説明

排水からの有機ケイ素化合物の分離

本発明の対象は、有機ケイ素化合物含有排水から有機ケイ素化合物を分離する方法であり、本方法では、第一工程で排水を少なくとも10℃に加熱し、第二工程で排水を少なくとも10℃で少なくとも30分保持し、第三工程で、形成された有機ケイ素化合物含有液滴を分離する相分離要素に排水を通す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ケイ素化合物含有排水から、有機ケイ素化合物を分離するための方法に関する。
【0002】
シランによる加水分解プロセスにおいて、例えばシロキサン製造の場合には、有機ケイ素含有化合物を有する排水が生じる。水に含まれる有機ケイ素化合物は生物的には分解できず、いわゆるCOD(化学的酸素要求量)を持続的に引き起こす。排水中の持続的なCODは、環境保護のために避けなければならない。
【0003】
オゾン分解は、排水から持続的なCODを分解するための公知の方法だが、稼働コストが高く、有機ケイ素含有化合物の損失に繋がる。有機ケイ素化合物のケイ酸ゲルへの吸着は同様に公知であるが、ケイ酸ゲルの再生は不可能である。よってここでも高いコストが生じ、有機ケイ素化合物は失われる。
【0004】
DE 113478、DE 2436080、及びDE 2804968には、液/液の相で分別可能な方法と装置が記載されている。記載された相分離要素は、有機ケイ素化合物の液滴を排水から分離できるにすぎない。排水中に溶解された有機ケイ素化合物の含分は大部分が、この方法では分離できない。
【0005】
本発明の対象は、有機ケイ素化合物含有排水から有機ケイ素化合物を分離する方法であって、
第一工程で前記排水を少なくとも10℃に加熱し、
第二工程で前記排水を少なくとも10℃で少なくとも30分保持し、
第三工程で、形成された有機ケイ素化合物含有液滴を分離する相分離要素に前記排水を通す、前記方法である。
【0006】
第一及び第二工程では、排水中に溶解された有機ケイ素化合物から液滴が形成され、この液滴を第三工程で、液滴分離のためのそれ自体公知の装置によって分離する。これによって、排水中に溶解された有機ケイ素化合物も、排水から分離できる。とりわけ、短鎖の有機ケイ素化合物が反応して、長鎖の有機ケイ素化合物になる。この化学反応は、溶液から有機ケイ素化合物が沈殿することにより、視覚的に分かる。このことは有機ケイ素化合物の回収率向上につながり、回収された化合物は再度活用できる。同時に、排水中の持続的なCODも低下する。
【0007】
この方法によって、有機ケイ素化合物を含有する様々な排水を処理することができる。メチルクロロシランを水で加水分解することによりシロキサンを製造する際には、排水が生じる。この加水分解の際に形成される、例えばジメチルシランジオールは水溶性であり、排水中に残る。加水分解の際には塩化水素も生じ、この塩化水素は、メタノールから塩化メチルを製造するために再度使用される。塩化水素はメチルクロロシランと、その加水分解物及び縮合生成物を含む。これらの有機ケイ素化合物は、塩化メチル製造の際に生じる水の中に到達する。これら2つの排水は共通して、溶解された塩酸を含む。
【0008】
排水中の有機ケイ素化合物は例えば、ジメチルシランジオール、3〜8個のジメチルシロキサン単位から成る環状ポリジメチルシロキサン、線状のポリジメチルシロキサン、及びヒドロキシ基、アルコキシ基、及びアルキル基を有する分枝状のポリシロキサンである。
【0009】
ポリジメチルシロキサンは、ほぼ水不溶性である。これらは微細に分布された液滴として、排水中に存在する。
【0010】
ジメチルシロキサンジオールは水溶性が良好であり、その溶解度は温度に依存する。
【0011】
排水中の有機ケイ素化合物を測定するための好ましい測定方法として役立つのは、Siのところにあるメチル基の1H−NMR測定であり、この測定値は好ましくはCH3−(Si)としてmg/kgで排水中で示され、持続的なCODのための基準として用いられる。
【0012】
この水溶性が良好なジメチルシランジオールは塩酸の存在下で容易に縮合して、環状及び線状のポリジメチルシロキサンになる。
【0013】
使用される排水は好適には、HClを少なくとも0.1質量%、特に好適には少なくとも1質量%、特に少なくとも5質量%、最大で25質量%、特に好適には最大15質量%含む。
【0014】
好適には排水を第一工程で少なくとも20℃、特に好適には少なくとも30℃、とりわけ少なくとも40℃に加熱し、好適には最大90℃、特に好適には最大80℃に加熱する。
【0015】
この加熱は好適には、熱交換器で行う。
【0016】
第二工程において排水を、好適には少なくとも1時間、特に好適には少なくとも2時間保持する。好適には、第一工程で調節された温度を保つ。
【0017】
第二工程は好適には容器、例えば装入容器又は撹拌槽で行う。好適には第二工程で排水を流動させる、とりわけ撹拌する。
【0018】
第三工程では、排水を相分離要素に導入し、これによって、不所望の(schwer)水不溶性の有機ケイ素化合物の微細な液滴が、排水から分離される。適切な相分離要素は、液体から液滴を分離するためのあらゆる液滴分離器である。ここでそれ自体公知の相分離要素が使用され、その例は例えば、DE 113478、DE 2436080、DE 2804968に記載されているものである。好適には、凝集分離器(Koaleszensabscheider)を使用する。
【0019】
形成される不所望の水不溶性有機ケイ素化合物は例えば、凝集分離器内で軽相として蓄積され、凝集分離器の上部で水相(排水)から分離できる。
【0020】
相分離要素は好適には、繊維床を有する。相分離要素において分離効率は第一義的に、空間配置(Dimensionierung)、例えば繊維床の長さと強度、その材質、例えばガラス繊維、PTFE、PVDF、並びに体積流量、及び滞留時間により決まる。排水を相分離要素に貫流させた後、有機ケイ素化合物の相は相分離要素の上記範囲に蓄積され、そして分離される。
【0021】
相分離要素において好適には、差圧が0.05bar、特に好適には少なくとも0.5bar、とりわけ少なくとも0.1bar、好適には最大1.5bar、特に好適には最大1barで運転する。
【0022】
第三工程後に相分離要素から排出される排水は、排水処理に供給することができる。
【0023】
たいていの場合、有機ケイ素化合物の分離は3つの方法工程を経た後に完全ではないため、第三工程の後に相分離要素から排出された排水を全体流として、又は部分流として本発明による方法において再度三段階で処理することができる。ここで、排水の温度が第二工程にとって適切であれば、第一工程は省略できる。
【0024】
本発明による方法を再度行うために好適には、さらなる装置、とりわけさらなる容器、及びさらなる相分離要素を使用する。
【0025】
記載された方法は、有機ケイ素化合物が分離できなくなるまで、その3つの方法工程で繰り返すことができる。
【0026】
以下の実施例では、そのつど他に示されていない限り、全ての量及び%記載は質量に対するものであり、全ての圧力は0.10MPa(絶対)であり、全ての温度は20℃である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明による実験プラントを示す。
【0028】
実施例1:本発明によらないもの
塩化メチルプラントの排水を、40℃に調節した。排水の塩酸濃度は、1.5質量%であった。1H−NMRを用いて、ケイ素原子のところのメチル基含分を測定した。排水は、CH3−(Si)を900mg/kg含んでいた。2つの水平に設置されたガラス製支柱の間に、Franken Filtertechnik KG P社の相分離材料FTCIII750−G−Nを張った。濾過面積は49cm2であった。事前に温度調節した排水1l/hを、膜ポンプでフィルター材料を介して連続的に供給できた。
【0029】
排水は濾過後に、CH3−(Si)を850mg/kg有していた。
【0030】
実施例2:本発明によるもの
実施例1を繰り返したのだが、その相違点は、排水を事前に4時間40℃でフラスコ内で撹拌したことである。変化は視覚的に確認できた。以前は見た目が透明だった排水は、時間の経過とともに濁った。
【0031】
こうして濁った排水を引き続き、実施例1に記載したように濾過した。
【0032】
明らかに2つの有機相が分離できた。
【0033】
排水は濾過後に、CH3−(Si)を700mg/kg有していた。
【0034】
実施例3:本発明によるもの
排水を様々な塩酸濃度で30分、60分、120分、及び180分、40℃でフラスコ内で撹拌し、引き続き実施例1に記載したように濾過した。その結果が以下の表にまとめられている:
【表1】

【0035】
実施例4:本発明によるもの
図1に記載の実験プラントで、有機ケイ素化合物が負荷された排水を以下のように処理した:
第一の方法工程では、排水を2500〜7500l/hの体積流量で熱交換器WT(1)を介して輸送し、60℃に温度調整した。
【0036】
第二の方法工程では、排水が大きさ70m3の容器B(2)に到達した。この容器B(2)に、排水は7時間留まった。この時間の間に、短鎖の有機ケイ素化合物から、長鎖の有機ケイ素化合物への反応が起こった。この反応は、溶液から有機ケイ素化合物が沈殿することにより視覚的に分かった。
【0037】
第三の方法工程では、容器B(2)に存在する排水を、同様に2500〜7500l/hの体積流量で60℃の温度で、後続の凝集器K(3)に送った。相分離要素が全部で4つ組み込まれたFTC III 750 -G-N-S(Franken Filtertechnik KG社)を用いて、物理的に分離を行った。分離要素の貫流後、有機ケイ素相S(4)が凝集器K(3)の上部範囲に蓄積され、これを生成プロセスに再度供給した。
【0038】
無機水相A(5)の一部(同様にさらになお有機ケイ素成分を含んでいた)を、熱交換器W(6)を介して、容器B(7)に供給し、引き続き凝集器K(8)(ガラス装置)に供給した。第二の凝集器K(8)を介さないで輸送された残りの排水A(9)は、排水後処理プラントに供給した。
【0039】
代替的には、無機水相A(5)の一部を、熱交換器W(1)に返送することができる。
【0040】
結果:記載された実験プラントでは、低下若しくは分離結果は、有機ケイ素相について1〜4l/hに達した。
【符号の説明】
【0041】
W(1) 熱交換器、 B(2) 容器、 K(3) 凝集器、 S(4) 有機ケイ素相、 A(5) 無機水相、 W(6) 熱交換器、 B(7) 容器、 K(8) 凝集器、 A(9) 残りの排水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ケイ素化合物含有排水から有機ケイ素化合物を分離する方法であって、
第一工程で前記排水を少なくとも10℃に加熱し、
第二工程で前記排水を少なくとも10℃で少なくとも30分保持し、
第三工程で、形成された有機ケイ素化合物含有液滴を分離する相分離要素に前記排水を通す、
前記方法。
【請求項2】
使用する排水がHClを少なくとも0.1質量%含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記排水を第一工程で少なくとも30℃に加熱する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記排水を第二工程で流動させる、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
第三工程における相分離要素が凝集分離器である、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記相分離要素を0.05bar〜1.5barの差圧で稼動させる、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
第三工程後に相分離要素から排出された排水を、再度処理するために全体流又は部分流として、第一又は第二工程に返送する、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−520839(P2012−520839A)
【公表日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−500174(P2012−500174)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【国際出願番号】PCT/EP2010/052688
【国際公開番号】WO2010/105907
【国際公開日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】