説明

排気マニホールドの接続構造

【課題】
排気マニホールドの被接続端面及び過給機のハウジングの被接続端面をインロー構造とし、かかるインロー構造を介して双方の被接続端面を嵌合することにより形成される開先形状部で双方を溶接した排気マニホールドの接続構造において、双方を嵌合するときにセット不良を起こさず、結果として溶接不良を生じない排気マニホールドの接続構造を提供する。
【解決手段】
排気マニホールドの被接続端面及び過給機のハウジングの被接続端面を傾斜角20〜40度の傾斜面が少なくとも1.5往復するインロー構造とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は排気マニホールドの接続構造に関する。例えば内燃機関の排気マニホールドと過給機及びそのハウジングとを別個に鋳造し、鋳造した排気マニホールドと過給機のハウジングとを接続することが行なわれる。双方の接続構造には、ボルトとナットとを使用した接続構造、摩擦圧接による接続構造、溶接による接続構造等が知られているが、これらのうちで本発明は、排気マニホールドの溶接による接続構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、前記のような排気マニホールドの接続構造として、排気マニホールドの被接続端面及び過給機のハウジングの被接続端面にフランジを設け、双方のフランジをボルトとナットとで締め付けて双方を接続したものが知られている。しかし、かかる従来の接続構造には、双方を接続するための部品点数及び工数が多く、重量に富み、接続部の熱変形によるガス漏れを起こし易いという問題がある。そこで従来、これらの問題を改善する排気マニホールドの接続構造として、排気マニホールドの被接続端面及び過給機のハウジングの被接続端面を摩擦圧接により接続したものが提案されている(例えば特許文献1及び2参照)。しかし、かかる従来の接続構造には、摩擦圧接によりバリが生じるのを避けられないため、特に排気路に相当する内面側に生じたバリが円滑な排気を妨げ、場合によってはバリの一部が脱落して過給機の運転に支障をきたすという問題がある。
【0003】
そこで新たに従来、前記のような問題を改善する排気マニホールドの接続構造として、排気マニホールドの被接続端面及び過給機のハウジングの被接続端面をインロー構造とし、かかるインロー構造を介して双方の被接続端面を嵌合することにより形成される開先形状部で双方を溶接したものが提案されている(例えば特許文献3参照)。しかし、かかる従来の接続構造には、双方の被接続端面のインロー構造が一般的な構造、言い替えれば簡単な構造であるため、双方の被接続端面を嵌合するときに芯ズレを起こしてガタを生じ易く、かかるいわばセット不良のままで溶接する結果、溶接不良を生じ易いという問題がある。
【特許文献1】特開平9−242539号公報
【特許文献2】特開2002−161741号公報
【特許文献3】特開2002−30928号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、排気マニホールドの被接続端面及び過給機のハウジングの被接続端面をインロー構造とし、かかるインロー構造を介して双方の被接続端面を嵌合することにより形成される開先形状部で双方を溶接した排気マニホールドの接続構造において、双方を嵌合するときにセット不良を起こさず、結果として溶接不良を生じない排気マニホールドの接続構造を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の課題を解決する本発明は、排気マニホールドの被接続端面及び過給機のハウジングの被接続端面をインロー構造とし、かかるインロー構造を介して双方の被接続端面を嵌合することにより形成される開先形状部で双方を溶接した排気マニホールドの接続構造において、排気マニホールドの被接続端面及び過給機のハウジングの被接続端面を傾斜角20〜40度の傾斜面が少なくとも1.5往復するインロー構造としたことを特徴とする排気マニホールドの接続構造に係る。
【0006】
本発明に係る排気マニホールドの接続構造(以下単に本発明の接続構造という)も、排気マニホールドの被接続端面及び過給機のハウジングの被接続端面をインロー構造とし、かかるインロー構造を介して双方の被接続端面を嵌合することにより形成される開先形状部で双方を溶接した構造となっている。本発明の接続構造では、排気マニホールドの被接続端面及び過給機のハウジングの被接続端面におけるインロー構造が、傾斜角20〜40度の傾斜面が少なくとも1.5往復するインロー構造となっている。ここで傾斜角は、傾斜面が上がる場合の仰角又は傾斜面が下がる場合の俯角を意味する。傾斜角が20度未満であると、排気マニホールドの被接続端面及び過給機のハウジングの被接続端面に形成するインロー構造がそれだけ鋭角の開先加工となるため、そのようなインロー構造の加工精度が悪くなって、双方の被接続端面を嵌合するときにセット不良を起こし易く、逆に傾斜角が40度超であると、また傾斜面が1.5往復未満であると、全体として嵌め合い代が短くなるため、結果としては同様となるが、双方の被接続端面を嵌合するときにセット不良を起こし易い。かかるセット不良が溶接不良につながることはいうまでもないが、このようなセット不良及びこれによる溶接不良をより良く防止するためには、排気マニホールドの被接続端面及び過給機のハウジングの被接続端面に形成するインロー構造を、傾斜角25〜35度の傾斜面が少なくとも1.5往復するインロー構造とするのが好ましく、1.5〜2.0往復するインロー構造とするのがより好ましい。
【0007】
本発明の接続構造において、前記のようなセット不良及びこれによる溶接不良を更により良く防止するためには、排気マニホールドの被接続端面及び過給機のハウジングの被接続端面におけるインロー構造を、ルート面の高さが板厚の20〜35%となるようにするのが好ましい。ここで板厚は、双方の被接続部における管材の肉厚を意味する。ルート面の高さが板厚の20%未満であると、それだけインロー構造の形成面が小さくなるため、インロー構造の加工精度が悪くなって、双方の被接続端面を嵌合するときにセット不良を起こし易くなる傾向を示し、逆にルート面の高さが板厚の35%超であると、それだけインロー構造の形成面が大きくなるため、嵌め合い代が長くなり過ぎて、結果としては同様となるが、双方の被接続端面を嵌合するときにセット不良を起こし易くなる傾向を示す。ここでも、セット不良が溶接不良につながることはいうまでもない。
【0008】
本発明の接続構造において、排気マニホールドの被接続端面及び過給機のハウジングの被接続端面におけるインロー構造は、双方の被接続端面を嵌合したとき、ルート面の上方の開先形状部に双方の被接続部と平行する平行面が形成されるようにするのが好ましく、またルート面の下方の内面側に0.3〜1.0mmRの面取り部が形成されるようにするのが好ましい。双方の被接続端面を嵌合することにより形成される開先形状部を、この状態で双方を回転させつつ溶接トーチで溶接するとき、前記のように平行面を形成しておくと、開先形状部の平行面と溶接トーチの先端との距離を一定に保つことができるため、溶接性が良くなるからであり、また前記のように面取り部を形成しておくと、内面側の面取り部で所謂溶接垂れを吸収できるため、排気マニホールドから過給機への円滑な排気を促すことができるからである。
【0009】
本発明の接続構造において、排気マニホールドの被接続端面及び過給機のハウジングの被接続端面を嵌合することにより形成される開先形状部での溶接はその種類乃至形態を特に制限されないが、TIG溶接(ティグ溶接)又はMIG溶接(ミグ溶接)が好ましい。それは、溶接性を更に向上できるからである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の接続構造によると、排気マニホールドの被接続端面及び過給機のハウジングの被接続端面をインロー構造とし、かかるインロー構造を介して双方の被接続端面を嵌合することにより形成される開先形状部で双方を溶接するとき、双方のセット不良を起こさず、溶接不良を生じないという効果がある。
【実施例】
【0011】
図1は本発明の接続構造において排気マニホールドの被接続端面及び過給機のハウジングの被接続端面に形成されたインロー構造を双方の嵌合及び溶接前の状態で示す部分拡大縦断面図、図2は図1と同じインロー構造を排気マニホールドの被接続端面及び過給機のハウジングの被接続端面の嵌合後溶接前の状態で示す部分拡大縦断面図、図3は図1及び図2のインロー構造を有する排気マニホールドの被接続端面及び過給機のハウジングの被接続端面を嵌合することにより形成される開先形状部で双方を溶接した本発明の接続構造を示す部分縦断面図である。
【0012】
図1において、排気マニホールド(図示しない、以下同じ)の接続管11と過給機のハウジング(図示しない、以下同じ)の接続管21とが相対した近接位置にあり、双方の被接続端面12,22にインロー構造が形成されている。双方のインロー構造は、傾斜角Aが30度の傾斜面13,23が1.5往復したインロー構造となっている。
【0013】
図2において、排気マニホールドの接続管11の被接続端面12と過給機のハウジングの接続管21の被接続端面22とが前記したインロー構造を介して嵌合されている。双方の被接続端面12,22におけるインロー構造は、ルート面の高さBが双方の接続管11,21の被接続部14,24における板厚(被接続部14,24における接続管11,21の肉厚)Cの0.30倍となっている。またルート面の上方に形成された開先形状部Dには双方の接続管11,21の被接続部14,24と平行する平行面31が形成されており、したがって開先形状部Dは変形V型となっていて、ルート面の下方における内面側には0.5mmRの面取り部32が形成されている。
【0014】
図3において、排気マニホールドの接続管11と過給機のハウジングの接続管21とは、前記のように双方の被接続端面12,22を嵌合することにより形成される開先形状部DでTIG溶接により溶接されている。
【0015】
排気マニホールド及び過給機のハウジングにおける双方の接続管(共にGIS−G5121で規定されたSCS1製)の被接続端面に形成したインロー構造を表1記載のように変え、その他は図1〜3について前記したよう同一条件下で、双方をTIG溶接した。双方の接続管の被接続端面を嵌合するときのセット性及び更にTIG溶接したときの溶接性を次のように評価し、結果を表1にまとめて示した。
【0016】
セット性
◎:R2が0.1度以下で極めて良好(芯ズレが殆どない)
○:R2が0.1度超0.2度以下で良好(芯ズレが少しあるが、許容範囲内)
×:R2が0.2度超で不良(芯ズレが大きく、溶接に不向き)
溶接性
○:裏波ビード高さが2mm以下で良好
×:裏波ビード高さが2mmよりも大きくてやや不良
××:融合不良が生じていて不良
×××:裏波ビード高さが2mmよりも大きく且つ融合不良も生じていて極めて不良






【0017】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の接続構造において排気マニホールドの被接続端面及び過給機のハウジングの被接続端面に形成されたインロー構造を双方の嵌合及び溶接前の状態で示す部分拡大縦断面図。
【図2】図1と同じインロー構造を排気マニホールドの被接続端面及び過給機のハウジングの被接続端面の嵌合後溶接前の状態で示す部分拡大縦断面図。
【図3】図1及び図2のインロー構造を有する排気マニホールドの被接続端面及び過給機のハウジングの被接続端面を嵌合することにより形成される開先形状部で双方を溶接した本発明の接続構造を示す部分縦断面図。
【符号の説明】
【0019】
11,21 接続管
12,22 被接続端面
13,23 傾斜角
14,24 被接続部
31 平行面
32 面取り部
A 傾斜角
B ルート面の高さ
C 板厚
D 開先形状部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気マニホールドの被接続端面及び過給機のハウジングの被接続端面をインロー構造とし、かかるインロー構造を介して双方の被接続端面を嵌合することにより形成される開先形状部で双方を溶接した排気マニホールドの接続構造において、排気マニホールドの被接続端面及び過給機のハウジングの被接続端面を傾斜角20〜40度の傾斜面が少なくとも1.5往復するインロー構造としたことを特徴とする排気マニホールドの接続構造。
【請求項2】
排気マニホールドの被接続端面及び過給機のハウジングの被接続端面を傾斜角25〜35度の傾斜面が少なくとも1.5往復するインロー構造とした請求項1記載の排気マニホールドの接続構造。
【請求項3】
排気マニホールドの被接続端面及び過給機のハウジングの被接続端面におけるインロー構造を、ルート面の高さが板厚の20〜35%となるようにした請求項1又は2記載の排気マニホールドの接続構造。
【請求項4】
排気マニホールドの被接続端面及び過給機のハウジングの被接続端面におけるインロー構造を、双方の被接続端面を嵌合したとき、ルート面の上方の開先形状部に双方の被接続部と平行する平行面が形成されるようにした請求項1〜3のいずれか一つの項記載の排気マニホールドの接続構造。
【請求項5】
排気マニホールドの被接続端面及び過給機のハウジングの被接続端面におけるインロー構造を、双方の被接続端面を嵌合したとき、ルート面の下方の内面側に0.3〜1.0mmRの面取り部が形成されるようにした請求項1〜4のいずれか一つの項記載の排気マニホールドの接続構造。
【請求項6】
溶接がTIG溶接又はMIG溶接である請求項1〜5のいずれか一つの項記載の排気マニホールドの接続構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−226259(P2006−226259A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−44166(P2005−44166)
【出願日】平成17年2月21日(2005.2.21)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【出願人】(502230882)株式会社大同キャスティングス (32)
【Fターム(参考)】