説明

排水中の最終残存有機物処理方法

【課題】排水中に最終的な残物として残存するナノレベルの有機系微小固体物質を効果的に除去する方法を提供する。
【解決手段】有機物系微小固体物質を含むCODが1000mg/L以上の排水に対して、前記排水中で、気体が内在した直径が10〜50μmのマイクロバブルを発生させる工程と、物理的刺激を与えて前記排水中の前記マイクロバブルの一部を圧壊させ、直径が50〜500nmのナノバブルを発生させる工程と、前記ナノバブルを含む前記排水を、流速0.1〜10cm/分で活性炭槽に通過させる工程と、前記活性炭槽を逆洗する工程とを具備する排水中の最終残存有機物処理方法であって、前記活性炭槽が、前記ナノバブルと、前記有機物系微小固体物質との化学反応の場となり、前記微小固体物質が処理され、前記排水中のCODが原水の1/5以下になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロバブルの圧壊及び活性炭を使用した排水中の最終残存有機物処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
産業排水、農業排水及び生活排水等における、排水処理の目的の1つは、排水中の微生物類やフェノールなどの有害物質から成る有機物成分を低減させることである。
【0003】
上記目的において、例えば特許第4378543号公報(特許文献1)に開示されているようなマイクロバブル(直径が50μm以下の気泡のことを言う。)の圧壊(消滅)技術が非常に有効である。特許文献1に記載の方法によれば、マイクロバブル圧壊時に発生する大量のフリーラジカルが有機物を酸化分解し、また、前記圧壊過程において、溶解有機物が金属イオンなどを結びつくことで固体として析出する。これらを凝集沈殿などにより分離することで、排水中の有機物成分が効率的に低減される。また、球体としての形状の維持やイオン濃度の高まり方によっては、ナノバブル(直径がナノメートルオーダーの気泡)として残存性をもたらす(例えば、本件明細書で「特許文献2」として記載する特許第4144669号公報を参照のこと)。一方、溶解有機物濃度の高まり自体は基本的には意味のある現象につながるものではない。ところが同時に高まったイオン濃度と消滅時に発生するフリーラジカルの影響下においては、この溶解有機物が関与して様々な化学反応が生じる。その結果として溶解有機物が固体、すなわち有機物系微小固体物質として析出することが起こり得る。この現象は排水処理として有効な手段をもたらし得るが、状況によっては処理を非常に困難なものにする。すなわち生成後の静電気的な表面条件などによっては、凝集剤などを併用することにより、これらを沈殿や泡沫により排水から分離除去が可能である。
【0004】
ところが生成した有機物系微小固体物質は、その物質(粒子)の形状によっては、直径がナノメートルオーダーとあまりにも小さく、なおかつ粒子同士に静電的な反発力が強く働く場合には浮遊微粒子として処理水中に残存してしまう。これらは微小な有機物の塊であり、場合によってはその内部に気体を伴うこともあり得る。その気体の特徴としてはマイクロバブルの圧壊過程で生じたものであるため、これ自体を特許文献1に記載されているマイクロバブルの圧壊方法を用いて、分解処理しようとしてもその効率は極めて悪い。また溶解有機物ではないが、十分に小さな物体であるため液体とともに挙動してBOD(生物化学的酸素要求量)やCOD(化学的酸素要求量)などの有機成分として測定され得る。
【0005】
このことが原因のひとつとなって、排水をマイクロバブルの圧壊処理した場合に、処理が進むほど、すなわち排水自体が清浄化するほど、最終的に残存した有機物系微小固体物質の低減が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4378543号公報
【特許文献2】特許第4144669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
マイクロバブルの圧壊は有機系排水の処理技術として非常に優れたものであるが、処理の結果としてナノレベル(粒径がナノメートルオーダー)の有機物系微小固体物質を発生させる。これが最終的な残物として処理水中に残存するため初期値に対してCODとして数%程度が残存してしまう。
【0008】
本発明は上述したような実情に鑑みてなされたものであり、排水中に最終的な残物として残存するナノレベルの有機物系微小固体物質を効果的に除去する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、有機物系微小固体物質を含むCODが1000mg/L以上の排水に対して、前記排水中で、気体が内在した直径が10〜50μmのマイクロバブルを発生させる工程と、物理的刺激を与えて前記排水中の前記マイクロバブルの一部を圧壊させ、直径が50〜500nmのナノバブルを発生させる工程と、前記ナノバブルを含む前記排水を、流速0.1〜10cm/分で活性炭槽に通過させる工程と、前記活性炭槽を逆洗する工程とを具備する排水中の最終残存有機物処理方法であって、前記活性炭槽が、前記ナノバブルと、前記有機物系微小固体物質との化学反応の場となり、前記微小固体物質が処理され、前記排水中のCODが原水の1/5以下になることにより、効果的に達成される。
【0010】
また、本発明は、前記気体がオゾンであることにより、或いは前記物理的刺激が、循環量10〜100L/分で前記マイクロバブルを含む排水を循環させながら、前記マイクロバブルを含む排水をパンチング板に通すことであることにより、或いは前記物理的刺激が、発振周波数が20〜1000kHzの超音波を照射することであるにより、或いは前記物理的刺激が、電圧が2000〜3000Vの放電を使用することであるにより、或いは前記ナノバブルは、半減期が10分以上であることにより、或いは前記活性炭槽は、粒径が1〜3mmの粒状活性炭を、10〜30cmの厚さの層となるように容器に充填したものであることにより、或いは前記活性炭が、触媒として使用されるにより、より効果的に達成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によれば、ナノバブルを排水に作用させ、活性炭を化学反応の場、即ち触媒として利用することにより、排水中の残存有機物(ナノレベル)を分解除去することが可能となった。また、CODが1/5程度に減少した。
【0012】
また、本発明の方法は、ありとあらゆる種類の有機物に対して有効である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る排水中の最終残存有機物処理方法にて使用する有機物処理装置の概略図である。
【図2】本発明に係る排水中の最終残存有機物処理方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る排水中の最終残存有機物処理方法の実施形態を説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
先ず、本発明に係る排水中の最終残存有機物処理方法にて使用する有機物処理装置の概要を説明する。
【0016】
図1は、前記有機物処理装置の概略図である。図1に示すように、有機物処理装置1は、処理槽2内部にマイクロバブル発生装置3が設置され、処理槽2の側面に、循環ポンプ4及びパンチング板(多孔板)5が備え付けられている循環パイプ6と、もう一方の側面に、循環ポンプ7及び活性炭槽8が備え付けられている循環パイプ9が設置されて成る。
【0017】
ここで、マイクロバブル発生装置3のタイプは限定されないが、シャフトタイプのものが望ましい。ちなみにマイクロバブル発生装置3の設置台数は特に限定はない。
【0018】
また、図1では処理槽2の側面に、循環ポンプ4及びパンチング板5が備え付けられている循環パイプ6が設置されているが、これらは無くても構わない(理由は後述)。
【0019】
また、活性炭槽8については、容器に粒径が1〜3cm程度の粒状活性炭を、層の厚さが10〜30cmとなるように充填すれば良いが、容器の形状については、活性炭層の厚さを確保できれば良いので特に限りではない。
【0020】
次に、本発明に係る排水中の有機物の処理方法を図1の有機物処理装置及び図2のフローチャートを基に説明する。
【0021】
先ず、処理槽2に処理する原水(排水)を導入し、その後、マイクロバブル発生装置3にてマイクロバブルを発生させる(ステップS1)。また、該マイクロバブル内部に介在させる気体、即ちマイクロバブル発生装置3に吸入させる気体は、オゾンが好ましいが、酸素、窒素、希ガス類及び空気等といった気体でも構わない。
【0022】
次に、循環ポンプ4を使用して、マイクロバブルを含んだ原水(以下、マイクロバブル含有原水と記す。)を循環パイプ7内に循環させ(循環経路は、図1に示す矢印A,Bを参照)、前記マイクロバブル含有原水を処理槽2に戻す手前でパンチング板5に通過させる(ステップS2)。マイクロバブル含有原水を循環パイプ6内にて循環させる際の循環量は、10〜100L/分が望ましい。また、循環ポンプ6の押し出し圧力は0.1〜0.3MPaが望ましい。ちなみに前記循環量及び前記押し出し圧力について、これらの範囲以下であると、圧壊が十分にされず、範囲以上であっても効率はさほど上がらない。
【0023】
ここで、上記有機物処理装置には循環ポンプ4及びパンチング板5が備え付けられている循環パイプ6が設置されなくても良いと上述したが、そもそも、パンチング板5に通過させる理由は、マイクロバブルを圧壊させるための物理的刺激として使用するためのものであり、この物理的刺激は、超音波照射、放電でも可能である。なお、超音波照射を物理的刺激として使用する場合は、発振周波数が20〜1000k(1M)Hzのものが使用可能であり、放電を使用する場合は2000〜3000Vのものが使用可能である。これらマイクロバブルを圧壊させることによって、マイクロバブルの一部がnmオーダーの粒径を有する気泡(ナノバブル)となる。ちなみに、本発明の方法で用いるナノバブルの直径は50〜500nm(中心平均粒径分布が約150nm)また、ナノバブル内部に内在する気体は、マイクロバブル内部に内在する気体と同一である。
【0024】
次に、マイクロバブルの一部がナノバブルとなった排水を循環ポンプ7及び活性炭槽8が備え付けられている循環パイプ9内で循環させる(ステップS3。なお循環経路は、図1に示す矢印C,Dを参照)。ちなみに循環パイプ9内にて循環させる際の循環量は、10〜100L/分が望ましい。また、循環ポンプ9の押し出し圧力は0.1〜0.3MPaが望ましい。
【0025】
また、活性炭槽8については前述のように容器に粒径が1〜3mmの粒状活性炭を10cmから30cm程度の厚さで満たし、前記排水を流速0.1〜10cm/分の速度で通過させる。通常の排水中には有機物の他に、ミネラル類などの電解質イオン類が含まれている。例えばオゾンを利用した場合、排水処理工程の後半部において半減期として数十分程度以上の持続時間を持ってオゾン気泡が残存する。この様なオゾン気泡を存在させた条件で活性炭槽8のような活性炭層に通過させるとオゾンに対しての活性炭の触媒作用と流動に伴う圧変動が加味されてオゾン気泡を強力に分解する。特に活性炭表面では多くの微細孔があり、そこに順次にトラップされながら分解されるが、この現場には同時に有機物微粒子もトラップされる。その結果、オゾン分解に伴って発生する水酸基ラジカルが近傍の有機物に直接的に作用する状況が形成される。水酸基ラジカルは水中においてもっとも酸化能力の高い物質のひとつであり、ほぼ全ての有機物を分解することが可能である。これにより極めて効率的に微粒子状の有機物を酸化分解していく。この作用により処理水中の有機物濃度を急速に低減することが可能である。なお、活性炭は吸着剤としての作用があり、溶解有機物や微粒子状有機物を一時的にトラップする作用を持っている。しかし、このメカニズムでは有機物は分解されないため、時間が経過すると活性炭の微細孔が塞がっていき、ついには有機物を保持できなくなる。すなわち破過という現象が起こる。一方、本発明では活性炭表面を化学反応の場(触媒)として利用しているものであり、有機物は分解除去されるため、吸着現象で認められるような活性炭の破過は生じない。
【0026】
次に、活性炭槽8を水で逆洗する(ステップS4)。
【0027】
以下、ステップS1からステップS4の工程を、20〜30日(処理時間は、一日あたり6〜8時間程度)継続(繰り返す)ことにより、排水のCOD(化学的酸素要求量)が1000mg/L以上のであるのが、200mg/L以下になる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明に係る排水中の最終残存有機物処理方法について実施例を説明する。なお、本実施例にて使用した有機物処理装置については、図1及び上記実施形態を参照されたい。
【0029】
[実施例1]
COD(化学的酸素要求量)が約5,000mg/Lである原水(排水)を本実施例1で利用した。処理槽は約500Lの容積を持っており、処理槽内部にシャフト型マイクロバブル発生装置(50Wタイプ)を設置されている。該発生装置は、毎分約2Lのオゾンガスを吸引し、オゾン濃度が約35g/mである。
【0030】
処理槽には2つの付帯設備がある。1つは槽内の水に含まれるマイクロバブルに刺激を与えてこれを圧壊するとともにその一部をナノバブル化する装置である。これは循環ポンプ、パンチング板及び循環パイプより形成される。槽内の水をポンプにより吸引しており、槽に戻す前にパンチング版を通過させた。ポンプの循環量は約30L/分であり、押し出し側の圧力は約0.1MPaであった。もう一つの付帯設備は活性炭槽、循環ポンプ及び循環パイプから形成される。ポンプの循環量は約10L/分である。活性炭槽は直径約10cmの円筒であり、粒径が約3mmの粒状活性炭を約20cmの層厚で充填している。
【0031】
本実施例では、原水の供給量を約0.1m/時として1日8時間の連続運転処理を30日間継続した。また、活性炭槽の逆洗を水道水により1日に1度の割合で3分間実施した。その結果、処理排水中のCODは約200mg/Lであった。なお、この値は試験開始時から30日目経過した段階であってもほぼ同じであった。
【0032】
[実施例2]
実施例1と同じ条件ながらオゾンガスの変わりに同量の窒素を入れて試験したところ処理水中のCODは約1000mg/Lであった。
【0033】
[比較例1]
実施例1と同じ原水および設備を利用して比較試験を行った。ただし、活性炭の循環ポンプを休止させて、マイクロバブルの発生装置とパンチング板の循環ポンプのみを作動させた。試験では原水を約0.1m/時で連続的に供給しながら8時間実施した。8時間経過時の処理水のCODは約3,500mg/Lであった。
【0034】
[比較例2]
実施例1と同じ原水および設備を利用して比較試験を行った。ただし、マイクロバブルの発生装置とパンチング板の循環ポンプを休止させて、活性炭の循環ポンプのみを作動させた。試験では原水を約0.1m/時で連続的に供給しながら8時間実施した。8時間経過時の処理水のCODは約4,500mg/Lであった。また、一度逆洗を実施した上で、次の日に同様の試験を実施したところ8時間経過後の処理水のCODは原水とほとんど変わらなかった。
【符号の説明】
【0035】
1 有機物処理装置
2 処理槽
3 マイクロバブル発生装置
4、7 循環ポンプ
5 パンチング板
6、9 循環パイプ
8 活性炭槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物系微小固体物質を含むCODが1000mg/L以上の排水に対して、前記排水中で、気体が内在した直径が10〜50μmのマイクロバブルを発生させる工程と、物理的刺激を与えて前記排水中の前記マイクロバブルの一部を圧壊させ、直径が50〜500nmのナノバブルを発生させる工程と、前記ナノバブルを含む前記排水を、流速0.1〜10cm/分で活性炭槽に通過させる工程と、前記活性炭槽を逆洗する工程とを具備する排水中の最終残存有機物処理方法であって、前記活性炭槽が、前記ナノバブルと、前記有機物系微小固体物質との化学反応の場となり、前記微小固体物質が処理され、前記排水中のCODが原水の1/5以下になることを特徴とする排水中の最終残存有機物処理方法。
【請求項2】
前記気体がオゾンである請求項1に記載の排水中の最終残存有機物処理方法。
【請求項3】
前記物理的刺激が、循環量10〜100L/分で前記マイクロバブルを含む排水を循環させながら、前記マイクロバブルを含む排水をパンチング板に通すことである請求項1又は2に記載の排水中の最終残存有機物処理方法。
【請求項4】
前記物理的刺激が、発振周波数が20〜1000kHzの超音波を照射することである請求項1又は2に記載の排水中の最終残存有機物処理方法。
【請求項5】
前記物理的刺激が、電圧が2000〜3000Vの放電を使用することである請求項1又は2に記載の排水中の最終残存有機物処理方法。
【請求項6】
前記ナノバブルは、半減期が10分以上である請求項1乃至5のいずれか1項に記載の排水中の最終残存有機物処理方法。
【請求項7】
前記活性炭槽は、粒径が1〜3mmの粒状活性炭を、10〜30cmの厚さの層となるように容器に充填したものである請求項1乃至6のいずれか1項に記載の排水中の最終残存有機物処理方法。
【請求項8】
前記活性炭が、触媒として使用される請求項7に記載の排水中の最終残存有機物処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−106213(P2012−106213A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258701(P2010−258701)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(503357735)株式会社REO研究所 (21)
【出願人】(505194697)ナーガインターナショナル株式会社 (5)
【出願人】(591253032)昭和薬品工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】