説明

排気浄化装置

【課題】排気浄化装置に関し、再生浄化効率を高めつつ再生浄化処理に伴うオイルダイリューションの進行を抑制する。
【解決手段】エンジン10の排気中に含まれる所定の物質を吸蔵,吸着又は濾過して捕捉する排気浄化手段21,22と、排気浄化手段21,22に捕捉された物質を放出又は燃焼させる浄化制御を実施する浄化制御手段6とを備える。
また、エンジン10のエンジンオイルの希釈度を演算する希釈度演算手段3と、希釈度演算手段3で演算された希釈度に基づき、浄化制御手段6による浄化制御での浄化量に制限を加える制限手段5とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの排ガスを浄化する排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの排ガス中に含まれる窒素酸化物(NOx)を浄化するための排気浄化装置として、NOxトラップ触媒(NOx吸蔵還元型触媒)が知られている。すなわち、NOxを一時的に蓄える吸蔵材と、NOxを窒素(N2)に還元する触媒とを組み合わせた浄化装置である。この吸蔵材としては、酸化雰囲気下でNOxを吸蔵し、還元雰囲気下でそのNOxを放出する特性を持ったものが使用される。例えば、ディーゼルエンジンの通常運転時には排ガス雰囲気が酸化雰囲気となるため、排ガス中のNOxが吸蔵材に吸蔵される。また、NOxの吸蔵能力が飽和に近づくと、排ガスの空燃比がリッチになるように筒内の燃料噴射弁からポスト噴射燃料等が供給され、還元雰囲気が形成される。
【0003】
ところで、NOxトラップ触媒の吸蔵材には、排気中のNOxだけでなく硫黄成分(硫黄酸化物等)も吸蔵されうる。吸蔵材の上では、NOxが硝酸塩を形成するのに対して、硫黄成分は硫酸塩を形成する。一方、硫酸塩は硝酸塩よりも化学的に安定しているため、吸蔵材上での硫黄成分の堆積量は時間の経過とともに増加しやすく、NOxトラップ触媒の本来の機能であるNOx吸蔵性能が低下することがある。そこで、一般的なNOxトラップ触媒では、吸蔵材に吸蔵された硫黄成分を強制的に取り除くSパージ処理(硫黄成分の脱離処理)が実施される。
【0004】
Sパージ処理では、NOxトラップ触媒の近傍が高温かつ還元雰囲気となるように、エンジンが制御される。例えば、NOxトラップ触媒よりも上流側の排気系に酸化触媒を介装し、この酸化触媒に対して燃料の未燃成分を供給して触媒上で燃焼させることで、排気温度を上昇させながら酸素濃度を低下させる操作がなされる。これにより、吸蔵材から放出された硫黄成分と未燃成分等が反応し、NOxトラップ触媒が浄化される。
【0005】
しかし、上記のような排気系の再生浄化処理時に燃料の筒内ポスト噴射を多用すると、燃費が悪化するだけでなく、エンジンのオイルダイリューションが促進され、エンジンオイルを頻繁に交換しなければならなくなる。そこで、エンジンオイルの希釈量の推定値に基づいて再生処理に係る燃料噴射量を制御する技術も提案されている。例えば特許文献1には、排ガス中の粒子状物質の堆積量やオイル希釈率に基づいて、一回あたりのポスト噴射量を減量し、あるいはメイン噴射からの噴射間隔の短縮することが記載されている。このような制御により、オイル希釈特性の向上とスモーク排出量の低減とを高いレベルで両立できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−106736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術では、ポスト噴射量の減量に伴うパージ量の低減分を補うように、排気空燃比がリッチ化される運転時間を延長している。つまり、一回の再生浄化処理で消費される燃料量は必ずしも減少しない。したがって、再生浄化処理に伴うオイルダイリューションの進行を阻止できず、オイル希釈特性を向上させることが困難な場合がある。
【0008】
本件の目的の一つは、上記のような課題に鑑み創案されたもので、排気浄化装置に関し、再生浄化効率を高めつつ再生浄化処理に伴うオイルダイリューションの進行を抑制することである。
なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的として位置づけることができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)ここで開示する排気浄化装置は、エンジンの排気中に含まれる所定の物質を吸蔵,吸着又は濾過して捕捉する排気浄化手段と、前記排気浄化手段に捕捉された前記物質を放出又は燃焼させる浄化制御を実施する浄化制御手段とを備える。また、前記エンジンのエンジンオイルの希釈度を演算する希釈度演算手段と、前記希釈度演算手段で演算された前記希釈度に基づき、前記浄化制御手段による前記浄化制御での浄化量に制限を加える制限手段とを備える。
【0010】
前記特定の物質としては、窒素酸化物(NOx),硫黄酸化物(SOx)等の硫黄(S)を含む化合物,粒子状物質(PM),炭化水素(HC)を含む未燃燃料成分等が挙げられ、前記排気浄化手段の具体例としては、NOxトラップ触媒やフィルター(DPF),HCトラップ触媒等が挙げられる。また、前記エンジンオイルの希釈度は、例えば前記エンジンオイルの濃度や体積に基づいて演算される。
【0011】
なお、「前記浄化制御での浄化量」の制限とは、前記浄化制御で浄化される前記物質の量を減少させる制限であることが好ましく、例えば前記浄化制御の継続時間を短縮することや前記浄化制御の実施頻度を減少させること(実施せずにスキップすることやインターバル時間を延長すること)等が考えられる。
(2)また、前記制限手段が、所定の基準希釈度からの前記希釈度の超過量に基づき、前記浄化制御の継続時間又は実施頻度を減少させることが好ましい。
【0012】
(3)また、前記エンジンを搭載する車両の走行距離に基づいて前記基準希釈度を設定する基準設定手段を備えることが好ましい。
前記走行距離とは、前記エンジンオイルの交換時からの走行距離である。なお、前記車両の走行距離の代わりに前記エンジンの稼働時間を用いて、前記希釈度を設定してもよい。
【0013】
(4)また、前記排気浄化手段に捕捉された前記物質の量を演算する捕捉量演算手段を備え、前記制限手段が、前記捕捉量演算手段で演算された前記物質の量と前記希釈度とに基づき、前記浄化制御の実施を制限することが好ましい。
(5)また、前記排気浄化手段が、前記排気中の硫黄成分を吸蔵しうるトラップ触媒を含み、前記制限手段が、前記トラップ触媒から前記硫黄成分を放出させるSパージ制御の実施を制限することが好ましい。
【0014】
(6)また、前記トラップ触媒が、前記排気中の窒素酸化物成分を吸蔵しうるものであって、前記制限手段が、前記浄化制御の実施を制限する際に、前記トラップ触媒から前記窒素酸化物成分を放出させるNOxパージ制御よりも前記Sパージ制御を強く制限することが好ましい。
Sパージ制御は、NOxパージ制御と比較して排ガス規制に対する余裕が大きいため、Sパージ制御の方を優先して制限する。例えば、NOxパージ制御よりもSパージ制御のスキップ回数を増大させ、あるいはNOxパージ制御の継続時間の短縮率よりもSパージ制御の継続時間の短縮率を大きくする。つまり、Sパージ制御の継続時間,頻度に与えられる制限量を、NOxパージ制御の継続時間,頻度に与えられる制限量よりも大きくする。
【0015】
(7)また、前記排気浄化手段が、前記排気中の微粒子を濾過するフィルターを含み、前記制限手段が、前記浄化制御の実施を制限する際に、前記フィルター上の前記微粒子を燃焼させる再生制御よりも前記Sパージ制御を強く制限することが好ましい。
Sパージ制御は、再生制御と比較して排ガス規制に対する余裕が大きいため、Sパージ制御の方を優先して制限する。例えば、再生制御よりもSパージ制御のスキップ回数を増大させ、あるいは再生制御の継続時間の短縮率よりもSパージ制御の継続時間の短縮率を大きくする。つまり、Sパージ制御の継続時間,頻度に与えられる制限量を、再生制御の継続時間,頻度に与えられる制限量よりも大きくする。
【0016】
(8)なお、前記浄化制御手段が、複数の種類の前記浄化制御を実施するものであって、前記基準設定手段が、前記浄化制御の種類に応じて異なる前記基準希釈度を設定することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
開示の排気浄化装置によれば、エンジンオイルの希釈度に基づいて浄化制御に制限を加えることで、オイルダイリューションの余裕度を優先的に参照しつつ、可能な範囲で浄化制御を実施することができ、あるいは排気浄化手段に余力が残っているときには浄化制御を保留させることができる。これにより、オイル性能と排ガス性能とをともに向上させることができ、エンジンを健全な状態に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】一実施形態に係る排気浄化装置が適用されたエンジンの構成を例示する模式図である。
【図2】本排気浄化装置で演算されるエンジンオイルの希釈量と走行距離との関係を例示するグラフである。
【図3】本排気浄化装置で演算されるSパージ処理の補正ゲインに関するグラフである。
【図4】本排気浄化装置で実施される制御内容を例示するフローチャートである。
【図5】変形例としての本排気浄化装置におけるエンジンオイルの希釈量と走行距離との関係を例示するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図面を参照して具体的な実施形態としての排気浄化装置について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
【0020】
[1.装置構成]
[1−1.エンジン]
本実施形態の排気浄化装置は、車両に搭載されたディーゼルエンジン10に適用される。図1では、多気筒エンジンの複数のシリンダー11のうちの一つを示すが、他のシリンダー11も同様の構成である。ピストン12は、中空円筒状に形成されたシリンダー11の内周面に沿って往復摺動自在に内装される。ピストン12の上面とシリンダー11の内周面及び頂面に囲まれた空間は、エンジン10の燃焼室11aとして機能する。
【0021】
ピストン12の下部は、コネクティングロッドを介して、クランクシャフト23の軸心から偏心した中心軸を持つクランクアームに連結される。これにより、ピストン12の往復動作がクランクアームに伝達され、クランクシャフト23の回転運動に変換される。
シリンダー11の頂面には、吸入空気を燃焼室11a内に供給するための吸気ポート14と、燃焼室11a内で燃焼した後の排気を排出するための排気ポート15とが穿孔形成される。また、吸気ポート14,排気ポート15のそれぞれの燃焼室11a側の端部には、吸気弁16及び排気弁17が設けられる。これらの吸気弁16,排気弁17は、エンジン10の上部に設けられる動弁機構によって各々の動作を個別に制御される。また、シリンダー11の頂部には、インジェクター13(燃料噴射弁)がその先端を燃焼室11a側に突出させた状態で設けられる。インジェクター13による燃料噴射時期や噴射量は、後述する制御装置1で制御される。
【0022】
[1−2.吸排気系]
吸気ポート14,排気ポート15のそれぞれには、インテークマニホールド18(以下、インマニと呼ぶ),エキゾーストマニホールド19(以下、エキマニと呼ぶ)が接続される。エンジン10の吸気は、インマニ18側から燃焼室11aに導入され、エキマニ19側へと排出される。また、エキマニ19よりも下流側に接続される排気通路20上には、排気微粒子除去装置8及びトラップ触媒9が直列に介装される。
【0023】
排気微粒子除去装置8は、排ガス中に含まれる粒子状物質(PM, Particulate Matter)を取り除くための浄化装置であり、酸化触媒部8a及びフィルター部8bを内蔵している。酸化触媒部8aは、例えば金属やセラミックス等からなるハニカム状の担体に触媒物質を担持させて形成されたものであり、排気中の各種成分を酸化して排気温度を上昇させる機能を持つ。触媒物質としては、例えば白金(Pt)やパラジウム(Pd),ロジウム(Rh)等の貴金属類が用いられる。
【0024】
フィルター部8bは、排ガス中のPMを捕集する多孔質フィルタ(例えば、セラミックフィルタ)である。フィルター部8bの内部は、多孔質の壁体によって排気の流通方向に沿って複数に分割されている。この壁体には、PMの粒子サイズに見合った大きさの多数の細孔が形成される。これにより、排ガスが壁体の近傍や内部を通過する際に壁体内,壁体表面にPMが捕集され、排ガスが濾過される。
【0025】
フィルター部8bに捕集されて堆積したPMを除去するための一般的な手法としては、連続再生方式と強制再生方式との二種類が挙げられる。連続再生方式とは、車両の通常走行時に定常的にPMを焼却する手法である。一方、強制再生方式とは、フィルター部8bの温度を上昇させることによってPMを強制的に燃焼させる手法である。
連続再生方式は、おもに排ガス中の二酸化窒素(NO2)を酸化剤として作用させ、PMをフィルター部8b上で燃焼させる方式である。一方、強制再生方式は、おもに酸素(O2)を酸化剤として作用させ、PMをフィルター部8b上で燃焼させる方式である。本実施形態では、これらの両方の方式がフィルター部8bの再生に用いられる。以下、これらの再生に係る制御のことをフィルター再生制御と呼ぶ。
【0026】
なお、フィルター部8bを強制再生する場合の昇温手法は任意であるが、ここでは酸化触媒部8aに未燃燃料を供給して酸化熱を発生させることで排気温度を上昇させるものとする。未燃燃料は、インジェクター13での膨張行程噴射や排気行程噴射等によって排ガス中に供給される。
トラップ触媒9(排気浄化手段)は、排ガス中に含まれるNOxを浄化するための浄化装置であり、カリウム(K)やバリウム(Ba)等のトラップ材(窒素酸化物吸蔵材)を還元触媒の表面に担持させたものである。還元触媒は、例えば酸化触媒部8aと同様の触媒貴金属である。トラップ材は、酸化雰囲気下で排ガス中のNOxを硝酸塩(NO3-)の形で吸蔵し、還元雰囲気下で吸蔵されたNO3-を放出する機能を持つ。このとき、放出されたNO3-はトラップ触媒9内の還元触媒で還元され、窒素(N2)やアンモニア(NH3)に浄化される。
【0027】
ここでいう酸化雰囲気とは、排気中の酸素濃度が還元成分(HC,CO等)の濃度に対して相対的に高い状態を意味する。また、還元雰囲気とは、排気中の還元成分の濃度が酸素濃度に対して相対的に高い状態であり、かつ、酸素濃度(絶対濃度)が所定濃度以下(例えば、1.0[%]以下)である状態を意味する。
また、トラップ触媒9のトラップ材には、NOxだけでなく、排気中に含まれる硫黄成分が硫酸塩(SO42-)の形で吸蔵される場合がある。このように、トラップ触媒9に対して硫黄化合物が付着することを硫黄被毒と呼ぶ。硫黄被毒が進行するとNOxの吸蔵能力が低下するため、定期的にトラップ触媒9から硫黄化合物を取り除く操作がなされる。
【0028】
上記の通り、トラップ触媒9は排ガス中に含まれるNOxや硫黄成分を吸蔵,吸着して捕捉(保持)する排気浄化手段として機能する。トラップ触媒9の吸蔵材に吸蔵されたNOxを放出させる制御はNOxパージ制御と呼ばれる。一方、硫黄成分を放出させる制御はSパージ制御と呼ばれる。何れのパージ制御においても、排ガスの雰囲気を還元雰囲気にすることによって吸蔵された物質が吸蔵材から放出される。ただし、Sパージ制御で硫黄成分を放出させるのに要する排気温度は、NOxパージ制御でNOxを放出させるのに要する排気温度よりも高温である。
【0029】
[1−3.検出系]
クランクシャフト23には、その回転角を検出するエンジン回転速度センサー24が設けられる。回転角の単位時間あたりの変化量(角速度)はエンジン10の実回転速度Ne(単位時間あたりの実回転数)に比例する。したがって、エンジン回転速度センサー24は、エンジン10の実回転速度Neを取得する機能を持つ。なお、エンジン回転速度センサー24で検出された回転角に基づき、制御装置1の内部で実回転速度Neを演算する構成としてもよい。
【0030】
シリンダー11の下方に位置するオイルパン又はエンジンオイルの循環経路上の任意の位置には、エンジンオイルの総量を「オイル量QOIL」として検出するオイルレベルセンサー25が設けられる。このオイルレベルセンサー25は、例えばシリンダー11とピストン12との隙間からオイルパンに流れ落ちた燃料によってエンジンオイルが希釈された(つまり、オイルダイリューションが進行した)結果としてのオイル量QOILの増加や、経時変化によるオイル量QOILの減少等を検出する。
【0031】
排気微粒子除去装置8とトラップ触媒9との間の排気通路20上には、排気温度センサー26,排気空燃比センサー27及び排気流量センサー28が介装される。これらの各センサー26〜28はそれぞれ、排気温度T,排気空燃比R及び排気流量Qを検出するものである。
【0032】
また、車両の任意の位置には、車両の走行距離Dを検出する走行距離メーター29が設けられる。この走行距離メーター29は、エンジン10のエンジンオイルが交換されてからの走行距離Dを計測するものである。この走行距離Dは、エンジンオイルの交換時にゼロにリセットされる。
上記の各種センサー24〜29で取得された実回転速度Ne,オイル量QOIL,排気温度T,排気空燃比R,排気流量Q,走行距離Dの各情報は、制御装置1に伝達される。
【0033】
[1−4.制御系]
上記のエンジン10を搭載する車両には、制御装置1(Electronic Control Unit,電子制御装置)が設けられる。この制御装置1は、例えばCPU,マイクロプロセッサ,ROM,RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成され、車両に設けられた車載ネットワーク網の通信ラインに接続される。制御装置1の信号入力側には上記の各種センサー24〜29が接続され、信号出力側にはインジェクター13や図示しないスロットルバルブ,EGRバルブ等が接続される。制御装置1は、排ガスを浄化するためのさまざまな制御を実施するものである。本実施形態では、排気微粒子除去装置8のフィルター部8bに吸蔵された硫黄成分を取り除くSパージ制御と、オイルダイリューションの進行度合いとの関係について詳述する。
【0034】
[2.制御装置]
図1に示すように、制御装置1には、Sパージ制御を実現するためのソフトウェア又はハードウェアとして、捕捉量演算部2,希釈度演算部3,基準設定部4,制限部5及び浄化制御部6が設けられる。これらの捕捉量演算部2,希釈度演算部3,基準設定部4,制限部5及び浄化制御部6の各機能は、電子回路によって実現してもよく、ソフトウェアとしてプログラミングされたものとしてもよいし、あるいはこれらの機能のうちの一部をハードウェアとして設け、他部をソフトウェアとしたものであってもよい。ソフトウェアとして構成する場合、これらの各機能を図示しないメモリや記憶装置に記録しておき、随時マイクロプロセッサやCPUに読み込むことによって以下に説明する機能を実現すればよい。
【0035】
捕捉量演算部2(捕捉量演算手段)は、トラップ触媒9の吸蔵材に捕捉されている硫黄成分の吸蔵量SPQ(Sulfur Poisoning Quantity)を演算するものである。硫黄成分の吸蔵量SPQの増分は、排ガス中に含まれる硫黄成分の量に応じて変化し、排ガス中の硫黄成分量は燃料の種類(例えば、日本で使用される燃料かヨーロッパで使用される燃料かなど)や燃料噴射量に応じたものとなる。そこで、捕捉量演算部2は、インジェクター13から実際に噴射された燃料噴射量や燃料の種類,実回転速度Ne等に基づいて硫黄成分の吸蔵量の増分を推定する。
【0036】
また、捕捉量演算部2は、硫黄成分の放出量(吸蔵量の減少分)を推定し、その時点の吸蔵量SPQから放出量を減算することで随時、吸蔵量SPQの演算値を更新する。例えば、NOxパージ制御やフィルター再生制御の実施時には排気温度が上昇するため、トラップ触媒9の吸蔵材から硫黄成分が自然に放出され、吸蔵量SPQが減少する場合がある。また、Sパージ制御の実施時には、その実施時間に応じて硫黄成分の吸蔵量SPQが減少する。そこで、捕捉量演算部2は、排気温度センサー26,排気空燃比センサー27及び排気流量センサー28で検出された排気温度T,排気空燃比R及び排気流量Q等に基づいて、硫黄成分の減少分を推定し、吸蔵量SPQを演算する。
【0037】
上記のような推定演算の結果として得られる最終的な硫黄成分の吸蔵量SPQの情報は、制限部5に伝達される。
希釈度演算部3(希釈度演算手段)は、オイルレベルセンサー25で検出されたオイル量QOILに基づき、エンジンオイルの希釈度に相関するオイルダイリューション量ODQ(Oil Dilution Quantity,希釈量)を演算するものである。ここでは、エンジンオイルに混入した燃料成分の量(又はこれに相関するパラメータ)がオイルダイリューション量ODQとして演算される。オイルダイリューション量ODQは、インジェクター13での燃料噴射量や噴射のタイミング,噴射期間などに応じたものとなる。そこで、希釈度演算部3は、インジェクター13から実際に噴射された燃料噴射量や噴射タイミング,噴射期間,実回転速度Ne等に基づいてオイルダイリューション量ODQを推定する。ここで推定されたオイルダイリューション量ODQの情報は、制限部5に伝達される。
【0038】
基準設定部4(基準設定手段)は、走行距離メーター29で検出された走行距離Dに基づき、Sパージ制御の実施条件の成否を判定するための閾値となる基準推移量ODQSTD及び上限推移量ODQLIM(ともに基準希釈度)を設定するものである。ここでは、走行距離Dが大きいほど基準推移量ODQSTD及び上限推移量ODQLIMが増大するように、走行距離D,基準推移量ODQSTD及び上限推移量ODQLIMの関係が規定されている。
【0039】
例えば、図2に示すように、基準推移量ODQSTDが所定の最大許容量ODQMAX以下の範囲で走行距離Dに比例して増加する特性とされる。最大許容量ODQMAXは、例えばエンジン10の種類や特性に応じて定められる値である。また、上限推移量ODQLIMは、基準推移量ODQSTDに予め設定された所定値ΔQを加算した値として与えられる。各値の大小関係は、基準推移量ODQSTD≦上限推移量ODQLIM≦最大許容量ODQMAXである。ここで設定された基準推移量ODQSTD及び上限推移量ODQLIMの情報は、制限部5に伝達される。
【0040】
制限部5(制限手段)は、捕捉量演算部2で演算された硫黄成分の吸蔵量SPQと希釈度演算部3で演算されたオイルダイリューション量ODQと基準設定部4で設定された基準推移量ODQSTD及び上限推移量ODQLIMとに基づき、Sパージ制御を実施し、あるいはSパージ制御に制限を加えるものである。ここでいう「制限」とは、Sパージ制御時に吸蔵材から放出される硫黄成分の量を、通常のSパージ制御時よりも減少させる制限である。制限を加えるための具体的な手段としては、Sパージ制御時にインジェクター13から噴射される燃料量を減少させること、Sパージ制御時の排気温度を低下させること、Sパージ制御の継続時間を短縮すること、Sパージ制御の実施頻度を低下させること、Sパージ制御の実施間隔(インターバル時間)を延長すること等が考えられる。
【0041】
制限部5はまず、吸蔵量SPQ及びオイルダイリューション量ODQが以下の五通りの条件のうちの何れを満足するものであるかを判定する。なお、SPQALWは硫黄成分の許容被毒量であり、例えばSパージ制御を実施したときに排ガス中に放出される硫黄成分が排ガス規制値相当となる被毒量に対して、十分な安全率を見込んで設定された値である。
条件1.SPQ≦SPQALWかつ、ODQ≦ODQSTD である
条件2.SPQ≦SPQALWかつ、ODQSTD<ODQ≦ODQLIM である
条件3.SPQ≦SPQALWかつ、ODQLIM<ODQ である
条件4.SPQALW<SPQ かつ、ODQ≦ODQMAXである
条件5.SPQALW<SPQ かつ、ODQMAX<ODQ である
【0042】
上記の条件1又は条件4の成立時には、Sパージ制御に制限が加えられることなく、通常のSパージ制御が実施される。この場合、制限部5は、Sパージ制御の制限が不要である旨の制御信号を浄化制御部6に伝達し、トラップ触媒9に吸蔵された硫黄成分を全て放出させるSパージ制御(完全Sパージ)を実施させる。なお、図2中で条件1が成立する領域は、基準推移量ODQSTDよりも下方の領域となる。
【0043】
一方、上記の条件2の成立時にはSパージ制御に制限が加えられる。この場合、制限部5は一回のSパージ制御で放出させる硫黄成分の量を減少させるように、Sパージ制御の継続時間や実施頻度,触媒温度等を減少,低下させる制御信号を浄化制御部6に伝達する。Sパージ制御に与えられる制限の大きさは、オイルダイリューション量ODQの基準推移量ODQSTDからの超過量QOVRに応じたものとする。以下、制限されたSパージ制御のことを補正Sパージと呼ぶ。
【0044】
例えば、図3に示すように、オイルダイリューション量ODQから基準推移量ODQSTDを減じた値(超過量QOVR)が所定値Q1以上であるときには、その値が増大するに連れてSパージ量の補正ゲインKspgを減少させることが考えられる。補正ゲインKspgは、例えばSパージ制御時における硫黄成分の全吸蔵量に対する放出量の割合に相当する補正係数である。あるいは、Sパージ制御時に硫黄成分を全て放出させるのに要する推定時間に対する、Sパージ制御の実際の継続時間の割合に相当する補正係数である。
【0045】
補正ゲインKspgが小さく設定されるほど、Sパージ制御が強く制限されることになり、一回のSパージ制御でトラップ触媒9から放出される硫黄成分の放出量が減少する。したがって、補正ゲインKspgが小さく設定されるほど、オイルダイリューションの進行がより強く抑制される。なお、図2中で条件2が成立する領域は、基準推移量ODQSTDよりも上方であって、上限推移量ODQLIMよりも下方の領域となる。
【0046】
上記の条件3の成立時には、Sパージ制御の実施が保留され、すなわちSパージ制御がスキップされる。ここでいう「スキップ」とは、例えば周期的に実施されるSパージ制御のうち、条件3が成立した周期でのSパージ制御を飛ばして(Sパージ制御の実施を禁止して)次回の周期で改めて条件1〜5を判定することを意味する。つまりこの場合、制限部5は、Sパージ制御を禁止する制御信号を浄化制御部6に伝達し、Sパージ制御の実施を一旦保留する。
【0047】
上記の条件5の成立時にも、Sパージ制御の実施が保留される。この場合、オイルダイリューションが大きく進行しているものと判断されて、図示しないエンジンチェックランプが点灯され、早めにオイル交換を実施するように運転者に報知される。
浄化制御部6(浄化制御手段)は、所定のSパージ条件が成立した時にSパージ制御を実施するものである。ただし、制限部5からSパージ制御に対する制限が加えられている場合には、その制限が加えられたSパージ制御を実施する。
【0048】
ここで判定されるSパージ条件は、硫黄成分の吸蔵量SPQが制御用被毒量SPQTHR以上であることである。浄化制御部6は、以下の条件6が成立したときに、Sパージ条件が成立したものと判断する。なお、制御用被毒量SPQTHRは、排ガス規制値相当となる被毒量に対して大きく余裕を持った値であり、例えば上記の許容被毒量SPQALW の1/10以下のオーダーで設定された所定値である。
条件6.硫黄成分の吸蔵量SPQが制御用被毒量SPQTHR以上である
【0049】
Sパージ制御に制限が加えられていない場合、浄化制御部6は、捕捉量演算部2で演算された硫黄成分の吸蔵量SPQに基づいて、目標とするトラップ触媒9近傍の排気温度や排気空燃比,排気流量を演算する。その後、吸蔵量SPQの硫黄成分の全てがトラップ触媒9から放出されるように、燃料噴射量やSパージ制御の継続時間を演算し、これらに応じてインジェクター13,スロットルバルブ,EGRバルブ等を制御する。したがって、この場合のSパージ制御の終了時には、硫黄成分の吸蔵量SPQがほぼゼロとなる。
【0050】
一方、Sパージ制御に制限が加えられている場合、浄化制御部6は、捕捉量演算部2で演算された硫黄成分の吸蔵量SPQに補正ゲインKspgを乗じた量の硫黄成分がトラップ触媒9から放出されるように、燃料噴射量やSパージ制御の継続時間を演算し、これらに応じてインジェクター13,スロットルバルブ,EGRバルブ等を制御する。したがって、この場合のSパージ制御の終了時には、硫黄成分の吸蔵量SPQが残留した状態となり、その残留量は補正ゲインKspgが小さいほど増大する。
【0051】
また、Sパージ制御がスキップされた場合には、Sパージ制御が実施されないため、硫黄成分の吸蔵量SPQは変化しない。ただし、前述の通り、硫黄成分の吸蔵量SPQはNOxパージ制御やフィルター再生制御の実施時に減少するため、Sパージ制御を実施しなかったとしても吸蔵量SPQが増大し続けるとは限らない。つまり、Sパージ制御がスキップされたとしても、その後に吸蔵量SPQが減少すれば条件6が不成立となる。
【0052】
[3.フローチャート]
図3を用いて制御装置1で実施されるSパージ制御の手順の例を説明する。このフローチャートは、所定の周期(例えば、数[ms]周期)で繰り返し実行される。また、下記の各ステップは、コンピュータのハードウェアに割り当てられた各機能(手段)が、ソフトウェア(コンピュータプログラム)によって動作することによって実施される。
【0053】
ステップS10では、捕捉量演算部2において、トラップ触媒9に捕捉されている硫黄成分の吸蔵量SPQが演算される。吸蔵量SPQは、例えばインジェクター13から実際に噴射された燃料噴射量や燃料の種類,実回転速度Ne,排気温度T,排気空燃比R及び排気流量Q等に基づいて演算される。また、続くステップS20では、希釈度演算部3において、オイルダイリューション量ODQが演算される。オイルダイリューション量ODQは、例えばオイル量QOILのほか、インジェクター13での燃料噴射量や噴射のタイミング,噴射期間,実回転速度Ne等に基づいて演算される。
【0054】
ステップS30では、基準設定部4において、走行距離Dに基づいて基準推移量ODQSTD及び上限推移量ODQLIMが設定される。ここでは例えば、図2に示すように走行距離Dが増大するほど基準推移量ODQSTD及び上限推移量ODQLIMの値も増大するように、それぞれの値が設定される。
ステップS40では、浄化制御部6において、Sパージ条件が成立するか否かが判定される。ここで、硫黄成分の吸蔵量SPQが制御用被毒量SPQTHR未満である場合にはSパージ条件が成立しないため、そのままこのフローを終了し、吸蔵量SPQが制御用被毒量SPQTHR以上である場合にステップS50へ進む。
【0055】
ステップS50では、制限部5において、吸蔵量SPQが許容被毒量SPQALW以下であるか否かが判定される。ここでは、上記の条件1〜5のうち吸蔵量SPQに関する条件が判定される。ここで、吸蔵量SPQが許容被毒量SPQALW以下である場合には、トラップ触媒9への硫黄成分の吸蔵度合いに余裕があり、条件1〜3の何れかが成立するものと判断されて、ステップS70へ進む。一方、吸蔵量SPQが許容被毒量SPQALWを超える場合には条件4,5の何れかが成立するものと判断され、ステップS60へ進む。
【0056】
ステップS60では、制限部5において、オイルダイリューション量ODQが最大許容量ODQMAX以下であるか否か(条件4,5の一部)が判定される。ここで、オイルダイリューション量ODQが最大許容量ODQMAX以下である場合には、オイルダイリューションの進行度合いに余裕があるものと判断されてステップS100へ進み、通常のSパージ制御(完全Sパージ)が実施される。これにより、トラップ触媒9に吸蔵されている硫黄成分がほぼ完全に放出され、吸蔵材が浄化される。一方、オイルダイリューション量ODQが最大許容量ODQMAXを超える場合には、オイルダイリューションの進行度合いと硫黄成分の吸蔵度合いとの双方に余裕がないものと判断されてステップS90へ進む。ステップS90では、Sパージ制御の実施が保留され、エンジンチェックランプを点灯させる制御信号が制御装置1から出力される。
【0057】
また、ステップS50からステップS70へ進んだ場合には、制限部5において、オイルダイリューション量ODQが基準推移量ODQSTD以下であるか否か(条件1,2の一部)が判定される。ここで、オイルダイリューション量ODQが基準推移量ODQSTD以下である場合には、オイルダイリューションの進行度合いに余裕があるものと判断されてステップS100へ進み、通常のSパージ制御(完全Sパージ)が実施される。一方、オイルダイリューション量ODQが基準推移量ODQSTDを超える場合にはステップS80へ進む。
【0058】
ステップS80では、制限部5において、オイルダイリューション量ODQが上限推移量ODQLIMを超えるか否か(条件2,3の一部)が判定される。ここで、オイルダイリューション量ODQが上限推移量ODQLIMを超える場合には、オイルダイリューションの進行度合いに余裕がないものと判断されてステップS110へ進み、Sパージ制御がスキップされる。これにより、Sパージ制御に伴うオイルダイリューションの進行が抑制される。また、オイルダイリューション量ODQが上限推移量ODQLIM以下である場合にはステップS120へ進む。
【0059】
ステップS120では、オイルダイリューション量ODQから基準推移量ODQSTDを減じた値QOVRが演算され、この超過量QOVRに基づいてSパージ制御の補正ゲインKspgが演算される。補正ゲインKspgの値は、図3に示すように、オイルダイリューション量ODQが大きいほど(オイルダイリューションが進行するほど)小さく設定される。また、続くステップS130では、制限が加えられたSパージ制御が実施される。例えば、前ステップで演算された補正ゲインKspgに応じてSパージ制御の継続時間が短縮され、硫黄成分の放出量が減少方向に補正されて、浄化量のやや少ないSパージ制御(補正Sパージ)が実施される。これにより、Sパージ制御に伴うオイルダイリューションの進行が抑制される。なお、浄化量の減少によりNOx吸蔵性能が若干低下する。つまり本実施形態では、NOx吸蔵性能の回復よりもオイルダイリューションを抑制することが優先された制御が実施されることになる。
【0060】
[4.作用,効果]
本実施形態の排気浄化装置によれば、以下のような作用,効果が得られる。
(1)上記の排気浄化装置では、オイルダイリューション量ODQに基づいてSパージ制御の実施に制限が加えられ、例えばオイルダイリューション量ODQが上限推移量ODQLIMよりも大きいときにSパージ制御がスキップされる。つまり、オイルダイリューションの進行に余裕があるときにのみSパージ制御が実施されるため、Sパージ制御に伴うオイルダイリューションの進行を抑制することができ、オイルダイリューション量ODQが最大許容量ODQMAXに到達するまでにかかる時間を延長する(すなわち、エンジンオイルの寿命を伸ばす)ことができる。
【0061】
また、時間経過に伴ってオイルダイリューション量ODQが低下した場合にはSパージ制御を実施することができ、トラップ触媒9のNOx吸蔵能力を回復させることができる。したがって、エンジン10のオイル性能を排ガス性能とをともに向上させることができ、エンジン10の運転状態を健全な状態にすることができるとともに、健全な状態を長時間維持することができる。
【0062】
また、Sパージ制御を制限する手法として、トラップ触媒9から放出される硫黄成分の量(浄化量)に制限をかけるという制御構成であるため、オイルダイリューション量ODQの増加を確実に抑制することができる。例えば、一回当たりの燃料噴射量を減少させつつSパージ制御の実施期間を延長するような従来の技術では、トータルでのオイルダイリューション量を減少させることが難しい。これに対して、上述の実施形態の手法では、吸蔵量SPQがほぼ完全にゼロになるまでSパージ制御を実施するのではなく、補正ゲインKspgが小さいほど硫黄成分の放出量が減少するため、Sパージ制御を従来よりも速く終了させることができ、オイルダイリューション量ODQの増加を確実に抑制することができる。
【0063】
(2)また、上記の排気浄化装置では、オイルダイリューション量ODQの基準推移量ODQSTDからの超過量QOVRに基づいて補正ゲインKspgが設定される。これにより、オイルダイリューション量ODQが基準推移量ODQSTDを超過していない場合(すなわち、オイルダイリューションが比較的軽度である場合)には、従来通り通常のSパージ制御を実施して、排ガス性能を向上させることができる。一方、オイルダイリューション量ODQが基準推移量ODQSTDを超過している場合(すなわち、オイルダイリューションが比較的進行している場合)には、その超過量QOVRに応じてSパージ制御の継続時間や実施頻度が削減される。これにより、許容される範囲内で排ガス性能を向上させつつ、オイルダイリューションの進行を効率的に抑制することができ、エンジンの潤滑性や耐摩耗性のさらなる低下を防止することができる。
【0064】
(3)さらに、上記の排気浄化装置で設定される基準推移量ODQSTD及び上限推移量ODQLIMは固定値ではなく可変であり、すなわち、車両の走行距離Dに基づいて基準推移量ODQSTD及び上限推移量ODQLIMが設定される。これにより、時間経過に伴って僅かずつ減少するというオイルダイリューション量ODQの特性を考慮して浄化制御に制限を加えることができ、オイル性能と排ガス性能とをバランス良く維持することができる。例えば、オイル性能の低下を抑制しつつ、排ガス性能の低下も抑制することができる。
【0065】
(4)また、上記の排気浄化装置では条件1〜5に示すように、オイルダイリューション量ODQだけでなく、トラップ触媒9に捕捉されている硫黄成分の吸蔵量SPQにも基づいてSパージ制御を制限している。これにより、Sパージ制御の制限によって排ガス性能がどの程度の影響を受けるのかを精度よく評価することができる。例えば、吸蔵量SPQが許容被毒量SPQALW 以下であるときには、オイル性能の余裕度を見ながらできるだけSパージ制御が制限される。一方、吸蔵量SPQが許容被毒量SPQALW を超えた場合には、オイル交換が必要なほどオイル性能の余裕が少ない場合を除いて、トラップ触媒9に吸蔵された硫黄成分を全て放出させるSパージ制御(完全Sパージ)が実施される。このように、排ガス性能を低下させない吸蔵量SPQの範囲を精度良く把握したうえで、その範囲内でオイルダイリューションの進行を遅くすることができ、オイル品質やエンジンの耐摩耗性に配慮しながら排ガスを浄化することができる。
【0066】
[5.変形例]
[5−1.NOxパージ制御,フィルター再生制御]
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形することが可能である。
例えば、上述の実施形態では、オイルダイリューションの進行度合いに応じてSパージ制御に制限を加えるものを例示したが、制限対象となる制御はSパージ制御のみに限定されない。すなわち、Sパージ制御に代えて、あるいは加えて、NOxパージ制御やフィルター再生制御に制限を加える制御構成としてもよい。
【0067】
この場合、オイルダイリューション量ODQが大きいほど、NOxパージ制御,フィルター再生制御の継続時間,実施頻度等を減少させることが考えられる。ただし、排ガス規制やシステム保護の観点からすると、NOxパージ制御やフィルター再生制御に与えられる制限よりもSパージ制御に与えられる制限を大きくすることが好ましい。すなわち、NOxパージ制御,フィルター再生制御及びSパージ制御の三者に与える制限を均一にするのではなく、Sパージ制御に対して優先的に制限をかけることが好ましい。
【0068】
Sパージ制御は、NOxパージ制御と比較して排ガス規制に対する余裕が大きいため、Sパージ制御の方を優先して制限することが可能である。例えば、NOxパージ制御よりもSパージ制御のスキップ回数を増大させ、あるいはNOxパージ制御の継続時間の短縮率よりもSパージ制御の継続時間の短縮率を大きくする。つまり、Sパージ制御の継続時間,頻度に与えられる制限量を、NOxパージ制御の継続時間,頻度に与えられる制限量よりも大きくする。
【0069】
同様に、フィルター再生制御と比較しても、Sパージ制御は排ガス規制に対する余裕が大きいため、Sパージ制御の方を優先して制限することが可能である。例えば、フィルター再生制御よりもSパージ制御のスキップ回数を増大させ、あるいはフィルター再生制御の継続時間の短縮率よりもSパージ制御の継続時間の短縮率を大きくする。つまり、Sパージ制御の継続時間,頻度に与えられる制限量を、フィルター再生制御の継続時間,頻度に与えられる制限量よりも大きくする。これらのような制御構成により、排ガス性能を低下させることなくオイルダイリューションの進行を効率的に抑制することができる。
【0070】
また、Sパージ制御の制限に係る判定閾値の値よりも、NOxパージ制御やフィルター再生制御の制限に係る判定閾値の値を大きく設定することで、前者の制御に対する制限を相対的に強化することも考えられる。例えば、Sパージ制御用の基準推移量ODQSTD及び上限推移量ODQLIMの設定値に対して、NOxパージ制御用の第二基準推移量ODQSTD2及び第二上限推移量ODQLIM2の設定値を大きく設定する。
【0071】
第二基準推移量ODQSTD2は同一の走行距離Dでの基準推移量ODQSTDよりも大きく設定され、オイルダイリューション量ODQが第二基準推移量ODQSTD2以下の時にはNOxパージ制御に制限が加えられることなく、通常のNOxパージ制御が実施されるものとする。また、第二上限推移量ODQLIM2も同一の走行距離Dでの上限推移量ODQLIMよりも大きく設定され、オイルダイリューション量ODQがODQSTD2<ODQ≦ODQLIM2 であるときに、制限が加えられたNOxパージ制御が実施されるものとする。具体的な制限手法としては、トラップ触媒9から放出されるNOx量に制限をかけることが考えられ、例えばNOxパージ制御の継続時間や実施頻度を低下させることが考えられる。
【0072】
このように、浄化制御の種類毎に異なる閾値を設定することで、それぞれの浄化制御への制限の強さを相対的に設定することが可能となり、オイル性能と排ガス性能とをバランス良く維持することができる。なお、図5中には、第二基準推移量ODQSTD2に予め設定された第二所定値ΔQ′を加算した値として第二上限推移量ODQLIM2を与える特性グラフを示す。細実線で示される第二基準推移量ODQSTD2は、太実線で示される基準推移量ODQSTDよりも、走行距離Dの増大に対して急勾配で増大する特性が与えられる。また、細一点鎖線で示される第二上限推移量ODQLIM2は、一点鎖線で示される上限推移量ODQLIMよりも常に大きい値を持つように設定される。
【0073】
図5中の細実線よりも下方の範囲は、トラップ触媒9に吸蔵されたNOxを全て放出させるNOxパージ制御(完全NOxパージ)が実施される領域に相当する。また、細実線と細一点鎖線とで挟まれた領域は、制限されたNOxパージ制御(補正NOxパージ)が実施される領域に相当し、細一点鎖線よりも上方の範囲は、NOxパージ制御がスキップされる領域(NOxパージスキップ)に相当する。このように、Sパージ制御に係る領域面積とNOxパージ制御に係る領域面積とを相違させることで、それぞれの制御に加えられる制限の強さを変更することができる。図5中では、Sパージスキップの領域がNOxパージスキップの領域に比して大きく、完全Sパージの領域が完全NOxパージの領域よりも小さいことから、NOxパージ制御よりもSパージ制御に加えられる制限の方が強いことが読みとれる。
【0074】
なお、NOxパージ制御がスキップされる領域は省略することも可能である。また、フィルター再生制御に関しても、NOxパージ制御と同様にオイルダイリューション量ODQに関する閾値を設定することができる。
【0075】
[5−2.その他]
また、上述の実施形態では、補正ゲインKspgを用いてSパージ制御に制限を加えるものを例示したが、具体的な制限手法はこれに限定されない。例えば、オイルダイリューション量ODQに基づいてSパージ制御のインターバル期間を延長する制御構成としてもよい。この場合、オイルダイリューション量ODQの基準推移量ODQSTDからの超過量QOVRが大きいほど、インターバル期間を長くすることが考えられる。このような手法を用いたとしてもSパージ制御の実施頻度が低下するため、オイルダイリューション量ODQの増加を抑制することができる。なお、Sパージ制御を制限する手法は任意であり、少なくともトラップ触媒9から放出される硫黄成分の量に制限をかけるものであることが好ましい。
【0076】
また、上述の実施形態では、図2に示すように車両の走行距離Dに基づいて基準推移量ODQSTD及び上限推移量ODQLIMを設定しているが、走行距離Dの代わりにエンジン10の稼働時間を用いて基準推移量ODQSTD及び上限推移量ODQLIMを設定してもよい。また、エンジン10の実回転速度Neやエンジンオイルの温度,冷却水温,外気温等から推定されるオイルダイリューションの進行しやすさ(エンジンオイルの希釈進行速度)を考慮して、基準推移量ODQSTD及び上限推移量ODQLIMを設定してもよい。このような制御により、オイルダイリューションの余裕度を精度よく把握することができ、制御の信頼性を向上させることができる。
【0077】
また、上述の実施形態では、オイルレベルセンサー25で検出されたオイル量QOILに基づいてオイルダイリューション量ODQを演算するものを例示したが、具体的な演算手法や推定手法はこれに限定されない。また、トラップ触媒9の吸蔵材に捕捉されている硫黄成分の吸蔵量SPQに関しても、種々の演算手法を適用することができる。同様に、トラップ触媒9に吸蔵されたNOxの吸蔵量や、フィルター部8bに堆積したPM量の推定演算の手法も任意である。
【符号の説明】
【0078】
1 制御装置
2 捕捉量演算部(捕捉量演算手段)
3 希釈度演算部(希釈度演算手段)
4 基準設定部(基準設定手段)
5 制限部(制限手段)
6 浄化制御部(浄化制御手段)
8 排気微粒子除去装置
8a 酸化触媒部
8b フィルター部
9 トラップ触媒(排気浄化手段)
SPQ 吸蔵量,SPQALW 許容被毒量,SPQTHR 制御用被毒量
ODQ オイルダイリューション量,ODQMAX 最大許容量
ODQSTD 基準推移量,ODQLIM 上限推移量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気中に含まれる所定の物質を吸蔵,吸着又は濾過して捕捉する排気浄化手段と、
前記排気浄化手段に捕捉された前記物質を放出又は燃焼させる浄化制御を実施する浄化制御手段と、
前記エンジンのエンジンオイルの希釈度を演算する希釈度演算手段と、
前記希釈度演算手段で演算された前記希釈度に基づき、前記浄化制御手段による前記浄化制御での浄化量に制限を加える制限手段と
を備えたことを特徴とする、排気浄化装置。
【請求項2】
前記制限手段が、所定の基準希釈度からの前記希釈度の超過量に基づき、前記浄化制御の継続時間又は実施頻度を減少させる
ことを特徴とする、請求項1記載の排気浄化装置。
【請求項3】
前記エンジンを搭載する車両の走行距離に基づいて前記基準希釈度を設定する基準設定手段を備えた
ことを特徴とする、請求項2記載の排気浄化装置。
【請求項4】
前記排気浄化手段に捕捉された前記物質の量を演算する捕捉量演算手段を備え、
前記制限手段が、前記捕捉量演算手段で演算された前記物質の量と前記希釈度とに基づき、前記浄化制御の実施を制限する
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の排気浄化装置。
【請求項5】
前記排気浄化手段が、前記排気中の硫黄成分を吸蔵しうるトラップ触媒を含み、
前記制限手段が、前記トラップ触媒から前記硫黄成分を放出させるSパージ制御の実施を制限する
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の排気浄化装置。
【請求項6】
前記トラップ触媒が、前記排気中の窒素酸化物成分を吸蔵しうるものであって、
前記制限手段が、前記浄化制御の実施を制限する際に、前記トラップ触媒から前記窒素酸化物成分を放出させるNOxパージ制御よりも前記Sパージ制御を強く制限する
ことを特徴とする、請求項5記載の排気浄化装置。
【請求項7】
前記排気浄化手段が、前記排気中の微粒子を濾過するフィルターを含み、
前記制限手段が、前記浄化制御の実施を制限する際に、前記フィルター上の前記微粒子を燃焼させる再生制御よりも前記Sパージ制御を強く制限する
ことを特徴とする、請求項5又は6記載の排気浄化装置。
【請求項8】
前記浄化制御手段が、複数の種類の前記浄化制御を実施するものであって、
前記基準設定手段が、前記浄化制御の種類に応じて異なる前記基準希釈度を設定する
ことを特徴とする、請求項3記載の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−100725(P2013−100725A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243529(P2011−243529)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】