説明

排気ガス浄化用触媒

【課題】排気ガス浄化性能の低下を抑えながら担体基材に担持される貴金属の量を低下することのできる排気ガス浄化用触媒を提供する。
【解決手段】上流部6における温度と浄化率との関係を表す実線10よりも右側に、下流部7に担持される貴金属の量を変化させたときの下流部7における温度と浄化率との関係を表す破線11,12,13が描かれている。破線11よりも破線12のほうが下流部7に担持される貴金属の量は少なく、破線12よりも破線13のほうが下流部7に担持される貴金属の量は少ない。上流部6に流入する排気ガスの温度を168℃とし、排気ガスが上流部6を流通する間に浄化反応によって排気ガスの温度がΔT℃だけ上昇するものとすると、(168+ΔT)℃で、下流部7での浄化率が飽和するのは破線11及び12の場合であり、少なくとも破線12の場合の貴金属の量が下流部7に担持されていればよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、排気ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンから排出される排気ガス中には、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)等の汚染物質が含まれている。これらを水、二酸化炭素(CO)、窒素(N)等に浄化して大気中に排出するために、排気ガスが流通する排気管には、触媒装置が設けられている。これらの汚染物質を浄化する触媒成分には、白金(Pt)やパラジウム(Pd)等の貴金属が一般的に使用されている。大気汚染防止の観点から、昨今の規制の強化に伴い、触媒装置に使用される貴金属の量を増加する必要性が高まっているが、貴金属は非常に高価であるため、触媒装置のコストの上昇が問題となっている。
【0003】
担体基材に担持する貴金属の量を低下することを目的としたものではないが、担体基材の上流側の部分よりも下流側の部分の方に担持される貴金属の量を少なくした排気ガス浄化用触媒が特許文献1に記載されている。この排気ガス浄化用触媒では、担体基材の上流側の部分に担持される貴金属の量が、担体基材全体に担持される貴金属の量の80%以下となることが好ましいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−202105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の排気ガス浄化用触媒は、担体基材に担持される貴金属の量を低下することを目的とした発明ではないので、担体基材の上流側の部分に担持される貴金属の量と下流側の部分に担持される貴金属の量とを異なるようにしても、必ずしも担体基材全体に担持される貴金属の量が低下するものではない。仮に、上流側の部分に担持される貴金属の量を全担持量の80%とし、下流側の部分に担持される貴金属の量を全担持量の20%とすることで全担持量を低下しようとすれば、触媒装置全体の排気ガス浄化性能が低下してしまう可能性を否定できない。
【0006】
この発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、排気ガス浄化性能の低下を抑えながら担体基材に担持される貴金属の量を低下することのできる排気ガス浄化用触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る排気ガス浄化用触媒は、担体基材と、担体基材の表面に形成されたコート層と、コート層に担持された貴金属とを備える排気ガス浄化用触媒であって、排気ガスの流れる方向に対して担体基材の上流側にある上流部に担持された貴金属の量は、排気ガスの流れる方向に対して担体基材の下流側にある下流部に担持された貴金属の量よりも多く、上流部及び下流部のそれぞれに担持される貴金属は同一であり、下流部に担持される貴金属は、下流部に流入する排気ガスの温度で、下流部における排気ガスの浄化率が飽和するのに必要な量以上であり、下流部に流入する排気ガスの温度は、168℃で上流部に流入した排気ガスが上流部から流出したときの温度である。下流部に担持された貴金属の量を、上流部に担持された貴金属の量より少なくしても、下流部に流入する排気ガスの温度で、下流部における排気ガスの浄化率が飽和するのに必要な量以上にすることにより、上流部に担持された貴金属による排気ガスの浄化反応の反応熱によって、下流部に流入する排気ガスの温度は、下流部での浄化率が飽和状態となる温度以上となる。
ここで浄化率は温度が高いほど上がるが、ある温度以上になるとそれ以上浄化率が上がらなくなる。本発明において飽和状態とは、その触媒において十分に温度が高い状態での排気ガスの浄化率を100とした場合の90以上の状態とする。浄化率は浄化目的のガス成分の浄化率でよく、例えば自動車エンジンの酸化触媒であれば、HC、COのうち少なくとも一方である。
排気ガス浄化用触媒は酸化触媒であってもよい。
排気ガスの流れる方向に対して、下流部の長さが上流部の長さの1〜4倍としたときに、下流部に担持される貴金属の量は、上流部に担持される貴金属の量の0.75倍以上であってもよい。
下流部に担持される貴金属の量は、上流部に担持される貴金属の量の0.8倍以下であってもよい。
上流部の長さは10mm以上であってもよい。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、下流部に担持された貴金属の量を、上流部に担持された貴金属の量より少なくしても、下流部に流入する排気ガスの温度で、下流部における排気ガスの浄化率が飽和するのに必要な量以上にすることにより、上流部に担持された貴金属による排気ガスの浄化反応の反応熱によって、下流部に流入する排気ガスの温度は、下流部での浄化率が飽和状態となる温度以上となるので、排気ガス浄化性能の低下を抑えながら担持される貴金属の量を低下することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施の形態に係る排気ガス浄化用触媒を備えた排気ガス浄化装置の構成模式図である。
【図2】この実施の形態に係る排気ガス浄化用触媒の担体基材の断面図である。
【図3】この実施の形態に係る排気ガス浄化用触媒における温度と浄化率との関係を表す模式図である。
【図4】この実施の形態に係る排気ガス浄化用触媒の下流部に担持される貴金属の量を決定する手順を視覚化した、温度と浄化率との関係を表す模式図である。
【図5】この実施の形態に係る排気ガス浄化用触媒のHC浄化率及びCO浄化率の評価実験中の排気ガスの温度の推移を示すグラフである。
【図6】この実施の形態に係る排気ガス浄化用触媒のHC浄化率の評価結果を示すグラフである。
【図7】この実施の形態に係る排気ガス浄化用触媒のCO浄化率の評価結果を示すグラフである。
【図8】この実施の形態に係る実施例1の排気ガス浄化用触媒における温度とHC浄化率との関係を示すグラフである。
【図9】この実施の形態に係る実施例1の排気ガス浄化用触媒における温度とCO浄化率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
図1に示されるように、内燃機関であるディーゼルエンジン1から排出された排気ガスが流れる排気管2に、酸化触媒3が設けられている。酸化触媒3は、ケース4と、ケース4の内部に設けられた多孔質性の材質からなるフロースルー型(ハニカム担体)の担体基材5とを有している。担体基材5の材質としては、コージェライト、アルミナ、炭化珪素、ステンレス等の金属箔等の、通常のハニカム基材として用いられるセラミックス材料やメタル材料等が利用できる。また、担体基材5は、排気ガスの流れる方向に対して上流側の部分である上流部6と、排気ガスの流れる方向に対して下流側の部分である下流部7との2つの領域を有している。上流部6及び下流部7の長さの比は1:1である。
【0011】
図2に示されるように、担体基材5の表面5aには、アルミナ(Al)からなるコート層8が塗布されており、コート層8には、触媒活性成分である貴金属のPt及びPdが担持されている。下流部7(図1参照)に担持されている貴金属の量は、上流部6(図1参照)に担持されている貴金属の量の0.75倍となっている。これにより、上流部6へ担持された貴金属の量と同じ量で担体基材5の全体に貴金属を担持した場合に比べて、担体基材5全体に担持される貴金属の量が減少することになる。尚、上流部6及び下流部7のそれぞれに担持される貴金属は同一(同じ組成のPt及びPd)であり、担体基材の単位体積当たりの担持量のみが異なっている。ここで、コート層8の材質は、チタニア(TiO)、ジルコニア(ZrO)、セリア(CeO)の混合物等、貴金属成分を担持する任意の担体であってもよい。また、貴金属として、Ptのみ又はPdのみであってもよく、あるいは他の貴金属であるロジウム(Rh)やイリジウム(Ir)、銀(Ag)、金(Au)、ルテニウム(Ru)、遷移金属である銅(Cu)、鉄(Fe)、ハフニウム(Hf)、タングステン(W)、バナジウム(V)、ランタン(La)及びこれらの混合物であってもよい。
【0012】
次に、この実施の形態に係る排気ガス浄化用触媒を備えた排気ガス浄化装置の動作について説明する。
図1に示されるように、ディーゼルエンジン1から排出された排気ガスは、排気管2を流通する。排気ガスが酸化触媒3に流入すると、上流部6において、コート層8に担持されたPt及びPdによって排気ガス中のHC及びCOが酸化されて水及びCOとなる(以下、浄化反応という)。この浄化反応による反応熱によって排気ガスの温度が上昇し、排気ガスは下流部7に流入する。下流部7においても同じ浄化反応によってHC及びCOが酸化されて、酸化触媒3から排気ガスが流出し、排気管2を流通した後、大気中へ排出される。
【0013】
一般に、上流部6及び下流部7における浄化反応の温度と浄化率(HC/COが酸化される割合)との関係を模式的に表すと、図3のようになる。上流部6及び下流部7においても、温度が低いときにはほとんど浄化反応が進行せず、浄化率も0に近いが、ある温度(上流部6では温度Tとし、下流部7では温度tとする)以上になると、浄化反応が進行し始め、温度の上昇に伴って浄化率が急上昇する。そして、またある温度(上流部6では温度T(>T)とし、下流部7では温度t(>t)とする)以上になると、浄化率がほぼ一定となり飽和する。上流部6及び下流部7における温度と浄化率との関係は、ほぼ同じようなカーブを描くものの、上流部6に担持された貴金属の量が下流部7に担持された貴金属の量よりも多いことから、同じ温度でも浄化率が大きくなるため、上流部6のカーブは下流部7のカーブよりも左側となる。また、浄化率が急上昇し始める温度及び浄化率が飽和する温度についても、上流部6は下流部7の左側となる。すなわち、担持される貴金属の量が少なくなるほど、温度と浄化率との関係を示すカーブは右方向にシフトすることになる。
【0014】
例えば、温度Tの排気ガスが上流部6に流入したとすると、上述したように、上流部6における浄化反応の反応熱により、排気ガスの温度が上昇する。上流部6から流出し下流部7へ流入する排気ガスの温度が温度tまで上昇していれば、上流部6で飽和した浄化率が得られると共に下流部7でも飽和した浄化率を得られるので、下流部7に担持された貴金属の量を上流部6に担持された貴金属の量よりも減少させたことに伴う下流部7での浄化率の低下を防ぐことができる。言い換えれば、下流部7に流入する排気ガスの温度で下流部7での浄化率が飽和するような貴金属の量まで、下流部7に担持される貴金属の量を低下しても、下流部7での浄化率の低下を防ぐことができる。
【0015】
しかしながら、下流部7に流入する排気ガスの温度は、上流部6に流入する排気ガスの温度や上流部6に担持される貴金属の量に依存するため、これらを考慮しなければ、下流部7に担持される貴金属の量の範囲を決定することができない。そこで、上流部6に流入する排気ガスの温度を、通常の排気ガスの温度の範囲内である168℃に特定すると共に、上流部6に担持される貴金属の量を、任意の量に特定する。これにより、上流部6に担持される貴金属の量に応じた、上流部6から流出する排気ガスの温度すなわち下流部7に流入する排気ガスの温度が決定される。そして、この温度で排気ガスが下流部7に流入したときに、下流部7での浄化率が飽和するような貴金属の量を、下流部7に担持される貴金属の量の下限とする。従って、下流部7に担持される貴金属の量を決定するためには、上流部6に担持される貴金属の量を予め決定し、この条件で168℃の排気ガスが上流部6に流入した後の下流部7に流入する排気ガスの温度を推定することにより、下流部7に担持される貴金属の量を、この推定された温度のときに下流部7での浄化率が飽和するのに必要な量以上とすることができる。
【0016】
下流部7に担持される貴金属の量を決定するためのこのような手順を図4に視覚的に表す。上流部6における温度と浄化率との関係が実線10で描かれている。この実線よりも右側に、下流部7に担持される貴金属の量を変化させたときの下流部7における温度と浄化率との関係が、例示的に破線11,12,13で描かれている。すなわち、破線11よりも破線12のほうが下流部7に担持される貴金属の量は少なく、破線12よりも破線13のほうが下流部7に担持される貴金属の量は少ない。そして、上流部6に流入する排気ガスの温度を168℃とし、排気ガスが上流部6を流通する間に浄化反応によって排気ガスの温度がΔT℃だけ上昇するものとすると、下流部7に流入する排気ガスの温度は(168+ΔT)℃となる。この温度で、下流部7での浄化率が飽和するのは破線11及び12の場合であり、少なくとも破線12の場合の貴金属の量が下流部7に担持されていれば、下流部7での浄化率の低下を防ぐことができる。
【0017】
このように、下流部7に担持された貴金属の量を、上流部6に担持された貴金属の量より少なくしても、下流部7に流入する排気ガスの温度で、下流部7における排気ガスの浄化率が飽和するのに必要な量以上にすることにより、上流部6に担持された貴金属による排気ガスの浄化反応の反応熱によって、下流部7に流入する排気ガスの温度は、下流部7での浄化率が飽和状態となる温度以上となるので、排気ガス浄化性能の低下を抑えながら担持される貴金属の量を低下することができる。
【0018】
この実施の形態では、担体基材はフロースルー型であったが、この形態に限定するものではなく、ウォールフロー型であってもよい。また、担体基材5の表面5aに塗布されたコート層8は1層であることに限定するものではなく、同一の担体あるいは異なる担体からなる2層以上にすることもできる。さらに、この実施の形態では、担体基材5は、上流部6及び下流部7が一体化されていたが、この形態に限定するものではなく、上流部と下流部とが別体となっていてもよい。
【0019】
この実施の形態では、上流部6及び下流部7の長さの比は1:1であったが、この形態に限定するものではない。当該長さの比についての本願発明の範囲は、後述する実施例において明らかとなる。また、この実施の形態では、上流部6及び下流部7の長さの絶対値については記載しなかったが、上流部6の長さは少なくとも10mmは必要である。排気ガスが担体基材5の内部に流入する際、担体基材5の端面において乱流が発生する。この乱流が発生する範囲は一般的に、端面から約10mm程度であることが知られている。乱流が発生すると浄化率の向上に寄与し、この範囲で貴金属の量が多ければ、浄化率の向上に大きく寄与することとなる。このため、担持された貴金属の量の多い上流部6の長さは10mm以上であることが好ましい。
【0020】
この実施の形態では、酸化触媒3を例にして説明したが、酸化触媒に限定するものではない。三元触媒、DPF触媒、SCR(Selective Catalytic Reduction)触媒、ASC(Ammonia Slip Catalyst)触媒、SCR/DPF一体触媒でも同様に、下流部に担持される貴金属の量を上流部に担持される貴金属の量よりも少なくすることもできる。これらの触媒を用いた場合には、「浄化反応」は、それぞれの触媒によって引き起こされる化学反応に相当することとなる。
【実施例】
【0021】
次に、この発明の排気ガス浄化用触媒の効果を実施例で説明する。
表1には、この発明に係る排気ガス浄化用触媒である実施例1と比較例1〜3に係る排気ガス浄化用触媒とについて、貴金属及びコート層(担体)の組成と、上流部及び下流部のそれぞれに担持される貴金属の質量と、上流部に担持される貴金属の質量に対する下流部に担持される貴金属の質量の割合と、フロースルー型の担体基材全体に担持される貴金属の質量とが示されている。尚、実施例1及び比較例1〜3のそれぞれに係る排気ガス浄化用触媒が担持される担体基材の容積は1.1リットルであり、上流部及び下流部の長さはともに65mmである。
【0022】
【表1】

【0023】
担体基材に実施例1及び比較例1〜3のそれぞれに係る排気ガス浄化用触媒を担持したものを、図1に示された排気ガス浄化装置の酸化触媒3として用い、排気ガスの浄化率、特に、排気ガス中のHC及びCOの浄化率を評価した。評価中のディーゼルエンジン1の回転数は1600rpmであり、トルクを20〜100Nmに変化させた。これはECモードのうちのUDCモードでの2〜4サイクルを模擬したエンジン制御である。このエンジン動作により排気ガスは成り行きで、排気ガスの平均流速は13g/秒、酸化触媒3に流入する排気ガス中の平均HC濃度は264ppm、酸化触媒3に流入する排気ガス中の平均CO濃度は772ppmであった。図5に示すUDCモードの2〜4サイクルの区間においてHC及びCOの浄化率を測定した。また、上流部6の前端と、上流部6と下流部7との境界部分とに熱電対を設置し、排気ガスの入口温度と境界部分での温度とを測定した。HC及びCOの浄化率の評価中の排気ガスの温度(酸化触媒3に流入する前の排気ガスの温度)の推移を図5に示す。縦軸の排気ガスの温度は排気ガス浄化用触媒入口における排気ガスの入口温度である。
【0024】
このような評価方法によって得られた実施例1及び比較例1〜3のそれぞれに係る排気ガス浄化用触媒の入口温度が172℃でのHCの平均浄化率の結果を図6に示し、COの平均浄化率の結果を図7に示す。実施例1は、下流部7に担持された貴金属の質量を上流部6に担持された貴金属の質量に対して25%低減したもの、すなわち上流部6に担持される貴金属の質量の0.75倍であるが、実施例1のHC浄化率及びCO浄化率はいずれも、上流部6及び下流部7のそれぞれに担持された貴金属の質量が同じ比較例1とほぼ同等であった。これに対し、比較例1に対し、下流部7に担持された貴金属の質量を上流部6に担持された貴金属の質量に対して50%及び75%低減した比較例2及び3については、これらの浄化率及びCO浄化率はいずれも、実施例1及び比較例1よりも低下した。この結果から、下流部7に担持する貴金属の質量を上流部6に担持された貴金属の質量よりも25%以下の範囲で低減したとしても、上流部6及び下流部7の全体から得られるHC浄化率及びCO浄化率は低下しないことが分かった。すなわち、この範囲内では、上流部6における浄化反応で発生する反応熱による排気ガスの温度の上昇が下流部7における浄化反応を促進することによって、下流部7に担持された貴金属の質量の低下を埋め合わせることができるものと考えられる。また、上流部6と下流部7との境界部分の温度は実施例1、比較例1〜3のいずれも、排気ガス浄化用触媒入口における排気ガスの入口温度より4℃高かった。つまりΔTが4℃であった。
【0025】
ここで実施例1の結果について検討する。図8及び9に、上記実験とおなじ条件で、3.3(g)の貴金属が担持された上流部6及び2.48(g)の貴金属が担持された下流部7それぞれの入口における温度(入口温度)とHC及びCOの浄化率との関係の推定値を示す。実験から、上流部6と下流部7との境界の温度は、上流部6の入口における温度より4℃高くなることが判っている。従って、上流部6の入口における温度が168℃の排気ガスは、境界部分すなわち下流部7へ流入する際は172℃である。ここで、図8及び9から、172℃での下流部7の触媒の浄化率は飽和していることがわかる。このように、上流部6の出口(境界部分)で上流部6の触媒により排気ガスの温度が上昇し、下流部7にはその温度で浄化率が飽和するのに必要な量だけ貴金属が担持されるため、浄化率の低下を防ぐことが出来た。
【0026】
次に、この発明に係る排気ガス浄化用触媒である実施例2及び3に係る触媒について、貴金属及びコート層(担体)の組成と、上流部及び下流部のそれぞれに担持される貴金属の質量と、上流部に担持される貴金属の質量に対する下流部に担持される貴金属の質量の割合と、担体基材全体に担持される貴金属の質量とを表2に示す。尚、実施例2及3のそれぞれに係る排気ガス浄化用触媒が担持される担体基材について、その容積と、上流部及び下流部の長さと、上流部の長さと下流部の長さとの比とを表3に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
【表3】

【0029】
実施例2及び3に係る排気ガス浄化用触媒についても、実施例1及び比較例1〜3に係る排気ガス浄化用触媒と同様の方法で、排気ガス中のHC及びCOの浄化率の評価を行った。排気ガス浄化用触媒入口における排気ガスの入口温度が168℃、169℃、175℃でのHC及びCOの平均浄化率の結果を表4に示す。
【0030】
【表4】

【0031】
実施例2及び3については両者ともほぼ同等のHC及びCOの浄化率が得られた。このことから、上流部の長さと下流部の長さとの比は、実施例2の1:1から実施例3の1:4までの範囲であれば、上流部及び下流部の全体から得られるHC浄化率及びCO浄化率に影響がないことが分かった。また、下流部7に担持された貴金属の質量を上流部6に担持された貴金属の質量に対して25%低減した実施例2から20%低減した実施例3(すなわち上流部6に担持される貴金属の質量の0.8倍)の範囲であれば、上流部及び下流部の全体から得られるHC浄化率及びCO浄化率に影響がないことが分かった。貴金属の質量も上流部、下流部を均一にした場合、2.6(g)であるが、実施例2においては0.32(g)、実施例3においては0.26(g)低減できた。
【符号の説明】
【0032】
3 酸化触媒、5 担体基材、6 上流部、7 下流部、8 コート層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体基材と、該担体基材の表面に形成されたコート層と、該コート層に担持された貴金属とを備える排気ガス浄化用触媒であって、
排気ガスの流れる方向に対して前記担体基材の上流側にある上流部に担持された貴金属の量は、排気ガスの流れる方向に対して前記担体基材の下流側にある下流部に担持された貴金属の量よりも多く、前記上流部及び前記下流部のそれぞれに担持される貴金属は同一であり、
前記下流部に担持される貴金属は、前記下流部に流入する排気ガスの温度で、前記下流部における排気ガスの浄化率が飽和するのに必要な量以上であり、
前記温度は、168℃で前記上流部に流入した排気ガスが前記上流部から流出したときの温度である、排気ガス浄化用触媒。
【請求項2】
酸化触媒である、請求項1に記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項3】
排気ガスの流れる方向に対して、前記下流部の長さが前記上流部の長さの1〜4倍としたときに、前記下流部に担持される貴金属の量は、前記上流部に担持される貴金属の量の0.75倍以上である、請求項1または2に記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項4】
前記下流部に担持される貴金属の量は、前記上流部に担持される貴金属の量の0.8倍以下である、請求項3に記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項5】
前記上流部の長さは10mm以上である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の排気ガス浄化用触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−44283(P2013−44283A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182590(P2011−182590)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】