説明

排水中の特定化学物質又は特定排水の濃度測定方法及び検知方法並びに装置

【課題】簡便で、迅速に適用できる排水中の特定化学物質又は特定排水の濃度測定方法及び検知方法並びに装置を提供する。
【解決手段】本発明は、所定の励起波長全域における蛍光及び所定の励起波長全域における吸光度を測定することで、所定のデータベースを作成するデータベース化工程と、原水を連続的にサンプリングして得られた液体試料を、原水性状に応じて適切な希釈倍率を算出する希釈倍率設定工程と、原水に希釈用水を混合することで希釈済原水を得る希釈工程と、希釈済原水中の蛍光スペクトル強度及び吸光度を測定する測定工程と、所定の相関関係を用いて、測定工程での測定結果から、希釈済原水中における特定化学物質等の溶解性化学的酸素要求量、成分濃度又は混入濃度を推定し、さらに、希釈倍率を用いて原水中における特定化学物質等の混入を検知すると共に混入濃度を算出する濃度計算工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定化学物質又は特定排水に特有の蛍光及び/又は紫外・可視吸光を用いて、工場排水や循環水等の排水に含まれる特定化学物質又は特定排水を検知する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
産業上において多くの化学成分(界面活性剤、切削油等)が使用されるが、この化学成分の一部は工場排水系に混合され、処理されている。しかし、設備トラブル等により排水系への混合割合が大幅に増加し、その結果COD(化学的酸素要求量)が増加するため、処理が追いつかず排水基準値の超過や環境汚染を引き起こすリスクを有している。そのため、上記の排水系への化学成分の濃度の増加を迅速に検知する必要がある。
【0003】
化学成分の濃度の増加を検知する方法としては、非特許文献1や非特許文献2に記載されたCOD、TOC(全有機炭素)、色度等の試験分析法があり、COD自動分析装置やTOC自動分析装置が上市されている。
【0004】
その他、光学的な計測法である蛍光光度法や紫外・可視吸光光度法を用いた測定法がある。これらは、特定化学物質又は特定排水に励起光を当てることにより、前者は特有の蛍光を発する現象を応用したもの、後者は特有の励起波長で光の吸収が起こる現象を応用した方法である。紫外・可視吸光光度法は工場排水等に適用されており、蛍光光度法は検出の感度が高く、主に河川水・湖沼のようなCOD濃度が比較的低濃度の液体試料を対象に研究が進められている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】工業用水試験方法 JIS−K0101
【非特許文献2】工場排水試験方法 JIS−K0102
【非特許文献3】小松一弘、今井章雄、松重一夫、奈良郁子、川崎伸之、三次元励起蛍光スペクトル法による湖水及び流域水中DOMの特性評価、水環境学会誌、Vol.31、No.5,2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
既存の検知装置は、以下のような課題を有している。
まず、COD自動分析装置は、1時間毎しか連続測定できないためリアルタイムな濃度の増加の検知が困難であり、また、薬品を使用するためによる廃液処分の問題やランニングコストが高い課題がある。TOC自動分析装置は、5〜10分間隔でしか連続測定できないため濃度の増加の検知に時間遅れが生じる。
【0007】
次に、光学的な計測法である蛍光光度法や紫外・可視吸光光度法を用いた測定法は、蛍光光度法では検出の感度は高いが、高濃度域で蛍光が消光(濃度消光)したり、紫外・可視吸光光度法では吸光度が検出上限を超過したりするため、高濃度域での検知、及び、濃度推定ができない課題がある。さらに、これらの光学的な計測法では浮遊性固形物(SS:Suspended Solid)の影響を強く受ける。即ち、河川水・湖沼とは異なり、工場排水のように化学成分を高濃度に含む排水においては、SSを高濃度に含む場合が多く、含まれるSSにより光遮断・吸収等されることや、SS自体から蛍光が発せられるおそれがあり、検知の精度に影響を与えるという課題がある。また、排水におけるpHの影響、バックグラウンドの影響、共存塩(鉄成分等)の影響により蛍光が消光するという課題がある。また、紫外・可視吸光光度法ではSSが検出部に汚れとして付着し、測定自体が困難になるという課題がある。
【0008】
以上のことから、化学成分を含む排水に対して光学的な計測法である蛍光光度法や紫外・可視吸光光度法の適用は困難であった。
【0009】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題点を解決して、簡便で、迅速に適用できる排水中の特定化学物質又は特定排水の濃度測定方法及び検知方法並びに装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、特定化学物質又は特定排水を含む排水を、原水性状に応じて算出した適切な希釈倍率で希釈することで、蛍光光度法や紫外・可視吸光光度法を用いてより効果的に特定化学物質又は特定排水の濃度測定及び検知する方法並びに装置を提供するに至った。
【0011】
本発明の要旨とするところは、次の(1)〜(16)である。
(1) 特定化学物質又は特定排水に特有の蛍光又は紫外・可視吸光を用いて、原水中に混入している前記特定化学物質又は特定排水の濃度測定及び検知する方法であって、
蛍光においては200〜800nmの励起波長全域における前記特定化学物質又は特定排水の蛍光を測定し、前記特定化学物質又は特定排水の蛍光スペクトル強度のピーク位置における励起波長と蛍光波長を記録したデータベースを作成し、紫外・可視吸光においては200〜800nmの励起波長全域における前記特定化学物質又は特定排水の吸光度を測定し、前記特定化学物質又は特定排水のピーク位置における吸光度を記録したデータベースを作成するデータベース化工程と
前記原水を連続的にサンプリングして得られた液体試料を、原水性状に応じて適切な希釈倍率を算出する希釈倍率設定工程と、該原水に対して、蛍光においては前記ピーク位置の励起波長における蛍光スペクトル強度と、紫外・可視吸光においては前記ピーク位置の励起波長における吸光度と、前記原水中の溶解性化学的酸素要求量、成分濃度、又は混入濃度との相関関係を予め求めておき、
前記原水に希釈用水を混合することで希釈済原水を得る希釈工程と、
前記希釈済原水中の蛍光においては前記ピーク位置の励起波長における蛍光スペクトル強度を、紫外・可視吸光においては前記ピーク位置の励起波長における吸光度を測定する測定工程と、
前記相関関係を用いて、前記測定工程での測定結果から、前記希釈済原水中における前記特定化学物質又は前記特定排水の溶解性化学的酸素要求量、成分濃度、又は混入濃度を推定し、さらに、前記希釈倍率を用いて前記原水中における前記特定化学物質又は特定排水の混入を検知すると共に混入濃度を算出する濃度計算工程、
を備えることを特徴とする、排水中の特定化学物質又は特定排水の濃度測定方法。
(2) 前記希釈済原水中における前記特定化学物質又は前記特定排水の溶解性化学的酸素要求量を推定する方法において、予め溶解性化学的酸素要求量と全化学的酸素要求量との相関関係を求めておくことで、推定して得られた溶解性化学的酸素要求量から全化学的酸素要求量を推定することを特徴とする、(1)に記載の排水中の特定化学物質又は特定排水の濃度測定方法。
(3) 前記原水を連続的にサンプリングして得られた液体試料を、原水性状に応じて算出した適切な希釈倍率に希釈する方法において、希釈工程を備えることで、蛍光分析又は紫外・可視吸光分析における濃度消光や検出上限超過の影響、固形物の影響、液体試料のpHの影響、バックグラウンドの影響、共存塩の影響、並びに排水管における固形物閉塞の内、一つ又は複数の影響を軽減することを特徴とする、(1)又は(2)に記載の排水中の特定化学物質又は特定排水の濃度測定方法。
(4) 前記原水又は希釈済原水に対して、固形物除去処理としてフィルターを設置するSS除去工程を備えることで、蛍光分析又は紫外・可視吸光分析における固形物の影響、液体試料のバックグラウンドの影響の内、一つ又は二つの影響を軽減することを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の排水中の特定化学物質又は特定排水の濃度測定方法。
(5) 前記SS除去工程について、定期的な逆洗浄を行うことでフィルターの閉塞を防ぐことを特徴とする、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の排水中の特定化学物質又は特定排水の濃度測定方法。
(6) 前記特定化学物質が難燃性作動油又は水溶性切削油であり、又は、前記特定排水が難燃性作動油又は水溶性切削油を含むことを特徴とする、(1)〜(5)のいずれか1項に記載の排水中の特定化学物質又は特定排水の濃度測定方法。
(7) 前記原水性状に応じて算出した適切な希釈倍率が、流量データを基に計算した実際の希釈倍率を用いることを特徴とする、(1)〜(6)のいずれか1項に記載の排水中の特定化学物質又は特定排水の濃度測定方法。
(8) 前記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の濃度測定方法を用いて、事前に設定した基準値を超えた場合に警報を出す検知工程と、排水の供給を制限することや、排水の濃度調整を行う対処を行う対処工程、を備えることを特徴とする排水中の特定化学物質又は特定排水の検知方法。
(9) 特定化学物質又は特定排水に特有の蛍光又は紫外・可視吸光を用いて、原水中に混入している前記特定化学物質又は特定排水の濃度測定及び検知する装置であって、
蛍光においては200〜800nmの励起波長全域における前記特定化学物質又は特定排水の蛍光を測定し、前記特定化学物質又は特定排水の蛍光スペクトル強度のピーク位置における励起波長と蛍光波長を記録したデータベースを作成し、紫外・可視吸光においては200〜800nmの励起波長全域における前記特定化学物質又は特定排水の吸光度を測定し、前記特定化学物質又は特定排水のピーク位置における吸光度を記録したデータベースを作成するデータベース化手段と
前記原水を連続的にサンプリングして得られた液体試料を、原水性状に応じて適切な希釈倍率を算出する希釈倍率設定手段と、該原水に対して、蛍光においては前記ピーク位置の励起波長における蛍光スペクトル強度と、紫外・可視吸光においては前記ピーク位置の励起波長における吸光度と、前記原水中の溶解性化学的酸素要求量、成分濃度、又は混入濃度との相関関係を予め求めておき、
前記原水に希釈用水を混合することで希釈済原水を得る希釈手段と、
前記希釈済原水中の蛍光においては前記ピーク位置の励起波長における蛍光スペクトル強度を、紫外・可視吸光においては前記ピーク位置の励起波長における吸光度を測定する測定手段と、
前記相関関係を用いて、前記測定手段での測定結果から、前記希釈済原水中における前記特定化学物質又は前記特定排水の溶解性化学的酸素要求量、成分濃度、又は混入濃度を推定し、さらに、前記希釈倍率を用いて前記原水中における前記特定化学物質又は特定排水の混入を検知すると共に混入濃度を算出する濃度計算手段、
を備えることを特徴とする、排水中の特定化学物質又は特定排水の濃度測定装置。
(10) 前記希釈済原水中における前記特定化学物質又は前記特定排水の溶解性化学的酸素要求量を推定する装置において、予め溶解性化学的酸素要求量と全化学的酸素要求量との相関関係を求めておくことで、推定して得られた溶解性化学的酸素要求量から全化学的酸素要求量を推定することを特徴とする、(9)に記載の排水中の特定化学物質又は特定排水の濃度測定装置。
(11) 前記原水を連続的にサンプリングして得られた液体試料を、原水性状に応じて算出した適切な希釈倍率に希釈する装置において、希釈手段を備えることで、蛍光分析又は紫外・可視吸光分析における濃度消光や検出上限超過の影響、固形物の影響、液体試料のpHの影響、バックグラウンドの影響、共存塩の影響、並びに排水管における固形物閉塞のうち、一つ又は複数の影響を軽減することを特徴とする、(9)又は(10)に記載の排水中の特定化学物質又は特定排水の濃度測定装置。
(12) 前記原水又は希釈済原水に対して、固形物除去処理としてフィルターを設置するSS除去手段を備えることで、蛍光分析又は紫外・可視吸光分析における固形物の影響、液体試料のバックグラウンドの影響の内、一つ又は二つの影響を軽減することを特徴とする、(9)〜(11)のいずれか1項に記載の排水中の特定化学物質又は特定排水の濃度測定装置。
(13) 前記SS除去手段について、定期的な逆洗浄を行うことでフィルターの閉塞を防ぐ手段を有することを特徴とする、(9)〜(12)のいずれか1項に記載の排水中の特定化学物質又は特定排水の濃度測定装置。
(14) 前記特定化学物質が難燃性作動油又は水溶性切削油であり、又は、前記特定排水が難燃性作動油又は水溶性切削油を含むことを特徴とする、(9)〜(13)のいずれか1項に記載の排水中の特定化学物質又は特定排水の濃度測定装置。
(15) 前記原水性状に応じて算出した適切な希釈倍率が、流量データを基に計算した実際の希釈倍率を用いることを特徴とする、(9)〜(14)のいずれか1項に記載の排水中の特定化学物質又は特定排水の濃度測定装置。
(16) 前記(9)〜(15)のいずれか1項に記載の濃度測定装置を用いて、事前に設定した基準値を超えた場合に警報を出す検知手段と、排水の供給の制限及び/又は排水の濃度調整を行う対処を行う対処手段、を備えることを特徴とする排水中の特定化学物質又は特定排水の検知装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、特定化学物質又は特定排水を含む排水を、原水性状に応じて算出した適切な希釈倍率で希釈することで、これまで濃度消光や検出上限超過、pH、バックグラウンド、固形物、共存塩の影響により蛍光光度法及び/又は紫外・可視吸光光度法の適用が不可能であった排水に対して、適用が可能となる。さらに、希釈することで排水中のSS濃度も希釈されるため、SSによる光の遮断・吸収あるいはSS自体から発する蛍光による検知精度への影響を低減することができる。また、排水配管内のSSによる詰まりが発生し難くなる。さらに、フィルター等の前処理を排水系に併設することで、バックグラウンド、固形物の影響を軽減することが可能となり、希釈を併用した固形物処理を行うことで、フィルターの目詰まりが発生し難くなる。さらに、適切な希釈倍率を設定するため、水資源の無駄遣いをしないで精度よく測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】蛍光スペクトル測定の原理図である。
【図2】本発明に係る、特定化学物質又は特定排水の含有排水での検知方法を示す構成図である。
【図3】A成分濃度と蛍光スペクトル強度との相関関係を示す図である。
【図4】A成分濃度と紫外・可視吸光度との相関関係を示す図である。
【図5】A成分濃度と蛍光スペクトル強度との相関関係における近似曲線を示す図である。
【図6】実施例1における含油排水の3次元励起・蛍光スペクトル図である。
【図7】実施例1における含油排水の紫外・可視吸光スペクトル図である。
【図8】実施例1における含油排水の溶解性COD濃度、混入濃度、成分濃度と蛍光スペクトル強度との相関関係及び近似曲線を示す図である。
【図9】実施例1における含油排水の溶解性COD濃度、混入濃度、成分濃度と紫外・可視吸光度との相関関係及び近似曲線を示す図である。
【図10】実施例1における蛍光スペクトル強度と溶解性COD濃度の希釈前後の経時変化を示す図である。
【図11】実施例1における溶解性COD実測値と本発明による溶解性COD濃度計算値との相関関係を示す図である。
【図12】実施例1における希釈によるバックグラウンドの影響の軽減効果を示す図である。
【図13】実施例1における全COD濃度と溶解性COD濃度との相関関係を示す図である。
【図14】実施例1における全COD濃度と本発明による全COD濃度計算値との相関関係を示す図である。
【図15】実施例3におけるろ過の有無による蛍光スペクトル強度の変化を示す図である。
【図16】実施例3におけるフィルターの有無による蛍光スペクトル強度の経時変化を示す図である。
【図17】実施例4における水溶性切削油の3次元励起・蛍光スペクトル図である。
【図18】実施例5における含油排水をpH調整した時の蛍光強度の変化を示す図である。
【図19】実施例5における希釈によるpHの影響の軽減効果を示す図である。
【図20】実施例6における含油排水の固形物濃度を調整した時の蛍光強度の変化を示す図である。
【図21】実施例6における希釈による固形物の影響の軽減効果を示す図である。
【図22】実施例7における含油排水の共存塩濃度を調整した時の蛍光強度の変化を示す図である。
【図23】実施例7における希釈による共存塩の影響の軽減効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0015】
まず、蛍光光度法による蛍光スペクトル測定装置の原理図を図1に示す。
キセノンランプ1を光源として発生した光2(以下、励起光2)は、ビームスプリッタ3によりモニタ側検知器4と測定の対象となる排水等の液体試料が入った試料セル5に分かれる。モニタ側検知器4へ入った励起光2は、比測光として用いられる。一方、液体試料の入った試料セル5に、ある波長の励起光2が照射されると、液体試料に含まれる成分に応じた蛍光6が発生し、それを光電子倍増管7で検知し、蛍光スペクトル強度(測光値)を読み取る。この場合、液体試料中に複数の成分が混在し、同じ励起波長で蛍光を発するとしても、蛍光波長が異なれば、最適な蛍光波長を選択することにより、複数の成分を分離して測定することが可能となる(蛍光スペクトル測定)。
【0016】
励起光2の波長は、汎用の蛍光分光光度計を用いて計測できる波長範囲、即ち200nm〜800nmまで連続的に変更できる。蛍光6の波長も、汎用の蛍光分光光度計を用いて計測できる波長範囲、即ち200nm〜800nmまで連続的に測定する。検知対象の成分が特定されている場合は、励起光及び/又は蛍光の波長の範囲を狭くすることもできる。
【0017】
分析手順は、ろ紙でろ過した後のろ液(液体試料)を試料セルに1〜2mL程度移し、励起光を照射し、表示された測光値を記録する。操作手順は非常に簡易であり、試料セルを測定機器にセットしてから分析結果が出るまで数秒〜数分しかかからない。
【0018】
対象とする特定化学物質又は特定排水の蛍光スペクトルを予め測定し、その特定化学物質又は特定排水に特徴的な励起波長及び蛍光波長及び蛍光スペクトル強度をデータベース化する。さらに、対象とする原水を希釈し、特定化学物質の成分濃度又は特定排水の混入濃度を変えた水溶液(希釈済原水)について励起波長及び蛍光波長における蛍光スペクトル強度を測定し、特定化学物質の成分濃度又は特定排水の混入濃度と励起波長及び蛍光波長における蛍光スペクトル強度との相関関係あるいは検量線を予め作成し、液体試料の前記励起波長及び蛍光波長における蛍光スペクトル強度から、該液体試料中の特定化学物質の成分濃度又は特定排水の混入濃度を推定することができる。
【0019】
なお、特定化学物質とは、排水に混入する化学物質のうち、化合物又は薬剤として特定可能で、蛍光を発する化合物を示す。特定排水とは、排水の系列として特定可能で、蛍光を発する排水を示す。成分濃度とは、液体試料に含まれる特定化学物質の濃度を表し、混入濃度とは、液体試料に含まれる特定排水の濃度を表す。
【0020】
次に、紫外・可視吸光光度法による紫外・可視吸光スペクトル測定について説明する。
液体試料に200nm〜800nm程度の光を当て、その光が液体試料を通過する際の、液体試料中の対象となる成分による光の吸収の程度、即ち吸光度を測定することにより、その成分の濃度を定量的に分析する方法である。
【0021】
分析手順は、ろ紙でろ過した後のろ液(液体試料)を試料セルに1〜2mL程度移し、光を照射し、表示された吸光値を記録する。操作手順は非常に簡易であり、試料セルを測定機器にセットしてから分析結果が出るまで数秒〜数分しかかからない。
【0022】
対象とする特定化学物質又は特定排水の紫外・可視吸光スペクトルを予め測定し、その特定化学物質又は特定排水に特徴的な吸光波長を選定する。さらに、対象とする原水を希釈し、特定化学物質の成分濃度又は特定排水の混入濃度を変えた水溶液(希釈済原水)について前記吸光波長の紫外・可視吸光度を測定し、特定化学物質の成分濃度又は特定排水の混入濃度と紫外・可視吸光度との相関関係あるいは検量線を予め作成し、液体試料の紫外・可視吸光度から、該液体試料中の特定化学物質の成分濃度又は特定排水の混入濃度を推定することができる。
【0023】
管理したい特定化学物質の成分濃度又は特定排水の混入濃度と、紫外・可視吸光度との関係はランベルト・ベールの法則に従うため、低濃度の成分を感度良く検知するためには紫外・可視吸光スペクトル測定時の光路長を長くすることで、また、逆に紫外・可視吸光度の測定上限値を上回るような高濃度の成分を検知するためには、光路長を短くすることで精度良く検出できる。
【0024】
但し、蛍光光度法の蛍光スペクトル強度及び紫外・可視吸光度は、蛍光性成分及び吸光性成分の周囲の性質(液体試料のpH、共存塩、SS等)により影響を受ける可能性があるので、例えば、検知に供する液体試料のpH等を一定範囲に調整する前処理を行うことが望ましい。特に、測定は光学的な原理に基づくことから、液体試料の濁度やSSは、光が遮断・吸収等されることや、SS自体から蛍光が発せられること、蛍光スペクトル強度及び紫外・可視吸光度に影響を与えるため、SS濃度を低減させることが望ましい。さらに、接液型の検出器ではSSが検出部に汚れとして付着し、測定自体が困難になることから、SS濃度を低減させることが望ましい。
【0025】
さらに、蛍光光度法において、液体試料中の成分の濃度が高まると蛍光が弱められるような消光作用(quenching)がある。これは、水中に存在する分子同士の衝突や異種又は同種の励起−未励起分子間の非衝突エネルギー移動により生じると考えられている。この作用のため、蛍光光度法では低濃度の混入を高感度で検知することができるが、高濃度で混入した場合には低濃度の混入であると誤判断し、正しく検知できなくなるおそれがある。
【0026】
また、紫外・可視吸光光度法においては、測定装置の検出上限があり、ある一定以上の濃度になると、吸光度が非常に高くなる(光を透過しなくなる)ため、検出上限超過により測定不可能となる。
【0027】
本発明では、上記のような蛍光光度法及び/又は紫外・可視吸光光度法の原理を応用するにあたり、特定化学物質又は特定排水が濃度消光や検出上限超過により測定ができない問題を解消することや、液体試料中のSS濃度、pH、バックグラウンド及び共存塩の影響を軽減させるため、原水性状に応じて算出した適切な希釈倍率で希釈を行うことに着目した。
【0028】
図2には、本発明に係る、特定化学物質又は特定排水の含有排水での検知方法を示す構成を示す。
原水11には、特定化学物質又は特定排水12が混入している。特定化学物質又は特定排水12については、予め希釈倍率設定工程16では、蛍光光度法及び/又は紫外・可視吸光光度法におけるデータベース化を行う。データベース化工程13を基に希釈倍率設定工程16では、原水性状に応じた適切な希釈倍率を決定する。得られた希釈倍率を基に、希釈工程17では、原水11と希釈用水15を混合し、希釈済原水19を得る。得られた希釈済原水19は、必要に応じて、SS除去工程18で固形物が除去される。SS除去工程を経た希釈済原水19は、測定工程20にて、蛍光光度法及び/又は紫外・可視吸光光度法により測定される。データベース化工程13を基に相関関係14で検量線等が得られ、測定工程20と相関関係14から濃度計算工程21にて原水11のCOD濃度等が計算される。得られたCOD濃度等が予め設定した目標レベルを超えた場合には検知工程23でアラームを出し、対処工程24では、現場にて流路の遮断等の措置を行う。
【0029】
データベース化工程13において、蛍光光度法及び/又は紫外・可視吸光光度法のデータを、特定化学物質又は特定排水12についてデータベース化する。即ち、管理したい特定化学物質又は特定排水12を高濃度に含む液体試料について、予め蛍光スペクトル測定及び/又は紫外・可視吸光スペクトル測定して蛍光特性及び/又は紫外・可視吸光特性を把握し、蛍光光度法においては励起波長、蛍光波長、蛍光スペクトル強度のデータをデータベース化し、紫外・可視吸光光度法においては励起波長、紫外・可視吸光度のデータをデータベース化する。さらに、特定化学物質、又は、特定排水のCOD濃度及び/又はTOCを測定しておくことが望ましい。
【0030】
相関関係14は、前記特定化学物質又は特定排水12における、COD濃度、成分濃度、又は混入濃度を変えた水溶液の蛍光スペクトル及び/又は紫外・可視吸光スペクトルを前記データベース化工程13において予め測定しておき、管理したい前記特定化学物質又は特定排水12における、COD濃度、成分濃度、又は混入濃度と、ピーク位置における蛍光スペクトル強度及び/又は紫外・可視吸光度との相関関係を求めておき、検量線を予め作成して求めておく。検量線を求める際には、pH、固形物の影響を除外するため、pH調整、固形物除去を行うことが望ましい。
【0031】
検量線を用いて、後述の希釈倍率設定工程16では、蛍光光度法の消光作用が起きず、紫外・可視吸光光度法の検出上限を超えずに、蛍光スペクトル強度、紫外・可視吸光度と相関性が見られる濃度域を設定することができる。この濃度域を設定するには広範囲の濃度データを得る必要があるが、実サンプルの濃度変動が小さい場合は、実サンプルを任意に希釈して低濃度域の相関関係を得ることができる。
【0032】
例えば、図3には排水に含まれる化学物質Aの成分濃度と蛍光スペクトル強度との相関を示すが、成分濃度10mg/Lまでは蛍光スペクトル強度との線形性が見られるが、それを超えると消光作用が起きて線形性が見られなくなる。よって、対象とする原水11に10mg/Lを超える化学物質Aが含まれていた場合、10mg/L以下の濃度域まで希釈しないと正しい濃度が検知できないことになる。即ち、対象とする排水に20mg/Lの化学物質Aが含まれていた場合、蛍光スペクトル強度として1030mVの値を検知するが、これは14mg/Lの化学物質Aの蛍光スペクトル強度と同じであり、誤判断をしてしまう。そのため、この場合は対象とする排水を少なくとも2倍に希釈する必要がある。同様に、図4には化学物質Aの成分濃度と紫外・可視吸光度との相関を示すが、成分濃度10mg/Lまでは線形性が見られるが、それを超えると上限値のままとなる。この場合も、20mg/Lの化学物質Aが正しく検知できないため、誤判断をしてしまう。
【0033】
前記特定化学物質又は特定排水12における、COD濃度、成分濃度、又は混入濃度と、蛍光スペクトル強度、紫外・可視吸光度との相関性の有無は、所望の濃度測定精度を5%と設定した場合には、近似直線と実測値が5%以内に収まるかで判断できる。
【0034】
また、線形ではなく曲線を用いてフィッティングしても良いが、高濃度になるにしたがい、蛍光スペクトル強度、紫外・可視吸光度から、前記特定化学物質又は特定排水12における、COD濃度、成分濃度、又は混入濃度の変化が見辛くなる頭打ちの曲線が得られるため、この検量線を用いた管理には注意が必要である。即ち、高濃度側では蛍光スペクトル強度、紫外・可視吸光度の変化が小さく、異常値検知や混入を発見し辛くなる可能性がある。
【0035】
そこで、前記フィッティングした近似曲線を用いて、蛍光スペクトル強度の変動範囲で発生する測定濃度の変動の範囲が、濃度測定精度の範囲内に収まることを必要条件とすることで、検量線の有効範囲を決定することができる。
【0036】
曲線には、例えば、式(1)に表わされる近似式を用いることができる。
【0037】
【数1】

・・・式(1)
【0038】
ここで、Fluorescenceは蛍光スペクトル強度、Cは特定化学物質又は特定排水のCOD濃度、特定化学物質の成分濃度、特定排水の混入濃度のいずれかを表し、a、b、dはそれぞれ定数を表す。
【0039】
そこで、式(1)の曲線ともに上記の頭打ちが見られるため、蛍光光度法の消光作用が起きない範囲、即ち検量線の有効範囲を決定する必要がある。この理由は、検量線に消光作用が起きている範囲を含めると、濃度が高くなるにつれ、蛍光スペクトル強度の変化が小さくなるため、分析精度に影響するためである。
【0040】
検量線の有効範囲を決定するには、排水の平均的水質における蛍光スペクトル強度の変動範囲を用いて、その変動範囲に対応する検量線の濃度域を求め、その濃度域が所望の濃度測定精度に収まる範囲を検量線の有効範囲とすることができる。
【0041】
即ち、まず事前に対象とする排水の経時データを収集しておき、平均的水質における蛍光スペクトル強度の変動範囲を把握する。平均的水質は、例えば、1週間の水質を対象にするのであれば、その間の3点以上、例えば、2日、4日、6日経過時のデータを取得し、その変動範囲を把握することができる。次に、得られた検量線を基に、前記蛍光スペクトル強度の変動範囲がある濃度においてどの程度の濃度域に対応するかを把握する。次に、濃度測定精度を設定し、前記ある濃度における蛍光スペクトル強度の変動範囲に対応する濃度域が、濃度測定精度に収まる範囲を検量線の有効範囲に設定することができる。
【0042】
例えば、図5では、図3のデータを基に前記式(1)でフィッティングを行った場合を示す。このとき、事前に収集した排水の経時データから、前記平均的水質における蛍光スペクトル強度の変動範囲が±5mVと分かった。このとき、前記所望の濃度測定精度の範囲を10%とした場合、ある濃度における蛍光スペクトル強度の変動範囲±5mVに対応する濃度域は、式(2)のように求まる。
【0043】
【数2】

・・・式(2)
【0044】
この式より、蛍光スペクトル強度の変動範囲±5mVは、12mg/Lで11.2〜13.1mg/L、13mg/Lで12.0〜14.4mg/Lの濃度域に対応することが分かった。
【0045】
次に、所望の濃度測定精度は10%なので、12mg/Lでは10.8〜13.2mg/L、13mg/Lでは11.7〜14.3mg/Lとなる。このとき、12mg/Lでは、蛍光スペクトル強度の変動範囲に対応する濃度域は、所望の濃度測定精度の範囲内に収まっており、13mg/Lでは範囲外となった。よって、図5における検量線の有効範囲は12mg/L以下となる。
【0046】
但し、前記の方法では0〜0.7mg/Lの濃度域においても、蛍光スペクトル強度の変動範囲に対応する濃度域は、所望の濃度測定精度の範囲内に収まっているが、これは蛍光光度法の消光作用が起きない範囲を見極める目的から外れると考え、無視することができる。
【0047】
また、相関関係14においては、前記溶解性化学的酸素要求量と全化学的酸素要求量との相関関係を予め求めておく。これを用いて、後述の濃度計算工程21で、溶解性化学的酸素要求量から全化学的酸素要求量を推定することが可能となる。
【0048】
希釈倍率設定工程16では、前記の相関関係14を基に、後述の希釈工程17における希釈倍率を設定する。希釈倍率は対象とする特定化学物質又は特定排水12により異なるが、前記特定化学物質又は特定排水12における、COD濃度、成分濃度、又は混入濃度に対する蛍光スペクトル強度、紫外・可視吸光度はそれぞれ、消光作用が起きる濃度以下、検出上限の濃度以下で、相関性が見られる濃度域まで希釈することが望ましい。
【0049】
希釈倍率の設定の目的として、濃度の管理を目的とする希釈倍率や、異常値検知を目的とする場合の希釈倍率が挙げられる。
【0050】
濃度の管理を目的とする希釈倍率には、予め対象とする特定化学物質又は特定排水12を含む原水11を定期的にサンプリング・分析を行い、原水11中の前記特定化学物質又は特定排水12における、COD濃度、成分濃度、又は混入濃度データを元に、その平均値及び/又は標準偏差から決定することができる。例えば、3ヶ月間、毎週2〜3回のサンプリング・分析により、特定化学物質Aの平均成分濃度が27.5±2.5mg/Lであれば、最大30mg/Lにさらに余裕を見て40mg/Lまでを測定範囲と設定し、4倍希釈をすれば特定化学物質Aの測定範囲10mg/L以内に収まる。
【0051】
異常値検知を目的とする場合の希釈倍率には、目標とする前記特定化学物質又は特定排水12における、COD濃度、成分濃度、又は混入濃度の異常値を設定し、測定範囲内に収まるように決定する。例えば、目標とする異常値を80mg/Lと設定した場合、余裕を見て希釈倍率を10倍とすれば、特定化学物質Aの測定範囲10mg/L以内に収まる。
【0052】
但し、濃度の管理又は異常値検知の目的において、原水の平均濃度範囲又は設定異常値が、蛍光分析又は紫外・可視吸光度での検量線の有効範囲に収まっている場合には、設定する希釈倍率は1倍であり、本発明では希釈倍率1倍も含まれる。
【0053】
また、原水性状に応じて算出した適切な希釈倍率調節するには、流入する原水11の流量、及び、希釈用水15の流量を一定に保つ必要がある。それには、原水11を分析装置に引き込むポンプにおいて流量が大きく変化しないものを選定することや、希釈用水15において減圧弁、定流量弁を用いて水圧を制御して流量を一定にすることができる。さらに、これらの原水11、希釈用水15の流量を流量計によって、蛍光スペクトル強度、紫外・可視吸光度と同時にモニタリングすることで、希釈倍率を常時維持・管理できる。希釈倍率については、分析精度5%と設定した場合、希釈倍率の変化割合を5%以内に収めることで、一定と判断できる。例えば、希釈倍率を5倍と設定した場合には、5±0.25倍希釈となる流量変動は許容できる。
【0054】
希釈工程17では、前記希釈倍率設定工程16で設定した希釈倍率に基づき、管理したい特定化学物質又は特定排水12を含む原水11を連続的に希釈する。特定化学物質又は特定排水12を含む原水11について、希釈用水15により一定倍率で希釈することで、消光作用を低減させることができる。したがって、低濃度の混入であるという誤判断を避け、正しい濃度を検知することが可能となる。また、希釈をすることで、液体試料の濁度やSS濃度を減少させることができるため、その影響を軽減できると共に、濁度、SS除去のためにフィルターが併設されている場合には、目詰まりの発生抑制が可能となる。
【0055】
具体的に希釈する方法には、連続的に流入する原水11に対して、希釈用水15を一定流量で合一させる方法がある。希釈用水15には、対象とする特定化学物質又は特定排水12における蛍光スペクトルのピーク位置に蛍光スペクトル強度が殆ど認められず、紫外・可視吸光スペクトルのピーク位置に紫外・可視吸光度が殆ど認められず、COD、TOC濃度が低い水を用いることが望ましい。例えば、分析誤差5%以内であれば、対象とする特定化学物質又は特定排水12のピーク位置における蛍光スペクトル強度及び紫外・可視吸光度を100とした時、希釈用水15の同じピーク位置における蛍光スペクトル強度及び紫外・可視吸光度が5以下であれば許容することができる。また、平均COD濃度が100mg/L程度であれば、水道水、工業用水等のCOD濃度10mg/L未満の希釈用水15を用いることが望ましく、特定化学物質又は特定排水12の平均COD濃度が10mg/L程度であれば、蒸留水等のCOD濃度1mg/L未満の希釈用水15を用いることが望ましい。
【0056】
SS除去工程18では、フィルターを流路に設置することで、原水11中のSS成分を除去する。SS成分を除去することで、蛍光スペクトル強度及び紫外・可視吸光度の変動が抑制され、安定化される。さらに、排水管のSS成分による閉塞を抑制できる。フィルターによるSS除去レベルは液体試料によって異なるが、ろ過処理の前後で蛍光スペクトル強度及び紫外・可視吸光度が大きく変化しない程度まで除濁することが望ましい。例えば、JIS P 3801に規定の5種Aろ紙によりろ過した液体試料と、そのろ過液体試料を5種Cろ紙でろ過した液体試料とで蛍光スペクトル強度が大きく変化しなければ、5種Aろ紙で除濁すれば十分と考えられる。ろ過による蛍光スペクトル強度及び紫外・可視吸光度の変化については、例えば分析誤差5%以内であれば、ろ過により5%以内の変化であれば許容することができる。
【0057】
また、フィルターを定期的に逆洗浄を行うことで、目詰まりの発生がかなり軽減されると共に、フィルター洗浄、フィルター交換等の定期メンテナンス作業の頻度が軽減される。
【0058】
測定工程20では、データベース化工程13で得られた蛍光特性及び/又は紫外・可視吸光特性から、管理したい特定化学物質又は特定排水12に特有の蛍光スペクトル及び/又は紫外・可視吸光スペクトルを選定し、蛍光スペクトル強度及び/又は紫外・可視吸光度を測定し、対象とする特定化学物質又は特定排水12の蛍光スペクトル及び/又は紫外・可視吸光スペクトルのピーク位置における蛍光スペクトル強度及び/又は紫外・可視吸光度を得る。
【0059】
得られた蛍光スペクトル強度及び/又は紫外・可視吸光度から前記相関関係14で作成した検量線を用いて、管理したい特定化学物質又は特定排水12を含有する希釈済原水19の蛍光スペクトル強度及び/又は紫外・可視吸光度から、前記希釈工程17にて原水11を希釈して得られた希釈済原水19中の管理したい前記特定化学物質又は特定排水12における、COD濃度、成分濃度、又は混入濃度を推定することができる。
【0060】
但し、蛍光光度法の蛍光スペクトル強度及び紫外・可視吸光度は、蛍光性成分、吸光性成分の周囲の性質(液体試料のpH、共存塩、SS等)により影響を受ける可能性があるので、原水11のpH変動によっては、例えば、検知に供する液体試料のpHを一定範囲に調整する前処理工程を加えることが望ましい。
【0061】
また、後述する濃度計算工程21で用いる場合がある希釈倍率の実測データを得るため、対象とする原水11、希釈用水15、希釈済原水19の3つの流量データの内、2つ以上のデータを測定する。
【0062】
濃度計算工程21では、前記測定工程20で求めた希釈済原水19の特定化学物質又は特定排水12の濃度を、前記測定工程20で得られた流量データから希釈倍率を求めて割り戻すことで、対象とする原水11に含まれる前記特定化学物質又は特定排水12における、COD濃度、成分濃度、又は混入濃度を推定可能となる。但し、流量をほぼ一定に制御できれば、希釈倍率設定工程16で設定した希釈倍率を用いても良い。これは、分析精度5%と設定した場合、希釈倍率の変化割合が5%以内に収めることで、一定と判断できる。例えば希釈倍率を5倍と設定した場合には、5±0.25倍希釈となる流量変動は許容できる。
【0063】
また、相関関係14で求めた溶解性化学的酸素要求量と全化学的酸素要求量との相関関係を用いて、溶解性化学的酸素要求量から全化学的酸素要求量を推定することができる。
【0064】
検知工程23では、前記濃度計算工程21で得られた対象とする原水11のCOD濃度、成分濃度、又は混入濃度を基に、所望の検知レベルを超えたかを判定し、超えた場合はアラームを動作させる。
【0065】
対処工程14では、前記検知工程13で動作したアラームに対し、流路の遮断等の措置を行う。
【0066】
また、前記特定化学物質が難燃性作動油又は水溶性切削油であり、又は、前記特定排水が難燃性作動油又は水溶性切削油を含む場合、難燃性作動油又は水溶性切削油自体が蛍光を発する場合や、難燃性作動油又は水溶性切削油以外の成分が蛍光を発する場合があり、高い蛍光スペクトル強度を発する場合には希釈が必要となる。この場合も上記と同様の工程を踏むことで、難燃性作動油又は水溶性切削油の濃度測定が可能となる。
【実施例】
【0067】
(実施例1:含油排水のCOD濃度、混入濃度及び成分濃度の推定)
以下、含油排水を対象としたCOD濃度、混入濃度及び成分濃度の推定方法について説明をする。
【0068】
図2に示すデータベース化工程13では、図6に示すように、前記含油排水の蛍光特性として(励起波長)/(蛍光波長)=220nm/300nm、270nm/300nmにピークが存在することを明らかにした。但し、270nm/300nmは励起波長と蛍光波長が近く、散乱光の影響を強く受けるため、後述する測定工程20では、検知に用いる波長セットとして220nm/300nmを選定した。
【0069】
また、図7に示すように、前記含油排水の紫外・可視吸光特性として励起波長220nm、260nmにピークが存在することを明らかにした。一般に市販されている紫外・可視吸光光度法による分析計は264nmに設定されているため、検知に用いる波長を264nmとした。
【0070】
図2に示す相関関係14では、前記含油排水の蛍光スペクトル及び紫外・可視吸光スペクトルを測定し、前記含油排水のCOD濃度、混入濃度及び成分濃度と、ピーク位置における蛍光スペクトル強度との相関関係及び検量線を予め作成した(図8、図9)。COD濃度については、以下の式(3)が得られた。
【0071】
【数3】

・・・式(3)
【0072】
COD濃度については、実サンプル及び純水で希釈した実サンプルをpH8に調整し、JIS P 3801に規定の5種Cろ紙でろ過した液体試料について、蛍光スペクトル強度及び紫外・可視吸光度を測定し、COD濃度実測値とプロットした。混入濃度及び成分濃度は含油排水を純水で段階的に希釈することで相関関係を得た。その結果、およそ50mg/L以上のCOD濃度において濃度消光が見られた。さらに、式(3)からの乖離が大きくなったが、これは高COD濃度側において、液体試料に含まれる固形物の影響、pHの影響、バックグラウンドの影響及び共存塩である鉄の消光作用の影響が大きかったためである。即ち、希釈を行った低COD濃度側では固形物の影響、pHの影響、バックグラウンドの影響及び共存塩の影響が軽減されたため、式(3)からの乖離が小さくなった。
【0073】
また、事前に収集した排水の経時データから、前記平均的水質における蛍光スペクトル強度の変動範囲が±7.5mVと分かった。平均的水質は2か月間に得られた50個の分析データから得られた。このとき、図8において、ある濃度における蛍光スペクトル強度の変動範囲±7.5mVに対応するCOD濃度域は、70mg/Lで64.3〜76.7mg/L、75mg/Lで68.6〜82.6mg/Lの濃度域に対応することが分かった。
【0074】
次に、所望の濃度測定精度は10%なので、70mg/Lで63〜77mg/L、75mg/Lで67.5〜82.5mg/Lとなる。このとき、70mg/Lでは、蛍光スペクトル強度の変動範囲に対応する濃度域は、所望の濃度測定精度の範囲内に収まっており、75mg/Lでは範囲外となった。よって、図8における検量線の有効範囲は70mg/L以下となる。
【0075】
また、同様に混入濃度で7.0%以下、成分濃度で0.38%以下まで相関関係が認められた。
【0076】
紫外・可視吸光光度法での検出上限以下で線形性が見られる濃度域はCOD濃度で0〜100mg/L、混入濃度で0〜10%、成分濃度で0〜0.67%まで相関関係が認められた。それ以上の濃度域では検出上限超過のため測定できないことが分かった。
【0077】
前記相関関係14から得られた結果から、蛍光スペクトル強度で濃度消光が見られ、紫外・可視吸光光度法に比べて有効な検量線の範囲が制限されていたため、希釈倍率設定工程16では、濃度消光の影響を軽減するための希釈倍率の決定を行った。異常値COD濃度を250mg/L、混入濃度34%、成分濃度で1.9%と設定し、前記相関関係14における曲線のフィッティングを用いることとし、希釈倍率は250/70=3.57より、余裕をみて4倍希釈とした。
【0078】
希釈工程17では、前記希釈倍率設定工程16で設定した希釈倍率に基づき、前記含油排水を連続的に4倍希釈した。具体的には、連続的に流入する原水流量を2.0L/分に設定し、淡水流量を6.0L/分に設定し、合一させた。淡水は220nm/300nmのピーク位置における蛍光スペクトル強度が2.5程度であり、分析誤差5%以内とした場合、含油排水の蛍光スペクトル強度に比べて2.5/100=2.5%であるため、許容することができる。また、平均COD濃度として2.7mg/Lであり、希釈用水としては問題ないことを確認した。
【0079】
測定工程20では、データベース化工程13で得られた前記含油排水の蛍光スペクトルのピーク位置220nm/300nmにおける蛍光スペクトル強度及び/又は紫外・可視吸光スペクトル強度を得た。
【0080】
前記相関関係14で作成した検量線を用いて、前記含油排水を希釈した希釈済原水19の蛍光スペクトル強度から、前記希釈済原水19のCOD濃度、混入濃度及び成分濃度を推定した。希釈を行わなかった場合、及び、希釈を行った場合の、蛍光スペクトル強度、推定したCOD濃度の経時変化を、COD濃度実測値と同時に図10に示す。その結果、希釈を行わなかった場合には蛍光スペクトル強度からの排水COD濃度は殆ど推定できていなかったが、希釈を行ったことで希釈済原水9のCOD濃度とCOD濃度実測値がよく一致することが分かった。
【0081】
また、測定工程20では、原水流量、及び、淡水流量を測定した。
【0082】
濃度計算工程21では、測定工程20で得られた希釈済原水19のCOD濃度、混入濃度及び成分濃度を、前記測定工程20で測定した原水流量、及び、淡水流量から都度計算した希釈倍率を用いて、含油排水の原水11中のCOD濃度を求めた。含油排水の原水11のCOD濃度計算値とCOD濃度実測値の比較を図11に示す。また、比較のため希釈倍率設定工程16で設定した希釈倍率4倍を用いて、含油排水源水中のCOD濃度を求めた結果を示す。その結果、希釈倍率を4倍で一定とした場合ではCOD濃度計算値とCOD濃度実測値よりも、希釈倍率を都度計算した場合の方が良く一致した。この理由として、原水流量のSS成分によって配管が閉塞することがあり、設定した流量を一定に維持できず、流量が減少し、希釈倍率が増加したためである。その結果、希釈倍率設定工程16で設定した希釈倍率に変動が生じたことで、設定した希釈倍率による原水COD濃度の計算値はCOD濃度実測値と乖離し、実測した希釈倍率による原水COD濃度の計算値がCOD濃度実測値とよく一致した。
【0083】
また、相関関係14を用いることで、含油排水の混入濃度及び成分濃度の推定が可能になった。
【0084】
また、図12には希釈を行うことでバックグラウンドの影響の軽減効果を示す。希釈を行う前は蛍光強度に大きな変動が見られたが、バックグラウンドの影響が軽減されることでベースライン変動が抑制され、蛍光スペクトル強度、及び吸光度が安定した。
【0085】
検知工程23では、濃度計算工程21で得られたCOD濃度計算値が、目標とする異常値を超えたかの判定を行った。その結果、図10において35日目にCOD濃度計算値が原水11のCOD濃度300mg/L(希釈済原水9で75mg/L)を検知し、異常値と判断してアラームが作動した。
【0086】
対処工程24では、検知工程23で作動したアラームを現場作業者が確認した後、含油排水原水ラインの供給を停止した。
【0087】
(実施例2:全化学的酸素要求量の推定)
以下、実施例1において、含油排水を対象とした溶解性COD濃度を求めた後に、全COD濃度を推定する方法について説明をする。
【0088】
前記相関関係14で、溶解性COD濃度と全COD濃度との相関関係を予め求めておく。その結果を図13に示す。ここでは溶解性COD濃度と全COD濃度に線形性があると判断し、原点を通る直線で近似を行い、その傾きを得ることで、溶解性COD濃度と全COD濃度との換算係数を得た。この換算係数を、実施例1で得られたCOD濃度計算値で除する、即ち、以下の演算式(4)を立てることで、全COD濃度計算値を得た。
【0089】
【数4】

・・・式(4)
【0090】
演算式(4)から求めた本発明による全COD濃度計算値と全COD濃度実測値との相関関係を図14に示す。その結果、推定値と実測値がよく一致した。
【0091】
(実施例3:フィルターによるSS濃度の低減と検知性の向上)
以下、実施例1において、前記希釈工程17の後に、SS除去工程18を追加し、含油排水を対象とした溶解性COD濃度を推定する方法について説明をする。
【0092】
SS除去工程18では、前記希釈工程17で4倍希釈した希釈済原水19に対して、原水11中の浮遊性固形物を除去するためのフィルターを設置し、定期的な逆洗浄を行った。フィルターの選定は事前に行い、溶解性COD濃度が目標検知濃度と同等であった前記希釈済原水19に対して、ろ過を行っていない液体試料と、JIS P 3801に規定の5種Aろ紙によりろ過した液体試料と、そのろ過した液体試料を5種Cろ紙でろ過した液体試料とで蛍光スペクトル強度、及び吸光度の比較を行った。その結果、ろ過を行っていない液体試料よりろ過を行った液体試料では蛍光スペクトル強度が大きく上昇し、フィルターによる固形物除去によりよる光の遮断・吸収の影響が軽減された。また、ろ過を行った液体試料では5種Aろ紙と5種Cろ紙で、そのろ液の蛍光スペクトル強度が大きく変化しないことを確認し、5種Aろ紙に相当するフィルターを設置した(図15参照)。
【0093】
また、フィルターを設置してSSを除去することにより、蛍光スペクトル強度、及び吸光度の固形物による光の遮断・吸収の影響が軽減され、さらにバックグラウンドの影響が軽減されることでベースライン変動が抑制され、蛍光スペクトル強度、及び吸光度が安定した(図16参照)。さらに、排水管の閉塞が1週間に1回起きていたものが、1ヶ月以上に1回まで頻度が抑制された。
【0094】
また、フィルターを設置した後に1ヶ月の通水を行った結果、凡そ3日でフィルターの目詰まりが確認されたため、前記希釈工程17で使用している希釈用水15を用いて、2時間に1回逆洗浄を行った。希釈を併用したフィルターによる固形物除去を行うことで、フィルターの交換時期が3日から2週間以上となり、交換頻度が大きく軽減できた。
【0095】
(実施例4:水溶性切削油の濃度推定)
以下、実施例1において、前記特定化学物質が水溶性切削油である時、水溶性切削油を含む排水中の水溶性切削油濃度推定をする方法について説明をする。
【0096】
データベース化工程13では、図17に示すように前記水溶性切削油の蛍光特性として(励起波長)/(蛍光波長)=280nm/340〜360nmにピークが存在することを明らかにした。よって、検知に用いる波長セットとして(励起波長)/(蛍光波長)=280nm/360nmを選定した。また、紫外・可視吸光特性は見られなかった。
【0097】
相関関係14では、実施例1と同様に、前記水溶性切削油のCOD濃度及び成分濃度と、ピーク位置における蛍光スペクトル強度との相関関係及び検量線を予め作成した。但し、原水11及び希釈済原水19はpH7程度で安定しており、かつ、固形物成分が少なく、蛍光分析に与える影響は小さかったため、相関関係を求める際には、pH調整及び固形物除去は行わなかった。
【0098】
また、水溶性切削油の所望の成分濃度検知レベルは0.05v/v%であり、0〜0.1v/v%の成分濃度域において蛍光スペクトル強度の消光作用は見られず、直線性を保っていたため、検量線の有効範囲の決定は行わなかった。
【0099】
但し、前記平均的水質における蛍光スペクトル強度の変動範囲が±5mV、前記所望の濃度測定精度の範囲を5%とした場合、蛍光スペクトル強度の変動範囲が±5mVとなるのは、水溶性切削油の成分濃度1v/v%以下となるため、検量線の有効範囲を精査したとしても、前記検量線の有効範囲は十分満たされていた。
【0100】
希釈倍率設定工程16では、前記相関関係14から得られた結果を基に、異常値検知を目的とした希釈倍率の決定を行ったが、所望の検知レベルが検量線の有効範囲に収まっていたため、原水11の希釈は行わず、即ち、希釈倍率を1倍と設定し、希釈工程17も省略した。
【0101】
SS除去工程18では、原水11及び希釈済原水19で固形物成分が少なく、蛍光分析に与える影響は小さかったため、SS除去工程18も省略した。
【0102】
測定工程20では、データベース化工程13で得られた前記水溶性切削油の蛍光スペクトルのピーク位置280nm/360nmにおける蛍光スペクトル強度を得た。
【0103】
前記相関関係14で作成した検量線を用いて、前記水溶性切削油を含む排水の蛍光スペクトル強度から、前記水溶性切削油を含む排水の水溶性切削油のCOD濃度及び成分濃度を推定した。その結果、排水中の水溶性切削油の推定COD濃度値と実測COD濃度値がよく一致することが分かった。
【0104】
濃度計算工程21は、原水11の希釈を行わなかったため、省略した。
【0105】
検知工程23では、測定工程20で得られた水溶性切削油濃度の推定値が、目標とする異常値を超えたかの判定を行った。その結果、10日目に水溶性切削油の推定成分濃度値が0.05v/v%を超えたため、異常値と判断してアラームが作動した。
【0106】
対処工程24では、検知工程23で作動したアラームを現場作業者が確認した後、水溶性切削油を含む原水ラインの供給量を減らした。
【0107】
(実施例5:希釈によるpHの影響の軽減)
以下、実施例1における含油排水を用いて、バッチ試験を行うことで、希釈によるpH影響の軽減効果を説明する。
【0108】
図18には、含油排水をJIS P 3801に規定の5種Cろ紙でろ過した液体試料について、pH3〜9に調整した時の蛍光強度の変化を示す。その結果、当該含油排水においては、pH4以下で蛍光強度が大きく減少することが分かった。
【0109】
次に、pH4の含油排水を用いて、希釈によるpHの影響の軽減効果をみた。具体的にはpH4の含油排水を、JIS P 3801に規定の5種Cろ紙でろ過した液体試料について、10倍希釈した時の蛍光強度から、実施例1における相関関係14を用いて求めた溶解性COD濃度に、希釈倍率10倍を乗じて、溶解性COD濃度実測値と比較を行った。
【0110】
図19に検討結果を示す。pH4では図18と同様に蛍光強度が大きく減少しており、この蛍光強度を基に溶解性COD濃度を算出した結果、17.5mg/Lとなった。一方、10倍希釈を行うことにより、pH5程度になった前記液体試料を測定し、得られた蛍光強度を基に溶解性COD濃度を算出した結果、5.7mg/Lとなった。この値に希釈倍率10倍を乗じることで、溶解性COD濃度計算値は57mg/Lとなった。また、このときの溶解性COD濃度実測値は58.8mg/Lであった。
【0111】
以上の結果から、希釈を行うことでpHの影響を軽減でき、溶解性COD濃度の濃度測定精度を高めることができた。
【0112】
以上のことは、紫外・可視吸光光度法についても同様のことが言える。
【0113】
(実施例6:希釈による固形物の影響の軽減)
以下、実施例1における含油排水を用いて、バッチ試験を行うことで、希釈による固形物の影響の軽減効果を説明する。
【0114】
図20には、pH8に調整した含油排水及び含油排水ろ過液を混合することで、固形物濃度を調整した時の蛍光強度の変化を示す。その結果、当該含油排水においては、固形物濃度が増加するにしたがい蛍光強度が減少することが分かった。
【0115】
次に、固形物濃度360mg/Lの含油排水を用いて、希釈による固形物の影響の軽減効果をみた。具体的には、固形物濃度360mg/Lの含油排水をpH8に調整した液体試料について、10倍希釈した時の蛍光強度から、実施例1における相関関係14を用いて求めた溶解性COD濃度に、希釈倍率10倍を乗じて、溶解性COD濃度実測値と比較を行った。
【0116】
図21に検討結果を示す。固形物濃度360mg/Lでは図20と同様に蛍光強度が減少しており、この蛍光強度を元に溶解性COD濃度を算出した結果、1.9mg/Lとなった。一方、10倍希釈を行うことにより、pH5程度になった前記液体試料を測定し、得られた蛍光強度を基に溶解性COD濃度を算出した結果、4.7mg/Lとなった。この値に希釈倍率10倍を乗じることで、溶解性COD濃度計算値は47mg/Lとなった。また、このときの溶解性COD濃度実測値は58.8mg/Lであった。
【0117】
以上の結果から、希釈を行うことでpHの影響を軽減でき、溶解性COD濃度の濃度測定精度を高めることができた。
【0118】
以上のことは、紫外・可視吸光光度法についても同様のことが言える。
【0119】
(実施例7:希釈による共存塩の影響の軽減)
以下、実施例1における含油排水を用いて、バッチ試験を行うことで、希釈による共存塩の影響の軽減効果を説明する。
【0120】
図22には、pH8に調整し、JIS P 3801に規定の5種Cろ紙でろ過した含油排水に、共存塩として溶解性鉄を添加することで、共存塩濃度を調整した時の蛍光強度の変化を示す。その結果、当該含油排水においては、共存塩濃度が増加するにしたがい蛍光強度が減少することが分かった。ただし、当該含油排水には共存塩である溶解性鉄は蛍光強度に影響を与えるほど含有していない。
【0121】
次に、共存塩濃度100mg/Lの含油排水を用いて、希釈による共存塩の影響の軽減効果をみた。具体的には、共存塩濃度100mg/Lの含油排水をpH8に調整し、JIS P 3801に規定の5種Cろ紙でろ過した液体試料について、10倍希釈した時の蛍光強度から、実施例1における相関関係14を用いて求めた溶解性COD濃度に、希釈倍率10倍を乗じて、溶解性COD濃度実測値と比較を行った。
【0122】
図23に検討結果を示す。共存塩濃度100mg/Lでは図22と同様に蛍光強度が減少しており、この蛍光強度を元に溶解性COD濃度を算出した結果、27.4mg/Lとなった。一方、10倍希釈を行うことにより、pH5程度になった前記液体試料を測定し、得られた蛍光強度を基に溶解性COD濃度を算出した結果、4.9mg/Lとなった。この値に希釈倍率10倍を乗じることで、溶解性COD濃度計算値は49mg/Lとなった。また、このときの溶解性COD濃度実測値は58.8mg/Lであった。
【0123】
以上の結果から、希釈を行うことでpHの影響を軽減でき、溶解性COD濃度の濃度測定精度を高めることができた。
【0124】
以上のことは、紫外・可視吸光光度法についても同様の結果であった。
【0125】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0126】
1 キセノンランプ
2 励起光
3 ビームスプリッタ
4 モニタ側検知器
5 試料セル
6 蛍光
7 光電子倍増管
8 プロセッサ
11 原水
12 特定化学物質又は特定排水
13 データベース化工程
14 相関関係
15 希釈用水
16 希釈倍率設定工程
17 希釈工程
18 SS除去工程
19 希釈済原水
20 測定工程
21 濃度計算工程
22 放流水
23 検知工程
24 対処工程
25 濃度測定方法
26 対処方法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定化学物質又は特定排水に特有の蛍光又は紫外・可視吸光を用いて、原水中に混入している前記特定化学物質又は特定排水の濃度測定及び検知する方法であって、
蛍光においては200〜800nmの励起波長全域における前記特定化学物質又は特定排水の蛍光を測定し、前記特定化学物質又は特定排水の蛍光スペクトル強度のピーク位置における励起波長と蛍光波長を記録したデータベースを作成し、紫外・可視吸光においては200〜800nmの励起波長全域における前記特定化学物質又は特定排水の吸光度を測定し、前記特定化学物質又は特定排水のピーク位置における吸光度を記録したデータベースを作成するデータベース化工程と
前記原水を連続的にサンプリングして得られた液体試料を、原水性状に応じて適切な希釈倍率を算出する希釈倍率設定工程と、
該原水に対して、蛍光においては前記ピーク位置の励起波長における蛍光スペクトル強度と、紫外・可視吸光においては前記ピーク位置の励起波長における吸光度と、前記原水中の溶解性化学的酸素要求量、成分濃度、又は混入濃度との相関関係を予め求めておき、
前記原水に希釈用水を混合することで希釈済原水を得る希釈工程と、
前記希釈済原水中の蛍光においては前記ピーク位置の励起波長における蛍光スペクトル強度を、紫外・可視吸光においては前記ピーク位置の励起波長における吸光度を測定する測定工程と、
前記相関関係を用いて、前記測定工程での測定結果から、前記希釈済原水中における前記特定化学物質又は前記特定排水の溶解性化学的酸素要求量、成分濃度、又は混入濃度を推定し、さらに、前記希釈倍率を用いて前記原水中における前記特定化学物質又は特定排水の混入を検知すると共に混入濃度を算出する濃度計算工程と、
を備えることを特徴とする、排水中の特定化学物質又は特定排水の濃度測定方法。
【請求項2】
前記希釈済原水中における前記特定化学物質又は前記特定排水の溶解性化学的酸素要求量を推定する方法において、
予め溶解性化学的酸素要求量と全化学的酸素要求量との相関関係を求めておくことで、推定して得られた溶解性化学的酸素要求量から全化学的酸素要求量を推定することを特徴とする、請求項1に記載の排水中の特定化学物質又は特定排水の濃度測定方法。
【請求項3】
前記原水を連続的にサンプリングして得られた液体試料を、原水性状に応じて算出した適切な希釈倍率に希釈する方法において、希釈工程を備えることで、蛍光分析又は紫外・可視吸光分析における濃度消光や検出上限超過の影響、固形物の影響、液体試料のpHの影響、バックグラウンドの影響、共存塩の影響、並びに排水管における固形物閉塞の内、一つ又は複数の影響を軽減することを特徴とする、請求項1又は2に記載の排水中の特定化学物質又は特定排水の濃度測定方法。
【請求項4】
前記原水又は希釈済原水に対して、固形物除去処理としてフィルターを設置するSS除去工程を備えることで、蛍光分析又は紫外・可視吸光分析における固形物の影響、液体試料のバックグラウンドの影響の内、一つ又は二つの影響を軽減することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の排水中の特定化学物質又は特定排水の濃度測定方法。
【請求項5】
前記SS除去工程について、定期的な逆洗浄を行うことでフィルターの閉塞を防ぐことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の排水中の特定化学物質又は特定排水の濃度測定方法。
【請求項6】
前記特定化学物質が難燃性作動油又は水溶性切削油であり、又は、前記特定排水が難燃性作動油又は水溶性切削油を含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の排水中の特定化学物質又は特定排水の濃度測定方法。
【請求項7】
前記原水性状に応じて算出した適切な希釈倍率が、流量データを基に計算した実際の希釈倍率を用いることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の排水中の特定化学物質又は特定排水の濃度測定方法。
【請求項8】
前記請求項1〜7のいずれか1項に記載の濃度測定方法を用いて、事前に設定した基準値を超えた場合に警報を出す検知工程と、排水の供給を制限することや、排水の濃度調整を行う対処を行う対処工程、を備えることを特徴とする排水中の特定化学物質又は特定排水の検知方法。
【請求項9】
特定化学物質又は特定排水に特有の蛍光又は紫外・可視吸光を用いて、原水中に混入している前記特定化学物質又は特定排水の濃度測定及び検知する装置であって、
蛍光においては200〜800nmの励起波長全域における前記特定化学物質又は特定排水の蛍光を測定し、前記特定化学物質又は特定排水の蛍光スペクトル強度のピーク位置における励起波長と蛍光波長を記録したデータベースを作成し、紫外・可視吸光においては200〜800nmの励起波長全域における前記特定化学物質又は特定排水の吸光度を測定し、前記特定化学物質又は特定排水のピーク位置における吸光度を記録したデータベースを作成するデータベース化手段と
前記原水を連続的にサンプリングして得られた液体試料を、原水性状に応じて適切な希釈倍率を算出する希釈倍率設定手段と、該原水に対して、蛍光においては前記ピーク位置の励起波長における蛍光スペクトル強度と、紫外・可視吸光においては前記ピーク位置の励起波長における吸光度と、前記原水中の溶解性化学的酸素要求量、成分濃度、又は混入濃度との相関関係を予め求めておき、
前記原水に希釈用水を混合することで希釈済原水を得る希釈手段と、
前記希釈済原水中の蛍光においては前記ピーク位置の励起波長における蛍光スペクトル強度を、紫外・可視吸光においては前記ピーク位置の励起波長における吸光度を測定する測定手段と、
前記相関関係を用いて、前記測定手段での測定結果から、前記希釈済原水中における前記特定化学物質又は前記特定排水の溶解性化学的酸素要求量、成分濃度、又は混入濃度を推定し、さらに、前記希釈倍率を用いて前記原水中における前記特定化学物質又は特定排水の混入を検知すると共に混入濃度を算出する濃度計算手段と、
を備えることを特徴とする、排水中の特定化学物質又は特定排水の濃度測定装置。
【請求項10】
前記希釈済原水中における前記特定化学物質又は前記特定排水の溶解性化学的酸素要求量を推定する装置において、
予め溶解性化学的酸素要求量と全化学的酸素要求量との相関関係を求めておくことで、推定して得られた溶解性化学的酸素要求量から全化学的酸素要求量を推定することを特徴とする、請求項9に記載の排水中の特定化学物質又は特定排水の濃度測定装置。
【請求項11】
前記原水を連続的にサンプリングして得られた液体試料を、原水性状に応じて算出した適切な希釈倍率に希釈する装置において、
希釈手段を備えることで、蛍光分析又は紫外・可視吸光分析における濃度消光や検出上限超過の影響、固形物の影響、液体試料のpHの影響、バックグラウンドの影響、共存塩の影響、並びに排水管における固形物閉塞の内、一つ又は複数の影響を軽減することを特徴とする、請求項9又は10に記載の排水中の特定化学物質又は特定排水の濃度測定装置。
【請求項12】
前記原水又は希釈済原水に対して、固形物除去処理としてフィルターを設置するSS除去手段を備えることで、蛍光分析又は紫外・可視吸光分析における固形物の影響、液体試料のバックグラウンドの影響の内、一つ又は二つの影響を軽減することを特徴とする、請求項9〜11のいずれか1項に記載の排水中の特定化学物質又は特定排水の濃度測定装置。
【請求項13】
前記SS除去手段について、定期的な逆洗浄を行うことでフィルターの閉塞を防ぐ手段を有することを特徴とする、請求項9〜12のいずれか1項に記載の排水中の特定化学物質又は特定排水の濃度測定装置。
【請求項14】
前記特定化学物質が難燃性作動油又は水溶性切削油であり、又は、前記特定排水が難燃性作動油又は水溶性切削油を含むことを特徴とする、請求項9〜13のいずれか1項に記載の排水中の特定化学物質又は特定排水の濃度測定装置。
【請求項15】
前記原水性状に応じて算出した適切な希釈倍率が、流量データを基に計算した実際の希釈倍率を用いることを特徴とする、請求項9〜14のいずれか1項に記載の排水中の特定化学物質又は特定排水の濃度測定装置。
【請求項16】
前記請求項9〜15のいずれか1項に記載の濃度測定装置を用いて、事前に設定した基準値を超えた場合に警報を出す検知手段と、
排水の供給の制限及び/又は排水の濃度調整を行う対処を行う対処手段と、
を備えることを特徴とする、排水中の特定化学物質又は特定排水の検知装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図18】
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【図6】
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【図10】
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【図12】
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【図17】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2011−158340(P2011−158340A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19616(P2010−19616)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000219451)東亜ディーケーケー株式会社 (204)
【Fターム(参考)】