排尿情報測定装置
【課題】利用者を待たせることなく計測でき、尿流率も正確で時間的な応答性に優れた排尿情報を提供できるようにする。
【解決手段】尿を貯える尿貯留手段2と、尿貯留手段2に蓄えられた尿の水位や重量を計測する尿データ計測手段30と、尿データ計測手段30により得られる計測データに基づいて排尿量、尿流率を含む排尿情報を算出する排尿情報算出手段と、を有している。排尿情報算出手段は、尿データ計測手段の計測データを統計的処理して得られる算出用データに、所定の振動モデルを適用してパーティクルフィルタによって処理することによって排尿情報を算出する。
【解決手段】尿を貯える尿貯留手段2と、尿貯留手段2に蓄えられた尿の水位や重量を計測する尿データ計測手段30と、尿データ計測手段30により得られる計測データに基づいて排尿量、尿流率を含む排尿情報を算出する排尿情報算出手段と、を有している。排尿情報算出手段は、尿データ計測手段の計測データを統計的処理して得られる算出用データに、所定の振動モデルを適用してパーティクルフィルタによって処理することによって排尿情報を算出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排尿情報測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
尿は体内の不要な老廃物を体外に排出させる働きを担っているため、身体の代謝機能の状態を判断する指標として、排尿量等の排尿情報を測定することが医療機関で行なわれている。その方法としては、排尿時の尿の重量変化や体積変化を計測対象として求める装置が用いられている。
【0003】
具体的には、重量変化計測方式では電子天秤の上に置いたビーカ等の収集容器に排尿を連続的に行なって、電子天秤からの重量変化データを計測データとして得るものがある。
【0004】
また、体積変化計測方式では通常の大便器のボウル内に通常通り排尿し、その時のボウル内の便器溜水の水位変化を水頭圧変化として圧力センサで計測することによって圧力変化データを計測データとして得る排尿情報測定便器がある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
この装置では、排尿情報の測定は、予め所定の測定初期水位である測定開始水位にセットされた便器溜水の排尿による水位変化を計測し、計測結果に便器形状によって決まる水位と溜水量との関係式を適用することによって排尿量等の排尿情報を求めている。その水位変化の計測は溜水に流体的に接続された圧力センサを用いて便器溜水の水位によって生じる圧力(水頭圧)を電気的出力信号に変換して計測データとしている。
【0006】
これらの装置においては、測定の際に得られる重量変化データや圧力変化データは実際の重量変化や圧力変化に由るものだけでなく、装置の構成や設置環境に由来する各種の信号がノイズ成分として重畳されたものとなる。
【0007】
例えば、前述した排尿情報測定便器においては、測定対象となる排尿の体積に対して大便器の溜水の水平断面積は相対的に広いため、排尿に伴って生じる水位変化自体は相対的に小さなものとなる。従って、高精度の排尿量測定を行うために水位計測手段としての圧力センサも高感度のものを使用している。
【0008】
一方、計測対象となる溜水の水位変化は、本来の計測対象とする排尿による水量増加による変動だけでなく、計測の準備のための水位計測配管のバルブ開閉動作に伴う変動や、排尿の溜水突入による水面振動よる変動を含んだものとなる。その結果、計測によって得られる圧力センサの出力信号も、これらの変動に起因する信号がノイズとして重畳されたものとなる。
【0009】
そのためこれらの装置では、計測データとなるセンサ出力信号に対して平均化処理やデジタルフィルタ処理等のデータ処理を行なうことによってこれらのノイズの除去を図っている。
【0010】
また、これらの平均化処理やデジタルフィルタ処理を行って得られたデータを使って、尿流率を求める場合も、更にノイズ除去を行うために再び平均化処理やデジタルフィルタ処理が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−077755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、これらのノイズの中で例えば、水位計測配管内の溜水水位の変動のように、周期が1Hz以下と低い振動ノイズの場合は、前述した従来技術の処理では除去が困難であった。その結果、排尿していない時の振動ノイズの立ち上り信号を誤って排尿開始状態と誤判断し、その結果、排尿していないのに排尿したような測定結果が現れるなどの事態を引き起こしていた。これらの排尿開始時刻や排尿パターンはいずれも排尿情報として重要なパラメータの一つであるため、その結果として、正確な病状診断が出来ない場合があった。
【0013】
また、測定初期水位が予め排尿量演算の基準となる排尿開始水位として設定されているときは、実際の排尿開始水位との誤差が生じ、また排尿開始水位を予め設定した時間区間のセンサデータの平均で決めるときは、平均する時間区間の長さで得られる水位が異なり、結果として、いずれの場合も排尿量の測定誤差が大きくなるという問題がある。そして、排尿終了時の水位計測にも同等の問題がある。
【0014】
また、以上のように振動ノイズがデータ処理では完全に除去できないので、測定開始に際しては、利用者の測定開始操作からある程度の時間が経過し、振動ノイズの発生源となる水位変動がある程度のレベル以下に収束してから、利用者の排尿を許可するようにしなければならず、尿意を有した利用者を待たせなければならないという問題もあった。
【0015】
更に尿流率を求めるときにも平均化処理やデジタルフィルタ処理を行っているために、尿流率が時間的に急変するような変化が計測できず、その結果として正確な症状診断が出来ない場合があった。
【0016】
本出願は、上述した課題に鑑み、利用者を待たせることなく計測でき、尿流率も正確で時間的な応答性に優れた排尿情報を提供できる排尿情報測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
かかる課題を解決するべく本発明者は種々検討した。従来手法では、センサ信号の単純な平均化処理やデジタルフィルタを用いた振動ノイズの除去を行っていたが、便器配管内の水の振動は1Hz以下と低いために、ノイズの除去がほとんどできないことに上記課題は起因している。この点に着目した本発明者は、センサ信号を排尿量による水位分と振動項に分けた物理的なモデルを作成し、振動分の未来予測をすることで排尿開始水位と排尿開始時刻を明確にすることについて検討した結果、従来の半分以下の待ち時間で準備でき、尚かつ正確な排尿情報が得られる技術を知見するに至った。
【0018】
本発明はかかる知見に基づくものであり、尿を貯える尿貯留手段と、尿貯留手段に蓄えられた尿の体積や重量を計測する尿データ計測手段と、尿データ計測手段により得られる計測データに基づいて排尿量、尿流率を含む排尿情報を算出する排尿情報算出手段と、を有する排尿情報測定装置において、排尿情報算出手段は、尿データ計測手段の計測データを統計的処理して得られる算出用データに、所定の振動モデルを適用してパーティクルフィルタによって処理することによって前記排尿情報を算出することを特徴とするものである。
【0019】
かかる排尿情報測定装置においては、パーティクルフィルタによる処理を利用した統計的手法を源データに適用することによって、振動ノイズの影響を効果的に排除し、振動分の未来予測をすることで実際の排尿開始水位と排尿開始時刻を明確にすることができる。したがって、この排尿情報測定装置によれば、従来よりも簡単な演算処理でより正確な算出用データおよび排尿情報を求めることが可能となる。
【0020】
上述の排尿情報測定装置においては、尿貯留手段が洋式大便器のボウルであり、計測データがボウル内の溜水の水位データであることが好ましい。このような排尿情報測定装置においては、便器を使用することになるため、測定排尿の後処理が容易になる。
【0021】
また、排尿情報測定装置においては、算出用データが、少なくとも排尿開始時または排尿終了時の各水位乃至は水位変化率を含むものであることが好ましい。こうした場合、排尿情報として重要な要素を簡単な処理で正確に求めることが可能となる。
【0022】
また、排尿情報測定装置において振動モデルを適用したパーティクルフィルタによって処理する場合において、排尿の状態、すなわち、少なくとも排尿前、排尿中、排尿後で適用する振動モデルを変更して排尿情報算出することが好ましい。計測データの状態に合わせた処理を行うことにより、追従性よく算出用データを取得することが出来るようになる。
【0023】
また、排尿情報測定装置において、振動モデルが自己回帰モデルまたは三角関数モデルであることが好ましい。この場合、ノイズ除去のための演算処理が少ない変数で行なえるため、安価な排尿情報算出手段の使用が可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、排尿開始水位や排尿開始時刻が明確にできるようになるため、正確な排尿情報を提供でき、振動ノイズが存在していても排尿開始時点が容易に判断できるために、利用者を待たせることなく計測でき、尿流率も正確で時間的な応答性に優れた排尿情報を提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の排尿情報測定装置の一実施形態における排尿情報測定便器の設置状態を示す斜視図である。
【図2】排尿情報測定便器の全体構成を便器部の断面図と測定機能部のブロック図との組み合わせで示す図である。
【図3】排尿情報測定便器の構成例を示す図で、準備動作(圧力センサ出力校正)時の様子を表すものである。
【図4】排尿情報測定便器の構成例を示す図で、準備動作(測定管水位切替)時の様子を表すものである。
【図5】排尿情報測定便器の構成例を示す図で、測定動作時の様子を表すものである。
【図6】排尿情報測定便器の構成例を示す図で、測定終了後の測定開始水位創成時の測定管補水動作の様子を表すものである。
【図7】排尿情報測定便器の構成例を示す図で、設置調整動作(測定管路エアー抜き)時の様子を表すものである。
【図8】排尿情報測定便器の構成例を示す図で、設置調整動作(検量線取得)時の様子を表すものである。
【図9】排尿情報測定に伴う排尿情報測定便器の測定動作の一例を示すフローチャートである。
【図10】排尿情報測定便器による排尿情報算出処理の一例を示すフローチャートである。
【図11】排尿情報測定便器に排尿したとき、排尿量に応じて上昇する溜水水位による圧力変化と波立ちによる圧力変化とを重畳した圧力変化を示すグラフである。
【図12】実際のセンサデータ推定値を使って波立ちノイズを推定する場合のグラフである。
【図13】センサデータの差分値(現時刻のデータから、n△t時刻前のデータを引く)を示すグラフである。
【図14】排尿開始を判断する事例を示すグラフである。
【図15】差分による排尿開始を判断する事例を示すグラフである。
【図16】従来のデジタルフィルタを使った方法による振動ノイズ除去を説明するグラフである。
【図17】図16の排尿を誤判断したときの尿流率の例を示すグラフである。
【図18】排尿情報測定便器に排尿したとき、排尿量に応じて上昇する溜水面水位による圧力変化を圧力センサで計測した結果に基づいて本発明のトレンドモデルで推定した算出用データの一例を示すグラフである。
【図19】本発明にかかる排尿情報測定便器に排尿したとき、排尿量に応じて上昇する溜水面水位による圧力変化を圧力センサで計測した結果に基づいて本発明の方法で尿流率を推定した結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0027】
本発明にかかる排尿情報測定装置は、尿貯留手段、尿データ計測手段、排尿情報算出手段を有する装置であり、排尿情報を算出することを可能とするものである。以下では、排尿情報測定装置が洋式大便器に取り付けられた場合(以下、排尿情報測定便器という)を例示し、まずは当該排尿情報測定便器101の概略を説明したうえでその全体構成について詳細に説明し、さらにその後、排尿情報測定に伴う排尿情報測定便器101の管路切り替え等の一連の測定動作、排尿情報の算出理論を順に説明する。
【0028】
図1に、本実施形態における排尿情報測定便器101が測定ブースに設置された状態を示す。本実施形態における排尿情報測定便器101は、洋風大便器102と、排尿情報測定便器101を作動きせる種々の機能部と制御部120を収納したキャビネット104と、排尿情報測定便器101を使用者が操作したり測定結果を参照したりするための操作・表示部122と、を有する。なお、排尿情報測定便器101には、さらに、尿中の特定成分濃度等を測定する尿成分測定装置や、使用者の局部を洗浄する衛生洗浄装置が設置されていてもよいが、いずれも排尿情報測定に対しては必需のものではない。洋風大便器102は、陶器製であり、その上部には、樹脂製の便座110が回動自在に取り付けられ、通常の大便器と同様な便器洗浄機能部も備えている。
【0029】
排尿情報測定便器101が設置されている測定ブース(例えばトイレ内の間仕切りされた個室)の壁には、排尿情報測定便器101を操作するための操作・表示部122として、排尿情報測定部リモコン134と衛生洗浄装置を動作させるための衛生洗浄装置リモコン132が併設されているが、両者の機能を併せ持つリモコンが設置されていてもよい。
【0030】
排尿情報測定部リモコン134は被験者がトイレに入室し、排尿情報を測定する時に操作するもので、排尿情報測定便器101に対して測定開始の意思を示す測定開始スイッチと、排尿が終了したことを示す排尿終了スイッチを備えている。この排尿情報測定部リモコン134には、測定データの個人別管理を行うために、個人認証スイッチやIDカード等の読み込み手段が設けられてもよい。また、測定結果は排尿情報測定部リモコン134の表示部で被験者に開示してもよいし、プリンター141を使用して被験者に開示されてもよい。さらにまた、本実施形態における排尿情報測定便器101を医療機関に設置したことを想定すると、複数の被験者データを所定の時刻に回収すべく、看護師が排尿情報測定部リモコン134を操作して、プリンターからデータを取り出すことも考えられる。
【0031】
図2に、本実施形態の排尿情報測定便器101の全体構成を便器部の断面図と測定機能部のブロック図との組み合わせで示す。
【0032】
排尿情報測定便器101を構成する洋風大便器102は、通常の洋式大便器と同様な便器洗浄機構を備えており、排水ソケット9を介して下水配管(図示せず)に接続されている。下水配管に対して、トラップ部5によって溜水4が形成されており、下水配管内で発生した臭気や衛生害虫がトイレ内に侵入しないよう衛生面が配慮されている。
【0033】
洋風大便器102には被験者が排泄を行うボウル2と、ボウル2の上部に設置されボウル内面に向けて吐水するリム吐水ノズル7と、底部に設置されトラップ部5に向けて吐水するゼット吐水ノズル8とが形成されている。
【0034】
水位設定手段6は、リム吐水ノズル7とゼット吐水ノズル8へそれぞれ水を供給するリム給水手段71とゼット給水手段81とを備え、さらに、少量の水をゼット吐水ノズル8に供給する補水手段91を備えている。
【0035】
排尿情報測定便器101では、排尿量の測定時のための溜水水位測定が終了した後、ボウル2は、リム吐水ノズル7からの吐水によって内周面が洗浄され、その後、ゼット吐水ノズル8からの吐水でトラップ部5の内部に発生するサイホン現象によって、貯留されている溜水4が排泄物とともに下水配管に送出されるようになっている。
【0036】
ゼット給水手段81からゼット吐水ノズル8への供給流路は分岐部82を持ち、溜水水位測定手段14への導圧水路83が分岐接続されている。導圧水路83は、溜水水位を測定するために、溜水水位測定手段14に溜水4の水位ヘッドを伝達するためのものであるが、導圧水路83には、補水手段91がさらに分岐接続されて、測定開始水位形成時にはボウル2への給水路にもなっている。
【0037】
排尿情報測定便器101では、溜水の排出が一旦完了した後に、このリム給水手段71とゼット給水手段81からの給水の供給量を制御することによって、測定開始の初期水位である測定開始水位を概略形成する。そして、その後、補水手段91からの給水に切り替えて少量の水をボウル2内に供給することによって、溜水4の水位を測定の際に必要な測定開始水位に正確にセットしている。
【0038】
下水配管(図示省略)との接続部分となる排水ソケット9には、下水配管連絡口10を介して下水圧変動量計測手段16が接続されている。水位設定手段6、溜水水位測定手段14、操作・表示部22、および下水圧変動量計測手段16は共通の制御部15に接続されており、それぞれ給水動作の制御、溜水水位の測定、被験者の操作受付処理や下水圧測定等の各種動作の制御が行われる。
【0039】
制御部15は、測定値補正手段17と排尿情報算出手段18を有している。測定値補正手段17は溜水水位測定手段14の水位測定値を、下水圧変動量計測手段16の下水圧測定値によって、下水圧変動のない状態に補正する。補正された溜水水位に関する情報は、水位−溜水量の検量関係式に基づいて溜水量の変化情報に換算され、さらに排尿情報算出手段18によってこの溜水量変化情報から尿量や尿流率等の排尿情報が演算される。
【0040】
排尿情報測定便器101はさらに、排尿情報算出手段18が算出した種々の測定結果や、個人認証結果・測定時刻などの測定環境情報を、被験者だけでなく、測定データを利用する医師・看護師などの医療関係者や、排尿情報測定便器の動作を管理する設備管理者との間で伝達する外部出力手段(図示省略)を備えている。
【0041】
なお、本実施形態では溜水水位測定手段14の水位検出手段として、ボウル内の溜水4と管路で流体的に連通する測定管31と測定管31に設置され溜水の水位変化に比例する出力がとれる後述する圧力センサS1(いずれも図3他参照)とを使用している。この構成の場合、ボウル2から離間した場所において溜水4の水位に比例する水位を測定できることから装置の全体構成が簡単になる。水位検出手段のその他の事例としては、非接触の超音波変位センサなどによって溜水4の表面位置を計測するものがあり、汚水となるボウル内の溜水と接しないことから高信頼性の動作を期待できることになる。
【0042】
また、溜水水位測定手段14には、溜水4の波立ちなどの微小振動の水位測定への影響を取り除く除振手段14aや、圧力センサS1の出力の校正動作を実施する校正手段14bが内蔵されている。
【0043】
下水圧変動量計測手段16は、下水配管内の圧力変動が溜水水位に及ぼす影響量を測定するものであり、本実施例では圧力センサを採用して下水配管内の圧力変動を直接計測しているが、その他の例として水位センサを用いて下水配管内の圧力変動によって引き起こされる溜水水位の変化量を計測する構成としてもよい。
【0044】
続いて、排尿情報測定装置の構成例を説明する。図3等に、本実施形態の排尿情報測定便器101における配管やセンサ等の構成を模式的に示す。
【0045】
図3において、補水タンク60は、給水源(図示せず)から供給される水を排尿情報測定便器101の動作に応じて各部に給水するために一時的に貯留するタンクで、配管32,33により測定管31に連通し、また、別の配管36,37により、ゼット吐水ノズル8に接続されて、溜水4と連通した状態となっている。配管36には、ドレンタンク61に連通した配管34が分岐接続され、途中に排水ポンプP2が配設されている。なお、各配管には各動作に応じた所定の管路を形成するための開閉バルブV1〜V5が適宜配置されている。
【0046】
測定管31は、配管(導圧路)36,37およびゼット吐水ノズル8を通じてボウル2内の溜水4と同じ水位を形成するためのものであり、測定管31内の水に接している圧力センサS1は、水位に比例する信号を出力する。本実施形態では、圧力センサS1を利用して測定管31内の水位を測定することによって溜水4の水位を推定しており、測定管31は圧力センサS1とともに溜水水位測定手段14の水位測定手段として機能する。なお、符号S2は、下水配管連絡口10に接続された配管35を介してドレンタンク61内の圧力を測定することによって、下水圧変動量計測手段16として機能する圧力センサである。
【0047】
本発明における排尿情報測定装置の尿貯留手段は、尿を一時的に貯える機能を有している。例えば本実施形態の場合には、排尿情報測定便器101のボウル2が尿貯留手段として機能する(図2等参照)。被験者の尿は、ボウル2の底部に形成されている貯水部に一時的に貯留された状態となる。本実施形態のごとく洋式大便器のボウル2を排尿情報測定装置の尿貯留手段として利用した場合には、測定終了後、通常の排尿・排便時の便器洗浄動作をするだけで容易に後処理(測定終了後の排尿の処理)をすることができる。
【0048】
本発明における尿データ計測手段は、尿貯留手段に蓄えられた尿の水位や重量を計測する機能を有している。例えば本実施形態の場合には、溜水と混合された状態ではあるが尿を蓄えるボウル2(尿貯留手段)の蓄えられた尿によって形成される水位を計測しているため、上述した測定管31、圧力センサS1は尿データ計測手段30を構成している。
【0049】
また、尿データ計測手段30により得られる計測データに基づき、排尿情報算出手段18が排尿量、尿流率を含む排尿情報を算出する。後で詳述するように、本実施形態では、このような排尿情報算出手段18を用い、計測データに所定の振動モデルを適用してパーティクルフィルタによって処理して得られる算出用データを用いて排尿情報を算出することとしている。
【0050】
続いて、排尿情報測定に伴う排尿情報測定便器101の管路切り替え等の動作について説明する(図3〜図10参照)。
【0051】
被験者が排尿情報測定部リモコン134の測定開始スイッチを押し下げる等して測定開始操作すると(図9に示すステップS101)、実際の出力計測に先立ち、測定管31が所定の高さに設定された開放端まで満水位の状態で圧力センサS1の出力が計測される(ステップS102)。次に、このときの計測値に基づいて圧力センサS1の出力校正を実施する(ステップS103)。
【0052】
<準備動作1(圧力センサ出力校正)>
ここでは、圧力センサS1の出力電圧を絶対校正するために、補水タンク60内の水を給水して測定管31の所定の高さに設けられた大気開放端から溢れさせ、測定管31の中に大気開放端までの一定高さ(既知)の校正用水柱を創成し、その校正用水柱によって生じる一定水圧(水頭圧)の出力電圧の計測値に基づいて圧力センサS1の水位換算出力値を校正する(図3参照)。補水タンク60内の水は、給水ポンプP1によって配管32,33を通じて測定管31へ送り込まれる。測定管31の大気開放端から溢れた水はドレンタンク61へと流れ込み、そのうち所定の水位を超えた分は導圧路35、下水配管連絡口10を通って排水ソケット9へと排水される。本実施形態では、以上の圧力センサ出力校正は測定の都度、毎回実施するが、被験者の測定開始時の待ち時間を短縮するため、時間を要する校正用水柱を創成する工程は前回の測定が終了した際に行っておき、比較的短時間で行なえる出力の計測(ステップS102)および校正(ステップS103)の工程だけを測定開始時に実施する。
【0053】
<準備動作2(測定管の水位切替)>
次に、測定管31とボウル2とが連通するように配管を切り替えて、測定管31内の水位をボウル2の溜水4の水位と同水位にする(ステップS105)。即ち、開閉バルブV5を閉め、開閉バルブV2を開け、導圧路36と導圧路37とを連通させることによって、測定管31とボウル2とが連通した状態とする(図4参照)。このとき、連通する前の両者の水位が互いに異なるため、測定管31とボウル2が連通すると同水位に移行する過程で測定管31の水位が振動し、この振動が圧力センサS1の出力値に現れる状態となる。なお、図4等では連通した状態の配管(導圧路)を太線で示している。
【0054】
<測定動作>
準備動作を終えたら、排尿情報測定便器101内の時間的な水位変化を、圧力センサS1を用いて排尿開始から終了まで計測する(ステップS105)。この間は、排尿に伴いボウル2の溜水面に振動が生じる。この振動はボウル2に連通している測定管31にも伝わり、この振動が圧力センサS1の計測値に現れる。ここで計測された水位変化は予め記憶しているボウル形状に基づいた水位と水量の検量関係に基づいて、溜水量変化に換算される。単位時間当たりの溜水量変化が尿流率St(mL/s)であり、排尿中の尿流率積算値が排尿量Vu(mL)である。計測結果から算出用データが作成され(ステップS106)、排尿情報が算出される(ステップS107)。本実施形態のように、少なくとも排尿開始時または排尿終了時における溜水水位(溜水の水面高さ)や水位変化率を含む算出用データを用いることで、排尿情報として重要な要素を簡単な処理で正確に求めることが可能である。以上の測定動作は、被験者が排尿情報測定部リモコン134の排尿終了スイッチから排尿終了を入力するまで続けられる(ステップS108)。
【0055】
<便器洗浄およびその後の補水動作>
測定動作を終えたら、通常の大便器と同様に、リム給水手段71とゼット給水手段81とから順次給水を行なって、ボウル2内の排泄物を含んだ内容物を便器外に排出した後、再度ボウル2内に溜水を形成する便器洗浄動作を行なう(ステップS109)。その後、補水タンク60内の貯留水を給水ポンプP1によってゼット吐水ノズル8から補水してボウル2内に測定開始水位を創成する(ステップS110)。測定開始水位は一例として、封水深が50mm以上であってできるだけ低くなっていることが好ましい。そのため本実施形態では、当該水位に正確に形成するために、便器洗浄動作で給水したうえで、補充する溜水を、補水タンク60からゼット吐水ノズル8に向けて供給する(図6参照)。
【0056】
測定開始水位を創成したら、開閉バルブV2を閉じ開閉バルブV3を開けることによって、給水管路を測定管31への管路に切り替える(ステップS111)。管路切り替え後、前述したように、補水タンク60内の水を給水して測定管31の中に一定高さ(既知)の校正用水柱を創成する動作を行なう(ステップ112)。
【0057】
即ち、補水タンク60内の水は、給水ポンプP1によって配管32,33を通じて測定管31へ送り込まれる。そして、測定管31の所定の高さに設けられた大気開放端から溢れた水はドレンタンク61へと流れ込み、そのうち所定の水位を超えた分は導圧路35、下水配管連絡口10を通って排水ソケット9へと排水されることによって、大気開放端までの高さを持った水柱が測定管31内に正確に創成される。測定管31に注水して大気開放端までを満水状態として次回の測定準備が完了したら、一連の排尿情報測定動作を終了する。
【0058】
なお、以下に、排尿情報測定便器101の現場据え付け時にのみ一回限り行う動作(設置調整動作)を参考までに示す(図7、図8参照)。
【0059】
<設置調整動作(エアー抜き)>
配管内における残存エアーが水位測定を阻害しないように、補水タンク60とボウル2内の水を導圧路36等に通水して、圧力測定管路内のエアーを排出する(図7参照)。
【0060】
<設置調整動作(検量線取得)>
ボウル2内の溜水4の水位と溜水量との関係である検量関係を学習するために、A:ボウル2内の溜水4を排水ポンプP2で定量吸引、B:圧力センサS1で測定管31内の水柱の圧力測定、を所定の繰り返し行なって、溜水量と圧力測定値(水位)との検量関係となる回帰式を取得する(図8参照)。
【0061】
続いて、排尿情報の算出の理論について説明する(図10〜図19参照)。
【0062】
図18は、本実施形態の排尿情報測定便器101のボウル2内に排尿したとき、排尿量に応じて上昇する溜水面水位による圧力変化を圧力センサS1で計測した結果のセンサデータを示す。本発明における尿貯留手段としてボウル2のように広い面積の容器で排尿状態を連続して計測する場合、尿流入による容器内の水位変化はわずかであるので高感度のセンサを使用することになるが、高感度のセンサでは出力信号のノイズが大きくなるという現象があり、図18のようにノイズを多く含んだ結果になる。このようなセンサデータから、水位の真値をセンサデータ推定値とし、これを算出用データと呼ぶ。算出用データを求めるには、パーティクルフィルタでトレンドモデルをつかって推定する。今、時刻iでの算出用データをydiとすると1次のトレンドモデルでは
ydi =ydi-1+wydi (1)
2次のトレンドモデルでは
ydi=2ydi-1−ydi-2+wydi (2)
と表せる。ここでwydiは、平均0、分散σydiの正規分布関数である。
【0063】
このようにすると図18に示すように尿による水位の真値の推定値である算出用データを求めることが出来る。算出用データを求めるには移動平均などの平均化処理もあるが、トレンドモデルを使った方が、移動平均を使うよりも尿流率変化への時間的な追随性がよい。
【0064】
図11は、ボウル2内に排尿したとき、排尿量に応じて上昇する溜水面水位による圧力変化と波立ちによる圧力変化を重畳した圧力変化と、排尿量に応じて上昇する溜水水位による圧力変化のみの、2つの場合を示すグラフである。図11に実線で示すようにセンサ推定値には、測定系の配管バルブの開閉による圧力変動や排尿に伴う、溜水面の波立ちにより1Hz以下の低周波振動が現れる。図11にはこの低周波振動が存在しない(現実にはありえないが、仮想として)場合のセンサ出力が破線で表示されている。この破線データのように全くノイズが無ければ、尿流率は
尿流率=(現在の尿量−n期前の尿量)/(nΔt)
とすることで簡単に求まる。ここでΔtはサンプリング周期である。
【0065】
しかし、実際のセンサには波立ちノイズやその他のノイズが存在し、上記のように簡単に尿流率を求めることができない。
【0066】
図12は実際の算出用データを使って波立ちノイズを推定する図である。図12の実線が実際のセンサ出力、破線が波立ちノイズの推定値である。波立ちノイズは減衰振動であるので、自己回帰モデルは
ydi=ΣAKydi-K +wydi (3)
となる。ここで
ydi;時刻iでの算出用データ
AK;回帰モデルの係数
である。特に波立ちのような振動モデルは2次の自己回帰モデル
ydi=2ricosθiydi-1−r2ydi-2 +YO (4)
を使って、パーティクルフィルタ(以下PF)を用いれば容易に推定できる。
【0067】
ここで
Y0;振動の中心値
ri;時刻iでの振幅強度に関係した値0〜1の値
θi;時刻iでの振動周波数
である。
【0068】
なお、ここで(4)式の代わりに減衰振動を表す式として
次の三角関数モデル(2種類)
ydi=Aicos(θit+φi)+YO (5)
ydi=Ae-τtcos(θit+φi)+YO (6)
などを用いてもよい。
【0069】
ここで、
A;振幅強度
τ;減衰定数
φ;位相
である。
【0070】
パーティクルフィルタのパラメータが最も少なく簡便なモデルとなるのは(4)式を用いた場合である。以下(4)式を使った場合を説明する。
【0071】
排尿情報測定便器101の場合、波立ち振動の周波数は固有振動となり、実験的にもその周波数は同定でき、約0.5Hz付近になることが確認できる。この周波数であれば、利用者(被験者)が尿計測しようと測定開始スイッチを押してから1秒程度の時間のデータをとれば、そのときの振動周波数や振幅強度などの波立ちノイズ推定に必要な諸情報が計算でき、その後、これらの諸情報を利用して、排尿が始まらないと仮定したときのセンサ出力が推定できる。つまり、利用者が尿計測しようとしてから1秒程度で計測準備が完了する。これらは従来デジタルフィルタのようなフィルタを用いて直流成分である排尿による成分と振動成分である波立ちノイズ成分を分離するようにされていた。しかし分離する波立ち成分が低周波で非常に直流成分に近く、完全に分離することは不可能であった。そのため、利用者が測定開始スイッチを押して尿計測の意思を表示しても、波立ちノイズが収まるように5秒程度の非計測時間が設けられていたが、それでも波立ちが収まらずに排尿していなくても、波立ち部分を排尿と誤検知する不具合があった。
【0072】
図12の例は排尿前の水位である振動の中心Y0と波立ち分の未来予測をすることで排尿開始時間を求める方法の例である。図12で、まず(4)式と排尿前の算出用データを使って、rとθおよびY0をPFによって求める。次にこのr、θおよびY0と排尿前の算出用データを(4)式に代入して、波立ち分の未来予測をする。この未来予測結果が図12の破線で示されている。この波立ち成分の未来予測yu0と実際のセンサデータ推定値ydとの差eyが所定の第一閾値B1(この第一閾値B1はPFを使った推定誤差以上の大きさの値に設定する)を超えると排尿開始と判断し、その時刻を排尿開始時刻TSとする。これは振動の未来予測と排尿しないときの算出用データはこの所定の閾値より小さな誤差内になることを利用している。
【0073】
また前述したように図12では排尿前の水位である振動の中心Y0も求まる。同じようにして排尿終了後に振動の中心Yeを求めることが出来るので、図10に示す排尿量VuはVu=Y1−Yeとすれば、簡単に求めることができる。
【0074】
また、排尿開始後、所定の時間区間(図10に示す第三閾値監視時間W7)以上、所定の尿流率(図10に示す第二閾値B2)以下が継続したとき排尿終了と判断し、その時刻を排尿終了時刻とすれば、排尿開始時刻TSが既知であるので、容易に排尿時間TUも算出できる。なお、(4)式を用いた波立ち成分の未来予測は排尿開始と判断した時点で終了させることが、制御部15にある尿情報算出マイコンの動作エネルギーを省力化する上で望ましい。
【0075】
図13は算出用データの差分値(現時刻のデータから、n時刻前のデータを引く)を示している。このように差分すると、振動の中心が尿流率に関連した数値を振動中心として振動するようになる。例えば、差分間隔を1秒とすると、振動の中心はそのときの尿流率そのものになる。今、差分間隔をn△t、時刻iでの差分値をYdiとすると
Ydi−Sin△t=2rcosθi(Ydi-1−S i-1n△t)−r2(Ydi-2-S i-2n△t) (7)
として時刻iにおける尿流率Siを求めることができる。
【0076】
図13の方法は算出用データの差分値を使うことで計算は簡単になるが差分による時間遅れが生じる。つまり、実際の尿流率の時間変化に対して少しゆっくりとした動きの結果になる欠点がある。
【0077】
これに対して図14の方法は、図13のように算出用データの差分でなく、算出用データそのものを利用して、時刻iの尿流率Siを推定するので、計算は複雑になるが、時間遅れの無い尿流率が求まる。図14では、
ydi=Vdi-2+(Si+Si-1)Δt+2rcosθi(ydi-1−Vdi-2−S i-1Δt)−r2(ydi-2−Vdi-2) (8)
Vdi=Vdi-2+(Si+Si-1)Δt (9)
とし、PFを使って、図13と同じ方法で推定すればよい。
ここで、Vdiは時刻iにおける尿量である。
以上図13および図14を使って説明した尿流率の推定では、図12および図15に示す排尿開始判断後に、算出を開始し、排尿終了判断時に算出を終了させることが望ましい。
【0078】
図15は差分による排尿開始を判断する事例である。図13と同じように算出用データを差分すると、排尿開始前は尿流率が0であるので、0を中心とした振動データとなる。すなわち(4)式のY0をなくした
ydi=2ricosθiydi-1−r2ydi-2 (10)
という簡単な式で表現できる。このようにして図12と同じように排尿が無いとして振動の未来予測を行い、実際のセンサデータ推定値の差分値との差eyが予め設定した第一閾値B1以上になったとき、排尿を開始したと判断する。図15の方法は計算が簡単であるが、排尿開始前の水位Y0を推定しないので排尿量を求めることは出来ないという欠点がある。
【0079】
図15で説明した方法も排尿開始と判断した時点で終了させることが望ましい。また、図15の方法は図13で説明したように、排尿終了後の水位Yeを推定するときにも同じ方法で適用できる。このようにして排尿開始時の水位Y0と排尿終了時の水位Yeが推定できれば、その差から排尿量VUは容易に推定できる。以上説明したように排尿前、排尿中、排尿後で振動モデルの適用方法を変更することにより、排尿状況に応じて知りたい排尿情報を効率的に得ることが可能となる。
【0080】
図16は従来のデジタルフィルタを使った方法による振動ノイズ除去を説明する図である。図16でセンサ出力(計測データ)をデジタルフィルタ処理したものが破線で示したものになる。デジタルフィルタで処理しても振動周波数が1Hz以下の振動を完全に除去できない。このため、図16に示すように、振動が収まる時間を想定し、それに見合う排尿禁止期間を予め設定(現行は例えば5秒)している。大きな振動が残った段階では、排尿していないのに排尿したと誤判断するからである。その間利用者は排尿を我慢することを強いられることになる。それでも振動ノイズの発生程度によっては排尿禁止期間を過ぎても大きな振動が残っていることがあり、図16に示すように一点鎖線で示す静止水位推定値に排尿開始閾値(二点鎖線)より大きな信号となることがある。このようになると排尿していないのに排尿したと誤判断する。
【0081】
図17は図16の従来のデジタルフィルタを使った方法において排尿を誤判断したときの尿流率の例である。最初に小さな信号が出ている部分が誤判断である。
【0082】
以上に対し、本実施形態では、排尿情報算出手段18を用い、尿データ計測手段30の計測データに統計的処理の例としてトレンドモデルを適用してPFによって処理して得られる算出用データに、所定の振動モデルを適用してPFによって処理することによって排尿情報を算出するので、排尿情報測定便器101に排尿したとき、排尿量に応じて上昇する溜水面水位による圧力変化を圧力センサS1で計測した結果として図19に示すようなデータが得られる。図からわかるように、本実施形態によれば振動ノイズが存在していても排尿開始時点を容易に判断することが可能となるため排尿開始水位Y0や排尿開始時刻TSが明確になるので、正確な尿流率(排尿情報)を得ることができる。
【0083】
ここで、上述した理論に基づく排尿情報算出処理手順の一例を説明する(図10参照)。
【0084】
測定開始スイッチが押された後、圧力センサS1からの出力信号yを取り込んだら(ステップS501)、該センサ信号yを使って上述のごときセンサデータydを推定する(ステップS502)。その後、該センサデータ推定値ydより、排尿開始時の静止水位y0、振動周波数θ、振動強度rを推定し(ステップS503)、さらに、静止水位y0、振動周波数θ、振動強度rと現時刻より過去のセンサデータyd_pを使って、排尿を開始していないとしたときの波立ち信号yu0を推定する(ステップS504)。ここまでのステップは、振動モデルに自己回帰モデルを使ってPFで波立ち水位を推定しているが、推定に利用している算出用データは排尿開始前のデータであり、推定結果にも排尿されていないという条件下での推定になるという特徴がある。この結果、推定の途中で被験者が排尿を開始すれば、推定結果と異なる算出用データ値が現れ、振動ノイズが存在していても容易に排尿開始が判断できる。
【0085】
次に、センサデータ推定値ydと波立ち信号yu0との差eyが第一閾値B1以上かどうか、判断する(ステップS505)。B1以上でなければ当該判断を繰り返す一方、B1以上であれば、排尿開始時刻TSを決定し(ステップS506)、次に図13で説明した方法を使って、尿流率Stを推定する(ステップS507)。その後、尿流率Stが第二閾値B2より小さい状態が第三閾値監視時間WT以上継続したかどうか判断し(ステップS508)、WT以上継続していなければステップS507へ戻る一方、WT以上継続していればステップS509へと進む。ここまでのステップは、算出用データの差分値を用いた自己回帰モデル(以下、差分自己回帰モデルと記す)で振動モデルを構築し、PFで尿流率Stを推定している。このようにすることでこのステップの区間で最も重要な排尿情報である尿流率Stを簡単に推定できる。
【0086】
ステップS509では、排尿終了と判断し、センサデータの推定および尿流率の推定を終了する(ステップSP509)。その後、排尿終了時の静止水位Yeを推定し(ステップS510)、排尿量Vuおよび排尿時間Tuを算出する(ステップS511)。ステップS510とステップS511のステップは、ステップ503で説明したものと同じで、排尿終了と判断した後のセンサデータ推定値を使い、排尿が無いときの静止水位Yeを簡単に推定することができる。その後、初期化して(ステップS512)、一連の算出処理を終了する。
【0087】
上述した排尿情報算出処理の一例では、排尿前、排尿中、排尿後で適用する振動モデルを変更して、その状況で特に重要な排尿情報を求めるようにしている。このように、計測データの状態に合わせた処理を行うことにより、簡単に算出用データを取得することが可能となるため好適である。
【0088】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、本実施形態では、自己回帰モデルまたは三角関数モデルを振動モデルとした場合について例示したが、この場合の自己回帰モデルまたは三角関数モデルにおいて、排尿開始水位または排尿終了水位を求めるときは、排尿開始水位または排尿終了水位および振動周波数と振幅強度をパーティクルフィルタの粒子を構成するパラメータとすることも好ましい。こうした場合、排尿情報を知る上で必要な測定開始水位と測定終了水位を正確に求めることが可能となり、結果として、排尿量をより正確に求めることが可能となる。
【0089】
あるいは、自己回帰モデルまたは三角関数モデルを振動モデルとする場合において、排尿開始時刻または排尿終了時刻を求めるときは、振動周波数と振幅強度および測定開始時の水位を用いて算出用データを推定し、推定結果と算出用データとの差が各々予め設定した閾値以上または以下の大きさになったときを各々排尿開始時刻あるいは排尿終了時刻とするようにしてもよい。こうすることで、排尿開始時刻を正確に知ることができ、結果として排尿していないのに排尿しているような不具合を生じさせることがない。また、正確な排尿時間を決定することができる。
【0090】
さらには、自己回帰モデルまたは三角関数モデルを振動モデルとする場合において、尿流率を求めるときは、振動モデルとして測定開始水位と排尿による水位上昇成分および振動による成分をパーティクルフィルタの粒子を構成するパラメータとしてもよい。こうした場合、実際の尿流率の時間変化に対して追随性のよい、正確な尿流率を得ることができる。
【0091】
なお、以上では、尿データ計測手段として一定の大きさの容器の水位をパラメータとして尿の体積を計測するものを発明の実施例として説明してきたが、重量を計測するものであっても本発明は適用可能である。
【0092】
即ち、容器に排出される尿の重量を計測する場合であっても、機器の動作時の振動や排尿時の尿の着尿による振動が原因となって計測データが振動することが起こり得るが、その場合も、本発明を適用して、計測データを統計的処理して求めた算出用データに振動モデルを適用してパーティクルフィルタによって処理することによって、正確な排尿情報を得ることが可能となる。
【符号の説明】
【0093】
2:ボウル(尿貯留手段)
18:排尿情報算出手段
30:尿データ計測手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、排尿情報測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
尿は体内の不要な老廃物を体外に排出させる働きを担っているため、身体の代謝機能の状態を判断する指標として、排尿量等の排尿情報を測定することが医療機関で行なわれている。その方法としては、排尿時の尿の重量変化や体積変化を計測対象として求める装置が用いられている。
【0003】
具体的には、重量変化計測方式では電子天秤の上に置いたビーカ等の収集容器に排尿を連続的に行なって、電子天秤からの重量変化データを計測データとして得るものがある。
【0004】
また、体積変化計測方式では通常の大便器のボウル内に通常通り排尿し、その時のボウル内の便器溜水の水位変化を水頭圧変化として圧力センサで計測することによって圧力変化データを計測データとして得る排尿情報測定便器がある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
この装置では、排尿情報の測定は、予め所定の測定初期水位である測定開始水位にセットされた便器溜水の排尿による水位変化を計測し、計測結果に便器形状によって決まる水位と溜水量との関係式を適用することによって排尿量等の排尿情報を求めている。その水位変化の計測は溜水に流体的に接続された圧力センサを用いて便器溜水の水位によって生じる圧力(水頭圧)を電気的出力信号に変換して計測データとしている。
【0006】
これらの装置においては、測定の際に得られる重量変化データや圧力変化データは実際の重量変化や圧力変化に由るものだけでなく、装置の構成や設置環境に由来する各種の信号がノイズ成分として重畳されたものとなる。
【0007】
例えば、前述した排尿情報測定便器においては、測定対象となる排尿の体積に対して大便器の溜水の水平断面積は相対的に広いため、排尿に伴って生じる水位変化自体は相対的に小さなものとなる。従って、高精度の排尿量測定を行うために水位計測手段としての圧力センサも高感度のものを使用している。
【0008】
一方、計測対象となる溜水の水位変化は、本来の計測対象とする排尿による水量増加による変動だけでなく、計測の準備のための水位計測配管のバルブ開閉動作に伴う変動や、排尿の溜水突入による水面振動よる変動を含んだものとなる。その結果、計測によって得られる圧力センサの出力信号も、これらの変動に起因する信号がノイズとして重畳されたものとなる。
【0009】
そのためこれらの装置では、計測データとなるセンサ出力信号に対して平均化処理やデジタルフィルタ処理等のデータ処理を行なうことによってこれらのノイズの除去を図っている。
【0010】
また、これらの平均化処理やデジタルフィルタ処理を行って得られたデータを使って、尿流率を求める場合も、更にノイズ除去を行うために再び平均化処理やデジタルフィルタ処理が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−077755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、これらのノイズの中で例えば、水位計測配管内の溜水水位の変動のように、周期が1Hz以下と低い振動ノイズの場合は、前述した従来技術の処理では除去が困難であった。その結果、排尿していない時の振動ノイズの立ち上り信号を誤って排尿開始状態と誤判断し、その結果、排尿していないのに排尿したような測定結果が現れるなどの事態を引き起こしていた。これらの排尿開始時刻や排尿パターンはいずれも排尿情報として重要なパラメータの一つであるため、その結果として、正確な病状診断が出来ない場合があった。
【0013】
また、測定初期水位が予め排尿量演算の基準となる排尿開始水位として設定されているときは、実際の排尿開始水位との誤差が生じ、また排尿開始水位を予め設定した時間区間のセンサデータの平均で決めるときは、平均する時間区間の長さで得られる水位が異なり、結果として、いずれの場合も排尿量の測定誤差が大きくなるという問題がある。そして、排尿終了時の水位計測にも同等の問題がある。
【0014】
また、以上のように振動ノイズがデータ処理では完全に除去できないので、測定開始に際しては、利用者の測定開始操作からある程度の時間が経過し、振動ノイズの発生源となる水位変動がある程度のレベル以下に収束してから、利用者の排尿を許可するようにしなければならず、尿意を有した利用者を待たせなければならないという問題もあった。
【0015】
更に尿流率を求めるときにも平均化処理やデジタルフィルタ処理を行っているために、尿流率が時間的に急変するような変化が計測できず、その結果として正確な症状診断が出来ない場合があった。
【0016】
本出願は、上述した課題に鑑み、利用者を待たせることなく計測でき、尿流率も正確で時間的な応答性に優れた排尿情報を提供できる排尿情報測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
かかる課題を解決するべく本発明者は種々検討した。従来手法では、センサ信号の単純な平均化処理やデジタルフィルタを用いた振動ノイズの除去を行っていたが、便器配管内の水の振動は1Hz以下と低いために、ノイズの除去がほとんどできないことに上記課題は起因している。この点に着目した本発明者は、センサ信号を排尿量による水位分と振動項に分けた物理的なモデルを作成し、振動分の未来予測をすることで排尿開始水位と排尿開始時刻を明確にすることについて検討した結果、従来の半分以下の待ち時間で準備でき、尚かつ正確な排尿情報が得られる技術を知見するに至った。
【0018】
本発明はかかる知見に基づくものであり、尿を貯える尿貯留手段と、尿貯留手段に蓄えられた尿の体積や重量を計測する尿データ計測手段と、尿データ計測手段により得られる計測データに基づいて排尿量、尿流率を含む排尿情報を算出する排尿情報算出手段と、を有する排尿情報測定装置において、排尿情報算出手段は、尿データ計測手段の計測データを統計的処理して得られる算出用データに、所定の振動モデルを適用してパーティクルフィルタによって処理することによって前記排尿情報を算出することを特徴とするものである。
【0019】
かかる排尿情報測定装置においては、パーティクルフィルタによる処理を利用した統計的手法を源データに適用することによって、振動ノイズの影響を効果的に排除し、振動分の未来予測をすることで実際の排尿開始水位と排尿開始時刻を明確にすることができる。したがって、この排尿情報測定装置によれば、従来よりも簡単な演算処理でより正確な算出用データおよび排尿情報を求めることが可能となる。
【0020】
上述の排尿情報測定装置においては、尿貯留手段が洋式大便器のボウルであり、計測データがボウル内の溜水の水位データであることが好ましい。このような排尿情報測定装置においては、便器を使用することになるため、測定排尿の後処理が容易になる。
【0021】
また、排尿情報測定装置においては、算出用データが、少なくとも排尿開始時または排尿終了時の各水位乃至は水位変化率を含むものであることが好ましい。こうした場合、排尿情報として重要な要素を簡単な処理で正確に求めることが可能となる。
【0022】
また、排尿情報測定装置において振動モデルを適用したパーティクルフィルタによって処理する場合において、排尿の状態、すなわち、少なくとも排尿前、排尿中、排尿後で適用する振動モデルを変更して排尿情報算出することが好ましい。計測データの状態に合わせた処理を行うことにより、追従性よく算出用データを取得することが出来るようになる。
【0023】
また、排尿情報測定装置において、振動モデルが自己回帰モデルまたは三角関数モデルであることが好ましい。この場合、ノイズ除去のための演算処理が少ない変数で行なえるため、安価な排尿情報算出手段の使用が可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、排尿開始水位や排尿開始時刻が明確にできるようになるため、正確な排尿情報を提供でき、振動ノイズが存在していても排尿開始時点が容易に判断できるために、利用者を待たせることなく計測でき、尿流率も正確で時間的な応答性に優れた排尿情報を提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の排尿情報測定装置の一実施形態における排尿情報測定便器の設置状態を示す斜視図である。
【図2】排尿情報測定便器の全体構成を便器部の断面図と測定機能部のブロック図との組み合わせで示す図である。
【図3】排尿情報測定便器の構成例を示す図で、準備動作(圧力センサ出力校正)時の様子を表すものである。
【図4】排尿情報測定便器の構成例を示す図で、準備動作(測定管水位切替)時の様子を表すものである。
【図5】排尿情報測定便器の構成例を示す図で、測定動作時の様子を表すものである。
【図6】排尿情報測定便器の構成例を示す図で、測定終了後の測定開始水位創成時の測定管補水動作の様子を表すものである。
【図7】排尿情報測定便器の構成例を示す図で、設置調整動作(測定管路エアー抜き)時の様子を表すものである。
【図8】排尿情報測定便器の構成例を示す図で、設置調整動作(検量線取得)時の様子を表すものである。
【図9】排尿情報測定に伴う排尿情報測定便器の測定動作の一例を示すフローチャートである。
【図10】排尿情報測定便器による排尿情報算出処理の一例を示すフローチャートである。
【図11】排尿情報測定便器に排尿したとき、排尿量に応じて上昇する溜水水位による圧力変化と波立ちによる圧力変化とを重畳した圧力変化を示すグラフである。
【図12】実際のセンサデータ推定値を使って波立ちノイズを推定する場合のグラフである。
【図13】センサデータの差分値(現時刻のデータから、n△t時刻前のデータを引く)を示すグラフである。
【図14】排尿開始を判断する事例を示すグラフである。
【図15】差分による排尿開始を判断する事例を示すグラフである。
【図16】従来のデジタルフィルタを使った方法による振動ノイズ除去を説明するグラフである。
【図17】図16の排尿を誤判断したときの尿流率の例を示すグラフである。
【図18】排尿情報測定便器に排尿したとき、排尿量に応じて上昇する溜水面水位による圧力変化を圧力センサで計測した結果に基づいて本発明のトレンドモデルで推定した算出用データの一例を示すグラフである。
【図19】本発明にかかる排尿情報測定便器に排尿したとき、排尿量に応じて上昇する溜水面水位による圧力変化を圧力センサで計測した結果に基づいて本発明の方法で尿流率を推定した結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0027】
本発明にかかる排尿情報測定装置は、尿貯留手段、尿データ計測手段、排尿情報算出手段を有する装置であり、排尿情報を算出することを可能とするものである。以下では、排尿情報測定装置が洋式大便器に取り付けられた場合(以下、排尿情報測定便器という)を例示し、まずは当該排尿情報測定便器101の概略を説明したうえでその全体構成について詳細に説明し、さらにその後、排尿情報測定に伴う排尿情報測定便器101の管路切り替え等の一連の測定動作、排尿情報の算出理論を順に説明する。
【0028】
図1に、本実施形態における排尿情報測定便器101が測定ブースに設置された状態を示す。本実施形態における排尿情報測定便器101は、洋風大便器102と、排尿情報測定便器101を作動きせる種々の機能部と制御部120を収納したキャビネット104と、排尿情報測定便器101を使用者が操作したり測定結果を参照したりするための操作・表示部122と、を有する。なお、排尿情報測定便器101には、さらに、尿中の特定成分濃度等を測定する尿成分測定装置や、使用者の局部を洗浄する衛生洗浄装置が設置されていてもよいが、いずれも排尿情報測定に対しては必需のものではない。洋風大便器102は、陶器製であり、その上部には、樹脂製の便座110が回動自在に取り付けられ、通常の大便器と同様な便器洗浄機能部も備えている。
【0029】
排尿情報測定便器101が設置されている測定ブース(例えばトイレ内の間仕切りされた個室)の壁には、排尿情報測定便器101を操作するための操作・表示部122として、排尿情報測定部リモコン134と衛生洗浄装置を動作させるための衛生洗浄装置リモコン132が併設されているが、両者の機能を併せ持つリモコンが設置されていてもよい。
【0030】
排尿情報測定部リモコン134は被験者がトイレに入室し、排尿情報を測定する時に操作するもので、排尿情報測定便器101に対して測定開始の意思を示す測定開始スイッチと、排尿が終了したことを示す排尿終了スイッチを備えている。この排尿情報測定部リモコン134には、測定データの個人別管理を行うために、個人認証スイッチやIDカード等の読み込み手段が設けられてもよい。また、測定結果は排尿情報測定部リモコン134の表示部で被験者に開示してもよいし、プリンター141を使用して被験者に開示されてもよい。さらにまた、本実施形態における排尿情報測定便器101を医療機関に設置したことを想定すると、複数の被験者データを所定の時刻に回収すべく、看護師が排尿情報測定部リモコン134を操作して、プリンターからデータを取り出すことも考えられる。
【0031】
図2に、本実施形態の排尿情報測定便器101の全体構成を便器部の断面図と測定機能部のブロック図との組み合わせで示す。
【0032】
排尿情報測定便器101を構成する洋風大便器102は、通常の洋式大便器と同様な便器洗浄機構を備えており、排水ソケット9を介して下水配管(図示せず)に接続されている。下水配管に対して、トラップ部5によって溜水4が形成されており、下水配管内で発生した臭気や衛生害虫がトイレ内に侵入しないよう衛生面が配慮されている。
【0033】
洋風大便器102には被験者が排泄を行うボウル2と、ボウル2の上部に設置されボウル内面に向けて吐水するリム吐水ノズル7と、底部に設置されトラップ部5に向けて吐水するゼット吐水ノズル8とが形成されている。
【0034】
水位設定手段6は、リム吐水ノズル7とゼット吐水ノズル8へそれぞれ水を供給するリム給水手段71とゼット給水手段81とを備え、さらに、少量の水をゼット吐水ノズル8に供給する補水手段91を備えている。
【0035】
排尿情報測定便器101では、排尿量の測定時のための溜水水位測定が終了した後、ボウル2は、リム吐水ノズル7からの吐水によって内周面が洗浄され、その後、ゼット吐水ノズル8からの吐水でトラップ部5の内部に発生するサイホン現象によって、貯留されている溜水4が排泄物とともに下水配管に送出されるようになっている。
【0036】
ゼット給水手段81からゼット吐水ノズル8への供給流路は分岐部82を持ち、溜水水位測定手段14への導圧水路83が分岐接続されている。導圧水路83は、溜水水位を測定するために、溜水水位測定手段14に溜水4の水位ヘッドを伝達するためのものであるが、導圧水路83には、補水手段91がさらに分岐接続されて、測定開始水位形成時にはボウル2への給水路にもなっている。
【0037】
排尿情報測定便器101では、溜水の排出が一旦完了した後に、このリム給水手段71とゼット給水手段81からの給水の供給量を制御することによって、測定開始の初期水位である測定開始水位を概略形成する。そして、その後、補水手段91からの給水に切り替えて少量の水をボウル2内に供給することによって、溜水4の水位を測定の際に必要な測定開始水位に正確にセットしている。
【0038】
下水配管(図示省略)との接続部分となる排水ソケット9には、下水配管連絡口10を介して下水圧変動量計測手段16が接続されている。水位設定手段6、溜水水位測定手段14、操作・表示部22、および下水圧変動量計測手段16は共通の制御部15に接続されており、それぞれ給水動作の制御、溜水水位の測定、被験者の操作受付処理や下水圧測定等の各種動作の制御が行われる。
【0039】
制御部15は、測定値補正手段17と排尿情報算出手段18を有している。測定値補正手段17は溜水水位測定手段14の水位測定値を、下水圧変動量計測手段16の下水圧測定値によって、下水圧変動のない状態に補正する。補正された溜水水位に関する情報は、水位−溜水量の検量関係式に基づいて溜水量の変化情報に換算され、さらに排尿情報算出手段18によってこの溜水量変化情報から尿量や尿流率等の排尿情報が演算される。
【0040】
排尿情報測定便器101はさらに、排尿情報算出手段18が算出した種々の測定結果や、個人認証結果・測定時刻などの測定環境情報を、被験者だけでなく、測定データを利用する医師・看護師などの医療関係者や、排尿情報測定便器の動作を管理する設備管理者との間で伝達する外部出力手段(図示省略)を備えている。
【0041】
なお、本実施形態では溜水水位測定手段14の水位検出手段として、ボウル内の溜水4と管路で流体的に連通する測定管31と測定管31に設置され溜水の水位変化に比例する出力がとれる後述する圧力センサS1(いずれも図3他参照)とを使用している。この構成の場合、ボウル2から離間した場所において溜水4の水位に比例する水位を測定できることから装置の全体構成が簡単になる。水位検出手段のその他の事例としては、非接触の超音波変位センサなどによって溜水4の表面位置を計測するものがあり、汚水となるボウル内の溜水と接しないことから高信頼性の動作を期待できることになる。
【0042】
また、溜水水位測定手段14には、溜水4の波立ちなどの微小振動の水位測定への影響を取り除く除振手段14aや、圧力センサS1の出力の校正動作を実施する校正手段14bが内蔵されている。
【0043】
下水圧変動量計測手段16は、下水配管内の圧力変動が溜水水位に及ぼす影響量を測定するものであり、本実施例では圧力センサを採用して下水配管内の圧力変動を直接計測しているが、その他の例として水位センサを用いて下水配管内の圧力変動によって引き起こされる溜水水位の変化量を計測する構成としてもよい。
【0044】
続いて、排尿情報測定装置の構成例を説明する。図3等に、本実施形態の排尿情報測定便器101における配管やセンサ等の構成を模式的に示す。
【0045】
図3において、補水タンク60は、給水源(図示せず)から供給される水を排尿情報測定便器101の動作に応じて各部に給水するために一時的に貯留するタンクで、配管32,33により測定管31に連通し、また、別の配管36,37により、ゼット吐水ノズル8に接続されて、溜水4と連通した状態となっている。配管36には、ドレンタンク61に連通した配管34が分岐接続され、途中に排水ポンプP2が配設されている。なお、各配管には各動作に応じた所定の管路を形成するための開閉バルブV1〜V5が適宜配置されている。
【0046】
測定管31は、配管(導圧路)36,37およびゼット吐水ノズル8を通じてボウル2内の溜水4と同じ水位を形成するためのものであり、測定管31内の水に接している圧力センサS1は、水位に比例する信号を出力する。本実施形態では、圧力センサS1を利用して測定管31内の水位を測定することによって溜水4の水位を推定しており、測定管31は圧力センサS1とともに溜水水位測定手段14の水位測定手段として機能する。なお、符号S2は、下水配管連絡口10に接続された配管35を介してドレンタンク61内の圧力を測定することによって、下水圧変動量計測手段16として機能する圧力センサである。
【0047】
本発明における排尿情報測定装置の尿貯留手段は、尿を一時的に貯える機能を有している。例えば本実施形態の場合には、排尿情報測定便器101のボウル2が尿貯留手段として機能する(図2等参照)。被験者の尿は、ボウル2の底部に形成されている貯水部に一時的に貯留された状態となる。本実施形態のごとく洋式大便器のボウル2を排尿情報測定装置の尿貯留手段として利用した場合には、測定終了後、通常の排尿・排便時の便器洗浄動作をするだけで容易に後処理(測定終了後の排尿の処理)をすることができる。
【0048】
本発明における尿データ計測手段は、尿貯留手段に蓄えられた尿の水位や重量を計測する機能を有している。例えば本実施形態の場合には、溜水と混合された状態ではあるが尿を蓄えるボウル2(尿貯留手段)の蓄えられた尿によって形成される水位を計測しているため、上述した測定管31、圧力センサS1は尿データ計測手段30を構成している。
【0049】
また、尿データ計測手段30により得られる計測データに基づき、排尿情報算出手段18が排尿量、尿流率を含む排尿情報を算出する。後で詳述するように、本実施形態では、このような排尿情報算出手段18を用い、計測データに所定の振動モデルを適用してパーティクルフィルタによって処理して得られる算出用データを用いて排尿情報を算出することとしている。
【0050】
続いて、排尿情報測定に伴う排尿情報測定便器101の管路切り替え等の動作について説明する(図3〜図10参照)。
【0051】
被験者が排尿情報測定部リモコン134の測定開始スイッチを押し下げる等して測定開始操作すると(図9に示すステップS101)、実際の出力計測に先立ち、測定管31が所定の高さに設定された開放端まで満水位の状態で圧力センサS1の出力が計測される(ステップS102)。次に、このときの計測値に基づいて圧力センサS1の出力校正を実施する(ステップS103)。
【0052】
<準備動作1(圧力センサ出力校正)>
ここでは、圧力センサS1の出力電圧を絶対校正するために、補水タンク60内の水を給水して測定管31の所定の高さに設けられた大気開放端から溢れさせ、測定管31の中に大気開放端までの一定高さ(既知)の校正用水柱を創成し、その校正用水柱によって生じる一定水圧(水頭圧)の出力電圧の計測値に基づいて圧力センサS1の水位換算出力値を校正する(図3参照)。補水タンク60内の水は、給水ポンプP1によって配管32,33を通じて測定管31へ送り込まれる。測定管31の大気開放端から溢れた水はドレンタンク61へと流れ込み、そのうち所定の水位を超えた分は導圧路35、下水配管連絡口10を通って排水ソケット9へと排水される。本実施形態では、以上の圧力センサ出力校正は測定の都度、毎回実施するが、被験者の測定開始時の待ち時間を短縮するため、時間を要する校正用水柱を創成する工程は前回の測定が終了した際に行っておき、比較的短時間で行なえる出力の計測(ステップS102)および校正(ステップS103)の工程だけを測定開始時に実施する。
【0053】
<準備動作2(測定管の水位切替)>
次に、測定管31とボウル2とが連通するように配管を切り替えて、測定管31内の水位をボウル2の溜水4の水位と同水位にする(ステップS105)。即ち、開閉バルブV5を閉め、開閉バルブV2を開け、導圧路36と導圧路37とを連通させることによって、測定管31とボウル2とが連通した状態とする(図4参照)。このとき、連通する前の両者の水位が互いに異なるため、測定管31とボウル2が連通すると同水位に移行する過程で測定管31の水位が振動し、この振動が圧力センサS1の出力値に現れる状態となる。なお、図4等では連通した状態の配管(導圧路)を太線で示している。
【0054】
<測定動作>
準備動作を終えたら、排尿情報測定便器101内の時間的な水位変化を、圧力センサS1を用いて排尿開始から終了まで計測する(ステップS105)。この間は、排尿に伴いボウル2の溜水面に振動が生じる。この振動はボウル2に連通している測定管31にも伝わり、この振動が圧力センサS1の計測値に現れる。ここで計測された水位変化は予め記憶しているボウル形状に基づいた水位と水量の検量関係に基づいて、溜水量変化に換算される。単位時間当たりの溜水量変化が尿流率St(mL/s)であり、排尿中の尿流率積算値が排尿量Vu(mL)である。計測結果から算出用データが作成され(ステップS106)、排尿情報が算出される(ステップS107)。本実施形態のように、少なくとも排尿開始時または排尿終了時における溜水水位(溜水の水面高さ)や水位変化率を含む算出用データを用いることで、排尿情報として重要な要素を簡単な処理で正確に求めることが可能である。以上の測定動作は、被験者が排尿情報測定部リモコン134の排尿終了スイッチから排尿終了を入力するまで続けられる(ステップS108)。
【0055】
<便器洗浄およびその後の補水動作>
測定動作を終えたら、通常の大便器と同様に、リム給水手段71とゼット給水手段81とから順次給水を行なって、ボウル2内の排泄物を含んだ内容物を便器外に排出した後、再度ボウル2内に溜水を形成する便器洗浄動作を行なう(ステップS109)。その後、補水タンク60内の貯留水を給水ポンプP1によってゼット吐水ノズル8から補水してボウル2内に測定開始水位を創成する(ステップS110)。測定開始水位は一例として、封水深が50mm以上であってできるだけ低くなっていることが好ましい。そのため本実施形態では、当該水位に正確に形成するために、便器洗浄動作で給水したうえで、補充する溜水を、補水タンク60からゼット吐水ノズル8に向けて供給する(図6参照)。
【0056】
測定開始水位を創成したら、開閉バルブV2を閉じ開閉バルブV3を開けることによって、給水管路を測定管31への管路に切り替える(ステップS111)。管路切り替え後、前述したように、補水タンク60内の水を給水して測定管31の中に一定高さ(既知)の校正用水柱を創成する動作を行なう(ステップ112)。
【0057】
即ち、補水タンク60内の水は、給水ポンプP1によって配管32,33を通じて測定管31へ送り込まれる。そして、測定管31の所定の高さに設けられた大気開放端から溢れた水はドレンタンク61へと流れ込み、そのうち所定の水位を超えた分は導圧路35、下水配管連絡口10を通って排水ソケット9へと排水されることによって、大気開放端までの高さを持った水柱が測定管31内に正確に創成される。測定管31に注水して大気開放端までを満水状態として次回の測定準備が完了したら、一連の排尿情報測定動作を終了する。
【0058】
なお、以下に、排尿情報測定便器101の現場据え付け時にのみ一回限り行う動作(設置調整動作)を参考までに示す(図7、図8参照)。
【0059】
<設置調整動作(エアー抜き)>
配管内における残存エアーが水位測定を阻害しないように、補水タンク60とボウル2内の水を導圧路36等に通水して、圧力測定管路内のエアーを排出する(図7参照)。
【0060】
<設置調整動作(検量線取得)>
ボウル2内の溜水4の水位と溜水量との関係である検量関係を学習するために、A:ボウル2内の溜水4を排水ポンプP2で定量吸引、B:圧力センサS1で測定管31内の水柱の圧力測定、を所定の繰り返し行なって、溜水量と圧力測定値(水位)との検量関係となる回帰式を取得する(図8参照)。
【0061】
続いて、排尿情報の算出の理論について説明する(図10〜図19参照)。
【0062】
図18は、本実施形態の排尿情報測定便器101のボウル2内に排尿したとき、排尿量に応じて上昇する溜水面水位による圧力変化を圧力センサS1で計測した結果のセンサデータを示す。本発明における尿貯留手段としてボウル2のように広い面積の容器で排尿状態を連続して計測する場合、尿流入による容器内の水位変化はわずかであるので高感度のセンサを使用することになるが、高感度のセンサでは出力信号のノイズが大きくなるという現象があり、図18のようにノイズを多く含んだ結果になる。このようなセンサデータから、水位の真値をセンサデータ推定値とし、これを算出用データと呼ぶ。算出用データを求めるには、パーティクルフィルタでトレンドモデルをつかって推定する。今、時刻iでの算出用データをydiとすると1次のトレンドモデルでは
ydi =ydi-1+wydi (1)
2次のトレンドモデルでは
ydi=2ydi-1−ydi-2+wydi (2)
と表せる。ここでwydiは、平均0、分散σydiの正規分布関数である。
【0063】
このようにすると図18に示すように尿による水位の真値の推定値である算出用データを求めることが出来る。算出用データを求めるには移動平均などの平均化処理もあるが、トレンドモデルを使った方が、移動平均を使うよりも尿流率変化への時間的な追随性がよい。
【0064】
図11は、ボウル2内に排尿したとき、排尿量に応じて上昇する溜水面水位による圧力変化と波立ちによる圧力変化を重畳した圧力変化と、排尿量に応じて上昇する溜水水位による圧力変化のみの、2つの場合を示すグラフである。図11に実線で示すようにセンサ推定値には、測定系の配管バルブの開閉による圧力変動や排尿に伴う、溜水面の波立ちにより1Hz以下の低周波振動が現れる。図11にはこの低周波振動が存在しない(現実にはありえないが、仮想として)場合のセンサ出力が破線で表示されている。この破線データのように全くノイズが無ければ、尿流率は
尿流率=(現在の尿量−n期前の尿量)/(nΔt)
とすることで簡単に求まる。ここでΔtはサンプリング周期である。
【0065】
しかし、実際のセンサには波立ちノイズやその他のノイズが存在し、上記のように簡単に尿流率を求めることができない。
【0066】
図12は実際の算出用データを使って波立ちノイズを推定する図である。図12の実線が実際のセンサ出力、破線が波立ちノイズの推定値である。波立ちノイズは減衰振動であるので、自己回帰モデルは
ydi=ΣAKydi-K +wydi (3)
となる。ここで
ydi;時刻iでの算出用データ
AK;回帰モデルの係数
である。特に波立ちのような振動モデルは2次の自己回帰モデル
ydi=2ricosθiydi-1−r2ydi-2 +YO (4)
を使って、パーティクルフィルタ(以下PF)を用いれば容易に推定できる。
【0067】
ここで
Y0;振動の中心値
ri;時刻iでの振幅強度に関係した値0〜1の値
θi;時刻iでの振動周波数
である。
【0068】
なお、ここで(4)式の代わりに減衰振動を表す式として
次の三角関数モデル(2種類)
ydi=Aicos(θit+φi)+YO (5)
ydi=Ae-τtcos(θit+φi)+YO (6)
などを用いてもよい。
【0069】
ここで、
A;振幅強度
τ;減衰定数
φ;位相
である。
【0070】
パーティクルフィルタのパラメータが最も少なく簡便なモデルとなるのは(4)式を用いた場合である。以下(4)式を使った場合を説明する。
【0071】
排尿情報測定便器101の場合、波立ち振動の周波数は固有振動となり、実験的にもその周波数は同定でき、約0.5Hz付近になることが確認できる。この周波数であれば、利用者(被験者)が尿計測しようと測定開始スイッチを押してから1秒程度の時間のデータをとれば、そのときの振動周波数や振幅強度などの波立ちノイズ推定に必要な諸情報が計算でき、その後、これらの諸情報を利用して、排尿が始まらないと仮定したときのセンサ出力が推定できる。つまり、利用者が尿計測しようとしてから1秒程度で計測準備が完了する。これらは従来デジタルフィルタのようなフィルタを用いて直流成分である排尿による成分と振動成分である波立ちノイズ成分を分離するようにされていた。しかし分離する波立ち成分が低周波で非常に直流成分に近く、完全に分離することは不可能であった。そのため、利用者が測定開始スイッチを押して尿計測の意思を表示しても、波立ちノイズが収まるように5秒程度の非計測時間が設けられていたが、それでも波立ちが収まらずに排尿していなくても、波立ち部分を排尿と誤検知する不具合があった。
【0072】
図12の例は排尿前の水位である振動の中心Y0と波立ち分の未来予測をすることで排尿開始時間を求める方法の例である。図12で、まず(4)式と排尿前の算出用データを使って、rとθおよびY0をPFによって求める。次にこのr、θおよびY0と排尿前の算出用データを(4)式に代入して、波立ち分の未来予測をする。この未来予測結果が図12の破線で示されている。この波立ち成分の未来予測yu0と実際のセンサデータ推定値ydとの差eyが所定の第一閾値B1(この第一閾値B1はPFを使った推定誤差以上の大きさの値に設定する)を超えると排尿開始と判断し、その時刻を排尿開始時刻TSとする。これは振動の未来予測と排尿しないときの算出用データはこの所定の閾値より小さな誤差内になることを利用している。
【0073】
また前述したように図12では排尿前の水位である振動の中心Y0も求まる。同じようにして排尿終了後に振動の中心Yeを求めることが出来るので、図10に示す排尿量VuはVu=Y1−Yeとすれば、簡単に求めることができる。
【0074】
また、排尿開始後、所定の時間区間(図10に示す第三閾値監視時間W7)以上、所定の尿流率(図10に示す第二閾値B2)以下が継続したとき排尿終了と判断し、その時刻を排尿終了時刻とすれば、排尿開始時刻TSが既知であるので、容易に排尿時間TUも算出できる。なお、(4)式を用いた波立ち成分の未来予測は排尿開始と判断した時点で終了させることが、制御部15にある尿情報算出マイコンの動作エネルギーを省力化する上で望ましい。
【0075】
図13は算出用データの差分値(現時刻のデータから、n時刻前のデータを引く)を示している。このように差分すると、振動の中心が尿流率に関連した数値を振動中心として振動するようになる。例えば、差分間隔を1秒とすると、振動の中心はそのときの尿流率そのものになる。今、差分間隔をn△t、時刻iでの差分値をYdiとすると
Ydi−Sin△t=2rcosθi(Ydi-1−S i-1n△t)−r2(Ydi-2-S i-2n△t) (7)
として時刻iにおける尿流率Siを求めることができる。
【0076】
図13の方法は算出用データの差分値を使うことで計算は簡単になるが差分による時間遅れが生じる。つまり、実際の尿流率の時間変化に対して少しゆっくりとした動きの結果になる欠点がある。
【0077】
これに対して図14の方法は、図13のように算出用データの差分でなく、算出用データそのものを利用して、時刻iの尿流率Siを推定するので、計算は複雑になるが、時間遅れの無い尿流率が求まる。図14では、
ydi=Vdi-2+(Si+Si-1)Δt+2rcosθi(ydi-1−Vdi-2−S i-1Δt)−r2(ydi-2−Vdi-2) (8)
Vdi=Vdi-2+(Si+Si-1)Δt (9)
とし、PFを使って、図13と同じ方法で推定すればよい。
ここで、Vdiは時刻iにおける尿量である。
以上図13および図14を使って説明した尿流率の推定では、図12および図15に示す排尿開始判断後に、算出を開始し、排尿終了判断時に算出を終了させることが望ましい。
【0078】
図15は差分による排尿開始を判断する事例である。図13と同じように算出用データを差分すると、排尿開始前は尿流率が0であるので、0を中心とした振動データとなる。すなわち(4)式のY0をなくした
ydi=2ricosθiydi-1−r2ydi-2 (10)
という簡単な式で表現できる。このようにして図12と同じように排尿が無いとして振動の未来予測を行い、実際のセンサデータ推定値の差分値との差eyが予め設定した第一閾値B1以上になったとき、排尿を開始したと判断する。図15の方法は計算が簡単であるが、排尿開始前の水位Y0を推定しないので排尿量を求めることは出来ないという欠点がある。
【0079】
図15で説明した方法も排尿開始と判断した時点で終了させることが望ましい。また、図15の方法は図13で説明したように、排尿終了後の水位Yeを推定するときにも同じ方法で適用できる。このようにして排尿開始時の水位Y0と排尿終了時の水位Yeが推定できれば、その差から排尿量VUは容易に推定できる。以上説明したように排尿前、排尿中、排尿後で振動モデルの適用方法を変更することにより、排尿状況に応じて知りたい排尿情報を効率的に得ることが可能となる。
【0080】
図16は従来のデジタルフィルタを使った方法による振動ノイズ除去を説明する図である。図16でセンサ出力(計測データ)をデジタルフィルタ処理したものが破線で示したものになる。デジタルフィルタで処理しても振動周波数が1Hz以下の振動を完全に除去できない。このため、図16に示すように、振動が収まる時間を想定し、それに見合う排尿禁止期間を予め設定(現行は例えば5秒)している。大きな振動が残った段階では、排尿していないのに排尿したと誤判断するからである。その間利用者は排尿を我慢することを強いられることになる。それでも振動ノイズの発生程度によっては排尿禁止期間を過ぎても大きな振動が残っていることがあり、図16に示すように一点鎖線で示す静止水位推定値に排尿開始閾値(二点鎖線)より大きな信号となることがある。このようになると排尿していないのに排尿したと誤判断する。
【0081】
図17は図16の従来のデジタルフィルタを使った方法において排尿を誤判断したときの尿流率の例である。最初に小さな信号が出ている部分が誤判断である。
【0082】
以上に対し、本実施形態では、排尿情報算出手段18を用い、尿データ計測手段30の計測データに統計的処理の例としてトレンドモデルを適用してPFによって処理して得られる算出用データに、所定の振動モデルを適用してPFによって処理することによって排尿情報を算出するので、排尿情報測定便器101に排尿したとき、排尿量に応じて上昇する溜水面水位による圧力変化を圧力センサS1で計測した結果として図19に示すようなデータが得られる。図からわかるように、本実施形態によれば振動ノイズが存在していても排尿開始時点を容易に判断することが可能となるため排尿開始水位Y0や排尿開始時刻TSが明確になるので、正確な尿流率(排尿情報)を得ることができる。
【0083】
ここで、上述した理論に基づく排尿情報算出処理手順の一例を説明する(図10参照)。
【0084】
測定開始スイッチが押された後、圧力センサS1からの出力信号yを取り込んだら(ステップS501)、該センサ信号yを使って上述のごときセンサデータydを推定する(ステップS502)。その後、該センサデータ推定値ydより、排尿開始時の静止水位y0、振動周波数θ、振動強度rを推定し(ステップS503)、さらに、静止水位y0、振動周波数θ、振動強度rと現時刻より過去のセンサデータyd_pを使って、排尿を開始していないとしたときの波立ち信号yu0を推定する(ステップS504)。ここまでのステップは、振動モデルに自己回帰モデルを使ってPFで波立ち水位を推定しているが、推定に利用している算出用データは排尿開始前のデータであり、推定結果にも排尿されていないという条件下での推定になるという特徴がある。この結果、推定の途中で被験者が排尿を開始すれば、推定結果と異なる算出用データ値が現れ、振動ノイズが存在していても容易に排尿開始が判断できる。
【0085】
次に、センサデータ推定値ydと波立ち信号yu0との差eyが第一閾値B1以上かどうか、判断する(ステップS505)。B1以上でなければ当該判断を繰り返す一方、B1以上であれば、排尿開始時刻TSを決定し(ステップS506)、次に図13で説明した方法を使って、尿流率Stを推定する(ステップS507)。その後、尿流率Stが第二閾値B2より小さい状態が第三閾値監視時間WT以上継続したかどうか判断し(ステップS508)、WT以上継続していなければステップS507へ戻る一方、WT以上継続していればステップS509へと進む。ここまでのステップは、算出用データの差分値を用いた自己回帰モデル(以下、差分自己回帰モデルと記す)で振動モデルを構築し、PFで尿流率Stを推定している。このようにすることでこのステップの区間で最も重要な排尿情報である尿流率Stを簡単に推定できる。
【0086】
ステップS509では、排尿終了と判断し、センサデータの推定および尿流率の推定を終了する(ステップSP509)。その後、排尿終了時の静止水位Yeを推定し(ステップS510)、排尿量Vuおよび排尿時間Tuを算出する(ステップS511)。ステップS510とステップS511のステップは、ステップ503で説明したものと同じで、排尿終了と判断した後のセンサデータ推定値を使い、排尿が無いときの静止水位Yeを簡単に推定することができる。その後、初期化して(ステップS512)、一連の算出処理を終了する。
【0087】
上述した排尿情報算出処理の一例では、排尿前、排尿中、排尿後で適用する振動モデルを変更して、その状況で特に重要な排尿情報を求めるようにしている。このように、計測データの状態に合わせた処理を行うことにより、簡単に算出用データを取得することが可能となるため好適である。
【0088】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、本実施形態では、自己回帰モデルまたは三角関数モデルを振動モデルとした場合について例示したが、この場合の自己回帰モデルまたは三角関数モデルにおいて、排尿開始水位または排尿終了水位を求めるときは、排尿開始水位または排尿終了水位および振動周波数と振幅強度をパーティクルフィルタの粒子を構成するパラメータとすることも好ましい。こうした場合、排尿情報を知る上で必要な測定開始水位と測定終了水位を正確に求めることが可能となり、結果として、排尿量をより正確に求めることが可能となる。
【0089】
あるいは、自己回帰モデルまたは三角関数モデルを振動モデルとする場合において、排尿開始時刻または排尿終了時刻を求めるときは、振動周波数と振幅強度および測定開始時の水位を用いて算出用データを推定し、推定結果と算出用データとの差が各々予め設定した閾値以上または以下の大きさになったときを各々排尿開始時刻あるいは排尿終了時刻とするようにしてもよい。こうすることで、排尿開始時刻を正確に知ることができ、結果として排尿していないのに排尿しているような不具合を生じさせることがない。また、正確な排尿時間を決定することができる。
【0090】
さらには、自己回帰モデルまたは三角関数モデルを振動モデルとする場合において、尿流率を求めるときは、振動モデルとして測定開始水位と排尿による水位上昇成分および振動による成分をパーティクルフィルタの粒子を構成するパラメータとしてもよい。こうした場合、実際の尿流率の時間変化に対して追随性のよい、正確な尿流率を得ることができる。
【0091】
なお、以上では、尿データ計測手段として一定の大きさの容器の水位をパラメータとして尿の体積を計測するものを発明の実施例として説明してきたが、重量を計測するものであっても本発明は適用可能である。
【0092】
即ち、容器に排出される尿の重量を計測する場合であっても、機器の動作時の振動や排尿時の尿の着尿による振動が原因となって計測データが振動することが起こり得るが、その場合も、本発明を適用して、計測データを統計的処理して求めた算出用データに振動モデルを適用してパーティクルフィルタによって処理することによって、正確な排尿情報を得ることが可能となる。
【符号の説明】
【0093】
2:ボウル(尿貯留手段)
18:排尿情報算出手段
30:尿データ計測手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿を貯える尿貯留手段と、
前記尿貯留手段に蓄えられた尿の体積や重量を計測する尿データ計測手段と、
前記尿データ計測手段により得られる計測データに基づいて排尿量、尿流率を含む排尿情報を算出する排尿情報算出手段と、
を有する排尿情報測定装置において、
前記排尿情報算出手段は、前記尿データ計測手段の計測データを統計的処理して得られる算出用データに、所定の振動モデルを適用してパーティクルフィルタによって処理することによって前記排尿情報を算出することを特徴とする排尿情報測定装置。
【請求項2】
前記尿貯留手段が洋式大便器のボウルであり、前記計測データが前記ボウル内の溜水の水位データであることを特徴とする請求項1または2に記載の排尿情報測定装置。
【請求項3】
前記算出用データが、少なくとも排尿開始時または排尿終了時の各水位乃至は水位変化率を含むものであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の排尿情報測定装置。
【請求項4】
振動モデルを適用したパーティクルフィルタによって処理する場合において、排尿の状態、すなわち、少なくとも排尿前、排尿中、排尿後で適用する振動モデルを変更して排尿情報算出することを特徴とする請求項1記載の排尿情報測定装置。
【請求項5】
前記振動モデルが自己回帰モデルまたは三角関数モデルであることを特徴とする請求項1記載の排尿情報測定装置。
【請求項1】
尿を貯える尿貯留手段と、
前記尿貯留手段に蓄えられた尿の体積や重量を計測する尿データ計測手段と、
前記尿データ計測手段により得られる計測データに基づいて排尿量、尿流率を含む排尿情報を算出する排尿情報算出手段と、
を有する排尿情報測定装置において、
前記排尿情報算出手段は、前記尿データ計測手段の計測データを統計的処理して得られる算出用データに、所定の振動モデルを適用してパーティクルフィルタによって処理することによって前記排尿情報を算出することを特徴とする排尿情報測定装置。
【請求項2】
前記尿貯留手段が洋式大便器のボウルであり、前記計測データが前記ボウル内の溜水の水位データであることを特徴とする請求項1または2に記載の排尿情報測定装置。
【請求項3】
前記算出用データが、少なくとも排尿開始時または排尿終了時の各水位乃至は水位変化率を含むものであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の排尿情報測定装置。
【請求項4】
振動モデルを適用したパーティクルフィルタによって処理する場合において、排尿の状態、すなわち、少なくとも排尿前、排尿中、排尿後で適用する振動モデルを変更して排尿情報算出することを特徴とする請求項1記載の排尿情報測定装置。
【請求項5】
前記振動モデルが自己回帰モデルまたは三角関数モデルであることを特徴とする請求項1記載の排尿情報測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2013−90748(P2013−90748A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234217(P2011−234217)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】
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