説明

排気浄化装置

【課題】ディーゼルエンジンでも三元触媒を適用し得るようにして尿素水タンクや尿素水供給管といった付帯設備を不要とし、尿素水の補給といった手間も省けるようにする。
【解決手段】低圧ループ21と、高圧ループ22と、これらの夫々に備えられたEGRバルブ23,24(再循環量調整手段)と、排気管4に備えられた三元触媒20と、低圧ループ21により加速時に黒煙を生じない程度に抑えたEGR率でベースとなる排気ガス再循環を実施し且つ高圧ループ22では不足EGR率分を補足するべく追加の排気ガス再循環を実施して空燃比を理論空燃比近傍に抑制し得るように各EGRバルブ23,24を制御する制御装置27とを備え、各気筒19への燃料の噴射圧を所定以上に上げ且つその燃料噴射の噴孔径を燃料噴霧の粒が燃焼室の全域に拡散し得るよう調整することで理論空燃比近傍でも燃焼成立し得るように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
排気系に装着されて排気ガス中のHC,CO,NOxを同時に低減させる触媒として三元触媒が従来から知られており、該三元触媒における反応では、HC及びCOの酸化にNOxのO2が使われ、該NOxがN2に還元されると共に、前記HC及びCOが酸化されてCO2と水(H2O)になるので、有害三成分が同時に無害化されることになる。
【0003】
ただし、三元触媒には、O2が過不足なく燃料を燃焼させる空燃比、即ち、理論空燃比(ストイキオメトリ)でないと十分な効果が発揮されないという短所があり、排気ガスの残存酸素量が多いディーゼルエンジンで三元触媒は使用されておらず、主としてガソリンエンジンに適用されているのが実情である。
【0004】
因みに、ディーゼルエンジンでは、単純に燃料の噴射量を増やして空気過剰率(λ)を1程度(理論空燃比)にしても気筒内での燃焼が失火してしまうという不具合があり、また、失火直前の状態にあってもCO,HCがそれほど増えないという不具合もあるため、三元触媒を用いてHC,CO,NOxの同時低減を図ることは不可能と考えられている。
【0005】
図3は従来におけるディーゼルエンジンに適用した排気浄化装置の一例を示すもので、ここに図示している例では、ディーゼルエンジン1から排気マニホールド2を介して排出される排気ガス3が流通する排気管4の途中に、酸素共存下でも選択的にNOxをアンモニアと反応させ得る性質を備えた選択還元型触媒5が装備されている。
【0006】
そして、この選択還元型触媒5より上流側の排気管4に、尿素水6を還元剤として噴射する尿素水添加用インジェクタ7(尿素水添加手段)が設置されていると共に、前記選択還元型触媒5の直後には、リークアンモニア対策として余剰のアンモニアを酸化処理するNH3スリップ触媒8が装備されている。
【0007】
また、前記尿素水添加用インジェクタ7による尿素水6の添加位置より上流側の排気管4に、排気ガス3中の未燃燃料分を酸化処理する機能を高めた酸化触媒9が装備されていると共に、該酸化触媒9の直後には、自身にも酸化触媒を一体的に担持したパティキュレートフィルタ10が装備されている。
【0008】
斯かる排気浄化装置によれば、尿素水添加用インジェクタ7から尿素水6が噴射されて排気ガス3中でアンモニアと炭酸ガスに熱分解され、活性下限温度以上の温度条件下で活性状態となっている選択還元型触媒5上で排気ガス3中のNOxがアンモニアと効果的に反応して良好に還元浄化されることになる。
【0009】
また、ここに図示している例では、選択還元型触媒5の上流側にパティキュレートフィルタ10が装備されているので、該パティキュレートフィルタ10により排気ガス3中のパティキュレートが捕集されて除去され、パティキュレートの堆積量が所定量に達した際に、ディーゼルエンジン1側でメイン噴射に続いて圧縮上死点より遅い非着火のタイミングでポスト噴射を実施すると、このポスト噴射により排気ガス3中に未燃の燃料(主としてHC:炭化水素)が添加され、この未燃の燃料が酸化触媒9を通過する間に酸化反応し、その反応熱で昇温した排気ガス3の流入により後段のパティキュレートフィルタ10の触媒床温度が上げられてパティキュレートが強制的に燃焼除去される。
【0010】
尚、この種の尿素水を還元剤として排気ガス中のNOxを還元浄化する選択還元型触媒を備えた排気浄化装置に関連する先行技術文献情報としては下記の特許文献1等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−239109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、斯かる従来の排気浄化装置においては、NOxの還元浄化を行うために尿素水6の添加が必要であるため、この尿素水6を貯留しておくための尿素水タンク11や尿素水供給管12、供給ポンプ13といった付帯設備が必要となり、設備コストが高くつくという問題があり、また、尿素水タンク11が空にならないように尿素水6を随時補給しなければならないという手間もかかった。
【0013】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、ディーゼルエンジンでも三元触媒を適用し得るようにして尿素水タンクや尿素水供給管、供給ポンプといった付帯設備を不要とし、尿素水の補給といった手間も省けるようにした排気浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、ディーゼルエンジンで排気ガス中のHC,CO,NOxの同時低減を図るための排気浄化装置であって、ターボチャージャのタービンより下流の排気通路から排気ガスの一部を抜き出して前記ターボチャージャのコンプレッサより上流の吸気通路へ再循環する低圧ループと、排気マニホールドから排気ガスの一部を抜き出して吸気マニホールドの入口付近に再循環する高圧ループと、これら低圧ループ及び高圧ループの夫々に備えられて排気ガスの再循環量を調整する再循環量調整手段と、前記排気通路の途中に備えられた三元触媒と、低圧ループにより加速時に黒煙を生じない程度に抑えたEGR率でベースとなる排気ガス再循環を実施し且つ高圧ループでは不足EGR率分を補足するべく追加の排気ガス再循環を実施して空燃比を理論空燃比近傍に抑制し得るように前記各再循環量調整手段を制御する制御装置とを備え、ディーゼルエンジンの各気筒への燃料の噴射圧を所定以上に上げ且つその燃料噴射の噴孔径を燃料噴霧の粒が燃焼室の全域に拡散し得るよう調整することで理論空燃比近傍でも燃焼成立し得るように構成したことを特徴とするものである。
【0015】
而して、このようにすれば、低圧ループ側でベースとなる排気ガス再循環が実施され、高圧ループ側では不足EGR率分を補足するべく追加の排気ガス再循環が実施されるので、低圧ループと高圧ループの併用により高いEGR率が実現され、空燃比を理論空燃比に抑制することが可能となる。
【0016】
即ち、高圧ループ側で分担しなければならない排気ガスの再循環量が高圧ループの単独使用の場合よりも少なくて済み、可変ノズル式のターボチャージャ等で無理な排気ガスの絞り込みを行わなくても、高圧ループ側で分担すべき量の排気ガス再循環が比較的容易に実現されることになる。
【0017】
これまで高いEGR率で排気ガスを再循環するのに低圧ループが採用されてこなかったのは、走行中に運転者によりアクセルが踏み込まれて加速状態に入った場合に、空気過剰率が急激に低下して黒煙が発生し易かったからであるが、本発明では、加速時に黒煙を生じない程度に抑えたEGR率で低圧ループによりベースとなる排気ガス再循環を実施しているにすぎないので、加速時に高圧ループ側の排気ガスの再循環量を即時低減することで黒煙の発生を未然に回避することが可能である。
【0018】
即ち、低圧ループにおいては、ターボチャージャのコンプレッサより上流の吸気通路へ排気ガスが戻されるが、ここからコンプレッサ、インタークーラ、吸気マニホールドを経てエンジンに到るまでの経路が長く、この長い経路に排気ガスの混合した吸気が存在することになるため、加速時にアクセルの踏み込みに即応して燃料噴射量が増加した場合に、低圧ループの再循環量調整手段を直ちに閉じても、前記長い経路中の排気ガス混じりの吸気が全て使い切られるまで空気過剰率の低い状態が持続して黒煙が発生し易いという欠点がある。
【0019】
これに対し、高圧ループにおいては、吸気マニホールドの入口付近に排気ガスが戻されるので、排気ガスの混合した吸気は吸気マニホールド内にしか存在せず、加速時に燃料噴射量が増加しても、高圧ループの再循環量調整手段を閉じれば、吸気マニホールド内の排気ガス混じりの吸気が程無く使い切られて空気過剰率が早期に回復するので、加速時における黒煙の発生を回避し易いという利点がある。
【0020】
そして、このように低圧ループと高圧ループとにより多量の排気ガスを再循環して空燃比を理論空燃比近傍に抑制し、斯かる状態でディーゼルエンジンの各気筒への燃料噴射を実行すると、その燃料噴射の噴射圧と噴孔径の適切な調整により燃料噴霧の粒が燃焼室の全域に拡散し、燃料が良好に分散混合して均等に薄まった状態で燃焼が行われることで燃焼が失火せずに成立することになる。
【0021】
即ち、燃料噴射の噴射圧を既存のディーゼルエンジンにおける噴射圧よりも大幅に高い圧力に設定することで燃料噴霧をより遠くまで送り込む力を高めると共に、燃料噴射の噴射径を一般的な噴射径より若干大きめにしておくことで噴射圧の上昇に伴う燃料噴霧の過剰な微細化を抑制して噴射の力を受け易い粒の粗さが保たれるようにすれば、燃料噴霧の粒を燃焼室の全域に拡散させて良好に分散混合させることが可能となる。
【0022】
尚、このように多量の排気ガスを再循環して空燃比を理論空燃比近傍に抑制しても、ディーゼルエンジンの各気筒への燃料噴射の噴射圧と噴孔径の適切な調整により燃焼を成立させ得る事実は、本発明者の鋭意研究の末に見いだされた事実であり、一般的には、単純に燃料の噴射量を増やして空気過剰率を下げることしか提案されていないため、理論空燃比近傍でのディーゼルエンジンの燃焼成立は不可能と考えられている。
【0023】
しかも、多量の排気ガスを再循環して空燃比を理論空燃比近傍に抑制し、ディーゼルエンジンの各気筒への燃料噴射の噴射圧と噴孔径の適切な調整により燃焼を成立させた場合、排気ガス中にCOとHCが多量に生成されるという事実も本発明者は確認しており、ディーゼルエンジンでも三元触媒を機能させてHC,CO,NOxの同時低減を図り得ることが判明している。
【0024】
即ち、多量の排気ガスを再循環して空燃比を理論空燃比近傍に抑制した条件下では、所定以上の噴射圧で噴射された燃料がO2と出会う確率が低いために気筒内の壁面まで到達し易く、ここで燃料が熱分解してHCのガスが多量に発生することになるが、この際、O2より大きく且つ高質量で高引力のCO2が燃焼室内に多く存在することで、該CO2がHCとO2との反応を阻害する役割を果たしてHCの酸化反応が停滞し、該HCが排気ガス中に多量に残留することになる。
【0025】
また、HCとO2の最初に起こる反応ではCOが生成されるだけであり、通常のディーゼルエンジンのように残存酸素量が多く且つ排気ガス再循環によるCO2の量もそれほど多くない条件下では、前記最初の反応で生じたCOが次々とO2と結びついてCO2まで反応が進むことになるが、多量の排気ガスを再循環して空燃比を理論空燃比近傍に抑制した条件下では、O2と出会う確率が低く且つ多量のCO2も反応の邪魔になるので、COの状態のまま排気ガス中に多量に残留することになる。
【0026】
また、本発明においては、三元触媒がNH3を吸着し得るようゼオライトを触媒原料として含んでいることが好ましく、このようにすれば、過渡運転時等に空燃比が理論空燃比より小さくなって三元触媒上でNOxからNH3が生成されてしまう事態となっても、このNH3を三元触媒上に保持し且つこれをNOxを還元浄化するための還元剤として消費することが可能となる。
【0027】
更に、本発明においては、三元触媒の後段にパティキュレートフィルタが備えられていることが好ましく、このようにすれば、パティキュレートフィルタにより排気ガス中のパティキュレートが捕集されて除去されることになり、しかも、そのパティキュレートの堆積量が所定量に達した際に、ディーゼルエンジン側でポスト噴射を実施する等して燃料を添加すれば、この未燃の燃料が三元触媒を通過する間に酸化反応し、その反応熱で昇温した排気ガスの流入により後段のパティキュレートフィルタの触媒床温度が上げられてパティキュレートが強制的に燃焼除去されることになる。
【発明の効果】
【0028】
上記した本発明の排気浄化装置によれば、下記の如き種々の優れた効果を奏し得る。
【0029】
(I)本発明の請求項1に記載の発明によれば、ディーゼルエンジンでも三元触媒を適用し得るようにすることができるので、尿素水タンクや尿素水供給管、供給ポンプといった付帯設備を不要とすることができて設備コストの大幅な削減を図ることができ、しかも、尿素水の補給といった手間も省くことができて運転者の負担を著しく軽減することができる。
【0030】
(II)本発明の請求項2に記載の発明によれば、過渡運転時等に空燃比が理論空燃比より小さくなって三元触媒上でNOxからNH3が生成されてしまう事態となっても、このNH3を三元触媒上に保持し且つこれをNOxを還元浄化するための還元剤として消費することができるので、NH3が車外へ排出されてしまうことを防止することができる。
【0031】
(III)本発明の請求項3に記載の発明によれば、排気ガス中のパティキュレートをパティキュレートフィルタにより捕集して除去することができ、しかも、三元触媒をパティキュレートフィルタの強制再生のための酸化触媒の替わりに使うことで従来通りの燃料添加によるパティキュレートフィルタの再生を行うことができ、パティキュレートフィルタの強制再生のための酸化触媒を新たに設けなくて済むことで全体構成のコンパクト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明を実施する形態の一例を示す概略図である。
【図2】理論空燃比近傍での燃焼成立を確認した実験結果を示すグラフである。
【図3】従来例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0034】
図1は本発明を実施する形態の一例を示すもので、図3と同一の符号を付した部分は同一物を表わしている。
【0035】
ここに図示している例では、ディーゼルエンジン1がターボチャージャ14を備えており、図示しないエアクリーナから導かれた吸気15が吸気管16を通し前記ターボチャージャ14のコンプレッサ14aへと送られ、該コンプレッサ14aで加圧された吸気15がインタークーラ17へと送られて冷却され、該インタークーラ17から更に吸気マニホールド18へと吸気15が導かれてディーゼルエンジン1の各気筒19に分配されるようになっている。
【0036】
更に、このディーゼルエンジン1の各気筒19から排出された排気ガス3は、排気マニホールド2を介しターボチャージャ14のタービン14bへと送られ、該タービン14bを駆動した排気ガス3が排気管4を介し車外へ排出されるようにしてあり、該排気管4の途中には、理論空燃比(ストイキオメトリ)近傍でHC,CO,NOxの同時低減化を図り得る三元触媒20と、該三元触媒20の直後に配置されたパティキュレートフィルタ10とが装備されている。
【0037】
ここで、前記三元触媒20は、NH3を吸着し得るようゼオライトを触媒原料として含んでおり、過渡運転時等に空燃比が理論空燃比より小さくなって三元触媒20上でNOxからNH3が生成されてしまう事態となっても、このNH3を三元触媒20上に保持し得るようにしてある。
【0038】
そして、このディーゼルエンジン1にあっては、前記パティキュレートフィルタ10の下流側から排気ガス3の一部を抜き出して前記ターボチャージャ14のコンプレッサ14aより上流の吸気管16へ再循環する低圧ループ21と、排気マニホールド2から排気ガス3の一部を抜き出して吸気マニホールド18の入口付近に再循環する高圧ループ22とが装備されている。
【0039】
前記低圧ループ21及び高圧ループ22の夫々には、排気ガス3の再循環量を調整するためのEGRバルブ23,24(再循環量調整手段)と、再循環される排気ガス3を冷却するためのEGRクーラ25,26が装備されており、該EGRクーラ25,26で冷却水と排気ガス3とを熱交換させることにより排気ガス3の温度を低下し且つその容積を小さくすることで、ディーゼルエンジン1の出力をあまり低下させずに燃焼温度を下げて効果的にNOxの発生を低減し得るようにしてある。
【0040】
そして、前記各EGRバルブ23,24の開度が、エンジン制御コンピュータ(ECU:Electronic Control Unit)を成す制御装置27からの開度指令信号23a,24aとにより制御されるようになっており、これらの制御については、アクセル開度をディーゼルエンジン1の負荷として検出するアクセルセンサ28(負荷センサ)からのアクセル開度信号28aと、ディーゼルエンジン1の機関回転数を検出する回転センサ29からの回転数信号29aとに基づいて以下の如く実行されるようになっている。
【0041】
即ち、制御装置27では、低圧ループ21により加速時に黒煙を生じない程度に抑えた
EGR率(例えば10〜15%程度)でベースとなる排気ガス再循環を実施し且つ高圧ループ22では不足EGR率分(10〜20%程度分)を補足するべく追加の排気ガス再循環を実施して空燃比を理論空燃比近傍に抑制し得るよう現在の運転状態に応じた各EGRバルブ23,24の開度が指示されるようになっている。
【0042】
この際、ディーゼルエンジン1は、各気筒19への燃料の噴射圧を所定以上に上げ且つその燃料噴射の噴孔径を燃料噴霧の粒が燃焼室の全域に拡散し得るよう調整することで理論空燃比近傍でも燃焼成立し得るように構成されている。
【0043】
而して、このようにすれば、低圧ループ21側でベースとなる排気ガス再循環が実施され、高圧ループ22側では不足EGR率分を補足するべく追加の排気ガス再循環が実施されるので、低圧ループ21と高圧ループ22の併用により高いEGR率が実現され、空燃比を理論空燃比に抑制することが可能となる。
【0044】
即ち、高圧ループ22側で分担しなければならない排気ガス3の再循環量が高圧ループ22の単独使用の場合よりも少なくて済み、可変ノズル式のターボチャージャ等で無理な排気ガス3の絞り込みを行わなくても、高圧ループ22側で分担すべき量の排気ガス再循環が比較的容易に実現されることになる。
【0045】
因みに、高いEGR率で排気ガス3を再循環するのに低圧ループ21が今まで採用されてこなかったのは、走行中に運転者によりアクセルが踏み込まれて加速状態に入った場合に、空気過剰率が急激に低下して黒煙が発生し易かったからであるが、本形態例では、加速時に黒煙を生じない程度に抑えたEGR率で低圧ループ21によりベースとなる排気ガス再循環を実施しているにすぎないので、加速時に高圧ループ22側の排気ガス3の再循環量を即時低減することで黒煙の発生を未然に回避することが可能である。
【0046】
即ち、低圧ループ21においては、ターボチャージャ14のコンプレッサ14aより上流の吸気管16へ排気ガス3が戻されるが、ここからコンプレッサ14a、インタークーラ17、吸気マニホールド18を経てディーゼルエンジン1に到るまでの経路が長く、この長い経路に排気ガス3の混合した吸気が存在することになるため、加速時にアクセルの踏み込みに即応して燃料噴射量が増加した場合に、低圧ループ21のEGRバルブ23を直ちに閉じても、前記長い経路中の排気ガス3混じりの吸気が全て使い切られるまで空気過剰率の低い状態が持続して黒煙が発生し易いという欠点がある。
【0047】
これに対し、高圧ループ22においては、吸気マニホールド18の入口付近に排気ガス3が戻されるので、排気ガス3の混合した吸気15は吸気マニホールド18内にしか存在せず、加速時に燃料噴射量が増加しても、高圧ループ22のEGRバルブ24を閉じれば、吸気マニホールド18内の排気ガス3混じりの吸気15が程無く使い切られて空気過剰率が早期に回復するので、加速時における黒煙の発生を回避し易いという利点がある。
【0048】
そして、このように低圧ループ21と高圧ループ22とにより多量の排気ガス3を再循環して空燃比を理論空燃比近傍に抑制し、斯かる状態でディーゼルエンジン1の各気筒19への燃料噴射を実行すると、その燃料噴射の噴射圧と噴孔径の適切な調整により燃料噴霧の粒が燃焼室の全域に拡散し、燃料が良好に分散混合して均等に薄まった状態で燃焼が行われることで燃焼が失火せずに成立することになる。
【0049】
即ち、燃料噴射の噴射圧を既存のディーゼルエンジン1における噴射圧よりも大幅に高い圧力に設定することで燃料噴霧をより遠くまで送り込む力を高めると共に、燃料噴射の噴射径を一般的な噴射径より若干大きめにしておくことで噴射圧の上昇に伴う燃料噴霧の過剰な微細化を抑制して噴射の力を受け易い粒の粗さが保たれるようにすれば、燃料噴霧の粒を燃焼室の全域に拡散させて良好に分散混合させることが可能となる。
【0050】
尚、このように多量の排気ガス3を再循環して空燃比を理論空燃比近傍に抑制しても、ディーゼルエンジン1の各気筒19への燃料噴射の噴射圧と噴孔径の適切な調整により燃焼を成立させ得る事実は、本発明者の鋭意研究の末に見いだされた事実であり、一般的には、単純に燃料の噴射量を増やして空気過剰率を下げることしか提案されていないため、理論空燃比近傍でのディーゼルエンジン1の燃焼成立は不可能と考えられているが、図2にグラフで実験結果を示している通り、噴射径を通常のディーゼルエンジンよりも若干大きめとした上で燃料噴射の噴射圧を2000kg/cm2程度まで上げれば、煙の発生を15%以下に抑えて燃焼を成立させられることを既に本発明者は確認している。
【0051】
しかも、多量の排気ガス3を再循環して空燃比を理論空燃比近傍に抑制し、ディーゼルエンジン1の各気筒19への燃料噴射の噴射圧と噴孔径の適切な調整により燃焼を成立させた場合、排気ガス3中にCOとHCが多量に生成されるという事実も本発明者は確認しており、ディーゼルエンジン1でも三元触媒20を機能させてHC,CO,NOxの同時低減を図り得ることが判明している。
【0052】
即ち、多量の排気ガス3を再循環して空燃比を理論空燃比近傍に抑制した条件下では、所定以上の噴射圧で噴射された燃料がO2と出会う確率が低いために気筒19内の壁面まで到達し易く、ここで燃料が熱分解してHCのガスが多量に発生することになるが、この際、O2より大きく且つ高質量で高引力のCO2が燃焼室内に多く存在することで、該CO2がHCとO2との反応を阻害する役割を果たしてHCの酸化反応が停滞し、該HCが排気ガス3中に多量に残留することになる。
【0053】
また、HCとO2の最初に起こる反応ではCOが生成されるだけであり、通常のディーゼルエンジン1のように残存酸素量が多く且つ排気ガス再循環によるCO2の量もそれほど多くない条件下では、前記最初の反応で生じたCOが次々とO2と結びついてCO2まで反応が進むことになるが、多量の排気ガス3を再循環して空燃比を理論空燃比近傍に抑制した条件下では、O2と出会う確率が低く且つ多量のCO2も反応の邪魔になるので、COの状態のまま排気ガス3中に多量に残留することになる。
【0054】
また、本形態例においては、三元触媒20がNH3を吸着し得るようゼオライトを触媒原料として含んでいるので、過渡運転時等に空燃比が理論空燃比より小さくなって三元触媒20上でNOxからNH3が生成されてしまう事態となっても、このNH3を三元触媒20上に保持し且つこれをNOxを還元浄化するための還元剤として消費することが可能となる。
【0055】
更に、三元触媒20の後段にパティキュレートフィルタ10が備えられているので、パティキュレートフィルタ10により排気ガス3中のパティキュレートが捕集されて除去されることになり、しかも、そのパティキュレートの堆積量が所定量に達した際に、ディーゼルエンジン1側でポスト噴射を実施する等して燃料を添加すれば、この未燃の燃料が三元触媒20を通過する間に酸化反応し、その反応熱で昇温した排気ガス3の流入により後段のパティキュレートフィルタ10の触媒床温度が上げられてパティキュレートが強制的に燃焼除去されることになる。
【0056】
従って、上記形態例によれば、ディーゼルエンジン1でも三元触媒20を適用し得るようにすることができるので、尿素水タンク11(図3参照)や尿素水供給管12(図3参照)、供給ポンプ13(図3参照)といった付帯設備を不要とすることができて設備コストの大幅な削減を図ることができ、しかも、尿素水6の補給といった手間も省くことができて運転者の負担を著しく軽減することができる。
【0057】
また、過渡運転時等に空燃比が理論空燃比より小さくなって三元触媒20上でNOxからNH3が生成されてしまう事態となっても、このNH3を三元触媒20上に保持し且つこれをNOxを還元浄化するための還元剤として消費することができるので、NH3が車外へ排出されてしまうことを防止することができる。
【0058】
更に、排気ガス3中のパティキュレートをパティキュレートフィルタ10により捕集して除去することができ、しかも、三元触媒20をパティキュレートフィルタ10の強制再生のための酸化触媒の替わりに使うことで従来通りの燃料添加によるパティキュレートフィルタ10の再生を行うことができ、パティキュレートフィルタ10の強制再生のための酸化触媒を新たに設けなくて済むことで全体構成のコンパクト化を図ることができる。
【0059】
また、特に図1に示している如きパティキュレートフィルタ10の下流側から排気ガス3の一部を抜き出して再循環させるようにすれば、再循環する排気ガス3に含まれるパティキュレート(煤分)による吸気系(コンプレッサ14aや吸気管16、インタークーラ17等)の汚損を回避することもできる。
【0060】
尚、本発明の排気浄化装置は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0061】
1 ディーゼルエンジン
2 排気マニホールド
3 排気ガス
4 排気管
10 パティキュレートフィルタ
14 ターボチャージャ
14a コンプレッサ
14b タービン
15 吸気
16 吸気管
18 吸気マニホールド
19 気筒
20 三元触媒
21 低圧ループ
22 高圧ループ
23 EGRバルブ(再循環量調整手段)
24 EGRバルブ(再循環量調整手段)
27 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルエンジンで排気ガス中のHC,CO,NOxの同時低減を図るための排気浄化装置であって、ターボチャージャのタービンより下流の排気通路から排気ガスの一部を抜き出して前記ターボチャージャのコンプレッサより上流の吸気通路へ再循環する低圧ループと、排気マニホールドから排気ガスの一部を抜き出して吸気マニホールドの入口付近に再循環する高圧ループと、これら低圧ループ及び高圧ループの夫々に備えられて排気ガスの再循環量を調整する再循環量調整手段と、前記排気通路の途中に備えられた三元触媒と、低圧ループにより加速時に黒煙を生じない程度に抑えたEGR率でベースとなる排気ガス再循環を実施し且つ高圧ループでは不足EGR率分を補足するべく追加の排気ガス再循環を実施して空燃比を理論空燃比近傍に抑制し得るように前記各再循環量調整手段を制御する制御装置とを備え、ディーゼルエンジンの各気筒への燃料の噴射圧を所定以上に上げ且つその燃料噴射の噴孔径を燃料噴霧の粒が燃焼室の全域に拡散し得るよう調整することで理論空燃比近傍でも燃焼成立し得るように構成したことを特徴とする排気浄化装置。
【請求項2】
三元触媒がNH3を吸着し得るようゼオライトを触媒原料として含んでいることを特徴とする請求項1に記載の排気浄化装置。
【請求項3】
三元触媒の後段にパティキュレートフィルタが備えられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−241746(P2011−241746A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114106(P2010−114106)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】