説明

排尿障害の診断・病態解析に対する近赤外分析装置の用途

【課題】排尿障害の診断・病態解析において、非侵襲、非拘束かつ簡便な手法により、下部尿路の機能調節をより上位で支配している神経系の活動を測定することで、個々の症例で常に変化している排尿機能の状態をリアルタイムに把握するほか、中枢神経レベルでの病態をリアルタイムに解析しうる手段を提供する。
【解決手段】被験者の脳表層における血液中のヘモグロビン濃度パラメータを測定するための近赤外分析装置の使用方法が提供され、測定された前記ヘモグロビン濃度パラメータは、前記被験者が排尿障害の患者またはその高リスク者であるか否かの判定に用いられる。また、前記ヘモグロビン濃度パラメータは、例えば、酸素化ヘモグロビン濃度変化、脱酸素化ヘモグロビン濃度変化および総ヘモグロビン濃度変化を含む。そして、前記ヘモグロビン濃度パラメータの増減パターン等により、被験者は排尿障害の患者またはその高リスク者であるとの判定がなされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排尿障害の診断・病態解析に対する近赤外分析装置の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
世界保健機関(WHO)は、21世紀において克服すべき三大疾患として、アルツハイマー病および骨粗鬆症とならんで排尿障害を挙げている。
【0003】
これらのうち、「排尿障害」とは、排尿行為に関する異常の総称である。そして、この排尿障害は数多くの症状を包含するものである。排尿障害に含まれうる症状としては例えば、尿意切迫感、頻尿、尿失禁(切迫性、腹圧性、混合性など)、膀胱部の痛み・不快感、骨盤部(下腹部、腟、尿道、会陰、睾丸、陰嚢など)の痛み・不快感、遺尿、尿意低下・消失、排尿遅延、尿勢低下、尿線途絶、腹圧排尿、終末滴下、残尿感、また排尿障害の病態としては例えば、排尿筋過活動、低コンプライアンス膀胱、膀胱知覚亢進、膀胱知覚低下・欠如、非特異的膀胱知覚、膀胱痛、尿意切迫、排尿障害の原因として、過活動膀胱、神経因性膀胱、間質性膀胱炎などが挙げられる。
【0004】
上述したような各種の排尿障害を診断するための手段としては、従来、排尿機能検査の結果に基づいて診断するという手法が一般的に採用されている。この手法では具体的に、まず、カテーテルを介して膀胱に注水するか、または自己産生尿によって自然蓄尿させる。次いで、膀胱に蓄積した液体を排出させることで蓄尿期から排出期への排尿現象を再現する。この際に、膀胱および/または尿道の活動を詳細にモニターすることによって排尿機能を評価し、評価結果に基づいて、排尿障害の診断・病態解析が行われる。このような排尿機能検査の具体例としては、尿流測定、残尿測定、膀胱内圧測定、尿道内圧測定、内圧尿流検査、外括約筋筋電図、膀胱・尿道造影などが挙げられる(例えば、非特許文献1を参照)。
【0005】
このような排尿機能検査の結果に基づく排尿障害の診断・病態解析は、排尿機能における異常をより直接的に観察できることから広く行われているものである。しかしながら、この手法によって評価が可能なのは膀胱や尿道といった下部尿路における機能のみであり、下部尿路を支配することによりその機能調節を行っている神経系(特に、中枢神経系)に関しては、病変部位(特に、末梢神経系)の推定しか行なうことができないという問題がある。
【0006】
一方、近年では、ポジトロン断層撮影(PET)法や機能的磁気共鳴画像(fMRI)法、脳血流−単一光子放射断層撮影(SPECT)法などの脳機能画像的手法を用いて、脳内の排尿機能関連部位の同定が試みられ、いくつかの報告がなされている(例えば、非特許文献2を参照)。
【0007】
しかしながら、上述したような脳機能画像的手法を用いる方法は、高額かつ大型の固定機器を必要とするとともに、手法が非常に煩雑であるほか、動きを伴ったり、再現性を保ちながら繰り返し行なうことが難しいタスクの解析や経時的な変化の観察を要するものの解析、さらには現場での瞬時の解析ができない。また、群での比較を要するため、個々の状態を評価できない。つまり、経時的に変化する排尿機能に対応する脳活動を観察して評価・病態解析に役立てることができない。また、治療などの介入に対する短期的かつ経時的な変化の評価もできないといった問題もある。
【0008】
このように、排尿障害については従来多くの診断・病態解析手法が提案されてきているものの、従来のいずれの手法にもそれぞれに問題点が存在し、臨床的に利用可能な手法が十分に確立しているとはいえないのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】内山ら、「自律神経 ワークショップ1 親しみやすい、わかりやすい自律神経機能検査の解説−排尿機能検査」、第62回日本自律神経学会総会 ワークショップ1 配布資料(2009年11月5日)
【非特許文献2】Griffiths D, Tadic S. Bladder control urgency and incontinence: Evidence from functional brain imaging. Neurourology and Urodynamics 2008;27:466-474
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したような従来技術に鑑み、本発明は、排尿障害の診断・病態解析において、非侵襲、非拘束かつ簡便な手法により、下部尿路の機能調節をより上位で支配している神経系の活動を測定することで、個々の症例で常に変化している排尿機能の状態をリアルタイムに把握するほか、中枢神経レベルでの病態をリアルタイムに解析しうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上述した課題を解決することを目指して、鋭意研究をおこなった。その結果、近赤外分析装置を用いて近赤外分光分析法(NIRS;Near InfraRed Spectroscopy)によって被験者の脳表層における血液中のヘモグロビン濃度パラメータを測定し、測定により得られた結果を所定の判断基準に照らすことで、排尿障害の診断・病態解析が可能となりうるという驚くべき知見を得、この知見に基づき、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明の第1の形態によれば、被験者の脳表層における血液中のヘモグロビン濃度パラメータを測定するための近赤外分析装置の使用方法が提供される。当該方法において、測定された前記ヘモグロビン濃度パラメータは、前記被験者が排尿障害の患者またはその高リスク者であるか否かの判定に用いられる。また、前記ヘモグロビン濃度パラメータは、酸素化ヘモグロビン濃度変化(ΔOHb[μmol/L])、総ヘモグロビン濃度変化(ΔcHb[μmol/L])、脱酸素化ヘモグロビン濃度変化(ΔHHb[μmol/L])を含む。
【0013】
これらのヘモグロビン濃度パラメータについて詳細に検討した結果、排尿障害に対する反応の異常として以下のようなパラメータ変動が生じることが明らかとなった。特に排尿障害の1種である過活動膀胱(DO)が発生している場合、きわめて特徴的なパラメータ変動(測定波形の変動)を生じることが明らかとなった。なお、過活動膀胱(DO;Detrusor Overactivity)とは、2002年の国際禁制学会で提唱された概念である。頻尿や夜間頻尿を伴う尿意切迫感がDOの主徴とされ、切迫性尿失禁を伴う場合もあり、排尿筋過活動がその原因と考えられている。
【0014】
本発明者らの検討によれば、蓄尿期においては、1)開始時の平均基礎値を終了時の平均値から引いた値を膀胱容量で割った傾き(正の傾き)が、正常と比較して低下(例えば、−20%程度)するかまたは陰性化するというパラメータ変動(測定波形の変動)が見られた。また、2)異常所見であるDOが発生したときに、ヘモグロビン濃度パラメータの波形上、↑(上昇)とその後に↓(下降)が見られるという直接的な反応が観察された。この場合、さらに再度の上昇(+↑)が生じる場合もあった(この場合、DOが何度も生じれば、↑かつ↓(+↑)も繰り返し生じることとなる)。
【0015】
また、排出期においては、蓄尿期に上昇した波形がもとの基礎値に戻らないことが確認された(ただし、排出期の初期に波形が一過性に増大する場合もある)。なお、正常の排出および排出障害の際には、酸素化ヘモグロビン濃度変化(ΔOHb[μmol/L])、総ヘモグロビン濃度変化(ΔcHb[μmol/L])のみが変化し、脱酸素化ヘモグロビン濃度変化(OHb[μmol/L])はあってもわずかな変化(測定波形の変動)しか示さなかった。
【0016】
以上の所見を基として、本発明の方法は、上記の蓄尿期において、2)のNIRS上の異常な波形の同定、特にDOが発生した際の反応の変化の判定につき、DOが生じうるまで(または生じていると思われる前まで)の波形の傾き、および最大変化量(振幅)を基準として比較を行い、上昇(↑)と判定するのは、傾きが10%以上で、かつ、それまでの最大変化量(振幅)の10%以上の変動が見られたときである。一方、下降(↓)と判定するのは、傾きが0%以下で、かつ、それまでの最大変化量(振幅)の10%以上の変動が見られたときである。本発明の方法では、上述したような上昇(↑)とその後の下降(↓)のパラメータ変動が見られたときに、被験者を排尿障害患者かその高リスク者として判定がなされる点に特徴を有する。なお、さらに再度の上昇(+↑)と判定するのは、開始時の平均基礎値以下となったものが、その基礎値に戻らないときである。
【0017】
本病態の解析、特にDOについては、DOが1回発生した際に、上昇(↑)かつ下降(↓)[さらに時として上昇(+↑)]のパラメータ変動が波形変化の1つのパターンとして観察される。したがって、蓄尿中にDOが繰り返し起これば、この波形変化のパターンも繰り返し生じることになる。なお、DOなどの排尿障害は、蓄尿後半に生じる場合以外に、蓄尿開始直後に生じる場合もある。
【0018】
上記形態において、排尿障害としては、過活動膀胱、尿意切迫感、膀胱知覚亢進、頻尿、尿失禁、膀胱部の痛み・不快感、骨盤部の痛み・不快感、遺尿、排尿筋過活動、低コンプライアンス膀胱、間質性膀胱炎、および神経因性膀胱からなる群から選択される1または2以上が挙げられる。
【0019】
なお、本発明の他の形態によれば、近赤外分析装置を利用した、被験者の脳表層における血液中のヘモグロビン濃度パラメータの測定方法も提供される。当該測定方法によって測定されたヘモグロビン濃度パラメータもまた、上記形態と同様にして、被験者が排尿障害の患者またはその高リスク者であるか否かの判定に用いられる。
【0020】
以上のことから、より詳細には、本発明の一形態によれば、被験者の脳表層における血液中のヘモグロビン濃度パラメータを測定するための近赤外分析装置の使用方法であって、
測定された前記ヘモグロビン濃度パラメータは、前記被験者が排尿障害の患者またはその高リスク者であるか否かの判定に用いられ、
蓄尿期における前記ヘモグロビン濃度パラメータの波形について、
1)開始時の平均基礎値を終了時の平均値から引いた値を膀胱容量で割った傾きが、正常と比較して低下するかまたは陰性化し、かつ、
2)上昇とその後に下降が見られる、
ときに、前記被験者が排尿障害の患者またはその高リスク者であるとの判定がなされることを特徴とする、近赤外分析装置の使用方法、が提供される。
【0021】
また、本発明の他の形態によれば、被験者の脳表層における血液中のヘモグロビン濃度パラメータを測定するための近赤外分析装置の使用方法であって、
測定された前記ヘモグロビン濃度パラメータは、前記被験者が排尿障害の患者またはその高リスク者であるか否かの判定に用いられ、
蓄尿期における前記ヘモグロビン濃度パラメータの波形について、
1)開始時の平均基礎値を終了時の平均値から引いた値を膀胱容量で割った傾きが、正常と比較して低下するかまたは陰性化し、かつ、
2)上昇とその後に下降、さらにその後に再度の上昇が見られ、かつ、
排出期における前記ヘモグロビン濃度パラメータの波形について、
3)蓄尿期に上昇した波形がもとの基礎値に戻らない、
ときに、前記被験者が排尿障害の患者またはその高リスク者であるとの判定がなされることを特徴とする、近赤外分析装置の使用方法、が提供される。
【0022】
ここで、前記上昇との判定は、典型的には、過活動膀胱が生じうるまで(または生じていると思われる前まで)の波形の傾き、および最大変化量(振幅)を基準として比較を行った場合に、傾きが10%以上で、かつ、それまでの最大変化量(振幅)の10%以上の変動が見られたときになされ、前記下降との判定は、上記と同様の比較を行った場合に、傾きが0%以下で、かつ、それまでの最大変化量(振幅)の10%以上の変動が見られたときになされ、さらに再度の上昇との判定がなされる場合に、当該判定は、開始時の平均基礎値以下となったものが、その基礎値に戻らないときになされる。
【0023】
また、前記ヘモグロビン濃度パラメータは、典型的には、酸素化ヘモグロビン濃度変化(ΔOHb[μmol/L])、脱酸素化ヘモグロビン濃度変化(ΔHHb[μmol/L])および総ヘモグロビン濃度変化(ΔcHb[μmol/L])を含む。
【0024】
ここで、排尿障害としては、例えば、尿意切迫感、頻尿、尿失禁(切迫性、腹圧性、混合性など)、膀胱部の痛み・不快感、骨盤部(下腹部、腟、尿道、会陰、睾丸、陰嚢など)の痛み・不快感、遺尿、尿意低下・消失、排尿遅延、尿勢低下、尿線途絶、腹圧排尿、終末滴下、残尿感、さらに排尿障害の病態としては、排尿筋過活動、低コンプライアンス膀胱、膀胱知覚亢進、膀胱知覚低下・欠如、非特異的膀胱知覚、膀胱痛、尿意切迫、並びに排尿障害の原因としては、過活動膀胱、神経因性膀胱、および間質性膀胱炎などが挙げられる。
【0025】
さらに、本発明のさらに他の形態によれば、近赤外分析装置を利用した、被験者の脳表層における血液中のヘモグロビン濃度パラメータの測定方法であって、
測定された前記ヘモグロビン濃度パラメータは、前記被験者が排尿障害の患者またはその高リスク者であるか否かの判定に用いられ、
前記ヘモグロビン濃度パラメータは、酸素化ヘモグロビン濃度変化(ΔOHb[μmol/L])、脱酸素化ヘモグロビン濃度変化(ΔHHb[μmol/L])および総ヘモグロビン濃度変化(ΔcHb[μmol/L])を含み、
蓄尿期における前記酸素化ヘモグロビン濃度変化(ΔOHb[μmol/L])が、
1)開始時の平均基礎値を終了時の平均値から引いた値を膀胱容量で割った傾きが、正常と比較して低下するかまたは陰性化し、かつ、
2)上昇とその後に下降が見られる、
ときに、前記被験者が排尿障害の患者またはその高リスク者であるとの判定がなされ、この際、前記上昇との判定は、過活動膀胱が生じうるまで(または生じていると思われる前まで)の波形の傾き、および最大変化量(振幅)を基準として比較を行った場合に、傾きが10%以上で、かつ、それまでの最大変化量(振幅)の10%以上の変動が見られたときになされ、
前記下降との判定は、上記と同様の比較を行った場合に、傾きが0%以下で、かつ、それまでの最大変化量(振幅)の10%以上の変動が見られたときになされ、
さらに再度の上昇との判定がなされる場合に、当該判定は、開始時の平均基礎値以下となったものが、その基礎値に戻らないときになされることを特徴とする、測定方法、が提供される。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、排尿障害の診断・病態解析において、簡便な手法により、下部尿路の機能調節をより上位で支配している神経系の活動を測定することで、個々の症例で常に変化している排尿機能の状態をリアルタイムに把握しうる手段が提供されうる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1A】本発明においてNIRS(Near InfraRed Spectroscopy)による測定を行う際に測定用プローブを装着する様子を示す図である。
【図1B】本発明においてNIRS(Near InfraRed Spectroscopy)による測定を行う際に用いられる測定用プローブが備える、照射プローブおよび検出プローブを説明するための概略図である。
【図2】排尿障害の1種である過活動膀胱(DO)であるとの確定診断がなされた被験者に対するNIRSによるヘモグロビン濃度パラメータの測定結果を示す図である。
【図3】排尿障害ではないとの確定診断がなされた被験者に対するNIRSによるヘモグロビン濃度パラメータの測定結果を示す図である。
【図4】排尿障害でないと診断された患者群に対するNIRSによるヘモグロビン濃度パラメータの変動パターンである。
【図5】排尿障害で、終末期DO(Terminal DO)と診断された患者群に対するNIRSによるヘモグロビン濃度パラメータの変動パターンである。
【図6】排尿障害で、一過性DO(Phasic DO)と診断された患者群に対するNIRSによるヘモグロビン濃度パラメータの変動パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、近赤外分析装置の使用方法に関する。本発明において、この近赤外分析装置は、近赤外分光分析法(NIRS)によって被験者の脳表層における血液中のヘモグロビン濃度パラメータを測定するのに用いられる。そして、近赤外分析装置を用いて測定された測定結果は、所定の判断基準と対照され、排尿障害の診断・病態解析に用いられる。
【0029】
まず、NIRSおよび近赤外分析装置について、説明する。
【0030】
NIRS(近赤外分光分析法)は、近年普及してきた新しい脳機能計測法の1つである。安全に、そして比較的簡便に人の脳機能をリアルタイムに記録できるため、医学などの分野における臨床ツールとして期待されている。一般に、脳の情報処理においては、(a)神経活動が担う情報伝達系と、(b)神経活動を支えるエネルギー供給系との2つの系が密接に関係していると考えられている。すなわち、神経活動が起こると、その周囲にある血管が拡張し、エネルギー源となる酸素やグルコースを含む多くの動脈血を供給する調整機構が働く。そして、活動神経近傍の組織では、血流量・血液量が増大し、血液の酸化状態(酸素化ヘモグロビン濃度およびデオキシヘモグロビン濃度が変化すると仮定されている。このような神経活動と脳血液反応との関係は、ニューロバスキュラーカップリング(neuro-vascular coupling)と呼ばれている。
【0031】
NIRSによる測定では、近赤外光(波長700〜900nm)を用いる。この近赤外光は、(a)高い生体透過性を有し皮膚や骨を透過する、(b)血液中のオキシヘモグロビンおよびデオキシヘモグロビンのそれぞれに対する吸収特性が異なる、という特徴を有している。NIRSによる計測は、近赤外光の有するこれらの特徴を利用するのである。
【0032】
本発明においてNIRSによる測定を行う際には、例えば図1Aに示すように、左右の前頭前皮質(bilateral prefrontal cortex)に対応する部位(ブロードマン9野および10野の近傍)に測定用プローブを装着する。(別に前頭葉または頭部全体を捉える多チャンネルこの測定用プローブは、図1Bに示すように、照射プローブと検出プローブとを備えている。照射プローブから頭皮表面(脳表層)へと近赤外光を照射すると、上記(a)の特性により、その光成分は脳組織内に拡散し、頭皮表面(脳表層)から約20〜30mmの深さにある大脳皮質に到達する。また、上記(b)の特性により、照射点から例えば約3cm離れたところに位置する検出プローブにより、乱反射して戻ってきた光成分を検出することができる。NIRSによれば、この検出光から、大脳皮質のオキシ(酸素化)ヘモグロビン濃度変化(ΔOHb[μmol/L])、デオキシ(脱酸素化)ヘモグロビン濃度変化(ΔHHb[μmol/L])、およびこれらの合計値である総ヘモグロビン濃度変化(ΔcHb[μmol/L])の3つのヘモグロビン(Hb)濃度の変化が推定され、時系列的に記録される。なお、照射から検出までの光路長は計測できないため、得られるデータはHbの絶対値ではなく、相対的な濃度変化となる。また、NIRSによれば、総ヘモグロビン濃度に対する酸素化ヘモグロビン濃度の割合(組織飽和度)として算出される組織酸素化指標(TOI;Tissue Oxygenation Index)、および、組織における血液濃度を反映する指標である組織ヘモグロビン指標(nTHI;normalized Tissue Hemoglobin Index)もまた、時系列的に記録される。本明細書では、これらをまとめて、「ヘモグロビン濃度パラメータ」と称する。このような測定を行うことが可能な近赤外分析装置は商業的に入手可能であり、例えば、NIRO−200(浜松ホトニクス株式会社製)、OMM−3000(株式会社島津製作所製)、HOT121(株式会社日立メディコ製)などが市販されている。
【0033】
本発明では、ある被験者に対して上述したNIRSによって測定されたヘモグロビン濃度パラメータは、当該被験者が排尿障害の患者またはその高リスク者であるか否かの判定に用いられる。なお、本明細書では、この判定のことを、単に「判定」や「診断」とも称する。以下、その判定手法について、詳細に説明する。なお、以下の説明では、排尿障害(好ましくは、過活動膀胱(DO;Detrusor Overactivity))に罹患している被験者の測定結果を示すグラフに特異的にみられるパターンを取り上げるが、これらのパターンはいずれも(特に、本発明において必須に用いられるパターンについては)、排尿障害に関する限り健常な被験者においては観察されないものである。
本発明における判定では、必須のヘモグロビン濃度パラメータとして、酸素化ヘモグロビン濃度変化(ΔOHb[μmol/L])、脱酸素化ヘモグロビン濃度変化(ΔHHb[μmol/L])および総ヘモグロビン濃度変化(ΔcHb[μmol/L])が採用される。そして、本発明における判定では、これらの3つの必須のヘモグロビン濃度パラメータがそれぞれ、時間に対して(時系列的に)プロットされるが、プロットされる期間は、少なくとも被験者の蓄尿期に対応する区間を含む必要がある。なお、「蓄尿期」とは、後述する実施例に記載のように強制的な注水によって蓄尿を発生させる場合には、強制注水の開始から被験者の膀胱容量が最大膀胱容量に達するまで(この時点で、強制注水は停止される)の期間をいう。
【0034】
図2に、排尿障害の1種である過活動膀胱(DO)であるとの確定診断がなされた被験者に対するNIRSによるヘモグロビン濃度パラメータの測定結果を示す(測定手法等については、後述する実施例を参照)。なお、過活動膀胱(DO)を患っている被験者の測定結果を示す図2においては、蓄尿期の途中に「DO発生」として排尿筋の過活動が発生した時点を示している。一方、図3に、排尿障害ではないとの確定診断がなされた被験者に対する同様の測定結果を示す。以下、これらの図面を参照しつつ、本発明における判定手法について、詳細に説明する。
【0035】
まず、最も特徴的なパターンとして、排尿障害の被験者は、酸素化ヘモグロビン濃度変化(ΔOHb[μmol/L])、脱酸素化ヘモグロビン濃度変化(ΔHHb[μmo
および総ヘモグロビン濃度変化(ΔcHb[μmol/L])のグラフが山(/\)形の増減パターン、つまり上昇と下降を示す。本発明では、酸素化ヘモグロビン濃度変化(ΔOHb[μmol/L])、脱酸素化ヘモグロビン濃度変化(ΔHHb[μmol/L])および総ヘモグロビン濃度変化(ΔcHb[μmol/L])の1つ以上(好ましくは複数)のグラフがこの山(/\)形さらには上昇の山(/\/)のパターンを示すときに、被験者は排尿障害の患者またはその高リスク者である、との判定がなされる。ここで、上昇および下降の判定は、先に述べたように、上昇との判定については、過活動膀胱が生じうるまで(または生じていると思われる前まで)の波形の傾き、および最大変化量(振幅)を基準として比較を行った場合に、傾きが10%以上で、かつ、それまでの最大変化量(振幅)の10%以上の変動が見られたときになされる。また、下降との判定については、上記と同様の比較を行った場合に、傾きが0%以下で、かつ、それまでの最大変化量(振幅)の10%以上の変動が見られたときになされる。そして、さらに再度の上昇との判定がなされる場合の当該判定については、開始時の平均基礎値以下となったものが、その基礎値に戻らないときになされる。ここで、図4〜図6に、実際に得られたパラメータ測定結果の波形変化を示す。図4は、排尿障害でないと診断された被験者についての波形変化である。図4に示すように、正常被験者では排尿障害の患者のような蓄尿期における変動は見られなかった。一方、図5および図6は、排尿障害と診断された被験者についての波形変化であり、図5では蓄尿期の終末にDOが見られ(Terminal DO)、図6では蓄尿期の途中に一過性のDOが見られた(Phasic DO)。
【0036】
なお、これらの実施形態について、酸素化ヘモグロビン濃度変化(ΔOHb[μmol/L])、脱酸素化ヘモグロビン濃度変化(ΔHHb[μmol/L])のグラフおよび/または総ヘモグロビン濃度変化(ΔcHb[μmol/L])のグラフの少なくとも一方が連続する複数の増減パターンを有している場合には、当該連続する複数の増減パターンの少なくとも1つについて、上記の基準を満たしている限り、より確実な判定に用いられうる。
【0037】
以上、NIRSにより測定されるヘモグロビン濃度パラメータのうち、酸素化ヘモグロビン濃度変化(ΔOHb[μmol/L])、脱酸素化ヘモグロビン濃度変化(ΔHHb[μmol/L])および/または総ヘモグロビン濃度変化(ΔcHb[μmol/L])を指標とした判定の具体的な手法および好ましい実施形態について説明したが、NIRSにより測定される上記以外のヘモグロビン濃度パラメータをさらに指標として採用することで、より確実な判定が可能となる。
【0038】
具体的には、ヘモグロビン濃度パラメータとして、上述した組織酸素化指標(TOI)および/または組織ヘモグロビン指標(nTHI)を判定のための指標として用いることもできる。より詳細には、排尿障害に罹患している被験者のTOIのグラフおよびnTHIのグラフでは、蓄尿期に対応する区間において、減少パターンが観察されることが多い。また、上述したようにTOIを指標とするのに代えて、またはこれに加えて、組織ヘモグロビン指標(nTHI)用いてもよい。
【0039】
以上、NIRSにより得られる測定結果に基づく排尿障害か否かの判定手法について詳細に説明したが、本発明において判定可能な排尿障害は上述した過活動膀胱(DO)のみに限定されず、その他の排尿障害の判定に対しても同様に適用可能である。本発明が適用されうる排尿障害について特に制限はないが、過活動膀胱の他には例えば、尿意切迫感、頻尿、尿失禁(切迫性、腹圧性、混合性など)、膀胱部の痛み・不快感、骨盤部(下腹部、腟、尿道、会陰、睾丸、陰嚢など)の痛み・不快感、遺尿、尿意低下・消失、排尿遅延、尿勢低下、尿線途絶、腹圧排尿、終末滴下、残尿感、さらに排尿障害の病態としては、排尿筋過活動、低コンプライアンス膀胱、膀胱知覚亢進、膀胱知覚低下・欠如、非特異的膀胱知覚、膀胱痛、尿意切迫、並びに排尿障害の原因としては、神経因性膀胱、および間質性膀胱炎などが挙げられる。
【0040】
本発明の近赤外分析装置の使用方法を実施する際の当該装置の具体的な操作方法等については、特に制限されず、従来公知の知見や、当該装置に付属している説明書等を参照しつつ、適宜実施することが可能である(一例として、後述する実施例を参照)。なお、排尿障害の診断・病態解析のために従来実施されている尿流動態検査を被験者に対して実施する際には、これと並行してNIRSによる測定を行ってもよい。このような形態によれば、同一の被験者に対する複数の検査をワンストップで行うことができ、被験者に対する肉体的・心理的負担の軽減につながることから、好ましい。
【0041】
以上、本発明の一形態に係る近赤外分析装置の使用方法について説明したが、本発明によれば、他の形態として、近赤外分析装置を利用した、被験者の脳表層における血液中のヘモグロビン濃度パラメータの測定方法もまた、提供されうる。この測定方法において、近赤外分析装置を利用して測定されたヘモグロビン濃度パラメータは、被験者が排尿障害の患者またはその高リスク者であるか否かの判定に用いられる。また、当該ヘモグロビン濃度パラメータは、酸素化ヘモグロビン濃度変化(ΔOHb[μmol/L])、脱酸素化ヘモグロビン濃度変化(ΔHHb[μmol/L])および総ヘモグロビン濃度変化(ΔcHb[μmol/L])を含む。
【0042】
そして、当該測定方法では、前述したように、蓄尿期における前記酸素化ヘモグロビン濃度変化(ΔOHb[μmol/L])が、
1)開始時の平均基礎値を終了時の平均値から引いた値を膀胱容量で割った傾きが、正常と比較して低下するかまたは陰性化し、かつ、
2)上昇とその後に下降が見られる、
ときに、前記被験者が排尿障害の患者またはその高リスク者であるとの判定がなされ、この際、前記上昇との判定は、過活動膀胱が生じうるまで(または生じていると思われる前まで)の波形の傾き、および最大変化量(振幅)を基準として比較を行った場合に、傾きが10%以上で、かつ、それまでの最大変化量(振幅)の10%以上の変動が見られたときになされ、
前記下降との判定は、上記と同様の比較を行った場合に、傾きが0%以下で、かつ、それまでの最大変化量(振幅)の10%以上の変動が見られたときになされ、
さらに再度の上昇との判定がなされる場合に、当該判定は、開始時の平均基礎値以下となったものが、その基礎値に戻らないときになされる。
【0043】
この測定方法の具体的な実施形態や、適用可能な装置の詳細、適用可能な排尿障害の形態等については、上述した第1の形態である「近赤外分析装置」の欄を参照することにより、実施可能であろう。
【実施例】
【0044】
以下、実施例および参考例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらに限定されない。
【0045】
一般的な尿流動態検査と並行して、近赤外分析装置を用いた被験者の脳表層における血液中のヘモグロビン濃度パラメータの測定を行った。なお、近赤外分析装置としては、NIRO−200(浜松ホトニクス株式会社製)を用いた。以下、尿流動態検査の手法と併せて、ヘモグロビン濃度パラメータの測定手法について、説明する。
【0046】
[NIRS測定前]
1)被験者に検査台に座ってもらい、可能であれば排尿してもらう(排尿機能検査の尿流測定(free flow))。
【0047】
2)検査台を倒し、被験者を仰臥位とした後、尿道カテーテルおよび直腸カテーテルを挿入する。そして、外肛門括約筋に針電極を刺入する。
【0048】
3)膀胱中に残存している尿量を測定する(残尿測定)。
【0049】
4)被験者を座位に戻し、膀胱内圧、直腸内圧、および排尿筋圧を確認する。
【0050】
[NIRS測定]
1)消毒用アルコールで前額部を清拭する(これにより、測定時の皮脂や汗などに起因するアーチファクトを除去する)。
【0051】
2)図1Aに示すように、両側前額部(眉毛と髪の生え際との中間部、眼球の直上が目安である)に電極を装着する。具体的には、電極に対応した製品専用のシールを用い、電極を貼付する。その後、伸縮バンドで頭部を1周巻くようにして、電極を上から固定する。
【0052】
3)被験者に安静にしてもらい、各パラメータ値の0点合わせを行った後、NIRS測定の記録を開始する。なお、「0点合わせ」は、当該測定により得られる各種のヘモグロビン濃度パラメータが記録開始点の値を基準とする相対値として得られることから、必要とされる。
【0053】
4)膀胱に注水を開始し(蓄尿期の開始)、膀胱内圧曲線の記録(排尿機能検査の蓄尿期の記録)を行いつつ、イベント(例えば、排尿筋過活動の発生(図2に示す「DO発生」に相当)など)の記録を行う。
【0054】
5)被験者の最大膀胱容量に達した時点で注水を停止し(蓄尿期の終了)、NIRSの記録を終了する。
【0055】
[NIRS測定後]
1)被験者に対して排尿を指示し、被験者に排尿してもらう(排尿機能検査の尿流測定(pressure flow))。
【0056】
2)膀胱中に残存している尿量を測定する(残尿測定)。
【0057】
3)必要な被験者に対しては、外肛門括約筋筋電図の波形解析を行う。
【0058】
[NIRS測定結果]
2人の被験者に対して上述した測定を行った結果得られた、NIRSによるヘモグロビン濃度パラメータの測定結果を、図2および図3にそれぞれ示す。なお、測定結果を図2に示す被験者は、排尿障害の1種である過活動膀胱(DO)であるとの確定診断がなされた者である。また、測定結果を図3に示す被験者は、排尿障害ではないとの確定診断がなされた者である。
【0059】
図2および図3に示す結果を対比すると、図2に示す測定結果には、図3に示す測定結果にはみられない、以下のような特異的なパターンが存在した。
・酸素化ヘモグロビン濃度変化(ΔOHb[μmol/L])のグラフにおいて、極小値(−1.07)→極大値(−0.15)→極小値(−1.19)の増減パターン(1)が観察された。
・上記増減パターン(1)に連続して、極小値(−1.19)→極大値(1.28)→極小値(−1.31)の増減パターン(1)が観察された。
・総ヘモグロビン濃度変化(ΔcHb[μmol/L])のグラフにおいて、極小値(−2.47)→極大値(−1.38)→極小値(−2.94)の増減パターン(2)が観察された。
・上記増減パターン(2)に連続して、極小値(−2.94)→極大値(−1.1)→極小値(−2.27)の増減パターン(2)が観察された。
・組織酸素化指標(TOI)のグラフにおいて、極大値(67.1)からその後の極小値(66.7)へと減少する減少パターン(D)が観察された。同様に、当該グラフにおいては、極大値(68.5)−極小値(66.3)の減少パターン(D)もまた、観察された。
・組織ヘモグロビン指標(nTHI)のグラフにおいて、極大値(1.01)からその後の極小値(0.96)へと減少する減少パターン(E)が観察された。
【0060】
以上のような排尿障害を患った被験者に特異的にみられるパターンに基づき、排尿障害の判定が可能である。本発明の一形態は、このような判定に用いられるヘモグロビン濃度パラメータを測定するための近赤外分析装置の使用方法に関する。また、本発明の他の形態は、近赤外分析装置を利用して、このような判定に用いられるヘモグロビン濃度パラメータの測定方法に関する。
【0061】
また、DO(−)被験者群8名より得られた測定結果を図4に示し、DO(+)被験者群9名より得られた測定結果を図5(終末期(Terminal)DO)および図6(一過性(Phasic)DO)に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の脳表層における血液中のヘモグロビン濃度パラメータを測定するための近赤外分析装置の使用方法であって、
測定された前記ヘモグロビン濃度パラメータは、前記被験者が排尿障害の患者またはその高リスク者であるか否かの判定に用いられ、
蓄尿期における前記ヘモグロビン濃度パラメータの波形について、
1)開始時の平均基礎値を終了時の平均値から引いた値を膀胱容量で割った傾きが、正常と比較して低下するかまたは陰性化し、かつ、
2)上昇とその後に下降が見られる、
ときに、前記被験者が排尿障害の患者またはその高リスク者であるとの判定がなされることを特徴とする、近赤外分析装置の使用方法。
【請求項2】
被験者の脳表層における血液中のヘモグロビン濃度パラメータを測定するための近赤外分析装置の使用方法であって、
測定された前記ヘモグロビン濃度パラメータは、前記被験者が排尿障害の患者またはその高リスク者であるか否かの判定に用いられ、
蓄尿期における前記ヘモグロビン濃度パラメータの波形について、
1)開始時の平均基礎値を終了時の平均値から引いた値を膀胱容量で割った傾きが、正常と比較して低下するかまたは陰性化し、かつ、
2)上昇とその後に下降、さらにその後に再度の上昇が見られ、かつ、
排出期における前記ヘモグロビン濃度パラメータの波形について、
3)蓄尿期に上昇した波形がもとの基礎値に戻らない、
ときに、前記被験者が排尿障害の患者またはその高リスク者であるとの判定がなされることを特徴とする、近赤外分析装置の使用方法。
【請求項3】
前記上昇との判定は、過活動膀胱が生じうるまで(または生じていると思われる前まで)の波形の傾き、および最大変化量(振幅)を基準として比較を行った場合に、傾きが10%以上で、かつ、それまでの最大変化量(振幅)の10%以上の変動が見られたときになされ、
前記下降との判定は、上記と同様の比較を行った場合に、傾きが0%以下で、かつ、それまでの最大変化量(振幅)の10%以上の変動が見られたときになされ、
さらに再度の上昇との判定がなされる場合に、当該判定は、開始時の平均基礎値以下となったものが、その基礎値に戻らないときになされる、
請求項1または2に記載の使用方法。
【請求項4】
前記ヘモグロビン濃度パラメータは、酸素化ヘモグロビン濃度変化(ΔOHb[μmol/L])、脱酸素化ヘモグロビン濃度変化(ΔHHb[μmol/L])および総ヘモグロビン濃度変化(ΔcHb[μmol/L])を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用方法。
【請求項5】
前記排尿障害が、尿意切迫感、頻尿、尿失禁、膀胱部の痛み・不快感、骨盤部の痛み・不快感、遺尿、尿意低下・消失、排尿遅延、尿勢低下、尿線途絶、腹圧排尿、終末滴下、残尿感、排尿筋過活動、低コンプライアンス膀胱、膀胱知覚亢進、膀胱知覚低下・欠如、非特異的膀胱知覚、膀胱痛、尿意切迫、過活動膀胱、神経因性膀胱、および間質性膀胱炎からなる群から選択される1または2以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用方法。
【請求項6】
近赤外分析装置を利用した、被験者の脳表層における血液中のヘモグロビン濃度パラメータの測定方法であって、
測定された前記ヘモグロビン濃度パラメータは、前記被験者が排尿障害の患者またはその高リスク者であるか否かの判定に用いられ、
前記ヘモグロビン濃度パラメータは、酸素化ヘモグロビン濃度変化(ΔOHb[μmol/L])、脱酸素化ヘモグロビン濃度変化(ΔHHb[μmol/L])および総ヘモグロビン濃度変化(ΔcHb[μmol/L])を含み、
蓄尿期における前記酸素化ヘモグロビン濃度変化(ΔOHb[μmol/L])が、
1)開始時の平均基礎値を終了時の平均値から引いた値を膀胱容量で割った傾きが、正常と比較して低下するかまたは陰性化し、かつ、
2)上昇とその後に下降が見られる、
ときに、前記被験者が排尿障害の患者またはその高リスク者であるとの判定がなされ、この際、前記上昇との判定は、過活動膀胱が生じうるまで(または生じていると思われる前まで)の波形の傾き、および最大変化量(振幅)を基準として比較を行った場合に、傾きが10%以上で、かつ、それまでの最大変化量(振幅)の10%以上の変動が見られたときになされ、
前記下降との判定は、上記と同様の比較を行った場合に、傾きが0%以下で、かつ、それまでの最大変化量(振幅)の10%以上の変動が見られたときになされ、
さらに再度の上昇との判定がなされる場合に、当該判定は、開始時の平均基礎値以下となったものが、その基礎値に戻らないときになされることを特徴とする、測定方法。

【図2】
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【図3】
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【図1A】
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【図1B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−45168(P2012−45168A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189954(P2010−189954)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本老年泌尿器科学会、「第23回日本老年泌尿器科学会プログラム・抄録集」、平成22年4月14日
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】