不揮発性酸による表面処理されたエレメントが充填されたハロゲン捕集部と、該ハロゲン捕集部の下流に着色材料を含有している多孔質材からなるエレメントが充填されたハロゲンモニタを配設することを特徴とする。
【0016】
上記のように、ガラス溶融炉などの排ガスには、ダスト成分、酸性ミストに加えハロゲン成分が含まれることがあり、これらは、腐蝕性の強い成分であるとともに、ダスト成分中の金属酸化物との反応や酸性ミストから形成される水滴状体への溶解などによって、複合した悪影響を及ぼす可能性がある。また、ハロゲン成分は、フッ素や塩素などのハロゲンとフッ化水素や塩化水素などのハロゲン化合物によって、その特性が異なることから、これらを同様に処理する必要がある。本発明は、銅やスズなどの金属素材とハロゲンの反応性の高さを利用して、これをハロゲン捕集部として用いたもので、ハロゲン成分全体として効率的かつ選択的に除去処理を行うことができる。また、不揮発性酸含浸処理によって、排ガス中の測定成分であるSOやNOxなどの損失を防止することができる。さらに、ハロゲン捕集部の下流に、ハロゲンとの反応により有色の化合物を生成する銀塩の含浸処理された多孔質材を配設することによって、ハロゲン捕集部の汚染状況のモニタとして利用すると同時に、ハロゲンモニタ自体のハロゲン成分の除去能力によって、さらに下流側への影響を与えずに、その機能の万全を図ることが可能となる。
【0017】
また、本発明は、上記排ガス測定装置であって、前記排ガス中に、フッ化水素などのハロゲンあるいはハロゲン化合物を含む場合にあっては、前記ミスト捕集部の上流に、該ハロゲンあるいはハロゲン化合物を除去するハロゲン捕集部を有することを特徴とする。
【0018】
排ガス中にフッ化水素などのハロゲンあるいはハロゲン化合物を多く含む場合、ミスト捕集部に導入される試料ガス中に微細なダスト成分(特に金属化合物等)が存在すると、金属ハロゲン化物などの生成や成長によって、ミスト捕集部の捕集能力を低下させる要因となることがある。従って、排ガスの組成によっては、ミスト捕集部の上流にハロゲン捕集部を配設することが好ましい。また後述するように、本発明に係るハロゲン捕集部は、ミスト成分を除去する機能を有していることから、ハロゲン捕集部をミスト捕集部の上流に設けることによって、ハロゲン捕集部でハロゲン成分とミスト成分を同時に除去することが可能となる。これによって下流に設けたミスト捕集部の負荷を軽減することができることから、特に高ミスト排ガスを対象とする場合には、ミスト捕集部の寿命を長くしシステム全体の長期安定性に大きく貢献し好適である。また、ハロゲン捕集部とハロゲンモニタは一体として機能させることが好ましい。本発明は、こうした排ガス組成など排ガス測定装置の使用条件に応じた適切な試料処理を行うことによって、長期安定性の高い連続測定が可能となる。
【0019】
本発明は、フライアッシュなどのダスト成分とSOミストなどの酸性ミスト、またはこれらとフッ化水素などのハロゲンもしくはハロゲン化合物を含む排ガスを測定対象試料とし、採取された前記排ガスに対し、1次処理として、前記ダスト成分を水分共存下においてダスト捕集部によって捕集し、2次処理として、前記酸性ミストをミスト捕集部によって除去し、ハロゲンまたはハロゲン化合物を含む排ガスにあっては、3次処理として、該ハロゲンまたはハロゲン化合物をハロゲン捕集部によって除去するとともに、これら1〜2次あるいは1〜3次処理された処理ガス中の特定成分を測定することを特徴とする。
【0020】
ダスト成分や酸性ミストあるいはこれらに加えてハロゲン成分を含む排ガス中の特定成分の測定においては、これらの成分を効率よくかつ特定成分のロスなく選択的に除去し清浄化されたガスを分析計に導入することが求められる。このとき、各成分は、上記のように、個々に影響するだけではなく複合的な影響を及ぼすことがあり、その除去方法には、こうした複合的な機能が生じないような配慮が必要となる。本発明は、各成分の内、まず種々の化学反応や物理的現象の核となるダスト成分の除去を図ることによって、後段での処理を容易にし(1次処理)、次に酸性ミストを主たる処理対象とするとともに、ハロゲン成分に対しても処理効果のあるミスト捕集部を用いることによって(2次処理)、長期安定性の高い連続測定が可能な排ガス測定方法を提供することが可能となった。さらに排ガス中にハロゲン成分が含まれる場合には、効率的かつ選択的なハロゲン捕集部を用いて処理することによって(3次処理)、広い範囲の長期安定性の高い連続測定が可能な排ガス測定方法を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
本発明に係る排ガス測定装置(以下「本装置」という)は、ダスト成分と酸性ミストを含む排ガスを測定対象試料とし、(1)試料導入部と、(2)ダストが凝集される冷却部と、(3)ダスト成分を捕集するダスト捕集部と、(4)ダスト捕集部の汚染状況をモニタするダストモニタと、(5)酸性ミストを除去するミスト捕集部と、(6)ミスト捕集部の汚染状況をモニタするミストモニタと、(9)特定成分を測定する分析計と、を有し、排ガス中にハロゲン成分が含まれる場合には、(7)ハロゲン成分を除去するハロゲン捕集部と、(8)ハロゲン捕集部の汚染状況をモニタするハロゲンモニタを有することを特徴とする。
【0022】
<本発明に係る排ガス測定装置の基本的な構成>
本装置の基本的な構成を、図1に例示する(第1構成例)。排ガスが流通するダクト(図示せず)に設けられた試料採取部1において採取された試料ガス(排ガス)が、その直後に設けられた加熱導管2(試料採取部1を含め、試料導入部に相当する)を経由して、ウェットフィルタWF1(以降の配管部を含め、冷却部に相当する)に導入される。ここでダスト成分が凝集され、凝集されたダスト成分を含む試料ガスは、フィルタカラム3(ダスト捕集部に相当する。後述のダストモニタ4を含めてダスト捕集部とする場合がある)に導入される。ウェットフィルタWF1で分離されたドレンは、ドレンポットDP1を介して外部に排出される。ダスト成分が捕集された試料ガスは、ダストモニタ4を介してドレンセパレータDS1に導入される。ドレンセパレータDS1で分離されたドレンは、ドレンポットDP2を介して外部に排出される。一方、ドレンが分離された試料ガスは、精密フィルタFmを介してミストスクラバ5(ミスト捕集部に相当する)に導入され、酸性ミストが除去される。精密フィルタFmでは、排ガス中または冷却処理・ドレンの発生に伴い発生する例えば1μm以下のダスト成分が除去される。ミストスクラバ5で酸性ミストが除去された試料ガスは、ミストモニタ6を介してドレンセパレータDS2に導入される。ドレンセパレータDS2では、新たに発生したドレンを分離するとともに、ドレンが分離された試料ガスは、その一部をバイパス流路Lbから排出しながら、調整弁NVs、吸引ポンプPs、切換弁SVo、電子冷却器Cおよび2次フィルタFsを介して分析計7に導入される。ドレンセパレータDS2で分離されたドレンは、ドレンポットDP3を介して外部に排出され、電子冷却器Cで発生したドレンは、ドレンポットDP4を介して外部に排出される。また、バイパスガスは、流量計FMbおよび吸引ポンプPbを介して排出される。
【0023】
さらに、本装置においては、切換弁SVoの一方に、開閉弁SVzおよびSVsを介して校正ガスが充填された高圧容器(ゼロガス容器Gzおよびスパンガス容器Gs)が接続され、切換弁SVoおよび開閉弁SVzを開状態にして分析計のゼロ校正、切換弁SVoおよび開閉弁SVsを開状態にして分析計のスパン校正を行うことができる。
【0024】
ここで、本装置が測定対象試料とする排ガスは、例えばガラス溶融炉やディーゼル発電ボイラあるいは金属精錬焼却炉などからの排ガスが対象とし、主としてダスト成分や酸性ミストあるいはこれに加え、ハロゲン成分の処理が必要となる。ダスト成分には、高温条件化で気化した状態を含む金属酸化物や金属塩類などのダストとなりうるダスト起因成分や、例えば2μm以下の微細ダストや燃焼灰分などを主成分としサブミクロンのフライアッシュなどあるいはこれらの混合体が含まれる。酸性ミストには、ガス状のSOや霧状のSOミストあるいは硝酸ミストあるいは水分や上記ダスト成分との結合体やこれらの混合体が含まれる。また有害物質の1つとして、フッ素(F)や塩素(Cl)などのハロゲンとフッ化水素(HF)や塩化水素(HCl)などのハロゲン化合物あるいは上記ダスト成分との結合体やこれらの混合物である「ハロゲン成分」が含まれることがある。
【0025】
試料採取部1は、試料採取管1aおよび1次フィルタ1bからなり、ダクトに挿入された試料採取管1aから試料ガスを吸引採取し、1次フィルタ1bによって除塵する。ただし、排ガスが電気集塵機(EP)によって十分に除塵された状態で採取することができる場合には、1次フィルタ1bを省略することができる。吸着や溶解による損失あるいは応答遅れなどの影響を受けやすい低濃度のSOを測定する場合において有効である。また上記のように、ダクト内は、約300〜400℃程度の高温状態であることから、多くの場合、試料ガスをそのまま採取することによって、試料採取部1の温度は200℃以上の高温を維持することができる。この場合、試料採取部1に別途加熱手段を設ける必要がないが、冬季や寒冷地などの補完として加熱手段を設けることが好ましい。除塵された試料ガスは、加熱導管2を経由してウェットフィルタWF1に導入される。加熱導管2では、試料ガス中の水分が凝縮しない程度に加熱される(約100〜120℃程度)。
【0026】
また、本装置においては、ダスト成分に対して、1次フィルタ1b、フィルタカラム3(ダストモニタ4を含む)、精密フィルタFmという3つの段階に分けて処理することによって、効率よくダスト成分の処理を行うとともに、従前不明であったミスト成分やハロゲン成分の除去における阻害要因を低減することが可能となった。なお、各ユニットの形態や数量については、試料ガスの性状によって随時に設定することが可能である。
【0027】
具体的には、1次フィルタ1bとして、加熱状態(150〜200℃)において大きな粒子のダスト(例えば2μm以上)を捕集するフィルタを用い、フィルタカラム3として、低温状態(例えば常温)において微細ダスト(例えば2μm以下)を捕集するフィルタを用い(詳細は後述する)、精密フィルタFmとして、低温状態(例えば常温)において1次フィルタ1bやフィルタカラム3で捕集しきれなかった微細ダスト(例えば1μm以下)を捕集するフィルタを用いることによって、各フィルタの機能に応じた負荷とすることができる。また、フィルタカラム3をウェットフィルタWF1の下流に配置することによって、凝集したダスト成分を効果的に捕集し、フィルタ表面を加湿状態となる条件で使用することによって、1次フィルタ1bを通過した微細ダスト(例えば2μm以下)や大量のフライアッシュを効果的に捕集することができ、下流に配置された精密フィルタFmまでこれらのダスト成分が流入し閉塞することを防止し、その負荷を軽減することができる。ここで、ダストについては、その粒径(平均粒径あるいは最大粒径等)を処理対象の目安として区分し、例えば2μm以下のダストを微細ダスト(例えば2μm以下)といい、さらに細分を必要とする場合には、「微細ダスト(例えば1μm以下)」や「例えば0.1μm以下の微細ダスト」あるいは「例えば0.01μm以上の微細ダスト」ということがある。
【0028】
分析計7は、排ガス中の測定対象成分に応じて選択される。一般に排出基準等によって定められたNOx、SO、一酸化炭素(CO)および酸素(O)などが対象となり、NOx、SOおよびCOについては、赤外線式分析計や紫外線式分析計などが用いられ、Oについては、磁気式酸素計などが用いられる。
【0029】
〔冷却部〕
本装置は、ダスト成分が凝集される冷却部と凝集されたダスト成分が凝集されるダスト捕集部を有することを特徴とし、図1に例示する構成では、フィルタカラム3の上流にウェットフィルタWF1あるいはこれと常温状態で接続される配管部2aおよび2bが設けられている。ただし、フィルタカラム3やこれに加えてダストモニタ4の内部においてもダスト成分が凝集される冷却機能を有することから、本装置における冷却部には、こうしたダスト捕集部をも含まれる。試料ガス中のガス状の水分を液体状にし、これを介在して微細ダスト同士を凝集させ、捕集が容易な大きさのダストにすることによって、その下流に設けたフィルタカラム3などのフィルタによって効率よく捕集することができる。また、高温状態(例えば1200℃以上)で気化された金属酸化物や金属塩類などの微細なダスト成分を含む排ガスを、低温(例えば常温を含む)に冷却することによって、結晶化、凝集させることにより発生する固体化された微細ダストを捕集することが可能となった。
【0030】
ウェットフィルタWFは、例えば、図2に示すような構造を有し、冷却機能および気液分離機能を担うとともに、フィルタエレメントWeを設けた場合には、さらにダスト捕集機能を担うことができる。導入口Wiから空間部Wsに導入され、ここで冷却されるとともに、配管部2aおよび空間部Wsで発生したドレンが気液分離される。ドレンは、排水口Wdから(ドレンポットDPを介して)排出され、ドレン分離された試料ガスが供出部Woから下流のフィルタカラム3等に給送される。このとき、フィルタエレメントWeを設けた場合には、配管部2aおよび空間部Wsの冷却によって凝集し新たに発生したダスト成分を除去することができる。また、フィルタエレメントWeとしては、後述するフィルタカラム3に充填されるフィルタエレメント3aと同様、高分子素材の繊維状体あるいは不織布などからなることが好ましい。
【0031】
なお、図1では、配管部2a、ウェットフィルタWF1および配管部2bからなる冷却部と、その下流にフィルタ捕集部であるフィルタカラム3を設けた構成を示したが、さらにフィルタカラム3の下流に冷却部を設けることが好ましい場合がある。排ガス中の水分量が多い場合などでは、加熱導管2での閉塞を防止するために配管温度を高くする場合があり、また夏季の高温時のように冷却効率が悪い場合に適用することが好適である。具体的には、図3(A)に例示するように、フィルタカラム3の下流にウェットフィルタWF2を設けた構成や、図3(A)に例示するように、フィルタカラム3とダストモニタ4の下流にウェットフィルタWF2を設けた構成を挙げることができる。冷却機能を担うとともに、フィルタカラム3やダストモニタ4で発生した凝縮水や凝集ダストに対する気液分離機能およびダスト捕集機能を担い、フィルタカラム3やダストモニタ4を適度な加湿状態に維持することができる。
【0032】
〔フィルタカラム〕
フィルタカラム3は、内部に高分子素材からなるフィルタエレメントが充填されたユニットで、具体的には、図4に例示するように、繊維状体あるいは不織布などからなるフィルタエレメント3aを複数段の重ね合わせた構成が好ましい。フィルタエレメント3a内部において、非直線的なガスの流れを形成し、フィルタエレメント3a表面との接触時間を大きくすることができることから、例えば0.1μm以下の微細ダストやフライアッシュに対しても、高い捕集能力を確保することができる。ここで、不織布などからなるメッシュ状のフィルタエレメントにおいては、所定の粒径、例えば0.1μm以上のダスト成分を捕集することができることが好ましい。試料ガスがフィルタエレメントの内部を通過する距離が短く、加湿状態でのダストの捕集能力は大きくないことから、捕集できる粒径を小さくすることが好ましい。一方、繊維状体のフィルタエレメントにおいては、所定の捕集率、例えばJIS−Z8901にいう捕集率50%以上が好ましい。このとき、ポリエステル素材のフィルタエレメントで捕集できるダスト成分の粒径の範囲も幅広く、例えば粒径分布が0〜5μm:39%、5〜10μm:18%、10〜20μm:16%、20μm以上:27%となり、上記のような非直線的なガスの流れを形成し、フィルタエレメント3a表面との接触時間を大きくすることができることから、加湿状態でのダストの捕集能力は大きい。また、これら繊維状体のフィルタエレメントと不織布からなるフィルタエレメントを混在させることによって、両方のよい特性を確保することも可能である。さらに、これによって、従前の課題であった、後段での酸性ミストの除去処理に対するダスト成分の影響を、大きく低減・解消して、ミストスクラバ5の寿命を長くし、システム全体の長期安定性を確保することが可能となった。
【0033】
フィルタカラム3は、試料流量1〜10L/minの場合において、例えば直径10〜50mmより好ましくは30〜50mm程度、長さ10〜150cmより好ましくは15〜25cm程度、容積10〜8000cmより好ましくは100〜500cmの形状を有することが好ましい。保守の容易性および1〜数ヶ月の使用に十分な容量を確保することができる。ここで、後述するように、フィルタカラム3を2本直列状に設けることによって、順次1本ずつ交換することができ保守性の向上を図ることができるとともに、後段のフィルタカラム3をダストモニタ4としての機能を利用することができる。つまり、フィルタカラム3とダストモニタ4は、一体として、ダスト成分の捕集機能と捕集能力のモニタ機能を有し、その互換性によって高い保守性を確保することができる。
【0034】
フィルタカラム3に充填されたフィルタエレメント3aは、素材をポリエステルやポリプロピレンなどの高分子素材とすることが好ましい。後述する実証結果のように、ダスト成分と高分子素材との吸着特性が高く、特に水分共存下においてフィルタエレメント3aの表面が加湿状態を保持できることによって、さらに高い捕集能力を確保することができると推察できる。また、繊維状あるいは不織布に形成することにより表面積を大きくし、捕集能力の向上を図ることができる。さらに、フィルタエレメント3aの下流端あるいは両端を、フィルタエレメント3aと同素材の精密フィルタ3bによって保持することが好ましい。例えば0.01μm以上の微細ダストやフライアッシュを捕集して後段でのダスト成分の影響を排除することができる。フィルタカラム3の容器3cは、その成形性のよさや堅牢性の高さおよび透明性から、ポリプロピレンが好ましい。また、フィルタエレメント3aと試料ガスの接触時間あるいは接触面積を多く確保することによって、多少加湿状態を保持する能力が低い素材であっても、例えば長いフィルタカラム3にフィルタエレメント3aを充填することやフィルタカラム3を複数直列に配設することによって、捕集能力の向上を図ることができる。
【0035】
〔ダストモニタ〕
ダストモニタ4は、フィルタカラム3と同一のカラムをその下流に用いることが好ましい。つまり、ガラス溶融炉などからの排ガス中のダスト成分には、種々の金属酸化物や金属ハロゲン化物などが含まれ、これらのいくつかは有色の化合物であることから、フィルタカラム3を透過したダスト成分によって着色し目視できることを課題として検討した。その結果、フィルタカラム3におけるフィルタエレメント3aあるいは精密フィルタ3bや容器3cの着色状況によってフィルタカラム3の汚染状況が判るとともに、これを透過したダスト成分を捕集したダクトモニタ4の上流側での着色状況によってフィルタカラム3の交換時期を確認できることが判った。また、ダストモニタ4の容器表面でのダスト成分の付着状況からもフィルタカラム3の劣化状況を把握することができる。さらに、ダスト成分自体が有色の化合物を含まない場合であっても、これに含まれる特定成分との反応によって変色する成分をダスト捕集部に充填あるいは表面処理することによって、同様にダストモニタとしての機能を確保することができる。また、無色のダストについては、現場においてダスト捕集部に捕集されたダストに水滴や酸性ミストなどが付着し、異物の発生が確認され、こうした異物の発生状態を監視することによって、ダストモニタとしての機能を確保することができる。
【0036】
また、ダストモニタ4自体がダスト成分の除去機能を有することから、その着色開始時をメドにフィルタカラム3の交換を行うことによって、さらに下流側への影響を与えずに、その機能の万全を図ることが可能となる。さらに、フィルタカラム3との同一性から、ダストモニタ4を上流側に移行してフィルタカラム3として使用し、その下流に新たなダストモニタ4を配設することによって、各部品を有効に活用することができる。
【0037】
〔ミストスクラバ〕
ミストスクラバ5は、不揮発性酸含浸処理された吸着剤からなるエレメントが充填されたユニットが好ましい。粒子状活性炭などの、吸着能力が大きく、また、吸着表面積が大きな吸着剤を用いることによって、高濃度の酸性ミストを効率よく吸蔵する能力を確保することができる。吸着剤としては、活性炭以外に活性ゼオライトなどの多孔質体を用いることができる。また、不揮発性酸含浸処理によって、吸着能力を損なうことなく吸着剤の安定性を確保するとともに、排ガス中の測定成分であるSOやNOxなどの吸着による損失を防止し、合せて加熱条件下での活性炭などの燃焼による損失を防止することができる。不揮発性酸としては、高濃度のリン酸や過マンガン酸などを用いることができる。
【0038】
また、ミストスクラバ5は、後述する実証結果のように、水分共存下において吸着剤の表面が加湿状態を保持できることによって、酸性ミストに対してさらに高い除去能力を確保することができる。ミストスクラバ5の使用温度は、共存する水分が凝縮しない条件であるとともに、排ガス中の測定成分であるSOやNOxなどの吸着による応答遅れを軽減する条件として、約80〜150℃程度が好適である。
【0039】
〔ミストモニタ〕
ミストモニタ6は、パーライト系の吸着剤からなるエレメントが充填されたユニットをミストスクラバ5の下流に用いることが好ましい。つまり、パーライト系の吸着剤は、上記のように低濃度の酸性ミストに対して十分な除去能力があるとともに、その表面に吸着した酸性ミストは、徐々に共存する水分と結合して水滴状となり、その表面あるいはこれを充填する容器の内表面に付着する。従って、ミストスクラバ5の下流に配設されたミストモニタ6における、こうした水滴状体の付着状態をモニタすることによって、ミストスクラバ5の汚染状況や交換時期を把握することができる。また、ミストモニタ6自体が酸性ミストの除去機能を有することから、ミストモニタ6の下流側への影響を与えずに、ミストスクラバ5の交換を行うことが可能となる。
【0040】
以上の構成を有する排ガス測定装置によって、排ガス中に含まれるダスト成分、酸性ミストなどの影響を受けずに、長期安定性の高い連続測定が可能となる。また、各成分に対する汚染等の状況をモニタし、こうした影響を未然に防止し、長期安定性の高い連続測定が可能となる。
【0041】
<本装置の他の構成例(第2構成例)>
排ガス中にハロゲン成分が含まれる場合には、図5に例示するように、上記第1構成例における構成要素に加え、ミストモニタ6の下流にハロゲン捕集部8およびハロゲンモニタ9を配設することが好ましい。
【0042】
つまり、ガラス溶融炉などの排ガスには、ダスト成分や酸性ミストに加え、腐蝕性の強いハロゲン成分が含まれることがある。これらは、上記のフィルタカラム3やミストスクラバ5では十分に除去しきれないことから、排ガス中の測定成分であるSOやNOxなどの損失なくハロゲン成分に対する選択的な除去処理を行うことが必要となる。
【0043】
〔ハロゲンスクラバ〕
ハロゲンスクラバ8は、金属素材からなり、不揮発性酸による表面処理されたエレメントが充填されたユニットが好ましい。ハロゲン成分は、一般に選択的な吸着処理が難しい反面、金属素材とは非常に反応性が高い。従って、こうした特性を利用し、反応性の高い金属素材をスクラバ基材として用いることによって、ハロゲン成分を効率よく吸蔵する能力を確保することができる。金属素材としては、単体として安定な金属であるとともに、ハロゲン物としても安定な化合物を形成する銅(Cu)やスズ(Sn)あるいは銀(Ag)などを用いることができる。エレメントの性状としては、こうした金属素材をウール状に成形したものや、シラス系天然軽石(例えば、大江化学工業製の商品名パミスターの直径1〜6mmの各種粒度のもの)などの無機担体に担持させたものなどを用いることができる。また、不揮発性酸含浸処理によって、排ガス中の測定成分であるSOやNOxなどの吸着や反応による損失を防止することができる。不揮発性酸としては、高濃度のリン酸や過マンガン酸などを用いることができる。
【0044】
〔ハロゲンモニタ〕
ハロゲンモニタ9は、銀塩の含浸処理された多孔質材からなるエレメントが充填されたユニットをハロゲンスクラバ8の下流に用いることが好ましい。つまり、銀塩の安定的な担体として、シラス系天然軽石などの無機担体などの多孔質材を用い、炭酸塩銀塩の含浸処理することによって、大きな表面積において接触し反応することが可能となり、ハロゲンスクラバ8を透過したハロゲン成分に対して十分な検知能力があるモニタを形成することができる。ここで、ハロゲンXは、ハロゲンモニタ9に含まれる銀塩と下式1に示すように反応し、反応によって生成されたハロゲン化銀(AgX)は、光により分解され、銀が遊離することで黒色を呈するようになる。
+Ag→AgX ・・式1
また、ハロゲンモニタ9自体がハロゲン成分の除去機能を有することから、ハロゲンモニタ9の下流側への影響を与えずに、ハロゲンスクラバ8の交換を行うことが可能となる。
【0045】
<本装置の他の構成例(第3構成例)>
排ガス中にハロゲン成分が含まれるとともに、微細なダスト成分(特に金属化合物等)が存在する場合には、図6に例示するように、上記第1構成例における構成要素に加え、ミストモニタ6の上流にハロゲンスクラバ8およびハロゲンモニタ9を配設することが好ましい。
【0046】
つまり、これらの成分が反応し、金属ハロゲン化物などの生成や成長によって、ミストスクラバ5の捕集能力を低下させる要因となることがあることから、ミストスクラバ5の上流にハロゲンに対する捕集能力の高いハロゲンスクラバ8を設けることによって、未然に新たなダスト成分の発生を防止し、ミストスクラバ5の捕集能力の低下を防止することができる。また、ハロゲンスクラバ8は、ミスト成分を除去する機能を有していることから、ハロゲンスクラバ8をミストスクラバ5の上流に設けることによって、ハロゲンスクラバ8でハロゲン成分とミスト成分を同時に除去することが可能となる。従って、ハロゲンスクラバ8の下流に設けたミストスクラバ5の負荷を軽減することができることから、特に高ミスト排ガスを対象とする場合には、ミストスクラバ5の寿命を長くすることができる。
【0047】
以上の構成を有する排ガス測定装置によって、さらに排ガス中にハロゲン成分が含まれる場合であっても、その影響を受けずに、また各成分に対する汚染等の状況をモニタし、こうした影響を未然に防止し、長期安定性の高い連続測定が可能となる。
【実施例】
【0048】
次に、ガラス溶融炉からの排ガスを対象とした場合の、従前の測定装置における問題点の発生原因の検証、および本装置の検討に用いた各スクラバ等の効率についての検証実験を行った。
【0049】
〔従前の測定装置における問題点の発生原因の検証〕
(1)排ガスの性状
排ガスの性状は、燃料の別、脱硫装置方式と有無、原料などによって異なるが、ガラス溶融炉排ガスについて、既述の表1に例示した性状が把握された。ここで、0.1μm以下の微細ダストなどダスト成分や酸性ミストあるいはハロゲン成分に対する十分な把握ができなかったことが問題点の発生原因の1つであることが判った。例えば、SOミスト発生要因として、燃料である重油中の硫黄成分以外に、原料の1つである芒硝(NaSO、分解温度1350℃)が熔融炉温度〜1600℃以上において分解されることによって発生しやすいことが挙げられる。
【0050】
(2)共存成分の影響
微細ダストの共存は、原料が高温時に気化性の酸化物(飛灰又はフライアッシュ)となり完全に電気集塵機で除去しきれないことによることが判った。また、こうしたダスト成分の存在は、上記の酸性ミストとの結合や、さらにその結合体への水分の結合などによって、より腐蝕性が強く成長力のある有害物質を形成することとなることが判った。ハロゲン成分の発生源として、フッ素は石灰などの原料中に含まれ、塩素は金属塩化物として原料中に含まれる。
【0051】
〔各スクラバ等の効率の検証〕
(1)試験方法
硫黄成分約1〜1.5wt%を含有する重油を燃料とするガラス溶融炉排ガスを対象とし、図5に示す試験用装置を用いて、ダスト成分、酸性ミストおよびハロゲン成分に対する各種スクラバの捕集能力および除去効率を検証した。ここで、試料採取部1から吸引された試料ガスを、ドレンセパレータDPeに導入して、ドレンを分離した後、2分し、一方(測定ライン)を現地で使用中の測定装置GA(堀場製作所製、ENDA−640)に導入して、NOx、SO、COおよびOを測定するとともに、他方をポンプPeの吸引流路に導入する。
(1−1)ダスト成分に対する検証試験においては、測定ラインに被検スクラバSC1を配設し、試料ガスを流量約3L/minにて連続的に被検スクラバSC1に導入する。被検スクラバSC1には各スクラバを順次2本シリーズに設置し、その汚れから捕集能力を判定した。また、捕集されたダストの元素分析(堀場製作所製、走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分析装置SEM−EDX)を行いその由来を推定した。
(1−2)酸性ミストおよびハロゲン成分に対する検証試験においては、導入された試料ガスをさらに2分する。2分された一方(ブランクライン)は、流量計FMdによって流量を確認しながら調整弁NVdによって約0.5L/minに調整し、ミストモニタMCdに導入し、さらに純水バブラWBdに導入する。ミストモニタMCdによって捕集された試料ガス中の酸性ミストを溶解させた被検液および純水バブラWBdに溶解した成分を分析することによって、ミストモニタMCdで捕集した酸性ミストおよび純水バブラWBdに溶解したハロゲン成分をモニタした。他方(テストライン)は、流量計FMeによって流量を確認しながら調整弁NVeによって約0.5L/minに調整し、被検用スクラバSC2に導入して処理された後、ミストモニタMCeに導入し、さらに純水バブラWBeに導入する。ミストモニタMCeによって捕集された試料ガス中の酸性ミストを溶解させた被検液および純水バブラWBeに溶解した成分を分析することによって、被検用スクラバを通過した酸性ミストとハロゲン成分をモニタした。
【0052】
(2)試験条件
(2−1)ダスト成分に対するスクラバとして、(i)ポリエステル繊維フィルタを15層充填したフィルタカラム(FC)、(ii)石英ウールを充填したカラムを用いた。
(2−2)酸性ミストおよびハロゲン成分に対するスクラバとして、(i)本装置のミストスクラバ(MS、約90℃加熱)、(ii)パーライト系の吸着剤からなるエレメントが充填されたユニット(SU、約90℃加熱)、(iii)参考として、本装置のハロゲンスクラバ(HS、常温):ハロゲンモニタ付き(HM、常温)を用いた。
(2−3)酸性ミストの定量は、上記ミストモニタMCeに溶解した成分をイオンクロマトグラフィ(メトローム社製、型式861)で測定した結果(IC分析)を基に算出した。
(2−4)ハロゲン成分の定量は、上記純水バブラWBdおよびWBeに溶解した成分をイオンクロマトグラフィ(メトローム社製、型式861)で測定した結果(IC分析)を基に算出した。
【0053】
(3)試験結果
(3−1)排ガス中溶解ガス成分分析
未処理の排ガス中溶解ガス成分の分析として、ブランクラインにおける約2時間の試料ガス導入後の純水バブラWBdの溶液のIC分析を行った結果、下表4のような値を得た。また各イオン成分に由来する排ガス中のガス成分を推定した。酸性ミストとしてSOミストや硝酸ミストの存在、およびハロゲン成分としてHF、HClおよびClの存在が推定される。
【0054】
(3−2)フィルタカラムのダスト吸着性試験
測定ラインにおいて約1週間排ガスを連続吸引した後の、ダスト成分に対する各スクラバの捕集能力は、下表1に示すように、石英ウールでは殆ど捕集されず、ポリエステル繊維フィルタ(FC)では高い捕集能力があることが判った。また、その着色性ダストの主成分がSiOであり、原料の灰分に由来すると推定される。
【表1】

【0055】
(3−3)ミストスクラバのSOミスト除去性能試験
テストラインにおいて約1週間排ガスを連続吸引した後の、酸性ミストに対する各スクラバの除去能力は、下表2に示すように、パーライト系の吸着剤(SU)では約70%の除去率にとどまり、ミストスクラバ(MS)では約97%という高い除去能力があることが判った。また参考として、ハロゲンスクラバ(HS)では約83%の除去率を有し、本装置の第2,第3構成例におけるハロゲンスクラバの付加による対酸性ミストの有効性が立証された。
【表2】

【0056】
(3−4)ハロゲンスクラバのハロゲンガスの除去性能
テストラインにおいて約1週間排ガスを連続吸引した後の、ハロゲン成分に対する各スクラバの除去能力は、下表3に示すように、パーライト系の吸着剤(SU)ではHF/HCl(Cl)に対して55%/0%の除去率にとどまり、ハロゲンスクラバ(HS)では100%/80%という高い除去能力があることが判った。また参考として、ミストスクラバ(MS)では66%/0%の除去率を有し、本装置の第2構成例において、ハロゲンスクラバの上流に設けられたミストスクラバによるHFの除去の能力によって、ハロゲンスクラバの長寿命化に貢献できることが判った。
【表3】

【0057】
(3−5)その他
以上の検証の結果、各スクラバ等は、ダスト、ミストおよびハロゲンの個々の成分に対する捕集能力および除去効率の高さを証明することができたと同時に、これらのスクラバを組合せて配設することによって、相互に各成分に対する捕集能力および除去能力を補完し合うことができることが証明された。つまり、本装置は、単なる個々の成分のスクラバ等の組合せにとどまらず、複合的に高い捕集能力および除去能力を有する高機能の試料処理部を構成することができる点において非常に高い有用性を有している。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上においては、本発明を、主としてガラス溶融炉排ガス中の特定成分の測定装置および測定方法に適用する場合について述べたが、高温燃焼を伴うディーゼル発電排ガスや硫酸プラント排ガスあるいは金属精錬(硫化鉱ばい焼却炉)排ガスなどについても、本測定装置および測定方法を適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係る排ガス測定装置の基本的な構成を示す説明図。
【図2】本発明に係る試料処理系に用いる冷却部を構成する部材を例示する説明図。
【図3】本発明に係る試料処理系の構成を例示する説明図。
【図4】本発明に係る試料処理系に用いるダスト捕集部の構成を例示する説明図。
【図5】本発明に係る排ガス測定装置の第2構成例を示す説明図。
【図6】本発明に係る排ガス測定装置の第3構成例を示す説明図。
【図7】本発明に係る排ガス測定装置に用いるスクラバの試験方法を例示する説明図。
【図8】従来技術に係る分析装置の構成を概略的に示す説明図
【図9】従来技術に係るサンプリング装置の構成を概略的に示す説明図
【符号の説明】
【0060】
1 試料採取部
1a 試料採取管
1b 1次フィルタ
2 加熱導管(試料導入部)
2a,2b 配管部
3 フィルタカラム
4 ダストモニタ
5 ミストスクラバ
6 ミストモニタ
7 分析計
8 ハロゲンスクラバ
9 ハロゲンモニタ
WF1,WF2 ウェットフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フライアッシュなどのダスト成分とSOミストなどの酸性ミストを含む排ガスを測定対象試料とし、
該排ガスを導入する試料導入部と、前記ダスト成分が凝集される冷却部と、該冷却部で凝集されたダスト成分を捕集するダスト捕集部と、該ダスト捕集部の下流に設けられ、前記排ガス中の酸性ミストを除去する吸着剤が充填されたミスト捕集部と、これらによって清浄処理された処理ガスを導入し、排ガス中の特定成分を測定する分析計と、
を有することを特徴とする排ガス測定装置。
【請求項2】
ダスト成分の透過状態のモニタとして機能する前記ダスト捕集部と、前記ミスト捕集部の下流に吸着剤が充填されたミストモニタを有することを特徴とする請求項1記載の排ガス測定装置。
【請求項3】
前記排ガス中に、フッ化水素などのハロゲンあるいはハロゲン化合物を含む場合にあっては、前記ミスト捕集部またはミストモニタの下流に、該ハロゲンあるいはハロゲン化合物を除去するハロゲン捕集部と、該ハロゲン捕集部の下流に着色材料を含有している多孔質材からなるエレメントが充填されたハロゲンモニタを配設することを特徴とする請求項1または2記載の排ガス測定装置。
【請求項4】
前記排ガス中に、フッ化水素などのハロゲンあるいはハロゲン化合物を含む場合にあっては、前記ミスト捕集部の上流に、該ハロゲンあるいはハロゲン化合物を除去するハロゲン捕集部を有することを特徴とする請求項1または2記載の排ガス測定装置。
【請求項5】
フライアッシュなどのダスト成分とSOミストなどの酸性ミスト、またはこれらとフッ化水素などのハロゲンもしくはハロゲン化合物を含む排ガスを測定対象試料とし、
採取された前記排ガスに対し、1次処理として、前記ダスト成分を水分共存下においてダスト捕集部によって捕集し、
2次処理として、前記酸性ミストをミスト捕集部によって除去し、
ハロゲンまたはハロゲン化合物を含む排ガスにあっては、3次処理として、該ハロゲンまたはハロゲン化合物をハロゲン捕集部によって除去するとともに、
これら1〜2次あるいは1〜3次処理された処理ガス中の特定成分を測定することを特徴とする排ガス測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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