説明

排気ガスの処理装置の下流に配置された後処理装置へ流入する排気ガスの温度推定方法及び推定装置

【課題】エンジンの排気ラインに処理装置と後処理装置を有する場合に、排気ラインに追加のセンサを配置することなく後処理装置入口における温度を推定する方法を提供する。
【解決手段】処理装置10と後処理装置12はパイプ11を介して接続され、処理装置10は、直列に接続されたn個の仮想基本反応器Rの集合であるとみなされ、全数nは処理装置10の容積に応じて決められ、仮想基本反応器Rに、n番目の仮想基本反応器Rがガスが処理装置10から出る前に通過する最後の上記仮想基本反応器であるようにガスが流れる方向に1からnの番号が付けられ、後処理装置12の入口におけるガスの温度Tは、最後の仮想基本反応器Rの中の温度Tから計算される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃エンジンのための、排気ガスの処理装置(この処理装置は、例えば、非限定的に、酸化触媒、窒素酸化物NOトラップ、またはフォーウエイ触媒である)の下流に配置された後処理装置へ流入する排気ガスの温度をモデル化することを可能にし、後処理装置の適正な動作に不可欠な情報の入手を可能にしながら、センサを省略することを可能にする、温度推定方法及び推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの内部の燃焼によって生じたガスを処理するために、エンジンの排気ラインの中に配置された装置(例えば窒素酸化物NOトラップ)の中の温度の推定を可能にする様々な方法が知られている。これは、この温度は、特に排気ガスの処理装置の効率と劣化に対して重要な影響を及ぼすからである。これらの方法は、一般に、排気ガスの処理装置の近く(排気ガス処理装置の上流または下流、あるいは、ある場合には上流と下流の両方)における排気ガスの温度の測定に基づいている。この測定に対して、様々なタイプのモデルに基づく計算が組み合わされる。
【0003】
例えば、文献US 5419122には、触媒トラップの状態の決定方法が提案されている。この方法においては、触媒トラップの上流において測定された排気ガスの温度が、触媒トラップの下流において測定された排気ガスの温度と組み合わされて、排気ガスと触媒トラップの中の触媒との間の熱伝達の量の計算が可能にされ、この熱伝達の量から、触媒の中の熱伝達に関する古典的なモデルを使用して、触媒の温度が推定される。
【0004】
しかしながら、このような方法は、エンジンの回転数が変化する際に生じる過渡現象を充分考慮に入れておらず、触媒トラップの中で発生する物理化学現象を部分的にしか考慮に入れておらず、あるいは完全に無視している。ところで、触媒トラップの中で発生する発熱反応と、触媒トラップの熱慣性は、触媒トラップの熱状態及びその温度に対して、無視できない影響を及ぼす。これらの要因を考慮に入れないと、モデルにおいて検討されるパラメータに、信頼性が低い推定が導入される。またモデルに対する入力データは、触媒トラップの外部における温度測定値のみである(したがって、触媒トラップの内部の熱状態を表さない)。
【0005】
文献DE 19836955には、触媒トラップの中の温度の計算方法が記載されている。この温度の計算方法においては、内燃エンジンの排気ラインの中に2つの処理装置が直列に配置され、触媒トラップの中の温度は、作動中の発熱反応とシステムの熱慣性を部分的に考慮に入れて、各処理装置の中の熱バランスから、積分によって推定される。
【0006】
しかしながら、この方法は、排気ラインに複数の温度センサを設置することを必要とし、これらのセンサは比較的高価であることは明らかであり、これらのセンサは更に適当な接続装置も設ける必要があり、このことは更にコストを増加させる。また、これらのセンサの精度は、熱による劣化と汚れとの少なくとも一方によって低下し、これらの増加は、結果の信頼性を大きく変化させる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】US 5419122
【特許文献2】DE 19836955
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、自動車の内燃エンジンの排気ラインが、内部の燃焼によって生じたガスを処理するための処理装置の下流に後処理装置を有する場合に、後処理装置へ流入する排気ガスの温度の計算モデルを提供し、排気ラインに追加のセンサを配置することを省略することを可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を、エンジンの内部における燃焼の結果生じたガスの後処理装置の入口における温度推定方法であって、上記後処理装置は、上記後処理装置の上流の上記ガスの処理装置へパイプを介して接続され、上記処理装置は、計算の目的で、直列に接続されたn個の仮想基本反応器(R)の集合であるとみなされ、上記仮想基本反応器の全数nは、上記処理装置の容積に依存し、n番目の上記仮想基本反応器(R)は、上記ガスが上記処理装置(10)から出る前に通過する最後の上記仮想基本反応器である、エンジンの内部における燃焼の結果生じたガスの後処理装置の入口における温度推定方法において、上記後処理装置(12)の上記入口における上記ガスの上記温度(T)は、n番目の上記仮想基本反応器(R)の中の温度(T)から計算されることを特徴とする、エンジンの内部における燃焼の結果生じたガスの後処理装置の入口における温度推定方法によって達成する。
【0010】
本発明の望ましい実施の形態においては、上記処理装置の下流に配置された上記後処理装置の上記入口における上記ガスの上記温度は、n番目の上記仮想基本反応器の中の上記温度から、上記パイプにおける簡単な熱対流モデルを用いて計算される。
【0011】
選択的に、上記処理装置の下流に配置された上記後処理装置と上記処理装置との間の距離が充分短い場合には、上記処理装置の下流に配置された上記後処理装置の上記入口における上記ガスの上記温度は、n番目の上記仮想基本反応器の中の上記温度に等しいとみなされる。
【0012】
本発明は、下記の特徴の一方または他方を有利に有することができる:
−上記パイプにおける上記熱対流モデルは、上記ガスの物理的なパラメータ(密度、熱容量、動粘性係数、熱伝導性)と、上記処理装置と上記処理装置の下流に配置された上記後処理装置との間の排気ラインの物理的なパラメータ(上記排気ラインを形成する材料の熱容量、等)を上記ガスと上記排気ラインとの間の伝達性熱交換を決めるために、考慮に入れ、
−本発明による上記温度推定方法は、上記エンジンを管理する電子計算機の中の適当な処理手段と組み合わせられる。
【0013】
本発明のその他の特徴及び利点は、添付図面を参照して以下の説明を読むことによって明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、内燃エンジンと、燃焼によって生じたガスの処理装置と該処理装置の下流に配置された後処理装置とを含む内燃エンジンの排気ラインとの、簡単化された図である。
【図2】図2は、本発明による後処理装置へ流入する排気ガスの温度推定方法のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、ターボチャージャ2が取り付けられ、空気弁4と組み合わされた過給機クーラ3と、排気ガスを部分的に再循環し排気ガスの一部を冷却するための、EGR弁と組み合わされたEGRクーラとを、従来の様式に従って含む、内燃エンジンを簡単化して示す。ターボチャージャ2に、温度プローブ7と吸入空気流量計8が、従来の様式に従って取り付けられている。燃焼後、ガスはパイプ9の中を通って処理装置(例えば、非限定的に、酸化触媒、窒素酸化物NOトラップ、またはフォーウエイ触媒である)10へ運ばれ、次いで、処理装置10の出口に配置されたパイプ11を通って後処理装置12へ、最後に適当な装置13を通って、自動車の排気管へ運ばれる。温度プローブ14が、望ましくは処理装置10の入口にできるだけ近接して、パイプ9に配置される。
【0016】
これらの全体は、電子計算機15によって制御される。この電子計算機15には、温度プローブ7、吸入空気流量計8、温度プローブ14から伝達されるデータを処理するための処理手段が、特に、非限定的に、設けられる。
【0017】
図2に示すように、処理装置10は、n個の仮想基本反応器Rの集合であるとみなすことができる。n個の仮想基本反応器Rは、直列に接続され、システムの全ての変数が、各n個の仮想基本反応器Rの中では一定であるように設定される。すなわち、仮想基本反応器Rからの出口における変数Xの値Xは、仮想基本反応器Rの中の値Xに等しい。例として非限定的に、検討される動作変数は、温度と、処理装置10の中で処理されるガス状混合物の中の様々な生成物の濃度と、このガス状混合物の物理化学的特性(粘性、熱容量、等)と、処理装置10を形成する部品の物理的特性(材料の熱伝導性、等)である。
【0018】
n個の仮想基本反応器Rは、処理装置10の中をガスが流れる方向に、1からnに番号付けされ、仮想基本反応器Rは、処理装置10からの出口における仮想基本反応器に該当する。
【0019】
各仮想基本反応器Rについて、質量と、熱と、エネルギのバランスの方程式の系が、仮想基本反応器Rを通過するガス状混合物と仮想基本反応器Rを形成する要素に対する化学反応速度を考慮に入れながら解かれる。仮想基本反応器Rについて得られた結果は、次の仮想基本反応器Ri+1の入力の値として用いられ、したがって、検討される数値の縦方向の変化が、処理装置10に沿って次第に得られる。
【0020】
検討される数値の初期値は、例えば、非限定的に、温度プローブ14から供給される情報、または、特にガス状混合物の組成に関する仮定に基づいて設定された表または計算図表から決定される。
【0021】
処理装置10を形成する仮想基本反応器Rの総数nは、得られる結果の所望の精度に従って、この演算を実行する計算機に過大な計算負荷を与えないように、処理装置10の容積に応じて定められる。
【0022】
先に述べたように、n個の仮想基本反応器Rの各々は、その中でシステムの変数が一定であるという顕著な特性を有し、その結果、特に、最後の仮想基本反応器Rの中の例えば温度の値、すなわちTは、仮想基本反応器Rの出口の温度、したがって処理装置10の出口の温度の値Tに等しい。
【0023】
処理装置10と後処理装置12との間に配置されるパイプ11の長さが充分短い場合には、本発明による後処理装置へ流入する排気ガスの温度推定方法においては、パイプ11の中で発生する熱的な現象を無視することができ、その結果、最後の仮想基本反応器Rの中の温度Tと、処理装置10の出口の温度Tは先に述べたように同一であるので、後処理装置12の入口における温度の値Tは、処理装置10の出口における温度の値T、したがって仮想基本反応器Rの中で計算された温度の値Tに等しい。
【0024】
処理装置10と後処理装置12との間に配置されるパイプ11の長さが、パイプ11の中で発生する熱的な現象を無視することが可能であるためには長過ぎる場合には、後処理装置12の入口における温度Tは、パイプの中における簡単化された熱対流のモデルを使用して、本発明による後処理装置へ流入する排気ガスの温度推定方法によって計算され、処理装置10の出口の温度T(すなわちT)は、この簡単化された熱対流のモデルの入力の値として用いられる。T(すなわちT)の値を知ることによって、パイプ11の中を通過する排気ガスの物理的なパラメータ(例えば、非限定的に、密度、熱容量、動粘性係数、熱伝導性、等)と、パイプ11の物理的なパラメータ(例えば、熱伝導性)へのアクセスが可能になる。従って、排気ガスとパイプ11との間の伝達性熱交換係数を決めることができ、これによって、後処理装置12の入口におけるガスの温度Tを推定するために、ガスとパイプ11との間の熱交換を計算することが可能になる。
【0025】
このように、本発明による後処理装置へ流入する排気ガスの温度推定方法は、処理装置10と後処理装置12との間に配置されるパイプ11に、追加のセンサを配置することを省略することを可能にする。このような追加のセンサは、センサ自身のコストの他に、関連する接続装置と、センサから伝達される信号を処理するための手段を電子計算機へ導入するコストももたらす。
【0026】
本発明を補完する実施の形態においては、上記説明した本発明による後処理装置へ流入する排気ガスの温度推定方法に、特に電子計算機15の中への配置に必要な手段が加えられ、検討対象のエンジンの内部における燃焼によって生じるガスを処理する装置の性能と劣化を、簡単に実時間で管理及び制御することが可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(1)の内部における燃焼の結果生じたガスの後処理装置(12)の入口における温度(T)推定方法であって、上記後処理装置(12)は、上記後処理装置(12)の上流の上記ガスの処理装置(10)へパイプ(11)を介して接続され、上記処理装置(10)は、計算の目的で、直列に接続されたn個の仮想基本反応器(R)の集合であるとみなされ、上記仮想基本反応器(R)の全数nは、上記処理装置(10)の容積に依存し、n番目の上記仮想基本反応器(R)は、上記ガスが上記処理装置(10)から出る前に通過する最後の上記仮想基本反応器である、エンジンの内部における燃焼の結果生じたガスの後処理装置の入口における温度推定方法において、
上記後処理装置(12)の上記入口における上記ガスの上記温度(T)は、n番目の上記仮想基本反応器(R)の中の温度(T)から計算されることを特徴とする、エンジンの内部における燃焼の結果生じたガスの後処理装置の入口における温度推定方法。
【請求項2】
上記後処理装置(12)の上記入口における上記ガスの上記温度(T)は、n番目の上記仮想基本反応器(R)の中の上記温度(T)から、パイプにおける熱対流の簡単なモデルを用いて計算されることを特徴とする、請求項1に記載のエンジンの内部における燃焼の結果生じたガスの後処理装置の入口における温度推定方法。
【請求項3】
上記ガスと上記パイプ(11)との間の対流熱交換を決めるために、上記ガスの物理的なパラメータ(密度、熱容量、動粘性係数、熱伝導性、等)と上記パイプ(11)の物理的なパラメータとが上記温度(T)から推定されることを特徴とする、請求項1または2に記載のエンジンの内部における燃焼の結果生じたガスの後処理装置の入口における温度推定方法。
【請求項4】
上記温度(T)は、上記温度(T)に等しいとみなされることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1つに記載のエンジンの内部における燃焼の結果生じたガスの後処理装置の入口における温度推定方法。
【請求項5】
エンジン(1)の内部における燃焼の結果生じたガスの後処理装置(12)の入口における温度(T)推定装置であって、上記後処理装置(12)は、上記ガスの処理装置(10)の下流に配置され、上記後処理装置(12)は、上記処理装置(10)へパイプ(11)を介して接続された、エンジンの内部における燃焼の結果生じたガスの後処理装置の入口における温度推定装置において、請求項1〜4のいずれか1つに記載の方法の適用に適した処理手段を含むことを特徴とする、エンジンの内部における燃焼の結果生じたガスの後処理装置の入口における温度推定装置。
【請求項6】
上記エンジン(1)の内部における燃焼の結果生じたガスの上記温度(T)、及び求められるべき上記処理装置(10)内の温度が自動車に導入されることを特徴とする、請求項5に記載のエンジンの内部における燃焼の結果生じたガスの後処理装置の入口における温度推定装置。
【請求項7】
上記エンジン(1)を管理する電子計算機(15)と関連付けられることを特徴とする、請求項5または6に記載のエンジンの内部における燃焼の結果生じたガスの後処理装置の入口における温度推定装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−67753(P2012−67753A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−244541(P2011−244541)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【分割の表示】特願2007−538477(P2007−538477)の分割
【原出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(507308902)ルノー・エス・アー・エス (281)
【Fターム(参考)】