説明

排水処理装置および排水処理方法

【課題】シリカを含む酸性排液を処理する際に、沈降性のよい凝集物を生成させることができると共に、小型化しやすい排水処理装置等を提供する。
【解決手段】シリカを含む酸性の排水に水酸化ナトリウムを添加することでpHの調整を行なう第1反応槽20と、第1反応槽20によりpHの調整を行なった排水に水酸化カルシウムを添加しpHの調整を行なうことで、凝集物を生成する第2反応槽30と、第2反応槽30により生成した凝集物を分離する沈殿槽50と、を備えることを特徴とする排水処理装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理装置等に係り、より詳しくは、例えば、シリカを含む酸性の排水を処理するために使用する排水処理装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体製造、液晶、および太陽電池の製造を行なう電子産業分野において、原料として多結晶シリコンを使用することがある。
そして多結晶シリコンを製造する際には、その製造工程からシリカを含む酸性の排水が排出される。この場合排水は、中性領域までpH調整すると共に、排水に含有するシリカを予め定められた濃度以下にしてから外部に放出することが求められる。
【0003】
ここで、特許文献1には、酸性を示すシリカゾルを含有する排水に、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、または硫酸アルミニウムを添加した後に、pH調整剤として水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、または水酸化カルシウムを添加しpHを8〜11として排水中のシリカ分をフロック化し、このフロックを除去するシリカゾル含有排水の処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−251181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、シリカを含む酸性排液を処理するのに、一般的なアルカリ剤である水酸化ナトリウム(NaOH)等のアルカリ金属の水酸化物のみを添加して中性領域まで中和する方法では、排水に含有するシリカがゲル状の凝集物として析出する。このゲル状の凝集物は、沈降しにくく、濃縮や脱水を行なうのが困難となりやすい。また更に凝集剤を添加しても沈降性は、ほとんど改善されない。
また酸性を示すシリカゾルを含有する排水に、塩化マグネシウム等を添加した後に、pH調整剤として水酸化ナトリウム等を添加しpHを8〜11とする方法では、排水に含まれるシリカゾルが高濃度で含まれる場合、シリカゾルがゲル化し排水に含まれるシリカが除去できないことがある。
【0006】
本発明は、従来の技術が有する上記の問題点に鑑みてなされたものである。
即ち、本発明の目的は、シリカを含む酸性排液を処理する際に、沈降性のよい凝集物を生成させることができると共に、小型化しやすい排水処理装置等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かくして本発明によれば、シリカを含む酸性の排水にアルカリ金属の水酸化物を添加することでpHの調整を行なう第1のpH調整手段と、第1のpH調整手段によりpHの調整を行なった排水にアルカリ土類金属の水酸化物を添加しpHの調整を行なうことで、凝集物を生成する第2のpH調整手段と、第2のpH調整手段により生成した凝集物を分離する凝集物分離手段と、を備えることを特徴とする排水処理装置が提供される。
【0008】
ここで、第1のpH調整手段は、排水のpHを0.5〜0.8に調整し、第2のpH調整手段は、第1のpH調整手段によりpHの調整を行なった排水のpHを6〜8に調整することが好ましい。また第1のpH調整手段で添加するアルカリ金属の水酸化物は、第2のpH調整手段で添加するアルカリ土類金属の水酸化物に対しモル当量比で3以下であることが好ましい。そして第1のpH調整手段によりpHの調整を行なった排水に凝集剤を添加する凝集剤添加手段を更に有することが好ましい。
【0009】
また本発明によれば、シリカを含む酸性の排水にアルカリ金属の水酸化物を添加することで、排水を凝集物を生成させない予め定められた範囲のpHに調整を行なうpH調整手段と、pH調整手段によりpHの調整を行なった排水にアルカリ土類金属の水酸化物を添加し、凝集物を生成させる凝集物生成手段と、凝集物生成手段により生成した凝集物を分離する凝集物分離手段と、を備えることを特徴とする排水処理装置が提供される。
【0010】
ここで、pH調整手段で添加するアルカリ金属の水酸化物は、凝集物生成手段で添加するアルカリ土類金属の水酸化物に対しモル当量比で3以下であることが好ましい。
【0011】
更に本発明によれば、シリカを含む酸性の排水にアルカリ金属の水酸化物を添加することでpHの調整を行なう第1のpH調整工程と、第1のpH調整工程によりpHの調整を行なった排水にアルカリ土類金属の水酸化物を添加しpHの調整を行なうことで、凝集物を生成する第2のpH調整工程と、第2のpH調整工程により生成した凝集物を分離する凝集物分離工程と、を備えることを特徴とする排水処理方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、シリカを含む酸性排液を処理する際に、沈降性のよい凝集物を生成させることができると共に、小型化しやすい排水処理装置等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施の形態の排水処理装置について説明した図である。
【図2−1】図1に示した排水処理装置を使用した場合の排水処理方法を説明したフローチャートである。
【図2−2】図1に示した排水処理装置を使用した場合の排水処理方法を説明したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施する形態について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。また、使用する図面は本実施の形態を説明するためのものであり、実際の大きさを表すものではない。
【0015】
(シリカ含有排水)
本実施の形態で処理するシリカを含む酸性の排液は、例えば、多結晶シリコンを製造する際に排出される排液である。
多結晶シリコンの製造方法の一例としては、まず金属反応炉(還元炉)内に設置された複数本の細いシリコン芯(シード)を通電加熱(例えば、1000℃以上)しておき、精製された高純度トリクロロシランの蒸気と水素を混合したガスを流す。その結果、シリコン芯の表面にシリコンが析出し、太い棒状に生成された高品位の多結晶シリコンが得られる。なおこの際に四塩化珪素が副生する。また多結晶シリコンはダイヤモンドカッター等で用途に応じた形に加工され、酸によるエッチングが行なわれた後に、純水による洗浄が行なわれる。
そのため多結晶シリコンを洗浄した際に排出される排液は酸性であり、そのpHは、例えば0.2〜0.3である。更にこの排液には、トリクロロシランや四塩化珪素等のクロロシラン類が加水分解したものが含まれる。排液には、これらの成分を含むシリカが、例えば、ゾル状となって含有している。またシリカの形態は、固体状の他に、水ガラス等に例示される液体状の形態をとり得る。排液中に含まれるシリカの濃度は、例えば5000mg/Lである。
【0016】
(アルカリ金属の水酸化物)
本実施の形態で使用するアルカリ金属の水酸化物は、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)や水酸化カリウム(KOH)である。
詳しくは後述するが、アルカリ金属の水酸化物は、水溶液の状態で、排液に添加される。アルカリ金属の水酸化物として水酸化ナトリウムを使用した場合、水酸化ナトリウム溶液として、水酸化ナトリウムが20wt%〜30wt%の濃度となるように作製することができる。
【0017】
(アルカリ土類金属の水酸化物)
本実施の形態で使用するアルカリ土類金属の水酸化物は、例えば、水酸化カルシウム(消石灰:Ca(OH))や水酸化マグネシウム(Mg(OH))である。
詳しくは後述するが、アルカリ土類金属の水酸化物は、スラリーの状態で、排液に添加することができる。つまり水に水酸化カルシウム等の微粒子が分散した状態で排液に添加される。アルカリ土類金属の水酸化物として水酸化カルシウムを使用した場合、このスラリーは、水酸化カルシウムが5wt%〜10wt%の濃度となるように作製することができる。
【0018】
(凝集剤)
本実施の形態で使用することができる凝集剤は、無機凝集剤および高分子凝集剤に分類することができる。
無機凝集剤は、被処理水に添加することで、被処理水中に分散している粒子表面の電荷を中和し、ファンデルワールス力(分子間引力)により粒子を集合させる凝結作用により凝集を生じさせる。
本実施の形態で使用する無機凝集剤は特に限定されるものではなく、一般的に利用されているものを使用できる。即ち、ポリ塩化アルミニウム(PAC:Poly Aluminum Chloride);硫酸アルミニウム(硫酸バンド);硫酸第一鉄(FeSO)、硫酸第二鉄(Fe(SO)、塩化第二鉄(FeCl)、ポリ硫酸第二鉄、ポリ塩化第二鉄等の鉄系凝集剤、などが使用できる。ただし本実施の形態では凝集作用がより高いという観点から、特にポリ塩化アルミニウム(PAC)を好適に使用することができる。
【0019】
高分子凝集剤は、その吸着・架橋作用により凝集物を更に大きな凝集物とすることができる。本実施の形態では、無機凝集剤により凝結した凝集物である微小フロックを、更に大きな凝集物である粗大フロックとすることで、沈降分離を行ないやすくする。高分子凝集剤は、例えば、分子量10〜10程度の長鎖の有機ポリマーであって、カチオン系高分子凝集剤、アニオン系高分子凝集剤、ノニオン系高分子凝集剤などに分類される。カチオン系高分子凝集剤としては、例えば、アクリレート系4級塩、メタクリレート系4級塩、メタクリレート系3級塩、両性4級塩、アミニジン、ポリアミニジン系、ポリアクリルエステル系、ポリアクリルアミド系のものが挙げられる。またアニオン系高分子凝集剤としては、例えば、ポリアクリルアミド系、ポリアクリル酸ソーダ系のものが挙げられる。更にノニオン系高分子凝集剤としては、例えばポリアクリルアミド系のものが挙げられる。本実施の形態では、この中でも特にカチオン系高分子凝集剤を好適に使用することができる。
【0020】
図1は、本実施の形態の排水処理装置について説明した図である。また図2−1および図2−2は、図1に示した排水処理装置を使用した場合の排水処理方法を説明したフローチャートである。以下、図1、図2−1、および図2−2を使用し、本実施の形態の排水処理装置および排水処理方法について説明を行なう。
【0021】
図1に示す排水処理装置1は、シリカを含む酸性の排水を導入し一時的な保管を行なう排水貯留槽10と、排水にアルカリ金属の水酸化物を添加することでpHの調整を行なう第1のpH調整手段の一例としての第1反応槽20と、第1反応槽20によりpHの調整を行なった排水にアルカリ土類金属の水酸化物を添加しpHの調整を行なうことで凝集物を生成する第2のpH調整手段の一例としての第2反応槽30と、高分子凝集剤を添加する凝集槽40と、第2反応槽30により生成した凝集物を分離する凝集物分離手段の一例としての沈殿槽50と、沈殿槽50により分離された凝集物からなる汚泥に含まれる水分を脱水する脱水機60とから主要部が構成される。
また排水貯留槽10、第1反応槽20、第2反応槽30、凝集槽40、沈殿槽50、脱水機60は、それぞれ配管72,73,74,75,76によって直列に接続されている。そして排水処理装置1は、排液を排水貯留槽10に導入する配管71と、沈殿槽50により凝集物を分離した後の処理水を排出する配管77を備える。更に、配管72の途中には、排水貯留槽10から第1反応槽20へ排水を送出する排水移送ポンプ81を備え、配管76の途中には、沈殿槽50の底部に沈殿した凝集物である汚泥を脱水機60へ送出する汚泥移送ポンプ82を備える。更に排水処理装置1は、排水処理装置1の全体を制御する図示しない制御部を備える。
【0022】
本実施の形態において、シリカを含む酸性の排液を処理するには、まず、排水を排水貯留槽10に導入する(ステップ101)。排水は、直接第1反応槽20に導入してもよいが、排水の量がそれほど多量でない場合は、この排水貯留槽10に一時的に保管することができる。そして排水が、一定の量以上になったときに、これから述べる処理を行なうことで、より効率的に排水の処理を行なうことができる。
【0023】
次に、排水移送ポンプ81を使用して、排水を、排水貯留槽10から第1反応槽20へ送出する(ステップ102)。
【0024】
第1反応槽20には、撹拌機21およびpH計測器22が備えられている。排水は、撹拌機21により撹拌されつつ、pHが0.5〜0.8になるように調整される(ステップ103:第1のpH調整工程)。即ち、pH計測器22の示すpH値がこの範囲内になるように水酸化ナトリウム溶液が添加手段23から添加される。本実施の形態では、pH計測器22からのpH値を制御部が受け取り、このpH値に従い、制御部が、添加手段23に備えられたバルブを開閉する制御を行なう。そしてこれにより添加される水酸化ナトリウム溶液の量が調整される。本実施の形態において第1反応槽20における処理は、凝集物を生成させずに排液のpHを上述した範囲内にすることが目的である。
第1反応槽20で、pHの調整が行なわれた排液は、オーバーフローにより第2反応槽30に移る。
【0025】
第2反応槽30には、撹拌機31およびpH計測器32が備えられている。排水は、撹拌機31により撹拌されつつ、pHが6〜8の中性領域になるように調整される(ステップ104:第2のpH調整工程)。即ち、pH計測器32の示すpH値がこの範囲内になるように水酸化カルシウムのスラリーが添加手段33から添加される。本実施の形態では、pH計測器32からのpH値を制御部が受け取り、このpH値に従い、制御部が、添加手段33に備えられたバルブを開閉する制御を行なう。そしてこれにより添加されるカルシウムのスラリーの量が調整される。
【0026】
また本実施の形態では、添加手段34により、第2反応槽30に無機凝集剤であるポリ塩化アルミニウム(PAC)が添加される(ステップ105)。本実施の形態では、ポリ塩化アルミニウムは、予め定められた一定量を添加する。ポリ塩化アルミニウムを添加することにより排水のPH値は下降する。そのため第2反応槽30で排水のpH値をより適切に調整するには、上述した水酸化カルシウムのスラリーの添加と同時に行なうか、水酸化カルシウムのスラリーの添加の前に行なうことが好ましい。
第2反応槽30において、これらのpH調整およびポリ塩化アルミニウムの添加を行なうことで、第2反応槽30内には、ケイ酸カルシウム等からなる凝集物が生成する。この凝集物は、排水と共に、オーバーフローにより凝集槽40に移る。
【0027】
凝集槽40では、撹拌機41が備えられている。排水は、撹拌機41により撹拌されると共に、高分子凝集剤が添加される(ステップ106)。本実施の形態では、制御部が、高分子凝集剤の添加手段43を制御することで高分子凝集剤の添加量を調整している。凝集槽40において、第2反応槽30で生成した凝集物は更に大きく成長する。なお本実施の形態において、第2反応槽30に備えられたポリ塩化アルミニウムを添加する添加手段34、および凝集槽40に備えられた高分子凝集剤を添加する添加手段43は、第1反応槽20によりpHの調整を行なった排水に凝集剤を添加する凝集剤添加手段として把握することができる。なお無機凝集剤や高分子凝集剤の添加は、必須ではない。ただしこのような凝集剤を添加することで、次の沈殿槽50において凝集物の沈降速度をより速めることができる。
凝集槽40で、高分子凝集剤が添加された排液は、オーバーフローにより沈殿槽50に移る。
【0028】
沈殿槽50では、まず凝集槽40で更に大きく成長した凝集物を沈殿させることで分離する(ステップ107:凝集物分離工程)。つまり沈殿槽50では、沈殿する固体としての凝集物と上澄み液である液体としての処理水とに固液分離する。本実施の形態で生成した凝集物は、詳しくは後述するが粒子状であり、そのため静置を行なうことで容易に凝集物を沈殿させることができる。
そして沈殿した凝集物は、汚泥として沈殿槽50の底部に溜まる。そして、底部に溜まった汚泥は、沈殿槽50の下部から抜き取られ、汚泥移送ポンプ82により脱水機60に送出される(ステップ108)。また汚泥を除去した後の上澄み水は処理水として外部に放出される(ステップ109)。なお処理水は、中性領域に更にpHを合わせることを目的とするpH調整処理や、処理水中に含まれる可能性がある懸濁物質を取り除くことを目的とするろ過処理を行なってから外部に放出してもよい。なお処理水中に残留するシリカは、150mg/L以下の濃度であることが好ましい。ただしシリカは基本的には無害であるためこの濃度以上になることを妨げるものではない。
【0029】
脱水機60では、汚泥から更に水分が除去され、除去された水分は廃棄される(ステップ110)。また水分が除去された汚泥は、脱水ケーキとして廃棄される。
本実施の形態では、脱水機60として、例えばフィルタープレスを用いることができる。
【0030】
なお以上述べた排水処理装置1は、シリカを含む酸性の排水にアルカリ金属の水酸化物を添加することで、排水を凝集物を生成させない予め定められた範囲のpHに調整を行なうpH調整手段と、pH調整手段によりpHの調整を行なった排水にアルカリ土類金属の水酸化物を添加し、凝集物を生成させる凝集物生成手段と、凝集物生成手段により生成した凝集物を分離する凝集物分離手段と、を備えるものとしても把握することができる。この場合、pH調整手段は、第1反応槽20に対応し、凝集物生成手段は、第2反応槽30および凝集槽40に対応し、凝集物分離手段は、沈殿槽50に対応する。
【0031】
更に以上述べた排水の処理手順は、シリカを含む酸性の排水にアルカリ金属の水酸化物を添加することでpHの調整を行なう第1のpH調整工程と、第1のpH調整工程によりpHの調整を行なった排水にアルカリ土類金属の水酸化物を添加しpHの調整を行なうことで凝集物を生成する第2のpH調整工程と、第2のpH調整工程により生成した凝集物を分離する凝集物分離工程と、を備えることを特徴とする排水処理方法としても捉えることができる。
【0032】
以上詳述したように本実施の形態では、まず水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物を添加し、その後で水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物を添加する。アルカリ土類金属の水酸化物を使用することにより生成する凝集物はゲル状になりにくく、粒子状とすることができる。その結果、凝集物の沈降性がよくなり沈降速度が速くなると共に、沈降した後の容積もより小さくすることができる。よって沈殿槽50の大きさを小型化しやすくなる。また脱水機60による脱水もより容易となる。更に本実施の形態では、凝集物の生成速度が速くなりやすい。そのため凝集物の生成速度が遅いことに起因して、沈殿槽50で凝集物を分離した後に、更に処理水に凝集物が生じることが起こりにくくなる。
【0033】
また本実施の形態では、アルカリ金属の水酸化物をまず添加しpHを調整することで、アルカリ土類金属の水酸化物の使用量を抑えることができる。つまり水酸化カルシウム等は、スラリーとして添加する必要があり、添加する際に使用するポンプの容量やスラリーの貯留タンクの容量が大きくなりやすい。そのため排水処理装置が大型化しやすく、その結果、排水処理装置が高価なものになる。そしてこれは排液の処理コストの上昇につながる。一方、本実施の形態では、アルカリ土類金属の水酸化物の使用量を抑えることができるため、排水処理装置が小型化しやすく、製造する際に費用がかかりにくく排液の処理コストを抑えやすい。
【0034】
なおアルカリ土類金属の水酸化物の使用量を更に抑えるために、第1反応槽20においてより多くのアルカリ金属の水酸化物を使用し、pHを調整すると、凝集物がゲル化しやすくなる。凝集物のゲル化を抑制しつつ、アルカリ土類金属の水酸化物の使用量を抑えるためには、第1反応槽20においてアルカリ金属の水酸化物で調整する排液のpHは、上述したとおり0.5〜0.8であることが好ましい。またモル当量比で見た場合、第1反応槽20で添加するアルカリ金属の水酸化物は、第2反応槽30で添加するアルカリ土類金属の水酸化物に対しモル当量比で3以下であることが好ましい。なおこの場合のモル当量比は、(アルカリ金属の水酸化物のモル数)/(アルカリ土類金属の水酸化物のモル数)として算出することができる。
【0035】
更に本実施の形態の排水処理装置1では、排水に高濃度のシリカが含まれる場合でも処理が可能である。よって高濃度でシリカが排液中に含まれる場合に、本実施の形態の排水処理装置1は、より好適に使用することができる。具体的には排水中にシリカが5000mg/L以上含む場合でも、処理が可能であり、排液中のシリカの濃度が1%以上含まれる場合でも、本実施の形態の排水処理装置1は、排水中からシリカを除去することができる。
【0036】
なおアルカリ金属の水酸化物とアルカリ土類金属の水酸化物の添加する順序は逆とすることはできない。つまりまず先にアルカリ土類金属の水酸化物を添加しpH調整を行ない、後からアルカリ金属の水酸化物を添加しpH調整を行なうことで凝集物を生成する方法では、凝集物がゲル化しやすい。これは、特にシリカが高濃度で排水に含まれる場合に生じやすい。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限りこれらの実施例により限定されるものではない。
【0038】
〔排水の処理〕
(実施例1)
図1に示した排水処理装置1を使用し、図2−1および図2−2で説明した排水処理法法で、シリカを含む酸性の排液の処理を行なった。ただし以下に説明するように第2反応槽30および凝集槽40において凝集剤の添加は行なわなかった。
この際に使用した排液は、シリカ濃度が、7400mg/Lであり、pHが0.3であった。また第1反応槽20には、25wt%の水酸化ナトリウム溶液を添加してpHが0.6となるように調整し、更に第2反応槽30には、10wt%の水酸化カルシウムスラリーを添加してpHが8.0となるように調整して凝集物を生成させた。このときの水酸化ナトリウムと水酸化カルシウムのモル当量比は、0.8であった。そして沈殿槽50で静置を行なうことで凝集物を沈殿させた。
【0039】
(実施例2)
実施例1に対し、第1反応槽20でpHが0.8となるように調整したこと以外は、実施例1と同様にして排液の処理を行なった。なおこのときの水酸化ナトリウムと水酸化カルシウムのモル当量比は、3となった。
【0040】
(実施例3)
実施例1に対し、第1反応槽20でpHが1.0となるように調整したこと以外は、実施例1と同様にして排液の処理を行なった。なおこのときの水酸化ナトリウムと水酸化カルシウムのモル当量比は、5となった。
【0041】
(実施例4)
実施例2に対し、凝集剤の添加を行ない排水の処理を行なった。即ち、第2反応槽30で無機凝集剤としてポリ塩化アルミニウム(PAC)を酸化アルミニウム(Al)の量に換算して100mg/Lの濃度になるように添加した。また凝集槽40においてカチオン系高分子凝集剤を10mg/Lの濃度になるように添加した、そしてこのこと以外は、実施例1と同様にして排液の処理を行なった。なおカチオン系高分子凝集剤として、ダイヤニトリック株式会社製のKP201Gを使用した。
【0042】
(比較例1)
排液として、実施例1〜4で使用したものと同様のものを使用した。そしてこの排液に無機凝集剤としてポリ塩化アルミニウム(PAC)を酸化アルミニウム(Al)の量に換算して100mg/Lの濃度になるように添加した。更に25wt%の水酸化ナトリウム溶液を添加しpHが7.7となるように調整することで凝集物を生成させた。そしてこの凝集物を沈殿させた。
【0043】
(比較例2)
排液として、実施例1〜4で使用したものと同様のものを使用した。そしてこの排液に10wt%の水酸化カルシウムスラリーを添加してpHが8.0となるように調整した。更にカチオン系高分子凝集剤としてダイヤニトリック株式会社製のKP201Gを10mg/Lの濃度になるように添加して凝集物を生成させた。そしてこの凝集物を沈殿させた。
【0044】
〔評価方法〕
評価として、まず生成した凝集物の形態、沈殿速度、および沈降開始30分後の汚泥の容積率を測定した。また処理水中に含まれる懸濁物質およびシリカの濃度を測定した。
結果を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
〔評価結果〕
表1に示すように、実施例1〜4において、凝集物は、粒子状となり、沈殿速度は十分速く、沈降開始30分後の汚泥の容積率も十分小さいものとなった。また処理水中に含まれる懸濁物質およびシリカの濃度も十分小さくなった。実施例1〜3について相互に比較すると、第1反応槽20でpH値が小さくなるように調整した方が、全ての評価項目について、よい結果となった。なお実施例3については、凝集物が一部ゲル状となり、また更に表1中には記載がないが、処理水を2日間静置したところゲル状の凝集物が更に生成することを確認した。これから第1反応槽20で調整するpH値は、0.8以下であることがより好ましいことがわかる。また実施例2および実施例4の結果から、凝集剤を添加した方が、全ての評価項目について、よい結果となった。
一方、比較例1のようにポリ塩化アルミニウムおよび水酸化ナトリウム溶液のみで排液を処理した場合は、凝集物は、ゲル状となった。そして実施例1〜4の場合に比較して全ての評価項目について、悪い結果となった。
また比較例2のように水酸化カルシウムスラリーとカチオン系高分子凝集剤のみで排液を処理した場合は、評価結果はよかったが、水酸化カルシウムスラリーの使用量が非常に多くなった。
【符号の説明】
【0047】
1…排水処理装置、10…排水貯留槽、20…第1反応槽、30…第2反応槽、40…凝集槽、50…沈殿槽、60…脱水機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカを含む酸性の排水にアルカリ金属の水酸化物を添加することでpHの調整を行なう第1のpH調整手段と、
前記第1のpH調整手段によりpHの調整を行なった排水にアルカリ土類金属の水酸化物を添加しpHの調整を行なうことで、凝集物を生成する第2のpH調整手段と、
前記第2のpH調整手段により生成した前記凝集物を分離する凝集物分離手段と、
を備えることを特徴とする排水処理装置。
【請求項2】
前記第1のpH調整手段は、前記排水のpHを0.5〜0.8に調整し、
前記第2のpH調整手段は、前記第1のpH調整手段によりpHの調整を行なった排水のpHを6〜8に調整することを特徴とする請求項1に記載の排水処理装置。
【請求項3】
前記第1のpH調整手段で添加する前記アルカリ金属の水酸化物は、前記第2のpH調整手段で添加する前記アルカリ土類金属の水酸化物に対しモル当量比で3以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の排水処理装置。
【請求項4】
前記第1のpH調整手段によりpHの調整を行なった排水に凝集剤を添加する凝集剤添加手段を更に有することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の排水処理装置。
【請求項5】
シリカを含む酸性の排水にアルカリ金属の水酸化物を添加することで、当該排水を凝集物を生成させない予め定められた範囲のpHに調整を行なうpH調整手段と、
前記pH調整手段によりpHの調整を行なった排水にアルカリ土類金属の水酸化物を添加し、凝集物を生成させる凝集物生成手段と、
前記凝集物生成手段により生成した前記凝集物を分離する凝集物分離手段と、
を備えることを特徴とする排水処理装置。
【請求項6】
前記pH調整手段で添加する前記アルカリ金属の水酸化物は、前記凝集物生成手段で添加する前記アルカリ土類金属の水酸化物に対しモル当量比で3以下であることを特徴とする請求項5に記載の排水処理装置。
【請求項7】
シリカを含む酸性の排水にアルカリ金属の水酸化物を添加することでpHの調整を行なう第1のpH調整工程と、
前記第1のpH調整工程によりpHの調整を行なった排水にアルカリ土類金属の水酸化物を添加しpHの調整を行なうことで、凝集物を生成する第2のpH調整工程と、
前記第2のpH調整工程により生成した前記凝集物を分離する凝集物分離工程と、
を備えることを特徴とする排水処理方法。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【公開番号】特開2012−50948(P2012−50948A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197031(P2010−197031)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(000232863)日本錬水株式会社 (75)
【出願人】(311002067)JNC株式会社 (208)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【出願人】(390007227)東邦チタニウム株式会社 (191)
【Fターム(参考)】