説明

排気管用塗料、排気管用塗料の使用方法及び排気管

【課題】 加熱処理を行わずとも、排ガスの熱を利用して所定の放熱性を有する排気管を作製することができる排気管用塗料を提供すること。
【解決手段】 無機ガラス粒子と、無機粒子と、無機結合材及び/又は無機結合材前駆体とを含み、排気管用基材に塗布することを特徴とする排気管用塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気管用塗料、排気管用塗料の使用方法及び排気管に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンから排出された排ガス中に含まれる有害ガス等の有害物質を処理するため、排気管の経路には、触媒コンバータが設けられる。
触媒コンバータによる有害物質の浄化効率を高めるためには、排ガスや、排ガスが流通する排気管等の温度を触媒活性化に適した温度(以下、触媒活性化温度ともいう)に維持する必要がある。
しかしながら、エンジンの高速運転時には、一時的に排ガスの温度が1000℃を超えるような高温となる場合があり、触媒活性化温度の上限値を逸脱することがある。その結果、排ガスを効率的に浄化することが困難になったり、場合によっては、触媒が劣化したりするという問題がある。
【0003】
このような問題に対し、例えば、特許文献1には、二重管構造を備え、二重管の内管と外管との間に可動式の伝熱部材が設けられた排気管が開示されている。この排気管では、放熱性が高く、エンジンの高速運転時においても、排ガスの温度が触媒活性化温度の上限値を超過するのを防止することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−194962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された排気管では、内管、外管及び伝熱部材を設けており、部品点数が多く、構造が複雑になる点で不利である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を行い、先に特許文献1に開示された排気管とは、全く異なる技術的思想に基づく排気管に関する発明に想到し、出願している。
本発明者らが想到した発明は、無機ガラス及び高い放射率を有する無機粒子を含む表面被覆層が排気管用基材の表面に形成された排気管に関する発明である。
この排気管では、表面被覆層により排気管に要求される放熱性を確保することができるとともに、放熱性を向上させるための内管等の部品が不要であるため、単純な構造を備えるという点で有利である。
【0007】
このような排気管を作製するには、まず、無機ガラス粒子及び所定の無機粒子に、分散媒等が加えられた排気管用塗料を排気管用基材の表面に塗布し、乾燥処理を施す。
その後、乾燥処理が施された排気管用基材に加熱処理を施すことにより、無機ガラスと無機粒子とが排気管用基材の表面に固定されてなる表面被覆層を形成する。
具体的には、例えば、700℃程度の軟化点を有する無機ガラス粒子と、1000℃を超える軟化点を有する無機粒子とを含む排気管用塗料を用意し、この排気管用塗料が塗布され、乾燥処理が施された排気管用基材に対して、1000℃程度の条件で加熱処理を施す。
加熱処理を施すことにより、無機ガラス粒子が軟化し、軟化した無機ガラス粒子が一体化してガラス基質となる。そして、ガラス基質と軟化しなかった無機粒子とが混ざり合って、無機粒子がガラス基質(無機ガラス)の内部に混在してなる表面被覆層が形成される。
このようにして、排気管用基材の表面に表面被覆層が形成された排気管を作製する。
【0008】
本発明者らが上記排気管の作製方法について検討したところ、無機ガラス粒子と無機粒子とを含む排気管用塗料においては、上記加熱処理が、表面被覆層を形成するための必須の処理であると考えられた。
その理由について、上記排気管用塗料として、無機ガラス粒子と無機粒子と分散媒(水や、有機溶媒等)とからなる排気管用塗料や、これに更に有機結合材を添加した排気管用塗料を用いて排気管を作製する場合を例に説明する。
【0009】
無機ガラス粒子と無機粒子とが分散媒中に分散してなる排気管用塗料や、無機ガラス粒子と無機粒子とに加えて有機結合材が含まれてなる排気管用塗料では、排気管用塗料を排気管用基材に塗布し、乾燥処理を施した後には、分散媒が揮発し、無機ガラス粒子等が排気管用基材の表面に仮固定された状態となる。排気管用基材の表面に仮固定された無機ガラス粒子等(以下、分散質層ともいう)は、粉末状となっており、一体化しているわけではないので、脆く、振動等の衝撃により剥落しやすい。
【0010】
そのため、上述した無機ガラス粒子と無機粒子とが分散媒中に分散してなる排気管用塗料を用いた場合には、分散質層が形成された排気管用基材に加熱処理を施さずに、そのままエンジンに取り付けてエンジンを始動させると、エンジンの振動が加わることにより排気管用基材の表面から分散質層が容易に剥落してしまい、表面被覆層を形成することができない。
一方、上述した無機ガラス粒子と無機粒子とに加えて、有機結合材が含まれた排気管用塗料を用いた場合には、無機ガラス粒子と無機粒子とが有機結合材により結合しているため、分散質層が形成された排気管用基材に加熱処理を施さずに、そのままエンジンに取り付けてエンジンを始動させても、エンジンの始動直後にはエンジンの振動による分散質層の剥落が発生しにくい。
しかしながら、エンジンが始動運転に移行した場合には、600℃程度の温度の排ガスが排気管用基材の内部に流通して排気管用基材の温度が上昇し、それに伴って、分散質層の温度も600℃程度にまで上昇する。そのため、有機結合材が分解、焼失して、無機ガラス粒子と無機粒子とが結合されなくなり、エンジンの振動が加わることにより排気管用基材の表面から分散質層が容易に剥落してしまい、表面被覆層を形成することができない。
そのため、排気管用塗料を排気管用基材に塗布し、乾燥処理を施した後には、使用に先立って、予め加熱処理を施して表面被覆層を形成しておく必要があると考えられた。
【0011】
しかしながら、本発明者らが排気管用塗料についてさらに検討を行ったところ、驚くべきことに、排気管用塗料として無機ガラス粒子と無機粒子とに加えて、無機結合材及び/又は無機結合材前駆体を配合したものを使用することにより、この排気管用塗料を排気管用基材の表面に塗布し、乾燥処理を施した後には、上述した加熱処理を行わずとも、そのままエンジンに取り付けて使用することで、表面被覆層を形成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、請求項1に記載の排気管用塗料は、無機ガラス粒子と、無機粒子と、無機結合材及び/又は無機結合材前駆体とを含み、排気管用基材に塗布することを特徴とする。
【0013】
請求項1に記載の排気管用塗料を用いることで、加熱処理を施さずとも排ガスの熱を利用して、所定の放熱性を有する排気管を作製することができる。
これについて、請求項1に記載の排気管用塗料を円筒状の排気管用基材の外周面上に塗布し、乾燥処理を施すことにより塗料塗布管を作製し、この塗料塗布管を用いて排気管を作製する場合を例に説明する。
図1は、本発明の排気管用塗料を塗布した排気管用基材(塗料塗布管)を模式的に示す斜視図であり、図2(a)は、図1に示した塗料塗布管をその長手方向に沿って切断した断面を模式的に示す一部拡大断面図であり、図2(b)は、図2(a)に示した塗料塗布管に排ガスの熱が加えられた状態を模式的に示す一部拡大断面図である。
なお、図1においては、排ガスをGで示し、排ガスの流れる方向を矢印で示す。
【0014】
図1に示した塗料塗布管70は、円筒状の排気管用基材50と、排気管用基材50の外周面上に所定の厚さで塗布され、乾燥処理が施された排気管用塗料(分散質層)10とからなる。
【0015】
分散質層10には、図2(a)に示したように、無機ガラス粒子20と無機粒子30とを結合する無機結合材40(以下の説明では、「無機結合材」には、無機結合材前駆体が加水分解等されることによって無機結合材となったものも含まれることとする)が含まれており、無機ガラス粒子20と無機粒子30とが無機結合材40によって結合している。
そのため、塗料塗布管70では、分散質層10が排気管用基材50に確実に固定され、分散質層10の剥落が発生しない。
ここで、以下の説明では、無機ガラス粒子20の軟化点が700℃程度であり、無機結合材40の軟化点が1000℃を超えるとともに、エンジンの始動運転時の排ガスの温度が600℃程度であり、定常運転時の排ガスの温度が1000℃程度である場合を例にして説明を行う。これは、近年、エンジンの出力及び燃費の向上を目的として、エンジンを高負荷高回転で運転させる傾向にあり、定常運転時の排ガスの温度が1000℃程度になったり、高速運転時には一時的に1000℃を超えたりすることが想定されるためである。
【0016】
この塗料塗布管70を加熱処理せずに、そのままエンジン(図示せず)に取り付けると、エンジンの始動運転時には、排気管用基材50の内部を600℃程度の排ガスGが流通し、排ガスGの熱が伝わることで、排気管用基材50及び分散質層10が600℃程度に加熱されると考えられる。
しかしながら、無機結合材40は、軟化点が1000℃を超えるため、600℃程度では軟化せず、無機ガラス粒子20と無機粒子30とが無機結合材40により結合した状態が維持される。
そのため、分散質層10が排気管用基材50の表面に固定された状態が維持され、エンジンの振動により分散質層10が排気管用基材50から剥落することはないと考えられる。
【0017】
その後、エンジンが定常運転に移行すると、始動運転時には、600℃程度であった排ガスGの温度が徐々に上昇し、それに伴って、分散質層10の温度も上昇する。
しかしながら、分散質層10の温度が上昇しても、軟化点が1000℃を超える無機結合材40は軟化しない。そのため、無機ガラス粒子20と無機粒子30とが無機結合材40で結合した状態が維持され、エンジンの振動で分散質層10が排気管用基材50から剥落しないと考えられる。
そして、分散質層10の温度が700℃程度に達した時点で、軟化点が700℃である無機ガラス粒子20が軟化し、軟化した無機ガラス粒子20が一体化してガラス基質(無機ガラス)となり、ガラス基質と無機粒子30と無機結合材40とが混ざり合うと考えられる。
これにより、図2(b)に示したように、無機粒子30及び無機結合材40がガラス基質21の内部に混在してなる表面被覆層60が形成されると考えられる。
このように、塗料塗布管70の内部に排ガスGを流通させることにより、分散質層10が加熱され、排気管用基材50の外周面上に表面被覆層60を形成することができる。
即ち、請求項1に記載の排気管用塗料では、排ガスGの熱を利用して、排気管用基材50の外周面上に、ガラス基質21の内部に無機粒子30と無機結合材40とが混在してなる表面被覆層60が形成された排気管80を作製することができる。
【0018】
図3(a)は、排気管用基材に塗布され、乾燥処理が施された排気管用塗料(分散質層)の表面の様子を示す走査型電子顕微鏡写真であり、図3(b)は、上記排気管用基材及び分散質層の断面の様子を示す走査型電子顕微鏡写真である。図3(c)は、上記分散質層に加熱処理を施すことにより形成された表面被覆層の表面の様子を示す走査型電子顕微鏡写真であり、図3(d)は、上記表面被覆層の断面の様子を示す走査型電子顕微鏡写真である。
図3(a)、(b)に示すように、排ガスの熱により表面被覆層となる前の分散質層では、無機ガラス粒子等が粒子状で存在しており、空隙が形成されている。一方、図3(c)、(d)に示すように、分散質層に排ガスの熱が加えられることにより形成された表面被覆層では、無機ガラス粒子が軟化したためか、空隙がほとんどなくなっており、その内部に無機粒子等が混在しているのがわかる。
【0019】
また、請求項1に記載の排気管用塗料には、無機粒子30が含まれている。
そのため、無機粒子30として放射率が比較的高い材料を用いた場合には、無機粒子30が含まれていない場合と比べて、無機粒子30からの熱放射が効率的に発生することになる。従って、請求項1に記載の排気管用塗料を用いて作製した排気管80では、排気管80内に流入した排ガスGの熱が排気管80に伝わり、排気管80に伝わった熱が表面被覆層70(無機粒子30)を通じて外部に効率よく熱放射されるので、排気管80から流出する排ガスGの温度が低下することになる。
これにより、エンジンの定常運転時で排ガスの温度が1000℃程度になる場合や、高速運転時で排ガスGの温度が一時的に1000℃を超える場合があったとしても、排気管80から流出する排ガスGの温度が触媒活性化温度の上限値を逸脱することがない。
一方、無機粒子として、放射率が比較的低い材料を用いると、無機粒子からの熱放射が発生しにくくなる。従って、このような排気管用塗料については、排ガスの温度が比較的低温であるディーゼルエンジン等の排気管に用いることで、排ガスの温度が触媒活性化温度の下限値より低下するのを防止することができる。
【0020】
請求項2に記載の排気管用塗料は、請求項1に記載の排気管用塗料において、上記無機ガラス粒子が低融点ガラスからなり、上記低融点ガラスの軟化点が上記無機結合材の軟化点よりも低い。
【0021】
請求項2に記載の排気管用塗料を加熱すると、低融点ガラスからなる無機ガラス粒子が、低融点ガラスの軟化点に達したところで軟化するが、一方、低融点ガラスの軟化点よりも高い軟化点を有する無機結合材は軟化しない。そのため、無機ガラス粒子が軟化するまで、無機ガラス粒子と無機粒子とが結合した状態が維持されると考えられる。
従って、無機ガラス粒子が軟化して表面被覆層が形成される前に、エンジンの振動で分散質層が排気管用基材から剥落することはないと考えられる。
このように、請求項2に記載の排気管用塗料では、請求項1に記載の排気管用塗料の作用効果を好適に享受することができる。
【0022】
請求項3に記載の排気管用塗料は、請求項2に記載の排気管用塗料において、上記低融点ガラスの軟化点が300〜1000℃である。
【0023】
請求項3に記載の排気管用塗料によると、上記低融点ガラスの軟化点が300〜1000℃となっており、エンジンが始動運転から定常運転に移行する過程での排ガスの温度(例えば、600〜1000℃程度)と低融点ガラスの軟化点とがそれほど離れていない。
そのため、エンジンが始動運転から定常運転に移行する過程において、排ガスの熱を利用して無機ガラス粒子を軟化させることができる。また、軟化した無機ガラス粒子の粘度が低くなりすぎず、表面被覆層が形成される前に、排気管用基材から分散質層が剥落してしまうことがない。
このように、請求項3に記載の排気管用塗料では、請求項1に記載の排気管用塗料の作用効果を好適に享受することができる。
これに対して、上記低融点ガラスの軟化点が、300℃未満である場合には、エンジンが始動運転から定常運転に移行する過程での排ガスの温度よりも低融点ガラスの軟化点が著しく低い。そのため、エンジンが始動運転から定常運転に移行する過程において、軟化した無機ガラス粒子の粘度が低くなりすぎて、表面被覆層が形成される前に分散質層が排気管用基材から剥落してしまうことがある。そのため、表面被覆層を形成することができないことがある。
一方、上記低融点ガラスの軟化点が、1000℃を超える場合には、エンジンの定常運転時における排ガスの温度(1000℃程度)よりも低融点ガラスの軟化点が高すぎることとなり、排ガスの熱を利用して表面被覆層を形成することが困難になることがある。
【0024】
請求項4に記載の排気管用塗料は、請求項1〜3のいずれかに記載の排気管用塗料において、乾燥処理を施した後の放射率が0.7以上である。
また、請求項5に記載の排気管用塗料は、請求項1〜4のいずれかに記載の排気管用塗料において、上記無機粒子がマンガン、鉄、銅、コバルト、クロムのうちの少なくとも一種の酸化物からなる。
【0025】
請求項4に記載の排気管用塗料は、乾燥処理を施した後の放射率が0.7であり、比較的高くなっている。
また、請求項5に記載の排気管用塗料では、無機粒子として、無機材料のなかでも放射率が比較的高い材料を用いている。
そのため、請求項4又は5に記載の排気管用塗料を用いた排気管では、エンジンの定常運転時や、高速運転時に高温の排ガスが排気管を流入しても、排ガスの熱が表面被覆層(無機粒子)を通じて外部に効率よく熱放射されるので、排気管から排出される排ガスの温度が低下して、触媒活性化温度の範囲内に制御されることになる。
【0026】
請求項6に記載の排気管用塗料の使用方法は、排気管用基材に、請求項1〜5のいずれかに記載の排気管用塗料を塗布して塗料塗布管を作製する工程と、上記塗料塗布管をエンジンの排気口に取り付ける工程と、上記エンジンの排気口から排ガスを排出させることにより、上記排ガスを上記塗料塗布管に流通させる工程とを含み、上記排気管用基材に表面被覆層を形成することを特徴とする。
【0027】
請求項6に記載の排気管用塗料の使用方法は、請求項1〜5のいずれかに記載の排気管用塗料を用いた塗料塗布管をエンジンの排気口に取り付け、上記排気口から排出された排ガスを上記塗料塗布管に流通させる工程を含む。
これにより、加熱処理を行わずとも排ガスの熱を利用して所定の放熱性を有する排気管を作製することができる。
なお、その理由については、請求項1に記載の排気管用塗料の説明で既に述べているので、省略する。
また、排気管の作製工程において、高エネルギーを必要とする加熱処理を行う必要が全くないので、CO等の排出量を抑制して、環境負荷を低減させることができる。
【0028】
請求項6に記載の排気管用塗料の使用方法において、請求項2又は3に記載の排気管用塗料を用いた場合には、請求項2又は3に記載の排気管用塗料の説明で述べたように、上述した排気管用塗料の使用方法の作用効果を好適に享受することができる。
【0029】
請求項6に記載の排気管用塗料の使用方法において、請求項4又は5に記載の排気管用塗料を用いた場合には、請求項4又は5に記載の排気管用塗料の作用効果の説明で述べたように、作製された排気管から排出される排ガスの温度を低下させ、触媒活性化温度の範囲内に制御することができる。
【0030】
請求項7に記載の排気管は、排気管用基材と、上記排気管用基材に形成された表面被覆層とを備える排気管であって、上記表面被覆層は、上記排気管用基材に塗布された請求項1〜5のいずれかに記載の排気管用塗料を加熱してなることを特徴とする。
【0031】
請求項7に記載の排気管では、請求項1に記載の排気管用塗料を加熱することにより、排気管用基材に表面被覆層が形成されている。
このようにして形成された表面被覆層では、請求項1に記載の排気管用塗料の説明で述べたように、無機ガラス(ガラス基質)の内部に無機粒子と無機結合材とが混在している(図2(b)参照)。従って、無機結合材により無機ガラスと無機粒子とが結合しており、無機結合材が含まれていない表面被覆層に比べて、表面被覆層の粘度が高くなっていると考えられる。そのため、エンジンの始動運転時や、定常運転時はもちろんのこと、高速運転時において排気管の温度が一時的に1000℃を超えるような場合であっても、表面被覆層の粘度は低下しないと考えられ、エンジンの振動が加わっても表面被覆層が排気管用基材から脱落しない。
【0032】
また、請求項7に記載の排気管においては、表面被覆層に無機粒子が含まれている。
そのため、無機粒子として放射率の比較的高い材料を用いた場合には、無機粒子が含まれていない場合と比べて、無機粒子からの熱放射が効率的に発生することになる。従って、排気管内に流入した排ガスの熱が排気管に伝わり、排気管に伝わった熱が表面被覆層(無機粒子)を通じて外部に効率よく熱放射されるので、排気管から流出する排ガスの温度が低下することになる。
これにより、エンジンの高速運転時において、排気管に流入した排ガスの温度が一時的に1000℃を超えたとしても、排気管から流出する排ガスの温度が触媒活性化温度の上限値を逸脱することがない。
一方、無機粒子として、放射率が比較的低い材料を用いると、無機粒子からの熱放射が発生しにくくなる。従って、このような排気管については、排ガスの温度が比較的低温であるディーゼルエンジン等に取り付けることで、排ガスの温度が触媒活性化温度の下限値より低下するのを防止することができる。
【0033】
請求項7に記載の排気管において、請求項2に記載の排気管用塗料を使用した場合、形成された表面被覆層では、上記無機ガラス粒子が低融点ガラスからなり、上記低融点ガラスの軟化点が上記無機結合材の軟化点よりも低く、上記無機粒子と上記無機結合材とが上記低融点ガラス中に混在することとなる。
【0034】
このような排気管では、表面被覆層に、軟化点が1000℃以下である低融点ガラスが含まれている。そのため、表面被覆層に低融点ガラスよりも高い軟化点を有する無機ガラスが含まれている場合に比べて、特に、排ガスの温度が1000℃程度と高くなるエンジンの定常運転時や、高速運転時で低融点ガラスが軟化しやすく、表面被覆層の粘度が低下しやすいようにも思われる。
しかしながら、表面被覆層には、低融点ガラスよりも高い1000℃を超える軟化点を有する無機結合材が含まれているので、定常運転時や、高速運転時の排ガスの熱により低融点ガラスが軟化したとしても、無機結合材は軟化せず、低融点ガラス中に融解しないと考えられる。そのため、軟化した低融点ガラス中には、無機粒子と無機結合材とが混在することになると考えられる。従って、軟化した低融点ガラスと無機粒子とが無機結合材によって結合して、表面被覆層の粘度が維持されると考えられる。
このような理由によって、請求項2に記載の排気管用塗料を用いた場合には、上述した排気管の作用効果を好適に享受することができる。
【0035】
請求項7に記載の排気管において、請求項3に記載の排気管用塗料を使用した場合には、低融点ガラスの軟化点が300〜1000℃となるが、このような構成を有している場合であっても、上述した排気管の作用効果を好適に享受することができる。
【0036】
請求項7に記載の排気管において、請求項4又は5に記載の排気管用塗料を用いた場合には、請求項4又は5に記載の排気管用塗料の作用効果の説明で述べたように、作製された排気管から排出される排ガスの温度を低下させ、触媒活性化温度の範囲内に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の排気管用塗料を塗布した排気管用基材(塗料塗布管)を模式的に示す斜視図である。
【図2】図2(a)は、図1に示した塗料塗布管をその長手方向に沿って切断した断面を模式的に示す一部拡大断面図であり、図2(b)は、図2(a)に示した塗料塗布管に排ガスの熱が加えられた状態を模式的に示す一部拡大断面図である。
【図3】図3(a)は、排気管用基材に塗布され、乾燥処理が施された排気管用塗料の表面の様子を示す走査型電子顕微鏡写真であり、図3(b)は、上記排気管用基材及び乾燥処理が施された排気管用塗料の断面の様子を示す走査型電子顕微鏡写真である。図3(c)は、上記乾燥処理が施された排気管用塗料に加熱処理を施すことにより形成された表面被覆層の表面の様子を示す走査型電子顕微鏡写真であり、図3(d)は、上記表面被覆層の断面の様子を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】図4は、自動車用エンジンと、自動車用エンジンに取り付ける第一実施形態の塗料塗布管とを模式的に示す分解斜視図である。
【図5】図5(a)は、図4のA−A線断面図であり、図5(b)は、図5(a)のB−B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
(第一実施形態)
以下、本発明の一実施形態である第一実施形態について説明する。
まず、本実施形態の排気管用塗料について説明する。
【0039】
本実施形態の排気管用塗料には、無機ガラス粒子と、無機粒子と、無機結合材及び/又は無機結合材前駆体とが含まれている。
【0040】
上記無機ガラス粒子は、軟化点が300〜1000℃である低融点ガラスからなり、その軟化点が無機結合材の軟化点よりも低いことが好ましい。
【0041】
また、上記無機粒子は、マンガン、鉄、銅、コバルト、クロムのうちの少なくとも一種の酸化物から構成されており、乾燥処理を施した後の排気管用塗料の放射率が0.7以上であることが好ましい。
【0042】
上記無機結合材は、その軟化点が1000℃を超えており、低融点ガラスの軟化点よりも高いことが好ましい。また、上記無機結合材は、上記無機ガラス粒子と上記無機粒子とを結合することができる。
このような無機結合材としては、例えば、酸化リチウム粒子等や、後述する無機結合材前駆体が変化して無機結合材となったもの等が挙げられる。
上記無機結合材前駆体としては、加水分解や、加熱されること等によって上記無機結合材へと変化することができるものであれば、特に限定されないが、例えば、リチウムメトキシド、リチウムエトキシド等のリチウムアルコキシドが挙げられる。
【0043】
次に、本実施形態の塗料塗布管について説明する。
本実施形態の塗料塗布管は、主に金属からなる円筒状の排気管用基材と、上記排気管用基材の外周面の略全面に所定の厚さで塗布され、乾燥処理が施された本実施形態の排気管用塗料とからなる。
本実施形態の塗料塗布管の詳細な構成については、図1及び図2(a)を用いて説明しているので、説明を省略する。
【0044】
上記排気管用基材の材質としては、例えば、ステンレス、鋼、鉄、銅等の金属、インコネル、ハステロイ、インバー等のニッケル合金等が挙げられる。これらの金属材料は熱伝導率が高いため、塗料塗布管を用いた排気管の放熱性の向上に寄与することができる。
【0045】
また、上記排気管用基材の外周面は、凹凸が形成された粗化面となっている。
粗化面の凹凸は、最大高さRzが1.5〜15μmであることが望ましい。
排気管用基材の外周面の凹凸の最大高さRzが、1.5〜15μmであると、排気管用基材と排気管用塗料(分散質層)又は表面被覆層との密着性が優れることとなる。
これに対し、上記最大高さRzが、1.5μm未満であると、表面積が小さくなるため、排気管用基材と排気管用塗料(分散質層)又は表面被覆層との密着性が不充分になる場合がある。
一方、上記最大高さRzが、15μmを超えると、排気管用基材の表面に、排気管用塗料(分散質層)又は表面被覆層が確実に形成されない場合がある。これは、最大高さRzが大きすぎると、排気管用基材の表面に形成された凹凸の谷の部分に確実に排気管用塗料が入り込まず、この部分に空隙が形成されるためであると考えられる。
また、上記最大高さRzは、3.0〜14μmであることがより望ましく、3.5〜13μmであることがさらに望ましい。
なお、最大高さRzは、JIS B 0601に準拠して算出する。
また、排気管用基材の材質等の諸条件により排気管用塗料の剥落を防止することが可能であれば、粗化面は形成されていなくてもよい。
【0046】
排気管用基材の外周面を粗化面とする方法としては、例えば、サンドブラスト処理、エッチング処理、高温酸化処理等の粗化処理が挙げられる。これらの粗化処理は、単独で行ってもよいし、2種以上の粗化処理を併用してもよい。
【0047】
以下、本実施形態の排気管用塗料を作製する方法(工程1)、本実施形態の塗料塗布管を作製する方法(工程2)及び本実施形態の排気管用塗料の使用方法(工程3)について説明する。下記工程1〜3を経ることにより、本実施形態の排気管を作製することができる。
【0048】
1.排気管用塗料の作製方法
(1−1)低融点ガラスからなる無機ガラス粒子と無機粒子とを所定の配合比率で乾式混合して、混合粉末を作製する。
なお、無機ガラス粒子は、所定の粒度、形状等になるように低融点ガラスの粗粉末をボールミル等で粉砕して作製すればよい。また、無機粒子については、所定の粒度、形状等になるように所定の無機材料の粗粉末をボールミル等で粉砕して作製すればよい。
【0049】
(1−2)無機結合材前駆体としてリチウムアルコキシドを所定量秤量した後に、混合粉末に添加し、湿式混合することで排気管用塗料を作製する。
【0050】
2.塗料塗布管の作製方法
(2−1)排気管用基材の表面に粗化処理を行い、排気管用基材の表面に凹凸を形成して粗化面とする。
【0051】
(2−2)次に、粗化処理した排気管用基材の表面に、(1−2)で作製した排気管用塗料をスプレーコートにより均一に塗布する。
【0052】
(2−3)排気管用塗料を塗布した排気管用基材を、室温、数分〜数十時間の条件でプレ乾燥処理を施した後に、乾燥機内で、50〜300℃、10分〜1時間の条件で乾燥処理を施すことにより、塗料塗布管を作製する。
【0053】
3.排気管用塗料の使用方法
本実施形態の排気管用塗料の使用方法では、加熱処理を行わずとも、排ガスの熱を利用して、排気管を作製することができる。
以下、本実施形態の排気管用塗料の使用方法により、自動車用エンジンに取り付けられるエキゾーストマニホールドを作製する場合を例に、本実施形態の排気管用塗料の使用方法について図面を用いて説明する。
【0054】
図4は、自動車用エンジンと、自動車用エンジンに取り付ける本実施形態の塗料塗布管とを模式的に示す分解斜視図である。
また、図5(a)は、図4に示すA−A線による断面図であり、図5(b)は、図5(a)に示すB−B線による断面図である。
なお、図5(a)においては、排ガスをGで示し、排ガスの流れる方向を矢印で示す。
【0055】
(3−1)上記工程1、2により、エキゾーストマニホールド用基材に、排気管用塗料を塗布し、乾燥処理を施したエキゾーストマニホールド用塗料塗布管を作製する。
この作製したエキゾーストマニホールド用塗料塗布管を自動車用エンジンの排気口に取り付ける。
具体的には、図4に示したように、自動車用エンジン100のシリンダブロック101の頂部に取り付けられたシリンダヘッド102の一方の側面に、エキゾーストマニホールド用塗料塗布管170の一方の端部を取り付ける。
エキゾーストマニホールド用塗料塗布管170を取り付けることで、各シリンダーからの排ガスが集合することになる。
なお、自動車用エンジンとしては、特に限定されないが、本実施形態では、自動車用エンジンとして、始動運転時の排ガスの温度が600℃程度であり、定常運転時の排ガスの温度が1000℃程度である従来公知の自動車用エンジンを用いている。
また、図示しないエキゾーストマニホールド用塗料基材の他方の端部には、必要に応じて、従来公知の触媒コンバータ等を取り付けてもよい。
【0056】
(3−2)次に、自動車用エンジンを始動させる。これにより、図5(a)に示したように、自動車用エンジン100から排出された排ガスGをエキゾーストマニホールド用塗料塗布管170の内部に流通させる。
【0057】
(3−3)排ガスの温度が300〜1000℃であって、無機ガラス粒子の軟化点を超えた温度に達したところで10分〜1時間保持することにより、表面被覆層を形成する。
排ガスの熱により表面被覆層が形成される詳細な過程については、図1、図2(a)及び図2(b)を用いて既に説明したので、説明を省略する。
【0058】
上記工程を経ることにより、排ガスの熱を利用してエキゾーストマニホールド用塗料塗布管170からエキゾーストマニホールド180を作製することができる。
なお、ここでは、塗料塗布管をエンジンの排気口に取り付けて使用することにより、排ガスの熱を利用して排気管を作製することができることを説明したが、エキゾーストマニホールド用塗料塗布管170を加熱炉等により、300〜1000℃であって、無機ガラス粒子の軟化点を超える温度で、10分〜1時間加熱することによってもエキゾーストマニホールド180を作製することができる。
【0059】
上記工程1〜3を経て作製される本実施形態の排気管は、図5(b)に示したように、排気管用基材150と、排気管用基材150の外周面上に形成された表面被覆層160とを備え、表面被覆層160が、排気管用基材150に塗布された無機ガラス粒子と無機粒子と無機結合材及び/又は無機結合材前駆体とを含む、本実施形態の排気管用塗料を加熱してなる排気管180である。
【0060】
表面被覆層160は、上記無機粒子と上記無機結合材とが上記無機ガラス中に混在することにより構成されている。
ここで、上記無機ガラスは、軟化点が300〜1000℃の低融点ガラスであり、上記低融点ガラスの軟化点は、上記無機結合材の軟化点よりも低くなっている。
また、上記無機粒子は、マンガン、鉄、銅、コバルト、クロムのうちの少なくとも一種の酸化物からなり、上記表面被覆層の放射率が、0.7以上となっている。
また、上記無機結合材の軟化点は、1000℃を超えている。
【0061】
以下に、本実施形態の排気管用塗料、排気管用塗料の使用方法及び排気管の作用効果について列挙する。なお、本実施形態の排気管用塗料の使用方法の作用効果については、本実施形態の排気管用塗料の作用効果と同様であるため、説明を省略する。
【0062】
(1)本実施形態の排気管用塗料には、軟化点が300〜1000℃の低融点ガラスからなる無機ガラス粒子と、無機粒子と、軟化点が1000℃を超える無機結合材とが含まれており、無機ガラス粒子と無機粒子とが無機結合材で結合されている。従って、本実施形態の排気管用塗料は、排気管用基材に確実に固定される。
本実施形態の排気管用塗料が塗布され、乾燥処理が施された排気管用基材を加熱処理せずに、そのままエンジンの排気口に取り付けると、エンジンの始動運転時には、排気管用基材の内部を600℃程度の排ガスが流通し、排気管用塗料が600℃程度に加熱される。
ここで、無機結合材は、その軟化点が1000℃を超えるため、600℃程度では軟化しないし、その後、エンジンが定常運転に移行することで排気管用塗料の温度が上昇しても、軟化しない。そのため、無機ガラス粒子と無機粒子とが無機結合材で結合した状態が維持され、エンジンの振動が加わっても、乾燥処理が施された排気管用塗料(分散媒)が排気管用基材から剥落しないと考えられる。
そして、排気管用塗料の温度が300〜1000℃であって、低融点ガラスの軟化点に達した時点で、無機ガラス粒子が軟化し、一体化してガラス基質(無機ガラス)となり、無機粒子及び無機結合材がガラス基質の内部に混在してなる表面被覆層が形成されると考えられる。
このように、本実施形態の排気管用塗料では、排ガスの熱を利用して排気管を作製することができる。
【0063】
(2)本実施形態の排気管用塗料では、高エネルギーを必要とする加熱処理を行わずとも、排ガスの熱を利用して排気管を作製することができる。
そのため、CO等の排出量を抑制することによって、環境負荷を低減させることができる。
【0064】
(3)本実施形態の排気管では、表面被覆層に、軟化点が1000℃以下である低融点ガラスが含まれている。そのため、表面被覆層に、低融点ガラスよりも高い軟化点を有する無機ガラスが含まれている場合に比べて、特に、排ガスの温度が1000℃程度と高くなるエンジンの定常運転時や、高速運転時で低融点ガラスが軟化しやすく、表面被覆層の粘度が低下しやすいようにも思われる。
しかしながら、表面被覆層には、低融点ガラスよりも高い1000℃を超える軟化点を有する無機結合材が含まれているので、定常運転時や、高速運転時の排ガスの熱により低融点ガラスが軟化したとしても、無機結合材は軟化せず、低融点ガラス中に融解しないと考えられる。そのため、軟化した低融点ガラス中には、無機粒子と無機結合材とが混在することになり、無機結合材により低融点ガラスと無機粒子とが結合して、表面被覆層の粘度が維持されると考えられる。
そのため、エンジンの始動運転時や、定常運転時はもちろんのこと、高速運転時において排気管の温度が一時的に1000℃を超えるような場合にエンジンの振動が加わっても、表面被覆層が排気管用基材から脱落しない。
【0065】
(4)本実施形態の排気管では、無機材料のなかでも放射率の比較的高いマンガン、鉄、銅、コバルト、クロムのうちの少なくとも一種の酸化物からなる無機粒子が表面被覆層に含まれており、表面被覆層の放射率が0.7以上となっている。
従って、本実施形態の排気管では、エンジンの定常運転時や、高速運転時に高温の排ガスが排気管を流入しても、排ガスの熱が表面被覆層(無機粒子)を通じて外部に効率よく熱放射されるので、排気管から排出される排ガスの温度が低下して、触媒活性化温度の範囲内に制御されることになる。
【0066】
以下、本発明の第一実施形態をより具体的に開示した実施例を示すが、本実施形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0067】
(実施例1)
1.排気管用塗料の作製
(1−1)低融点ガラスからなる無機ガラス粒子として、軟化点が400℃のB−Bi系ガラス粉末(旭硝子(株)製、BAS115)を60重量部秤量した。別途、無機粒子として、MnO粉末を30重量部と、FeO粉末を5重量部と、CuO粉末を5重量部とを秤量した。これらの粉末を乾式混合して混合粉末を作製した。
【0068】
(1−2)無機結合材前駆体として、リチウムアルコキシド70重量部を混合粉末に添加し、混合することで、排気管用塗料を作製した。
なお、リチウムアルコキシドは、加水分解等されることによって、酸化リチウムとなり、無機結合材として機能するものと考えられる。従って、上記無機結合材前駆体が無機結合材に変化した後には、1000℃を超える軟化点を有するものと推測される。
【0069】
2.塗料塗布管用サンプルの作製
(2−1)幅100mm、長さ100mm及び厚さ2mmの板状であって、ステンレス(SUS430)製の排気管用基材を準備した。この排気管用基材をアルコール溶媒中で超音波洗浄し、その後、排気管用基材の外周面にサンドブラスト処理を行って、粗化面とした。
ここで、サンドブラスト処理は、♯100のAl砥粒を用いて10分間行った。
【0070】
(2−2)次に、サンドブラスト処理した排気管用基材の表面に、(1−2)で作製した排気管用塗料0.3gをスプレーコートにより均一に塗布した。
【0071】
(2−3)排気管用塗料を塗布した排気管用基材を、室温、24時間の条件でプレ乾燥処理を施した後に、乾燥機内で、150℃、20分間の条件で乾燥処理を施すことにより、塗料塗布管用サンプルを作製した。
【0072】
3.塗料塗布管用サンプルの評価
(放射率の評価)
放射率は、KEM社製放射率計D&S AERDを用いて、塗料塗布管用サンプルの放射率を計測した。
その結果、塗料塗布管用サンプルの放射率は、0.80であった。
【0073】
(分散質層の剥落の評価)
デュポン式衝撃試験機(TP技研(株)製、デュポン衝撃試験機)に塗料塗布管用サンプルを設置し、500gのおもりを400mmの高さから塗料塗布管用サンプル上に落下させた。これにより、おもり落下衝撃に対する分散質層の剥落の有無について評価した。
その結果、実施例1で作製した塗料塗布管用サンプルでは、分散質層の剥落が発生しなかった。
【0074】
引き続いて、上記(2−3)で作製した塗料塗布管サンプルを用いて、排気管用サンプルを作製したので、それについて説明する。
【0075】
4.排気管用サンプルの作製
上記(2−3)で作製した塗料塗布管用サンプルを加熱炉で、700℃、30分間加熱して、排気管用サンプルを作製した。
作製された排気管用サンプルにおいて、表面被覆層の厚さは、25μmであった。
【0076】
5.排気管用サンプルの評価
(放射率の評価)
塗料塗布管用サンプルの放射率の評価と同様にして、排気管用サンプルの表面被覆層の放射率についても評価した。
その結果、実施例1で作製した排気管用サンプルの表面被覆層の放射率は、0.82であった。
【0077】
(表面被覆層の脱落の評価)
上記4で作製した排気管用サンプルを60°傾斜させた状態で1000℃の加熱炉内に載置し、60分間保持した。その後、排気管用基材の表面における表面被覆層の脱落の有無について評価した。
その結果、実施例1で作製した排気管用サンプルでは、表面被覆層の脱落が発生しなかった。
【0078】
(比較例1)
実施例1の(1−2)で、無機結合材前駆体に代えて、水70重量部を混合粉末に添加し、混合したこと以外は、実施例1と同様にして排気管用塗料、塗料塗布管用サンプル及び排気管用サンプルを作製した。
作製された排気管用サンプルにおいて、表面被覆層の厚さは、25μmであった。
【0079】
(比較例2)
実施例1の(1−2)で、無機結合材前駆体に代えて、有機結合材としてメチルセルロース0.9重量部と水70重量部とを混合して作製したメチルセルロース溶液を混合粉末に添加し、混合したこと以外は、実施例1と同様にして排気管用塗料、塗料塗布管用サンプル及び排気管用サンプルを作製した。
作製された排気管用サンプルにおいて、表面被覆層の厚さは、25μmであった。
【0080】
(比較例3)
実施例1の(2−2)で、排気管用塗料を排気管用基材に塗布せずに塗料塗布管用サンプル及び排気管用サンプルを作製したこと以外は、実施例1と同様にして排気管用サンプルを作製した。
即ち、幅100mm、長さ100mm及び厚さ2mmの板状であって、ステンレス(SUS430)製の排気管用基材の外周面に、実施例1と同様のサンドブラスト処理をしたものを排気管用サンプルとした。
【0081】
実施例1及び比較例1、2で作製した排気管用塗料の組成について表1に示す。
なお、表1には、参考として比較例3についても示してある。
【0082】
【表1】

【0083】
比較例1、2で作製した塗料塗布管用サンプルについて、実施例1と同様にして放射率及び分散質層の剥落の評価を行った。
また、比較例1、2で作製した排気管用サンプルついて、実施例1と同様にして、放射率及び表面被覆層の脱落の評価を行った。
また、比較例3で作製した排気管用サンプルについて、実施例1と同様にして放射率の評価を行った。
各比較例の結果については、実施例1の結果と合わせて表2に示す。
【0084】
【表2】

【0085】
表2に示した結果より明らかなように、比較例3で作製した排気管用サンプルでは、表面被覆層が形成されておらず、放射率が0.21と低かった。
これに対して、実施例1及び比較例1、2で作製した塗料塗布管用サンプルの放射率は、排気管用塗料に二酸化マンガン、酸化銅及び酸化鉄のそれぞれの無機粒子が含まれていたためか、放射率が0.7以上となっていた。また、これらの排気管用塗料を用いて作製した排気管用サンプルでも、放射率が0.7以上となっており、比較例3で作製した排気管用サンプルに比べて高くなっていた。
【0086】
また、実施例1で作製した排気管用塗料には、無機結合材に変化した後の軟化点が1000℃を超えると推測される無機結合材前駆体が含まれており、150℃の乾燥処理を施しても無機結合材が軟化せず、無機ガラス粒子と無機粒子とが無機結合材により結合した状態が維持されたためか、作製した塗料塗布管用サンプルに機械的な衝撃を加えても分散質層の剥落が発生しなかった。
また、実施例1で作製した排気管用塗料には、軟化点が400℃の低融点ガラスが含まれていたためか、作製された塗料塗布管用サンプルに、700℃の条件で加熱処理を施すことで表面被覆層を形成することができた。
これに対して、比較例1で作製した排気管用塗料には、無機結合材が含まれておらず、150℃の乾燥処理を施すことで粉末状となった無機ガラス粒子等が結合していなかったためか、作製した塗料塗布管用サンプルに機械的な衝撃を加えると分散質層の剥落が発生した。
また、比較例2で作製した塗料塗布管用サンプルでは、排気管用塗料に無機結合材が含まれておらず、代わりに有機結合材としてメチルセルロース溶液が含まれており、150℃の乾燥処理を施すことで、溶媒である水が揮発して有機結合材の結合能が低下したためか、作製した塗料塗布管用サンプルに機械的な衝撃を加えると分散質層の剥落が発生した。
【0087】
また、実施例1で作製した排気管用サンプルでは、1000℃に加熱されても表面被覆層の脱落が発生しなかった。
これは、表面被覆層に、低融点ガラスよりも高い1000℃を超える軟化点を有すると推測される無機結合材が含まれており、上記温度に加熱されても無機結合材が低融点ガラス中に融解せず、低融点ガラスと無機粒子とが無機結合材により結合され、表面被覆層の粘度が維持されたためであると考えられる。
一方、比較例1、2で作製した排気管用サンプルでは、表面被覆層に無機結合材が含まれていなかったためか、表面被覆層の脱落が発生した。これは、無機ガラスと無機粒子とが結合しておらず、1000℃に加熱された場合に、表面被覆層の粘度が低下したためであると考えられる。
【0088】
(その他の実施形態)
本発明の排気管用塗料において、無機ガラス粒子としては、エンジンの排ガスの熱で軟化するのであれば、その材質は特に限定されず、例えば、従来公知の無機ガラスであるソーダ石灰ガラス、無アルカリガラス、硼珪酸ガラス、カリガラス、鉛クリスタルガラス、チタンクリスタルガラス、バリウムガラス、ボロンガラス、ストロンチウムガラス、アルミナ珪酸ガラス、ソーダ亜鉛ガラス、ソーダバリウムガラス等が挙げられる。
これらの中では、軟化点が1000℃以下の低融点ガラスであることが好ましく、特に、軟化点が300〜1000℃であることがより好ましい。その理由については、既に述べているので省略する。
また、上述したエンジンとして、ディーゼルエンジンを用いた場合には、低融点ガラスの軟化点が、200〜800℃であることが好ましい。無機ガラス粒子の軟化点が上記範囲であると、より容易に、ディーゼルエンジンの排ガスの熱を利用して表面被覆層を形成することができる。
上記低融点ガラスの具体例としては、例えば、SiO−B−ZnO系ガラス、SiO−B−Bi系ガラス、SiO−PbO系ガラス、SiO−PbO−B系ガラス、SiO−B−PbO系ガラス、B−ZnO−PbO系ガラス、B−ZnO−Bi系ガラス、B−Bi系ガラス、B−ZnO系ガラス、BaO−SiO系ガラス等が挙げられる。
また、無機ガラス粒子は、上述した低融点ガラスのうちの一種類の低融点ガラスのみからなるものであってもよいし、複数種類の低融点ガラスからなるものであってもよい。
なお、ここでいう軟化点とは、無機ガラスの粘度が4.5×10Pa・sになる温度のことである。
【0089】
本発明の排気管用塗料において、無機ガラス粒子の配合量は、無機ガラス粒子と無機粒子と無機結合材(無機結合材前駆体)との合計に対して、望ましい下限が10重量%、望ましい上限が62重量%である。
無機ガラス粒子の配合量が10重量%未満では、無機ガラス粒子の量が少なすぎるので、作製された排気管において表面被覆層が脱落することがある。一方、無機ガラス粒子の配合量が62重量%を超えると、無機粒子の量が少なくなり、排気管の放熱性が低下する場合がある。また、無機結合材の量が少なくなり、無機ガラス粒子と無機粒子とを充分に結合することができないことがある。
無機ガラス粒子の配合量は、より望ましい下限が12重量%であり、より望ましい上限が47重量%である。
【0090】
本発明の排気管用塗料において、無機粒子としては、上述したマンガン、鉄、銅、コバルト、クロムのうちの少なくとも一種の酸化物からなる無機粒子に限られず、ニッケル等の酸化物が含まれた無機粒子であってもよい。
また、無機粒子は、アルミニウム等からなる無機粒子(金属粒子)であってもよい。アルミニウム等からなる無機粒子を用いると、放射率が比較的低いので、無機粒子からの熱放射が発生しにくくなる。従って、このような排気管用塗料については、排ガスの温度が比較的低温であるディーゼルエンジン等の排気管に用いることで、排ガスの温度が触媒活性化温度の下限値より低下するのを防止することができる。
【0091】
本発明の排気管用塗料において、無機粒子の配合量は、無機ガラス粒子と無機粒子と無機結合材(無機結合材前駆体)との合計に対して、望ましい下限が10重量%、望ましい上限が62重量%である。
無機粒子の配合量が10重量%未満では、放熱性を有する無機粒子の量が少なすぎるので、排気管の放熱性が低下することがある。一方、無機粒子の配合量が62重量%を超えると、無機結合材の量が少なくなり、無機ガラス粒子と無機粒子とを充分に結合することができないことがある。また、無機ガラス粒子の量が少なくなり、作製された排気管において表面被覆層が脱落することがある。
無機粒子の配合量は、より望ましい下限が12重量%であり、より望ましい上限が47重量%である。
【0092】
本発明の排気管用塗料において、上記無機ガラス粒子が低融点ガラスからなる場合、無機結合材の軟化点は、低融点ガラスの軟化点よりも高いのであれば、特に限定されないが、例えば、500℃を超えることが好ましい。その中では、上述したように、軟化点が1000℃を超えることがより好ましい。
エンジンが始動運転から定常運転に移行することで、排気管用塗料の温度が1000℃程度まで上昇しても、無機結合材が軟化せず、無機ガラス粒子と無機粒子とが無機結合材により結合した状態が維持されると考えられるからである。また、作製した排気管では、排ガスの温度が1000℃程度と高くなるエンジンの定常運転時等においても、無機結合材が軟化せず、表面被覆層の粘度が低下しないと考えられるからである。
また、ディーゼルエンジンを用いた場合には、無機結合材の軟化点がディーゼルエンジンの排ガスの温度の上限値よりも高いことが好ましく、例えば、800℃を超えることがより好ましい。
【0093】
本発明の排気管用塗料において、無機結合材(無機結合材前駆体)の配合量は、無機ガラス粒子と無機粒子と無機結合材(無機結合材前駆体)との合計に対して、望ましい下限が23重量%、望ましい上限が50重量%である。
無機結合材の配合量が23重量%未満では、無機結合材の量が少なすぎるので、無機ガラス粒子と無機粒子とを充分に結合することができないことがある。一方、無機結合材の配合量が50重量%を超えると、無機ガラス粒子の量が少なくなり、作製された排気管において、表面被覆層が脱落することがある。また、無機粒子の量が少なくなり、排気管の放熱性が低下することがある。
無機ガラス粒子の配合量は、より望ましい下限が30重量%であり、より望ましい上限が45重量%である。
【0094】
本発明の排気管用塗料の粘度は、排気管用塗料を排気管用基材に塗布することができる範囲にあれば特に限定されず、後述する排気管用塗料を塗布する方法に応じて、適宜、調整すればよい。
【0095】
本発明の排気管用塗料には、粘度を調整するために分散媒や有機結合材が加えられていてもよい。分散媒としては、例えば、水や、メタノール、エタノール、アセトン等の有機溶媒等が挙げられる。上記混合粉末と分散媒との配合比は、特に限定されるものでないが、例えば、混合粉末100重量部に対して、分散媒が50〜150重量部程度であることが望ましい。排気管用基材に塗布するのに適した粘度となるからである。
また、有機結合材としては、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、分散媒と有機結合材とを併用してもよい。この場合には、エンジンの振動が加わった場合でも排気管用塗料が排気管用基材に確実に塗布され、剥落の発生を確実に防止することができるからである。
【0096】
本発明の排気管において、表面被覆層の放射率は、高くてもよいし、低くてもよい。
表面被覆層の放射率が0.5以上であり、比較的高い場合には、排ガスの熱が表面被覆層(無機粒子)を通じて外部に効率よく熱放射されるので、排気管から排出される排ガスの温度が低下して、触媒活性化温度の範囲内に制御されることになる。この場合、表面被覆層の放射率は、0.7以上であることがより好ましく、0.8以上であるとさらに好ましい。
この場合、本発明の排気管用塗料の使用方法において、排気管用基材に塗布され、乾燥処理が施された後の排気管用塗料(分散質層)の放射率は、0.5以上であることが好ましい。
上記排気管用塗料を用いることで、放射率が0.5以上となった表面被覆層を形成しやすくなるからである。また、上記排気管用塗料の放射率は、0.7以上であることがより望ましく、0.8以上であることがさらに好ましい。
これに対して、表面被覆層の放射率が0.5未満であり、比較的低い場合には、排ガスの熱が表面被覆層(無機粒子)を通じて外部に熱放射されにくくなり、排気管から排出される排ガスの温度が上昇するので、排ガスの温度が比較的低温であるディーゼルエンジン等の排気管に用いることで、排ガスの温度が触媒活性化温度の下限値より低下するのを防止することができる。この場合、表面被覆層の放射率は、0.4以下であることがより好ましく、0.3以下であるとさらに好ましい。
この場合、本発明の排気管用塗料の使用方法において、排気管用基材に塗布され、乾燥処理が施された後の排気管用塗料の放射率は、0.5未満であることが好ましい。
上記排気管用塗料を用いることで、放射率が0.5未満となった表面被覆層を形成しやすくなるからである。また、上記排気管用塗料の放射率は、0.4以下であることがより望ましく、0.3以下であることがさらに好ましい。
また、ここでいう乾燥処理とは、排気管用塗料に含まれる分散媒や溶媒等が揮発し、排気管用塗料が乾燥固化して分散質層が排気管用基材の表面に形成されることをいう。
乾燥処理に用いる乾燥機としては、例えば、マイクロ波乾燥機、熱風乾燥機、誘電乾燥機、減圧乾燥機及び真空乾燥機等が挙げられる。
【0097】
本発明の塗料塗布管(排気管)の形状は、上述した円筒状に限られず、筒状であれば特に限定されず、その断面の外縁の形状は、楕円形、多角形等任意の形状であってもよい。
上記排気管用基材の断面の外縁の形状が、真円以外の形状であると、排ガスとの接触面積が大きくなり、排ガスの熱が効率的に排気管用基材及び表面被覆層に伝わるので、熱放射によって、排ガスの温度を触媒活性化温度まで効率的に低下させることができる。
【0098】
本発明の排気管においては、表面被覆層の厚さが、1〜100μmであることが望ましい。
表面被覆層の厚さが1〜100μmであると、上述した放熱性に優れることとなる。
上記表面被覆層の厚さが1μm未満である場合には、表面被覆層の厚さが薄すぎるため、排気管用基材の表面被覆層を形成した領域が酸化される場合があり、排気管用基材が酸化されると表面被覆層の脱落が発生する場合がある。一方、上記厚さが100μmを超えると、表面被覆層の厚さが厚すぎるので、表面被覆層の内部で生じた温度差に起因して大きな熱衝撃が生じ、表面被覆層にクラックが発生する場合がある。
また、表面被覆層の厚さが薄すぎると、低温領域における断熱性が低下することとなると考えられ、低温領域における断熱性が低いと、エンジンの始動直後において、触媒コンバータ等に流入する排ガスの温度が触媒活性化温度となるまでに時間が掛かることとなる。
また、本発明の塗料塗布管においては、排気管用塗料の厚さが、1.1〜300μmであることが望ましい。加熱することで、表面被覆層の厚さが、1〜100μmとなった排気管を好適に作製することができるからである。
【0099】
本発明の排気管において、表面被覆層の熱伝導率は、排気管用基材の熱伝導率よりも低いことが望ましい。この理由は、以下のように考えられる。
表面被覆層の熱伝導率が排気管用基材の熱伝導率よりも低いと、排気管内を排ガスが流通し、排気管用基材が加熱された場合、排気管用基材の伝導伝熱速度が速くなるのに対し、排気管用基材から表面被覆層を介して外部に熱が伝導伝熱される速度は遅くなる。そのため、特に、熱伝導が熱の移動に大きく寄与する低温領域(本明細書においては、概ね500℃未満)においては、断熱性に優れることとなる。このように低温領域における断熱性に優れると、自動車エンジン等の始動直後から短時間で排ガスの温度を触媒活性化温度まで昇温させることができると考えられるからである。
なお、本発明の排気管は、上述したように、表面被覆層の放射率が排気管用基材の放射率よりも高いため、表面被覆層の熱伝導率が排気管用基材の熱伝導率よりも低くても、熱放射が熱伝導よりも熱の移動に大きく寄与する高温領域においては、放熱性に優れることとなる。
なお、表面被覆層の室温での熱伝導率の値は、0.1〜4W/mKであることが望ましい。
また、表面被覆層の室温での熱伝導率は、細線加熱法、熱線法、レーザーフラッシュ法等の既知の測定方法によって測定することができる。
【0100】
本発明の排気管(塗料塗布管)において、表面被覆層(排気管用塗料)は、必ずしも排気管用基材の外周面上全体に形成されている必要はなく、排気管用基材の外周面上の一部にのみ形成されていてもよい。
ただし、排気管用基材の外周面上の一部にのみ表面被覆層が形成されている場合、表面被覆層が形成された部分の面積は、排気管用基材の外周面全体の面積の10%以上であることが望ましい。
表面被覆層が形成された部分の面積が、10%未満では、排気管の放熱性が不充分となる場合があり、排気管の温度上昇を充分に抑制することができない場合があるからである。
また、上記表面被覆層が形成された部分の面積は、排気管用基材の外周面全体の面積の50%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。
【0101】
また、排気管用基材の外周面上の一部に表面被覆層が形成されている場合、その形成領域は特に限定されず、排気管用基材の外周面全体から選択された一箇所又は複数箇所の領域に表面被覆層が形成されていてもよいし、排気管用基材の外周面上の全体に、網目状の規則的な模様又は不規則な模様を描くように形成されていてもよい。
さらには、排気管用基材の外周面上の全体に形成された表面被覆層に、等間隔に又はランダムに該表面被覆層を貫通する貫通孔(ピンホール)が形成されていてもよい。
【0102】
本発明の排気管(塗料塗布管)が、エキゾーストマニホールド(エキゾーストマニホールド用塗料塗布管)である場合には、その内面(排気管用基材の内周面)の最大高さRzが、0.1μm以上であることが望ましい。
上記内面の最大高さRzがこの範囲にあれば、排ガスの熱が排気管用基材に伝導して放熱されやすくなり、排ガスの温度を低下させ、触媒活性化温度の範囲内に制御することができるからである。なお、上記内面の最大高さRzの望ましい上限は、15μmである。
【0103】
本発明の排気管については、エキゾーストマニホールドに限られず、触媒コンバータを構成する管や、タービンハウジング等としても好適に使用することができる。
【0104】
本発明の排気管(塗料塗布管)では、排気管用基材の熱膨張率と、表面被覆層の熱膨張率との差が10×10−6/℃以下であることが望ましい。
両者の熱膨張率の差が上記範囲にあると、排気管の内部を高温の排ガスが通過しても、両者の間での剥落や、表面被覆層及び排気管用基材の変形や破損が発生しにくく、より信頼性に優れた排気管となる。
【0105】
本発明の塗料塗布管(排気管)を作製する場合には、上記粗化処理の前に洗浄処理を行うことが望ましい。排気管用基材の表面の不純物を除去し、排気管用塗料の密着性を向上させることができるからである。
上記洗浄処理としては特に限定されず、従来公知の洗浄処理を用いることができ、具体的には、例えば、アルコール溶媒中で超音波洗浄を行う方法等を用いることができる。
【0106】
また、排気管用塗料を排気管用基材の外周面に塗布する処理に先立ち、上記排気管用基材の外周面に、ニッケルメッキ、クロムメッキ等のメッキ処理及び/又は排気管用基材の外周面の酸化処理等を施してもよい。
排気管用基材と排気管用塗料(表面被覆層)との密着性が向上することがあるからである。
【0107】
本発明の塗料塗布管(排気管)を作製する場合、上記排気管用塗料を塗布する方法としては、上述したスプレーコートの他に、静電塗装、インクジェット、スタンプやローラ等を用いた転写、ハケ塗り等の方法を用いることができる。
【0108】
また、上記排気管用塗料中に、上記排気管用基材を浸漬することにより、上記排気管用塗料を塗布してもよい。
【0109】
さらには、上記排気管用塗料を調製する際に、上記排気管用塗料を電着用組成物として調製し、この電着用組成物中に上記排気管用基材を浸漬し、電着により上記排気管用塗料を上記排気管用基材の外周面に塗布してもよい。
なお、この場合、電着用組成物を調製する際に、排気管用塗料中にゼータ電位の制御や溶液の抵抗値を調製するため添加剤、無機ガラス粒子や無機粒子の分散性を確保するための安定化剤を配合する必要がある。
【0110】
上記電着用組成物は、具体的には、例えば、排気管用塗料にアセトンとヨウ素との混合物を加えて調整すればよい。
そして、電着により排気管用塗料を塗布するには、上記排気管用塗料にアセトンとヨウ素とを添加した溶液中に、排気管用基材と、陽極として機能するスチール線等を配置させ、上記排気管用基材を陰極とし機能させ、電圧を印加すればよい。
また、上記電着用組成物としては、上記排気管用塗料を水に分散させ、さらに有機分散剤を添加して調製した溶液を用いてもよい。
【0111】
また、上記排気管用塗料を排気管用基材の外周面に塗布する方法としては、エアロゾルデポジション法(AD法)を用いることもできる。
なお、この場合は、排気管用塗料を調整する際に、排気管用塗料を粒子径1μm以下の粒子に調整することが望ましい。これにより、排気管用塗料の活性度が向上するからである。
なお、上記AD法を用いる場合、真空中において、排気管用基材に排気管用塗料の粒子が衝突し、排気管用塗料が塗布されることとなる。
【符号の説明】
【0112】
10 乾燥処理が施された排気管用塗料(分散質層)
20 無機ガラス粒子
30 無機粒子
40 無機結合材
50、150 排気管用基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機ガラス粒子と、無機粒子と、無機結合材及び/又は無機結合材前駆体とを含み、排気管用基材に塗布することを特徴とする排気管用塗料。
【請求項2】
前記無機ガラス粒子は、低融点ガラスからなり、
前記低融点ガラスの軟化点は、前記無機結合材の軟化点よりも低い請求項1に記載の排気管用塗料。
【請求項3】
前記低融点ガラスの軟化点が、300〜1000℃である請求項2に記載の排気管用塗料。
【請求項4】
乾燥処理を施した後の放射率が、0.7以上である請求項1〜3のいずれかに記載の排気管用塗料。
【請求項5】
前記無機粒子は、マンガン、鉄、銅、コバルト、クロムのうちの少なくとも一種の酸化物からなる請求項1〜4のいずれかに記載の排気管用塗料。
【請求項6】
排気管用基材に、請求項1〜5のいずれかに記載の排気管用塗料を塗布して塗料塗布管を作製する工程と、
前記塗料塗布管をエンジンの排気口に取り付ける工程と、
前記エンジンの排気口から排ガスを排出させることにより、前記排ガスを前記塗料塗布管に流通させる工程とを含み、前記排気管用基材に表面被覆層を形成することを特徴とする排気管用塗料の使用方法。
【請求項7】
排気管用基材と、
前記排気管用基材に形成された表面被覆層とを備える排気管であって、
前記表面被覆層は、前記排気管用基材に塗布された請求項1〜5のいずれかに記載の排気管用塗料を加熱してなることを特徴とする排気管。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−168473(P2010−168473A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−12328(P2009−12328)
【出願日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】