説明

排気ガス浄化方法及び排気ガス浄化システム

【課題】エンジン始動後の暖機では、排気通路に設けられた排気ガス浄化装置の触媒を活性化温度領域に迅速に到達させることができ、エンジン暖機後においては、必要に応じて、燃費の悪化を抑制しながら排気ガス浄化装置の触媒上で還元雰囲気を形成でき、更に、EGR制御では、容易に高EGR率を達成できる排気ガス浄化方法及び排気ガス浄化システムを提供する。
【解決手段】内燃機関10の排気通路11に配置した排気ガスGを昇温するための燃焼器13のガス供給ラインに高酸素濃度ガスA1と低酸素濃度ガスA2を選択的に供給するように構成すると共に、排気ガスGの昇温時に高酸素濃度ガスA2を前記燃焼器13に供給し、排気ガスGの昇温不要時に低酸素濃度ガスA2を前記排気通路11に供給し、更に、EGR時にEGRガスGeに低酸素濃度ガスA2を加える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の始動後、排気通路に設けられた排気ガス浄化装置の触媒が活性化温度領域に達するまで、排気ガス温度を上昇させるために使用する燃焼器に対し、空気中の酸素よりも数倍高い濃度の高酸素濃度ガスを供給して、燃焼器での燃焼速度を高めるための排気ガス浄化方法及び排気ガス浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車搭載等の内燃機関においては、内燃機関の排気ガスを浄化するために、内燃機関の排気通路に排気ガス浄化装置(後処理装置)を設けて、排気通路の排気ガスを浄化している。この排気ガス浄化装置としては、未燃炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)を酸化する酸化触媒(DOC)、NOxを浄化するNOx吸蔵還元型触媒(LNT)、微粒子状物質(PM)を浄化するDPFや触媒付きDPF(CSF)等が用いられている。
【0003】
これらの排気ガス浄化装置においては、内燃機関の始動開始直後のような、排気ガス浄化装置の触媒温度が低く、触媒の活性化温度領域(動作温度領域)に到達していない運転状態では、内燃機関から排出される未燃HCの量が多いので、排気ガスの規制値を満足するためにも、この未燃HCの低減は不可欠である。
【0004】
この対策として、排気通路に、燃料を燃焼する燃焼器を設けて、排気ガスの昇温が必要な時に、この燃焼器で燃料を燃焼させて、この燃焼ガスにより排気ガス浄化装置に流入する排気ガスを加熱して昇温させることが有効であり、例えば、排気浄化手段の上流側に噴霧燃焼器を設けて、燃料の燃焼により排気温度を上昇させる内燃機関の排気系制御システムが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
しかしながら、内燃機関の始動直後においては、排気ガス浄化装置の加熱と昇温のために燃焼器等により燃焼を行っても、燃料の着火と燃料の燃焼までには数分程度の時間を必要とし、その上、燃焼器等からの燃焼ガスで高温になった排気ガスが排気ガス浄化装置に流入しても、排気ガス浄化装置の熱容量分だけ触媒が活性化する温度に昇温するまでの間、数分間程度の時間が必要となる。
【0006】
そのため、燃焼器等の触媒加熱手段を備えた場合でもあっても、内燃機関の始動後、触媒加熱手段による触媒温度上昇までの数分間はHC低減に対して解決方法がなく、HC排出を抑制できないという問題があった。
【0007】
即ち、排気ガス浄化装置の触媒を加熱する手段として燃焼器を使う場合には、内燃機関の始動後において、燃焼器による触媒温度の上昇までの時間をできるだけ短くして、未燃HCが排気ガス浄化装置の下流側に排出されるのを抑制する必要がある。
【0008】
これに関連して、酸素富化の空気を燃焼器に用いて燃焼を促進する方法が提案され、例えば、吸気通路から酸素富化空気をDPF再生用の再生バーナーに導くDPFの再生装置が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。また、内燃機関の始動から暖機運転にいたる低温始動時に、酸素あるいは酸素富化空気を排気ガス浄化用触媒に供給して、触媒で未燃分の酸化反応を促進して反応熱により触媒の暖機を促進することと、同時に燃焼用補助燃料を添加し、点火源を設置することが提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−257323公報
【特許文献2】特開平6−25508号公報
【特許文献3】特開平5−141229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、エンジン始動後においては、排気ガスの温度を上昇させるための燃焼器に高酸素濃度ガスを供給して、燃焼器における燃焼速度を高めて、迅速に排気通路に設けられた排気ガス浄化装置の触媒を活性化温度領域に到達させることができ、エンジン暖機後においては、燃焼器から低酸素濃度ガスを供給して、排気ガス浄化装置の排気ガス浄化能力の回復のための制御では還元雰囲気を形成でき、更に、EGRのための制御では容易に高EGR率を達成できる排気ガス浄化方法及び排気ガス浄化システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するための本発明の排気ガス浄化方法は、内燃機関の排気通路の排気ガスを昇温するための燃焼器を備えた排気ガス浄化システムにおいて、前記燃焼器のガス供給ラインに酸素富化装置を設けて、高酸素濃度ガスと低酸素濃度ガスを選択的に供給するように構成すると共に、排気ガスを昇温させるときに高酸素濃度ガスを前記燃焼器に供給し、排気ガスを昇温させないときに低酸素濃度ガスを前記排気通路に供給し、更に、EGRを行うときにEGRガスに低酸素濃度ガスを加えることを特徴とする方法である。
【0012】
上記の目的を達成するための本発明の排気ガス浄化システムは、内燃機関の排気通路の排気ガスを昇温するための燃焼器を備えた排気ガス浄化システムにおいて、前記燃焼器のガス供給ラインに酸素富化装置を設けて、高酸素濃度ガスと低酸素濃度ガスを選択的に供給するガス供給手段を設けると共に、このガス供給手段が、排気ガスを昇温させるときに高酸素濃度ガスを前記燃焼器に供給し、排気ガスを昇温させないときに低酸素濃度ガスを排気通路に供給し、更に、EGRを行うときにEGRガスに低酸素濃度ガスを加えるように構成される。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る排気ガス浄化方法及び排気ガス浄化システムによれば、排気ガスの昇温時に、高酸素濃度ガスを燃焼器に供給することにより、排気ガスの昇温を促進し、この排気ガスが流入する排気ガス浄化装置の触媒温度が上昇するまでの時間を短縮することができる。これにより、大気からの吸入空気だけを使用する場合よりも短い時間で触媒温度を活性化温度領域まで到達させることができるので、排気ガス浄化装置の下流側へのHC排出量を低減することができる。
【0014】
また、排気ガスの昇温不要時には低酸素濃度ガス(高窒素濃度ガス)を排気通路に供給することにより、排気ガス浄化装置の浄化能力再生のために繰り返し行うリッチ空燃比制御において排気ガス中の未燃炭化水素濃度を高めて、浄化能力の再生を促進することができる。例えば、NOx吸蔵還元型触媒を用いている場合には、定期的に行うNOx吸蔵能力の回復のためのリッチ空燃比制御において、放出されたNOxの還元処理に必要な燃料液滴の微粒化を低酸素濃度のガスで促進することができ、触媒上の酸素を極短時間で消費させて、NOx吸蔵能力を回復することが短時間でできるようになるので、NOx吸蔵及び浄化性能が向上する。
【0015】
更に、内燃機関の筒内(シリンダ内)の燃焼過程で生成するNOxを低減するために行われるEGR(排気再循環)時に、EGRガスに低酸素濃度ガスを加えることにより、EGR率を著しく大きくすることができるので、緩慢な燃焼反応の促進を図ることができ、NOxの発生量を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態の排気ガス浄化システムの構成を示した図である。
【図2】ガス混合式燃料噴射弁の一例を模式的に示した図である。
【図3】窒素酸素分離ユニットにおける高酸素濃度ガス充填時のガスの流れを示した図である。
【図4】窒素酸素分離ユニットにおける低酸素濃度ガス充填時のガスの流れを示した図である。
【図5】高酸素濃度ガスと低酸素濃度ガスの充填制御のための制御フローの一例を示した図である。
【図6】燃焼器におけるアシストガスの切替のための制御フローの一例を示した図である。
【図7】合成ゼオライトの特性を示した平衡等温吸着線図である。
【図8】活性炭を利用した場合のガスの吸着圧力と吸着量との関係を示した図である。
【図9】活性炭を利用した場合のガスの吸着時間と平衡達成率の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る実施の形態の排気ガス浄化方法及び排気ガス浄化システムについて、図面を参照しながら説明する。図1に、本発明の実施の形態の排気ガス浄化システム1の構成を示す。
【0018】
この排気ガス浄化システム1では、エンジン(内燃機関)10の排気通路11に、排気ガス浄化装置12が配設されている。また、この排気ガス浄化装置12の上流側に、燃焼ガスと噴霧燃料を供給できる燃焼器13が配置されている。また、酸素富化システムとして、酸素富化用コンプレッサー20、窒素分離ユニット21、高酸素濃度ガス貯蔵装置22、低酸素濃度ガス貯蔵装置23等が配置されている。
【0019】
排気ガス浄化装置12は、排気ガスG中の有害成分を浄化する触媒を担持したNOx浄化触媒ユニット等の幾つかの排気ガス浄化ユニットの組み合わせで形成される。NOx吸蔵還元型触媒を担持したNOx浄化触媒ユニットを用いる場合には、このNOx浄化触媒ユニットは、排気ガス中のNOxを浄化するために、モノリス触媒で形成される。このモノリス触媒のコージェライトハニカム等の担持体に酸化アルミニウム、酸化チタン等の触媒コート層を設ける。この触媒コート層に、白金(Pt)、パラジウム(Pd)等の触媒金属と、バリウム(Ba)等のNOx吸蔵材(NOx吸蔵物質)とからなるNOx吸蔵還元触媒を担持させて構成される。
【0020】
このNOx吸蔵還元型触媒は、酸素濃度が高い排気ガスの状態、即ち、リーン空燃比状態の時に、排気ガス中のNOxをNOx吸蔵材が吸蔵することにより、排気ガス中のNOxを浄化し、酸素濃度が低いか空燃比が1より小さいリッチ空燃比状態か、あるいは、空燃比が1のストイキ空燃比状態の時に、吸蔵したNOxを放出すると共に、この放出されたNOxを触媒金属の触媒作用により還元することにより、大気中へのNOxの流出を防止する。
【0021】
このNOx吸蔵還元型触媒は、リーン空燃比状態が継続すると、NOx吸蔵材が硝酸塩に変化してしまうため、NOx吸蔵能力が飽和する前に、排気ガスGをリッチ空燃比状態にする再生制御を行って、吸蔵したNOxを放出及び還元して、NOx吸蔵能力を回復している。
【0022】
なお、この実施の形態では、排気ガス浄化装置12としてNOx吸蔵還元型触媒を担持したNOx浄化ユニットを用いた例を示すが、これに限定されず、排気ガスに対する浄化性能を回復するために排気ガスを一時的にリッチ空燃比制御等の空燃比制御を行う必要がある排気ガス浄化装置であればよい。例えば、硫黄被毒を回復する必要がある酸化触媒(DOC)や選択還元型NOx触媒(SCR)や触媒付きフィルタ(CSF)等の排気ガス浄化ユニットであってもよい。
【0023】
燃焼器13は、例えば、図2に示すような外部混合式二流体噴射弁を使用して構成される。この構成では、図1に示すように、インジェクター式燃料噴射部13aと燃料供給用配管13bとガス供給用配管13cとガス切替弁13dと着火装置(図示しない)を有している。燃料供給用配管13bはシリンダ内への燃料供給用配管18と接続している。また、ガス切替弁13dは高酸素濃度ガス供給配管24と低酸素濃度ガス供給配管25aと接続し、ガス供給用配管13cに高濃度酸素ガスA1と低濃度酸素ガスA2との一方を選択して供給できるように構成される。着火装置は、グロープラグ等のヒータ類や着火プラグ等の熱源で形成され、これらは通電により高温となる。
【0024】
この燃焼器13では、インジェクター式燃料噴射部13aの周りに高圧のガス(高酸素濃度ガスA1又は低酸素濃度ガスA2)を噴射させて、このガスと燃料fの液滴との混合ガスを生成する。この混合ガスの生成により、燃料fを燃焼させる場合には着火を促進する。また、未燃燃料の供給の場合は、排気ガス中の燃料fの均等分散を図る。
【0025】
次に、酸素富化システムについて説明する。図1に示すように、酸素富化用コンプレッサー20の入口20aは、流路切替弁26を介して、ターボチャージャ14のコンプレッサーの出口側の吸気通路15の接続部15aに接続されている。また、酸素富化用コンプレッサー20の出口20bは、空気取入配管19に接続されている。
【0026】
窒素分離ユニット21は、図1、図3及び図4に示すように、吸着容器21iに空気取入配管19と、高酸素濃度供給配管21bと低酸素濃度ガス供給配管21cを接続して構成される。空気取入配管19は、酸素富化用コンプレッサー20の出口20bに接続され、流路切替弁21aが配置されている。また、高酸素濃度供給配管21bは吸着容器21iと高酸素濃度ガス貯蔵装置22の貯蔵容器22iの開閉弁22aとの間を接続している。低酸素濃度ガス供給配管21cは吸着容器21iと低酸素濃度ガス貯蔵装置23の貯蔵容器23iの開閉弁23aとの間を接続し、減圧ポンプ21eが配置されている。また、吸着容器21iに冷却水Wを流して冷却するための冷却水用配管21fが接続されている。
【0027】
高酸素濃度ガス貯蔵装置22では、貯蔵容器22iに開閉弁22a,22b,22c,第1酸素濃度センサ22d及び第1圧力サンサ22eが設けられている。更に、低酸素濃度ガス貯蔵装置23では、貯蔵容器23iに開閉弁23a,23b,23c,第2酸素濃度センサ23d及び第2圧力センサ23eが設けられている。
【0028】
そして、これらの配置関係をまとめると、酸素富化用コンプレッサー20が空気取入配管19により窒素分離ユニット21の吸着容器21iに流路切替弁21aを介して接続される。また、この窒素分離ユニット21が、高酸素濃度ガス供給配管21bにより高酸素濃度ガス貯蔵装置22の貯蔵容器22iに開閉弁22aを介して接続されると共に、低酸素濃度ガス供給配管21cにより低酸素濃度ガス貯蔵装置23の貯蔵容器23iに減圧ポンプ21eと開閉弁23aを介して接続される。
【0029】
更に、高酸素濃度ガス貯蔵装置22の貯蔵容器22iが開閉弁22cに接続される高酸素濃度ガス供給配管24により、燃焼器13のガス切替弁13dに接続され、低酸素濃度ガス貯蔵装置23の貯蔵容器23iも開閉弁23cを介して低酸素濃度ガス供給配管25aによりガス切替弁13dに接続される。
【0030】
また、低酸素濃度ガス供給配管25bにより、低酸素濃度ガス貯蔵装置23の開閉弁23bと流路切替弁26とを接続し、ターボチャージャ14のコンプレッサーの出口側の吸気通路15に余剰の低酸素濃度ガスA2を放出できるようにする。更に、この低酸素濃度ガス供給配管25bの分岐配管27をEGR通路16のEGR弁17に接続し、EGRの時に低酸素濃度ガスA2を供給できるように構成する。
【0031】
次に、窒素分離ユニット21における酸素富化について説明する。窒素分離ユニット21では、酸素富化のために合成ゼオライトや分子ふるい活性炭を用いる。
【0032】
合成ゼオライトを用いる場合には細孔径が0.0005μm〜0.001μm程度であり、図7に示すように、電気的に極性を持つ窒素が選択的に吸着され、この傾向は高圧ほど大きくなる。そこで大気圧から3気圧程度に加圧する動作を繰り返しながら、処理ガスAを冷却して常温付近の温度に保持すれば、窒素と酸素に分離できる。この間に生成されたガスA1,A2をそれぞれ貯蔵容器22i,23iに加圧して冷却貯蔵する。この場合には、加圧しながら吸着させる過程で窒素を選択的に吸着させることで、吸着されずに残った酸素を得ると共に、加圧状態から元の圧力に戻する減圧処理で窒素を得る。
【0033】
この合成ゼオライトを用いる窒素分離ユニット21では、高酸素濃度ガス充填時は、流路切替弁21aを切り替えて、酸素富化用コンプレッサー20の空気Aを取り入れて、窒素吸着体を充填した吸着容器21i内で加圧して、窒素吸収体に窒素を吸着させて、ガスの酸素濃度を95%程度に高めて、この高酸素濃度ガスA1を高酸素濃度ガス貯蔵装置22の貯蔵容器22iに供給して貯蔵する。
【0034】
一方、必要な高酸素濃度ガス量を確保するために、再度、酸素分離処理を行う必要がある。この前処理として既に吸着している窒素を脱離・放出する減圧処理を、減圧ポンプ21eを用いて行う。この過程で放出される窒素に富む低酸素濃度ガスA2を低酸素濃度ガス貯蔵装置23の貯蔵容器23i内に供給し減圧して充填する。
【0035】
この合成ゼオライトを用いる方法では、窒素を高圧(例えば、180kPa)で吸着させるために、吸着容器21i内の圧力を高める加圧工程と、窒素の吸着により、空気中から酸素を選別し、高酸素濃度を得るための高圧維持工程と、窒素の吸着が飽和状態に至って、酸素の選別能力が低下するのを防止するために吸着容器21i内の圧力を低圧(例えば、48kPa)にして、吸着した窒素を窒素吸着体から放出させる減圧工程と、吸着させた窒素を十分に放出させるために、吸着容器21iの圧力を低圧状態に維持する低圧維持工程とを繰り返し行う。
【0036】
また、分子ふるい活性炭を用いる場合では、図8に示すように、吸着圧力による窒素に対する選択的吸着を期待できないが、図9に示すように、窒素と酸素では吸着速度に大きな差があり、この吸着速度は圧力に依存する。そこで、大気圧から3気圧程度に加圧する動作を繰り返しながら、処理ガスAを冷却して常温付近の温度に保持すれば、窒素と酸素に分離できる。この間に生成されたガスA1,A2をそれぞれ貯蔵容器22i,23iに加圧して冷却貯蔵する。この場合には、一定圧力下の吸着過程で、吸着速度の早い酸素を吸着させて窒素を分離し、この後で行う減圧処理で酸素を放出して酸素を得る。
【0037】
この分子ふるい活性炭を用いる窒素分離ユニット21では、低酸素濃度ガス充填時は、流路切替弁21aを切り替えて、酸素富化用コンプレッサー20の空気Aを取り入れて、酸素吸着体(活性炭)を充填した吸着容器21i内で加圧して、酸素吸収体に酸素を吸着させて、ガスの酸素濃度を95%程度に低めて、この低酸素濃度ガスA2を低酸素濃度ガス貯蔵装置23の貯蔵容器23iに供給して貯蔵する。
【0038】
一方、必要な低酸素濃度ガス量を確保するために、再度、窒素分離処理を行う必要がある。この前処理として既に吸着している酸素を脱離・放出する減圧処理を、減圧ポンプを用いて行う。なお、この場合には、減圧ポンプ21eは高酸素濃度ガス供給配管21bではなく低酸素濃度ガス供給配管21cに配置される。この減圧過程で放出される酸素に富む高酸素濃度ガスA1を高酸素濃度ガス貯蔵装置22の貯蔵容器22i内に供給し減圧して充填する。
【0039】
この分子ふるい活性炭を用いる方法では、酸素を高圧(例えば、690kPa)で吸着させるために、吸着容器21i内の圧力を高める加圧工程と、酸素の吸着により、空気中から窒素を選別し、低酸素濃度を得るための高圧維持工程と、酸素の吸着が飽和状態に至って、窒素の選別能力が低下するのを防止するために吸着容器21i内の圧力を低圧(例えば、48kPa)にして、吸着した酸素を酸素吸着体から放出させる減圧工程と、吸着させた酸素を十分に放出させるために、吸着容器21iの圧力を低圧状態に維持する低圧維持工程とを繰り返し行う。
【0040】
以下では、説明の煩雑さをさけるために、合成ゼオライトを用いる場合について説明する。なお、分子ふるい活性炭を用いる場合には、「窒素」と「酸素」を入れ替え、「高酸素濃度」と「低酸素濃度」を入れ替えればよい。
【0041】
つまり、窒素分離ユニット21における酸素富化においては、エンジンが吸入する空気Aは窒素と酸素を含み、これに微量のアルゴンを含む構成となっているので、空気A中で約21%の体積濃度を占める酸素を窒素やアルゴンと分離する。分離した酸素を一定圧力の状態で貯蔵する低圧の吸着容器(タンク)21iを配置し、必要値まで圧力が上昇したら酸素の分離動作を停止する。この過程で排出される窒素が多い低酸素濃度ガスA2も高酸素濃度ガス貯蔵装置22とは別置きの低酸素濃度ガス貯蔵装置23に貯蔵する。この低酸素濃度ガスA2も必要圧力値までの貯蔵とし、酸素分離過程で生成される不要な低酸素濃度ガスA2は、流路切替弁21aの切替により配管21dから大気中へ排出する。
【0042】
次に、各弁の弁操作について説明する。高酸素濃度ガスの充填時には、開閉弁22aが開弁され、その他の開閉弁22b,22c,23a,23b,23cが閉弁される。流路切替弁21aはガス供給配管19と窒素分離ユニット21の吸着容器21iを連通させるように弁操作される。また、流路切替弁26はコンプレッサーの入口15aから空気を吸引するように弁操作される。なお、貯蔵容器22iの圧力が大きくなったときに、開閉弁22bを開弁して高酸素濃度ガスA1を外に排出して高酸素濃度ガスA1の充填圧力を調整できるようにする。
【0043】
また、低酸素濃度ガスの充填時には、開閉弁23aが開弁され、その他の開閉弁22a,22b,22c,23b,23cが閉弁される。流路切替弁21aは 大気に開放された配管21dと窒素分離ユニット21の吸着容器21iを連通させるように弁操作される。また、流路切替弁26はコンプレッサーの入口15aと低酸素ガス貯蔵装置23とが連通するように弁操作される。なお、貯蔵容器23iの圧力が大きくなったときに、開閉弁23bを開弁して低酸素濃度ガスA2を吸気通路15に排出して低酸素濃度ガスA2の充填圧力を調整できるようにする。
【0044】
次に、高酸素濃度ガスA1と低酸素濃度ガスA2との充填時の制御について、図5の制御フローを参照しながら説明する。この制御フローでは、上級の制御フローから呼ばれてスタートすると、ステップS11でエンジン10の稼動を確認する。エンジン10が稼動されていない場合は、ステップ12の処理停止に行き、各開閉弁を停止状態に合った状態に制御してから、リターンに行き、制御を終了する。
【0045】
また、ステップS11でエンジン10の稼動が確認されると、ステップS13で高酸素濃度ガス充填処理を行う。次のステップS14で高酸素濃度ガス貯蔵装置22の貯蔵容器22iの第1圧力センサ22cで検出された第1圧力Poが予め設定された第1上限圧力Pfoを超えたか否かを判定する。
【0046】
ステップS14の判定で第1圧力Poが第1上限圧力Pfoを超えていない場合には(NO)には、超えるまで、ステップS13に戻り高酸素濃度ガス充填処理を繰り返し行う。ステップS14の判定で第1圧力Poが第1上限圧力Pfoを超えた場合には(YES)には、ステップS15に行き、高酸素濃度ガス貯蔵装置22の貯蔵容器22iの第1酸素濃度センサ22dで検出された第1酸素濃度Coが予め設定された第1酸素濃度Cfo(例えば、95%に設定される)を超えたか否かを判定する。
【0047】
このステップS15の判定で、第1酸素濃度Coが第1酸素濃度Cfoを超えていない場合には(NO)、超えるまで、ステップS13に戻り高酸素濃度ガス充填処理を繰り返し行う。高酸素濃度ガス貯蔵装置22の貯蔵容器22iの圧力が大きくなると、貯蔵していた高酸素濃度ガスA1は安全弁としての開閉弁22bから放出され、新しい高酸素濃度ガスA1が供給されて、高酸素濃度ガス貯蔵装置22の貯蔵容器22i内の高酸素濃度ガスA1の酸素濃度が高められる。
【0048】
また、ステップS15の判定で、第1酸素濃度Coが第1酸素濃度Cfoを超えた場合場合には(YES)、ステップS16に行き、低酸素濃度ガス充填処理を行う。次のステップS17で低酸素濃度ガス貯蔵装置23の貯蔵容器23iの第2圧力センサ23eで検出された第2圧力Pnが、予め設定された第2上限圧力Pfnを超えたか否かを判定する。
【0049】
ステップS17の判定で第2圧力Pnが第2上限圧力Pfnを超えていない場合には(NO)には、超えるまで、ステップS16に戻り低酸素濃度ガス充填処理を繰り返し行う。ステップS17の判定で第2圧力Pnが第2上限圧力Pfnを超えた場合には(YES)には、ステップS18に行き、低酸素濃度ガス貯蔵装置23の貯蔵容器23iの第2酸素濃度センサ23dで検出された第2酸素濃度Cnが予め設定された第2酸素濃度Cfn(例えば、5%に設定される)より低くなったか否かを判定する。
【0050】
このステップS18の判定で、第2酸素濃度Cnが第2酸素濃度Cfnを超えていない場合には(NO)、超えるまで、ステップS16に戻り低酸素濃度ガス充填処理を繰り返し行う。低酸素濃度ガス貯蔵装置23の貯蔵容器23iの圧力が大きくなると、貯蔵していた低酸素濃度ガスA2は安全弁としての開閉弁23bから放出され、新しい低酸素濃度ガスA2が供給されて、低酸素濃度ガス貯蔵装置23の貯蔵容器23i内の低酸素濃度ガスA2の酸素濃度が低められる。
【0051】
そして、ステップS18の判定で、第2酸素濃度Cnが第2酸素濃度Cfnを超えている場合には(YES)、ステップS11に戻り、ステップS11〜ステップS18を繰り返す。なお、各ステップの途中でエンジンの稼動が停止されると、割り込みの発生により、ステップ12の処理停止に行き、各開閉弁を停止状態に合った状態に制御してから、リターンに行き、制御を終了する。
【0052】
次に、上記の排気ガス浄化システム1における排気ガス浄化方法について説明する。この排気ガス浄化方法においては、エンジン始動直後では、燃焼器13に供給した燃料fを燃焼させるために着火装置に通電して加熱すると共に、高圧ガスとして高濃度酸素ガスA1を使用して、高濃度の酸素により酸化反応速度を高め、燃料の着火を促進する。これにより、排気ガス浄化装置13の触媒の温度を排気ガス浄化反応に十分な活性化温度領域に迅速に到達させることができる。その結果、暖機のための燃料が少なくて済むと共に、短時間で排気ガス浄化能力を発揮できるようになるので排気ガス浄化性能が向上する。
【0053】
一方、エンジンが暖機し、排気ガス浄化装置13の触媒も活性化温度以上に昇温しており、燃焼器13を使用した排気ガス昇温処理が不要な温度領域では、即ち、燃焼器13からの酸化反応熱を必要としない温度領域では、高酸素濃度ガスA1の供給を低酸素濃度ガスA2の供給へと切り替えて、低酸素濃度ガスA2の供給を排気ガス浄化装置12の状態に応じて行う。例えば、この低酸素濃度ガスA2の供給により、排気ガス浄化装置12のNOx吸蔵還元型触媒のNOx再生制御の場合のリッチ空燃比制御を行う。この低酸素濃度ガスA2を使用することにより、燃費の悪化を回避しながら、排気ガス中の酸素濃度を低くして、排気ガスをリッチ状態(低酸素状態)とする。これにより、触媒においては還元雰囲気とすることができ、効率よくNOx吸蔵能力を回復することができる。
【0054】
このガスA1,A2の切替は、例えば、図6に示すような制御フローに基づいて行われる。この図6の制御フローが上級の制御フローから呼ばれてスタートすると、ステップS21でエンジンの稼動を確認する。エンジンが稼動されていない場合は、ステップ22の処理停止に行き、各開閉弁を停止状態に合った状態に制御してから、リターンに行き、制御を終了する。
【0055】
また、ステップS21でエンジンの稼動が確認されると、ステップS23で、ガス供給の開始信号を受けているか否かを判定する。ガス供給の開始信号を受け取っていない場合には、予め設定された時間(開始信号の受信の判定のインターバルに関係する時間)を経過した後、ステップS23に戻る。
【0056】
ステップS23でガス供給の開始信号を受けていると判定されると、次のステップS24で排気ガス浄化装置12の入口に設けた入口側温度センサ12aで検出された入口排気ガス温度Tbが予め設定された温度閾値Tfより低いか否かを判定する。
【0057】
ステップS24の判定で入口排気ガス温度Tbが温度閾値Tfより低い場合には(YES)には、ステップS25で、高酸素濃度ガスA1の供給を行い、入口排気ガス温度Tbが温度閾値Tf以上の場合には(NO)には、ステップS26で、低高酸素濃度ガスA2の供給を行う。これらのガスA1,A2の供給は、供給の停止信号を受けるまで行い、受けるとステップS26のガス供給の停止に行く。
【0058】
ステップS26でガス供給を停止した後、ステップS21に戻り、ステップS21〜ステップS26を繰り返す。なお、各ステップの途中でエンジンの稼動が停止されると、割り込みの発生により、ステップ22の処理停止に行き、各開閉弁を停止状態に合った状態に制御してから、リターンに行き、制御を終了する。
【0059】
次に、EGR時の低酸素濃度ガス供給について説明する。エンジンのシリンダ内の燃焼過程で生成するNOxを低減するために行われるEGR時には、低酸素濃度ガス貯蔵装置23の開閉弁23bから低酸素濃度ガス供給配管25bと分岐管27経由で、EGR弁17に低酸素濃度ガスA2を供給することにより、シリンダ内の酸素濃度を新気AとEGRガスGeの場合に較べて、酸素濃度を低くしてEGR率を大きくすることができる。シリンダ内の燃焼反応を緩慢な燃焼反応にすることができ、NOxの発生量を低減できる。
【0060】
上記の排気ガス浄化方法及び排気ガス浄化システム1によれば、エンジンの始動時等の排気ガスの昇温が必要な時には、高酸素濃度ガスA1を燃焼器13に供給することにより、排気ガスの昇温を促進し、この排気ガスが流入する排気ガス浄化装置12の触媒温度の活性化温度領域までの上昇時間を短縮することができる。これにより、エンジン始動時の未燃HCの排気ガス浄化装置13の下流側への排出量を減少できると共に、排気ガス浄化装置13の排気ガス浄化能力を短時間で上昇させることができるので、全体的に見た排気ガス浄化性能を向上させることができる。
【0061】
また、排気ガスの昇温不要時には低酸素濃度ガスA2を排気通路11に供給することにより、排気ガス浄化装置12の浄化能力再生のために繰り返し行うリッチ空燃比制御において排気ガス中の未燃HC濃度を高めて、浄化能力の再生を促進することができる。例えば、NOx吸蔵還元型触媒を用いている場合には、定期的に行うNOx吸蔵能力の回復のためのリッチ空燃比制御において、放出されたNOxの還元処理に必要な燃料の微粒化を低酸素濃度ガスA2で促進することができ、触媒上の酸素を極短時間で消費させて、還元雰囲気にしてNOx吸蔵能力を回復することが短時間でできるようになるので、NOx吸蔵及び浄化性能が向上する。
【0062】
更に、エンジンのシリンダ内の燃焼過程で生成するNOxを低減するために行われるEGR時に、EGRガスGeに低酸素濃度ガスA2を加えることにより、EGR率を著しく大きくすることができるので、シリンダ内において緩慢な燃焼反応の促進を図ることができ、NOxの発生量を低減できる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の排気ガス浄化方法及び排気ガス浄化システムは、排気ガスの昇温時の排気ガスの昇温の促進効果により、短時間での触媒温度の活性化温度領域への到達で、排気ガス浄化装置の下流側へのHC排出量を低減することができる。また、排気ガスの昇温不要時には、低酸素濃度ガス(高窒素濃度ガス)の排気通路への供給で、排気ガス浄化装置の浄化能力再生のためのリッチ空燃比制御における排気ガス中の未燃炭化水素濃度を高めて、浄化能力の再生を促進することができる。更に、EGR時に、EGRガスへの低酸素濃度ガスの付加により、EGR率を著しく大きくすることができ、NOxの発生量を低減できる。
【0064】
従って、本発明の排気ガス浄化方法及び排気ガス浄化システムは、自動車に搭載するの内燃機関等の排気通路における排気ガス浄化方法及び排気ガス浄化システムとして利用できる。
【符号の説明】
【0065】
1 排気ガス浄化システム
10 エンジン(内燃機関)
11 排気通路
12 排気ガス浄化装置
13 燃焼器
13c ガス供給用配管
13d ガス切替弁
16 EGR通路
17 EGR弁
19 ガス供給配管
20 酸素富化用コンプレッサー
21 窒素分離ユニット
21b 高酸素濃度ガス供給配管
21c 低酸素濃度ガス供給配管
22 高酸素濃度ガス貯蔵装置
22i 貯蔵容器
22d 第1酸素濃度センサ
22e 第1圧力サンサ
23 低酸素濃度ガス貯蔵装置
23i 貯蔵容器
23d 第2酸素濃度センサ
23e 第2圧力センサ
24 高酸素濃度ガス供給配管
25a,25b 低酸素濃度ガス供給配管
26 流路切替弁
A 空気(新気)
A1 高濃度酸素ガス
A2 低濃度酸素ガス
Cfo 第1酸素濃度
Cfn 第2酸素濃度
Cn 第2酸素濃度
Co 第1酸素濃度
f 燃料
G 排気ガス
Ge EGRガス
Pfn 第2上限圧力
Po 第1圧力
Pfo 第1上限圧力
Pn 第2圧力
Tb 入口排気ガス温度
Tf 温度閾値
W 冷却水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路の排気ガスを昇温するための燃焼器を備えた排気ガス浄化システムにおいて、前記燃焼器のガス供給ラインに酸素富化装置を設けて、高酸素濃度ガスと低酸素濃度ガスを選択的に供給するように構成すると共に、排気ガスを昇温させるときに高酸素濃度ガスを前記燃焼器に供給し、排気ガスを昇温させないときに低酸素濃度ガスを前記排気通路に供給し、更に、EGRを行うときにEGRガスに低酸素濃度ガスを加えることを特徴とする排気ガス浄化方法。
【請求項2】
内燃機関の排気通路の排気ガスを昇温するための燃焼器を備えた排気ガス浄化システムにおいて、前記燃焼器のガス供給ラインに酸素富化装置を設けて、高酸素濃度ガスと低酸素濃度ガスを選択的に供給するガス供給手段を設けると共に、このガス供給手段が、排気ガスを昇温させるときに高酸素濃度ガスを前記燃焼器に供給し、排気ガスを昇温させないときに低酸素濃度ガスを排気通路に供給し、更に、EGRを行うときにEGRガスに低酸素濃度ガスを加えることを特徴とする排気ガス浄化システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−168927(P2010−168927A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−10226(P2009−10226)
【出願日】平成21年1月20日(2009.1.20)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】