排ガス計測システム
【課題】排ガス成分計測前に適切な前処理を行って計測精度を高める。
【解決手段】この前処理では、まず空気精製機2の吸着材11を高温精製空気によりパージし、次いで排気連結管7を高温精製空気によりパージする。排気連結管7のパージと並行してサンプリング装置4をパージする。これらパージ後、低温精製空気を用いてサンプリング装置4のパージが完了したか否かを判定する。パージ完了判定後、低温精製空気を用いて空気精製機2の診断を行い、次いで較正ガスを用いてシステム全体を診断する。
【解決手段】この前処理では、まず空気精製機2の吸着材11を高温精製空気によりパージし、次いで排気連結管7を高温精製空気によりパージする。排気連結管7のパージと並行してサンプリング装置4をパージする。これらパージ後、低温精製空気を用いてサンプリング装置4のパージが完了したか否かを判定する。パージ完了判定後、低温精製空気を用いて空気精製機2の診断を行い、次いで較正ガスを用いてシステム全体を診断する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は排ガス計測システムに係り、特に、自動車のエンジンから排出される排ガス中の成分を計測する排ガス計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジン排ガスに含まれる炭化水素HC、窒素酸化物NOx、一酸化炭素CO、二酸化炭素CO2などの成分を計測する排ガス計測システムとして、従来より、シャシダイナモ装置に搭載された自動車を走行モードにしたがって運転し、このモードの最中に排出される排ガスを、空気により希釈して定容量サンプリング装置によって採取し、この採取されたサンプリングガスを、計測原理の異なる複数のガス分析計に供給して前記各成分をそれぞれ計測するものがある。
【0003】
例えば特許文献1には、複数の計測を自動(無人)で続けて実行するとともに、自動車排ガス測定管理装置の動作状況を一覧表示する自動車排ガス測定システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−71524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年では自動車の排ガス規制がますます厳しくなりつつあり、計測対象となる成分が排気ガスにほとんど含まれなくなってきている。また燃料の多様化(例えばアルコール燃料の使用)、未規制成分を含めた計測成分の多様化(例えば温室効果ガスの一種である亜酸化窒素N2OやアンモニアNH3の計測)といった実状も存在する。
【0006】
かかる現状の中で、計測精度の益々の高度化が要求されている。例えば、大気中の空気をそのまま希釈空気として用いると大気中のHC、CO、NOxといった不純物の影響を受けて、高い計測精度を確保できない。このため、希釈空気を空気精製機により精製し、大気中の不純物を除去してから希釈空気として用いることがなされている。
【0007】
しかしながら、排ガス計測システム内に不純物が蓄積している場合があり、低濃度の計測成分を高精度で計測するためには、これら不純物を計測前に予め除去しておくことが望ましい。また、いずれかの箇所から大気がシステム内に漏れ込むと、大気中の不純物も併せて計測されてしまうため、このような漏れ込みの有無を計測前に予め確認しておくのが望ましい。さらに、システムの部分或いは全体に異常があるか否か、計測前に予め診断しておくのが望ましい。さらに、これらの前処理および動作を一括管理して自動的に行い、効率化および人為的ミス削減を図るのが望ましい。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その一の目的は、排ガス成分計測前に適切な前処理を行い、これにより排ガス成分計測時の計測精度を高め得る排ガス計測システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一形態によれば、
エンジンの排ガスを、空気精製機により生成された精製空気により希釈してサンプリングガスを生成すると共に、精製空気をバックグラウンドガスとし、これらサンプリングガスとバックグラウンドガスをサンプリング装置により採取し、この採取されたサンプリングガスとバックグラウンドガスに基づき排ガス成分を計測する排ガス計測システムにおいて、
排ガス成分計測前の前処理を実行する前処理実行手段を備え、該前処理実行手段が、
前記空気精製機に設けられ所定の排ガス成分を吸着する吸着材を、高温の精製空気によりパージする第1のパージ手段と、
該第1のパージ手段によるパージ後、エンジンの排ガスを導入するための排気連結管を、高温の精製空気によりパージする第2のパージ手段と、
該第2のパージ手段によるパージと並行して前記サンプリング装置を高温の精製空気によりパージする第3のパージ手段と、
前記第2および第3のパージ手段によるパージ後、低温の精製空気をサンプリングガスおよびバックグラウンドガスとして用いて、前記第3のパージ手段による前記サンプリング装置のパージが完了したか否かを判定する判定手段と、
該判定手段によるパージ完了判定後、低温の精製空気をバックグラウンドガスとして用いて前記空気精製機の診断を行う第1の診断手段と、
該第1の診断手段による診断後、較正ガスが混入された低温の精製空気をサンプリングガスとして用い、較正ガスが混入されていない低温の精製空気をバックグラウンドガスとして用いて、システム全体の診断を行う第2の診断手段と、を備える
ことを特徴とする排ガス計測システムが提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、排ガス成分計測前に適切な前処理を行い、これにより排ガス成分計測時の計測精度を高めることができるという、優れた効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る排ガス計測システムを示す概略図である。
【図2】サンプリング装置の詳細を示す図である。
【図3】本実施形態に係る前処理のフローチャートである。
【図4】吸着材パージ工程のガスの流れを示す図である。
【図5】パージ完了判定の方法を説明するためのグラフである。
【図6】排気連結管およびサンプリング装置のパージ工程のガスの流れを示す図である。
【図7】サンプリング装置のパージ完了判定時のガスの流れを示す図である。
【図8】空気精製機の診断時のガスの流れを示す図である。
【図9】システム全体の診断時のガスの流れを示す図である。
【図10】大気漏れ込み判定時のガスの流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を説明する。
【0013】
図1に、本発明の実施形態に係る排ガス計測システムを示す。排ガス計測システム1は、空気精製機2、主通路3、サンプリング装置4および分析計5を備える。主通路3の中間部に位置する混合部6には、自動車(図示せず)のエンジンの排ガスを主通路3内に導入するための排気連結管7が接続されている。
【0014】
空気精製機2は、大気を導入して精製した後、精製空気を主通路3に排出するもので、上流側から順にブロワ8、浄化部9、冷却部10および吸着材11を備えてなる。浄化部9は上流側の電気ヒータと下流側の酸化触媒からなる。排ガス成分の計測時、ブロワ8で吸引及び圧送された大気は、電気ヒ−タによって400℃程度の高温に加熱され、酸化触媒を通過する。酸化触媒を通過する際、大気中のHC,COが完全燃焼されてCO2となり、大気は一次精製される。この一次精製された大気は、水冷式の冷却器を備えた冷却部10により常温程度の低温に冷却され、活性炭を含む吸着材11を通過してNOx(特にNO)が除去され、二次精製された後、主通路3に排出される。
【0015】
排ガス成分の計測時、排気連結管7には図示しない自動車の排気管(テールパイプ)が接続され、自動車が図示しないダイナモメータ上でモード走行を行っている最中、排ガスEが排気連結管7を通じて主通路3に導入される。導入された排ガスは、混合部6において、空気精製機2から送出された精製空気と混合され、希釈される。
【0016】
こうして出来た希釈ガスは下流側のサンプリング装置4に送られる。このとき、下流端のブロワ12が希釈ガスを吸引して排気路13に排出する。ブロワ12の上流側に位置するベンチュリ14(CFV:クリチカルフローベンチュリ)が希釈ガスの流量を一定にする。このようにサンプリング装置4はCVS(コンスタント・ボリューム・サンプラー)をなしている。
【0017】
ベンチュリ14の直前位置で、希釈ガスがサンプリングガスとして採取され、自動車のモード走行の最中、サンプリングライン15を通ってサンプリングバッグ16に溜められる。
【0018】
他方、混合部6の上流側で、精製空気がバッググラウンドガスとして採取され、自動車のモード走行の最中、バックグラウンドライン17を通ってバックグラウンドバッグ18に溜められる。
【0019】
自動車のモード走行が終了すると、これら溜められたサンプリングガスおよびバッググラウンドガスに基づき、分析計5により、排ガス成分が計測ないし分析される。分析計5は、計測原理の異なる複数のガス分析計を搭載しており、排ガス中に含まれるHC、NOx 、CO、CO2 などの各成分を個別に計測可能である。
【0020】
具体的には、バッグ16に溜められたサンプリングガスが分析計5に送られ、サンプリングガス中の特定成分の濃度と、サンプリングガス自体の体積とから、当該サンプリングガスに含まれる特定成分の重量が分析計5により算出される。同様に、バッグ18に溜められたバックグラウンドガスが分析計5に送られ、バックグラウンドガス中の特定成分の濃度と、バックグラウンドガス自体の体積とから、当該バックグラウンドガスに含まれる特定成分の重量が分析計5により算出される。前者から後者を差し引いて、1モード走行当たりに排出された特定成分の重量が分析計5により計測される。
【0021】
なお、この排ガス計測システム1にあっては、下流側ブロワ12によって引き込まれるガス量よりも多くのガスが上流側ブロワ8によって圧送される。空気精製機2の出口と主通路3の入口との間に僅かな隙間19が設けられ、余剰の精製空気ないし過剰圧力を大気に開放するようになっている。20は主通路3に設けられたフィルタであり、このフィルタ20内部でバッググラウンドガスが採取される。
【0022】
図2に示すように、サンプリングガスは、主通路3内の採取口21からサンプリングライン15に導入ブロワ22によって導入され、四方電磁弁からなる切替弁23を通過してサンプリングバッグ16に充填される。このとき切替弁23は充填位置(Fill)にある。そして切替弁23が計測位置(Measure)に切り替えられると、サンプリングバッグ16に充填されていたサンプリングガスが、分析計5に装備されたポンプによって吸い込まれ、分析計5に送られる。他方、切替弁23が脱気位置(Dump)に切り替えられると、同時に脱気ブロワ24が作動され、サンプリングバッグ16に充填されていたサンプリングガスが外部に排出される。
【0023】
この点はバックグラウンド側についても同様である。図1に、サンプリング側についてはSの添字を、バックグラウンド側についてはBの添字を付して各要素を示す。
【0024】
ところで、かかる排ガス計測システム1にあっては計測精度を高めるのが本来望ましい。このため、排ガス計測前に、例えばシステム内に蓄積した不純物を予め除去したり、大気のシステム内への漏れ込みを予め確認したり、システムの部分或いは全体を予め診断したりするのが望ましい。さらには、これらの前処理ないし動作を一括管理して自動的に行い、効率化および人為的ミス削減を図るのが望ましい。
【0025】
そこで本実施形態は、これらを実現するため、以下の如く構成され且つ作動するようになっている。
【0026】
まず図1に示すように、主通路3はL字状に折れ曲がって鉛直部の最下部に混合部6が形成されているが、この混合部6の出口部に、当該出口部を絞るための絞り弁25が設けられている。絞り弁25はアクチュエータ26により開閉作動され、通常は図1に示す如く全開状態となっている。また混合部6の圧力を検出する圧力センサ27が併設されている。
【0027】
次に、排気連結管7を流れるガスを抽出する抽出ライン28が設けられる。抽出ライン28は、自動車の排気管への接続部分となる排気連結管7の先端部にその抽出口を有する。
【0028】
他方、混合部6の下流側における主通路3の水平部、具体的には採取口21の直前位置からガスを採取して送る採取ライン29が設けられる。抽出ライン28と採取ライン29は、三方電磁弁からなる切替弁30を介して、分析計5の連続分析に供される連続ライン31に接続される。
【0029】
さらに、主通路3におけるフィルタ20の上流側には、大気を主通路3内に導入するための大気導入口32が設けられ、この大気導入口32には、下流側に送る希釈空気を大気と精製空気とにそれぞれ切り替える空気切替弁33が設けられる。空気切替弁33は通常図示するような閉位置すなわち精製空気導入側に切り替えられている。
【0030】
また、既知濃度の各排ガス成分を含む較正ガス(スパンガス)を供給する較正ガス供給装置34、供給された較正ガスの流量を測定する流量計35、較正ガスの流量を調節する調節弁36、および流量を調節された較正ガスを主通路3の混合部6内に送る較正ガス送出ライン37が設けられる。なお、較正ガス供給装置34から供給された較正ガスは、分析計5の較正のため、分析計5にも送れるようになっている。
【0031】
そして図示しないが、システム1の各要素を一括制御する制御装置が設けられている。
【0032】
この排ガス計測システム1にあっては、排ガス成分の計測前に、制御装置により予め定められたプログラムに従って、次のような前処理が実行される。この前処理の手順を図3に示す。なお前処理実行時には排気連結管7に自動車の排気管は接続されておらず、排気連結管7は大気開放状態となっている。
【0033】
図3に示すように、最初のステップS101では、空気精製機2が高温に設定される。すなわち、浄化部9の電気ヒ−タがオンされ、冷却部10がオフされる。これにより空気を電気ヒ−タによって400℃程度の高温まで加熱し、冷却部10で冷却することなく、高温状態で排出可能となる。なおこのときブロワ8,12がオンされ、精製空気が主通路3を流される。
【0034】
次にステップS102において、空気精製機2の吸着材11が、高温の精製空気(特に一次精製空気)によりパージされる。このときの空気の流れを図4に矢印Aで示す。このパージにより、吸着材11に吸着されていた排ガス成分(特にNOx)が脱離排出され、吸着材11が浄化される。
【0035】
このとき同時に、切替弁30が、採取ライン29と連続ライン31を接続するサンプリング側に切り替えられ、採取ライン29から採取された高温精製空気がサンプリングガスとして分析計5の連続分析に供される。
【0036】
なお、排気連結管7を通じて主通路3内の高温精製空気が外部に流出されているが、排気連結管7を通じた大気の流入(逆流)はない。
【0037】
次に、ステップS103において、吸着材11のパージが完了したか否かが判定される。すなわち、高温精製空気を分析計5で連続分析すると、図5に示すように、高温精製空気に含まれる吸着成分の濃度が一旦上昇し、その後低下する。この低下中に吸着成分の濃度がゼロ付近の所定濃度X以下に達したら、その時点txでパージ完了と判定される。
【0038】
パージ完了と判定されない場合にはステップS102に戻ってパージが継続して実行され、パージ完了と判定された場合にはステップS104に進む。
【0039】
ステップS104では、排気連結管7が高温の精製空気(特に二次精製空気)によりパージされる。このときの精製空気の流れを図6に矢印Aで示す。このパージにより、排気連結管7の内壁に付着されていた排ガス成分が脱離排出され、排気連結管7の内部が浄化される。排気連結管7を通じた高温精製空気はそのまま大気開放される。
【0040】
この際、絞り弁25が図6に示すような半開位置、或いは全閉よりやや開いた位置に制御される。すると混合部6から主通路下流側への流量が少なくなることから、混合部6の圧力が上昇し、高温精製空気は排気連結管7を積極的に流れてパージするようになる。つまり流量バランスが主通路3側よりも排気連結管7側の方で多くなる。好ましくは、圧力センサ27で検出された圧力が、最良の流量バランスを得られるような混合部圧力に一致するよう、アクチュエータ26ひいては絞り弁25の開度がフィードバック制御される。
【0041】
また、このとき同時に、切替弁30が、抽出ライン28と連続ライン31を接続する排気側に切り替えられ、抽出ライン28から抽出された高温精製空気がサンプリングガスとして分析計5の連続分析に供される。
【0042】
次に、ステップS105において、排気連結管7のパージが完了したか否かが判定される。このときの判定方法はステップS103の吸着材11の場合と同じである。パージ完了と判定されない場合にはステップS104に戻ってパージが継続して実行され、パージ完了と判定された場合にはステップS106に進む。
【0043】
一方、ステップS103で吸着材11のパージ完了と判定された場合には、ステップS107でサンプリング装置4(CVS)のパージが並行して行われる。この際、切替弁23が、図2に示したような充填位置(Fill)、計測位置(Measure)および脱気位置(Dump)に所定時間毎に順次切り替えられ、絞り弁25を通過した後の高温精製空気のバッグ16への充填、分析計5への供給およびバッグ16から外部への脱気が順次繰り返し実行される(図6参照)。これにより、高温精製空気を用いたサンプリング装置4の各ガス通路の浄化が可能となる。このサンプリング装置4のパージはステップS108が開始されるまで実行される。なお、充填、計測および脱気の順序はこの順序に限られない
ステップS106では、空気精製機2が低温(具体的には常温)に設定される。すなわち、浄化部9の電気ヒ−タが継続してオンされ、冷却部10もオンされる。これにより電気ヒ−タによって400℃程度に加熱された空気は、酸化触媒で一次精製された後、冷却部10で冷却されて20℃程度の常温となり、吸着材11で二次精製されて排出される。
【0044】
次に、ステップS108において、サンプリング装置4(CVS)のパージが完了したか否かが判定される。この際、図7に示すように、絞り弁25が全開とされ、切替弁23が充填位置に切り替えられ、サンプリングガスとしての常温精製空気がサンプリングライン15からサンプリングバッグ16に所定時間充填される。また同様に、バックグラウンドガスとしての常温精製空気がバックグラウンドライン17からバックグラウンドバッグ18に同一時間充填される。
【0045】
その後、充填完了と同時に、切替弁23が計測位置に切り替えられ、サンプリングバッグ16内のサンプリングガスおよびバックグラウンドバッグ18内のバックグラウンドガスがそれぞれ分析計5に供される。そして前述の方法で両バッグ16,18内に含まれていた所定の排ガス成分の重量が計算ないし計測される。サンプリングバッグ16内に含まれていた排ガス成分の重量をサンプリング成分重量S、バックグラウンドバッグ18内に含まれていた排ガス成分の重量をバックグラウンド成分重量Bとする。
【0046】
仮に正常な状態であるとすれば両重量S,Bは等しい筈である。よってここでは、両重量S,Bの比較によりサンプリング装置4のパージが完了したか否かが判定される。具体的には、両重量の差の絶対値|S−B|が、ゼロより僅かに大きい所定値α以下であるか否か、すなわち|S−B|≦αが成立しているか否かが判断される。
【0047】
|S−B|≦αが成立している場合、サンプリング装置4のパージは完了したと判定され、ステップS109に進む。他方、|S−B|≦αが成立していない場合、サンプリング装置4のパージは完了していないと判定され、ステップS113に進む。
【0048】
サンプリング装置4のパージが完了したと判定され、ステップS109に至ると、空気精製機2の診断が実行され、すなわち空気精製機2が正常か否かが判定される。
すなわち、図8に示すように、バックグラウンド側の切替弁23Bが充填位置に切り替えられ、バックグラウンドガスとしての常温精製空気がバックグラウンドライン17からバックグラウンドバッグ18に所定時間充填される。その後、充填完了と同時に、切替弁23Bが計測位置に切り替えられ、バックグラウンドバッグ18内のバックグラウンドガスが分析計5に供され、前述の方法でバックグラウンド成分重量Bが計測される。
【0049】
バックグラウンド成分重量Bが、ゼロより僅かに大きい所定値β以下である場合、空気精製機2は正常と判定され、ステップS110に進む。
【0050】
他方、バックグラウンド成分重量Bが所定値βより大きい場合、空気精製機2から不純物が排出されているとみなされ、空気精製機2は正常でない(異常である)と判定される。この場合、ステップS111に進んで、図示しない警告装置が作動され、空気精製機2が異常である旨、具体的には空気精製機2の精製能力が低下した旨の警告が発出される。この際同時に、バックグラウンド成分重量B等の後の解析に必要なデータが制御装置の記憶装置に記憶(ロギング)される。この警告後、ステップS110に進む。
【0051】
ステップS110では、システム全体の診断が実行され、すなわちシステム全体が正常か否かが判定される。
すなわち、図9に示すように、較正ガス供給装置34が作動され、調節弁36で流量の調節された較正ガスCが混合部6に送られる。このとき、流量計35で測定された較正ガス流量が所定流量に一致するように、調節弁36がフィードバック制御される。なお分析計5側の弁(図示せず)が閉じられ、較正ガスは分析計5側に分岐せぬようになっている。
【0052】
較正ガス送出ライン37の出口は、バックグラウンドライン17の入口より下流側で且つ混合部6の出口直前に位置され、較正ガスの全量が下流側のサンプリング装置4に送られるように配置されている。これにより、排気連結管7を通じて大気に排出される常温精製空気の流れに較正ガスが混じること、すなわち較正ガスが大気に排出されてしまうことが防止される。なお、このような較正ガスの漏れ出しを確実に防止するため、追加の遮断弁で排気連結管7を閉じるようにしても良い。
【0053】
この状態で、切替弁23が充填位置に切り替えられ、較正ガスが混入した常温精製空気がサンプリングガスとしてサンプリングライン15からサンプリングバッグ16に所定時間充填される。また同様に、較正ガスが混入していない常温精製空気がバックグラウンドガスとしてバックグラウンドライン17からバックグラウンドバッグ18に同一時間充填される。
【0054】
その後、充填完了と同時に、切替弁23が計測位置に切り替えられ、サンプリングバッグ16内のサンプリングガスおよびバックグラウンドバッグ18内のバックグラウンドガスがそれぞれ分析計5に供される。そして前述の方法で、両バッグ16,18についてのサンプリング成分重量Sおよびバックグラウンド成分重量Bがそれぞれ分析計5により計測される。
【0055】
仮に正常な状態であるとすれば、両重量の差S−Bは、供給された較正ガス量に対応した予め予定された重量となる筈である。よってここでは、両重量S,Bの比較によりシステム全体の診断がなされる。具体的には、両重量の差S−Bが予め定められた所定値γ付近にあるか否か、すなわちγ−δ≦S−B≦γ+δ(但しγは微小な所定値)が成立しているか否かが判断される。
【0056】
γ−δ≦S−B≦γ+δが成立している場合、システム全体は正常と判定され、処理が終了される。他方、γ−δ≦S−B≦γ+δが成立していない場合、システム全体は正常でない(異常である)と判定される。この場合、ステップS112に進んで、前記同様、図示しない警告装置が作動され、システム全体が異常である旨警告される。この際同時に、重量差S−B、較正ガスの量および成分比等の後の解析に必要なデータが制御装置の記憶装置に記憶(ロギング)される。この警告後、処理が終了される。
【0057】
なお、システム全体が異常とされる理由として、前述の汚れ等のほか、例えば較正ガスの漏れに起因した較正ガス回収率の低下、ノイズレベルの悪化、応答性悪化等がある。一方、排ガス計測前の前処理が実施された後、直ちに排ガス計測に移行することが可能であるが、この場合、排ガス計測対象の自動車の排ガスエミッションレベルに合わせて、較正ガスの量、流量若しくは成分濃度を設定するのが好ましい。例えば排ガスエミッションが少ない車両であれば較正ガスの量等を少なくし、排ガスエミッションが多い車両であれば較正ガスの量等を多くするが如きである。
【0058】
本実施形態では、いずれかの異常が検出された場合であっても前処理を全て終了させ、その後の排ガス計測を許容しているが、代替的に、いずれかの異常が検出された場合にはその時点で前処理を終了したり、その後の排ガス計測を禁止したりしてもよい。
【0059】
ところで、ステップS108でサンプリング装置4(CVS)のパージが完了していないと判定された場合、ステップS113に至り、サンプリング装置4の追加パージが所定回終了したか否かが判断される。所定回は1回以上、例えば2回である。なおステップS107のサンプリング装置4のパージは追加パージではないので、1回にカウントされない。
【0060】
サンプリング装置4の追加パージが所定回終了していない場合、ステップS114に進んで、ステップS107と同様の方法で、サンプリング装置4の追加パージが1回実行される。但しこのときにはステップS107と異なり、常温の精製空気が用いられる。この後ステップS108に戻って再びサンプリング装置4のパージが完了したか否かが判定される。
これでもなおサンプリング装置4のパージが完了していないと判定された場合、再びステップS113において、サンプリング装置4の追加パージが所定回終了したか否かが判断される。そして所定回終了していなければステップS114で更なる追加パージが実行される。このようにステップS108でサンプリング装置4のパージが完了したと判定されない場合、最大で所定回、サンプリング装置4の追加パージが繰り返し実行される。
【0061】
他方、ステップS113でサンプリング装置4の追加パージが所定回終了したと判断された場合、ステップS115に進む。この場合は、追加パージを所定回実行したにも拘わらずなおサンプリング成分重量Sとバックグラウンド成分重量Bとが比較的大きく異なっている場合に該当する。よって何等かの異常、例えばサンプリング装置4のガス通路がパージで浄化できないほど著しく汚れていることなどが懸念される。
【0062】
一方これとは別に、主通路3内に大気の混入或いは漏れ込みがあると、大気中の不純物によってサンプリング成分重量Sがバックグラウンド成分重量Bより大きくなることがある。よってまずこのような大気漏れ込みの有無を確認ないし判定する。
【0063】
すなわち、ステップS115において、図10に示すように、空気切替弁33が開位置すなわち大気導入側に切り替えられる。これにより主通路3内には大気導入口32から大気が導入される。なおこれと同期して空気精製機2のブロワ8が停止されてもよい。
【0064】
そして、ステップS116において、通常状態において主通路3内への大気の漏れ込みがあるか否かが判断される。すなわち、切替弁23が充填位置に切り替えられ、サンプリングガスとしての大気がサンプリングライン15からサンプリングバッグ16に所定時間充填される。また同様に、バックグラウンドガスとしての大気がバックグラウンドライン17からバックグラウンドバッグ18に同一時間充填される。
【0065】
その後、充填完了と同時に、切替弁23が計測位置に切り替えられ、サンプリングバッグ16内のサンプリングガスおよびバックグラウンドバッグ18内のバックグラウンドガスがそれぞれ分析計5に供される。そして前述の方法で両バッグ16,18内に含まれていた所定の排ガス成分の重量が計算ないし計測される。
【0066】
もし仮に、サンプリング成分重量Sとバックグラウンド成分重量Bとの相違の原因が大気の漏れ込みである場合には、大気を導入したときにサンプリング成分重量Sとバックグラウンド成分重量Bとは等しくなる筈である。逆に大気を導入しても、サンプリング成分重量Sとバックグラウンド成分重量Bとが等しくならなければ、これらの相違の原因は大気の漏れ込みではなく、サンプリング装置4のガス通路の汚れであると推測できる。
【0067】
よってこのような観点から、ステップS116では、サンプリング成分重量Sとバックグラウンド成分重量Bとの比較により、主通路3内への大気の漏れ込みがあるか否かが判定される。具体的には、両重量の差の絶対値|S−B|が、ゼロより僅かに大きい所定値ε以下であるか否か、すなわち|S−B|≦εが成立しているか否かが判断される。
【0068】
|S−B|≦εが成立している場合、主通路3内への大気の漏れ込みがあると判定され、ステップS117でその旨が警告装置により警告される。この際同時に、重量差S−B等の後の解析に必要なデータが制御装置の記憶装置に記憶(ロギング)される。この警告後、ステップS109に移行する。
【0069】
他方、|S−B|≦εが成立していない場合、サンプリング装置4のガス通路に顕著な汚れがあると判定され、ステップS118でその旨が警告装置により警告される。この際にも同時に、重量差S−B等の後の解析に必要なデータが制御装置の記憶装置に記憶(ロギング)される。この警告後、ステップS109に移行する。
【0070】
このように本実施形態によれば、排ガス成分計測前の前処理によって、システム内に蓄積した不純物を予め除去したり、大気のシステム内への漏れ込みを予め確認したり、システムの部分或いは全体を予め診断したりすることなどが可能である。従ってシステムの状態を十分確認した上で排ガス成分計測を実行でき、計測精度を著しく高めることができる。
【0071】
また、上記前処理を一括管理して自動的に行えるので、効率化および人為的ミス削減を図ることができる。すなわち、近年では排ガスの低エミッション化、計測成分の多様化、多種燃料化等によりシステムへの機能追加が進んでおり、前処理の工程も益々煩雑化、複雑化してきている。よってこれを人為的に行おうとすれば自ずとミスに繋がり易い。本実施形態ではこれを自動的に行うので、人為的ミスを大幅に削減でき、その結果高い信頼性のある計測結果を得ることが可能である。
【0072】
加えて、上記の順序で各工程を実行することで、各工程の精度を向上し、且つ短時間で実行可能となる。例えば、高温精製空気を用いて吸着材11のパージと排気連結管7のパージとを連続して行うので、空気精製機2の温度設定を徒に変更しないで済み、時間およびエネルギを節減できる。また、各診断結果を一定条件の下で得られるので、各診断結果に基づく情報からの判断を的確に行うことが出来るようになる。
【0073】
以上、本発明の好適実施形態について説明したが、本発明の実施形態は他にも様々なものが考えられる。
【0074】
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0075】
1 排ガス計測システム
2 空気精製機
3 主通路
4 サンプリング装置
5 分析計
6 混合部
7 排気連結管
11 吸着材
34 較正ガス供給装置
【技術分野】
【0001】
本発明は排ガス計測システムに係り、特に、自動車のエンジンから排出される排ガス中の成分を計測する排ガス計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジン排ガスに含まれる炭化水素HC、窒素酸化物NOx、一酸化炭素CO、二酸化炭素CO2などの成分を計測する排ガス計測システムとして、従来より、シャシダイナモ装置に搭載された自動車を走行モードにしたがって運転し、このモードの最中に排出される排ガスを、空気により希釈して定容量サンプリング装置によって採取し、この採取されたサンプリングガスを、計測原理の異なる複数のガス分析計に供給して前記各成分をそれぞれ計測するものがある。
【0003】
例えば特許文献1には、複数の計測を自動(無人)で続けて実行するとともに、自動車排ガス測定管理装置の動作状況を一覧表示する自動車排ガス測定システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−71524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年では自動車の排ガス規制がますます厳しくなりつつあり、計測対象となる成分が排気ガスにほとんど含まれなくなってきている。また燃料の多様化(例えばアルコール燃料の使用)、未規制成分を含めた計測成分の多様化(例えば温室効果ガスの一種である亜酸化窒素N2OやアンモニアNH3の計測)といった実状も存在する。
【0006】
かかる現状の中で、計測精度の益々の高度化が要求されている。例えば、大気中の空気をそのまま希釈空気として用いると大気中のHC、CO、NOxといった不純物の影響を受けて、高い計測精度を確保できない。このため、希釈空気を空気精製機により精製し、大気中の不純物を除去してから希釈空気として用いることがなされている。
【0007】
しかしながら、排ガス計測システム内に不純物が蓄積している場合があり、低濃度の計測成分を高精度で計測するためには、これら不純物を計測前に予め除去しておくことが望ましい。また、いずれかの箇所から大気がシステム内に漏れ込むと、大気中の不純物も併せて計測されてしまうため、このような漏れ込みの有無を計測前に予め確認しておくのが望ましい。さらに、システムの部分或いは全体に異常があるか否か、計測前に予め診断しておくのが望ましい。さらに、これらの前処理および動作を一括管理して自動的に行い、効率化および人為的ミス削減を図るのが望ましい。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その一の目的は、排ガス成分計測前に適切な前処理を行い、これにより排ガス成分計測時の計測精度を高め得る排ガス計測システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一形態によれば、
エンジンの排ガスを、空気精製機により生成された精製空気により希釈してサンプリングガスを生成すると共に、精製空気をバックグラウンドガスとし、これらサンプリングガスとバックグラウンドガスをサンプリング装置により採取し、この採取されたサンプリングガスとバックグラウンドガスに基づき排ガス成分を計測する排ガス計測システムにおいて、
排ガス成分計測前の前処理を実行する前処理実行手段を備え、該前処理実行手段が、
前記空気精製機に設けられ所定の排ガス成分を吸着する吸着材を、高温の精製空気によりパージする第1のパージ手段と、
該第1のパージ手段によるパージ後、エンジンの排ガスを導入するための排気連結管を、高温の精製空気によりパージする第2のパージ手段と、
該第2のパージ手段によるパージと並行して前記サンプリング装置を高温の精製空気によりパージする第3のパージ手段と、
前記第2および第3のパージ手段によるパージ後、低温の精製空気をサンプリングガスおよびバックグラウンドガスとして用いて、前記第3のパージ手段による前記サンプリング装置のパージが完了したか否かを判定する判定手段と、
該判定手段によるパージ完了判定後、低温の精製空気をバックグラウンドガスとして用いて前記空気精製機の診断を行う第1の診断手段と、
該第1の診断手段による診断後、較正ガスが混入された低温の精製空気をサンプリングガスとして用い、較正ガスが混入されていない低温の精製空気をバックグラウンドガスとして用いて、システム全体の診断を行う第2の診断手段と、を備える
ことを特徴とする排ガス計測システムが提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、排ガス成分計測前に適切な前処理を行い、これにより排ガス成分計測時の計測精度を高めることができるという、優れた効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る排ガス計測システムを示す概略図である。
【図2】サンプリング装置の詳細を示す図である。
【図3】本実施形態に係る前処理のフローチャートである。
【図4】吸着材パージ工程のガスの流れを示す図である。
【図5】パージ完了判定の方法を説明するためのグラフである。
【図6】排気連結管およびサンプリング装置のパージ工程のガスの流れを示す図である。
【図7】サンプリング装置のパージ完了判定時のガスの流れを示す図である。
【図8】空気精製機の診断時のガスの流れを示す図である。
【図9】システム全体の診断時のガスの流れを示す図である。
【図10】大気漏れ込み判定時のガスの流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を説明する。
【0013】
図1に、本発明の実施形態に係る排ガス計測システムを示す。排ガス計測システム1は、空気精製機2、主通路3、サンプリング装置4および分析計5を備える。主通路3の中間部に位置する混合部6には、自動車(図示せず)のエンジンの排ガスを主通路3内に導入するための排気連結管7が接続されている。
【0014】
空気精製機2は、大気を導入して精製した後、精製空気を主通路3に排出するもので、上流側から順にブロワ8、浄化部9、冷却部10および吸着材11を備えてなる。浄化部9は上流側の電気ヒータと下流側の酸化触媒からなる。排ガス成分の計測時、ブロワ8で吸引及び圧送された大気は、電気ヒ−タによって400℃程度の高温に加熱され、酸化触媒を通過する。酸化触媒を通過する際、大気中のHC,COが完全燃焼されてCO2となり、大気は一次精製される。この一次精製された大気は、水冷式の冷却器を備えた冷却部10により常温程度の低温に冷却され、活性炭を含む吸着材11を通過してNOx(特にNO)が除去され、二次精製された後、主通路3に排出される。
【0015】
排ガス成分の計測時、排気連結管7には図示しない自動車の排気管(テールパイプ)が接続され、自動車が図示しないダイナモメータ上でモード走行を行っている最中、排ガスEが排気連結管7を通じて主通路3に導入される。導入された排ガスは、混合部6において、空気精製機2から送出された精製空気と混合され、希釈される。
【0016】
こうして出来た希釈ガスは下流側のサンプリング装置4に送られる。このとき、下流端のブロワ12が希釈ガスを吸引して排気路13に排出する。ブロワ12の上流側に位置するベンチュリ14(CFV:クリチカルフローベンチュリ)が希釈ガスの流量を一定にする。このようにサンプリング装置4はCVS(コンスタント・ボリューム・サンプラー)をなしている。
【0017】
ベンチュリ14の直前位置で、希釈ガスがサンプリングガスとして採取され、自動車のモード走行の最中、サンプリングライン15を通ってサンプリングバッグ16に溜められる。
【0018】
他方、混合部6の上流側で、精製空気がバッググラウンドガスとして採取され、自動車のモード走行の最中、バックグラウンドライン17を通ってバックグラウンドバッグ18に溜められる。
【0019】
自動車のモード走行が終了すると、これら溜められたサンプリングガスおよびバッググラウンドガスに基づき、分析計5により、排ガス成分が計測ないし分析される。分析計5は、計測原理の異なる複数のガス分析計を搭載しており、排ガス中に含まれるHC、NOx 、CO、CO2 などの各成分を個別に計測可能である。
【0020】
具体的には、バッグ16に溜められたサンプリングガスが分析計5に送られ、サンプリングガス中の特定成分の濃度と、サンプリングガス自体の体積とから、当該サンプリングガスに含まれる特定成分の重量が分析計5により算出される。同様に、バッグ18に溜められたバックグラウンドガスが分析計5に送られ、バックグラウンドガス中の特定成分の濃度と、バックグラウンドガス自体の体積とから、当該バックグラウンドガスに含まれる特定成分の重量が分析計5により算出される。前者から後者を差し引いて、1モード走行当たりに排出された特定成分の重量が分析計5により計測される。
【0021】
なお、この排ガス計測システム1にあっては、下流側ブロワ12によって引き込まれるガス量よりも多くのガスが上流側ブロワ8によって圧送される。空気精製機2の出口と主通路3の入口との間に僅かな隙間19が設けられ、余剰の精製空気ないし過剰圧力を大気に開放するようになっている。20は主通路3に設けられたフィルタであり、このフィルタ20内部でバッググラウンドガスが採取される。
【0022】
図2に示すように、サンプリングガスは、主通路3内の採取口21からサンプリングライン15に導入ブロワ22によって導入され、四方電磁弁からなる切替弁23を通過してサンプリングバッグ16に充填される。このとき切替弁23は充填位置(Fill)にある。そして切替弁23が計測位置(Measure)に切り替えられると、サンプリングバッグ16に充填されていたサンプリングガスが、分析計5に装備されたポンプによって吸い込まれ、分析計5に送られる。他方、切替弁23が脱気位置(Dump)に切り替えられると、同時に脱気ブロワ24が作動され、サンプリングバッグ16に充填されていたサンプリングガスが外部に排出される。
【0023】
この点はバックグラウンド側についても同様である。図1に、サンプリング側についてはSの添字を、バックグラウンド側についてはBの添字を付して各要素を示す。
【0024】
ところで、かかる排ガス計測システム1にあっては計測精度を高めるのが本来望ましい。このため、排ガス計測前に、例えばシステム内に蓄積した不純物を予め除去したり、大気のシステム内への漏れ込みを予め確認したり、システムの部分或いは全体を予め診断したりするのが望ましい。さらには、これらの前処理ないし動作を一括管理して自動的に行い、効率化および人為的ミス削減を図るのが望ましい。
【0025】
そこで本実施形態は、これらを実現するため、以下の如く構成され且つ作動するようになっている。
【0026】
まず図1に示すように、主通路3はL字状に折れ曲がって鉛直部の最下部に混合部6が形成されているが、この混合部6の出口部に、当該出口部を絞るための絞り弁25が設けられている。絞り弁25はアクチュエータ26により開閉作動され、通常は図1に示す如く全開状態となっている。また混合部6の圧力を検出する圧力センサ27が併設されている。
【0027】
次に、排気連結管7を流れるガスを抽出する抽出ライン28が設けられる。抽出ライン28は、自動車の排気管への接続部分となる排気連結管7の先端部にその抽出口を有する。
【0028】
他方、混合部6の下流側における主通路3の水平部、具体的には採取口21の直前位置からガスを採取して送る採取ライン29が設けられる。抽出ライン28と採取ライン29は、三方電磁弁からなる切替弁30を介して、分析計5の連続分析に供される連続ライン31に接続される。
【0029】
さらに、主通路3におけるフィルタ20の上流側には、大気を主通路3内に導入するための大気導入口32が設けられ、この大気導入口32には、下流側に送る希釈空気を大気と精製空気とにそれぞれ切り替える空気切替弁33が設けられる。空気切替弁33は通常図示するような閉位置すなわち精製空気導入側に切り替えられている。
【0030】
また、既知濃度の各排ガス成分を含む較正ガス(スパンガス)を供給する較正ガス供給装置34、供給された較正ガスの流量を測定する流量計35、較正ガスの流量を調節する調節弁36、および流量を調節された較正ガスを主通路3の混合部6内に送る較正ガス送出ライン37が設けられる。なお、較正ガス供給装置34から供給された較正ガスは、分析計5の較正のため、分析計5にも送れるようになっている。
【0031】
そして図示しないが、システム1の各要素を一括制御する制御装置が設けられている。
【0032】
この排ガス計測システム1にあっては、排ガス成分の計測前に、制御装置により予め定められたプログラムに従って、次のような前処理が実行される。この前処理の手順を図3に示す。なお前処理実行時には排気連結管7に自動車の排気管は接続されておらず、排気連結管7は大気開放状態となっている。
【0033】
図3に示すように、最初のステップS101では、空気精製機2が高温に設定される。すなわち、浄化部9の電気ヒ−タがオンされ、冷却部10がオフされる。これにより空気を電気ヒ−タによって400℃程度の高温まで加熱し、冷却部10で冷却することなく、高温状態で排出可能となる。なおこのときブロワ8,12がオンされ、精製空気が主通路3を流される。
【0034】
次にステップS102において、空気精製機2の吸着材11が、高温の精製空気(特に一次精製空気)によりパージされる。このときの空気の流れを図4に矢印Aで示す。このパージにより、吸着材11に吸着されていた排ガス成分(特にNOx)が脱離排出され、吸着材11が浄化される。
【0035】
このとき同時に、切替弁30が、採取ライン29と連続ライン31を接続するサンプリング側に切り替えられ、採取ライン29から採取された高温精製空気がサンプリングガスとして分析計5の連続分析に供される。
【0036】
なお、排気連結管7を通じて主通路3内の高温精製空気が外部に流出されているが、排気連結管7を通じた大気の流入(逆流)はない。
【0037】
次に、ステップS103において、吸着材11のパージが完了したか否かが判定される。すなわち、高温精製空気を分析計5で連続分析すると、図5に示すように、高温精製空気に含まれる吸着成分の濃度が一旦上昇し、その後低下する。この低下中に吸着成分の濃度がゼロ付近の所定濃度X以下に達したら、その時点txでパージ完了と判定される。
【0038】
パージ完了と判定されない場合にはステップS102に戻ってパージが継続して実行され、パージ完了と判定された場合にはステップS104に進む。
【0039】
ステップS104では、排気連結管7が高温の精製空気(特に二次精製空気)によりパージされる。このときの精製空気の流れを図6に矢印Aで示す。このパージにより、排気連結管7の内壁に付着されていた排ガス成分が脱離排出され、排気連結管7の内部が浄化される。排気連結管7を通じた高温精製空気はそのまま大気開放される。
【0040】
この際、絞り弁25が図6に示すような半開位置、或いは全閉よりやや開いた位置に制御される。すると混合部6から主通路下流側への流量が少なくなることから、混合部6の圧力が上昇し、高温精製空気は排気連結管7を積極的に流れてパージするようになる。つまり流量バランスが主通路3側よりも排気連結管7側の方で多くなる。好ましくは、圧力センサ27で検出された圧力が、最良の流量バランスを得られるような混合部圧力に一致するよう、アクチュエータ26ひいては絞り弁25の開度がフィードバック制御される。
【0041】
また、このとき同時に、切替弁30が、抽出ライン28と連続ライン31を接続する排気側に切り替えられ、抽出ライン28から抽出された高温精製空気がサンプリングガスとして分析計5の連続分析に供される。
【0042】
次に、ステップS105において、排気連結管7のパージが完了したか否かが判定される。このときの判定方法はステップS103の吸着材11の場合と同じである。パージ完了と判定されない場合にはステップS104に戻ってパージが継続して実行され、パージ完了と判定された場合にはステップS106に進む。
【0043】
一方、ステップS103で吸着材11のパージ完了と判定された場合には、ステップS107でサンプリング装置4(CVS)のパージが並行して行われる。この際、切替弁23が、図2に示したような充填位置(Fill)、計測位置(Measure)および脱気位置(Dump)に所定時間毎に順次切り替えられ、絞り弁25を通過した後の高温精製空気のバッグ16への充填、分析計5への供給およびバッグ16から外部への脱気が順次繰り返し実行される(図6参照)。これにより、高温精製空気を用いたサンプリング装置4の各ガス通路の浄化が可能となる。このサンプリング装置4のパージはステップS108が開始されるまで実行される。なお、充填、計測および脱気の順序はこの順序に限られない
ステップS106では、空気精製機2が低温(具体的には常温)に設定される。すなわち、浄化部9の電気ヒ−タが継続してオンされ、冷却部10もオンされる。これにより電気ヒ−タによって400℃程度に加熱された空気は、酸化触媒で一次精製された後、冷却部10で冷却されて20℃程度の常温となり、吸着材11で二次精製されて排出される。
【0044】
次に、ステップS108において、サンプリング装置4(CVS)のパージが完了したか否かが判定される。この際、図7に示すように、絞り弁25が全開とされ、切替弁23が充填位置に切り替えられ、サンプリングガスとしての常温精製空気がサンプリングライン15からサンプリングバッグ16に所定時間充填される。また同様に、バックグラウンドガスとしての常温精製空気がバックグラウンドライン17からバックグラウンドバッグ18に同一時間充填される。
【0045】
その後、充填完了と同時に、切替弁23が計測位置に切り替えられ、サンプリングバッグ16内のサンプリングガスおよびバックグラウンドバッグ18内のバックグラウンドガスがそれぞれ分析計5に供される。そして前述の方法で両バッグ16,18内に含まれていた所定の排ガス成分の重量が計算ないし計測される。サンプリングバッグ16内に含まれていた排ガス成分の重量をサンプリング成分重量S、バックグラウンドバッグ18内に含まれていた排ガス成分の重量をバックグラウンド成分重量Bとする。
【0046】
仮に正常な状態であるとすれば両重量S,Bは等しい筈である。よってここでは、両重量S,Bの比較によりサンプリング装置4のパージが完了したか否かが判定される。具体的には、両重量の差の絶対値|S−B|が、ゼロより僅かに大きい所定値α以下であるか否か、すなわち|S−B|≦αが成立しているか否かが判断される。
【0047】
|S−B|≦αが成立している場合、サンプリング装置4のパージは完了したと判定され、ステップS109に進む。他方、|S−B|≦αが成立していない場合、サンプリング装置4のパージは完了していないと判定され、ステップS113に進む。
【0048】
サンプリング装置4のパージが完了したと判定され、ステップS109に至ると、空気精製機2の診断が実行され、すなわち空気精製機2が正常か否かが判定される。
すなわち、図8に示すように、バックグラウンド側の切替弁23Bが充填位置に切り替えられ、バックグラウンドガスとしての常温精製空気がバックグラウンドライン17からバックグラウンドバッグ18に所定時間充填される。その後、充填完了と同時に、切替弁23Bが計測位置に切り替えられ、バックグラウンドバッグ18内のバックグラウンドガスが分析計5に供され、前述の方法でバックグラウンド成分重量Bが計測される。
【0049】
バックグラウンド成分重量Bが、ゼロより僅かに大きい所定値β以下である場合、空気精製機2は正常と判定され、ステップS110に進む。
【0050】
他方、バックグラウンド成分重量Bが所定値βより大きい場合、空気精製機2から不純物が排出されているとみなされ、空気精製機2は正常でない(異常である)と判定される。この場合、ステップS111に進んで、図示しない警告装置が作動され、空気精製機2が異常である旨、具体的には空気精製機2の精製能力が低下した旨の警告が発出される。この際同時に、バックグラウンド成分重量B等の後の解析に必要なデータが制御装置の記憶装置に記憶(ロギング)される。この警告後、ステップS110に進む。
【0051】
ステップS110では、システム全体の診断が実行され、すなわちシステム全体が正常か否かが判定される。
すなわち、図9に示すように、較正ガス供給装置34が作動され、調節弁36で流量の調節された較正ガスCが混合部6に送られる。このとき、流量計35で測定された較正ガス流量が所定流量に一致するように、調節弁36がフィードバック制御される。なお分析計5側の弁(図示せず)が閉じられ、較正ガスは分析計5側に分岐せぬようになっている。
【0052】
較正ガス送出ライン37の出口は、バックグラウンドライン17の入口より下流側で且つ混合部6の出口直前に位置され、較正ガスの全量が下流側のサンプリング装置4に送られるように配置されている。これにより、排気連結管7を通じて大気に排出される常温精製空気の流れに較正ガスが混じること、すなわち較正ガスが大気に排出されてしまうことが防止される。なお、このような較正ガスの漏れ出しを確実に防止するため、追加の遮断弁で排気連結管7を閉じるようにしても良い。
【0053】
この状態で、切替弁23が充填位置に切り替えられ、較正ガスが混入した常温精製空気がサンプリングガスとしてサンプリングライン15からサンプリングバッグ16に所定時間充填される。また同様に、較正ガスが混入していない常温精製空気がバックグラウンドガスとしてバックグラウンドライン17からバックグラウンドバッグ18に同一時間充填される。
【0054】
その後、充填完了と同時に、切替弁23が計測位置に切り替えられ、サンプリングバッグ16内のサンプリングガスおよびバックグラウンドバッグ18内のバックグラウンドガスがそれぞれ分析計5に供される。そして前述の方法で、両バッグ16,18についてのサンプリング成分重量Sおよびバックグラウンド成分重量Bがそれぞれ分析計5により計測される。
【0055】
仮に正常な状態であるとすれば、両重量の差S−Bは、供給された較正ガス量に対応した予め予定された重量となる筈である。よってここでは、両重量S,Bの比較によりシステム全体の診断がなされる。具体的には、両重量の差S−Bが予め定められた所定値γ付近にあるか否か、すなわちγ−δ≦S−B≦γ+δ(但しγは微小な所定値)が成立しているか否かが判断される。
【0056】
γ−δ≦S−B≦γ+δが成立している場合、システム全体は正常と判定され、処理が終了される。他方、γ−δ≦S−B≦γ+δが成立していない場合、システム全体は正常でない(異常である)と判定される。この場合、ステップS112に進んで、前記同様、図示しない警告装置が作動され、システム全体が異常である旨警告される。この際同時に、重量差S−B、較正ガスの量および成分比等の後の解析に必要なデータが制御装置の記憶装置に記憶(ロギング)される。この警告後、処理が終了される。
【0057】
なお、システム全体が異常とされる理由として、前述の汚れ等のほか、例えば較正ガスの漏れに起因した較正ガス回収率の低下、ノイズレベルの悪化、応答性悪化等がある。一方、排ガス計測前の前処理が実施された後、直ちに排ガス計測に移行することが可能であるが、この場合、排ガス計測対象の自動車の排ガスエミッションレベルに合わせて、較正ガスの量、流量若しくは成分濃度を設定するのが好ましい。例えば排ガスエミッションが少ない車両であれば較正ガスの量等を少なくし、排ガスエミッションが多い車両であれば較正ガスの量等を多くするが如きである。
【0058】
本実施形態では、いずれかの異常が検出された場合であっても前処理を全て終了させ、その後の排ガス計測を許容しているが、代替的に、いずれかの異常が検出された場合にはその時点で前処理を終了したり、その後の排ガス計測を禁止したりしてもよい。
【0059】
ところで、ステップS108でサンプリング装置4(CVS)のパージが完了していないと判定された場合、ステップS113に至り、サンプリング装置4の追加パージが所定回終了したか否かが判断される。所定回は1回以上、例えば2回である。なおステップS107のサンプリング装置4のパージは追加パージではないので、1回にカウントされない。
【0060】
サンプリング装置4の追加パージが所定回終了していない場合、ステップS114に進んで、ステップS107と同様の方法で、サンプリング装置4の追加パージが1回実行される。但しこのときにはステップS107と異なり、常温の精製空気が用いられる。この後ステップS108に戻って再びサンプリング装置4のパージが完了したか否かが判定される。
これでもなおサンプリング装置4のパージが完了していないと判定された場合、再びステップS113において、サンプリング装置4の追加パージが所定回終了したか否かが判断される。そして所定回終了していなければステップS114で更なる追加パージが実行される。このようにステップS108でサンプリング装置4のパージが完了したと判定されない場合、最大で所定回、サンプリング装置4の追加パージが繰り返し実行される。
【0061】
他方、ステップS113でサンプリング装置4の追加パージが所定回終了したと判断された場合、ステップS115に進む。この場合は、追加パージを所定回実行したにも拘わらずなおサンプリング成分重量Sとバックグラウンド成分重量Bとが比較的大きく異なっている場合に該当する。よって何等かの異常、例えばサンプリング装置4のガス通路がパージで浄化できないほど著しく汚れていることなどが懸念される。
【0062】
一方これとは別に、主通路3内に大気の混入或いは漏れ込みがあると、大気中の不純物によってサンプリング成分重量Sがバックグラウンド成分重量Bより大きくなることがある。よってまずこのような大気漏れ込みの有無を確認ないし判定する。
【0063】
すなわち、ステップS115において、図10に示すように、空気切替弁33が開位置すなわち大気導入側に切り替えられる。これにより主通路3内には大気導入口32から大気が導入される。なおこれと同期して空気精製機2のブロワ8が停止されてもよい。
【0064】
そして、ステップS116において、通常状態において主通路3内への大気の漏れ込みがあるか否かが判断される。すなわち、切替弁23が充填位置に切り替えられ、サンプリングガスとしての大気がサンプリングライン15からサンプリングバッグ16に所定時間充填される。また同様に、バックグラウンドガスとしての大気がバックグラウンドライン17からバックグラウンドバッグ18に同一時間充填される。
【0065】
その後、充填完了と同時に、切替弁23が計測位置に切り替えられ、サンプリングバッグ16内のサンプリングガスおよびバックグラウンドバッグ18内のバックグラウンドガスがそれぞれ分析計5に供される。そして前述の方法で両バッグ16,18内に含まれていた所定の排ガス成分の重量が計算ないし計測される。
【0066】
もし仮に、サンプリング成分重量Sとバックグラウンド成分重量Bとの相違の原因が大気の漏れ込みである場合には、大気を導入したときにサンプリング成分重量Sとバックグラウンド成分重量Bとは等しくなる筈である。逆に大気を導入しても、サンプリング成分重量Sとバックグラウンド成分重量Bとが等しくならなければ、これらの相違の原因は大気の漏れ込みではなく、サンプリング装置4のガス通路の汚れであると推測できる。
【0067】
よってこのような観点から、ステップS116では、サンプリング成分重量Sとバックグラウンド成分重量Bとの比較により、主通路3内への大気の漏れ込みがあるか否かが判定される。具体的には、両重量の差の絶対値|S−B|が、ゼロより僅かに大きい所定値ε以下であるか否か、すなわち|S−B|≦εが成立しているか否かが判断される。
【0068】
|S−B|≦εが成立している場合、主通路3内への大気の漏れ込みがあると判定され、ステップS117でその旨が警告装置により警告される。この際同時に、重量差S−B等の後の解析に必要なデータが制御装置の記憶装置に記憶(ロギング)される。この警告後、ステップS109に移行する。
【0069】
他方、|S−B|≦εが成立していない場合、サンプリング装置4のガス通路に顕著な汚れがあると判定され、ステップS118でその旨が警告装置により警告される。この際にも同時に、重量差S−B等の後の解析に必要なデータが制御装置の記憶装置に記憶(ロギング)される。この警告後、ステップS109に移行する。
【0070】
このように本実施形態によれば、排ガス成分計測前の前処理によって、システム内に蓄積した不純物を予め除去したり、大気のシステム内への漏れ込みを予め確認したり、システムの部分或いは全体を予め診断したりすることなどが可能である。従ってシステムの状態を十分確認した上で排ガス成分計測を実行でき、計測精度を著しく高めることができる。
【0071】
また、上記前処理を一括管理して自動的に行えるので、効率化および人為的ミス削減を図ることができる。すなわち、近年では排ガスの低エミッション化、計測成分の多様化、多種燃料化等によりシステムへの機能追加が進んでおり、前処理の工程も益々煩雑化、複雑化してきている。よってこれを人為的に行おうとすれば自ずとミスに繋がり易い。本実施形態ではこれを自動的に行うので、人為的ミスを大幅に削減でき、その結果高い信頼性のある計測結果を得ることが可能である。
【0072】
加えて、上記の順序で各工程を実行することで、各工程の精度を向上し、且つ短時間で実行可能となる。例えば、高温精製空気を用いて吸着材11のパージと排気連結管7のパージとを連続して行うので、空気精製機2の温度設定を徒に変更しないで済み、時間およびエネルギを節減できる。また、各診断結果を一定条件の下で得られるので、各診断結果に基づく情報からの判断を的確に行うことが出来るようになる。
【0073】
以上、本発明の好適実施形態について説明したが、本発明の実施形態は他にも様々なものが考えられる。
【0074】
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0075】
1 排ガス計測システム
2 空気精製機
3 主通路
4 サンプリング装置
5 分析計
6 混合部
7 排気連結管
11 吸着材
34 較正ガス供給装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排ガスを、空気精製機により生成された精製空気により希釈してサンプリングガスを生成すると共に、精製空気をバックグラウンドガスとし、これらサンプリングガスとバックグラウンドガスをサンプリング装置により採取し、この採取されたサンプリングガスとバックグラウンドガスに基づき排ガス成分を計測する排ガス計測システムにおいて、
排ガス成分計測前の前処理を実行する前処理実行手段を備え、該前処理実行手段が、
前記空気精製機に設けられ所定の排ガス成分を吸着する吸着材を、高温の精製空気によりパージする第1のパージ手段と、
該第1のパージ手段によるパージ後、エンジンの排ガスを導入するための排気連結管を、高温の精製空気によりパージする第2のパージ手段と、
該第2のパージ手段によるパージと並行して前記サンプリング装置を高温の精製空気によりパージする第3のパージ手段と、
前記第2および第3のパージ手段によるパージ後、低温の精製空気をサンプリングガスおよびバックグラウンドガスとして用いて、前記第3のパージ手段による前記サンプリング装置のパージが完了したか否かを判定する判定手段と、
該判定手段によるパージ完了判定後、低温の精製空気をバックグラウンドガスとして用いて前記空気精製機の診断を行う第1の診断手段と、
該第1の診断手段による診断後、較正ガスが混入された低温の精製空気をサンプリングガスとして用い、較正ガスが混入されていない低温の精製空気をバックグラウンドガスとして用いて、システム全体の診断を行う第2の診断手段と、を備える
ことを特徴とする排ガス計測システム。
【請求項1】
エンジンの排ガスを、空気精製機により生成された精製空気により希釈してサンプリングガスを生成すると共に、精製空気をバックグラウンドガスとし、これらサンプリングガスとバックグラウンドガスをサンプリング装置により採取し、この採取されたサンプリングガスとバックグラウンドガスに基づき排ガス成分を計測する排ガス計測システムにおいて、
排ガス成分計測前の前処理を実行する前処理実行手段を備え、該前処理実行手段が、
前記空気精製機に設けられ所定の排ガス成分を吸着する吸着材を、高温の精製空気によりパージする第1のパージ手段と、
該第1のパージ手段によるパージ後、エンジンの排ガスを導入するための排気連結管を、高温の精製空気によりパージする第2のパージ手段と、
該第2のパージ手段によるパージと並行して前記サンプリング装置を高温の精製空気によりパージする第3のパージ手段と、
前記第2および第3のパージ手段によるパージ後、低温の精製空気をサンプリングガスおよびバックグラウンドガスとして用いて、前記第3のパージ手段による前記サンプリング装置のパージが完了したか否かを判定する判定手段と、
該判定手段によるパージ完了判定後、低温の精製空気をバックグラウンドガスとして用いて前記空気精製機の診断を行う第1の診断手段と、
該第1の診断手段による診断後、較正ガスが混入された低温の精製空気をサンプリングガスとして用い、較正ガスが混入されていない低温の精製空気をバックグラウンドガスとして用いて、システム全体の診断を行う第2の診断手段と、を備える
ことを特徴とする排ガス計測システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2010−276473(P2010−276473A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129241(P2009−129241)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]