説明

排便促進用組成物

【課題】より優れた排便促進作用を有する排便促進用組成物を提供すること。
【解決手段】式(I):R−X−R
〔式中、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1〜8の、直鎖又は分岐鎖のアルキル基、Xは式(II):


(式中、Yはビニレン基もしくはフェニレン基である)
で表される官能基、又はフェニレン環である〕
で表される化合物を含有してなる、排便促進用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は排便促進用組成物に関する。より詳しくは、特定の化合物を含有する排便促進用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活の欧米化に伴う食事の変化、慢性的な運動不足、社会的ストレスの増加等に伴い、便秘の症状に悩まされる人が増加している。便秘は女性や高齢者に多く認められ、その解消は大いに期待されるところである。便秘の主な解消方法としては、食生活の改善、軽い運動等による予防方法や改善方法の他、薬による治療方法が挙げられる。
【0003】
一方、アロマ製剤に用いられる天然精油により、覚醒、睡眠、食欲増進、食欲抑制などの効果がもたらされるとのことから、アロマテラピーが注目を集めている。特許文献1では、パチュリー油等の特定の精油を含有する便意促進用の香料組成物が開示されている。また、特許文献2では、パチュリー油及び食物繊維を含有する排便促進用経口組成物が開示されている。
【特許文献1】特開2003−105371号公報
【特許文献2】特開2006−273824号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び2では、用いた精油が排便促進作用という生理的作用を有するものであることを報告しているが、精油そのものには「香り」による心理的作用に関連する効果も大きく認められることから、より優れた排便促進作用を有する機能性芳香剤が望まれる。
【0005】
本発明の課題は、より優れた排便促進作用を有する排便促進用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、図書館のような古書がある場所では便意を催しやすくなるという生理現象に着目し、該生理現象を誘導する物質を特定することにより、下記の構造を有する化合物が排便促進作用に優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、式(I):
−X−R (I)
〔式中、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1〜8の、直鎖又は分岐鎖のアルキル基、Xは式(II):
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、Yはビニレン基もしくはフェニレン基である)
で表される官能基、又はフェニレン環である〕
で表される化合物を含有してなる、排便促進用組成物、に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の排便促進用組成物は、排便を促進することができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の排便促進用組成物は、式(I):
−X−R (I)
〔式中、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1〜8の、直鎖又は分岐鎖のアルキル基、Xは式(II):
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、Yはビニレン基もしくはフェニレン基である)
で表される官能基、又はフェニレン環である〕
で表される化合物を含有することに大きな特徴を有する。なお、本明細書において「排便促進用組成物」とは、食品のように摂取するのみならず、芳香をかぐだけでも、排便の促進作用を発揮できる組成物である。
【0014】
式(I)におけるR及びRは、それぞれ独立して、炭素数1〜8の、直鎖又は分岐鎖のアルキル基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、イソプロピル基、2−エチルヘキシル基、2−イソプロパニルペンタニル基、2,2−ジイソプロパニル基等が例示される。なかでも、入手方法が容易であること等から、ブチル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基が好ましく、R及びRのいずれもが、ブチル基、2−エチルヘキシル基、又はオクチル基であることがより好ましい。
【0015】
式(I)で表される化合物の好適例としては、式(III):
【0016】
【化3】

【0017】
で表される化合物(ジブチルマレイン酸)、式(IV):
【0018】
【化4】

【0019】
で表される化合物(ジオクチルマレイン酸)、式(V):
【0020】
【化5】

【0021】
で表される化合物〔ビス(2−エチルヘキシル)マレイン酸〕、式(VI):
【0022】
【化6】

【0023】
で表される化合物〔1,4−ビス(2−エチルヘキシル)ベンゼン〕、及び式(VII):
【0024】
【化7】

【0025】
で表される化合物〔ビス(2−エチルヘキシル)フタル酸〕が挙げられる。
【0026】
本発明の排便促進用組成物において、上記式(I)で表される化合物を単独で又は2種以上を適宜組合せて用いることができる。
【0027】
式(I)で表される化合物は、公知化合物、又は公知化合物から容易に誘導される化合物である。また、式(I)で表される化合物は、基本骨格や置換基の種類等に応じて、種々の公知の合成方法により製造することができる。
【0028】
例えば、式(III)で表される化合物は、マレイン酸1重量部に対して6重量部のブタノールを加えて混合後、前記混合物の総重量に対して、5%重量の脱水触媒〔濃硫酸、燐酸、スルファミン酸、p−トルエンスルホン酸無水物、イオン交換樹脂(Lewatit S 100、強酸型)等〕を添加して加熱還流することにより、分子内脱水縮合が行なわれて得ることができる(収率40〜65%)。
【0029】
本発明の排便促進用組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、上記式(I)で表される化合物以外に、該化合物と同じ用途に使用可能な他の成分、例えば公知の排便促進作用を有する精油や合成香料等(以下、公知の香料成分という)を配合してもよい。ただし、本発明の排便促進用組成物において、式(I)で表される化合物と公知の香料成分〔式(I)で表される化合物以外の香料成分〕の総量における式(I)で表される化合物の含有量は、好ましくは1重量%以上、より好ましくは10重量%以上、さらに好ましくは実質的に100重量%である。
【0030】
本発明の排便促進用組成物における式(I)で表される化合物の含有量は、該組成物の使用形態、期待される効果の程度、使用者の性別や年齢等によって一概には決定されず、通常0.1〜100重量%程度である。
【0031】
本発明の組成物は、式(I)で表される化合物を含有するものであれば、特に限定はなく、使用形態に応じて、担体、基材又は添加物等の他の成分を含有していてもよい。
【0032】
本発明の組成物は、式(I)で表される化合物が吸入され得る限り、その使用形態について特に限定はない。本発明の組成物の使用形態としては、芳香剤、吸入剤、食品、木工加工品等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
芳香剤としては、排便を促進する観点から、トイレ用芳香剤として用いることが好ましい。芳香剤の製品形態としては、固形状、半固形状(ゼリー状、ゲル状等)、液体状、エアゾール状等が例示されるが、特に限定はない。また、当該芳香剤は、式(I)で表される化合物を自然蒸散させることにより使用してもよく、ファンにより強制的に揮散させることにより使用してもよく、また該化合物を加熱により蒸散させてもよい。
【0034】
芳香剤は、式(I)で表される化合物を含有する限り、従来の芳香剤に使用されている公知の基剤、担体、添加剤等の他の成分を含有することができ、適宜、常法により製造することができる。基材としては、例えば、水、エタノール、固体又は液体の陰イオン性、陽イオン性、非イオン性活性剤、高分子剤、油脂、グアーガム、キサンタンガム、アラビアガム、ジェランガム、カラギーナン、ゼラチン、寒天、非水溶性溶剤、ろう、ワセリン、ラノリンが挙げられる。
【0035】
芳香剤における式(I)で表される化合物の含有量は、0.1〜99.9重量%が好ましく、1〜90重量%がより好ましい。
【0036】
吸入剤とは、式(I)で表される化合物を鼻付近で揮散又は鼻腔に適用させることにより該化合物を吸入させる製剤のことであり、その具体例としては点鼻薬、噴霧剤、吸入液、該化合物を担持させたマスク等が挙げられる。吸入剤は、式(I)で表される化合物を含有する限り、従来の吸入剤に使用されている公知の基剤、担体、添加剤等の他の成分を含有することができ、適宜、常法により製造することができる。また、吸入用の気体を使用する場合も従来の吸入剤に使用されている気体を使用することができる。
【0037】
吸入剤の投与量は、その投与方法、及び当該吸入剤の投与対象である患者の年齢、体重、症状によって適宜設定され一定ではない。また、投与は、所望の投与量範囲内において、1日内において単回で、又は数回に分けて行ってもよい。投与期間も任意である。
【0038】
食品としては、健康食品、病者用食品、特定保健用食品、栄養補助食品等が挙げられ、特に限定はないが、本発明の効果をより高める観点から、式(I)で表される化合物が口中に比較的長い時間留まり口腔粘膜を経由して吸入される形態のものや、口に入れる前に式(I)で表される化合物が揮散して鼻腔粘膜を経由して吸入される形態のものが好ましい。具体的には、ガム、茶、飲料、飴、タブレット、ゼリー、グミ等が挙げられる。前記食品は、式(I)で表される化合物を含有する限り、従来の食品に使用されている公知の基剤、担体、添加剤等の他の成分を含有することができ、適宜、常法により製造することができる。
【0039】
木工加工品としては、式(I)で表される化合物を含有する溶液を木工製品に塗工、含浸する等によって得られる形態のものが挙げられ、通常、該化合物を自然蒸散させることにより使用される。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0041】
[化合物の合成例1](ジブチルマレイン酸)
無水マレイン酸5g(0.043mol)を無水ベンゼン100mLに溶解した後、1−ブタノール9.56g(0.129mol)を加え、さらに、酸触媒としてスルファミン酸(NHSOH)0.97g(0.01mol)を添加して、加熱還流(90〜110℃)を2時間行なった。その後、減圧下にてベンゼンを留去し、酢酸エチルで抽出することにより、ジブチルマレイン酸を得た(収率62%)。なお、市販品を用いる場合には、東京化成工業社製を使用することができる。
【0042】
[化合物の合成例2](ジオクチルマレイン酸)
無水マレイン酸5g(0.043mol)を無水ベンゼン200mLに溶解した後、1−オクタノール16.80g(0.129mol)を加え、さらに、酸触媒としてスルファミン酸(NHSOH)1.46g(0.015mol)を添加して、加熱還流(90〜110℃)を4時間行なった。その後、減圧下にてベンゼンを留去し、酢酸エチルで抽出することにより、ジオクチルマレイン酸を得た(収率44%)。なお、市販品を用いる場合には、東京化成工業社製を使用することができる。
【0043】
[化合物の合成例3]〔ビス(2−エチルヘキシル)マレイン酸〕
無水マレイン酸5g(0.043mol)に2−エチル−1−ヘキサノール16.80g(0.129mol)を加え、さらに、酸触媒としてp−トルエンスルホン酸無水物1.72g(0.01mol)を添加した後、130〜140℃で3時間加熱し、酢酸エチルで抽出することにより、ビス(2−エチルヘキシル)マレイン酸を得た(収率38%)。なお、市販品を用いる場合には、東京化成工業社製を使用することができる。
【0044】
[化合物の合成例4]〔ビス(2−エチルヘキシル)フタル酸〕
無水フタル酸5g(0.030mol)に2−エチル−1−ヘキサノール11.72g(0.090mol)を加え、さらに、酸触媒としてp−トルエンスルホン酸無水物1.72g(0.01mol)を添加した後、130〜140℃で4時間加熱し、酢酸エチルで抽出することにより、ビス(2−エチルヘキシル)フタル酸を得た(収率34%)。なお、市販品を用いる場合には、シグマ−アルドリッチ社製を使用することができる。
【0045】
[試料溶液の調製]
以下の試料2.5gをジプロピレングリコール(和光純薬工業社製)に溶解して各試料溶液を50mLに調製した〔5%(w/v)濃度〕。なお、Sample1〜3、5は上記で合成したものを、Sample4はシグマ-アルドリッチ社製を使用した。
Sample1:ジブチルマレイン酸
Sample2:ジオクチルマレイン酸
Sample3:ビス(2−エチルヘキシル)マレイン酸
Sample4:1,4−ビス(2−エチルヘキシル)ベンゼン
Sample5:ビス(2−エチルヘキシル)フタル酸
【0046】
[試験動物]
8週齢の雄性、ddy系マウス(九動株式会社製)を用意し、約1週間の馴化期間を経た後、体重を基準にSample1〜4については各群7匹とし、Sample5については1群10匹として用いた。なお、Controlとしては、Sample1〜4に対するControl群(7匹)とSample5に対するControl群(10匹)をそれぞれ用意した。
【0047】
[暴露試験]
上記で調製した試料溶液500μLを、におい紙(66.4cmの濾紙)に含浸させて試料含有におい紙を調製後、マウス用メタボリックケージの蓋の裏側に前記におい紙を取り付けた。そこにマウスを1匹ずつ入れ、飼育室(22℃、RH50%)の一定の場所にて、におい紙の発する臭気をマウスに自然吸入(暴露)させ、24時間に排出する糞の個数、糞の総重量及び体重を計測した。また、得られた糞については、乾燥(138℃、2時間)させて乾燥重量を測定し、糞中に含まれる水分量及び水分含量を算出した。試験は5日間連続して暴露を行い、毎朝9〜10時の間に計測、及び新しい試料含有におい紙の取り付けを行った。なお、Control群には、ジプロピレングリコール500μLを含浸させたにおい紙を取り付けて、同様に試験を行った。
【0048】
[データ処理]
各項目のデータは、各マウスの5日間の合計値をSample1〜4については7匹について平均したものを、Sample5については10匹について平均したものを用いた。結果を表1及び2に示す。
【0049】
また、Sample群とControl群との比較は、糞の総重量、乾燥重量、水分量、水分含量及び個数について、ノンパラメトリック分析のMann−WhitneyのU検定により有意差検定を行った。結果を表3及び4に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
【表4】

【0054】
以上の結果より、Sample1〜5は、Controlに比べて排便促進効果があることが分かる。なかでも、Sample1、3、4に含有される化合物、即ち、ジブチルマレイン酸、ビス(2−エチルヘキシル)マレイン酸、1,4−ビス(2−エチルヘキシル)ベンゼンは、より優れた排便促進作用を有することが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の排便促進用組成物は、便秘の予防、改善、治療等において好適に用いられるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
−X−R (I)
〔式中、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1〜8の、直鎖又は分岐鎖のアルキル基、Xは式(II):
【化1】

(式中、Yはビニレン基もしくはフェニレン基である)
で表される官能基、又はフェニレン環である〕
で表される化合物を含有してなる、排便促進用組成物。
【請求項2】
炭素数1〜8の、直鎖又は分岐鎖のアルキル基が、ブチル基、2−エチルヘキシル基又はオクチル基である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
式(I)で表される化合物が、式(III):
【化2】

で表される化合物である、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
式(I)で表される化合物が、式(IV):
【化3】

で表される化合物である、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項5】
式(I)で表される化合物が、式(V):
【化4】

で表される化合物である、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項6】
式(I)で表される化合物が、式(VI):
【化5】

で表される化合物である、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項7】
式(I)で表される化合物が、式(VII):
【化6】

で表される化合物である、請求項1又は2記載の組成物。

【公開番号】特開2010−150188(P2010−150188A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330423(P2008−330423)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000112853)フマキラー株式会社 (155)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【出願人】(504155293)国立大学法人島根大学 (113)
【Fターム(参考)】