説明

排ガス測定装置

【課題】 希釈トンネルを流れる希釈ガスの流量が変動しても、その流量変動に応じた量の希釈ガスをバックグラウンドバッグに捕集して、希釈ガスに含まれる被検物質の濃度測定の信頼性を高める。
【解決手段】 希釈トンネル1を流れる希釈空気を捕集する希釈ガスサンプリング管8の途中にサンプリングオリフィス10を介装するとともに、希釈空気を貯留する拡縮可能なバックグラウンドバッグ13を負圧状態に保持された負圧保持箱16の内部に収容する。希釈トンネル1の内部とバックグラウンドバッグ13の周囲との間には、圧力差が生じるので、希釈トンネル1を流れる希釈空気の流量と比例する量の希釈空気が、バックグラウンドバッグ13に捕集される。したがって、希釈空気に含まれるTHCの濃度測定の信頼性が向上し、希釈後の排ガスに含まれるTHCの正味濃度の算出精度を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス測定装置に関し、詳細には、エンジンの排ガスに含まれる炭化水素などの濃度を測定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばディーゼルエンジンの排ガスに含まれる炭素水素の濃度を測定する装置として、次のものが知られている。すなわち、排ガスの一部をサンプリングしたサンプルガスをガスボンベから供給される希釈ガス(例えば、窒素ガス)により一定の比率で希釈し、この希釈したサンプルガスをサンプルバッグに貯えておく。そして、サンプリングが終了した後、サンプルバッグに貯えられているサンプルガスを全炭化水素計により分析し、サンプルガスの全炭化水素濃度(以下「THC濃度」という。)を測定するとともに、測定したTHC濃度に基づいて希釈前の排ガスのTHC濃度を算出する、というものである(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−165827号公報(段落番号0009〜0014)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の装置には、次のような問題がある。
上記の装置が採用する部分希釈方式(「ミニダイリューション方式」ともいう。)は、国内において、乗用車及び所定重量以下の商用車の排ガス試験に適用することが法規により認められていない。これらの車両についての排ガス試験では、排ガスの全量を測定対象とすることが求められている。排ガスの全量をガスボンベからの希釈ガスで希釈しようとすれば、容量が極めて大きなガスボンベが必要となる。
【0004】
これに対し、排ガスの全量を希釈してTHC濃度を測定するものとして、定容量サンプリング装置(以下「CVS装置」という。)が知られている。このCVS装置は、上記の部分希釈方式による装置に対して、排ガスの希釈とサンプリングとの順序が逆の関係にあり、希釈後の排ガスのTHC濃度を測定する一方、希釈ガスをサンプリングしてバックグラウンドバッグに貯え、この貯えた希釈ガスのTHC濃度を測定して、希釈後の排ガスのTHC濃度を補正するようになっている。このようなCVS装置では、希釈ガスとして空気などを使用できるので、先に問題として掲げた大容量のガスボンベを設置する必要はないが、次のような別の問題がある。
【0005】
すなわち、CVS装置では、バックグラウンドバッグに貯える希釈ガスを、一定流量で捕集していた。一方、エンジンの排ガスの流量は、エンジン回転数の変化等により試験中にも変動しており、この排ガス流量が変動する影響で希釈トンネルに導入される希釈ガスの流量が変動することになる。すなわち、実際に希釈に用いられる希釈ガスの量と、バックグラウンドバッグに刻々と取り込まれる希釈ガスの量との間には相関関係がなく、希釈トンネルを流れる希釈ガスの量が変動しても、その変動量に応じて希釈ガスをバックグラウンドバッグに捕集するものではなかった。よって、バックグラウンドバッグに捕集した希釈ガス中のTHC量は、厳密には、希釈に用いられるガス全量の代表値を示すものではなかった。このような希釈ガスの導入量が変動することの影響は、従前であれば、排ガス中のTHC濃度自体がある程度高かったことから、無視することもできた。しかしながら、近年の低排出エンジンでは、THC濃度が非常に低下しており、希釈トンネルを流れる希釈ガスの流量が変動することの影響を無視することができなくなっている。
【0006】
そこで、本発明は、排ガスの全量を測定対象とする場合に、希釈トンネルを流れる希釈ガスの流量が変動しても、その流量変動に応じた量の希釈ガスをバックグラウンドバッグに捕集できる排ガス測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、エンジンの排ガスに含まれる特定の被検物質の濃度を測定する装置を提供する。本発明に係る装置では、排ガスよりも被検物質の濃度の低い希釈ガスが流通する希釈トンネルにエンジンの排ガスを流入させ、排ガスを希釈ガスにより希釈する。排ガスの合流部よりも上流側から希釈前の希釈ガスを採取するとともに、下流側から希釈後の排ガスを採取する。そして、これらの採取した各ガスに含まれる被検物質の濃度として、希釈後の排ガスについて第1の濃度を測定し、希釈ガスについて第2の濃度を測定し、これらの測定した各濃度をもとに、希釈後の排ガスに含まれる被検物質の正味濃度を演算する。ここで、本発明によれば、希釈トンネルを流れる希釈空気の流量と比例する量の希釈空気を希釈トンネルからバックグラウンドバッグに捕集し、この捕集した希釈ガスに含まれる被検物質の濃度を第2の濃度として測定する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、第1に、希釈後の排ガスに含まれる被検物質の濃度を第1の濃度として測定し、希釈ガスに含まれる被検物質の濃度を第2の濃度として測定し、これを濃度の演算に反映させることとした。このため、希釈ガスとして採用し得るものが純粋な不活性ガス等に限られず、例えば、実験室内の空気を採用することが可能となるので、特別にガスボンベを設ける必要がなく、装置の大型化を回避することができる。
【0009】
第2に、希釈トンネルを流れる希釈空気の流量と比例する量の希釈空気が、希釈トンネルからバックグラウンドバッグに捕集されるので、希釈トンネルを流れる希釈ガスの流量が変動しても、常に一定の割合で希釈ガスを採取することができる。したがって、希釈空気に含まれる被検物質の濃度測定の信頼性を高め、希釈後の排ガスに含まれる被検物質の正味濃度の算出の精度の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る排ガス測定装置101の構成を示している。なお、以下の説明において、図1、図3に示す排ガス測定装置101,102は、例えばディーゼルエンジン(以下「エンジン」という。)Eの排ガスに含まれるTHCの正味濃度THCeを測定するために用いられる。
【0011】
排ガス測定装置101において、希釈ガスとして実験室内の空気(以下「希釈空気」という。)が使用される。排ガス測定装置101は、排ガスの希釈を行う希釈トンネル1を含んで構成され、この希釈トンネル1内には排ガスよりも被検物質の濃度が低い希釈空気が流れている。希釈トンネル1の入口部には、活性炭を使用したエアフィルタ2が取り付けられており、希釈トンネル1の下流には、熱交換器3、ベンチュリ4及びブロア5が順に設置されている。ブロア5により希釈トンネル1内に希釈空気を取り込み、ベンチュリ4により希釈トンネル1の通過流量を一定に制御する。また、希釈トンネル1には、排ガス流通管6が接続されている。排ガス流通管6は、一端において、エンジンEの排気系テールパイプと接続され、他端において、希釈トンネル1に対して側方から管壁を貫通させて挿入されている。希釈トンネル1の途中には、ミキシングオリフィス7が設置されており、排ガス流通管6は、希釈トンネル1内の略中央まで延伸し、その端部6aは、ミキシングオリフィス7の開口部に位置している。
【0012】
希釈トンネル1には、ミキシングオリフィス7の上流側に、希釈ガスを取出す希釈ガスサンプリング管8が接続され、その下流側には希釈後の排ガスを取出す希釈排ガスサンプリング管9が接続されている。希釈ガスサンプリング管8の途中にはサンプリングオリフィス10が取り付けられており、希釈ガスサンプリング管8の他端部には三方電磁弁11が取付けられている。この三方電磁弁11は、三箇所の配管接続口を有しており、第1の配管接続口に希釈ガスサンプリング管8を介して希釈トンネル1が接続され、第2の配管接続口には捕集管12を介して、希釈空気を貯留する拡縮可能なバックグラウンドバッグ13が接続され、第3の配管接続口には供給管14を介して全炭化水素計(ここでは、水素炎イオン検出計(FID)を採用する。)Dが接続されている。そして、三方電磁弁11は、コントロールユニットCにより各配管接続口同士の連通が制御可能とされ、バックグラウンドバッグ13を、希釈トンネル1又は全炭化水素計Dに選択して連通させることができる。全炭化水素計Dには、希釈後の排ガスを取出す希釈排ガスサンプリング管9も接続されている。この希釈排ガスサンプリング管9の途中には、希釈トンネル1の下流側から希釈排ガスを取り込むためのポンプ15が介装されており、ポンプ15の動作はコントロールユニットCで制御可能となっている。なお、全炭化水素計Dの排気出口には、図示省略したが、排気ポンプが設けられている。
【0013】
ここで、本発明による排ガス測定装置101には、希釈ガスサンプリング管8の途中に介装されたサンプリングオリフィス10と、拡縮可能なバックグラウンドバッグ13を収納する負圧保持箱16とが設けられている。この負圧保持箱16は、バックグラウンドバッグ13が膨張したときの容量と比較しても十分大きな容積を有する密閉容器であって、その外部には排気管17が接続されている。排気管17の途中にはバキュームポンプ18が介装され、バキュームポンプ18の動作は、コントロールユニットCで制御可能となっている。また、全炭化水素計Dの動作についても、コントロールユニットCで制御されるようになっている。
【0014】
次に、排ガス測定装置101の動作について、図2に示すフローチャートを参照して説明する。
S0では、負圧保持箱16の内部を負圧状態にする。まず、バキュームポンプ18を作動して負圧保持箱16内の空気を排出する。バキュームポンプ18の動作開始から所定時間が経過すると、バキュームポンプ18の動作を停止する。これにより、負圧保持箱16の内部が一定の負圧状態のまま保持される。
【0015】
S1では、バックグラウンドバッグ13内の不純ガスを掃気する。三方電磁弁11への通電をオフして希釈ガスサンプリング管8と捕集管12とを接続し、希釈トンネル1とバックグラウンドバッグ13と連通させる。負圧保持箱16の内部が負圧状態であるので、負圧保持箱16に収容されたバックグラウンドバッグ13が膨張し、希釈トンネル1を流れる希釈空気は、希釈ガスサンプリング管8及び捕集管12を介してバックグラウンドバッグ13に吸引される。次に、三方電磁弁11への通電をオンして捕集管12と供給管14とを接続し、バックグラウンドバッグ13と全炭化水素計Dとを連通させる。この状態で、全炭化水素計Dの排気ポンプ(図示省略)を作動させると、バックグラウンドバッグ13内の不純ガス(炭化水素を含む。)が全炭化水素計Dから排出する。不純ガスが排出されるにつれて、バックグラウンドバッグ13は潰れて平たくなる。バックグラウンドバッグ13内の不純ガスの排出が完了すると、三方電磁弁11の通電をオフして捕集管12と供給管14との接続を遮断する。
【0016】
なお、負圧保持箱16の容積は、バックグラウンドバッグ13が膨張したときの容量と比較しても十分大きいので、バックグラウンドバッグ13が潰れたときでも、負圧保持箱16の内部の負圧は略一定状態に保持される。よって、負圧保持箱16に収容されたバックグラウンドバッグ13の周囲の圧力と希釈トンネル1の内部の圧力との間には、常に、略一定の圧力差が生じることになる。
【0017】
S2では、希釈排ガスTHC濃度THCdを測定する。まず、コントロールユニットCに設定されている積算値σTHCを0にリセットする。ブロア5を作動させて、希釈トンネル1内に希釈空気を導入するとともに、希釈トンネル1に対し、排ガス流通管6を介してエンジンEの排ガスを導入する。排ガス流通管6の端部6aからの排ガスは、ミキシングオリフィス7により形成される縮流部の負圧が作用して、円滑に導入される。この状態で、ポンプ15を作動させ、希釈空気により希釈された排ガス(以下「希釈排ガス」という。)を全炭化水素計Dに導入する。全炭化水素計Dは、導入された希釈排ガスのTHC濃度を刻々の希釈排ガスTHC濃度(以下「瞬時値」という。)THCiとして測定するとともに、測定したTHCiをコントロールユニットCに出力する。コントロールユニットCは、入力したTHCiを逐次積算し、積算値σTHC(=ΣTHCi)を算出する。そして、算出したσTHCを瞬時値THCiのサンプル数nで除算し、得た値を希釈排ガスTHC濃度THCdに設定する。
【0018】
S3では、バックグラウンド濃度THCbを測定する。S2で瞬時値THCiを測定中に、三方電磁弁11の通電をオフして希釈ガスサンプリング管8と捕集管12とを接続し、希釈トンネル1とバックグラウンドバッグ13とを連通させる。このとき、上述したように、希釈トンネル1の内部とバックグラウンドバッグ13の周囲との間には、略一定の圧力差が生じているので、希釈トンネル1を流れる希釈空気の流量と比例する量の希釈空気が、バックグラウンドバッグ13に捕集されることになる。このような希釈空気の捕集は、希釈排ガスを全炭化水素計Dに導入するのと同時に行う。所定サンプル数の瞬時値THCiの測定を完了するまでの間、希釈トンネル1から捕集した希釈空気は、バックグラウンドバッグ13内に貯えられる。S2で瞬時値THCiの測定を完了すると、三方電磁弁11への通電をオンして捕集管12と供給管14とを接続し、バックグラウンドバッグ13と全炭化水素計Dとを連通させる。この状態で、全炭化水素計Dの排気ポンプを作動すると、バックグラウンドバッグ13内に貯えられた希釈空気が全炭化水素計Dに導入される。全炭化水素計Dは、導入された希釈空気のTHC濃度をバックグラウンド濃度THCbとして測定し、測定したTHCbをコントロールユニットCに出力する。
【0019】
S4では、希釈後の排ガスに含まれるTHCの正味濃度THCeを演算する。THCの正味濃度THCeとは、希釈空気中にTHCが含まれている場合に、その影響を除去し、希釈空気中のTHC濃度を0としたときの、希釈後の排ガスに含まれるTHCの濃度のことである。コントロールユニットCは、入力した希釈排ガスTHC濃度THCd及びバックグラウンド濃度THCbをもとに、下記(1)式により希釈後の排ガスに含まれるTHCの正味濃度THCeを算出する。なお、希釈率をDFとする。
【0020】
THCe=THCd−(1−1/DF)×THCb ・・・(1)
(1)式において、希釈率DFは、希釈後の排ガスに含まれるTHC濃度THCdの関数として推定できる。
また、希釈後の排ガスに含まれるTHCの排出量THCmassは、上記(1)式で求めたTHCの正味濃度THCeを基に、下記(2)式により算出する。
【0021】
THCmass=Vmix×THC密度×THCe ・・・(2)
ここで、Vmixとは、標準状態(20℃、760mmHgの状態)における1km走行当たりの希釈排ガス量のことである。また、THC密度とは、標準状態におけるHC1リットル当たりの質量であり、所定の定数で表される。
本実施形態に関し、全炭化水素計Dが持つS2(瞬時値THCiの算出及び希釈排ガスTHC濃度THCdの測定)の機能が第1の濃度測定手段に相当し、全炭化水素計Dが持つS3(バックグラウンド濃度THCbの測定)の機能が第2の濃度測定手段に相当する。また、コントロールユニットCが持つS4(排ガスTHC濃度THCeの測定)の機能が濃度演算手段に相当する。
【0022】
本実施形態によれば、次のような効果を得ることができる。
本実施形態では、排ガス測定に際し、希釈トンネル1を流れる希釈空気は、サンプリングオリフィス10により形成される縮流部の負圧の作用によって、希釈ガスサンプリング管8内に円滑に導入される。このとき、排ガス測定装置101では、ベンチュリ4の作用により希釈トンネル1内の流量が一定に保たれるため、排ガス流量が変動すると希釈空気の導入量が変動することとなるが、負圧保持箱16の内部が負圧状態に保持されており、希釈トンネル1の内部と、負圧保持箱16に収容されたバックグラウンドバッグ13の周囲との間には、略一定の圧力差が生じるので、希釈トンネル1を流れる希釈空気の流量と比例する量の希釈空気が、希釈ガスサンプリング管8及び捕集管12を介してバックグラウンドバッグ13に捕集される。したがって、実際に排ガスの希釈に用いられる希釈空気の量と、希釈ガスサンプリング管8を介してバックグラウンドバッグ13に刻々と捕集される希釈空気との間の相関関係が維持されることとなり、たとえ希釈空気に含まれるTHCの濃度が変動し続けたときでも、バックグラウンド濃度THCbの濃度測定の信頼性を高め、希釈後の排ガスに含まれるTHCの正味濃度THCeの算出の精度の向上を図ることができる。
【0023】
なお、本実施形態では、バックグラウンドバッグ13の容量変化を無視できるほど大きな容積の負圧保持箱16を用いることで、希釈トンネル1の内部とバックグラウンドバッグ13の周囲との間に略一定の圧力差が生じるようにしたが、本発明はこれに限られず、負圧保持箱16に圧力センサ(図示せず)を設けておき、この圧力センサで検出した圧力の信号をコントロールユニットCに送出してバキュームポンプ18の動作をフィードバック制御し、負圧保持箱16の内部の負圧状態を保持するようにしてもよい。
【0024】
以下に、他の実施形態について説明する。
図3は、本発明の第2の実施形態に係る排ガス測定装置102の構成を示している。
図3において、図1に示す排ガス測定装置101と同じ構成要素は、同じ符号を付して示している。第2の実施形態に係る排ガス測定装置102の特徴は、希釈トンネル1に設置されたミキシングオリフィス7をバイパスするバイパス通路19と、このバイパス通路19に介装されたオリフィス20と、を設け、バイパス通路19のオリフィス20上流側から、希釈ガスサンプリング管8を導出した点にある。
【0025】
次に、排ガス測定装置102の動作について、図4に示すフローチャートを参照して説明する。
S1では、バックグラウンドバッグ13内の不純ガスを掃気する。まず、三方電磁弁11への通電をオンして捕集管12と供給管14とを接続し、バックグラウンドバッグ13と全炭化水素計Dとを連通させる。この状態で、全炭化水素計Dの排気ポンプを作動させると、バックグラウンドバッグ13内の不純ガスが全炭化水素計Dから排出する。不純ガスが排出されるにつれて、バックグラウンドバッグ13は潰れて平たくなる。そして、バックグラウンドバッグ13内の不純ガスの排出が完了すると、三方電磁弁11の通電をオフして捕集管12と供給管14との接続を遮断する。
【0026】
S2では、希釈排ガスTHC濃度THCdを測定する。この動作については、図2を参照して説明した通りである。
S3では、バックグラウンド濃度THCbを測定する。S2において、瞬時値THCiを測定中に、三方電磁弁11の通電をオフして希釈ガスサンプリング管8と捕集管12とを接続し、希釈トンネル1とバックグラウンドバッグ13とを連通させる。このとき、本実施形態は、上記構成を備えているので、バイパス通路19に介装されたオリフィス20の上流側に接続された希釈ガスサンプリング管8の入口部周辺では、希釈空気の圧力が高くなっている。よって、希釈ガスサンプリング管8又は捕集管12の途中にポンプを設置しなくても、希釈トンネル1を流れる希釈空気をバックグラウンドバッグ13に捕集できる。このとき、希釈ガスサンプリング管8の入口部周辺における圧力は、希釈トンネル1を流れる希釈空気の流量が多いほど高くなるので、希釈トンネル1を流れる希釈空気の流量と略比例する量の希釈空気がバックグラウンドバッグ13に捕集されることになる。このような希釈空気の捕集は、希釈排ガスを全炭化水素計Dに導入するのと同時に行う。所定サンプル数の瞬時値THCiの測定を完了するまでの間、希釈トンネル1から捕集した希釈空気は、バックグラウンドバッグ13内に貯えられる。S2で瞬時値THCiの測定を完了すると、三方電磁弁11への通電をオンして捕集管12と供給管14とを接続し、バックグラウンドバッグ13と全炭化水素計Dとを連通させる。この状態で、全炭化水素計Dの排気ポンプを作動すると、バックグラウンドバッグ13内に貯えられた希釈空気が全炭化水素計Dに導入される。全炭化水素計Dは、導入された希釈空気のTHC濃度をバックグラウンド濃度THCbとして測定し、測定したTHCbをコントロールユニットCに出力する。
【0027】
S4では、希釈後の排ガスに含まれるTHCの正味濃度THCeを演算する。この動作については、図2を参照して説明した通りである。
本実施形態においても、上述したと同様の効果を得ることができる。すなわち、希釈トンネル1を流れる希釈ガスの流量が変動しても、その希釈空気の流量と略比例する量の希釈空気が、バイパス通路19に介装されたオリフィス20を通過し、希釈ガスサンプリング管8及び捕集管12を介してバックグラウンドバッグ13に捕集されるので、実際に排ガスの希釈に用いられる希釈空気の量と、バックグラウンドバッグ13に刻々と捕集される希釈空気との間の相関関係を維持することができる。したがって、希釈空気に含まれるTHCの濃度測定の信頼性を高め、希釈後の排ガスに含まれるTHCの正味濃度THCeを算出する精度の向上を図ることができる。また、希釈空気に含まれるTHCの濃度を測定し、これを濃度の演算に反映させることで、希釈ガスとして実験室内の空気を採用することが可能となるので、特別にガスボンベを設ける必要がなく、排ガスの全量を測定対象とする場合にも、装置をコンパクトに構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る排ガス測定装置の構成を示す概要図である。
【図2】図1に示す排ガス測定装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る排ガス測定装置の構成を示す概要図である。
【図4】図3に示す排ガス測定装置の動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0029】
101,102…排ガス測定装置、1…希釈トンネル、2…エアフィルタ、3…熱交換器、4…ベンチュリ、5…ブロア、6…排ガス流通管、7…ミキシングオリフィス、8…希釈ガスサンプリング管、9…希釈排ガスサンプリング管、11…三方電磁弁、12…捕集管、13…バックグラウンドバッグ、14…供給管、16…負圧保持箱、17…排出管、18…バキュームポンプ、19…バイパス通路、20…オリフィス、E…ディーゼルエンジン、C…コントロールユニット、D…全炭化水素計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排ガスに含まれる特定物質を被検物質として、その排ガスにおける濃度を測定する装置であって、
排ガスよりも被検物質の濃度が低い希釈ガスを流通させる希釈トンネルと、
希釈トンネルの途中に設けられたミキシングオリフィスと、
希釈トンネルのミキシングオリフィス部にエンジンの排ガスを流入させる排ガス流通管と、
希釈トンネルのミキシングオリフィス下流から希釈後の排ガスを取出す希釈排ガスサンプリング管と、
希釈排ガスサンプリング管を介して取出された希釈後の排ガスに含まれる被検物質の濃度を第1の濃度として測定する第1の濃度測定手段と、
希釈トンネルのミキシングオリフィス上流から希釈ガスを取出す希釈ガスサンプリング管と、
前記第1の濃度測定手段による濃度測定中、希釈ガスサンプリング管を介して取出された希釈ガスを貯留する拡縮可能なバックグラウンドバッグと、
前記第1の濃度測定手段による濃度測定後、バックグラウンドバッグに貯留されている希釈ガスを取出して希釈ガスに含まれる被検物質の濃度を第2の濃度として測定する第2の濃度測定手段と、
前記第1及び第2の濃度をもとに、希釈後の排ガスに含まれる被検物質の正味濃度を算出する濃度算出手段と、を備え、
更に、前記希釈ガスサンプリング管の途中に介装されたサンプリングオリフィスと、
負圧ポンプによって内部が所定の負圧に保持され、前記バックグラウンドバッグを収納する負圧保持箱と、を設けたことを特徴とする排ガス測定装置。
【請求項2】
エンジンの排ガスに含まれる特定物質を被検物質として、その排ガスにおける濃度を測定する装置であって、
排ガスよりも被検物質の濃度が低い希釈ガスを流通させる希釈トンネルと、
希釈トンネルの途中に設けられたミキシングオリフィスと、
希釈トンネルのミキシングオリフィス部にエンジンの排ガスを流入させる排ガス流通管と、
希釈トンネルのミキシングオリフィス下流から希釈後の排ガスを取出す希釈排ガスサンプリング管と、
希釈排ガスサンプリング管を介して取出された希釈後の排ガスに含まれる被検物質の濃度を第1の濃度として測定する第1の濃度測定手段と、
希釈トンネルのミキシングオリフィス上流から希釈ガスを取出す希釈ガスサンプリング管と、
前記第1の濃度測定手段による濃度測定中、希釈ガスサンプリング管を介して取出された希釈ガスを貯留する拡縮可能なバックグラウンドバッグと、
前記第1の濃度測定手段による濃度測定後、バックグラウンドバッグに貯留されている希釈ガスを取出して希釈ガスに含まれる被検物質の濃度を第2の濃度として測定する第2の濃度測定手段と、
前記第1及び第2の濃度をもとに、希釈後の排ガスに含まれる被検物質の正味濃度を算出する濃度算出手段と、を備え、
更に、前記希釈トンネルの前記ミキシングオリフィスをバイパスするバイパス通路と、前記バイパス通路に介装されたオリフィスと、を設け、前記バイパス通路の前記オリフィス上流から、前記希釈ガスサンプリング管を導出したことを特徴とする排ガス測定装置。
【請求項3】
前記濃度測定手段は、第1の濃度をD1、第2の濃度をD2、希釈ガスによる排ガスの希釈率をDFとしたときに、希釈後の排ガスに含まれる被検物質の正味濃度Deを、
De=D1−(1−1/DF)×D2
により算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の排ガス測定装置。
【請求項4】
前記被検物質が炭化水素であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の排ガス測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−214957(P2006−214957A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−30142(P2005−30142)
【出願日】平成17年2月7日(2005.2.7)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】