説明

排気ガス浄化材および排気ガス浄化用フィルター

【課題】ディーゼルエンジン排気ガス中に含まれる硫黄による被毒を浄化触媒成分が受け難く、低温でPMを燃焼させることのできる排気ガス浄化材および排気ガス浄化用フィルターを提供すること。
【解決手段】ディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる粒子状物質を燃焼除去する排気ガス浄化材であって、浄化触媒成分と共存物質とを有し、前記浄化触媒成分は、前記粒子状物質を燃焼除去する触媒成分であり、前記共存物質は前記排気ガス中に含まれる含硫黄酸性ガスを、前記浄化触媒成分よりも吸着し、且つ、前記排気ガス温度が上昇したとき、および/または、前記排気ガス中の一酸化炭素や炭化水素成分の濃度が高くなったとき、前記吸着した含硫黄酸性ガスを脱離し、および/または、前記触媒へ吸着した含硫黄酸性ガスの脱離を促進する排気ガス浄化材を発明した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ガス浄化材および排気ガス浄化用フィルターに係り、さらに詳細には、自動車用途を始めとしたディーゼル機関から排出される粒子状物質(以降、PMと記載する場合がある。)を燃焼除去するための排気ガス浄化材、および当該触媒を用いたディーゼル機関の排気ガス浄化用フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼル機関であるディーゼルエンジンの排気ガスには、各種の有害物質が含まれている。近年は、当該有害物質中でも、窒素酸化物(NO)とPMとが問題になっている。このうちPMはカーボンを主体とする微粒子である。そして、当該PMの除去方法として、排気ガス流路にディーゼル・パーティキュレート・フィルター(以降DPFと称する)を設置して、PMを機械的にトラップする方法が一般化されつつある。そして、当該DPFにトラップされたPMが所定以上の量となった場合は、当該PMを、間欠的または連続的に燃焼してガス化することでDPFから除くことにより当該DPFを再生する。
【0003】
このDPF再生処理には、排気ガスの温度以上の温度が必要である。そこで、(1)電気ヒーターやバーナー等を用いて外部加熱によりPMを燃焼させる方法、(2)DPFから向かってエンジン側に酸化触媒を設置し、排気ガス中のNOを、当該酸化触媒によりNOに酸化し、当該NOの酸化力によりPMを燃焼させる方法、(3)DPFにNOx吸蔵触媒を共存させ、排気ガス中の空燃比変動に伴う、当該NOx吸蔵触媒からのNOx吸放出の際生じる活性酸素によりPMを燃焼させる方法、などが提案されている。
【0004】
上記(1)で説明した、電気ヒーターやバーナー等を用いる外部加熱方式は、当該加熱システムと加熱エネルギーとを、別途準備する必要があり、DPF再生システムおよび再生操作が煩雑化するという問題があった。
【0005】
上記(2)で説明した、酸化触媒を用いる方式は、排気ガス温度が低いため酸化触媒の活性を保つのが困難である。その為、ある一定の運転状況下でなければ、NOを酸化してPM燃焼に必要な量のNOを排気ガス中に確保できないという問題があった。また、今後NOxに対する排出ガス規制強化により排気ガス中のNOxは削減され、十分なNOが得られないという問題も予測される。
【0006】
上記(3)で説明した、NOx吸蔵触媒を共存させる方法は、排気ガス中に含まれる硫黄により当該NOx吸蔵触媒が被毒し、NOx吸蔵放出能が低下することによりPM燃焼活性の低下などの問題があった。
【0007】
上述のような問題を踏まえ、DPFに、硫黄などの被毒性物質に対して耐久性のある触媒を担持し、その触媒の作用によりPMの燃焼開始温度を低下させ、現状の排気ガス温度にて連続的にPMを燃焼させる方式が考えられている。
【0008】
当該方式の具体例として、非特許文献1には硫黄の吸着材と触媒を組み合わせたシステムが開示されている。当該システムは、アルカリ金属元素を硫黄の吸着材として用い、当該アルカリ金属元素が排気ガス中の硫黄成分を吸着し、触媒へは硫黄を流さないこととしたものである。
【0009】
【非特許文献1】SpecPubl Soc Automot Eng(2007)、No.SP−2080、85−91
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
当該硫黄の吸着材と触媒を組み合わせたシステムでは、吸着材に硫黄が吸着される間は触媒の硫黄による被毒劣化を抑制できる。しかし、当該吸着材の吸着許容量以上の硫黄が流れると、これらの硫黄は触媒とも吸着する。その結果、当該触媒が硫黄被毒して触媒活性能が低化し、PM燃焼温度が上昇することがあった。
【0011】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ディーゼルエンジン排気ガス中に含まれる硫黄による被毒を浄化触媒成分が受け難く、低温でPMを燃焼させることのできる排気ガス浄化材および排気ガス浄化用フィルターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、排気ガス浄化材を、浄化触媒成分と共存物質との混合系にする構成、当該共存物質の触媒成分に付着した硫黄分と含硫黄酸性ガスに対する親和性を、浄化触媒成分の該親和性よりも高くする構成により、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、上述の課題を解決するための第1の発明は、
ディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる粒子状物質の燃焼温度を低下させる排気ガス浄化材であって、
前記粒子状物質の燃焼温度を低下させる触媒作用を有する浄化触媒成分と、
含硫黄酸性ガスの被毒で低下した前記触媒作用を回復させる共存物質を含み、前記浄化触媒成分と前記共存物質が同じ大きさである排気ガス浄化材である。
【0014】
第2の発明は、
上記排気ガス浄化材がエンジン側の内壁に配置された排気ガス浄化用フィルターである。
【0015】
第2の発明の第2の局面は、
上記排気ガス浄化材に加え、さらに、白金族元素から選択される少なくとも1種以上の元素からなる白金系触媒を前記排気ガス浄化材より大気開放側に配置した排気ガス浄化用フィルターである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、浄化触媒成分と共存物質とを用いることとしたため、当該共存物質に優先的に含硫黄酸性ガスを吸着させることができ、さらに、浄化触媒成分に吸着した含硫黄酸性ガスの脱離を促進させ得る。この結果、浄化触媒成分が、ディーゼルエンジン排気ガス中に含まれる硫黄による被毒を受け難なり、PM燃焼温度の上昇を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係る、排気ガス浄化材は、浄化触媒成分と共存物質とを有する。当該浄化触媒成分は、PMの燃焼温度を低下させる触媒成分である。一方、当該共存物質は、前記排気ガス中に含まれる含硫黄酸性ガスによる被毒によって触媒作用を低下させた浄化触媒成分に対して、その触媒作用を回復させることのできる物質である。より具体的には、前記排気ガス中に含まれる含硫黄酸性ガスを、前記浄化触媒成分よりも吸着する物質である。
【0018】
さらに当該共存物質は、排気ガス温度が上昇したとき、排気ガス中の一酸化炭素や炭化水素成分の濃度が高くなったとき、のいずれか一方または両方が発現したタイミングで、前記吸着した含硫黄酸性ガスを脱離する、または、前記触媒へ吸着した含硫黄酸性ガスの脱離を促進する、のいずれか一方または両方を実現しうる物質である。
【0019】
上述したように、現状の燃料中にはppmオーダーと微量ではあるが硫黄分が含まれているため、ディーゼルエンジンの排気ガス中には、含硫黄酸性ガスが含まれることは避けられない。この為、排気ガス浄化材は絶えず含硫黄酸性ガスに曝され、排気ガス浄化材に含まれる浄化触媒成分も含硫黄酸性ガスに曝されるため、硫黄による被毒が起こり、触媒活性が低下してしまう。この結果、PMの燃焼温度が上昇してしまい、DPFにPMが滞留する。
【0020】
ところが、本発明に係る排気ガス浄化材においては、浄化触媒成分と共存している共存物質が、該浄化触媒成分よりも含硫黄酸性ガスに対して高い親和性を有する。この高い親和性により、共存物質は、ディーゼルエンジン排気ガス中の含硫黄酸性ガスを、浄化触媒成分に先駆けて吸着するため、浄化触媒成分の被毒が大幅に抑制され、触媒作用の低下を防ぐことができる。これにより、排気ガス中の粒子状物質の燃焼温度を継続して低下させることができる。
【0021】
次に、排気ガス温度の上昇時、排気ガス中の一酸化炭素や炭化水素成分の濃度上昇時、これらの上昇が同時に起こったときに、共存物質は、自身に吸着した含硫黄酸性ガスを脱離させると同時に、浄化触媒成分に吸着した含硫黄酸性ガスをも脱離させる作用を発揮する。そのため、浄化触媒成分の触媒作用を回復させることができる。
【0022】
尚、「含硫黄酸性ガス」とは、例えば、チオフェン類、ベンゾチオフェン類、ジベンゾチオフェン類、t−ブチルメルカプタン等のチオール類、ジメチルスルフィド等のチオエーテル類、硫化カルボニル(COS)等が挙げられる。また、ディーゼル燃料中に存在する4−メチルディベンゾチオフェン(MDBT)や、4,6−ジメチルディベンゾチオフェン(DMDBT)等の難脱硫化合物に由来するガスも含むものである。
【0023】
また、本明細書と特許請求の範囲を通じて、浄化触媒成分がPMの燃焼温度を低下させることのできる能力を触媒作用若しくは触媒活性と呼ぶ。
【0024】
以下、発明を実施するための最良の形態について、1.本発明に係る排気ガス浄化材の物質的構造について、2.本発明に係る排気ガス浄化材における浄化触媒成分と共存物質について、3.本発明に係る排気ガス浄化材の作用について、4.本発明に係る浄化触媒成分、共存物質の製造方法、5.本発明に係る浄化触媒成分、共存物質の評価方法、の順で詳細に説明する。
【0025】
1.本発明に係る排気ガス浄化材の物質的構造について
〔共存物質〕
浄化触媒成分と共存させて用いる前記共存物質は、代表的には、アルカリ金属、アルカリ土類金属の少なくとも一つと、酸性元素、両性元素の少なくとも一つとを含む複合酸化物で構成できる。
【0026】
ここで、アルカリ金属としては、カリウム、セシウムのいずれか一方または双方を用いることが好ましい。アルカリ土類金属元素としては、バリウム、ストロンチウム、カルシウムまたはマグネシウム、およびこれらの任意の組合せに係るものを用いることが好ましく、さらにはストロンチウム、バリウムのいずれか一方またはこれらの混合物がより好ましい。
【0027】
一方、酸性元素としては、ビスマスを用いるのが好ましい。また、両性元素としては、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、ガリウム、インジウムまたはスズ、およびこれらを任意の組合せに係るものを用いることが好ましく、更にはジルコニウム、アルミニウムのいずれか一方またはこれらの混合物がより好ましい。
【0028】
また、共存物質を構成するアルカリ金属、アルカリ土類金属の少なくとも一つ(これをA元素と記載する。)と、酸性元素、両性元素の少なくとも一つ(これをB元素と記載する。)は、一般式:A(1−x)δで表記される複合酸化物を形成していることが好ましい。
【0029】
アルカリ、アルカリ土類金属元素と酸性元素または両性元素のモル比率を示すxは0<x≦0.9が好ましく、0<x≦0.8であることがさらに好ましい。δは種々の複合酸化物に適した任意の数(0<δ<10)である。
【0030】
共存物質が、例えば、アルカリ金属やアルカリ土類金属の酸化物である場合、当該酸化物の含硫黄酸性ガスへの親和性は強い。その結果、含硫黄酸性ガスが、一旦吸着すると、その吸着結合力が強く、当該含硫黄酸性ガスの脱離は困難な状況になる。このような状況下で、吸着許容量を超える含硫黄酸性ガスが流れると、含硫黄酸性ガスの吸着能が大幅に低下することが懸念される。これに対して、B元素を存在させる(0<xである)ことにより、当該酸化物へ一旦、含硫黄酸性ガスが吸着しても、含硫黄酸性ガスを容易に脱離できる。
【0031】
一方、B元素の存在により、共存物質の含硫黄酸性ガスとの親和性は弱まり易い。従って、B元素の比率が過剰になると、共存物質は含硫黄酸性ガスを吸着しなくなる。そこで、B元素の存在比率をx≦0.9とすることがよい。B元素の比率がこの条件であれば、共存物質は、含硫黄酸化ガスの吸着能を有し、かつ吸着した含硫黄酸性ガスを脱離させることもできる。即ち、0<x≦0.9のとき、共存物質の含硫黄酸酸性ガスに対する親和性が適度なものとなる。
【0032】
さらに、共存物質を構成する各元素の組み合わせの中でも、A元素がBaでB元素がBiのとき、A元素がSrでB元素がBiのとき、A元素がSrでB元素がZrのとき、特に共存物質の含硫黄酸酸性ガスに対する親和性が適度なものとなることが判明した。
【0033】
この結果、前記共存物質は、含硫黄酸性ガスとの適度な親和性により適度な結合力を生じる。この適度な結合力のため、共存物質に吸着した含硫黄酸性ガスは、排気ガス温度の上昇時、排気ガス中の一酸化炭素や炭化水素成分の濃度上昇時、これらの上昇が同時に起こったときには、当該共存物質からの脱離が可能となる。
【0034】
〔浄化触媒成分〕
浄化触媒成分は、ペロブスカイト、スピネル、コランダム、ホタル石から選択されるいずれかの結晶構造を有する酸化物が好ましい。
【0035】
酸化物触媒を用いてディーゼルエンジンから排出されるPMの燃焼温度を低下させるとき、当該酸化物触媒は、自身の結晶中に含まれる酸素を放出し、その放出された酸素がPMを燃焼すると考えられる。このような機構で触媒作用を発揮する酸化物触媒は、その触媒の能力が結晶構造に起因することが多い。
【0036】
上述した結晶構造の中でもホタル石型構造をとり、特に、セリウムを主とする酸化物が好ましい。酸化セリウムは、三元触媒に用いられる酸素吸放出能に優れた物質であることが一般的に知られており、排気ガス組成の酸化性成分と還元性成分の化学量論比からはずれた場合、酸素を吸蔵または放出する。セリウムと価数の異なる元素を置換した場合、この酸素吸放出能は増加するため、1種あるいは2種以上の元素で置換した酸化セリウムが浄化触媒成分としてより好ましい。
【0037】
2.本発明に係る排気ガス浄化材における浄化触媒成分と共存物質について
〔浄化触媒成分と共存物質との存在比率〕
排気ガス浄化材に占める共存物質の比率は、5〜50質量%の範囲において効果があり、さらに好ましくは5〜40質量%である。
【0038】
共存物質の比率が5質量%以上であれば、含硫黄酸性ガスによる浄化触媒成分の被毒を抑制することができる。さらに、排気ガス温度の上昇や、排気ガス中の一酸化炭素や炭化水素成分の濃度上昇のタイミング以前に、共存物質が吸着する含硫黄酸性ガスの許容範囲を超えてしまう事態を、回避することができる。
【0039】
一方、共存物質の比率が50質量%以下であれば、排気ガス浄化材に占める浄化触媒成分の割合を確保できるので、十分にPMを燃焼する触媒活性が得られる。ただし、排気ガス浄化材に占める共存物質の比率は、使用する排気システムや構成に依存する場合もあり、これに限定されるものではない。
【0040】
〔浄化触媒成分と共存物質との共存形態〕
排気ガス浄化材における、浄化触媒成分と共存物質との共存形態としては、以下のような形態が好ましく適用できる。
(1)浄化触媒成分と共存物質とをそれぞれ粉体化し、当該両粉体同士が隣接する状態に混合する。このとき両粉体同士は化合しておらず、また両粉体同士には隙間があってよい。
(2)浄化触媒成分に共存物質を担持させる。
(3)共存物質に浄化触媒成分を担持させる。
(4)DPFに浄化触媒成分と共存物質とをコートする際、浄化触媒成分と共存物質との混合スラリーをコートする。
(5)DPFに浄化触媒成分と共存物質とをコートする際、まず浄化触媒成分をコートし、次に、共存物質をコートする。
(6)DPFに浄化触媒成分と共存物質とをコートする際、まず共存物質をコートし、次に、浄化触媒成分をコートする。
【0041】
〔浄化成分と共存物質との混合粉体特性〕
排気ガス浄化材における、浄化触媒成分と共存物質との混合粉体特性としては、BET法による比表面積が10〜100m/gであることが好ましい。比表面積が10m/g未満であると触媒活性が低くなりやすく、100m/gを超えると再生時の温度上昇により熱劣化し触媒活性が低下しやすい。また、粒度分布は、レーザー回折法による粒度分布測定によるD50径が0.01〜10μmであることが好ましい。D50径が0.01μm未満であるとDPFの内部まで浸透し、DPF表面上で触媒活性を発現する量を確保するためには大量の混合粉体が必要となりコスト上好ましくない。10μmを超えるとDPFの細孔を塞いでしまい圧損が大きくなるため好ましくない。
【0042】
〔浄化触媒成分と共存物質との他の共存形態〕
浄化触媒成分と共存物質から構成される排気ガス浄化材が、さらに白金族元素を含むのも好ましい構成である。白金族元素は、白金、ロジウムまたはパラジウム、およびこれらの任意の組合せに係るものを使用できる。
【0043】
浄化触媒成分に含有される白金族元素は、含硫黄酸性ガスが浄化触媒成分から脱離する際、当該脱離を助ける働きをするとも考えられる。従って、浄化触媒成分や共存物質と高分散状態で担持されていることが好ましい。また、DPFに浄化触媒成分や共存物質コートされている場合、アルミナなどの高比表面積な担体に担持されていてもよい。白金族元素の担持方法に特に制限はない。具体的には、蒸発乾固、含浸などが好適に適用できる。
【0044】
3.本発明に係る排気ガス浄化材の作用について
上述した浄化触媒成分と共存物質とで構成される排気ガス浄化材を通過する排気ガス中に含硫黄酸性ガスが含まれるとき、当該含硫黄酸性ガスは、共存物質と当該含硫黄酸性ガスの親和性により選択的に共存物質に吸着される。尤も、当該含硫黄酸性ガスが共存物質のみを通過する場合、当該共存物質は当該含硫黄酸性ガスに対する酸化力が低いため、吸着速度は低い。ところが、当該共存物質と混合されている浄化触媒成分は、含硫黄酸性ガスに対する酸化力が高いため、含硫黄酸性ガスは酸化されて当該共存物質に吸着しやすい状態になる。そして、排気ガス浄化材において、含硫黄酸性ガスは選択的に共存物質へ吸着される。この結果、含硫黄酸性ガスによる浄化触媒成分の被毒が大幅に抑制される。
【0045】
通常の運転ではディーゼルエンジンの排気ガス温度は200℃あるいはそれ以下と低いが、種々の目的のシステム的制御により定期的に昇温することがある。その一つが、DPFの再生を目的としたもので、DPFの前段に設置された酸化触媒のエンジン側に燃料を噴射し、酸化触媒で燃料を燃焼させることにより排気ガス温度を上昇し、DPFに導入される排気ガス温度を上昇し、DPFに堆積したPMを燃焼する。
【0046】
また別の制御として、NOx吸蔵触媒が併用されているシステムでは、NOx吸蔵触媒のNOx放出などNOx吸蔵触媒の再生時に定期的に排気ガス温度が上昇する。これら排気ガスの上昇は、排気ガス中に燃料を噴射し、燃料を燃焼させることにより起こるため、通常の運転と比較して排気ガス中の一酸化炭素、炭化水素の比率が高くなる。
【0047】
上述したDPF再生を目的とした、ディーゼルエンジンの運転モード、または、システム的制御により、排気ガス温度は上昇及び又は排気ガス中の一酸化炭素や炭化水素成分の濃度が高くなるため、共存物質は吸着した含硫黄酸性ガスを脱離することが可能となる。また、共存物質は含硫黄酸性ガスを脱離する条件下において、浄化触媒成分に吸着した含硫黄酸性ガスの脱離を促進するため、被毒劣化した触媒活性が再生回復し、触媒活性が長期に渡り維持が可能となる。
【0048】
含硫黄酸性ガスが脱離するより好ましい条件として、温度は500℃以上あれば良い。500℃以上の温度があれば、含硫黄酸性ガス、当該ガス中の硫黄も脱離し、それらの吸着または吸着結合がより強固なものになることを回避出来るからである。また、排気ガス組成は一酸化炭素が100ppm、炭化水素成分が200ppm以上のいずれか一方または双方であることが好ましい。
【0049】
排気ガス中の炭化水素成分には、例えばプロピレンなど種々のものがあるが特に制限はない。共存物質または浄化触媒成分に吸着した含硫黄酸性ガスは、酸素を放出し脱離するため、放出した酸素を効率よく回収するために一酸化炭素、炭化水素の還元性ガスが存在することが好ましい。強い還元力を生じる水素が存在する場合、含硫黄酸性ガスはより脱離しやすくなる傾向があるが、ディーゼルエンジンの動作状況により排気ガス中に含まれる水素の割合は大きく変動するため、特に制限はない。
【0050】
本発明に係る排気ガス浄化材を用いたDPFは、さらに白金族元素を含むことも好ましい構成である。白金族元素としては、白金、ロジウムまたはパラジウム、およびこれらの任意の組合せに係るものを含むことが好ましい。
【0051】
上述したようにDPFの再生やNOx吸蔵触媒の再生の際、排気ガス中に燃料を噴射し、燃料を燃焼させるため、通常の運転と比較して排気ガス中の一酸化炭素、炭化水素の比率が高くなる。また、浄化触媒成分によりPMが燃焼するとき、不完全燃焼により一酸化炭素が発生する恐れがある。白金族元素は、これら一酸化炭素や炭化水素を浄化するために有効だからである。
【0052】
当該白金族元素は、DPFから向かってエンジン側、DPF上、DPFから向かって大気開放側のどの位置に存在してもよいが、好ましくはDPF上、DPFから向かって大気開放側がよい。また、白金族元素は一酸化炭素や炭化水素の気体への浄化作用が求められるので、高分散状態で担持されていることが好ましい。この高分散状態の担持方法は蒸発乾固、含浸など一般的な方法でよく、担持方法に特に制限はない。
【0053】
4.本発明に係る浄化触媒成分、共存物質の製造方法
本発明に係る浄化触媒成分と共存物質とは、例えば、通常の共沈法、有機錯体法、非晶質前駆体、固相法を用いた製法などによって製造することができる。
【0054】
尚、当該浄化触媒成分と共存物質とは、原料の配合を変える他は同様の製造方法で製造することができる。そこで、以下、共存物質の製造を例として、本発明に係る浄化触媒成分と共存物質の製造方法について説明する。
【0055】
〔共沈法〕
共沈法では、上述のアルカリ、アルカリ土類金属から選択される元素の塩と、酸性元素、両性元素から選択される元素の塩とを準備し、所定の複合酸化物を生成するにふさわしい化学量論比で、これらの元素を含む原料塩水溶液を調製する。
【0056】
各元素の塩は、特に限定されないが、例えば、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、塩化物などの無機塩、酢酸塩、シュウ酸塩などの有機酸塩などが使用できる。中でも酢酸塩、硝酸塩が好適に使用できる。
【0057】
この原料塩水溶液と中和剤とを混合し、上記元素を含む塩を共沈させる。このとき中和剤は、特に限定されないが、例えば、アンモニア、苛性ソーダ、苛性カリなどの無機塩基、トリエチルアミン、ピリジンなどの有機塩基が使用できる。また中和剤の添加量は、その中和剤を加えた後に生成されるスラリーのpHが6〜14となるように添加し混合するのが良い。当該pH域に調製することで、共沈物を得ることができる。
【0058】
得られた共沈物は、必要に応じて水洗する。次に、得られた共沈物を、例えば、真空乾燥や通風乾燥などにより乾燥させる。そして、当該乾燥した共沈物を、600〜1200℃、好ましくは800〜1000℃で2〜10時間熱処理することにより、目的とする共存物質の複合酸化物を得ることができる。
【0059】
当該熱処理の際、雰囲気は、共存物質の複合酸化物を生成する範囲のものであれば特に制限されない。例えば、空気、窒素、アルゴン、水素、および、これらの各雰囲気に水蒸気を組み合わせた雰囲気が使用できる。生産コストの観点からは、空気、窒素、および、これらの雰囲気に水蒸気を組み合わせた雰囲気が好ましい。
【0060】
〔有機錯体法〕
有機錯体法では、所定の複合酸化物を生成するにふさわしい化学量論比になるように、上述のアルカリ、アルカリ土類金属から選択される元素の塩と、酸性元素、両性元素から選択される元素の塩と、例えば、クエン酸、リンゴ酸、エチレンジアミン4酢酸ナトリウムなどの有機錯体を形成する塩により原料有機錯体水溶液を調製する。
【0061】
各元素の塩としては、共沈法の場合と同様の塩が使用でき、また原料塩水溶液は各元素の原料塩を目的の化学量論比に混合して水に溶解した後、有機錯体を形成する塩の水溶液と混合することにより、調製することができる。なお、有機錯体を形成する塩の配合比率は得られる共存物質の複合酸化物や浄化触媒成分1モルに対して1.2〜3モル程度であることが好ましい。
【0062】
この原料水溶液を乾固させる。当該乾固の際の加熱温度は、有機錯体が分解しない温度であれば特に限定されず、例えば、室温〜150℃程度、好ましくは室温〜110℃であって、速やかに水分を除去できるものであれば良い。これにより前述の有機錯体が得られる。
【0063】
前述の各元素の有機錯体を形成させた後、仮焼成する。仮焼成は、例えば、真空または不活性ガス雰囲気下において250℃以上で加熱すれば良い。
【0064】
得られた仮焼成後の有機錯体を熱処理する。熱処理は、例えば600〜1000℃、好ましくは600〜950℃で、2〜10時間行うことにより、目的とする共存物質の複合酸化物を得ることができる。当該熱処理時の雰囲気は、共存物質の複合酸化物や浄化触媒成分を生成する範囲であれば特に制限されない。例えば、空気、窒素、アルゴン、水素、および、これらの各雰囲気に水蒸気を組み合わせた雰囲気が使用できる。生産コストの観点からは、空気、窒素、および、これらの雰囲気に水蒸気を組み合わせた雰囲気が好ましい。
【0065】
〔非晶質前駆体を用いた製法〕
非晶質前駆体を用いた製法では、共存物質の複合酸化物を生成するにふさわしい化学量論比で、上述のアルカリ、アルカリ土類金属から選択される元素を含む粉状の非晶質からなる前駆体物質と、酸性元素、両性元素から選択される元素を含む粉状の非晶質からなる前駆体物質を準備する。
【0066】
当該非晶質の前駆体の製造方法について説明する。
まず、上述の両元素の塩を、共存物質の複合酸化物を生成するにふさわしい化学量論比で含む原料塩水溶液を調製する。そして、当該原料塩水溶液と、炭酸アルカリまたはアンモニウムイオンを含む炭酸塩等の沈殿剤とを、温度60℃以下、pH6以上で反応させて沈殿を生成させる。当該生成した沈殿を濾過し、乾燥させることで得ることができる。
【0067】
より具体的には、まず、上述の両元素の硝酸塩、硫酸塩、塩化物等の水溶性鉱酸塩を準備する。そして、共存物質の複合酸化物を生成するにふさわしい化学量論比で含む原料塩水溶液となるモル比に調整して溶解させた水溶液を用意する。当該水溶液中の構成元素のイオン濃度は用いる塩類の溶解度によって上限が決まる。即ち、構成元素の結晶性化合物が析出しない状態とすることが好ましい。通常は、前述の各元素の合計イオン濃度が0.01〜0.60mol/L程度の範囲であれば良いが、0.60mol/Lを超えてもよい場合がある。
【0068】
当該水溶液から非晶質の沈殿を得るには、炭酸アルカリまたはアンモニウムイオンを含む炭酸塩からなる沈殿剤を用いるのが良い。当該沈殿剤の具体例としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム等がある。また、必要に応じて、水酸化ナトリウム、アンモニア等の塩基を添加することも可能である。さらに、当該水酸化ナトリウム、アンモニア等の添加により沈殿を形成した場合、当該水溶液へ炭酸ガスを吹き込むことによっても本発明に使用する共存物質の複合酸化物の前駆体物質に適した非晶質を得ることができる。
【0069】
非晶質の沈殿を得る際、水溶液のpHを6〜11の範囲に制御するのがよい。pHが6以上の領域では、希土類元素類が沈殿を形成するので好ましいからである。一方、pHが11以下であれば、結晶性の沈殿形成を回避することができる。また、反応温度を60℃以下にすることで、構成元素の結晶性化合物粒子の生成を回避することができる。
【0070】
得られた非晶質前駆体は、必要に応じて水洗する。そして、得られた非晶質前駆体を、例えば、真空乾燥や通風乾燥などにより乾燥させる。
【0071】
当該乾燥した非晶質前駆体を、例えば500〜1000℃、好ましくは600〜900℃で2〜10時間の熱処理することにより、目的とする共存物質の複合酸化物や浄化触媒成分を得ることができる。当該熱処理時の雰囲気は、共存物質の複合酸化物や浄化触媒成分を生成する範囲であれば特に制限されない。例えば、空気、窒素、アルゴン、水素、および、これらの各雰囲気に水蒸気を組み合わせた雰囲気が使用できる。生産コストの観点からは、空気、窒素、および、これらの雰囲気に水蒸気を組み合わせた雰囲気が好ましい。
【0072】
〔固相法〕
固相法では、上述のアルカリ、アルカリ土類金属から選択される元素の塩と、酸性元素、両性元素から選択される元素の塩とを準備し、所定の複合酸化物を生成するにふさわしい化学量論比で、これらの原料塩を、乳鉢などの混合機を用い混合する。
【0073】
原料塩には、硝酸塩、炭酸塩、酸化物、酢酸塩等、種々のものがあるが、後述する熱処理により、目的とする共存物質の複合酸化物の結晶を生じるものであれば特に制限はない。
【0074】
当該混合物を、例えば500℃〜1000℃、好ましくは700℃〜1000℃で2〜30時間の熱処理を行うことにより、目的とする共存物質の複合酸化物を得ることができる。
【0075】
当該熱処理時の雰囲気は、共存物質の複合酸化物や浄化触媒成分を生成する範囲であれば特に制限されない。例えば、空気、窒素、アルゴン、水素、および、これらの各雰囲気に水蒸気を組み合わせた雰囲気が使用できる。生産コストの観点からは、空気、窒素、および、これらの雰囲気に水蒸気を組み合わせた雰囲気が好ましい。

【0076】
5.本発明に係る浄化触媒成分、共存物質の評価方法
浄化触媒成分および共存物質の、酸性ガスへの親和性、結晶構造、硫黄被毒に対する耐久性、PMの燃焼性能を評価するための代表的な評価方法について説明する。
【0077】
尚、当該浄化触媒成分と共存物質とは、同様の評価方法を適用することができる。そこで、以下、共存物質の評価を例として、本発明に係る排気ガス浄化材の評価方法について説明する。
【0078】
[酸性ガスへの親和性]
共存物質と、Ptアルミナ(Pt1質量%)とを、質量比で1:1になるように秤量し、乳鉢で30分間混合する。この混合した試料を金型プレスにより100kg/cmで圧縮成形後、粉砕して、粒子径0.5〜1.0mmの粒状試料を作製する。
【0079】
当該粒状試料0.2gを縦型管状炉に設置する。そして、300℃×4時間の処理条件において、NO濃度400ppm、HO10%、残部Nガスを総流量500cc/minで流し、NOxを吸着させる。その後、N雰囲気下で300℃〜700℃まで、10℃/minの昇温速度をもって40分間で昇温する。このとき、脱離してくるNOx濃度を10秒毎に測定し、当該NOx濃度の240点における測定値を積算したNOxの量(脱離面積)を算定する。
【0080】
[X線回折測定]
測定は、2θ=20〜70度の範囲で行う。測定条件は、管球としてCo管球を使用し、管電圧40kV・管電流30mAとする。X線回折装置は、株式会社リガク製・X線回折装置RINT−2100若しくはこの装置の同等品を使用できる。
【0081】
[硫黄被毒処理]
本発明に係る共存物質と浄化触媒成分とを所定の混合比となるように秤量し、乳鉢にて15分混合して、排気ガス浄化材を作製する。当該排気ガス浄化材を、それぞれ金型プレスにより100kg/cmで圧縮成形後、粉砕して、粒子径1.0〜2.0mmの粒状試料を作製する。
【0082】
粒状試料3gを縦型管状炉に設置する。そして、300℃×10時間の処理条件において、SO濃度200ppm、O10%、HO10%、残部Nガスを総流量500cc/minで流し、硫黄被毒処理を行う。
当該硫黄被毒処理後の試料を、硫黄処理後試料とする。
【0083】
排気ガス浄化材の硫黄を脱離するために、硫黄処理後試料を縦型管状炉に設置する。そして、650℃×10分間の処理条件において、CO0.9%、C375ppm、CO10%、H0.3%、HO10%、残部Nガスを総流量5L/minで流し、還元処理を実施する。還元処理後の試料を還元処理後試料とする。
【0084】
還元処理後試料をマッフル炉に設置する。そして、650℃×10分間の処理条件において、大気雰囲気で酸化処理を実施する。そして、得られた硫黄被毒処理、還元処理、および酸化処理を施された試料を再生後試料とする。すなわち、本硫黄被毒処理によって、硫黄処理後試料、還元処理後試料、再生後試料の3種類の試料を得る。
尚、各処理後の粒状試料は、乳鉢にて解粒する。
【0085】
[PM燃焼温度評価]
前記硫黄被毒処理評価にて調製した、硫黄処理前試料、硫黄処理後試料および再生後試料を準備する。一方、模擬PMとして市販のカーボンブラック(三菱化学株式会社製)若しくはこの材料の同等品を準備する。
【0086】
そして、硫黄処理前試料とカーボンブラックの質量比が6:1になるように秤量し、自動乳鉢機(石川工場製AGA型)若しくはこの装置の同等品で20分混合し、硫黄処理前試料とカーボンブラックとの混合粉体を得る。同様に、硫黄処理後試料とカーボンブラックとの混合粉体、再生後試料とカーボンブラックとの混合粉体も調製する。
【0087】
当該混合粉体20mgを、熱重量、示差熱測定(TG/DTA)装置に設置し、昇温速度10℃/分にて50℃から700℃まで大気中で昇温し、重量測定を行う。尚、熱重量、示差熱測定(TG/DTA)装置は、セイコーインスツルメンツ株式会社製、TG/DTA6300型)若しくはこの装置の同等品を用い、DTAのピーク強度が最大になる点をもって、カーボンブラックの燃焼温度とする。
【0088】
次に本発明の浄化触媒成分と共存物質の共存形態についていくつかの実施の形態を用いて説明する。すでに説明したように本発明の浄化触媒成分はPMの燃焼温度を低下させ、共存物質は排気ガス中に含まれる含硫黄性ガスを吸着し浄化触媒成分の被毒化を低減させる。また、排気ガス温度の上昇や一酸化炭素または炭化水素量の増大時に被毒化された浄化触媒成分の触媒作用を回復させる。従って、浄化触媒成分と共存物質は近接する状態にあるのが好ましい。
【0089】
(実施の形態1)
図1にDPFの一例を示す。DPF1は入り口側10から見た断面がハニカム構造をした筒状の形態をしており、材質は多孔質なセラミックで構成されている。具体的にはセラックス、コージェライト、炭化珪素、チタン酸アルミなどが好適に用いられる。また、形状は図1に示した構造のほか、発泡体、メッシュ、板状といった形状でもよい。
【0090】
図1は筒状長手方向の断面図である。入り口10がエンジン側であり、出口11は大気開放側である。ハニカム構造の1つ1つはエンジン側から排気管側に貫通しているのではなく、どちらか一方が塞がった状態になっている。例えば、符号15は塞がっている。
【0091】
排気ガス20は入り口側10から入り、DPFの多孔質壁を通過し出口11から排気25として排出される。つまりDPFの内壁がPM30のフィルターとなる。PMはDPFの入り口側の内壁12に捕集されるので、本発明の排気ガス浄化材は捕集側の内壁12に配置させるのがよい。
【0092】
図2は、捕集側の内壁12部分に浄化触媒成分33(白円形で表した)と共存物質35(斜線円形で表した)の存在状態の模式図を示す。浄化触媒成分33と共存物質35は、様々な元素の組み合わせが可能であり、物質によって粉体にした場合の形状はそれぞれ異なる場合もあるが、ここでは一様に円形で表す。
【0093】
図2は、浄化触媒成分と共存物質の大きさがほぼ同じ大きさの場合を示す。ここで「ほぼ同じ大きさ」とは浄化触媒成分と共存物質を粉体にした際のレーザー回折法による粒度分布のD50の値の差が±50%未満、好ましくは±25%未満である場合をいう。また、電子顕微鏡で観察した範囲の粒子の分布を測定してもよい。
【0094】
また、出来上がったDPFからの検証方法については、例えば、電子顕微鏡(SEM)によるDPF上の粒子を特定し、この特定時と同視野でのEDSやEPMAによる元素マッピングにより触媒成分と共存物質を判別し、その粒径比較をすることが挙げられる。
【0095】
このような共存形態は、浄化触媒成分と共存物質をそれぞれ所定の粒度分布になるように作製し、混合分散することで混合スラリーとし、混合スラリーをDPFの捕集側に塗布することで実現することができる。また、浄化触媒成分のスラリーと共存物質のスラリーをそれぞれ作製しておき、仕様によって比率を変えながら混合し、混合スラリーとすることも出来る。
【0096】
浄化触媒成分と共存物質成分の比率は作製するDPFの仕様に従って適宜決めることができるが、共存物質は浄化触媒成分に対して5〜50質量%程度が好適である。共存物質が少ないと含硫黄性ガスの吸着や浄化触媒成分の再生ができなくなり、多すぎると、浄化触媒成分が少なくなりPM燃焼温度を十分低下させることができない。なお、図2では浄化触媒成分と共存物質が1層で存在するように図示しているが、厚み方向に存在していてもよい。
【0097】
(実施の形態2)
図3に、共存物質の大きさを浄化触媒成分に対して小さくした場合の共存状態の模式図を示す。ここで「小さくする」とは浄化触媒成分と共存物質を粉体にした際のレーザー回折法による粒度分布のD50の値が1/2以下、好ましくは1/4以下であることがよい。
【0098】
共存物質の方が小さければ、共存物質は浄化触媒成分の表面または隙間に存在することができ、どの浄化触媒成分も共存物質と近接状態にさせることができる。このような共存形態は上記と同様に浄化触媒成分と共存物質成分をそれぞれ所定の粒度分布になるように作製し、混合分散することで混合スラリーとし、混合スラリーをDPFの捕集側に塗布することで実現することができる。また、浄化触媒成分のスラリーと共存物質のスラリーをそれぞれ作製しておき、仕様によって比率を変えながら混合し、混合スラリーとすることも出来る。なお、図3では排気ガス浄化材が1層で存在するように図示しているが、厚み方向に存在していてもよい。
【0099】
(実施の形態3)
図4に、浄化触媒成分の大きさが共存物質に対して小さくした場合の共存状態の模式図を示す。「小さくする」は上記と同じ意味である。浄化触媒成分33と共存物質35の割合は浄化触媒成分の方が多いので共存物質の表面または隙間に多くの浄化触媒成分が存在する。
【0100】
(実施の形態4)
図5に浄化触媒成分33(又は浄化触媒成分と共存物質)と共存物質35とを層状に配置した場合の共存形態の模式図を示す。図ではそれぞれの層は同じ程度の大きさの物質から構成されるように示したが、それぞれの層を構成する粒子の大きさは異なっていても良い。
【0101】
特に共存物質35は最上層に露出しているのが好ましく、より好ましくは最上層を共存物質で完全に覆うのではなく、浄化触媒成分33がまばらに見えるように分散させるのが望ましい。硫黄被毒抑制のためには共存物質は最表面にあるのが好ましく、またPMを燃焼させるにはやはり最表面に浄化触媒成分があるのが好ましいからである。その意味で、図5の共存物質35の層は、共存物質と浄化触媒成分の混合層であってもよい。この場合、共存物質と浄化触媒成分の分散性はあまり高くなく、少し粗な分散程度であるほうがむしろ好ましい。
【0102】
また、浄化触媒成分33の上下に共存物質35を配置した3層又はそれ以上の多層構造にしてもよい。再生処理を行う際には含硫黄性ガスは浄化触媒成分33の層を通過するので、浄化触媒成分33の周囲にはできるだけ共存物質35を配置しておき、被毒を防止するためである。また、共存物質と浄化触媒成分の層をごく薄くし、何層にも積層する多層構造とすることで、浄化触媒成分の上下には確実に共存物質を配置することができるからである。
【0103】
なお、それぞれの層は同じ厚みで構成しなくてもよい。含硫黄性ガスは、共存物質の層を通過する毎に吸着され含有量が減るので、下層にいくほど浄化触媒成分33の層を厚くできる場合もあるからである。
【0104】
浄化触媒成分33と共存物質35を層状に形成するには、所定の粒度分布で作製した浄化触媒成分と共存物質をスラリーとし、スプレー法や交互にディップ法を行うことで形成することができる。
【0105】
以上のように本発明の排気ガス浄化材は浄化触媒成分と共存物質をさまざまな共存形態でDPFに用いることができる。そしてすでに説明したように、DPFの再生やNOx吸蔵触媒の再生の際、に含有比率が高くなる一酸化炭素、炭化水素を浄化するために白金族元素をさらに組み合わせることもできる。以後白金族元素を用いた触媒を白金系触媒と呼ぶ。以下には実施の形態を用いてDPFの形態の説明を行う。
【0106】
(実施の形態5)
図6には本実施の形態のDPF2の断面図を示す。入り口12側がエンジン側であり、出口11側が大気開放側であるのは図1の場合と同じである。本実施の形態のDPFは、捕集側の壁面12には排気ガス浄化材37が配置され、大気開放側の壁面14には白金系触媒40が配置される。
【0107】
排気ガス浄化材37は、実施の形態1から4で説明した排気ガス浄化材の形態のうち、いずれの形態を採用してもよい。白金系触媒40については、高分散状態であることが好ましく担持される方法に関しては蒸発乾固、含浸など一般的な方法を用いることができる。
【0108】
本実施の形態のように排気ガス浄化材37より大気開放側に白金系触媒40を配置すると一酸化炭素の浄化に好適である。
【0109】
(実施の形態6)
図7には、本実施の形態のDPF3の断面図を示す。本実施の形態では、白金系触媒40は捕集側の壁面12に配置され、その上に排気ガス浄化材37が配置されている。排気ガス浄化材37の共存形態は上記の説明のいずれの方法であってもよい。また、白金系触媒の担持方法も特に限定されるものではなく、どのような方法で担持してもよい。
【0110】
(実施の形態7)
図8には本実施の形態のDPF4の断面図を示す。本実施の形態では、白金系触媒40はDPFの壁面に内在させる。そして排気ガス浄化材37は、捕集側の内壁12に配置する。このような構成であっても、DPFの再生の際に多く発生する一酸化炭素や炭化水素を浄化させることができる。本実施例のようにDPFの壁面に白金系触媒を内在させる方法としては、含浸といった方法が好適に利用することが出来る。
【0111】
(実施の形態8)
図9には、本実施の形態のDPF5の断面図を示す。本実施の形態では、実施の形態5と同様に白金系触媒40と排気ガス浄化材37をDPFの大気開放側の内壁14とエンジン側の内壁12に配置し、さらに排気ガス浄化材37の上層に白金系触媒40を配置する。排気ガス浄化材は実施の形態1から4で示したいずれの構成の排気ガス浄化材を用いても良い。
【0112】
本実施の形態のように白金系触媒を排気ガス浄化材よりエンジン側に配置させると、炭化水素の浄化に好適である。エンジン側に貴金属を配設することにより、排ガス中のNOをNO2に変換でき、PM燃焼に有効なNO2が得られるので、浄化触媒成分(又は浄化触媒成分と共存物質)層でのPM燃焼が行い易くなる。また、エンジン下流側に貴金属層を設ければ、浄化触媒成分(又は浄化触媒成分と共存物質)層でのPM燃焼時に発生する可能性があるCOの完全酸化ができる。更には上層で浄化されなかった未燃の炭化水素成分の浄化ができる。
【0113】
このような構成にすると排気ガス浄化材の上層の白金系触媒で炭化水素の浄化を行い、下層の白金系触媒で一酸化炭素の浄化を行えるという効果がある。
【0114】
このような構成のDPFを作製するには、実施の形態5で示したDPFを作製し、さらに排気ガス浄化材の上面に白金系触媒を形成させる。白金系触媒の担持方法は特に限定されるものではない。
【0115】
(実施の形態9)
図10には本実施の形態のDPF6の断面図を示す。本実施の形態では白金系触媒40は捕集側の内壁12に配置され、且つ白金系触媒40と白金系触媒40の間に排気ガス浄化材37が配置されている。排気ガス浄化材37の共存形態はすでに説明したいずれかの共存形態をとることができる。白金系触媒40の担持方法は、蒸発乾固、含浸といった方法を用いることができる。このような構成にすると排気ガス浄化材37の上層の白金系触媒40で炭化水素の浄化を行い、下層の白金系触媒40で一酸化炭素の浄化を行えるという効果がある。
【0116】
(実施の形態10)
図11には本実施の形態のDPF7の断面図を示す。本実施の形態は実施の形態7の排気ガス浄化材37の上層に白金系触媒40を形成したものである。排気ガス浄化材37がいずれの形態をとっても構わない。このような構成にすると排気ガス浄化材の上層の白金系触媒40で炭化水素の浄化を行い、DPFの内壁に内在する白金系触媒40で一酸化炭素の浄化を行えるという効果がある。
【実施例】
【0117】
以下に本発明の浄化触媒成分と共存物質からなる排気ガス浄化材がPM燃焼温度を低下させ、なおかつ再生処理によって再生する点を確認した実施例について説明する。
(実施例1)
[浄化触媒成分合成]
濃度0.2mol/Lの硝酸セリウム溶液を調製した。当該溶液を撹拌しながら、液温を25℃に調整した。当該液温が25℃に達した段階で、当該溶液へ沈殿剤として炭酸アンモニウムを添加しながら、当該水溶液をpH=8に調整し沈殿物を生成した。生成した沈殿物を、濾過して回収した後、水洗し、125℃で乾燥し前駆体粉を得た。次に、当該前駆体粉を、大気雰囲気下において800℃、2時間で熱処理して焼成しCeOを含む浄化触媒成分を得た。得られた浄化触媒成分のX線回折パターンを図11に示す。
【0118】
[共存物質合成]
硝酸バリウムと硝酸ビスマスとを、バリウム元素とビスマス元素のモル比が0.5:0.5となるように混合し、溶液中のモル濃度の合計が0.2mol/Lとなるように水を添加して原料溶液を得た。この溶液を撹拌しながら溶液の温度を25℃に調整し、温度が25℃に達した段階で、沈殿剤として炭酸アンモニウムを添加しながら、pH=8に調整し沈殿物を生成した。生成した沈殿物を、濾過して回収した後、水洗し、125℃で乾燥し前駆体粉を得た。次に、当該前駆体粉を、大気雰囲気下において800℃、5時間で熱処理して焼成しBaBiOを含む共存物質を得た。得られた共存物質のX線回折パターンを図12に示す。
【0119】
[排気ガス浄化材合成]
浄化触媒成分と共存物質とを、浄化触媒成分と共存物質の質量比が6:4になるように秤量し、乳鉢で15分間混合し排気ガス浄化材を得た。
【0120】
なお、実施例1〜7,12で得られた排気ガス浄化材について、BET法により比表面積を求めた。測定はユアサイオニクス製の4ソーブUSを用いて行った。また、レーザー回折式粒度分布測定法により体積基準の粒度分布を測定した。測定はヘロス粒度分布測定装置(HELOS&RODOS)を用いた。これらの測定結果を表1に示す。
【0121】
(実施例2)
[浄化触媒成分合成]
実施例1と同様の操作を行って実施例2に係るCeOを含む浄化触媒成分を得た。
【0122】
[共存物質合成]
共存物質をBaBiOを含むものからSrBiを含むものに代替した以外は、実施例1と同様の操作を行って実施例2に係る共存物質を得た。
【0123】
[排気ガス浄化材合成]
浄化触媒成分と共存物質とを、浄化触媒成分と共存物質の質量比が67:33になるように秤量し、乳鉢で15分間混合し実施例2に係る排気ガス浄化材を得た。
【0124】
(実施例3)
[浄化触媒成分合成]
実施例1と同様の操作を行って実施例3に係るCeOを含む浄化触媒成分を得た。
【0125】
[共存物質合成]
共存物質をBaBiOを含むものからSrZrOを含むものに代替した以外は、実施例1と同様の操作を行って実施例3に係る共存物質を得た。
【0126】
[排気ガス浄化材合成]
浄化触媒成分と共存物質とを、浄化触媒成分と共存物質の質量比が70:30になるように秤量し、乳鉢で15分間混合し実施例3に係る排気ガス浄化材を得た。
【0127】
(比較例1)
[浄化触媒成分合成]
実施例1と同様の操作を行って比較例1に係るCeOを含む浄化触媒成分を得た。
【0128】
[共存物質合成]
共存物質は、合成しなかった。
【0129】
[排気ガス浄化材合成]
浄化触媒成分のみを乳鉢で15分間混合し、比較例1に係る排気ガス浄化材を得た。
【0130】
(実施例1〜3と比較例1との比較評価)
実施例1〜3と比較例1との関係について説明する。浄化触媒成分のみからなる比較例1に対し、実施例1は、比較例1に係る浄化触媒成分に対し40質量%の共存物質(BaBiO)を共存させたものであり、実施例2は、比較例1に係る浄化触媒成分に対し33質量%の共存物質(SrBi)を共存させたものであり、実施例3は、比較例1に係る浄化触媒成分に対し30質量%の共存物質(SrZrO)を共存させたものである。
【0131】
ここで、実施例1〜3と比較例1とに係る評価結果から、得られた実施例1〜3に係る排気ガス浄化材を構成する浄化触媒成分と共存物質の評価を行った。当該評価は、酸性ガスへの親和性評価および硫黄被毒処理で得た試料のPM燃焼温度評価にて行った。
【0132】
[酸性ガスへの親和性評価]
〈実施例1の評価〉
実施例1に係る排気ガス浄化材を構成すると共存物質と、比較例1に係る浄化触媒成分とに対し、酸性ガスへの親和性評価を行った。
【0133】
尚、比較例1に係る浄化触媒成分に対する酸性ガスへの親和性評価は、共存物質を浄化触媒成分に代替した以外は、共存物質に対する酸性ガスへの親和性評価と同様の操作を行った。
【0134】
当該酸性ガスへの親和性評価結果より、比較例1に係る浄化触媒成分の酸性ガスへの親和性と、実施例1に係る共存物質の酸性ガスへの親和性は、脱離面積の比率を用いて表記したとき、浄化触媒成分:共存物質=1.0:15.0となった。即ち、実施例1に係る共存物質の方が、浄化触媒成分より遙かに多量のNOxを吸着できることが判明した。
【0135】
また、実施例1に係る共存物質の脱離曲線における最大点の温度は、浄化触媒成分のそれと比較して13℃高温であった。
以上の結果から、実施例1に係る共存物質は、浄化触媒成分より酸性ガスに対し親和性が高いことが判明した。
なお、脱離曲線とは、横軸に温度(時間)、縦軸にNOx濃度をとって得られた曲線を示す。
【0136】
〈実施例2の評価〉
得られた実施例2に係る排気ガス浄化材の酸性ガスへの親和性評価を、実施例1と同様に行った。
【0137】
当該酸性ガスへの親和性評価結果より、比較例1に係る浄化触媒成分の酸性ガスへの親和性と、実施例2に係る共存物質の酸性ガスへの親和性は、脱離面積の比率を用いて表記したとき、浄化触媒成分:共存物質=1.0:10.1となった。即ち、実施例2に係る共存物質の方が、浄化触媒成分より遙かに多量のNOxを吸着できることが判明した。
【0138】
また、実施例2に係る共存物質の脱離曲線における最大点の温度は、浄化触媒成分のそれと比較して10℃高温であった。
以上の結果から、実施例2に係る共存物質は、浄化触媒成分より酸性ガスに対し親和性が高いことが判明した。
【0139】
[硫黄被毒処理によって得た試料のPM燃焼温度評価]
〈実施例1の評価〉
実施例1と比較例1とに係る排気ガス浄化材に対し、上述した硫黄被毒処理で得た試料のPM燃焼温度評価を行った。その評価結果を表1および図13に示す。図13は、縦軸にカーボンブラックの燃焼温度をとり、硫黄処理前試料の燃焼温度を斜線、硫黄処理後試料の燃焼温度を無地、再生後試料の燃焼温度を格子線で表記した棒グラフである。尚、後述する図14〜16も同様である。
【0140】
当該評価結果より、次のことが明らかとなった。即ち、実施例1に係る排気ガス浄化材においては、共存物質の存在により硫黄被毒処理後におけるカーボンブラックの燃焼温度の上昇が22℃であり、比較例1の当該燃焼温度162℃上昇より大幅に抑制されている。
【0141】
実施例1および比較例1に係る浄化触媒成分に対して、実施例1に係る共存物質のカーボンブラックの燃焼温度は、当該浄化触媒成分と比較して50℃以上高い。さらに、実施例1に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分は60質量%であり、比較例1に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分は100質量%である。つまり、実施例1に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分は、比較例1に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分より少ないにも関わらず、共存物質の混合により硫黄処理後におけるカーボンブラックの燃焼温度の上昇が大幅に抑制されている。これは、実施例1に係る排気ガス浄化材では、共存物質の存在により、硫黄が共存物質に選択的に吸着され、浄化触媒成分への硫黄の吸着が抑制された効果であると考えられる。
【0142】
また、実施例1に係る排気ガス浄化材では、再生後のカーボンブラックの燃焼温度は処理前と比較して16℃の上昇に留まっており、共存物質の存在により、再生が促進されていることが解る。これに対し、比較例1に係る排気ガス浄化材は、浄化触媒成分のみで構成されているため、再生後のカーボンブラックの燃焼温度は処理前と比較して63℃高く、十分に再生されていないことが解る。
【0143】
つまり、実施例1に係る共存物質は「硫黄処理後の劣化を抑制」、「再生促進」の両方に大きな効果があることが判明した。
【0144】
ここで、「硫黄処理後の劣化を抑制」は、共存物質と含硫黄酸性ガスとの親和性が寄与していると考えられるが、「再生促進」は親和性のほかに何かしらの影響が働いていると思われものの、そのメカニズム自体は未だ不明である。
【0145】
尚、共存物質の存在が「硫黄処理後の劣化を抑制」、「再生促進」の両方に大きな効果があることは、後述する実施例2〜12においても同様であるが、やはり、そのメカニズム自体は未だ不明である。
【0146】
〈実施例2の評価〉
実施例2と比較例1とに係る排気ガス浄化材に対し、上述した硫黄被毒処理によって得られた試料のPM燃焼温度評価を行った。その評価結果を表1および図13に示す。当該評価結果より、次のことが明らかとなった。即ち、実施例2に係る排気ガス浄化材においては、共存物質の存在により硫黄被毒処理後におけるカーボンブラックの燃焼温度の上昇が80℃であり、比較例1の当該燃焼温度の上昇より大幅に抑制されている。
【0147】
実施例2に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分は67質量%であり、比較例1に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分は100質量%である。つまり、実施例2に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分は、比較例1に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分より少ないにも関わらず、共存物質の混合により硫黄処理後におけるカーボンブラックの燃焼温度の上昇が大幅に抑制されている。これは、実施例2に係る排気ガス浄化材では、共存物質の共存により、硫黄が共存物質に選択的に吸着され、浄化触媒成分への硫黄の吸着が抑制された効果であると考えられる。
【0148】
また、実施例2に係る排気ガス浄化材では、再生後のカーボンブラックの燃焼温度は処理前と比較して4℃低下しており、共存物質の存在により、再生が促進されていることが解る。
つまり、実施例2に係る共存物質は「硫黄処理後の劣化を抑制」、「再生促進」の両方に大きな効果があることが判明した。
【0149】
〈実施例3の評価〉
実施例3と比較例1とに係る排気ガス浄化材に対し、上述した硫黄被毒処理によって得られた試料のPM燃焼温度評価を行った。その評価結果を表1および図13に示す。図13において処理前を(1)、硫黄処理後を(2)、再生後を(3)で表し、各棒グラフの上に記した(以後の図でも同じ)。当該評価結果より、次のことが明らかとなった。即ち、実施例3に係る排気ガス浄化材においては、共存物質の存在により硫黄被毒処理後におけるカーボンブラックの燃焼温度の上昇が49℃であり、比較例1の当該燃焼温度の上昇より大幅に抑制されている。
【0150】
実施例3および比較例1に係る浄化触媒成分に対して、実施例3に係る共存物質のカーボンブラックの燃焼温度は、当該浄化触媒成分と比較して120℃以上高い。さらに、実施例3に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分は70質量%であり、比較例1に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分は100質量%である。つまり、実施例3に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分は、比較例1に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分より少ないにも関わらず、共存物質の混合により硫黄処理後におけるカーボンブラックの燃焼温度の上昇が大幅に抑制されている。これは、実施例3に係る排気ガス浄化材では、共存物質の共存により、硫黄が共存物質に選択的に吸着され、浄化触媒成分への硫黄の吸着が抑制された効果であると考えられる。
【0151】
また、実施例3に係る排気ガス浄化材では、再生後のカーボンブラックの燃焼温度は処理前と比較して17℃の上昇に留まっており、共存物質の存在により、再生が促進されていることが解る。
つまり、実施例3に係る共存物質は「硫黄処理後の劣化を抑制」、「再生促進」の両方に大きな効果があることが判明した。
【0152】
(実施例4)
[浄化触媒成分合成]
浄化触媒成分をCeOからCe0.9Bi0.12+δに代替した以外は、実施例1と同様の操作を行って実施例4に係る浄化触媒成分を得た。
【0153】
[共存物質合成]
実施例1と同様の操作を行ってBaBiOを製造し、実施例4に係る共存物質を得た。
【0154】
[排気ガス浄化材合成]
浄化触媒成分と共存物質とを、浄化触媒成分と共存物質の質量比が70:30になるように秤量し、乳鉢で15分間混合し実施例4に係る排気ガス浄化材を得た。
【0155】
(比較例2)
[浄化触媒成分合成]
比較例1と同様の操作を行って比較例2に係るCe0.9Bi0.12+δを含む浄化触媒成分を得た。
【0156】
[共存物質合成]
共存物質は、合成しなかった。
【0157】
[排気ガス浄化材合成]
浄化触媒成分のみを乳鉢で15分間混合し、比較例2に係る排気ガス浄化材を得た。
【0158】
(実施例4と比較例2との比較評価)
実施例4と比較例2との関係について説明する。浄化触媒成分のみからなる比較例2に対し、実施例4は、比較例2に係る浄化触媒成分に対し30質量%の共存物質(BaBiO)を共存させたものである。
【0159】
ここで、実施例4と比較例2とに係る評価結果から、得られた実施例4に係る排気ガス浄化材を構成する浄化触媒成分と共存物質の評価を行った。当該評価は、酸性ガスへの親和性評価および硫黄被毒処理によって得られた試料のPM燃焼温度評価にて行った。
【0160】
[酸性ガスへの親和性評価]
実施例4に係る共存物質と、比較例2に係る浄化触媒成分とに対し、酸性ガスへの親和性評価を行った。
【0161】
その結果、実施例4に係る共存物質と、比較例2に係る浄化触媒成分との酸性ガスの親和性は、脱離面積の比率は浄化触媒成分:共存物質=1.0:14.6と、共存物質の方が、遙かに多量のNOを吸着できることが判明した。
【0162】
また、共存物質の脱離曲線における最大点の温度は、浄化触媒成分のそれと比較して110℃高温のため、共存物質は酸性ガスに対し親和性が高いことが判明した。
【0163】
[硫黄被毒処理によって得られた試料のPM燃焼温度評価]
実施例4と比較例2とに係る排気ガス浄化材に対し、上述した含硫黄酸性ガスへの親和性評価を行った。その評価結果を表1および図14に示す。当該評価結果より、次のことが明らかとなった。即ち、実施例4に係る排気ガス浄化材においては、共存物質の存在により硫黄被毒処理後におけるカーボンブラックの燃焼温度の上昇が45℃であり、比較例2の当該燃焼温度154℃上昇より大幅に抑制されている。
【0164】
実施例4および比較例2に係る浄化触媒成分に対して、実施例4に係る共存物質のカーボンブラックの燃焼温度は、当該浄化触媒成分と比較して50℃以上高い。さらに、実施例4に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分は70質量%であり、比較例2に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分は100質量%である。つまり、実施例4に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分は、比較例2に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分より少ないにも関わらず、共存物質の混合により硫黄処理後のカーボンブラックの燃焼温度の上昇が大幅に抑制されている。これは、実施例4に係る排気ガス浄化材では、共存物質の共存により、硫黄が共存物質に選択的に吸着され、浄化触媒成分への硫黄の吸着が抑制された効果であると考えられる。
【0165】
また、実施例4に係る排気ガス浄化材では、再生後のカーボンブラックの燃焼温度は処理前と比較して5℃の上昇に留まっており、共存物質の存在により、再生が促進されていることが解る。これに対し、比較例2に係る排気ガス浄化材は、浄化触媒成分のみで構成されているため、再生後のカーボンブラックの燃焼温度は処理前と比較して74℃高く、十分に再生されていないことが解る。
【0166】
(実施例5)
[浄化触媒成分合成]
浄化触媒成分をCeOからCe0.5Bi0.1Pr0.42+δに代替した以外は、実施例1と同様の操作を行って実施例5に係る浄化触媒成分を得た。
【0167】
[共存物質合成]
実施例1と同様の操作を行ってBaBiOを製造し、実施例5に係る共存物質を得た。
【0168】
[排気ガス浄化材合成]
浄化触媒成分と共存物質とを、浄化触媒成分と共存物質の質量比が70:30になるように秤量し、乳鉢で15分間混合し実施例5に係る排気ガス浄化材を得た。
【0169】
(実施例6)
[浄化触媒成分合成]
浄化触媒成分をCeOからCe0.5Bi0.1Pr0.42+δに代替した以外は、実施例1と同様の操作を行って実施例6に係る浄化触媒成分を得た。
【0170】
[共存物質合成]
実施例1と同様の操作を行ってSrBiを製造し、実施例6に係る共存物質を得た。
【0171】
[排気ガス浄化材合成]
浄化触媒成分と共存物質とを、浄化触媒成分と共存物質の質量比が50:50になるように秤量し、乳鉢で15分間混合し実施例6に係る排気ガス浄化材を得た。
【0172】
(実施例7)
[浄化触媒成分合成]
浄化触媒成分をCeOからCe0.5Bi0.1Pr0.42+δに代替した以外は、実施例1と同様の操作を行って実施例7に係る浄化触媒成分を得た。
【0173】
[共存物質合成]
実施例1と同様の操作を行ってSr0.3Bi0.7δを製造し、実施例7に係る共存物質を得た。
【0174】
[排気ガス浄化材合成]
浄化触媒成分と共存物質とを、浄化触媒成分と共存物質の質量比が60:40になるように秤量し、乳鉢で15分間混合し実施例7に係る排気ガス浄化材を得た。
【0175】
(実施例8)
[浄化触媒成分合成]
浄化触媒成分をCeOからCe0.5Bi0.1Pr0.42+δに代替した以外は、実施例1と同様の操作を行って実施例8に係る浄化触媒成分を得た。
【0176】
[共存物質合成]
実施例1と同様の操作を行ってBaZrOを製造し、実施例8に係る共存物質を得た。
【0177】
[排気ガス浄化材合成]
浄化触媒成分と共存物質とを、浄化触媒成分と共存物質の質量比が76:24になるように秤量し、乳鉢で15分間混合し実施例8に係る排気ガス浄化材を得た。
【0178】
(実施例9)
[浄化触媒成分合成]
浄化触媒成分をCeOからCe0.5Bi0.1Pr0.42+δに代替した以外は、実施例1と同様の操作を行って実施例9に係る浄化触媒成分を得た。
【0179】
[共存物質合成]
実施例1と同様の操作を行ってSrZrOを製造し、実施例9に係る共存物質を得た。
【0180】
[排気ガス浄化材合成]
浄化触媒成分と共存物質とを、浄化触媒成分と共存物質の質量比が80:20になるように秤量し、乳鉢で15分間混合し実施例9に係る排気ガス浄化材を得た。
【0181】
(実施例10)
[浄化触媒成分合成]
浄化触媒成分をCeOからCe0.5Bi0.1Pr0.42+δに代替した以外は、実施例1と同様の操作を行って実施例10に係る浄化触媒成分を得た。
【0182】
[共存物質合成]
実施例1と同様の操作を行ってSrAlを製造し、実施例10に係る共存物質を得た。
【0183】
[排気ガス浄化材合成]
浄化触媒成分と共存物質とを、浄化触媒成分と共存物質の質量比が77:23になるように秤量し、乳鉢で15分間混合し実施例10に係る排気ガス浄化材を得た。
【0184】
(実施例11)
[浄化触媒成分合成]
浄化触媒成分をCeOからCe0.5Bi0.1Pr0.42+δに代替した以外は、実施例1と同様の操作を行って実施例11に係る浄化触媒成分を得た。
【0185】
[共存物質合成]
実施例1と同様の操作を行ってBaAlを製造し、実施例11に係る共存物質を得た。
【0186】
[排気ガス浄化材合成]
浄化触媒成分と共存物質とを、浄化触媒成分と共存物質の質量比が78:22になるように秤量し、乳鉢で15分間混合し実施例11に係る排気ガス浄化材を得た。
【0187】
(比較例3)
[浄化触媒成分合成]
実施例1と同様の操作を行って比較例3に係るCe0.5Bi0.1Pr0.42+δを含む浄化触媒成分を得た。
【0188】
[共存物質合成]
共存物質は、合成しなかった。
【0189】
[排気ガス浄化材合成]
浄化触媒成分のみを乳鉢で15分間混合し、比較例3に係る排気ガス浄化材を得た。
【0190】
(実施例5〜11と比較例3との比較評価)
実施例5〜11と比較例3との関係について説明する。浄化触媒成分のみからなる比較例1に対し、実施例5は、比較例3に係る浄化触媒成分に対し30質量%の共存物質(BaBiO)を共存させたものである。実施例6は、比較例3に係る浄化触媒成分に対し50質量%の共存物質(SrBi)を共存させたものである。実施例7は、比較例3に係る浄化触媒成分に対し40質量%の共存物質(Sr0.3Bi0.7δ)を共存させたものである。
【0191】
実施例8は、比較例3に係る浄化触媒成分に対し24質量%の共存物質(BaZrO)を共存させたものである。実施例9は、比較例3に係る浄化触媒成分に対し20質量%の共存物質(SrZrO)を共存させたものである。実施例10は、比較例3に係る浄化触媒成分に対し23質量%の共存物質(SrAl)を共存させたものである。実施例11は、比較例3に係る浄化触媒成分に対し22質量%の共存物質(BaAl)を共存させたものである。
【0192】
ここで、実施例5〜11と比較例3とに係る評価結果から、得られた実施例5〜11に係る排気ガス浄化材を構成する浄化触媒成分と共存物質の評価を行った。当該評価は、酸性ガスへの親和性評価および硫黄被毒処理によって得られた試料のPM燃焼温度評価にて行った。
【0193】
[酸性ガスへの親和性評価]
〈実施例5の評価〉
得られた実施例5に係る排気ガス浄化材の酸性ガスへの親和性評価を、実施例1と同様に行った。
【0194】
当該酸性ガスへの親和性評価結果より、比較例3に係る浄化触媒成分の酸性ガスへの親和性と、実施例5に係る共存物質の酸性ガスへの親和性は、脱離面積の比率を用いて表記したとき、浄化触媒成分:共存物質=1.0:5.6となった。即ち、実施例5に係る共存物質の方が、浄化触媒成分より多量のNOxを吸着できることが判明した。
【0195】
また、実施例5に係る共存物質の脱離曲線における最大点の温度は、浄化触媒成分のそれと比較して88℃高温であった。
以上の結果から、実施例5に係る共存物質は、浄化触媒成分より酸性ガスに対し親和性が高いことが判明した。
【0196】
〈実施例6の評価〉
得られた実施例6に係る排気ガス浄化材の酸性ガスへの親和性評価を、実施例1と同様に行った。
【0197】
当該酸性ガスへの親和性評価結果より、比較例3に係る浄化触媒成分の酸性ガスへの親和性と、実施例6に係る共存物質の酸性ガスへの親和性は、脱離面積の比率を用いて表記したとき、浄化触媒成分:共存物質=1.0:3.7となった。即ち、実施例6に係る共存物質の方が、浄化触媒成分より多量のNOxを吸着できることが判明した。
【0198】
また、実施例6に係る共存物質の脱離曲線における最大点の温度は、浄化触媒成分のそれと比較して58℃高温であった。
以上の結果から、実施例6に係る共存物質は、浄化触媒成分より酸性ガスに対し親和性が高いことが判明した。
【0199】
[硫黄被毒処理によって得られた試料のPM燃焼温度評価]
〈実施例5の評価〉
実施例5と比較例3とに係る排気ガス浄化材に対し、上述した硫黄被毒処理によって得られた試料のPM燃焼温度評価を行った。その評価結果を表1および図15に示す。当該評価結果より、次のことが明らかとなった。即ち、実施例5に係る排気ガス浄化材においては、共存物質の存在により硫黄被毒処理後におけるカーボンブラックの燃焼温度の上昇が、比較例3の当該燃焼温度の上昇より大幅に抑制されている。
【0200】
実施例5および比較例3に係る浄化触媒成分に対して、実施例5に係る共存物質のカーボンブラックの燃焼温度は、当該浄化触媒成分と比較して50℃以上高い。さらに、実施例5に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分は70質量%であり、比較例3に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分は100質量%である。つまり、実施例5に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分は、比較例3に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分より少ないにも関わらず、共存物質の混合により硫黄処理後におけるカーボンブラックの燃焼温度の上昇が34℃であり、比較例3の当該燃焼温度の上昇127℃より大幅に抑制されている。これは、実施例5に係る排気ガス浄化材では、共存物質の共存により、硫黄が共存物質に選択的に吸着され、浄化触媒成分への硫黄の吸着が抑制された効果であると考えられる。
【0201】
また、実施例5に係る排気ガス浄化材では、再生後のカーボンブラックの燃焼温度は処理前と比較して10℃の上昇に留まっており、共存物質の存在により、再生が促進されていることが解る。これに対し、比較例3に係る排気ガス浄化材は、浄化触媒成分のみで構成されているため、再生後のカーボンブラックの燃焼温度は処理前と比較して48℃高く、十分に再生されていないことが解る。
つまり、実施例5に係る共存物質は「硫黄処理後の劣化を抑制」、「再生促進」の両方に大きな効果があることが判明した。
【0202】
〈実施例6の評価〉
実施例6と比較例3とに係る排気ガス浄化材に対し、上述した硫黄被毒処理によって得られた試料のPM燃焼温度評価を行った。その評価結果を表1および図15に示す。当該評価結果より、次のことが明らかとなった。即ち、実施例6に係る排気ガス浄化材においては、共存物質の存在により硫黄被毒処理後におけるカーボンブラックの燃焼温度の上昇が29℃であり、比較例3の当該燃焼温度の上昇より大幅に抑制されている。
【0203】
実施例6に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分は50質量%であり、比較例3に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分は100質量%である。つまり、実施例6に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分は、比較例3に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分より少ないにも関わらず、共存物質の混合により硫黄処理後におけるカーボンブラックの燃焼温度の上昇が大幅に抑制されている。これは、実施例6に係る排気ガス浄化材では、共存物質の共存により、硫黄が共存物質に選択的に吸着され、浄化触媒成分への硫黄の吸着が抑制された効果であると考えられる。
【0204】
また、実施例6に係る排気ガス浄化材では、再生後のカーボンブラックの燃焼温度は9℃の上昇に留まっており、共存物質の存在により、再生が促進されていることが解る。
つまり、実施例6に係る共存物質は「硫黄処理後の劣化を抑制」、「再生促進」の両方に大きな効果があることが判明した。
【0205】
〈実施例7の評価〉
実施例7と比較例3とに係る排気ガス浄化材に対し、上述した硫黄被毒処理によって得られた試料のPM燃焼温度評価を行った。その評価結果を表1および図15に示す。当該評価結果より、次のことが明らかとなった。即ち、実施例7に係る排気ガス浄化材においては、共存物質の存在により硫黄被毒処理後におけるカーボンブラックの燃焼温度の上昇が33℃であり、比較例3の当該燃焼温度の上昇より大幅に抑制されている。
【0206】
実施例7に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分は60質量%であり、比較例3に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分は100質量%である。つまり、実施例7に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分は、比較例3に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分より少ないにも関わらず、共存物質の混合により硫黄処理後におけるカーボンブラックの燃焼温度の上昇が大幅に抑制されている。これは、実施例7に係る排気ガス浄化材では、共存物質の共存により、硫黄が共存物質に選択的に吸着され、浄化触媒成分への硫黄の吸着が抑制された効果であると考えられる。
【0207】
また、実施例7に係る排気ガス浄化材では、再生後のカーボンブラックの燃焼温度は処理前と比較して11℃の上昇に留まり、共存物質の存在により、再生が促進されていることが解る。
つまり、実施例7に係る共存物質は「硫黄処理後の劣化を抑制」、「再生促進」の両方に大きな効果があることが判明した。
【0208】
〈実施例8の評価〉
実施例8と比較例3とに係る排気ガス浄化材に対し、上述した硫黄被毒処理によって得られた試料のPM燃焼温度評価を行った。その評価結果を表1および図15に示す。当該評価結果より、次のことが明らかとなった。即ち、実施例8に係る排気ガス浄化材においては、共存物質の存在により硫黄被毒処理後におけるカーボンブラックの燃焼温度の上昇が75℃であり、比較例3の当該燃焼温度の上昇より大幅に抑制されている。
【0209】
実施例8および比較例3に係る浄化触媒成分に対して、実施例8に係る共存物質のカーボンブラックの燃焼温度は、当該浄化触媒成分と比較して100℃以上高い。さらに、実施例8に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分は76質量%であり、比較例3に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分は100質量%である。つまり、実施例8に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分は、比較例3に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分より少ないにも関わらず、共存物質の混合により硫黄処理後におけるカーボンブラックの燃焼温度の上昇が大幅に抑制されている。これは、実施例8に係る排気ガス浄化材では、共存物質の共存により、硫黄が共存物質に選択的に吸着され、浄化触媒成分への硫黄の吸着が抑制された効果であると考えられる。
【0210】
また、実施例8に係る排気ガス浄化材では、再生後のカーボンブラックの燃焼温度は処理前と比較して23℃の上昇に留まり、共存物質の存在により、再生が促進されていることが解る。
つまり、実施例8に係る共存物質は「硫黄処理後の劣化を抑制」、「再生促進」の両方に大きな効果があることが判明した。
【0211】
〈実施例9の評価〉
実施例9と比較例3とに係る排気ガス浄化材に対し、上述した硫黄被毒処理によって得られた試料のPM燃焼温度評価を行った。その評価結果を表1および図15に示す。当該評価結果より、次のことが明らかとなった。即ち、実施例9に係る排気ガス浄化材においては、共存物質の存在により硫黄被毒処理後におけるカーボンブラックの燃焼温度の上昇が47℃であり、比較例3の当該燃焼温度の上昇より大幅に抑制されている。
【0212】
実施例9および比較例3に係る浄化触媒成分に対して、実施例9に係る共存物質のカーボンブラックの燃焼温度は、当該浄化触媒成分と比較して100℃以上高い。さらに、実施例9に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分は80質量%であり、比較例3に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分は100質量%である。つまり、実施例9に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分は、比較例3に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分より少ないにも関わらず、共存物質の混合により硫黄処理後におけるカーボンブラックの燃焼温度の上昇が大幅に抑制されている。これは、実施例9に係る排気ガス浄化材では、共存物質の共存により、硫黄が共存物質に選択的に吸着され、浄化触媒成分への硫黄の吸着が抑制された効果であると考えられる。
【0213】
また、実施例9に係る排気ガス浄化材では、再生後のカーボンブラックの燃焼温度は処理前と比較して9℃の上昇に留まり、共存物質の存在により、再生が促進されていることが解る。
つまり、実施例9に係る共存物質は「硫黄処理後の劣化を抑制」、「再生促進」の両方に大きな効果があることが判明した。
【0214】
〈実施例10の評価〉
実施例10と比較例3とに係る排気ガス浄化材に対し、上述した硫黄被毒処理によって得られた試料のPM燃焼温度評価を行った。その評価結果を表1および図15に示す。当該評価結果より、次のことが明らかとなった。即ち、実施例10に係る排気ガス浄化材においては、共存物質の存在により硫黄被毒処理後におけるカーボンブラックの燃焼温度の上昇が64℃であり、比較例3の当該燃焼温度の上昇より大幅に抑制されている。
【0215】
実施例10および比較例3に係る浄化触媒成分に対して、実施例10に係る共存物質のカーボンブラックの燃焼温度は、当該浄化触媒成分と比較して150℃以上高い。さらに、実施例7に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分は80質量%であり、比較例3に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分は100質量%である。つまり、実施例10に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分は、比較例3に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分より少ないにも関わらず、共存物質の混合により硫黄処理後におけるカーボンブラックの燃焼温度の上昇が大幅に抑制されている。これは、実施例10に係る排気ガス浄化材では、共存物質の共存により、硫黄が共存物質に選択的に吸着され、浄化触媒成分への硫黄の吸着が抑制された効果であると考えられる。
【0216】
また、実施例10に係る排気ガス浄化材では、再生後のカーボンブラックの燃焼温度は処理前と比較して12℃の上昇に留まり、共存物質の存在により、再生が促進されていることが解る。
つまり、実施例10に係る共存物質は「硫黄処理後の劣化を抑制」、「再生促進」の両方に大きな効果があることが判明した。
【0217】
〈実施例11の評価〉
実施例11と比較例3とに係る排気ガス浄化材に対し、上述した硫黄被毒処理によって得られた試料のPM燃焼温度評価を行った。その評価結果を表1および図15に示す。当該評価結果より、次のことが明らかとなった。即ち、実施例11に係る排気ガス浄化材においては、共存物質の存在により硫黄被毒処理後におけるカーボンブラックの燃焼温度の上昇が84℃であり、比較例3の当該燃焼温度の上昇より大幅に抑制されている。
【0218】
実施例11および比較例3に係る浄化触媒成分に対して、実施例11に係る共存物質のカーボンブラックの燃焼温度は、当該浄化触媒成分と比較して150℃以上高い。さらに、実施例7に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分は78質量%であり、比較例3に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分は100質量%である。つまり、実施例11に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分は、比較例3に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分より少ないにも関わらず、共存物質の混合により硫黄処理後におけるカーボンブラックの燃焼温度の上昇が大幅に抑制されている。これは、実施例11に係る排気ガス浄化材では、共存物質の共存により、硫黄が共存物質に選択的に吸着され、浄化触媒成分への硫黄の吸着が抑制された効果であると考えられる。
【0219】
また、実施例11に係る排気ガス浄化材では、再生後のカーボンブラックの燃焼温度は処理前と比較して23℃の上昇に留まり、共存物質の存在により、再生が促進されていることが解る。
つまり、実施例11に係る共存物質は「硫黄処理後の劣化を抑制」、「再生促進」の両方に大きな効果があることが判明した。
【0220】
(実施例12)
[浄化触媒成分合成]
浄化触媒成分をCeOからLa0.8Ba0.2FeOに代替した以外は、実施例1と同様の操作を行って実施例12に係る浄化触媒成分を得た。
【0221】
[共存物質合成]
実施例1と同様の操作を行ってBaBiOを製造し、実施例12に係る共存物質を得た。
【0222】
[排気ガス浄化材合成]
浄化触媒成分と共存物質とを、浄化触媒成分と共存物質の質量比が67:33になるように秤量し、乳鉢で15分間混合し実施例12に係る排気ガス浄化材を得た。
【0223】
(比較例4)
[浄化触媒成分合成]
実施例1と同様の操作を行って比較例4に係るLa0.8Ba0.2FeOを含む浄化触媒成分を得た。
【0224】
[共存物質合成]
共存物質は、合成しなかった。
【0225】
[排気ガス浄化材合成]
浄化触媒成分のみを乳鉢で15分間混合し、比較例4に係る排気ガス浄化材を得た。
【0226】
(実施例12および比較例4の評価)
実施例12と比較例4との関係について説明する。浄化触媒成分のみからなる比較例4に対し、実施例12は、比較例4に係る浄化触媒成分に対し33質量%の共存物質(BaBiO)を共存させたものである。
【0227】
ここで、実施例12と比較例4とに係る評価結果から、得られた実施例12に係る排気ガス浄化材を構成する浄化触媒成分と共存物質の評価を行った。当該評価は、硫黄被毒処理によって得られた試料のPM燃焼温度評価にて行った。
【0228】
[硫黄被毒処理によって得られた試料のPM燃焼温度評価]
〈実施例12の評価〉
実施例12と比較例4とに係る排気ガス浄化材に対し、上述した含硫黄酸性ガスへの親和性評価を行った。その評価結果を表1および図16に示す。当該評価結果より、次のことが明らかとなった。即ち、実施例12に係る排気ガス浄化材においては、共存物質の存在により硫黄被毒処理後におけるカーボンブラックの燃焼温度の上昇が32℃であり、比較例4の当該燃焼温度31℃上昇とほぼ同等であった。
【0229】
実施例12および比較例4に係る浄化触媒成分に対して、実施例12に係る共存物質のカーボンブラックの燃焼温度は、当該浄化触媒成分と比較して20℃以上高い。さらに、実施例12に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分は67質量%であり、比較例4に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分は100質量%である。つまり、実施例12に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分は、比較例4に係る排気ガス浄化材中の浄化触媒成分より少ないにも関わらず、共存物質の混合により硫黄処理後のカーボンブラックの燃焼温度の上昇が大幅に抑制されている。これは、実施例12に係る排気ガス浄化材では、共存物質の共存により、硫黄が共存物質に選択的に吸着され、浄化触媒成分への硫黄の吸着が抑制された効果であると考えられる。
【0230】
また、実施例12に係る排気ガス浄化材では、再生後のカーボンブラックの燃焼温度は処理前と比較して18℃の上昇に留まっており、共存物質の存在により、再生が促進されていることが解る。これに対し、比較例4に係る排気ガス浄化材は、浄化触媒成分のみで構成されているため、再生後のカーボンブラックの燃焼温度は処理前と比較して22℃高く、十分に再生されていないことが解る。
つまり、実施例12に係る共存物質は「再生促進」に大きな効果があることが判明した。
【0231】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0232】
【図1】DPFの構造を示す図である。
【図2】浄化触媒成分と共存物質の大きさがほぼ同じ場合の共存形態の一例を示す図である。
【図3】共存物質が浄化触媒成分より小さい場合の共存形態の一例を示す図である。
【図4】共存物質が浄化触媒成分より大きい場合の共存形態の一例を示す図である。
【図5】浄化触媒成分と共存物質が層構造になっている場合の共存形態の一例を示す図である。
【図6】DPFにおいて排気ガス浄化材と白金系触媒の配置の形態の一例を示す図である。
【図7】DPFにおいて排気ガス浄化材と白金系触媒の配置の形態の一例を示す図である。
【図8】DPFにおいて排気ガス浄化材と白金系触媒の配置の形態の一例を示す図である。
【図9】DPFにおいて排気ガス浄化材と白金系触媒の配置の形態の一例を示す図である。
【図10】DPFにおいて排気ガス浄化材と白金系触媒の配置の形態の一例を示す図である。
【図11】DPFにおいて排気ガス浄化材と白金系触媒の配置の形態の一例を示す図である。
【図12】実施例1に係る酸化セリウムのX線回折パターンである。
【図13】実施例1に係るBaBiOのX線回折パターンである。
【図14】硫黄被毒処理前後と再生処理後における排気ガス浄化材のカーボンブラックの燃焼温度を示すグラフである。
【図15】硫黄被毒処理前後と再生処理後における排気ガス浄化材のカーボンブラックの燃焼温度を示すグラフである。
【図16】硫黄被毒処理前後と再生処理後における排気ガス浄化材のカーボンブラックの燃焼温度を示すグラフである。
【図17】硫黄被毒処理前後と再生処理後における排気ガス浄化材のカーボンブラックの燃焼温度を示すグラフである。
【符号の説明】
【0233】
1乃至7 DPF
10 DPFの入り口
11 DPFの出口
12 入り口側の内壁
14 大気解放側の壁面
15 DPFの塞がった部分
20 排気ガス
25 排気
30 PM
33 浄化触媒成分
35 共存物質
37 排気ガス浄化材
40 白金系触媒



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる粒子状物質の燃焼温度を低下させる排気ガス浄化材であって、
前記粒子状物質の燃焼温度を低下させる触媒作用を有する浄化触媒成分と、
含硫黄酸性ガスの被毒で低下した前記触媒作用を回復させる共存物質を含み、
前記浄化触媒成分と前記共存物質は同じ大きさである排気ガス浄化材。
【請求項2】
ディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる粒子状物質の燃焼温度を低下させる排気ガス浄化材であって、
前記粒子状物質の燃焼温度を低下させる触媒作用を有する浄化触媒成分と、
含硫黄酸性ガスの被毒で低下した前記触媒作用を回復させる共存物質を含み、
前記共存物質は前記浄化触媒成分より小さい排気ガス浄化材。
【請求項3】
ディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる粒子状物質の燃焼温度を低下させる排気ガス浄化材であって、
前記粒子状物質の燃焼温度を低下させる触媒作用を有する浄化触媒成分と、
含硫黄酸性ガスの被毒で低下した前記触媒作用を回復させる共存物質を含み、
前記浄化触媒成分は前記共存物質より小さい排気ガス浄化材。
【請求項4】
ディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる粒子状物質の燃焼温度を低下させる排気ガス浄化材であって、
前記粒子状物質の燃焼温度を低下させる触媒作用を有する浄化触媒成分と、
含硫黄酸性ガスの被毒で低下した前記触媒作用を回復させる共存物質を含み、
前記浄化触媒成分と前記共存物質が層構造で形成された排気ガス浄化材。
【請求項5】
前記層構造の最上層には前記共存物質が形成された請求項4に記載された排気ガス浄化材。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかの請求項に記載された排気ガス浄化材がエンジン側の内壁に形成された排気ガス浄化用フィルター。
【請求項7】
大気開放側の内壁に白金系触媒を配置した請求項6に記載された排気ガス浄化用フィルター。
【請求項8】
前記排気ガス浄化材の上にさらに白金系触媒を配置した請求項7に記載された排気ガス浄化用フィルター。
【請求項9】
エンジン側の内壁に配置された白金系触媒と、前記白金系触媒の上部に配置された請求項1乃至5の何れかの請求項に記載された排気ガス浄化材を有する排気ガス浄化用フィルター。
【請求項10】
前記排気ガス浄化材の上にさらに白金系触媒を配置した請求項9に記載された排気ガス浄化用フィルター。
【請求項11】
エンジン側の内壁に内在された白金系触媒と、前記内壁の表面に配置された請求項1乃至5の何れかの請求項に記載された排気ガス浄化材を有する排気ガス浄化用フィルター。
【請求項12】
前記排気ガス浄化材の上にさらに白金系触媒を配置した請求項11に記載された排気ガス浄化用フィルター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−240878(P2009−240878A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88917(P2008−88917)
【出願日】平成20年3月29日(2008.3.29)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】