説明

排水の脱リン脱色消毒剤と処理方法および処理装置

【課題】牛舎や豚舎などの畜舎から排出された有機汚水、あるいは食品工場などから排出される有機汚水の処理において、脱リン、脱色、および消毒効果に優れ、汚泥処理にも効果を発揮する処理剤と処理方法および処理装置を提供する。
【解決手段】消石灰を含む非晶質珪酸カルシウム水和物の凝集体からなり、有機汚水を生物処理した後の排水に含まれるリンの除去、脱色、および消毒に用いられ、さらに該生物処理工程で発生する汚泥の沈降濃縮を促進する有機汚水の脱リン脱色消毒剤、および該脱リン脱色消毒剤を有機汚水を生物処理した後の排水に投入して排水に含まれるリンを取り込んだ沈殿を生成させ、該沈殿を固液分離することによってリンを除去すると同時に該排水を脱色し、さらに消毒と発生汚泥の沈降濃縮促進効果を発揮させ、さらに発生汚泥中に残留する脱リン脱色消毒剤由来成分を肥料成分として利用することを特徴とする有機汚水の処理方法および処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畜産農業事業場から排出される有機汚水を活性汚泥法などの通常の処理施設で処理した後の排水、あるいは食品工場から排出される有機汚水を処理した後の排水などを対象とした、脱リン、脱色および消毒効果に優れた処理剤と処理方法および処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
畜舎からは糞尿を含む有機汚水(畜舎汚水と云う)が排出される。この畜舎汚水には多量の有機物が含まれており、COD(化学的酸素要求量)やBOD(生物化学的酸素要求量)が高く、未処理のまま放流すると水質汚濁の原因になるので、活性汚泥法などを利用してCODやBODを低減する浄化方法が従来から知られている(特許文献1:特開平10−174991号公報)。
【0003】
しかし、活性汚泥法を利用した従来の処理方法は畜舎汚水に含まれるリンを十分に除去することができないと云う問題があった。このため、無機系凝集剤を使用する凝集沈殿法が利用されており、また畜舎汚水を曝気して汚水中の溶解性リンを不溶化して除去する処理方法も知られている(特許文献2:特開2001−179267号公報)。
【0004】
さらに、排水の脱リン手段として、珪酸カルシウムを主成分とする脱リン剤が従来から知られている。例えば、特開昭61−263636号公報(特許文献3)にはCaO/SiO2モル比が1.5〜5の珪酸カルシウム水和物を主成分とする水処理剤が記載されている。また、特公平02−20315号公報(特許文献4)には空隙率50〜90%の独立気泡を有する珪酸カルシウム水和物からなる脱リン材が記載されている。さらに、特開平10−235344号公報(特許文献5)には珪酸カルシウム水和物を主成分とした直径数ミリ程度の球状または中空状に成形した脱リン材が記載されている。特開2000−135493号公報(特許文献6)には珪灰石を用いた脱リン方法が提案されている。
【0005】
また、平均粒子径(メジアン径)150μm以下の微粉末であって細孔容積0.3cm3/g以上の多孔質珪酸カルシウム水和物からなるリン回収資材(特許文献7)、あるいはBET比表面積80m2/g以上、細孔容積0.5cm3/g以上の多孔質の珪酸カルシウム水和物からなるリン回収資材が提案されている(特許文献8)。
【0006】
畜舎汚水の処理において、処理後の排水の色について規制はないが、着色の濃い排水は未処理と誤解され、苦情の原因になるので、脱色は汚水処理の重要課題の一つである。しかし、現実は脱色だけにコストをかける余力は農家には乏しいので脱色効果以外の効果を併せて有する処理方法が求められている。ちなみに、一般的な排水の脱色方法として、活性炭吸着法、オゾン酸化法、およびALC粉末などの多孔体珪酸カルシウム水和物からなる粉粒体を脱色剤として利用する方法が知られている(特許文献9:特開平08−131822号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−174991号公報
【特許文献2】特開2001−179267号公報
【特許文献3】特開昭61−263636号公報
【特許文献4】特公平02−020315号公報
【特許文献5】特開平10−235344号公報
【特許文献6】特開2000−135493号公報
【特許文献7】特開2009−285635号公報
【特許文献8】特開2009−285636号公報
【特許文献9】特開平08−131822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の処理方法によれば、畜舎汚水を活性汚泥法によって処理した後にアルカリを加えて中和し、沈殿分離した上澄液に酸化剤を加えて脱色しているが、リンを除去する効果は低い。一方、特許文献2の処理方法によれば、処理前のリン酸イオン濃度610ppmの汚水を3時間曝気することによってリン酸イオン濃度100ppmに低減することができるが、脱色については殆ど効果がない。
【0009】
特許文献3〜特許文献5の処理方法に用いる珪酸カルシウム水和物は、大部分がALCなどの結晶質であって多孔質の空隙にリンを吸着して除去するものであり、特許文献6の処理方法と同様に処理時間が長くかかる問題がある。また、脱色効果はない。一方、特許文献7および特許文献8のリン回収資材は非晶質の珪酸カルシウム水和物であり、リンとの反応性が高く、下水などのリン濃度を急激に低減することができ、消石灰など他の石灰質資材よりもリンの回収率が高い利点を有しているが、畜舎汚水由来の排水についての脱リン効果および脱色効果は確認されていない。
【0010】
また、特許文献9の処理方法は、ALCなどの珪酸カルシウム水和物を用いて着色液体を脱色することが記載されているが、ALCはトバモライトを主体とした結晶質であるため畜舎汚水由来の排水にALC粉末を投入しても十分な脱色効果を得ることができず、また脱リン効果も低い。
【0011】
本発明は、従来の処理方法における上記問題を解決したものであって、畜舎汚水などの有機性汚水を処理した排水について、優れた脱リン効果と共に脱色および消毒効果を有する処理剤および処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、有機汚水由来の排水の処理について、以下の構成からなる脱リン脱色消毒剤とその処理方法および処理装置に関する。
〔1〕 消石灰を含む非晶質珪酸カルシウム水和物の凝集体からなり、有機汚水由来の排水に投入され、該排水に含まれるリンの除去、脱色、消毒、汚泥濃縮の促進に用いられることを特徴とする排水の脱リン脱色消毒剤。
〔2〕 シリカ溶解液に消石灰を加えて合成した非晶質珪酸カルシウム水和物とCa(OH)2の凝集体からなる上記[1]に記載する排水の脱リン脱色消毒剤。
〔3〕 消石灰を含む非晶質珪酸カルシウム水和物の凝集体を、有機汚水を生物処理した後の排水に投入して該排水に含まれるリンおよび着色原因成分を取り込んだ沈殿を生成させ、該沈殿を固液分離することによってリンを除去すると同時に該汚水を脱色、消毒することを特徴とする排水の処理方法。
〔4〕 シリカ溶解液に消石灰を加えて合成した非晶質珪酸カルシウム水和物とCa(OH)2の凝集体を用いる上記[3]に記載する排水の処理方法。
〔5〕 消石灰を含む非晶質珪酸カルシウム水和物の凝集体を、脱リンのみのときには該排水のpHが8以上になるように添加し、脱リンと脱色と消毒の同時処理のときにはpH11以上になるように添加する上記[3]または上記[4]に記載する排水の処理方法。
〔6〕 消石灰を含む非晶質珪酸カルシウム水和物の凝集体を排水に添加し、生成した沈殿物を他の汚水処理工程から発生する汚泥と混合することによって汚泥の沈降濃縮を促進する上記[3]〜上記[5]の何れかに記載する有機汚水の処理方法。
〔7〕 第一沈殿槽、曝気槽、第二沈殿槽、添加槽、処理槽、中和槽、および濃縮槽を備えており、第一沈殿槽には有機汚水が導入されて固形分が沈殿分離され、第一沈殿槽の液分は曝気槽に導入されて活性汚泥処理が行われ、曝気槽を経た活性汚泥混合液は第二沈殿槽に導入されて沈殿した汚泥が系外に除去されると共に汚泥の一部は曝気槽に返送され、残りの汚泥は濃縮槽に送られ、第二沈殿槽を経た液分は添加槽に送られて脱リン脱色消毒剤が添加された後に処理槽に送られ、処理槽においてリンおよび着色成分を取り込んだCSH凝集体沈殿物は系外に抜き出されて濃縮槽に送られ、CSH凝集体沈殿物によって濃縮槽で汚泥の沈降濃縮が促進され、濃縮された汚泥が回収され、処理槽を経た液分は中和槽において中和された後に系外に排出されることを特徴とする有機汚水処理装置。
〔8〕 濃縮槽から抜き出された濃縮汚泥を肥料成分として利用する上記[7]に記載する有機汚水の処理装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明の脱リン脱色消毒剤およびその処理方法によれば、有機汚水を生物処理した後の排水に含まれるリンを略全量除去することができ、リンの除去効果に優れており、かつ排水を脱色して色度の指標となる390nm吸光度(以下、単に吸光度と云う)を大幅に低下させることができ、脱色効果に優れる。さらに添加量によっては大腸菌群も格段に低減でき、消毒効果も有している。また、添加によって発生するCSH凝集体沈殿物は生物処理施設から発生する汚泥の沈降濃縮促進効果も有している。
【0014】
本発明の脱リン脱色消毒剤およびその処理方法によれば、短時間で排水を脱リン、脱色することができる。具体的には、例えば、本発明の脱リン脱色消毒剤を排水に20g/L添加し、30分静置することによって、リン濃度(PO4-P)を検出限界以下にし、さらに吸光度を大幅に低下させて脱色率は70%以上となる。
【0015】
また、本発明の脱リン脱色消毒剤およびその処理方法によれば、排水の消毒効果が得られる。具体的には、pHを10.4以上に高めると、排水に含まれる大腸菌群の検出数を1mLあたり4cfu以下にまで大幅に低減することができる。乳牛ふん尿中の大腸菌は20℃ではpH10以上、4℃ではpH11以上で低減するという報告があり(北海道立畜産試験場畜産環境科、平成15年度北海道農業試験会議(成績会議)畜産部会提出課題)、また、家畜排泄物スラリー(高濃度液状物)中の口蹄疫ウイルスの消毒法の1つとしてpHを11以上に上昇させることが公知の事実として知られていることから(農林水産省消費・安全局動物衛生課長通知、22消安第3232号、平成22年7月1日)、pHを11以上に高めることは消毒に有効と考えられる。
【0016】
本発明の処理装置によれば、曝気槽の活性汚泥処理によってCODおよびBODを低下させた後に、本発明の脱リン脱色消毒剤を用いた処理によって効果的にリンを除去して脱色すると共に消毒することもできる。また、脱リン脱色消毒剤によって処理した汚泥にはリン、カルシウム、シリカが多量に含まれているので汚泥を肥料成分として有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の脱リン脱色消毒剤(CSH凝集体)のXRDチャート図
【図2】本発明の処理装置の構成図
【図3】実施例2の吸光度の変化を示すグラフ
【図4】実施例2のリン濃度(PO4-P)の変化を示すグラフ
【図5】実施例3の吸光度の変化を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。
本発明の脱リン脱色消毒剤は、牛舎や豚舎などの畜舎から排出される畜舎汚水を活性汚泥法などの通常の処理施設で処理した後の排水、あるいは食品工場から排出される汚水を処理した後の排水などを対象とし、これらの排水に含まれるリンを除去し同時に脱色し消毒する処理剤である。なお、畜舎汚水および食品工場などから排出される有機性の汚水を含めて有機汚水と云う。この有機汚水を活性汚泥法などの通常の汚水処理した後を排水と云う。本発明の処理方法は上記脱リン脱色消毒剤を用いる有機汚水の処理方法ないし有機汚水由来の排水の処理方法である。
【0019】
〔脱リン脱色消毒剤〕
本発明の脱リン脱色消毒剤は、消石灰を含む非晶質珪酸カルシウム水和物の凝集体(CSH凝集体と云う)からなる。シリカの溶解液に消石灰を加えて、加熱下で反応させると非晶質珪酸カルシウム水和物が生成し、消石灰の添加量に応じて、未反応のCa(OH)2〔遊離石灰〕が非晶質珪酸カルシウム水和物の組織中に取り込まれたCSH凝集体が生成する。
【0020】
上記CSH凝集体のXRDチャートの一例を図1に示す。図示するように、CSH凝集体には非晶質の珪酸カルシウム水和物とCa(OH)2が含まれている。本発明の脱リン脱色消毒剤は、好ましくは、このような非晶質珪酸カルシウム水和物とCa(OH)2の凝集体からなるものである。
【0021】
本発明の脱リン脱色消毒剤に含まれる珪酸カルシウム水和物は非晶質であるので、脱リン効果に優れる。ALCのような結晶質珪酸カルシウム水和物は非晶質の珪酸カルシウム水和物よりもリンに対する吸着性が低いので、本発明の脱リン脱色消毒剤に比べて脱リン効果が大幅に低く、脱色効果も低い。
【0022】
本発明の脱リン脱色消毒剤は非晶質珪酸カルシウム水和物と共にCa(OH)2を含む。Ca(OH)2を含まない非晶質珪酸カルシウム水和物は本発明の脱リン脱色消毒剤とほぼ同様の脱リン効果を示すが、脱色効果は大幅に劣る。Ca(OH)2の含有量は2.5〜80wt%が好ましい。
【0023】
〔処理方法〕
本発明の処理方法は、上記CSH凝集体からなる脱リン脱色消毒剤を、有機汚水を生物処理(活性汚泥処理など)した後の排水に投入して、該排水に含まれるリンおよび着色原因成分を取り込んだ沈殿を生成させ、該沈殿を固液分離することによってリンを除去すると同時に該汚水を脱色、消毒する排水の処理方法である。
【0024】
また、本発明の処理方法は、上記CSH凝集体からなる脱リン脱色消毒剤を、有機汚水由来の排水に添加し、生成した沈殿物を他の汚水処理工程から発生する汚泥と混合することによって汚泥の沈降濃縮を促進する有機汚水の処理方法にも適用される。
【0025】
上記CSH凝集体からなる本発明の脱リン脱色消毒剤について、リン除去のみを目的とする場合は該排水のpHが8以上になる量を添加して沈殿を生成させることによって、該排水に含まれるリンを沈殿に取り込ませて排水からリンを除去する。また、pHが11以上になる量を添加すれば脱リンと脱色と消毒を同時に行うことができる。生成した沈殿物は静置して固液分離し、系外に除去すればよい。
【0026】
〔処理装置〕
本発明の処理方法に基づく有機汚水の処理装置を図2に示す。図示する処理装置は、第一沈殿槽10、曝気槽11、第二沈殿槽12、脱リン脱色消毒剤の添加槽13、処理槽14、中和槽15を有しており、第二沈殿槽12には濃縮槽16が接続している。
【0027】
第一沈殿槽10には有機汚水が導入され、固形分が沈殿分離される。第一沈殿槽10の液分は曝気槽11に導入される。曝気槽11は活性汚泥処理を行う処理槽であり、槽底から吹き込まれる空気によって槽内を曝気し、好気条件下で活性汚泥処理を行い、有機汚水のCOD(化学的酸素要求量)およびBOD(生物化学的酸素要求量)を低下させる。曝気槽11を経た活性汚泥混合液は第二沈殿槽12に導入され、生成した沈殿(汚泥)を系外に除去し、一部は曝気槽11に返送して活性汚泥処理に利用する。第二沈殿槽12から抜き出された汚泥は濃縮槽16に送られる。
【0028】
第二沈殿槽12から流出した排水は添加槽13に送られ、ここで本発明の脱リン脱色消毒剤が添加される。脱リン脱色消毒剤を添加して攪拌された液は処理槽14に送られる。処理槽14は沈殿槽を兼ねており、脱リン脱色消毒剤によってリンおよび着色原因成分を取り込んだ沈殿物が生成し、また大腸菌群の低減が起きる。沈殿物は固液分離して系外に抜き出され、濃縮槽16に送られる。
【0029】
処理槽14から抜き出された液分は、例えば、リン濃度(PO4-P)が検出限界以下、色度が100以下に低減され、また大腸菌群が低減する。液分は、脱リン脱色消毒剤の添加によってpH8以上のアルカリ性になっているので、pHの排水基準の上限値(海域に排出されるもので9.0、海域以外で8.6)を超える場合には、中和槽15に送り、塩酸等の添加または炭酸ガスの導入によって排水基準に適するようにpH調整した後に系外に排出される。
【0030】
処理槽14から抜き出されたCSH凝集体沈殿物は濃縮槽16に送られる。濃縮槽16において、沈殿物に含まれる本発明の脱リン脱色消毒剤は汚泥の濃縮を促進する効果を発揮する。この汚泥にはリン、カルシウム、シリカが多く含まれているので、これを堆肥化施設に送って肥料成分として有効に利用することができる。例えば、濃縮された汚泥は脱水処理され、堆肥化施設において必要に応じて他の固形有機物が添加されて肥料になる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。なお、各例において、pH測定は市販のpH測定器(HORIBA, TWINpH)を用いた。また、吸光度は試料液を0.45μmメンブレンフィルター(MILLIPORE, IC Millex-LH)で濾過した後、紫外可視分光光度計(SHIMADZU, UV mini 1240)を用いて測定波長390nmで測定した。リン濃度(PO4-P)はイオンクロマトグラフィー(TOSOH, IC-2010, TSKgel Super IC-Anion HS)を用いて測定した。
【0032】
〔実施例1〕
本発明の脱リン脱色消毒剤について、合成して得たCSH凝集体のXRDチャートの一例を図1に示す。図中、試料No.1はシリカ溶解液に添加した消石灰の量がCa/Si配合モル比1.0の場合、試料No.2はCa/Si配合モル比1.2の場合である。図示するように、CSH凝集体には非晶質の珪酸カルシウム水和物とCa(OH)2が含まれている。
【0033】
〔実施例2〕
本発明の脱リン脱色消毒剤として、合成して得たCSH凝集体〔Ca(OH)2含有量29.8wt%、Ca/Siモル比3.44〕を用い、比較試料として結晶質珪酸カルシウム水和物粉末(市販のALC粉末)を用いた。畜舎汚水を活性汚泥処理した後の排水200mLを入れたビーカに表1の濃度になるように脱リン脱色消毒剤を添加し、150rpmで5分間攪拌した後に40rpmで10分間攪拌した。攪拌後、20分間静置し、上澄み液を採取して吸光度およびリン濃度(PO4-P)を測定した。測定結果を表1に示した。また添加量による吸光度の変化を図3に示し、リン濃度の変化を図4に示した。
【0034】
図3に示すように、本発明の脱リン脱色消毒剤は添加量が10g/Lを上回ると排水の吸光度が急激に低下し、吸光度0.1以下(脱色率71%以上)になる。また、図4に示すように、本発明の脱リン脱色消毒剤は少量で汚水のリン濃度が急激に低下し、添加量5g/Lでほぼ全量のリンが除去され、添加量10g/L以上ではリン濃度(PO4-P)は検出限界以下に低下する。
【0035】
一方、比較試料のALC粉末は、添加量20g/Lでも排水の吸光度は0.27(脱色率22%)であり、本発明に比べて脱色効果は大幅に低い。また、排水のリン濃度(PO4-P)は添加量20g/Lで約57mg/Lであり、本発明に比べて脱リン効果も大幅に低い。
【0036】
なお、本発明の脱リン脱色消毒剤は遊離石灰を含むので、表1に示すように、添加量に応じて排水のpHが急激に高くなり、表1の試験に用いた排水では、添加量10g/L以上で約pH12以上の強アルカリ性になる。一方、比較試料のALCは添加量が増えても排水のpHは殆ど変化しない。このように、本発明の脱リン脱色消毒剤によって排水は強アルカリ性になるので高い消毒効果を得ることができる。
【0037】
【表1】

【0038】
〔実施例3〕
本発明の脱リン脱色消毒剤として、合成して得たCSH凝集体〔Ca(OH)2含有量29.8wt%、Ca/Siモル比3.44〕を用い、比較試料として消石灰を含まない非晶質珪酸カルシウム水和物粉末〔CSHゲル〕を用いた。畜舎汚水を活性汚泥処理した後の排水200mLを入れたビーカに10g/L、20g/Lになるように脱リン脱色消毒剤および比較試料をそれぞれ添加し、150rpmで5分間攪拌した後に40rpmで10分間攪拌した。攪拌後、20分間静置し、上澄み液を採取して吸光度を測定した。また添加量による吸光度の変化を図5に示した。
【0039】
図5に示すように、本発明の脱リン脱色消毒剤を添加すると、添加量10g/Lで排水の吸光度は0.1に低下し、添加量20g/Lで吸光度は0.07に低下する(脱色率80%)。一方、比較試料のCSHゲルは、図5に示すように、CSHゲルの添加量20g/Lでも吸光度は0.27と高く(脱色率22%)、本発明に比べて脱色効果は大幅に低い。
【0040】
〔実施例4〕
畜舎汚水を活性汚泥処理した後の排水200mLに本発明の脱リン脱色消毒剤を添加して約1時間反応させた後に上澄み液を採取して中和処理した処理水について、規格(JIS K 0120)に準じて大腸菌群を計数した。大腸菌群数の異なる2種の排水について、この処理結果を表2に示した。表2に示すように、本発明の脱リン脱色消毒剤の添加量に応じて大腸菌群が減少し、特にpH10.4以上では減少が顕著であり、本発明の脱リン脱色消毒剤による消毒効果が確認された。
【0041】
【表2】

【0042】
〔実施例5〕
畜舎汚水処理施設(活性汚泥法)の曝気槽から採取した活性汚泥混合液1Lに本発明の脱リン脱色消毒剤(CSH凝集体)を徐々に添加して攪拌した後に、さらに300rpmで5分間攪拌した。この活性汚泥混合液を容量1Lのメスシリンダーに移して静置し沈降濃縮を行い、0.5時間経過後、4時間経過後、5時間経過後、24時間経過後の濃縮汚泥層容量を測定した。この結果を表3に示した。
【0043】
表3に示すように、無添加の試料では0.5時間経過〜5時間経過したときの濃縮汚泥層容量は990〜880mLであるが、本発明の脱リン脱色消毒剤を10g/L添加した試料では0.5時間経過〜5時間経過したときは950〜540mLであった。また、本発明の脱リン脱色消毒剤を20g/L添加した試料では0.5時間経過〜5時間経過したときの濃縮汚泥層容量は630〜320mLであり、何れも短時間に汚泥が沈殿しており沈降性に優れている。この結果より、汚水処理施設から発生する汚泥の沈降濃縮時間を短縮でき、濃縮槽容量を低減することができる。
【0044】
【表3】

【符号の説明】
【0045】
10−第一沈殿槽、11−曝気槽、12−第二沈殿槽、13−添加槽、14−処理槽、15−中和槽、16−濃縮槽。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
消石灰を含む非晶質珪酸カルシウム水和物の凝集体からなり、有機汚水由来の排水に投入され、該排水に含まれるリンの除去、脱色、消毒、汚泥濃縮の促進に用いられることを特徴とする排水の脱リン脱色消毒剤。
【請求項2】
シリカ溶解液に消石灰を加えて合成した非晶質珪酸カルシウム水和物とCa(OH)2の凝集体からなる請求項1に記載する排水の脱リン脱色消毒剤。
【請求項3】
消石灰を含む非晶質珪酸カルシウム水和物の凝集体を、有機汚水を生物処理した後の排水に投入して該排水に含まれるリンおよび着色原因成分を取り込んだ沈殿を生成させ、該沈殿を固液分離することによってリンを除去すると同時に該汚水を脱色、消毒することを特徴とする排水の処理方法。
【請求項4】
シリカ溶解液に消石灰を加えて合成した非晶質珪酸カルシウム水和物とCa(OH)2の凝集体を用いる請求項3に記載する排水の処理方法。
【請求項5】
消石灰を含む非晶質珪酸カルシウム水和物の凝集体を、脱リンのみのときには該排水のpH8以上になるように添加し、脱リン、脱色、消毒の同時処理のときにはpH11以上になるように添加する請求項3または請求項4に記載する排水の処理方法。
【請求項6】
消石灰を含む非晶質珪酸カルシウム水和物の凝集体を排水に添加し、生成した沈殿物を他の汚水処理工程から発生する汚泥と混合することによって汚泥の沈降濃縮を促進する請求項3〜請求項5の何れかに記載する有機汚水の処理方法。
【請求項7】
第一沈殿槽、曝気槽、第二沈殿槽、添加槽、処理槽、中和槽、および濃縮槽を備えており、第一沈殿槽には有機汚水が導入されて固形分が沈殿分離され、第一沈殿槽の液分は曝気槽に導入されて活性汚泥処理が行われ、曝気槽を経た活性汚泥混合液は第二沈殿槽に導入されて沈殿した汚泥が系外に除去されると共に汚泥の一部は曝気槽に返送され、残りの汚泥は濃縮槽に送られ、第二沈殿槽を経た液分は添加槽に送られて脱リン脱色消毒剤が添加された後に処理槽に送られ、処理槽においてリンおよび着色成分を取り込んだCSH凝集体沈殿物は系外に抜き出されて濃縮槽に送られ、CSH凝集体沈殿物によって濃縮槽で汚泥の沈降濃縮が促進され、濃縮された汚泥が回収され、処理槽を経た液分は中和槽において中和された後に系外に排出されることを特徴とする有機汚水処理装置。
【請求項8】
濃縮槽から抜き出された濃縮汚泥を肥料成分として利用する請求項7に記載する有機汚水の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−86107(P2012−86107A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232433(P2010−232433)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(592012384)小野田化学工業株式会社 (20)
【Fターム(参考)】