説明

排水と有機性残渣の複合処理方法

【課題】排水と有機性残渣を効率的に処理することが可能な複合処理方法を提供する。
【解決手段】排水と有機性残渣の複合処理方法であって、
(i)凝集剤を添加した排水を固形分と液体分に分離する、固液分離工程、
(ii)前記工程(i)において得られた固形分を、有機性残渣と共にメタン発酵に供する、メタン発酵処理工程を含み、
前記工程(ii)のメタン発酵処理工程で発生するメタン発酵残渣を引き抜いて固液分離した後、得られた固形分の少なくとも一部をメタン発酵処理工程に再度導入することを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水と有機性残渣を効率的に処理することができる、排水と有機性残渣の複合処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品廃棄物の処理方法の1つとして、メタン発酵処理等の生物学的処理が挙げられる。メタン発酵処理は、メタン発酵槽の中で一定期間保持されることで分解反応が進むが、処理対象物が連続して投入される場合、処理物(メタン発酵残渣)がメタン発酵槽から排出される際に、一部の未処理の処理対象物が排出されてくることがあり、結果的に処理効率が低下することが問題となっていた。
【0003】
処理効率を向上させるためには、メタン発酵槽における汚泥滞留時間(SRT)を延長させる方法が挙げられる。メタン発酵槽におけるSRTを延長するために、メタン発酵槽から排出されたメタン発酵残渣を固液分離し、回収した汚泥を返送する方式は多く提案されて来た(例えば特許文献1を参照)。しかしながら、実際には、この方法ではメタン発酵残渣の沈降性が低いため分離が困難である。
【0004】
一方、メタン発酵残渣の沈降性を向上するために、例えばメタン発酵槽に貯留されている汚泥に凝集剤を添加する方法が考えられている。しかしながら、この方法では、メタン発酵菌と処理対象物の接触が妨げられて、かえって処理効率が低下してしまう可能性がある(例えば非特許文献1及び2を参照)。従って、当該技術分野においては、メタン発酵の際に凝集剤を添加すべきではないと考えられていた。
【0005】
また、食品工場の排水の処理にもメタン発酵処理等の生物学的処理法が採用されている。しかしながら、固形分である有機性残渣と同じシステム内で排水も複合的に処理する方法は提案されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-95377号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】『余剰活性汚泥の嫌気性消化に及ぼす凝集剤処理の影響』 水質汚濁学会講演集、Vol.19、Page17-18、1985
【非特許文献2】『塩化第二鉄凝集剤が嫌気性消化に与える影響』 環境衛生工学研究 第16巻第13号(2002)第90〜95頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、排水と有機性残渣を効率的に処理することが可能な複合処理方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、本来、有機性残渣のメタン発酵処理とは別に行われる排水処理に着目し、これらを複合的に行うことによって、効率的なバイオガスの生成及び廃棄物処理が可能となることを見出した。すなわち、発明者らは、工場等の排水に凝集剤を添加して固液分離し、得られた固形分を有機性残渣と共にメタン発酵処理に供すると、メタン発酵菌と処理対象物との接触が妨げられることがなく、メタン発酵効率に悪影響を与えないことを見出した。本発明は、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、完成されたものである。
【0010】
本発明は、主に下記排水と有機性残渣の複合処理方法を提供するものである。
項1.排水と有機性残渣の複合処理方法であって、
(i)凝集剤を添加した排水を固形分と液体分に分離する、固液分離工程、
(ii)前記工程(i)において得られた固形分を、有機性残渣と共にメタン発酵に供する、メタン発酵処理工程を含み、
前記工程(ii)のメタン発酵処理工程で発生するメタン発酵残渣を引き抜いて固液分離した後、得られた固形分の少なくとも一部をメタン発酵処理工程に再度導入することを特徴とする方法。
項2.前記工程(i)において、固液分離が加圧浮上によって行われる、項1に記載の方法。
項3.メタン発酵処理により得られたメタン発酵残渣を可溶化した後、固液分離を行い、得られた固形分をメタン発酵処理工程に導入する、項1又は2に記載の方法。
項4.工程(i)において得られる液体分と、前記メタン発酵残渣を固液分離することによって得られる液体分とを、上向流式嫌気性汚泥床法(UASB法:Up-flow Anaerobic Sludge Blanket)にてメタン発酵処理に供する、項1〜3のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の複合処理方法は、食品工場等の排水に凝集剤を添加して固液分離し、得られた固形分と工場等の製造残渣(有機性残渣)を共にメタン発酵処理に供することによって、メタン発酵効率を損なわず、メタン発酵残渣の沈降性を高めることができる。メタン発酵残渣には凝集剤が含有されていることから、メタン発酵残渣の沈降性が向上し、メタン発酵残渣中の固形分を容易且つ効率的に濃縮することができる。さらに、本発明においては、この濃縮された固形分をメタン発酵槽に返送し、再度メタン発酵処理に供する。これにより、メタン発酵槽でのSRT(汚泥滞留時間)を実質的に高めることができるため、系全体の処理効率を向上させることができ、さらには産業廃棄物の削減をも実現し得るものである。
【0012】
また、加圧浮上等によって固液分離された液体分は、上向流式嫌気性汚泥床法(UASB法)等の生物学的処理に供することによってBOD等を低下させることができる。ここで、BOD(Biochemical oxygen demand:生物学的酸素要求量)とは、水中の有機物等の量を、その酸化分解のために微生物が必要とする酸素の量で表した指標である。生物学的処理によって、液体分のBOD等を放流基準値以下まで低下させることができれば、下水や河川へ放流することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の複合処理方法の概略を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.排水と有機性残渣の複合処理方法
本発明の排水と有機性残渣の複合処理方法(以下、単に『複合処理方法』と略記することがある)は、下記工程を含むことを特徴とする。
【0015】
排水と有機性残渣の複合処理方法であって、
(i)凝集剤を添加した排水を固形分と液体分に分離する、固液分離工程、
(ii)前記工程(i)において得られた固形分を、有機性残渣と共にメタン発酵に供する、メタン発酵処理工程を含み、
前記工程(ii)のメタン発酵処理工程で発生するメタン発酵残渣を引き抜いて固液分離した後、得られた固形分の少なくとも一部をメタン発酵処理工程に再度導入することを特徴とする。
【0016】
以下、各工程について詳述する。
【0017】
(1)工程(i):固液分離工程
工程(i)においては、排水に凝集剤を添加し、従来公知の固液分離方法によって固形分と液体分に分離する。ここで得られる固形分を『工程(i)の固形分』、液体分を『工程(i)の液体分』と記載することがある。
【0018】
工程(i)において採用され得る固液分離方法としては、特に限定されないが、例えば加圧浮上、沈殿分離、遠心分離等が挙げられる。
【0019】
加圧浮上による固液分離(以下、単に『加圧浮上分離』と記載することがある)は、加圧により空気を過剰に溶解させた加圧水を噴射して加圧水が一気に減圧されることにより発生する微細気泡と排水を接触させ、固液分離する方法である。この手法は、微細気泡が排水中の固形分に付着して、固形分を液体表面に浮上させ、固形分と液体分を分離する方法であり、従来公知の条件等を採用することができる。加圧浮上分離においては、従来公知の装置及び条件を採用することができる。加圧条件として、具体的には、100〜500kPaが例示される。
【0020】
沈殿分離、遠心分離等についても従来公知の方法に従って実施することができる。
【0021】
本発明においては、固液分離に供される排水に凝集剤を添加することを特徴とする。凝集剤としては従来公知のものを使用することができ、例えば高分子凝集剤や無機凝集剤が挙げられる。
【0022】
高分子凝集剤としては、具体的にはポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミドの部分加水分解物、アクリルアミドとアクリル酸ナトリウムの共重合物、アクリルアミドとビニルスルホン酸ナトリウムの共重合物、アクリルアミドと2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウムとの共重合物、アクリルアミドとアクリル酸ナトリウムと2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウムとの三元共重合物等のアニオン性高分子凝集剤;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの4級化物又はその塩の重合物、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの4級化物又はその塩とアクリルアミドとの共重合物、ポリアクリルアミドのマンニッヒ変性物又はその4級化物等のカチオン性高分子凝集剤;ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド等のノニオン性高分子凝集剤;ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの4級化物又はその塩、アクリル酸又はその塩とアクリルアミドとの共重合物等の両性高分子凝集剤(アニオンカチオン高分子凝集剤)が例示される。
【0023】
無機凝集剤としては、具体的には硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、ポリ塩化アルミニウム(PAC)などのアルミニウム化合物、塩化第二鉄ポリ硫酸第二鉄などの鉄化合物、石灰などのカルシウム化合物、マグネシウム化合物等が例示される。
【0024】
固液分離工程に供される排水の種類に応じて、上記凝集剤を適宜選択することができる。また、上記凝集剤を1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。凝集剤は、固液分離処理に供される前に排水に添加し、混合しておくことが好ましい。
【0025】
凝集剤の添加量としては、固液分離を妨げない範囲であれば特に限定されず、使用される凝集剤の種類によって適宜設定可能であるが、高分子凝集剤であれば処理対象物のSS当たり300〜2000ppm、好ましくは300〜1800ppm;ポリ塩化アルムニウムであれば処理対象物のSS当たり、10〜100重量%、好ましくは30〜60重量%が挙げられる。
【0026】
固液分離を行うことによって得られた液体分は、上向流式嫌気性汚泥床法(以下、UASB法と記載することがある)等の生物学的処理に供してメタン発酵を行い、メタンガスの生成に使用することもできる。これについては下記項目(4)において詳述する。
【0027】
また、固形分については、下記工程(ii)においてメタン発酵処理に供される。本工程で得られる固形分には凝集剤が含有されているため、メタン発酵処理後の残渣(すなわち、メタン発酵残渣)から得られる固形分(汚泥)の沈降性を高めることができる。
【0028】
(2)工程(ii):メタン発酵処理工程
工程(ii)においては、前記工程(i)において得られた固形分(すなわち、工程(i)の固形分)を有機性残渣と共にメタン発酵処理に供する。工程(i)の固形分と有機性残渣は、メタン発酵槽内で混合してもよく、予め混合槽等で混合したものをメタン発酵処理に供しても良い。
【0029】
ここで、有機性残渣とは、食品工場等から廃棄される製造残渣であり、有機物を含む物であれば特に限定されない。具体例としては、ビール工場のビール粕、飲料工場のコーヒー粕、茶粕等が上げられる。
【0030】
本工程において、工程(i)の固形分と有機性残渣を共にメタン発酵処理に供する際の混合比率としては、メタン発酵が可能な限り特に限定されない。排水に添加される凝集剤の量が、上記配合割合を充足することによって後のメタン発酵残渣の沈降性が向上し、固液分離処理を容易に行うことができる。
【0031】
本工程において、メタン発酵の形式は特に制限されず、回分式、固定床式等、メタン発酵において利用されている公知のいずれの形式であってもよい。また、当該メタン発酵は、乾式であっても、湿式であってもよい。当該メタン発酵処理によって、工程(i)の固形分と有機性残渣がメタンガスと二酸化炭素に分解される。
【0032】
メタン発酵時の温度条件は、用いるメタン発酵菌の種類に応じて広い温度範囲から適宜設定することができ、特に限定されるものではないが、一般には30〜60℃程度、例えば、35℃程度のいわゆる中温でも、55℃程度のいわゆる高温でもよい。
【0033】
本工程における汚泥滞留時間(SRT)は、工程(i)の固形分と有機性残渣の量、使用するメタン発酵菌の種類、発酵温度、発酵形態等によって異なり、一律に規定することはできないが、通常10〜30日、好ましくは10〜20日、更に好ましくは10〜14日を挙げることができる。本発明の方法によれば、従来よりも汚泥滞留時間を実質的に延長することができることから、メタン発酵効率を高めることが可能である。
【0034】
また、工程(i)の固形分と有機性残渣の混合物の供給と、メタン発酵槽内のメタン発酵残渣の抜き取りとを、連続的に又は断続的に行うことにより実施してもよい。前記混合物の供給と上記メタン発酵残渣の抜き取りを連続的又は断続的に行う場合、混合物の供給速度及びメタン発酵残渣の抜き取り速度は、メタン発酵槽内における固形分の滞留時間(汚泥滞留時間)がメタン発酵に要する時間となるように適宜設定することができる。
【0035】
前記メタン発酵により生成されたメタンガスを回収する。メタンガスは、公知のメタンガス回収手段により、分離回収することができ、エネルギー源として利用することができる。
【0036】
(3)メタン発酵残渣の固液分離
前記工程(ii)におけるメタン発酵処理後、メタン発酵処理によって生じたメタン発酵残渣をメタン発酵槽から引き抜いて、固液分離を行う。ここで、メタン発酵残渣を引き抜く量については、前記メタン発酵槽における固形分の滞留時間(汚泥滞留時間)を考慮して適宜設定すればよい。
【0037】
固液分離は、沈殿によって行うことが好ましく、例えば沈降分離、遠心分離などの公知の方法を採用することができる。沈降分離とは、水槽に対象物を滞留させることで、水よりも重い粒子を沈殿させる方法である。また、遠心分離とは、対象物に遠心力をかけて密度の違いに応じて異なる相に分離する方法である。メタン発酵処理によって生じたメタン発酵残渣には凝集剤が含有されており、沈降性が高められていることから、容易に固液分離を行うことができ、ここで得られた固形分を再度メタン発酵槽に返送することによって実質的な汚泥滞留時間が延長されてメタン発酵効率が高められる。なお、本工程においてメタン発酵残渣から分離される固形分を、『工程(ii)の固形分』と記載することがある。
【0038】
また、固液分離に先立ってメタン発酵残渣を可溶化処理に供しても良い。可溶化処理によって、メタン発酵残渣に残存する有機物(即ち、メタン発酵により分解されなかった有機物)が、低分子化される。可溶化処理としては、メタン発酵残渣に残存する有機物を低分子化できる限り、特に制限されず、廃棄物処理において従来採用されている可溶化処理を使用することができる。可溶化処理の具体例として、加熱処理、アルカリ処理、酸処理、メタン発酵菌以外の微生物による分解処理、超音波処理、加圧処理、オゾン処理等が例示される。これらの可溶化処理は、廃棄物処理において通常用いられている処理条件を採用すればよいが、その具体的条件の一例を以下に例示する。
【0039】
上記加熱処理の具体的条件としては、メタン発酵残渣に対して、例えば50℃以上、好ましくは60〜90℃程度、更に好ましくは65〜80℃程度、特に好ましくは70〜80℃程度の温度条件下で、例えば1〜96時間、好ましくは12〜72時間、更に好ましくは24〜48時間処理する方法が挙げられる。本加熱処理において、加熱温度の維持には、重油、都市ガス、電力等をエネルギー源として利用してもよいが、本発明の複合処理方法において得られるメタンガスを用いて、熱と電力を得るコジェネレーション手段(ガスエンジン、燃料電池等)により得られる排熱を利用することが望ましい。
【0040】
上記アルカリ処理の具体的条件としては、メタン発酵残渣に対して、例えば、pH9〜14、好ましくは10〜12の条件下で、1日程度以下、好ましくは1時間程度処理する方法が挙げられる。
【0041】
上記酸処理としては、メタン発酵残渣に対して、例えば、pH1〜5、好ましくは2〜4の条件下で、1日程度以下、好ましくは1時間程度処理する方法が挙げられる。
【0042】
これらの可溶化処理の中でも、簡便性、及び残存する有機物の可溶化率(低分子化率)を高めるという観点から、加熱処理が好ましい。
【0043】
上記可溶化処理によって得られる可溶化処理物を、前述の沈降分離、遠心分離等によって固液分離し、工程(ii)の固形分を得ることができる。
【0044】
本発明においては、固液分離によって得られた固形分(すなわち工程(ii)の固形分)の少なくとも一部を、再度上記メタン発酵処理工程に導入する。この操作により、工程(ii)の固形分が更に徹底的に分解されるので、廃棄固形分量を更に低減でき、メタンガス発生量も増大するというメリットが得られる。但し、返送比を大とすると、メタン発酵槽内での汚泥滞留時間が延長されるが、メタン発酵槽内の固形分濃度が上昇するため、メタン発酵槽内の攪拌やポンプ輸送の面では不利となる面もあるので、これらを総合的に判断した上で、返送量を決めるとよい。
【0045】
工程(ii)の固形分のうち一部は前述のようにメタン発酵槽に返送され、その他は必要に応じて引き抜かれる。引き抜かれた汚泥は、種々の方法で廃棄・処理される。例えば、そのまま、液肥として農地還元する、脱水後コンポスト化して農地還元をする、脱水して廃棄する、脱水後焼却する、脱水及び乾燥後に廃棄する、脱水及び乾燥後に焼却する等の処理が行われる。また、乾燥には低温廃熱を有効利用することができ、例えば本発明の複合処理方法によって生成されるメタンガスをガスエンジンやマイクロガスタービン、ボイラー等で利用する場合、その廃熱を利用して乾燥することが可能である。
【0046】
また、メタン発酵残渣を固液分離に供して得られる液体分(これを『工程(ii)の液体分』と記載することがある)を後述する生物学的処理による排水処理に供することもできる。
【0047】
(4)生物学的処理
上記工程(i)の固液分離工程で生じた液体分(工程(i)の液体分)、上記メタン発酵残渣の固液分離によって生じる液体分(すなわち『工程(ii)の液体分』)は、生物学的処理に供することができる。このとき、工程(i)の液体分と工(ii)の液体分は、別々に生物学的処理に供することもでき、両者を共に処理に供することもできる。生物学的処理の方法としては、従来公知のものを採用することができ、例えば上向流式嫌気性汚泥床法(UASB法)、活性汚泥処理法等が挙げられ、省エネルギー及び高効率である点からUASB法が好ましい。
【0048】
例えば、UASB法によるメタン発酵処理によって、工程(i)の液体分中の有機物と、工程(ii)の液体分中の有機物が、メタンガスと二酸化炭素に分解され、最終的に排出される排水の有機物濃度を下水道放流が可能な程度にまで低減させることができる。
【0049】
以下、UASB法によるメタン発酵処理を例に説明する。
【0050】
UASB法は、嫌気性のメタン生成菌を自己造粒させた微生物粒子で流動床を形成させ、工程(i)及び工程(ii)の液体分を上向流で流通させてメタン生成菌の生物学的作用で液体分中の有機物を分解処理し、排水の浄化を行う方法である。このUASB法を用いて、前記液体分を処理することにより、液体分中の全有機炭素(TOC)の一部がバイオガス(メタン及び二酸化炭素)に変換される。生成するメタンガスは、エネルギーとして種々の用途に用いられる。
【0051】
UASB法によるメタン発酵処理に供される液体分は、工程(i)の液体分、工程(ii)の液体分、又はこれらの混合物に、必要に応じて、さらに他の排水や水道水等が混合されたものであってもよい。
【0052】
UASB法によるメタン発酵処理は、排水処理において従来採用されている方法に従って実施することができる。UASB法によるメタン発酵処理の具体例として、メタン発酵菌を含むグラニュール汚泥を投入し、工程(i)の液体分又は工程(ii)の液体分、またはこれらの混合物の滞留時間が1〜24時間、好ましくは4〜8時間となるように通水させる方法が例示される。ここで、工程(i)の液体分と工程(ii)の液体分は、同時に又は別々に通水させることができる。
【0053】
また、UASB法によるメタン発酵処理における温度条件についても、グラニュール汚泥に含まれるメタン発酵菌の種類に応じて広い温度範囲から適宜設定することができ、特に限定されるものではないが、一般には20〜60℃程度であればよく、例えば、30〜35℃程度のいわゆる中温でも、50〜55℃程度のいわゆる高温でもよい。
【0054】
斯くして処理された後に排出される排水は、有機物濃度が低減されている(例えばSS濃度が600mg/L未満、BOD濃度が600mg/L未満)ことから、下水道放流が可能であり、環境に悪影響を及ぼさない程度に浄化されている。
【0055】
2.排水と有機性残渣の複合処理装置
本発明は、上記複合処理方法を実施するための排水と有機性残渣の複合処理装置(以下『複合処理装置』と略記することがある)、をも提供する。本発明の複合処理装置を、図1に基づいてより具体的に説明する。
【0056】
本発明の処理装置は、排水を固形分と液体分に分離する固液分離槽1と、固液分離槽1により分離された固形分に対してメタン発酵を行うメタン発酵槽2と、メタン発酵槽2から排出されるメタン発酵残渣を固液分離する固液分離槽3と、固液分離槽1及び固液分離槽3により分離された液体分に対して生物学的処理を行う生物学的処理槽4とを備え、固液分離槽3において得られた固形分の少なくとも一部をメタン発酵槽2に再度導入するための返送手段5を備えることを特徴とする。
【0057】
固液分離槽1は、食品工場等からの排水が供給され、固液分離された固形分と液体分をそれぞれ排出可能であるように構成されている。また、本発明の処理装置において、固液分離槽1から固液分離された固形分をメタン発酵槽2に搬送可能にするための供給手段11を備えていればよい。さらに、固液分離槽1から生物学的処理槽4に液体分を供給する供給手段12を備えていてもよい。
【0058】
メタン発酵槽2には、供給手段11によって食品工場等の排水の固形分が供給され、当該固形分のメタン発酵が可能であり、メタン発酵処理後に生じるメタン発酵残渣を排出可能であるように構成されている。また、本発明の処理装置において、メタン発酵残渣を固液分離槽3に搬送可能とするために、メタン発酵槽2から排出されるメタン発酵残渣を固液分離槽3に供給する供給手段21を備えていればよい。
【0059】
メタン発酵残渣を固液分離槽3において固液分離を行う前に、可溶化処理に供することもできる。可溶化処理を行う場合、図1においては示されていないが、メタン発酵槽2と固液分離槽3の間に可溶化槽6を設けることができる。このとき、メタン発酵槽2から可溶化槽6へメタン発酵残渣を供給する手段、可溶化槽6から固液分離槽3へ可溶化処理物を供給する手段を適宜設けてもよい。
【0060】
固液分離槽3は、供給手段21によってメタン発酵残渣が供給され、当該メタン発酵残渣の固液分離が可能であり、固液分離後に生じる処理物を排出可能であるように構成されている。更に、本発明の処理装置において、固液分離槽3から排出される固形分の一部をメタン発酵槽2に返送するための返送手段5を備え、これによって、固形分の一部を再度メタン発酵処理に供することができ、有機物の分解効率を向上せしめることが可能になる。
【0061】
また、本発明の処理装置において、固液分離槽3で得られる液体分を、生物学的処理槽4に搬送可能にするために、固液分離槽3から排出される液体分を生物学的処理槽4に供給する供給手段31を備えていればよい。生物学的処理槽4における処理としては、上述のUASB法や活性汚泥法による生物学的処理が例示され、生物学的処理槽4は、これらの処理を行うために必要な従来公知の手段を備えるものであればよい。
【0062】
生物学的処理槽4は、供給手段12又は31によって各液体分が供給され、当該混合物の生物学的処理法によるメタン発酵処理が可能であり、メタン発酵処理後に生じる排水を排出可能であるように構成されている。生物学的処理槽4から排出される廃液は、十分に有機物濃度が低減されていることから、下水道に放流することができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0064】
実施例1
食品工場の洗浄排水及び製造残渣(有機性残渣)に対して、加圧浮上分離、メタン発酵、固液分離及びUASB法によるメタン発酵を実施した後に、それぞれ残存有機物濃度の測定を行った。具体的条件及び結果は以下の通りである。なお、SS、BOD及びCODの計測は、下記の複合処理工程の処理状態が安定してから約2ヶ月間に亘って行った。
【0065】
1.固液分離工程(加圧浮上分離)
工場排水1L/日に対して、凝集剤としてアニオン性高分子凝集剤(オルガノ(株)製 オルフロックAP−1)を1〜5mg(下表1よりSS(mg/L)あたり300〜1700ppm)、PAC(ポリ塩化アルミニウム)を1000〜1500mg(下表1よりSS(mg/L)あたり30〜50重量%)添加し、加圧浮上分離(300 kPaの加圧)によって固液分離を行った。工場排水の流量、SS(Suspended Solid)、BOD(Biochemical oxygen demand)及びCOD(Chemical oxygen demand:化学的酸素要求量)の値を下記表1に示す。CODは水中の被酸化性物質を酸化するために必要とする酸素量を表す。また、CODcrは、酸化力の強い二クロム酸カリウムによる酸素要求量を表す。
【0066】
【表1】

【0067】
加圧浮上分離によって得られた固形分(加圧浮上汚泥)の量、CODcr、SS及びBODは表2の通りであった。
【0068】
【表2】

【0069】
2.メタン発酵処理
10L容のメタン発酵槽(嫌気、37℃)に、工場排水から回収した固形分0.93Lと、工場残渣(有機性残渣)0.07Lを混合残渣とし、メタン発酵槽に投入してメタン発酵を行った。工場残渣のCODcr、SS及びBODは下記表3の通りであった。
【0070】
【表3】

【0071】
また、メタン発酵処理に供する前の混合残渣のCODcr、SS及びBOD濃度、ならびにメタン発酵処理後のCODcr、SS及びBODの約2ヶ月間の平均値は下記表4の通りであった。
【0072】
【表4】

【0073】
以上の結果より、凝集剤を含有する混合残渣を用いてメタン発酵を行っても、メタン発酵処理効率を損なわないことが示された。
【0074】
3.固液分離処理
メタン発酵槽から排出されたメタン発酵残渣は固液分離槽で1日間静置し、沈降性を利用して固液分離を行った。固液分離槽で沈降した汚泥(固形分)をメタン発酵槽に返送し、汚泥(固形分)を分離したメタン発酵処理物の液体分を生物学的処理槽(UASB槽)に移送した。返送された汚泥(返送汚泥)のSSは下記表5の通りである。
【0075】
【表5】

【0076】
上記結果より、凝集剤を含有するメタン発酵残渣からは、自然沈降により1日間静置するのみで高いSS濃度の汚泥を回収可能であることが示された。
【0077】
参考例1
メタン発酵残渣を1日静置したところ、汚泥沈降率(SV)が50%以上となった。SVが50%以上とは、1Lのメスシリンダーにメタン発酵残渣を1日放置したときの、上澄み液と固形分(汚泥)の境目から下の容量が500mL以下であることを指す。
【0078】
この固形分と上澄み液に分離されたメタン発酵残渣から、固形部分を抜き出せば、元々1L中に入っていた固形分(汚泥)をほぼ全て抜き出すことができる。すなわち、抜き出された固形分(汚泥)のSSは、当初のメタン発酵残渣のSSの2倍以上になったことを意味する。
【0079】
このように、本発明の方法によれば、メタン発行残渣の汚泥沈降率が高められることが示された。このようにして得られた汚泥を再度メタン発酵に供することによって、実質的な汚泥滞留時間(SRT)を延長できる。さらに、SRTが延長されることにより、有機性残渣の処理効率も高めることが可能である。
【0080】
参考例2
工場排水(複合処理に供する前の排水)中のSSと、メタン発酵残渣に対して固液分離を行って得られた液体分中のSSを比較したところ、汚泥返送を行わなかった場合では処理後のSSが40%となっており、汚泥返送を行った場合にはSSが30%となっていた。すなわち、汚泥返送を行わない場合のSS分解効率は60%であるのに対し、汚泥返送を行った場合のSS分解効率は70%に上昇したことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水と有機性残渣の複合処理方法であって、
(i)凝集剤を添加した排水を固形分と液体分に分離する、固液分離工程、
(ii)前記工程(i)において得られた固形分を、有機性残渣と共にメタン発酵に供する、メタン発酵処理工程を含み、
前記工程(ii)のメタン発酵処理工程で発生するメタン発酵残渣を引き抜いて固液分離した後、得られた固形分の少なくとも一部をメタン発酵処理工程に再度導入することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記工程(i)において、固液分離が加圧浮上によって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
メタン発酵処理により得られたメタン発酵残渣を可溶化した後、固液分離を行い、得られた固形分をメタン発酵処理工程に導入する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程(i)において得られる液体分と、前記メタン発酵残渣を固液分離することによって得られる液体分とを、上向流式嫌気性汚泥床法にてメタン発酵処理に供する、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−227876(P2010−227876A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−80206(P2009−80206)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】