説明

排水処理用凝集剤

【課題】 無機凝集剤を多量に要求する難処理性の有機系濁質の汚水に対して優れた凝集性能を発揮する凝集剤を提供する。
【解決手段】 塩基度58%以上のポリ塩化アルミニウムとジメチルアミン・エピクロルヒドリン共重縮合体とを含有してなる排水処理用凝集剤である。
この様な凝集剤は、有機系濁質の汚水の処理として、殊に食品加工工場等で発生する有機質、油分を多含する排水の処理に有効である。また、凝集剤である塩基度58%以上のポリ塩化アルミニウムとジメチルアミン・エピクロルヒドリン共重縮合体とは相溶性が良く、長期の保存においても沈殿等を発生しない。更に、従来の塩基度50%以下のPACの使用に較べ、スラッジの発生量も少なく、少量の添加量で有効な効果を発揮し、pH調整用のアルカリ剤の使用量も低減できるという効果を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理用凝集剤に関し、殊に無機凝集剤を多量に要求する難処理性の有機系濁質の汚水に対して優れた凝集性能を有する凝集剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム等の無機凝集剤は、上水、下水、工場排水等の水処理剤として古くから使用されている。
これら凝集剤は、無機質由来の濁質に対しては、比較的低添加量で卓越した効果を発揮するが、藻類を多量に含んだような河川水や、食品工場排水のような有機物を多量に含んだ排水の処理においては、十分な効果を発現させるためには、多量の無機凝集剤を要する場合が多い。
【0003】
これらの無機凝集剤の添加量が増加すると、無機凝集剤由来のスラッジ量が増え、また無機凝集剤を中和するために必要なアルカリ剤の必要量も増加し、無機凝集剤のコストばかりか、これら汚泥の処分費、中和剤の購入費などのコストがかさむ難点がある。
これらの問題点を解消するため、無機凝集剤の添加量を低減でき、スラッジ量を減らす目的でポリアミン系やポリDADMAC系などに代表される有機凝集剤が使用されている。
これらの凝集剤は、少量で効果を発揮する反面、無機凝集剤のように自らは不溶解成分に変化することが出来ないため、無機凝集剤と併用しないと十分な効果を発現しにくい。そのため、無機凝集剤の添加量を減らす目的で使用されるが、実際は、無機凝集剤と併用されているのが現状である。
【0004】
しかしながら、この様に二種の凝集剤を用いると、薬剤タンクが複数個必要となり、更には添加装置も複数個必要で、凝集処理設備が大きくなるだけでなく操作も制御も複雑となる。従って、排水処理用凝集剤として水処理効果が優れ、また容易な操作により使用できる一液型の凝集剤が要望されている。
【0005】
本願発明者らは、このような現状において、過去に一液型凝集剤について検討を重ね、アルミニウム塩系凝集剤と第二アミン−エピクロルヒドリン系のカチオン高分子とを含有した凝集剤を開発し特許出願を行った。(特許文献1参照)
しかしながら、特許文献1の凝集剤は、特に食品加工工場等で発生する有機質、油分を多含する排水の処理においては未だ充分な効果が得られていない。
【0006】
またこの様な一液型の凝集剤としては、塩化アルミニウム水和物と水溶性ポリアミンを使用する例が知られている。(特許文献2参照)しかし、この様な凝集剤に関しても各種のアミン類を使用した例を羅列したのみで、特に塩化アルミニウム水和物に関しては、水溶性アルミニウム塩が記載されるのみで本発明が目的とするような効果は得られない。
【0007】
また更に、塩化アルミニウムと各種の水溶性ポリアミンを含有する凝集剤が開示されているが、上記と同様に本発明の目的とするような効果は得られない。(特許文献3参照)
この様に各種のアルミニウム塩と水溶性ポリアミンを含有する一液型の凝集剤は知られているものの、前述のような特に食品加工工場等で発生する有機質、油分を多含する排水の処理においては未だ充分な効果が得られていないのが現状である。
【0008】
【特許文献1】特開平2−194803号
【特許文献2】特開平2−144103号
【特許文献3】特開平1−299613号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
かかる現状に鑑み、本発明者らは、前述の課題を解決すべく、特定の塩基性塩化アルミニウムと特定のポリアミン化合物との組み合わせにおいて、従来では考えられなかった特定の凝集剤の組み合せについて各種検討を重ねた。
【0010】
その結果、従来の技術では、使用される塩基性塩化アルミニウムは、水処理凝集剤として高々塩基度が50%止まりであったが、この塩基度が58%以上のものを使用し、しかも水溶性ポリアミンとしてジメチルアミン・エピクロルヒドリン共重縮合体を使用し、これらを混合して排水処理用の凝集剤に用いれば、比較的少量の使用量で特に食品加工工場等で発生する有機質、油分を多含する排水の処理に有効であることを見出し、係る知見に基づき本発明を完成したものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明は、塩基度58%以上のポリ塩化アルミニウムと、ジメチルアミン・エピクロルヒドリン共重縮合体とを含有してなる排水処理用凝集剤に関する。
この塩基度とジメチルアミン・エピクロルヒドリン共重縮合体との組み合わせが、何故排水処理、特に有機質を多含する排水の処理に効果を有するかについてその理由は定かでないが、少なくとも前述の特許文献1〜3の記載内容からは到底考えられない卓越した効果である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の排水処理用凝集剤は、有機系濁質の汚水の処理として、殊に食品加工工場等で発生する有機質、油分を多含する排水の処理に有効である。また、凝集剤である塩基度58%以上のポリ塩化アルミニウムと、ジメチルアミン・エピクロルヒドリン共重縮合体とは相溶性が良く、長期の保存においても沈殿等を発生しない。また、従来の塩基度50%以下のPACの使用に較べ、スラッジの発生量も少なく、少量の添加量で有効な効果を発揮し、pH調整用のアルカリ剤の使用量も低減できるという効果を有する。
なおここで言う排水処理とは、凝集沈殿、加圧浮上、汚泥脱水などのいわゆる凝集剤を使用する凝集処理に関する処理技術である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の排水処理用凝集剤について詳記する。
本発明に使用する塩基度58%以上のポリ塩化アルミニウムとは、一般式:[Al2(OH)nCl6-n]mで示される(OH)が、(n/6)×100として58%以上を示すものである。即ち、この塩基度が58%を下廻ると、従来と同様に有機系排水の処理に於いて充分な効果を得ることができない。また、このポリ塩化アルミニウムには、有効成分として、若干の硫酸根(SO4)が導入されていても良い。
【0014】
また。本発明で使用するジメチルアミン・エピクロルヒドリン共重縮合体は、ジメチルアミンとエピクロルヒドリンの重縮合反応によって得られるものであり、その一般式は、(-N+(CH3)2Cl--CH2-CH(OH)-CH2-)nで示される。
【0015】
本発明ではこのようなポリ塩化アルミニウムと、ジメチルアミン・エピクロルヒドリン共重縮合体とを混合することにより、一液型の凝集剤とする。
一般に、無機系の凝集剤と有機系の凝集剤を混合すると反応物(沈殿物)が生成したり、あるいは反応物が生成しない場合でも、両者の単独併用の場合よりも凝集効果が低下するため、一液型としては使用されない場合が多い。
しかしながら、本発明の排水処理用凝集剤においては、一液型であるにもかかわらず、長期間にわたって混合溶液は安定であるだけでなく、各々の単独使用よりも凝集性能が優れていることが本発明凝集剤の特徴である。
【0016】
本発明の塩基度58%以上のポリ塩化アルミニウムと、ジメチルアミン・エピクロルヒドリン共重縮合体の混合割合に関して云えば、ポリ塩化アルミニウムのAl量に対して、ジメチルアミン・エピクロルヒドリン共重縮合体量が0.1〜1.0質量%の範囲となるように、より望ましくは0.2〜0.8質量%の範囲となるように混合する。
即ち、この範囲を逸脱すると、凝集処理時における両者の有効量が不均衡となり、凝集性能が低下したり、一液とした際の安定性が悪化し、本発明の凝集性に優れた排水処理用凝集剤が得られない。
【0017】
混合方法は、通常の混合攪拌によればよく、添加順序もいずれが先であってもよい。本発明排水用凝集剤の使用方法は、通常の凝集剤と同様の方法により使用すればよく、使用に際して特別の手段を講じる必要はない。
【0018】
また、本発明の排水処理用凝集剤は、殊に食品加工工場等で発生する有機質、油分を多く含む排水の処理に有効であり、例えば、乳製品製造工場、精肉・ハム製造等の食肉加工工場、マーガリン製造工場等から排出される工場排水の処理に有効である。
【実施例】
【0019】
以下に実施例によって本発明を更に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。また、実施例において特に断らない限り、%は質量%を示す。
【0020】
[実施例1]
塩基度60%のポリ塩化アルミニウム(Al2O310.5%,多木化学(株)製,商品名PAC300A)と、ジメチルアミン・エピクロルヒドリン共重縮合体(固形物濃度50%,多木化学(株)製,商品名タキフロックC-708M)を用い、ポリ塩化アルミニウムのAl量に対して、ジメチルアミン・エピクロルヒドリン共重縮合体量が0.8%となるように両者を混合し、本発明の凝集剤を得た。
また、比較のために上記塩基度60%のポリ塩化アルミニウムに代えて、塩基度が50%のポリ塩化アルミニウム(Al2O310.5%,多木化学(株)製,商品名PAC250A)を使用し、同割合にジメチルアミン・エピクロルヒドリン共重縮合体を混合して凝集剤を得た。
さらに比較として、塩基度60%PACとジメチルアミン・エピクロルヒドリンそれぞれ単品での試験も実施した。
これらの凝集剤を使用し、乳製品製造工場から排出した排水(M社工場排水,COD 290mg/l, SS218mg/l)を用いて凝集試験を実施した。
この排水の1Lを1L容ビーカーに採り、これに表1に示した割合となるように各々の凝集剤を添加し、ジャーテストを行った。本発明の凝集剤の添加後、急速攪拌を2分間行い、急速攪拌終了後、緩速攪拌(30rpm)を10分間、静置を10分間行った。
静置後、上澄水を採取し、COD,SSの測定を行った。これらの結果を表1に示した。
【0021】
【表1】

【0022】
[実施例2]
塩基度60%のポリ塩化アルミニウム(Al2O310.5%,多木化学(株)製,商品名PAC300A)と、ジメチルアミン・エピクロルヒドリン共重縮合体(固形物濃度50%,多木化学(株)製,商品名タキフロックC-708M)を用い、ポリ塩化アルミニウムのAl量に対して、ジメチルアミン・エピクロルヒドリン共重縮合体量がそれぞれ表2に示した割合となるように両者を混合し、本発明の凝集剤を得た。
【0023】
これらの凝集剤を使用し、精肉・ハム製造工場より排出した排水(S社 工場排水,BOD 1200mg/l, SS 320 mg/l)を用いて凝集試験を実施した。
尚、試験方法は実施例1と同様に行い、結果を表2に示した。
【0024】
【表2】

【0025】
[実施例3]
塩基度60%のポリ塩化アルミニウム(Al2O310.5%,多木化学(株)製,商品名PAC300A)と、ジメチルアミン・エピクロルヒドリン共重縮合体(固形物濃度50%,多木化学(株)製,商品名タキフロックC-708M)を用い、ポリ塩化アルミニウムのAl量に対して、ジメチルアミン・エピクロルヒドリン共重縮合体量が0.7%となるように両者を混合し、本発明の凝集剤を得た。
また、比較のために上記塩基度60%のポリ塩化アルミニウムに代えて、塩基度が50%のポリ塩化アルミニウム(Al2O310.5%,多木化学(株)製,商品名PAC250A)を使用し、同様にジメチルアミン・エピクロルヒドリン共重縮合体を混合して凝集剤を得た。
【0026】
これらの凝集剤を使用し、実施例2と同じ精肉・ハム製造工場からの排水に対して実施例1と同様の試験方法で凝集試験を行った。
結果を表3に示した。
【0027】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基度58%以上のポリ塩化アルミニウムとジメチルアミン・エピクロルヒドリン共重縮合体とを含有してなる排水処理用凝集剤。
【請求項2】
ポリ塩化アルミニウムとジメチルアミン・エピクロルヒドリン共重縮合体との混合割合が、ポリ塩化アルミニウムのAl量に対して、ジメチルアミン・エピクロルヒドリン共重縮合体量が0.1〜1.0質量%の範囲である請求項1記載の排水処理用凝集剤。
【請求項3】
排水が食品加工工場排水である請求項1または2記載の排水処理用凝集剤。


【公開番号】特開2007−167721(P2007−167721A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−365767(P2005−365767)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(000203656)多木化学株式会社 (58)
【Fターム(参考)】