説明

排出ガス浄化用ペーパー状ナノ触媒の製造方法

【課題】金属触媒としての貴金属の保持量をそれほど高めなくても高い反応効率を得ることができる排出ガス浄化触媒の製造方法を提供する。
【解決手段】排出ガスを浄化するための金属触媒としての白金を保持するとともに、炭素繊維、無機繊維、無機充填材、無機結合材及び凝集剤を含む材料をペーパー状多孔質構造に成形して成る排出ガス浄化用ペーパー状ナノ触媒の製造方法において、当該炭素繊維の表面を親水化処理S1した後、炭素繊維上で白金イオンから白金金属に還元することにより、白金ナノ粒子を当該繊維上で直接合成(S2)して担持させたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排出ガスを浄化するための金属触媒としての貴金属を保持するとともに、炭素繊維をペーパー状多孔質構造に成形して成る排出ガス浄化用ペーパー状ナノ触媒の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、触媒燃焼に用いられる触媒は、ハニカム状に折り曲げ形成されたセラミックスにおける気孔(ハニカム形状が成す連通孔)内表面に担持され、当該気孔を原料ガスが通過することによって触媒の反応を促進するよう構成されていた。かかるセラミックスは、例えばシリカ、アルミナ、マグネシアなどを原料として成形及び焼成して成るものであり、その表面に触媒粒子と酢酸とを湿式解砕にて作成したスラリーをコーティングすることにより所望の触媒構造体を得ていた。
【0003】
然るに、成形性及び触媒の反応効率を向上させる観点から、触媒構造体をペーパー状に成形する技術が、例えば特許文献1によって開示されている。この文献で開示された技術によれば、金属触媒及びセラミックス繊維を所定量の水に十分分散させ、コロイダルシリカや硫酸アルミニウム等を添加した後、通常の長網式抄紙機で抄造してセラミックスペーパー(即ち、ペーパー状の触媒構造体)を得ていた。
【特許文献1】特開平6−134307号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の排出ガス浄化用ペーパー状ナノ触媒においては、セラミックスシートの内部にまで原料ガスを導入して触媒反応をある程度向上させることができるものの、依然として反応効率が低く、希少である金属触媒としての白金を多量保持しないと触媒反応が不十分となる虞があるという問題があった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、金属触媒としての貴金属の保持量をそれほど高めなくても高い反応効率を得ることができる排出ガス浄化用ペーパー状ナノ触媒の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、排出ガスを浄化するための金属触媒としての貴金属を保持するとともに、炭素繊維、無機繊維、無機充填材、無機結合材及び凝集剤を含む材料をペーパー状多孔質構造に成形して成る排出ガス浄化用ペーパー状ナノ触媒の製造方法において、前記炭素繊維、無機繊維、無機充填材、無機結合材及び凝集剤を含む材料を湿式抄紙法によりペーパー状多孔質構造に成形するとともに、前記炭素繊維上で金属イオンから金属に還元することにより、金属ナノ粒子を当該炭素繊維上で直接合成して担持させたことを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の排出ガス浄化用ペーパー状ナノ触媒の製造方法において、前記炭素繊維の表面を親水化処理した後、前記金属ナノ粒子を当該炭素繊維上で直接合成して担持させたことを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の排出ガス浄化用ペーパー状ナノ触媒の製造方法において、前記貴金属は、白金から成るとともに、炭素繊維上で白金イオンから白金金属に還元して担持させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、金属ナノ粒子を炭素繊維上で直接合成して担持させたので、触媒活性の高い金属ナノ粒子をガス拡散効率に優れるペーパー状多孔質構造に分散担持した排出ガス浄化用ペーパー状ナノ触媒を得ることができ、金属触媒としての貴金属の保持量をそれほど高めなくても高い反応効率を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本実施形態に係る排出ガス浄化用ペーパー状ナノ触媒は、自動車や二輪車等からの排出ガスを高効率に浄化するためのものであり、ペーパー状に成形された耐熱性繊維の空孔(空隙)内に触媒としての金属触媒粉末(Pt:白金)を分散担持させて構成されている。
【0011】
耐熱性繊維は、炭素繊維(カーボンファイバー)から成り、湿式抄紙法でペーパー状に成形されて触媒構造体の担体を成すものである。尚、耐熱性繊維は、化学的、物理的に安定で、抄造した際に繊維同士が強く絡み合って高強度な構造体を得ることができれば、他の材質から構成してもよく、アラミド繊維等の有機繊維を使用することもできる。その他、耐熱性が高く、化学的にも安定なガラス繊維等を湿式抄紙法でペーパー状に成形することにより構造体を得るようにしてもよい。
【0012】
金属触媒としての白金は、ペーパー状多孔質構造に成形して成る繊維に分散担持されるものであり、例えば排出ガス中に含まれるNOが還元され、Nとなって浄化(無害化)されることとなる。即ち、本実施形態における金属触媒としての白金は、抄造(例えば湿式抄紙法)により得られたペーパー状多孔質構造における空隙内(空孔内)に均一に分散担持されているのである。
【0013】
ここで本実施形態においては、炭素繊維に対して予め硝酸前処理(親水化処理)を施した後、炭素繊維上で白金イオン(金属イオン)から白金金属(金属)に還元することにより、白金ナノ粒子(金属ナノ粒子)を当該炭素繊維上で直接合成して担持させている。かかる硝酸前処理とは、炭素繊維を35%硝酸に浸漬させつつ約2時間撹拌し、これをフィルターで濾過した後、濾液が中性になるまで純水で洗浄したものを乾燥して繊維表面へのイオン性官能基を導入する処理をいう。
【0014】
即ち、炭素繊維は非常に疎水的である故、表面に親水性の白金イオンをのせることが困難であることから、事前に硝酸を用いた親水化処理を図って当該白金イオンを炭素繊維上に容易にのせることができるようにしているのである。これにより、より多くの白金を効率よく且つスムーズに担持させることができる。具体的には、図1に示すように、上記の如き親水化処理S1を行った後、白金ナノ粒子を炭素繊維上で直接合成し(白金ナノ粒子合成S2)、得られた繊維に加え、無機繊維、無機充填材、無機結合材及び凝集剤を含む材料を湿式抄紙法にてペーパー状にすることにより、白金ナノ粒子をペーパー状多孔質構造に分散担持させた排出ガス浄化用ペーパー状ナノ触媒を得ることができるのである。
【0015】
上記の如き排出ガス浄化用ペーパー状ナノ触媒によれば、抄造技術(抄紙技術)の応用により、繊維ネットワークから成る多孔質構造体内部に金属触媒としての白金を分散担持させることができ、取り扱い易く、二次加工にも優れたペーパー状の触媒を提供することができる。これにより、成形することで失われる触媒性能を維持したまま取り扱い容易な紙状に成形することが可能となる。特に本実施形態によれば、白金ナノ粒子を繊維上で直接合成して担持させたので、触媒活性の高い白金ナノ粒子をガス拡散効率に優れるペーパー状多孔質構造に分散担持した排出ガス浄化用ペーパー状ナノ触媒を得ることができ、金属触媒としての白金の保持量をそれほど高めなくても高い反応効率を得ることができる。
【0016】
次に、本実施形態に係る排出ガス浄化用ペーパー状ナノ触媒の優位性について立証するための実験結果について説明する。
実施例…白金ナノ粒子合成を行った炭素繊維とセラミック繊維とを混合し、従来の湿式抄紙法であるデュアルポリマー抄紙法でペーパー状に成形したもの。
比較例1…セラミック繊維(繊維の量は上記実施例の混合繊維量と同等)と、白金粉末触媒の混合物を用いて、従来の湿式抄紙法であるデュアルポリマー抄紙法でペーパー状に成形したもの。
比較例2…白金粉末触媒であって、実施例及び比較例1と体積が等しくなるようセラミック繊維粉末で体積補填したもの。
【0017】
上記実施例、及び比較例1、2を充填した反応管に模擬排出ガスを導入し、NOx濃度分析装置を用いてモニタリングを行った。当該モニタリングの結果について図2に示す。図2からも明らかなように、実施例は、比較例1、2と比較して、特に550℃での高いNOx転化率が得られる(約2倍と極めて高い)ことから、高価な貴金属触媒の使用量低減において優位である。
【0018】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば保持する金属触媒を白金とは異なる他の貴金属(排出ガスを浄化するための金属触媒)としてもよく、或いは湿式抄紙法について他の工程を付加するようにしてもよい。また、本発明の適用は、自動車、二輪車、工場等から排出される排出ガスを浄化するための高性能排気ガス浄化触媒として適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
炭素繊維、無機繊維、無機充填材、無機結合材及び凝集剤を含む材料を湿式抄紙法によりペーパー状多孔質構造に成形するとともに、炭素繊維上で金属イオンから金属に還元することにより、金属ナノ粒子を当該炭素繊維上で直接合成して担持させた排出ガス浄化用ペーパー状ナノ触媒の製造方法であれば、種々他の原料を含有したものにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る排出ガス浄化用ペーパー状ナノ触媒の製造工程を示すフローチャート
【図2】本発明の実施形態に係る排出ガス浄化用ペーパー状ナノ触媒の優位性を示す実験結果を示すグラフ
【符号の説明】
【0021】
S1 親水化処理
S2 白金ナノ粒子合成
S3 抄紙工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排出ガスを浄化するための金属触媒としての貴金属を保持するとともに、炭素繊維、無機繊維、無機充填材、無機結合材及び凝集剤を含む材料をペーパー状多孔質構造に成形して成る排出ガス浄化用ペーパー状ナノ触媒の製造方法において、
前記炭素繊維、無機繊維、無機充填材、無機結合材及び凝集剤を含む材料を湿式抄紙法によりペーパー状多孔質構造に成形するとともに、前記炭素繊維上で金属イオンから金属に還元することにより、金属ナノ粒子を当該炭素繊維上で直接合成して担持させたことを特徴とする排出ガス浄化用ペーパー状ナノ触媒の製造方法。
【請求項2】
前記炭素繊維の表面を親水化処理した後、前記金属ナノ粒子を当該炭素繊維上で直接合成して担持させたことを特徴とする請求項1記載の排出ガス浄化用ペーパー状ナノ触媒の製造方法。
【請求項3】
前記貴金属は、白金から成るとともに、炭素繊維上で白金イオンから白金金属に還元して担持させたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の排出ガス浄化用ペーパー状ナノ触媒の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−611(P2009−611A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−163281(P2007−163281)
【出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人科学技術振興機構、「湿式抄紙製法による排ガス浄化装置」委託開発、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000128175)株式会社エフ・シー・シー (109)
【Fターム(参考)】