説明

排気分析方法および排気分析システム

【課題】本発明は、内燃機関の排気中のカルシウムを定量することを課題とする。
【解決手段】内燃機関の排気に含まれる水溶性カルシウム成分および非水溶性カルシウム成分を回収し、これらを硫酸と反応させると共に水分を蒸発させて硫酸処理物を形成させる。次に、非水溶性カルシウム成分を元に形成された硫酸処理物を高温で加熱することで可溶化させて可溶化処理物を形成させる。そして、水溶性カルシウム成分を元に形成された硫酸処理物および非水溶性カルシウム成分を元に形成された可溶化処理物それぞれを溶媒に溶解させ、その溶液中のカルシウムを定量分析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気を分析する排気分析方法および排気分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、排気中の粒子状物質(Particulate Matter:以下、PMと称する)に含まれる成分を分析する技術が記載されている。この特許文献1では、CO濃度変換法により分析された成分とソクスレー摘出法により分析された成分との相関関係に基づいて、CO濃度変換法により分析された成分データ値をソクスレー摘出法値に換算する。
【0003】
また、特許文献2には、試料中のイオン分析に用いられるイオンクロマトグラフィー用の溶離液として、酸と、ヒスチジン、リシンまたはアルギニンから選ばれる1種以上のアミノ酸からなる、2価陽イオン分析用クロマトグラフィー溶離液が開示されている。
【特許文献1】特開平8−285836号公報
【特許文献2】特開2002−267642号公報
【特許文献3】特開2004−184191号公報
【特許文献4】国際公開第01/092862号パンフレット
【特許文献5】特公平7−58264号公報
【特許文献6】特許第3322420号公報
【特許文献7】特開平6−207890号公報
【特許文献8】特開平9−243050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内燃機関の排気に含まれるPMを捕集するために排気通路にパティキュレートフィルタを設ける場合がある。このパティキュレートフィルタにおいて排気に含まれるカルシウム(Ca)を主成分とするアッシュが生成され堆積すると該パティキュレートフィルタの目詰まりが生じる虞がある。
【0005】
そのため、パティキュレートフィルタにおけるアッシュの堆積量を低減させるために、アッシュの生成メカニズムの解析や、パティキュレートフィルタの構造または材質等の変更によるアッシュの堆積量への影響の調査などが行われている。このような解析や調査のためには、アッシュの主成分であるカルシウムの排気中における量を検出することが重要である。しかしながら、従来、排気中のカルシウムを定量する方法がなかった。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであって、内燃機関の排気中のカルシウムを定量することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、内燃機関の排気に含まれる水溶性カルシウム成分および非水溶性カルシウム成分を回収し、これらを硫酸と反応させると共に水分を蒸発させて硫酸処理物を形成させる。次に、非水溶性カルシウム成分を元に形成された硫酸処理物を高温で加熱することで可溶化させて可溶化処理物を形成させる。そして、水溶性カルシウム成分を元に形成された硫酸処理物および非水溶性カルシウム成分を元に形成された可溶化処理物それぞれを溶媒に溶解させ、その溶液中のカルシウムを定量分析する。
【0008】
より詳しくは、第一の発明に係る排気分析方法は、
内燃機関の排気に含まれる水溶性カルシウム成分を回収する第一回収工程と、
内燃機関の排気に含まれる非水溶性カルシウム成分を回収する第二回収工程と、
前記第一回収工程で回収された水溶性カルシウム成分および前記第二回収工程で回収された非水溶性カルシウム成分を硫酸と反応させ、さらに第一所定温度で加熱して水分を蒸発させることで硫酸処理物を形成させる硫酸処理工程と、
前記第二回収工程で回収された非水溶性カルシウム成分を前記硫酸処理工程で処理することで得られた硫酸処理物を前記第一所定温度よりも高い第二所定温度で加熱することで可溶化させて可溶化処理物を形成させる可溶化工程と、
前記第一回収工程で回収された水溶性カルシウム成分を前記硫酸処理工程で処理することで得られた硫酸処理物および前記可溶化工程で得られた可溶化処理物を溶媒に溶解させ、その溶液中のカルシウムを定量分析する定量分析工程と、
を含むことを特徴とする。
【0009】
内燃機関の排気には、水溶性カルシウム成分および非水溶性カルシウム成分としてカルシウムが含まれている。本発明では、この両者が第一および第二回収工程でそれぞれ回収される。
【0010】
また、本発明では、第一回収工程で回収された水溶性カルシウム成分および第二回収工程で回収された非水溶性カルシウム成分を硫酸処理工程において硫酸と反応させる。これにより、水溶性カルシウムおよび非水溶性カルシウム成分を硫酸処理物とすることが出来る。つまり、リン酸カルシウムや硝酸カルシウム、炭酸カルシウムのような化合物として排気に存在したカルシウムを、より蒸発または分解し難い硫酸カルシウムに変換することが出来る。
【0011】
尚、硫酸処理工程における第一所定温度は、水分を蒸発させることが可能な温度である。
【0012】
また、本発明では、第二回収工程で回収された非水溶性カルシウム成分を硫酸処理工程で処理することで得られた硫酸処理物を、可溶化工程において第二所定温度で加熱することで可溶化する。非水溶性カルシウム成分にはカルシウムの溶解の妨げとなる物質が含まれている。非水溶性カルシウム成分を硫酸処理工程で処理することで得られた硫酸処理物を高温で加熱することでこのような物質を酸化させ除去することが出来る。その結果、非水溶性の硫酸処理物が可溶化し可溶化処理物が形成される。また、硫酸処理工程で処理された非水溶性カルシウム成分を高温で加熱するとカルシウムと硫酸の反応を促進させることが出来る。
【0013】
尚、可溶化工程における第二所定温度は、非水溶性カルシウム成分に含まれるカルシウムの溶解の妨げとなる物質を酸化することが可能な温度である。
【0014】
そして、本発明では、第一回収工程で回収された水溶性カルシウム成分を硫酸処理工程で処理することで得られた硫酸処理物および可溶化工程で得られた可溶化処理物を溶媒に溶解させ、その溶液中のカルシウムを定量分析する。
【0015】
以上のように、本発明によれば、内燃機関の排気中のカルシウムを定量することが出来る。
【0016】
本発明においては、第二所定温度を、PMを酸化することが可能な温度の下限値以上であり且つカルシウムの融点より低い温度であるとしてもよい。
【0017】
非水溶性カルシウム成分においてはPMがカルシウムの溶解の妨げとなる物質となっている場合がある。また、可溶化工程において硫酸処理物に含まれていたカルシウムが融解
すると、硫酸処理物が入っている容器に該カルシウムが溶けこむ虞がある。
【0018】
可溶化工程における第二所定温度を上記のような温度とすることで、非水溶性カルシウム成分に含まれていたPMを酸化させることが出来、その結果、非水溶性カルシウム成分を硫酸処理工程で処理することで得られた硫酸処理物を可溶化することが出来る。また、硫酸処理物が入っている容器にカルシウムが溶けこむのを抑制することが出来、その結果、排気中のカルシウムをより精度良く定量することが可能となる。
【0019】
本発明においては、第一回収工程が、排気を水に導入し、該水に水溶性カルシウム成分を溶解させることで該水溶性カルシウム成分を回収する工程であってもよい。また、第二回収工程が、排気をフィルタに導入し、非水溶性カルシウム成分を該フィルタで捕集することで該非水溶性カルシウム成分を回収する工程であってもよい。
【0020】
また、第二の発明に係る排気分析システムは、
内燃機関の排気に含まれる水溶性カルシウム成分を回収する第一回収手段と、
内燃機関の排気に含まれる非水溶性カルシウム成分を回収する第二回収手段と、を有する回収装置と、
前記第一回収手段によって回収された水溶性カルシウム成分および前記第二回収手段によって回収された非水溶性カルシウム成分を硫酸と反応させ、さらに第一所定温度で加熱して水分を蒸発させることで硫酸処理物を形成させる硫酸処理手段と、
前記第二回収手段によって回収された非水溶性カルシウム成分を前記硫酸処理手段によって処理することで得られた硫酸処理物を前記第一所定温度よりも高い第二所定温度で加熱することで可溶化させて可溶化処理物を形成させる可溶化手段と、を有し、
前記第一回収手段によって回収された水溶性カルシウム成分を前記硫酸処理手段によって処理することで得られた硫酸処理物および前記第二回収手段によって回収された非水溶性カルシウム成分を前記硫酸処理手段によって処理することで得られた硫酸処理物をさらに前記可溶化手段によって処理することで得られた可溶化処理物を溶媒に溶解させ、その溶液中のカルシウムを定量分析する定量分析装置と、
を備えることを特徴とする。
【0021】
ここで、第一所定温度および第二所定温度は、それぞれ、第一の発明と同様、水分を蒸発させることが可能な温度および非水溶性カルシウム成分に含まれるカルシウムの溶解の妨げとなる物質を酸化することが可能な温度である。
【0022】
本発明によっても、内燃機関の排気中のカルシウムを定量することが出来る。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る排気分析方法および排気分析システムによれば、内燃機関の排気中のカルシウムを定量することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明に係る排気分析方法および排気分析システムの具体的な実施形態について図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0025】
<カルシウム成分回収方法>
内燃機関の排気中のカルシウムを定量するためには、先ず排気中のカルシウム成分を回収する必要がある。図1は、本実施例に係る排気中のカルシウム成分を回収するための回収装置の概略構成を示す図である。
【0026】
本実施例に係る回収装置10の貯水槽1には氷水が入っており、該貯水槽1の氷水の中に第一吸収瓶2および第二吸収瓶3が途中まで挿入されている。第一吸収瓶2の中には、貯水槽1の氷水の水面よりも低い位置まで水が入っている。
【0027】
第一吸収瓶2には一端が内燃機関の排気通路に接続されており該一端から排気が流入する第一排気流通管4の他端側が挿入されている。該第一排気流通管4の他端は第一吸収瓶2内の水中に位置している。また、第一吸収瓶2には第二排気流通管5の一端側が挿入されている。該第二排気流通管5の一端は第一吸収瓶2内の空気中に位置している。
【0028】
第二吸収瓶3には第二排気流通管5の他端側が挿入されている。第二吸収瓶3の他端は、第二吸収瓶3内における貯水槽1の氷水の水面よりも低い位置に位置している。また、第二吸収瓶3には第三排気流通管6の一端側が挿入されている。該第三排気流通管6の一端は、第二吸収瓶3内における貯水槽1の氷水の水面よりも高い位置に位置している。
【0029】
第三排気流通管6の途中にはフィルタ7が設けられている。また、第三排気流通管6におけるフィルタ7より下流側には排気を第三排気流通管6の一端側から他端側の方向(図1における矢印の方向)に圧送するポンプが設けられている。このポンプ8が作動することで、排気が、第一排気流通管4→第一吸収瓶2→第二排気流通管5→第二吸収瓶3→第三排気流通管6の順に流れる。
【0030】
排気が第一排気流通管4の一端から流入すると、該排気が第一排気流通管4を通って第一吸収瓶2内の水に導入される。これにより、排気中の水溶性カルシウム成分が第一吸収瓶2内の水に溶解する。つまり、排気中の水溶性カルシウム成分が第一吸収瓶2内に回収される。尚、本実施例においては、この水溶性カルシウム成分を第一吸収瓶2内に回収する工程が本発明に係る第一回収工程に相当する。
【0031】
続いて、水溶性カルシウム成分が取り除かれた排気が第一吸収瓶2から第二排気流通管5を介して第二吸収瓶3内に流入する。該排気が第二吸収瓶3内において冷却されることで、該排気中の水分が凝縮し該排気中から取り除かれる。
【0032】
続いて、水溶性カルシウム成分および水分が取り除かれた排気が第三排気流通管6を介してフィルタ7に流入する。これにより、排気中の非水溶性カルシウム成分がフィルタ7に捕集される。つまり、排気中の非水溶性カルシウム成分がフィルタ7内に回収される。尚、本実施例においては、この非水溶性カルシウム成分をフィルタ7内に回収する工程が本発明に係る第二回収工程に相当する。
【0033】
このように、回収装置10に内燃機関の排気を流すことで、該排気に含まれる水溶性カルシウム成分および非水溶性カルシウム成分の両方を回収することが出来る。
【0034】
尚、回収装置10においては、第一および第二、第三排気流通管4、5、6の材質は、排気中のカルシウムの付着が少ない材質(例えば、フッ素樹脂)であることが好ましい。また、第一および第二排気流通管4、5と第三排気流通管6の一端からフィルタ7までの長さは、これらへの排気中のカルシウムの付着を抑制するために可及的に短くするのが好ましい。
【0035】
また、回収装置10においては、第一吸収瓶2において排気中の水分を除去すると共に、第二吸収瓶3内に排気を導入するための水を入れておき該第二吸収瓶3内に水溶性カルシウム成分を回収してもよい。
【0036】
また、フィルタ7を第一排気流通管4に配置することで、排気中から水溶性カルシウム
成分を回収するよりも先に非水溶性カルシウム成分を回収してもよい。
【0037】
また、フィルタ7を複数設けてもよい。この場合、同一の排気流通管に複数のフィルタを配置してもよく、また、複数個所(例えば、第一排気流通管4と第三排気流通管6)にフィルタを配置してもよい。このように複数のフィルタを設置することで排気中からの非水溶性カルシウム成分の回収能力を向上させることが出来る。
【0038】
また、フィルタ7の材質は、該フィルタ7に捕集された非水溶性カルシウム成分を摘出し易い材質(例えば、セルロース)とするのが好ましい。
【0039】
<サンプル処理方法および定量分析方法>
次に、回収装置10によって回収された水溶性カルシウム成分および非水溶性カルシウム成分をカルシウムの定量分析が可能なサンプルとするための処理方法およびカルシウムの定量分析方法について説明する。
【0040】
先ず、回収装置10によって回収された水溶性カルシウム成分および非水溶性カルシウム成分を別々に加熱用容器に入れる。そして、加熱用容器に入れられた、水溶性カルシウム成分および非水溶性カルシウム成分に硫酸を加え、これらを硫酸と反応させる。さらに、水分を蒸発させるべくそれぞれの加熱用容器を電気炉に入れて第一所定温度で加熱する。以下、このような処理を硫酸処理と称する。ここで、第一所定温度は加熱用容器内の水分を蒸発させることが可能な温度であって予め定められている。
【0041】
排気中には、カルシウムが、硫酸カルシウムや、リン酸カルシウム、硝酸カルシウム、炭酸カルシウムのような化合物として存在している。そのため、水溶性カルシウム成分および非水溶性カルシウム成分においても、これらの化合物としてカルシウムが含まれている。そこで、水溶性カルシウム成分および非水溶性カルシウム成分に上記のような硫酸処理を施すことでこれらを硫酸処理物とする。これにより、リン酸カルシウムや硝酸カルシウム、炭酸カルシウム等を、硫酸カルシウムに変換することが出来る。
【0042】
硫酸カルシウムは他のカルシウムの化合物に比べて蒸発または分解し難い。そのため、水溶性カルシウム成分および非水溶性カルシウム成分中のリン酸カルシウムや硝酸カルシウム、炭酸カルシウム等を、硫酸カルシウムに変換してから、後述するようにカルシウムを定量分析することで、より精度よくカルシウムを定量することが可能となる。
【0043】
尚、本実施例においては、水溶性カルシウム成分および非水溶性カルシウム成分に硫酸処理物を施す工程が、本発明に係る硫酸処理工程に相当する。
【0044】
続いて、非水溶性カルシウム成分に硫酸処理を施すことで得られた硫酸処理物を可溶化すべく、該硫酸処理物を電気炉によって第一所定温度よりも高い第二所定温度で再度加熱する。以下、このような処理を可溶化処理と称する。
【0045】
非水溶性カルシウム成分にはPM(SOFを含む)が含まれており、該PM中にカルシウムが存在するために該カルシウムが溶解し難くなっている。そこで、非水溶性カルシウム成分に硫酸処理を施すことで得られた硫酸処理物にさらに可溶化処理を施すことでこれを可溶化処理物とする。これにより、非水溶性カルシウム成分中のカルシウムの溶解の妨げとなっていたPMを酸化させ除去することが出来る。また、硫酸処理物を高温で加熱するとカルシウムと硫酸の反応を促進させることが出来る。
【0046】
ここで、可溶化処理において、硫酸処理物を過剰に加熱すると、非水溶性カルシウム成分中のカルシウムが融解し該硫酸処理物が入っている加熱用容器に該カルシウムが溶け込
む虞がある。そのため、第二所定温度は、PMを酸化することが可能な温度の下限値以上であり且つカルシウムの融点より低い温度とする。これにより、非水溶性カルシウム成分を可溶化することが出来ると共にカルシウムの加熱用容器への溶け込みを抑制することが出来る。また、電気炉を過度に高温にすることによる不要な電力消費を抑えることも出来る。
【0047】
このように非水溶性カルシウム成分を可溶化することで、後述するような定量分析によって、該非水溶性カルシウム成分に含まれるカルシウムを定量することが可能となる。
【0048】
尚、本実施例においては、非水溶性カルシウム成分に硫酸処理を施すことで得られた硫酸処理物にさらに可溶化処理を施す工程が、本発明に係る可溶化処理工程に相当する。
【0049】
次に、上記のように水溶性カルシウム成分に硫酸処理を施すことで得られた硫酸処理物と非水溶性カルシウム成分に硫酸処理を施すことで得られた硫酸処理物にさらに可溶化処理を施すことで得られた可溶化処理物とに溶媒として水を加え、定量分析を行う水溶液を形成させる。
【0050】
そして、本実施例においては、この水溶液中のカルシウムをイオンクロマトグラフを利用して定量分析する。
【0051】
尚、本実施例においては、硫酸処理物と可溶化処理物とに水を加えて水溶液とし、この水溶液中のカルシウムをイオンクロマトグラフによって定量分析する工程が、本発明に係る定量分析工程に相当する。
【0052】
以上のように、本実施例によれば、内燃機関の排気中のカルシウムを定量することが出来る。
【0053】
本実施例に係るカルシウムの定量分析方法を利用して、内燃機関の排気通路におけるパティキュレートフィルタより上流側および下流側での排気中のカルシウムを定量し、これらの差を算出することで、パティキュレートフィルタにおけるアッシュの堆積量を推定することが可能となる。
【0054】
尚、本実施例においては、非水溶性カルシウム成分に硫酸処理を施すことで得られた硫酸処理物を可溶化処理するときに、水溶性カルシウム成分に硫酸処理を施すことで得られた硫酸処理物も同様に第二所定温度で加熱してもよい。上述したように、硫酸処理物を高温で加熱するとカルシウムと硫酸の反応を促進させることが出来る。そのため、上記によれば、水溶性カルシウム成分に含まれるカルシウムと硫酸の反応を促進させることが出来る。
【0055】
また、硫酸処理物を加熱すべく電気炉まで移動させる場合、該硫酸処理物の飛散を抑制するために、加熱用容器に蓋をするのが好ましい。一方、非水溶性カルシウム成分に硫酸処理を施すことで得られた硫酸処理物を可溶化処理するときに、加熱用容器に蓋をした状態で加熱すると、酸素不足が生じてPMが十分に酸化しない虞がある。そのため、可溶化処理においては加熱用容器の蓋をはずして加熱するのが好ましい。また、可溶化処理においては、PMの酸化をより促進させるために電気炉内を酸素雰囲気(空気雰囲気)とするのが好ましい。
【0056】
また、可溶化処理においては、電気炉内に硫酸処理物を入れる前に、該電気炉を予め昇温させることで該電気炉内に予め存在するカルシウムを除去しおくことが好ましい。これにより、電気炉内に予め存在したカルシウムが可溶化処理物に混入することを抑制するこ
とが出来る。また、電気炉は、本実施例に係る硫酸処理および可溶化処理のためにのみ使用するものであることが好ましい。
【0057】
また、加熱用容器は、加熱した際にカルシウムが該加熱用容器溶け込まず且つ該加熱容器の材質が硫酸処理物(または可溶化処理物)に溶け込むことがない材質のものを使用するのが好ましい。また、加熱用容器に水溶性カルシウム成分または非水溶性カルシウム成分を入れる前に、該加熱用容器を予め昇温させることで該加熱用容器に予め存在するカルシウムを除去しおくことが好ましい。
【0058】
また、回収装置10のフィルタ7の材質にカルシウムが含まれている場合、イオンクロマトグラフを利用して定量した結果からフィルタ7に予め含まれていたカルシウムの量を減算する。また、この場合、フィルタ毎もしくはフィルタの製造ロット毎に、フィルタに予め含まれているカルシウムの量を計測するのが好ましい。
【0059】
また、本実施例では、硫酸処理物と可溶化処理物とに水を加えて得られた水溶液中のカルシウムをイオンクロマトグラフを利用して定量したが、定量分析の方法はイオンクロマトグラフを利用した方法に限られるものではなく、カルシウムを定量することが可能な方法であればよい。
【0060】
<定量分析装置>
ここで、上述したような硫酸処理および可溶化処理、イオンクロマトグラフを利用したカルシウムの定量分析を行うことが可能な定量分析装置について図2に基づいて説明する。図2は、本実施例に係る定量分析装置の概略構成を示すブロック図である。
【0061】
本実施例に係る定量分析装置20は、第一硫酸処理部11aおよび第二硫酸処理部11b、電気炉12、イオンクロマトグラフ13、表示部14を備えている。
【0062】
第一硫酸処理部11aには、上記回収装置10によって回収された水溶性カルシウム成分が入った加熱用容器が入れられる。一方、第二硫酸処理部11bには、上記回収装置10によって回収された非水溶性カルシウム成分が入った加熱用容器が入れられる。そして、第一硫酸処理部11aおよび第二硫酸処理部11bにおいてそれぞれに硫酸が加えられる。
【0063】
電気炉12においては、第一硫酸処理部11aにおいて硫酸が加えられた水溶性カルシウム成分および第二硫酸処理部11bにおいて硫酸が加えられた非水溶性カルシウム成分が加熱用容器に入った状態で第一所定温度で加熱される。つまり、第一硫酸処理部11aおよび第二硫酸処理部11b、電気炉12によって、水溶性カルシウム成分および非水溶性カルシウム成分に硫酸処理が施され、硫酸処理物が形成される。尚、本実施例においては、第一硫酸処理部11aおよび第二硫酸処理部11b、電気炉12が本発明に係る硫酸処理手段に相当する。
【0064】
また、電気炉12では、非水溶性カルシウム成分に硫酸処理を施すことで得られた硫酸処理物が加熱用容器に入った状態で第二所定温度で加熱される。つまり、電気炉12によって、非水溶性カルシウム成分に硫酸処理を施すことで得られた硫酸処理物に可溶化処理が施され、可溶化処理物が形成される。尚、本実施例においては、電気炉12が本発明に係る可溶化処理手段に相当する。また、上記したように、電気炉12では、非水溶性カルシウム成分に硫酸処理を施すことで得られた硫酸処理物を第二所定温度で加熱するときに、水溶性カルシウム成分に硫酸処理を施すことで得られた硫酸処理物も同様に第二所定温度で加熱してもよい。
【0065】
イオンクロマトグラフ13では、水溶性カルシウム成分に硫酸処理を施すことで得られた硫酸処理物および非水溶性カルシウム成分に硫酸処理を施すことで得られた硫酸処理物にさらに可溶化処理を施すことで得られた可溶化処理物それぞれに水が加えられ水溶液が形成される。そして、それぞれの水溶液中のカルシウムが定量分析される。
【0066】
表示部14には、イオンクロマトグラフ13において定量分析された結果が表示される。
【0067】
以上説明した定量分析装置20によれば、硫酸処理および可溶化処理、イオンクロマトグラフを利用したカルシウムの定量分析を行うことが出来る。つまり、本実施例に係る回収装置10および定量分析装置20によれば、内燃機関の排気中のカルシウムを定量することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施例に係る排気中のカルシウム成分を回収するための回収装置の概略構成を示す図。
【図2】実施例に係る硫酸処理および可溶化処理、イオンクロマトグラフを利用したカルシウムの定量分析を行うことが可能な定量分析装置の概略構成を示すブロック図。
【符号の説明】
【0069】
1・・・貯水槽
2・・・第一吸収瓶
3・・・第二吸収瓶
4・・・第一排気流通管
5・・・第二排気流通管
6・・・第三排気流通管
7・・・フィルタ
8・・・ポンプ
10・・回収装置
11a・・第一硫酸処理部
11b・・第二硫酸処理部
12・・電気炉
13・・イオンクロマトグラフ
14・・表示部
20・・定量分析装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気に含まれる水溶性カルシウム成分を回収する第一回収工程と、
内燃機関の排気に含まれる非水溶性カルシウム成分を回収する第二回収工程と、
前記第一回収工程で回収された水溶性カルシウム成分および前記第二回収工程で回収された非水溶性カルシウム成分を硫酸と反応させ、さらに第一所定温度で加熱して水分を蒸発させることで硫酸処理物を形成させる硫酸処理工程と、
前記第二回収工程で回収された非水溶性カルシウム成分を前記硫酸処理工程で処理することで得られた硫酸処理物を前記第一所定温度よりも高い第二所定温度で加熱することで可溶化させて可溶化処理物を形成させる可溶化工程と、
前記第一回収工程で回収された水溶性カルシウム成分を前記硫酸処理工程で処理することで得られた硫酸処理物および前記可溶化工程で得られた可溶化処理物を溶媒に溶解させ、その溶液中のカルシウムを定量分析する定量分析工程と、
を含むことを特徴とする排気分析方法。
【請求項2】
前記第二所定温度が、粒子状物質を酸化することが可能な温度の下限値以上であり且つカルシウムの融点より低い温度であることを特徴とする請求項1記載の排気分析方法。
【請求項3】
前記第一回収工程が、排気を水に導入し、該水に水溶性カルシウム成分を溶解させることで該水溶性カルシウム成分を回収する工程であり、
前記第二回収工程が、排気をフィルタに導入し、非水溶性カルシウム成分を該フィルタで捕集することで該非水溶性カルシウム成分を回収する工程であることを特徴とする請求項1または2記載の排気分析方法。
【請求項4】
内燃機関の排気に含まれる水溶性カルシウム成分を回収する第一回収手段と、
内燃機関の排気に含まれる非水溶性カルシウム成分を回収する第二回収手段と、を有する回収装置と、
前記第一回収手段によって回収された水溶性カルシウム成分および前記第二回収手段によって回収された非水溶性カルシウム成分を硫酸と反応させ、さらに第一所定温度で加熱して水分を蒸発させることで硫酸処理物を形成させる硫酸処理手段と、
前記第二回収手段によって回収された非水溶性カルシウム成分を前記硫酸処理手段によって処理することで得られた硫酸処理物を前記第一所定温度よりも高い第二所定温度で加熱することで可溶化させて可溶化処理物を形成させる可溶化手段と、を有し、
前記第一回収手段によって回収された水溶性カルシウム成分を前記硫酸処理手段によって処理することで得られた硫酸処理物および前記第二回収手段によって回収された非水溶性カルシウム成分を前記硫酸処理手段によって処理することで得られた硫酸処理物をさらに前記可溶化手段によって処理することで得られた可溶化処理物を溶媒に溶解させ、その溶液中のカルシウムを定量分析する定量分析装置と、
を備えることを特徴とする排気分析システム。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−64531(P2008−64531A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−241234(P2006−241234)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】