説明

排出ガスサンプリング分析システム

【課題】粒子数計測システムにおいて、簡便な構造によって粒子数計測装置からの逆流を防止できるようにする。
【解決手段】エンジンからの排出ガスが希釈されることなく導入される排出ガス導入ポートPT1と、その排出ガス導入ポートPT1から導入された排出ガスの分析を行う分析機構200と、その分析機構200に導入される排出ガスの圧力を安定させるための圧力安定化機構9とを備え、前記圧力安定化機構9が、排出ガス導入ポートPT1と前記分析機構200とを連通する連通流路TLにおける圧力を検知する圧力センサ91と、開成時に前記連通流路TL内の排出ガスを外部へ放出するバルブ92と、前記圧力センサ91からの圧力信号を受信し、その圧力信号の値が、予め定められた閾値を超えた場合に、バルブ制御信号を出力して前記バルブ92を開成させるバルブ制御部7と、を具備するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの排出ガスをサンプリングし、その成分分析を行う排出ガスサンプリング分析システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジン排出ガスの成分を分析する方式の1つとして、希釈サンプリング方式が知られている(特許文献1等参照)。この方式では、排出ガスを大気等で数倍に希釈し、濃度や質量の計測を行う。この方式では、サンプル中の水分濃度を下げることができ、配管内部での結露がおこりにくい。そのため、水の凝縮によるガス濃度変化や水溶性成分の溶解損失による測定誤差を抑制できる。
【0003】
この希釈サンプリング方式による排出ガス分析においては、希釈比の変動を抑制して測定誤差を回避できることから、排出ガスが安定に供給されることが好ましい。しかし、排出ガスの量や圧力は、エンジン運転状況によって変動するものであり、特にマフラーの上流からサンプルする場合は、圧力変動によるその影響が大きくなる。
【0004】
そこで従来は、ダイレクトで排出ガスをサンプルする部分にチェックバルブを設けて導入される排出ガスの圧力安定化を図っている。しかしながら、排圧程度での高速動作を要求すると、チェックバルブの弁体やバネ部品の軽量化を図らねばならず、その結果耐久性に劣るものとなる。つまり、この種の排出ガスサンプリング分析システムにおいて、導入される排出ガスの圧力を、機械的構成部品のみに頼ったフィードバック制御機構で制御するには、応答性向上や耐久性向上に限界があり、例えば排気脈動が生じた場合に圧力安定を保つことは難しい。
【特許文献1】特開平10−104134号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであって、サンプリングしたエンジン排出ガスの圧力を応答性よく安定化させることができ、その後の分析における測定誤差を低減させることをその主たる所期課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明に係る排出ガスサンプリング分析システムは、エンジンからの排出ガスが希釈されることなく導入される排出ガス導入ポートと、その排出ガス導入ポートから導入された排出ガスの分析を行う分析機構と、その分析機構に導入される排出ガスの圧力を安定させるために圧力安定化機構とを備え、前記圧力安定化機構が、排出ガス導入ポートと前記分析機構とを連通する流路における圧力を検知する圧力センサと、開成時に前記連通流路内の排出ガスを外部へ放出するバルブと、前記圧力センサからの圧力信号を受信し、その圧力信号の値が、予め定められた閾値を超えた場合に、バルブ制御信号を出力して前記バルブを開成させるバルブ制御部と、を備えたものであることを特徴とする。
【0007】
導入前の排出ガスの早い圧力変動に対しても十分追随して、導入後の排出ガスの圧力を安定できるようにするには、前記バルブにピエゾ方式のものを用いることが好ましい。
【0008】
分析機構は、直接サンプリング方式のものでも希釈サンプリング方式のものでもよいが、特に希釈サンプリング方式のものであれば、本発明の効果が顕著となる。
【0009】
前記排出ガス導入ポートには、排気管をダイレクトに接続する以外に、全流希釈トンネルや分流希釈トンネルなどの希釈システムを介在させて接続してもよい。
【0010】
本発明の効果が顕著となる具体的な前記分析機構としては、排出ガス中の粒子状物質を計測する粒子数計測装置を備えたものを挙げることができる。
【発明の効果】
【0011】
このように構成した本発明によれば、機械的構成部品のみによるローカルFB制御ではなく、圧力を計測して、電磁バルブやピエゾバルブなど、応答性、耐久性に優れたバルブを電気的に制御することができるので、エンジン排出ガスの高周波な脈動に対しても十分応答して、これを安定に制御することができるようになる。また、このことによって、その後の分析における測定誤差を低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0013】
図1に、本実施形態に係る排出ガスサンプリング分析システム100の全体概要を示す。この分析システム100は、エンジンからの排出ガスをダイレクトに、すなわち希釈しないまま、排出ガス導入ポートPT1に導き、そこから内部連通流路TLを経て分析機構200に導入し分析するものである。
【0014】
分析機構200は、導入された排出ガスをエアにより所定比率で希釈する希釈ユニット1と、その希釈ユニット1で希釈された排出ガス中の成分を分析する分析機構本体6とを備えている。
【0015】
希釈ユニット1は、前記連通流路TLと内部エア流路ALとの接続点又はその下流近傍に設けた混合器11と、その混合器11に導入される排出ガスの質量流量を測定するための流量測定機構12と、混合器11に同じく導入されるエアの質量流量を制御するエア流量制御部13と、を備えている。なお、エアは、希釈ガス導入ポートPT2からレギュレータ31を介してアキュムレータ32に一旦蓄積され、このアキュムレータ32から供給されるように構成してある。また、この希釈ユニット1の前段にはフロースプリッタ41が設けられており、排出ガスのうちの一定流量が吸引ポンプ51によりバイパス流路BL1に分流されるように構成してある。図1中バイパス流路BL1に設けられている符号81は、このバイパス流路BL1に一定流量の流体を流すためのクリティカルオリフィス等の定流量器である。
【0016】
前記流量測定機構12は、例えば流体抵抗となるオリフィス部(図示しない)、そのオリフィス部の上下流側の圧力を測定するための圧力センサ(図示しない)、流体温度を測定するための温度センサ(図示しない)などから構成され、前記圧力センサからの圧力信号や温度センサからの温度信号に基づいて、情報処理装置7が混合器11に導入される排出ガスの質量流量を算出できるように構成されたものである。情報処理装置7は、CPU、メモリ、入力手段、ディスプレイ等を備え、メモリに格納した所定プログラムにしたがってCPUや周辺機器が協働して動作する汎用乃至専用のいわゆるコンピュータである。
【0017】
エア流量制御部13は、前記情報処理装置7から目標流量データを与えられると、内部に設けた流量センサ(図示しない)で測定される実流量が、目標流量データの値(以下、目標流量とも言う)となるように、内部のバルブ(図示しない)を調整してローカルで流量制御するものである。この目標流量は、前記情報処理装置7によって、排出ガスの流量と希釈比とから算出される。
【0018】
さて、前述した希釈ユニット1で希釈された排出ガスは、さらにそのうちの所定量がフロースプリッタ42によりバイパス流路BL2に分流され、残りが測定流路MLに導かれる。なお、バイパス流路BL2に設けられている符号82は定流量器である。この測定流路MLには、途中に分析機構本体6が設けられていて、さらにその下流には、この分析機構本体6内に排出ガスを導くための第2吸引ポンプ52が設けられている。
【0019】
分析機構本体6は、ここでは例えば粒子状物質(PM:Particulate Matters)の数を計測する粒子数計測装置であり、ブタノールなどのアルコールガスを過飽和状態で混入させて排出ガス中のPMに付着させることにより、このPMを大きな径に成長させ、成長したPMをレーザ光によって計測するタイプのものである。この粒子数計測装置6で測定された計測データは、前記情報処理装置7に出力されて適宜処理される。
【0020】
しかしてこの実施形態では、排出ガス導入ポートPT1と分析機構200との間に、その分析機構に導入される排出ガスの圧力を安定させるための圧力安定化機構9を設けている。
【0021】
この圧力安定化機構9は、排出ガス導入ポートPT1と前記分析機構200とを連通する連通流路TLにおける圧力を検知する圧力センサ91と、前記連通流路から分岐するバイパス流路BL3と、そのバイパス流路BL3に設けられたリモート制御可能なバルブ92と、前記バルブ92を制御するバルブ制御部と、を備えたものである。
【0022】
圧力センサ91は絶対圧センサであり、連通流路TL上に設けられたダスト除去器たるサイクロンCLの上流に配置されている。
【0023】
前記バルブ92は、内部構造は図示しないが、ピエゾ素子の伸縮で弁部の開口径を変化させる高速応答タイプのもので、バルブ制御部から与えられるバルブ制御信号の値に応じてその弁部の開度を定めることができる。
【0024】
バルブ制御部は、この実施形態では前記情報処理装置7がその機能を兼ねる。具体的には、このバルブ制御部としての機能を発揮させるためのプログラムを前記情報処理装置7に搭載するようにしている。もちろん、情報処理装置7とは別に単独でアナログ乃至デジタル電気回路によりバルブ制御部を構成するようにしても構わない。
【0025】
次に、このバルブ制御部、正確には情報処理装置7のバルブ制御部に相当する部分の動作を説明する。このバルブ制御部は、前記圧力センサ91からの圧力信号を例えば10msec程度の間隔でサンプリングし(図2、ステップS1)、その圧力信号の値が予め定められた閾値を超えているか否かを判断する(図2、ステップS2)。超えていた場合には、その閾値と圧力信号の値(測定圧力値とも言う)との偏差に応じた値を有するバルブ制御信号を出力して前記バルブ92を開成させる(図2、ステップS3)。このことにより、連通路TL内の排出ガスが外部のバイパス流路BL3に流出して、連通路TL内の圧力が低下することになる。一方、圧力信号の値が閾値を下回った場合には、前記バルブ92を閉止させる(図2、ステップS4)。なお閾値にはヒステリシスを設けても構わない。
【0026】
このようなものであれば、機械的構成部品のみによる制御ではなく、計測した圧力値と閾値との偏差に応じて、ピエゾバルブ92という応答性、耐久性に優れたバルブを電気的に制御するようにしているので、エンジン排出ガスの高周波な脈動に対しても十分応答して、これを安定に制御することができるようになる。したがって、希釈ユニット1での希釈比も安定に保つことができるようになり、その後の分析における測定誤差を低減することが可能となる。特にこの実施形態では微量なPMを測定するためのものであって、希釈比の変動が大きな測定誤差につながりやすいため、このような希釈比の変動を安定化できる圧力安定化機構9の効果は特に顕著なものとなる。
【0027】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
例えば、応答性、耐久性さえ所望のスペックを満たすのであれば、バルブにピエゾバルブ以外のものを用いても構わない。
【0028】
また、前記実施形態では、測定圧力値と閾値との偏差に応じてバルブ開度を変えるようにしていたが、測定圧力値が閾値を上回ればバルブ全開、下回れば全閉、というように、バルブをON−OFF駆動することも可能である。
【0029】
さらに、前記排出ガス導入ポートに、全流希釈トンネルや分流希釈トンネルなどの希釈システムを通過した希釈された排出ガスを導入しても構わない。また、分析機構は、排出ガス中の粒子状物質を計測するもののみならず、NOxなど、他の排出ガス成分を測定するものに本発明を適用して同様な作用効果を奏し得るし、直接サンプリング方式のものなど希釈ユニットの不要な構成でも本発明を適用可能である。
【0030】
加えて、流路系など、その構成は図示例に限られず、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、種々変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態における排出ガスサンプリング分析システムを示す模式的概略全体図。
【図2】同実施形態における逆流防止手順を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0032】
100・・・排出ガスサンプリング分析システム
200・・・分析機構
1・・・希釈ユニット
6・・・分析機構本体(粒子数計測装置)
7・・・バルブ制御部(情報処理装置)
9・・・圧力安定化機構
91・・・圧力センサ
92・・・バルブ
PT1・・・排出ガス導入ポート
TL・・・連通流路
CL・・・ダスト除去器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからの排出ガスが希釈されることなく導入される排出ガス導入ポートと、その排出ガス導入ポートから導入された排出ガスの分析を行う分析機構と、その分析機構に導入される排出ガスの圧力を安定させるための圧力安定化機構とを備え、
前記圧力安定化機構が、
排出ガス導入ポートと前記分析機構とを連通する連通流路における圧力を検知する圧力センサと、
開成時に前記連通流路内の排出ガスを外部へ放出するバルブと、
前記圧力センサからの圧力信号を受信し、その圧力信号の値が、予め定められた閾値を超えた場合に、バルブ制御信号を出力して前記バルブを開成させるバルブ制御部と、を備えたものである排出ガスサンプリング分析システム。
【請求項2】
前記バルブがピエゾ方式のものである請求項1記載の排出ガスサンプリング分析システム。
【請求項3】
前記分析機構が、導入された排出ガスを一定比率で希釈する希釈ユニットを備えている請求項1又は2記載の排出ガスサンプリング分析システム。
【請求項4】
連通流路上にダスト除去器が設けられており、そのダスト除去器の上流に圧力センサが設けられている請求項1又は2記載の排出ガスサンプリング分析システム。
【請求項5】
前記排出ガス導入ポートに、全流希釈トンネルや分流希釈トンネルなどの希釈システムを通った、希釈された排出ガスをも導入可能に構成している請求項1、2又は3記載の排出ガスサンプリング分析システム。
【請求項6】
前記分析機構が、排出ガス中の粒子状物質を計測する粒子数計測装置を備えたものである請求項1、2、3、4又は5記載の排出ガスサンプリング分析システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−164413(P2008−164413A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−353968(P2006−353968)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】