説明

排水の生物処理槽および生物処理方法

【課題】 外部から担体沈降防止および曝気以外には動力供給を必要とせずに処理槽内に循環流を形成し、微生物固定担体または浮遊状態の微生物の戻りが良好な排水の生物処理槽および生物処理方法を提供することである。
【解決手段】 微生物固定担体を浮遊状態で含む生物処理槽の流出側に、担体分離用のスクリーン12を設置し、担体の取り入れ口13、13aを設け、この取り入れ口から流入側へ連通する循環ダクトを備えた生物処理槽で、前記流入側にエジェクタ管18、18aを設けて、上流側排水槽との水位差に基づく位置エネルギを運動エネルギに変換し、循環ダクト17、17a内に流出側から流入側に至る担体の流れを形成するようにした。それにより、外部エネルギを供給しなくても流入側で吸引流れが生じ、そのエジェクタ効果により被処理水と担体とが混合して循環流が形成され、生物処理が効果的に行なわれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、微生物固定化担体または浮遊状態の微生物を利用して生物学的に汚水処理を行なう排水の生物処理槽およびこの処理槽を用いた排水の生物処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排水の新しい生物処理法の一つとして、担体に微生物を固定し、窒素やりん等の富栄養化成分を除去する微生物包括固定法が開発されている。この方法では、一例を図7に示すように、一般に、排水等の被処理水が充満した処理槽31に、ペレット状の担体Aが投入され、この担体Aに排水を処理する微生物が固定され、処理槽31中への微生物が高濃度に維持されるようになっている(特許文献1参照)。
【0003】
図7に示した処理槽31では、その底部に空気供給源に連通した曝気装置32が配設され、また、その内部には、傾斜したスクリーン33を有する微生物を固定した担体の分離装置が設けられ、さらに、スクリーン33に対向してほぼ並行に、モータ34の駆動軸に連結されたプーリ35、35aに、無端状のベルト36を巻き掛けた移動壁装置が設けられ、担体Aの攪拌とスクリーン33の目詰まり抑制を行なっている。
【0004】
前記曝気装置32から細やかに散気された空気により被処理水が攪拌されると、担体に固定された微生物に酸素が供給され、かつ、被処理水と担体Aとが混合した状態で流動し、被処理水中の窒素などが生物学的に処理され、被処理水は移動壁装置の上端を越えてスクリーン33とベルト36の対向面36Aとの間を下降し、このスクリーンを通過して、流出口38から排水される。
【0005】
また、他の例では、図8に示すように、上部と下部に開口を設けた阻流板42を配置し、下部開口に、支柱43に支持されてプロペラ式攪拌機44をそれぞれ配備した汚水処理槽41が開示されている(特許文献2参照)。この汚水処理槽41では、プロペラ式攪拌機44を作動させることにより、阻流板42によって区分された区画ごとに、阻流板42を挟んで上下に、流入口45から流入した被処理水の循環流が形成されるため、担体Aが流出口46に偏らずに、処理槽41の全体に分散される。また、ブロワ47を運転し、曝気装置48から散気させることにより、阻流板42によって区分された区画ごとに旋回流が発生し、充分に生物学的に処理された被処理水が、スクリーンを備えた流出口46から流出する。
【0006】
さらに、スクリーンに付着した担体を分離する装置として、水中攪拌曝気装置による吸引動力および循環ポンプにより誘起したスクリーン全面の下降流によるせん断力で、前記担体を除去する装置も開発されている(非特許文献1参照)。
【0007】
一方、図9に示した廃水処理装置では、被処理液(有機成分を含む廃水)を生物学的に処理する処理槽51が、廃水より比重が小さい生物担体Aと廃水を共存させて生物学的脱窒または硝化処理を行なわせる領域として設けられ、この処理槽51の終端部に、処理液から生物担体Aを分離し、浮上・集合させる担体分離部52を備えている。処理水は導出口53から排出されて沈殿池に、生物担体Aは浮上して担体分離部52の上部に集合し、エアリフトポンプなどの担体駆動装置54によって処理槽51に返送される(特許文献3参照)。
【0008】
また、図10に示す生物処理装置は、処理槽が脱窒槽62および硝化槽63からなり、分離装置として沈殿槽64を備えている。前記処理槽には、担体に固定された微生物と固定されていない浮遊微生物が共存しており、前記処理槽はブロワ65および散気部材66、67を用いてガス攪拌され、脱窒素および硝化反応処理により、処理槽に流入する廃水61が浄化されて処理水68となる。前記微生物は泥状物となって沈殿槽64に沈殿する。そして、この微生物の泥状物69は、例えば、エアリフトポンプなどの返送ポンプ70により、前記処理槽に返送される(特許文献4参照)。
【0009】
【特許文献1】特開2002−86177号公報([0006]〜[0026])
【特許文献2】特開平7−136679号公報([0005]〜[0015])
【特許文献3】特開平9−253689号公報([0018]〜[0021])
【特許文献4】特開平7−163995号公報([0009]〜[0014])
【非特許文献1】第36回下水道研究発表会講演集(1999)、P.577〜P.579
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特開2002−86177号公報および特開平7−136679号公報に記載された装置(処理槽)では、担体の沈降を防止するために必要な攪拌や担体に固定された微生物に酸素を供給する曝気に必要な動力以上に余分な動力を必要とし、前記処理槽への担体の戻りや分散を良好にするために移動壁装置やプロペラ式攪拌装置などの装置を新たに設置する必要がある。また、特開平9−253689号公報および特開平7−163995号公報に記載された装置でも、微生物を固定した担体や浮遊微生物を処理槽に返送するためにエアリフトポンプなどの駆動装置が設置され、やはり、余分な動力が必要である。このため、これらの装置類を新たに設置することでイニシャルコストが増大し、その運転・管理を行なうことでランニングコストが増大するなど、設備コストおよびエネルギ消費の観点から問題がある。なお、非特許文献1に記載された担体分離のために水中曝気装置を用いる場合でも、曝気に必要な動力以外に、循環ポンプによる攪拌動力が必要である。
【0011】
また、停電が発生した場合、非常電源が起動するまでに数秒から数十秒の時間を必要とするため、前記担体の分離にスクリ−ンを用いる場合には、この停電の間にスクリーンから担体を除去する被処理水の流れがなくなると、瞬時にスクリーンの目詰まりが発生して処理槽から汚水と担体とが溢れ出すおそれがある。また、処理層への担体や浮遊微生物の返送にエアリフトポンプなどの駆動装置も瞬時に停止し、いずれの場合も、生物処理に支障を来たすようになる。
【0012】
そこで、この発明の課題は、外部から担体沈降防止および曝気以外には動力供給を必要とせずに処理槽内に循環流を形成し、微生物固定担体または浮遊状態の微生物の戻りが良好な排水の生物処理槽および生物処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の課題を解決するために、この発明では以下の構成を採用したのである。
【0014】
即ち、請求項1に係る排水の生物処理槽は、微生物を固定した担体を浮遊状態で含む排水生物処理槽の被処理水の流出側に設置した、対向する壁面を設けていない担体分離用のスクリーンと、前記流出側に配置した前記担体の取り入れ口と、前記取り入れ口から前記処理槽の被処理水の流入側へ連通する循環ダクトを備えた排水の生物処理槽であって、前記循環ダクト内に流出側から流入側に前記担体を含んだ被処理水の流れを形成するように、前記処理槽の流入側に、その上流側との水位差に基づく位置エネルギを運動エネルギに変換する手段を設けたことを特徴とする。
【0015】
前記生物処理槽は、通常、複数直列に配置されて汚水等の被処理水が生物処理され、上流側の処理槽の方の水位が高いため、例えば、図1に示すように、通常、隣接する処理槽間には水位差Δhが存在する。この水位差Δhにより、生物処理槽1の流入側壁面2に設けた下部開口3から、隣接する上流側の生物処理槽1jの被処理水が流入する。その際に、上流側処理槽1jの持つ位置エネルギが、下部開口3を被処理水が通過する際に、運動エネルギに変換され、被処理水の運動量が処理槽1内の周囲の流体を引き込む、吸引流れが形成される。
【0016】
このように、生物処理槽1に着目すれば、流入した被処理水の吸引流れが、流入側壁面2と流入側に下部開口3に対向して設けた仕切り板Tとで形成される流路で上方向に生じることにより、流入側にエジェクタ型混合域Mが形成される。そして、この被処理水は、循環ダクト4の外壁面4a、4b、4cで形成された反応域5で水中攪拌機6により攪拌されながら、担体Aと混合接触して生物処理され、流出側の上部に設けたスクリーン7の前面側では、担体Aが混合した被処理水の下降流が形成される。この下降流により、電力などの外部エネルギを供給しなくても生物処理された被処理水がスクリーン7を通過して下流側の処理槽1kの方へ流出するとともに、担体Aを含んだ被処理水の一部が、スクリーン7の前面側に対向するダクト壁面を設けなくても、流出側壁面2aの前方に設けた担体Aの取り入れ口8から取り込まれ、循環ダクト4の戻り流となって担体Aを処理槽1の流入側まで流動させることができる。このように、流入側に形成されたエジェクタ型混合域Mで被処理水と返送された担体Aとが混合され、処理槽1内に循環流が形成される。そして、循環ダクト4内を処理槽1の流入側まで流動してきた担体Aを含む戻り流は、流入側での吸引流れの作用、即ちエジェクタ効果により形成されるエジェクタ型混合域Mで、被処理水と混合されて反応域5に送られ、このエジェクタ型混合域Mでの被処理水と担体Aとの混合効果により、反応域5での被処理水の生物処理が効果的に行なわれる。
【0017】
なお、前記水位差Δhは、下部開口3の断面積、即ちエジェクタ部の面積と被処理水の処理流量から決まり、処理槽内での循環流の形成に必要な吸引流れが発生するように、処理水の流量に対応して、エジェクタ部断面積が設計される。また、上流側の処理槽1jから横方向に被処理水を導入して、吸引流れを生じさせることもできる。
【0018】
請求項2に係る排水の生物処理槽は、微生物を固定した担体を浮遊状態で含む複数の排水生物処理槽が、被処理水の通過部を設けた隔壁を介して直列に連結され、最下流の生物処理槽の流出側に設置した、対向する壁面を設けていない担体分離用のスクリーンと、前記取り入れ口から前記処理槽の被処理水の流入側へ連通する循環ダクトを備えた排水の生物処理槽であって、前記循環ダクト内に流出側から流入側に前記担体を含んだ被処理水の流れを形成するように、前記処理槽の流入側に、その上流側との水位差に基づく位置エネルギを運動エネルギに変換する手段を設けたことを特徴とする。
【0019】
このような装置構成では、最上流の処理槽の流入側での、位置エネルギを運動エネルギに変換する手段により吸引流れを生じさせるために必要な水位差Δhは、この最上流の処理槽とこの最上流の処理槽に隣接する上流側処理槽との間で確保できればよいため、処理槽全体の水位差を低く抑えることができる。また、前記スクリーンは、最下流の処理槽にのみ設ければよく、前記エジェクタ混合域も、最上流の処理槽の流入側のみに設ければよいため、生物処理槽を連結した場合の装置構成が簡便となり、経済的である。さらに、前記循環ダクトにより、最下流の処理槽から最上流の処理槽に担体が返送されるので、下流側の処理槽への担体の偏在が防止される。
【0020】
請求項3に係る排水の生物処理槽は、浮遊状態の微生物を含み微生物を固定した担体を含まない排水生物処理槽の流出側に設けた被処理水の取り入れ口と、前記取り入れ口から前記処理槽の被処理水の流入側へ連通する循環ダクトを備えた排水の生物処理槽であって、前記循環ダクト内に流出側から流入側に前記微生物の流れを形成するように、前記処理槽の流入側に、その上流側との水位差に基づく位置エネルギを運動エネルギに変換する手段を設けたことを特徴とする。
【0021】
このようにすれば、微生物を担体に固定せずに、浮遊状態で含む生物処理槽についても、前述のように(図1参照)、流入側にエジェクタ型混合域Mが形成され、前記反応域5で被処理水は水中攪拌機6により攪拌されながら、浮遊微生物と混合接触して生物処理され、スクリーン7を設置せずに流出口のみを設けた流出側では浮遊微生物を含んだ下降流が形成される。この下降流により、電力などの外部エネルギを供給しなくても、生物処理された被処理水が前記流出口を通過して下流側の処理槽1bの方へ流出するとともに、浮遊微生物を含んだ被処理水の一部が、流出側に設けた取り入れ口8から取り込まれ、循環ダクト4の戻り流となって浮遊微生物を処理槽1の流入側まで流動させることができる。そして、循環ダクト4内を処理槽1の上流側まで流動してきた浮遊微生物を含む戻り流は、流入側でのエジェクタ型混合域Mで、被処理水と混合されて反応域5に送られ、反応域5での被処理水の生物処理が効果的に行なわれる。
【0022】
請求項4に係る排水の生物処理槽は、浮遊状態の微生物を含み微生物を固定した担体を含まない微生物を担体に固定せずに浮遊状態で含む複数の排水生物処理槽が、被処理水の通過部を設けた隔壁を介して直列に連結され、最下流の生物処理槽の流出側に設けた被処理水の取り入れ口と、前記取り入れ口から前記処理槽の被処理水の流入側へ連通する循環ダクトを備えた排水の生物処理槽であって、前記循環ダクト内に流出側から流入側に微生物を含んだ被処理水の流れを形成するように、前記処理槽の流入側に、その上流側との水位差に基づく位置エネルギを運動エネルギに変換する手段を設けたことを特徴とする。
【0023】
このようにすれば、担体を用いる前述の場合と同様に、生物処理槽を連結した場合の装置構成が簡便となり、経済的である。さらに、前記循環ダクトにより、最下流の処理槽から最上流の処理槽に浮遊微生物が返送されるので、下流側の処理槽への浮遊微生物の偏在が防止される。
【0024】
請求項5に係る排水の生物処理槽は、上記排水の生物処理槽の少なくとも最下流の生物処理槽が硝化槽であり、この硝化槽の上流側に脱窒槽からなる生物処理槽を設けたことを特徴とする。
【0025】
生物処理により脱窒素を行なう生物学的脱窒素法では、後述するように、通常、反応順序とは逆に、下流側に硝化槽、上流側に脱窒槽を設ける硝化液循環型の槽配置が用いられる。この硝化・脱窒プロセスでは、硝化槽から大量に被処理水を脱窒槽に返送する必要があるが、前述の位置エネルギを運動エネルギに変換する手段により、生物処理槽内に循環流が形成され、電力などの外部エネルギを供給しなくても前記槽配置が可能となる。
【0026】
請求項6に係る排水の生物処理槽は、浮遊状態の微生物を含む排水処理槽の下流側に前記微生物と処理水を分離する分離手段と、前記分離手段に設けた分離された微生物の取り入れ口と、前記取り入れ口から前記処理槽の被処理水の流入側へ連通する循環ダクトを備えた排水の生物処理槽であって、前記循環ダクト内に前記分離手段側から流入側に分離された微生物の流れを形成するように、前記処理槽の流入側に、その上流側との水位差に基づく位置エネルギを運動エネルギに変換する手段を設けたことを特徴とする。
【0027】
このようにすれば、微生物(汚泥)と処理水とが固液分離され、外部からエネルギを供給しなくても、汚泥を生物処理槽に返送でき、再利用が可能となる。
【0028】
請求項7に係る排水の生物処理槽は、前記位置エネルギを運動エネルギに変換する手段が、前記処理槽の流入側壁面の下部に設けたエジェクタ管であり、このエジェクタ管の効果による吸引流れにより、上流側から流入する被処理水と循環ダクトからの担体の戻り流とを混合するエジェクタ型混合域が形成されるようにしたことを特徴とする。
【0029】
このようにすれば、上記流入管から処理槽内に流出する被処理水の流速が、流入側壁面に処理槽の幅に亘って流入口を設けた場合よりも大きくなり、前述の吸引流れにより、エジェクタ型混合域での被処理水と、最下流の処理槽から循環ダクトを介して戻された担体との混合がより効果的に行なわれる。
【0030】
請求項8に係る排水の生物処理槽は、前記処理槽の流入側に形成されたエジェクタ型混合域に曝気装置を組み入れたことを特徴とする。
【0031】
このようにすれば、曝気装置により、エジェクタ型混合域に供給される空気が、本来の曝気作用に加えて、エアリフト効果を発揮するため、所要の水位差Δhを確保できない場合などでも、前記吸引流れを生じさせるに必要な吸引力を補うことができ、また、担体や浮遊微生物の均一混合が促進される。
【0032】
請求項9に係る排水の生物処理槽は、前記エジェクタ管が流量調整手段を備えていることを特徴とする。
【0033】
前記担体を返送する循環ダクト内の流速は、ダクト内の圧力損失を防止する観点からは30mm/s以下に、担体がダクト内に沈降し、滞留することを防止する観点からは10cm/s以上にする必要があることから、通常、10〜30cm/sと低速であり、排水中の繊維質などの異物や微生物が分泌する膜などによって循環ダクト内が閉塞する危険性がある。前記流量調整手段により、一方のエジェクタ管を閉じると、閉じた方の循環ダクトも流動が停止するため、処理槽の流入側での水位差(Δh)が増加する。この水位差(Δh)の増加により、他方のエジェクタ管から流出する被処理水が増加し、それに伴って循環ダクト内の流速も増加するため、ダクト内面に付着している前記異物や分泌膜の除去が可能となる。
【0034】
請求項10に係る排水の生物処理槽は、前記循環ダクトに、処理水および/または担体を投入していない上流側の水槽中の被処理水を供給する配管を設けたことを特徴とする。
【0035】
このようにすれば、上流側水槽の方が高水位であるため、ポンプを必要とせず、循環ダクトに被処理水を導入し、ダクト底部への担体の沈降や滞留を防止することができる。また、この場合、循環ダクトに導入される被処理水中の汚泥の長時間にわたる堆積を防止するため、当該処理槽からの処理水の一部を循環ダクトに供給すると効果的である。なお、前記上流側水槽は、担体を投入していない排水貯留槽および担体を投入した前記処理槽の両方を含む。
【0036】
請求項11に係る排水の生物処理槽は、前記処理槽の循環ダクトに、一端側がこの循環ダクトに連通し、他端側が処理槽内の水面から突出するように空気抜き管を設けたことを特徴とする。
【0037】
このようにすれば、循環ダクト内での空気溜まりの発生を防止できるため、戻り流が円滑に流動し、担体の返送が阻害されずに済む。
【0038】
請求項12に係る排水の生物処理方法は、微生物を固定した担体を用いて排水を生物学的に処理する排水生物処理法であって、被処理水の流出側に設置した、対向する壁面を設けていないスクリーンにより分離された担体の取り込み口を備えた、前記流出側から流入側に連通した循環ダクを設けた排水生物処理槽で、前記流入側に被処理水の吸引流れを発生させ、この吸引流れによるエジェクタ効果により、前記処理槽の流入側と流出側との間に循環流を形成して前記スクリーンへの担体の付着を防止し、かつ、前記担体を、循環ダクトを介して流入側へ戻し、被処理水と混合するようにしたことを特徴とする。
【0039】
請求項13に係る排水の生物処理方法は、浮遊状態の微生物を含み微生物を固定した担体を含まない生物処理槽を用いて排水を生物学的に処理する排水生物処理法であって、前記生物処理槽の流出側に設けた被処理水の取り入れ口から前記処理槽の流入側へ連通する循環ダクトを設け、前記流入側に被処理水の吸引流れを発生させ、この吸引流れによるエジェクタ効果により、前記微生物を循環ダクトを介して流入側へ戻し、被処理水と混合するようにしたことを特徴とする。
【0040】
請求項14に係る排水の生物処理方法は、浮遊状態の微生物を含む生物処理槽を用いて排水を生物学的に処理する排水生物処理法であって、前記生物処理槽の下流側に前記微生物と処理水とを分離する分離手段を設け、この分離手段から前記処理槽の被処理水の流入側へ連通する循環ダクトを設け、前記流入側に上流側との水位差に基づく位置エネルギを運動エネルギに変換する手段を設けて被処理水の吸引流れを発生させ、この吸引流れによるエジェクタ効果により、前記微生物を、循環ダクトを介して流入側へ戻し、被処理水と混合するようにしたことを特徴とする。
【0041】
請求項15に係る排水の生物処理方法は、前記吸引流れを、上記のいずれかの排水生物処理槽を用いて、発生させるようにしたことを特徴とする。
【0042】
請求項16に係る排水の生物処理方法は、前記吸引流れを排水生物処理槽間の被処理水の水位差により形成するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0043】
以上のように、この発明によれば、微生物を固定した担体または浮遊微生物を用いて排水処理を行なう排水生物処理槽の流入側に、上流側の排水生物処理槽または原水槽との水位差によって流入した被処理水の周りの流体を引き込む吸引流れを発生させ、前記処理槽の流入側にエジェクタ型混合域を形成して処理槽内に循環流を形成するようにしたので、電力などの外部エネルギを供給しなくても、循環ダクト内を沈降・滞留せずに流入側へ戻された担体または浮遊微生物と被処理水とが混合される。そして、これらの混合流が処理槽の反応域へ供給されて、処理槽内での担体または浮遊微生物の分布を均一にすることができ、生物処理が効果的に行なわれ、攪拌動力も節減することができる。また、外部エネルギを必要とせずに担体または浮遊微生物を流入側へ返送できるため、停電発生時にも処理槽内に循環流を形成することができ、生物処理を継続できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下に、この発明の実施形態を添付の図2〜図6に基づいて説明する。
【0045】
図2は、第1の実施形態を示したもので、生物処理槽は、複数の生物処理槽を、即ち3つの生物処理槽1a、1b、1cを、被処理水の通過口9、9aをそれぞれ設けた隔壁10、10aを介して直列に連結した連結型の生物処理槽である。生物処理槽1cの流出側壁面11には、担体分離用のスクリーン12が、前面側に対向するダクト壁面を設けずに設置されている。流出側の生物処理槽1cの底部両側には微生物を固定した担体(図示省略)の取り入れ口13、13aがそれぞれ設けられ、この取り入れ口13、13aから循環ダクト本体14、14aが上流側の生物処理槽1aの流入側にまで延び、流入側壁面15に沿って上方に延びたディフューザ16、16aにそれぞれ接続されて循環ダクト17、17aが形成されている。取り入れ口13、13aは、担体を取り入れ易いように、その端面の断面積が循環ダクト本体14、14aの断面積よりも大きく、この端面からなだらかに縮径してダクト本体14、14aと一体に形成されている。ディフューザ16、16a、即ち上方に延びた循環ダクト17、17aの内部にはエジェクタ管18、18aが挿入されて上流側から流入した被処理水がディフューザ16、16a内を流れるようになっており、エジェクタ管18、18aの入側に、流入する被処理水の流量調節手段のバルブ19、19aが設けられている。このバルブ19、19aとしては、仕切り弁、蝶型弁、偏心鋳造弁などを用いることができる。
【0046】
前記生物処理槽1aの流入側に、ブロワから空気を送り込むための曝気装置(散気装置)を設けることもでき、また、破線で示したように、循環ダクト本体14の中程に、一端側がこの循環ダクト本体14に連通し、他端側が処理槽内の水面から突出した空気抜き管20を設けることもできる。この空気抜き管20は、もう一方の循環ダクト本体14aにも同様にして設けることができる。生物処理槽1aには、硝酸菌などの微生物が固定された、PEG(ポリエチレングリコール)などのペレット状の担体が投入され、各処理槽1a、1b、1cには担体の沈降を防止、均一混合を促進するための水中攪拌機(図示省略)が設置されている。
【0047】
この発明の第1の実施形態は以上のような構成であり、以下にその機能について説明する。
【0048】
上流側の担体を投入していない水槽、または上流側の生物処理槽から被処理水が流入すると、上流側の水槽または処理槽の持つ位置エネルギがエジェクタ管18、18aを通過する際に運動エネルギに変換され、被処理水の運動量により生物処理槽1a内の周囲の流体を引き込む吸引流れが生じ、前記エジェクタ管18(18a)とディフューザ16(16a)とで、一種のポンプ(エジェクタポンプ)が形成される。このようなエジェクタポンプの作動について、図3に示すような生物処理槽モデルを用いて以下に説明する。
【0049】
図3に示した生物処理槽モデルは、流入側処理槽(第1区画)にエジェクタノズル(エジェクタ管18)とディフューザ16が設置され、流出側処理槽にスクリーン7が設置され、その下方から取り入れ口13を有する返送管17bが流入側処理槽(第2区画)の方へ延びて前記ディフューザ16に接続し、流入側にエジェクタ部Eが形成されている。このエジェクタ部Eによる、即ちエジェクタポンプの作動による生物処理槽内の全圧力分布や返送流量比(循環ダクト内返送流量/エジェクタ管内流量)などの特性は、運動量保存式(1)、ディフューザ圧力回復式(2)、返送管内圧力損失式(3)、ノズル圧力損失式(4)から求めることができる。
【数1】

ここに、A:流路面積、U:流速、P:圧力、L:循環ダクト本体(返送管)の長さ、D:返送管径、g:重力加速度、Δh:水位差、ρ:密度、ηD:ディフューザ回復率、λ:管摩擦係数、ζ:管曲がり係数、(添え字)0−1:上流側槽とエジェクタ設置槽(第1区画)間、1−2:第1区画と第2区画間、1:エジェクタ管、2:エジェクタ吸引側管、3:ディフューザ入口、4:ディフューザ出口、5:返送管(循環ダクト)
【0050】
図2に示した、3区画の処理槽1a、1b、1cからなる生物処理槽について、前記式(1)〜式(4)から数値解析により、前記処理槽内の全圧力分布および返送流量比を求めた結果、取り入れ口13(13a)からエジェクタ管18(18a)にかけて圧力が降下して吸引流れが生成していること、および、返送管17b(循環ダクト)内の平均圧力は、解析例では、エジェクタ設置槽(第1区画)の圧力よりも300Pa程度低いことが確認された。また、ノズル流速(エジェクタ管18、18aからの吐出速度)が0.8〜2.0m/sの範囲で、返送流量比がおよそ50〜60%となり、処理槽内に所要の循環流が形成されることが上記数値解析とともに、模型水槽実験でも確認された。
【0051】
前記解析結果で確認されたように、吸引流れの作用、即ちエジェクタ効果により、取り入れ口13、13aから被処理水が担体とともに循環ダクト17、17a内に取り入れられ、生物処理槽の流入側処理槽1aと流出側処理槽1cとの間に循環流が形成されて、微生物を固定した担体が流入側処理槽1aに返送され、エジェクタ混合域M(図1参照)で、循環ダクト17、17aを介して流入側へ戻された担体と被処理水とが混合され、処理槽1a内での担体の分布を均一化することができる。この循環流により、被処理水が担体とともに処理槽1aから通過口9を経て処理槽1bに流入し、さらに、この担体を含む被処理水が通過口9aを経て処理槽1cに流入する生物反応処理過程で、担体が最下流の処理槽1cに偏在・滞留することが防止され、また、スクリーン12から担体が分離されて目詰まりも防止されて、被処理水の生物処理を効果的に行なうことができる。前記担体の返送に電力などの外部エネルギを必要としないため、停電発生時でも循環流が形成され、スクリーン12に目詰まりも発生せず、生物反応処理を継続することができる
【0052】
また、エジェクタ管18、18aの入側にバルブ19、19aを設けることにより、例えば、バルブ19を全閉にして、エジェクタ管18からの生物処理槽1a内への流れおよび循環ダクト17内での戻り流を停止させると、流入側壁面15での水位差は4倍に増加する。それにより、バルブ19aが開放しているエジェクタ管18aからの処理槽1a内への流速が増加し、このエジェクタ効果による吸引流れによって、循環ダクト17a内の流速も増加するため、循環ダクト17aの内面に付着している繊維質や微生物が分泌する膜などの異物の除去が可能となる。同様の操作により、循環ダクト17内面の清掃も行なうことができる。さらに、担体の戻流が循環ダクト17、17aを通過する過程で、空気抜き管20から処理槽外に排気されるため、空気溜まりの発生を防止でき、戻流が円滑に流動し、担体の返送が阻害されずに済む。
【0053】
図4は、第2の実施形態を示したもので、この生物処理槽は、硝化・脱窒素プロセスにより、排水中のアンモニア態窒素を生物学的に除去するための処理槽であり、排水の流入側から脱窒槽1d、硝化槽1eおよび硝化槽1fが、被処理水の通過口9、9aをそれぞれ設けた隔壁10、10aを介して直列に連結され、最下流の硝化槽1fの流出側壁面11の上部には、生物処理された処理水の流出口21が形成されている。硝化槽1e、1fの流入側には、ブロワから槽内に空気を送り込むための図示を省略した曝気装置(散気装置)が設けられている。好気槽の硝化槽1e、1fでは、硝酸菌および亜硝酸菌が担体に固定されずに浮遊状態の微生物として働き、嫌気槽の脱窒槽1dでは脱窒素菌が浮遊状態の微生物として働く。第1の実施形態の場合と同様に、流出側処理槽1fの底部両側には、処理槽1eおよび1fの硝化工程で硝化された被処理水(硝化液)の取り入れ口13、13aがそれぞれ設けられ、この取り入れ口13、13aから循環ダクト本体14、14aが生物処理槽の上流側の処理槽1dの流入側にまで延び、流入側壁面15に沿って上方に延びたディフューザ16、16aにそれぞれ接続されて循環ダクト17、17aが形成されている。取り入れ口13、13aは、被処理水を取り入れ易いように、その端面の断面積が循環ダクト本体14、14aの断面積よりも大きく、この端面からなだらかに縮径してダクト本体14、14aと一体に形成されている。ディフューザ16、16a、即ち上方に延びた循環ダクト17、17aの内部にはエジェクタ管18、18aが挿入され、上流側から流入した被処理水がディフューザ16、16a内を流れるようになっており、エジェクタ管18、18aの入側に、流入する被処理水の流量調節手段のバルブ19、19aが設けられている。また、第1の実施形態(図2参照)で示したように、循環ダクト本体14、14aの中程に、一端側がこの循環ダクト本体14、14aに連通し、他端側が処理槽内の水面から突出した空気抜き管20(ダクト本体14a側は図示省略)をそれぞれ設けることもできる。各処理槽1d、1e、1fには水中攪拌機(図示省略)が設置されている。なお、流出口21の出側には、図示を省略した沈殿槽が設置されている。また、前記取り入れ口13、13aから、浮遊状態の微生物群を取り入れて、流入側の処理槽に戻して微生物を再利用することもできる。
【0054】
この発明の第2の実施形態は以上のような構成であり、以下にその機能について説明する。
【0055】
上流側の水槽からエジェクタ管18、18aおよびディフューザ16、16aを介して被処理水が生物処理槽1dに流入すると、処理槽1d(脱窒素槽)では除去すべき被処理水中のアンモニア態窒素成分は何ら変化せず、即ち生物反応を生ぜずに、通過口9および9aをそれぞれ経て、硝化槽1e、1fに流入する。そして、この硝化槽1e、1fで、アンモニアは、式(1)に示すように、好気性の亜硝酸菌の働きにより酸化されて、亜硝酸になる。次に、この亜硝酸は、式(2)に示すように、好気性の硝酸菌の働きにより酸化され、式(1)と式(2)を加算して式(3)に示すように硝酸になる。
【数2】

【0056】
前述の第1実施形態の場合と同様に、エジェクタ管18、18aに、上流側の水槽から被処理水が流入すると、上流側の水槽の持つ位置エネルギがエジェクタ管18、18aを通過する際に運動エネルギに変換され、被処理水の運動量により、処理槽1a内の周囲の流体を引き込む吸引流れが生じる。
【0057】
この吸引流れの作用、即ちエジェクタ効果により、取り入れ口13、13aから被処理水が循環ダクト14、14a内に取り入れられ、生物処理槽の流入側処理槽1dと流出側処理槽1fとの間に循環流が形成される。この循環流により、硝化処理された被処理水(硝化液)が脱窒槽1dに返送され、式(4)および式(5)に示すように、脱窒素反応によって硝酸が窒素ガスに還元される。
【数3】

式(4)および式(5)におけるH2は有機物の分解により供給されるもので、被処理水(原水)中のBOD成分がこの水素供与体にあたる。
【0058】
このように、前記硝化・脱窒プロセスでは、硝化槽1fから硝化された被処理水を大量に脱窒槽1dに返送する必要がある。前記エジェクタ管18、18aによる吸引流れにより生物処理槽内に循環流が形成されるため、返送用ポンプを設けなくても硝化された被処理水を脱窒槽1dへ返送できるため、設備費およびエネルギ費が節減され、また、停電発生時でも、硝化・脱窒処理を継続することができる。なお、前記生物処理槽では、硝化槽1e、1fの前に脱窒槽1dが配置され、反応順序とは逆配置となっているが、このような槽配置にして硝化液を循環させることにより、脱窒素反応に被処理水(原水)中のBOD成分を利用することができ、外部から加えるBOD成分を節約できる利点がある。このため、硝化液循環型の槽配置がよく用いられる。なお、前記硝酸菌、亜硝酸菌、脱窒素菌はいずれも被処理水(原水)中に多数含まれるものであり、通常運転では自然増殖するため、外部からとくに供給する必要はない。
【0059】
図5は、第3の実施形態を示したもので、この生物処理槽は、第1の実施形態(図2参照)と同様に、複数の生物処理槽を、即ち3つの生物処理槽1g、1h、1iを、被処理水の通過口9、9aをそれぞれ設けた隔壁10、10aを介して直列に連結した連結型の生物処理槽である。最下流の処理槽1iの流出側壁面11の上部には、生物処理された処理水の流出口21が配置されており、この流出口21の出側には、流路22を介して、生物的に処理された清澄な処理水と微生物群とを固液分離するための沈殿槽23が設置されている。この沈殿槽23の底部には排出管24が接続され、この排出管24は生物処理槽の両側方向に分岐して、前記処理槽の底部の高さまで立ち上がり、この底部両側から流入側の処理槽1gにまで延びた循環ダクト本体14、14aに連結されている。この循環ダクト本体14、14aは、流入側壁面15に沿って上方に延びたディフューザ16、16aにそれぞれ接続されて循環ダクト17、17aが形成されている。ディフューザ16、16aの内部には、上流側からの被処理水が流入するエジェクタ管18、18aが挿入され、その入側には流入する被処理水の流量調節手段のバルブ19、19aが設けられている。また、処理槽1gの流入側に、ブロワから空気を送り込むための曝気装置(散気装置)を設けることもできる。さらに、循環ダクト本体14、14aの中程に空気抜き管20(ダクト本体14a側は図示省略)をそれぞれ設けることもできる。各処理槽1g、1h、1iには水中攪拌機(図示省略)が設置されている。
【0060】
この発明の第3の実施形態は以上のような構成であり、以下にその機能について説明する。
【0061】
前記の各生物処理槽1g、1h、1iで、被処理水は浮遊状態の好気性微生物群と混合接触し、被処理水中のBOD成分は溶存酸素の存在下で酸化分解され、この混合液は流出口21から流路22を介して沈殿槽23に流れ込む。沈殿槽23で、微生物群は凝集して沈降し、上澄みの処理水と固液分離する。一方、上流側の水槽からエジェクタ管18、18aおよびディフューザ16、16aを介して被処理水が生物処理槽1gに流入すると、上流側の水槽または処理槽の持つ位置エネルギがエジェクタ管18、18aを通過する際に運動エネルギに変換され、被処理水の運動量により、処理槽1g内の周囲の流体を引き込む吸引流れが生じる。
【0062】
この吸引流れの作用、即ちエジェクタ効果により、沈降した微生物群が沈殿槽23の底部から排出管24を通り、立ち上がり部24aを経て循環ダクト17、17a内に取り入れられ、流入側の処理槽1gと沈殿槽23との間に凝集した微生物群、即ち汚泥を含む循環流が形成され、前記汚泥が流入側の処理槽1gに返送される。そして、返送された汚泥は、生物応処理槽で再び被処理水のBOD成分の除去の働きを行なう。このように、エジェクタ管18、18aによる吸引流れにより循環流が形成され、返送用ポンプを設けなくても、汚泥が沈殿槽23からの流入側へ返送されるため、返送用ポンプ設置などの設備費およびエネルギ費が節減され、また、停電発生時でも、硝化・脱窒処理を継続することができる。
【0063】
図6(a)は、前記第1および第2の実施形態の生物処理槽で、循環ダクト17、17aを処理槽の底部に沿って設ける代わりに、処理槽の水面レベルの近傍に設けるトラフ25、25aとエジェクタ部からなる循環系を示したものである。この循環系は、トラフ25、25aから下方に向かう連結管26を介してディフーザ16、16aを、処理槽下流側に向くように横方向に接続し、このディフューザ16、16aの入側に、前記エジェクタ管18、18aを挿入するものである。図6(b)は、前記トラフ25、25aを水面レベル近傍の高さで、両側に設けた他の実施形態の生物処理槽の流入側要部を示したもので、トラフ25、25aに接続されたディフューザ16、16aの入側にエジェクタ管18、18aが挿入されている。また、トラフ25、25aの開放端Rは、図示省略した最下流処理槽に至り、前記担体または処理水(硝化液)の取り入れ口となっている。
【0064】
図2に示した3区画の処理槽1a、1b、1cからなる生物処理槽についての前述の数値解析結果から、循環ダクト17、17a(返送管)内の平均圧力は、エジェクタ設置処理槽1a(第1区画)の圧力よりも300Pa程度低いため、図6(b)に示したように、返送管としてトラフ25、25aを設けると、トラフ内の水位はその周囲の槽内の水位よりも30mm程度低くなる。このため、流出側処理槽の取り入れ口13(13a)に相当するトラフ25、25aの開放した端部R(図6(a)参照)から、担体または処理水が流入して流入側処理槽に向かう循環流れが形成される。このように、循環ダクトとして上部が開放したトラフを水面レベル近傍に設けると、ダクトの詰まりや汚れなどに対するメインテナンス性が大幅に向上する。
【0065】
なお、前述の第1から第3の実施形態および上記他の実施形態で、循環ダクト17、17aまたはトラフ25、25aは、前記生物処理槽の底部両側または水面レベル近傍にそれぞれ沿った合計2本のみならず、それよりも多い複数本設けることができ、従って、前記エジェクタ管も前記複数本設けることができる。また、前記エジェクタ管の総断面積は、生物処理槽内に循環流が生じるために必要な上流側との水位差を確保できるように、前記式(1)から式(4)に示したエネルギーおよび圧力バランスを考慮して、被処理水の流量に対応して設計することができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
この発明は、微生物固定化担体や汚泥の返送および硝化・脱窒素プロセスでの硝化液の循環等に、電力等の外部エネルギを必要としない、装置構成を簡素化した、経済的な生物処理槽の構築に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】この発明の実施形態の排水の生物処理槽での吸引流れについての説明図
【図2】第1の実施形態の排水の生物処理槽の斜視図
【図3】第1の実施形態の生物処理槽をモデル化した説明図である。
【図4】第2の実施形態の排水の生物処理槽の斜視図
【図5】第3の実施形態の排水の生物処理槽の斜視図
【図6】(a)他の実施形態の生物処理槽に設けるトラフおよびエジェクタの拡大斜視図(b)(a)を組み入れた他の実施形態の生物処理槽
【図7】従来技術の排水の生物処理槽の断面図
【図8】他の従来技術の排水の生物処理槽の断面図
【図9】他の従来技術の排水の生物処理槽の断面図
【図10】他の従来技術の排水の生物処理槽の断面図
【符号の説明】
【0068】
1、1a〜1k・・・生物処理槽
2、15・・・流入側壁面
2a、11・・・流出側壁面
3・・・下部開口
4、17、17a・・・循環ダクト
4a、4b・・・外壁面
5・・・反応域
6・・・水中攪拌機
7、12・・・スクリーン
8、13、13a・・・取り入れ口
9、9a・・・通過口
10、10a・・・隔壁
14,14a・・・循環ダクト本体
16、16a・・・ディフューザ
17b・・・返送管
18、18a・・・エジェクタ管
19、19a・・・バルブ
20・・・空気抜き管
21・・・流出口
22・・・流路
23・・・沈殿槽
24・・・排出管
24a・・・立ち上がり部
25、25a・・・トラフ
26・・・連結管


【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物を固定した担体を浮遊状態で含む排水生物処理槽の被処理水の流出側に設置した、対向する壁面を設けていない担体分離用のスクリーンと、
前記流出側に配置した前記担体の取り入れ口と、
前記取り入れ口から前記処理槽の被処理水の流入側へ連通する循環ダクトを備えた排水の生物処理槽であって、
前記循環ダクト内に流出側から流入側に前記担体を含んだ被処理水の流れを形成するように、前記処理槽の流入側に、その上流側との水位差に基づく位置エネルギを運動エネルギに変換する手段を設けたことを特徴とする排水の生物処理槽。
【請求項2】
微生物を固定した担体を浮遊状態で含む複数の排水生物処理槽が、被処理水の通過部を設けた隔壁を介して直列に連結され、最下流の生物処理槽の流出側に設置した、対向する壁面を設けていない担体分離用のスクリーンと、
前記取り入れ口から前記処理槽の被処理水の流入側へ連通する循環ダクトを備えた排水の生物処理槽であって、
前記循環ダクト内に流出側から流入側に前記担体を含んだ被処理水の流れを形成するように、前記処理槽の流入側に、その上流側との水位差に基づく位置エネルギを運動エネルギに変換する手段を設けたことを特徴とする排水の生物処理槽。
【請求項3】
浮遊状態の微生物を含み微生物を固定した担体を含まない排水生物処理槽の流出側に設けた被処理水の取り入れ口と、
前記取り入れ口から前記処理槽の被処理水の流入側へ連通する循環ダクトを備えた排水の生物処理槽であって、
前記循環ダクト内に流出側から流入側に微生物を含んだ被処理水の流れを形成するように、前記処理槽の流入側に、その上流側との水位差に基づく位置エネルギを運動エネルギに変換する手段を設けたことを特徴とする排水の生物処理槽。
【請求項4】
浮遊状態の微生物を含み微生物を固定した担体を含まない複数の排水生物処理槽が、被処理水の通過部を設けた隔壁を介して直列に連結され、最下流の生物処理槽の流出側に設けた被処理水の取り入れ口と、
前記取り入れ口から前記処理槽の被処理水の流入側へ連通する循環ダクトを備えた排水の生物処理槽であって、
前記循環ダクト内に流出側から流入側に微生物を含んだ被処理水の流れを形成するように、前記処理槽の流入側に、その上流側との水位差に基づく位置エネルギを運動エネルギに変換する手段を設けたことを特徴とする排水の生物処理槽。
【請求項5】
前記排水の生物処理槽の少なくとも最下流の生物処理槽が硝化槽であり、この硝化槽の上流側に脱窒槽からなる生物処理槽を設けたことを特徴とする請求項4に記載の排水の生物処理槽。
【請求項6】
浮遊状態の微生物を含む排水処理槽の下流側に前記微生物と処理水を分離する分離手段と、
前記分離手段に設けた分離された微生物の取り入れ口と、
前記取り入れ口から前記処理槽の被処理水の流入側へ連通する循環ダクトを備えた排水の生物処理槽であって、
前記循環ダクト内に前記分離手段側から流入側に分離された微生物の流れを形成するように、前記処理槽の流入側に、その上流側との水位差に基づく位置エネルギを運動エネルギに変換する手段を設けたことを特徴とする排水の生物処理槽。
【請求項7】
前記位置エネルギを運動エネルギに変換する手段が、前記処理槽の流入側壁面の下部に設けたエジェクタ管であり、このエジェクタ管の効果による吸引流れにより、上流側から流入する被処理水と循環ダクトからの担体および/または浮遊微生物の戻り流とを混合するエジェクタ型混合域が形成されるようにしたことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の排水の生物処理槽。
【請求項8】
前記処理槽の流入側に形成されたエジェクタ型混合域に曝気装置を組み入れたことを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の排水の生物処理槽。
【請求項9】
前記エジェクタ管が流量調整手段を備えていることを特徴とする請求項7または8に記載の排水の生物処理槽。
【請求項10】
前記循環ダクトに、処理水および/または担体を投入していない上流側の水槽中の被処理水を供給する配管を設けたことを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の排水の生物処理槽。
【請求項11】
前記処理槽の循環ダクトに、一端側がこの循環ダクトに連通し、他端側が処理槽内の水面から突出するように空気抜き管を設けたことを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の排水の生物処理槽。
【請求項12】
微生物を固定した担体を用いて排水を生物学的に処理する排水生物処理法であって、被処理水の流出側に設置した、対向する壁面を設けていないスクリーンにより分離された担体の取り込み口を備え、前記流出側から流入側に連通した循環ダクトを設けた排水生物処理槽で、前記流入側に被処理水の吸引流れを発生させ、この吸引流れによるエジェクタ効果により、前記処理槽の流入側と流出側との間に循環流を形成して前記スクリーンへの担体の付着を防止し、かつ、前記担体を、循環ダクトを介して流入側へ戻し、被処理水と混合するようにしたことを特徴とする排水の生物処理方法。
【請求項13】
浮遊状態の微生物を含み微生物を固定した担体を含まない生物処理槽を用いて排水を生物学的に処理する排水生物処理法であって、前記生物処理槽の流出側に設けた被処理水の取り入れ口から前記処理槽の流入側へ連通する循環ダクトを設け、前記流入側に被処理水の吸引流れを発生させ、この吸引流れによるエジェクタ効果により、前記微生物を循環ダクトを介して流入側へ戻し、被処理水と混合するようにしたことを特徴とする排水の生物処理方法。
【請求項14】
浮遊状態の微生物を含む生物処理槽を用いて排水を生物学的に処理する排水生物処理法であって、前記生物処理槽の下流側に前記微生物と処理水とを分離する分離手段を設け、この分離手段から前記処理槽の被処理水の流入側へ連通する循環ダクトを設け、前記流入側に上流側との水位差に基づく位置エネルギを運動エネルギに変換する手段を設けて被処理水の吸引流れを発生させ、この吸引流れによるエジェクタ効果により、前記微生物を、循環ダクトを介して流入側へ戻し、被処理水と混合するようにしたことを特徴とする排水の生物処理方法。
【請求項15】
前記吸引流れを、請求項1から11のいずれかに記載の排水生物処理槽を用いて、発生させるようにしたことを特徴とする請求項12から14のいずれかに記載の排水の生物処理方法。
【請求項16】
前記吸引流れを排水生物処理槽間の被処理水の水位差により形成するようにしたことを特徴とする請求項12から15のいずれかに記載の排水の生物処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−7033(P2006−7033A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−185350(P2004−185350)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(000192590)株式会社神鋼環境ソリューション (534)
【Fターム(参考)】