排尿検知装置
【課題】おむつ、尿取りパッド等の吸収性物品への排尿量を高精度に測定する排尿検知装置を提供することができる。
【解決手段】静電容量センサシート1は、フィルム1a、フィルム1aの一方の面に形成される複数の電極1bを有する。電極1bは、それぞれが導線により結線され、列置された電極列を複数列備えることで、複数のセンサ素子を構成している。電極列における列方向の電極間隔は、20〜55mmの範囲にあり、電極は、15〜35mmの矩形内にある形状である。このような静電容量センサシート1が、吸収性物品の外側表面に取り付けられる。吸収性物品の吸収部は、350g以上の遠心保持量の尿を吸収することができるポリマー量を有する。静電容量センサシート1は、各センサ素子による電極間のインピーダンス変化を検知し、尿取りパッド等の吸収性物品内の排尿を検知する。
【解決手段】静電容量センサシート1は、フィルム1a、フィルム1aの一方の面に形成される複数の電極1bを有する。電極1bは、それぞれが導線により結線され、列置された電極列を複数列備えることで、複数のセンサ素子を構成している。電極列における列方向の電極間隔は、20〜55mmの範囲にあり、電極は、15〜35mmの矩形内にある形状である。このような静電容量センサシート1が、吸収性物品の外側表面に取り付けられる。吸収性物品の吸収部は、350g以上の遠心保持量の尿を吸収することができるポリマー量を有する。静電容量センサシート1は、各センサ素子による電極間のインピーダンス変化を検知し、尿取りパッド等の吸収性物品内の排尿を検知する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排尿検知装置に関し、特に、おむつ、尿取りパッド等の吸収性物品への排尿量を測定する排尿検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
寝たきりの被介護者の介護や尿失禁の対応としてはおむつが用いられており、おむつの交換の必要性を介護者に伝えられない等の理由により、予め決められた時刻または一定時間毎におむつを交換している。
【0003】
しかしながら、排尿の間隔や、1回の排尿量が正確には把握できないことから、介護者は一定時間毎におむつを交換する必要があり、また、おむつを開けなければ内部の状況を把握できないため、十分に排尿していない被介護者のおむつも開けてまた付け直すことが頻繁に発生してしまう。そのため、介護者には不要な労力が発生し、被介護者にとっては、必要以上におむつのチェックを受けることになり、精神的にも負担になっていた。
【0004】
これに対して、特許文献1には、おむつの吸収部の外側に位置決めした、一組の導電体の間の静電容量の変化に基づいておむつへの排泄状態を検出する排泄監視装置が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、複数のセンサ出力に基づき吸収性物品内の排泄量を検知する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−185067号公報
【特許文献2】特開2002−224093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術では、排尿の有無を検出することはできるが、排尿の量までは正確に把握することは困難である。これに対して特許文献2の技術では、排尿の量(排泄量)を検知することができるが、正常な成人の1回の排尿量約150gでの複数回の排尿を測定することは考慮されていないため、複数回の排尿に対応した吸収性物品に適用した場合には、排尿量の測定精度が低くなる課題がある。特許文献2の技術でも、被介護者の排尿間隔や排尿量、排尿速度等を測定することが困難であった。
【0008】
一方、高齢化社会がすすんでいる中で、被介護者の排泄の自立支援が求められているところ、排尿したことを検知するだけであったり、排尿量を検知するだけでは自立支援は困難であり、排尿間隔、排尿量、1日の排尿回数などまで把握し、適切なタイミングで排泄自立に向けて声をかけたり、トイレに誘導するなどの支援が求められている。また、被介護者の排尿速度、排尿間隔等を把握できれば、排尿障害の原因の診断を可能にし、さらに排泄の自立支援の手段が改善される。従って、単に排尿タイミングや排尿量を検知する装置ではなく、排尿リズムや排尿履歴を測定可能にする、吸収性物品への排尿量を高精度に測定する排尿検知装置が求められている。
【0009】
本発明は、おむつ、尿取りパッド等の吸収性物品への排尿量を高精度に測定する排尿検知装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面は、排尿を吸収する吸収性物品の、使用者の肌に触れる側とは反対の外側表面に複数の電極を列置した電極列を複数列備え、複数の電極間のインピーダンス変化に基づいて排尿を検知する排尿検知装置であって、吸収性物品の吸収部は、350g以上の遠心保持量の排尿を吸収することができるポリマー量を有し、電極列における列方向の電極間隔は、20〜55mmである。
【0011】
以上のように、電極列における列方向の電極間隔およびポリマー量の適切な組み合わせを用いることにより、排尿量が多くなっても、測定精度が高いため、1回の排尿量だけでなく、排尿間隔、排尿時間や尿流量(排尿速度)の測定を行うことが可能となり、膀胱機能や排尿障害の評価を行うことが可能となる。
【0012】
前記電極は、15〜35mmの矩形内にある形状である。これにより、精度良く排尿量を検知することができる。
【0013】
前記吸収性物品の吸収部の単位面積当たりの遠心保持量は、5000〜8000g/m2である。これにより、複数回の排尿を測定可能としながら排尿量が多くなっても測定精度が高いことから、排尿間隔を測定可能とするだけでなく、排尿時間、尿流量(排尿速度)をより精度良く排尿量を検知することができる。
【0014】
前記電極列の一端から他端までの長さは、前記吸収性物品の吸収部の長手方向の長さの75%以上、100%以下である。これにより、精度良く排尿量を検知することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、おむつ、尿取りパッド等の吸収性物品への排尿量を高精度に測定する排尿検知装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る静電容量センサシートの構成例を示す図である。
【図2】本発明を適用した排尿検知装置の構成例を示すブロック図である。
【図3】データ収集部の詳細な構成例を示すブロック図である。
【図4】情報処理部の詳細な構成例を示すブロック図である。
【図5】静電容量センサシートが取り付けられたおむつの装着方法を説明するための図である。
【図6】おむつを装着した使用者の断面を示す図である。
【図7】静電容量センサシートの排尿センサの原理を説明する図である。
【図8】人工尿を一定量ずつ注入した場合の人工尿が広がる様子を示す図である。
【図9】静電容量センサ出力変化量と人工尿広がり面積の関係を示す散布図である。
【図10】人工尿を一定量ずつ注入した場合の人工尿広がりを模式的に示す図である。
【図11】図10(a)、図10(b)での測定条件における人工尿注入量と静電容量センサ出力変化量の関係を示す散布図である。
【図12】図10(b)、図10(c)での測定条件における人工尿注入量と静電容量センサ出力変化量の関係を示す散布図である。
【図13】電極パターンの例を示す図である。
【図14】他の電極パターンの例を示す図である。
【図15】いくつかの電極パターンを用いた人工尿注入量と静電容量センサ出力変化量の関係を示す散布図である。
【図16】電極パターンを用いて静電容量センサ出力変化量を測定したいくつかの実施例を示す図である。
【図17】吸収性物品の遠心保持量の測定方法により得た測定結果を示す図である。
【図18】図16での測定条件における人工尿注入量と静電容量センサ出力変化量の関係を示す散布図である。
【図19】電極間隔と遠心保持量の関係を示す散布図である。
【図20】電極間隔の定義について検討する際に用いた電極の配置を示す図である。
【図21】電極間隔d´の一例を示す図である。
【図22】電極間隔d´の他の一例を示す図である。
【図23】実施例1の測定条件を用いて、1秒間に5gずつまたは10gずつ人工尿を注入する計測を行った場合の静電容量センサ出力変化量と時間の関係を示す散布図である。
【図24】図23での測定値を用いて1秒あたりの尿流量を算出し、算出した尿流量と時間の関係を示す散布図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、吸収性物品の、使用者の肌に触れる側とは反対の外側表面に、複数の電極を列置した電極列を複数列備えている。複数の電極列は、吸収性物品の吸収部の使用者の肌に触れる側とは反対の外側表面に備えてもよいが、図1に示すように静電容量センサシートに備え、静電容量センサシートを吸収性物品の吸収部の使用者の肌に触れる側とは反対の外側表面に備えるものが好ましい。
【0018】
静電容量センサシート1は、フィルム1a、フィルム1aの一方の面に備えられる複数の電極1bを有する。複数の電極1bは、フィルム1aの一方の面に接着されていてもよいし、縫いつけられていてもよく、固着されていることが好ましい。複数の電極1bは、それぞれが導線により結線され、列置された電極列を複数列備えることで、複数のセンサ素子を構成している。各センサ素子は、正電極と負電極との間のインピーダンス変化を検知する。なお、センサ素子の数は、正電極の数に対応していても良いし、対応していなくてもよい。
【0019】
本発明は、電極列における列方向の電極間隔は、複数回の排尿や多量の排尿に対する測定精度向上の観点から、20〜55mmであり、25〜55mmであることがより好ましい。本発明の電極間隔d‘は、列方向において隣り合う電極の対向する端部の間を離間距離dとした場合に、図20に示すように電極を電極列に直行する直線によって面積を4等分した場合に、電極端部から面積が1/4の直線までの距離を各々a1/2、a2/2とした場合にこれらの合計を電極間隔d‘と定義する。
即ち、電極間隔は以下の式(1)で表される。
【数1】
ここで、a1/2は、一つの電極において、列方向に直行する直線によって、電極の面積を分割した場合の一方の領域における重心から、列方向における近接する端部までの距離を意味する。電極の形状が矩形の場合には、列方向における長さの1/4に相当する。なお、離間距離dは、電極列の列方向における隣り合う電極の端部同士の距離であって、電極の形状によらず、0より大きい距離であって、50mmより小さい距離である。電極の形状が概ね矩形である場合には、複数回の排尿や多量の排尿に対する測定精度向上の観点から10〜45mmであることが好ましく、12〜40mmであることがより好ましい。
【0020】
図1の例では、電極1bは、6行×2列に2次元配列されており、各電極が矩形状をなす。電極列において列方向に隣り合う電極は、正極、負極、正極・・・の順に列置され、かつ、隣り合う電極列において列方向に直交する隣り合う電極についても正極に対して負極、負極に対して正極の関係で配置されても良いし、正極に対して正極、負極に対して負極で配置されても良い。動作による誤差低減の観点から正極に対して正極、負極に対して負極で配置するのが好ましい。そして、正電極には、正電位が印加され、負電極は、接地されている。
【0021】
なお、静電容量センサシート1の材質は、フィルム1aに限らず、例えば、不織布やフレキシブル基板などでも良い。
【0022】
以上のような構成からなる静電容量センサシート1は、老人や乳幼児の尿又は便等の排泄物を吸収する尿取りパッド等の吸収性物品(ここでは、尿取りパットと称する)の外側表面(フィルム側)に取り付けられ、尿取りパットに吸収された排泄物の排泄量(本実施の形態では、特に排尿による排尿量)を、複数のセンサ素子により検知する。なお、センサ素子により検知されたデータの出力間隔は0.1秒〜3分であることが好ましく、3秒未満であることがより好ましく、1秒以下であることがさらに好ましい。また、測定時間(同じ尿取りバッド等の吸収性物品を装着して測定する時間)は5〜10時間であることが好ましく、6〜9時間であることが好ましく、6〜8時間であることがさらに好ましい。このような測定間隔、測定時間の測定を行うことによって、複数回の排尿を測定可能となり、使用者の排尿パターンに関連する、排尿回数、1回の排尿量や排尿速度、排尿間隔のデータをより正確に得ることができる。
【0023】
尿取りパッドは、テープおむつ(マジックテープ(登録商標)が取り付けられたおむつ)の内側(排泄箇所)に挿入し、重ねて使用される。すなわち、静電容量センサシート1は、上述したように尿取りパッドの使用者の肌に触れる側とは反対の外側表面に取り付けられ、排尿等があっても、原則として静電容量センサシート1は汚れないので、尿取りパッドを交換する際に、静電容量センサシート1を使用後の尿取りパッドからはずせばよく、また新たな尿取りパッドにも装着容易であり、簡便かつコストメリットがあり、環境負荷が少なくなる。なお、上記使用者は、被介護者、排尿パターン検査の被験者、排尿支援のための被験者などが挙げられ、被介護者又は被験者に用いられる。
【0024】
なお、静電容量センサシート1は、テープおむつの内側に固定したり、尿取りパッドとテープおむつの間に挟んで固定することもできるが、使用者の動きに対して尿取りパッドとの相対的位置関係の維持向上の観点から尿取りパッドに取付又は固定することが好ましい。
【0025】
[本発明の排尿検知装置の構成]
図2は、本発明を適用した排尿検知装置10の構成例を示すブロック図である。この排尿検知装置10においては、静電容量センサシート1、データ収集手段11、および情報処理手段12から構成される。なお静電容量センサシート1、データ収集手段11、および情報処理手段12の使用例については、図5を参照して後述する。
【0026】
静電容量センサシート1を含む回路全体には、電圧制御手段21(図3)から400から600kHzの矩形波の電圧がかけられており、各センサ素子による電極間のインピーダンス変化が電圧制御手段21によって検知される。そして、単位時間ごとの電極間のインピーダンス変化を電圧制御手段21において電圧値に比例した静電容量センサ出力に変換される。
【0027】
データ収集手段11は、静電容量センサシート1とケーブル(図示せぬ)を介して接続され、テープおむつの使用者の肌側とは反対側の外側表面に取り付けられる。データ収集手段11の電圧制御手段21(図3)は、静電容量センサシート1を介して検知されたインピーダンスの変化を電圧値に比例した静電容量センサ出力として収集する。
【0028】
また本発明のデータ収集手段11は、電圧制御手段21とともに、加速度センサ22(図3)を有している。加速度センサ22は、使用者の変位によるX軸方向、Y軸方向、Z軸方向の加速度をそれぞれ検出(収集)することにより、おむつを装着している使用者の姿勢を検知する。
【0029】
情報処理手段12は、例えば、コンピューターであって、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)等を有し、データ収集手段11で収集されたデータを取得し、排尿量、排尿速度、および尿流量を算出する。データ収集手段11で収集されたデータからの算出方法の詳細は、後述する。
【0030】
図3は、データ収集手段11の機能の構成例を示すブロック図である。データ収集手段11は、電圧制御手段21、およびデータロガー23で構成され、加速度センサ22を備えている。
【0031】
電圧制御手段21は、静電容量シート1の電極間インピーダンスZxと抵抗値が既知のインピーダンス要素Z1〜Z3とでブリッジ回路を構成し、ブリッジ回路の入力端に発振回路の出力電圧を印加する。そして、インピーダンス要素Z1、Z2による分圧電圧と、インピーダンス要素Z3と電極間のインピーダンスZxとによる分圧電圧との差電圧を検波して、インピーダンスZxの大きさに応じた電圧値の電圧信号をデータロガー22に出力する。本発明では、インピーダンスZxの大きさに応じた電圧値の電圧信号に比例した値である静電容量センサ出力をデータロガー23に単位時間ごとに出力して保存することが好ましい。単位時間は、0.1〜3秒が好ましく、0.1〜1秒がさらに好ましい。
【0032】
加速度センサ22は、おむつを装着している使用者の姿勢を検知するものであって、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向の加速度をそれぞれ検出(収集)し、検出結果をデータ収集手段11のデータロガー23に出力する。
【0033】
データロガー23は、電圧制御手段21および加速度センサ22から取得したデータを保存する電子計測器である。データロガー23は、情報処理手段12からの要求に応じて、または、情報処理手段12に接続されたことを検知すると、保存しているデータを情報処理手段12に転送する。
【0034】
図4は、情報処理手段12の機能の構成例を示すブロック図である。情報処理手段12は、データ取得手段31、排尿量演算手段32、排尿速度演算手段33、および尿流量演算手段34で構成される。
【0035】
データ取得手段31は、データ収集手段11とケーブルを介して接続されると、データ収集手段11のデータロガー23に保存されているデータを取得し、排尿量演算手段32および排尿速度演算手段33に供給する。
【0036】
排尿量演算手段32は、データ取得手段31から取得したデータに基づいて、排尿量を計算する。排尿速度演算手段33は、データ取得手段31から取得したデータに基づいて、排尿速度を計算し、計算結果を尿流量演算手段34に供給する。尿流量演算手段34は、排尿速度演算手段33から取得した排尿速度の計算値に基づいて、尿流量を計算する。
【0037】
以上のように構成された排尿検知装置1によれば、おむつ内に排尿があると、排尿があった部位に対応する静電容量センサシート1のセンサ素子のインピーダンスが大幅に変化する。そして、データ収集手段11の電圧制御手段21は、複数のセンサ素子のインピーダンスの変化の総量の電圧信号を出力するので、情報処理手段12の排尿量演算手段32は、計算により排尿量を精度良く得ることができる。
【0038】
<おむつの装着方法>
図5(a)〜(c)は、静電容量センサシート1が取り付けられたおむつの装着方法を説明するための図である。
【0039】
図5(a)に示すように、静電容量センサシート1は、尿取りパット41の、使用者(通常、被介護者)の肌に触れる側とは反対の外側である尿取りパット41の防水用のフィルム側の表面に、静電容量センサシート1の電極1bが当接するように貼り付けられることが好ましい。この場合、静電容量センサシート1が貼り付けられた尿取りパット41は、図5(b)に示すように、使用者への保持手段、例えばマジックテープ51a、51bが取り付けられたテープおむつ51の内側表面に沿って配置される。このとき、静電容量センサシート1がテープおむつ51と尿取りパット41の間に挟まれるように配置されるものとなる。
【0040】
静電容量センサシート1および尿取りパット41が配置されたテープおむつ51は、図5(c)に示すように、使用者に装着され、使用者への保持手段であるマジックテープ51a、51bで固定される。そして、静電容量センサシート1とデータ収集手段11とをケーブルを介して接続し、データ収集手段11をテープおむつ51の外側表面に取り付ける。データ収集手段11の取り付け方法は特に問わないが、ずり落ち防止の観点から、テープおむつ51の腹部近傍端にクリップやマジックテープ等の固着手段で取り付けることが好ましい。
【0041】
データ収集手段11には、加速度センサ22が内蔵されているため、テープおむつ51にクリップやマジックテープ等の固着手段で正しく取り付けることは重要であり、これにより、使用者の姿勢を正しく検知することができる。
【0042】
なお、おむつの交換時に、データ収集手段11を情報処理手段12に接続することで、おむつの交換中に、データを転送することができる。
【0043】
図6は、図5に示したテープおむつ51を装着した際の使用者のX−X断面を模式的に示し、人体、尿取りパット41、静電容量センサシート1、テープおむつ51の位置関係を示す図である。
【0044】
図6に示すように、尿取りパット41の外側に静電容量センサシート1を配置し、静電容量センサシート1の外側にテープおむつ51を配置する。これにより、テープおむつ51が静電容量センサシート1と尿取りパット41とを押圧して尿取りパット41を使用者に接触させて固定することが可能となり、使用者が立ったり座ったりしても、インピーダンスの変化量の誤差を抑えることができ、排尿量等の測定精度をさらに向上させることができる。
【0045】
以上のように、静電容量センサシート1を尿取りパット41の外側表面に配置することで、繰り返し排尿量等を測定することが可能になる。また、静電容量センサシート1が尿取りパット41とテープおむつ51の間に挟まれるため、静電容量センサシート1は肌に直接触れず、静電容量センサシート1を繰り返し使用可能とし、しかも使用者への不快感を軽減することができる。さらに、静電容量センサシート1の中央部に電極にかからない範囲で、切り込みやくり抜き部分を設けることが、使用者の足を閉じた時等の違和感を軽減できる観点から好ましい。また、データ収集手段11が情報処理手段12と常時接続されるものではないため、使用者は自由に動くことが可能である。
【0046】
なお、テープおむつ51を用いるようにしたが、必ずしもテープおむつ51である必要はなく、例えば、パンツ型の装着品でも良い。
【0047】
本発明の電極列の全長は、吸収部における排尿の広がりをより広範囲で検知する観点から、吸収部の長手方向の長さの75%以上であることが好ましく、78%以上であることがさらに好ましい。
【0048】
本発明の吸収性物品(例えば尿取りパッド41)の吸収部は、350g以上の排尿を吸収することができるポリマー量を有しており、好ましくは吸収部の単位面積あたりの遠心保持量は、5000〜8000g/m2であり、好ましくは5000〜7500g/m2である。また、本発明の吸収部の遠心保持量(吸収することができる排尿量)は、350g以上であって、800g以下が好ましい。
【0049】
<排尿センサ原理>
図7は、静電容量センサシート1の排尿センサの原理を説明する図である。
【0050】
図7に示すように、電極1bの各電極間には、コンデンサC1〜C7がそれぞれ形成される。つまり、全ての電極間にコンデンサCがそれぞれ形成される。
【0051】
例えば、コンデンサC4が形成される位置に対応する尿取りパット41の位置に排尿があった場合、コンデンサC4の静電容量が変化する(排尿を吸収した尿取りパット41の部分の外側表面に形成されるコンデンサC4の静電容量が変化する)。ここで、静電容量は、次式(2)で表わされる。ε0は、真空誘電率(定数:8.854×10−12)であり、εSは、比誘電率であり、Aは、電極の面積であり、dは、電極間の距離である。なお、空気の比誘電率は、1であり、水の比誘電率は、80である。
静電容量C=ε0・εS・A/d ・・・(2)
【0052】
上記の式(2)と比誘電率の変化(1が80になる変化)より、コンデンサC4の静電容量は、80倍に変化する。また、矢印A1の先に示されるように、コンデンサC1〜C4が形成される位置に対応する尿取りパット41の位置に排尿があった場合、コンデンサC1〜C4の静電容量は、80倍に変化する。
【0053】
以上のようにして、静電容量の変化を測定することによって、尿取りパット41における排尿の広がりを計算可能となり、排尿量のデータを得ることができる。
【0054】
<尿広がり面積の計算>
本出願人は、人形に図5の様に静電容量センサシート1を取り付け仰向けに置き、静電容量センサシート1が貼り付けられた尿取りパット41の人形側の表面の通常ヒトの排尿部に相当する領域に、チューブの吐出口を配置し、チューブを介して人工尿(例えば、生理食塩水)を一定量ずつ排尿部に相当する領域に注入した場合の人工尿広がり面積を計算した。
【0055】
図8(a)〜(e)は、尿取りパット41上の排尿部付近に、一定量の人工尿を注入した場合の人口尿が広がる様子を示す図である。図8(a)は、50gの人工尿を注入した場合の尿広がりを示し、図8(b)は、100gの人工尿を注入した場合の人工尿広がりを示し、図8(c)は、150gの人工尿を注入した場合の尿広がりを示し、図8(d)は、200gの人工尿を注入した場合の人工尿広がりを示し、図8(e)は、250gの人工尿を注入した場合の人工尿広がりを示している。
【0056】
図8(a)〜(e)からもわかる通り、人工尿の注入量が増えるに従い、人工尿広がり面積が次第に広がっていく様子がわかる。
【0057】
図9は、静電容量センサ出力変化量と人工尿広がり面積の関係を示す散布図である。図9において、縦軸は静電容量センサ出力変化量であり、横軸は人工尿広がり面積(cm2)である。静電容量センサ出力変化量(各センサ素子による電極間のインピーダンス変化量の総変化量)は、電圧制御手段21で得られる人工尿量がないときの電圧出力と人工尿を注入した時の電圧制御手段21で得られる電圧出力に関連した値を表わしたものである。
【0058】
図9において、P1は、図8(a)に示した人工尿広がり面積により得た静電容量センサ出力変化量の測定値に基づいてプロットされたものであり、P2は、図8(b)の人工尿広がり面積により得た静電容量センサ出力変化量の測定値に基づいてプロットされたものであり、P3は、図8(c)の人工尿広がり面積により得た静電容量センサ出力変化量の測定値に基づいてプロットされたものであり、P4は、図8(d)の人工尿広がり面積により得た静電容量センサ出力変化量の測定値に基づいてプロットされたものであり、P5は、図8(e)の人工尿広がり面積により得た静電容量センサ出力変化量の測定値に基づいてプロットされたものである。
【0059】
図9に示す静電容量センサ出力変化量と人工尿広がり面積の関係からもわかる通り、人工尿広がり面積の増加に伴って、ほぼ比例して静電容量センサ出力変化量も増加している。
【0060】
すなわち、静電容量センサ出力量の変化を検知すれば、尿広がり面積を算出可能となり、排尿量に換算することも可能になる。
【0061】
<排尿センサの電極パターン>
本出願人は、静電容量センサシート1の電極パターンをいくつか用意し、吸収性能が異なる尿取りパット41をいくつか用意し、人形に図5の様に静電容量センサシート1を取り付け仰向けに置き、静電容量センサシート1が貼り付けられた尿取りパット41の人形側の表面の通常ヒトの排尿部に相当する領域に、チューブの吐出口を配置し、チューブを介して人工尿を一定量ずつ排尿部に相当する領域に注入した場合の静電容量センサ出力変化量を測定した。
【0062】
図10(a)〜(c)は、人形に図5の様に静電容量センサシート1を取り付け仰向けに置き、静電容量センサシート1が貼り付けられた尿取りパット41の人形側の表面の通常ヒトの排尿部に相当する領域に、チューブの吐出口を配置し、チューブを介して人工尿を一定量ずつ排尿部に相当する領域に注入した場合の人工尿が尿取りパット41に広がる様子を模式的に示す図である。
【0063】
図10(a)は、静電容量センサシート1の電極1bの形状が25mm×25mm、電極列における列方向(図中横方向)の離間距離が50mm、電極列と電極列の間(図中縦方向)の電極の離間距離が20mmからなる電極パターンである。ここで、電極の離間距離とは、隣り合う電極の一方の端部から他方の端部までの距離をいう。本実施の形態では、150g相当の排尿を3回分吸収できる性能の尿取りパット41を用いて、人工尿50g、100g、150gを注入した場合の測定結果を示している。本実施の形態では、1回の排尿量をほぼ150gとして説明する。
【0064】
図10(a)に示すように、人工尿を50g注入した場合、4個の電極間に設けられたコンデンサCの静電容量が変化する。人工尿を100g注入した場合、6個の電極間に形成されるコンデンサCの静電容量が変化する。人工尿を150g注入した場合、8個の電極間に形成されるコンデンサCの静電容量が変化する。
【0065】
図10(b)は、静電容量センサシート1の電極1bの形状が25mm×25mm、電極列における列方向の電極間の離間距離が50mm、電極列と電極列の間の電極間の離間距離が20mmからなる電極パターンであり、150g相当の排尿を6回分吸収できる性能の尿取りパット41を用いて、人工尿50gから350gの範囲で50gずつ増やして7回にわたって注入した場合の測定結果を示している。
【0066】
図10(b)に示すように、人工尿を50g注入した場合、4個の電極間に設けられたコンデンサCの静電容量が変化する。人工尿を100g〜250gまで注入した場合、6個の電極間に設けられたコンデンサCの静電容量が変化する。300g〜350gまで注入した場合、8個の電極間に設けられたコンデンサCの静電容量が変化する。
【0067】
図10(c)は、静電容量センサシート1の電極1bの形状が25mm×25mm、電極列における列方向の電極間の離間距離が12.5mm、電極列と電極列の間の電極間の離間距離が20mmからなる電極パターンであり、6回分の排尿を吸収できる性能の尿取りパット41を用いて、人工尿を50gから350gの範囲で50gずつ増やして7回にわたって注入した場合の測定結果を示している。
【0068】
図10(c)に示すように、人工尿を50g注入した場合、6個の電極間に設けられたコンデンサCの静電容量が変化する。人工尿を100g注入した場合、10個の電極間に設けられたコンデンサCの静電容量が変化する。人工尿を150g〜250gまで注入した場合、14個の電極間に設けられたコンデンサCの静電容量が変化する。人工尿を300g〜350gまで注入した場合、18個の電極間に設けられたコンデンサCの静電容量が変化する。
【0069】
図11は、図10(a)、図10(b)での測定条件(電極パターン)における人工尿注入量と静電容量センサ出力変化量の関係を示す散布図である。図11において、縦軸は静電容量センサ出力変化量であり、横軸は人工尿注入量(g)である。つまり、図11の例では、同じ電極パターンを用いて、吸収量が3回分の尿取りパット41と吸収量が6回分の尿取りパット41での静電容量センサ出力変化量の比較を行っている。
【0070】
図11において、図10(a)での測定条件における静電容量センサ出力変化量の測定値がプロットされるとともに、その測定値から算出された近似曲線がy1で示されている。図10(a)での測定値から算出された近似曲線y1、相関係数R2は、次式(3)で表わされる。
y1=0.3276x0.9695
R2=0.899 ・・・(3)
【0071】
また、図11において、図10(b)での測定条件における静電容量センサ出力変化量の測定値がプロットされるとともに、その測定値から算出された近似曲線がy2で示されている。図10(b)での測定値から算出された近似曲線y2、相関係数R2は、次式(4)で表わされる。
y2=0.0777x+4.9457
R2=0.8763 ・・・(4)
【0072】
図12は、図10(b)、図10(c)での測定条件における人工尿注入量と静電容量センサ出力変化量の関係を示す散布図である。図12において、縦軸は静電容量センサ出力変化量であり、横軸は人工尿注入量(g)である。つまり、図12の例では、異なる電極パターンを用いて、吸収量が6回分の尿取りパット41での静電容量センサ出力変化量の比較を行っている。
【0073】
図12において、図10(c)での測定条件における測定値がプロットされるとともに、測定値から算出された近似曲線がy3で示されている。図10(c)での測定値から算出された近似曲線y3、相関係数R2は、次式(5)で表わされる。
y3=2.8348x0.5236
R2=0.9216 ・・・(5)
【0074】
また、図12において、図10(b)での測定条件における測定値がプロットされるとともに、測定値から算出された近似曲線(上記式(4))がy2で示されている(図11の近似曲線y2と同じである)。
【0075】
上記の式(3)〜(5)より、相関の強さを表す、相関係数(Rの二乗)は、それぞれ、0.899、0.8763、0.9216である。つまり、近似曲線y1〜y3を用いて、それぞれ89.9%、87.63%、92.16%の信頼性を持って静電容量センサ出力変化量の値を得ることができると判断することができる。従って、最も相関係数の高い、図10(c)での電極パターンおよび吸収量が6回分の尿取りパット41を用いる測定条件による静電容量センサ出力により、精度の高い排尿量の計算結果を得ることができると判断することができる。
【0076】
特に、近似曲線y2とy3の信頼性については、図10(b)と図10(c)の人工尿の広がり範囲と静電容量センサ1の電極の位置関係からも判断することができる。例えば、1回分の排尿量(150g)に相当する累積量と2回分の排尿量(300g)に相当する累積量の場合を比較すると、図10(b)においては、累積150gのときは6個の電極間に設けられたコンデンサCの静電容量が変化し、累積300gのときは8個の電極間に設けられたコンデンサCの静電容量が変化し、2個分のコンデンサCの静電容量が多く変化する。それに対して図10(c)においては、累積150gのときは14個の電極間に設けられたコンデンサCの静電容量が変化し、累積300gのときは18個の電極間に設けられたコンデンサCの静電容量が変化し、4個分のコンデンサCの静電容量が多く変化する。すなわち、図10(c)の条件の方が、分解能が高いことになるので、得られる結果の信頼性が高くなる。
【0077】
以上、図10(c)の条件によれば、正常な成人の1回の排尿量約150gでの複数回の排尿を正確に測定することができる。
【0078】
<電極パターンの具体例>
次に、本出願人は、吸収量が6回分の尿取りパット41を用いて、さまざまな電極パターンを試作し、それらについて検討した。
【0079】
図13は、静電容量センサシート1の電極1bの形状が25mm×25mm、電極列における列方向(図中横方向)の電極間の離間距離が50mm、列方向の電極間隔が62.5mm、電極列と電極列の間(図中縦方向)の対向する電極端部の間の距離である離間距離が20mm、電極の列方向の最も外側の一端から他端までの距離(電極列の全長)が400mmからなる電極パターン1を示している。
【0080】
ここで、電極列と電極列の間の対向する電極端部の間の離間距離は、電極列を構成する全ての電極について、並列された電極列の対向する電極との間の離間距離の平均値を意味する。本発明においては、電極列を構成する各電極について、並列された電極列の電極との離間距離に差がある場合であっても、5mm以下であることが好ましく、2mm以下であることが好ましい。電極列と電極列の間の離間距離は、使用時に電極列の間に所定の距離を維持し、接触を防止し、測定精度を維持向上させる観点から、15〜25mmであることが好ましい。
【0081】
図14は、そのほかの電極パターンの具体例を一覧表に示している。図14の例では、電極パターン1のほかに、電極1bの形状が25mm×25mm、列方向の電極間隔が25mm、電極列における列方向の電極間の離間距離が12.5mm、電極列と電極列の間の対向する電極端部の間の離間距離が20mm、電極列の全長が400mmからなる電極パターン2、電極1bの形状が25mm×20mm、列方向の電極間隔が30mm、電極列における列方向の電極間の離間距離が20mm、電極列と電極列の間の対向する電極端部の間の離間距離が20mm、電極列の全長が420mmからなる電極パターン3、電極1bの形状が5mm×40mm、列方向の電極間隔が35mm、電極列における列方向の電極間の離間距離が15mm、電極列と電極列の間の対向する電極端部の間の離間距離が20mm、電極列の全長が425mmからなる電極パターン4、電極1bの形状が25mm×25mm、列方向の電極間隔が16.5mm、電極列における列方向の電極間の離間距離が4mm、電極列と電極列の間の対向する電極端部の間の離間距離が20mm、電極列の全長が402mmからなる電極パターン5、電極1bの形状が25mm×15mm、列方向の電極間隔が11.5mm、電極列における列方向の電極間の離間距離が4mm、電極列と電極列の間の対向する電極端部の間の離間距離が20mm、電極列の全長が395mmからなる電極パターン6が示されている。
【0082】
図15は、電極パターン1、電極パターン2、電極パターン5、電極パターン6を用いて、人形に図5の様に静電容量センサシート1を取り付け仰向けに置き、静電容量センサシート1が貼り付けられた尿取りパット41の人形側の表面の通常ヒトの排尿部に相当する領域に、チューブの吐出口を配置し、チューブを介して人工尿を一定量ずつ排尿部に相当する領域に注入した場合の人工尿注入量と静電容量センサ出力変化量の関係を示す散布図である。図15において、縦軸は静電容量センサ出力変化量であり、横軸は人工尿注入量(g)である。
【0083】
図15において、電極パターン1、電極パターン2、電極パターン5、電極パターン6を用いて測定された静電容量センサ出力変化量の測定値がプロットされている。また、電極パターン1を用いて複数回測定された静電容量センサ出力変化量の測定値から算出された近似曲線がy11で示されている。近似曲線y11、相関係数R2は、次式(6)で表わされる。
y11=0.0608x+8.7965
R2=0.9149 ・・・(6)
【0084】
さらに、図15において、電極パターン2を用いて複数回測定された静電容量センサ出力変化量の測定値から算出された近似曲線がy12で示されている。近似曲線y12、相関係数R2は、次式(7)で表わされる。
y12=19.077Ln(x)−54.235
R2=0.941 ・・・(7)
【0085】
さらに、図15において、電極パターン5を用いて複数回測定された静電容量センサ出力変化量の測定値から算出された近似曲線がy13で示されている。近似曲線y13、相関係数R2は、次式(8)で表わされる。
y13=36.978Ln(x)−138.36
R2=0.9333 ・・・(8)
【0086】
上記の式(6)〜(8)より、相関係数は、それぞれ、0.9149、0.941、0.9333である。つまり、近似曲線y11〜y13を用いて、それぞれ91.149%、94.1%、93.33%の信頼性を持って静電容量センサ出力変化量の値を得ることができると判断することができる。従って、最も相関係数の高い、電極パターン2を用いる測定条件による静電容量センサ出力により、精度の高い排尿量の計算結果を得ることができると判断することができる。
【0087】
なお、図15において、近似曲線y13の方が近似曲線y12に比べ傾きが高いにも拘わらず、近似曲線y12よりも相関係数が低くなった原因として、人工尿注入量400g付近の静電容量センサ出力変化量の測定精度の低さが考えられる。一般に、おむつは、使用者に装着した状態では、平面ではなく湾曲しているため、尿が均一に広がっていかない。つまり、仰向けで排尿があった場合は、尿取りパット41の排尿部付近の尿の広がりに比べ、おしり付近の尿の広がりは重力の影響を受けにくいため遅くなる。このため、尿は面ではなく尿取りパットの深さ方向に広がる。電極パターン5は、電極間隔が狭すぎるがゆえに、深さ方向の広がりが見えにくく測定精度が低くなってしまったと考えられる。
【0088】
[本発明に係る電極パターンを適用した場合の性能評価]
本出願人は、上述したような測定結果から測定対象(電極パターン)をいくつか絞りこみ、各電極パターンを用いて排尿量を複数回測定し、それらの精度について判定を行った。
【0089】
図16は、静電容量センサシート1の電極パターンを用いて、人形に図5の様に静電容量センサシート1を取り付け仰向けに置き、静電容量センサシート1が貼り付けられた尿取りパット41上の人形側の排尿部付近にチューブを用いて人工尿を注入した時の静電容量センサ出力変化量を測定したいくつかの実施例を示す図である。
【0090】
実施例1〜8、および比較例1〜9は、電極形状、列方向の電極間隔、列方向の電極間の離間距離、電極列の全長、尿取りパット41の吸収部の長さ、単位面積当たりのポリマー量、単位面積当たりの遠心保持量、遠心保持吸収量を変化させた場合の測定結果を示している。
【0091】
なお、実施例、比較例では、電極列の全長は、上述したように、電極の列方向の最も外側の一端から他端までの距離をいい、パット吸収部を覆う範囲は、(電極列の全長)/(尿取りパット41の吸収部の長さ)をいい、単位面積当たりの遠心保持量は、ポリマーが単位面積当たりに吸収する水の量をいい、遠心保持吸収量は、尿取りパット41が吸収する水の量をいう。また、測定範囲は、信頼性のある静電容量センサ出力変化量の測定値が得られる人工尿注入量をいい、判定基準は、実施例では、人工尿150gを複数回注入して測定可能であるか否か、比較例では、人工尿150gを1回注入して測定不可になるか否かをいう。
【0092】
図16の判定結果を説明する前に、吸収性物品の遠心保持量の測定方法と、吸収性物品のポリマー量の測定方法について説明する。
【0093】
<吸収性物品の遠心保持量の測定方法>
1.尿取りパット41の製品重量を測定する。
2.吸収体を残して外包材をカットし、カット後の重量(カット後重量)を測定する。
3.カット後のサンプルを、0.9%の生理食塩水に30分間浸ける。
4.サンプルを取り出し、正確な吸収量を得るため、30分間吊し、吸収仕切れなかった生理食塩水を落とす。
5.サンプルの重量(飽和後重量)を測定する。
6.サンプルを不織布又はナイロンメッシュからなる袋の中に入れてクリップで閉じる。
7.遠心脱水機にて、サンプルが入った袋を800回転/分で10分間回転させ、その後のサンプルの重量(脱水後重量)を測定する。
【0094】
図17は、吸収性物品の遠心保持量の測定方法により得た測定結果を示す図である。
【0095】
図17の例では、尿取りパット41の製品重量として100gが得られ、カット後の重量として89gが得られ、生理食塩水を吸収した飽和後重量として983gが得られ、飽和吸収量として894g(983g−89g)が得られ、脱水後重量として446gが得られ、遠心保持量として357g(446g−89g)が得られている。
【0096】
<吸収性物品のポリマー量の測定方法>
1.製品中からパルプ/ポリマーの混合物を取り出す。
2.混合物をメッシュ袋に入れ封をし、重量を量る(重量A)。
3.アスコルビン酸水溶液(ビタミンC)に一昼夜浸す。これによりポリマーがビタミンCにより溶ける。
4.メッシュ袋を乾燥するまで天日干しする。
5.メッシュ袋の重量を量る(重量B)。つまり、ポリマーは溶けて流れ出ており、重量B=パルプ+袋の重量となる。
6.A−Bでポリマー量を算出する。
【0097】
以上のような測定方法により、単位面積当たりのポリマー量と単位面積当たりの遠心保持量が得られる。
【0098】
図16の説明に戻り、判定結果について説明する。実施例1〜3では、静電容量センサシート1の列方向の電極間隔および単位面積当たりのポリマー量が適切であり、人工尿注入量350gまでは信頼性のある静電容量センサ出力変化量の測定値が得られるため、複数回の測定が可能であり、精度が高い(図16では、‘○’で示す)と判断することができる。実施例4〜8では、静電容量センサシート1の列方向の電極間隔および単位面積当たりのポリマー量が適切であり、人工注入量400gまでは信頼性のある静電容量センサ出力変化量の測定値が得られるため、複数回の測定が可能であり、精度が高い(図16では、‘○’で示す)と判断することができる。
【0099】
比較例1では、単位面積当たりのポリマー量が適切であるものの静電容量センサシート1の列方向の電極間隔が不適切であるため、信頼性のある静電容量センサ出力変化量の測定値が得られず、精度が低い(図16では、‘×’で示す)と判断することができる。比較例2〜9では、静電容量センサシート1の列方向の電極間隔および単位面積当たりのポリマー量が不適切であり、人工注入量200g〜300gまでしか信頼性のある静電容量センサ出力変化量の測定値を得ることができず、精度はやや低い(図16では、‘△’で示す)と判断することができる。
【0100】
図18(a)〜図18(c)は、図16での測定条件において、人形に図5の様に静電容量センサシート1を取り付け仰向けに置き、静電容量センサシート1が貼り付けられた尿取りパット41上の人形側の表目の通常ヒトの排尿部に相当する領域に、チューブの吐出口を配置し、チューブを介して人工尿を一定量ずつ排尿部に相当する領域に注入した場合の人工尿注入量と静電容量センサ出力変化量の関係を示す散布図である。図18(a)〜図18(c)において、縦軸は静電容量センサ出力変化量であり、横軸は人工尿注入量(g)である。
【0101】
図18(a)は、吸収量が6回分の尿取りパット41を用いて人工尿を50gから400gまで、50gずつ増やして注入した場合の、電極パターンno.1〜no.7における人工尿注入量と静電容量センサ出力変化量の関係を示す散布図である。
【0102】
図18(b)は、吸収量が4回分の尿取りパット41を用いて人工尿を50gから400gまで、50gずつ増やして注入した場合の、電極パターンno.2、no.4〜no.7における人工尿注入量と静電容量センサ出力変化量の関係を示す散布図である。
【0103】
図18(c)は、吸収量が3回分の尿取りパット41を用いて人工尿を50gから300gまで50gずつ増やして注入した場合の、電極パターンno.1〜no.4における人工尿注入量と静電容量センサ出力変化量の関係を示す散布図である。
【0104】
図19は、図16および図18(a)〜(c)の測定結果に基づく列方向の電極間隔と単位面積当たりの遠心保持量の関係を示す散布図である。図19において、縦軸は列方向の電極間隔(mm)であり、横軸は単位面積当たりの遠心保持量(g/m2)である。
【0105】
図19において、P21〜P28は、実施例1〜実施例8での測定値に基づいてそれぞれプロットされたものであり、P31〜P39は、比較例1〜比較例9での測定値に基づいてそれぞれプロットされたものである。
【0106】
図16および図19の測定結果から、電極列における列方向の電極間隔が、ほぼ20〜55mmの範囲にある電極パターンで、吸収性物品(尿取りパット41)の吸収部が、350g以上の人工尿を吸収することができるポリマー量の組み合わせを選択することが好ましいと判断することができる。これにより、精度良く排尿量を検知することができる。
【0107】
また、吸収性物品(尿取りパット41)の吸収部の単位面積当たりの遠心保持量が、ほぼ5000〜8000g/m2であり、電極が、ほぼ15〜35mmの矩形内にある形状であることが好ましいと判断することができる。これにより、精度良く排尿量を検知することができる。
【0108】
さらに、電極列の最も外側の一端から他端までの距離(電極列の全長)が、吸収性物品(尿取りパット41)の吸収部の長さのほぼ75%以上であることが好ましいと判断することができる。これにより、広範囲にわたって排尿量を検知することができる。
【0109】
<電極列における列方向の電極間隔の定義>
本出願人は、図19に示す散布図から、静電容量センサシート1の電極列における列方向の電極間隔の定義について検討した。
【0110】
図20は、本実施の形態に係る静電容量センサシート1の電極1bの配置を示す図である。図20において、dは、電極列の列方向において隣り合う電極の対向する端部の間の離間距離を表し、a1は、正電極の電極端部から面積が1/2の直線までの距離を表し、a2は、負電極の電極端部から面積が1/2の直線までの距離を表している。
【0111】
図中、A11で囲まれた範囲が、1個の静電容量Cを表し、この電極面積について考える。本実施の形態では、電極1bは、正電極、負電極が交互に配置されているため、正電極からは、図中矢印A21〜A23に示す方向(列方向)の両側の負電極に向かって電荷が移動する。その結果、1個の静電容量Cの面積は、電極面積の1/2になる。
【0112】
次に、電極の配置から電荷の移動は、円弧状に移動すると考えられる。その結果、平均距離は、正電極の電極端部から面積が1/2の直線までの距離a1のさらに半分の位置(a1/2)から、隣の負電極の電極端部から面積が1/2の直線までの距離a2のさらに半分の位置(a2/2)までを直径とする円周の半分と考えられる。すなわち、平均電極間の距離d´は、次式(9)で表わされる。
【数2】
【0113】
上記の式(9)のうち、定数を除いた次式(1)を、電極列における列方向の電極間隔と定義することができる。距離d´は、上述した測定結果からも、ほぼ20〜55mmの範囲にあることが好ましい。
【数3】
【0114】
<電極形状と電極間隔について>
本出願人は、電極形状と上記の式(1)で定義した電極列における列方向の電極間隔との関係について検討した。
【0115】
図21(a)〜(h)は、電極間隔d´の一例を示す図である。図21(a)〜(h)において、実線は、電極の面積を1/2にした場合の位置を表している。
【0116】
図21(a)は、ほぼ正方形の2つの電極が平行に配置されている。図21(b)は、平行四辺形の2つの電極が同じ向きに平行に配置されている。図21(c)は、八角形の2つの電極が同じ向きに平行に配置されている。図21(d)は、一辺に複数の山型の形状を有する2つの電極が同じ向きに平行に配置されている。図21(e)は、図21(a)に示す2つの電極の配置位置がずれている。図21(f)は、図21(b)に示す2つの電極の配置位置がずれている。図21(g)は、三角形の2つの電極が同じ向きに平行に配置されている。図21(h)は、平行する二辺にそれぞれ複数の山型の形状を有する電極が同じ向きに平行に配置されている。
【0117】
図22(a),(b)は、電極間隔d´の他の一例を示す図である。図22(a),(b)において、実線は、電極の面積を1/2にした場合の位置を表している。
【0118】
図22(a)は、三角形の2つの電極が異なる向きに平行に配置されている。図22(b)は、変形円形と円形の2つの電極が平行に配置されている。
【0119】
図21と図22からもわかる通り、本実施の形態における電極パターンにおいて、電極間隔d´を定義する上で、概ね同じ形状の電極が同じ向きに配置されている必要がある。つまり、図22(e)、(f)に示すように、異なる形状の電極が配置されてしまうと電極間隔d´が均等でなくなり、測定結果にバラツキが出てしまう。なお、電極列における列方向の離間距離dが0になると、2つの電極が1つとみなされ、測定精度が悪くなるため、最短電極間隔dは0より大きい値となる。
【0120】
[本発明を適用した電極パターンによる排尿速度と尿流量の測定]
<排尿速度の測定>
本出願人は、実施例1の測定条件を用いて、一定速度で一定量ずつ人工尿を注入した場合の静電容量センサ出力変化量の測定を行った。
【0121】
図23は、実施例1の測定条件を用いて、1秒間に5gずつ人工尿を注入する計測を2回、1秒間に10gずつ人工尿を注入する計測を3回行った場合の静電容量センサ出力変化量と時間の関係を示す散布図である。図23において、縦軸は静電容量センサ出力変化量であり、横軸は時間(sec)である。
【0122】
図23に示すように、1秒間に5gずつ人工尿を注入した場合の1回目と2回目の測定結果、および、1秒間に10gずつ人工尿を注入した場合の1回目〜3回目の測定結果が、それぞれプロットされている。
【0123】
この散布図からもわかる通り、尿の広がり方を排尿速度として捉えることができ、膀胱機能の評価に用いることが可能となる。
【0124】
<尿流量の測定>
本出願人は、図23で測定された排尿速度の測定値を用いて、1秒あたりの尿流量を算出した。
【0125】
図24(a)〜(e)は、図23での測定値を用いて1秒あたりの尿流量を算出し、算出した尿流量(g/sec)と時間(sec)の関係を示す散布図である。図24において、縦軸は尿流量(g/sec)であり、横軸は時間(sec)である。
【0126】
図24(a)は、1秒間に5gずつ人工尿を注入した場合の1回目の測定結果から算出された尿流量と時間の関係を示している。
【0127】
図24(b)は、1秒間に5gずつ30秒間150gまで人工尿を注入した場合の2回目の測定結果から算出された尿流量と時間の関係を示している。
【0128】
図24(c)は、1秒間に10gずつ15秒間150gまで人工尿を注入した場合の1回目の測定結果から算出された尿流量と時間の関係を示している。
【0129】
図24(d)は、1秒間に10gずつ15秒間150gまで人工尿を注入した場合の2回目の測定結果から算出された尿流量と時間の関係を示している。
【0130】
図24(e)は、1秒間に10gずつ15秒間150gまで人工尿を注入した場合の3回目の測定結果から算出された尿流量と時間の関係を示している。
【0131】
また、図24(a)〜(e)では、2区間の移動平均(二乗平均)がそれぞれプロットされている。
【0132】
図24の散布図からもわかる通り、1秒間隔で排尿量を測定することにより尿流量を算出することができ、排尿障害の評価に用いることが可能となる。
【0133】
<使用者の姿勢による補正>
以上のようにして測定された排尿量、排尿速度、尿流量は、加速度センサ12で検知された使用者の姿勢情報(X軸、Y軸、Z軸)に基づいて、補正を行うことができる。これにより、排尿量、排尿速度、尿流量の検知精度を向上させることができる。なお、姿勢情報(X軸、Y軸)を用いた排尿量の補正に関する技術は、特開2002−224093号公報に記載されている。
【0134】
[発明の実施の形態における効果]
1.電極列における列方向の電極間隔が、ほぼ20〜55mmの範囲にある電極パターンで、かつ、吸収性物品(尿取りパット41)の吸収部が、350g以上の遠心保持量の人工尿を吸収することができるポリマー量の組み合わせを選択することで、精度良く複数回の排尿を測定することが可能となる。すなわち成人の1回分の排尿量を150gであるとすると、複数回の排尿を用いて精度よく測定することができるので、排尿間隔、排尿時間や尿流量(排尿速度)を、より正確に測定することができ、膀胱機能や排尿障害の評価を行うことが可能となる。
【0135】
2.電極パターンの電極が、ほぼ15mm〜35mmの矩形内にある形状を選択することで、精度良く排尿量を検知することができる。
【0136】
3.吸収性物品の吸収部の単位面積当たりの遠心保持量が、ほぼ5000〜8000g/m2であるものを選択することにより、複数回の排尿を測定可能としながら排尿量が多くなっても測定精度が高いことから、排尿間隔を測定可能とするだけでなく、排尿時間、尿流量(排尿速度)をより精度良く排尿量を検知することができる。
【0137】
4.電極列の最も外側の一端から他端までの距離(電極列の全長)が、吸収性物品(テープおむつ51)の吸収部(尿取りパット41)の長さのほぼ75%以上であるものを選択することにより、広範囲にわたって排尿量を検知することができる。
【0138】
[変形例]
以上においては、静電容量センサシート1の電極パターンを2列に配置するようにしたが、これに限らず、3列または吸収性物品(テープおむつ51)の吸収部(尿取りパット41)を覆うことができればそれ以上でも良い。
【0139】
この発明は、上記実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化したり、上記実施の形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせたりすることにより種々の発明を形成できる。例えば、実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施の形態に亘る構成要素を適宜組み合わせても良い。
【符号の説明】
【0140】
1 静電容量センサシート
11 データ収集手段
12 情報処理手段
21 静電容量センサ
22 加速度センサ
23 データロガー
31 データ取得手段
32 排尿量演算手段
33 排尿速度演算手段
34 尿流量演算手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、排尿検知装置に関し、特に、おむつ、尿取りパッド等の吸収性物品への排尿量を測定する排尿検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
寝たきりの被介護者の介護や尿失禁の対応としてはおむつが用いられており、おむつの交換の必要性を介護者に伝えられない等の理由により、予め決められた時刻または一定時間毎におむつを交換している。
【0003】
しかしながら、排尿の間隔や、1回の排尿量が正確には把握できないことから、介護者は一定時間毎におむつを交換する必要があり、また、おむつを開けなければ内部の状況を把握できないため、十分に排尿していない被介護者のおむつも開けてまた付け直すことが頻繁に発生してしまう。そのため、介護者には不要な労力が発生し、被介護者にとっては、必要以上におむつのチェックを受けることになり、精神的にも負担になっていた。
【0004】
これに対して、特許文献1には、おむつの吸収部の外側に位置決めした、一組の導電体の間の静電容量の変化に基づいておむつへの排泄状態を検出する排泄監視装置が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、複数のセンサ出力に基づき吸収性物品内の排泄量を検知する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−185067号公報
【特許文献2】特開2002−224093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術では、排尿の有無を検出することはできるが、排尿の量までは正確に把握することは困難である。これに対して特許文献2の技術では、排尿の量(排泄量)を検知することができるが、正常な成人の1回の排尿量約150gでの複数回の排尿を測定することは考慮されていないため、複数回の排尿に対応した吸収性物品に適用した場合には、排尿量の測定精度が低くなる課題がある。特許文献2の技術でも、被介護者の排尿間隔や排尿量、排尿速度等を測定することが困難であった。
【0008】
一方、高齢化社会がすすんでいる中で、被介護者の排泄の自立支援が求められているところ、排尿したことを検知するだけであったり、排尿量を検知するだけでは自立支援は困難であり、排尿間隔、排尿量、1日の排尿回数などまで把握し、適切なタイミングで排泄自立に向けて声をかけたり、トイレに誘導するなどの支援が求められている。また、被介護者の排尿速度、排尿間隔等を把握できれば、排尿障害の原因の診断を可能にし、さらに排泄の自立支援の手段が改善される。従って、単に排尿タイミングや排尿量を検知する装置ではなく、排尿リズムや排尿履歴を測定可能にする、吸収性物品への排尿量を高精度に測定する排尿検知装置が求められている。
【0009】
本発明は、おむつ、尿取りパッド等の吸収性物品への排尿量を高精度に測定する排尿検知装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面は、排尿を吸収する吸収性物品の、使用者の肌に触れる側とは反対の外側表面に複数の電極を列置した電極列を複数列備え、複数の電極間のインピーダンス変化に基づいて排尿を検知する排尿検知装置であって、吸収性物品の吸収部は、350g以上の遠心保持量の排尿を吸収することができるポリマー量を有し、電極列における列方向の電極間隔は、20〜55mmである。
【0011】
以上のように、電極列における列方向の電極間隔およびポリマー量の適切な組み合わせを用いることにより、排尿量が多くなっても、測定精度が高いため、1回の排尿量だけでなく、排尿間隔、排尿時間や尿流量(排尿速度)の測定を行うことが可能となり、膀胱機能や排尿障害の評価を行うことが可能となる。
【0012】
前記電極は、15〜35mmの矩形内にある形状である。これにより、精度良く排尿量を検知することができる。
【0013】
前記吸収性物品の吸収部の単位面積当たりの遠心保持量は、5000〜8000g/m2である。これにより、複数回の排尿を測定可能としながら排尿量が多くなっても測定精度が高いことから、排尿間隔を測定可能とするだけでなく、排尿時間、尿流量(排尿速度)をより精度良く排尿量を検知することができる。
【0014】
前記電極列の一端から他端までの長さは、前記吸収性物品の吸収部の長手方向の長さの75%以上、100%以下である。これにより、精度良く排尿量を検知することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、おむつ、尿取りパッド等の吸収性物品への排尿量を高精度に測定する排尿検知装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る静電容量センサシートの構成例を示す図である。
【図2】本発明を適用した排尿検知装置の構成例を示すブロック図である。
【図3】データ収集部の詳細な構成例を示すブロック図である。
【図4】情報処理部の詳細な構成例を示すブロック図である。
【図5】静電容量センサシートが取り付けられたおむつの装着方法を説明するための図である。
【図6】おむつを装着した使用者の断面を示す図である。
【図7】静電容量センサシートの排尿センサの原理を説明する図である。
【図8】人工尿を一定量ずつ注入した場合の人工尿が広がる様子を示す図である。
【図9】静電容量センサ出力変化量と人工尿広がり面積の関係を示す散布図である。
【図10】人工尿を一定量ずつ注入した場合の人工尿広がりを模式的に示す図である。
【図11】図10(a)、図10(b)での測定条件における人工尿注入量と静電容量センサ出力変化量の関係を示す散布図である。
【図12】図10(b)、図10(c)での測定条件における人工尿注入量と静電容量センサ出力変化量の関係を示す散布図である。
【図13】電極パターンの例を示す図である。
【図14】他の電極パターンの例を示す図である。
【図15】いくつかの電極パターンを用いた人工尿注入量と静電容量センサ出力変化量の関係を示す散布図である。
【図16】電極パターンを用いて静電容量センサ出力変化量を測定したいくつかの実施例を示す図である。
【図17】吸収性物品の遠心保持量の測定方法により得た測定結果を示す図である。
【図18】図16での測定条件における人工尿注入量と静電容量センサ出力変化量の関係を示す散布図である。
【図19】電極間隔と遠心保持量の関係を示す散布図である。
【図20】電極間隔の定義について検討する際に用いた電極の配置を示す図である。
【図21】電極間隔d´の一例を示す図である。
【図22】電極間隔d´の他の一例を示す図である。
【図23】実施例1の測定条件を用いて、1秒間に5gずつまたは10gずつ人工尿を注入する計測を行った場合の静電容量センサ出力変化量と時間の関係を示す散布図である。
【図24】図23での測定値を用いて1秒あたりの尿流量を算出し、算出した尿流量と時間の関係を示す散布図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、吸収性物品の、使用者の肌に触れる側とは反対の外側表面に、複数の電極を列置した電極列を複数列備えている。複数の電極列は、吸収性物品の吸収部の使用者の肌に触れる側とは反対の外側表面に備えてもよいが、図1に示すように静電容量センサシートに備え、静電容量センサシートを吸収性物品の吸収部の使用者の肌に触れる側とは反対の外側表面に備えるものが好ましい。
【0018】
静電容量センサシート1は、フィルム1a、フィルム1aの一方の面に備えられる複数の電極1bを有する。複数の電極1bは、フィルム1aの一方の面に接着されていてもよいし、縫いつけられていてもよく、固着されていることが好ましい。複数の電極1bは、それぞれが導線により結線され、列置された電極列を複数列備えることで、複数のセンサ素子を構成している。各センサ素子は、正電極と負電極との間のインピーダンス変化を検知する。なお、センサ素子の数は、正電極の数に対応していても良いし、対応していなくてもよい。
【0019】
本発明は、電極列における列方向の電極間隔は、複数回の排尿や多量の排尿に対する測定精度向上の観点から、20〜55mmであり、25〜55mmであることがより好ましい。本発明の電極間隔d‘は、列方向において隣り合う電極の対向する端部の間を離間距離dとした場合に、図20に示すように電極を電極列に直行する直線によって面積を4等分した場合に、電極端部から面積が1/4の直線までの距離を各々a1/2、a2/2とした場合にこれらの合計を電極間隔d‘と定義する。
即ち、電極間隔は以下の式(1)で表される。
【数1】
ここで、a1/2は、一つの電極において、列方向に直行する直線によって、電極の面積を分割した場合の一方の領域における重心から、列方向における近接する端部までの距離を意味する。電極の形状が矩形の場合には、列方向における長さの1/4に相当する。なお、離間距離dは、電極列の列方向における隣り合う電極の端部同士の距離であって、電極の形状によらず、0より大きい距離であって、50mmより小さい距離である。電極の形状が概ね矩形である場合には、複数回の排尿や多量の排尿に対する測定精度向上の観点から10〜45mmであることが好ましく、12〜40mmであることがより好ましい。
【0020】
図1の例では、電極1bは、6行×2列に2次元配列されており、各電極が矩形状をなす。電極列において列方向に隣り合う電極は、正極、負極、正極・・・の順に列置され、かつ、隣り合う電極列において列方向に直交する隣り合う電極についても正極に対して負極、負極に対して正極の関係で配置されても良いし、正極に対して正極、負極に対して負極で配置されても良い。動作による誤差低減の観点から正極に対して正極、負極に対して負極で配置するのが好ましい。そして、正電極には、正電位が印加され、負電極は、接地されている。
【0021】
なお、静電容量センサシート1の材質は、フィルム1aに限らず、例えば、不織布やフレキシブル基板などでも良い。
【0022】
以上のような構成からなる静電容量センサシート1は、老人や乳幼児の尿又は便等の排泄物を吸収する尿取りパッド等の吸収性物品(ここでは、尿取りパットと称する)の外側表面(フィルム側)に取り付けられ、尿取りパットに吸収された排泄物の排泄量(本実施の形態では、特に排尿による排尿量)を、複数のセンサ素子により検知する。なお、センサ素子により検知されたデータの出力間隔は0.1秒〜3分であることが好ましく、3秒未満であることがより好ましく、1秒以下であることがさらに好ましい。また、測定時間(同じ尿取りバッド等の吸収性物品を装着して測定する時間)は5〜10時間であることが好ましく、6〜9時間であることが好ましく、6〜8時間であることがさらに好ましい。このような測定間隔、測定時間の測定を行うことによって、複数回の排尿を測定可能となり、使用者の排尿パターンに関連する、排尿回数、1回の排尿量や排尿速度、排尿間隔のデータをより正確に得ることができる。
【0023】
尿取りパッドは、テープおむつ(マジックテープ(登録商標)が取り付けられたおむつ)の内側(排泄箇所)に挿入し、重ねて使用される。すなわち、静電容量センサシート1は、上述したように尿取りパッドの使用者の肌に触れる側とは反対の外側表面に取り付けられ、排尿等があっても、原則として静電容量センサシート1は汚れないので、尿取りパッドを交換する際に、静電容量センサシート1を使用後の尿取りパッドからはずせばよく、また新たな尿取りパッドにも装着容易であり、簡便かつコストメリットがあり、環境負荷が少なくなる。なお、上記使用者は、被介護者、排尿パターン検査の被験者、排尿支援のための被験者などが挙げられ、被介護者又は被験者に用いられる。
【0024】
なお、静電容量センサシート1は、テープおむつの内側に固定したり、尿取りパッドとテープおむつの間に挟んで固定することもできるが、使用者の動きに対して尿取りパッドとの相対的位置関係の維持向上の観点から尿取りパッドに取付又は固定することが好ましい。
【0025】
[本発明の排尿検知装置の構成]
図2は、本発明を適用した排尿検知装置10の構成例を示すブロック図である。この排尿検知装置10においては、静電容量センサシート1、データ収集手段11、および情報処理手段12から構成される。なお静電容量センサシート1、データ収集手段11、および情報処理手段12の使用例については、図5を参照して後述する。
【0026】
静電容量センサシート1を含む回路全体には、電圧制御手段21(図3)から400から600kHzの矩形波の電圧がかけられており、各センサ素子による電極間のインピーダンス変化が電圧制御手段21によって検知される。そして、単位時間ごとの電極間のインピーダンス変化を電圧制御手段21において電圧値に比例した静電容量センサ出力に変換される。
【0027】
データ収集手段11は、静電容量センサシート1とケーブル(図示せぬ)を介して接続され、テープおむつの使用者の肌側とは反対側の外側表面に取り付けられる。データ収集手段11の電圧制御手段21(図3)は、静電容量センサシート1を介して検知されたインピーダンスの変化を電圧値に比例した静電容量センサ出力として収集する。
【0028】
また本発明のデータ収集手段11は、電圧制御手段21とともに、加速度センサ22(図3)を有している。加速度センサ22は、使用者の変位によるX軸方向、Y軸方向、Z軸方向の加速度をそれぞれ検出(収集)することにより、おむつを装着している使用者の姿勢を検知する。
【0029】
情報処理手段12は、例えば、コンピューターであって、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)等を有し、データ収集手段11で収集されたデータを取得し、排尿量、排尿速度、および尿流量を算出する。データ収集手段11で収集されたデータからの算出方法の詳細は、後述する。
【0030】
図3は、データ収集手段11の機能の構成例を示すブロック図である。データ収集手段11は、電圧制御手段21、およびデータロガー23で構成され、加速度センサ22を備えている。
【0031】
電圧制御手段21は、静電容量シート1の電極間インピーダンスZxと抵抗値が既知のインピーダンス要素Z1〜Z3とでブリッジ回路を構成し、ブリッジ回路の入力端に発振回路の出力電圧を印加する。そして、インピーダンス要素Z1、Z2による分圧電圧と、インピーダンス要素Z3と電極間のインピーダンスZxとによる分圧電圧との差電圧を検波して、インピーダンスZxの大きさに応じた電圧値の電圧信号をデータロガー22に出力する。本発明では、インピーダンスZxの大きさに応じた電圧値の電圧信号に比例した値である静電容量センサ出力をデータロガー23に単位時間ごとに出力して保存することが好ましい。単位時間は、0.1〜3秒が好ましく、0.1〜1秒がさらに好ましい。
【0032】
加速度センサ22は、おむつを装着している使用者の姿勢を検知するものであって、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向の加速度をそれぞれ検出(収集)し、検出結果をデータ収集手段11のデータロガー23に出力する。
【0033】
データロガー23は、電圧制御手段21および加速度センサ22から取得したデータを保存する電子計測器である。データロガー23は、情報処理手段12からの要求に応じて、または、情報処理手段12に接続されたことを検知すると、保存しているデータを情報処理手段12に転送する。
【0034】
図4は、情報処理手段12の機能の構成例を示すブロック図である。情報処理手段12は、データ取得手段31、排尿量演算手段32、排尿速度演算手段33、および尿流量演算手段34で構成される。
【0035】
データ取得手段31は、データ収集手段11とケーブルを介して接続されると、データ収集手段11のデータロガー23に保存されているデータを取得し、排尿量演算手段32および排尿速度演算手段33に供給する。
【0036】
排尿量演算手段32は、データ取得手段31から取得したデータに基づいて、排尿量を計算する。排尿速度演算手段33は、データ取得手段31から取得したデータに基づいて、排尿速度を計算し、計算結果を尿流量演算手段34に供給する。尿流量演算手段34は、排尿速度演算手段33から取得した排尿速度の計算値に基づいて、尿流量を計算する。
【0037】
以上のように構成された排尿検知装置1によれば、おむつ内に排尿があると、排尿があった部位に対応する静電容量センサシート1のセンサ素子のインピーダンスが大幅に変化する。そして、データ収集手段11の電圧制御手段21は、複数のセンサ素子のインピーダンスの変化の総量の電圧信号を出力するので、情報処理手段12の排尿量演算手段32は、計算により排尿量を精度良く得ることができる。
【0038】
<おむつの装着方法>
図5(a)〜(c)は、静電容量センサシート1が取り付けられたおむつの装着方法を説明するための図である。
【0039】
図5(a)に示すように、静電容量センサシート1は、尿取りパット41の、使用者(通常、被介護者)の肌に触れる側とは反対の外側である尿取りパット41の防水用のフィルム側の表面に、静電容量センサシート1の電極1bが当接するように貼り付けられることが好ましい。この場合、静電容量センサシート1が貼り付けられた尿取りパット41は、図5(b)に示すように、使用者への保持手段、例えばマジックテープ51a、51bが取り付けられたテープおむつ51の内側表面に沿って配置される。このとき、静電容量センサシート1がテープおむつ51と尿取りパット41の間に挟まれるように配置されるものとなる。
【0040】
静電容量センサシート1および尿取りパット41が配置されたテープおむつ51は、図5(c)に示すように、使用者に装着され、使用者への保持手段であるマジックテープ51a、51bで固定される。そして、静電容量センサシート1とデータ収集手段11とをケーブルを介して接続し、データ収集手段11をテープおむつ51の外側表面に取り付ける。データ収集手段11の取り付け方法は特に問わないが、ずり落ち防止の観点から、テープおむつ51の腹部近傍端にクリップやマジックテープ等の固着手段で取り付けることが好ましい。
【0041】
データ収集手段11には、加速度センサ22が内蔵されているため、テープおむつ51にクリップやマジックテープ等の固着手段で正しく取り付けることは重要であり、これにより、使用者の姿勢を正しく検知することができる。
【0042】
なお、おむつの交換時に、データ収集手段11を情報処理手段12に接続することで、おむつの交換中に、データを転送することができる。
【0043】
図6は、図5に示したテープおむつ51を装着した際の使用者のX−X断面を模式的に示し、人体、尿取りパット41、静電容量センサシート1、テープおむつ51の位置関係を示す図である。
【0044】
図6に示すように、尿取りパット41の外側に静電容量センサシート1を配置し、静電容量センサシート1の外側にテープおむつ51を配置する。これにより、テープおむつ51が静電容量センサシート1と尿取りパット41とを押圧して尿取りパット41を使用者に接触させて固定することが可能となり、使用者が立ったり座ったりしても、インピーダンスの変化量の誤差を抑えることができ、排尿量等の測定精度をさらに向上させることができる。
【0045】
以上のように、静電容量センサシート1を尿取りパット41の外側表面に配置することで、繰り返し排尿量等を測定することが可能になる。また、静電容量センサシート1が尿取りパット41とテープおむつ51の間に挟まれるため、静電容量センサシート1は肌に直接触れず、静電容量センサシート1を繰り返し使用可能とし、しかも使用者への不快感を軽減することができる。さらに、静電容量センサシート1の中央部に電極にかからない範囲で、切り込みやくり抜き部分を設けることが、使用者の足を閉じた時等の違和感を軽減できる観点から好ましい。また、データ収集手段11が情報処理手段12と常時接続されるものではないため、使用者は自由に動くことが可能である。
【0046】
なお、テープおむつ51を用いるようにしたが、必ずしもテープおむつ51である必要はなく、例えば、パンツ型の装着品でも良い。
【0047】
本発明の電極列の全長は、吸収部における排尿の広がりをより広範囲で検知する観点から、吸収部の長手方向の長さの75%以上であることが好ましく、78%以上であることがさらに好ましい。
【0048】
本発明の吸収性物品(例えば尿取りパッド41)の吸収部は、350g以上の排尿を吸収することができるポリマー量を有しており、好ましくは吸収部の単位面積あたりの遠心保持量は、5000〜8000g/m2であり、好ましくは5000〜7500g/m2である。また、本発明の吸収部の遠心保持量(吸収することができる排尿量)は、350g以上であって、800g以下が好ましい。
【0049】
<排尿センサ原理>
図7は、静電容量センサシート1の排尿センサの原理を説明する図である。
【0050】
図7に示すように、電極1bの各電極間には、コンデンサC1〜C7がそれぞれ形成される。つまり、全ての電極間にコンデンサCがそれぞれ形成される。
【0051】
例えば、コンデンサC4が形成される位置に対応する尿取りパット41の位置に排尿があった場合、コンデンサC4の静電容量が変化する(排尿を吸収した尿取りパット41の部分の外側表面に形成されるコンデンサC4の静電容量が変化する)。ここで、静電容量は、次式(2)で表わされる。ε0は、真空誘電率(定数:8.854×10−12)であり、εSは、比誘電率であり、Aは、電極の面積であり、dは、電極間の距離である。なお、空気の比誘電率は、1であり、水の比誘電率は、80である。
静電容量C=ε0・εS・A/d ・・・(2)
【0052】
上記の式(2)と比誘電率の変化(1が80になる変化)より、コンデンサC4の静電容量は、80倍に変化する。また、矢印A1の先に示されるように、コンデンサC1〜C4が形成される位置に対応する尿取りパット41の位置に排尿があった場合、コンデンサC1〜C4の静電容量は、80倍に変化する。
【0053】
以上のようにして、静電容量の変化を測定することによって、尿取りパット41における排尿の広がりを計算可能となり、排尿量のデータを得ることができる。
【0054】
<尿広がり面積の計算>
本出願人は、人形に図5の様に静電容量センサシート1を取り付け仰向けに置き、静電容量センサシート1が貼り付けられた尿取りパット41の人形側の表面の通常ヒトの排尿部に相当する領域に、チューブの吐出口を配置し、チューブを介して人工尿(例えば、生理食塩水)を一定量ずつ排尿部に相当する領域に注入した場合の人工尿広がり面積を計算した。
【0055】
図8(a)〜(e)は、尿取りパット41上の排尿部付近に、一定量の人工尿を注入した場合の人口尿が広がる様子を示す図である。図8(a)は、50gの人工尿を注入した場合の尿広がりを示し、図8(b)は、100gの人工尿を注入した場合の人工尿広がりを示し、図8(c)は、150gの人工尿を注入した場合の尿広がりを示し、図8(d)は、200gの人工尿を注入した場合の人工尿広がりを示し、図8(e)は、250gの人工尿を注入した場合の人工尿広がりを示している。
【0056】
図8(a)〜(e)からもわかる通り、人工尿の注入量が増えるに従い、人工尿広がり面積が次第に広がっていく様子がわかる。
【0057】
図9は、静電容量センサ出力変化量と人工尿広がり面積の関係を示す散布図である。図9において、縦軸は静電容量センサ出力変化量であり、横軸は人工尿広がり面積(cm2)である。静電容量センサ出力変化量(各センサ素子による電極間のインピーダンス変化量の総変化量)は、電圧制御手段21で得られる人工尿量がないときの電圧出力と人工尿を注入した時の電圧制御手段21で得られる電圧出力に関連した値を表わしたものである。
【0058】
図9において、P1は、図8(a)に示した人工尿広がり面積により得た静電容量センサ出力変化量の測定値に基づいてプロットされたものであり、P2は、図8(b)の人工尿広がり面積により得た静電容量センサ出力変化量の測定値に基づいてプロットされたものであり、P3は、図8(c)の人工尿広がり面積により得た静電容量センサ出力変化量の測定値に基づいてプロットされたものであり、P4は、図8(d)の人工尿広がり面積により得た静電容量センサ出力変化量の測定値に基づいてプロットされたものであり、P5は、図8(e)の人工尿広がり面積により得た静電容量センサ出力変化量の測定値に基づいてプロットされたものである。
【0059】
図9に示す静電容量センサ出力変化量と人工尿広がり面積の関係からもわかる通り、人工尿広がり面積の増加に伴って、ほぼ比例して静電容量センサ出力変化量も増加している。
【0060】
すなわち、静電容量センサ出力量の変化を検知すれば、尿広がり面積を算出可能となり、排尿量に換算することも可能になる。
【0061】
<排尿センサの電極パターン>
本出願人は、静電容量センサシート1の電極パターンをいくつか用意し、吸収性能が異なる尿取りパット41をいくつか用意し、人形に図5の様に静電容量センサシート1を取り付け仰向けに置き、静電容量センサシート1が貼り付けられた尿取りパット41の人形側の表面の通常ヒトの排尿部に相当する領域に、チューブの吐出口を配置し、チューブを介して人工尿を一定量ずつ排尿部に相当する領域に注入した場合の静電容量センサ出力変化量を測定した。
【0062】
図10(a)〜(c)は、人形に図5の様に静電容量センサシート1を取り付け仰向けに置き、静電容量センサシート1が貼り付けられた尿取りパット41の人形側の表面の通常ヒトの排尿部に相当する領域に、チューブの吐出口を配置し、チューブを介して人工尿を一定量ずつ排尿部に相当する領域に注入した場合の人工尿が尿取りパット41に広がる様子を模式的に示す図である。
【0063】
図10(a)は、静電容量センサシート1の電極1bの形状が25mm×25mm、電極列における列方向(図中横方向)の離間距離が50mm、電極列と電極列の間(図中縦方向)の電極の離間距離が20mmからなる電極パターンである。ここで、電極の離間距離とは、隣り合う電極の一方の端部から他方の端部までの距離をいう。本実施の形態では、150g相当の排尿を3回分吸収できる性能の尿取りパット41を用いて、人工尿50g、100g、150gを注入した場合の測定結果を示している。本実施の形態では、1回の排尿量をほぼ150gとして説明する。
【0064】
図10(a)に示すように、人工尿を50g注入した場合、4個の電極間に設けられたコンデンサCの静電容量が変化する。人工尿を100g注入した場合、6個の電極間に形成されるコンデンサCの静電容量が変化する。人工尿を150g注入した場合、8個の電極間に形成されるコンデンサCの静電容量が変化する。
【0065】
図10(b)は、静電容量センサシート1の電極1bの形状が25mm×25mm、電極列における列方向の電極間の離間距離が50mm、電極列と電極列の間の電極間の離間距離が20mmからなる電極パターンであり、150g相当の排尿を6回分吸収できる性能の尿取りパット41を用いて、人工尿50gから350gの範囲で50gずつ増やして7回にわたって注入した場合の測定結果を示している。
【0066】
図10(b)に示すように、人工尿を50g注入した場合、4個の電極間に設けられたコンデンサCの静電容量が変化する。人工尿を100g〜250gまで注入した場合、6個の電極間に設けられたコンデンサCの静電容量が変化する。300g〜350gまで注入した場合、8個の電極間に設けられたコンデンサCの静電容量が変化する。
【0067】
図10(c)は、静電容量センサシート1の電極1bの形状が25mm×25mm、電極列における列方向の電極間の離間距離が12.5mm、電極列と電極列の間の電極間の離間距離が20mmからなる電極パターンであり、6回分の排尿を吸収できる性能の尿取りパット41を用いて、人工尿を50gから350gの範囲で50gずつ増やして7回にわたって注入した場合の測定結果を示している。
【0068】
図10(c)に示すように、人工尿を50g注入した場合、6個の電極間に設けられたコンデンサCの静電容量が変化する。人工尿を100g注入した場合、10個の電極間に設けられたコンデンサCの静電容量が変化する。人工尿を150g〜250gまで注入した場合、14個の電極間に設けられたコンデンサCの静電容量が変化する。人工尿を300g〜350gまで注入した場合、18個の電極間に設けられたコンデンサCの静電容量が変化する。
【0069】
図11は、図10(a)、図10(b)での測定条件(電極パターン)における人工尿注入量と静電容量センサ出力変化量の関係を示す散布図である。図11において、縦軸は静電容量センサ出力変化量であり、横軸は人工尿注入量(g)である。つまり、図11の例では、同じ電極パターンを用いて、吸収量が3回分の尿取りパット41と吸収量が6回分の尿取りパット41での静電容量センサ出力変化量の比較を行っている。
【0070】
図11において、図10(a)での測定条件における静電容量センサ出力変化量の測定値がプロットされるとともに、その測定値から算出された近似曲線がy1で示されている。図10(a)での測定値から算出された近似曲線y1、相関係数R2は、次式(3)で表わされる。
y1=0.3276x0.9695
R2=0.899 ・・・(3)
【0071】
また、図11において、図10(b)での測定条件における静電容量センサ出力変化量の測定値がプロットされるとともに、その測定値から算出された近似曲線がy2で示されている。図10(b)での測定値から算出された近似曲線y2、相関係数R2は、次式(4)で表わされる。
y2=0.0777x+4.9457
R2=0.8763 ・・・(4)
【0072】
図12は、図10(b)、図10(c)での測定条件における人工尿注入量と静電容量センサ出力変化量の関係を示す散布図である。図12において、縦軸は静電容量センサ出力変化量であり、横軸は人工尿注入量(g)である。つまり、図12の例では、異なる電極パターンを用いて、吸収量が6回分の尿取りパット41での静電容量センサ出力変化量の比較を行っている。
【0073】
図12において、図10(c)での測定条件における測定値がプロットされるとともに、測定値から算出された近似曲線がy3で示されている。図10(c)での測定値から算出された近似曲線y3、相関係数R2は、次式(5)で表わされる。
y3=2.8348x0.5236
R2=0.9216 ・・・(5)
【0074】
また、図12において、図10(b)での測定条件における測定値がプロットされるとともに、測定値から算出された近似曲線(上記式(4))がy2で示されている(図11の近似曲線y2と同じである)。
【0075】
上記の式(3)〜(5)より、相関の強さを表す、相関係数(Rの二乗)は、それぞれ、0.899、0.8763、0.9216である。つまり、近似曲線y1〜y3を用いて、それぞれ89.9%、87.63%、92.16%の信頼性を持って静電容量センサ出力変化量の値を得ることができると判断することができる。従って、最も相関係数の高い、図10(c)での電極パターンおよび吸収量が6回分の尿取りパット41を用いる測定条件による静電容量センサ出力により、精度の高い排尿量の計算結果を得ることができると判断することができる。
【0076】
特に、近似曲線y2とy3の信頼性については、図10(b)と図10(c)の人工尿の広がり範囲と静電容量センサ1の電極の位置関係からも判断することができる。例えば、1回分の排尿量(150g)に相当する累積量と2回分の排尿量(300g)に相当する累積量の場合を比較すると、図10(b)においては、累積150gのときは6個の電極間に設けられたコンデンサCの静電容量が変化し、累積300gのときは8個の電極間に設けられたコンデンサCの静電容量が変化し、2個分のコンデンサCの静電容量が多く変化する。それに対して図10(c)においては、累積150gのときは14個の電極間に設けられたコンデンサCの静電容量が変化し、累積300gのときは18個の電極間に設けられたコンデンサCの静電容量が変化し、4個分のコンデンサCの静電容量が多く変化する。すなわち、図10(c)の条件の方が、分解能が高いことになるので、得られる結果の信頼性が高くなる。
【0077】
以上、図10(c)の条件によれば、正常な成人の1回の排尿量約150gでの複数回の排尿を正確に測定することができる。
【0078】
<電極パターンの具体例>
次に、本出願人は、吸収量が6回分の尿取りパット41を用いて、さまざまな電極パターンを試作し、それらについて検討した。
【0079】
図13は、静電容量センサシート1の電極1bの形状が25mm×25mm、電極列における列方向(図中横方向)の電極間の離間距離が50mm、列方向の電極間隔が62.5mm、電極列と電極列の間(図中縦方向)の対向する電極端部の間の距離である離間距離が20mm、電極の列方向の最も外側の一端から他端までの距離(電極列の全長)が400mmからなる電極パターン1を示している。
【0080】
ここで、電極列と電極列の間の対向する電極端部の間の離間距離は、電極列を構成する全ての電極について、並列された電極列の対向する電極との間の離間距離の平均値を意味する。本発明においては、電極列を構成する各電極について、並列された電極列の電極との離間距離に差がある場合であっても、5mm以下であることが好ましく、2mm以下であることが好ましい。電極列と電極列の間の離間距離は、使用時に電極列の間に所定の距離を維持し、接触を防止し、測定精度を維持向上させる観点から、15〜25mmであることが好ましい。
【0081】
図14は、そのほかの電極パターンの具体例を一覧表に示している。図14の例では、電極パターン1のほかに、電極1bの形状が25mm×25mm、列方向の電極間隔が25mm、電極列における列方向の電極間の離間距離が12.5mm、電極列と電極列の間の対向する電極端部の間の離間距離が20mm、電極列の全長が400mmからなる電極パターン2、電極1bの形状が25mm×20mm、列方向の電極間隔が30mm、電極列における列方向の電極間の離間距離が20mm、電極列と電極列の間の対向する電極端部の間の離間距離が20mm、電極列の全長が420mmからなる電極パターン3、電極1bの形状が5mm×40mm、列方向の電極間隔が35mm、電極列における列方向の電極間の離間距離が15mm、電極列と電極列の間の対向する電極端部の間の離間距離が20mm、電極列の全長が425mmからなる電極パターン4、電極1bの形状が25mm×25mm、列方向の電極間隔が16.5mm、電極列における列方向の電極間の離間距離が4mm、電極列と電極列の間の対向する電極端部の間の離間距離が20mm、電極列の全長が402mmからなる電極パターン5、電極1bの形状が25mm×15mm、列方向の電極間隔が11.5mm、電極列における列方向の電極間の離間距離が4mm、電極列と電極列の間の対向する電極端部の間の離間距離が20mm、電極列の全長が395mmからなる電極パターン6が示されている。
【0082】
図15は、電極パターン1、電極パターン2、電極パターン5、電極パターン6を用いて、人形に図5の様に静電容量センサシート1を取り付け仰向けに置き、静電容量センサシート1が貼り付けられた尿取りパット41の人形側の表面の通常ヒトの排尿部に相当する領域に、チューブの吐出口を配置し、チューブを介して人工尿を一定量ずつ排尿部に相当する領域に注入した場合の人工尿注入量と静電容量センサ出力変化量の関係を示す散布図である。図15において、縦軸は静電容量センサ出力変化量であり、横軸は人工尿注入量(g)である。
【0083】
図15において、電極パターン1、電極パターン2、電極パターン5、電極パターン6を用いて測定された静電容量センサ出力変化量の測定値がプロットされている。また、電極パターン1を用いて複数回測定された静電容量センサ出力変化量の測定値から算出された近似曲線がy11で示されている。近似曲線y11、相関係数R2は、次式(6)で表わされる。
y11=0.0608x+8.7965
R2=0.9149 ・・・(6)
【0084】
さらに、図15において、電極パターン2を用いて複数回測定された静電容量センサ出力変化量の測定値から算出された近似曲線がy12で示されている。近似曲線y12、相関係数R2は、次式(7)で表わされる。
y12=19.077Ln(x)−54.235
R2=0.941 ・・・(7)
【0085】
さらに、図15において、電極パターン5を用いて複数回測定された静電容量センサ出力変化量の測定値から算出された近似曲線がy13で示されている。近似曲線y13、相関係数R2は、次式(8)で表わされる。
y13=36.978Ln(x)−138.36
R2=0.9333 ・・・(8)
【0086】
上記の式(6)〜(8)より、相関係数は、それぞれ、0.9149、0.941、0.9333である。つまり、近似曲線y11〜y13を用いて、それぞれ91.149%、94.1%、93.33%の信頼性を持って静電容量センサ出力変化量の値を得ることができると判断することができる。従って、最も相関係数の高い、電極パターン2を用いる測定条件による静電容量センサ出力により、精度の高い排尿量の計算結果を得ることができると判断することができる。
【0087】
なお、図15において、近似曲線y13の方が近似曲線y12に比べ傾きが高いにも拘わらず、近似曲線y12よりも相関係数が低くなった原因として、人工尿注入量400g付近の静電容量センサ出力変化量の測定精度の低さが考えられる。一般に、おむつは、使用者に装着した状態では、平面ではなく湾曲しているため、尿が均一に広がっていかない。つまり、仰向けで排尿があった場合は、尿取りパット41の排尿部付近の尿の広がりに比べ、おしり付近の尿の広がりは重力の影響を受けにくいため遅くなる。このため、尿は面ではなく尿取りパットの深さ方向に広がる。電極パターン5は、電極間隔が狭すぎるがゆえに、深さ方向の広がりが見えにくく測定精度が低くなってしまったと考えられる。
【0088】
[本発明に係る電極パターンを適用した場合の性能評価]
本出願人は、上述したような測定結果から測定対象(電極パターン)をいくつか絞りこみ、各電極パターンを用いて排尿量を複数回測定し、それらの精度について判定を行った。
【0089】
図16は、静電容量センサシート1の電極パターンを用いて、人形に図5の様に静電容量センサシート1を取り付け仰向けに置き、静電容量センサシート1が貼り付けられた尿取りパット41上の人形側の排尿部付近にチューブを用いて人工尿を注入した時の静電容量センサ出力変化量を測定したいくつかの実施例を示す図である。
【0090】
実施例1〜8、および比較例1〜9は、電極形状、列方向の電極間隔、列方向の電極間の離間距離、電極列の全長、尿取りパット41の吸収部の長さ、単位面積当たりのポリマー量、単位面積当たりの遠心保持量、遠心保持吸収量を変化させた場合の測定結果を示している。
【0091】
なお、実施例、比較例では、電極列の全長は、上述したように、電極の列方向の最も外側の一端から他端までの距離をいい、パット吸収部を覆う範囲は、(電極列の全長)/(尿取りパット41の吸収部の長さ)をいい、単位面積当たりの遠心保持量は、ポリマーが単位面積当たりに吸収する水の量をいい、遠心保持吸収量は、尿取りパット41が吸収する水の量をいう。また、測定範囲は、信頼性のある静電容量センサ出力変化量の測定値が得られる人工尿注入量をいい、判定基準は、実施例では、人工尿150gを複数回注入して測定可能であるか否か、比較例では、人工尿150gを1回注入して測定不可になるか否かをいう。
【0092】
図16の判定結果を説明する前に、吸収性物品の遠心保持量の測定方法と、吸収性物品のポリマー量の測定方法について説明する。
【0093】
<吸収性物品の遠心保持量の測定方法>
1.尿取りパット41の製品重量を測定する。
2.吸収体を残して外包材をカットし、カット後の重量(カット後重量)を測定する。
3.カット後のサンプルを、0.9%の生理食塩水に30分間浸ける。
4.サンプルを取り出し、正確な吸収量を得るため、30分間吊し、吸収仕切れなかった生理食塩水を落とす。
5.サンプルの重量(飽和後重量)を測定する。
6.サンプルを不織布又はナイロンメッシュからなる袋の中に入れてクリップで閉じる。
7.遠心脱水機にて、サンプルが入った袋を800回転/分で10分間回転させ、その後のサンプルの重量(脱水後重量)を測定する。
【0094】
図17は、吸収性物品の遠心保持量の測定方法により得た測定結果を示す図である。
【0095】
図17の例では、尿取りパット41の製品重量として100gが得られ、カット後の重量として89gが得られ、生理食塩水を吸収した飽和後重量として983gが得られ、飽和吸収量として894g(983g−89g)が得られ、脱水後重量として446gが得られ、遠心保持量として357g(446g−89g)が得られている。
【0096】
<吸収性物品のポリマー量の測定方法>
1.製品中からパルプ/ポリマーの混合物を取り出す。
2.混合物をメッシュ袋に入れ封をし、重量を量る(重量A)。
3.アスコルビン酸水溶液(ビタミンC)に一昼夜浸す。これによりポリマーがビタミンCにより溶ける。
4.メッシュ袋を乾燥するまで天日干しする。
5.メッシュ袋の重量を量る(重量B)。つまり、ポリマーは溶けて流れ出ており、重量B=パルプ+袋の重量となる。
6.A−Bでポリマー量を算出する。
【0097】
以上のような測定方法により、単位面積当たりのポリマー量と単位面積当たりの遠心保持量が得られる。
【0098】
図16の説明に戻り、判定結果について説明する。実施例1〜3では、静電容量センサシート1の列方向の電極間隔および単位面積当たりのポリマー量が適切であり、人工尿注入量350gまでは信頼性のある静電容量センサ出力変化量の測定値が得られるため、複数回の測定が可能であり、精度が高い(図16では、‘○’で示す)と判断することができる。実施例4〜8では、静電容量センサシート1の列方向の電極間隔および単位面積当たりのポリマー量が適切であり、人工注入量400gまでは信頼性のある静電容量センサ出力変化量の測定値が得られるため、複数回の測定が可能であり、精度が高い(図16では、‘○’で示す)と判断することができる。
【0099】
比較例1では、単位面積当たりのポリマー量が適切であるものの静電容量センサシート1の列方向の電極間隔が不適切であるため、信頼性のある静電容量センサ出力変化量の測定値が得られず、精度が低い(図16では、‘×’で示す)と判断することができる。比較例2〜9では、静電容量センサシート1の列方向の電極間隔および単位面積当たりのポリマー量が不適切であり、人工注入量200g〜300gまでしか信頼性のある静電容量センサ出力変化量の測定値を得ることができず、精度はやや低い(図16では、‘△’で示す)と判断することができる。
【0100】
図18(a)〜図18(c)は、図16での測定条件において、人形に図5の様に静電容量センサシート1を取り付け仰向けに置き、静電容量センサシート1が貼り付けられた尿取りパット41上の人形側の表目の通常ヒトの排尿部に相当する領域に、チューブの吐出口を配置し、チューブを介して人工尿を一定量ずつ排尿部に相当する領域に注入した場合の人工尿注入量と静電容量センサ出力変化量の関係を示す散布図である。図18(a)〜図18(c)において、縦軸は静電容量センサ出力変化量であり、横軸は人工尿注入量(g)である。
【0101】
図18(a)は、吸収量が6回分の尿取りパット41を用いて人工尿を50gから400gまで、50gずつ増やして注入した場合の、電極パターンno.1〜no.7における人工尿注入量と静電容量センサ出力変化量の関係を示す散布図である。
【0102】
図18(b)は、吸収量が4回分の尿取りパット41を用いて人工尿を50gから400gまで、50gずつ増やして注入した場合の、電極パターンno.2、no.4〜no.7における人工尿注入量と静電容量センサ出力変化量の関係を示す散布図である。
【0103】
図18(c)は、吸収量が3回分の尿取りパット41を用いて人工尿を50gから300gまで50gずつ増やして注入した場合の、電極パターンno.1〜no.4における人工尿注入量と静電容量センサ出力変化量の関係を示す散布図である。
【0104】
図19は、図16および図18(a)〜(c)の測定結果に基づく列方向の電極間隔と単位面積当たりの遠心保持量の関係を示す散布図である。図19において、縦軸は列方向の電極間隔(mm)であり、横軸は単位面積当たりの遠心保持量(g/m2)である。
【0105】
図19において、P21〜P28は、実施例1〜実施例8での測定値に基づいてそれぞれプロットされたものであり、P31〜P39は、比較例1〜比較例9での測定値に基づいてそれぞれプロットされたものである。
【0106】
図16および図19の測定結果から、電極列における列方向の電極間隔が、ほぼ20〜55mmの範囲にある電極パターンで、吸収性物品(尿取りパット41)の吸収部が、350g以上の人工尿を吸収することができるポリマー量の組み合わせを選択することが好ましいと判断することができる。これにより、精度良く排尿量を検知することができる。
【0107】
また、吸収性物品(尿取りパット41)の吸収部の単位面積当たりの遠心保持量が、ほぼ5000〜8000g/m2であり、電極が、ほぼ15〜35mmの矩形内にある形状であることが好ましいと判断することができる。これにより、精度良く排尿量を検知することができる。
【0108】
さらに、電極列の最も外側の一端から他端までの距離(電極列の全長)が、吸収性物品(尿取りパット41)の吸収部の長さのほぼ75%以上であることが好ましいと判断することができる。これにより、広範囲にわたって排尿量を検知することができる。
【0109】
<電極列における列方向の電極間隔の定義>
本出願人は、図19に示す散布図から、静電容量センサシート1の電極列における列方向の電極間隔の定義について検討した。
【0110】
図20は、本実施の形態に係る静電容量センサシート1の電極1bの配置を示す図である。図20において、dは、電極列の列方向において隣り合う電極の対向する端部の間の離間距離を表し、a1は、正電極の電極端部から面積が1/2の直線までの距離を表し、a2は、負電極の電極端部から面積が1/2の直線までの距離を表している。
【0111】
図中、A11で囲まれた範囲が、1個の静電容量Cを表し、この電極面積について考える。本実施の形態では、電極1bは、正電極、負電極が交互に配置されているため、正電極からは、図中矢印A21〜A23に示す方向(列方向)の両側の負電極に向かって電荷が移動する。その結果、1個の静電容量Cの面積は、電極面積の1/2になる。
【0112】
次に、電極の配置から電荷の移動は、円弧状に移動すると考えられる。その結果、平均距離は、正電極の電極端部から面積が1/2の直線までの距離a1のさらに半分の位置(a1/2)から、隣の負電極の電極端部から面積が1/2の直線までの距離a2のさらに半分の位置(a2/2)までを直径とする円周の半分と考えられる。すなわち、平均電極間の距離d´は、次式(9)で表わされる。
【数2】
【0113】
上記の式(9)のうち、定数を除いた次式(1)を、電極列における列方向の電極間隔と定義することができる。距離d´は、上述した測定結果からも、ほぼ20〜55mmの範囲にあることが好ましい。
【数3】
【0114】
<電極形状と電極間隔について>
本出願人は、電極形状と上記の式(1)で定義した電極列における列方向の電極間隔との関係について検討した。
【0115】
図21(a)〜(h)は、電極間隔d´の一例を示す図である。図21(a)〜(h)において、実線は、電極の面積を1/2にした場合の位置を表している。
【0116】
図21(a)は、ほぼ正方形の2つの電極が平行に配置されている。図21(b)は、平行四辺形の2つの電極が同じ向きに平行に配置されている。図21(c)は、八角形の2つの電極が同じ向きに平行に配置されている。図21(d)は、一辺に複数の山型の形状を有する2つの電極が同じ向きに平行に配置されている。図21(e)は、図21(a)に示す2つの電極の配置位置がずれている。図21(f)は、図21(b)に示す2つの電極の配置位置がずれている。図21(g)は、三角形の2つの電極が同じ向きに平行に配置されている。図21(h)は、平行する二辺にそれぞれ複数の山型の形状を有する電極が同じ向きに平行に配置されている。
【0117】
図22(a),(b)は、電極間隔d´の他の一例を示す図である。図22(a),(b)において、実線は、電極の面積を1/2にした場合の位置を表している。
【0118】
図22(a)は、三角形の2つの電極が異なる向きに平行に配置されている。図22(b)は、変形円形と円形の2つの電極が平行に配置されている。
【0119】
図21と図22からもわかる通り、本実施の形態における電極パターンにおいて、電極間隔d´を定義する上で、概ね同じ形状の電極が同じ向きに配置されている必要がある。つまり、図22(e)、(f)に示すように、異なる形状の電極が配置されてしまうと電極間隔d´が均等でなくなり、測定結果にバラツキが出てしまう。なお、電極列における列方向の離間距離dが0になると、2つの電極が1つとみなされ、測定精度が悪くなるため、最短電極間隔dは0より大きい値となる。
【0120】
[本発明を適用した電極パターンによる排尿速度と尿流量の測定]
<排尿速度の測定>
本出願人は、実施例1の測定条件を用いて、一定速度で一定量ずつ人工尿を注入した場合の静電容量センサ出力変化量の測定を行った。
【0121】
図23は、実施例1の測定条件を用いて、1秒間に5gずつ人工尿を注入する計測を2回、1秒間に10gずつ人工尿を注入する計測を3回行った場合の静電容量センサ出力変化量と時間の関係を示す散布図である。図23において、縦軸は静電容量センサ出力変化量であり、横軸は時間(sec)である。
【0122】
図23に示すように、1秒間に5gずつ人工尿を注入した場合の1回目と2回目の測定結果、および、1秒間に10gずつ人工尿を注入した場合の1回目〜3回目の測定結果が、それぞれプロットされている。
【0123】
この散布図からもわかる通り、尿の広がり方を排尿速度として捉えることができ、膀胱機能の評価に用いることが可能となる。
【0124】
<尿流量の測定>
本出願人は、図23で測定された排尿速度の測定値を用いて、1秒あたりの尿流量を算出した。
【0125】
図24(a)〜(e)は、図23での測定値を用いて1秒あたりの尿流量を算出し、算出した尿流量(g/sec)と時間(sec)の関係を示す散布図である。図24において、縦軸は尿流量(g/sec)であり、横軸は時間(sec)である。
【0126】
図24(a)は、1秒間に5gずつ人工尿を注入した場合の1回目の測定結果から算出された尿流量と時間の関係を示している。
【0127】
図24(b)は、1秒間に5gずつ30秒間150gまで人工尿を注入した場合の2回目の測定結果から算出された尿流量と時間の関係を示している。
【0128】
図24(c)は、1秒間に10gずつ15秒間150gまで人工尿を注入した場合の1回目の測定結果から算出された尿流量と時間の関係を示している。
【0129】
図24(d)は、1秒間に10gずつ15秒間150gまで人工尿を注入した場合の2回目の測定結果から算出された尿流量と時間の関係を示している。
【0130】
図24(e)は、1秒間に10gずつ15秒間150gまで人工尿を注入した場合の3回目の測定結果から算出された尿流量と時間の関係を示している。
【0131】
また、図24(a)〜(e)では、2区間の移動平均(二乗平均)がそれぞれプロットされている。
【0132】
図24の散布図からもわかる通り、1秒間隔で排尿量を測定することにより尿流量を算出することができ、排尿障害の評価に用いることが可能となる。
【0133】
<使用者の姿勢による補正>
以上のようにして測定された排尿量、排尿速度、尿流量は、加速度センサ12で検知された使用者の姿勢情報(X軸、Y軸、Z軸)に基づいて、補正を行うことができる。これにより、排尿量、排尿速度、尿流量の検知精度を向上させることができる。なお、姿勢情報(X軸、Y軸)を用いた排尿量の補正に関する技術は、特開2002−224093号公報に記載されている。
【0134】
[発明の実施の形態における効果]
1.電極列における列方向の電極間隔が、ほぼ20〜55mmの範囲にある電極パターンで、かつ、吸収性物品(尿取りパット41)の吸収部が、350g以上の遠心保持量の人工尿を吸収することができるポリマー量の組み合わせを選択することで、精度良く複数回の排尿を測定することが可能となる。すなわち成人の1回分の排尿量を150gであるとすると、複数回の排尿を用いて精度よく測定することができるので、排尿間隔、排尿時間や尿流量(排尿速度)を、より正確に測定することができ、膀胱機能や排尿障害の評価を行うことが可能となる。
【0135】
2.電極パターンの電極が、ほぼ15mm〜35mmの矩形内にある形状を選択することで、精度良く排尿量を検知することができる。
【0136】
3.吸収性物品の吸収部の単位面積当たりの遠心保持量が、ほぼ5000〜8000g/m2であるものを選択することにより、複数回の排尿を測定可能としながら排尿量が多くなっても測定精度が高いことから、排尿間隔を測定可能とするだけでなく、排尿時間、尿流量(排尿速度)をより精度良く排尿量を検知することができる。
【0137】
4.電極列の最も外側の一端から他端までの距離(電極列の全長)が、吸収性物品(テープおむつ51)の吸収部(尿取りパット41)の長さのほぼ75%以上であるものを選択することにより、広範囲にわたって排尿量を検知することができる。
【0138】
[変形例]
以上においては、静電容量センサシート1の電極パターンを2列に配置するようにしたが、これに限らず、3列または吸収性物品(テープおむつ51)の吸収部(尿取りパット41)を覆うことができればそれ以上でも良い。
【0139】
この発明は、上記実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化したり、上記実施の形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせたりすることにより種々の発明を形成できる。例えば、実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施の形態に亘る構成要素を適宜組み合わせても良い。
【符号の説明】
【0140】
1 静電容量センサシート
11 データ収集手段
12 情報処理手段
21 静電容量センサ
22 加速度センサ
23 データロガー
31 データ取得手段
32 排尿量演算手段
33 排尿速度演算手段
34 尿流量演算手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
排尿を吸収する吸収性物品の、使用者の肌に触れる側とは反対の外側表面に複数の電極を列置した電極列を複数列備え、前記複数の電極間のインピーダンス変化に基づいて前記排尿を検知する排尿検知装置であって、
前記吸収性物品の吸収部は、350g以上の遠心保持量の前記排尿を吸収することができるポリマー量を有し、
前記電極列における列方向の電極間隔は、20〜55mmである排尿検知装置。
【請求項2】
前記電極は、15〜35mmの矩形内にある形状である請求項1に記載の排尿検知装置。
【請求項3】
前記吸収性物品の吸収部の単位面積当たりの遠心保持量は、5000〜8000g/m2である
請求項1に記載の排尿検知装置。
【請求項4】
前記電極列の一端から他端までの長さは、前記吸収性物品の吸収部の長手方向の長さの75%以上、100%以下である請求項1に記載の排尿検知装置。
【請求項1】
排尿を吸収する吸収性物品の、使用者の肌に触れる側とは反対の外側表面に複数の電極を列置した電極列を複数列備え、前記複数の電極間のインピーダンス変化に基づいて前記排尿を検知する排尿検知装置であって、
前記吸収性物品の吸収部は、350g以上の遠心保持量の前記排尿を吸収することができるポリマー量を有し、
前記電極列における列方向の電極間隔は、20〜55mmである排尿検知装置。
【請求項2】
前記電極は、15〜35mmの矩形内にある形状である請求項1に記載の排尿検知装置。
【請求項3】
前記吸収性物品の吸収部の単位面積当たりの遠心保持量は、5000〜8000g/m2である
請求項1に記載の排尿検知装置。
【請求項4】
前記電極列の一端から他端までの長さは、前記吸収性物品の吸収部の長手方向の長さの75%以上、100%以下である請求項1に記載の排尿検知装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2013−39158(P2013−39158A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176281(P2011−176281)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】
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