説明

排気ガス浄化装置及び排気ガス浄化装置の製造方法

【課題】有機バインダーの増量によらずに繊維の飛散を良好に低減できる無機繊維マットを提供する。また、無機繊維マットを他の部材に組み付けて製品とする組立作業時の刺激感、不快感を低減し、組立作業者の作業環境を向上させる。
【解決手段】無機繊維マットは、無機繊維集合体を切断する切断工程と、無機繊維集合体の表面を加熱処理する加熱処理工程と、を含む方法によって製造される。無機繊維集合体21を炭酸ガスレーザ加工装置41により所定の形状に切断することにより、前記切断工程と、その切断面を加熱処理する前記加熱処理工程が同時に行われる。前記無機繊維集合体21は、複数枚重ねた状態で炭酸ガスレーザ加工装置41により切断される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機繊維マットに関する。詳細には、無機繊維マットにおける繊維飛散性を低減するための構成に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関から排出される排ガスを浄化する排ガス処理装置として触媒コンバータが用いられている。この触媒コンバータは、触媒を担持させた触媒担体(排ガス処理体)と、この触媒担体を収納する金属製のシェル(ケーシング)と、の間に保持シール材を介在させて構成しているのが一般である。この保持シール材として、アルミナ−シリカ系等のセラミックスファイバーからなるとともに有機バインダーを含浸させ、所定の厚みのマット状に成形した、無機繊維マットが採用されることがある。
【0003】
この触媒コンバータにおいて前記保持シール材は断熱効果を奏するとともに、シェルと触媒担体の間から未浄化排気ガスが漏洩することを防止し、また、シェルと触媒担体との接触による破損を防止する効果を奏する。
【0004】
ここで、前記保持シール材(無機繊維マット)を構成している無機繊維は極細の繊維であるため、触媒コンバータの組立作業時に、保持シール材の表面から繊維が飛散して作業環境を悪化させるおそれがある。
【0005】
この点に関し、特許文献1は、アルミナ繊維集合体において平均繊維径及び最低繊維径を特定の範囲に制御することで、アルミナ短繊維の飛散を抑制し得ることを開示する。
【0006】
特許文献2は、上記特許文献1のアルミナ繊維集合体を前記保持シール材として使用することで、触媒コンバータの組立作業時に無機繊維の飛散量を抑制できることを開示する。更に上記特許文献2は、保持シール材に含有させる有機バインダーの量を増やすことによっても無機繊維の飛散を抑制し得ることを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−105658号公報
【特許文献2】特開2006−342774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記特許文献1のように平均繊維径及び最低繊維径を特定の範囲に制御したアルミナ繊維集合体は、無機繊維の飛散量を十分に低減できるとは言いがたく、改善の余地が残されていた。
【0009】
また、特許文献2のように有機バインダーを増量する場合、無機繊維の飛散を相当に低減できるものの、保持シール材の硬度が増大して触媒担体に巻き付けるときの作業性が低下してしまい、作業効率の低下を招いてしまう。更には、保持シール材の有機バインダー量が多いと、触媒コンバータの使用初期に有機バインダーが燃焼して発生する臭気等が問題となる場合がある。また、有機バインダーの量が多い保持シール材は、触媒コンバータの使用により有機バインダーが燃焼して消失する際に保持シール材の反発力が低下し、触媒担体の脱落の原因となる恐れもある。
【0010】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、有機バインダーの増量によらずに繊維飛散を良好に低減でき、保持シール材等として使用するのに好適な無機繊維マットを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0011】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0012】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成の排気ガス浄化装置が提供される。即ち、排気ガス浄化装置は、無機繊維集合体を切断してなり、切断面以外の表面の少なくとも一部に対し、レーザの照射による加熱処理がされている無機繊維マットを含む。また、排気ガス浄化装置は、排気管に接続される。
【0013】
これにより、表面の少なくとも一部が加熱処理されることで、当該表面の繊維が溶融して他の繊維に融着し、飛散しにくくなる。従って、無機繊維マットからの繊維飛散を有効に低減できる。また、表面の加熱により、当該表面に露出する繊維の先端が溶融して丸みを帯びた形状に変化する。これにより、当該表面に手で触れたときの刺激感、不快感を低減することができる。更に、有機バインダーを増量することなく繊維飛散を良好に低減できるので、有機バインダー量の低減ニーズに容易に適合させることができる。また、有機バインダー量を低減できるために無機繊維マットの硬度の増大を回避でき、組立作業性に優れる。更に、排ガス処理装置の使用初期に有機バインダーが燃焼して発生する臭気等の問題を抑制できる。
【0014】
前記の排気ガス浄化装置においては、前記無機繊維集合体はレーザにより切断されることが好ましい。
【0015】
これにより、レーザで切断を行うことにより、無機繊維集合体の切断及びその切断面の加熱処理(溶融部の形成)をレーザで同時に行うことができるので、無機繊維マットを簡単に製造できる。また、レーザ切断を行うことで、(繊維が飛散し易い面である)切断面が漏れなく加熱処理される。従って、切断面の全面の繊維を確実に溶融させることができ、繊維の飛散を効果的に低減できる。
【0016】
前記の排気ガス浄化装置においては、前記無機繊維集合体は、複数枚重ねた状態で前記レーザにより同時に切断されることが好ましい。
【0017】
これにより、複数の無機繊維集合体を重ねた状態で切断することで、一度に複数の無機繊維集合体を切断し、その切断面を加熱処理できる。従って、製造効率が一層向上する。また、レーザによる非接触切断であるので、無機繊維集合体を複数枚重ねて厚みが増した場合でも正確な寸法に切断することができる。
【0018】
前記の排気ガス浄化装置においては、前記無機繊維マットは、前記加熱処理された面の結晶化率が30%以上80%以下であることが好ましい。
【0019】
これにより、繊維飛散を良好に低減できる。
【0020】
前記の排気ガス浄化装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、この排気ガス浄化装置は、ケーシングと、排ガス処理体と、を備える。前記無機繊維マットは、前記ケーシングと、前記排ガス処理体との間に配置される。
【0021】
本発明の第2の観点によれば、無機繊維マットを含んで構成されるとともに排気管に接続され、排気ガスを浄化する排気ガス浄化装置の製造方法が提供される。この排気ガス浄化装置の製造方法は、切断工程と、加熱処理工程と、を含む。前記切断工程は、無機繊維集合体を切断して無機繊維マットを作成する。前記加熱処理工程は、この無機繊維マットの切断面以外の表面の少なくとも一部をレーザにより加熱処理する。
【0022】
これにより、表面の少なくとも一部が加熱処理されることで、当該表面の繊維が溶融して他の繊維に融着し、飛散しにくくなる。従って、無機繊維マットからの繊維飛散を有効に低減できる。また、表面の加熱により、当該表面に露出する繊維の先端が溶融して丸みを帯びた形状に変化する。これにより、当該表面に手で触れたときの刺激感、不快感を低減することができる。更に、有機バインダーを増量することなく繊維飛散を良好に低減できるので、有機バインダー量の低減ニーズに容易に適合させることができる。また、有機バインダー量を低減できるために無機繊維マットの硬度の増大を回避でき、組立作業性に優れる。更に、排ガス処理装置の使用初期に有機バインダーが燃焼して発生する臭気等の問題を抑制できる。
【0023】
前記の排気ガス浄化装置の製造方法においては、前記切断工程では、前記無機繊維集合体は、前記レーザにより切断されることが好ましい。
【0024】
これにより、レーザで切断を行うことにより、無機繊維集合体の切断及びその切断面の加熱処理(溶融部の形成)をレーザで同時に行うことができるので、無機繊維マットを簡単に製造できる。また、レーザ切断を行うことで、(繊維が飛散し易い面である)切断面が漏れなく加熱処理される。従って、切断面の全面の繊維を確実に溶融させることができ、繊維の飛散を効果的に低減できる。
【0025】
前記の排気ガス浄化装置の製造方法においては、前記切断工程では、前記無機繊維集合体は、複数枚重ねた状態で前記レーザにより同時に切断されることが好ましい。
【0026】
これにより、複数の無機繊維集合体を重ねた状態で切断することで、一度に複数の無機繊維集合体を切断し、その切断面を加熱処理できる。従って、製造効率が一層向上する。また、レーザによる非接触切断であるので、無機繊維集合体を複数枚重ねて厚みが増した場合でも正確な寸法に切断することができる。
【0027】
前記の排気ガス浄化装置の製造方法においては、前記加熱処理工程で加熱処理された前記無機繊維マットの面の結晶化率が30%以上80%以下であることが好ましい。
【0028】
これにより、繊維飛散を良好に低減できる。
【0029】
前記の排気ガス浄化装置の製造方法においては、前記無機繊維マットを巻き付けた前記排ガス処理体を排気ガス浄化装置のケーシングの内側に配置する工程を含むことが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態に係る保持シール材を備えた触媒コンバータを示す模式断面図。
【図2】触媒コンバータのシェルに触媒担体を組み付ける作業を説明する斜視図。
【図3】無機繊維集合体を炭酸ガスレーザで切断する様子を模式的に示す斜視図。
【図4】図4(a)は、無機繊維集合体をレーザ切断したときの切断面の様子を示す走査顕微鏡写真。図4(b)は、無機繊維集合体を打抜き刃で切断した切断面の走査顕微鏡写真。
【図5】繊維飛散性試験に用いた試験装置を示す側面図。
【図6】レーザで切断したサンプルの繊維飛散性試験を行った結果を示すグラフ。
【図7】レーザで切断し、更に表側及び裏側の面をレーザで照射したサンプルの繊維飛散性試験の結果を示すグラフ。
【図8】繊維飛散性試験で使用したサンプルそれぞれの結晶化率と繊維飛散率の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に、発明の実施の形態を説明する。図1は本発明の一実施形態に係る保持シール材を備えた触媒コンバータを示す模式断面図、図2は触媒コンバータのシェルに触媒担体を組み付ける作業を説明する斜視図、図3は保持シール材を炭酸ガスレーザで切断する様子を模式的に示す斜視図である。
【0032】
図1に示すように、本実施形態の触媒コンバータ(排気ガス浄化装置)11は、触媒担体(排ガス処理体)12と、この触媒担体12を収容するシェル(ケーシング)13と、触媒担体12とシェル13との間に介在される保持シール材14と、を備える。
【0033】
触媒担体12は例えば円柱状に形成され、その内部に多数のセルを有するハニカム構造に構成されている。この触媒担体12は、例えば炭化ケイ素、窒化ケイ素、コージエライト、ムライト等のセラミックスから構成されている。また、触媒担体12のセルの壁面には例えばプラチナ、パラジウム、ロジウム等の触媒がコーティングされており、車両用エンジン(内燃機関)31の排気ガスが触媒担体12のセルを通過する際に、当該排気ガス中の有害物質が無害化されるようになっている。
【0034】
図2に鎖線で示すように、保持シール材14はほぼ長方形状に構成されており、その長さ(長手方向の長さ)は前記触媒担体12の外周長とほぼ等しくなっている。また、保持シール材14の長手方向の一端には凸部14aが形成され、他端には凹部14bが形成される。凸部14a及び凹部14bは互いに対応する輪郭形状を有しており、凹部14bと凸部14aとを相互に嵌合できるように構成されている。この保持シール材14は、無機繊維集合体を所定の形状に切断した無機繊維マットで構成されている。
【0035】
図2に示すように、シェル13は両端を開口させた円筒状に形成されており、その内径は触媒担体12の外径よりも若干大きく構成されている。なお、本実施形態において、シェル13は金属材料から構成されている。
【0036】
以上の構成の触媒コンバータ11を組み立てるには、最初に、触媒担体12の外周面に保持シール材14を巻き付ける。このとき、保持シール材14の凹部14bに対し凸部14aを嵌合させることで、保持シール材14の長手方向端部同士を互いに接続して無端状にする。次に、保持シール材14を巻き付けた触媒担体12を、当該保持シール材14の弾力性を利用して、シェル13の内側に圧入する。
【0037】
図1に示すように、前記シェル13の両端の開口部には、排気管接続部15,16が例えば溶接によってそれぞれ接続される。一方の排気管接続部15は、鎖線で略示される排気管32を介して、車両のエンジン31の排気ポートに接続される。また、他方の排気管接続部16は、排気管33を介して消音のための図略のマフラーに接続される。
【0038】
この構成で、エンジン31から排出される排気ガスは触媒コンバータ11のシェル13内に導入される。シェル13内には、触媒担体12が保持シール材14の復元力によって保持されており、排気ガスはこの触媒担体12を通過することで無害化される。
【0039】
なお、触媒担体12の外周面とシェル13の内周面との間は前記保持シール材14によってシールされているので、シェル13内に導入された排気ガスは漏れなく触媒担体12を通過することになる。また、例えば車両の走行に伴ってシェル13に振動や衝撃が加わった場合でも、保持シール材14の弾性力によって緩衝することができ、触媒担体12の破損を防止することができる。
【0040】
この保持シール材14は、図3に示すように、無機繊維集合体21を炭酸ガスレーザ加工装置41によって所定の形状に切断するとともに、その切断面以外の面(表側及び裏側の面)に、当該炭酸ガスレーザ加工装置41のレーザを走査しながら照射したものである。無機繊維集合体21は、例えばシリカ繊維、アルミナ繊維、アルミナ−シリカ系繊維等を所定の厚さのマット状に成形したものである。この無機繊維集合体21の厚さは、例えば5mm以上20mm以下とすることが考えられる。
【0041】
前記無機繊維集合体21は、その繊維を結合させるために、適宜のバインダー樹脂(例えば、有機バインダー)が含浸されていても良い。また、前記無機繊維集合体21は、その耐久性及び強度を向上させるため、公知のニードリング加工が施されていても良い。
【0042】
図3に示す炭酸ガスレーザ加工装置41は、図略のレーザ発振器によってレーザ光を発生させるとともに、このレーザ光42が、反射ミラー等で形成した光路によって集光部43に伝送される構成になっている。この集光部43には集光レンズ44が設置されており、この集光レンズ44で前記レーザ光42を集光しつつノズル部45から照射することで、被加工材としての前記無機繊維集合体21を溶融させ、切断することができる。また、ノズル部45を無機繊維集合体21から所定の距離だけ離した状態でレーザ光42を照射すると、無機繊維集合体21を切断することなく、その表層を加熱処理することができる。
【0043】
本実施形態では図3に示すように、前記無機繊維集合体21を複数枚重ねた状態で炭酸ガスレーザ加工装置41にセットし、図2に示した保持シール材14の形状となるように切断する。これにより、所定の形状に切断されると同時にその切断面が加熱処理された状態の半完成品を、一度に複数個得ることができる。その後、この切断及び加熱処理後の無機繊維集合体を1個ずつ炭酸ガスレーザ加工装置41にセットし、ノズル部45を切断時よりも十分離した状態で、その表側及び裏側の面をレーザ光42で走査する。これにより、切断面以外の面(無機繊維マットの厚み方向を向く面)をレーザで加熱処理することができる。なお、こうして得られた無機繊維マットの表面(切断面並びに表側及び裏側の面)の結晶化率は、80%以下となっている。
【0044】
以上のようにして得られた無機繊維マットからなる保持シール材14は、その側面(切断面)並びに表側の面及び裏側の面において、繊維が溶融して他の繊維と融着するので、繊維の飛散を抑制することができる。従って、図2に示すような触媒コンバータ11の組立作業時の作業環境を向上させることができる。また、保持シール材14の繊維の端部が針状に尖って表面に露出することが少なくなるので、組立作業時等において作業者が保持シール材14に触れたときに感じる刺激感、不快感を低減することができる。
【0045】
図4(a)は、無機繊維集合体21をレーザ切断した切断面の走査顕微鏡写真であり、図4(b)は、無機繊維集合体21を打抜き刃で切断した切断面の走査顕微鏡写真である。
【0046】
無機繊維集合体21を打抜き刃で切断した場合、図4(b)に示すように、マットを構成する細い繊維が多数切断され、その端部が切断面に露出していることが観察される。この図4(b)の写真は、無機繊維集合体21を打抜き刃で切断すると、切断されて繊維長が短くなった繊維が切断面から離脱し易くなることを示唆している。
【0047】
一方、無機繊維集合体21をレーザ切断した場合、図4(a)に示すように、繊維が溶融してできた様々な大きさの溶融部が、切断面の全面にわたって多数形成されているのが観察される。大きな溶融部は複数の繊維に跨って付着しており、その多くは、切断面と垂直な方向に潰れたような扁平形状を呈している。このような大きな溶融部を介して、切断面に露出している繊維同士が互いに融着し、架橋構造となっていることが判る。更に、切断面において繊維の端部の殆どが溶融し、丸みを帯びて若干太った形状に変化していることが認められる。
【0048】
次に、本発明の効果を確認するために本願発明者が行った繊維飛散性試験について説明する。この繊維飛散性試験のサンプル作成には、三菱化学産資株式会社製の無機繊維集合体(商品名;マフテックブランケット)を使用した。このマフテックブランケットは、マット状に成形されたアルミナ72重量%−シリカ28重量%の無機繊維集合体であり、その平均繊維径は5μm、有機分は0%、面比重は1160g/cm2、厚みは約7.1mmである。
【0049】
最初に、前記の無機繊維集合体を図3に示すような炭酸ガスレーザ加工装置41で切断してサンプルを作成した。この炭酸ガスレーザ加工装置41としては、定格出力が1kW、波長が10.6μm、最小集光径が100μm、最大加工速度が30m/minのものを用い、本実験では出力を100W、波長を10.6μm、集光径を100〜200μmに設定して使用した。
【0050】
今回の実験では、無機繊維集合体21を切断するときのレーザの出力を様々に変化させて、4つのサンプル(第1〜第4サンプル)を作成した。具体的には、切断時のレーザの出力は、第1サンプルは50W、第2サンプルは100W、第3サンプルは200W、第4サンプルは300Wとした。何れのサンプルにおいても加工速度は500mm/minとし、また、レーザ光を照射するノズル部45と無機繊維集合体21との距離は1mmとした。
【0051】
更に、比較例として、打抜き刃で切断したサンプル(第5サンプル)と、打抜き刃で切断するとともにその切断面を粘着テープで封止したサンプル(第6サンプル)と、を作成した。なお、第1〜第6サンプルそれぞれの切断形状は、100mm×100mmの正方形とした。
【0052】
そして、上記の第1〜第6サンプルのそれぞれについて、図5に示す試験装置を使用して繊維飛散性試験を行った。この試験装置51は、基台52上に垂直に立設された支柱53の上端部にサンプル支持アーム54を回動自在に枢支した構成になっており、このサンプル支持アーム54の長さは92cmである。前記支柱53には、前記サンプル支持アーム54の持上げ角度を示す目盛板55が取り付けられている。また、サンプル支持アーム54と衝突可能な位置に垂直壁部材56が固定されている。
【0053】
この構成で、図5に示すように、サンプル支持アーム54を水平姿勢(90度の持上げ角度)とし、適宜のロック機構によってロックする。そして、サンプル支持アーム54の先端部(回動中心から82cm〜92cmの部分)に前記サンプル60を固定し、前記ロック機構のロックを解除する。すると、サンプル支持アーム54は自重により下方へ回動し、当該サンプル支持アーム54が鎖線で示す鉛直姿勢となった時点で、前記支柱53に固定されている垂直壁部材56に衝突する。この操作の前後でのサンプル60の重量変化から、サンプル支持アーム54の回動及び衝突時にサンプル60から飛散した繊維の量(繊維飛散量)を算出する。
【0054】
以上の繊維飛散性試験を前述の第1〜第6サンプルについてそれぞれ行ったところ、結果は図6のグラフのとおりであった。このグラフで示すように、レーザで切断した第1〜第4サンプルは何れも、打抜き刃で切断した場合(第5サンプル)に比べて、大幅に繊維飛散率が改善されていることが判る。また、レーザ加工装置の出力を変化させた場合の比較では、出力が50Wの場合(第1サンプル)が最も繊維飛散率が良好であることが判る。
【0055】
なお、第1〜第6サンプルについて、切断面のムライト含有量を測定し、結晶化率を算出した。また、レーザで切断して得られた第1〜第4サンプルについては、切断面で繊維が溶けて略球状となった部分(溶融部)の直径についても併せて測定し、平均値を算出した。
【0056】
なお、結晶化率の算出は以下のようにして行った。即ち、無機繊維集合体の切断面の部分を採取して乳鉢を用いて粉末状にし、X線回折を行った。この回折においては、X線源がCuKα線であり、X線出力が40kV、20mAであるX線回折装置を使用した。対象とする回折線はムライトの回折線(16.4°)及びγ−Al23の回折線(45.4°)であり、走査する角度範囲は、ムライトについて15.5°〜17°、γ−Al23について43°〜49°とした。走査速度は0.2°/minとし、サンプリングは0.01°ずつ行った。発散スリットは1.0°、受光スリットは0.15mm、散乱スリットは1.0°、モノクロメータースリットは0.6mmとした。
【0057】
そして、以上のX線回折の結果から、ムライトの積分強度IA及びγ−Al23の積分強度IBを算出した。積分強度算出の際の積分範囲は、ムライトについて16.1°〜16.6°、γ−Al23について43.8°〜48.4°とした。なお、各積分強度IA,IBの算出は、実際の計数値から、バックグラウンドの白色X線の計数値を減算して行った。次に、積分強度比YをY=IA/IBの式に従って求め、これに検量線式の係数cを乗じることで、結晶化率Xを算出した(X=cY)。なお、今回のサンプルで使用される無機繊維集合体の場合、c=1.60であった。
【0058】
また、溶融部の直径の測定は、以下のようにして行った。即ち、レーザによって切断されたサンプルについて、そのレーザ切断面を含む一部を、カッターナイフで切り取って採取した。これを走査型電子顕微鏡にセットし、レーザ切断面におけるサンプル厚み方向中央の部分を倍率100倍で写真撮影した。そして、写真の中で確認された、繊維が溶けて略球状になった部分について、それぞれの最大長さと最小長さの平均値(平均直径)を求め、これを当該略球状部分(溶融部)の直径とした。この直径を、写真で観察された略球状となった部分(溶融部)の全てについて求め、その平均を溶融部の直径の平均値とした。
【0059】
図6には、上記のようにして求めた結晶化率及び溶融部の直径が併せて示されている。この結果から、切断面の結晶化率がほぼ80%以下の範囲となるようにレーザで切断すると、繊維飛散を良好に低減できることが判る。また、結晶化率が30%以上80%以下の範囲では、結晶化率が小さくなるほど繊維飛散率を低減できることが判る。
【0060】
次に、無機繊維集合体の切断面以外の面(表側及び裏側の面)についても加熱処理を行った4つのサンプル(第7〜第10サンプル)を作成した。この4つのサンプルにおいて、切断時のレーザ出力及び加工速度は、前記第1〜第4サンプルと全く同様に設定した。また、第7〜第10サンプルには前記第1〜第6サンプルと同じ無機繊維集合体を使用し、切断形状を第1〜第6サンプルと同じく100mm×100mmの正方形とした。
【0061】
そして、この第7〜第10サンプルにおいては更に、切断面以外の面(表側及び裏側の面)に前記レーザ加工装置のレーザを照射した。即ち、切断した無機繊維集合体の表層から前記ノズルを所定の距離だけ離した状態でレーザを走査しつつ照射することで、表側及び裏側の面を全面的に加熱処理した。無機繊維集合体(被照射面)と、レーザ光42を照射するノズル部45との間の距離は、100mmで一定とした。
【0062】
上記のレーザ照射の際、第7〜第10サンプルの何れにおいても、レーザの出力は100Wで一定とした。一方、加工速度は、照射後の表面の結晶化率が、対応する前述の第1〜第4サンプルにおける切断面の結晶化率と同程度となるように調整した。結局、加工速度は、第7サンプルについて2000mm/min、第8サンプルについて1500mm/min、第9サンプルについて1000mm/min、第10サンプルについて500mm/minと設定した。
【0063】
そして、上記の第7〜第10サンプルのそれぞれについて、図5に示す試験装置を使用して繊維飛散性試験を行った。図7のグラフは、この繊維飛散性試験によって得られた繊維飛散率を示している。なお、図7のグラフには、前記第7〜第10サンプルのほか、前述の第5及び第6サンプルの結果も併せて示した。
【0064】
また、この第7〜第10サンプルについても第1〜第4サンプルと同様に、レーザ照射部分の結晶化率を算出した。更に、切断面で繊維が溶けて略球状となった部分(溶融部)の直径についても併せて測定した。
【0065】
図7には、上記の結晶化率及び溶融部の直径が示されている。この測定結果に示すように、第7〜第10サンプルの結晶化率は、対応する第1〜第4サンプル(図6)とほぼ等しい結晶化率となっており、約80%以下の値を示している。また、溶融部の直径も、第7〜第10サンプルは、対応する第1〜第4サンプルと実質的に同等の大きさとなっている。
【0066】
図7のグラフで示すように、レーザで切断し、更に表側及び裏側の面にレーザを照射した第7〜第10サンプルは、打抜き刃で切断した場合(第5サンプル)に比べて、何れも大幅に繊維飛散率が改善されている。なお、図8には、打抜き刃で切断した第5サンプル、レーザ切断を行った第1〜第4サンプル、並びに、レーザ切断及びレーザ照射を行った第7〜第10サンプルについて、結晶化率と繊維飛散率の関係を示した。
【0067】
切断面以外の面にレーザを照射した点に関しては、第7〜第9サンプルは、レーザ切断のみのサンプル(第1〜第3サンプル)と比較すると、繊維飛散率が一層改善されている。第10サンプル(結晶化率75%付近)については、対応する第4サンプルよりも繊維飛散率が若干悪化しているが、それでも、打抜き刃で切断した第5サンプルよりは繊維飛散率が十分に改善されていることが判る。
【0068】
以上の結果を総合すれば、照射部分の結晶化率が80%以下、好ましくは70%以下となるようにレーザ照射を行うことで、繊維の飛散を良好に低減できるという知見を得ることができる。
【0069】
また、参考例として示した第6サンプルは、打抜き刃で切断したにもかかわらず、最も繊維飛散率が低い第7サンプルと同等の良好な繊維飛散率(0.05%)を示している。しかしながら、第6サンプルのように切断面をテープで封止する場合、そのテープの分だけ有機量が増大することになる。図7の第6サンプルの場合、切断面をテープで封止したことによる有機分の増加を計算すると、約4%であった。一方、第1〜第4サンプル及び第7〜第10サンプルは、上記のような有機分の増加なしに繊維飛散率を低減することができる。従って、有機分の低減ニーズに良好に応えることができる。
【0070】
以上に示すように、本実施形態の保持シール材14として使用される無機繊維マットは、無機繊維集合体21を切断してなり、また、外部に露出する表面(切断面並びに表側及び裏側の面)の無機繊維が加熱処理され互いに融着されている。
【0071】
これにより、無機繊維マットにおいて表面が加熱処理されることで、当該表面の繊維が図4(a)に示すように溶融して周囲の繊維に融着し、飛散しにくくなる。従って、無機繊維マットからの繊維飛散を有効に低減でき、図2に示すような触媒コンバータ11に保持シール材14を組み付ける組立作業の環境を向上できる。また、表面の加熱により繊維の先端が図4(a)のように溶融して丸みを帯びた形状に変化するので、作業者が表面に触れたときの刺激感、不快感を低減することができる。
【0072】
更に、有機バインダーを増量することなく繊維飛散を良好に低減できるので、必要な有機バインダー量を低減できる。従って、無機繊維マットの硬度が増加しないので、図2のように保持シール材14を触媒担体12に巻き付ける作業が簡単になり、触媒コンバータ11の組立作業性が向上する。また、有機バインダーが増量されないので、触媒コンバータ11の使用開始当初に有機バインダーが燃焼するときの臭気の問題や、有機バインダーの燃焼による消失後に保持シール材14の反発力が低下して触媒担体を保持できなくなる問題が生じにくくなる。
【0073】
また、前記無機繊維マットにおいて、前記加熱処理された面の結晶化率が80%以下となっている。
【0074】
これにより、繊維飛散を一層良好に低減することができる。
【0075】
また、無機繊維マットの外部に露出する表面(例えば、図4(a)に示す切断面)には、丸みを帯びた溶融部が形成されている。そして、前記表面に露出した繊維同士が前記溶融部によって架橋されている。
【0076】
これにより、外部に露出している繊維を溶融部によって架橋できるので、繊維の表面からの離脱を効果的に防止でき、繊維飛散性を良好に抑制できる。また、無機繊維マットの表面に手で触れたときの刺激感、不快感を低減することができる。
【0077】
また、前記無機繊維マットは、図3に示すように、無機繊維集合体21が炭酸ガスレーザ加工装置41で切断されることにより製造されている。
【0078】
これにより、無機繊維集合体21を切断する切断工程と、その切断面を加熱処理する加熱処理工程と、をレーザで同時に行うことができる。従って、無機繊維マットを簡単に製造できる。また、レーザによる加熱溶融切断であるから、無機繊維集合体21の切断面の全面が漏れなく加熱処理されることになる。従って、切断面の全面の繊維を確実に溶融させることができ、繊維の飛散を一層低減できる。
【0079】
また、前記無機繊維集合体21は、図3に示すように、複数枚重ねた状態でレーザによって同時に切断される。
【0080】
これにより、一度に多くの無機繊維集合体21を切断し、その切断面を加熱処理できる。従って、保持シール材14の製造効率が一層向上する。なお、複数枚の無機繊維集合体21を重ねた状態で仮に打抜き刃で切断しようとする場合、厚みが大きいために、打抜き刃と接触する部分の無機繊維集合体21が切断の際に潰れるように変形し易く、無機繊維マット(保持シール材14)の寸法精度が低下するおそれがある。しかしながら、本実施形態ではレーザによる非接触切断であるので、無機繊維集合体21を複数枚重ねた状態でも正確な寸法に切断することができる。
【0081】
以上に本発明の好適な実施形態を説明したが、以上の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0082】
無機繊維集合体21は、炭酸ガスレーザ加工装置41に限定されず、例えばYAGレーザ、エキシマレーザ、He−Neレーザ、ファイバーレーザ又はダイオードレーザ等を用いたレーザ加工装置によって切断するように変更することができる。また、無機繊維集合体21の表側及び裏側の面のレーザ加工についても、上記の様々なレーザ加工装置を使用して行うことができる。
【0083】
図3では無機繊維集合体21を3枚重ねて切断する様子を図示しているが、一度に切断する枚数は1枚又は2枚であっても良いし、4枚以上であっても良い。ただし、製造効率の観点からは、一度に多数枚の無機繊維集合体21を切断するのが好ましい。
【0084】
無機繊維集合体21の切断は、レーザ加工装置によらず、例えば前記打抜き刃によって切断するように変更することができる。この場合、切断工程後にその切断面を、無機質繊維が溶融する温度(例えば、アルミナ−シリカ組成の無機繊維集合体21の場合、1800℃〜1850℃)以上の温度に例えばレーザ照射やバーナー等で加熱処理する加熱処理工程を行えば、繊維飛散量が少ない無機繊維マットを得ることができる。即ち、切断によって長さが短くなった無機繊維集合体切断面は繊維飛散量が多いが、加熱による溶融処理により効果的に繊維飛散を防止できる。
【0085】
前記保持シール材14は、触媒コンバータ11の触媒担体12をシェル13内に保持する場合に限らず、例えばディーゼルエンジンにおいて生成される粒子状物質を捕集するDPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)をシェル内に保持する用途に使用することができる。
【0086】
無機繊維集合体の外部に露出する表面の全面を加熱処理することに代えて、表面の一部を加熱処理するように変更することができる。例えば、無機繊維集合体の切断面以外の面に対するレーザ照射処理を省略することができる。この場合でも、繊維が離脱し易い切断面を加熱処理することで、繊維の飛散を効果的に防止することができる。
【0087】
無機繊維集合体を保持シール材の形状にレーザで切断する前に、その表側及び裏側の面にレーザを照射する処理を行うように変更することができる。
【0088】
前記無機繊維マットは、前記触媒担体又はDPFを保持する保持シール材として使用することに限定されない。例えば、前記無機繊維マットを、四輪車や二輪車等の車両のマフラーに用いられる消音材として使用することができる。この場合、マフラーのインナーマフラーとアウターマフラーとの間に当該消音材を組み付ける際の作業環境を良好にすることができ、また、手で触れたときの不快感や刺激感を低減することができる。
【0089】
無機繊維集合体21の厚み及び切断形状は、使用される製品の用途や大きさ等に応じて適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0090】
11 触媒コンバータ(排気ガス浄化装置)
12 触媒担体(排ガス処理体)
13 シェル(ケーシング)
14 保持シール材(無機繊維マット)
21 無機繊維集合体
31 エンジン(内燃機関)
41 炭酸ガスレーザ加工装置(レーザ加工装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機繊維集合体を切断してなり、切断面以外の表面の少なくとも一部に対し、レーザの照射による加熱処理がされている無機繊維マットを含み、
排気管に接続されることを特徴とする排気ガス浄化装置。
【請求項2】
請求項1に記載の排気ガス浄化装置であって、
前記無機繊維集合体はレーザにより切断されることを特徴とする排気ガス浄化装置。
【請求項3】
請求項2に記載の排気ガス浄化装置であって、
前記無機繊維集合体は、複数枚重ねた状態で前記レーザにより同時に切断されることを特徴とする排気ガス浄化装置。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の排気ガス浄化装置であって、
前記無機繊維マットは、前記加熱処理された面の結晶化率が30%以上80%以下であることを特徴とする排気ガス浄化装置。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載の排気ガス浄化装置であって、
ケーシングと、排ガス処理体と、を備え、
前記無機繊維マットは、前記ケーシングと、前記排ガス処理体との間に配置されることを特徴とする排気ガス浄化装置。
【請求項6】
無機繊維マットを含んで構成されるとともに排気管に接続され、排気ガスを浄化する排気ガス浄化装置の製造方法において、
無機繊維集合体を切断して無機繊維マットを作成する切断工程と、
この無機繊維マットの切断面以外の表面の少なくとも一部をレーザにより加熱処理する加熱処理工程と、
を含むことを特徴とする排気ガス浄化装置の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の排気ガス浄化装置の製造方法であって、
前記切断工程では、前記無機繊維集合体は、前記レーザにより切断されることを特徴とする排気ガス浄化装置の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の排気ガス浄化装置の製造方法であって、
前記切断工程では、前記無機繊維集合体は、複数枚重ねた状態で前記レーザにより同時に切断されることを特徴とする排気ガス浄化装置の製造方法。
【請求項9】
請求項6から8までの何れか一項に記載の排気ガス浄化装置の製造方法であって、
前記加熱処理工程で加熱処理された前記無機繊維マットの面の結晶化率が30%以上80%以下であることを特徴とする排気ガス浄化装置の製造方法。
【請求項10】
請求項6から9までの何れか一項に記載の排気ガス浄化装置の製造方法であって、
前記無機繊維マットを巻き付けた排ガス処理体を排気ガス浄化装置のケーシングの内側に配置する工程を含むことを特徴とする排気ガス浄化装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−237315(P2012−237315A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−158661(P2012−158661)
【出願日】平成24年7月17日(2012.7.17)
【分割の表示】特願2007−248918(P2007−248918)の分割
【原出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】